(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記吸気用摺動面と前記排気用摺動面は、前記カムシャフトの回転軸線方向から見て、前記カムシャフトに対して、前記シリンダ孔の中心軸線方向の一方向に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の単気筒SOHCエンジン。
前記吸気用カムアーム部および前記排気用カムアーム部は、前記カムシャフトの回転軸線方向に貫通する穴を有することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の単気筒SOHCエンジン。
請求項1〜15のいずれかに記載の単気筒SOHCエンジンに用いられる前記吸気用ロッカーアームまたは前記排気用ロッカーアームであって、前記吸気用摺動面または前記排気用摺動面に、その基材よりも摩擦係数が低く、硬度が高い前記被膜が形成されていることを特徴とする単気筒SOHCエンジン用ロッカーアーム。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ローラーロッカーアームのローラーは、カムに対して転動する。そのため、カム側の転動疲労強度を確保するために、ローラーとカムのカムシャフトの軸方向の幅をある程度大きくする必要がある。また、ローラーは両持ちで支持されているため、ローラーロッカーアームのカム側の先端部は、カムシャフトの軸方向において、ローラー単体よりも長くなっている。したがって、ローラーロッカーアームを備えた単気筒SOHCエンジンは、シリンダヘッドがカムシャフトの軸方向に大型化しやすい。
【0010】
また、ローラーロッカーアームを備えた単気筒SOHCエンジンは、上述したようなデコンプレッション機構や可変バルブタイミング機構を備えている場合、シリンダヘッドがカムシャフトの軸方向により大型化しやすい。
【0011】
そこで、本発明は、機械損失の増大を抑えつつ、エンジンの設計自由度を高めることでエンジンの小型化を図ることができる単気筒SOHCエンジンを提供することを目的とする。
【0012】
本発明の単気筒SOHCエンジンは、単一のシリンダ孔を備えたシリンダボディ部と、前記シリンダ孔の一端開口を覆い、燃焼室の少なくとも一部を構成するシリンダヘッド部と、前記シリンダヘッド部に設けられ、回転可能であって、少なくとも1つの吸気用カムおよび少なくとも1つの排気用カムが回転軸線方向に並んで設けられた1つのカムシャフトと、それぞれ前記カムシャフトと並列に配置される吸気用ロッカーシャフトおよび排気用ロッカーシャフトと、前記燃焼室に設けられた吸気口を開閉可能な少なくとも1つの吸気用バルブおよび前記燃焼室に設けられた排気口を開閉可能な少なくとも1つの排気用バルブと、前記吸気用ロッカーシャフトに支持された吸気用ボス部と、前記吸気用ボス部から突出し、前記吸気用カムと接触し、前記吸気用カムによって押圧される吸気用カムアーム部と、前記吸気用ボス部から突出し、端部が前記吸気用バルブと接触し、前記吸気用バルブを開く方向に押圧する吸気用バルブアーム部とを含み、前記吸気用ロッカーシャフトの中心軸線周りに揺動可能な少なくとも1つの吸気用ロッカーアームと、前記排気用ロッカーシャフトに支持された排気用ボス部と、前記排気用ボス部から突出し、前記排気用カムと接触し、前記排気用カムによって押圧される排気用カムアーム部と、前記排気用ボス部から突出し、端部が前記排気用バルブと接触し、前記排気用バルブを開く方向に押圧する排気用バルブアーム部とを含み、前記排気用ロッカーシャフトの中心軸線周りに揺動可能な少なくとも1つの排気用ロッカーアームと、を備え、前記吸気用ロッカーアームは、前記吸気用カムアーム部と一体成形され、前記カムシャフトの回転軸線方向において、その幅が前記吸気用カムアーム部の前記吸気用ボス部に近い端部の幅より小さく形成され、その基材より摩擦係数が低く、硬度が高い被膜を介して前記吸気用カムと摺動する吸気用摺動面を有し、前記排気用ロッカーアームは、前記排気用カムアーム部と一体成形され、前記カムシャフトの回転軸線方向において、その幅が前記排気用カムアーム部の前記排気用ボス部に近い端部の幅より小さく形成され、その基材より摩擦係数が低く、硬度が高い被膜を介して前記排気用カムと摺動し、前記吸気用ロッカーアームの前記吸気用摺動面と前記カムシャフトの回転軸線方向に並ぶように設けられている排気用摺動面を有する、ことを特徴とする。
【0013】
吸気用ロッカーアームは、吸気用ロッカーシャフトに支持された吸気用ボス部と、吸気用ボス部から突出し、吸気用カムと接触し、吸気用カムによって押圧される吸気用カムアーム部と、吸気用ボス部から突出し、端部が吸気用バルブと接触し、吸気用バルブを開く方向に押圧する吸気用バルブアーム部とを含む。この吸気用ロッカーアームは、吸気用カムアーム部と一体成形され、その基材より摩擦係数が低く、硬度が高い被膜を介して吸気用カムと摺動する吸気用摺動面を有する。
また、排気用ロッカーアームは、排気用ロッカーシャフトに支持された排気用ボス部と、排気用ボス部から突出し、排気用カムと接触し、排気用カムによって押圧される排気用カムアーム部と、排気用ボス部から突出し、端部が排気用バルブと接触し、排気用バルブを開く方向に押圧する排気用バルブアーム部とを含む。この排気用ロッカーアームは、排気用カムアーム部と一体成形され、その基材より摩擦係数が低く、硬度が高い被膜を介して排気用カムと摺動する排気用摺動面を有する。
以下、吸気用ロッカーアームと排気用ロッカーアームを、ロッカーアームと総称する場合がある。他の「吸気用」「排気用」が付く名称についても同様に総称する場合がある。
上述の構成によると、カムアーム部の摺動面とカムは、被膜を介して摺動する。この被膜は、摺動面の基材よりも摩擦係数が低い。そのため、被膜と、この被膜と摺動する面との摩擦係数は小さい。
摺動面のカムシャフトの回転軸線方向の幅を小さくした場合、ロッカーアームを軽量化でき、その結果、機械的損失を低減できる。その一方で、摺動面とカムとの接触面圧が高くなる。接触面圧の増加は、摩擦力の増加につながる。しかし、本発明では、上述したように被膜によって接触面の間の摩擦係数を下げているため、摺動面のカムシャフトの回転軸線方向の幅を小さくしても、摩擦力の増加による機械的損失の増加を抑えることができる。
カムアーム部のボス部に近い端部のカムシャフトの回転軸線方向の幅は、ロッカーアームにかかる力の大きさによって決まっており、極端に大きくなることはない。したがって、カムシャフトの回転軸線方向において、カムアーム部の摺動面の幅を、カムアーム部のボス部に近い端部の幅より小さくすることで、摺動面の幅を、従来のロッカーアームのカム側の端部の幅よりも小さくできる。
そのため、本発明では、機械的損失の増加を抑えつつ、カムシャフトの回転軸線方向において、吸気用摺動面と排気用摺動面の幅を、従来のロッカーアームのカム側の端部の幅よりも小さくできる。
【0014】
また、吸気用摺動面と排気用摺動面のカムシャフトの回転軸線方向の幅を小さくしたことにより、その分、スペースを確保できる。吸気用摺動面と排気用摺動面は、カムシャフトの回転軸線方向に並んで設けられている。そのため、吸気用摺動面と排気用摺動面の間に広いスペースを確保したり、吸気用摺動面と排気用摺動面のカムシャフトの回転軸線方向の外側のスペースを広げたりすることができる。これにより、エンジンの設計自由度を高めることができる。設計自由度を高めることで、エンジンを小型化するための工夫が行いやすくなる。例えば、カムのカムシャフトの回転軸線方向の幅を小さくして、カムシャフトの長さを短くすることで、エンジンを小型化できる。
【0015】
