特許第6058273号(P6058273)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6058273培養用基体、移植体及び移植体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6058273
(24)【登録日】2016年12月16日
(45)【発行日】2017年1月11日
(54)【発明の名称】培養用基体、移植体及び移植体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61L 27/00 20060101AFI20161226BHJP
   C12M 3/00 20060101ALI20161226BHJP
   C12N 5/079 20100101ALI20161226BHJP
【FI】
   A61L27/00 Z
   C12M3/00 A
   C12N5/079
【請求項の数】2
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2012-52731(P2012-52731)
(22)【出願日】2012年3月9日
(65)【公開番号】特開2013-13708(P2013-13708A)
(43)【公開日】2013年1月24日
【審査請求日】2012年3月9日
【審判番号】不服2014-25382(P2014-25382/J1)
【審判請求日】2014年12月11日
(31)【優先権主張番号】201110181525.6
(32)【優先日】2011年6月30日
(33)【優先権主張国】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】598098331
【氏名又は名称】ツィンファ ユニバーシティ
(73)【特許権者】
【識別番号】500080546
【氏名又は名称】鴻海精密工業股▲ふん▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100200528
【弁理士】
【氏名又は名称】水村 香穂里
(72)【発明者】
【氏名】馮 辰
(72)【発明者】
【氏名】范 立
(72)【発明者】
【氏名】趙 文美
【合議体】
【審判長】 大熊 幸治
【審判官】 齊藤 光子
【審判官】 関 美祝
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−223243(JP,A)
【文献】 特開2010−115778(JP,A)
【文献】 特開2011−56262(JP,A)
【文献】 特開平3−198768(JP,A)
【文献】 特許第5642720(JP,B2)
【文献】 特許第5642719(JP,B2)
【文献】 Mater Sci Eng C,30,391(2010)
【文献】 Nano Lett,6(3),562(2006)
【文献】 J Phys Chem C,113(8),3150(2009)
【文献】 J Nanosci Nanotechnol,9(8),5038(2009)
【文献】 Sensor Actuat B,106,843(2005)
【文献】 IEEE Trans Biomed Eng,54(6)Pt1,1121(2007)
【文献】 Appl Phys Lett,82,2491(2003)
【文献】 Langmuir,26(4),2798(2010)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 15/00 - 33/18
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
培養用基体を提供して、該培養用基体が複数のカーボンナノチューブからなるカーボンナノチューブ構造体を含み、
前記カーボンナノチューブ構造体をポリエーテルイミド溶液の中に浸漬し、その後、無菌の脱イオン水で前記カーボンナノチューブ構造体を洗浄することで、前記カーボンナノチューブ構造体の表面を極性化処理し、前記カーボンナノチューブ構造体の表面に培養しようとする生物組織とは異なる電荷極性を有させるステップと、
前記カーボンナノチューブ構造体の極性化表面に複数の細胞を播種するステップと、
生物組織が形成するまで、複数の前記細胞を培養するステップと、
を含み、
前記カーボンナノチューブ構造体が、ドローン構造カーボンナノチューブフィルム、プ
レシッド構造カーボンナノチューブフィルム、綿毛構造カーボンナノチューブフィルム、
又は、カーボンナノチューブワイヤを含むことを特徴とする移植体の製造方法。
【請求項2】
前記カーボンナノチューブ構造体の表面を極性化処理し、前記カーボンナノチューブ構造体の表面に培養しようとする生物組織とは異なる電荷極性を有させるステップが、
前記カーボンナノチューブ構造体に対して、殺菌処理を行うステップを含み、
殺菌処理された前記カーボンナノチューブ構造体をポリエーテルイミド溶液の中に浸漬することを特徴とする、請求項1に記載の移植体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、培養用基体、該培養用基体を応用した移植体及び移植体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
日々の生活の中で起こる様々な事故や災害によって、皮膚又は神経系が損傷することがある。その場合、広範囲にわたる皮膚の損傷に対しては、皮膚移植の方法を採用する。皮膚移植は、自分の体の目立たない場所から皮膚を移植する方法と、他人の体から皮膚を移植する方法があるが、皮膚のソースは少なく、しかもその方法はとても複雑である。
【0003】
