特許第6058141号(P6058141)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6058141透光性導電部材およびそのパターニング方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6058141
(24)【登録日】2016年12月16日
(45)【発行日】2017年1月11日
(54)【発明の名称】透光性導電部材およびそのパターニング方法
(51)【国際特許分類】
   G06F 3/041 20060101AFI20161226BHJP
   G06F 3/044 20060101ALI20161226BHJP
【FI】
   G06F3/041 490
   G06F3/041 495
   G06F3/044 122
   G06F3/044 124
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-530771(P2015-530771)
(86)(22)【出願日】2014年7月15日
(86)【国際出願番号】JP2014068813
(87)【国際公開番号】WO2015019805
(87)【国際公開日】20150212
【審査請求日】2016年1月6日
(31)【優先権主張番号】特願2013-162020(P2013-162020)
(32)【優先日】2013年8月5日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000010098
【氏名又は名称】アルプス電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085453
【弁理士】
【氏名又は名称】野▲崎▼ 照夫
(74)【代理人】
【識別番号】100120204
【弁理士】
【氏名又は名称】平山 巌
(74)【代理人】
【識別番号】100108006
【弁理士】
【氏名又は名称】松下 昌弘
(74)【代理人】
【識別番号】100135183
【弁理士】
【氏名又は名称】大窪 克之
(72)【発明者】
【氏名】山井 知行
(72)【発明者】
【氏名】尾藤 三津雄
(72)【発明者】
【氏名】北村 恭志
【審査官】 萩島 豪
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−073748(JP,A)
【文献】 特開2011−060686(JP,A)
【文献】 特開2013−137982(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 3/041 − 3/044
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透光性の基材の表面に、オーバーコート層に銀ナノワイヤが埋設された導電層が形成されている透光性導電部材において、
前記導電層が、導電領域と、前記導電領域よりも表面抵抗率の高い非導電領域とに区分され、
前記導電領域では、前記オーバーコート層の表面から前記銀ナノワイヤの一部が露出しており、
前記非導電領域で、前記オーバーコート層に埋設されている前記銀ナノワイヤの少なくとも一部がヨウ化されており、
前記非導電領域では、前記銀ナノワイヤがヨウ化された銀ヨウ化物が前記オーバーコート層の表面から露出していないか、または、前記非導電領域における前記オーバーコート層の表面に露出している該銀ヨウ化物の量が、前記導電領域における前記オーバーコート層の表面に露出している前記銀ナノワイヤの量よりも少ないことを特徴とする透光性導電部材。
【請求項2】
透光性の基材の表面に、オーバーコート層に銀ナノワイヤが埋設された導電層が形成された透光性の積層材を使用し、
前記導電層の一部をレジスト層で覆う工程と、
レジスト層で覆われていない導電層の表面をヨウ素液で処理して、銀ナノワイヤの少なくとも一部をヨウ化する工程と、
レジスト層で覆われていない導電層の表面に、チオ硫酸塩溶液を与えて、オーバーコート層の表面に露出している銀ヨウ化物を除去する工程と、
を有することを特徴とする透光性導電部材のパターニング方法。
【請求項3】
前記ヨウ素液は、ヨウ素ヨウ化カリウム溶液である請求項2記載の透光性導電部材のパターニング方法。
【請求項4】
ヨウ素ヨウ化カリウム溶液中のヨウ素の濃度が0.05〜1.0質量%、ヨウ化カリウムの濃度が0.1〜5.0質量%である請求項3記載の透光性導電部材のパターニング方法。
【請求項5】
