特許第6057902号(P6057902)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6057902リチウム二次電池の正極活物質の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6057902
(24)【登録日】2016年12月16日
(45)【発行日】2017年1月11日
(54)【発明の名称】リチウム二次電池の正極活物質の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/525 20100101AFI20161226BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20161226BHJP
【FI】
   H01M4/525
   H01M4/505
【請求項の数】11
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-533702(P2013-533702)
(86)(22)【出願日】2012年9月13日
(86)【国際出願番号】JP2012073425
(87)【国際公開番号】WO2013039134
(87)【国際公開日】20130321
【審査請求日】2015年7月6日
(31)【優先権主張番号】61/535422
(32)【優先日】2011年9月16日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】61/612538
(32)【優先日】2012年3月19日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】61/650065
(32)【優先日】2012年5月22日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】新樹グローバル・アイピー特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】大平 直人
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 隆太
(72)【発明者】
【氏名】横山 昌平
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 美穂
(72)【発明者】
【氏名】木村 浩二
(72)【発明者】
【氏名】七瀧 努
【審査官】 ▲辻▼ 弘輔
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−273620(JP,A)
【文献】 特開2004−253305(JP,A)
【文献】 特開2005−336004(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00 − 4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム複合酸化物を含有する、リチウム二次電池の正極活物質の製造方法であって、
前記リチウム複合酸化物を構成する遷移金属のうちのリチウム以外のものの化合物である第一原料化合物を含む、成形体である中間体を生成する、中間体生成工程と、
前記中間体生成工程によって生成された前記中間体の表面に、リチウム源化合物である第二原料化合物が膜状に付着するように、前記第二原料化合物を添加する、リチウム源化合物添加工程と、
前記リチウム源化合物添加工程によって前記表面に前記第二原料化合物が付着された状態の前記中間体を焼成することで、前記リチウム複合酸化物を生成する、焼成工程と、
を有し、
前記中間体生成工程は、前記第一原料化合物を含む成形原料をシート形状に成形することで前記成形体を形成する、成形工程を有することを特徴とする、
リチウム二次電池の正極活物質の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の、リチウム二次電池の正極活物質の製造方法であって、
