(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
スパークプラグの部品を溶接する場合(例えば、キャップをハウジングに溶接する場合)、溶接に起因して不具合が生じる場合があった。例えば、溶接によって溶融する部分に空気等のガスが取り込まれることによって、冷えて固まった部分の中に小さい空洞が形成される場合があった。そのような空洞は、クラック等の不具合を引き起こし得る。
【0005】
本開示は、溶接に起因する不具合の可能性を低減する技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の態様によれば、例えば、以下の
形態、または、適用例が提供される。
[形態]
軸線の方向に延びる貫通孔を有する主体金具と、
前記主体金具の先端側の開口を覆うキャップと、
前記キャップと前記主体金具との間に形成され前記キャップと前記主体金具とを接合する溶融部と、
を備えるスパークプラグであって、
前記主体金具と前記キャップとに囲まれる空間である特定空間から前記溶融部へ至り前記主体金具と前記キャップとに挟まれる間隙を有し、
前記間隙は、
前記特定空間に連通する第1間隙と、
前記第1間隙と前記特定空間とに連通し、前記第1間隙よりも大きい第2間隙と、
を含む、
スパークプラグ。
【0007】
[適用例1]
軸線の方向に延びる貫通孔を有する主体金具と、
前記主体金具の先端側の開口を覆うキャップと、
前記キャップと前記主体金具との間に形成され前記キャップと前記主体金具とを接合する溶融部と、
を備えるスパークプラグであって、
前記主体金具と前記キャップとに囲まれる空間である特定空間から前記溶融部へ至り前記主体金具と前記キャップとに挟まれる間隙を有する、スパークプラグ。
【0008】
この構成によれば、溶融部の形成時に、間隙を通じてガス抜きを行うことができるので、溶接に起因する不具合の可能性を低減できる。
【0009】
[適用例2]
適用例1に記載のスパークプラグであって、
前記間隙は、
前記特定空間に連通する第1間隙と、
前記第1間隙と前記特定空間とに連通し、前記第1間隙よりも大きい第2間隙と、
を含む、スパークプラグ。
【0010】
この構成によれば、溶融部の形成時に、第1間隙よりも大きい第2間隙を通じて適切にガス抜きを行うことができるので、溶接に起因する不具合の可能性を低減できる。
【0011】
[適用例3]
適用例2に記載のスパークプラグであって、
前記主体金具は、前記軸線に対して非垂直な第1面を有し、
前記キャップは、前記主体金具の前記第1面に対向して前記第1間隙と前記第2間隙とを形成する第2面を有する、
スパークプラグ。
【0012】
この構成によれば、主体金具に対するキャップの位置ずれ(特に軸線に垂直な方向の位置ずれ)を抑制しつつ、溶接に起因する不具合の可能性を低減できる。
【0013】
[適用例4]
適用例3に記載のスパークプラグであって、
前記主体金具の前記第1面は、前記主体金具の内周面のうちの先端側の部分であり、
前記キャップは、後端側に向かって突出し、前記主体金具の前記第1面の内周側に位置する突出部を有し、
前記キャップの前記第2面は、前記突出部の外周側の面である、
スパークプラグ。
【0014】
この構成によれば、主体金具に対するキャップの位置ずれ(特に軸線に垂直な方向の位置ずれ)を抑制しつつ、溶接に起因する不具合の可能性を低減できる。
【0015】
[適用例5]
適用例1から4のいずれか1項に記載のスパークプラグであって、
前記間隙は環状である、スパークプラグ。
【0016】
この構成によれば、溶融部の形成時に、周方向の任意の位置からガス抜きが可能であるので、溶接に起因する不具合の可能性を低減できる。
【0017】
[適用例6]
適用例1から4のいずれか1項に記載のスパークプラグであって、
前記間隙は、前記軸線の方向からみた場合に、周方向の複数の位置に設けられている、スパークプラグ。
【0018】
この構成によれば、溶融部の形成時に、周方向の複数の位置に設けられている間隙を通じて適切にガス抜きを行うことができるので、溶接に起因する不具合の可能性を低減できる。
【0019】
[適用例7]
適用例2から4のいずれか1項に記載のスパークプラグであって、
前記主体金具と前記キャップとは、Nを3以上の整数とし、前記周方向の位置が互いに異なるN個の前記第2間隙を形成し、
前記N個の第2間隙を前記軸線に垂直な投影面上に前記軸線と平行に投影し、前記投影面を、前記軸線を中心とする中心角が120度である3個の領域に区分する場合に、前記3個の領域のそれぞれが1以上の前記第2間隙を含む、
スパークプラグ。
【0020】
この構成によれば、N個の第2間隙部分の周方向の位置が偏ることが抑制されるので、溶接に起因する不具合の可能性を適切に低減できる。
【0021】
[適用例8]
スパークプラグの製造方法であって、
軸線の方向に延びる貫通孔を有する主体金具の先端側の開口を覆う特定位置にキャップを配置することと、
前記特定位置に配置された前記キャップを前記主体金具に溶接することと、
を含み、
前記主体金具と前記特定位置に配置された前記キャップとは、前記主体金具と前記キャップとに囲まれる空間である特定空間に連通し前記主体金具と前記キャップとに挟まれる環状の間隙を形成し、
前記環状の間隙は、
前記特定空間に連通する第1間隙と、
前記特定空間に連通するとともに、前記第1間隙よりも大きい第2間隙と、
を含み、
前記キャップを前記主体金具に溶接することは、
前記環状の間隙に連通する前記主体金具と前記キャップとの境界のうち前記周方向の位置が特定の第2間隙の周方向の位置とは異なる部分である特定部分を溶接することと、
前記特定部分の溶接の後に、前記境界のうち前記周方向の位置が前記特定の第2間隙の周方向の位置と同じ部分を溶接することと、
を含む、製造方法。
【0022】
この構成によれば、特定部分の溶接を行う場合に特定の第2間隙部分を通じてガス抜きを行うことができるので、溶接における不具合の可能性を低減できる。
【0023】
なお、本発明は、種々の形態で実現することが可能であり、例えば、スパークプラグ、スパークプラグの製造方法、その製造方法によって製造されたスパークプラグ、等の態様で実現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
A.第1実施形態:
A1.装置構成:
図1は、スパークプラグの一実施形態の断面図である。図中には、スパークプラグ100の中心軸CLが示されている(「軸線CL」とも呼ぶ)。図示された断面は、中心軸CLを含む断面である。以下、中心軸CLと平行な方向を「軸線CLの方向」、または、単に「軸線方向」とも呼ぶ。中心軸CLを中心とする円の径方向を、単に「径方向」とも呼び、中心軸CLを中心とする円の円周方向を「周方向」とも呼ぶ。中心軸CLに平行な方向のうち、
図1における下方向を先端方向Dfと呼び、上方向を後端方向Dfrとも呼ぶ。先端方向Dfは、後述する端子金具40から電極20、30に向かう方向である。また、
図1における先端方向Df側をスパークプラグ100の先端側と呼び、
図1における後端方向Dfr側をスパークプラグ100の後端側と呼ぶ。
【0026】
スパークプラグ100は、絶縁体10(「絶縁碍子10」とも呼ぶ)と、中心電極20と、接地電極30と、端子金具40と、主体金具50と、導電性の第1シール部60と、抵抗体70と、導電性の第2シール部80と、先端側パッキン8と、タルク9と、第1後端側パッキン6と、第2後端側パッキン7と、キャップ300と、を有している。
【0027】
絶縁体10は、中心軸CLに沿って延びて絶縁体10を貫通する貫通孔12(以下「軸孔12」とも呼ぶ)を有する略円筒状の部材である。絶縁体10は、アルミナを含む材料を焼成して形成されている(他の絶縁材料も採用可能である)。絶縁体10は、先端側から後端方向Dfrに向かって順番に並ぶ、脚部13と、第1縮外径部15と、先端側胴部17と、鍔部19と、第2縮外径部11と、後端側胴部18と、を有している。鍔部19は、絶縁体10のうちの外径が最も大きい部分である。第1縮外径部15の外径は、後端側から先端側に向かって、徐々に小さくなる。絶縁体10の第1縮外径部15の近傍(
図1の実施形態では、先端側胴部17)には、後端側から先端側に向かって内径が徐々に小さくなる縮内径部16が形成されている。第2縮外径部11の外径は、先端側から後端側に向かって、徐々に小さくなる。
【0028】
絶縁体10の軸孔12の先端側には、中心電極20が挿入されている。中心電極20は、中心軸CLに沿って延びる棒状の軸部27と、軸部27の先端に接合されたチップ200と、を有している。軸部27は、先端側から後端方向Dfrに向かって順番に並ぶ、脚部25と、鍔部24と、頭部23と、を有している。脚部25の先端(すなわち、軸部27の先端)に、チップ200が接合されている(例えば、レーザ溶接)。チップ200は、絶縁体10の先端側で、軸孔12の外に露出している。鍔部24の先端方向Df側の面は、絶縁体10の縮内径部16によって、支持されている。また、軸部27は、外層21と芯部22とを有している。外層21は、芯部22よりも耐酸化性に優れる材料、すなわち、内燃機関の燃焼室内で燃焼ガスに曝された場合の消耗が少ない材料(例えば、純ニッケル、ニッケルとクロムとを含む合金、等)で形成されている。芯部22は、外層21よりも熱伝導率が高い材料(例えば、純銅、銅合金、等)で形成されている。芯部22の後端部は、外層21から露出し、中心電極20の後端部を形成する。芯部22の他の部分は、外層21によって被覆されている。ただし、芯部22の全体が、外層21によって覆われていても良い。また、チップ200は、軸部27よりも放電に対する耐久性に優れる材料(例えば、イリジウム(Ir)、白金(Pt)等の貴金属、タングステン(W)、それらの金属から選択された少なくとも1種を含む合金)を用いて形成されている。
【0029】
絶縁体10の軸孔12の後端側には、端子金具40の一部が挿入されている。端子金具40は、導電性材料(例えば、低炭素鋼等の金属)を用いて形成されている。
【0030】
絶縁体10の軸孔12内において、端子金具40と中心電極20との間には、電気的なノイズを抑制するための略円柱形状の抵抗体70が配置されている。抵抗体70は、例えば、導電性材料(例えば、炭素粒子)と、セラミック粒子(例えば、ZrO
2)と、ガラス粒子(例えば、SiO
2−B
2O
3−Li
2O−BaO系のガラス粒子)と、を含む材料を用いて形成されている。抵抗体70と中心電極20との間には、導電性の第1シール部60が配置され、抵抗体70と端子金具40との間には、導電性の第2シール部80が配置されている。シール部60、80は、例えば、抵抗体70の材料に含まれるものと同じガラス粒子と、金属粒子(例えば、Cu)と、を含む材料を用いて、形成されている。中心電極20と端子金具40とは、抵抗体70とシール部60、80とを介して、電気的に接続されている。
【0031】
主体金具50は、中心軸CLに沿って延びて主体金具50を貫通する貫通孔59を有する略円筒状の部材である。主体金具50は、低炭素鋼材を用いて形成されている(他の導電性材料(例えば、金属材料)も採用可能である)。主体金具50の貫通孔59には、絶縁体10が挿入されている。主体金具50は、絶縁体10の外周に固定されている。主体金具50の後端側では、絶縁体10の後端(本実施形態では、後端側胴部18の後端側の部分)が、貫通孔59の外に露出している。
【0032】
主体金具50の先端側では、中心電極20の先端(ここでは、チップ200の先端)が、貫通孔12の内部に配置されている。主体金具50の内周面には、棒状の接地電極30が固定されている。接地電極30は、主体金具50の内周面から、チップ200の側面と対向する位置まで、延びている。接地電極30とチップ200の側面とは、間隙sgを形成している。この間隙sgで、火花放電が生じる(以下「放電間隙sg」と呼ぶ)。接地電極30は、耐酸化性に優れる材料(例えば、ニッケルとクロムとを含む合金)を用いて形成されている(他の材料も採用可能である)。主体金具50の先端側には、主体金具50の先端側の開口を覆うキャップ300が固定されている。キャップ300は、耐酸化性に優れる材料(例えば、ニッケルとクロムとを含む合金)を用いて形成されている(他の材料も採用可能である)。中心電極20と接地電極30とキャップ300との詳細については、後述する。
【0033】
主体金具50は、先端側から後端側に向かって順番に並ぶ、胴部55と、座部54と、変形部58と、工具係合部51と、加締部53と、を有している。座部54は、鍔状の部分である。胴部55は、座部54から中心軸CLに沿って先端方向Dfに向かって延びる略円筒状の部分である。胴部55の外周面には、内燃機関の取付孔にねじ込むためのねじ山52が形成されている。座部54とねじ山52との間には、金属板を折り曲げて形成された環状のガスケット5が嵌め込まれている。
