特許第6057698号(P6057698)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6057698イミド基含有有機ケイ素化合物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6057698
(24)【登録日】2016年12月16日
(45)【発行日】2017年1月11日
(54)【発明の名称】イミド基含有有機ケイ素化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07F 7/18 20060101AFI20161226BHJP
   C07F 7/12 20060101ALI20161226BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20161226BHJP
【FI】
   C07F7/18 T
   C07F7/12 V
   !C07B61/00 300
【請求項の数】1
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2012-280722(P2012-280722)
(22)【出願日】2012年12月25日
(65)【公開番号】特開2014-125430(P2014-125430A)
(43)【公開日】2014年7月7日
【審査請求日】2015年12月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000110077
【氏名又は名称】東レ・ダウコーニング株式会社
(72)【発明者】
【氏名】谷口 佳範
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 保志
【審査官】 緒形 友美
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−258650(JP,A)
【文献】 特開昭63−075063(JP,A)
【文献】 特開2010−241724(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/028543(WO,A1)
【文献】 特開2009−108036(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/096050(WO,A1)
【文献】 特開2004−331596(JP,A)
【文献】 特開2009−015285(JP,A)
【文献】 特開平10−333297(JP,A)
【文献】 特開昭53−068770(JP,A)
【文献】 特開昭56−145202(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F 7/18
C07F 7/12
C07B 61/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
tert−ブチルアミンと、アリルこはく酸無水物とを無水酢酸の存在下で反応させることにより、アリルこはく酸N−tert-ブチルイミドを得る工程(A)と、
上記工程(A)により得られた、アリルこはく酸N−tert-ブチルイミドと、トリクロロハイドロジェンシランまたはトリメトキシハイドロジェンシランとを、ヒドロシリル化反応用触媒の存在下で付加反応させる工程(B)とを含むことを特徴とする、3−(トリメトキシシリル)プロピルーN−tert−ブチルコハク酸イミドまたは3−(トリクロロシリル)プロピルーN−tert−ブチルコハク酸イミドの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イミド基含有有機ケイ素化合物の製造方法おいて、製造時間を短縮することができ、廃棄物の生成量が少なく、生産性に優れ、かつ高収率である有機ケイ素化合物の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
