(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の積層ポリエステルフィルムの基材フィルムは、ポリエステルからなるものである。かかるポリエステルとは、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、1,4−シクロヘキシルジカルボン酸のようなジカルボン酸またはそのエステルとエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノールのようなグリコールとを溶融重縮合させて製造されるポリエステルである。これらの酸成分とグリコール成分とからなるポリエステルは、通常行われている方法を任意に使用して製造することができる。
【0014】
例えば、芳香族ジカルボン酸の低級アルキルエステルとグリコールとの間でエステル交換反応をさせるか、あるいは芳香族ジカルボン酸とグリコールとを直接エステル化させるかして、実質的に芳香族ジカルボン酸のビスグリコールエステル、またはその低重合体を形成させ、次いでこれを減圧下、加熱して重縮合させる方法が採用される。その目的に応じ、脂肪族ジカルボン酸を共重合しても構わない。
【0015】
本発明のポリエステルとしては、代表的には、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレン−2,6−ナフタレート、ポリ−1,4−シクロヘキサンジメチレンテレフタレート等が挙げられるが、その他に上記の酸成分やグリコール成分を共重合したポリエステルであってもよく、必要に応じて他の成分や添加剤を含有していてもよい。
【0016】
ポリエステルの重合触媒としては、特に制限はなく、従来公知の化合物を使用することができ、例えば、アンチモン化合物、チタン化合物、ゲルマニウム化合物、マンガン化合物、アルミニウム化合物、マグネシウム化合物、カルシウム化合物等が挙げられる。
【0017】
本発明におけるポリエステルフィルムは、単層構成であっても多層構成であっても良い。多層構成の場合は、表層と内層、あるいは両表層や各層を目的に応じ異なるポリエステルとすることができる。
【0018】
本発明においては、熱処理後のエステル環状三量体の析出量を抑えるために、エステル環状三量体の含有量が少ないポリエステルを原料としてフィルムを製造することが挙げられる。エステル環状三量体の含有量が少ないポリエステルの製造方法としては、種々公知の方法を用いることができ、例えば、ポリエステル製造後に固相重合する方法等が挙げられる。
【0019】
ポリエステルフィルムを3層以上の構成とし、ポリエステルフィルムの最外ポリエステル層にエステル環状三量体の含有量が少ないポリエステル原料を用いた層を設計することで、熱処理後のエステル環状三量体の析出量を抑える方法も可能である。
【0020】
本発明におけるポリエステルフィルムには、フィルムの走行性を確保したり、キズが入ることを防いだりする等の目的で粒子を含有させることができる。このような粒子としては、例えば、シリカ、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、リン酸カルシウム、カオリン、タルク、酸化アルミニウム、酸化チタン、アルミナ、硫酸バリウム、フッ化カルシウム、フッ化リチウム、ゼオライト、硫化モリブデン等の無機粒子、架橋高分子粒子、シュウ酸カルシウム等の有機粒子、さらに、ポリエステル製造工程中、触媒等の金属化合物の一部を沈殿、微分散させた析出粒子を用いることもできる。
【0021】
一方、使用する粒子の形状に関しても特に限定されるわけではなく、球状、塊状、棒状、扁平状等のいずれを用いてもよい。また、その硬度、比重、色等についても特に制限はない。これら一連の粒子は、必要に応じて2種類以上を併用してもよい。
【0022】
用いる粒子の粒径や含有量はフィルムの用途や目的に応じて選択されるが、平均粒径(d50)に関しては、通常3μm以下、好ましくは0.02μm〜2.8μm、さらに好ましくは0.03μm〜2.5μmの範囲である。平均粒径が3μmを超えるとフィルムの表面粗度が粗くなりすぎたり、粒子がフィルム表面から脱落しやすくなったりする。
【0023】
粒子含有量については、粒子を含有するポリエステル層に対し、通常3重量%以下、好ましくは0.0003〜1.0重量%、より好ましくは0.0005〜0.5重量%の範囲である。粒子が無い場合、あるいは少ない場合は、フィルムの透明性が高くなり、良好なフィルムとなるが、易滑性が不十分となる場合があるため、塗布層中に粒子を入れることにより、易滑性を向上させる等の工夫が必要な場合がある。また、粒子含有量が3重量%を超えて添加する場合にはフィルムの透明性が不十分な場合がある。