現在、神経系が損傷した場合、神経移植体を移植して、神経系を修復する。これは、神経外科の手術において、損傷を修復するための重要な方法である。従来技術の神経移植体とは、神経系において、損傷した部分の両端を繋ぎ合わせた神経管である。該神経管は、生物分解が可能な物質からなる管状構造体である。神経系について損傷した部分の一端に位置する神経細胞は、前記神経管の内壁に沿って神経突起を成長させ、該神経突起は、前記神経系において損傷した部分のもう一つの端に位置する神経細胞に到達する。
【0004】
従って、前記神経管は、神経細胞の基体であり、神経系において損傷された部分の神経細胞の神経突起が損傷すると、神経細胞が前記神経管の支持によって神経突起を成長させて、損傷した神経系の修復を実現する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】中国特許出願公開第101239712B号明細書
【特許文献2】特開2008−297195公報
【特許文献3】中国特許出願公開第101284662A号明細書
【特許文献4】特許第3868914号明細書
【特許文献5】特許第4486060号明細書
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Kaili Jiang、Qunqing Li、Shoushan Fan、“Spinning continuous carbon nanotube yarns”、Nature、2002年、第419巻、p.801
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、損傷部分の神経細胞が死亡した場合、該神経細胞の損傷部分に、神経管を移植しても、損傷した神経系を修復することはできない。
【0008】
従って、本発明は、培養用基体、該培養用基体を応用した移植体及び移植体の製造方法、を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
移植体の製造方法は、培養用基体を提供して、該培養用基体がカーボンナノチューブ構造体を含み、該カーボンナノチューブ構造体の表面が極性化処理され、極性化表面を形成するステップと、前記カーボンナノチューブ構造体の極性化表面に複数の細胞を播種するステップと、生物組織が形成されるまで、複数の前記細胞を培養するステップと、を含む。
【0010】
前記培養用基体を提供するステップは、カーボンナノチューブ構造体を提供するサブステップと、前記カーボンナノチューブ構造体の表面に対して、極性化処理を行うサブステップと、を含む。
【0011】
前記カーボンナノチューブ構造体の表面に対して、極性化処理を行うサブステップは、前記カーボンナノチューブ構造体に対して、殺菌処理を行うステップと、殺菌処理されたカーボンナノチューブ構造体をポリ-D-リシン溶液又はポリエーテルイミド溶液で処理するステップと、を含む。
【0012】
前記殺菌処理されたカーボンナノチューブ構造体をポリ-D-リシン溶液又はポリエーテルイミド溶液で処理するステップは、前記カーボンナノチューブ構造体をポリ-D-リシン溶液又はポリエーテルイミド溶液の中に浸漬した後、前記ポリ-D-リシン溶液又はポリエーテルイミド溶液を除去するために、無菌の脱イオン水で前記カーボンナノチューブ構造体を洗浄するステップを含む。
【0013】
移植体は、培養用基体及び生物組織を含む。前記培養用基体は、カーボンナノチューブ構造体を含み、該カーボンナノチューブ構造体の表面が極性化され、極性化表面に形成される。前記生物組織は、前記カーボンナノチューブ構造体の極性化表面に接着されている。
【0014】
前記カーボンナノチューブ構造体は、複数のカーボンナノチューブからなる。
【0015】
培養用基体は、生物組織を培養することに用いられ、カーボンナノチューブ構造体を含み、該カーボンナノチューブ構造体の表面が極性化され、極性化表面に形成され、該極性化表面が、培養しようとする生物組織とは異なる電荷極性を有する。
【発明の効果】
【0016】
本発明における移植体の製造方法は、カーボンナノチューブ構造体の表面に対して、極性化処理のみを行うだけで良い。従って、蒸着、スパッタリング又は化学修飾処理を行う必要がなく、細胞を直接培養することができるので、前記移植体の製造方法は簡単で、実施しやすい。
【0017】
本発明の培養用基体におけるカーボンナノチューブ構造体は、極性化処理され、極性化表面に形成される。該極性化表面が、播種しようとする細胞の電荷極性と異なる電荷極性を有し、細胞を接着することができるので、前記培養用基体は、細胞を培養することができる。前記培養用基体におけるカーボンナノチューブ構造体は、カーボンナノチューブからなる自立構造体であるので、軽く、弾性及び延展性に優れている。従って、前記培養用基体を応用した移植体は、破壊された組織の損傷部分の形状及び大きさによって、裁断し、引き伸ばすことができる。その後、前記損傷部分に移植される。前記カーボンナノチューブ構造体は、極性化表面が形成され、生物組織が前記カーボンナノチューブ構造体の極性化表面に直接接着されるので、移植体の構造が簡単である。前記移植体が前記損傷部分に移植される時、該移植体が生物組織を含み、該生物組織における細胞と、損傷部分の両端又は縁部に位置する細胞との距離は近いので、該移植体における細胞と、損傷部分の両端又は縁部に位置する細胞とは、再び繋がることができ、損傷部分の修復が実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の実施形態に係る移植体の断面図である。
図2】本発明の実施例1に係る移植体における、ドローン構造カーボンナノチューブフィルムのSEM写真である。