珪素原子に結合した有機基とアルコキシ基またはケイ素原子結合塩素原子を有するオルガノアルコキシシラン等の有機ケイ素化合物は、電子材料や建築材料等の各種の工業用用途に広く用いられている。特に、イミド基含有有機ケイ素化合物は半導体装置の表面保護膜への添加剤等に使用される(特許文献1)。
【0003】
従来、イミド基含有有機ケイ素化合物の製造方法としては、カルボン酸無水物基を有する有機ケイ素化合物とアミン化合物とを脱水反応させて製造する方法が一般的であった(例えば特許文献2、特許文献3、または特許文献4)。しかしながら、この方法においてはアミン化合物とカルボン酸無物基との反応で副生する水がアルコキシ基と反応してしまい、シリル基の加水分解重縮合反応が進行し、収率が低く、かつ高純度の目的物が得られないと言う問題点があった。
【0004】
また、アルケニル官能性イミド化合物とハイドロジェンアルコキシシラン類とを白金触媒存在下にヒドロシリル化反応させ目的物を得る方法があるが、この場合、原料となるアルケニル官能性イミド化合物中に含まれる不純物としてのアミン化合物がヒドロシリル化反応での白金触媒を失活させてしまうので、多量の白金が必要となり、その結果、製造コストが高く、副生物が多く、かつ高純度の目的物が得られないという問題点があった。
【0005】
また、また、アルケニル官能性イミド化合物中に含まれる水分が、ハイドロジェンアルコキシシランを加水分解してしまい、その結果収率が低く、かつ高純度の目的物が得られないという問題点があった。
【0006】
上記の点から、イミド基含有有機ケイ素化合物においては、安価で効率的な製造方法が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−15285号広報
【特許文献2】特開2004−31596号広報
【特許文献3】特公昭58−32162号公報
【特許文献4】特公昭58−32163号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、収率よく安価で効率的に高純度のイミド基含含有機ケイ素化合物を製造することができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するため、鋭意検討した結果、本発明に到達した。すなわち、本発明の目的は、R−NH (式中、Rは水素原子、炭素原子数1〜10のアルキル基、炭素原子数6〜22のアリール基、炭素原子数7〜20のアラルキル基またはスチリル基である)で表わされるアミン化合物と、アルケニル官能性カルボン酸無水物とを、無水酢酸の存在下で反応させることにより、下記構造式(1)で示されるアルケニル官能性イミド化合物を得る工程(A)と、
【化1】
(式中、Xは下記構造式(2)または構造式(3)で示されるイミド基であり、RはXへの直接結合または炭素数1〜20の2価炭化水素基である。
【化2】
(式中、Rは前記同様の基である)
【化3】
(式中、Rは前記同様の基である))
上記工程(A)により得られた、前記構造式(1)で示されるアルケニル官能性イミド化合物と、H−SiR3−n(式中、Rは炭素数1〜22の1価炭化水素基であり、Yは塩素原子、炭素原子数1〜10のアルコキシ基または炭素原子数6〜22のアリールオキシ基であり、nは0〜3の範囲の数である)で示されるハイドロジェンシランとを、ヒドロシリル化反応用触媒の存在下で付加反応させる工程(B)とを含むことを特徴とする、下記構造式(4):
【化4】
(式中、X,R,RおよびYは前記同様の基または結合であり、nは前記同様の数である。)
で示されるイミド基含有有機ケイ素化合物の製造方法により達成される。
【0010】
また、本発明の目的は、アルケニル官能性イミド化合物が、下記構造式(1−1)で示されるアリルコハク酸イミドまたはアリルコハク酸N−アルキルイミドである、上記のイミド基含有有機ケイ素化合物の製造方法により、好適に達成される。
構造式(1−1):
【化5】
(式中、Rは水素原子または炭素原子数1〜10のアルキル基であり、Rは前記同様の基または結合である)
【0011】
