特許第6058239号(P6058239)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6058239
(24)【登録日】2016年12月16日
(45)【発行日】2017年1月18日
(54)【発明の名称】釣用リール
(51)【国際特許分類】
   A01K 89/01 20060101AFI20170106BHJP
   A01K 89/015 20060101ALI20170106BHJP
   F16C 19/06 20060101ALI20170106BHJP
   F16C 33/58 20060101ALI20170106BHJP
   F16C 33/66 20060101ALI20170106BHJP
   F16C 33/38 20060101ALI20170106BHJP
   F16C 33/78 20060101ALI20170106BHJP
【FI】
   A01K89/01 E
   A01K89/015 E
   A01K89/01 101E
   F16C19/06
   F16C33/58
   F16C33/66 A
   F16C33/38
   F16C33/78 Z
【請求項の数】9
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2016-554698(P2016-554698)
(86)(22)【出願日】2015年10月21日
(86)【国際出願番号】JP2015079704
【審査請求日】2016年8月26日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】509344157
【氏名又は名称】ピュア・フィッシング・ジャパン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小林 公郎
【審査官】 田辺 義拓
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−101795(JP,A)
【文献】 特開2000−41543(JP,A)
【文献】 特開2002−238413(JP,A)
【文献】 特開2002−291384(JP,A)
【文献】 特開2002−339995(JP,A)
【文献】 特開2004−290153(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 89/01−89/015
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外輪と、該外輪と間隔を設けて配設される内輪とを備え、場合によっては更に、該外輪及び該内輪の間に該外輪及び該内輪に接して設けられる転動体と、該転動体を所定間隔で保持する保持器とを有する軸受を備える、釣用リールであって、
該外輪と該内輪の内向面が、潤滑性を備えた撥水剤で覆われており、且つ該撥水剤又は他の撥水性材料で、該外輪及び該内輪の露出面が覆われており、
該外輪及び該内輪間の間隙の開口部付近に、少なくとも一端が、該外輪及び該内輪の何れとも接していない、該撥水材で覆われたシールドを有することを特徴とする、釣用リール。
【請求項3】
前記転動体及び前記保持器を備え、これらの表面が前記撥水剤で覆われている、請求項1に記載の釣用リール。
【請求項4】
前記撥水剤は、該撥水剤で覆われた軸受の表面に水滴を滴下した際の接触角が85°以上となる撥水性を有する、請求項1又は3に記載の釣用リール。
【請求項5】
前記撥水剤が、パーフルオロポリエーテル(PFPE)を基油とする液体である、請求項1、3及び4の何れか1項に記載の釣用リール。
【請求項6】
前記外輪と前記内輪の内向面が、液状の撥水剤で覆われ、該外輪及び該内輪の露出面が、粘性又は固体の撥水性材料で覆われている、請求項1、3〜5の何れか1項に記載の釣用リール。
【請求項7】
前記該外輪及び該内輪間の間隙の開口部から外気に通じる経路に、更に前記撥水剤又は他の撥水性材料で覆われているシールドが設けられている、請求項1、3〜6の何れか1項に記載の釣用リール。
【請求項8】
前記軸受は、前記内輪の回転を一方向に制限する一方向軸受である、請求項1、3〜7の何れか1項に記載の釣用リール。
【請求項9】
前記外輪と前記内輪との間の前記間隙は、撥水剤で充填されずに維持されている、請求項1、3〜8の何れか1項に記載の釣用リール。
【請求項10】
