【文献】
笠井芳夫,坂井悦郎、新 セメント・コンクリート用混和材料、第1版、技術書院、2007年1月15日、第228−230頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
主要成分として、水、骨材、水硬性結合剤、凝結促進剤を含有する吹付け可能な水硬性結合剤組成物の製造方法において、ケイ酸カルシウム水和物(C−S−H)含有成分を、スプレーノズルの前及び/又はスプレーノズルに添加し、
前記ケイ酸カルシウム水和物(C−S−H)含有成分が、水溶性カルシウム化合物を水溶性ケイ酸塩化合物と反応させることによって入手可能であり、
前記水溶性カルシウム化合物と前記水溶性ケイ酸塩化合物との反応を、EN934−2に基づき水硬性結合剤用の流動化剤として好適な分散剤としての櫛形ポリマーの存在下で、実施することを特徴とする、前記製造方法。
前記水硬性結合剤が、セメント、石膏、バサニ石又は無水石膏、石灰、潜在水硬性結合剤(例えばフライアッシュ、高炉スラグ又はポゾラン)、及びこれらの混合物であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
前記凝結促進剤が主要成分として、硫酸塩、酸化状態が+3のアルミニウム、又はこれらの混合物を含有することを特徴とする、請求項1から5までのいずれか1項に記載の方法。
前記凝結促進剤が、当該凝結促進剤の質量に対して硫酸塩を15〜40質量%、及び/又は当該凝結促進剤の質量に対して酸化状態3のアルミニウムを3〜10質量%、含有することを特徴とする、請求項1から6までのいずれか1項に記載の方法。
前記ケイ酸カルシウム水和物含有成分が、ケイ酸カルシウム水和物(C−S−H)又はC−S−H含有混合物であることを特徴とする、請求項1から7までのいずれか1項に記載の方法。
前記ケイ酸カルシウム水和物を、0.5〜2.0のカルシウム/ケイ素(Ca/Si)モル比で使用することを特徴とする、請求項1から8までのいずれか1項に記載の方法。
前記ケイ酸カルシウム水和物を、0.7〜1.9のカルシウム/ケイ素(Ca/Si)モル比で使用することを特徴とする、請求項1から9までのいずれか1項に記載の方法。
前記ケイ酸カルシウム水和物を、1.6〜1.8のカルシウム/ケイ素(Ca/Si)モル比で使用することを特徴とする、請求項1から10までのいずれか1項に記載の方法。
前記ケイ酸カルシウム水和物(C−S−H)含有成分を、セメントプラント中の水硬性結合剤、生コンクリートプラント中の水硬性結合剤、コンクリートミキサー車、運搬ポンプ及び/又はスプレーノズルに添加することを特徴とする、請求項1から16までのいずれか1項に記載の方法。
【技術分野】
【0001】
本発明は吹付け可能な水硬性結合剤組成物の製造方法、当該吹付け可能な水硬性結合剤組成物及び当該組成物の使用方法に関する。
【0002】
発明の背景
コンクリートなどのセメント系組成物を、ノズルから吹付けすることで基質に塗布することは確立された技術であって、トンネルライニングなどに幅広く応用されている。かかる組成物はスプレーノズルまで容易に(通常はポンピングによって)運ぶことができなければならない。これは、ポンピングし吹付けするセメント系組成物に、混合の段階で、当該混合物の流動性を高める混合剤を添加することによって達成できる。当業者に既知であって使用されているかかる混合剤はきわめて幅広く、例えばスルホン化メラミンホルムアルデヒド縮合物、スルホン化ナフタレンホルムアルデヒド縮合物又はアクリルポリマー類が挙げられる。
【0003】
吹付けコンクリート又は「ショットクリート」は地下の構造物に主として使用される。その応用においては、凝結促進剤及び空気を添加したモルタル又はコンクリートをノズルに運び、高速で空気圧により基質に射出する。実際、コンクリートが落ちずに壁に接着し、早期の入場及び掘削を可能にし、安全性及び効率的な建設が保証されるには、素早い凝結及び早期強度発現が必要となる。機械的特性を迅速に発現する促進剤を吹付けコンクリート又は吹付けモルタルに添加するのは、かかる理由である。
【0004】
凝結促進剤は、C3A及びC3Sといったクリンカー相の水和工程、硫酸塩担体の消費量及び最初の段階における細孔溶液の化学組成に影響を及ぼすことが知られている。凝結促進剤の添加により硬化が迅速になるのは、エトリンガイトなどの水和生成物が大量に生成されるためであるが、その結果強度が早期に発現されにくくなる場合があり、文献においてこれはケイ酸カルシウム水和物(C−S−H)の生成が緩徐になることに起因するとされている。
【0005】
(1)ケイ酸カルシウム水和物からなる硬化促進剤及び(2)凝結促進剤のケイ酸カルシウム水和物(C−S−H)を添加することにより、沈殿が著明に促進され、機械的特性の発現を早めることができる。
【0006】
液体急結剤の製造方法がEP08170692.1に記載されており、その液体急結剤は硫酸アルミニウム及び/又はヒドロキシ硫酸アルミニウムを含有する液体急結剤を含有する。EP1878713は、25〜40質量%の硫酸アルミニウム、分散液中の硫酸塩に対するアルミニウムのモル比が1.35〜0.70になるような1つ以上の追加のアルミニウム化合物及びケイ酸マグネシウムを包含する無機安定剤を主成分とする促進剤について記載している。セメント系組成物を吹付けることでセメント系組成物の層を基質に塗布する方法は、EP0812812に記載されている。EP1964825による促進剤及び水硬性結合剤のための硬化促進剤は、硫酸塩、アルミニウム、有機酸及び/又は鉱酸及びケイ酸を包含する。WO2005/075381は、硫酸塩、アルミニウム及び有機酸を包含し、有機酸に対するアルミニウムのモル比が0.65未満である、水を主成分とする促進剤及び水硬性結合剤のための硬化促進剤について記載している。
【0007】
ショットクリート及びその他のセメント含有材料のための従来の凝結促進剤は、凝結が迅速で早期強度発現が比較的緩徐になるか、凝結が緩徐で早期強度発現が迅速であるかのいずれかであるという点が特徴である。さらに、コンクリートにおける凝結促進剤の性能に関する結果は、しばしば、セメントの種類、コンクリート混合物のデザイン及び気温によって変化することが多い。塗布前にこれらの要素すべてを考慮に入れても、既知の凝結促進剤を用いたトンネル掘削プロジェクトが増加している現状で必要とされるきわめて早期の強度発現を達成することは困難である。したがって、世界中のさまざまなセメントに対応し、多岐にわたる規格に合致する、より効率的できわめて頑強な促進剤に対する需要度は高い。
【0008】
さらに、水硬性結合剤を包含する建築材料混合物のための促進剤は、典型的には当該水硬性結合剤の早期強度発現を加速させる硬化促進剤も含有する。