【0034】
主体金具50は、変形部58よりも先端方向Df側に配置された縮内径部56を有している。縮内径部56の内径は、後端側から先端側に向かって、徐々に小さくなる。主体金具50の縮内径部56と、絶縁体10の第1縮外径部15と、の間には、先端側パッキン8が挟まれている。先端側パッキン8は、鉄製でO字形状のリングである(他の材料(例えば、銅等の金属材料)も採用可能である)。先端側パッキン8は、主体金具50と絶縁体10との間をシールする。
【0035】
工具係合部51は、スパークプラグ100を締め付けるための工具(例えば、スパークプラグレンチ)と係合するための部分である。本実施形態では、工具係合部51の外観形状は、中心軸CLに沿って延びる略六角柱である。また、加締部53は、絶縁体10の第2縮外径部11よりも後端側に配置され、主体金具50の後端(すなわち、後端方向Dfr側の端)を形成する。加締部53は、径方向の内側に向かって屈曲されている。加締部53の先端方向Df側では、主体金具50の内周面と絶縁体10の外周面との間に、第1後端側パッキン6とタルク9と第2後端側パッキン7とが、先端方向Dfに向かってこの順番に、配置されている。本実施形態では、これらの後端側パッキン6、7は、鉄製でC字形状のリングである(他の材料も採用可能である)。
【0036】
スパークプラグ100の製造時には、加締部53が内側に折り曲がるように加締められる。そして、加締部53が先端方向Df側に押圧される。これにより、変形部58が変形し、パッキン6、7とタルク9とを介して、絶縁体10が、主体金具50内で、先端側に向けて押圧される。先端側パッキン8は、第1縮外径部15と縮内径部56との間で押圧され、そして、主体金具50と絶縁体10との間をシールする。以上により、絶縁体10が主体金具50に固定される。
【0037】
次に、スパークプラグ100の先端方向Df側の部分について説明する。
図2は、スパークプラグ100の先端部の中心軸CLを含む断面図である。
図2では、上方向が先端方向Dfであり、下方向が後端方向Dfrである。図中には、主体金具50の先端部(ここでは、胴部55の先端部)と、チップ200の先端部と、接地電極30と、キャップ300とが、示されている。図中の下部に示された内方向Diは、径方向の内側に向かう方向であり、外方向Doは、径方向の外側に向かう方向である。
【0038】
図3は、スパークプラグ100の先端部の中心軸CLに垂直な断面図である。この断面図は、
図2のA−A断面を示している。図中には、中心電極20のチップ200と、接地電極30と、主体金具50の胴部55とが、示されている。
図4は、スパークプラグ100の先端部の中心軸CLに垂直な断面図である。この断面図は、
図2のB−B断面を示しており、
図3の断面(A−A断面)よりも先端方向Df側の断面である。図中には、主体金具50の胴部55と、キャップ300の後述する突出部310とが、示されている。なお、
図2の断面図は、
図3、
図4のC−C断面を示している。
【0039】
図2、
図3に示すように、本実施形態では、接地電極30は、矩形断面を有する棒状の電極である。接地電極30の一端部は、胴部55の内周面55iに接合されている(例えば、レーザ溶接)。接地電極30の他端部は、放電間隙sgを隔ててチップ200の側面200sと対向している。本実施形態では、4本の接地電極30が、周方向におおよそ等間隔で、配置されている。チップ200の側面200sは、4本の接地電極30によって、囲まれている。
【0040】
図2に示すように、キャップ300は、主体金具50の先端方向Df側の開口OPfを覆う部材である。本実施形態では、キャップ300の断面形状は、先端方向Df側に突出する略U字形状である。そして、キャップ300の形状は、この断面形状を中心軸CLを中心に回転させて得られるカップ状である。
【0041】
キャップ300は、主体金具50の先端部(ここでは、胴部55)に、溶接されている。キャップ300と主体金具50との間には、溶融部350が形成されている。溶融部350は、溶接時にキャップ300の溶融した部分と胴部55の溶融した部分とによって形成されている。この溶融部350は、胴部55とキャップ300とを接合している。具体的には、溶融部350は、キャップ300の後端方向Dfr側の環状の端部と、主体金具50の先端方向Df側の環状の端部とを、接合している。
【0042】
キャップ300と主体金具50とは、キャップ300の内側の面300i(「内面300i」と呼ぶ)と、主体金具50(ここでは、胴部55)の内周面55iと、によって囲まれる空間Saを形成する(「特定空間Sa」と呼ぶ)。この特定空間Sa内に、放電間隙sg(すなわち、中心電極20のチップ200と接地電極30)が配置されている。キャップ300には、キャップ300の内側(すなわち、特定空間Sa側)と外側とを連通する複数の孔390が、形成されている。詳細な図示を省略するが、本実施形態では、キャップ300には、中心軸CL上に設けられた1つの孔390と、中心軸CLの周囲に配置された4つの孔390とが、形成されている。
【0043】
図2に示すように、キャップ300は、キャップ300と胴部55との接合部分の近傍の内周側で、後端方向Dfr側に向かって突出する突出部310を有している。この突出部310は、胴部55の先端部の内周側に配置されている。胴部55の内周面55iと、突出部310の外周面310oとの間には、間隙g2が形成されている。この間隙g2は、特定空間Saから溶融部350へ至る。
【0044】
図4には、突出部310の断面が示されている。
図4の断面において、胴部55の内周面55iの形状は、略円形状である。突出部310は、胴部55の内周面55iの内周側に配置された環状の部分である。突出部310の外周面310oと、胴部55の内周面55iとの間には、環状の間隙gが形成されている。突出部310には、外周面310oが内周側に向かって凹んだ部分である複数(ここでは、4個)の凹部310rが形成されている。複数の凹部310rは、周方向に沿っておおよそ等間隔で配置されている。間隙gは、凹部310rによって形成される部分である第2間隙g2と、外周面310oの他の部分によって形成される部分である第1間隙g1と、を有している。
【0045】