単一のシリンダ孔を備えたシリンダボディ部と、シリンダ孔の一端開口を覆い、燃焼室の少なくとも一部を構成するシリンダヘッド部と、シリンダヘッド部に設けられ、回転可能であって、少なくとも1つの吸気用カムおよび少なくとも1つの排気用カムが回転軸線方向に並んで設けられた1つのカムシャフトと、それぞれカムシャフトと並列に配置される吸気用ロッカーシャフトおよび排気用ロッカーシャフトと、燃焼室に設けられた吸気口を開閉可能な少なくとも1つの吸気用バルブおよび燃焼室に設けられた排気口を開閉可能な少なくとも1つの排気用バルブと、吸気用ロッカーシャフトに支持された吸気用ボス部と、少なくとも1つの吸気用ロッカーアームと、少なくとも1つの排気用ロッカーアームとを備える単気筒エンジンは、多気筒エンジンに比べて内部スペースの余裕が少ない。そのため、単気筒エンジンは、内部スペースを確保して設計自由度を向上させることが、エンジンの小型化により有効である。また、単気筒エンジンが搭載される機器は、エンジンの外側のスペースが少ないものが多い。そのため、単気筒エンジンを小型化してエンジンの外側のスペースを増やすことで、このスペースを有効に活用できる。
【0016】
また、ロッカーアームの摺動面とカムとの間に、摺動面の基材よりも摩擦係数が低く、硬度が高い被膜が介在しているため、ロッカーアームの摺動面とカムとの間で焼き付きが生じるのを防止できる。
【0017】
本発明の単気筒SOHCエンジンにおいて、前記吸気用摺動面と前記排気用摺動面は、前記カムシャフトの回転軸線方向から見て、前記カムシャフトに対して、前記シリンダ孔の中心軸線方向の一方向に設けられていることが好ましい。
【0018】
この構成によると、吸気用摺動面と排気用摺動面は、カムシャフトの回転軸線方向の幅が小さく、且つ、カムシャフトの回転軸線方向に並んでいる。それに加えて、吸気用摺動面と排気用摺動面は、カムシャフトの回転軸線方向から見て、カムシャフトに対して、シリンダ孔の中心軸線方向の一方向に設けられる。そのため、吸気用摺動面と排気用摺動面を小さいスペースに集約して配置することができる。これにより、エンジン内に大きいスペースを確保しやすくなる。したがって、エンジンの設計自由度をさらに向上できるため、エンジンをより小型化できる。
【0019】
本発明の単気筒SOHCエンジンにおいて、前記カムシャフトの回転軸線方向を左右方向とした時、前記吸気用ロッカーシャフトおよび前記排気用ロッカーシャフトのいずれか一方は前記カムシャフトより上方に設けられ、他方は前記カムシャフトより下方に設けられ、前記吸気用摺動面と前記排気用摺動面は、前記シリンダ孔の中心軸線方向から見て前記吸気用ロッカーシャフトと前記排気用ロッカーシャフトの間に設けられ、且つ、両方とも前記カムシャフトの前方または後方に設けられていることが好ましい。
【0020】
この構成によると、吸気用摺動面と排気用摺動面は、カムシャフトの回転軸線方向(左右方向)の幅が小さく、且つ、カムシャフトの回転軸線方向に並んでいる。それに加えて、吸気用摺動面と排気用摺動面は、シリンダ孔の中心軸線方向から見て、吸気用ロッカーシャフトと排気用ロッカーシャフトの間に設けられ、両方ともカムシャフトの前方または後方に配置される。そのため、吸気用摺動面と排気用摺動面を小さいスペースに集約して配置することができる。さらに、吸気用ロッカーシャフトおよび排気用ロッカーシャフトのいずれか一方がカムシャフトより上方に設けられ、他方がカムシャフトより下方に設けられる。そのため、吸気用摺動面と排気用摺動面の左右方向の間隔を狭めやすい。
これらにより、エンジン内に大きいスペースを確保しやすくなる。したがって、エンジンの設計自由度をさらに向上できるため、エンジンをより小型化できる。
【0021】
本発明の単気筒SOHCエンジンにおいて、前記カムシャフトの回転軸線方向を左右方向とした時、前記シリンダ孔の中心軸線方向から見て、前記吸気用カムアーム部は、前記吸気用ボス部から上下方向に突出し、前記排気用カムアーム部は、前記排気用ボス部から上下方向に突出し、前記吸気用摺動面と前記排気用摺動面は、左右方向に並ぶように設けられていることが好ましい。
【0022】
この構成によると、吸気用カムアーム部および排気用カムアーム部は、吸気用ボス部および排気用ボス部から、カムシャフトの回転軸線方向(左右方向)に直交する上下方向に突出している。そのため、吸気用摺動面と排気用摺動面が、共にカムシャフトの前方または後方に配置され、一方がカムシャフトの上方に配置され、他方がカムシャフトの下方に配置される場合には、吸気用摺動面と排気用摺動面の左右方向の間隔を狭めやすい。これにより、エンジン内に大きいスペースを確保しやすくなる。したがって、エンジンの設計自由度をさらに向上できるため、エンジンをより小型化できる。
【0023】
本発明の単気筒SOHCエンジンにおいて、前記吸気用カムアーム部および前記排気用カムアーム部は、前記カムシャフトの回転軸線方向に貫通する穴を有することが好ましい。
【0024】
この構成によると、吸気用カムアーム部および排気用カムアーム部は、カムシャフトの回転軸線方向に貫通する穴を有する。それにより、吸気用ロッカーアームおよび排気用ロッカーアームを軽量化できる。軽量化によって機械的損失を低減できた分、吸気用カムアーム部および排気用カムアーム部の強度を維持しながら、吸気用摺動面および排気用摺動面のカムシャフトの回転軸線方向の幅をより小さくできる。それにより、エンジンの設計自由度をさらに向上できるため、エンジンをより小型化できる。
【0025】
本発明の単気筒SOHCエンジンにおいて、前記吸気用カムアーム部は、前記カムシャフトの回転軸線方向の幅において、前記吸気用ボス部に近い端部の幅が最大となるように形成され、前記排気用カムアーム部は、前記カムシャフトの回転軸線方向の幅において、前記排気用ボス部に近い端部の幅が最大となるように形成されていることが好ましい。
【0026】
本発明の単気筒SOHCエンジンにおいて、前記吸気用カムは、前記カムシャフトの回転軸線方向において、その幅が前記吸気用カムアーム部の前記吸気用ボス部に近い端部の幅より小さく、前記排気用カムは、前記カムシャフトの回転軸線方向において、その幅が前記排気用カムアーム部の前記排気用ボス部に近い端部の幅より小さいことが好ましい。
【0027】
この構成によると、吸気用カムと排気用カムは、カムシャフトの回転軸線方向の幅が小さいため、エンジンを大型化することなく、カムシャフトの近傍にスペースを確保できる。また、カム同士を近づけて配置することで、エンジンを大型化することなく、カムシャフトの外周部に大きいスペースを確保できる。このようなスペースを確保することで、エンジンの設計自由度をさらに向上できるため、エンジンをより小型化できる。
また、吸気用カムと排気用カムのカムシャフトの回転軸線方向の幅が小さいため、カムシャフトの長さを短くすることでエンジンを小型化できる。
【0028】
本発明の単気筒SOHCエンジンにおいて、先端部が前記燃焼室に臨むように前記シリンダヘッド部に設けられた点火プラグをさらに備え、前記点火プラグの一部が、前記カムシャフトの回転軸線上に配置されていることが好ましい。
【0029】
この構成によると、点火プラグは、その一部がカムシャフトの回転軸線上に位置するように、シリンダヘッド部に設けられている。吸気用カムおよび排気用カムは、カムシャフトの回転軸線方向の幅が小さいため、カムシャフトの長さを短くできる。カムシャフトの長さを短くすることで、シリンダヘッド部の点火プラグが設けられる壁をシリンダヘッド部の内部側にずらすことができる。これにより、点火プラグをメンテナンスする際に使用するスペースを確保できる。
【0030】
本発明の単気筒SOHCエンジンにおいて、前記吸気用バルブおよび排気用バルブは、バルブ軸部と、前記バルブ軸の先端に連結されたバルブ傘部とを有しており、前記吸気用摺動面および前記排気用摺動面は、前記カムシャフトの回転軸線方向の幅が、前記吸気用バルブおよび排気用バルブの前記バルブ軸部の最小直径よりも小さいことが好ましい。
【0031】
吸気用バルブおよび排気用バルブのバルブ軸部の直径は、吸気用バルブおよび排気用バルブがカムシャフトから受ける力の大きさによって決まっており、極端に大きくなることはない。上記の構成によると、吸気用摺動面と排気用摺動面のカムシャフトの回転軸線方向の幅は、吸気用カムアーム部および排気用カムアーム部のボス部に近い端部の幅より小さいだけでなく、バルブ軸部の最小直径よりも小さい。したがって、バルブ軸部の直径が、吸気用カムアーム部および排気用カムアーム部のボス部に近い端部の幅よりも小さい場合には、エンジンの設計自由度がより向上し、エンジンをより小型化できる。