また、上記目的は、アルケニル官能性イミド化合物が、アリルこはく酸N−tert-ブチルイミドであり、ハイドロジェンシランが、トリクロロハイドロジェンシランまたはトリアルコキシハイドロジェンシランであることを特徴とする、前記のイミド基含有有機ケイ素化合物の製造方法、特には、3−(トリメトキシシリル)プロピルーN−tert−ブチルコハク酸イミドまたは3−(トリクロロシリル)プロピルーN−tert−ブチルコハク酸イミドの製造方法により、好適に達成される。
【発明の効果】
【0012】
本発明にかかる製造方法は、簡便かつ安全な工程であり、合成過程における合成時間を短縮することができ、廃棄物の生成量が少なく、生産性および反応の選択性に優れ、かつ高収率であるから、安価で効率的に高純度のイミド基含含有機ケイ素化合物を製造することができる方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の有機ケイ素化合物の製造方法について、詳細に説明する。本発明の製造方法は、下記構造式(4):
【化6】
で示されるイミド基含有有機ケイ素化合物の製造方法である。
【0014】
ここで、本発明の製造方法は、以下の2つの製造工程を含むイミド基含有有機ケイ素化合物の製造方法である。
工程(A):R−NH で表わされるアミン化合物と、アルケニル官能性カルボン酸無水物とを、無水酢酸の存在下で反応させることによりアルケニル官能性イミド化合物を製造する工程
工程(B):工程(A)で得たアルケニル官能性イミド化合物とハイドロジェンシランとを付加反応させることにより、イミド基含有有機ケイ素化合物を製造する工程
【0015】
[工程(A)]
工程(A)はアルケニル官能性カルボン酸無水物とアミン化合物の反応により、アルケニル官能性イミド化合物を製造する工程であり、特に、本発明のイミド基含有有機珪素化合物の製造方法は、下記構造式(1)で示されるアルケニル官能性イミド化合物
【化7】
(式中、Xは下記構造式(2)または構造式(3)で示されるイミド基であり、RはXへの直接結合または炭素数1〜20の2価炭化水素基である。
【化8】
(式中、Rは前記同様の基である)
【化9】
(式中、Rは前記同様の基である))
を製造する過程において、R−NH で表わされるアミン化合物と、アルケニル官能性カルボン酸無水物とを無水酢酸の存在下で反応させる工程であることを特徴とする。
【0016】
特に、本発明は、上記の工程(A)において、無水酢酸を用いることを特徴の一つとする、以下その理由を説明する。
【0017】
一般に、アルケニル官能性イミド化合物は対応するアルケニル官能性カルボン酸無水物とアミン化合物の脱水反応により製造されるが、反応過程で生じるアミド酸の脱水反応を完結させるためには高温で長時間の反応条件が必要であり、得られたアルケニル官能性イミド化合物中には未反応のアミド酸と水分が含まれる。このアルケニル官能性イミド化合物を目的とするイミド基含有有機ケイ素化合物の原料に使用すると、含有される水分との加水分解重縮合反応がおこり目的物を高純度かつ高収率で製造することができない。また、含有される未反応のアミド酸中のカルボニル基とケイ素の縮合反応がおこり、同様に目的物を高純度かつ高収率で製造することができない。
【0018】
さらに、アミド酸の脱水反応工程では、副反応によりイソイミドが生成する。このアルケニル官能性イミド化合物をそのままイミド基含有有機ケイ素化合物の原料に使用すると、得られた有機ケイ素化合物はイミド基とイソイミド基の混合物となるので、結果として目的物を高純度かつ高収率で製造することができない。イソイミドは蒸留により除去されるが、一般的にイソイミドとイミドの沸点が近いので、高純度のイミドを安価かつ高収率で得ることは困難である。このため、水分、アミド酸、及びイソイミドの含有量が低いアルケニル官能性イミド化合物を工業的なスケールで簡便に製造することが困難で、結果的に効率よくイミド基含有有機ケイ素化合物を製造することができなかった。
【0019】
しかしながら、本発明に係る製造方法においては、アルケニル官能性イミド化合物を製造する過程において無水酢酸を用いることで、水分、アミド酸、及びイソイミドのいずれの含有量も著しく低くすることができる。このため、目的とするイミド基含有有機ケイ素化合物を高純度かつ高収率で製造することができる。
【0020】
アルケニル官能性イミド化合物は以下の3つの工程により製造することができる。