図4の左部には、第1間隙g1を含む部分断面と、第2間隙g2を含む部分断面と、が示されている。これらの部分断面は、
図2の断面と同じく中心軸CLを含む断面である。主体金具50の内周面55iのうちの間隙g1、g2を形成する部分は、内周面55iのうち先端方向Df側の部分の内周面であり、中心軸CLに平行である。突出部310の外周面310oは、内周面55iに対向して、間隙g1、g2を形成する。
【0046】
第1間隙g1は、特定空間Saに連通し、特定空間Saから溶融部350へ至る。第2間隙g2は、第1間隙g1と特定空間Saとの両方に連通し、特定空間Saから溶融部350へ至る。また、第2間隙g2は、第1間隙g1よりも大きい。特に、第2間隙g2の径方向の大きさd2が、第1間隙g1の径方向の大きさd1よりも大きい。このように大きさが異なる間隙g1、g2が形成される理由については、後述する。
【0047】
以上説明したスパークプラグ100の動作について説明する。スパークプラグ100は、ガスエンジンなどの内燃機関に取り付けられて使用される。点火装置(例えば、フルトランジスタ点火装置)によって、スパークプラグ100の接地電極30と中心電極20との間に電圧が印加される。この結果、接地電極30と中心電極20とによって形成される放電間隙sgで、火花放電が生じる。この火花放電は、特定空間Sa内で生じる。ところで、内燃機関の燃焼室内の混合気は、キャップ300の孔390を通じて、特定空間Sa内に導入される。特定空間Sa内の混合気は、特定空間Sa内で生じた火花によって点火される。点火された混合気の燃焼によって生じる火炎は、キャップ300の孔390を通じて、外部(すなわち、燃焼室)に噴出する。噴出した火炎によって、燃焼室内の混合気が点火される。この結果、特に、燃焼室の容積が比較的大きな内燃機関であっても、速やかに燃焼室内の混合気の全体を燃焼させることができる。なお、キャップ300の孔390の構成(例えば、総数と配置と内径)としては、
図2で説明した構成とは異なる種々の構成を採用可能である。一般的には、孔390の構成は、火炎の適切な噴出を実現できるように、実験的に決定すればよい。
【0048】
A2.製造方法:
図5は、スパークプラグ100の製造方法の一例を示すフローチャートである。スパークプラグ100の端子金具40、主体金具50、キャップ300等の部品は、製造済であることとする。キャップ300は、例えば、プレス加工によって、製造可能である。
【0049】
ステップS100では、絶縁体10と中心電極20と端子金具40とを有する組立体が作成される。組立体の製造方法としては、公知の方法を採用可能である。例えば、絶縁体10の貫通孔12に、中心電極20、第1シール部60の材料、抵抗体70の材料、第2シール部80の材料を、この順番に挿入する。そして、絶縁体10を加熱した状態で端子金具40を貫通孔12に挿入することによって、組立体を製造する。
【0050】
ステップS110では、主体金具50の内周面55iに、接地電極30が接合される。なお、ステップS100とステップS110とは、互いに独立に進行可能である。
【0051】
ステップS120では、主体金具50に組立体が固定される。具体的には、主体金具50の貫通孔59内に、先端側パッキン8と、ステップS100の組立体と、第2後端側パッキン7と、タルク9と、第1後端側パッキン6とが配置され、そして、主体金具50の加締部53を内側に折り曲げるように加締めることによって、主体金具50に絶縁体10が固定される。
【0052】
ステップS130では、放電間隙sgの距離が調整される。例えば、放電間隙sg内に所定の厚さのゲージが挿入され、そして、放電間隙sgの距離がゲージの厚さと同じになるように接地電極30が曲げられる。
【0053】
ステップS140では、主体金具50の先端部にキャップ300が固定される。まず、主体金具50の先端方向Df側の開口を覆う特定位置にキャップ300が配置される(S142)。その後に、特定位置に配置されたキャップ300が、主体金具50に溶接される(S144)。以上により、スパークプラグ100が完成する。
【0054】
図6は、
図5のステップS142での主体金具50に対するキャップ300の配置を示す断面図である。
図6(A)は、キャップ300の全体と主体金具50の先端方向Df側の部分との断面を示し、
図6(B)は、第2間隙g2の近傍の断面を示し、
図6(C)は、第1間隙g1の近傍の断面を示している。これらの断面は、
図2の断面と同じく中心軸CLを含む断面である。
【0055】
溶接前の主体金具50は、先端方向Df側の端面55fを有している。この端面55fは、中心軸CLの周囲を一周する環状の表面である。本実施形態では、端面55fは、中心軸CLにおおよそ垂直な平面である。この端面55fと内周面55iとを接続する角(すなわち、主体金具50の先端方向Df側の端部の内周側の角)には、内径が後端方向Dfrに向かって徐々に小さくなる面取部55xが形成されている。この面取部55xは、主体金具50の内周側の角の全周に亘って、形成されている。
【0056】
溶接前のキャップ300は、後端方向Dfr側の端面300rを有している。突出部310は、この端面300rの内周側に接続されており、端面300rよりも後端方向Dfrに突出している。この端面300rは、中心軸CLの周囲を一周する環状の表面である。本実施形態では、端面300rは、中心軸CLにおおよそ垂直な平面である。この端面300rの外径は、主体金具50の端面55fの外径と、おおよそ同じである。
【0057】
図6(A)に示すように、ステップS142では、キャップ300の突出部310が、主体金具50の先端方向Df側の開口OPfから貫通孔59内に挿入される。これにより、突出部310は、主体金具50の貫通孔59内に位置する。キャップ300の端面300rは、主体金具50の端面55fに、接している。キャップ300は、主体金具50の先端方向Df側の開口OPfを覆っている。キャップ300は、この位置で、主体金具50に溶接される。以下、主体金具50に対するキャップ300の溶接位置を「特定位置」と呼ぶ。
【0058】
図6(B)、
図6(C)に示すように、主体金具50の面取部55xと、キャップ300との間には、間隙grが形成される。この間隙grは、間隙g(第1間隙g1と第2間隙g2)に連通している。
【0059】
主体金具50と、特定位置に配置されるキャップ300とは、主体金具50とキャップ300とに囲まれる特定空間Saに連通し主体金具50とキャップ300とに挟まれる環状の間隙gxを形成する。この間隙gxは、