前記軸受を、前記リールの外部から該リールの摺動部品間の隙間を通って水分が到達し得る箇所に備える、請求項1、3〜6、8及び9の何れか1項に記載の釣用リール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐腐食性及び耐塩がみ特性に優れる釣用リールに関する。
【背景技術】
【0002】
釣用リールは、ロータ、スプール、ハンドル軸等の多くの回転部品を有し、この種の回転部品は軸受により、リール本体や他の部品に回転自在に支持されている。釣用リールでは、軸受として通常玉軸受が用いられ、この種の軸受は、図6に示すように、相互に間隔を設けて配設される外輪3及び内輪4と、これらに接して設けられる転動体7と、転動体7を所定間隔で保持する保持器8とを備え、外輪3と内輪4との間の間隙は、通常外部に通じている。
【0003】
一般に、釣用リールは水分に曝される環境で使用されるため、水分がリール内部に入り込んで軸受の腐食を生じ易い。また、海水に曝される環境で使用される場合は、海水が軸受の転動体と外輪・内輪の軌道面との間の間隙に侵入し、これが結晶化して回転部材の回転を妨げ異音発生や固着の原因になる事がある(いわゆる塩がみ)。従って、釣用リールでは、軸受等の部材の腐食防止と、海水の結晶化による回転機能の低下を防止する必要がある。
【0004】
釣用リールに用いられる軸受は、通常、硬度及び耐衝撃性と共に、耐腐食性にも優れるステンレス鋼で作製される。しかし、海水に曝される環境で使用される場合などでは、高い耐腐食性が要求され、ステンレス鋼自体の特性だけでは、耐腐食性が不十分なこともある。
【0005】
塩がみによる回転動作の不良に対する対処としては、従来、図6に示すように、外輪4と内輪5との間に、これらに接する状態で弾性体からなるシールド9を設けた軸受20が使用されていた。このシールド9は、外輪3と内輪4との間隙に海水の浸入を妨げるには有効であるが、海水の浸入を防止するためにシールド9が両輪に接触して設けられるため、外輪3及び内輪4が相対回転する際に負荷が大きくなるという問題があった。
【0006】
これに対して、特許文献1及び2は、磁性流体を磁力で外輪と内輪と間の間隙における所定の場所に保持させて、海水の浸入を防止する軸受を提案している。この軸受によれば、外輪及び内輪に接するのは、流体であるため、外輪及び内輪が相対回転する際に負荷が少ないといった利点がある。しかし、この軸受では、磁性流体を特定の位置に保持するための磁石等の部材が必要であり、軸受が大きくなり、高コストにもなってしまうという問題がある。また、磁性の沈殿物が発生して、外輪や内輪に付着するといった問題もある。
【0007】
一方、特許文献3は、リールのハウジングの開口部付近にフッ素化合物又はシリコン化合物の粒子を付着させて、水分のリール内への侵入を防ぐリールを提案している。このリールは、一定レベルでは、水分のリール内への侵入を防ぐことができるが、その効果は十分とは言えない。
【0008】
また、特許文献4は、外輪と内輪の露出面をクロム酸処理して耐腐食性を増大させると共に、外輪と内輪との間の間隙に撥水性グリース又はオイルを充填した軸受を提案している。この軸受では、磁石等の追加の部材を必要とすることなく、外輪と内輪との間隙に海水が浸入するのを防ぎ、更に外輪及び内輪の耐腐食性を向上させることができる。しかし、この軸受では、外輪及び内輪の露出面で海水が結晶化し易く、ここで発生した塩が、外輪及び内輪の間隙に侵入して塩がみの原因になることがある。また、外輪と内輪との間の間隙が撥水性の材料で充填されているため、幾分回転時の負荷が増大し、特に撥水性グリース等の比較的粘度の大きな撥水性材料を外輪及び内輪間の間隙に充填すると、回転時の負荷が増大するといった問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開WO2013/1611625A1
【特許文献2】特開昭57−33222号公報
【特許文献3】特開2000−41543号公報
【特許文献4】特開2004−290153号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、上述した従来の釣用リールに伴う問題を解消して、軸受の外輪及び内輪の相対回転に対して負荷を増大することなく、耐腐食性及び耐塩がみ特性を向上した釣用リールを提供することにある。
【発明の解決手段】
【0011】