【0024】
ポリエステル層中に粒子を添加する方法としては、特に限定されるものではなく、従来公知の方法を採用しうる。例えば、各層を構成するポリエステルを製造する任意の段階において添加することができるが、好ましくはエステル化もしくはエステル交換反応終了後、添加するのが良い。
【0025】
なお、本発明におけるポリエステルフィルム中には、上述の粒子以外に必要に応じて従来公知の酸化防止剤、熱安定性剤、潤滑剤、染料、顔料等を添加することができる。
【0026】
本発明におけるポリエステルフィルムの厚みは、フィルムとして製膜可能な範囲であれば特に限定されるものではないが、通常10〜300μm、好ましくは20〜250μmの範囲である。
【0027】
なお、本発明で得られる積層ポリエステルフィルムのヘーズは10%以下であることが好ましい。より好ましくは5%以下、さらに好ましくは3%以下である。この範囲より大きいと、光学フィルム用途においては、外観上使用しがたくなる場合がある。
【0028】
本発明のフィルムの製膜方法としては、通常知られている製膜法を採用でき、特に制限はない。例えば、まず溶融押出によって得られたシートを、ロール延伸法により、70〜145℃で2〜6倍に延伸して、一軸延伸ポリエステルフィルムを得、次いで、テンター内で先の延伸方向とは直角方向に80〜160℃で2〜6倍に延伸し、さらに、150〜250℃で1〜600秒間熱処理を行うことでフィルムが得られる。さらにこの際、熱処理のゾーンおよび/または熱処理出口のクーリングゾーンにおいて、縦方向および/または横方向に20%以内の弛緩を行う方法が好ましい。
【0029】
本発明のフィルムの塗布層は、製膜したフィルムに後から塗布層を設ける、いわゆるオフラインコーティングと、フィルムの製膜中に塗布層を設ける、いわゆるインラインコーティングのいずれでも設けることができる。好ましくはインラインコーティング、特に塗布後に延伸を行う塗布延伸法により設けられることが好ましい。
【0030】
インラインコーティングは、ポリエステルフィルム製造の工程内でコーティングを行う方法であり、具体的には、ポリエステルを溶融押出ししてから延伸後熱固定して巻き上げるまでの任意の段階でコーティングを行う方法である。通常は、溶融・急冷して得られる実質的に非晶状態の未延伸シート、延伸された一軸延伸フィルム、熱固定前の二軸延伸フィルム、熱固定後で巻上前のフィルムの何れかにコーティングする。以下に限定するものではないが、例えば逐次二軸延伸においては、特に長手方向(縦方向)に延伸された一軸延伸フィルムにコーティングした後に横方向に延伸する方法が優れている。かかる方法によれば、製膜と塗布層塗設を同時に行うことができるため製造コスト上のメリットがあり、コーティング後に延伸を行うために、薄膜で均一なコーティングとなるために塗布層の特性が安定する。また、二軸延伸される前のポリエステルフィルム上を、まず塗布層を構成する樹脂層で被覆し、その後フィルムと塗布層を同時に延伸することで、基材フィルムと塗布層が強固に密着することになる。また、ポリエステルフィルムの二軸延伸は、テンタークリップ等によりフィルム端部を把持しつつ横方向に延伸することで、フィルムが長手/横手方向に拘束されており、熱固定において、しわ等が入らず平面性を維持したまま高温をかけることができる。それゆえ、コーティング後に施される熱処理が他の方法では達成されない高温とすることができるために、塗布層の造膜性が向上し、また塗布層とポリエステルフィルムが強固に密着する。塗布層を設けたポリエステルフィルムとして、塗布層の均一性、造膜性の向上および塗布層とフィルムの密着は好ましい特性を生む場合が多い。
【0031】
塗布延伸法の場合、用いる塗布液は、取扱い上、作業環境上、安全上の理由から水溶液または水分散液であることが望ましいが、水を主たる媒体としており、本発明の要旨を越えない範囲であれば、有機溶剤を含有していてもよい。
【0032】
本発明の塗布層は、多価アルデヒド系化合物およびポリビニルアルコールを含有する塗布液から形成された塗布層を有することを必須の要件とするものである。なお、塗布液中には、その他の成分を含有していても構わない。
【0033】
