(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の硬化電着塗膜の形成方法は、下記工程、
アニオン電着塗料組成物中に被塗物を浸漬し、電圧を印加して電着塗膜を形成する、電着塗装工程、および、
前記電着塗装工程で形成した電着塗膜を加熱硬化して硬化電着塗膜を形成する、加熱硬化工程、
を包含する。以下、本発明の方法について詳述する。
【0014】
被塗物
本発明の形成方法おける被塗物は、導電性を有する基材であれば特に限定されずに用いることができる。被塗物として、例えば、鉄、ステンレス、アルミニウム、銅、亜鉛、錫およびこれらの合金などの金属材料、これらの金属材料の成型物、そして、導電性プラスチックおよびその表面処理品などを挙げることができる。上記金属材料は、めっき処理が施された基材であってもよい。本発明において好適な被塗物としては、鉄、ステンレスなどの鉄基材、そして、アルミニウム、アルミニウム合金などのアルミニウム基材が挙げられる。
【0015】
アニオン電着塗料組成物
本発明におけるアニオン電着塗料組成物は、アクリル樹脂(A)、硬化剤(B)、水分散型光沢調整剤(C)および硬化触媒(D)を含む。
【0016】
アクリル樹脂(A)
アニオン電着塗料組成物中に含まれるアクリル樹脂(A)は、塗膜形成樹脂である。アクリル樹脂(A)は、カルボキシル基および水酸基を有するアクリル樹脂であるのが好ましい。このようなアクリル樹脂(A)としては、例えば、カルボキシル基含有ラジカル重合性不飽和単量体(a−1)および水酸基含有ラジカル重合性不飽和単量体(a−2)、さらに必要に応じてその他のラジカル重合性不飽和単量体(a−3)を用いて、これらの単量体をラジカル重合させて得られるアクリル樹脂が挙げられる。
【0017】
カルボキシル基含有ラジカル重合性不飽和単量体(a−1)は、1分子中にカルボキシル基と重合性不飽和結合をそれぞれ少なくとも1個有する化合物である。カルボキシル基含有ラジカル重合性不飽和単量体(a−1)としては、例えば、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、マレイン酸モノエステル、イタコン酸モノエステル、クロトン酸、シトラコン酸などのビニル重合可能なα,β−不飽和脂肪酸、カプロラクトン変性カルボキシル基含有(メタ)アクリル系単量体、およびこれらの混合物などが挙げられる。カルボキシル基含有ラジカル重合性不飽和単量体(a−1)として、アクリル酸およびメタクリル酸からなる群から選択される少なくとも1種を用いるのが好ましい。
なお、本明細書中において、(メタ)アクリル酸は、アクリル酸またはメタクリル酸を示す。
【0018】
水酸基含有ラジカル重合性不飽和系単量体(a−2)は、1分子中に水酸基と重合性不飽和結合をそれぞれ少なくとも1個有する化合物である。水酸基含有ラジカル重合性不飽和系単量体(a−2)としては、例えば、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシブチルなどの(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキル類;(メタ)アクリル酸(ポリ)エチレングリコール、(メタ)アクリル酸(ポリ)プロピレングリコールなどの(メタ)アクリル酸(ポリ)アルキレングリコール類;およびこれらの水酸基含有アクリル系単量体と、β−プロピオラクトン、ジメチルプロピオラクトン、ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、γ−カプロラクトン、γ−カプリロラクトン、γ−ラウリロラクトン、ε−カプロラクトン、δ−カプロラクトンなどのラクトン類化合物との反応物などが挙げられる。このような反応物として市販品を用いてもよく、例えば、プラクセルFM1(ダイセル化学社製、商品名、カプロラクトン変性(メタ)アクリル酸ヒドロキシエステル類)、プラクセルFM2(同左)、プラクセルFM3(同左)、プラクセルFA1(同左)、プラクセルFA2(同左)、プラクセルFA3(同左)などが挙げられる。
【0019】
その他のラジカル重合性不飽和単量体(a−3)は、上記のカルボキシル基含有ラジカル重合性不飽和単量体(a−1)および水酸基含有ラジカル重合性不飽和単量体(a−2)以外の単量体であって、1分子中にラジカル重合性不飽和結合を少なくとも1個有する化合物である。その他のラジカル重合性不飽和単量体(a−3)としては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシルなどの(メタ)アクリル酸のC
1−8アルキルエステルまたはC
3−8シクロアルキルエステル;スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエンなどの芳香族重合性単量体;(メタ)アクリル酸アミド、N−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミドなどの(メタ)アクリルアミドおよびその誘導体;(メタ)アクリロニトリル化合物類;γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシランなどのアルコキシシリル基含有重合性単量体;などが挙げられる。
【0020】
上記単量体(a−1)、(a−2)および(a−3)をラジカル共重合反応させる方法として、当業者において通常用いられる溶液重合方法、乳化重合法などを用いることができる。アクリル樹脂(A)の調製において、