本発明者らは、外輪及び内輪の間隙に撥水剤を留まらせるといった特許文献4に開示する軸受の発想を転換し、外輪及び内輪の内向面を潤滑性を備えた撥水剤で覆うと共に、撥水性材料で外輪及び内輪の露出面をも覆うこと、典型的には、軸受を構成する部材の表面全体を撥水性材料で覆うことで、上述の問題を解決し得ることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、以下の釣用リールを提供する。
[1] 外輪と、該外輪と間隔を設けて配設される内輪とを備え、場合によっては更に該外輪及び該内輪の間に該外輪及び該内輪に接して設けられる転動体と、該転動体を所定間隔で保持する保持器とを有する軸受を備える、釣用リールであって、
該外輪及び該内輪の内向面が、潤滑性を備えた撥水剤、典型的には液状の潤滑性を備えた撥水剤で覆われており、且つ該撥水剤又は他の撥水性材料で、該外輪及び該内輪の露出面が覆われていることを特徴とする、釣用リール。
[2] 前記外輪及び前記内輪間の間隙の開口部付近に、少なくとも一端が、前記外輪及び前記内輪の何れとも接していない、前記撥水材で覆われたシールドを有する、[1]に記載の釣用リール。
[3] 前記転動体及び前記保持器を備え、これらの表面が前記撥水剤で覆われている、[1]又は[2]に記載の釣用リール。
[4] 前記撥水剤は、該撥水剤で覆われた軸受の表面に水滴を滴下した際の接触角が85度以上となる撥水性を有する、[1]〜[3]の何れか1項に記載の釣用リール。
[5] 前記撥水剤が、パーフルオロポリエーテル(PFPE)を基油とする液体である、[1]〜[4]の何れか1項に記載の釣用リール。
[6] 前記外輪と前記内輪の内向面が、液状の撥水剤で覆われ、該外輪及び該内輪の露出面が、粘性又は固体の撥水性材料で覆われている、[1]〜[5]の何れか1項に記載の釣用リール。
[7] 前記該外輪及び該内輪間の間隙の開口部から外気に通じる経路に、更に前記撥水剤又は他の撥水性材料で覆われているシールドが設けられている、[1]〜[6]の何れか1項に記載の釣用リール。
[8] 前記軸受は、前記内輪の回転を一方向に制限する一方向軸受である、[1]〜[7]の何れか1項に記載の釣用リール。
【0012】
本発明の釣用リールでは、上述の通り、軸受の外輪と内輪の内向面が、撥水剤(典型的には液状の撥水剤)で覆われており、通常、外輪と内輪の間に空隙が存在する。従って、軸受の外輪と内輪との相対的な回転に対する負荷を発生させることなく、外輪と内輪との間隙へ浸入した水分を弾き、外輪と内輪との間隙での海水が結晶化するのを防ぐことができる。また、本発明の釣用リールでは、軸受の外輪及び内輪の露出面が同じ撥水剤又は他の撥水性材料で覆われているため、外輪及び内輪の露出面で水分を弾くことができ、外輪と内輪との間隙への水分の浸入を防止し、外輪及び内輪の露出面での海水の結晶化を防ぐこともできる。これにより、軸受の耐腐食性が向上され、塩がみの発生による回転時の負荷の増大や異音を防止することもできる。
本発明の好ましい実施形態では、外輪と内輪との間の間隙の開口部付近にシールドが設けられ、外輪及び内輪の内向面と露出面に異なる種類の撥水剤が適用される場合に、シールドは個々の領域を区画・保持する機能も果たし得る。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本発明の一の実施形態による釣用リールにおける各部品の配置の概要を模式的に示す一部断面図である。
図2図2は、本発明の他の実施形態による軸受を模式的に示す一部断面図である。
図3図3は、本発明の更に他の実施形態による軸受を模式的に示す一部断面図である。
図4図4は、図1に示す破線部分の断面図であり、本発明の一の実施形態による釣用リールの軸受及びその周辺の部品を模式的に示す。
図5図5は、実施例の耐結晶化能試験の結果を示す白黒写真である。右側は、PFPEオイルで覆った軸受であり、左側はPFPEオイルを塗布しなかった軸受である。
図6図6は、従来の軸受の一例を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施形態を図面を参照しながら詳細に説明する。但し、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0015】
図1は、本発明の一の実施形態による釣用リールの回転部品及びその周辺の部品の配置を模式的に示し、図2は、本発明の他の実施形態による軸受を模式的に示し、図3は、本発明の更に他の実施形態による軸受を模式的に示し、図4は、図1に示す釣用リールの軸受及びその周辺の部品を拡大して模式的に示す。