本発明における多価アルデヒド系化合物とは、1分子内に2つ以上のアルデヒド基、またはアルデヒド基から誘導される官能基を有する化合物のことであり、例えば、グリオキサール、グルタルアルデヒド、テレフタルアルデヒド、シクロヘキサンジアルデヒド、トリシクロデカンジアルデヒド、ノルボルナンジアルデヒド、スベルアルデヒド等の多価アルデヒド化合物や、それらのアルデヒド基が反応して(保護されて)アセタール化した化合物、チオアセタール化した化合物、シリルエーテル化した化合物、イミン、イミニウム塩やエナミン等の窒素化した化合物等が挙げられる。
【0034】
多価アルデヒド系化合物は不安定な場合があり、アルデヒド基を反応させた(保護した)形態で用いることが好ましい。コーティングする場合における安定性や反応性を考慮して、水酸基含有化合物と反応させた形態、特に多価アルコール化合物が好ましく、その中でもアルデヒド基と反応したときに環状構造を形成するタイプがより好ましい。
【0035】
多価アルコール化合物としては、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、グリセリン等の多価アルコール類、グルコースやガラクトース等の糖類等が挙げられ、その中でも塗布性を考慮すると糖類が好ましい。
【0036】
また多価アルデヒド系化合物としては、塗布層の強度や塗布外観を考慮すると、脂肪族多価アルデヒド化合物、またはその誘導体が好ましく、その中でも特に分子量のわりにアルデヒド官能基量が多くなるグリオキサールがより好ましい。
【0037】
すなわち、本発明において最も好ましい多価アルデヒド系化合物の形態は、グリオキサールに多価アルコール化合物を反応させたタイプであり、その中でも特に、グリオキサールに糖類を反応させた化合物である。
【0038】
本発明のフィルムの塗布層の形成には、加熱によるフィルム表面へのエステル環状三量体の析出防止を目的として、ポリビニルアルコールを使用する。ポリビニルアルコールとしては、ポリビニルアルコールに対し、部分的にアセタール化やブラチラール化等された編成化合物も含め、従来公知のポリビニルアルコールを使用することができる。ポリビニルアルコールの重合度は特に限定されるものではないが、通常100以上、好ましくは300〜40000の範囲である。重合度が100未満の場合、塗布層の耐水性が低下する場合がある。また、ポリビニルアルコールのケン化度は特に限定されるものではないが、通常70モル%以上、好ましくは70〜99.9モル%の範囲、より好ましくは80〜95モル%であるポリ酢酸ビニルケン化物が実用上用いられる。
【0039】
また、本発明のフィルムの塗布層の形成には、塗布外観の向上、塗布層中に種々の表面機能層が形成されたときの密着性の向上等のためにポリマーを使用することも可能である。
【0040】
ポリマーの具体例としては、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、導電性ポリマー、ポリアルキレングリコール、ポリアルキレンイミン、メチルセルロース、ヒロキシセルロース、でんぷん類等が挙げられる。これらの中でも、エステル環状三量体の析出防止の観点から4級アンモニウム塩含有のアクリル樹脂が好ましい。また、種々の表面機能層との密着性向上の観点からは、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂を使用することが好ましい。
【0041】
また、本発明のフィルムの塗布層の形成には、塗布層の耐久性や塗布性向上を目的として、架橋剤を使用することも可能である。架橋剤としては、種々公知の架橋剤が使用できるが、例えば、メラミン化合物、オキサゾリン化合物、エポキシ化合物、イソシアネート系化合物、カルボジイミド系化合物、シランカップリング化合物等が挙げられる。これらの中でも特に塗布層上に形成されうる種々の表面機能層との耐久密着性が向上するという観点から、オキサゾリン化合物、エポキシ化合物、イソシアネート系化合物、カルボジイミド系化合物が好適に用いられ、また、エステル環状三量体の析出防止の観点からメラミン化合物が好適に用いられる。
【0042】