図3】ドローン構造カーボンナノチューブフィルムにおけるカーボンナノチューブセグメントの構造を示す図である。
図4】積層された複数のカーボンナノチューブフィルムが形成された層状構造体を示すSEM写真である。
図5】本発明の実施例1に係る移植体における、プレシッド構造カーボンナノチューブフィルムにおけるカーボンナノチューブが等方的に配列されたカーボンナノチューブフィルムのSEM写真である。
図6】本発明の実施例1に係る移植体における、プレシッド構造カーボンナノチューブフィルムにおけるカーボンナノチューブが同じ方向に沿って配列されたカーボンナノチューブフィルムのSEM写真である。
図7】本発明の実施例1に係る移植体における、綿毛構造のカーボンナノチューブフィルムのSEM写真である。
図8】本発明の実施例1に係る移植体における、非ねじれ状のカーボンナノチューブワイヤのSEM写真である。
図9】本発明の実施例1に係る移植体における、ねじれ状のカーボンナノチューブワイヤのSEM写真である。
図10】本発明の実施形態に係る移植体の製造方法のフローチャートである。
図11】本発明の実施例1に係る移植体の断面図である。
図12】本発明の実施例1に係る移植体が染色された光学顕微鏡写真である。
図13】本発明の実施例2に係る移植体が染色された光学顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
【0020】
図1を参照すると、本発明の実施形態は、移植体10を提供する。該移植体10は、培養用基体12及び該培養用基体12の表面に分布する生物組織14を含む。前記培養用基体12は、カーボンナノチューブ構造体であり、該カーボンナノチューブ構造体の表面が極性化処理され、極性化表面に形成される。該極性化表面には、前記生物組織14の電荷極性と異なる電荷極性を有するので、前記生物組織14が前記培養用基体12の表面に緊密に接着される。具体的には、前記カーボンナノチューブ構造体は、複数の純粋なカーボンナノチューブからなる。該純粋なカーボンナノチューブは、化学的又は物理的処理が行われていないカーボンナノチューブであり、即ち、機能化されていないカーボンナノチューブであり、炭素のみからなるものである。前記カーボンナノチューブ構造体の表面が極性化処理されるので、該カーボンナノチューブ構造体の表面に位置するカーボンナノチューブも極性化され、極性化表面が形成される。前記カーボンナノチューブ構造体の形状及び大きさは、生物体の損傷した部分の形状及び大きさに応じて決められる。
【0021】
前記カーボンナノチューブ構造体における複数のカーボンナノチューブは、分子間力で接続され、自立構造を形成する。ここで、自立構造とは、支持体を利用せず、前記カーボンナノチューブ構造体を独立的に利用するというものである。前記カーボンナノチューブ構造体は、少なくとも一枚のカーボンナノチューブフィルム又は少なくとも一本のカーボンナノチューブ線状構造体からなるフィルム状構造体である。前記カーボンナノチューブ構造体が複数のカーボンナノチューブフィルムを含む場合、該複数のカーボンナノチューブフィルムは、積層して設置されている。隣接するカーボンナノチューブフィルムは、分子間力で接続される。前記カーボンナノチューブ構造体が少なくとも一本のカーボンナノチューブ線状構造体を含む場合、該少なくとも一本のカーボンナノチューブ線状構造体は、折られ、交差し、編まれ、又は織られ、カーボンナノチューブフィルム状構造体に形成される。前記カーボンナノチューブ線状構造体は、少なくとも一つの非ねじれ状カーボンナノチューブワイヤ、少なくとも一つのねじれ状カーボンナノチューブワイヤ又は非ねじれ状カーボンナノチューブワイヤ及びねじれ状カーボンナノチューブワイヤの組み合わせである。該カーボンナノチューブ構造体の厚さは、実際の応用に応じて決定される。
【0022】
前記カーボンナノチューブ構造体は、複数のカーボンナノチューブからなり、該複数のカーボンナノチューブは、分子間力で接続されるので、軽く、弾性及び延展性に優れている。従って、前記カーボンナノチューブ構造体は、容易に切る又は引き伸ばすことができる。
【0023】
前記カーボンナノチューブ構造体は、前記複数のカーボンナノチューブが配向し又は配向せずに配置されている。前記複数のカーボンナノチューブの配列方式により、前記カーボンナノチューブ構造体は、非配向型のカーボンナノチューブ構造体及び配向型のカーボンナノチューブ構造体の二種に分類される。
【0024】
前記非配向型のカーボンナノチューブ構造体は、カーボンナノチューブが異なる方向に沿って配置され、又は絡み合っている。前記配向型のカーボンナノチューブ構造体は、前記複数のカーボンナノチューブが同じ方向に沿って配列している。又は、配向型のカーボンナノチューブ構造体において、配向型のカーボンナノチューブ構造体が二つ以上の領域に分割される場合、各々の領域における複数のカーボンナノチューブが同じ方向に沿って配列されている。この場合、異なる領域におけるカーボンナノチューブの配列方向は異なる。前記カーボンナノチューブは、単層カーボンナノチューブ、二層カーボンナノチューブ及び多層カーボンナノチューブの中の一種又はこれらの組み合わせである。前記カーボンナノチューブが単層カーボンナノチューブである場合、直径は0.5nm〜50nmに設定され、前記カーボンナノチューブが二層カーボンナノチューブである場合、直径は1nm〜50nmに設定され、前記カーボンナノチューブが多層カーボンナノチューブである場合、直径は1.5nm〜50nmに設定される。
【0025】
具体的には、前記カーボンナノチューブ構造体は、少なくとも一枚のカーボンナノチューブフィルム又は少なくとも一本のカーボンナノチューブ線状構造体を含む。
【0026】
