【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するため、本発明の舗装面の補修方法は、変性エポキシ樹脂エマルジョン、イソシアネート化合物及び無機紛体を混合してなるアスファルト常温合材用混合剤を、アスファルト常温合材に混合して補修材を作成する工程と、
前記補修材を、舗装面の被補修部に配置する工程と
を備えることを特徴としている。
【0010】
上記構成によれば、変性エポキシ樹脂エマルジョン、イソシアネート化合物及び無機紛体を混合してなるアスファルト常温合材用混合剤は、アスファルト常温合材に混合されて補修材が形成されると、一部が前記アスファルト常温合材の粒子の表面を取り囲むと共に、他の一部が前記アスファルト常温合材のアスファルト成分の一部を溶出して流下する。前記アスファルト常温合材の粒子の表面を取り囲んだアスファルト常温合材用混合剤が硬化し、粒子相互を固定する。一方、前記アスファルト常温合材のアスファルト成分を溶出して流下したアスファルト常温合材用混合剤は、補修材が設置された被補修部に流下する。この設置面に流下したアスファルト常温合材用混合剤及びアスファルト成分が硬化し、補修材の硬化物を設置面に固定する。このように、本発明によれば、アスファルト常温合材用混合剤により、アスファルト常温合材の粒子相互を固定して強度の高い硬化物を形成すると共に、この硬化物を強固に設置面に固定する。その結果、被補修部に配置された補修材の硬化物は、高い耐久性を有する。
【0011】
本発明において、アスファルト常温合材用混合剤と混合されるアスファルト常温合材とは、アスファルトと骨材を含み、常温で粒状をなし、混合の際に110℃以上の加熱が不要なアスファルト合材をいう。本発明のアスファルト常温合材用混合剤は、市販のアスファルト常温合材に広く適用可能であり、アスファルト常温合材に含まれるアスファルトは、アスファルト乳剤でもよく、カットバックアスファルトでもよく、硬化樹脂成分を含んでもよい。市販のアスファルト常温合材としては、密粒度の骨材を用いた非透水性のものと、開粒度又は単粒度の骨材を用いた透水性のもののいずれも採用できる。
【0012】
ここで、変性エポキシ樹脂とは、エポキシ基を末端に2つ以上有するエポキシ化合物又はこの物質と末端に1つのエポキシ基を有するエポキシ化合物との混合物と、脂肪酸との反応生成物である。これらと反応させることによって、OH基を分子内に多数存在させるのである。よって、原則として反応性エポキシ基は残存していない。エポキシ化合物としては、ビスフェノールA又はFとエピクロルヒドリンとの反応生成物が好適である。このエポキシ化合物と脂肪酸との化合物について、脂肪酸としてはヒドロキシカルボン酸が好ましい。
【0013】
更に、変性エポキシ樹脂は複数種を混合して用いてもよい。これらの変性エポキシ樹脂の分子量としては、200〜1000程度が好適である。
【0014】
なかでも、次の式(1)と式(2)で表される化合物の混合物が好適である。両者の混合比率は適宜設定できるが、式(1)の化合物100重量部に対して、式(2)の化合物50〜150重量部が好ましい。
【化1】
R1は芳香族構造を示し、R2、R3、R4、R5、は脂肪族構造を示す。
【化2】
R6は芳香族構造を示し、R7、R8は脂肪族構造を示す。
【0015】
これらの化合物の中で、R1、R6はビスフェノールA又はFであり、R2、R3、R4、R5、R7、R8は炭素数2〜5程度が好適である。
【0016】
この変性エポキシ樹脂は、エマルジョンとして用いる。よって、水と分散剤が必要である。混合量としては、樹脂成分100重量部に対して、水が30〜100重量部程度であり、好ましくは樹脂成分65重量%及び水35重量%である。変性エポキシ樹脂エマルジョンは、可塑剤、顔料その他の一般的な混合物を混合してもよい。
【0017】
イソシアネート化合物は、NCO基を有する化合物であり、なかでもジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート(MDI)や、ポリメリックMDI等がよい。これはNCO分として25〜35%程度がよい。化学式(3)で示されるものがMDIである。また、ポリメリックMDIとしては、化学式4で示されるようなものが好適である。
【化3】
【化4】
nは1〜数十である。
【0018】