前記リチウム源化合物添加工程を経た前記中間体の、前記表面における前記第二原料化合物が付着している部分の割合を百分率で示した値である、被覆率が、70%以上であることを特徴とする、
リチウム二次電池の正極活物質の製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載の、リチウム二次電池の正極活物質の製造方法であって、
前記被覆率が90%以上であることを特徴とする、
リチウム二次電池の正極活物質の製造方法。
【請求項4】
請求項1に記載の、リチウム二次電池の正極活物質の製造方法であって、
前記リチウム源化合物添加工程は、
前記第二原料化合物を溶媒に分散あるいは溶解させたものである第二原料化合物含有液体を、前記中間体に添加する工程であることを特徴とする、
リチウム二次電池の正極活物質の製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載の、リチウム二次電池の正極活物質の製造方法であって、
前記リチウム源化合物添加工程は、
前記第二原料化合物含有液体を、前記中間体にスプレーで噴霧することで、当該中間体の前記表面に前記第二原料化合物を付着させる工程であることを特徴とする、
リチウム二次電池の正極活物質の製造方法。
【請求項6】
請求項1に記載の、リチウム二次電池の正極活物質の製造方法であって、
前記第二原料化合物として、無水水酸化リチウムを用いることを特徴とする、
リチウム二次電池の正極活物質の製造方法。
【請求項7】
リチウム複合酸化物を含有する、リチウム二次電池の正極活物質の製造方法であって、
前記リチウム複合酸化物を構成する遷移金属のうちのリチウム以外のものの化合物である第一原料化合物を含む、成形体である中間体を生成する、中間体生成工程と、
前記中間体生成工程によって生成された前記中間体の表面に、リチウム源化合物である第二原料化合物が膜状に付着するように、前記第二原料化合物を添加する、リチウム源化合物添加工程と、
前記リチウム源化合物添加工程によって前記表面に前記第二原料化合物が付着された状態の前記中間体を焼成することで、前記リチウム複合酸化物を生成する、焼成工程と、
を有し、
前記中間体生成工程は、
前記第一原料化合物の造粒体を形成する、造粒工程と、
前記造粒体を所定形状に成形することで前記成形体を形成する、成形工程と、
を有することを特徴とする、
リチウム二次電池の正極活物質の製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載の、リチウム二次電池の正極活物質の製造方法であって、
前記造粒工程は、複数の前記第一原料化合物の粉末を湿式で粉砕しつつ混合することで調製されたスラリーを、噴霧乾燥することで、前記造粒体を形成する工程であることを特徴とする、
リチウム二次電池の正極活物質の製造方法。
【請求項9】
請求項7に記載の、リチウム二次電池の正極活物質の製造方法であって、
前記中間体生成工程は、
前記成形工程を経た前記造粒体を熱処理する、第1仮焼成工程をさらに有することを特徴とする、
リチウム二次電池の正極活物質の製造方法。
【請求項10】
請求項7に記載の、リチウム二次電池の正極活物質の製造方法であって、
前記中間体生成工程は、
前記造粒工程と前記成形工程との間において、前記造粒体を熱処理する、第1仮焼成工程をさらに有することを特徴とする、
リチウム二次電池の正極活物質の製造方法。
【請求項11】
請求項9又は請求項10に記載の、リチウム二次電池の正極活物質の製造方法であって、
前記リチウム源化合物添加工程は、前記成形体である前記中間体を熱処理する、第2仮焼成工程を有し、
前記第2仮焼成工程における前記中間体の熱処理温度は、前記第1仮焼成工程における前記造粒体の熱処理温度よりも低いことを特徴とする、
リチウム二次電池の正極活物質の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム二次電池の正極活物質の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム二次電池の正極活物質として、リチウム複合酸化物(リチウム遷移金属酸化物)を用いたものが、広く知られている(例えば、特開平5−226004号公報等参照。)。