カルボキシル基含有ラジカル重合性不飽和単量体(a−1)を、単量体の合計質量に対して好ましくは3〜30質量%、より好ましくは4〜20質量%、
水酸基含有ラジカル重合性不飽和単量体(a−2)を、単量体の合計質量に対して好ましくは3〜40質量%、より好ましくは5〜30質量%、および
その他のラジカル重合性不飽和単量体(a−3)を、単量体の合計質量に対して好ましくは30〜90質量%、より好ましくは40〜85質量%、
の範囲内で用いるのが好ましい。
【0021】
上記アクリル樹脂(A)は、酸価が15〜150mgKOH/gであるのが好ましく、40〜80mgKOH/gであるのがより好ましい。アクリル樹脂(A)の酸価が15mgKOH/g以上である場合、樹脂の水分散性が高まり、均一な塗料を製造することができる。また、150mgKOH/g以下の場合、硬化塗膜の耐食性、耐酸性などが高まるなどの利点がある。
【0022】
上記アクリル樹脂(A)は、水酸酸基価が30〜200mgKOH/gであるのが好ましく、50〜150mgKOH/gであることがより好ましい。アクリル樹脂(A)の水酸基価が30mgKOH/g以上の場合、硬化反応が充分に起こり、本来の塗膜性能が得られる。また、200mgKOH/g以下の場合、未反応の水酸基が塗膜に残存することなく、耐食性、耐酸性などを低下させることがないなどの利点がある。
なお、本明細書で、酸価および水酸基価は、それぞれ固形分酸価、固形分水酸基価を表し、JIS K 0070に記載される方法によって測定することができる。
【0023】
アクリル樹脂(A)は、重量平均分子量(Mw)が5,000〜100,000であるのが好ましく、10,000〜50,000であるのがより好ましい。アクリル樹脂(A)の重量平均分子量(Mw)が5000以上の場合、耐食性、耐酸性などの塗膜性能が高まるなどの利点がある。また、100,000以下の場合、電着塗膜のフロー性が高まり、塗膜外観の良好な硬化電着塗膜が得られるなどの利点がある。
なお、本明細書では、重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定したポリスチレン換算の値である。
【0024】
本発明におけるアニオン電着塗料組成物において、上記アクリル樹脂(A)は、カルボキシル基を、塩基性物質(例えば、トリエチルアミン、ジメチルエタノールアミン、アンモニアなど)で中和して、水溶性または水分散性の樹脂として用いるのが好ましい。このようなアクリル樹脂(A)の中和において、中和率は、30〜100%であることが好ましく、50〜80%であることがより好ましい。中和率が上記範囲であることによって、アニオン電着塗料組成物中において上記アクリル樹脂(A)を良好に分散させることができる。
【0025】
本発明におけるアニオン電着塗料組成物において、上記アクリル樹脂(A)の含有量は、上記アクリル樹脂(A)および硬化剤(B)の合計樹脂固形分100質量%に対して、50〜80質量%であることが好ましい。50質量%以上であることで、耐酸性、耐アルカリ性などの耐薬品性および耐食性が高まる。また、80質量%以下の場合、電着塗膜が十分に硬化し、所望の塗膜性能が得られる。
【0026】
本発明の塗料組成物は、上記アクリル樹脂(A)以外の、必要に応じた他の塗膜形成樹脂を含んでもよい。他の塗膜形成樹脂として、例えば、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ブタジエン系樹脂、フェノール樹脂、キシレン樹脂などが挙げられる。硬化電着塗膜の耐食性向上の観点からエポキシ樹脂が好ましい。また、このような他の塗膜形成樹脂を用いる場合における含有量は、塗料組成物中に含まれる樹脂固形分に対して20質量%未満であるのが好ましく、10質量%未満であるのがより好ましい。
【0027】
硬化剤(B)
本発明におけるアニオン電着塗料組成物は、硬化剤(B)を含む。硬化剤(B)は、アミノ樹脂およびブロックイソシアネート化合物からなる群から選択される1種またはそれ以上であるのが好ましい。
【0028】
アミノ樹脂は、メラミン、尿素、ベンゾグアナミンなどのアミノ化合物と、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒドなどのアルデヒド化合物との縮合体に、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどの低級アルコールを用いて変性させることによって得られる縮合体である。このようなアミノ樹脂の具体例として、例えば、完全アルキル型メチル/ブチル混合エーテル化メラミン樹脂、メチロール基型メチル/ブチル混合エーテル化メラミン樹脂、イミノ型メチル/ブチル混合エーテル化メラミン樹脂、完全アルキル型メチル化メラミン樹脂、イミノ基型メチル化メラミン樹脂を挙げることができる。
【0029】
アミノ樹脂としては、市販品を用いてもよい。市販品としては、例えば、サイメル232、サイメル232S、サイメル235、サイメル236、サイメル238、サイメル266、サイメル267、サイメル285などの完全アルキル型メチル/ブチル混合エーテル化メラミン樹脂;サイメル272などのメチロール基型メチル/ブチル混合エーテル化メラミン樹脂;サイメル202、サイメル207、サイメル212、サイメル253、サイメル254などのイミノ型メチル/ブチル混合エーテル化メラミン樹脂;サイメル300、サイメル301、サイメル303、サイメル350などの完全アルキル型メチル化メラミン樹脂;サイメル325、サイメル327、サイメル703、サイメル712、サイメル254、サイメル253、サイメル212、サイメル1128などのイミノ基型メチル化メラミン樹脂(以上、オルネクスジャパン社製)、ユーバン20SE60(三井化学社製、ブチルエーテル化メラミン樹脂)などが挙げられる。