前記カーボンナノチューブ構造体は、少なくとも一枚のドローン構造カーボンナノチューブフィルムを含む。図2を参照すると、単一の前記ドローン構造カーボンナノチューブフィルム143aは、超配列カーボンナノチューブアレイ(Superaligned array of carbon nanotubes,非特許文献1を参照)から引き出して得られ、自立構造を有したものである。単一の前記カーボンナノチューブフィルム143aにおいて、前記複数のカーボンナノチューブの大部分は、前記カーボンナノチューブフィルムの表面に平行に、カーボンナノチューブフィルムを引き出す方向に沿って、且つ、同じ方向に沿って配列されている。前記複数のカーボンナノチューブは、分子間力で端と端が接続されている。
【0027】
微視的には、前記カーボンナノチューブフィルム143aにおいて、前記同じ方向に沿って配列された複数のカーボンナノチューブ以外に、同じ方向に沿っておらずランダムな方向を向いたカーボンナノチューブも存在している。該ランダムな方向を向いたカーボンナノチューブの割合は、前記同じ方向に沿って配列された複数のカーボンナノチューブに比べて小さい。
【0028】
図3を参照すると、単一の前記カーボンナノチューブフィルム143aは、複数のカーボンナノチューブセグメント143bを含む。前記複数のカーボンナノチューブセグメント143bは、長さ方向に沿って分子間力で端と端が接続されている。それぞれのカーボンナノチューブセグメント143bは、相互に平行に、分子間力で結合された複数のカーボンナノチューブ145を含む。単一の前記カーボンナノチューブセグメント143bにおいて、前記複数のカーボンナノチューブ145の長さは実質的に同じである。前記カーボンナノチューブフィルム143aを有機溶剤に浸漬させることにより、前記カーボンナノチューブフィルム143aの靭性及び機械強度を高めることができる。また前記カーボンナノチューブフィルム143aの透光率も75%以上程度まで達することができる。
【0029】
前記カーボンナノチューブ構造体が複数の前記カーボンナノチューブフィルム143aを含む場合、該複数の前記カーボンナノチューブフィルム143aは積層して、層状構造体を形成するが、該層状構造体の厚さは制限されない。図4を参照すると、隣接する前記カーボンナノチューブフィルム143aは、分子間力で結合されている。隣接する前記カーボンナノチューブフィルム143aにおけるカーボンナノチューブ145は、それぞれ0°〜90°の角度で交差している。隣接する前記カーボンナノチューブフィルム143aにおけるカーボンナノチューブ145が0°以上の角度で交差する場合、前記複数の前記カーボンナノチューブフィルム143aにおけるカーボンナノチューブは、互いに交差して、網状構造体を形成し、前記カーボンナノチューブ構造体の機械性能を高める。例えば、前記カーボンナノチューブ構造体は、積層された複数の前記カーボンナノチューブフィルム143aを含み、隣接するカーボンナノチューブフィルム143aにおけるカーボンナノチューブは、90°の角度で交差している。即ち、隣接するカーボンナノチューブフィルム143aにおけるカーボンナノチューブの延長方向は、垂直している。前記カーボンナノチューブフィルム143aの構造及び製造方法については、特許文献1を参照。前記カーボンナノチューブ構造体を含む前記カーボンナノチューブフィルム143aが少ない場合、例えば、十枚より少ない前記カーボンナノチューブフィルム143aを含む際、特に、一枚の前記カーボンナノチューブフィルム143aを含む際、前記カーボンナノチューブ構造体は、優れた透光率を有する。
【0030】
前記カーボンナノチューブ構造体は、少なくとも一枚のプレシッド構造カーボンナノチューブフィルム(pressed carbon nanotube film)を含む。図5又は図6を参照すると、前記カーボンナノチューブフィルムにおける複数のカーボンナノチューブは、等方的に配列されているか、所定の方向に沿って配列されているか、または、異なる複数の方向に沿って配列されている。前記カーボンナノチューブフィルムは、押し器具を利用することにより、所定の圧力をかけて前記カーボンナノチューブアレイを押し、該カーボンナノチューブアレイを圧力で倒すことにより形成された、シート状の自立構造を有するものである。前記カーボンナノチューブフィルムにおけるカーボンナノチューブの配列方向は、前記押し器具の形状及び前記カーボンナノチューブアレイを押す方向により決められている。
【0031】
図5を参照すると、単一の前記カーボンナノチューブフィルムにおけるカーボンナノチューブが配向せずに配置されている。該カーボンナノチューブフィルムは、等方的に配列されている複数のカーボンナノチューブを含み、隣接するカーボンナノチューブが分子間力で相互に引き合い、接続する。また該カーボンナノチューブ構造体は、平面等方性を有する。該カーボンナノチューブフィルムは、平面を有する押し器具を利用して、カーボンナノチューブアレイが成長する基板に垂直な方向に沿って、前記カーボンナノチューブアレイを押すことにより形成される。
【0032】
図6を参照すると、単一の前記カーボンナノチューブフィルムにおけるカーボンナノチューブが配向して配列されている。該カーボンナノチューブフィルムは、同じ方向に沿って配列された複数のカーボンナノチューブを含む。ローラー形状を有する押し器具を利用して、同じ方向に沿って前記カーボンナノチューブアレイを同時に押すと、基本的に同じ方向に配列されたカーボンナノチューブを含むカーボンナノチューブフィルムが形成される。また、ローラー形状を有する押し器具を利用して、異なる方向に沿って、前記カーボンナノチューブアレイを同時に押す場合、前記異なる方向に沿って、選択的な方向に配列されたカーボンナノチューブを含むカーボンナノチューブフィルムが形成される。
【0033】