チオ硫酸塩溶液が、チオ硫酸ナトリウム溶液である請求項2ないし4のいずれかに記載の透光性導電部材のパターニング方法。
【請求項6】
チオ硫酸ナトリウムの濃度が1.0〜25質量%である請求項5記載の透光性導電部材のパターニング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電領域と非導電領域とが区分された透光性導電部材および透光性導電部材のパターニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
表示パネルの前方に配置される透光性導電部材は、静電式タッチパネルなどとして使用されている。
【0003】
従来の透光性導電部材は、基材の表面に形成される透光性電極層がインジウム・スズ酸化物(ITO)で形成されていたが、この種の金属酸化物は曲げ応力などに弱い欠点がある。特許文献1には、樹脂層の内部に導電性ナノワイヤのネットワークが埋設された透光性の導電層が開示されている。この導電層は曲げ応力などの物理的な外力に強いため、曲げ変形可能な樹脂フィルムを基材とした透光性導電部材などに使用するのに適している。
【0004】
導電性ナノワイヤを含む導電層では、エッチング工程により導電性ナノワイヤを溶解させて部分的に非導電領域を形成するパターニングが可能である。しかし、パターニング後は、導電性ナノワイヤが残されている導電領域と、導電性ナノワイヤが除去された非導電領域とで光透過特性などの光学特性に顕著な差が発生する問題がある。
【0005】
そこで、特許文献1には導電性ナノワイヤの一部を非導電ナノワイヤまたは高い抵抗率のナノワイヤに化学的に形質転換させるステップが記載されている。このステップでは、非導電化すべき領域に酸化剤を与えて、銀ナノワイヤを不溶性金属塩に変換させて非導電性に改質させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−507199号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
導電性ナノワイヤのネットワークを含む導電層では、その上に形成される金属層などとの導電性を確保するために、ナノワイヤの一部を導電層の表面に露出させている。そのため、非導電化すべき領域に酸化剤を与えると、導電層の表面に露出しているナノワイヤが金属酸化化合物となって白濁物として残留し、非導電化すべき領域の光学特性が劣化する課題がある。
【0008】
また、特許文献1には、酸化剤として次亜塩素酸塩などの酸化塩や、テトラシアノキノジメタン(TCNQ)などの有機酸化剤が例示されている。しかし、これら酸化剤は、銀ナノワイヤのネットワークが埋設されている樹脂層であるオーバーコート層への浸透度合いが適切ではなく、導電領域と非導電領域とを区別するためのパターニングを精密に制御することが難しい。また、銀ナノワイヤを含む導電層の上に銅や銀などの金属層でリード層などを形成すると、この金属層にダメージを与えやすい問題が生じる。
【0009】
本発明は上記従来の課題を解決するものであり、導電層の一部を非導電領域に改質させたときに、導電領域と非導電領域との光学特性の差を低減させることができる透光性導電部材を提供することを目的としている。
【0010】
また本発明は、導電層の一部を改質して導電領域と非導電領域とを区分させる処理を高精度に行うことができる透光性導電部材のパターニング方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、透光性の基材の表面に、オーバーコート層に銀ナノワイヤが埋設された導電層が形成されている透光性導電部材において、
前記導電層が、導電領域と、前記導電領域よりも表面抵抗率の高い非導電領域とに区分され、
前記導電領域では、前記オーバーコート層の表面から前記銀ナノワイヤの一部が露出しており、
前記非導電領域で、前記オーバーコート層に埋設されている前記銀ナノワイヤの少なくとも一部がヨウ化されており、
前記非導電領域では、前記銀ナノワイヤがヨウ化された銀ヨウ化物が前記オーバーコート層の表面から露出していないか、または、前記非導電領域における前記オーバーコート層の表面に露出している該銀ヨウ化物の量が、前記導電領域における前記オーバーコート層の表面に露出している前記銀ナノワイヤの量よりも少ないことを特徴とするものである。
【0012】