【0030】
ブロックイソシアネート化合物としては、下記1)〜3);
1)トリメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネートなどの脂肪族ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートなどの脂環式ジイソシアネート、
2)上記ジイソシアネート類とエチレングリコール、トリメチロールプロパン、ペントールなどの多価アルコール類とを反応させて得られる2官能性以上のポリイソシアネート、
3)上記1)のジイソシアネート類3モルを反応させて得られるイソシアヌレート結合含有3官能性イソシアネート;
からなる群から選択される少なくとも1種に、ブロック剤を反応させて得られるブロックイソシアネート化合物が好適に用いられる。
ブロック剤としては、例えば、n−ブタノール、n−ヘキシルアルコール、2−エチルヘキサノール、ラウリルアルコール、フェノールカルビノール、メチルフェニルカルビノールなどの一価のアルキル(または芳香族)アルコール類;エチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールモノ2−エチルヘキシルエーテルなどのセロソルブ類;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコールフェノールなどのポリエーテル型両末端ジオール類;エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオールなどのジオール類と、シュウ酸、コハク酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸などのジカルボン酸類から得られるポリエステル型両末端ポリオール類;パラ−t−ブチルフェノール、クレゾールなどのフェノール類;ジメチルケトオキシム、メチルエチルケトオキシム、メチルイソブチルケトオキシム、メチルアミルケトオキシム、シクロヘキサノンオキシムなどのオキシム類;および、ε−カプロラクタム、γ−ブチロラクタムに代表されるラクタム類などが好ましく用いられる。
【0031】
ポリイソシアネート化合物の市販品の具体例としては、バイヒジュールVPLS2186(住化バイエルウレタン社製)などが挙げられる。
【0032】
硬化剤(B)として、上記アミノ樹脂およびブロックイソシアネート化合物の混合物を用いてもよい。上記硬化剤(B)として、本発明の効果を効果的に得られる点から、アミノ樹脂を用いることがより好ましい。
【0033】
本発明におけるアニオン電着塗料組成物において、上記硬化剤(B)の含有量は、上記アクリル樹脂(A)および硬化剤(B)の合計樹脂固形分100質量%に対して、20〜50質量%であることが好ましい。20質量%以上の場合、十分に硬化反応が進行し、所望の塗膜性能が得られる。また、50質量%以下の場合、塗膜の密着性や柔軟性が高まる。
【0034】
水分散型光沢調整剤(C)
本発明におけるアニオン電着塗料組成物は、水分散型光沢調整剤(C)を含む。水分散型光沢調整剤(C)は、天然ワックスおよびポリオレフィンワックスからなる群から選択される1種またはそれ以上のワックスの水分散物である。このワックスは、軟化点(T
m)が100℃以上であり、そして、密度が0.91〜1.10の範囲内であることを条件とする。
上記ワックスのうち、天然ワックスの具体例として、例えば、木ロウ、カルナバワックス、石油系のマイクロクリスタリンワックス、パラフィンワックス、鉱物系のモンタンワックスなどが挙げられる。ポリオレフィンワックスの具体例として、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、酸化ポリエチレン、酸化ポリプロピレン、塩化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレンなどのポリオレフィンワックスなどが挙げられる。
上記ワックスの水分散物の調製方法の例として、例えば、
上記ワックスを親水性有機溶媒に溶解させ、次いで水性溶媒中に機械的に分散させる方法、
界面活性剤または高分子乳化剤などを用いて、上記ワックスを水性溶媒中に分散させる方法、および、
上記ワックスにα,β−不飽和カルボン酸を反応させて、カルボキシル基を導入し、次いで、導入したカルボキシル基を有機アミンまたは無機塩基で中和することによって、水性溶媒中に乳化分散させる方法、
などが挙げられる。
これらの調製方法において、ワックスとして、ポリエチレン、ポリプロピレン、酸化ポリエチレン、酸化ポリプロピレンなどを用いるのが好ましい。
【0035】
本発明において、上記水分散型光沢調整剤(C)を構成するワックスとして、軟化点(T
m)が100℃以上であるものが用いられる。水分散型光沢調整剤(C)を構成するワックスの軟化点(T
m)が100℃未満である場合は、十分な光沢調整効果が得られない。また、硬化電着塗膜において光沢ムラが生じる不具合がある。水分散型光沢調整剤(C)を構成するワックスの軟化点(T
m)は100〜140℃の範囲内であるのが好ましい。
【0036】
水分散型光沢調整剤(C)を構成するワックスの軟化点(T
m)は、水分散型光沢調整剤(C)を構成するワックスが水分散される前の固形状態において、加熱により軟化する時点の温度を測定することによって決定することができる。水分散型光沢調整剤(C)を構成するワックスの軟化点(T