第一の工程は、アルケニル官能性カルボン酸無水物と1級アミンの反応であり、アルケニル官能性アミド酸を中間体として得る工程である。
【0021】
第二の工程は、アルケニル官能性アミド酸に無水酢酸を加え、カルボン酸無水物中間体を得る工程であり、副生物として酢酸を生じる。
【0022】
第三の工程は、第二の工程で得られたカルボン酸無水物中間体を加熱下にイミド化する工程であり、副生物として酢酸を生じる。
【0023】
第二の工程及び第三の工程で副生する酢酸は、減圧下に容易に分離することができる。また、目的とするアルケニル官能性イミド化合物は減圧蒸留により簡便に単離することができる。収集された酢酸は定法により簡便に無水酢酸に変換でき、再生した無水酢酸は再びアルケニル官能性イミド化合物の製造に用いることができるので、製造コストをさらに低く抑えることができる。なお、これらの工程は1つの反応容器内で連続して実施することも可能である。
【0024】
[工程(B)]
工程(B)は、上記の工程(A)で得たアルケニル官能性イミド化合物とハイドロジェンシランとを付加反応させることにより、イミド基含有有機ケイ素化合物を製造する工程であり、アルケニル官能性イミド化合物とハイドロジェンシランの反応には、白金触媒存在下によるヒドロシリル化反応が用いられる。
【0025】
ハイドロジェンシランとしてトリメトキシシラン、メチルジメトキシシランなどのアルコキシ基含有ハイドロジェンシランを用いると、目的とするイミド基含有アルコキシシラン類を製造することができる。一方で、ハイドロジェンシランとしてトリクロロシランやジクロロメチルシランなどのクロロシラン類を用いると、イミド基含有クロロシラン類を製造することができる。得られたイミド基含有クロロシランは対応するアルコールとのアルコキシ化反応により、容易にイミド基含有アルコキシシランへ変換可能である。
【0026】
工程(A)で得たアルケニル官能性イミド化合物は、上記構造式(1)で表わされるものである。構造式(1)において、Xは上記構造式(2)または構造式(3)で示されるイミド基であり、RはXへの直接結合または炭素数1〜20の2価炭化水素基である。ここで、Rは好適にはXへの直接結合または炭素原子数1〜20のアルキレン基またはアリーレン基であり、途中に分岐を有しても良い。また、炭素原子に結合した水素原子の一部がハロゲン原子等で一部置換されていても良い。
【0027】
Xが上記構造式(2)で示されるイミド基である場合、Xは、窒素原子(N)上に結合した置換基(−R)を有するコハク酸イミド基である。ここで、Rは水素原子、炭素原子数1〜10のアルキル基、炭素原子数6〜22のアリール基、炭素原子数7〜20のアラルキル基またはスチリル基であり、工程(A)において、原料として用いたアミン化合物から導入される。Rは、環状または分岐鎖状であっても良く、好適には、Rは水素原子または炭素原子数1〜10のアルキル基、フェニル基、シクロアルキル基、ベンジルアルキル基、ナフチル基、スチリル基であり、炭素原子に結合した水素原子の一部がハロゲン原子等で一部置換されていても良い。シランカップリング剤として本発明に係るイミド含有有機ケイ素化合物の製造方法を使用する場合、tert-ブチル基が特に好ましいが、これに限定されるものではない。
【0028】
Xが上記構造式(3)で示されるイミド基である場合、Xは、窒素原子(N)上に結合した置換基(−R)を有するフタルイミド基である。ここで、Rは前記同様の基であり、かつ前記同様の基が好ましく例示される。
【0029】
より詳細には、上記構造式(1)で示されるアルケニル官能性イミド化合物は以下の通り例示される。
【0030】
【化10】
【0031】
【化11】
【0032】
【化12】
【0033】
【化13】
【0034】
【化14】
【0035】
【化15】
【0036】
【化16】
【0037】
【化17】
【0038】
【化18】
【0039】
【化19】
【0040】
アルケニル官能性イミド化合物とのヒドロシリル化反応に使用されるハイドロジェンシランは、H−SiR3−n(式中、Rは炭素数1〜22の1価炭化水素基であり、Yは塩素原子、炭素原子数1〜10のアルコキシ基または炭素原子数6〜22のアリールオキシ基であり、nは0〜3の範囲の数である)で示されるハイドロジェンシランである。