オキサゾリン化合物とは、分子内にオキサゾリン基を有する化合物であり、特にオキサゾリン基を含有する重合体が好ましく、付加重合性オキサゾリン基含有モノマー単独もしくは他のモノマーとの重合によって作成できる。付加重合性オキサゾリン基含有モノマーは、2−ビニル−2−オキサゾリン、2−ビニル−4−メチル−2−オキサゾリン、2−ビニル−5−メチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−4−メチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−5−エチル−2−オキサゾリン等を挙げることができ、これらの1種または2種以上の混合物を使用することができる。これらの中でも2−イソプロペニル−2−オキサゾリンが工業的にも入手しやすく好適である。他のモノマーは、付加重合性オキサゾリン基含有モノマーと共重合可能なモノマーであれば制限なく、例えばアルキル(メタ)アクリレート(アルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、2−エチルヘキシル基、シクロヘキシル基)等の(メタ)アクリル酸エステル類;アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマール酸、クロトン酸、スチレンスルホン酸およびその塩(ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩、第三級アミン塩等)等の不飽和カルボン酸類;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等の不飽和ニトリル類;(メタ)アクリルアミド、N−アルキル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジアルキル(メタ)アクリルアミド、(アルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、2−エチルヘキシル基、シクロヘキシル基等)等の不飽和アミド類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル類;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル等のビニルエーテル類;エチレン、プロピレン等のα−オレフィン類;塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル等の含ハロゲンα,β−不飽和モノマー類;スチレン、α−メチルスチレン、等のα,β−不飽和芳香族モノマー等を挙げることができ、これらの1種または2種以上のモノマーを使用することができる。
【0043】
本発明における積層ポリエステルフィルムを構成する塗布層中に含有されるオキサゾリン化合物のオキサゾリン基量は、通常0.5〜10mmol/g、好ましくは3〜9mmol/g、より好ましくは5〜8mmol/gの範囲である。この範囲から外れた場合得られる塗膜の耐久性に劣る可能性がある。
【0044】
エポキシ化合物とは、分子内にエポキシ基を有する化合物であり、例えば、エピクロロヒドリンとエチレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリン、ポリグリセリン、ビスフェノールA等の水酸基やアミノ基との縮合物が挙げられ、ポリエポキシ化合物、ジエポキシ化合物、モノエポキシ化合物、グリシジルアミン化合物等がある。ポリエポキシ化合物としては、例えば、ソルビトールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、トリグリシジルトリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアネート、グリセロールポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、ジエポキシ化合物としては、例えば、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、レゾルシンジグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリテトラメチレングリコールジグリシジルエーテル、モノエポキシ化合物としては、例えば、アリルグリシジルエーテル、2−エチルヘキシルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、グリシジルアミン化合物としてはN,N,N’,N’−テトラグリシジル−m−キシリレンジアミン、1,3−ビス(N,N−ジグリシジルアミノ)シクロヘキサン等が挙げられる。
【0045】