m)の測定は、具体的には、水分散型光沢調整剤(C)の調製に用いる、水分散前の状態の上記ワックスを用いて、JIS K 2207に準拠した方法により測定することができる。上記測定において、水分散型光沢調整剤(C)を構成するワックスが水分散される前の固形状態に代えて、水分散型光沢調整剤(C)において水性媒体を蒸発させて、ワックスが固形状態となったものを用いることもできる。
【0037】
また本発明において、上記水分散型光沢調整剤(C)を構成するワックスは、密度が0.91〜1.10の範囲内であるものを用いる。水分散型光沢調整剤(C)を構成するワックスの密度は、0.92〜1.05の範囲内であるのが好ましい。水分散型光沢調整剤(C)を構成するワックスの密度が上記範囲を外れる場合は、得られる硬化電着塗膜において、硬化塗膜の外観に不具合が生じるおそれがある。
【0038】
水分散型光沢調整剤(C)を構成するワックスの密度は、JIS K 7112に準拠した方法により測定することができる。
【0039】
上記水分散型光沢調整剤(C)は、アニオン分散型であるのが好ましい。水分散型光沢調整剤(C)がアニオン分散型であることによって、得られるアニオン電着塗料組成物の塗料安定性が向上するなどの利点がある。
【0040】
水分散型光沢調整剤(C)として、市販品を用いてもよい。市販品として、例えば、岐阜セラック社製のHI−DISPER
(商標)シリーズ、ビックケミー・ジャパン社製のAQUACER
(商標)シリーズおよびAQUAMAT
(商標)シリーズ、三井化学社製のケミパールW
(商標)シリーズ、ユニチカ社製のアローベース
(商標)シリーズなどが挙げられる。
【0041】
本発明において、上記アニオン電着塗料組成物中に含まれる水分散型光沢調整剤(C)の固形分質量は、アニオン電着塗料組成物の樹脂固形分100質量部に対して6〜20質量部である。水分散型光沢調整剤(C)の固形分質量は7〜20質量部であるのが好ましく、10〜15質量部であるのがより好ましい。水分散型光沢調整剤(C)の固形分質量が20質量部を超える場合は、得られる硬化電着塗膜の硬度が低下するおそれがある。また、水分散型光沢調整剤(C)の固形分質量が6質量部未満ある場合は、十分な光沢調整効果が得られない。
なお本明細書において「アニオン電着塗料組成物の樹脂固形分」とは、電着塗料組成物中に含まれる塗膜形成樹脂の樹脂固形分をいい、具体的には、アクリル樹脂(A)、硬化剤(B)、そして必要に応じた他の塗膜形成樹脂の樹脂固形分をいう。
【0042】
硬化触媒(D)
本発明におけるアニオン電着塗料組成物は、硬化触媒(D)を含む。硬化触媒(D)としては、例えば、n−ブチルベンゼンスルホン酸、アミルベンゼンスルホン酸、オクチルベンゼンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、オクタデシルベンゼンスルホン酸、ジブチルベンゼンスルホン酸、i−プロピルナフタレンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、ドデシルナフタレンスルホン酸、ジノニルナフタレンスルホン酸、ジノニルナフタレンジスルホン酸などのスルホン酸触媒、およびこれらのスルホン酸触媒のアミン中和物など;ジオクチル錫ジラウレート、ジオクチル錫ジベンゾエート、ジブチル錫ジベンゾエートなどの錫化合物触媒;などが挙げられる。
【0043】
硬化触媒(D)として、上記スルホン酸触媒を用いるのがより好ましく、ドデシルベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、ドデシルナフタレンスルホン酸、ジノニルナフタレンスルホン酸、ジノニルナフタレンジスルホン酸からなる群から選択される1種またはそれ以上を用いるのがさらに好ましい。本発明におけるアニオン電着塗料組成物において、このような硬化触媒(D)を用いることによって、加熱硬化工程における加熱温度を、例えば100〜160℃、好ましくは110〜160℃といった、比較的低温加熱条件に設定することができる。また、加熱硬化工程における加熱温度が上記のように比較的低温の加熱条件であっても、耐擦傷性などの性能が良好な硬化電着塗膜を形成することができる利点がある。
【0044】
アニオン電着塗料組成物中に含まれる硬化触媒(D)の量は、アクリル樹脂(A)および架橋剤(B)の固形分合計100質量部を基準として、硬化触媒(D)の固形分量として0.05〜10質量部であるのが好ましく、0.1〜5質量部であるのがより好ましく、0.2〜4質量部であるのがさらに好ましい。上記範囲で用いることで、耐擦傷性などの性能が良好な硬化電着塗膜を形成することができる。
【0045】
その他の成分など
本発明におけるアニオン電着塗料組成物は、水性塗料組成物であり、水を主溶媒として含む。一方で、本発明におけるアニオン電着塗料組成物は、必要に応じて有機溶媒を含んでもよい。有機溶媒の具体例としては、メタノール、イソプロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、メトキシプロパノールなどのアルコール類、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテルなどのエーテル類、アセチルアセトンなどのケトン類、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテートなどのエステル類、ヘキサンなどが挙げられる。これらの有機溶媒は、1種のみを用いてもよく、2種またはそれ以上を併用してもよい。ただし、VOC排出規制の観点から、有機溶媒の量は可能な限り少ないことが好ましい。
【0046】
