特許第6057695号(P6057695)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6057695エッチングレジスト用インクジェットインキ組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6057695
(24)【登録日】2016年12月16日
(45)【発行日】2017年1月11日
(54)【発明の名称】エッチングレジスト用インクジェットインキ組成物
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/30 20140101AFI20161226BHJP
   C09D 11/38 20140101ALI20161226BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20161226BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20161226BHJP
   H05K 3/06 20060101ALI20161226BHJP
【FI】
   C09D11/30
   C09D11/38
   B41M5/00 E
   B41J2/01 501
   H05K3/06 H
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-277112(P2012-277112)
(22)【出願日】2012年12月19日
(65)【公開番号】特開2014-118545(P2014-118545A)
(43)【公開日】2014年6月30日
【審査請求日】2015年11月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】399054321
【氏名又は名称】東洋アルミニウム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】猿渡 昌隆
(72)【発明者】
【氏名】新宮 享
【審査官】 櫛引 智子
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−170054(JP,A)
【文献】 特開2012−245757(JP,A)
【文献】 特開2010−090190(JP,A)
【文献】 特開平08−242060(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/30
B41J 2/01
B41M 5/00
C09D 11/38
H05K 3/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エッチングレジスト用インクジェットインキ組成物であって、当該組成物は、
(1)沸点が100〜250℃の水溶性溶剤を含有し、ここで当該水溶性溶剤は、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル及びプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートからなる群から選択される少なくとも1種であり、
(2)酸価100mg KOH/g以上で水酸基を有さない水溶性樹脂を1〜20重量%含有し、
(3)前記水溶性樹脂に起因する当該組成物中の酸成分の中和等価量に対して100〜150%の中和アミンを含有し、ここで当該中和アミンはメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、水酸化アンモニウム及びこれらの1種以上を含むアルコール類からなる群から選択される少なくとも1種である
ことを特徴とするエッチングレジスト用インクジェットインキ組成物。
【請求項2】
25℃における粘度が1〜50mPsである、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記水溶性樹脂は、アクリル樹脂、スチレンアクリル樹脂、エチレンアクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂及び塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
下記工程を有する、エッチングレジスト層を形成した構成体の製造方法:
(1)樹脂含有基材の片面又は両面に金属箔を積層した積層体を用意し、当該金属箔上の一部分に、請求項1〜3のいずれかに記載の組成物を用いたインクジェット印刷により、回路パターンのエッチングレジスト層を印刷する工程1、
