【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、特定組成を有するエッチングレジスト用インクジェットインキ組成物によれば上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
即ち、本発明は、下記のエッチングレジスト用インクジェットインキ組成物並びに当該組成物を用いたエッチングレジスト層を有する構成体の製造方法及び回路基板の製造方法に関する。
1. エッチングレジスト用インクジェットインキ組成物であって、当該組成物は、
(1)沸点が100〜250℃の水溶性溶剤を含有し、
(2)酸価100mg KOH/g以上で水酸基を有さない水溶性樹脂を1〜20重量%含有し、
(3)前記水溶性樹脂に起因する当該組成物中の酸成分の中和等価量に対して100〜150%の中和アミンを含有する、
ことを特徴とするエッチングレジスト用インクジェットインキ組成物。
2. 25℃における粘度が1〜50mPsである、上記項1に記載の組成物。
3. 前記水溶性樹脂は、アクリル樹脂、スチレンアクリル樹脂、エチレンアクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂及び塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂からなる群から選択される少なくとも1種である、上記項1又は2に記載の組成物。
4. 前記水溶性溶剤は、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル及びプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートからなる群から選択される少なくとも1種である、上記項1〜3のいずれかに記載の組成物。
5. 下記工程を有する、エッチングレジスト層を形成した構成体の製造方法:
(1)樹脂含有基材の片面又は両面に金属箔を積層した積層体を用意し、当該金属箔上の一部分に、上記項1〜4のいずれかに記載の組成物を用いたインクジェット印刷により、回路パターンのエッチングレジスト層を印刷する工程1、
(2)前記印刷したエッチングレジスト層を乾燥硬化させることにより、エッチングレジスト層を形成した構成体を得る工程2。
6. 前記金属箔は、銅箔又はアルミニウム箔である、上記項5に記載の製造方法。
7. 下記工程を有する、回路基板の製造方法:
(1)樹脂含有基材の片面又は両面に金属箔を積層した積層体を用意し、当該金属箔上の一部分に、上記項1〜4のいずれかに記載の組成物を用いたインクジェット印刷により、回路パターンのエッチングレジスト層を印刷する工程1、
(2)前記印刷したエッチングレジスト層を乾燥硬化させることにより、エッチングレジスト層を形成した構成体を得る工程2、
(3)前記エッチングレジスト層が形成されていない金属箔部分をエッチングする工程3、
(4)前記エッチングレジスト層を剥離することにより回路基板を得る工程4。
【0013】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0014】
本発明のエッチングレジスト用インクジェットインキ組成物(以下、「本発明のインキ組成物」とも言う)は、エッチングレジスト用インクジェットインキ組成物であって、
(1)沸点が100〜250℃の水溶性溶剤を含有し、
(2)酸価100mg KOH/g以上で水酸基を有さない水溶性樹脂を1〜20重量%含有し、
(3)前記水溶性樹脂に起因する当該組成物中の酸成分の中和等価量に対して100〜150%の中和アミンを含有することを特徴とする。
【0015】
上記特徴を有する本発明のインキ組成物は、上記(1)〜(3)の要件を具備する組成物であることにより、インクジェット印刷により金属箔上に回路パターンのエッチングレジスト層を精細に印刷することができる。インクジェット印刷により回路パターンのエッチングレジスト層をピンホールや欠けを生じさせることなく印刷することができるため、フォトマスク、スクリーン、グラビアシリンダー等の従来法のツールの作製が不要であり、簡便にエッチングレジスト層を形成することができる。また、本発明のインキ組成物により形成されたエッチングレジスト層は耐酸性に優れており、金属箔をエッチングする際に用いるエッチング液による侵食が抑制されている。また、金属箔のエッチング後にエッチングレジストをアルカリ剥離液による剥離性に優れており、アルカリ濃度1重量%程度の低濃度アルカリ剥離液により短時間(数秒程度)で完全に剥離することができる。
【0016】