本発明におけるアニオン電着塗料組成物は、必要に応じて、着色剤、顔料、造膜助剤、乾燥遅延助剤、粘性調整剤、防腐剤、防かび剤、防腐剤、消泡剤、光安定剤(例えばヒンダードアミン系光安定剤など)、酸化防止剤、紫外線吸収剤、pH調整剤など、当分野において公知の他の添加剤を含んでもよい。
【0047】
本発明におけるアニオン電着塗料組成物は、必要に応じて顔料を含んでもよい。この顔料としては特に限定されず、例えば、硫酸バリウム、タルク、炭酸カルシウム、硫酸バリウムなどの体質顔料;リンモリブテン酸アルミニウム亜鉛、リンモリブテン酸亜鉛、リンモリブテン酸カルシウムなどのリンモリブテン酸塩系防錆顔料、および、モリブテン酸塩系防錆顔料、リン酸塩系防錆顔料などの防錆顔料;および、塗料分野において通常用いられる着色顔料;などが挙げられる。
【0048】
アニオン性顔料分散ペースト
アニオン電着塗料組成物に顔料を含有させる場合、顔料の分散容易性の観点から、顔料を予め顔料分散ペーストの形態に調製するのが好ましい。アニオン性顔料分散ペーストは、顔料をアニオン性顔料分散樹脂に分散させることによって調製することができる。
アニオン性顔料分散樹脂として、例えば、アクリル酸エステル、アクリル酸およびアゾニトリル化合物などを用いて調製される変性アクリル樹脂を用いることができる。
アニオン性顔料分散ペーストは、アニオン性顔料分散樹脂、顔料、水性媒体、そして必要に応じて中和塩基を混合した後、その混合物中の顔料の粒子径が所定の均一な粒子径となるまで、ボールミルまたはサンドグラインドミルなどの通常用いられる分散装置を用いて分散させることによって調製することができる。
中和塩基としては、例えば、アンモニア;ジエチルアミン、エチルエタノールアミン、ジエタノールアミン、モノエタノールアミン、モノプロパノールアミン、イソプロパノールアミン、エチルアミノエチルアミン、ヒドロキシエチルアミン、ジエチレントリアミン、トリエチルアミンなどの有機アミン;水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物などの塩基性化合物;などが挙げられる。一般に、アニオン性顔料分散ペーストは、固形分35〜70質量%、好ましくは40〜65質量%に調製される。
【0049】
アニオン性顔料分散ペーストとして、市販のアニオン性の着色ペーストを用いてもよい。市販品としては、例えば、WAJ−AAT−907ブラック、WAJ−AAT−825バイオレット、WAJ−AAT−731ブルー(以上、トーヨーケム社製)、エマコールNSオーカー4622(山陽色素社製)などが挙げられる。
【0050】
アニオン電着塗料組成物の調製
本発明におけるアニオン電着塗料組成物は、上記アクリル樹脂(A)、硬化剤(B)、水分散型光沢調整剤(C)、硬化触媒(D)、さらに必要に応じたアニオン性顔料分散ペーストを、水性媒体中に分散させることによって調製することができる。水性媒体は、水、または水と上記の有機溶媒との混合物である。水としては、イオン交換水を用いるのが好ましい。ここで、必要に応じて上記中和塩基を用いてもよい。
【0051】
中和塩基の量は、アクリル樹脂(A)などの塗膜形成樹脂が有するアニオン性基(カルボキシル基)の少なくとも30%、好ましくは50〜120%を中和するのに足りる量で用いるのが好ましい。また中和塩基を用いて、アニオン電着塗料組成物のpHの調節を行ってもよい。アニオン電着塗料組成物のpHは7.0〜9.0であるのが好ましく、7.0〜8.5であるのがより好ましい。
【0052】
硬化電着塗膜の形成
本発明の方法は、下記工程、
アニオン電着塗料組成物中に被塗物を浸漬し、電圧を印加して電着塗膜を形成する、電着塗装工程、および、
前記電着塗装工程で形成した電着塗膜を加熱硬化して硬化電着塗膜を形成する、加熱硬化工程、
を包含する。
この方法において、上記アニオン電着塗料組成物を用いること、そして、上記電着塗装工程において形成された電着塗膜の50℃における塗膜粘度が10,000〜100,000Pa・sの範囲内であることによって、加熱温度の違いによる光沢差または艶消し効果不良などの不具合を伴わないことを特徴とする、鏡面光沢度の低い低光沢塗膜または艶消し塗膜などの光沢度の調整された硬化電着塗膜を得ることが可能となる。
【0053】
アニオン電着塗料組成物の電着塗装は、被塗物を陽極としてアニオン電着塗料組成物中に浸漬し、次いで、陰極との間に、通常1〜400Vの電圧を印加することによって行われる。電着塗装時におけるアニオン電着塗料組成物の塗料温度は、10〜45℃であるのが好ましく、15〜30℃であるのがより好ましい。電圧を印加する時間は、電着塗装条件に応じて任意に選択することができ、例えば30秒〜5分とすることができる。電圧を印加することによって、被塗物の表面に電着塗膜が形成される。形成された電着塗膜は、必要に応じて水洗してもよい。
【0054】
本発明の方法においては、上記電着塗装工程において形成された電着塗膜の50℃における塗膜粘度が10,000〜100,000Pa・sの範囲内であることを条件とする。電着塗膜の50℃における塗膜粘度が上記範囲内であることによって、本発明におけるアニオン電着塗料組成物中に含まれる水分散型光沢調整剤(C)が、光沢調整機能を良好に発揮することとなり、得られる硬化電着塗膜の光沢度を低い範囲(60°鏡面光沢度が70以下)に設計することができる。
【0055】