(2)前記印刷したエッチングレジスト層を乾燥硬化させることにより、エッチングレジスト層を形成した構成体を得る工程2。
【請求項5】
前記金属箔は、銅箔又はアルミニウム箔である、請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
下記工程を有する、回路基板の製造方法:
(1)樹脂含有基材の片面又は両面に金属箔を積層した積層体を用意し、当該金属箔上の一部分に、請求項1〜3のいずれかに記載の組成物を用いたインクジェット印刷により、回路パターンのエッチングレジスト層を印刷する工程1、
(2)前記印刷したエッチングレジスト層を乾燥硬化させることにより、エッチングレジスト層を形成した構成体を得る工程2、
(3)前記エッチングレジスト層が形成されていない金属箔部分をエッチングする工程3、
(4)前記エッチングレジスト層を剥離することにより回路基板を得る工程4。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エッチングレジスト用インクジェットインキ組成物並びに当該組成物を用いたエッチングレジスト層を有する構成体の製造方法及び回路基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子部品を実装するための基板としては、一般的に樹脂含有基材(絶縁層)の片面又は両面に金属回路を有している。実装する電子部品としては、例えば、抵抗;コンデンサ;トランジスタ;各種パワー素子;MPU,CPU等の高密度集積回路;LED,レーザーダイオード等の発光素子及びこれらのアレイ素子;などが挙げられる。
【0003】
樹脂含有基材の片面又は両面に金属回路を形成する際は、例えば、樹脂含有基材に接着剤を用いて金属箔を貼り合わせた後、エッチングなどの方法により金属箔を回路パターンに加工することにより形成する。このとき、エッチング前には、回路パターンの金属箔が残るように、金属箔上に回路パターンのエッチングレジスト層が形成される。そして、エッチングレジスト層の形成方法としては、従来、露光・現像方式、シルクスクリーン方式、グラビア印刷方式等が採用されている(特許文献1、特許文献2等)。
【0004】
しかしながら、上記方法では、エッチングレジスト層を形成するためにフォトマスク、スクリーン、グラビアシリンダー等のツールの作製が必要であり、実際にエッチングレジスト層を形成する前にツールの作製に3〜10日間程度必要となる。それらのツールが無ければエッチングレジスト層を形成することができないため、ツールの作製時間が製品製造におけるリードタイムの多くを占める結果となっている。
【0005】
上記ツールを用いないエッチングレジスト層の形成方法として、レーザー光を使用した露光方法が挙げられるが、処理時間が長いために量産性に乏しく、設備も大掛かりなものとなる。そこで、安価で量産性が高いインクジェット印刷によりエッチングレジスト層を印刷する方法が提案されている(特許文献3)。インクジェット印刷は、非常に小さな穴から加圧したインキを瞬間的に被着体に飛ばして印刷を行う方式であり、インクジェットのヘッドを予め設定したパターン通りに動かすことにより上記ツールを用いることなく精細印刷が可能となる。
【0006】
インクジェット印刷によりエッチングレジスト層を形成する際は、ノズル詰まりなどを防止するためにインクジェット印刷に適したインキ組成とすることが要求される以外に、エッチング後にエッチングレジスト層を剥離する際に、金属回路に侵食等の影響を及ぼすことなくエッチングレジスト層のみを短時間で剥離できることが要求される。この点、特許文献2には、金属板(SUS)にインキ組成物をインクジェット印刷した印刷物の評価として密着性、耐エッチング性及びアルカリ剥離性が調べられており、この中で、アルカリ剥離性に関しては、アルカリ剥離液としてアルカリ濃度10重量%の剥離液を使用し、印刷物を60秒間浸漬し、印刷が剥離するか否かが調べられている。
【0007】
しかしながら、金属箔がアルミニウム又はアルミニウム合金である場合には、10重量%濃度のアルカリ剥離液を用いると、エッチングレジスト層が剥離された直後から順次以下の反応が始まり、金属箔も溶解してしまうという問題が発生する。
【0008】
2Al+2NaOH+6H2O → 2Na[Al(OH)4]+3H2