本発明のインキ組成物は、酸価100mg KOH/g以上で水酸基を有さない水溶性樹脂を1〜20重量%含有する。水溶性樹脂の含有量が1重量%未満であると、エッチングレジスト層のエッチング液に対する耐酸性が不十分となりエッチングレジスト層のレジストとしての機能が低下する。また、水溶性樹脂の含有量が20重量%を超えると、インクジェット印刷時にインキがヘッドノズルに詰まってしまうおそれがある。水溶性樹脂の含有量は1〜20重量%であれば良いが、その中でも5〜15重量%が好ましい。
【0017】
水溶性樹脂は、酸価100mg KOH/g以上で水酸基を有さないものを用いる。水溶性樹脂の酸価が100mg KOH/g未満であると、アルカリ剥離液に対する溶解性が不十分となり、アルカリ剥離液を用いたエッチングレジスト層の剥離が困難となる。酸価は100mg KOH/g以上であれば良いが、剥離性の点では120〜200mg KOH/gであることが好ましい。
【0018】
なお、2種以上の水溶性樹脂を混合する場合には、各水溶性樹脂の酸価に各水溶性樹脂の混合割合を乗じて得られる、水溶性樹脂の混合物としての酸価が100mg KOH/g以上であることが必要であり、水溶性樹脂の混合物としての含有量が1〜20重量%である必要がある。つまり、酸価100mg KOH/gの水溶性樹脂A:5重量%と、酸価200mg KOH/gの水溶性樹脂B:5重量%とを混合する場合には、インキ組成物中に酸価150mg KOH/gの水溶性樹脂(混合物)が10重量%含有されていることを意味する。
【0019】
水溶性樹脂としては、上記要件を満たすものであれば限定されないが、例えば、アクリル樹脂、スチレンアクリル樹脂、エチレンアクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂及び塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂からなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。これらは、必要に応じて変性物(但し、水酸基は含まない)を用いてもよい。この中でも、アクリル樹脂、スチレンアクリル樹脂、エチレンアクリル樹脂、ポリエステル樹脂及び塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体の少なくとも1種がより好ましい。また、アクリル樹脂及びスチレンアクリル樹脂の少なくとも1種が最も好ましい。
【0020】
本発明のインキ組成物は、前記水溶性樹脂に起因する当該インキ組成物中の酸成分の中和等価量に対して100〜150%の中和アミンを含有する。なお、水溶性樹脂を2種類以上混合する場合には、混合物の酸成分量を基準として中和アミン量を設定する。
【0021】
中和アミンの含有量が酸成分の中和等価量に対して100%未満であると、水溶性樹脂が後記の水溶性溶剤に溶解しきれず、インクジェット印刷時にインキがヘッドノズルに詰まってしまうおそれがある。また、中和アミンの含有量が酸成分の中和等価量に対して150%を超えると、インクジェット印刷時にインキがヘッドノズルを損傷させ易く、結果として正常に吐出されなくなるおそれがある。中和アミンの含有量は100〜150%であれば良いが、その中でも105〜120%が好ましい。
【0022】
中和アミンとしては、例えば、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、水酸化アンモニウム及びこれらの1種以上を含むアルコール類からなる群から選択される少なくとも1種が挙げられる。この中でも、水酸化アンモニウム及び水酸化アンモニウムを含むアルコール類の少なくとも1種が好ましい。
【0023】
本発明のインキ組成物は、溶剤として沸点が100〜250℃の水溶性溶剤を含有する。
【0024】
水溶性溶剤の沸点が100℃未満であると、印刷後のエッチングレジスト層の乾燥時のレベリング性が不十分となり、ピンホールや欠けが発生するおそれがある。水溶性溶剤の沸点が250℃を超えると、印刷後のエッチングレジスト層を加熱乾燥しても揮発難くなり、またエッチングレジスト層のエッチング液に対する耐酸性が不十分となり易い。
【0025】
水溶性溶剤としては、例えば、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル及びプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートからなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。この中でも、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル及びエチレングリコールイソプロピルエーテルの少なくとも1種がより好ましい。
【0026】
本発明のインキ組成物は、インクジェット印刷に適用するものであるため、よりインクジェット印刷適性を高める点では、インキ組成物の25℃における粘度が1〜50mPsであることが好ましい。インキ組成物の粘度をかかる範囲内に設定することにより、ヘッドノズルから吐出したインキ組成物の追随性及びヘッドノズルからの吐出量が制御し易い。