【発明の概要】
【0003】
この種の正極活物質の従来の製造方法においては、最終的に得られた正極活物質の合成度が必ずしも良好ではなかった。この原因としては、リチウム複合酸化物を構成する遷移金属のうちのリチウム以外のものの化合物と、リチウム化合物と、を混合して焼成する際に、両者の混合ムラが生じることで、所望の組成のリチウム複合酸化物が良好に合成されない箇所が生じることが考えられる。このような混合ムラは、特に、得られるべき正極活物質の最終的な形状を所望の形状(例:板、棒、多面体、概ね平均粒径100μm以上の大粒子状、等)にするために、製造工程において成形工程を導入した場合に顕著に生じる。本発明は、このような課題に対処するためになされたものである。
【0004】
本発明の対象となる製造方法は、リチウム二次電池の正極活物質であって、リチウム複合酸化物を含有するものの、製造方法である。ここで、「リチウム複合酸化物」とは、典型的には、LiMO(0.05<x<1.10、Mは少なくとも1種類の遷移金属)で表される酸化物である。
【0005】
本発明の製造方法の特徴は、当該製造方法が、以下の工程を有することにある。
・前記リチウム複合酸化物を構成する遷移金属のうちのリチウム以外のものの化合物である第一原料化合物を含む、粉末あるいは成形体である中間体を生成する、中間体生成工程
・前記中間体生成工程によって生成された前記中間体の表面に、リチウム化合物である第二原料化合物が膜状に付着するように、前記第二原料化合物を添加する、リチウム源化合物添加工程
・前記リチウム源化合物添加工程によって前記表面に前記第二原料化合物が付着された状態の前記中間体を焼成することで、前記リチウム複合酸化物を生成する、焼成工程
【0006】
ここで、「膜状」とは、前記中間体の前記表面に前記第二原料化合物が連続的に付着している状態と定義することが可能である。具体的には、例えば、前記中間体の前記表面に前記第二原料化合物の粒子が少なくとも1粒子以上(好ましくは2粒子以上)の厚みを持って付着している場合に、前記第二原料化合物が前記中間体の前記表面に「膜状」に付着している、ということができる。
【0007】
前記中間体の前記表面における被覆率は、70%以上であることが好ましく、90%以上であることがさらに好ましい。ここで、「被覆率」とは、前記中間体の前記表面における前記第二原料化合物が付着している部分の割合を百分率で示した値である。
【0008】
前記リチウム源化合物添加工程は、前記第二原料化合物を溶媒に分散あるいは溶解させたものである第二原料化合物含有液体を、前記中間体に添加する工程であってもよい。この場合、具体的には、例えば、前記リチウム源化合物添加工程は、前記第二原料化合物含有液体を、前記中間体にスプレーで噴霧することで、当該中間体の前記表面に前記第二原料化合物を付着させる工程であってもよい。
【0009】
なお、前記中間体生成工程は、
前記第一原料化合物の造粒体を形成する、造粒工程
を有していてもよい。
【0010】
この場合、前記造粒工程は、複数の前記第一原料化合物の粉末を湿式で粉砕しつつ混合することで調製されたスラリーを、噴霧乾燥することで、前記造粒体を形成する工程であってもよい。
【0011】
また、前記中間体生成工程は、
前記第一原料化合物を含む成形原料を所定形状に成形する、成形工程
を有していてもよい。
【0012】
前記成形工程は、例えば、前記造粒工程によって得られた前記造粒体を成形する工程であってもよい。
【0013】
また、前記中間体生成工程は、
前記造粒体を熱処理する、仮焼成工程
を有していてもよい。
【0014】
この場合、前記仮焼成工程は、成形工程を経た前記造粒体を熱処理する工程であってもよい。
【0015】
前記第一原料化合物としては、ニッケル水酸化物やコバルト水酸化物が用いられ得る。また、前記第二原料化合物としては、無水水酸化リチウムが用いられ得る。
【0016】