前記カーボンナノチューブフィルムにおけるカーボンナノチューブの傾斜の程度は、前記カーボンナノチューブアレイにかけた圧力に関係する。前記カーボンナノチューブフィルムにおけるカーボンナノチューブと該カーボンナノチューブフィルムの表面は、角度αを成し、該角度αは0°以上15°以下である。好ましくは、前記カーボンナノチューブフィルムにおけるカーボンナノチューブは、該カーボンナノチューブフィルムの表面に平行する。前記圧力が大きくなるほど、前記傾斜の程度も大きくなる。前記カーボンナノチューブフィルムの厚さは、前記カーボンナノチューブアレイの高さ及び該カーボンナノチューブアレイにかけた圧力に関係し、0.5ナノメートル〜100マイクロメートルである。即ち、前記カーボンナノチューブアレイの高さが高くなるほど、また、該カーボンナノチューブアレイにかけた圧力が小さくなるほど、前記カーボンナノチューブフィルムの厚さは大きくなる。これとは逆に、カーボンナノチューブアレイの高さが低くなるほど、また、該カーボンナノチューブアレイにかけた圧力が大きくなるほど、前記カーボンナノチューブフィルムの厚さは小さくなる。前記プレシッド構造カーボンナノチューブフィルムの構造及び製造方法については、特許文献2を参照。
【0034】
前記カーボンナノチューブ構造体は、少なくとも一枚の綿毛構造カーボンナノチューブフィルム(flocculated carbon nanotube film)を含む。図7を参照すると、単一の前記カーボンナノチューブフィルムにおいて、複数のカーボンナノチューブは、相互に絡み合い、等方的に配列されている。複数のカーボンナノチューブは配向せずに配置されている。単一の前記カーボンナノチューブの長さは、10マイクロメートル以上であり、200マイクロメートル〜900マイクロメートルであること好ましい。前記カーボンナノチューブ構造体は、自立構造の薄膜の形状に形成されている。前記複数のカーボンナノチューブは、分子間力で接近して、相互に絡み合い、カーボンナノチューブネット状に形成されている。前記複数のカーボンナノチューブは、配向せずに配置されて、複数の微小な穴が形成されている。ここで、単一の前記微小な穴の直径は、1ナノメートル〜500ナノメートルである。前記カーボンナノチューブ構造体におけるカーボンナノチューブは、相互に絡み合って配置されるので、該カーボンナノチューブ構造体は柔軟性に優れ、任意の形状に湾曲して形成させることができる。前記綿毛構造カーボンナノチューブフィルムの構造及び製造方法については、特許文献3を参照。
【0035】
前記カーボンナノチューブ構造体は、少なくとも一本のカーボンナノチューブ線状構造体を含むことができる。前記カーボンナノチューブ線状構造体は、少なくとも一つの非ねじれ状カーボンナノチューブワイヤ、少なくとも一つのねじれ状カーボンナノチューブワイヤ又は非ねじれ状カーボンナノチューブワイヤ及びねじれ状カーボンナノチューブワイヤの組み合わせである。
【0036】
図8を参照すると、前記非ねじれ状カーボンナノチューブワイヤは、該カーボンナノチューブワイヤの中心軸に平行に配列されている複数のカーボンナノチューブを含む。前記非ねじれ状カーボンナノチューブワイヤは、ドローン構造カーボンナノチューブフィルムを、有機溶剤で処理して形成したものである。前記ドローン構造カーボンナノチューブフィルムは、分子間力で端と端が接続された複数のカーボンナノチューブセグメントを含む。各々の前記カーボンナノチューブセグメントは、平行に配列され、分子間力で緊密に結合された複数のカーボンナノチューブを含む。前記カーボンナノチューブワイヤの長さは制限されず、その直径は0.5ナノメートル〜1ミリメートルである。
【0037】
前記非ねじれ状カーボンナノチューブワイヤは、図2に示すようなカーボンナノチューブフィルム143aを、有機溶剤で処理することにより、前記カーボンナノチューブフィルム143aをカーボンナノチューブワイヤに形成させる。
【0038】
具体的には、有機溶剤を前記カーボンナノチューブフィルム143aの表面に滴下し、該有機溶剤を前記カーボンナノチューブフィルム143aに浸漬させる。前記有機溶剤は、例えば、エタノール、メタノール、アセトン、ジクロロエタン、クロロホルムなどの揮発性有機溶剤である。本実施例において、前記有機溶剤は、エタノールである。従って、前記有機溶剤の表面張力によって、前記カーボンナノチューブフィルム143aにおける複数のカーボンナノチューブを縮ませて、該カーボンナノチューブワイヤが形成される。該カーボンナノチューブワイヤは、前記カーボンナノチューブフィルム143aより、比表面積が小さくなり、接着性が低くなる。
【0039】
図9を参照すると、前記ねじれ状カーボンナノチューブワイヤは、該カーボンナノチューブワイヤの中心軸を軸に、螺旋状に配列された複数のカーボンナノチューブを含む。前記ねじれ状カーボンナノチューブワイヤは、機械外力で図2に示すような前記ドローン構造カーボンナノチューブフィルム143aを処理して形成されたものである。具体的には、前記ドローン構造カーボンナノチューブフィルム143aの両端を異なる方向に沿って絞る。該ドローン構造カーボンナノチューブフィルム143aは、接着性を有するので、該カーボンナノチューブフィルム143aは、ねじれ状カーボンナノチューブワイヤに形成することができる。更に、前記ねじれ状のカーボンナノチューブワイヤを揮発性有機溶剤で処理してもよい。前記揮発性有機溶剤の表面力の作用で、前記ねじれ状のカーボンナノチューブワイヤにおける隣接するカーボンナノチューブが分子間力で緊密に接続されるので、該ねじれ状のカーボンナノチューブワイヤは、直径及び比表面積が小さくなり、大きな密度、優れた機械強度及び優れた靭性を有する。
【0040】