【0027】
本発明のインキ組成物は、樹脂含有基材の片面又は両面に金属箔を積層した積層体を用意し、当該金属箔上の一部分に、当該インキ組成物を用いたインクジェット印刷により、回路パターンのエッチングレジスト層を印刷により形成することができる。これにより、金属箔上の一部分にエッチングレジスト層を形成した構成体を製造することができる。
【0028】
また、上記構成体における、エッチングレジスト層が形成されていない金属箔部分をエッチングした後、エッチングレジスト層を剥離することにより、樹脂含有基板上に金属回路が形成された回路基板を製造することができる。
【0029】
つまり、本発明は、下記の構成体及び回路基板の製造方法も包含する。
・下記工程を有する、エッチングレジスト層を形成した構成体の製造方法:
(1)樹脂含有基材の片面又は両面に金属箔を積層した積層体を用意し、当該金属箔上の一部分に、請求項1〜4のいずれかに記載の組成物を用いたインクジェット印刷により、回路パターンのエッチングレジスト層を印刷する工程1、
(2)前記印刷したエッチングレジスト層を乾燥硬化させることにより、エッチングレジスト層を形成した構成体を得る工程2。
・下記工程を有する、回路基板の製造方法:
(1)樹脂含有基材の片面又は両面に金属箔を積層した積層体を用意し、当該金属箔上の一部分に、請求項1〜4のいずれかに記載の組成物を用いたインクジェット印刷により、回路パターンのエッチングレジスト層を印刷する工程1、
(2)前記印刷したエッチングレジスト層を乾燥硬化させることにより、エッチングレジスト層を形成した構成体を得る工程2、
(3)前記エッチングレジスト層が形成されていない金属箔部分をエッチングする工程3、
(4)前記エッチングレジスト層を剥離することにより回路基板を得る工程4。
【0030】
上記構成体及び回路基板の製造方法において、樹脂含有基材としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、ポリイミド、非結晶ポリエチレンテレフタレート、液晶ポリマー等が挙げられる。この中でも、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネート及びポリ塩化ビニルの少なくとも1種が好ましい。
【0031】
樹脂含有基材の種類と厚みは、通常、最終的に製造される回路基板の目的や用途によって選択される。ICカード(RFID用アンテナ)の用途では、加工とコストの観点からポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等が好ましく、一般に25〜50μmの厚みで使用される。
【0032】
金属箔としては、アルミニウム箔、銅箔、ステンレス鋼箔、チタン箔、錫箔等から選ばれた少なくとも1種を用いることができる。これらの金属箔の中でも経済性、信頼性の点からアルミニウム箔又は銅箔を用いるのが最も好ましい。アルミニウム箔とは、純アルミニウム箔に限定されるものではなく、アルミニウム合金箔も含む。金属箔のおもて面及び裏面の表現は、本明細書では便宜的に用いているが、どちらをおもて面とするかは任意に決定することができる。
【0033】
金属箔は、厚みが7μm以上60μm以下であるのが好ましく、より好ましくは厚みが15μm以上50μm以下である。
【0034】
具体的には、金属箔の材料としては、例えば、JIS(AA)の記号では1030、1N30、1050、1100、8021、8079等の純アルミニウム箔又はアルミニウム合金箔を採用することができる。
【0035】
本発明のインキ組成物を用いたインクジェット印刷により、金属箔上の一部分に回路パターンのエッチングレジスト層を印刷した後は、乾燥硬化させることにより、エッチングレジスト層を形成した構成体が得られる。乾燥硬化の方法は限定されず、自然乾燥の他、40〜200℃で10秒〜10分間程度加熱乾燥することもできる。
【0036】
構成体に対するエッチングは常法に従って行えばよく、例えば、塩化第2鉄水溶液等により金属箔の酸エッチングを行えばよい。また、エッチング後のエッチングレジスト層の剥離も常法に従って行えばよく、例えば、水酸化ナトリウム水溶液等のアルカリ剥離液によるレジストインキ層の剥離除去を行うことにより、樹脂含有基材に金属回路パターンを形成することができる。
【0037】
本発明のインキ組成物により形成されたエッチングレジスト層は耐酸性に優れており、金属箔をエッチングする際に用いるエッチング液による侵食が抑制されている。また、金属箔のエッチング後にエッチングレジストをアルカリ剥離液による剥離性に優れており、アルカリ濃度1重量%程度の低濃度アルカリ剥離液により短時間(数秒程度)に完全に剥離することができる。