イソシアネート系化合物とは、イソシアネート、あるいはブロックイソシアネートに代表されるイソシアネート誘導体構造を有する化合物のことである。イソシアネートとしては、例えば、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、メチレンジフェニルジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート等の芳香族イソシアネート、α,α,α’,α’−テトラメチルキシリレンジイソシアネート等の芳香環を有する脂肪族イソシアネート、メチレンジイソシアネート、プロピレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族イソシアネート、シクロヘキサンジイソシアネート、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、メチレンビス(4−シクロヘキシルイソシアネート)、イソプロピリデンジシクロヘキシルジイソシアネート等の脂環族イソシアネート等が例示される。また、これらイソシアネートのビュレット化物、イソシアヌレート化物、ウレトジオン化物、カルボジイミド変性体等の重合体や誘導体も挙げられる。これらは単独で用いても、複数種併用してもよい。上記イソシアネートの中でも、紫外線による黄変を避けるために、芳香族イソシアネートよりも脂肪族イソシアネートまたは脂環族イソシアネートがより好ましい。
【0046】
ブロックイソシアネートの状態で使用する場合、そのブロック剤としては、例えば重亜硫酸塩類、フェノール、クレゾール、エチルフェノールなどのフェノール系化合物、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコール、ベンジルアルコール、メタノール、エタノールなどのアルコール系化合物、イソブタノイル酢酸メチル、マロン酸ジメチル、マロン酸ジエチル、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、アセチルアセトンなどの活性メチレン系化合物、ブチルメルカプタン、ドデシルメルカプタンなどのメルカプタン系化合物、ε‐カプロラクタム、δ‐バレロラクタムなどのラクタム系化合物、ジフェニルアニリン、アニリン、エチレンイミンなどのアミン系化合物、アセトアニリド、酢酸アミドの酸アミド化合物、ホルムアルデヒド、アセトアルドオキシム、アセトンオキシム、メチルエチルケトンオキシム、シクロヘキサノンオキシムなどのオキシム系化合物が挙げられ、これらは単独でも2種以上の併用であってもよい。
【0047】
また、本発明におけるイソシアネート系化合物は単体で用いてもよいし、各種ポリマーとの混合物や結合物として用いてもよい。イソシアネート系化合物の分散性や架橋性を向上させるという意味において、ポリエステル樹脂やウレタン樹脂との混合物や結合物を使用することが好ましい。
【0048】
カルボジイミド系化合物とは、カルボジイミド構造を有する化合物のことであり、分子内にカルボジイミド構造を1つ以上有する化合物であるが、より良好な密着性等のために、分子内に2つ以上有するポリカルボジイミド系化合物がより好ましい。
【0049】
カルボジイミド系化合物は従来公知の技術で合成することができ、一般的には、ジイソシアネート化合物の縮合反応が用いられる。ジイソシアネート化合物としては、特に限定されるものではなく、芳香族系、脂肪族系いずれも使用することができ、具体的には、トリレンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、シクロヘキサンジイソシアネート、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネートなどが挙げられる。
【0050】
さらに本発明の効果を消失させない範囲において、ポリカルボジイミド系化合物の水溶性や水分散性を向上するために、界面活性剤を添加することや、ポリアルキレンオキシド、ジアルキルアミノアルコールの四級アンモニウム塩、ヒドロキシアルキルスルホン酸塩などの親水性モノマーを添加して用いてもよい。
【0051】
メラミン化合物とは、化合物中にメラミン構造を有する化合物のことであり、例えば、アルキロール化メラミン誘導体、アルキロール化メラミン誘導体にアルコールを反応させて部分的あるいは完全にエーテル化した化合物、およびこれらの混合物を用いることができる。エーテル化に用いるアルコールとしては、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブタノール、イソブタノール等が好適に用いられる。また、メラミン化合物としては、単量体、あるいは2量体以上の多量体のいずれであってもよく、あるいはこれらの混合物を用いてもよい。さらに、メラミンの一部に尿素等を共縮合したものも使用できるし、メラミン化合物の反応性を上げるために触媒を使用することも可能である。