前記カーボンナノチューブワイヤの構造及び製造方法については、特許文献4及び特許文献5を参照。
【0041】
前記カーボンナノチューブ構造体の極性化表面にある電荷の作用で、前記生物組織14は、前記カーボンナノチューブ構造体の表面に直接接着される。前記生物組織14は、複数の細胞を含む。各々の前記細胞は、前記カーボンナノチューブ構造体の表面に接着され、互いに接続して網状構造体を形成する。前記細胞は、神経細胞、筋肉細胞又は皮膚細胞等である。前記神経細胞は、例えば、海馬神経細胞等の哺乳動物の神経細胞である。従って、前記生物組織14は、神経ネットワーク、筋肉組織又は皮膚組織等の大きな面積を有する組織である。
【0042】
前記カーボンナノチューブ構造体は、軽く、弾性及び延展性に優れているので、生物体内に直接移植可能である。従って、破壊された神経系の損傷部分の形状及び大きさによって、前記移植体を裁断し又は引き伸ばして、前記損傷部分に移植することができる。前記移植体の細胞と、前記損傷部分の両端又は縁部に位置する細胞との距離は近いので、該移植体の細胞と、前記損傷部分の両端又は縁部に位置する細胞とは、再び繋がることができる。従って、損傷部分の修復が実現でき、修復時間を短くさせることができる。
【0043】
前記培養用基体12は、さらに生物基体(図示せず)を含むことができる。この場合、前記カーボンナノチューブ構造体は、前記生物基体の表面に設置される。また、前記生物基体は、前記カーボンナノチューブ構造体を支持することにも用いられる。前記移植体10における生物組織14は、前記カーボンナノチューブ構造体の前記生物基体とは反対側の表面に設置される。即ち、前記カーボンナノチューブ構造体は、前記生物基体と前記生物組織14との間に設置される。前記生物基体の材料は、生物分解が可能でありかつ生物毒性がない材料、又は生物毒性がない材料である。前記生物分解が可能でありかつ生物毒性がない材料は、例えば、熱可塑性の澱粉プラスチック、脂肪族のポリエステル、ポリ乳酸又は澱粉/ポリビニルアルコールである。前記生物毒性がない材料は、例えば、シリカゲルである。前記生物基体の材料は、生物分解が可能でありかつ生物毒性がない材料、又は生物毒性がない材料であるので、該培養用基体12を生物体内に直接移植することができる。
【0044】
前記生物基体の形状及び厚さは、前記カーボンナノチューブ構造体の形状及び厚さに応じて決定され、前記カーボンナノチューブ構造体の形状は、前記生物基体の損傷部分の形状に応じて決定される。例えば、前記生物基体の面積及び形状は、前記カーボンナノチューブ構造体の面積及び形状と基本的に同じである。前記カーボンナノチューブ構造体の厚さが薄い場合、該カーボンナノチューブ構造体は、小さな機械強度及び大きな比表面積を有する。従って、前記カーボンナノチューブ構造体は、外力作用によって破損しやすく、また他の物体に接着しやすい。そこで前記カーボンナノチューブ構造体を前記生物基体の表面に設置することによって、前記カーボンナノチューブ構造体が外力作用によって破損されないようにし、移動し易く且つ他の物体に接着することが防止される。また、前記培養用基体12を生物体内に移植した後、前記生物基体を除去する必要もない。
【0045】
図10を参照すると、本発明の実施形態は、移植体の製造方法を提供する。該製造方法は、以下のステップを含む。
ステップ10:培養用基体を提供して、該培養用基体がカーボンナノチューブ構造体を含み、該カーボンナノチューブ構造体の表面が極性化処理され、極性化表面を形成する。
ステップ20:前記カーボンナノチューブ構造体の極性化表面に複数の細胞を播種する。
ステップ30:生物組織が形成されるまで、複数の前記細胞を培養する。
【0046】
前記ステップ10は、以下のサブステップを含む。
サブステップ11:カーボンナノチューブ構造体を提供する。
サブステップ12:前記カーボンナノチューブ構造体の表面に対して、極性化処理を行う。
【0047】
前記サブステップ12により、該カーボンナノチューブ構造体の表面に位置するカーボンナノチューブの電荷極性を変更して、極性化されたカーボンナノチューブ構造体の表面に培養しようとする生物組織を接着させ、生物組織の細胞の成長を有利にする。
【0048】
具体的には、前記サブステップ12は、前記カーボンナノチューブ構造体に対して、殺菌処理を行うステップ121と、殺菌処理されたカーボンナノチューブ構造体をポリ-D-リシン(Poly-D-Lysine PDL)溶液又はポリエーテルイミド(Polyetherimide)溶液によって処理するステップ122と、を含む。
【0049】
前記ステップ121では、前記カーボンナノチューブ構造体に対して、殺菌処理を行う方法は制限されず、該カーボンナノチューブ構造体にいる細菌を殺菌することが可能であれば、どの殺菌処理方法でもよい。例えば、高温殺菌又は紫外線殺菌の方法を利用して、前記カーボンナノチューブ構造体に対して、殺菌処理を行うことができる。一般的に、前記カーボンナノチューブ構造体に対しては、紫外線殺菌をすることが好ましい。
【0050】
前記ステップ122では、まず、前記カーボンナノチューブ構造体をポリ-D-リシン溶液又はポリエーテルイミド溶液の中に浸漬する。その後、前記ポリ-D-リシン溶液又はポリエーテルイミド溶液が前記細胞の培養に影響を与えないように、無菌の脱イオン水で前記カーボンナノチューブ構造体を洗浄する。これによって、前記カーボンナノチューブ構造体がポリ-D-リシン溶液又はポリエーテルイミド溶液によって極性化処理され、該カーボンナノチューブ構造体の表面に位置するカーボンナノチューブの電荷極性が変わり、該カーボンナノチューブ構造体の表面に播種する細胞の電荷極性と異なる電荷極性を持たせ、前記細胞への接着性を増加させ、該細胞を播種するための条件を提供する。また、前記カーボンナノチューブ構造体の表面に位置するカーボンナノチューブの電荷極性を変更するために、該カーボンナノチューブ構造体の表面に対して、蒸着、スパッタリング又は化学修飾処理を行う必要はない。従って、前記培養用基体の構造及びその製造方法が簡単である。