このイソシアネート化合物は、粘度を下げるための溶剤を加えてもよい。この溶剤としては、芳香族系ではなく、酢酸エチル等のエステル系やアセトン等のケトン系等が望ましい。これは、芳香族系のもの(ベンゼン、トルエン、キシレン等)ではアスファルト乳剤が溶解し、接着力が著しく減少したり、アスファルト骨材が外れて飛散したりするからである。溶剤の混合量としては、1〜10重量%程度で十分である。変性エポキシ樹脂エマルジョンとイソシアネート化合物の合計量に対しては、溶媒混合量は、0.5〜25重量%程度が適当である。
【0019】
無機紛体とは、例えばセメント、珪素、炭酸カルシウム等の無機物の紛体であり、好ましくはセメントである。セメントは、水と混合されて硬化する無機質の粉であり、ポルトランドセメント、高炉セメント、アルミナセメント等を用いることができ、ポルトランドセメントが特に好ましい。
【0020】
変性エポキシ樹脂エマルジョン、イソシアネート化合物、及びセメント粉の混合比率は、イソシアネート化合物100重量部に対して、変性エポキシ樹脂エマルジョン(水を含む)60〜180重量部、セメント粉60〜150重量部が好適である。
【0021】
本発明の舗装面の補修方法は、前記アスファルト常温合材用混合剤をアスファルト常温合材と混合してなる補修材を用いる。アスファルト常温合材用混合剤と混合するアスファルト常温合材は、アスファルトと骨材を含み、常温で粒状をなし、混合の際に110℃を超える温度での加熱が不要なアスファルト合材をいう。すなわち、混合の際に110℃以下の温度で加熱するものも、本発明におけるアスファルト常温合材である。アスファルト常温合材に含まれるアスファルトは、アスファルト乳剤でもよく、カットバックアスファルトでもよく、硬化樹脂成分を含んでもよい。前記アスファルト常温合材用混合剤とアスファルト常温合材を、人力又はミキサーで混合し、補修材を作成する。アスファルト常温合材用混合剤とアスファルト常温合材を混合する工程では、加熱は不要であり、0〜40℃の常温環境下で実行できる。本発明のアスファルト常温合材用混合剤を用いて補修材を作成する場合、110℃以下の加熱が必要な加熱型のアスファルト常温合材であっても加熱は不要である。前記アスファルト常温合材用混合剤とアスファルト常温合材を混合して作成された補修材は、舗装面に生じた例えばポットホールや轍やひび割れ等の被補修部に配置され、アスファルト常温合材よりも短い時間で硬化する。
【0022】
本発明で用いるアスファルト常温合材用混合剤は、変性エポキシ樹脂とイソシアネートが重合反応し、硬化する。これは、OH基とNCO基との反応であり、化学反応式(5)のように縮合する。
【化5】
【0023】
よって、多数のOH基にNCO基が反応し、線状分子及び平面状または三次元状の高分子が生成される。また、アスファルト常温合材用混合剤は、セメントがエマルジョンの水と反応し、セメント状硬化物を作る。更に、アスファルト常温合材用混合剤は、アスファルト常温合材から溶出したアスファルト成分と共に、樹脂アスファルト混合硬化物を作る。これらの高分子及び硬化物により、補修材のアスファルト常温合材の粒子の相互が固定されると共に、硬化した補修材が舗装面の被補修部に固定される。
【0024】
前記補修材は、アスファルト常温合材100重量部に対して、アスファルト常温合材用混合剤10〜30重量部を混合して作成するのが好ましい。
【0025】
本発明の補修方法において、アスファルト常温合材に、アスファルト常温合材用混合剤と共に弾性骨材を混合することにより、補修材の硬化物の可撓性を高め、硬化物のひび割れに対する耐性を高めることができる。弾性骨材としては、天然又は合成の樹脂を平均粒径0.5〜30mmに破砕したものを用いることができ、樹脂としては、加硫をしていない天然ゴム又は合成ゴムである生ゴムが好ましい。なお、樹脂として加硫ゴムを用いてもよい。また、弾性骨材として、廃タイヤを破砕してなる廃ゴムチップを用いてもよい。更に、弾性骨材として、樹脂の破砕片で形成された芯材の表面に、表面材を接着剤で固着させてなる複合弾性骨材を用いてもよい。
【0026】
複合弾性骨材は、平均粒径0.5〜30mmの樹脂芯材の表面に、この樹脂芯材の1/100〜1/10の平均粒径の表面材を接着して形成したものが好ましい。表面材の平均粒径は、あくまでも樹脂心材との相対的な関係で定めればよいが、具体的には、平均粒径0.01μm〜1mmである。表面材としては、珪砂の細粒や粉、セメントの粉、炭酸カルシウム、シリカ、セラミック等の無機粉体や、プラスチックの粉砕品等の有機粉体を用いることができる。紛体は、球状のものでも、無数の凹凸を有するものでも、繊維状のものでも、フライアッシュ等の微粉末でもよい。本明細書において、平均粒径とは、質量を基準とするメジアン径である。