【0032】
本発明の単気筒SOHCエンジンにおいて、前記カムシャフトに装着されたデコンプレッション機構を備えることが好ましい。この構成によると、エンジンの大型化を抑制しつつ、デコンプレッション機構を配置できる。
【0033】
本発明の単気筒SOHCエンジンにおいて、前記吸気用ロッカーアームおよび前記排気用ロッカーアームの少なくとも一方を複数備えており、前記カムシャフトと並列に配置されるロッドを有するアクチュエータを含む可変バルブタイミング機構を備えることが好ましい。この構成によると、エンジンの大型化を抑制しつつ、可変バルブタイミング機構を配置できる。
【0034】
本発明の単気筒SOHCエンジンにおいて、前記吸気用ボス部および前記排気用ボス部は、それぞれ、前記吸気用ロッカーシャフトおよび前記排気用ロッカーシャフトに回転可能に支持されており、前記吸気用ロッカーシャフトおよび前記排気用ロッカーシャフトの外周面のうち少なくとも前記吸気用ボス部および前記排気用ボス部と接触する部分には、その基材よりも摩擦係数が低く、硬度が高い被膜が形成されていることが好ましい。
【0035】
この構成によると、ロッカーシャフトの外周面のうち少なくともボス部と接触する部分には、その基材よりも摩擦係数が低く、硬度が高い被膜が形成されている。これにより、ロッカーシャフトとロッカーアームのボス部との間の摩擦力を低減できると共に、ロッカーシャフトとロッカーアームのボス部との焼き付きを防止できる。したがって、エンジンの機械損失の増大をより抑制できる。
【0036】
本発明の単気筒SOHCエンジンにおいて、前記吸気用バルブアーム部の前記吸気用バルブを押圧する端部の表面に、その基材よりも摩擦係数が低く、硬度が高い被膜が形成されており、前記排気用バルブアーム部の前記排気用バルブを押圧する端部の表面に、その基材よりも摩擦係数が低く、硬度が高い被膜が形成されていることが好ましい。
【0037】
この構成によると、ロッカーアームのバルブアーム部のバルブを押圧する端部の表面に、その基材よりも摩擦係数が低く、硬度が高い被膜が形成されている。これにより、バルブアーム部のバルブを押圧する端部とバルブとの間、または、バルブアーム部のバルブを押圧する端部と、バルブに設けられて当該端部によって押圧される部品と間に生じる摩擦力を低減できると共に、両者の間の焼き付きを防止できる。したがって、エンジンの機械損失の増大をより抑制できる。
【0038】
本発明の単気筒SOHCエンジンにおいて、前記吸気用バルブアーム部と前記吸気用バルブとの間に配置された吸気用シムと、前記排気用バルブアーム部と前記排気用バルブとの間に配置された排気用シムとを有し、前記吸気用シムおよび前記排気用シムの表面に、その基材よりも摩擦係数が低く、硬度が高い被膜が形成されていることが好ましい。
【0039】
この構成によると、バルブアーム部とバルブとの間に配置されるシムの表面に、その基材よりも摩擦係数が低く、硬度が高い被膜が形成されている。これにより、バルブアーム部とシムとの間の摩擦力を低減できると共に、バルブアーム部とシムとの焼き付きを防止できる。したがって、エンジンの機械損失の増大をより抑制できる。
【0040】
本発明の単気筒SOHCエンジンにおいて、前記吸気用摺動面および前記吸気用カムの少なくとも一方に、前記吸気用摺動面の基材より摩擦係数が低く、硬度が高い前記被膜が形成され、前記排気用摺動面および前記吸気用カムの少なくとも一方に、前記排気用摺動面の基材より摩擦係数が低く、硬度が高い前記被膜が形成されていることが好ましい。
【0041】
本発明の単気筒SOHCエンジン用ロッカーアームは、本発明の単気筒SOHCエンジンに用いられる前記吸気用ロッカーアームまたは前記排気用ロッカーアームであって、前記吸気用摺動面または前記排気用摺動面に、その基材よりも摩擦係数が低く、硬度が高い前記被膜が形成されていることを特徴とする。
【発明を実施するための形態】
【0043】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しつつ説明する。
図1は、例えばスクータ型自動二輪車に用いるスイング式のエンジンユニット1を開示している。このエンジンユニット1は、単気筒SOHCエンジン2と、スイングアームを兼ねる伝動ケース3とを備えている。単気筒SOHCエンジン2は、水冷式の4サイクルエンジンである。なお、以下の説明において、前後方向とは、自動二輪車のシートに着座したライダーから視た車両前後方向のことであり、左右方向とは、シートに着座したライダーから視たときの車両左右方向(車両の幅方向)のことである。また、各図面の矢印F方向と矢印B方向は、前方と後方を表しており、矢印L方向と矢印R方向は、左方と右方を表しており、矢印U方向と矢印D方向は、上方と下方を表している。
【0044】
伝動ケース3は、単気筒SOHCエンジン2から後方に向けて延びている。伝動ケース3は、Vベルト式自動変速機4を内蔵しており、この伝動ケース3の後端部にVベルト式自動変速機4によって駆動される後輪(図示せず)が支持されている。
【0045】
単気筒SOHCエンジン2は、伝動ケース3と一体化されたクランクケース5、シリンダボディ部6及びシリンダヘッド部7を有している。クランクケース5は、クランクシャフト8を収容している。クランクシャフト8は、自動二輪車の車体の幅方向(左右方向)に沿って水平に配置されており、このクランクシャフト8の一端部が自動遠心クラッチを介してVベルト式自動変速機4の入力端に連結されている。
【0046】
シリンダボディ部6にはシリンダ孔9が形成されている。このシリンダ孔9にピストン10が収容されている。シリンダ孔9の中心軸線C1は、前後方向に延びている。ピストン10はコンロッド11を介してクランクシャフト8に連結されている。シリンダボディ部6は、クランクケース5から前方に向けて略水平に突出している。
【0047】
図2に示すように、シリンダヘッド部7は、シリンダ孔9の前側開口を覆っている。シリンダヘッド部7は、シリンダ孔9と向かい合う面に凹部12を有している。凹部12とピストン10との間には燃焼室13が形成されている。シリンダヘッド部7は、燃焼室13に開口する2つの吸気通路14(
図2では一方のみを図示)と、燃焼室13に開口する単一の排気通路15を備えている。2つの吸気通路14は、凹部12に形成された2つの吸気口14a(
図2では一方のみを表示)から前上方に延びて形成されている。2つの吸気口14aは、左右方向に並んで形成されている。排気通路15は、凹部12に形成された排気口15aから前下方に延びて形成されている。
【0048】
2つの吸気口14aは、2つの吸気用バルブ16(
図2では一方のみを図示)によってそれぞれ開閉される。吸気用バルブ16は、吸気口14aを開閉するバルブ傘部16aと、バルブ傘部16aから前上方に延びるバルブ軸部16bとを有する。バルブ軸部16bは、バルブガイド17を介してシリンダヘッド部7に支持されている。2本のバルブ軸部16bは、左右方向に並んで互いに平行に配置されている。
【0049】
シリンダヘッド部7には、点火プラグ68が取り付けられている。点火プラグ68の先端部は燃焼室13に臨んで配置されている。点火プラグ68は、単気筒SOHCエンジン2の外面から燃焼室13に差し込まれる。
【0050】
バルブ軸部16bの前端部には、スプリングリテーナ21が取り付けられている。このスプリングリテーナ21の中央部の孔にバルブ軸部16bの前端部が嵌まり込んでいる。スプリングリテーナ21の外周部とシリンダヘッド部7との間には吸気用スプリング22が介在している。吸気用バルブ16は、吸気用スプリング22によって吸気口14aを閉じる方向に付勢されている。
【0051】
排気口15aは、排気用バルブ18によって開閉される。排気用バルブ18は、排気口15aを開閉するバルブ傘部18aと、バルブ傘部18aから前下方に延びるバルブ軸部18bとを有する。バルブ軸部18bは、バルブガイド19を介してシリンダヘッド部7に支持されている。
【0052】