【0051】
前記カーボンナノチューブ構造体の強度を高めるために、前記培養用基体は、さらに基体を含むことができる。前記カーボンナノチューブ構造体は、該カーボンナノチューブ構造体の極性化表面が前記基体と離れるように、前記基体の表面に設置される。前記基体の形状、材料及び厚さは、実際の応用に応じて決まる。例えば、前記移植体の面積が3cmであれば、前記基体の面積は、少なくとも3cmである。前記基体は、平面構造体であっても、曲面構造体であってもよい。
【0052】
前記基体は、生物基体であっても、非生物基体であってもよい。該非生物基体の材料は、例えば、ポリスチレンなどのプラスチックである。前記基体は、プラスチックの時計皿、プラスチックの培養器皿又は四角形のプラスチック板である。前記基体が、プラスチックの時計皿又はプラスチックの培養器皿である場合、細胞を直接培養することができるため、カーボンナノチューブ構造体を他の器皿に置く必要ない。
【0053】
この場合、前記ステップ10は、以下のサブステップを含む。
サブステップ111:基体及びカーボンナノチューブ構造体を提供する。
サブステップ112:前記カーボンナノチューブ構造体を前記基体の表面に設置する。
サブステップ113:前記カーボンナノチューブ構造体に対して、殺菌処理を行う。
サブステップ114:殺菌処理されたカーボンナノチューブ構造体をポリ-D-リシン溶液又はポリエーテルイミド溶液で処理する。
【0054】
前記ステップ112では、前記カーボンナノチューブ構造体を前記基体の表面に緊密に接着させるために、有機溶剤で該カーボンナノチューブ構造体を処理する。具体的には、前記基体に設置されたカーボンナノチューブ構造体に、揮発性有機溶剤を滴下して、該カーボンナノチューブ構造体を被覆する。その後、前記揮発性有機溶剤を揮発させることで、前記カーボンナノチューブ構造体の比表面積を減少させることができ、前記カーボンナノチューブ構造体と前記基体との接着力を増加させることができる。
【0055】
前記基体が面状構造体である時、前記培養用基体は、さらに容器を含み、前記カーボンナノチューブ構造体が設置された基体は、前記容器の中に設置される。前記容器は、例えば、プラスチックの時計皿又はプラスチックの培養器皿等の細胞を直接培養することができる器皿である。前記基体は、前記容器と前記カーボンナノチューブ構造体との間に設置される。この時、前記ステップ112と前記ステップ113との間に、前記カーボンナノチューブ構造体が設置された基体を前記容器に置くステップを含む。
【0056】
前記ステップ20では、前記カーボンナノチューブ構造体の極性化表面に複数の細胞を播種する方法は制限されず、該カーボンナノチューブ構造体の極性化表面に、細胞用培養液を噴射或いは塗布してもよい。また、前記カーボンナノチューブ構造体及び該カーボンナノチューブ構造体を支持する基体を前記細胞用培養液の中に浸漬してもよく、該細胞用培養液で前記カーボンナノチューブ構造体を被覆することが可能であれば、何れの播種する方法でもよい。前記細胞用培養液とは、細胞を含み、細胞を播種することができる溶液である。
【0057】
例えば、前記カーボンナノチューブ構造体の極性化表面に複数の神経細胞を播種する場合、該カーボンナノチューブ構造体の極性化表面に神経細胞用培養液を滴下して、該カーボンナノチューブ構造体の極性化表面を被覆する。これによって、前記神経細胞用培養液における神経細胞は、前記カーボンナノチューブ構造体の極性化表面に播種される。
【0058】
前記細胞の培養環境は、できるだけ細胞が生物体の中で生存できる環境と同じであることが好ましい。細胞の具体的な培養環境は、該細胞の種類に応じて決められる。例えば、できるだけ神経細胞が生物体の中で生存できる環境と同じである培養環境下で、該神経細胞を培養する。一般には、炭酸ガスの含有量が5%であり、温度が37℃である培養環境で、前記神経細胞を培養する。本発明の移植体の製造方法は、該カーボンナノチューブ構造体の表面に対して、蒸着、スパッタリング又は化学修飾処理を行わず、移植体を直接製造することができるので、前記移植体の製造方法が簡単である。
【0059】
次に、具体的な実施例で移植体及び該移植体の製造方法を詳しく説明する。
(実施例1)
【0060】
図11を参照すると、本発明の実施例1は、移植体20を提供し、該移植体20は、神経移植体である。該神経移植体は、培養用基体22及び神経ネットワーク24からなる。該培養用基体22は、カーボンナノチューブ構造体28及びプラスチック板の基体26からなる。具体的には、前記カーボンナノチューブ構造体28は、積層された十枚の前記ドローン構造カーボンナノチューブフィルムからなるカーボンナノチューブ構造体であり、該カーボンナノチューブ構造体における隣接するドローン構造カーボンナノチューブフィルムのカーボンナノチューブは、90°の角度で交差している。該カーボンナノチューブ構造体28は、前記プラスチック板の基体26の表面に設置される。該カーボンナノチューブ構造体28の表面に位置するカーボンナノチューブが極性化され、該カーボンナノチューブ構造体28の表面に極性化表面を形成し、該極性化表面の電荷極性は、神経ネットワーク24の電荷極性と異なる。従って、前記神経ネットワーク24は、前記カーボンナノチューブ構造体28の極性化表面に接着され、前記カーボンナノチューブ構造体28の前記神経ネットワーク24とは反対側の表面は、分子間力で前記プラスチック板の基体26の表面に接着される。
【0061】