本発明において、電着塗膜の粘度を50℃で測定する理由は以下の通りである。電着塗膜は、電圧の印加により被塗物表面に析出した塗膜である。電着塗膜は一般に、より高粘度(高Tg)に設計されている。そのため、一般的な電着槽の温度(例えば30℃)において電着塗膜の粘度を測定すると、粘度が非常に高いため測定が不能となることさえある。このため、30℃において電着塗膜の塗膜粘度を測定することは困難である。一方、析出した電着塗膜は、加熱によって熱フローが生じて一旦粘度が低下する。そしてさらに加熱することによって、電着塗膜中に含まれるアクリル樹脂(A)および硬化剤(B)などの塗膜形成樹脂が架橋反応し、塗膜粘度は急上昇する。これによって電着塗膜は硬化し、硬化電着塗膜となる。つまり、電着塗膜は加熱によって一旦粘度が低下し、その後に粘度が上昇することとなる。
【0056】
さらに、電着塗装時においては、ジュール熱が発生することにより、被塗物付近は、40〜50℃程に上昇している。つまり50℃での粘度測定は、電着塗膜析出時の物理的性質を再現させた状態であるということができる。以上より50℃という温度は、電着塗料組成物の上記性質から塗膜粘度の測定に好ましい温度であり、かつ、塗膜形成樹脂の架橋も生じていない温度、つまり未硬化の電着塗膜の析出時の性質を判断するのに適切な温度であると考えられる。
【0057】
電着塗膜の50℃における塗膜粘度が10,000Pa・s未満である場合は、析出した電着塗膜の熱フロー性が向上するため、得られる硬化電着塗膜の光沢度が高くなる。一方で、電着塗膜の50℃における塗膜粘度が100,000Pa・sを超える場合は、得られる電着塗膜のフロー性低下により、硬化塗膜の外観不良となる。
【0058】
本発明においては、上記電着塗装工程において形成された電着塗膜の80℃における塗膜粘度が1,000〜10,000Pa・sの範囲内であるのがより好ましい。電着塗膜の80℃における塗膜粘度が上記範囲内であることによって、得られる硬化電着塗膜の光沢度を低い範囲に設計しつつ、硬化電着塗膜の仕上がり外観を均一とすることができる。この80℃という温度は、電着塗膜に含まれるアクリル樹脂(A)および硬化剤(B)の硬化反応の開始する直前の温度ということができる。このような温度条件下における、電着塗膜の80℃における塗膜粘度が上記範囲であることによって、加熱による電着塗膜のフロー性が増加しすぎず、低光沢度である硬化電着塗膜の形成が可能となり、かつ、硬化電着塗膜の外観不良を回避することができる。
【0059】
電着塗膜の50℃における塗膜粘度および80℃における塗膜粘度は、次のようにして測定することができる。まず被塗物に膜厚約20μmとなるように180秒間電着塗装を行い、電着塗膜を形成し、これを水洗して余分に付着した電着塗料組成物を取り除く。次いで、電着塗膜表面に付着した余分な水分を取り除いた後、乾燥させることなくすぐに塗膜を取り出して、試料を調製する。こうして得られた試料を、動的粘弾性測定装置を用いて粘度測定することによって、50℃および80℃それぞれにおける塗膜粘度を測定することができる。
【0060】
上記塗装工程で形成した電着塗膜を加熱することによって、電着塗膜が硬化し、硬化電着塗膜が得られることとなる(加熱硬化工程)。本発明の方法においては、この加熱硬化工程における加熱温度(T
h)が110〜160℃であるのが好ましい。
上記軟化点(T
m)および加熱温度(T
h)の差(△T)は、10℃以上50℃以下であるのがより好ましい。上記軟化点(T
m)および加熱温度(T
h)については、
T
h>T
m および、
軟化点(T
m)および加熱温度(T
h)の差△Tが10℃以上50℃以下、
であるのがより好ましい。
また上記△Tは、10℃以上30℃以下であるのがより好ましい。
【0061】
加熱硬化工程における加熱温度(T
h)が上記範囲内であることによって、水分散型光沢調整剤(C)を構成するワックスの軟化点(T
m)との差が適切な範囲となり、得られる硬化電着塗膜の光沢度を低い範囲(60°鏡面光沢度が70以下)に良好に設計することができ、さらに光沢ムラの発生を抑制することができる利点がある。
【0062】
電着塗膜の加熱時間は、被塗物の大きさおよび上記加熱温度(T
h)などによって適宜選択することができる。加熱時間は、例えば5〜60分であり、好ましくは10〜30分である。
【0063】
本発明の方法において形成される硬化電着塗膜の膜厚は、5〜30μmであるのが好ましく、10〜25μmであるのがより好ましい。
【0064】
本発明の方法によって形成された硬化電着塗膜は、60°鏡面光沢度が70以下であるのがより好ましい。60°鏡面光沢度は、一般に60゜グロス(Gs(60゜))といわれる指標であり、塗膜面に入射角60度の光源からの光を照射してその鏡面反射光束(ψs)を測定し、同一条件における屈折率n=1.567のガラス面の鏡面反射光束(ψos)を基準として、その比で表わした数値[Gs(60゜)=ψs/ψos×100(%)]であり、JIS Z 8741に準拠した方法で測定される値である。上記60°鏡面光沢度は、例えばUni−Gross 60(コニカミノルタ社製)などの光沢計を用いて測定することができる。
【0065】
本発明の方法によって、光沢ムラの発生を伴うことなく、低光沢度に調整された硬化電着塗膜を形成することができる。このような技術的効果は、理論に拘束されるものではないが、アニオン電着塗料組成物中に含まれる水分散型光沢調整剤(C)を構成するワックスの軟化点(T
m)を制御し、かつ、電着塗膜の50℃における塗膜粘度を特定範囲に制御することによって、電着塗膜の加熱硬化時に生じる塗膜状態の変化をコントロールすることができ、これにより、低光沢度を有する硬化電着塗膜の形成において、光沢ムラの発生を抑制することが可能となったためと考えられる。
【0066】