【0009】
WO02/070425によれば、ケイ酸カルシウム水和物はかかる硬化促進剤として使用することができる。ただし、市販のケイ酸カルシウム水和物及びその分散液は、ほぼ効果のない硬化促進剤としてしかみられていない。
【0010】
本発明の目的は、基質、特にトンネル表面、坑内表面、建築物のトレンチ及びシャフトをコンクリート又はモルタルでコーティングするための吹付けコンクリート又は吹付けモルタルといった、吹付け可能な水硬性結合剤組成物を提供することである。
【0011】
驚くべきことに、水硬性結合剤組成物、特に吹付けコンクリート又は吹付けモルタルにおいて凝結及び早期強度発現を加速させる新しい化学系が見出された。
【0012】
発明の詳細な説明
既知の凝結促進剤の欠点は、吹付けコンクリートといった組成物を含有する水硬性結合剤において、凝結が早いためにしばしば早期強度発現が緩徐になることである。
【0013】
本発明の目的は、ケイ酸カルシウム水和物(C−S−H)を含有する成分を
スプレーノズルの前及び/又はスプレーノズルに添加することを特徴とする、成分として、水、骨材、水硬性結合剤、凝結促進剤を含有する吹付け可能な水硬性結合剤組成物の製造方法を提供することである。
【0014】
驚くべきことに、ケイ酸カルシウム水和物は、水硬性結合剤組成物中の凝結促進剤の性能を高め、それによって当該水硬性結合剤の硬化度を高めることが見出された。
【0015】
したがって、本発明は、水硬性結合剤組成物、特に吹付けコンクリートにおいて凝結及び早期強度発現を加速させる新しい化学系を提供する。現在、特定の化学系が(1)硬化剤及び(2)凝結促進剤の組み合わせによって製造できることが見出されている。(1)の硬化剤はケイ酸カルシウム水和物を含有する。(2)の凝結促進剤は、例えば硫酸アルミニウム又はケイ酸ナトリウムを主成分とする、吹付けコンクリート用のあらゆる種類のアルカリフリー又はアルカリ含有凝結促進剤から構成される。硬化促進剤はノズル部分で凝固促進剤と同時に添加されてもよい。
【0016】
特に基質上に吹付けられる場合、コンクリートなどのセメント系組成物はきわめて迅速に凝結しなければならない。かかる使用においては、アルミン酸ナトリウム及び水酸化アルカリ金属を含む強力な促進剤が使用されてきた。しかし、これらの促進剤はアルカリ度が高いため、その使用においては、取り扱い及び作業環境がきわめて不快なものとなる。したがって、アルミニウム化合物を含有し、低アルカリ及びアルカリフリーの促進剤が提案されてきた。
【0017】
通常の吹付けコンクリート及びセメント含有材料用アルカリフリー凝結促進剤は、凝結が迅速で早期強度発現が比較的緩徐になるか、凝結が緩徐で早期強度発現が迅速であるかのいずれかであるという点を特徴とする。
【0018】
原則として、硬化促進剤は無機及び有機成分を含有する。無機成分は、マグネシウム及びアルミニウムなどの外部イオンを含有することのできる修飾された微細分散ケイ酸カルシウム(C−S−H)とみなすことができる。好ましい方法に基づくこのケイ酸カルシウム水和物(C−S−H)は、水溶性カルシウム化合物を水溶性ケイ酸塩化合物と反応させることによって製造され、この水溶性カルシウム化合物の水溶性ケイ酸塩化合物との反応は、好ましくは水硬性結合剤用の流動化剤として好適な水溶性櫛形ポリマーを含有する水溶液の存在下で実施され、及び/又は好ましくは
(I)ポリエーテル側鎖、好ましくはポリアルキレングリコール側鎖、より好ましくはポリエチレングリコール側鎖を有する芳香族又はヘテロ芳香族成分からなる1つ以上の構造単位及び
(II)1つ以上のリン酸エステル基及び/又はその塩を有する芳香族又はヘテロ芳香族成分からなる1つ以上の構造単位
を含有する重縮合体を、水硬性結合剤用の流動化剤として好適な水溶性櫛形ポリマーを含有する水溶液中で実施するのがよい。
【0019】
好ましくは、反応を実施するための水溶液は、櫛形ポリマーのほか、第二のポリマーを含有するのがよい。第二のポリマーは、本実施形態の以下の文章及びその後の実施形態で記述するような重縮合体である。好ましくは、当該重縮合体とともに使用する櫛形ポリマーは、ラジカル重合によって入手できるのがよい。
【0020】
本実施形態による重縮合体は、先行技術(米国特許20080108732A1)において、セメント系組成物の高流動化剤として有効であることが知られている。米国特許20080108732A1は、従来使用されてきた重縮合体に比して無機結合剤懸濁液の流動化効果を高め、この効果を長期間にわたって維持する(「スランプ保持性」)、(A)5〜10個の炭素原子又はヘテロ原子を有し、(B)1つ以上のオキシエチレン又はオキシプロピレン基及びアルデヒドを有し、(C)ホルムアルデヒド、グリオキシル酸及びベンズアルデヒド又はその混合物から選択される芳香族又はヘテロ芳香族化合物を主成分とする重縮合体について記載している。特定の実施形態において、これらはリン酸塩含有重縮合体(phosphated polycondensate)であってもよい。
【0021】
典型的には、前記重縮合体は、(I)ポリエーテル側鎖、好ましくはポリアルキレングリコール側鎖、より好ましくはポリエチレングリコール側鎖を有する芳香族又はヘテロ芳香族成分からなる1つ以上の構造単位を含有する。ポリエーテル側鎖、好ましくはポリエチレングリコール側鎖を有する芳香族又はヘテロ芳香族成分からなるこの構造単位は、好ましくはアルコキシル化、好ましくはエトキシル化されたヒドロキシ官能化芳香化合物又はヘテロ芳香化合物(例えば芳香化合物はフェノキシエタノール、フェノキシプロパノール、2−アルコキシフェノキシエタノール類、4−アルコキシフェノキシエタノール類、2−アルキルフェノキシエタノール類、4−アルキルフェノキシエタノール類から選択することができる)及び/又はアルコキシル化、好ましくはエトキシル化されたアミノ官能化芳香化合物又はヘテロ芳香化合物(例えば芳香化合物はN,N−(ジヒドロキシエチル)アニリン、N,−(ヒドロキシエチル)アニリン、N,N−(ジヒドロキシプロピル)アニリン、N,−(ヒドロキシプロピル)アニリンから選択することができる)から選択するのがよい。より好ましいのはアルコキシル化フェノール誘導体(例えばフェノキシエタノール又はフェノキシプロパノール)であり、最も好ましいのは平均分子量が300〜10,000g/molのアルコキシル化、特にエトキシル化フェノール誘導体(例えばポリエチレングリコールモノフェニルエーテル類)である。
【0022】