本発明の透光性導電部材は、非導電領域の銀ナノワイヤを銀ヨウ化物に形質転換することで、導電領域と光透過率を大きく変化させることなく導電領域よりも表面抵抗率を高くすることができる。非導電領域ではオーバーコート層の表面に銀ヨウ化物が存在していないか、または存在していたとしてもわずかであるため、非導電領域の表面の白濁した銀ヨウ化物がほとんど存在しなくなり、非導電領域のヘイズが小さく、透明性を高く維持できるようになる。
【0013】
なお、本明細書において、オーバーコート層の表面に露出しているナノワイヤの量とは、表面に露出しているナノワイヤの質量の単位面積当たりの総計を意味している。または、表面に露出しているナノワイヤが単位面積内で占める面積比を意味している。
【0014】
次に本発明の透光性導光部材のパターニング方法は、
透光性の基材の表面に、オーバーコート層に銀ナノワイヤが埋設された導電層が形成された透光性の積層材を使用し、
前記導電層の一部をレジスト層で覆う工程と、
レジスト層で覆われていない導電層の表面をヨウ素液で処理して、銀ナノワイヤの少なくとも一部をヨウ化する工程と、
レジスト層で覆われていない導電層の表面に、チオ硫酸塩溶液を与えて、オーバーコート層の表面に露出している銀ヨウ化物を除去する工程と、を有することを特徴とするものである。
【0015】
前記ヨウ素液は、ヨウ素ヨウ化カリウム溶液であり、溶液中のヨウ素の濃度が0.05〜1.0質量%、ヨウ化カリウムの濃度が0.1〜5.0質量%であることが好ましい。
【0016】
また、チオ硫酸塩溶液は、チオ硫酸ナトリウム溶液であり、チオ硫酸ナトリウムの濃度が1.0〜25質量%であることが好ましい。
【0017】
本発明の透光性導電部材のパターニング方法は、銀ナノワイヤをヨウ化する処理工程の後に、銀ヨウ化物を除去する工程を設けることで、オーバーコート層の表面に露出しているヨウ化された銀ナノワイヤを除去することができ、非導電領域のヘイズが小さく、透明性を向上させることができる。
【0018】
ヨウ素ヨウ化塩溶液はオーバーコート層に浸透しやすく、レジスト層で覆われていない領域の導電層内の銀ナノワイヤを銀ヨウ化物に形質変換させやすいため、導電領域と非導電領域との境界を精度よくパターニングすることができる。
【0019】
チオ硫酸塩溶液は、アクリル系などのオーバーコート層に浸透しにくく、非導電領域のオーバーコート層の内部に存在するヨウ化した銀ナノワイヤに与える影響が少ない。そのため、チオ硫酸塩溶液を与えてオーバーコート層の表面に露出している銀ヨウ化物を除去する処理を行った後でも、オーバーコート層の内部に表面抵抗を高くした銀ナノワイヤを残すことができ、非導電領域と導電領域とで光学特性の差を小さくできる。また、チオ硫酸塩溶液はオーバーコート層に浸透しにくくオーバーコート層の内部での液の残留が少なく、さらにチオ硫酸塩溶液は酸化力が低いこともあり、導電領域の表面にリード層として形成される銅や銀などにダメージを与えにくくなる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の透光性導電部材は、一部の領域の銀ナノワイヤを非導電化または高抵抗の銀ヨウ化物に形質変換させているため、銀ナノワイヤを完全に除去することなく、導電領域と非導電領域とを区分することができる。また、非導電領域ではオーバーコート層の表面に銀ヨウ化物がほとんど露出していないため、非導電領域の表面に白濁化や白色化された金属化合物が残留するのを抑制でき光透過性を良好にできる。加えて、非導電領域のオーバーコート層の内部に銀ナノワイヤを残すことで、非導電領域と導電領域との光学特性差を小さくすることができる。
【0021】
本発明の透光性導電部材のパターニング方法は、オーバーコート層に浸透しやすいヨウ素液を使用して銀ナノワイヤを実質的に非導体化しているため、導電領域と非導電領域とを区画するパターニングを制御しやすくなる。また、チオ硫酸塩溶液で、オーバーコート層の表面に露出している銀ヨウ化物を除去しているが、チオ硫酸塩溶液はオーバーコート層に浸透しにくいので、オーバーコート層への液の残留が少なく、さらにチオ硫酸塩溶液の酸化力が低いこともあり、オーバーコート層の上に形成される金属層などへダメージを与えるのを防止しやすい。
【0022】
本発明のパターニング方法は、ヨウ素液を使用した銀ナノワイヤのヨウ化処理と、チオ硫酸塩溶液を使用した銀ヨウ化物の除去処理とを異なる工程で行っている。例えば、ヨウ素液とチオ硫酸塩溶液との混合液を使用して一度で処理しようとすると、オーバーコート層内の銀ナノワイヤが溶解してしまい、非導電領域の光学特性が大きく変化してしまう。しかし本発明の方法では、前記2つの工程を分離させることで、オーバーコート層の内部にヨウ化された銀ナノワイヤを残留させた状態で、オーバーコート層の表面の銀ヨウ化物を除去することができ、オーバーコート層の内部に銀ナノワイヤを有する導電領域と非導電領域との光学特性の差を小さくすることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の透光性導電部材を搭載した携帯用電子機器を示す分解斜視図、