本発明の方法ではさらに、加熱硬化工程における加熱温度が例えば100〜160℃といった、通常の電着塗装における加熱硬化工程と比較して低温条件下において、硬化電着塗膜を形成する場合であっても、十分な塗膜硬度を有する塗膜を形成することができる利点がある。これにより、塗装工程において環境負荷を低減することができるなどの利点がある。
【実施例】
【0067】
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。実施例中、「部」および「%」は、ことわりのない限り、質量基準による。
【0068】
製造例1 アクリル樹脂(A)の製造
攪拌装置、冷却管、窒素導入管、温度調整機に連結した温度計を装備した2Lの反応容器に、イソプロピルアルコール700部を仕込み、窒素雰囲気下で80℃に加熱した。この反応容器に、メタクリル酸メチル(MMA)322部、アクリル酸ブチル(nBA)140部、スチレン(St)105部、メタクリル酸ヒドロキシエチル(HEMA)84部、アクリル酸(AA)49部、アゾイソプチロニトリル7部の混合溶液を、3時間かけて等速滴下し、その後、2時間80℃で保持することにより、酸価55mgKOH/g、水酸基価52mgKOH/g、重量平均分子量30,000のアクリル樹脂(A)を得た。
【0069】
実施例1 アニオン電着塗料組成物の製造
上記製造例1で調製したアクリル樹脂(A)328部(固形分濃度50%)、硬化剤(B)としてメラミン樹脂であるサイメル235(オルネクスジャパン社製、固形分量濃度100%)86部、トリエチルアミン11部を混合撹拌しながら、下記表に記載の量のジノニルナフタレンスルホン酸(硬化触媒(D))3.75部および、下記表に記載の種類および量の水分散型光沢調整剤(C)71.4部を加えて混合した。得られた混合物を、イオン交換水を用いて固形分10%に希釈して、アニオン電着塗料組成物を得た。
下記表に記載の水分散型光沢調整剤(C)の量は、塗膜形成樹脂であるアクリル樹脂(A)および硬化剤(B)の総樹脂固形分100質量部に対する固形分質量部である。
【0070】
硬化電着塗膜形成
上記より得られたアニオン電着塗料組成物中に、被塗物であるSUS430板を浸漬し、塗装電圧80〜200Vの直流電圧を2.5分間印加して、硬化膜厚が20μmになるように電着塗装し、電着塗膜を設けた。この塗装板を3つ作成した。
電着塗膜を有する塗装板を、アニオン電着塗料組成物の調製において用いた水分散型光沢調整剤(C)の軟化点(Tm)から10℃、30℃および50℃高い加熱温度(それぞれ145℃、165℃、185℃)で、それぞれ30分間焼付けて、硬化電着塗膜を有する塗装板を得た。
【0071】
実施例2および比較例1〜5
アニオン電着塗料組成物の調製において、水分散型光沢調整剤(C)の種類および量、硬化触媒(D)の量を下表のとおり変更したこと以外は、実施例1と同様にして、アニオン電着塗料組成物を調製した。
得られたアニオン電着塗料組成物を用いて、実施例1と同様に電着塗装を行い、硬化電着塗膜を有する塗装板を得た。
【0072】
比較例6
アニオン電着塗料組成物の調製において、水分散型光沢調整剤(C)を用いなかったこと以外は、実施例2と同様にして、アニオン電着塗料組成物を調製した。
得られたアニオン電着塗料組成物を用いて、実施例1と同様に電着塗装を行い、120℃、140℃、160℃ で、それぞれ30分間焼付けて、硬化電着塗膜を有する塗装板を得た。
【0073】
上記実施例および比較例により得られた塗装板を用いて、下記基準により評価を行った。評価結果を下記表に示す。
【0074】
電着塗膜の50℃および80℃における電着塗膜粘度の測定
上記実施例および比較例により得られたアニオン電着塗料組成物を用いて、被塗物に膜厚約20μmとなるように180秒間電着塗装を行い、電着塗膜を形成し、これを水洗して余分な電着塗料組成物を取り除いた。次いで水分を取り除いた後、乾燥させることなくすぐに塗膜を取り出して、試料を調製した。こうして得られた試料を、回転型動的粘弾性測定装置であるRheosol G−3000(ユービーエム社製)を用いて、動的粘弾性における周波数依存測定を、歪み0.5deg、周波数0.02Hzの設定条件で行った。調製した試料をセットし、測定温度を50℃に保った。測定開始後、コーンプレート内で電着塗膜が均一に広がった状態となった時点で塗膜の粘度の測定を行った。80℃における塗膜粘度は、測定温度を変更したこと以外は上記と同様にして測定した。
【0075】
加熱温度変化による光沢度変化の評価
60°鏡面光沢度の測定および光沢度評価
上記より得られた塗装板の60°鏡面光沢度を、Uni−Gross 60(コニカミノルタ社製)を用いて測定した。
この60°鏡面光沢度が70以下である場合を、低光沢範囲に調整ができており「○」であると評価し、70を超える場合を、低光沢範囲に調整ができておらず「×」であると評価した。
【0076】
加熱温度変化によって生じる光沢度の差
上記種々の加熱温度において加熱硬化させた塗装板それぞれの60°鏡面光沢度を比較して、60°鏡面光沢度の最大値から最小値を減じ、光沢度の差として算出し、以下の基準により評価した。
○:光沢度の差が20以下である
×:光沢度の差が20を超える
この差の値が大きい程、加熱温度の変化に依存した光沢度変化が生じやすいと判断できる。光沢度の差が20を超える場合は、目視評価においても明確に光沢度の違いが認識できる。
加熱温度の変化に依存した光沢度変化が生じやすい場合は、例えば大型の被塗物または厚みの異なる被塗物に設けられた電着塗膜を加熱硬化させる場合において、被塗物の各部位における加熱温度にばらつきが生じた場合、光沢ムラが発生するという不具合がある。