よって、エッチングレジスト層としては、金属箔を侵食しない低濃度のアルカリ剥離液によって短時間(数秒程度)で完全に剥離することができるものが要求されているが、このようなエッチングレジスト層をインクジェット印刷により形成するためのエッチングレジスト用インクジェットインキ組成物は未だ開発されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2009-116710号公報
【特許文献2】特許第4919921号公報
【特許文献3】特開2010-53177号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、金属箔を侵食しない低濃度のアルカリ剥離液によって短時間(数秒程度)で完全に剥離することができるエッチングレジスト層を形成するための、インクジェット印刷に適したエッチングレジスト用インクジェットインキ組成物を提供することを主な目的とする。また、当該組成物を用いたエッチングレジスト層を有する構成体の製造方法及び回路基板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、特定組成を有するエッチングレジスト用インクジェットインキ組成物によれば上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
即ち、本発明は、下記のエッチングレジスト用インクジェットインキ組成物並びに当該組成物を用いたエッチングレジスト層を有する構成体の製造方法及び回路基板の製造方法に関する。
1. エッチングレジスト用インクジェットインキ組成物であって、当該組成物は、
(1)沸点が100〜250℃の水溶性溶剤を含有し、
(2)酸価100mg KOH/g以上で水酸基を有さない水溶性樹脂を1〜20重量%含有し、
(3)前記水溶性樹脂に起因する当該組成物中の酸成分の中和等価量に対して100〜150%の中和アミンを含有する、
ことを特徴とするエッチングレジスト用インクジェットインキ組成物。
2. 25℃における粘度が1〜50mPsである、上記項1に記載の組成物。
3. 前記水溶性樹脂は、アクリル樹脂、スチレンアクリル樹脂、エチレンアクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂及び塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂からなる群から選択される少なくとも1種である、上記項1又は2に記載の組成物。
4. 前記水溶性溶剤は、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル及びプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートからなる群から選択される少なくとも1種である、上記項1〜3のいずれかに記載の組成物。
5. 下記工程を有する、エッチングレジスト層を形成した構成体の製造方法:
(1)樹脂含有基材の片面又は両面に金属箔を積層した積層体を用意し、当該金属箔上の一部分に、上記項1〜4のいずれかに記載の組成物を用いたインクジェット印刷により、回路パターンのエッチングレジスト層を印刷する工程1、
(2)前記印刷したエッチングレジスト層を乾燥硬化させることにより、エッチングレジスト層を形成した構成体を得る工程2。
6. 前記金属箔は、銅箔又はアルミニウム箔である、上記項5に記載の製造方法。
7. 下記工程を有する、回路基板の製造方法:
(1)樹脂含有基材の片面又は両面に金属箔を積層した積層体を用意し、当該金属箔上の一部分に、上記項1〜4のいずれかに記載の組成物を用いたインクジェット印刷により、回路パターンのエッチングレジスト層を印刷する工程1、
(2)前記印刷したエッチングレジスト層を乾燥硬化させることにより、エッチングレジスト層を形成した構成体を得る工程2、
(3)前記エッチングレジスト層が形成されていない金属箔部分をエッチングする工程3、
(4)前記エッチングレジスト層を剥離することにより回路基板を得る工程4。
【0013】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0014】
本発明のエッチングレジスト用インクジェットインキ組成物(以下、「本発明のインキ組成物」とも言う)は、エッチングレジスト用インクジェットインキ組成物であって、
(1)沸点が100〜250℃の水溶性溶剤を含有し、
(2)酸価100mg KOH/g以上で水酸基を有さない水溶性樹脂を1〜20重量%含有し、
(3)前記水溶性樹脂に起因する当該組成物中の酸成分の中和等価量に対して100〜150%の中和アミンを含有することを特徴とする。