前記移植体20の製造方法は、次の通りである。
プラスチック板の基体26及びカーボンナノチューブ構造体28を提供し、該カーボンナノチューブ構造体28を前記プラスチック板の基体26の表面に設置する。前記カーボンナノチューブ構造体28は、積層された十枚の前記ドローン構造カーボンナノチューブフィルムからなるカーボンナノチューブ構造体であり、該カーボンナノチューブ構造体における隣接するドローン構造カーボンナノチューブフィルムのカーボンナノチューブは、90°の角度で交差している。前記カーボンナノチューブ構造体28の表面にエタノールを滴下した後、エタノールを揮発させ、該カーボンナノチューブ構造体28を前記プラスチック板の基体26の表面に緊密に接着させる。
【0062】
前記カーボンナノチューブ構造体28及びプラスチック板の基体26を減菌箱に配置し、前記カーボンナノチューブ構造体28及びプラスチック板の基体26を紫外線で30分間照射する。その後、殺菌処理されたカーボンナノチューブ構造体28及びプラスチック板の基体26を濃度が20μg/mlであるポリ‐D‐リシン溶液に浸漬して、20時間放置する。その後、カーボンナノチューブ構造体28及びプラスチック板の基体26を前記ポリ‐D‐リシン溶液から取り出す。前記カーボンナノチューブ構造体28に付着しているポリ‐D‐リシン溶液を除去して、該カーボンナノチューブ構造体28の表面を極性化表面に形成させるために、無菌の脱イオン水で前記カーボンナノチューブ構造体28を洗浄する。
【0063】
前記極性化表面が形成されたカーボンナノチューブ構造体28及びプラスチック板の基体26を培養器皿に置き、該プラスチック板の基体26を前記培養器皿の内表面に接触させ、前記カーボンナノチューブ構造体28の極性化表面に海馬神経細胞用培養液を滴下して、該カーボンナノチューブ構造体28を被覆し、該海馬神経細胞用培養液における海馬神経細胞を前記カーボンナノチューブ構造体28の極性化表面に播種する。前記海馬神経細胞用培養液は、分化していない海馬神経細胞を培養液に分散して形成されたものである。
【0064】
前記海馬神経細胞が培養された培養器皿を炭酸ガスインキュベーターの中に配置し、培養し、時間によって培養液を入れ替える。前記炭酸ガスインキュベーターにおける炭酸ガスの含有量は5%であり、その温度は37℃である。前記炭酸ガスインキュベーターでは、培養液によって、前記海馬神経細胞を7日間培養して、神経移植体を形成することができる。図12は、染色された神経移植体の光学顕微鏡写真である。図12が示すように、前記神経移植体における複数の海馬神経細胞から、複数の神経突起が分化して、該複数の神経細胞が、前記複数の神経突起を介して互いに接続され、神経ネットワークを形成し、該複数の神経細胞が繋がっている。また、一部の神経細胞から複数の神経突起が分化するが、該一部の神経細胞は、複数の前記神経突起を介して、他の神経細胞には繋がらない。しかし、神経移植体の全体的な生物活性には、影響しない。
【0065】
(実施例2)
本発明の実施例2では、移植体を提供し、該移植体は神経移植体である。該神経移植体は、培養用基体及び神経ネットワークからなり、該培養用基体は、カーボンナノチューブ構造体及び基体からなる。本実施例の移植体は、前記実施例1における移植体と基本的に同じであるが、異なる部分は、本実施例のカーボンナノチューブ構造体が一枚の前記ドローン構造カーボンナノチューブフィルムからなり、前記基体がシリカゲル基体であることである。本実施例の移植体の染色された光学顕微鏡写真は、図13を参照する。
【0066】
本実施例の移植体の製造方法は、前記実施例1における移植体20の製造方法と基本的に同じである。
【0067】
勿論、前記実施例1及び実施例2における生物組織は、神経ネットワークに制限されず、筋肉細胞又は皮膚細胞であってもよい。
【0068】
本発明の実施例に係る移植体の製造方法は、カーボンナノチューブ構造体の表面に対して、極性化処理のみを行うだけでよい。従って、蒸着、スパッタリング又は化学修飾処理を行わず細胞を直接培養することができるため、前記移植体の製造方法が簡単で、実施しやすい。
【0069】
本発明の実施例に係る培養用基体におけるカーボンナノチューブ構造体は、極性化処理され、極性化表面に形成される。該極性化表面が、播種しようとする細胞の電荷極性と異なる電荷極性を有して、細胞を接着することができるので、前記培養用基体は、細胞を培養することができる。前記培養用基体におけるカーボンナノチューブ構造体は、カーボンナノチューブからなる自立構造体であるので、軽く、弾性及び延展性に優れている。従って、前記培養用基体を応用した移植体は、破壊された組織の損傷部分の形状及び大きさによって、裁断し、引き伸ばすことができる。その後、前記損傷部分に移植される。
【0070】
前記カーボンナノチューブ構造体は、極性化表面が形成され、生物組織が前記カーボンナノチューブ構造体の極性化表面に直接接着されるので、移植体の構造が簡単である。前記移植体が前記損傷部分に移植される時、該移植体が生物組織を含み、該生物組織における細胞と、損傷部分の両端又は縁部に位置する細胞との距離は近いので、該移植体における細胞と、損傷部分の両端又は縁部に位置する細胞とは、再び繋がることができ、損傷部分の修復が実現できる。
【符号の説明】
【0071】
10、20 移植体
12、22 培養用基体
14 生物組織
24 神経ネットワーク
26 プラスチック板の基体
28 カーボンナノチューブ構造体
143a ドローン構造カーボンナノチューブフィルム
143b カーボンナノチューブセグメント
145 カーボンナノチューブ
図1
図3
図10
図11
図2
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図12
図13