【0077】
塗膜外観評価
水分散型光沢調整剤(C)の軟化点+30℃の温度で加熱して得られた硬化電着塗膜を、下記基準に基づき目視評価を行った。
○:撹拌跡などの塗膜外観不良が認識されない
×:撹拌跡などの塗膜外観不良が認識される
*撹拌跡:電着塗膜形成時における電着塗料組成物の撹拌に由来すると考えられる、硬化電着塗膜上においてスジ状跡と認識される、塗膜外観不良。
【0078】
水平外観ムラの評価
各実施例および比較例記載の電着塗料組成物を用いて、無攪拌状態の電着塗料組成物中に水平状態に基材を置いて電着塗装を行った。得られた電着塗膜を、水分散型光沢調整剤(C)の軟化点+30℃の温度で30分加熱して硬化させた。得られた塗装板の焼付け後の塗膜外観を目視観察し、上面、下面の外観の差異について、下記基準により目視評価した。
○:目視観察で差異が認識されず、外観良好であると判断される。
×:上下面の艶消し度合が目視観察で異なると認識されるため、外観不良であると判断される。
【0079】
鉛筆硬度の測定
水分散型光沢調整剤(C)の軟化点+30℃の温度で加熱して得られた硬化電着塗膜を用いて、JIS K 5600−5−4に準拠して、塗膜の鉛筆硬度を測定した。具体的には、硬化電着塗膜表面に鉛筆(三菱鉛筆社製:日本塗料検査協会の引っかき硬度試験用)を引っかき角度が45°になるように押し付けて動かし、鉛筆の芯による傷跡の有無を目視により観察した。
例えばHの鉛筆を用いた試験の場合、傷跡の発生が無い場合、H以上と判断した。5回の試験中1回の試験において僅かに凹みの発生を視認した場合は、Hと判断した。そして、5回の試験中において2回以上、凹みの発生がある場合は、H未満と判断し、1段階下げての評価を同様に実施した。
鉛筆硬度がF未満である場合は、硬度・耐擦傷性が劣っていると判断することができる。
【0080】
【表1】
【0081】
上記実施例および比較例において用いた水分散型光沢調整剤(C)は、下記のとおりである。
(C1) 実施例1、比較例3および4:ビックケミー・ジャパン社製 AQUAMAT208(固形分濃度(NV)=35%、軟化点(T
m)=135℃、密度=1.00)
(C2) 実施例2:ユニチカ社製 アローベースSD−1010(NV=20%、T
m=105℃、密度=0.93)
(C3) 比較例1:ユニチカ社製 アローベースSB−1010(NV=25%、T
m=80℃、密度=0.93)
(C4) 比較例2:三井化学社製 ケミパールWP−100(NV=40%、T
m=148℃、密度=0.90)
(C5) 比較例5:ビックケミー・ジャパン社製 AQUCER531(NV=45%、T
m=130℃、密度=0.98)
【0082】
上記評価結果に示される通り、実施例によって得られたアニオン電着塗料組成物を用いた硬化電着塗膜形成においては、加熱温度変化によって生じる光沢度の変化が小さく、また、塗膜外観不良なども伴わないことが確認された。
比較例1は、水分散型光沢調整剤(C)を構成するワックスの軟化点(T
m)が100℃未満である実験例である。この場合においては、得られる硬化電着塗膜の光沢度が全体に高くなり、また、加熱温度変化によって生じる光沢度の差が大きくなった。さらに、硬化電着塗膜の硬度が低くなる不具合があった。
比較例2は、水分散型光沢調整剤(C)を構成するワックスの密度が0.91未満である実験例である。この場合は、加熱温度変化によって生じる光沢度の差が大きくなった。また、水平外観ムラの発生が確認された。これは、水分散型光沢調整剤(C)を構成するワックスの密度が低いことによって、アニオン電着塗料組成物中において水分散型光沢調整剤(C)が良好に分散せず、かつ電着塗装工程および加熱硬化工程において、電着塗膜および硬化電着塗膜中に水分散型光沢調整剤(C)が基材の上下面で均一に存在しなかったためと考えられる。
比較例3は、水分散型光沢調整剤(C)の量が少ない実験例である。この場合においては、得られる硬化電着塗膜の光沢度が全体に高くなり、また、加熱温度変化によって生じる光沢度の差が大きくなった。さらに、塗膜外観ムラが確認された。
比較例4は、水分散型光沢調整剤(C)の量が多い実験例である。この場合においては、光沢度の値は低くなった一方で、加熱温度変化によって生じる光沢度の差が大きくなった。さらに、硬化電着塗膜の硬度が低くなる不具合があった。
比較例5は、電着塗膜の50℃における塗膜粘度が10,000未満である実験例である。この場合は、加熱温度変化によって生じる光沢度の差が大きくなった。
比較例6は、水分散型光沢調整剤(C)を含まない実験例である。この場合は、硬化電着塗膜の光沢度が非常に高くなった。
【解決手段】 硬化電着塗膜の形成方法であって、上記方法は、アニオン電着塗料組成物中に被塗物を浸漬して電着塗膜を形成する、電着塗装工程、および、上記塗装工程で形成した電着塗膜を加熱して硬化させる、加熱硬化工程、を包含し、上記アニオン電着塗料組成物は、アクリル樹脂(A)、硬化剤(B)、水分散型光沢調整剤(C)および硬化触媒(D)を含み、上記水分散型光沢調整剤(C)は、天然ワックスおよびポリオレフィンワックスからなる群から選択される1種またはそれ以上のワックスの水分散物であって、上記水分散型光沢調整剤(C)を構成するワックスは、軟化点(T
)が100℃以上であり、および、密度が0.91〜1.10の範囲内であり、上記アニオン電着塗料組成物中に含まれる水分散型光沢調整剤(C)の固形分質量は、アニオン電着塗料組成物の樹脂固形分100質量部に対して6〜20質量部であり、上記電着塗装工程において形成された電着塗膜の50℃における塗膜粘度が10,000〜100,000Pa・sの範囲内である、方法。