なお、本発明の製造方法の対象となる前記リチウム複合酸化物は、典型的には、層状岩塩構造を有している。ここで、「層状岩塩構造」とは、リチウム以外の遷移金属層とリチウム層とが酸素原子の層を挟んで交互に積層された結晶構造、すなわち、リチウム以外の遷移金属のイオン層とリチウムイオン層とが酸化物イオンを挟んで交互に積層された結晶構造(典型的にはα−NaFeO型構造:立方晶岩塩型構造の[111]軸方向に遷移金属とリチウムとが規則配列した構造)をいう。
【0017】
層状岩塩構造を有する前記リチウム複合酸化物としては、コバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、マンガン酸リチウム、ニッケル・マンガン酸リチウム、ニッケル・コバルト酸リチウム、コバルト・ニッケル・マンガン酸リチウム、コバルト・マンガン酸リチウム等を用いることが可能である。さらに、これらの材料に、Mg,Al,Si,Ca,Ti,V,Cr,Fe,Cu,Zn,Ga,Ge,Sr,Y,Zr,Nb,Mo,Ag,Sn,Sb,Te,Ba,Bi等の元素が1種以上含まれていてもよい。すなわち、例えば、前記リチウム複合酸化物は、ニッケル−コバルト−アルミニウム系複合酸化物であってもよい。
【0018】
本発明の製造方法においては、まず、前記第一原料化合物を含む前記中間体が生成される。次に、生成された前記中間体の表面にリチウム化合物である前記第二原料化合物が均一に付着するように、前記第二原料化合物が添加される。続いて、前記表面に前記第二原料化合物が付着された状態の前記中間体を焼成することで、前記リチウム複合酸化物が生成される。
【0019】
このように、本発明の製造方法によれば、焼成の際における、前記第一原料化合物とリチウム化合物である前記第二原料化合物との混合ムラの発生が、可及的に抑制される。したがって、本発明によれば、所望の組成の前記リチウム複合酸化物が良好に合成された状態の、前記正極活物質が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、リチウム二次電池の概略構成の一例を示す断面図である。
図2図2は、図1に示されている正極板の一例の、拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の好適な実施形態を、実施例及び比較例を用いつつ説明する。なお、以下の実施形態に関する記載は、法令で要求されている明細書の記載要件(記述要件や実施可能要件等)を満たすために、一応出願時において最良と考えられる本発明の具体化の単なる一例を、可能な範囲で具体的に記述しているものにすぎない。
【0022】
よって、後述するように、本発明が、以下に説明する実施形態や実施例の具体的構成に何ら限定されるものではないことは、全く当然である。本実施形態や実施例に対して施され得る各種の変更(変形例:modification)の例示は、当該実施形態の説明中に挿入されると、一貫した実施形態の説明の理解が妨げられるので、可能な限り末尾にまとめて記載されている。
【0023】
1.リチウム二次電池の概略構成
図1は、リチウム二次電池1の概略構成の一例を示す断面図である。図1を参照すると、このリチウム二次電池1は、いわゆる液体型であって、正極板2と、負極板3と、セパレータ4と、正極用タブ5と、負極用タブ6と、を備えている。
【0024】
正極板2と負極板3との間には、セパレータ4が設けられている。すなわち、正極板2と、セパレータ4と、負極板3とは、この順に積層されている。正極板2には、正極用タブ5が電気的に接続されている。同様に、負極板3には、負極用タブ6が電気的に接続されている。
【0025】
図1に示されているリチウム二次電池1は、正極板2、セパレータ4、及び負極板3の積層体と、リチウム化合物を電解質として含む電解液とを、所定の電池ケース(図示せず)内に液密的に封入することによって構成されている。
【0026】
2.正極の構成
図2は、図1に示されている正極板2の一例の、拡大断面図である。図2を参照すると、正極板2は、正極集電体21と、正極活物質層22と、を備えている。すなわち、正極板2は、正極集電体21と正極活物質層22とを互いに接合(積層)した状態に形成されている。
【0027】