【0041】
好適には、当該ハイドロジェンシランは、クロロシラン類、オルガノクロロシラン類、オルガノアルコキシシラン類、オルガノアルコキシクロロシラン類およびアルコキシシラン類から選ばれる1種類以上のオルガノハイドロジェンシランである。本発明において、当該ハイドロジェンシランは、トリクロロシラン、トリメトキシシラン、メチルジクロロシラン、メチルジメトキシシランであることが望ましい。
【0042】
は一価の有機基であり、反応性または非反応性の官能基であれば、特に制限なく使用できる。好適には、Rは炭素数1〜22の1価炭化水素基であり、特に、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、ハロゲン化アルキル基、ハロゲン化アリール基、アクリロキシ基などを例示することができる。さらに、これらの官能基中の炭素原子の一部窒素原子(アミノ基)、酸素原子、ケイ素原子、硫黄原子、リン原子などで置換されていても良い。工業的な利用可能性、特にシランカップリング剤として本発明に係るイミド基含有有機ケイ素化合物の製造方法を使用する場合、Rは鎖状または分岐鎖状のアルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アリール基またはアクリロキシ基が好ましく、メチル基、エチル基、プロピル基、ヘキシル基、ビニル基、プロペニル基、ヘキセニル基、シクロヘキシル基、アクリロキシ基、メタクリロキシ基、フェニル基またはナフチル基から選択される1種類以上の一価の有機基が特に好適である。より具体的には、Rは鎖状または分岐鎖状のアルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アリール基またはアクリロキシ基が好ましい。
【0043】
Yは塩素原子、炭素原子数1〜10のアルコキシ基または炭素原子数6〜22のアリールオキシ基であり、工業的な利用可能性、特にシランカップリング剤として本発明に係るイミド基含有有機ケイ素化合物の製造方法を使用する見地からは、Yは好適には、塩素原子、メトキシ基、エトキシ基またはフェノキシ基であり、特に、メトキシ基、エトキシ基またはフェノキシ基であるアルコキシ基が好ましい。
【0044】
式中、nは0〜3の範囲の数であり、nが0であるときにはトリクロロシランまたはトリアルコキシシラン類であり、nが3であるときは、(トリ)オルガノハイドロジェンシラン類である。好適には、nは0〜2の範囲の数であり、Yがアルコキシ基であれば、ハイドロジェントリアルコキシシラン、オルガノハイドロジェンジアルコキシシランまたはトリアルコキシシランであることが好ましい。
【0045】
本発明に用いられるハイドロジェンシランとして、以下のクロロシラン類またはアルコキシシラン類が例示されるが、これらに限定されない。なお、必要に応じ、これらのシラン類は、2種類以上の混合物であっても良い。
【0046】
トリクロロシラン、メチルジクロロシラン、ジメチルクロロシラン、エチルジクロロシラン、ジエチルクロロシラン、エチルメチルクロロシラン、トリメトキシシラン、メチルジメトキシシラン、ジメチルメトキシシラン、エチルメチルメトキシシラン、トリエトキシシラン、メチルジエトキシシラン、ジメチルエトキシシラン、エチルメチルエトキシシラン、フェニルジクロロシラン、ジフェニルクロロシラン、フェニルメチルクロロシラン、エチルフェニルクロロシラン、フェニルジメトキシシラン、ジフェニルメトキシシラン、フェニルメチルメトキシシラン、エチルフェニルメトキシシラン、フェニルジエトキシシラン、ジフェニルエトキシシラン、フェニルメチルエトキシシラン、エチルフェニルエトキシシラン。
【0047】
本発明の製造方法により得られるイミド基含有有機ケイ素化合物は、構造式(1)で表わされる物である限り、特に制限はなく、以下のオルガノシラン類、オルガノアルコキシシラン類、オルガノクロロシラン類を収率良く得ることができる。特に、本発明の製造方法は、アルキル基、アリール基およびアルコキシ基または、ケイ素に直接結合する塩素原子を有する有機ケイ素化合物の製造に好適であり、イミド基含有トリクロロシラン類、イミド基含有メチルジクロロシラン類、イミド基含有ジメチルクロロシラン類、イミド基含有トリアルコキシシラン類、イミド基含有メチルジメトキシシラン類、イミド基含有ジメチルクロロシラン類の合成に好適である。
