(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記乾き度特定部は、前記配管の軸方向が鉛直方向か水平方向成分を含むかに応じて、前記光の強度に対する前記湿り蒸気の前記気相部分および前記液相部分の面積を演算するための関係式を変更する、
請求項1〜4のいずれか1項に記載の乾き度測定装置。
測定対象の湿り蒸気が流れる配管に予め設定した光経路であって、前記配管の内壁に沿って流れる前記湿り蒸気の液相部分を通るように設定された光経路に沿って光を入射させる工程と、
前記湿り蒸気を透過または反射した光の強度を検出する工程と、
検出された前記光の強度に基づいて前記湿り蒸気の乾き度を特定する工程と、を備え、
前記湿り蒸気の乾き度を特定する工程は、検出された前記光の強度、当該光の強度に対応する前記湿り蒸気の気相部分の面積および液相部分の面積、前記湿り蒸気の前記気相部分と前記液相部分との流速差、並びに前記湿り蒸気の前記気相部分と前記液相部分との密度差に基づいて、前記湿り蒸気の乾き度を演算する、
乾き度測定方法。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。ただし、以下に説明する実施形態は、あくまでも例示であり、以下に明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。即ち、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で種々変形(各実施例を組み合わせる等)して実施することができる。また、以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付して表している。図面は模式的なものであり、必ずしも実際の寸法や比率等とは一致しない。図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることがある。
【0024】
(定義)
本明細書で使用する主たる用語を以下のとおりに定義する。
「蒸気」:各実施形態では、水蒸気のことを意味するが、気相部分と液相部分との二相状態となる物質の蒸気であればよく、水蒸気に限定されない。
「湿り蒸気」:気相部分と液相部分を含む蒸気全体をいう。
「乾き度」:湿り蒸気全体に対する気相部分の重量割合のことをいう。乾き度[%]=100[%]−湿り度[%]の関係がある。
「光の強度」(光強度):光(電磁波)の強さを表す物理量をいい、その称呼や単位に限定はない。例えば、放射強度、光度、光量子束密度など、それぞれ単位が異なるが相互に換算可能な物理量である。
【0025】
「縦配管」:配管の軸方向が鉛直方向に平行となるように設置された配管部分をいう。「縦配管」では、内部を流れる湿り蒸気の液相部分が重力により配管断面で一方向に偏ることなく均一に分布するような状態となる。
【0026】
「横配管」:配管の軸方向の投射影が水平方向成分を有するように設置された配管部分をいい、配管の軸方向が水平方向に平行となる場合のほか、水平面と一定の角度θ(0<θ<90°)となるように設置される場合を含む。「横配管」では、内部を流れる湿り蒸気の液相部分が重力により配管断面で一方向に偏って分布するような状態となる。
【0027】
(実施形態1)
本実施形態1は、湿り蒸気用配管を貫通するように測定用の光経路を設けた乾き度測定装置に関する。
【0028】
(ハードウェア構成)
図1に、本発明の実施形態1に係る乾き度測定装置の構成を説明する模式断面図を示す。
図1に示すように、湿り蒸気用配管20は、測定対象の湿り蒸気を流通させる流体流通路であり、配管20内に光を透過させるための光経路Lが設けられている。特に実施形態1では、配管20の内壁に入射開口A1および射出開口A2が設けられている。入射開口A1と射出開口A2とは、配管20の軸芯に対して対向した位置に設けられている。入射開口A1には入射側筒21が接続されており、射出開口A2には射出側筒22が設けられている。上記構成により、湿り蒸気の乾き度測定用の光経路Lが配管20を貫通するように設けられている。
【0029】
次に、実施形態1に係る乾き度測定装置1aの構成を説明する。
図1に示すように、実施形態1に係る乾き度測定装置1aは、光入射部11、受光部12、コンピュータ装置100(乾き度特定部200)を備えている。
【0030】