【0015】
上記特徴を有する本発明のインキ組成物は、上記(1)〜(3)の要件を具備する組成物であることにより、インクジェット印刷により金属箔上に回路パターンのエッチングレジスト層を精細に印刷することができる。インクジェット印刷により回路パターンのエッチングレジスト層をピンホールや欠けを生じさせることなく印刷することができるため、フォトマスク、スクリーン、グラビアシリンダー等の従来法のツールの作製が不要であり、簡便にエッチングレジスト層を形成することができる。また、本発明のインキ組成物により形成されたエッチングレジスト層は耐酸性に優れており、金属箔をエッチングする際に用いるエッチング液による侵食が抑制されている。また、金属箔のエッチング後にエッチングレジストをアルカリ剥離液による剥離性に優れており、アルカリ濃度1重量%程度の低濃度アルカリ剥離液により短時間(数秒程度)で完全に剥離することができる。
【0016】
本発明のインキ組成物は、酸価100mg KOH/g以上で水酸基を有さない水溶性樹脂を1〜20重量%含有する。水溶性樹脂の含有量が1重量%未満であると、エッチングレジスト層のエッチング液に対する耐酸性が不十分となりエッチングレジスト層のレジストとしての機能が低下する。また、水溶性樹脂の含有量が20重量%を超えると、インクジェット印刷時にインキがヘッドノズルに詰まってしまうおそれがある。水溶性樹脂の含有量は1〜20重量%であれば良いが、その中でも5〜15重量%が好ましい。
【0017】
水溶性樹脂は、酸価100mg KOH/g以上で水酸基を有さないものを用いる。水溶性樹脂の酸価が100mg KOH/g未満であると、アルカリ剥離液に対する溶解性が不十分となり、アルカリ剥離液を用いたエッチングレジスト層の剥離が困難となる。酸価は100mg KOH/g以上であれば良いが、剥離性の点では120〜200mg KOH/gであることが好ましい。
【0018】
なお、2種以上の水溶性樹脂を混合する場合には、各水溶性樹脂の酸価に各水溶性樹脂の混合割合を乗じて得られる、水溶性樹脂の混合物としての酸価が100mg KOH/g以上であることが必要であり、水溶性樹脂の混合物としての含有量が1〜20重量%である必要がある。つまり、酸価100mg KOH/gの水溶性樹脂A:5重量%と、酸価200mg KOH/gの水溶性樹脂B:5重量%とを混合する場合には、インキ組成物中に酸価150mg KOH/gの水溶性樹脂(混合物)が10重量%含有されていることを意味する。
【0019】
水溶性樹脂としては、上記要件を満たすものであれば限定されないが、例えば、アクリル樹脂、スチレンアクリル樹脂、エチレンアクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂及び塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂からなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。これらは、必要に応じて変性物(但し、水酸基は含まない)を用いてもよい。この中でも、アクリル樹脂、スチレンアクリル樹脂、エチレンアクリル樹脂、ポリエステル樹脂及び塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体の少なくとも1種がより好ましい。また、アクリル樹脂及びスチレンアクリル樹脂の少なくとも1種が最も好ましい。
【0020】
本発明のインキ組成物は、前記水溶性樹脂に起因する当該インキ組成物中の酸成分の中和等価量に対して100〜150%の中和アミンを含有する。なお、水溶性樹脂を2種類以上混合する場合には、混合物の酸成分量を基準として中和アミン量を設定する。
【0021】
中和アミンの含有量が酸成分の中和等価量に対して100%未満であると、水溶性樹脂が後記の水溶性溶剤に溶解しきれず、インクジェット印刷時にインキがヘッドノズルに詰まってしまうおそれがある。また、中和アミンの含有量が酸成分の中和等価量に対して150%を超えると、インクジェット印刷時にインキがヘッドノズルを損傷させ易く、結果として正常に吐出されなくなるおそれがある。中和アミンの含有量は100〜150%であれば良いが、その中でも105〜120%が好ましい。
【0022】
中和アミンとしては、例えば、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、水酸化アンモニウム及びこれらの1種以上を含むアルコール類からなる群から選択される少なくとも1種が挙げられる。この中でも、水酸化アンモニウム及び水酸化アンモニウムを含むアルコール類の少なくとも1種が好ましい。