【0048】
【化20】
【0049】
【化21】
【0050】
本発明におけるヒドロシリル化反応触媒は、公知の技術として知られている白金(Pt)及び/又は白金(Pt)を中心金属とする錯体化合物である。具体的には、塩化白金酸のアルコール溶液、塩化白金酸の1,3−ジビニルテトラメチルジシロキサン錯体並びに該錯体を中和処理した化合物や、中心金属の酸化数がPt(II)やPt(0)の1,3−ジビニルテトラメチルジシロキサン錯体が挙げられる。好ましくは中心金属の酸化数がPt(IV)以外の錯体であることが付加位置選択性の点から望ましく、特にPt(0)、Pt(II)であることが好ましい。
【0051】
本発明におけるヒドロシリル化反応触媒の使用量は、ヒドロシリル化反応の触媒効果が発現する量であれば特に限定されないが、好ましくはアルケニル官能性イミド化合物に対して0.5〜100ppmであり、より好ましくは1〜20ppmである。1ppm未満である場合には十分な触媒効果が発現しないおそれがあり、20ppmより多い場合には生産コストが高くなり不経済になってしまうおそれがある。
【0052】
この反応において溶媒の使用は任意であるが、必要に応じてトルエン、キシレン、メシチレン、ベンゼン、ヘキサン、エチレンクロライド、クロロホルム、トリクロロエチレン、シクロヘキサン、テトラヒドロフラン、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、アセトニトリルなどの活性水素を含まない有機溶媒を反応溶媒として使用してもよい。しかし、溶媒を使用することで生産性が低くなり、目的物の収率が低下するから、これらの有機溶媒を使用しないことが好ましい。
【0053】
この反応は、窒素、アルゴンなどの不活性ガス下で行なうことが好ましい。また、反応系に水が存在すると、シランと水が反応してしまい、目的物の収率および純度が低下するので、使用する原料は出来るだけ水分を除いたものを使用することが好ましい。
【0054】
反応の温度は、とくに規定されないが、0〜200℃、特に20〜150℃の範囲が好ましい。
【0055】
反応に要する時間は任意であるが、反応が完結していない場合は攪拌を継続して反応を完結させることができる。その際の反応温度は任意であるが、0〜200℃、特に20〜150℃の範囲が好ましい。
【実施例】
【0056】
以下、実施例および比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。また、有機化合物の純度および同定は、以下に示す方法により行った。
【0057】
[有機ケイ素化合物の純度(%)の測定方法]
島津製作所社製ガスクロマトグラフィー、型番:GC−2010、カラムAgilent J&W GC社製 DB-5、キャリアガス:ヘリウム、キャリヤガス流量:50ml/分、注入口温度80℃、検出器(TCD)温度280℃、昇温速度15℃/分
[有機ケイ素化合物の同定方法]
島津製作所社製質量分析ガスクロマトグラフィー、型番:QP−5050、カラムAgilent J&W GC社製 DB-5、キャリアガス:ヘリウム、キャリヤガス流量:20ml/分、注入口温度80℃、検出器温度280℃、昇温速度15℃/分
【0058】
[合成例 N-tert−ブチル―2−アリルこはく酸イミドの合成]
窒素ガス導入管、温度計、ジムロート型コンデンサー及び滴下漏斗を備えた1 L4つ口フラスコに、アリルこはく酸無水物(和光純薬工業(株)製、280.3 g, 2.0 mol)とキシレン(和光純薬工業(株)製、400ml)を投入し、攪拌しながらtert−ブチルアミン(東京化成工業(株)製、146.2 g, 2.0 mol)を冷却しながら室温で滴下した。滴下終了後、室温にて無水酢酸(東京化成工業(株)製、102.1グラム、1.0モル)とトリエチルアミン(東京化成工業(株)製、1.1グラム、0.01モル)の混合物を滴下し、滴下終了後40℃で2時間攪拌した後、反応混合物中の低沸点成分を減圧留去により系外へ排出した。その後、反応混合物を110℃に加熱し、4時間攪拌した。その後減圧蒸留して339.3グラムの生成物を得た (沸点104 ℃ / 2 torr、純度99.1 %)。質量分析ガスクロマトグラフィーにより、生成物はN-tert−ブチル―2−アリルこはく酸イミドであることを確認した。