【0016】
図1に示す実施形態の釣用リール30では、ロータ25、ピニオンギア21、及びハンドル軸23などの回転部品を有しており、これらは、回転運動によって得られた駆動力を他の部品に伝達したり、或いは他の部品から伝達された駆動力により回転する。これら回転部品21、23、25は、軸受20又は27によりリール本体や他の部品に回転自在に支持されている。なお、軸受27は、ロータ25の回転を一方向に制限するためのストッパ機構を備えている。以下では、代表例として、主に軸受20を説明するが、本発明を軸受27についても適用できる事は言うまでも無い。また、図2〜4に示す軸受は、転がり軸受であるが、転動体及び保持器を有しないすべり軸受など他の軸受に適用できることも言うまでも無い。
【0017】
図2に示す通り、本発明の一の実施形態よる釣用リールの軸受20は、外輪3と、外輪3と間隔を設けて配設される内輪4と、外輪3及び内輪4の間にこれらに接して設けられる転動体7と、転動体7を所定間隔で保持する保持器8とを備える。また、この軸受20では、外輪3及び内輪4の内向面5が、撥水剤1で覆われているが、外輪3及び内輪4の間には間隙が存在する。撥水剤1は、必ずしもこれに限られないが、好ましくは液状の撥水剤が適用される。このため、この軸受20では、外輪3と内輪4との相対的な回転に対する負荷を増大させずに、外輪3及び内輪4の内向面5に存在する水分を弾くことができる。撥水剤1の存在により海水も弾かれ、外輪3及び内輪4の内向面5での塩の形成が防止される。
この軸受20では、同じ(液状の)撥水剤1で、外輪3及び内輪4の露出面6も覆われている。これにより、外輪3及び内輪4間の間隙への水分の浸入が防止されると共に、外輪3及び内輪4の露出面6での塩の形成が防止され、外輪3及び内輪4間の間隙への塩の侵入も防止される。これらの作用の結果、この軸受では、軸受の耐腐食性及び耐塩がみ特性が向上される。
図2及び3に示すように、この軸受20では、外輪3及び内輪4の内向面5を覆っている撥水剤1によって、転動体7及び保持器8の表面も覆われている。これにより、塩がみの直接の原因である軸受の転動体7と外輪3・内輪4の軌道面との間への海水の侵入及びこれらの間での塩の形成が妨げられる。従って、外輪3及び内輪4の内向面5並びにこれらの間にある構成部品の表面は、総て撥水剤1で覆われていることが好ましい。
【0018】
外輪3及び内輪4の内向面5を覆っている撥水剤1と、外輪3及び内輪4の露出面6を覆う撥水材料2は、図2に示す実施形態による軸受のように同じであってもよいが、図3に示す実施形態による軸受のように異なっていてもよい。例えば、外輪3及び内輪4の内向面5を、液状(従って低粘性)の撥水剤1で覆い、外輪3及び内輪4の露出面6を、比較的粘度の高い撥水剤又は固形の撥水性材料2で覆ってもよい。
【0019】
液状の撥水剤1としては、例えば、パーフルオロポリエーテル(PFPE)を基油とする液体など、潤滑特性を有する撥水性材料を挙げることができるが、中でも当該撥水剤1で覆った軸受の表面に水滴を滴下した際の接触角が85度以上となる撥水性を有するものが好ましい。
また、他の撥水性材料2としても、パーフルオロポリエーテル(PFPE)を基油とする液体に、粘稠剤としてポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を添加したグリース等を挙げることができ、同様に、当該撥水性材料2で覆った軸受の表面に水滴を滴下した際の接触角が85度以上となる撥水性を有するものが好ましい。固形の撥水性材料2としては、一般的に利用されているフッ素コーティングが挙げられる。
【0020】
図3に示すように、本発明の軸受20では、外輪3と内輪4との間隙の開口部付近にシールド9を有してもよい。このシールド9は、その一端が固定部材11等で外輪3又は内輪4に連結されるが、他端は、両輪3、4の何れにも接していない。このシールド9は、撥水材料2と協働して、水分の外輪3及び内輪4間への侵入を防ぐ。また、異なる撥水材料1、2を用いる場合などで、外輪3及び内輪4の内向面5に存在する撥水剤1を、外輪3及び内輪4の露出面6などの他の部位に存在する撥水材料2から区画する機能も有する。このシールド9は、典型的には、ゴム等の弾性体で構成されるが金属製であってもよい。この軸受では、このシールド9の表面は、外輪及び内輪の内向面5を覆う撥水剤1によって覆われており、これにより水分及び海水の外輪3及び内輪4間への侵入がより高度に防止され、耐腐食性及び耐塩がみ特性が増強される。