図4で説明した間隙g(すなわち、間隙g1、g2)と、
図6(B)、
図6(C)で説明した間隙grと、を含んでいる。
【0060】
主体金具50の内周面の先端方向Df側の端部には、面取部55xが形成されているので、突出部310の挿入は、容易である。従って、第1間隙g1の大きさd1を小さくすることができる。この大きさd1を小さくすることによって、主体金具50に対するキャップ300の位置のずれ(特に、中心軸CLに垂直な方向の位置ずれ)を、小さくできる。
【0061】
図7は、
図5のステップS144の溶接の概略断面図である。図中には、
図6(A)と同じ断面図が示されている。図中の矢印Lzは、レーザ光を示している。本実施形態では、レーザ光Lzは、主体金具50とキャップ300との境界部分の外周側に、中心軸CLに垂直に、径方向の内側に向かって、照射される。これにより、主体金具50のうち端面55fを形成する部分とキャップ300のうち端面300rを形成する部分とが溶融することによって、主体金具50とキャップ300とを接合する溶融部350が形成される。溶融部350は、外周側から内周側に向かって、形成される。
【0062】
図8、
図9は、溶接が進行する様子を示す概略断面図である。
図8は、第2間隙g2の近傍を示し、
図9は、第1間隙g1の近傍を示している。各断面図は、
図6の断面と同じ区中心軸CLを含む断面である。
【0063】
第2間隙g2の近傍では、溶接は、
図8(A)、
図8(B)、
図8(C)の順に進行する。レーザ光Lzの照射によって、キャップ300と主体金具50とが溶融する。溶融する部分350mは、溶接の進行によって、キャップ300と主体金具50の外周面から、内方向Diに向かって、間隙grまで延びる。そして、レーザ光Lzの照射が終了することによって、溶融する部分350mが冷えて固まって、溶融部350が形成される。溶融部350の形成時(すなわち、溶接時)、端面55f、300rの間と間隙gr内とに存在していたガスGS(例えば、空気)は、第2間隙g2を通じて排出される。
【0064】
第1間隙g1の近傍では、溶接は、
図9(A)、
図9(B)、
図9(C)の順に進行する。
図8(A)〜
図8(C)と同様に、溶融する部分350mは、溶接の進行によって、キャップ300と主体金具50の外周面から、内方向Diに向かって、間隙grまで延びる。そして、レーザ光Lzの照射が終了することによって、溶融する部分350mが冷えて固まって、溶融部350が形成される。溶融部350の形成時、端面55f、300rの間と間隙gr内とに存在していたガス(例えば、空気)は、第1間隙g1を通じて排出され得る。また、ガスは、間隙grを通じて未溶接の周方向位置の第2間隙g2に移動し、第2間隙g2を通じて排出され得る。
【0065】
なお、
図8、
図9に示すように、本実施形態では、主体金具50の端面55fの全体が溶接される。すなわち、主体金具50の先端部の外周面と内周面55iとの間の部分の全体が、溶接される。従って、一部のみが溶接される場合と比べて、接合の強度を向上できる。
【0066】
図10は、溶接の順序を示す概略図である。図中には、
図4と同じ断面が示されている。図中のレーザ光Lzを示す矢印の位置は、レーザ光Lzの周方向の位置を示している。
図10の方法では、レーザ光Lzは、特定の位置である第1位置Lz1から反時計回りの方向に向かって、キャップ300と主体金具50との周りを一周する。これにより、キャップ300と主体金具50との境界部分は、全周に亘って、溶接される。
【0067】
第1位置Lz1は、1つの第2間隙g2(「特定第2間隙g2S」と呼ぶ)の周方向の位置から、レーザ光Lzの移動方向(ここでは、反時計回りの方向)に若干移動した位置である。第1位置Lz1のレーザ光Lzは、特定第2間隙g2Sを含む断面(
図8)には溶融部350を形成せずに、特定第2間隙g2Sに隣接する第1間隙g1を含む断面(
図9)に、溶融部350を形成する。
【0068】
図中の第2位置Lz2は、最後に溶接される部分の周方向の位置を示している。第2位置Lz2は、特定第2間隙g2Sの周方向の位置と同じである。このように、周方向に一周するレーザ光Lzは、最後に、特定第2間隙g2Sを含む断面(
図8)に、溶融部350を形成する。
【0069】
第1間隙g1と同じ周方向の位置での溶接時には、ガスは、間隙grを通じて未溶接の周方向位置の第2間隙g2(例えば、特定第2間隙g2S)から排出される。そして、特定第2間隙g2Sと同じ周方向の位置での溶接は、最後に行われる。従って、溶接の周方向の位置に拘わらずに、少なくとも特定第2間隙g2Sを通じて、ガス抜きを適切に行うことができる。
【0070】
図11は、参考例のキャップ300zと主体金具50との溶接が進行する様子を示す概略断面図である。
図8、
図9の実施形態のキャップ300との差異は、突出部310zから凹部310rが省略されている点だけである。参考例のキャップ300zを用いる場合、第2間隙g2が省略され、環状の第1間隙g1が形成される(図示省略)。参考例のキャップ300zの他の部分の構成は、実施形態のキャップ300の対応する部分の構成と、同じである。キャップ300zの要素のうち、キャップ300の要素と同じ要素には、同じ符号を付して、説明を省略する。なお、主体金具50は、実施形態の主体金具50と同じである。
【0071】
溶接は、
図11(A)、
図11(B)、
図11(C)の順に進行する。レーザ光Lzの照射によって、キャップ300zと主体金具50とが溶融する。溶融する部分354mは、溶接の進行によって、キャップ300zと主体金具50の外周面から、内方向Diに向かって、間隙grまで延びる。そして、レーザ光Lzの照射が終了することによって、溶融する部分354mが冷えて固まって、溶融部354が形成される。
【0072】
参考例では、大きな第2間隙g2が形成されないので、間隙gr内に存在していたガスを十分に排出できない場合があり得る。排出されずに残ったガスは、溶融する部分354mに取り込まれ、溶融部354内に空洞352を形成し得る。このような空洞352は、クラックの原因となり得る。そして、空洞352に起因して、接合の強度が低下し得る。
【0073】
本実施形態では、上記のように、溶接時に特定第2間隙g2Sを通じて適切にガス抜きを行うことができるので、溶融部350に空洞352が形成される可能性を低減できる。従って、接合の強度が低下することを抑制できる。