バルブ軸部18bの前端部には、スプリングリテーナ23が取り付けられている。このスプリングリテーナ23の中央部の孔にバルブ軸部18bの前端部が嵌まり込んでいる。スプリングリテーナ23の外周部とシリンダヘッド部7との間には排気用スプリング24が介在している。排気用バルブ18は、排気用スプリング24によって排気口15aを閉じる方向に付勢されている。
【0053】
吸気用バルブ16のバルブ軸部16bの最小直径と、排気用バルブ18のバルブ軸部18bの最小直径はほぼ同じである。
【0054】
シリンダヘッド部7は、外壁25a、25b、25c、25dを有している。
図3及び
図4に示すように、第1の外壁25aは、シリンダヘッド部7の右面を形成しており、第2の外壁25bは、シリンダヘッド部7の左面を形成している。第1の外壁25aと第2の外壁25bは、左右方向に向かい合っている。
図2及び
図4に示すように、第3の外壁25cは、シリンダヘッド部7の上面を形成しており、第4の外壁25dは、シリンダヘッド部7の下面を形成している。第3の外壁25cと第4の外壁25dは、上下方向に向かい合っている。
【0055】
シリンダヘッド部7の内側には、前方が開放された動弁室26が形成されている。シリンダヘッド部7の前端部には、着脱可能なヘッドカバー27が取り付けられている。ヘッドカバー27は、動弁室26の開放端を覆っている。
【0056】
上述した点火プラグ68は、第1の外壁25aに取り付けられている。第1の外壁25aは、動弁室26の内側に向かって突出する凹状に形成されている。上下方向において、点火プラグ68は、第1の外壁25aの凹状部と同じ位置に配置されている。シリンダ孔9の中心軸線C1の方向から見て、点火プラグ68は、後述する吸気用ロッカーアーム32のカムアーム部44のボス部43との連結部分と、後述する排気用ロッカーアーム33のカムアーム部54のボス部53との連結部分との間に位置している。また、点火プラグ68は、シリンダ孔9の中心軸線C1の方向から見て、後述する吸気用ロッカーシャフト34の中心軸線C3と、後述する排気用ロッカーシャフト35の中心軸線C4との間に位置している。言い換えると、点火プラグ68は、上下方向に関して、中心軸線C3、C4の間に位置している。また、点火プラグ68の一部は、後述するカムシャフト31の回転軸線C2上に配置されている。
【0057】
シリンダヘッド部7は、動弁室26の内部に支持壁28を有する。支持壁28は、第3の外壁25cに接続されており、第1の外壁25aと第2の外壁25bとの間に配置されている。吸気用バルブ16のバルブ軸部16b及び排気用バルブ18のバルブ軸部18bは、第1の外壁25aと支持壁28との間に位置している。
【0058】
動弁室26は、吸気用バルブ16及び排気用バルブ18を開閉駆動する動弁装置30を収容している。動弁装置30は、カムシャフト31、吸気用ロッカーアーム32、排気用ロッカーアーム33、吸気用ロッカーシャフト34、及び排気用ロッカーシャフト35を備えている。なお、
図3では、排気用ロッカーアーム33は切断端面のみを表示していると共に、排気用ロッカーシャフト35の図示を省略している。
【0059】
カムシャフト31は、シリンダヘッド部7に回転可能に支持されている。
図3に示すように、カムシャフト31の一端部(右端部)は、軸受36を介して第1の外壁25aに対して回転可能に支持されている。カムシャフト31の他端部(左端部)は、軸受37を介して支持壁28に対して回転可能に支持されている。カムシャフト31は、車体の幅方向(左右方向)に沿って水平に配置されている。
【0060】
カムシャフト31の他端部(左端部)は、支持壁28より左方に配置され、スプロケット(又はプーリ)38が固定されている。このスプロケット38と、クランクシャフト8に設けられたスプロケット(図示省略)との間にチェーン(又はベルト)39が架け渡されている。これにより、カムシャフト31は
図2に矢印で示す方向(自動二輪車が前進する時の後輪の回転方向)に正回転するようになっている。
【0061】
カムシャフト31には、吸気用カム40と排気用カム41が、左右方向(カムシャフト31の回転軸線C2の方向)に並んで設けられている。吸気用カム40及び排気用カム41の外周面には、後述する被膜62と同様の被膜(図示省略)が形成されている。被膜は、吸気用カム40及び排気用カム41の外周面だけでなく軸方向端面にも形成されていてもよい。
【0062】
図示は省略するが、カムシャフト31には、吸気用カム40及び排気用カム41の外周面に開口するオイル通路が形成されている。
【0063】
図2に示すように、吸気用ロッカーシャフト34は、カムシャフト31より前上方に設けられている。吸気用ロッカーシャフト34は、カムシャフト31と並列している。吸気用ロッカーシャフト34は、シリンダヘッド部7に回転不能に支持されている。
図4に示すように、吸気用ロッカーシャフト34の一端部(右端部)は、第1の外壁25aから動弁室26に突出する軸受部42に支持されている。吸気用ロッカーシャフト34の他端部(左端部)は、支持壁28に支持されている。吸気用ロッカーシャフト34の外周面には、後述する被膜62と同様の被膜(図示省略)が形成されている。
【0064】
吸気用ロッカーアーム32は、吸気用ロッカーシャフト34に揺動可能に支持されている。
図2に示すように、吸気用ロッカーアーム32は、円筒状のボス部43(本発明の吸気用ボス部)と、カムアーム部44(本発明の吸気用カムアーム部)、及び2つのバルブアーム部45A、45B(45Aは
図4参照)を備えている。2つのバルブアーム部45A、45Bは、それぞれが本発明の吸気用バルブアーム部に相当する。吸気用ロッカーシャフト34は、ボス部43を貫通している。ボス部43は吸気用ロッカーシャフト34に対して揺動可能で且つ軸方向(左右方向)に摺動可能に支持されている。
【0065】
吸気用ロッカーアーム32は、一体成形によって形成されている。カムアーム部44は、ボス部43の外周面から下方に突出している。カムアーム部44には、左右方向(カムシャフト31の回転軸線C2の方向)に貫通する穴47が形成されている。カムアーム部44は、ボス部43の外周部の周方向に離れた2箇所に接続されている。
【0066】
カムアーム部44の後下端部には、摺動面46(本発明の吸気用摺動面)が形成されている。摺動面46は吸気用カム40の外周面と摺動する。吸気用ロッカーアーム32は、吸気用カム40に押圧されて吸気用ロッカーシャフト34の中心軸線C3周りに揺動する。摺動面46には、被膜62が形成されている。したがって、厳密には、摺動面46は、摺動面46に形成された被膜62と、吸気用カム40の外周面に形成された被膜(図示省略)を介して、吸気用カム40の外周面と摺動する。本実施形態では、被膜62は、摺動面46だけでなく、吸気用ロッカーアーム32の表面のうちボス部43の内周面以外の部分に形成されている。なお、
図3に表示した部分拡大図では、被膜62の厚さを誇張して表示している。
【0067】
被膜62は、吸気用ロッカーアーム32の基材(摺動面46の基材でもある)よりも摩擦係数が低く、硬度が高い。言い換えると、摺動面46に、基材よりも摩擦係数を下げ且つ硬度を上げる表面処理を施すことで、被膜62は形成されている。被膜62の摩擦係数は、窒化クロムコーティング、または、焼結材による表面処理が施された面の摩擦係数よりも低い。換言すれば、被膜62は、耐焼付き性が高い。被膜62は、具体的には、例えば、炭素系硬質被膜が好ましく、より具体的にはDLC(Diamond Like Carbon)が好ましい。DLCは、グラファイト構造の特性である自己潤滑性を有するため、摩擦係数が低く、耐焼付き性が高い。このDLCに比べて、例えば窒化クロムコーティングによる被膜は、自己潤滑性を有しておらず、摩擦係数が相対的に高い。また、DLCは、ダイヤモンド構造を有するため、窒化クロムコーティングによる被膜よりも最高硬度が高く、耐摩耗性が高い。
【0068】