【0021】
本発明においては、軸受20を構成する材料に付いて特に制限はなく、例えば、従来硬度や耐衝撃性の観点から用いられていたステンレス鋼を用いればよい。具体的には、例えば、SUS440C、SUJ2を挙げることができる。本発明による軸受20では、軸受を構成する各部材の表面が撥水材料1、2で覆われるために、軸受20を構成する材料を耐腐食性の点を優先して選択しなくともよい。従って、耐腐食性よりも強度や耐衝撃性を優先して軸受を構成する材料を選択することができる。もっとも、軸受20を構成する材料として、耐腐食性の高い材料を選択してよいし、軸受表面に耐腐食性を高めるコーティングを設けてもよい。硬度及び耐衝撃性に優れる材料としては、例えば、SUJ2を挙げることができ、耐腐食性に特に優れる材料としては、例えば、高耐食マルテンサイト鋼を挙げることができる。また、軸受表面に設けられるコーティングとしては、例えば金属酸化物などの不動態皮膜等を挙げることができる。
【0022】
図4に示すように、本発明の実施の形態によるリールでは、外輪及び内輪間の間隙の開口部から外気に通じる経路に、更にシールが設けてもよい。このシール10も、前述した撥水材料2及びシールド9と共に、軸受への水分及び海水の進行を妨げ耐腐食性及び耐塩がみ特性を向上させる。この位置で設けられるシール10も、ゴム等の弾性体又は金属等で構成することでき、経路を構成する部材にその一部の端部を固定してもよいし、端部全体を固定してもよい。この実施形態では、シール10も、液状の撥水剤1で覆われており、耐腐食性及び耐塩がみ特性が高められている。
図1に示すように、本発明の実施の形態によるリールでは、軸受20、27近傍に、水分がリール内部からリール外への移動を可能とした開口部26(水抜き穴)を設けてもよい。
【0023】
本発明のリールでは、外輪、内輪、転動体及び保持器の構造、形状について特に制限は無い。従って、例えば転動体は、ボール、円筒ローラー、円錐ローラー、樽状の球面ローラー、針状ローラーなどが含まれ得る。また、他の構成部品について特に制限はなく、種々の部品で構成してよい。また、上述した撥水構造は、軸受を有するあらゆる部品に適用可能であることは留意されるべきである。本発明のリールは、単純な構造により、回転部材の回転に対する負荷を生じさせることなく、高い耐腐食性及び耐塩がみ特性を発揮する。
【実施例】
【0024】
以下、本発明の特徴を実施例により具体的に説明する。但し、本発明は以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0025】
1.各軸受の濃縮塩水を用いた耐結晶化能の評価
SUS440C製の軸受(シールド付き)を2つ準備し、一方に、PFPEオイルを滴下して表面を覆い、他方には、PFPEオイルを滴下せず、エステル系グリースを転動体等の外輪及び内輪間の間隙に塗布した後、5.5%の塩水の充分量で軸受全体を覆い、その後25℃の環境下で塩水が乾燥するまで約4日間そのまま放置して、塩の形成を観察した。
図5に示す通り、PFPEオイルで表面を覆った軸受では、全く塩の形成は見られなかったものの(右)、PFPEオイルを滴下しなかった軸受では、半日経過頃から塩の形成が観察され、約4日間経過時には、表面全体が塩で覆われる状態となった(左)。
【0026】
2.各リールの各種性能の評価比較
以下の表1に示すリールについて、回転トルク、耐塩がみ特性、コスト、組み立て容易性、及び寸法特性を評価する。
【0027】
【表1】
【0028】
以下の表2に各レールの各特性の評価を纏めて示す。
【表2】
【0029】
上記の通り、本発明による釣用リールは、回転トルク、耐塩がみ特性、コスト、組み立て容易性、及び寸法特性の何れも優れた特性を有することが実証された。
【符号の説明】
【0030】
1:(液状の)撥水剤
2:撥水材料
3:外輪
4:内輪
5:外輪及び内輪の内向面
6:外輪及び内輪の露出面
7:転動体
8:保持器
9:シールド
10:シール
11:固定部材
20:軸受
21:ピニオンギア
22:スプール
23:ハンドル軸
24:ハンドル
25:ロータ
26:開口部(水抜き穴)
27:一方向軸受
27−1:保持器
27−2:外輪
27−3:ローラー(円筒形状)
27−4:内輪
30:釣用リール
【要約】
軸受の外輪及び内輪の内向面が、液状の潤滑性を有する撥水剤で覆われ、更に該撥水剤又は他の撥水性材料で、該外輪及び該内輪の露出面も覆われている軸受を備えるリールとする。
図1
図2
図3
図4
図5
図6