典型的には、前記重縮合体は、(II)1つ以上のリン酸エステル基及び/又はリン酸エステル基の塩を有する芳香族又はヘテロ芳香族成分からなる1つ以上のリン酸塩含有構造単位を含有し、前記芳香族又はヘテロ芳香族成分は、好ましくはアルコキシル化されたヒドロキシ官能化芳香化合物又はヘテロ芳香化合物(例えばフェノキシエタノールホスフェート、ポリエチレングリコールモノフェニルエーテルホスフェート類など)及び/又はアルコキシル化されたアミノ官能化芳香化合物又はヘテロ芳香化合物(例えばN,N−(ジヒドロキシエチル)アニリンジホスフェート、N,N−(ジヒドロキシエチル)アニリンホスフェート、N,−(ヒドロキシプロピル)アニリンホスフェートなど)の群から選択され、1つ以上のリン酸エステル基及び/又はリン酸エステル基の塩を有するのがよい(例えばリン酸のエステル化及び塩基の任意の追加による)。より好ましいのは1つ以上のリン酸エステル基及び/又はリン酸エステル基の塩を有するアルコキシル化フェノール類(例えばエチレングリコールが25単位未満であるポリエチレングリコールモノフェニルエーテルホスフェート類)であり、最も好ましくはそれぞれ平均分子量が200〜600g/molのアルコキシル化フェノール類(例えばフェノキシエタノールホスフェート、エチレングリコール単位が2〜10のポリエチレングリコールモノフェニルエーテルホスフェート類など)、1つ以上のリン酸エステル基及び/又はリン酸エステル基の塩を有するアルコキシル化フェノール類である(例えばリン酸のエステル化及び塩基の任意の追加による)。
【0023】
本発明の別の実施形態において、製造方法は重縮合体の構造単位(I)及び(II)が以下の一般式で表されることを特徴とする:
(I)
【化1】
式中、
Aは同一であるか異なり、5〜10個の炭素原子を有する置換又は非置換の芳香族又はヘテロ芳香族化合物によって表され、
Bは同一であるか異なり、N、NH又はOによって表され、
BがNであればnは2であり、BがNH又はOであればnは1であり、
R
1及びR
2は互いに独立して同一であるか異なり、分岐鎖又は直鎖C
1〜C
10アルキル基、C
5〜C
8シクロアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基又はHによって表され、
aは同一であるか異なり、1〜300の整数によって表され、
Xは同一であるか異なり、分岐鎖又は直鎖C
1〜C
10アルキル基、C
5〜C
8シクロアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基又はH、好ましくはHによって表され、
(II)
【化2】
式中、
Dは同一であるか異なり、5〜10個の炭素原子を有する置換又は非置換のヘテロ芳香族化合物によって表され、
Eは同一であるか異なり、N、NH又はOによって表され、
EがNであればmは2であり、EがNH又はOであればmは1であり、
R
3及びR
4は互いに独立して同一であるか異なり、分岐鎖又は直鎖C
1〜C
10アルキル基、C
5〜C
8シクロアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基又はHによって表され、
bは同一であるか異なり、1〜300の整数によって表され、
Mは互いに独立してアルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、アンモニウムイオン、有機アンモニウムイオン及び/又はHであり、アルカリ土類金属イオン1/2の場合、aは1である。
【0024】
重縮合体の一般式(I)及び(II)に示されたA及びDは、好ましくはフェニル、2−ヒドロキシフェニル、3−ヒドロキシフェニル、4−ヒドロキシフェニル、2−メトキシフェニル、3−メトキシフェニル、4−メトキシフェニル、ナフチル、2−ヒドロキシナフチル、4−ヒドロキシナフチル、2−メトキシナフチル、4−メトキシナフチル、好ましくはフェニルによって表されるのがよく、A及びBが互いに独立して選択され、いずれも前記化合物の混合物からなることができるのがよい。B及びEは互いに独立して、好ましくはOによって表されるのがよい。R
1、R
2、R
3及びR
4基は互いに独立して選択され、好ましくはH、メチル、エチル又はフェニルによって、特に好ましくはH又はメチルによって、特に好ましくはHによって表されるのがよい。
【0025】
一般式(I)のaは1〜300、特に3〜200、特に好ましくは5〜150の整数によって表されるのがよく、一般式(II)のbは1〜300、好ましくは1〜50、特に好ましくは1〜10の整数によって表されるのがよい。長さがa及びbによってそれぞれ規定されるそれぞれの基は、ここでは均一の構成単位から構成されてよいが、異なる構成単位の混合物も好都合である。さらに、一般式(I)又は(II)の基は、互いに独立して、それぞれ同じ鎖長を有し、すなわち、a及びbがいずれも一つの数字で表されることができる。ただし、通例、異なる鎖長を有する混合物がいずれの場合も存在し、当該重縮合体の構造単位である基がa及びbについて独自に異なる数値を有する場合は好都合である。
【0026】
本発明によるリン酸塩含有重縮合体の平均分子量は多くの場合5.000〜200.000g/mol、好ましくは10.000〜100.000g/mol、特に好ましくは15.000〜55.000g/molである。
【0027】
リン酸塩含有重縮合体は、例えばナトリウム、カリウム、有機アンモニウム、アンモニウム及び/又はカルシウム塩、好ましくはナトリウム及び/又はカルシウム塩といった塩の形態でも存在することができる。
【0028】
典型的には、構造単位(I):(II)のモル比は、1:10〜10:1、好ましくは1:8〜1:1であるのがよい。ポリマーの陰電荷が比較的高ければ懸濁液の安定性に好影響を及ぼすため、重縮合体中で構造単位(II)の率が比較的高いのが有益である。
【0029】
本発明の好ましい実施形態において、重縮合体はさらに以下の式で表される構造単位(III)を含有する:
(III)
【化3】
式中、
Yは互いに独立して同一であるか異なり、(I)、(II)又は重縮合体の追加の成分によって表され、
R
5は同一であるか異なり、H、CH
3、COOH又は5〜10個の炭素原子を有する置換又は非置換の芳香族又はヘテロ芳香族化合物、好ましくはHによって表され、
R
6は同一であるか異なり、H、CH
3、COOH又は5〜10個の炭素原子を有する置換又は非置換の芳香族又はヘテロ芳香族化合物、好ましくはHによって表される。
【0030】