【0059】
[比較合成例 N-tert−ブチル―2−アリルこはく酸イミドの合成]
窒素ガス導入管、温度計、ジムロート型コンデンサー、ディーンシュタルクトラップ及び滴下漏斗を備えた1 L4つ口フラスコに、アリルこはく酸無水物(和光純薬工業(株)製、280.3 g, 2.0 mol)とキシレン(和光純薬工業(株)製、400ml)を投入し、攪拌しながらtert−ブチルアミン(東京化成工業(株)製、146.2 g, 2.0 mol)を冷却しながら室温で滴下した。滴下終了後190℃に加熱して5時間かけて脱水反応をおこなった。副生した水は、ディーンシュタルクトラップに捕集された。その後、減圧蒸留して230.2グラムの生成物を得た (沸点103−109 ℃/2トル、純度89.0 %)。
【0060】
表1:N-tert−ブチル―2−アリルこはく酸イミドの物性値
【表1】
【0061】
[実施例1 N-tert−ブチル―2−(3−(トリメトキシシリル)プロピル)こはく酸イミドの合成]
窒素ガス導入管、温度計、ジムロート型コンデンサー及び滴下漏斗を備えた100m L4つ口フラスコに、合成例で得られたN-tert−ブチル―2−アリルこはく酸イミド (19.7グラム、0.1モル)と1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン白金(0)錯体溶液(0.004グラム)を投入し、攪拌しながらトリメトキシシラン(東京化成工業(株)製、12.2グラム、0.1モル)を70℃で滴下した。滴下終了後、100℃で3時間攪拌してヒドロシリル化反応を完結させた。その後、減圧蒸留して25.6グラムの生成物を得た(沸点184−186℃/1.0トル、純度98.9%)。質量分析ガスクロマトグラフィーにより、生成物はN-tert−ブチル―2−(3−(トリメトキシシリル)プロピル)こはく酸イミドであることを確認した(収率81.0%)。
【0062】
[実施例2 N-tert−ブチル―2−(3−(トリクロロシリル)プロピル)こはく酸イミドの合成]
窒素ガス導入管、温度計、ジムロート型コンデンサー及び滴下漏斗を備えた100m L4つ口フラスコに、合成例で得られたN-tert−ブチル―2−アリルこはく酸イミド (19.7グラム、0.1モル)と1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン白金(0)錯体溶液(0.004グラム)を投入し、攪拌しながらトリクロロシラン(東レ・ダウコーニング(株)製、13.4グラム、0.1モル)を70℃で滴下した。滴下終了後、100℃で3時間攪拌してヒドロシリル化反応を完結させた。その後、減圧蒸留して27.9グラムの生成物を得た(沸点166−169℃/1.0トル、純度99.1%)。質量分析ガスクロマトグラフィーにより、生成物はN-tert−ブチル―2−(3−(トリクロロシリル)プロピル)こはく酸イミドであることを確認した(収率85.0%)。
【0063】
[比較例1 N-tert−ブチル―2−(3−(トリメトキシシリル)プロピル)こはく酸イミドの合成]
窒素ガス導入管、温度計、ジムロート型コンデンサー及び滴下漏斗を備えた1 00mL4つ口フラスコに、比較合成例で得られたN-tert−ブチル―2−アリルこはく酸イミド (27.2グラム、有効成分濃度換算で0.1モル)と1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン白金(0)錯体溶液(0.004グラム)を投入し、70℃で攪拌しながらトリメトキシシラン(東京化成工業(株)製、0.6グラム、0.005モル)を滴下した。ところが、ヒドロシリル化反応の開始が確認できなかったので、反応の開始が確認できるまで白金触媒溶液を順次追加投入した。