図2】透光性導電部材の導電層のパターンを示す平面図、
図3】導電層のパターンの拡大説明図、
図4】透光性導電部材の基本構造を示す斜視図、
図5】透光性導電部材のパターニング方法を示す説明図、
図6】実施例の説明図、
【発明を実施するための形態】
【0024】
図1に示す電子機器1は、携帯用電子機器であり、情報通信端末や携帯電話機あるいは携帯用ゲーム機や携帯用ナビゲーション装置などとして使用される。電子機器1は、入力パネル6と、表示パネル5とが組み合わされて構成されている。
【0025】
表示パネル5は、バックライトを有するカラー液晶パネルやエレクトロクロミック表示素子である。入力パネル6の背部にPETなどの背部フィルム3が接着されている。背部フィルム3の表面にITO層4が全面的に設けられ、ITO層4が接地電位に設定されている。入力パネル6の前方には、透光性のカバーパネル2が取り付けられている。
【0026】
入力パネル6は、静電容量変化によって入力座標位置を検出できる静電式タッチパネルである。入力パネル6は、図4に示す透光性導電部材10から構成されている。本明細書での透光性とは、純粋な透明に限られず、例えば全光線透過率が80%以上のものが好ましく含まれる。
【0027】
図4に示す透光性導電部材10は、透光性の基材フィルム11を有している。基材フィルム11はPET(ポリエチレン・テレフタレート)フィルム、PC(ポリカーボネート)フィルム、COP(シクロオレフィンポリマー)フィルムなどに代表される透光性のフィルムである。なお、フィルム以外の透光性板材を基材として使用してもよい。基材フィルム11の表面11aに透光性の導電層12が形成されている。導電層12は、表面11aに銀ナノワイヤ13aの集合体である銀ナノワイヤネットワーク13が積層され、その上からアクリル系などの透光性のオーバーコート層14で覆われて構成されている。
【0028】
基材フィルム11の表面11aに銀ナノワイヤネットワーク13が配置されて、溶融状態のアクリル系樹脂が供給されてオーバーコート層14が形成されるため、図5に断面構造を模式的に示しているように、導電層12は透光性樹脂層となるオーバーコート層14の内部に銀ナノワイヤ13aが埋設された構造となる。また、図5(A)の断面図で誇張して示しているように、銀ナノワイヤネットワーク13の一部がオーバーコート層14の表面から突出し、露出して、導電層12の上に形成される金属層と導電層12との接触抵抗を低減できるようにしている。
【0029】
基材フィルム11の厚さは50〜300μm程度であり、導電層12の厚さは100nm程度である。
【0030】
透光性導電部材10の導電層12は、一部の領域で銀ナノワイヤ13aが形質変換されて非導電領域25とされ、形質変換されていない領域が導電領域20となる。
【0031】
図2図3に示すように、導電領域20は第1の電極部21と連結導電部22ならびに第2の電極部23に区分される。
【0032】
図2に示すように、第1の電極部21は、四角形状または菱形形状などであり、Y方向に向けて配列している。Y方向に隣り合う第1の電極部21と第1の電極部21は連結導通部22で導通されている。第1の電極部21と連結導通部22は連続して形成されている。
【0033】
第2の電極部23は、第1の電極部21と同じ形状で同じ面積に形成されている。ただし、第1の電極部21と第2の電極部23が、異なる形状や、異なる面積で形成されることもある。第2の電極部23は、連結導通部22を挟むように互いに独立して形成されており、それぞれがX方向に向けて直線的に配列されている。第1の電極部21ならびに連結導通部22と、第2の電極部23との間は、非導電領域25を介して電気的に分離されている。
【0034】
入力パネル6の表面では、図2図3に示すように、連結導電部22とその両側の非導電領域25とさらにその両側の第2の電極部23までの間に渡って、有機絶縁層31が形成されている。有機絶縁層31はノボラック樹脂などのアクリル系の透光性の有機絶縁材料などで形成されている。前記有機絶縁層31の表面にブリッジ配線32が形成され、ブリッジ配線32によって、X方向に配列する第2の電極部23どうしが導通している。