【0023】
本発明のインキ組成物は、溶剤として沸点が100〜250℃の水溶性溶剤を含有する。
【0024】
水溶性溶剤の沸点が100℃未満であると、印刷後のエッチングレジスト層の乾燥時のレベリング性が不十分となり、ピンホールや欠けが発生するおそれがある。水溶性溶剤の沸点が250℃を超えると、印刷後のエッチングレジスト層を加熱乾燥しても揮発難くなり、またエッチングレジスト層のエッチング液に対する耐酸性が不十分となり易い。
【0025】
水溶性溶剤としては、例えば、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル及びプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートからなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。この中でも、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル及びエチレングリコールイソプロピルエーテルの少なくとも1種がより好ましい。
【0026】
本発明のインキ組成物は、インクジェット印刷に適用するものであるため、よりインクジェット印刷適性を高める点では、インキ組成物の25℃における粘度が1〜50mPsであることが好ましい。インキ組成物の粘度をかかる範囲内に設定することにより、ヘッドノズルから吐出したインキ組成物の追随性及びヘッドノズルからの吐出量が制御し易い。
【0027】
本発明のインキ組成物は、樹脂含有基材の片面又は両面に金属箔を積層した積層体を用意し、当該金属箔上の一部分に、当該インキ組成物を用いたインクジェット印刷により、回路パターンのエッチングレジスト層を印刷により形成することができる。これにより、金属箔上の一部分にエッチングレジスト層を形成した構成体を製造することができる。
【0028】
また、上記構成体における、エッチングレジスト層が形成されていない金属箔部分をエッチングした後、エッチングレジスト層を剥離することにより、樹脂含有基板上に金属回路が形成された回路基板を製造することができる。
【0029】
つまり、本発明は、下記の構成体及び回路基板の製造方法も包含する。
・下記工程を有する、エッチングレジスト層を形成した構成体の製造方法:
(1)樹脂含有基材の片面又は両面に金属箔を積層した積層体を用意し、当該金属箔上の一部分に、請求項1〜4のいずれかに記載の組成物を用いたインクジェット印刷により、回路パターンのエッチングレジスト層を印刷する工程1、
(2)前記印刷したエッチングレジスト層を乾燥硬化させることにより、エッチングレジスト層を形成した構成体を得る工程2。
・下記工程を有する、回路基板の製造方法:
(1)樹脂含有基材の片面又は両面に金属箔を積層した積層体を用意し、当該金属箔上の一部分に、請求項1〜4のいずれかに記載の組成物を用いたインクジェット印刷により、回路パターンのエッチングレジスト層を印刷する工程1、
(2)前記印刷したエッチングレジスト層を乾燥硬化させることにより、エッチングレジスト層を形成した構成体を得る工程2、
(3)前記エッチングレジスト層が形成されていない金属箔部分をエッチングする工程3、
(4)前記エッチングレジスト層を剥離することにより回路基板を得る工程4。
【0030】
上記構成体及び回路基板の製造方法において、樹脂含有基材としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、ポリイミド、非結晶ポリエチレンテレフタレート、液晶ポリマー等が挙げられる。この中でも、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネート及びポリ塩化ビニルの少なくとも1種が好ましい。
【0031】
樹脂含有基材の種類と厚みは、通常、最終的に製造される回路基板の目的や用途によって選択される。ICカード(RFID用アンテナ)の用途では、加工とコストの観点からポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等が好ましく、一般に25〜50μmの厚みで使用される。
【0032】