その結果、白金触媒溶液の投入量の合計が0.55グラムとなった時点でヒドロシリル化反応の開始を確認することができた。引き続きトリメトキシシラン(116グラム、0.995モル)を70℃で滴下した。滴下終了後100℃にて10時間攪拌したが、ガスクロマトグラフィーにより未反応の原料が残存していることを確認したので、冷却によりヒドロシリル化反応を停止させた。その後、減圧蒸留して177.1グラムの生成物を得た(沸点184−186℃/1.0トル、ガスクロマトグラフィー純度95.4%)。質量分析ガスクロマトグラフィーにより、生成物はN-tert−ブチル―2−(3−(トリメトキシシリル)プロピル)こはく酸イミドであることを確認した(収率54.0%)。
【0064】
[比較例2 N-tert−ブチル―2−(3−(トリクロロシリル)プロピル)こはく酸イミドの合成]
窒素ガス導入管、温度計、ジムロート型コンデンサー及び滴下漏斗を備えた100m L4つ口フラスコに、比較合成例で得られたN-tert−ブチル―2−アリルこはく酸イミド (27.2グラム、有効成分濃度換算で0.1モル)と1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン白金(0)錯体溶液(0.004グラム)を投入し、70℃で攪拌しながらトリクロロシラン(東レ・ダウコーニング(株)製、0.7グラム、0.005モル)を滴下した。ところが、ヒドロシリル化反応の開始が確認できなかったので、反応の開始が確認できるまで白金触媒溶液を順次追加投入した。その結果、白金触媒溶液の投入量の合計が0.21グラムとなった時点でヒドロシリル化反応の開始を確認することが出来た。引き続きトリクロロシラン(12.7グラム、0.0995モル)を70℃で滴下し、滴下終了後100℃にて7時間攪拌したが、ガスクロマトグラフィーにより未反応の原料が残存していることを確認したので、冷却によりヒドロシリル化反応を停止させた。その後、減圧蒸留して21.7グラムの生成物を得た(沸点166−169℃/1.0トル、ガスクロマトグラフィー純度95.4%)。質量分析ガスクロマトグラフィーにより、生成物はN-tert−ブチル―2−(3−(トリクロロシリル)プロピル)こはく酸イミドであることを確認した(収率54.0%)。
【0065】
下表2に、上記の実施例1、2および比較例1、2で得たシランの合成結果を示す。
表2:N−tert−ブチルコハク酸イミド官能性シランの合成結果
【表2】
【0066】
[実施例3 N-tert−ブチル―2−(3−(トリメトキシシリル)プロピル)こはく酸イミドの合成]
窒素ガス導入管、温度計、ジムロート型コンデンサー及び滴下漏斗を備えた100mL4つ口フラスコに、実施例2で得られたN-tert−ブチル―2−(3−(トリクロロシリル)プロピル)こはく酸イミド (27.9グラム、0.080モル)を投入し、攪拌しながらオルト蟻酸メチル(和光純薬工業(株)製、27.1グラム、0.26モル)とメタノール(和光純薬工業(株)製、0.13グラム、0.004モル)の混合物を40℃で滴下した。滴下終了後、70℃に加熱して5時間攪拌し、メトキシ化反応を完結させた。その後、減圧蒸留して22.2グラムの生成物を得た(沸点184−186℃/1.0トル、ガスクロマトグラフィー純度99.1%)。質量分析ガスクロマトグラフィーにより、生成物はN-tert−ブチル―2−(3−(トリメトキシシリル)プロピル)こはく酸イミドであることを確認した(収率83.0%)。
【0067】
表2に示す通り、本願発明の製造方法により、常法より優れた反応効率と反応収率をもって、イミド基含有有機ケイ素化合物を合成することができた。さらに、実施例3に示す通り、本願発明の製造方法により得られたイミド基含有クロロシラン化合物は容易にイミド基含有メトキシシラン化合物に変換することができた。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明の製造方法を用いることにより、イミド基含有有機ケイ素化合物を安全に効率よく製造することができ、製造コストを抑制することができる。このため、高付加価値のシランカップリング剤を高純度、安価かつ大量に提供できる。