図4に示すように、カムアーム部44の摺動面46の左右方向(カムシャフト31の回転軸線C2の方向)の幅D1は、吸気用カム40の外周面の左右方向の幅Wより小さい。また、カムアーム部44の摺動面46の左右方向の幅D1は、吸気用バルブ16のバルブ軸部16bの最小直径よりも小さい。カムアーム部44のボス部43と反対側の端部(摺動面46が設けられた端部)における摺動面46以外の部分の左右方向の幅は、摺動面46の左右方向の幅D1とほぼ同じである。
【0069】
カムアーム部44は、ボス部43の近傍部において、ボス部43に近づくほど左右方向の幅が大きくなっている。カムアーム部44のボス部43との連結部分44a(カムアーム部44のボス部43に近い端部)の左右方向の幅D2は、カムアーム部44の摺動面46の左右方向の幅D1よりも大きい。カムアーム部44は、ボス部43との連結部分44aにおいて、左右方向の幅が最大となっている。
【0070】
なお、カムアーム部44のボス部43との連結部分44aの左右方向(カムシャフト31の回転軸線C2の方向)の幅とは、シリンダ孔9の中心軸線C1の方向から見て、カムアーム部44の外面(左面および右面)の左右方向に対する曲率とボス部43の外周面の左右方向に対する曲率との変曲点同士を結んだ直線の長さである。本実施形態では、ボス部43の外周面は、左右方向に延びている。そのため、シリンダ孔9の中心軸線C1の方向から見て、ボス部43の外周面に対応する直線とカムアーム部44の左右両面に対応する2つの曲線との境界位置同士を結んだ直線の長さが、カムアーム部44のボス部43との連結部分44aの左右方向の幅である。
【0071】
カムアーム部44のボス部43との連結部分44aの左右方向の幅D2は、吸気用カム40の外周面の左右方向の幅W、及び、バルブ軸部16b、18bの最小直径より大きい。
【0072】
バルブアーム部45A、45Bは、ボス部43の外周面から上方に突出している。バルブアーム部45A、45Bは、吸気用ロッカーアーム32をヘッドカバー27側から見た時に、上方に向かうほど互いに離間するV字状に形成されている(
図4参照)。
【0073】
図2に示すように、バルブアーム部45A、45Bには、それぞれ、左右方向(カムシャフト31の回転軸線C2の方向)に貫通する穴48が形成されている。バルブアーム部45A、45Bは、それぞれボス部43の外周部の周方向に離れた2箇所に接続されている。2箇所の一方において、バルブアーム部45A、45Bはカムアーム部44と連結されている。
【0074】
バルブアーム部45A、45Bのボス部43と反対側の端部には、それぞれ押圧部49が形成されている。押圧部49は、吸気用バルブ16のバルブ軸部16bの先端と向かい合っている。吸気用ロッカーアーム32は、吸気用カム40に押圧されて揺動した際に、2つの押圧部49によって2つの吸気用バルブ16を開く方向に押圧する。
【0075】
吸気用ロッカーアーム32の各押圧部49とバルブ軸部16bの先端との間には円盤状のシム50(本発明の吸気用シム)が配置されている。シム50は、タペットクリアランスを調整するためのものである。シム50は、スプリングリテーナ21の中央部の孔に取り外し可能に装着されて、吸気用ロッカーアーム32の押圧部49に接している。シム50の表面には、被膜62と同様の被膜(図示省略)が形成されている。したがって、押圧部49は、押圧部49に形成された被膜62と、シム50の表面に形成された被膜を介して、シム50の表面と接する。
【0076】
図4に示すように、吸気用ロッカーアーム32のボス部43より左方において、吸気用ロッカーシャフト34の外周部にはスプリング51が配置されている。吸気用ロッカーアーム32は、スプリング51によって第1の外壁25aに向かって(即ち右方に)付勢されている。より具体的には、スプリング51によってボス部43は第1の外壁25aの軸受部42の端面に押し付けられている。
【0077】
タペットクリアランスを調整する際には、まず、吸気用ロッカーアーム32の押圧部49とシム50との間にシックネスゲージを挿入してタペットクリアランスを計測する。この計測結果に基づきシム50を厚みの異なるものと交換することで、吸気側のタペットクリアランスを規定値に調整することができる。
【0078】
シム50を交換する際には、作業者の手によって吸気用ロッカーアーム32をスプリング51の付勢力に抗して第2の外壁25b側にスライドさせる。これにより、バルブアーム部45A、45Bの先端部に位置する押圧部49がシム50の横にずれる。この状態で例えばマグネットドライバを利用してシム50を取り出す。この後、新たなシム50をスプリングリテーナ21に装着してから、吸気用ロッカーアーム32を元の位置にスライドさせる。
【0079】
図示は省略するが、吸気用ロッカーアーム32のボス部43には、カムシャフト31のオイル通路(図示せず)から噴出する潤滑油をボス部43と吸気用ロッカーシャフト34との間に導くためのオイル供給孔が形成されている。
【0080】
排気用ロッカーシャフト35は、カムシャフト31より前下方に配置されている。排気用ロッカーシャフト35は、カムシャフト31および吸気用ロッカーシャフト34と並列している。排気用ロッカーシャフト35は、シリンダヘッド部7に回転不能に支持されている。排気用ロッカーシャフト35の一端部(右端部)は、第1の外壁25aから動弁室26に突出する軸受部52に嵌め込まれている。排気用ロッカーシャフト35の他端部(左端部)は、支持壁28に支持されている。排気用ロッカーシャフト35の外周面には、被膜62と同様の被膜(図示省略)が形成されている。
【0081】
排気用ロッカーアーム33は、排気用ロッカーシャフト35に揺動可能に支持されている。排気用ロッカーアーム33は、円筒状のボス部53(本発明の排気用ボス部)、カムアーム部54(本発明の排気用カムアーム部)、及び単一のバルブアーム部55(本発明の排気用バルブアーム部)を備えている。排気用ロッカーシャフト35は、ボス部53を貫通している。ボス部53は排気用ロッカーシャフト35に対して揺動可能で且つ軸方向(左右方向)に摺動可能に支持されている。
【0082】
排気用ロッカーアーム33は、一体成形によって形成されている。カムアーム部54は、ボス部53の外周面から上方に突出している。カムアーム部54には、左右方向(カムシャフト31の回転軸線C2の方向)に貫通する穴57が形成されている。カムアーム部54は、ボス部53の外周部の周方向に離れた2箇所に接続されている。
【0083】
カムアーム部54の後上端部には、摺動面56(本発明の排気用摺動面)が形成されている。摺動面56は、吸気用ロッカーアーム32の摺動面46と左右方向に並んでいる。
図4に示すように、摺動面56は摺動面46より左方に位置する。前後方向(シリンダ孔9の中心軸線C1の方向)から見て、摺動面46、56は、吸気用ロッカーシャフト34と排気用ロッカーシャフト35の間に設けられている。言い換えると、上下方向において、摺動面46、56は、吸気用ロッカーシャフト34と排気用ロッカーシャフト35の間に位置している。また、
図2に示すように、左右方向(カムシャフト31の回転軸線C2の方向)から見て、摺動面46、56は、カムシャフト31より前方(シリンダ孔9の中心軸線C1の一方向)に設けられている。
【0084】
摺動面56は排気用カム41の外周面と摺動する。排気用ロッカーアーム33は、排気用カム41に押圧されて排気用ロッカーシャフト35の中心軸線C4周りに揺動する。摺動面56には、被膜62と同様の被膜(図示省略)が形成されている。したがって、厳密には、摺動面56は、摺動面56に形成された被膜と、排気用カム41の外周面に形成された被膜を介して排気用カム41の外周面と摺動する。本実施形態では、被膜は、摺動面56だけでなく、排気用ロッカーアーム33の表面のうちボス部53の内周面以外の部分に形成されている。
【0085】
図4に示すように、カムアーム部54の摺動面56の左右方向の幅は、排気用カム41の外周面の左右方向の幅より小さい。また、カムアーム部54の摺動面56の左右方向の幅は、排気用バルブ18のバルブ軸部18bの最小直径よりも小さい。カムアーム部54のボス部53と反対側の端部(摺動面56が設けられた端部)における摺動面56以外の部分の左右方向の幅は、摺動面56の左右方向の幅とほぼ同じである。