金属箔としては、アルミニウム箔、銅箔、ステンレス鋼箔、チタン箔、錫箔等から選ばれた少なくとも1種を用いることができる。これらの金属箔の中でも経済性、信頼性の点からアルミニウム箔又は銅箔を用いるのが最も好ましい。アルミニウム箔とは、純アルミニウム箔に限定されるものではなく、アルミニウム合金箔も含む。金属箔のおもて面及び裏面の表現は、本明細書では便宜的に用いているが、どちらをおもて面とするかは任意に決定することができる。
【0033】
金属箔は、厚みが7μm以上60μm以下であるのが好ましく、より好ましくは厚みが15μm以上50μm以下である。
【0034】
具体的には、金属箔の材料としては、例えば、JIS(AA)の記号では1030、1N30、1050、1100、8021、8079等の純アルミニウム箔又はアルミニウム合金箔を採用することができる。
【0035】
本発明のインキ組成物を用いたインクジェット印刷により、金属箔上の一部分に回路パターンのエッチングレジスト層を印刷した後は、乾燥硬化させることにより、エッチングレジスト層を形成した構成体が得られる。乾燥硬化の方法は限定されず、自然乾燥の他、40〜200℃で10秒〜10分間程度加熱乾燥することもできる。
【0036】
構成体に対するエッチングは常法に従って行えばよく、例えば、塩化第2鉄水溶液等により金属箔の酸エッチングを行えばよい。また、エッチング後のエッチングレジスト層の剥離も常法に従って行えばよく、例えば、水酸化ナトリウム水溶液等のアルカリ剥離液によるレジストインキ層の剥離除去を行うことにより、樹脂含有基材に金属回路パターンを形成することができる。
【0037】
本発明のインキ組成物により形成されたエッチングレジスト層は耐酸性に優れており、金属箔をエッチングする際に用いるエッチング液による侵食が抑制されている。また、金属箔のエッチング後にエッチングレジストをアルカリ剥離液による剥離性に優れており、アルカリ濃度1重量%程度の低濃度アルカリ剥離液により短時間(数秒程度)に完全に剥離することができる。
【発明の効果】
【0038】
本発明のインキ組成物は、上記(1)〜(3)の要件を具備する組成物であることにより、インクジェット印刷により金属箔上に回路パターンのエッチングレジスト層を精細に印刷することができる。インクジェット印刷により回路パターンのエッチングレジスト層をピンホールや欠けを生じさせることなく印刷することができるため、フォトマスク、スクリーン、グラビアシリンダー等の従来法のツールの作製が不要であり、簡便にエッチングレジスト層を形成することができる。また、本発明のインキ組成物により形成されたエッチングレジスト層は耐酸性に優れており、金属箔をエッチングする際に用いるエッチング液による侵食が抑制されている。また、金属箔のエッチング後にエッチングレジストをアルカリ剥離液による剥離性に優れており、アルカリ濃度1重量%程度の低濃度アルカリ剥離液により短時間(数秒程度)に完全に剥離することができる。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下に実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明する。但し、本発明は実施例に限定されない。
【0040】
実施例1
水酸基を有さない水溶性樹脂として、酸価210mgKOH/gのスチレンアクリル樹脂:5重量%、及び酸価90mgKOH/gの変性スチレンアクリル樹脂:5重量%、水溶性溶剤として沸点120℃のプロピレングリコールモノメチルエーテル:40重量%、中和アミンとして水酸化アンモニウムを水溶性樹脂に起因する酸成分の中和等価量に対して105%となる量、残部を水として混合撹拌し、エッチングレジスト用インクジェットインキ組成物を調製した。なお、水溶性樹脂全体の酸価は150 mgKOH/g、含有量は10重量%である。
【0041】
樹脂含有基材として、38μmのポリエチレンテレフタレート(PET)の二軸延伸フィルムを用意した。
【0042】
樹脂含有基材の両面に、厚みが30μmの圧延されたアルミニウム箔(JIS:1N30)を、接着剤を用いてドライラミネーション法により接着して積層体を得た。接着剤は、エポキシ樹脂を含有するポリウレタン系接着剤として東洋モートン社製AD76-P1を使用し、接着剤の塗布量はそれぞれ3.5g/m2とした。
【0043】
積層体の両面に、上記エッチングレジスト用インクジェットインキ組成物を用いたインクジェット印刷によりエッチングレジスト層を印刷し、150℃で1分間乾燥させてエッチングレジスト層を形成した構成体を得た。インクジェットプリンタとしては、コニカミノルタ社製水性インク用インクジェットプリンタ(吐出液滴:14pL)を用いた。
【0044】
実施例2