光入射部11は、測定対象の湿り蒸気が流れる配管20に予め設定した光経路Lに沿って光を入射させる。具体的に、光入射部11は、入射側筒21を通って入射開口A1から配管20の中へ所定の波長の光を入射させる。光入射部11は、自ら光を発生させる自発光手段であっても、離間地の発光手段から発せられた光を導入する導光手段であってもよい。自発光手段としては、例えば、発光ダイオード、スーパールミネッセントダイオード、半導体レーザ、レーザ発振器、蛍光放電管、低圧水銀灯、キセノンランプ、ハロゲンランプ、メタルハライドランプ、紫外線光源、赤外線光源、及び電球等が例示できるが、安定した波長および強度を有する光を発生可能な手段であれば、上記に限定されない。導光手段としては、ポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA:Poly(methyl methacrylate))からなるプラスチック光ファイバ、及び石英ガラスからなるガラス光ファイバ等が例示できるが、上記に例示したような自発光手段が発した光を伝播させる機能があれば、これに限定されない。
【0031】
受光部12は、湿り蒸気を透過した光の強度を検出する光検出手段である。具体的には、受光部12は、光経路Lに沿って湿り蒸気を通過し、射出開口A2から射出側筒22を通って射出された光を受けて、光の強度に対応した光強度信号Sdを出力する。受光部12としては、例えば、フォトダイオード、フォトトランジスタ等の光電変換素子を使用可能であるが、湿り蒸気を透過した光の強度に応じた光強度信号Sdを出力可能であれば、これに限定されない。
【0032】
乾き度測定装置1aは、所望により、環境センサとして、圧力センサ23および温度センサ24のいずれか一方または双方を備えていてもよい。圧力センサ23は、配管20の内部圧力pを検出し、圧力信号Spを乾き度特定部200へ出力する。温度センサ24は、配管20の内部温度tを検出し、温度信号Stを乾き度特定部200へ出力する。
【0033】
コンピュータ装置100は、検出された光の強度に基づいて湿り蒸気の乾き度を特定する、本発明の乾き度特定部200として機能する演算手段である。コンピュータ装置100は、一例として、CPU(Central Processing Unit:中央演算装置)101、RAM(Random Access Memory)102、ROM(Read Only Memory)103、およびインターフェース(I/F)回路104を備える。コンピュータ装置100には、例えば、キーボード、タッチパネル等の入力装置105、ディスプレイ、プリンタ等の出力装置106、および外部記憶装置300が接続される。外部記憶装置300には、例えば、コンピュータ装置100に本発明に係る乾き度測定方法を実行させるためのソフトウェアプログラムが記憶されているほか、本発明に係る配管条件を記憶する配管条件記憶部301が設けられている。コンピュータ装置100は、外部記憶装置300等に記憶されている本発明に係る乾き度測定方法に係るソフトウェアプログラムをRAM102に読み込んで実行することにより、乾き度特定部200が機能的に実現される。
【0034】
配管条件記憶部301には、一例として、配管設置モードv/h、配管半径r、流速差Δv、密度差Δρが配管条件として格納されている。「配管設置モードv/h」は、配管20が縦配管vであるか横配管hであるかを示す情報である。「配管半径r」は、配管20の内径の半径である。「流速差Δv」は、縦配管であるか横配管であるかに応じて定まる、湿り蒸気の気相部分の流速と液相部分の流速との差分である。「密度差Δρ」は、縦配管であるか横配管であるかに応じて定まる、湿り蒸気の気相部分の密度と液相部分の密度との差分である。
【0035】
(機能ブロック)
図2に、乾き度特定部200の機能ブロック図を示す。乾き度特定部200は、検出された光の強度Io、当該光の強度Ioに対応する湿り蒸気の気相部分の面積Saおよび液相部分の面積Sw、湿り蒸気の気相部分と液相部分との速度差Δ、並びに湿り蒸気の気相部分と液相部分との密度差Δρに基づいて、湿り蒸気の乾き度χを演算するように構成されている。
【0036】
具体的に、乾き度特定部200は、
図2に示すように、吸光度演算部201、液相光路長演算部202、面積演算部203、および乾き度演算部204を機能的に備えている。
【0037】