【0035】
ブリッジ配線32は、Cu、Ni、Ag、Au,ITOなどに代表される配線材料で形成される。あるいは、各種合金材によって単層に形成される。または、複数の導電性材料が積層された積層導電層で形成される。ブリッジ配線32は、目視しにくいように細く且つ薄く形成される。
【0036】
図2に示すように、Y方向に連結されている第1の電極部21にY引出電極層35が接続されている。図1に示すように、入力パネル6の縁部に複数の第1のランド部36が形成されており、それぞれのY引出電極層35が第1のランド部36に個別に接続されている。ブリッジ配線32でX方向に連結されている第2の電極層23は、それぞれの横列ごとにX引出電極層37に接続されている。それぞれのX引出電極層37は、第2のランド部38に個別に接続されている。
【0037】
入力パネル6は、第1の電極部21と第2の電極部23との間に静電容量が形成されているが、カバーパネル2の表面に指を接触させると、第1の電極部21または第2の電極部23と指との間に静電容量が形成される。
【0038】
第1の電極部21に対して各列ごとに順番にパルス状の駆動電力を印加し、全ての第2の電極部23から検出される電流値を計測することで、複数の第1の電極部21のどれが指に最も接近しているかを算出できる。また、第2の電極部23に対して各列ごとに順番にパルス状の駆動電力を印加し、全ての第1の電極部21から検出される電流値を計測することで、複数の第2の電極部23のどれが最も指に接近しているかを算出できる。
【0039】
また、本発明は、第1の電極部21と第2の電極部23とが基材フィルム11の同一の表面に形成されたものに限られず、X方向に連続する電極が形成されたフィルムとY方向に連続する電極が形成されたフィルムの2枚のフィルムが重ねられた入力パネルであってもよい。あるいは、複数の独立した電極部が設けられ、それぞれの電極部とランド部とが個別に接続されているものであってもよい。
【0040】
次に、透光性導電部材10の導電層12を導電領域20と非導電領域25とにパターニングする方法を説明する。
【0041】
図5(A)に、パターニング前の透光性導電部材10の断面構造が模式的に示されている。基材フィルム11の表面11aに導電層12が設けられている。導電層12は、オーバーコート層14の内部に銀ナノワイヤネットワーク13が埋設されている。図では誇張されているが、オーバーコート層14の表面に、銀ナノワイヤ13aの一部が露出している。
【0042】
導電層12の上にポジ型、あるいは、ネガ型のフォトレジスト、または、フィルムレジストを形成する。フォトレジストはスピンコート法、ロールコート法などの各種方法により膜厚が1μm〜5μm前後となるように形成する。フィルムレジストを使用する場合は膜厚が20μm前後のものが使用される。マスクと露光機を使用して、フォトレジストを部分的に露光する。その後の現像工程で露光された導電層をTMAHなどのアルカリ液で現像することで、図5(A)に示すように分離したレジスト層41が残る。
【0043】
導電層12のうち、第1の電極部21と連結導電部22と第2の電極部23を形成する導電領域20となる部分にレジスト層41が残され、非導電領域25となる部分のフォトレジストが除去される。
【0044】
次に、レジスト層41に覆われていない導電層12を非導電化するための処理が行われる。
【0045】
この処理にはヨウ素液が使用される。ヨウ素液はヨウ素ヨウ化塩溶液であり、例えばヨウ素ヨウ化カリウム溶液である。ヨウ素ヨウ化カリウム溶液は、ヨウ化カリウム溶液にヨウ素が溶解しているものであり、ヨウ素が0.05〜1.0質量%、ヨウ化カリウムが0.1〜5.0質量%前後含まれた水溶液が使用される。
【0046】
レジスト層41が形成された透光性導電部材10が、ヨウ素ヨウ化カリウム溶液に0.5〜10分程度浸漬されることで、レジスト層41で覆われていない領域でオーバーコート層14の内部に溶液が浸透し、少なくとも一部の銀ナノワイヤ13aがヨウ化されて銀ヨウ化物に形質変換される。
【0047】
レジスト層41で覆われていない領域では、銀ナノワイヤ13aがヨウ化されることで、その領域の導電層12の面積抵抗率が高くなり、実質的に電気的な絶縁機能を発揮する非導電領域25となる。
【0048】
ただし、ヨウ素ヨウ化カリウム溶液で非導電化処理が行われると、非導電領域25となる領域において、オーバーコート層14の表面に露出している銀ナノワイヤがヨウ化されて白濁しまたは白色化した金属化合物が生成される。
【0049】