プロピレングリコールモノメチルエーテルに代えて、沸点249℃のトリエチレングリコールモノメチルエーテルを用いた以外は、実施例1と同様にして構成体を得た。
【0045】
実施例3
中和アミンの含有量を酸成分の中和等価量(100%)とした以外は、実施例1と同様にして構成体を得た。
【0046】
実施例4
中和アミンの含有量を酸成分の中和等価量に対して150%とした以外は、実施例1と同様にして構成体を得た。
【0047】
比較例1
水酸基を有さない水溶性樹脂として、酸価210mgKOH/gのスチレンアクリル樹脂:0.4重量%、及び酸価90mgKOH/gの変性スチレンアクリル樹脂:0.4重量%とした以外は、実施例1と同様にして構成体を得た。なお、水溶性樹脂全体の酸価は150 mgKOH/g、含有量は0.8重量%である。
【0048】
比較例2
水酸基を有さない水溶性樹脂として、酸価210mgKOH/gのスチレンアクリル樹脂:21重量%、及び酸価90mgKOH/gの変性スチレンアクリル樹脂:1重量%とした以外は、実施例1と同様にして構成体を得た。なお、水溶性樹脂全体の酸価は204.5mgKOH/g、含有量は22重量%である。
【0049】
比較例3
水酸基を有さない水溶性樹脂として、酸価210mgKOH/gのスチレンアクリル樹脂:0.25重量%、及び酸価90mgKOH/gの変性スチレンアクリル樹脂:4.75重量%とした以外は、実施例1と同様にして構成体を得た。なお、水溶性樹脂全体の酸価は96 mgKOH/g、含有量は5重量%である。
【0050】
比較例4
プロピレングリコールモノメチルエーテルに代えて、沸点85℃のエチレングリコールジメチルエーテルを用いた以外は、実施例1と同様にして構成体を得た。
【0051】
比較例5
プロピレングリコールモノメチルエーテルに代えて、沸点275℃のテトラエチレングリコールジメチルエーテルを用いた以外は、実施例1と同様にして構成体を得た。
【0052】
比較例6
中和アミンの含有量を酸成分の中和等価量に対して90%とした以外は、実施例1と同様にして構成体を得た。
【0053】
比較例7
中和アミンの含有量を酸成分の中和等価量に対して160%とした以外は、実施例1と同様にして構成体を得た。
【0054】
試験例1
各実施例及び比較例において構成体の製造する際の、インクジェットプリンタの吐出性及びレベリング性を調べた。また、得られた構成体のエッチングレジスト層について、耐酸性及びアルカリ剥離液による剥離性を調べた。各評価方法及び評価基準を示す。
(吐出性)
インクジェットプリンタからエッチング用インクジェットインキ組成物を吐出した際に全ノズルから正常な速度で吐出されたものを○と評価した。他方、ノズル詰まりが発生し、全ノズルから吐出されない又は全ノズルから吐出されるが等間隔及び同方向に等速度で吐出されない現象(いわゆるサテライト)が発生したものを×と評価した。
(レベリング性)
印刷されたエッチングレジスト層にピンホール及び欠けが生じなかったものを○と評価した。他方、ピンホール及び/又は欠けが生じたものを×と評価した。
(耐酸性)
積層体を液温60℃、濃度43%のFeCl3水溶液(42ボーメ)に30分間浸漬した後、表面状態を目視にて観察し、エッチングレジスト層が剥離していないものと○と評価した。他方、エッチングレジスト層の一部又は全部が剥がれたものを×と評価した。
(アルカリ剥離液による剥離性)
積層体を液温20℃、濃度1重量%の水酸化ナトリウム水溶液に10秒間浸漬した後、表面状態を目視にて観察し、エッチングレジスト層が完全に剥離されているものを○と評価し、一部又は全部のエッチングレジスト層が残ったものを×と評価した。
【0055】
評価結果を表1に示す。
【0056】
【表1】
【0057】
表1に示すように、実施例1〜4では、吐出性、レベリング性、耐酸性及び剥離性がいずれも○であった。一方、比較例1〜7では、吐出性、レベリング性、耐酸性及び剥離性のいずれか一項目は×であった。
【0058】
即ち、(1)沸点が100〜250℃の水溶性溶剤を含有し、(2)酸価100mg KOH/g以上で水酸基を有さない水溶性樹脂を1〜20重量%含有し、(3)前記水溶性樹脂に起因する組成物中の酸成分の中和等価量に対して100〜150%の中和アミンを含有する本発明のエッチングレジスト用インキ組成物を用いることによって、各種ツールを用いることなく簡便に金属箔上にエッチングレジスト層を形成できるとともに、当該エッチングレジスト層は、金属箔を侵食しない低濃度のアルカリ剥離液によって短時間(数秒程度)で完全に剥離することができる。