吸光度演算部201は、光強度信号Sdを参照して光の強度Iを検出し、光射出部11から出力される原光強度Ioを参照して湿り蒸気の吸光度Aを演算する。
【0038】
液相光路長演算部202は、吸光度Aに基づいて、配管20の光経路Lに沿った湿り蒸気の液相部分の長さLwを演算する。圧力信号Spおよび/または温度信号Stを入力している場合には、液相光路長演算部202は、選択的に、吸光度Aに加えて、圧力信号Spの示す内部圧力pおよび/または温度信号Stの示す内部温度tをパラメータとして、液相部分の光路長Lwを演算する。
【0039】
面積演算部203は、湿り蒸気の液相部分の光路長Lwと配管20の形状とに基づいて湿り蒸気の液相部分の面積Swと気相部分の面積Saとを演算する。具体的には、面積演算部203は、配管条件として入力された配管設置モードv/hを参照して、配管20が縦配管であるか横配管であるかに応じて異なる演算式を参照し、湿り蒸気の液相部分の光路長Lwと配管条件として入力された配管半径rとに基づいて、湿り蒸気の液相部分の面積Swおよび気相部分の面積Saを演算する。
【0040】
乾き度演算部204は、配管条件として入力された流速差Δvおよび密度差Δρを参照して、演算された湿り蒸気の液相部分の面積Swおよび気相部分の面積Saに基づいて、乾き度χを演算する。
【0041】
(配管の向きと湿り蒸気の気相部分および液相部分の分布の関係)
次に、配管の向きに応じた湿り蒸気の気相部分および液相部分の分布状況の変化を説明する。
図3は、縦配管における湿り蒸気の乾き度測定のための光経路を説明する断面図である。
図4は、横配管における湿り蒸気の乾き度測定のための光経路を説明する断面図である。以下、特に断りがない限り、配管20は、軸芯Cを中心とした、空間的に対称的な円筒形状を有するものとする。
【0042】
配管の内部を流れる湿り蒸気については、従来、内壁に沿って液相流が生じることは知られていたが、配管が縦配管であるか横配管であるかで、湿り蒸気の気相部分と液相部分との分布がどのように変化するかは湿り蒸気の測定上、影響が大きいものとしては意識されていなかった。
【0043】
本願発明者は、配管が縦配管か横配管かで湿り蒸気の気相部分および液相部分の分布状況が大きく変化して、この分布状況の変化が湿り蒸気の気相部分と液相部分との流速差や密度差に影響することを突き止めた。湿り蒸気の気相部分と液相部分との流速差や密度差の変動は、湿り蒸気の乾き度の演算結果に直接的な影響を与える。このことから、本願発明者は、配管が縦配管であるか横配管であるかに応じて、湿り蒸気の演算式や係数を変更しなければならないことに想到したのである。
【0044】
配管20が縦配管である場合、配管の軸方向が鉛直方向に平行であるため、配管20の内部を流れる湿り蒸気は、
図3に示すように、配管20の内部にほぼ均一に分布する。湿り蒸気が液相部分と気相部分とに分離している場合には、配管20の内壁に沿って液相部分の層ができる。液相部分は、その表面が波立っており、配管20の内壁から液相部分の表面までの高さ(液相部分の深さ)は変化するが、話を簡単にするため、波の山と谷とを平均した一定の高さLvwを有するものと仮定する。
【0045】
縦配管では、配管20の断面で湿り蒸気に偏りが生じないので、湿り蒸気の乾き度を測定するための光経路の設定方向に特に限定はない。したがって、
図3に示されるように、従来どおり、水平面に沿って、すなわち、配管20の軸方向に垂直となるように、湿り蒸気の乾き度測定用の光経路Lを設定すればよい。
【0046】
配管20が横配管である場合、配管の軸方向の水平面への投射影に水平方向成分を含む。配管20の内部を流れる湿り蒸気は、重力の作用によって比重の大きな液相部分が集まり、
図4に示すように、配管20の内壁のうち重力方向下側に偏って分布することになる。横配管である場合も、液相部分の表面は波立っており、配管20の内壁から液相部分の表面までの高さ(液相部分の深さ)は変化する。話を簡単にするため、横配管である場合の液相部分の波の山と谷とを平均した一定の高さLhwと仮定する。
【0047】