【0027】
前記弾性骨材を用いた補修材は、アスファルト常温合材98〜92重量部に対して、弾性骨材2〜8重量部と、アスファルト常温合材用混合剤10〜30重量部を混合して作成するのが好ましい。
【0028】
本発明のアスファルト常温合材用混合剤を用いた補修材は、水により硬化反応が妨げられない。したがって、本発明のアスファルト常温合材用混合剤により、アスファルト常温合材とアスファルト常温合材用混合剤を混合して補修材を作成する工程と、この補修材を、水分が存在する舗装面の被補修部に配置する工程とを備える舗装面の補修方法が実現可能となる。ここで、水分が存在するとは、舗装面の被補修部に、水溜りや、水による染みが存在することをいう。本発明によれば、雨天時や、降雨や他の理由により存在する水が乾燥していない状態でも、舗装面の補修作業が可能となる。
【0029】
本発明のアスファルト常温合材用混合剤とアスファルト常温合材との混合物である補修材は、種々の舗装の被補修部に適用できる。補修材を、アスファルト舗装の被補修部に配置する場合、補修材を形成するアスファルト常温合材用混合剤の粘度が100mPa・s以上1000mPa・s以下であるのが好ましい。アスファルト常温合材用混合剤の粘度を100mPa・s以上1000mPa・s以下に設定することにより、アスファルト常温合材のアスファルト成分を溶出して流下したアスファルト常温合材用混合剤が、アスファルト舗装の被補修部の表面に留まることなく、適切な深さに浸透する。このアスファルト舗装の被補修部の表面から適切な深さに浸透した成分が硬化することにより、補修材の硬化物を被補修部に強固に固定することができる。その結果、補修材の硬化物の耐久性を効果的に高めることができる。アスファルト舗装の被補修部への浸透深さの点で、アスファルト常温合材用混合剤の粘度は、100mPa・s以上500mPa・s以下が特に好ましい。ここで、粘度は20℃の温度で測定された値である。
【0030】
ここで、アスファルト常温合材用混合剤の粘度は、溶剤や水を添加して調整するのが好ましく、溶剤としては、酢酸エチル等のエステル系が好適である。
【0031】
また、補修材には、硬化促進剤として、水反応性のアミン系触媒を添加してもよい。このアミン系触媒は、アスファルト常温合材用混合剤に対して100〜1000ppm添加するのが好ましく、145〜700ppmが特に好ましい。また、補修材には顔料を適宜添加してもよい。
【0032】
本発明は、補修の対象である舗装の材質は限定されないが、アスファルト舗装が好適である。また、舗装の用途は特に限定されず、例えば自動車道路、歩行者用道路、駐車場、公園、競技場及び建築物の外構等、種々の用途の舗装に適用できる。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、アスファルト常温合材用混合剤とアスファルト常温合材を混合してなる補修材は、硬化によって高い強度を発現すると共に被補修部に対してしっかりと固定されるので、硬化物が高い耐久性を有し、安定した補修を行うことができる。
また、補修材の流動成分が被補修部に浸透して硬化し、補修材の硬化物を強固に固定するので、被補修部に塗布するプライマーを削除できる。
また、補修材は水中でも硬化するので、雨天時や水溜りの存在する環境でも補修作業を行うことができ、これにより得られた補修材の硬化物は、気中で硬化した場合と遜色の無い強度が得られる。
また、アスファルト常温合材用混合剤とアスファルト常温合材を混合して補修材を形成し、この補修材を被補修部に配置するのみにより補修作業が完了するので、加熱が不要であり、補修作業を簡易にできる。
また、補修材は硬化時間が比較的短いので、補修を行った舗装面を早期に開放できる。
また、アスファルト常温合材用混合剤は、種々のアスファルト常温合材と組み合わせて補修材を作成できる。
また、アスファルト常温合材用混合剤及びアスファルト常温合材に弾性骨材を組み合せて補修材を作成することにより、補修材の硬化物のひび割れに対する耐性を高めることができる。
また、舗装面の空隙率に応じてアスファルト常温合材用混合剤の粘度を設定することにより、被補修部の表面から適切な深さに補修材の流動成分を浸透させることができ、補修材の硬化物を確実に舗装面に固定して硬化物の耐久性を更に高めることができる。