正極活物質層22は、正極活物質粒子22bと、この正極活物質粒子22bを分散状態で支持するとともに導電助剤を含有する結着材22cと、から構成されている。本発明の製造方法によって製造される正極活物質粒子22bは、層状岩塩構造を有するリチウム複合酸化物であって、例えば、製造工程中にて所定の成形工程を経ることで板状粒子として形成され得る。
【0028】
3.製造方法の概要
以下、図2に示されている正極活物質粒子22bの製造方法の概要について説明する。
【0029】
(A)中間体生成工程
複数の第一原料化合物を含む、粉末あるいは成形体である、中間体を生成する。ここで、「第一原料化合物」とは、リチウム複合酸化物を構成する遷移金属のうちのリチウム以外のものの化合物である。例えば、リチウム複合酸化物がLi(Ni,Co,Al)Oの組成(x+y+z=1)を有する場合、上述の第一原料化合物としては、ニッケル化合物、コバルト化合物、及びアルミニウム化合物が用いられる。
【0030】
なお、この中間体生成工程においては、第一原料化合物の造粒体を形成する造粒工程が行われ得る。この造粒工程としては、複数の第一原料化合物の粉末を湿式で粉砕しつつ混合することで調製されたスラリーを、噴霧乾燥する工程が行われ得る。
【0031】
また、この中間体生成工程においては、第一原料化合物を含む成形原料を所定形状に成形する成形工程が行われ得る。この成形工程は、例えば、上述の造粒体を成形する工程であってもよい。
【0032】
さらに、この中間体生成工程においては、上述の造粒体を熱処理する仮焼成工程が行われ得る。この仮焼成工程は、成形工程を経た造粒体を熱処理する工程であってもよい。
【0033】
造粒工程を行うか否か、成形工程を行うか否か、及び仮焼成工程を行うか否か、は、得られるべき正極活物質粒子22bあるいは正極活物質層22の特性(形状や材質等)によって、適宜選択され得る。
【0034】
中間体生成工程によって生成される「中間体」には、第一原料化合物の造粒体、第一原料化合物の成形体(上述の造粒体の成形体を含む)、及び上述の造粒体(かかる造粒体の成形体を含む)を熱処理する仮焼成工程によって得られた正極活物質前駆体(リチウム以外の遷移金属の複合酸化物)が含まれる。
【0035】
(B)リチウム源化合物添加工程
中間体の表面に、リチウム化合物である第二原料化合物が均一に付着するように、第二原料化合物(リチウム源化合物)を添加する。第二原料化合物の添加方法としては、中間体の性質(形状等)によって任意の方法(スプレー噴霧、ハイブリダイゼーション、ディッピング等)が採用可能である。具体的には、例えば、上述のリチウム化合物を粉砕した微粒子を所定の溶媒に分散あるいは溶解したもの(以下、「リチウム化合物含有液体」と称する。)を、中間体にスプレーで噴霧することで、中間体の表面を第二原料化合物でコーティングする方法が、好適に用いられ得る。
【0036】
第二原料化合物としては、水酸化リチウム一水和物(LiOH・HO)、炭酸リチウム(LiCO)、無水水酸化リチウム(LiOH)、等が用いられ得る。ここで、第二原料化合物として炭酸リチウムや無水水酸化リチウム等の無水和物を用いた場合、合成時の脱水による体積変化が抑制される。よって、この場合、合成時におけるクラックの発生が、可及的に抑制される。
【0037】
もっとも、第二原料化合物として炭酸リチウムを用いた場合、炭酸リチウムは反応性が高くなく、したがって合成度が比較的低くなりがちである。よって、第二原料化合物としては、無水水酸化リチウムを用いることが好適である。
【0038】
(C)焼成工程
表面に第二原料化合物が付着された状態の中間体を焼成することで、リチウム複合酸化物(正極活物質粒子22b)を生成する。
【0039】
4.実施例
以下、図2に示されている正極活物質粒子22bの製造方法の具体例(実施例)について説明する。
【0040】
4−1.実施例1:板状粒子
以下、図2に示されている正極活物質粒子22bが板状に成形されたものである場合の製造方法の具体例(実施例1)について説明する。
【0041】
[実施例1−1]
(1)スラリー調製