横配管では、配管20の断面で湿り蒸気の分布に偏りが生じている。相対的に比重の大きい液相部分は重力方向下方に偏り、比重の小さい気相部分は重力方向上方に偏って分布する。気相部分の中でも、重力方向下方になるほど密度が高く、重力方向上方になるほど密度が低くなるように分布する。湿り蒸気の乾き度は、湿り蒸気中を通過し、または、反射する光の強度に基づいて測定するものであり、通過または反射する光の強度は、水分子の密度が高いほど、低くなるものである。したがって、横配管では、湿り蒸気の乾き度を測定するための光経路をどのような方向に設定するかで、異なる乾き度が測定されてしまう。例えば、湿り蒸気の乾き度測定用の光を気相部分のみ通過するように設定したのでは、相対的に密度の低い水分子の層を主として光が通過することになるため、湿り蒸気の乾き度が本来の正しい値より高く(1に近く)測定されてしまう。一方、湿り蒸気の乾き度測定用の光を液相部分のみを通過するように設定したのでは、相対的に密度の高い水分子の層を主として光が通過することになるため、湿り蒸気の乾き度が本来の正しい値より低く(0に近く)測定されてしまう。さらに、縦配管では、配管20の軸に垂直な面に沿う経路であれば、いずれの方向に光経路Lを設定してもよかったが、横配管の場合には、鉛直方向に沿って湿り蒸気の水分子の密度が異なるため、光経路の設定に留意する必要がある。配管20の軸に垂直な経路であっても、水平面に平行な方向に光経路を設定したのでは、測定される乾き度が、湿り蒸気全体の代表値(平均値)となっていない可能性がある。
【0048】
そこで、円筒形状の配管20が横配管である場合には、
図4に示すように、配管20の内壁に沿って流れる湿り蒸気の液相部分を通過するように光経路Lを設定すべきである。例えば、
図4のように配管20が軸対称な円筒形状を有している場合であれば、配管20の軸芯Cを含む鉛直面に沿って光経路Lを設定することになる。湿り蒸気の液相部分を通るように光経路Lが設定されていれば、湿り蒸気測定用の光が湿り蒸気の最も密度の高い部分を通過することになるため、測定される湿り蒸気の乾き度は湿り蒸気の正しい乾き度と等しいものとなると考えられるからである。
【0049】
言い換えると、横配管では、湿り蒸気の気相部分の最も密度の低い部分と湿り蒸気の液相部分の最深部とを通過するように、湿り蒸気測定用の光経路Lを設定することが好ましい。配管の断面形状が真円ではない場合、すなわち配管が軸対称な円柱形状を有していないような場合、軸芯を通る鉛直面が必ずしも最も密度の低い部分と最も密度の高い部分とを通過するとは限らない。液相部分の最深部は、液相状態の飽和水が最も早く溜まりやすい部分であり、最も密度が高くなる部分でもある。よって、配管が軸に対して対称的ではない形状を有している場合でも、その配管の気相部分の最も密度の低い部分と液相部分の最深部とを通過するようになっていれば、その光経路で測定される乾き度は、湿り蒸気の正しい乾き度を表しているものと考えられるからである。
【0050】
(動作)
次に
図1および
図2を参照しながら、本実施形態1に係る乾き度測定装置1aの動作を説明する。以下の演算内容は例示であって、公知の方法を種々に適用可能であり、本発明を限定するものではない。当該技術分野の技術常識、例えば、流体の流れを記述する基礎方程式であるナビエ・ストークス方程式を解くことによって導きだせる関係式や、検出される光の強度と理論的乾き度との関係を実験的に示した関係テーブルを用いて、乾き度を演算・測定することも可能である。
【0051】
前述のように、外部記憶装置300の配管条件記憶部301には、配管条件として、配管設置モードv/h、配管半径r、流速差Δv、密度差Δρが記憶されている。さらに詳しく説明する。なお、これらの配管条件の1つ以上を測定の都度、入力装置105等から入力するように構成してもよい。
【0052】
「配管設置モードv/h」としては、湿り蒸気の乾き度の測定対象となる配管20が縦配管である場合には「縦配管v」として、横配管である場合には「横配管h」として設定されている。配管20の軸方向が水平面と所定の角度θ(0<θ<90度)をなすように設置されている場合には、「横配管h」として設定されている。
【0053】
「配管半径r」としては、円柱形状である配管20の内径に対応する寸法を記憶しておく。なお、配管半径rに代えて、面積に対応する他のパラメータ、例えば内径断面積Soを記憶しておいてもよい。湿り蒸気の液相部分の高さLwが測定でき、内径断面積Soが判っていれば、気相部分の面積Saや液相部分の面積Swが演算できるからである。
【0054】