そこで、次の工程では、チオ硫酸塩溶液を使用して、オーバーコート層14の表面の白濁しまたは白色化した銀ヨウ化物などの金属化合物を除去する。チオ硫酸塩溶液としては濃度が1.0〜25質量%のチオ硫酸ナトリウム溶液が使用される。レジスト層41で覆われた透光性導電部材を溶液に10〜60秒程度浸漬させことで、オーバーコート層14の表面に露出している銀ヨウ化物などの金属化合物が除去される。
【0050】
レジスト剥離液でレジスト層41を除去すると、図5(C)に示すように、導電層12が導電領域20と非導電領域25に区分される。図2図3に示すように、導電領域20によって、第1の電極部21と連結導電部22ならびに第2の電極部23が形成される。
【0051】
非導電領域25は、銀ヨウ化物を含んでいるために非導電性となりまたは導電領域20よりも面積抵抗率が大幅に高くなる。非導電領域25では、オーバーコート層14の内部にヨウ化された銀ナノワイヤが残留しているため、内部に銀ナノワイヤが存在している導電領域20との間で光学特性の差が小さくなる。そのため、導電領域20と非導電領域25との間で、表示パネル5からの表示光の透過特性に大きな差が生じることがなくなる。
【0052】
非導電領域25では、オーバーコート層14の表面に現れる銀ヨウ化物が除去されている。あるいは、オーバーコート層14の表面に現れる銀ヨウ化物の量が、導電領域20においてオーバーコート層14の表面に露出している銀ナノワイヤ13aの量よりも大幅に少なくなっている。
【0053】
前記パターニング方法では、ヨウ素液を使用した銀ナノワイヤ13aのヨウ化処理と、チオ硫酸塩溶液を使用した銀ヨウ化物などの白濁した金属化合物の除去処理とを異なる工程で行っている。例えば、ヨウ素液とチオ硫酸塩溶液との混合液を使用して一度で処理しようとすると、オーバーコート層内の銀ナノワイヤが溶解してしまい、非導電領域の光学特性が大きく変化してしまう。しかし前記方法では、2つの処理工程を分離させることで、オーバーコート層の内部にヨウ化された銀ナノワイヤを残留させた状態で、オーバーコート層の表面の銀ヨウ化物などの金属化合物を除去することができ、内部に銀ナノワイヤを有する導電領域と非導電領域との光学特性の差を小さくすることが可能になる。
【実施例】
【0054】
(実施例)
PETフィルムの表面に、銀ナノワイヤネットワーク13とアクリル系のオーバーコート層14とから成る厚さが約100nmの導電層12が形成された透光性導電部材10を使用し、図6に示すように、導電領域と非導電領域をパターニングした。
【0055】
銀ナノワイヤのヨウ化処理では、ヨウ素の濃度が0.1質量%、ヨウ化カリウムの濃度が0.5質量%のヨウ素ヨウ化カリウム溶液に120秒間浸漬させた。オーバーコート層14の表面に残る銀ヨウ化物などの金属化合物の除去処理では、濃度が10質量%のチオ硫酸ナトリウム溶液に30秒間浸漬させた。
【0056】
(比較例)
実施例と同じ方法で作製された透光性導電部材10を使用し、図6に示す非導電領域と同じ面積の領域を、王水系エッチャントでエッチングし、オーバーコート層14内の銀ナノワイヤを溶解したものを比較例とした。
【0057】
以下の表1は、実施例と比較例の光学特性を比較している。
表1の実施例は、処理前の導電層すなわち導電領域のヘイズならびに全光線透過率と、ヨウ素ヨウ化カリウム溶液の処理とチオ硫酸ナトリウムの処理とを行った非導電領域のヘイズならびに全光線透過率とを比較している。
【0058】
表1の比較例は、エッチングを行っていない処理前の導電層のヘイズならびに全光線透過率と、銀ナノワイヤを王水エッチャントでエッチングした領域のヘイズならびに全光線透過率とを比較している。
【0059】
実施例では、導電領域と非導電領域とで全光線透過率に大きな差が生じていないことが判る。実施例では、非導電領域のヘイズが導電領域よりも低下してはいるが、非導電領域のヘイズは、比較例において銀ナノワイヤを除去した領域のヘイズよりも格段に優れていることが判る。
【0060】
なお、実施例において、導電領域と非導電領域との光学的なコントラストは図6に示す通りである。
【0061】
【表1】
【符号の説明】
【0062】
1 電子機器
5 表示パネル
6 入力パネル
10 透光性導電部材
11 基材フィルム
11a 表面
12 導電層
13 銀ナノワイヤネットワーク
13a 銀ナノワイヤ
14 オーバーコート層
20 導電領域
21 第1の電極部
22 連結導電部
23 第2の電極部
25 非導電領域
41 レジスト層
図1
図2
図3
図4
図5
図6