【0052】
なお、これら架橋剤は、乾燥過程や、製膜過程において、反応させて塗布層の性能を向上させる設計で用いている。できあがった塗布層中には、これら架橋剤の未反応物、反応後の化合物、あるいはそれらの混合物が存在しているものと推測できる。
【0053】
かかる架橋成分を含有する場合、同時に架橋を促進するための成分、例えば架橋触媒などを併用することができる。
【0054】
また、塗布層の形成にはブロッキング、滑り性改良を目的として粒子を併用することも可能である。その平均粒径はフィルムの透明性の観点から好ましくは1.0μm以下、さらに好ましくは0.5μm以下、特に好ましくは0.2μm以下の範囲である。また、下限は滑り性をより効果的に向上させるために、好ましくは0.01μm以上、より好ましくは0.03μm以上、特に好ましくは塗布層の膜厚よりも大きい範囲である。粒子の具体例としてはシリカ、アルミナ、カオリン、炭酸カルシウム、有機粒子等が挙げられる。
その中でも透明性の観点からシリカが好ましい。
【0055】
さらに本発明の主旨を損なわない範囲において、塗布層の形成には必要に応じて消泡剤、塗布性改良剤、増粘剤、有機系潤滑剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、発泡剤、染料、顔料等を併用することも可能である。
【0056】
本発明における積層ポリエステルフィルムを構成する塗布層を形成する塗布液中の全不揮発成分に対する割合として、多価アルデヒド系化合物の割合は、通常0.01〜50重量%の範囲、好ましくは1〜40重量%の範囲、より好ましくは3〜30%の範囲である。割合が上記範囲を外れる場合、加熱後のエステル環状三量体の析出を効果的に抑えることができない場合や塗布外観が悪化する場合がある。
【0057】
本発明における積層ポリエステルフィルムを構成する塗布層を形成する塗布液中の全不揮発成分に対する割合として、ポリビニルアルコールの割合は、通常1〜99重量%の範囲、好ましくは5〜70重量%の範囲、より好ましくは10〜60重量%の範囲である。割合が上記範囲を外れる場合、加熱後のエステル環状三量体の析出を効果的に抑えることができない場合や塗布外観が悪化する場合がある。
【0058】
本発明における積層ポリエステルフィルムを構成する塗布層を形成する塗布液中の全不揮発成分に対する割合として、架橋剤の割合は、通常80重量%以下、好ましくは5〜70重量%の範囲、より好ましくは10〜60%の範囲である。割合が上記範囲を外れる場合、加熱後のエステル環状三量体の析出を効果的に抑えることができない場合や塗膜の耐久性に劣る場合がある。
【0059】
また、塗布層の厚さは、最終的に得られるフィルム上の塗布層の厚さとして、通常0.003μm〜1μmの範囲であり、好ましくは0.005μm〜0.5μm、さらに好ましくは0.01μm〜0.2μmの範囲である。厚さがこれより薄い場合には、フィルムから析出するオリゴマー量が十分に少なくならないことがある。またこれより厚い場合には、塗布層の外観の悪化や、ブロッキングしやすくなるなどの問題が生じることがある。
【0060】
ポリエステルフィルムに塗布液を塗布する方法としては、例えば、エアドクターコート、ブレードコート、ロッドコート、バーコート、ナイフコート、スクイズコート、含浸コート、リバースロールコート、トランスファロールコート、グラビアコート、キスロールコート、キャストコート、スプレイコート、カーテンコート、カレンダコート、押出コート等従来公知の塗布方法を用いることができる。
【0061】
塗布剤のフィルムへの塗布性、接着性を改良するため、塗布前にフィルムに化学処理やコロナ放電処理、プラズマ処理等を施してもよい。
【0062】
本発明における積層ポリエステルフィルムに関して、例えば、タッチパネル用等、長時間、高温雰囲気下にさらされた後であっても、高度な透明性が要求される場合がある。かかる観点より、高度な透明性に対応するためには、熱処理(150℃、90分間)におけるフィルムヘーズ変化量(ΔH)は、好ましくは1%以下、より好ましくは0.7%以下、さらに好ましくは0.5%以下である。ΔHが1%を超える場合には、エステル環状三量体の析出によるフィルムヘーズ上昇に伴い、視認性が低下し、例えば、タッチパネル用等、高度な視認性が必要とされる用途に不適当となる場合がある。