重縮合体は典型的には、(I)ポリエーテル側鎖(例えばポリ(エチレングリコール)モノフェニルエーテル)を有する芳香族又はヘテロ芳香族成分からなる1つ以上の構造単位及び(II)1つ以上のリン酸エステル基及び/又はリン酸エステル基の塩(例えばフェノキシエタノールリン酸エステル)を有する芳香族又はヘテロ芳香族成分からなる1つ以上の構造単位を、(IIIa)ケト基を有するモノマーと反応させる方法によって製造される。好ましくは、ケト基を有するモノマーは以下の一般式(IIIa)によって表されるのがよく、
(IIIa)
【化4】
式中、
R
7は同一であるか異なり、H、CH
3、COOH及び/又は5〜10個の炭素原子を有する置換又は非置換の芳香族又はヘテロ芳香族化合物、好ましくはHによって表され、
R
8同一であるか異なり、H、CH
3、COOH及び/又は5〜10個の炭素原子を有する置換又は非置換芳香族又はヘテロ芳香族化合物、好ましくはHによって表される。
【0031】
好ましくは、ケト基を有するモノマーはケトン類の群から選択され、好ましくはアルデヒド、最も好ましくはホルムアルデヒドであるのがよい。一般式(IIIa)による化学物質の例としては、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、アセトン、グリオキシル酸及び/又はベンズアルデヒドが挙げられる。ホルムアルデヒドが好ましい。
【0032】
典型的には、構造単位(III)のR
5及びR
6は、互いに独立して同一であるか異なり、H、COOH及び/又はメチルによって表される。最も好ましいのはHである。
【0033】
本発明の別の好ましい実施形態において、重縮合体における構造単位[(I)+(II)]:(III)のモル比は1:0.8〜3である。
【0034】
好ましくは、重縮合は酸性触媒の存在下で実施するのがよく、この酸性触媒は好ましくは硫酸、メタンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸又はその混合物であるのがよい。重縮合及びリン酸化は、温度20〜150℃、気圧1〜10バールで実施するのが有益である。特に、80〜130℃が好都合であることが証明されている。反応時間は、温度、使用するモノマーの化学的性状及び所望の架橋度によって0.1〜24時間とすることができる。縮合反応がオルト位又はパラ位で起こることがあるため、構造単位I及び/又はIIに一置換モノマーを使用する場合、架橋が起こるのが好ましい。例えば反応混合物の粘度の測定などによって判定することもできる所望の重縮合度に達したら、反応混合物を冷却する。
【0035】
縮合及びリン酸化反応が終了した後、pH8〜13及び温度60〜130℃で、反応混合物に熱後処理を施してもよい。有益には5分から5時間かけた熱後処理の結果、反応溶液中のアルデヒド含量、特にホルムアルデヒド含量を減少させることが実質的に可能である。あるいは、反応混合物に真空処理又は先行技術において既知のその他の方法を施して、(ホルム)アルデヒドの含量を減少させることができる。
【0036】
有効期限を引き延ばし、より優れた製品特性を得るためには、反応溶液を塩基性化合物で処理することが有益である。したがって、反応終了後、反応混合物を塩基性のナトリウム、カリウム、アンモニウム又はカルシウム化合物と反応させるのが好ましいと考えられている。水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム又は水酸化カルシウムはこの反応混合物を中和するのに好ましいとされていることから、ここでは特に好都合であることが証明されている。ただし、その他のアルカリ金属及びアルカリ土類金属塩及び有機アミンの塩も、リン酸塩含有重縮合体の塩として好適である。
【0037】
リン酸塩含有重縮合体の混合塩も、重縮合体を2つ以上の塩基性化合物と反応させることによって製造することができる。
【0038】
使用する触媒は分離除去することもできる。これは、中和中に塩を生成することによって行うのが簡便である。硫酸を触媒として使用し、反応溶液を水酸化カルシウムで処理する場合、生成された硫酸カルシウムは、例えば濾過という簡単な方法により分離除去することができる。さらに、反応溶液のpHを1.0〜4.0、特に1.5〜2.0に調節することにより、塩水溶液からリン酸塩含有重縮合体を相分離によって分離し、単離することができる。その後、所望量の水中のリン酸塩含有重縮合体を採取することができる。ただし、透析、限外濾過又はイオン交換体の使用といった当業者には既知のその他の方法も、触媒を分離除去するのに好適である。
【0039】
好ましい実施形態において、水硬性結合剤用の流動化剤として好適な水溶性櫛形ポリマーは、主鎖上にエーテル基及び酸基を有する側鎖を含有するコポリマーとして存在する。
【0040】
好ましい実施形態においては、水硬性結合剤用の流動化剤として好適な水溶性櫛形ポリマーを、酸モノマー、好ましくはカルボン酸モノマー及びポリエーテルマクロモノマーの存在下でフリーラジカル重合によって生成されるコポリマーとして存在させ、酸モノマー、好ましくはカルボン酸モノマー及びポリエーテルマクロモノマーが重合単位の形態で組み込まれることによって、合計してコポリマーのすべての構造単位の45mol%以上、好ましくは80mol%以上が生成されるようにする。酸モノマーは、フリーラジカル共重合が可能で、1つ以上の炭素二重結合を有し、1つ以上の酸基、好ましくはカルボン酸基を含有し、水性培地中で酸として反応するモノマーを意味するものとして理解される必要がある。さらに、酸モノマーは、フリーラジカル共重合が可能で、1つ以上の炭素二重結合を有し、加水分解反応の結果として水性培地中で1つ以上の酸基、好ましくはカルボン酸基を形成し、水性培地中で酸として反応するモノマーを意味するものとして理解される必要がある(例:無水マレイン酸又は(メタ)アクリル酸の加水分解性エステル)。
【0041】
本発明の範疇において、ポリエーテルマクロモノマーは、コポリマー中に存在する当該ポリエーテルマクロモノマー構造単位が2個以上のエーテル酸素原子、好ましくは4個以上のエーテル酸素原子、より好ましくは8個以上のエーテル酸素原子、最も好ましくは15個以上のエーテル酸素原子を含有する側鎖を有することを条件として、フリーラジカル共重合が可能で、1つ以上の炭素二重結合を有し、2個以上のエーテル酸素原子を有する化合物とする。
【0042】
酸モノマー又はポリエーテルマクロモノマーを構成しない構造単位は、例えばスチレン及びスチレン誘導体(例えばメチル基置換誘導体など)、酢酸ビニル、ビニルピロリドン、ブタジエン、プロピオン酸ビニル、例えばエチレン、プロピレン及び/又は(イソ)ブチレンなどの非飽和炭化水素であることができる。この一覧は完全に網羅されていない列記でしかない。好ましいのは、炭素二重結合が1つ以下であるモノマーである。