【0074】
B.第2実施形態:
図12は、第2実施形態のスパークプラグ100bの断面図である。図中には、
図4と同じ断面の構成が示されている。
図4のスパークプラグ100との差異は、キャップ300bの突出部310bに設けられた凹部310rの総数が、8個である点だけである。8個の凹部310rは、周方向に沿っておおよそ等間隔で配置されている。突出部310bの外周面310boと主体金具50の内周面55iとの間には、環状の間隙gbが形成されている。この間隙gbは、第1間隙g1と第2間隙g2とを有している。キャップ300bと主体金具50との溶接方法は、
図6〜
図10で説明した方法と、同じである。第2実施形態では、凹部310rの総数、すなわち、第2間隙g2の総数が多いので、溶接時に適切にガス抜きを行うことができる。従って、接合の強度の低下を抑制できる。なお、スパークプラグ100bの他の部分の構成は、第1実施形態のスパークプラグ100の対応する部分の構成と、同じである(対応する要素と同じ要素には、同じ符号を付して、説明を省略する)。また、スパークプラグ100bは、
図5の製造方法で製造可能である。
【0075】
C.第3実施形態:
図13は、第3実施形態のスパークプラグ100cの断面図である。図中には、
図4と同じ断面の構成が示されている。
図4のスパークプラグ100との差異は、キャップ300c突出部310cから凹部310rが省略され、これに代えて、主体金具50cの胴部55cの先端側の部分に、内周面55ciが外方向Doに向かって凹んだ部分である複数(ここでは、4個)の凹部55rが形成されている点だけである。このような凹部55rは、例えば、切削によって形成可能である。突出部310cの外周面310coの形状は、中心軸CLを中心とする円筒形状である。スパークプラグ100cの他の部分の構成は、スパークプラグ100の対応する部分の構成と同じである(対応する要素と同じ要素には、同じ符号を付して、説明を省略する)。また、スパークプラグ100cは、
図5の製造方法で、製造可能である。
【0076】
図示するように、キャップ300cの突出部310cの外周面310coと、主体金具50c(ここでは、胴部55c)の内周面55ciと、の間には、環状の間隙gcが形成されている。間隙gcは、凹部55rによって形成される部分である第2間隙g2cと、内周面55ciの他の部分によって形成される部分である第1間隙g1と、を有している。
【0077】
キャップ300cと主体金具50cとは、キャップ300cの図示しない内側の面と、主体金具50cの内周面55ciと、によって囲まれる空間Scを形成する(「特定空間Sc」と呼ぶ)。図示を省略するが、この特定空間Sc内には、放電間隙sgが配置されている。
【0078】
図13の左部には、第1間隙g1を含む部分断面と、第2間隙g2cを含む部分断面と、が示されている。これらの部分断面は、
図2の断面と同じく中心軸CLを含む断面である。第1間隙g1を含む断面の構成は、
図4に示す第1間隙g1を含む断面の構成と同じである。
【0079】
第2間隙g2cを含む部分断面には、凹部55rが示されている。図示するように、凹部55rは、突出部310cよりも後端方向Dfr側の位置から先端方向Df側に向かって延びている。第2間隙g2cは、第1間隙g1と特定空間Scとに連通している。そして、第2間隙g2cは、特定空間Scから溶融部350cへ至る。キャップ300cと主体金具50cとの溶接方法は、
図6〜
図10で説明した方法と、同じである。溶接時には、第2間隙g2cを通じて容易にガス抜きを行うことができる。
【0080】
D.変形例:
(1)キャップを主体金具に溶接する方法としては、
図10で説明した方法に代えて、他の種々の方法を採用可能である。例えば、第1間隙g1の周方向の位置の全範囲での溶接を完了した後に、第2間隙g2、g2cの周方向の位置での溶接を行っても良い。また、複数の周方向位置での溶接を、並行に進行してもよい。いずれの場合も、第2間隙g2、g2cに連通する第1間隙g1の周方向の位置での溶接を完了した後に、第2間隙g2、g2cの周方向の位置での溶接を行うことが好ましい。こうすれば、溶接時に、第2間隙g2、g2cを通じて適切にガス抜きを行うことができる。
【0081】
一般的には、キャップと主体金具との固定方法としては、以下の方法を採用することが好ましい。キャップを、主体金具に対する特定位置に配置する(
図5:S142)。特定位置は、キャップが主体金具の先端側の開口を覆う位置であり、キャップが主体金具に溶接される位置である。主体金具と特定位置に配置されたキャップとは、主体金具とキャップとに囲まれる空間である特定空間を形成する(例えば、特定空間Sa(
図4)、特定空間Sc(
図13))。また、主体金具と特定位置に配置されたキャップとは、特定空間に連通し主体金具とキャップとに挟まれる環状の間隙を形成する(例えば、間隙gx(
図6、
図10))。この環状の間隙は、特定空間に連通する第1間隙と、特定空間に連通するとともに第1間隙よりも大きい第2間隙と、を含む(例えば、第1間隙g1、第2間隙g2(
図10))。
【0082】
そして、キャップを主体金具に溶接する(
図5:S144)。この溶接では、環状の間隙に連通する主体金具とキャップとの境界が溶接される(例えば、端面55f、300rを含む部分(
図8、
図9))。ここで、主体金具とキャップとの境界のうち周方向の位置が特定の第2間隙の周方向の位置とは異なる部分である特定部分が溶接される。例えば
図10の例では、特定部分の周方向の位置は、周方向の全範囲のうち特定第2間隙g2Sの周方向位置を除いた残りの部分である。そして、特定部分の溶接の後に、主体金具とキャップとの境界のうち、周方向の位置が特定の第2間隙の周方向の位置と同じ部分を溶接する。以上により、特定部分の溶接を行う場合に、特定の第2間隙を通じて適切にガス抜きを行うことができる。また、主体金具とキャップとの境界を全周に亘って溶接することによって、接合の強度を向上できる。
【0083】