【0063】
また、エステル環状三量体の析出量の観点では、本発明における積層ポリエステルフィルムを熱処理(150℃、90分間)により、フィルム表面からジメチルホルムアミドにより抽出されるエステル環状三量体量は、好ましくは2mg/m
2以下であり、より好ましくは1mg/m
2以下、さらに好ましくは0.5mg/m
2以下である。2mg/m
2を超える場合、後工程において、例えば、150℃、90分間等、高温雰囲気下で長時間の加熱処理に伴い、エステル環状三量体の析出量が多くなり、フィルムの透明性が低下する場合や、工程の汚染の懸念がある。
【実施例】
【0064】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0065】
なお、実施例および比較例における評価方法は下記のとおりである。
【0066】
(1)ポリエステルの固有粘度の測定方法
ポリエステル1gを精秤し、フェノール/テトラクロロエタン=50/50(重量比)の混合溶媒100mlを加えて溶解させ、30℃で測定した。
【0067】
(2)平均粒径(d50:μm)の測定方法
遠心沈降式粒度分布測定装置(株式会社島津製作所社製SA−CP3型)を使用して測定した等価球形分布における積算(重量基準)50%の値を平均粒径とした。
【0068】
(3)塗布層厚さ
包埋樹脂でフィルムを固定し断面をミクロトームで切断し、2%オスミウム酸で60℃、2時間染色して試料を調整した。得られた試料を、透過型電子顕微鏡(日本電子株式会社製JEM2010)で観察し、塗布層の厚みを測定した。フィルムの計15箇所を測定し、数値の大きい方から3点と、小さい方から3点を除いた9点の平均を塗布層厚みとする。
【0069】
(4)フィルムの熱処理方法
サンプルの測定面がむき出しとなる状態でケント紙と重ねて固定し、窒素雰囲気下で、150℃で90分間放置して熱処理を行う。
【0070】
(5)フィルムヘーズの測定
試料フィルムをJIS−K−7136に準じ、株式会社村上色彩技術研究所製ヘーズメーター「HM−150」により、フィルムヘーズを測定した。
【0071】
(6)加熱処理によるフィルムヘーズ上昇(ΔH)の測定
まず試料フィルムの、本発明の塗布層が設けられた面とは反対側の面に下記塗布剤組成からなる塗布剤を、硬化後の厚さが3μmになるように塗布し、80℃に設定した熱風乾燥式オーブンにて1分間乾燥させた。次いで、120W/cmのエネルギーの高圧水銀灯を使用し、照射距離100mmにて約7秒間照射し、110mJ/cm
2で硬化を行って、フィルム上に活性エネルギー線硬化樹脂層を設けた積層フィルムを得た。
【0072】
《塗布剤組成》
日本合成化学工業株式会社製 紫光7600Bと、チバスペシャルティケミカルズ株式会社製Irgacure651を、重量比で100/5で混合、メチルエチルケトンで濃度30重量%に希釈したものを使用した。
【0073】
得られた試料のヘーズを(5)項の方法で測定した(ヘーズ1)。
次いで、試料の活性エネルギー線硬化樹脂層と反対の面を測定面として、(4)項の方法で加熱した後、(5)の方法でヘーズを測定した(ヘーズ2)。
ΔH=(ヘーズ2)−(ヘーズ1)
ΔHが低いほど、高温処理によるオリゴマーの析出が少ないことを示し、良好である。
【0074】
(7)積層ポリエステルフィルムの表面に析出するエステル環状三量体析出量の測定
ポリエステルフィルムを空気中、150℃で90分間加熱する。その後、熱処理をした当該フィルムを上部が開いている縦横10cm、高さ3cmになるように、測定面(塗布層)を内面として箱形の形状を作成する。次いで、上記の方法で作成した箱の中にDMF(ジメチルスルホアミド)4mlを入れて3分間放置した後、DMFを回収し、液体クロマトグラフィー(株式会社島津製作所製:LC−7A 移動相A:アセトニトリル、移動相B:2%酢酸水溶液、カラム:三菱化学株式会社製『MCI GEL ODS 1HU』、カラム温度:40℃、流速:1ml/分、検出波長:254nm)に供給して、DMF中のオリゴマー量を求め、この値を、DMFを接触させたフィルム面積で割って、フィルム表面オリゴマー量(mg/m
2)とした。DMF中のエステル環状三量体は、標準試料ピーク面積と測定試料ピーク面積のピーク面積比より求めた(絶対検量線法)。なお、標準試料の作成は、予め分取したエステル環状三量体を正確に秤量し、正確に秤量したDMFに溶解し、作成した。
【0075】
実施例および比較例で使用したポリエステルは、以下のようにして準備した。