【0043】
本発明の好ましい実施形態において、水硬性結合剤用の流動化剤として好適な水溶性櫛形ポリマーは、スチレン−マレイン酸ハーフエステルと単官能ポリアルキレングリコールのハーフエステルとのコポリマーである。好ましくは、かかるコポリマーは、モノマーのスチレン及び無水マレイン酸(又はマレイン酸)を第一段階でフリーラジカル重合して製造することができるのがよい。第二段階で、ポリアルキレングリコール、好ましくはアルキルポリアルキレングリコール(好ましくはアルキルポリエチレングリコール、最も好ましくはメチルポリエチレングリコール)をスチレンと無水マレイン酸のコポリマーと反応させて、酸基のエステル化を実現する。スチレンの完全又は部分的な代用として、例えばメチル基置換誘導体などのスチレン誘導体を使用することができる。
【0044】
この好ましい実施形態のコポリマー類は、米国特許5,158,996号に記載があり、その開示内容は本特許明細に組み込まれている。
【0045】
構造単位は、重合単位の形態をとる酸モノマーの組み込みによってコポリマー中に生成され、その構造単位は一般式(Ia)、(Ib)、(Ic)及び/又は(Id)に基づくものである:
(Ia)
【化5】
式中、
R
1は同一であるか異なり、H及び/又は非分岐鎖又は分岐鎖C
1−C
4アルキル基によって表され、
Xは同一であるか異なり、式中n=1、2、3又は4であるNH−(C
nH
2n)及び/又は式中n=1、2、3又は4であるO−(C
nH
2n)及び/又は存在しない単位によって表され、
R
2は同一であるか異なり、Xが存在しない単位であってR
2がOHによって表されることを条件として、OH、SO
3H、PO
3H
2、O−PO
3H
2及び/又はパラ置換C
6H
4−SO
3Hによって表され、
(Ib)
【化6】
式中、
R
3は同一であるか異なり、H及び/又は非分岐鎖又は分岐鎖C
1−C
4アルキル基によって表され、
nは0、1、2、3又は4であり、
R
4は同一であるか異なり、SO
3H、PO
3H
2、O−PO
3H
2及び/又はパラ置換C
6H
4−SO
3Hによって表され、
(Ic)
【化7】
式中、
R
5は同一であるか異なり、H及び/又は非分岐鎖又は分岐鎖C
1−C
4アルキル基によって表され、
Zは同一であるか異なり、O及び/又はNHによって表される。
(Id)
【化8】
式中、
R
6は同一であるか異なり、H及び/又は非分岐鎖又は分岐鎖C
1−C
4アルキル基によって表され、
Qは同一であるか異なり、NH及び/又はOによって表され、
R
7は同一であるか異なり、H、式中n=0、1、2、3又は4、好ましくは1、2、3又は4である(C
nH
2n)−SO
3H、式中n=0、1、2、3又は4、好ましくは1、2、3又は4である(C
nH
2n)−OH;式中n=0、1、2、3又は4、好ましくは1、2、3又は4である(C
nH
2n)−PO
3H
2、式中n=0,1,2,3又は4、好ましくは1,2,3又は4である(C
nH
2n)−OPO
3H
2、(C
6H
4)−SO3H、(C
6H
4)−PO
3H
2、(C
6H
4)−OPO
3H
2及び/又は(C
mH
2m)
e−O−(A’O)
α−R
9[式中mは0、1、2、3又は4、好ましくは1、2、3又は4であり、eは0、1、2、3又は4、好ましくは1、2、3又は4であり、A’は式中x’が2、3、4又は5であるC
x’H
2x’及び/又はCH
2C(C
6H
5)H−であり、αは1〜350の整数であり、R
9は同一であるか異なり、非分岐鎖又は分岐鎖C
1−C
4アルキル基である]によって表される。
【0046】
典型的には、構造単位は、重合単位の形態をとるポリエーテルマクロモノマーの組み込みによってコポリマー中に生成され、その構造単位は一般式(IIa)、(IIb)及び/又は(IIc)に基づくものである:
(IIa)
【化9】
式中、
R
10、R
11及びR
12はそれぞれ同一であるか異なり、互いに独立して、H及び/又は非分岐鎖又は分岐鎖C
1−C
4アルキル基によって表され、
Eは同一であるか異なり、非分岐鎖又は分岐鎖C
1−C
6アルキレン基、好ましくはC
2−C
6アルキレン基、シクロヘキシレン基、CH
2−C
6H
10、オルト−、メタ−又はパラ置換C
6H
4及び/又は存在しない単位によって表され、
Gは同一であるか異なり、Eが存在しない単位であってGも存在しない単位として存在することを条件として、O、NH及び/又はCO−NHによって表され、
Aは同一であるか異なり、式中x=2、3、4及び/又は5(好ましくはx=2)であるC
xH
2x及び/又はCH
2CH(C
6H
5)によって表され、
nは同一であるか異なり、0、1、2、3、4及び/又は5によって表され、
aは同一であるか異なり、2〜350(好ましくは10〜200)の整数によって表され、
R
13は同一であるか異なり、H、非分岐鎖又は分岐鎖C
1−C
4アルキル基、CO−NH
2及び/又はCOCH
3によって表され、
(IIb)
【化10】
式中、
R
14は同一であるか異なり、H及び/又は非分岐鎖又は分岐鎖C
1−C
4アルキル基によって表され、
Eは同一であるか異なり、非分岐鎖又は分岐鎖C
1−C
6アルキレン基、好ましくはC
2−C
6アルキレン基、シクロヘキシレン基、CH
2−C
6H
10、オルト−、メタ−又はパラ置換C
6H
4及び/又は存在しない単位によって表され、
Gは同一であるか異なり、Eが存在しない単位であってGも存在しない単位として存在することを条件として、存在しない単位O、NH及び/又はCO−NHによって表され、
Aは同一であるか異なり、式中x=2、3、4及び/又は5であるC
xH
2x及び/又はCH
2CH(C
6H
5)によって表され、
nは同一であるか異なり、0、1、2、3、4及び/又は5によって表され、
aは同一であるか異なり、2〜350の整数によって表され、
Dは同一であるか異なり、Dが存在しない単位であり、bが0、1、2、3又は4であり、cが0、1、2、3又は4であって、b+cが3又は4であることを条件として、及びDがNH及び/又はOであり、bが0、1、2又は3であり、cが0、1、2又は3であって、b+cが2又は3であることを条件として、存在しない単位、NH及び/又はOによって表され、
R
15は同一であるか異なり、H、非分岐鎖又は分岐鎖C
1−C
4アルキル基、CO−NH
2及び/又はCOCH
3によって表され、
(IIc)
【化11】
式中、
R
16、R
17及びR
18はそれぞれ同一であるか異なり、互いに独立して、H及び/又は非分岐鎖又は分岐鎖C
1−C
4アルキル基によって表され、
Eは同一であるか異なり、非分岐鎖又は分岐鎖C