【0086】
カムアーム部54は、ボス部53の近傍部において、ボス部53に近づくほど左右方向の幅が大きくなっている。カムアーム部54のボス部53との連結部分54a(カムアーム部54のボス部53に近い端部)の左右方向の幅は、カムアーム部54の摺動面56の左右方向の幅よりも大きい。カムアーム部54は、ボス部53との連結部分54aにおいて、左右方向の幅が最大となっている。
【0087】
なお、カムアーム部54のボス部53との連結部分54aの左右方向の幅とは、シリンダ孔9の中心軸線C1の方向から見て、カムアーム部54の外面(左面および右面)の左右方向に対する曲率とボス部53の外周面の左右方向に対する曲率との変曲点同士を結んだ直線の長さである。
【0088】
カムアーム部54のボス部53との連結部分54aの左右方向の幅は、排気用カム41の外周面の左右方向の幅、及び、バルブ軸部16b、18bの最小直径より大きい。
【0089】
バルブアーム部55は、ボス部53の外周面から下方に突出している。バルブアーム部55には、左右方向に貫通する穴58が形成されている。バルブアーム部55は、ボス部53の外周部の周方向に離れた2箇所に接続されている。2箇所の一方において、バルブアーム部55はカムアーム部54と連結されている。
【0090】
バルブアーム部55のボス部53と反対側の端部には、押圧部59が形成されている。押圧部59は、排気用バルブ18のバルブ軸部18bの先端と向かい合っている。排気用ロッカーアーム33は、排気用カム41に押圧されて揺動した際に、押圧部59によって排気用バルブ18を開く方向に押圧する。
【0091】
排気用ロッカーアーム33の押圧部59とバルブ軸部18bの先端との間に円盤状のシム60(本発明の排気用シム)が配置されている。シム60は、タペットクリアランスを調整するためのものである。シム60は、スプリングリテーナ23の中央部の孔に取り外し可能に装着されて、排気用ロッカーアーム33の押圧部59に接している。シム60の表面には、被膜62と同様の被膜(図示省略)が形成されている。したがって、押圧部59は、押圧部59に形成された被膜と、シム60の表面に形成された被膜を介して、シム60の表面と接する。
【0092】
図4に示すように、排気用ロッカーアーム33のボス部53より右方において、排気用ロッカーシャフト35の外周部にはスプリング61が配置されている。排気用ロッカーアーム33は、スプリング61によって第2の外壁25bに向かって(即ち左方に)付勢されている。より具体的には、スプリング61によってボス部53は支持壁28に押し付けられている。
【0093】
タペットクリアランスの調整作業は、上記吸気側と同様の手順で行う。
【0094】
図示は省略するが、排気用ロッカーアーム33のボス部53には、カムシャフト31のオイル通路(図示せず)から噴出する潤滑油をボス部53と排気用ロッカーシャフト35との間に導くためのオイル供給孔が形成されている。
【0095】
図2及び
図3に示すように、シリンダヘッド部7には補強板65が固定されている。補強板65は、第1の外壁25aの端面と支持壁28の端面との間に跨って配置されている。補強板65は略四角形状であって、補強板65の中央部には略四角形状の孔が形成されている。
【0096】
支持壁28の前端面及び第1の外壁25aの前端面からは、それぞれ一対のスタッドボルト66が突出している(
図4参照)。スタッドボルト66は、補強板65の四隅に形成した孔を貫通している。このスタッドボルト66の先端にはナット67が取り付けられている。
【0097】
本実施形態の単気筒SOHCエンジン2は、以下の特徴を有する。
本実施形態では、カムアーム部44、54の摺動面46、56には被膜(62)が形成されており、カム40、41の外周面に、被膜62と同様の被膜(図示省略)が形成されている。したがって、カムアーム部44、54の摺動面46、56と、カム40、41の外周面とは、2つの被膜を介して摺動する。この被膜は、摺動面46、56の基材よりも摩擦係数が低い。そのため、被膜と、この被膜と摺動する面との摩擦係数は小さい。
【0098】
摺動面46、56のカムシャフト31の回転軸線C2の方向の幅(D1)を小さくした場合、ロッカーアーム32、33を軽量化でき、その結果、機械的損失を低減できる。その一方で、摺動面46、56とカム40、41との接触面圧が高くなる。接触面圧の増加は、摩擦力の増加につながる。しかし、本実施形態では、被膜によって接触面の間の摩擦係数を下げているため、摺動面46、56のカムシャフト31の回転軸線C2の方向の幅を小さくしても、摩擦力の増加による機械的損失の増加を抑えることができる。
【0099】
カムアーム部44、54のボス部43、53に近い端部44a、54aのカムシャフト31の回転軸線C2の方向の幅(D2)は、ロッカーアーム32、33にかかる力の大きさによって決まっており、極端に大きくなることはない。したがって、カムシャフト31の回転軸線C2の方向において、カムアーム部44、54の摺動面46、56の幅(D1)を、カムアーム部44、54のボス部43、53に近い端部44a、54aの幅(D2)より小さくすることで、摺動面46、56の幅(D1)を、従来のロッカーアームのカム側の端部の幅よりも小さくできる。
そのため、本実施形態では、機械的損失の増加を抑えつつ、カムシャフト31の回転軸線C2の方向において、摺動面46、56の幅(D1)を、従来のロッカーアーのカム側の端部の幅よりも小さくできる。
【0100】
また、摺動面46、56のカムシャフト31の回転軸線C2の方向の幅(D1)を小さくしたことにより、その分、スペースを確保できる。摺動面46と摺動面56は、カムシャフト31の回転軸線方向に並んで設けられている。そのため、摺動面46と摺動面56の間に広いスペースを確保したり、摺動面46と摺動面56のカムシャフト31の回転軸線C2の方向の外側のスペースを広げたりすることができる。これにより、エンジン2の設計自由度を高めることができる。設計自由度を高めることで、エンジン2を小型化するための工夫が行いやすくなる。例えば、カム40、41のカムシャフト31の回転軸線C2の方向の幅を小さくして、カムシャフト31の長さを短くすることで、エンジン2を小型化できる。
【0101】
本実施形態のエンジン2は、単気筒エンジンであるため、多気筒エンジンに比べて内部スペースの余裕が少ない。そのため、本実施形態のエンジン2では、内部スペースを確保して設計自由度を向上させることが、エンジン2の小型化により有効である。また、単気筒エンジンが搭載される機器は、エンジンの外側のスペースが少ないものが多い。そのため、エンジン2を小型化してエンジン2の外側のスペースを増やすことで、このスペースを有効に活用できる。
【0102】
また、ロッカーアーム32、33の摺動面46、56とカム40、41との間に、摺動面46、56の基材よりも摩擦係数が低く、硬度が高い被膜(62)が介在しているため、ロッカーアーム32、33の摺動面46、56とカム40、41との間で焼き付きが生じるのを防止できる。
【0103】
また、摺動面46と摺動面56は、カムシャフト31の回転軸線C2の方向の幅が小さく、且つ、カムシャフト31の回転軸線C2の方向に並んでいる。それに加えて、摺動面46と摺動面56は、カムシャフト31の回転軸線C2の方向から見て、カムシャフト31に対して、シリンダ孔9の中心軸線C1の方向の一方向(前方)に設けられる。そのため、摺動面46と摺動面56を小さいスペースに集約して配置することができる。これにより、エンジン2内に大きいスペースを確保しやすくなる。したがって、エンジン2の設計自由度をさらに向上できるため、エンジン2をより小型化できる。
【0104】
摺動面46と摺動面56は、カムシャフト31の回転軸線C2の方向(左右方向)の幅が小さく、且つ、カムシャフト31の回転軸線C2の方向に並んでいる。それに加えて、摺動面46と摺動面56は、シリンダ孔9の中心軸線C1の方向から見て、吸気用ロッカーシャフト34と排気用ロッカーシャフト35の間に設けられ、両方ともカムシャフト31の前方に配置される。そのため、摺動面46と摺動面56をより小さいスペースに集約して配置することができる。さらに、吸気用ロッカーシャフト34がカムシャフト31より上方に設けられ、排気用ロッカーシャフト35がカムシャフト31より下方に設けられる。そのため、摺動面46と摺動面56の左右方向の間隔を狭めやすい。