Ni(OH)粉末(株式会社高純度化学研究所製)81.6重量部と、Co(OH)粉末(和光純薬工業株式会社製)15.0重量部と、Al・HO粉末(SASOL社製)3.4重量部と、を秤量した。次に、純水97.3重量部と、分散剤(日油株式会社製:品番AKM−0521)0.4重量部と、消泡剤としての1−オクタノール(片山化学株式会社製)0.2重量部と、バインダー(日本酢ビ・ポバール株式会社製:品番PV3)2.0重量部と、からなるビヒクルを作製した。
【0042】
続いて、かかるビヒクルと原料粉末(上述の秤量物)とを湿式で混合及び粉砕することで、スラリーを調製した。湿式の混合及び粉砕は、直径2mmのジルコニアボールを用いたボールミルで24時間処理した後、直径0.1mmのジルコニアビーズを用いたビーズミルで40分間処理することによって行った。
【0043】
(2)造粒
二流体ノズル方式のスプレードライヤーに上述のスラリーを投入することで、造粒体を形成した。スプレードライヤーの噴出圧力、ノズル径、循環風量、等のパラメータを適宜調整することで、種々の大きさの造粒体を形成することが可能である。
【0044】
(3)熱処理(仮焼成)
上述の造粒体を、1100℃で3時間(大気雰囲気)熱処理することで、ニッケル、コバルト、及びアルミニウムの複合酸化物((Ni0.8,Co0.15,Al0.05)O)の粒子である、正極活物質前駆体粒子を得た。
【0045】
(4)成形
得られた正極活物質前駆体粒子粉末100重量部と、分散媒(キシレン:ブタノール=1:1)50重量部と、バインダーとしてのポリビニルブチラール(積水化学工業株式会社製:品番BM−2、)10重量部と、可塑剤としてのDOP(フタル酸ジオクチル:黒金化成株式会社製)4.5重量部と、分散剤(花王株式会社製 製品名「レオドールSPO−30」)3重量部と、を秤量し、乳鉢で予備混練した後、トリロールを用いて混練することで、2000〜3000cPの粘度の成形用スラリーを調製した(粘度はブルックフィールド社製LVT型粘度計を用いて測定した)。
【0046】
得られた成形用スラリーを用いて、ドクターブレード法により、厚さ50μmのシートを形成した。乾燥後のシートに対して打ち抜き加工を施すことによって、1mm四方のグリーンシート成形体を得た。
【0047】
(5)焼成(リチウム導入)
上述のようにして得られた1mm四方のグリーンシート成形体を、大気雰囲気中で900℃にて熱処理することで、成形体の脱脂及び仮焼成を行った。かかる成形体仮焼成の温度は、上述の熱処理(造粒体仮焼成)温度よりも低い。これは、成形体の仮焼成時に内部の粒子間の焼結の進行を抑制することで、後続する本焼成時にリチウムが均一に拡散及び反応するようにするためである。
【0048】
得られた仮焼体を回転数15rpmに設定した回転式造粒機に投入し、かかる回転式造粒機内にて、その仮焼体に対して、水酸化リチウム一水和物(LiOH・HO)のエタノール分散液をエアブラシによって所定量スプレーしたものを、回転式造粒機内から取り出して750℃で6時間(酸素雰囲気)熱処理することで、Li(Ni0.8,Co0.15,Al0.05)Oの組成を有する正極活物質の板状粒子(以下、「正極活物質板状体」と称する。)を作製した。なお、上述のLiOH・HOのエタノール分散液は、以下のようにして調製したものである。
【0049】
まず、LiOH・HO粉末(和光純薬工業株式会社製)を、ジェットミルを用いて、電子顕微鏡観察による目視粒径で1〜5μmになるように粉砕した。この粉末をエタノール(片山化学株式会社製)100重量部に対し1重量部の割合で加えたものを、超音波により、粉末が目視によって確認することができなくなるまで分散させた。
【0050】
[実施例1−2]
回転式造粒機の回転数を10rpmに変更したこと以外は、上述の実施例1−1と同様にして、正極活物質板状体を作製した。
【0051】
[実施例1−3]
回転式造粒機の回転数を5rpmに変更したこと以外は、上述の実施例1−1と同様にして、正極活物質板状体を作製した。
【0052】
[実施例1−4]
回転式造粒機の回転数を2rpmに変更したこと以外は、上述の実施例1−1と同様にして、正極活物質板状体を作製した。
【0053】
[実施例1−5]
エアブラシによってスプレーするリチウム源化合物を水酸化リチウム一水和物(LiOH・HO)から無水水酸化リチウム(LiOH)に変更したこと以外は、上述の実施例1−1と同様にして、正極活物質板状体を作製した。