1−C
6アルキレン基、好ましくはC
2−C
6アルキレン基、シクロヘキシレン基、CH
2−C
6H
10、オルト−、メタ−又はパラ置換C
6H
4及び/又は存在しない単位によって表され、好ましくはEは存在しない単位であり、
Aは同一であるか異なり、式中x=2、3、4及び/又は5であるC
xH
2x及び/又はCH
2CH(C
6H
5)によって表され、
nは同一であるか異なり、0、1、2、3、4及び/又は5によって表され、
Lは同一であるか異なり、式中x=2、3、4及び/又は5であるC
xH
2x及び/又はCH
2CH(C
6H
5)によって表され、
aは同一であるか異なり、2〜350の整数によって表され、
dは同一であるか異なり、1〜350の整数によって表され、
R
19は同一であるか異なり、H及び/又は非分岐鎖又は分岐鎖C
1−C
4アルキル基によって表され、
R
20は同一であるか異なり、H及び/又は非分岐鎖C
1−C
4アルキル基によって表される。
【0047】
本発明のさらなる実施形態において、構造単位は、重合単位の形態をとるポリエーテルマクロモノマーの組み込みによってコポリマー中に生成され、その構造単位は一般式(IId)に基づくものである:
(IId)
【化12】
式中、
R
21、R
22及びR
23はそれぞれ同一であるか異なり、互いに独立して、H及び/又は非分岐鎖又は分岐鎖C
1−C
4アルキル基によって表され、
Aは同一であるか異なり、式中x=2、3、4及び/又は5であるC
xH
2x及び/又はCH
2CH(C
6H
5)によって表され、
aは同一であるか異なり、2〜350の整数によって表され、
R
24は同一であるか異なり、H及び/又は非分岐鎖又は分岐鎖C
1−C
4アルキル基、好ましくはC
1−C
4アルキル基によって表される。
【0048】
それぞれ好ましくは算術平均数4〜340のオキシアルキレン基を有するアルコキシル化イソプレノール及び/又はアルコキシル化ヒドロキシブチルビニルエーテル及び/又はアルコキシル化(メタ)アリルアルコール及び/又はビニル化メチルポリアルキレングリコールを、好ましくはポリエーテルマクロモノマーとして使用するのがよい。メタクリル酸、アクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、マレイン酸のモノエステル又はこれらの複数の成分の混合物を好ましくは酸モノマーとして使用するのがよい。
【0049】
通常、微細分散ケイ酸カルシウム水和物(C−S−H)を含有する懸濁液を入手する。この懸濁液は、水硬性結合剤の硬化過程を効率的に加速させる。
【0050】
水溶性カルシウム化合物は、しばしば塩化カルシウム、硝酸カルシウム、蟻酸カルシウム、酢酸カルシウム、重炭酸カルシウム、臭化カルシウム、炭酸カルシウム、クエン酸カルシウム、塩素酸カルシウム、フッ化カルシウム、グルコン酸カルシウム、水酸化カルシウム、次亜塩素酸カルシウム、ヨウ素酸カルシウム、ヨウ化カルシウム、乳酸カルシウム、亜硝酸カルシウム、シュウ酸カルシウム、リン酸カルシウム、プロピオン酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、ステアリン酸カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸カルシウム半水塩、硫酸カルシウム二水和物、硫化カルシウム、酒石酸カルシウム及び/又はアルミン酸カルシウム、ケイ酸三カルシウム及び/又はケイ酸二カルシウムとして存在する。
【0051】
水溶性カルシウム化合物は、好ましくは塩化カルシウム、硝酸カルシウム及び/又は蟻酸カルシウムとして存在するのがよい。
【0052】
水溶性ケイ酸塩化合物は、しばしばケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム、水ガラス、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸三カルシウム、ケイ酸二カルシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸、メタケイ酸ナトリウム及び/又はメタケイ酸カリウムとして存在する。
【0053】
水溶性ケイ酸塩化合物は、好ましくはメタケイ酸ナトリウム、メタケイ酸カリウム及び/又は水ガラスとして存在するのがよい。
【0054】
原則として、ケイ酸カルシウム(可溶性であることを条件とする)は、ケイ酸塩の供給源及びカルシウムの供給源の両方として使用することができる。ただし、多くの場合これは好ましくはない。通例、水溶性ケイ酸塩化合物及び水溶性カルシウム化合物としては、異なる種類のものを使用する。
【0055】
本発明の方法により製造した吹付け可能な水硬性結合剤組成物は、水硬性結合剤組成物における凝結及び/又は早期強度発現を向上させるだけでなく、セメント含量を減少させつつ、同等以上の早期強度発現を達成することができる。
【0056】
本発明の好ましい実施形態において、水硬性結合剤は、クリンカー、石膏、硫酸カルシウム、バサニ石(硫酸カルシウム半水塩)、無水
石膏(無水硫酸カルシウム)、石灰、潜在水硬性結合剤(フライアッシュ、高炉スラグ又はポゾランなど)及びその混合物、好ましくはポルトランドセメントであるのがよい。
【0057】
セメントは典型的にはコンクリート、モルタル、コンクリート石及び完成部品を作製するための粉末状水硬性結合剤として建築業界で使用される。
【0058】
ポルトランドセメントは、コンクリート、モルタル及び大半の一般グラウトの基本的な成分である。ポルトランドセメントの最もよくある使用方法は、コンクリートの製造である。コンクリートは主として骨材(砂利及び砂)、セメント及び水から構成される複合材料である。建築材料としてのコンクリートは、ほぼすべての所望の形状に打設することができ、一度硬化すると構造(耐荷重)要素となることができる。ポルトランドセメントは灰色又は白色である。
【0059】
好ましい実施形態において、骨材は、好ましくは粒度分布が0〜16mm、好ましくは0〜8mmの砂、有機及び/又は無機顆粒、砂利からなる群から選択される。
【0060】
好ましい実施形態において、凝結促進剤は主要成分として、硫酸塩、酸化状態+3のアルミニウム又はその混合物を含有する。
【0061】
米国特許5340385号は、いくつかの化学的凝結促進剤が知られていることを開示している。本発明に含まれ、包含されるのは、水酸化アルカリ類、ケイ酸塩、フルオロケイ酸塩、蟻酸カルシウム、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、硝酸カルシウム及び亜硝酸カルシウムである。また、セメントに対する凝結促進効果は、非晶質水酸化アルミニウムをアルカリ土類金属及び遷移金属類の水溶性硫酸塩、硝酸塩及び蟻酸塩と混合することによって高まる。