「流速差Δv」としては、配管20の設置状態に応じて定まる湿り蒸気の気相部分の流速Vaと液相部分の流速Vwとの差分Δv(=Va−Vw)を記憶しておく。ただし、湿り蒸気の気相部分の流速Vaと液相部分の流速Vwとの差分に代えて、湿り蒸気の気相部分の流速Vaと液相部分の流速Vwとの比(=Va/Vw、Vw/Va)を記憶するようにしてもよい。通常、液相部分は配管20の内壁に接しており流路抵抗や粘性抵抗の影響を受けるので、気相部分よりも流速が遅い。気相部分でも液相部分の界面付近か軸芯C付近か配管20の内壁の近傍かで流速が異なり、液相部分でも配管20の内壁に近い部分か気相部分の界面付近かで流速が異なるが、それぞれの平均的・代表的な値を記憶しておく。なお、流速差Δvは、予め実験で求めてもよいし、ナビエ・ストークス方程式から導き出した関係式を用いて演算してもよい。また、配管20の軸方向が水平面と所定の角度θ(0<θ<90度)をなすように設置されている場合には、流速差Δvは、配管20の角度θに対応して変化する。そこで、角度θに応じた流速差Δvを固定値として記憶しておくか、入力装置105から角度θを入力し、それに対応する流速差Δvを、関係テーブルから求めたり、関係式を用いて演算したりしてもよい。なお、湿り蒸気の気相部分の流速Vaと液相部分の流速Vwとの差分に代えて、湿り蒸気の気相部分の流速Vaと液相部分の流速Vwとの比(=Va/Vw)を記憶するようにしてもよい。
【0055】
「密度差Δρ」としては、配管20の設置状態に応じて定まる湿り蒸気の気相部分の密度ρaと液相部分の密度ρwの差分Δρ(=ρa−ρw)を記憶しておく。液相部分は気相部分よりも密度が高い。気相部分でも液相部分の界面付近か軸芯C付近か配管20の内壁の近傍かで密度が異なり、液相部分でも、気相部分との界面近くか底部かで密度が若干相違するが、それぞれの平均的・代表的な値を記憶しておく。なお、密度差Δρは、蒸気表等を参照することにより決定できる。なお、湿り蒸気の気相部分の密度ρaと液相部分の密度ρwとの差分に代えて、湿り蒸気の気相部分の密度ρaと液相部分の密度ρwとの比(=ρa/ρw、ρw/ρa)を記憶するようにしてもよい。
【0056】
乾き度測定時、
図1に示すように、光入射部11から湿り蒸気が流れる配管20に所定の波長を有する光が入射される。光入射部11から入射した光は、入射側筒21を通って入射開口A1から配管20の中へ光経路Lに沿って導入される。配管20の中へ導入された光は、湿り蒸気の水分子によって反射・散乱して強度を減衰される。湿り蒸気によって反射・散乱して強度が減衰した光は、射出開口A2から射出側筒22を通って受光部12に入射する。受光部12からは、入射した光の強度に対応する光強度信号Sdが出力される。
【0057】
吸光度演算部201は、光強度信号Sdを参照して湿り蒸気の吸光度Aを演算する。光強度信号Sdが示す光の強度をI、湿り蒸気による光の反射・散乱が無いとした場合の光の強さを原光強度Ioとした場合、吸光度Aは式(1)のように演算される。
【0058】
吸光度A=−log(I/Io) …(1)
吸光度Aは、光の波長に応じて変動するため、複数の波長の光を使用する場合には、光の波長λの関数として吸光度Aを演算する。
【0059】
ここで、湿り蒸気の乾き度測定用の光の波長は、湿り蒸気の液相部分に対する吸収が相対的に大きい第1の波長λ1とすることが好ましい。湿り蒸気が水蒸気である場合、湿り蒸気の液相部分に対する吸収が相対的に大きい第1の波長λ1は、1400nm付近や1900nm付近となる。
【0060】
また、湿り蒸気の乾き度測定用の光として、湿り蒸気の気相部分に対する吸収が相対的に大きい第2の波長λ2を有する参照光をさらに用いてもよい。湿り蒸気の気相部分に対する吸収が相対的に大きい第2の波長λ2は、湿り蒸気が水蒸気である場合、1800nm付近となる。湿り蒸気の気相部分に対する吸収が相対的に大きい波長λ2を有する光を測定光として用いると、湿り蒸気に圧力などの変動が生じた場合でも測定に対する誤差が少なくなる。
【0061】
さらに、湿り蒸気の気相部分および気相部分に対する吸収が相対的に小さい第3の波長λ3を有する参照光を用いてもよい。湿り蒸気の気相部分および気相部分に対する吸収が相対的に小さい第3の波長λ3は、湿り蒸気が水蒸気である場合、600nm付近や1600nm付近となる。湿り蒸気の気相部分および気相部分に対する吸収が相対的に小さい波長を有する参照光として用いると、乾き度測定装置の光学系部品のばらつきや、それらにおける光散乱の影響等を小さくすることができる。
【0062】
次いで、液相光路長演算部202は、吸光度に基づいて、配管20の光経路Lに沿った湿り蒸気の液相部分の長さLwを演算する。湿り蒸気の液相部分は、配管20が縦配管であれば
図3のように分布し、横配管であれば
図4のように分布する。液相部分の分布が異なれば、光が通過する液相部分の長さLwも変化する。例えば、配管20が縦配管であれば、光は入射側の液相部分と射出側の液相部分とを通過するので、
図3のように縦配管時の液相部分の深さをLvwとすれば、光は合計2Lvwの液相部分の長さを通過する。配管20が横配管であれば、光は配管20の底部に流れる液相部分を1回通過するので、
図4に示すように横配管時の液相部分の最深部の深さをLhwとすれば、光はLhwで示される液相部分の長さを通過する。湿り蒸気を通過する光は、水の分子により反射され、散乱されるので、特に液相部分で強く反射され散乱され、光の強度が減衰し、吸光度Aが大きくなる。液相部分の長さLwは吸光度Aと相関関係を有することになる。例えば、縦配管の場合における液相部分の長さLvwと吸光度Aとの関係は式(2)で表され、横配管の場合における液相部分の長さLhwと吸光度Aとの関係は式(3)で表される。
【0063】
縦配管時の液相部分の長さLvw=fv(A,p,t) …(2)
横配管時の液相部分の長さLhw=fh(A,p,t) …(3)
ここで、pは湿り蒸気の圧力であり、tは湿り蒸気の温度である。湿り蒸気の圧力および/または温度に変動が生じない場合にはこれらは定数となり、式(2)および式(3)は液相部分の長さLwは吸光度Aのみに依存する以下のような関数となる。
縦配管時の液相部分の長さLvw=fv(A) …(2)’
横配管時の液相部分の長さLhw=fh(A) …(3)’
【0064】
液相光路長演算部202は、吸光度Aおよびた配管設置モードv/hを参照して、縦配管である場合には式(2)に基づいて液相部分の長さLvwを演算する。また横配管である場合には式(3)に基づいて液相部分の長さLhwを演算する。選択的に、湿り蒸気の圧力pを考慮する場合には、液相光路長演算部202は、圧力センサ23からの圧力信号Spを参照して式(2)や式(3)に代入する。湿り蒸気の温度tを考慮する場合には、温度センサ24からの温度信号Stを参照して式(2)や式(3)に代入する。
【0065】
なお、液相光路長演算部202は、式(2)や式(3)に代えて、吸光度Aと液相部分の長さLwとの関係を示す関係テーブルを保持し、当該関係テーブルを参照して液相部分の長さLwを演算するようにしてもよい。選択的に湿り蒸気の圧力pおよび/または温度tを参照する場合には、湿り蒸気の圧力pおよび/または温度tに応じて複数の関係テーブルを保持するように構成してもよい。
【0066】
また、上記したように、湿り蒸気の液相部分に対する吸収が相対的に大きい第1の波長λ1を有する測定光、湿り蒸気の気相部分に対する吸収が相対的に大きい第2の波長λ2を有する参照光、または湿り蒸気の液相部分および気相部分に対する吸収が相対的に小さい第3の波長λ3を有する参照光を用いた場合、例えば縦配管時の液相部分の長さLvw上記式(2)は以下のいずれかのように変形することができる。ただし、第1の波長λ1を有する測定光の吸光度をA
1、第2の波長λ2を有する参照光の吸光度をA
2、第3の波長λ3を有する参照光の吸光度をA
3とする。
Lvw=fv(A
1,p,t)
Lvw=fv(A
1,A
2,p,t)
Lvw=fv(A
1,A
3,p,t)
Lvw=fv(A
1,A
2,A
3,p,t)
Lvw=fv(A
1,A
2,A
3)
Lvw=fv(A
1,A
2)
Lvw=fv(A
1,A
3)
横配管時の液相部分の長さLhwについても同様に変形することができる。
【0067】
次いで面積演算部203は、湿り蒸気の液相部分の光路長Lwと配管20の形状とに基づいて湿り蒸気の液相部分の面積Swと気相部分の面積Saとを演算する。具体的には、面積演算部203は、配管条件として入力された配管設置モードv/hを参照する。そして、配管20が縦配管である場合には、面積演算部203は、湿り蒸気の液相部分の光路長Lvwと配管半径rとに基づいて、湿り蒸気の液相部分の面積Svwを式(4)に基づいて演算し、気相部分の面積Svaを式(5)に基づいて演算する。また配管20が横配管である場合には、面積演算部203は、湿り蒸気の液相部分の光路長Lhwと配管半径rとに基づいて、湿り蒸気の液相部分の面積Shwを式(6)に基づいて演算し、気相部分の面積Shaを式(7)に基づいて演算する。
【0068】
縦配管時の液相部分の面積Svw=gv(r,Lvw) …(4)
縦配管時の気相部分の面積Sva=断面積So−Svw …(5)
横配管時の液相部分の面積Shw=gh(r,Lvw) …(6)
横配管時の気相部分の面積Sha=断面積So−Shw …(7)
【0069】
次いで乾き度演算部204は、配管条件として読み出した流速差Δvおよび密度差Δρを参照して、演算された湿り蒸気の液相部分の面積Swおよび気相部分の面積Saに基づいて乾き度χを演算する。具体的に、乾き度演算部204は、配管20が縦配管である場合には、湿り蒸気の乾き度χvを式(8)に基づいて演算し、配管20が横配管である場合には、湿り蒸気の乾き度χhを式(9)に基づいて演算する。
【0070】
縦配管時の湿り蒸気の乾き度χv=αv(Δv,Δρ)×Sva/(Sva+Svw) …(8)
横配管時の湿り蒸気の乾き度χh=αh(Δv,Δρ)×Sha/(Sha+Shw) …(9)
ここで、係数αv、αhは、流速差Δvと密度差Δρとにより一義的に決定される係数である。
【0071】
以上の演算により、乾き度特定部13は、光強度信号Sdと配管条件とに基づき、湿り蒸気の乾き度χを演算する。演算された乾き度χは、出力装置106に表示・印刷したりインターフェース回路104を介して外部に出力したりする。
【0072】
なお、上記説明では、吸光度演算部201が吸光度Aを演算し、液相光路長演算部202が液相部分の光路長Lwを演算し、面積演算部203が液相部分の面積Swおよび気相部分の面積Saを演算し、乾き度演算部204が乾き度χを演算していたが、このように演算を切り分けなくてもよい。複数の機能ブロックの演算を合わせて1つの機能ブロックとしてもよい。例えば、光強度信号Sdを入力して、直接的に乾き度χを出力するような関係式または関係テーブルを作成してもよい。
【0073】
(実施形態の効果)
以上説明した実施形態1によれば、以下の作用効果を奏する。
(1)本実施形態1の乾き度測定装置1aによれば、配管20の向きが縦配管であるか横配管であるかに応じて乾き度を演算するので、配管20の向きに応じた正確な演算により乾き度を算出することが可能である。
【0074】
(2)本実施形態1の乾き度測定装置1aによれば、光経路Lが配管20の軸芯Cを含む鉛直面に沿って設定されているので、特に横配管の場合においても正確な乾き度を算出することが可能である。
【0075】
(3)本実施形態1の乾き度測定装置1aによれば、光経路Lが湿り蒸気の気相部分の最も密度の低い部分と液相部分の最深部とを通過するように設定されているので、特に横配管の場合において配管内部で湿り蒸気の気相部分および液相部分の分布が偏っていても、正確な乾き度を算出することが可能である。
【0076】
(4)本実施形態1の乾き度測定装置1aによれば、乾き度特定部200が配管20の軸方向が鉛直方向か水平方向成分を含むかに応じて光の強度に対する湿り蒸気の気相部分および前記液相部分の面積を演算するための関係式を変更するので、配管20の向きに応じた正確な乾き度を算出することが可能である。
【0077】
(5)本実施形態1の乾き度測定装置1aによれば、圧力センサ23や温度センサ24といった環境センサが湿り蒸気の圧力pおよび/または温度tを検出し、乾き度特定部200が検出された圧力pおよび/または温度tに対応させて湿り蒸気の乾き度χを特定するので、湿り蒸気の圧力pおよび/または温度tが変動して乾き度χに影響を与えるような場合でも、変動する湿り蒸気の圧力pおよび/または温度tに応じた正確な乾き度を算出することが可能である。
【0078】
(実施形態2)
本発明の実施形態2は、光入射部および受光部の変形例に関する。
(構成)
上記実施形態1では、配管20の軸に対して対向する2つの開口を設けて乾き度測定用の光が配管20内の湿り蒸気を通り抜けるように光経路を設定していたが、本実施形態2では、1つの開口を設けて乾き度測定用の光を反射させるように光経路が設定されている点で、上記実施形態1と異なる。
【0079】
図5に、本実施形態2に係る乾き度測定装置1bの構成を説明する模式図を示す。
図6に、乾き度測定装置1bの光入射部の先端拡大斜視図を示す。
図5に示すように、本実施形態2における乾き度測定装置1bは、光入射部11、受光部12、ビームスプリッタ13、導光部14、先端構造体15、および反射部16を備えている。乾き度測定装置1bは、先端構造体15が配管20に設けられた光入射出開口A3から内部に挿入可能に構成されている。光入射部11、受光部12、および乾き度特定部200(コンピュータ装置100)に関する構成は、上記実施形態1と同様であるため、説明を省略する。
【0080】
ビームスプリッタ13は、透過する光を分離するためのプリズム手段である。ビームスプリッタ13は、光入射部11から入射した光を透過させて導光部14に入射させる一方、反射部16により反射されて導光部14を介して戻ってきた反射光を反射面131で受光部12に向けて反射するように構成されている。導光部14は、光の減衰を抑制しながら伝達する光ファイバとしての構造を備えている。導光部14としては、例えば、ポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)からなるプラスチック光ファイバ、及び石英ガラスからなるガラス光ファイバ等が使用可能であるが、光入射部11が発した光を伝播させる機能があれば、これに限定されない
【0081】
先端構造体15は、
図6に示すように、導光部14の先端部に固定され、複数の脚部を有する構造物である。反射部16は、全反射可能なミラーであり、先端構造体15を構成する複数の脚部の先端に、反射面が導光部15の先端面と対向するように設けられている。
【0082】
上記のような構造を備えることにより、本実施形態2に係る乾き度測定装置1bは、光入射部11から射出された光が、ビームスプリッタ13、導光部14を経て、導光部14の先端面から反射部16に射出され、反射部16で反射された反射光が、再び先端面から導光部14、ビームスプリッタ13へ入射し、反射面131で反射されて受光部12に入射するように構成されている。
【0083】
なお、先端構造体15の端部に反射部16を設ける代わりに、入射出開口A3に対向する配管20の内壁に反射部を設けてもよい。例えば、配管20の内壁にミラーを埋め込んだり配管20の内壁の一部に鏡面仕上げ加工を施したりすることも好ましい。
【0084】
(測定方法)
次に、本実施形態2に係る乾き度測定装置1bを用いた、配管の向きに応じた測定方法を説明する。
図7は、本実施形態2に係る乾き度測定装置1bの縦配管測定時の設置図であり、
図8は、本実施形態2に係る乾き度測定装置1bの横配管測定時の設置図である。
【0085】
図7および
図8に示すように、本実施形態2では、配管20の壁面に1つの入射出開口A3が設けられる。上記実施形態1のように、乾き度測定用の光を貫通させる必要がないため、対向する2つの開口(入射開口A1および射出開口A2)を設ける必要がない。
【0086】
配管20が縦配管である場合、
図7に示すように、入射出開口A3から配管20の反対側の内壁に反射部16が当接するまで、先端構造体15を挿入した状態とする。このとき、先端構造体15が軸芯Cを通過するように配管20の壁面に垂直に先端構造体15を挿入する。
【0087】
また配管20が横配管である場合も、
図8に示すように、入射出開口A3から配管20の反対側の内壁に反射部16が当接するまで、先端構造体15を挿入した状態とする。このとき、先端構造体15が軸芯Cを通過するように鉛直方向に先端構造体15を挿入する。このように、先端構造体15を鉛直方向に挿入することにより、反射部16は、湿り蒸気の液相部分の最深部に到達し、入射出開口A3に対向する配管20の内壁底部に当接することになる。
【0088】
(動作)
本実施形態2に係る乾き度測定装置1bは、上記実施形態1と同様に動作する。但し、本実施形態2に係る乾き度測定装置1bでは、反射部16により、乾き度測定用の光が配管20内の湿り蒸気を往復することになるため、湿り蒸気内の光路長が上記実施形態1の2倍の2Lとなっている。このため、乾き度特定部200における各種関係式も2倍の光路長2Lに適用するように変形させる必要がある。
【0089】
(効果)
(1)本実施形態2に係る乾き度測定装置1bによれば、上記実施形態1と同様の作用効果を奏するほか、配管20に設ける開口が1つでよいため、開口からの熱損失を些少に抑えることが可能である。
【0090】
(2)本実施形態2に係る乾き度測定装置1bによれば、配管20の内壁に反射部を設けた場合には、入射出開口A3と反射部との位置関係を固定することができ、正しい光経路を確定させることができるため、測定者の操作の影響を受けることなく、正確な乾き度を測定することができる。