これらにより、エンジン2内に大きいスペースを確保しやすくなる。したがって、エンジン2の設計自由度をさらに向上できるため、エンジン2をより小型化できる。
【0105】
また、カムアーム部44、54は、ボス部43、53から、カムシャフト31の回転軸線C2の方向(左右方向)に直交する上下方向に突出している。そのため、摺動面46と摺動面56の左右方向の間隔を狭めやすい。これにより、エンジン2内に大きいスペースを確保しやすくなる。したがって、エンジン2の設計自由度をさらに向上できるため、エンジン2をより小型化できる。
【0106】
また、カムアーム部44、54は、カムシャフト31の回転軸線C2の方向に貫通する穴47、57を有する。それにより、ロッカーアーム32、33を軽量化できる。軽量化によって機械的損失を低減できた分、カムアーム部44、54の強度を維持しながら、摺動面46、56のカムシャフト31の回転軸線C2の方向の幅をより小さくできる。それにより、エンジン2の設計自由度をさらに向上できるため、エンジン2をより小型化できる。
【0107】
また、バルブアーム部45A、45B、55は、カムシャフト31の回転軸線C2の方向に貫通する穴48、58を有する。それにより、ロッカーアーム32、33を軽量化できる。軽量化によって機械的損失を低減できた分、摺動面46、56のカムシャフト31の回転軸線C2の方向の幅をより小さくできる。それにより、エンジン2の設計自由度をさらに向上できるため、エンジン2をより小型化できる。
【0108】
また、カム40、41は、カムシャフト31の回転軸線C2の方向において、その幅がカムアーム部44、54のボス部43、53に近い端部44a、54aの幅より小さい。カムシャフト31の回転軸線C2の方向において、カム40、41の幅が小さいため、エンジン2を大型化することなく、カムシャフト31の近傍にスペースを確保できる。また、カム40、41同士を近づけて配置することで、エンジン2を大型化することなく、カムシャフト31の外周部に大きいスペースを確保できる。このようなスペースを確保することで、エンジン2の設計自由度をさらに向上できるため、エンジン2をより小型化できる。
また、カム40、41のカムシャフト31の回転軸線C2の方向の幅が小さいため、カムシャフト31の長さを短くすることでエンジン2を小型化できる。
【0109】
点火プラグ68は、その一部がカムシャフト31の回転軸線C2上に位置するように、シリンダヘッド部7の第1の外壁25aに設けられている。カム40、41は、カムシャフト31の回転軸線C2の方向の幅が小さいため、カムシャフト31の長さを短くできる。カムシャフト31の長さを短くすることで、シリンダヘッド部7の点火プラグ68が設けられる第1の外壁25aをシリンダヘッド部7の内部側にずらすことができる。具体的には、本実施形態では、第1の外壁25aの凹状部の深さをより大きくできる。これにより、点火プラグ68をメンテナンスする際に使用するスペースを確保できる。
【0110】
バルブ16、18のバルブ軸部16b、18bの直径は、バルブ16、18がカムシャフト31から受ける力の大きさによって決まっており、極端に大きくなることはない。摺動面46、56のカムシャフト31の回転軸線C2の方向の幅は、カムアーム部44、54のボス部43、53に近い端部44a、54aの幅より小さいだけでなく、バルブ軸部16b、18bの最小直径よりも小さい。本実施形態では、バルブ軸部16b、18bの直径は、カムアーム部44、54のボス部43、53に近い端部44a、54aの幅よりも小さい。したがって、摺動面46、56のカムシャフト31の回転軸線C2の方向の幅をより小さくできるため、エンジン2の設計自由度がより向上し、エンジン2をより小型化できる。
【0111】
また、ロッカーシャフト34、35の外周面には、その基材よりも摩擦係数が低く、硬度が高い被膜(図示省略)が形成されている。これにより、ロッカーシャフト34、35の外周面とロッカーアーム32、33のボス部43、53の内周面との間の摩擦力を低減できると共に、ロッカーシャフト34、35とロッカーアーム32、33のボス部43、53との焼き付きを防止できる。したがって、エンジン2の機械損失の増大をより抑制できる。
【0112】
バルブアーム部45、55のバルブ16を押圧する押圧部49、59(本発明の端部)の表面には、その基材より摩擦係数が低く、硬度が高い被膜(62)が形成されている。これにより、バルブアーム部45、55のバルブ16、18を押圧する押圧部49、59と、バルブ16、18に設けられて押圧部49、59によって押圧されるシム50、60と間に生じる摩擦力を低減できると共に、両者の間の焼き付きを防止できる。したがって、エンジン2の機械損失の増大をより抑制できる。
【0113】
また、バルブアーム部45、55とバルブ16、18との間に配置されるシム50、60の表面に、その基材よりも摩擦係数が低く、硬度が高い被膜(図示省略)が形成されている。これにより、バルブアーム部45、55とシム50、60との間の摩擦力を低減できると共に、バルブアーム部45、55とシム50、60との焼き付きを防止できる。したがって、エンジン2の機械損失の増大をより抑制できる。
【0114】
ローラーロッカーアームを用いた場合、ローラーが重たいため、ローラーをカムに追随させるために、バルブを閉じる方向に付勢するスプリングのスプリング力が大きくなる。スプリング力は高回転になるほど大きくなる。そのため、ローラーとカムとの摩擦抵抗が小さいことでカムシャフトの駆動トルクが小さくなるものの、スプリング力が大きい分、カムシャフトの駆動トルクが大きくなる。
一方、本実施形態では、ロッカーアーム32、33とカム40、41とを摺動させるため、摺動する箇所に摩擦係数を下げる表面処理が施されていても、ローラーロッカーアームを用いた場合よりも若干摩擦抵抗が大きくなる。そのため、ローラーロッカーアームを用いた場合よりも、摩擦抵抗が大きくなった分、カムシャフト31の駆動トルクが大きくなる。しかしながら、ロッカーアーム32、33を軽量化できるため、吸気用及び排気用スプリング22、24スプリング力を小さくでき、その分、カムシャフト31の駆動トルクを小さくできる。その結果、カムシャフト31の駆動トルクの増大を抑制でき、機械損失の増大を抑制できる。
【0115】
以上、本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々な変更が可能である。また、後述する変更例は適宜組み合わせて実施することができる。なお、本明細書において「好ましい」という用語は非排他的なものであって、「好ましいがこれに限定されるものではない」ということを意味するものである。
【0116】
上記実施形態では、吸気用ロッカーアーム32のカムアーム部44の摺動面46と、吸気用カム40の外周面の両方に被膜が形成されているが、いずれか一方にのみ被膜が形成されていてもよい。排気用ロッカーアーム33と排気用カム41についても同様である。この場合、摺動面46、56と、カム40、41は、被膜を介して摺動する。そのため、上記実施形態と同様の効果が得られる。但し、摩擦力をより低減して機械損失をより低減できる点では、上記実施形態のように、摺動面46、56と、カム40、41の外周面に被膜を形成することが好ましい。
【0117】
上記実施形態では、押圧部49の表面と、シム50の表面の両方に、被膜が形成されているが、いずれか一方にのみ被膜が形成されていてもよい。また、押圧部49とシム50の両方に被膜が形成されていなくてもよい。押圧部59とシム60についても同様に、いずれか一方にのみ被膜が形成されていてもよく、両方に被膜が形成されていなくてもよい。
【0118】