(ポリエステル1): テレフタル酸ジメチル100重量部とエチレングリコール60重量部とを出発原料とし、触媒として酢酸マグネシウム・四水塩0.09重量部を反応器にとり、反応開始温度を150℃とし、メタノールの留去とともに徐々に反応温度を上昇させ、3時間後に230℃とした。4時間後、実質的にエステル交換反応を終了させた。この反応混合物にエチルアシッドフォスフェート0.04部を添加した後、三酸化アンチモン0.04部を加えて、4時間重縮合反応を行った。すなわち、温度を230℃から徐々に昇温し280℃とした。一方、圧力は常圧より徐々に減じ、最終的には0.3mmHgとした。反応開始後、反応槽の攪拌動力の変化により、極限粘度0.63に相当する時点で反応を停止し、窒素加圧下ポリマーを吐出させた。得られたポリエステル1の極限粘度は0.63であった。
【0076】
(ポリエステル2): ポリエステル1の製造方法において、エチルアシッドフォスフェート0.04部を添加後、エチレングリコールに分散させた平均粒子径(d50)が1.6μmのシリカ粒子を0.3部、三酸化アンチモン0.04部を加えて、極限粘度0.65に相当する時点で重縮合反応を停止した以外は、ポリエステル1の製造方法と同様の方法を用いてポリエステル2を得た。得られたポリエステル2は、極限粘度0.65であった。
【0077】
また、塗布液に含有する組成物としては以下を用いた。
(A1):グリオキサールに無水グルコースを反応させた多価アルデヒド系化合物。
(B1):けん化度=88モル%、重合度500のポリビニルアルコール。
(B2):けん化度=93モル%、アセトアセチル基含有ポリビニルアルコール。
(B3):対イオンがメチルスルホネートである、2−ヒドロキシ3−メタクリルオキシプロピルトリメチルアンモニウム塩ポリマー。数平均分子量:30000。
(C1):ヘキサメトキシメチロールメラミン。
(C2):オキサゾリン化合物であるエポクロス WS−300(株式会社日本触媒製)。
(F1):平均粒径0.07μmのシリカ粒子。
(F2):平均粒径0.02μmのアルミナ変性シリカ粒子。
【0078】
実施例1:
ポリエステル1とポリエステル2とを重量比で90/10でブレンドしたものを表層、ポリエステル1のみのものを中間層の原料として、二台の押出機にそれぞれを供給し、285℃に加熱溶融した後、2種3層(表層/中間層/表層=1:6:1の吐出量)の層構成で共押出し、静電密着法を用いて表面温度40〜50℃の鏡面冷却ドラムに密着させながら冷却固化させて、未延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを作成した。このフィルムを85℃の加熱ロール群を通過させながら、ロール周速差を利用して縦方向に3.4倍延伸した後、この縦延伸フィルムの片面に、下記表1に示す水系の塗布液
8を塗布し、テンター延伸機に導き、100℃で横方向に4.0倍延伸し、さらに230℃で熱処理を施した後、横方向に2%の弛緩処理を行い、塗布層の膜厚(乾燥後)が0.04μmの塗布層を有するフィルム厚みが50μmの二軸配向ポリエチレンテレフタレートフィルムを得た。
【0079】
得られたポリエステルフィルムの加熱処理によるフィルムヘーズ上昇値(ΔH)は小さく、エステル環状三量体の析出量も少なく良好であった。このフィルムの特性を下記表2に示す。
【0080】
実施例2〜
4:
実施例1において、塗布剤組成を表1に示す塗布剤組成に変更する以外は実施例1と同様にして製造し、ポリエステルフィルムを得た。でき上がったポリエステルフィルムは表2に示すとおり、加熱処理によるフィルムヘーズ上昇値(ΔH)やエステル環状三量体の析出量は良好であった。
【0081】
比較例1〜
14:
実施例1において、塗布剤組成を表1に示す塗布剤組成に変更する以外は実施例1と同様にして製造し、ポリエステルフィルムを得た。でき上がった積層ポリエステルフィルムを評価したところ、表2に示すとおり、加熱処理によるフィルムヘーズが大きく上昇し、エステル環状三量体の析出も多いものであった。
【0082】
比較例
15:
実施例1において、塗布層を設けないこと以外は実施例1と同様にして製造し、ポリエステルフィルムを得た。でき上がった積層ポリエステルフィルムを評価したところ、熱処理によるフィルムヘーズが大きく上昇し、エステル環状三量体の析出も多いものであり、工程の汚染や、加熱後の白化による視認性の悪化が懸念されるものであった。
【0083】
【表1】
【0084】
【表2】