なお、キャップを主体金具に溶接する方法は、キャップと主体金具との構成に応じて、変更可能である。例えば、周方向の一部の範囲のみに間隙が設けられてもよい。この場合には、周方向の全範囲のうち間隙が設けられた周方向の位置のみで溶接を行っても良い。いずれの場合も、間隙が、特定空間に連通する第1間隙と、特定空間に連通するとともに第1間隙よりも大きい第2間隙と、を含む場合には、第1間隙と同じ周方向位置で溶接を行った後に、第2間隙と同じ周方向位置で溶接を行うことが好ましい。こうすれば、第2間隙を通じて適切にガス抜きを行うことができる。ここで、ガス抜きを適切に行うためには、さらに、第1間隙が第2間隙に連通していることが好ましい。また、スパークプラグの製造方法としては、
図5に示す方法に限らず、他の種々の方法を採用可能である。
【0084】
(2)突出部310、310b、310cの外径が、主体金具50、50cの先端方向Df側の部分(ここでは、胴部55、55c)の内径と同じ、あるいは、超えていても良い。この場合、第1間隙g1の大きさd1が、ゼロである(すなわち、第1間隙g1が省略される)。
図14は、変形例のスパークプラグ100dの断面図である。図中には、
図4と同じ断面の構成が示されている。
図4のスパークプラグ100との差異は、第1間隙g1の大きさd1がゼロである点、すなわち、第1間隙g1が省略されている点だけである。キャップ300dの突出部310dの外周面310doのうち、凹部310r以外の部分は、主体金具50の内周面55iに密着している。スパークプラグ100dの他の部分の構成は、スパークプラグ100の対応する部分の構成と同じである(対応する要素と同じ要素には、同じ符号を付して、説明を省略する)。また、スパークプラグ100dは、
図5の製造方法で製造可能である。
【0085】
図5のステップS142では、キャップ300dの突出部310dを主体金具50の開口OPfから貫通孔59内に圧入することによって、キャップ300dを特定位置に配置可能である。
図14に示すように、軸線CLの方向からみた場合(すなわち、軸線CLに平行な方向を向いてみた場合)、複数の間隙g2は、周方向の複数の位置に設けられる。溶接前には、複数の間隙g2は、いずれも、面取部55x(
図6(B))によって形成される環状の間隙grに連通している。
図5のステップS144では、
図10で説明する方法と同じ方法で溶接が行われる。これにより、間隙gr内のガスは、間隙grを通じて未溶接の周方向位置の第2間隙g2から排出される。従って、溶融部に空洞352が生じることを抑制できる。
【0086】
また、特定空間から溶融部へ至る間隙は、周方向の一部の範囲のみに設けられても良い。例えば、上記の各実施形態において、第1間隙g1は、第2間隙g2、g2cの近傍のみに設けられても良い。この場合、第1間隙g1と第2間隙g2、g2cとを含み互いに分離した複数の間隙が、周方向の複数の位置に配置される。ここで、さらに、第2間隙g2、g2cを省略してもよい。この場合、互いに分離した複数の第1間隙g1が、周方向の複数の位置に配置される。このように、間隙の大きさに拘わらずに、互いに分離した複数の間隙が、周方向の複数の位置に配置されてもよい。周方向の全範囲のうち、間隙の大きさがゼロである範囲内(すなわち、間隙が省略された範囲内)では、キャップと主体金具とを溶接せずに、間隙が設けられている範囲内で、キャップと主体金具とを溶接してもよい。なお、キャップと主体金具との接合強度確保の点から、キャップと主体金具とは周方向の全範囲において溶接されていることが好ましい。
【0087】
なお、間隙の大きさとしては、間隙内に球を配置する場合に配置可能な球の最大外径を採用可能である。また、第1間隙の大きさは、第1間隙からのガス排出を実現するためには、0.1mm以上であることが好ましい。主体金具に対するキャップの位置ずれを抑制するためには、第1間隙は、0.2mm以下であることが好ましい。ただし、第1間隙の大きさが、0.1mm未満、または、0.2mmを超えてもよい。また、第2間隙の大きさは、例えば、0.3mm以上であってよい。突出部が過剰に大きくなることを抑制するためには、第2間隙の大きさは、1.0mm以下であることが好ましい。ただし、第2間隙の大きさが、0.3mm未満、または、1.0mmを超えてもよい。
【0088】
(3)上記の各実施形態では、キャップ300、300b、300c、300dと主体金具50、50cとを接合する溶融部350、350cの内周側には、キャップの一部(ここでは、突出部310、310b、310c、310d)が配置されている。従って、溶接時に、溶融した材料が特定空間Sa、Sc内に飛び散ることを抑制できる。仮に溶接時に溶融した材料が特定空間Sa、Sc内に飛び散ると、飛び散った材料が電極20、30に付着し得る。この結果、意図しない放電経路に沿って放電が生じ得る。このような不具合を抑制するためには、キャップが、主体金具の内周面の内周側で後端方向Dfr側に突出する突出部を有し、その突出部が、溶融部の内周側に位置することが好ましい。この代わりに、主体金具が、キャップの内周面の内周側で先端方向Df側に突出する突出部を有し、その突出部が、溶融部の内周側に位置してもよい。ただし、そのような突出部を省略してもよい。
【0089】
(4)上記各実施形態では、主体金具50、50cの表面のうち第1間隙g1と第2間隙g2、g2cとを形成する面55i、55ciは、中心軸CLに平行である(「第1面」と呼ぶ)。また、キャップ300、300b、300c、300dの表面のうち第1間隙g1と第2間隙g2、g2cとを形成する面310o、310bo、310co、310doは、中心軸CLに平行である(「第2面」と呼ぶ)。従って、キャップの第2面を主体金具の第1面に対向させることによって、主体金具に対するキャップの位置ずれ(特に、中心軸CLに垂直な方向の位置ずれ)を抑制できる。
【0090】
なお、上記の各実施形態では、第1面は、主体金具50、50cの内周面55i、55ciのうち先端側の部分である。キャップ300、300b、300c、300dの突出部310、310b、310c、310dは、後端方向Dfrに向かって突出し、第1面の内周側に位置している。そして、第2面は、突出部310、310b、310c、310dの外周面310o、310bo、310co、310doである。従って、突出部310、310b、310c、310dを主体金具50、50cの貫通孔59に挿入することによって、主体金具に対するキャップの位置ずれ(特に、中心軸CLに垂直な方向の位置ずれ)を容易に抑制できる。
【0091】
一般的には、主体金具の第1面は、中心軸CLに対して非垂直であることが好ましい。ここで、主体金具の第1面の法線と中心軸CLとがなす角度のうちの鋭角が、45度以上であることが好ましく、70度以上であることが特に好ましく、90度であること(すなわち、第1面が中心軸CLに平行であること)が最も好ましい。