【0054】
[比較例1]
得られた仮焼体に水酸化リチウム一水和物(LiOH・HO)分散液をスプレーする代わりに、得られた仮焼体と粉末状の水酸化リチウム一水和物(LiOH・HO)とを乳鉢で混合したこと以外は、上述の実施例1−1と同様にして、正極活物質板状体を作製した。
【0055】
4−2.実施例2:粉末(非成形体)
以下、図2に示されている正極活物質粒子22bが通常の粉末状である(板状に成形されたものではない)場合の製造方法の具体例(実施例2)について説明する。
【0056】
[実施例2−1]
(1)スラリー調製
上述の実施例1と同様に行った。
【0057】
(2)造粒
上述の実施例1と同様に行った。
【0058】
(3)熱処理(仮焼成)
上述の実施例1と同様に行った。
【0059】
(4)焼成(リチウム導入)
得られた正極活物質前駆体粒子粉末を回転数15rpmに設定した回転式造粒機に投入し、かかる回転式造粒機内にて、その粉末に対して、水酸化リチウム一水和物(LiOH・HO)のエタノール分散液をエアブラシによって所定量スプレーしたものを、回転式造粒機内から取り出して750℃で6時間(酸素雰囲気)熱処理することで、Li(Ni0.8,Co0.15,Al0.05)Oの組成を有する正極活物質粉末を作製した。
【0060】
[実施例2−2]
エアブラシによってスプレーするリチウム源化合物を水酸化リチウム一水和物(LiOH・HO)から無水水酸化リチウム(LiOH)に変更したこと以外は、実施例2−1と同様にして、正極活物質粉末を作製した。
【0061】
[比較例2]
得られた仮焼体粉末に水酸化リチウム一水和物(LiOH・HO)分散液をスプレーする代わりに、得られた仮焼体粉末と粉末状の水酸化リチウム一水和物(LiOH・HO)とを乳鉢で混合したこと以外は、実施例2−1と同様にして、正極活物質粉末を作製した。
【0062】
4−3.評価方法
上述の具体例の製造方法によって製造された正極活物質の評価方法について、以下に説明する。
【0063】
(1)被覆率
仮焼体あるいは正極活物質前駆体粒子粉末(以下簡便のため、まとめて「中間体」と表記する)にリチウム原料を添加した段階のものを合成樹脂に埋めた後にCP研磨にて一断面を削り出すことでSEM観察用試料を作成し、この試料についてSEM観察を行った。この観察画像より、中間体一つに対して、リチウム原料の付着状態が膜状であるか、凝集体状であるかを評価した。
【0064】
ここで、「膜状」とは、中間体の表面にリチウム原料粒子が2粒子以上の厚みを持って連続的に付着している状態と定義し、それ以外を「凝集体状」とした。さらに、断面における中間体の外周部がリチウム原料によって覆われている割合を、被覆率として評価した(中間体の外周部がリチウム原料によって完全に覆われている状態を被覆率100%とした)。
【0065】
(2)半値幅
正極活物質の合成度の良否を表す指標として、「半値幅」の評価を行った。ここで言う「半値幅」とは、公知の方法で正極活物質のXRD測定を行い、その解析結果より、2θ=44.5°程度に現れる(104)面回折ピークの半値幅を示す。
【0066】
(3)スプリット
正極活物質の合成度の良否を表す指標として、「スプリット」と呼ばれる値を評価方法として導入した。ここで言う「スプリット」とは、公知の方法で正極活物質のXRD測定を行い、その解析結果より、2θ=64.5°程度に現れる(018)面回折ピークと2θ=65.1°程度に現れる(110)面回折ピークを用い、両ピークの間の最も谷となる部分の強度Iと110面回折ピーク強度Iとの比I/Iで表される値のことを示す。このスプリットの値が小さいほど、結晶性が高い、すなわち、合成度が高いことを示している。
【0067】
(4)形状良品率
板状体の正極活物質については、その形状を目視で観察し、クラックのないものを良品として、板状体100枚における良品の割合をパーセントで評価した。ここで、クラックとは、板状体の割れ、欠け、及び表面での(数個の結晶一次粒子に相当する厚さの表層の)剥がれ、等をいうものとする。
【0068】
4−4.評価結果