上記実施形態では、ロッカーシャフト34、35の外周面の全域に、被膜が形成されているが、ロッカーシャフト34、35の外周面のうち、少なくとも、エンジン駆動時にボス部43、53の内周面と接触する領域に被膜が形成されていれば、その他の部分には被膜が形成されていなくてもよい。また、ロッカーシャフト34、35の外周面に、被膜が形成されていなくてもよい。
【0119】
上記実施形態では、ロッカーアーム32、33のカムアーム部44、54は、カムシャフト31の回転軸線C2の方向に貫通する穴47、57を有するが、ロッカーアームは、この穴47、57が塞がれた形状であってもよい。また、バルブアーム部45A、45B、55は、穴48、58を有するが、この穴48、58が塞がれた形状であってもよい。
【0120】
上記実施形態では、ロッカーシャフト34、35のバルブアーム部45A、45B、55の先端部(押圧部49、59)は、シム50、60を介してバルブ16、18を押圧するようになっているが、この構成に限定されるものではない。ロッカーシャフトのバルブアーム部の先端部に、アジャストスクリューが設けられており、このアジャストスクリューによってバルブを押圧するようになっていてもよい。
【0121】
シム50、60を設けない場合、シム50、60を交換するためのスプリング51、61は不要となる。この場合、吸気用カム40と排気用カム41の離間距離、及び、吸気用ロッカーシャフト34の摺動面46と排気用ロッカーシャフト35の摺動面56の離間距離を、上記実施形態よりも小さくすることができる。その結果、シリンダヘッド部7の内部により大きいスペースを確保することができる。もしくは、シリンダヘッド部7をより小型化できる。
【0122】
吸気用及び排気用カムの数、吸気用及び排気用バルブの数、吸気用及び排気用ロッカーアームの数は、上記実施形態と異なっていてもよい。また、1つの吸気用ロッカーアームに設けられるバルブアーム部の数、及び、カム側アームの数は、それぞれ、上記実施形態と異なっていてもよい。排気用ロッカーアームについても同様に、バルブアーム部の数、及び、カム側アームの数は、上記実施形態と異なっていてもよい。
【0123】
上記実施形態では、単気筒SOHCエンジン2は、1本の吸気用ロッカーシャフト34を有するが、2本以上の吸気用ロッカーシャフトを有していてもよい。この場合、吸気用ロッカーアームの数は、吸気用ロッカーシャフトの数以上となる。また、単気筒SOHCエンジン2は、2本以上の排気用ロッカーシャフトを有していてもよい。
【0124】
上記実施形態では、吸気用及び排気用ロッカーアーム32、33のバルブアーム部45A、45B、55は、ボス部43、53からカムシャフト31の回転軸線C2の方向に直交する方向に対して交差する方向に延びているが、バルブアーム部の形状はこれに限定されない。例えば
図8に示すように、吸気用ロッカーアーム332のバルブアーム部345が、ボス部343からカムシャフト31の回転軸線C2の方向に直交する方向に延びていてもよい。この場合、
図8に示すように、前後方向(シリンダ孔9の中心軸線C1の方向)から見て、カムアーム部344とバルブアーム部345が1つの直線上に配置されていることが好ましい。
【0125】
例えば
図5に示すように、エンジン202はエンジンの始動時の圧縮圧力を逃がすためのデコンプレッション機構170を備えていてもよい。デコンプレッション機構170は、カムシャフト31の外周に装着される。デコンプレッション機構170は、排気用カム41の吸気用カム40と反対側(点火プラグ68側)に配置されている。デコンプレッション機構170の具体的な構成は、例えば特開2011−202625号公報に記載されているような従来のデコンプレッション機構と同様である。
【0126】
上記実施形態と同様に、ロッカーアーム32、33の摺動面46、56の左右方向の幅とカム40、41の左右方向の幅が小さいため、カムシャフト31の外周にスペースを確保できる。そのため、このスペースにデコンプレッション機構170を配置できるため、エンジンの大型化を抑制しつつ、デコンプレッション機構170を配置できる。
【0127】
例えば
図6及び
図7に示すように、エンジン202は2つの吸気用バルブ16、16(または2つの排気用バルブ)の開閉タイミングを変更するための可変バルブタイミング機構280を備えていてもよい。このエンジン202のカムシャフト231には、排気用カム41と2つの吸気用カム240A、240Bが形成されている。また、このエンジン202は2つの吸気用ロッカーアーム232A、232Bを有する。2つの吸気用ロッカーアーム232A、232B及び可変バルブタイミング機構280の具体的な構成は、例えば特開2011−202625号公報に記載されているような従来の可変バルブタイミング機構と同様である。
【0128】
可変バルブタイミング機構280は、シリンダヘッド部207の第1の外壁225aに取り付けられたアクチュエータ281を有する。アクチュエータ281は、カムシャフト231の軸方向に進退可能なロッド281aを有する。アクチュエータ281は、シリンダ孔9の中心軸線方向から見て、吸気用ロッカーシャフト34の中心軸線上に配置されている。吸気用ロッカーアーム232A、232Bの摺動面の左右方向の幅は、上記実施形態の摺動面46の左右方向の幅とほぼ同じである。なお、
図6では、吸気用ロッカーアーム232A、232Bのカムアーム部のみを表示して、ボス部及びバルブアーム部の表示を省略している。また、
図6では、吸気用ロッカーシャフト34の表示を省略している。
【0129】
ロッカーアーム232A、232B、33の摺動面の左右方向の幅とカム240A、240B、41の左右方向の幅が小さいことにより、シリンダヘッド部207の第1の外壁225aを動弁室26側にずらすことができる(第1の外壁225aの凹状部の深さをより大きくできる)。そのため、シリンダヘッド部207の外側にアクチュエータ281を配置するスペースを確保できる。したがって、エンジン202の大型化を抑制しつつ、可変バルブタイミング機構280のアクチュエータ281を配置できる。
【0130】
なお、可変バルブタイミング機構のアクチュエータは、シリンダヘッド部の内部に配置してもよい。
【0131】
上記実施形態では、ロッカーシャフト34、35がシリンダヘッド部7に移動不能に支持されて、このロッカーシャフト34、35にロッカーアーム32、33が揺動可能に支持されているが、この構成に限定されない。ロッカーシャフト34、35がシリンダヘッド部7に揺動可能に支持されており、このロッカーシャフト34、35にロッカーアーム32、33が固定されていてもよい。
【0132】
上記実施形態の単気筒SOHCエンジン2は、水冷式であるが、空冷式であってもよい。
【0133】
上記実施形態では、シリンダボディ部6とシリンダヘッド部7は別部材であるが、シリンダボディ部とシリンダヘッド部が一体化された部材であってもよい。
【0134】
上記実施形態は、スクータ型自動二輪車に本発明の単気筒SOHCエンジンを適用した一例であるが、本発明の単気筒SOHCエンジンの適用対象はスクータ型自動二輪車に限定されるものではない。本発明の単気筒SOHCエンジンは、スクータ型以外の自動二輪車に適用してもよく、自動二輪車以外の鞍乗型車両に適用してもよい。なお、鞍乗型車両とは、乗員が鞍にまたがるような状態で乗車する車両全般を指している。鞍乗型車両には、自動二輪車、三輪車、四輪バギー(ATV:All Terrain Vehicle(全地形型車両))、水上バイク、スノーモービル等が含まれる。
【0135】
なお、本発明および本明細書において、被膜の摩擦係数が、例えば摺動面の基材の摩擦係数より低いとは、被膜とある材質Aの物体との摩擦係数が、摺動面の基材とある材質Aの物体との摩擦係数より低いことをいう。材質Aは特に限定されない。
また、本発明において、吸気用摺動面と排気用摺動面がカムシャフトの回転軸線方向に並ぶとは、カムシャフトの回転軸線方向において、吸気用摺動面と排気用摺動面が近接している場合と、離間している場合の両方を含む。また、本発明において、吸気用摺動面と排気用摺動面がカムシャフトの回転軸線方向に並ぶとは、吸気用摺動面と排気用摺動面の間に何らの部材が配置されている場合と、何も配置されていない場合の両方を含む。