【0062】
好ましい実施形態において、凝結促進剤は、前記凝結促進剤の質量に対して硫酸塩を15〜40質量%及び/又は前記凝結促進剤の質量に対して酸化状態3のアルミニウムを3〜10質量%含有する。
【0063】
本発明の好ましい実施形態において、ケイ酸カルシウム水和物含有成分は、ケイ酸カルシウム水和物それ自体又は混合物を含有するケイ酸カルシウム水和物である。
【0064】
さらに好ましい実施形態において、ケイ酸カルシウム水和物はカルシウム/ケイ素(Ca/Si)のモル比0.5〜2.0、好ましくは0.7〜1.9、より好ましくは1.6〜1.8で使用される。
【0065】
さらに好ましい実施形態において、ケイ酸カルシウム水和物(C−S−H)含有成分は、懸濁液又は固体であり、好ましくは懸濁液である。
【0066】
好ましい実施形態において、水硬性結合剤は、300〜600kg/m
3、好ましくは380〜500kg/m
3、より好ましくは350〜450kg/m
3の分量で使用する。
【0067】
さらに好ましい実施形態において、ケイ酸カルシウム水和物(C−S−H)含有成分は、セメントプラント中の水硬性結合剤、生コンクリートプラント中の水硬性結合剤、コンクリートミキサー車、運搬ポンプ及び/又はスプレーノズルに、より好ましくはバッチ処理水に添加する。
【0068】
さらに好ましい実施形態において、ケイ酸カルシウム水和物(C−S−H)含有成分は、水溶性カルシウム化合物を水溶性ケイ酸塩化合物と反応させることによって入手可能であり、この水溶性カルシウム化合物と水溶性ケイ酸塩化合物との反応は、好ましくは1つ以上の水溶性ポリマー、好ましくは流動化剤又は高流動化剤、最も好ましくは櫛形ポリマーを、好ましくはEN934−2に基づき水硬性結合剤用の流動化剤として好適な分散剤として含有する水溶液の存在下で実施するのがよい。このほか凝結遅延剤、空気連行剤又はその組み合わせといったあらゆる種類の混合剤を含有することができる。
【0069】
本発明の範疇において、用語「櫛形ポリマー」は、線状の主鎖上に、多かれ少なかれ一定の間隔で、比較的側鎖の長いポリマー(それぞれ分子量が200g/mol以上、特に好ましくは400g/mol以上)を有するポリマーとして理解される必要がある。これらの側鎖の長さはほぼ同じであることが多いが、互いに大幅に異なっていてもよい(例えば、長さの異なる側鎖を有するポリエーテルマクロモノマーが、重合単位の形態で組み込まれる)。
【0070】
本発明のさらに好ましい実施形態は、ある方法で製造できる吹付け可能な水硬性結合剤含有組成物である。
【0071】
本発明はさらに、高流動化剤、好ましくはポリカルボキシレートエーテル及びより好ましくはその分散液を追加で包含する吹付け可能な水硬性結合剤含有組成物も包含する。
【0072】
流動化剤又は分散剤は、それらが添加される材料の可塑性又は流動性を高める添加剤であり、これらの材料にはプラスチック、セメント、コンクリート、壁板及び粘土素地が含まれる。コンクリート用流動化剤は、硬化する前の混合物を流動化させ、その加工性を高めて水を減少させ、通常は硬化した後の最終製品の特性に影響を及ぼすことを意図しない。また、コンクリート用高流動化剤は、ポリカルボキシレートエーテルポリマーを主成分とする複合混合剤及び/又はスルホン化メラミンホルムアルデヒド縮合物、スルホン化ナフタレンホルムアルデヒド縮合物又はアクリルポリマー類である。これはスランプ保持能力に対し有益な効果を有する。特に、高耐久性コンクリート、自己充填コンクリート、高加工性−保持性コンクリート及び良好な外観特性を有するコンクリートに適合する。
【0073】
最後に、本発明は、吹付けコンクリート又は吹付けモルタルを用いた基質のコーティングに本組成物を使用する方法を包含する。
【0074】
支柱の下(頭上)にコーティング剤を吹き付けることで、その耐荷重能力は高まる。コーティング剤は、風化作用(トンネル又は採掘坑の中で剥き出しの岩表面が空気に曝露されることによる腐食)を抑えて予防し、ウラン採掘坑ではラドンガスの放出を抑制し、例えば採石場では盛土を固定し、トンネルなどの屋根を固定するためにも応用することができる。
【0075】
本発明によれば、用語「コンクリート」及び「モルタル」、それぞれ「吹付けコンクリート」及び「吹付けモルタル」は、その他のセメント系材料も包含することができる。例えば、採掘用のセメントを主成分とするグラウト及びコンクリートの防火用セメント系モルタルなどが挙げられる。
【0076】
本発明を以下の実施例をもとに、より詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【
図1】ケイ酸カルシウム水和物(C−S−H)とアルカリフリー(Na
2O
eq<1質量%)凝結促進剤の組み合わせの早期水和動態に対する影響を示す。
【
図2】ケイ酸カルシウム水和物(C−S−H)とアルカリに富む(EN480−12に基づきNa
2O
eq>1.0質量%)凝結促進剤の組み合わせの早期水和動態に対する影響を示す。
【
図3】ポルトランドセメントタイプIの早期強度発現に対する本発明による組み合わせの影響を示す。
【
図4】ポルトランドセメントタイプIIの早期強度発現に対する本発明による組み合わせの影響を示す。
【
図5】なる量のケイ酸カルシウム水和物(C−S−H)を用いた場合の、ポルトランドセメントタイプIIの早期強度発現に対する本発明による組み合わせの影響を示す。
【
図6】異なる温度におけるポルトランドセメントタイプIIの早期強度発現に対する本発明による組み合わせの影響を示す。
【0078】
以下の実施例は本発明について説明するものである。
【0079】
実施例1:
ケイ酸カルシウム水和物(C−S−H)とアルカリフリー(Na
2O
eq<1質量%)凝結促進剤の組み合わせの早期水和動態に対する影響(
図1)
本実施例は、ケイ酸カルシウム水和物(C−S−H)と凝結促進剤(アルカリフリー、EN480−12に基づきNa
2O
eq<1.0質量%)からなる本発明による組み合わせが、ポルトランドセメントペーストの早期水和動態に与える作用を示す。
【0080】
水和動態を測定するため、セメント約2gをガラス製アンプルに秤量して取り、水又は混合剤と水の溶液(必要な場合は混合剤をあらかじめ水に溶解した)と混合した直後に密封し、その後、等温熱量計TAM Airに入れた。測定は20℃で実施した。
【0081】
前記セメントペースト混合物の組成は以下の通りである:
【表1】
【0082】
アルカリフリー凝結促進剤1及び2はいずれも硫酸アルミニウムを主成分とする。
【0083】
結果を
図1に示す。ラインは等温熱量測定データであり、記号は個々のデータセットを示す。ケイ酸カルシウム水和物(C−S−H)の添加により、第二(C
3Sの水和)のピークに著明な促進作用がみられ(最大速度が増加し、ピーク速度への到達時間が減少した)、凝結促進剤の添加により、第一(溶解)のピークに著明な促進作用がみられる。両剤の組み合わせは、両水和ピークの促進を示している。
【0084】
実施例2:
ケイ酸カルシウム水和物(C−S−H)とアルカリに富む(EN480−12に基づきNa
2O
eq>1.0質量%)凝結促進剤の組み合わせの早期水和動態に対する影響(
図2)
本実施例は、ケイ酸カルシウム水和物(C−S−H)とアルカリに富む(EN480−12に基づきNa
2O>1.0質量%)凝結促進剤からなる本発明による組み合わせが、ポルトランドセメントペーストの早期水和動態に与える作用を示す。実施例1に記載の通り、セメントペーストを調製し、水和動態を測定する。
【0085】
前記セメントペースト混合物の組成は以下の通りである:
【表2】
【0086】
凝結促進剤3
凝結促進剤3はケイ酸ナトリウムを主成分とし、凝結促進剤4はアルミン酸ナトリウムを主成分とする。
【0087】
結果を
図2に示す。ラインは等温熱量測定データであり、記号は個々のデータセットを示す。実施例1と同じく、ケイ酸カルシウム水和物(C−S−H)の添加により、第二(C3Sの水和)のピークに著明な促進作用がみられ(最大速度が増加し、ピーク速度への到達時間が減少した)、凝結促進剤の添加により、第一(溶解)のピークに著明な促進作用がみられる。両剤の組み合わせは、両水和ピークの促進を示している。
【0088】
実施例3:
ポルトランドセメントタイプIの早期強度発現に対する本発明による組み合わせの影響(
図3)
実施例3では、ポルトランドセメントタイプIの早期強度発現に対するアルカリフリー凝結促進剤の作用を、本発明による組み合わせ(ケイ酸カルシウム水和物(C−S−H)+凝結促進剤)の作用と比較する。試験用の混合物として、欧州規格EN196−1に従って製造されたモルタルを選択した。前記混合物の組成は以下の通りである:
【表3】
【0089】
混合物の粘稠度の連続的かつ段階的な上昇を測定し記録するLBG社製硬度計を用いて、モルタル試料を検査した。
【0090】
ケイ酸カルシウム水和物(C−S−H)と凝結促進剤の組み合わせが早期強度発現に好影響を及ぼすことは明白であり、
図3で認められる。ケイ酸カルシウム水和物(C−S−H)の添加により、ポルトランドセメントタイプIに対する従来の凝結促進剤の性能は1〜6時間で2倍に上昇し、凝結促進剤の使用量はセメント質量に対して2%減少する。
【0091】
実施例4:
ポルトランドセメントタイプIIの早期強度発現に対する本発明による組み合わせの影響(
図4)
実施例4では、ポルトランドセメントタイプIIの早期強度発現に対するアルカリフリー凝結促進剤の作用を、本発明による組み合わせ(ケイ酸カルシウム水和物(C−S−H)+凝結促進剤)の作用と比較する。実施例3に記載の通り、モルタル混合物を調製し、検査を実施する。前記混合物の組成は以下の通りである:
【表4】
【0092】
本発明による組み合わせがポルトランドセメントタイプIIの早期強度発現に及ぼす好影響は明白であり、
図4に示す。ケイ酸カルシウム水和物(C−S−H)の添加により、従来の凝結促進剤の性能は1〜6時間で1.5倍に上昇し、凝結促進剤の使用量はセメント質量に対して2%減少する。
【0093】
実施例5:
異なる量のケイ酸カルシウム水和物(C−S−H)を用いた場合の、ポルトランドセメントタイプIIの早期強度発現に対する本発明による組み合わせの影響(
図5)
実施例5では、異なる量のケイ酸カルシウム水和物(C−S−H)を用いた場合の、ポルトランドセメントタイプIの早期強度発現に対する本発明による組み合わせの作用を示す。実施例3に記載の通り、モルタル混合物を調製し、検査を実施する。前記混合物の組成は以下の通りである:
【表5】
【0094】
ケイ酸カルシウム水和物(C−S−H)成分の量を増加させることによる早期強度の比例的改善を
図5に示す。
【0095】
実施例6:
異なる温度におけるポルトランドセメントタイプIIの早期強度発現に対する本発明による組み合わせの影響(
図6)
実施例6では、異なる温度におけるポルトランドセメントタイプIIの早期強度発現に対する本発明による組み合わせの作用を示す。実施例3に記載の通り、モルタル混合物を調製し、検査を実施する。前記混合物の組成は以下の通りである:
【表6】
【0096】
実験中の温度
図6に示す通り、促進剤を添加したモルタルにケイ酸カルシウム水和物(C−S−H)を添加することで、水和開始から数時間の低温における強度発現の低下を補うことができる。10℃でケイ酸カルシウム水和物(C−S−H)と凝結促進剤の組み合わせを用いた場合と、20℃で凝結促進剤を単独で用いた場合の、最初の2時間における強度発現は同等である。
【0097】
実施例7:
粉末又は懸濁液の形態をとるケイ酸カルシウム水和物(C−S−H)成分を添加した場合の、ポルトランドセメントタイプIIの凝結及び圧縮強度に対する本発明による組み合わせの作用(表7b)
実施例7では、ポルトランドセメントタイプIの凝結時間及び圧縮強度に対する本発明による組み合わせの作用を、ケイ酸カルシウム水和物(C−S−H)を粉末として添加した場合と、ケイ酸カルシウム水和物(C−S−H)を懸濁液として添加した場合で比較する。モルタル混合物を調製し、EN196 1−3に従って試験する。前記混合物の組成は以下の通りである:
【表7】
【0098】
ケイ酸カルシウム水和物(C−S−H)粉末の添加は、懸濁液の形態をとるケイ酸カルシウム水和物(C−S−H)の添加と同程度に、凝結促進剤の性能を向上させることを示し、これを表7bに示す。
【表8】
【0099】
実施例8:
異なる量のケイ酸カルシウム水和物(C−S−H)を用いた場合の、吹付けコンクリートの早期圧縮強度発現に対する本発明による組み合わせの影響(表8b)
本発明によるケイ酸カルシウム水和物(C−S−H)と凝結促進剤の組み合わせ及びEFNARC1999年吹付けコンクリート欧州規格に基づく圧縮強度発現に関する比較例を用いて、吹付けコンクリート試験を実施した。前記コンクリート混合物の組成は以下の通りである:
【表9】
【0100】
本発明の組み合わせを用いた吹付けコンクリート試験の結果より、表8bで認められる通り、早期強度発現に著しい改善がみられる。
【表10】