上述の実施例1(実施例1−1〜1−5)並びに比較例1の評価結果を表1に、上述の実施例2(実施例2−1及び2−2)並びに比較例2の評価結果を表2に、それぞれ示す
【表1】
【表2】
【0069】
表1の結果から明らかなように、リチウム源化合物を膜状にコーティングした実施例1−1〜5においては、リチウム源化合物を単に乾式混合することで凝集体状の付着状態であった比較例1よりも良好な合成度が得られた。なお、無水水酸化リチウムを用いた実施例1−5においては、水和物を用いた実施例1−1〜4よりも、顕著に高い形状良品率が得られた。
【0070】
さらに、被覆率が90%以上である実施例1−1、1−2及び1−5においては、よりいっそう良好な合成度が得られた。これは、被覆率が高いほど、部分的なリチウム源化合物の不足を効果的に抑制できるためである、と考えられる。したがって、被覆率としては70%以上が好ましく、90%以上であることがさらに好ましい。
【0071】
同様に、表2の結果から明らかなように、リチウム源化合物を膜状にコーティングした実施例2−1〜2においては、リチウム源化合物を単に乾式混合した比較例2よりも良好な合成度が得られた。
【0072】
このように、中間体にリチウム源化合物の均一な膜状コーティングを行うことで、部分的なリチウム源化合物の不足の発生が可及的に抑制される。この効果は、焼成前の粒子内にリチウム源化合物を均一に混合することが通常は困難な場合(粒子径が大きい粉末の場合や、粒子を所定形状に成形した場合)に、特に良好に得られる。
【0073】
5.変形例の例示列挙
なお、上述の実施形態や具体例は、上述した通り、出願人が取り敢えず本願の出願時点において最良であると考えた本発明の具現化の一例を単に示したものにすぎないのであって、本発明はもとより上述の実施形態や具体例によって何ら限定されるべきものではない。よって、上述の実施形態や具体例に対して、本発明の本質的部分を変更しない範囲内において、種々の変形が施され得ることは、当然である。
【0074】
以下、変形例について幾つか例示する。以下の変形例の説明において、上述の実施形態における各構成要素と同様の構成・機能を有する構成要素については、本変形例においても同一の名称及び同一の符号が付されているものとする。そして、当該構成要素の説明については、上述の実施形態における説明が、矛盾しない範囲で適宜援用され得るものとする。
【0075】
もっとも、変形例とて、下記のものに限定されるものではないことは、いうまでもない。本発明を、上述の実施形態や下記変形例の記載に基づいて限定解釈することは、出願人の利益を不当に害する反面、模倣者を不当に利するものであって、許されない(特に出願を急ぐ先願主義の下ではなおさらである)。
【0076】
また、上述の実施形態の構成、及び下記の各変形例に記載された構成の全部又は一部が、技術的に矛盾しない範囲において、適宜複合して適用され得ることも、いうまでもない。
【0077】
本発明の適用対象であるリチウム二次電池1の構成は、上述のような構成に限定されない。例えば、本発明は、いわゆる液体型の電池構成に限定されない。すなわち、例えば、電解質としては、ゲル電解質、ポリマー電解質が用いられ得る。また、本発明において利用可能な正極活物質は、上述の具体例に示された組成に限定されない。
【0078】
本発明は、上述の具体的な製造方法に何ら限定されるものではない。すなわち、例えば、共沈法によって得られた水酸化物を造粒したものも、造粒体として好適に用いられ得る。また、原料粉末には、複数種類の遷移金属化合物(酸化物、水酸化物、炭酸塩、等)が含まれ得る。さらに、成形方法は、上述の方法に限定されない。
【0079】
その他、特段に言及されていない変形例についても、本発明の本質的部分を変更しない範囲内において、本発明の技術的範囲に含まれることは当然である。
【0080】
また、本発明の課題を解決するための手段を構成する各要素における、作用・機能的に表現されている要素は、上述の実施形態や変形例にて開示されている具体的構造の他、当該作用・機能を実現可能ないかなる構造をも含む。さらに、本明細書にて引用した先行出願や各公報の内容(明細書及び図面を含む)は、本明細書の一部を構成するものとして適宜援用され得る。
図1
図2