【0092】
なお、第1面と第2面との両方が、中心軸CLの周囲を一周する環状の面であることが好ましい。この構成によれば、第2面が第1面に対向するように主体金具に対してキャップを配置することによって、主体金具に対するキャップの位置ずれ(特に、中心軸CLに垂直な方向の位置ずれ)を抑制できる。ただし、第1面と第2面との少なくとも一方が、周方向の一部の範囲にのみ形成されていてもよい。
【0093】
(5)主体金具の表面のうちの、主体金具とキャップとに囲まれる特定空間に連通する第1間隙と、第1間隙と特定空間とに連通し第1間隙よりも大きい第2間隙と、を形成する面は、主体金具の内周面とは異なる部分であってもよい。同様に、キャップの表面のうちの第1間隙と第2間隙とを形成する面は、キャップの突出部の外周側の面とは異なる部分であってもよい。例えば、主体金具の先端面とキャップの後端面とが、第1間隙と第2間隙とを形成してもよい。
【0094】
(6)主体金具とキャップとに囲まれる特定空間から溶融部へ至る間隙(主体金具とキャップとに挟まれる間隙)は、上記の間隙g、gb、gcのように、中心軸CLの周囲を一周する環状の間隙であることが好ましい。この構成によれば、周方向の任意の位置からガス抜きが可能であるので、溶接に起因する不具合の可能性を低減できる。
【0095】
(7)間隙gr(すなわち、面取部55x(
図6(A)))が省略されてもよい。この場合、溶接時には、キャップと主体金具との境界(例えば、端面55f、300rの間)に存在したガスを、未溶接の境界を通じて、特定空間(例えば、特定空間Sa)に連通する間隙(例えば、間隙g1、g2)から排出可能である。このように、間隙gr(すなわち、面取部55x)が省略された場合にも、溶接時には、特定空間に連通する間隙を通じて、適切にガスを排出できる。
【0096】
なお、キャップの突出部(例えば、
図6(A)の突出部310)を主体金具の貫通孔に挿入しやすくするためには、主体金具と突出部との少なくとも一方に、面取部を形成することが好ましい。例えば、キャップの突出部の後端方向Dfr側の端部の外周側の角に、外径が後端方向Dfrに向かって徐々に小さくなる面取部が形成されていてもよい。
【0097】
(8)複数の第2間隙の配置としては、
図4、
図12、
図13、
図14に示す配置に代えて、他の種々の配置を採用可能である。例えば、複数の第2間隙が、周方向に沿って不均等に配置されていてもよい。一般的には、以下に説明する配置を採用することが好ましい。主体金具とキャップとは、Nを3以上の整数とし、周方向の位置が互いに異なるN個の第2間隙を形成する。そして、N個の第2間隙を軸線CLに垂直な投影面上に軸線CLと平行に投影する。例えば、
図4、
図12、
図13、
図14の断面図は、上記の投影面に対応している。そして、投影面を、軸線CLを中心とする中心角が120度である3個の領域に区分する。各図中には、中心軸CLを中心とする中心角が120度である3個の領域A1、A2、A3が示されている。これら3個の領域のそれぞれが1以上の第2間隙を含むように、複数の第2間隙を配置することが好ましい。
図4、
図12、
図13、
図14の実施形態では、各領域A1、A2、A3は、1以上の第2間隙g2、g2cを含んでいる。このように、120度の中心角の3個の領域A1、A2、A3にN個の第2間隙g2を分散して配置すれば、N個の第2間隙g2の周方向の位置の偏りを抑制できる。従って、周方向の特定の位置(例えば、いずれの第2間隙g2からも遠い位置)で溶接する場合に適切なガス抜きができない等の不具合を抑制できる。
【0098】
なお、3個の領域A1、A2、A3のそれぞれに含まれる第2間隙の数は、3個の領域A1、A2、A3の周方向の位置を変化させることによって、変化し得る。例えば、
図4、
図12、
図13、
図14の実施形態において、3つの領域A1、A2、A3の境界線を、時計回りの方向に回転移動させると、各領域A1、A2、A3の第2間隙g2、g2cの数が変化する。一般的には、軸線CLを中心とする中心角が120度である3個の領域のそれぞれが1以上の第2間隙を含むように投影面を3個の領域に分割できるように、N個の第2間隙が配置されていればよい。
【0099】
以上、第2間隙の配置について説明したが、大きさに拘わらずに互いに分離した複数の間隙が周方向の複数の位置に配置される場合には、複数の間隙を、第2間隙の上記の配置と同様に、3つの領域A1、A2、A3に分散して配置することが好ましい。
【0100】
(9)キャップと主体金具とを有するスパークプラグの構成としては、上記の各実施形態、各変形例の構成に限らず、溶接時のガス抜きを実現可能な種々の構成を採用可能である。一般的には、以下の構成を採用することが好ましい。スパークプラグは、軸線の方向に延びる貫通孔を有する主体金具と、主体金具の先端側の開口を覆うキャップと、キャップと主体金具との間に形成されキャップと主体金具とを接合する溶融部と、を有する。そして、スパークプラグは、主体金具とキャップとに囲まれる空間である特定空間から溶融部へ至り主体金具とキャップとに挟まれる間隙を有する。このような構成を採用すれば、溶融部の形成時に(すなわち、溶接時に)、間隙を通じてガス抜きが可能であるので、溶接に起因する不具合を抑制できる。
【0101】
また、スパークプラグのうち、キャップと主体金具との接合部分以外の部分の構成としては、任意の構成を採用可能である。例えば、中心電極20のチップ200を省略してもよい。この場合、脚部25がチップ200に対応する部分を含むことが好ましい。また、接地電極30のうち放電間隙sgを形成する部分に、放電に対する耐久性に優れる材料を用いて形成されたチップが設けられても良い。また、中心電極と接地電極との構成(例えば、放電間隙sgを形成する部分の構成)としては、
図2、
図3の構成に限らず、他の任意の構成を採用可能である。
【0102】
以上、実施形態、変形例に基づき本発明について説明してきたが、上記した発明の実施の形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明は、その趣旨並びに特許請求の範囲を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれる。