(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6058316
(24)【登録日】2016年12月16日
(45)【発行日】2017年1月11日
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
B60C 9/20 20060101AFI20161226BHJP
B60C 9/18 20060101ALI20161226BHJP
【FI】
B60C9/20 K
B60C9/18 M
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-181936(P2012-181936)
(22)【出願日】2012年8月20日
(65)【公開番号】特開2014-37217(P2014-37217A)
(43)【公開日】2014年2月27日
【審査請求日】2015年6月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】東洋ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】朝山 佳則
【審査官】
細井 龍史
(56)【参考文献】
【文献】
特開2005−329822(JP,A)
【文献】
国際公開第2008/035771(WO,A1)
【文献】
特開2003−237315(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2010/0288414(US,A1)
【文献】
特開昭60−064002(JP,A)
【文献】
特開昭62−241704(JP,A)
【文献】
米国特許第04815514(US,A)
【文献】
特開平07−052607(JP,A)
【文献】
米国特許第05482102(US,A)
【文献】
特開平11−099806(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2001/0010245(US,A1)
【文献】
特開2003−048409(JP,A)
【文献】
特開2006−298082(JP,A)
【文献】
特許第3744935(JP,B2)
【文献】
米国特許出願公開第2006/0213596(US,A1)
【文献】
特開2006−315516(JP,A)
【文献】
特開2009−208734(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2009/0032156(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 9/00−9/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対のビード部同士の間に設けられるカーカス層と、トレッド部における前記カーカス層のタイヤ径方向外側に設けられる第一ベルト層及び第二ベルト層と、前記第一ベルト層及び第二ベルト層の端部を覆う位置に配置されるベルト補強層とを備える空気入りタイヤであって、
前記第一ベルト層と前記カーカス層との間であってタイヤ径方向から見て前記第一ベルト層の端部と重なる位置に、タイヤ周方向に対して傾斜する有機繊維コードを有する繊維補強層が設けられ、前記繊維補強層は、前記ベルト補強層の端部よりもタイヤ幅方向内側に配置されており、
前記第一ベルト層と前記カーカス層との間に、及び前記ベルト補強層と前記カーカス層との間に、ゴムパッドが設けられており、前記ゴムパッドは、前記ベルト補強層の端部よりもタイヤ幅方向内側に配置されており、
前記ゴムパッドと前記繊維補強層とを合わせた最大厚みが4.5mm以下に設定されている、空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記繊維補強層は、タイヤ幅方向両側に対をなして配置されており、前記対をなす繊維補強層の有機繊維コードは、タイヤ周方向に対して対称となる向きで配置されている請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
タイヤ幅方向において前記繊維補強層の幅は前記ゴムパッドの幅よりも小さく形成されている請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記第二ベルト層の端部の内方域に第二の繊維補強層が配置されている、請求項1〜3のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記第二の繊維補強層は、前記ゴムパッドのタイヤ径方向内側にあり、前記繊維補強層及び前記第二の繊維補強層で前記ゴムパッドを挟んでいる、請求項4に記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アイス路面での制動性能及びドライ路面での操縦安定性能を適正化した空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
アイス路面を走行する際に使用されるタイヤは、当然ながらアイス路面での制動性能が求められると共に、ドライ路面での操縦安定性能も求められる。
【0003】
ドライ路面での操縦安定性能を向上させるための一つの手段として、例えば特許文献1には、トレッド部に配置される第一ベルト層及び第二ベルト層と、第一ベルト層及び第二ベルト層の端部を覆う位置に配置されるベルト補強層とを備えたタイヤに対し、第一ベルト層の端部下方に有機繊維コードを有する繊維補強層を設けることが開示されている。このように繊維補強層を設けると、ショルダー部の剛性が高まり、ドライ路面での操縦安定性能を向上させることが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−48409号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般に、タイヤを接地させると、接地面にはショルダー側からタイヤ赤道側に向かう力が作用し(面内収縮とも呼ばれる)、トレッドゴムがタイヤ幅方向に沿って変形する(ワイピング変形とも呼ばれる)。ワイピング変形は、接地面全体で発生するが、特にショルダー部で最も大きく、接地面積を低減させ、アイス路面での制動性能が悪化してしまう。
【0006】
ところが、上記特許文献1に記載の空気入りタイヤでは、ワイピング変形が最も大きいショルダー部に繊維補強層が配置されているものの、有機繊維コードがタイヤ周方向に沿っているため、タイヤ幅方向に沿ったワイピング変形に弱く、面内収縮を抑制するには至らない。そのため、ドライ路面での操縦安定性能とアイス路面での制動性能とを両立していない。
【0007】
また、有機繊維コードは、ゴムとは異物であり、タイヤの撓みの大きい最大幅部位に近づくほど、すなわちタイヤ幅方向外側に近づくほど、部材のセパレーションを招来する可能性があるので、繊維補強層を適切な位置に配置することが求められる。
【0008】
本発明は、このような課題に着目してなされたものであって、その目的は、部材のセパレーションを抑制すると共に、ワイピング変形を抑制して、接地形状を適正化し、アイス路面での制動性能を向上させた空気入りタイヤを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記目的を達成するために、次のような手段を講じている。すなわち、本発明の空気入りタイヤは、一対のビード部同士の間に設けられるカーカス層と、トレッド部における前記カーカス層のタイヤ径方向外側に設けられる第一ベルト層及び第二ベルト層と、前記第一ベルト層及び第二ベルト層の端部を覆う位置に配置されるベルト補強層とを備える空気入りタイヤであって、前記第一ベルト層と前記カーカス層との間であってタイヤ径方向から見て前記第一ベルト層の端部と重なる位置に、タイヤ周方向に対して傾斜する有機繊維コードを有する繊維補強層が設けられ、前記繊維補強層は、前記ベルト補強層の端部よりもタイヤ幅方向内側に配置されていることを特徴とする。
【0010】
このように、タイヤ周方向に対して傾斜する有機繊維コードを有する繊維補強層が、タイヤ径方向から見て第一ベルト層の端部と重なる位置に設けられているので、このような繊維補強層がない場合に比してショルダー部のタイヤ幅方向に対する強度を増大させ、接地面内収縮を抑制でき、その結果、接地形状が適正化してアイス路面での制動性能を向上させることが可能となる。言い換えると、繊維補強層の有機繊維コードに角度を持たせることで、制動時に前後方向に発生する力に対し、タイヤ幅方向に発生する力に意図的に変え、接地面内収縮を抑制し、アイス路面での制動性能を向上させることが可能となる。
仮に、繊維補強層がベルト補強層の端部よりもタイヤ幅方向外側にあると、繊維補強層が接地端から外れてワイピング変形を抑制できない場合があると共に、撓みの大きい幅方向最大部位に近づき、部材のセパレーションを招来し得る。しかし、本発明では、繊維補強層がベルト補強層の端部よりもタイヤ幅方向内側にあるので、一般的なタイヤにおいて繊維補強層が接地面に掛かり、ワイピング変形を適切に抑制できると共に、ベルト補強層で繊維補強層が覆われるので、部材のセパレーションを抑制することが可能となる。それでいて、繊維補強層の無い場合に比してショルダー部の剛性が増大するので、ドライ路面での操縦安定性能も向上させることが可能となる。
したがって、部材のセパレーションを抑制すると共に、ドライ路面での操縦安定性能及びアイス路面での制動性能を向上させることが可能となる。
【0011】
ユニフォミティを向上させるためには、前記繊維補強層は、タイヤ幅方向両側に対をなして配置されており、前記対をなす繊維補強層の有機繊維コードは、タイヤ周方向に対して対称となる向きで配置されていることが好ましい。
【0012】
第一ベルト層及びベルト補強層とカーカス層との間に、ゴムパッドが設けられている場合に、仮に、ゴムパッドがベルト補強層の端部よりもタイヤ幅方向外側に配置されていると、必然的にゴムパッドのボリュームが増えて、ショルダー部の剛性が低下し、ドライ路面での操縦安定性能が低減してしまう。そこで、ドライ路面での操縦安定性能の悪化を抑制するためには、前記第一ベルト層及び前記ベルト補強層と前記カーカス層との間に、ゴムパッドが設けられており、前記ゴムパッドは、前記ベルト補強層の端部よりもタイヤ幅方向内側に配置されていることが望ましい。このように構成すれば、ゴムパッドのボリュームを抑えることができ、ショルダー部の剛性低下を回避して、ドライ路面での操縦安定性能の悪化を抑制することが可能となる。
【0013】
部材のセパレーションをより一層抑制するためには、タイヤ幅方向において前記繊維補強層の幅は前記ゴムパッドの幅よりも小さく形成されていることが効果的である。このように構成すれば、繊維補強層をゴムパッドに的確に接着できるので、部材のセパレーションをより一層抑制できる。
【0014】
仮に、ゴムパッドが分厚い場合には、ショルダー部の剛性が低減し、ドライ路面での操縦安定性能が低減してしまう。また、繊維補強層が分厚い場合には、部材端に作用する応力集中(ひずみ)が大きくなり、部材のセパレーションを招来しやすくなる。また、ゴムパッド及び繊維補強層が分厚くなると、ベルト補強層及びベルト層がせりあがり、ベルトの拘束力が低減し、ドライ路面での操縦安定性能が低減してしまう。そこで、部材のセパレーションを抑制すると共に、ドライ路面での操縦安定性能の悪化を抑制するためには、前記ゴムパッドと前記繊維補強層とを合わせた最大厚みが4.5mm以下に設定されていることが効果的である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明に係る空気入りタイヤの一例を示すタイヤ子午線断面図。
【
図2】ベルト層端部、ベルト補強層及び繊維補強層を模式的に示す断面図。
【
図3】タイヤ幅方向両側に配置される対をなす繊維補強層の有機繊維コードを模式的に示す図。
【
図4】本発明の他の実施形態に係るベルト層端部、ベルト補強層及び繊維補強層を模式的に示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施形態の空気入りタイヤについて、図面を参照して説明する。
【0017】
図1に示すように、空気入りタイヤは、一対の環状のビード部1と、ビード部1からタイヤ径方向RDの外側へ延びるサイドウォール部2と、そのサイドウォール部2の外周側端に連なるトレッド部3と、その一対のビード部1の間に設けられるカーカス層4とを備えたラジアルタイヤである。カーカス層4は、トロイド状をなすカーカスプライからなり、その端部はビードコア1aとビードフィラー1bを挟み込むようにして折り返されている。
【0018】
トレッド部3におけるカーカス層4の外周には、たが効果によりカーカス層4を補強するベルト層5が配設されている。ベルト層5は、タイヤ周方向に対して20〜30°の角度で傾斜したコードを有する2枚の第一ベルト層5a,第二ベルト層5bを有し、各ベルト層はコードが互いに逆向きに交差するように積層されている。
【0019】
トレッド部3におけるベルト層5の外周側には、接地面を構成するトレッドゴム7が設けられている。トレッドゴム7の外表面であるトレッド面TRには、タイヤ周方向に沿って延びる主溝(不図示)が設けられている。このトレッドゴム7は、詳細を図示しないものの、主溝を有するキャップゴムの内周にベースゴムが積層されたキャップ・ベース構造を有する。
【0020】
図1に示すように、タイヤ子午線断面で視た場合に、第一ベルト層5aの端部5at及び第二ベルト層5bの端部5btを覆う位置にベルト補強層6が設けられている。ベルト補強層6は、タイヤ赤道CLを挟んでタイヤ幅方向WD両側に配置されて対をなしている。各々のベルト補強層6は、互いにタイヤ幅方向WDに離間している。
【0021】
図2に示すように、第一ベルト層5aとカーカス層4との間であってタイヤ径方向RDから見て第一ベルト層5aの端部5atと重なる位置に、有機繊維コードCを有する繊維補強層8が設けられている。
図3に示すように、有機繊維コードCは、タイヤ周方向CDに対して傾斜しており、本実施形態では、その傾斜角度θが30°に設定してある。繊維補強層8は、タイヤ幅方向WD両側に対をなして配置されており、これら対をなす繊維補強層8の有機繊維コードCは、タイヤ周方向CDに対して対称となる向きで配置されている。これにより、タイヤ幅方向WDに有機繊維コードCをバランスよく配置でき、ユニフォミティを向上させている。本実施形態では、有機繊維コードCの傾斜角度θを30°に設定しているが、これに限定されるものではない。有機繊維コードCのタイヤ周方向CDに対する角度は、10°〜45°(−10°〜45°)であればよく、その中でも特に22°〜32°(−22°〜−32°)にあることが接地面の面内収縮を抑制するうえで好ましい。有機繊維コードとしてナイロン製コードを用いているが、有機繊維コードであれば、ナイロン以外でもよい。
【0022】
図2に示すように、第一ベルト層5a及びベルト補強層6とカーカス層4との間には、ゴムパッド9が設けられている。ゴムパッド9は、ベルト補強層6の端部6aよりもタイヤ幅方向内側WD1に配置され、これにより、繊維補強層8及びゴムパッド9は、ベルト補強層6に覆われている。具体的には、カーカス層4のタイヤ径方向外側RD1にゴムパッド9が設けられ、ゴムパッド9のタイヤ径方向外側RD1に繊維補強層8が設けられている。本実施形態では、繊維補強層8のタイヤ径方向内側にゴムパッド9が配置されているが、ゴムパッドは繊維補強層のタイヤ径方向のいずれに配置してもよい。
【0023】
また、
図2に示すように、タイヤ幅方向WDにおいて繊維補強層8の幅W1は、ゴムパッド9の幅W2よりも小さく形成されている。これにより、繊維補強層8をゴムパッド9に的確に接着可能にしている。また、ゴムパッド9と繊維補強層8とを合わせた最大厚みD1は4.5mm以下に設定されている。
【0024】
以上のように本実施形態では、一対のビード部1同士の間に設けられるカーカス層4と、トレッド部3におけるカーカス層4のタイヤ径方向外側RD1に設けられる第一ベルト層5a及び第二ベルト層5bと、第一ベルト層5a及び第二ベルト層5bの端部5at・5btを覆う位置に配置されるベルト補強層6とを備える空気入りタイヤであって、
第一ベルト層5aとカーカス層4との間であってタイヤ径方向RDから見て第一ベルト層5aの端部5atと重なる位置に、タイヤ周方向CDに対して傾斜する有機繊維コードCを有する繊維補強層8が設けられ、繊維補強層8は、ベルト補強層6の端部6aよりもタイヤ幅方向内側WD1に配置されている。
【0025】
このように、タイヤ周方向CDに対して傾斜する有機繊維コードCを有する繊維補強層8が、タイヤ径方向RDから見て第一ベルト層5aの端部5atと重なる位置に設けられているので、このような繊維補強層8がない場合に比してショルダー部のタイヤ幅方向WDに対する強度を増大させ、接地面内収縮を抑制でき、その結果、接地形状が適正化してアイス路面での制動性能を向上させることが可能となる。言い換えると、繊維補強層8の有機繊維コードCに角度を持たせることで、制動時に前後方向に発生する力に対し、タイヤ幅方向に発生する力に意図的に変え、接地面内収縮を抑制し、アイス路面での制動性能を向上させている。
仮に、繊維補強層8がベルト補強層6の端部6aよりもタイヤ幅方向外側にあると、繊維補強層が接地端から外れてワイピング変形を抑制できない場合があると共に、撓みの大きい幅方向最大部位に近づき、部材のセパレーションを招来し得る。しかし、本実施形態では、繊維補強層8がベルト補強層6の端部6aよりもタイヤ幅方向内側WD1にあるので、一般的なタイヤにおいて繊維補強層8が接地面に掛かり、ワイピング変形を適切に抑制できると共に、ベルト補強層6で繊維補強層8が覆われるので、部材のセパレーションを抑制することが可能となる。それでいて、繊維補強層8のない場合に比してショルダー部の剛性が増大するので、ドライ路面での操縦安定性能も向上させることが可能となる。
したがって、部材のセパレーションを抑制すると共に、ドライ路面での操縦安定性能及びアイス路面での制動性能を向上させることが可能となる。
【0026】
さらに、本実施形態では、繊維補強層8は、タイヤ幅方向両側に対をなして配置されており、対をなす繊維補強層8の有機繊維コードCは、タイヤ周方向CDに対して対称となる向きで配置されているので、ユニフォミティを向上させることが可能となる。
【0027】
第一ベルト層5a及びベルト補強層6とカーカス層4との間に、ゴムパッド9が設けられている場合に、仮に、ゴムパッド9がベルト補強層6の端部6aよりもタイヤ幅方向外側に配置されていると、必然的にゴムパッド9のボリュームが増えて、ショルダー部の剛性が低下し、ドライ路面での操縦安定性能が低減してしまう。しかし、本実施形態では、ゴムパッド9は、ベルト補強層6の端部6aよりもタイヤ幅方向内側WD1に配置されているので、ゴムパッド9のボリュームを抑えることができ、ショルダー部の剛性低下を回避して、ドライ路面での操縦安定性能の悪化を抑制することが可能となる。
【0028】
さらに、本実施形態では、タイヤ幅方向WDにおいて繊維補強層8の幅W1はゴムパッド9の幅W2よりも小さく形成されているので、繊維補強層8をゴムパッド9に的確に接着できるので、部材のセパレーションをより一層抑制することが可能となる。
【0029】
仮に、ゴムパッド9が分厚い場合には、ショルダー部の剛性が低減し、ドライ路面での操縦安定性能が低減してしまう。また、繊維補強層8が分厚い場合には、部材端に作用する応力集中(ひずみ)が大きくなり、部材のセパレーションを招来しやすくなる。また、ゴムパッド9及び繊維補強層8が分厚くなると、ベルト補強層6及びベルト層5がせりあがり、ベルトの拘束力が低減し、ドライ路面での操縦安定性能が低減してしまう。しかし、本実施形態では、ゴムパッド9と繊維補強層8とを合わせた最大厚みD1が4.5mm以下に設定されているので、部材のセパレーションを抑制できると共に、ドライ路面での操縦安定性能の悪化を抑制することが可能となる。
[他の実施形態]
(1)本実施形態では、タイヤ幅方向両側に配置される対をなす繊維補強層8の有機繊維コードCは、互いにタイヤ周方向CDに対して対称となる向きで配置されているが、対称となる向きでない実施形態も本発明に含まれる。有機繊維コードCの傾斜向きはどちらに傾斜していてもよい。
(2)本実施形態では、ゴムパッド9を設けているが、ゴムパッド9を設けない実施形態も本発明に含まれる。
(3)また、
図4に示すように、上記繊維補強層8を第一の繊維補強層とした場合に、第二ベルト層5bの端部5btの内方域に第二の繊維補強層8’を配置してもよい。第一の繊維補強層8は、ゴムパッド9のタイヤ径方向外側RD1にあり、第二の繊維補強層8’は、ゴムパッドのタイヤ径方向内側にあり、第一及び第二の繊維補強層8・8’でゴムパッドを挟み込む構造にしている。第一の繊維補強層8の有機繊維コードCは、ナイロン製で、タイヤ周方向に対し35°傾斜している。第二の繊維補強層8’の有機繊維コードCは、ナイロン製で、タイヤ周方向に対し25°傾斜している。
【実施例】
【0030】
本発明の構成と効果を具体的に示すために、下記実施例について下記の評価を行った。
【0031】
(1)アイス路面での制動性能
タイヤを実車(国産2000ccクラスFF車)に装着し、1名乗車の加重条件にてアイス路面を走行させ、速度40km/hで制動力をかけてABSを作動させた際の制動距離を指数で評価した。数値が大きいほどアイス路面での制動性能が良好であることを示す。
【0032】
(2)ドライ路面での操縦安定性能(WET操縦安定性能)
タイヤを実車(国産2000ccクラスFF車)に装着し、ドライ路面を走行して官能評価により評価した。比較例1の結果を100として指数で示し、数値が大きいほどドライ路面での操縦安定性能が良好であることを示す。
【0033】
(3)セパレーション性能
ドラム走行し、セパレーション等の故障が発生するまでの走行距離を評価した。比較例1の結果を100として指数で示し、数値が大きいほどセパレーションが抑制されていることを示す。
【0034】
比較例1
トレッド部に第一ベルト層及び第二ベルト層を有し、第一ベルト層及び第二ベルト層の端部を覆う位置にベルト補強層を配置した、サイズ195/65R15のタイヤを作製した。
【0035】
比較例2
比較例1のタイヤに対し、第一ベルト層の端部の内方域に有機繊維コードを有する繊維補強層を設けた。有機繊維コードは、ナイロン製で、タイヤ周方向に沿って配置されている。繊維補強層は、ベルト補強層の端部よりもタイヤ幅方向内側に配置している。繊維補強層とカーカス層との間にゴムパッドを配置し、ゴムパッドと繊維補強層とを合わせた最大厚みを4.5mmとした。それ以外は、比較例1のタイヤと同じとした。
【0036】
比較例3
比較例2のタイヤに対し、繊維補強層の有機繊維コードをタイヤ周方向に対して30°傾斜させた。繊維補強層を、ベルト補強層の端部よりもタイヤ幅方向外側に配置した。それ以外は、比較例2と同じとした。
【0037】
比較例4
比較例2のタイヤに対し、繊維補強層の有機繊維コードをタイヤ周方向に対して30°傾斜させた。繊維補強層のナイロンコードを有機繊維コードではないスチールに変えた。それ以外は、比較例2のタイヤと同じとした。
【0038】
比較例5
比較例2のタイヤに対し、繊維補強層の有機繊維コードをタイヤ周方向に対して30°傾斜させた。ゴムパッドと繊維補強層とを合わせた最大厚みを5mmとした。それ以外は、比較例2と同じとした。
【0039】
実施例1
比較例5のタイヤに対し、ゴムパッドと繊維補強層とを合わせた最大厚みを4.5mmとした。それ以外は、比較例5と同じとした。
【0040】
実施例2
図4に示すように、第一ベルト層5aの端部5atの内方域に第一の繊維補強層8を配置し、第二ベルト層5bの端部5btの内方位置に第二の繊維補強層8’を配置した。第一の繊維補強層8は、ゴムパッド9のタイヤ径方向外側RD1にあり、第二の繊維補強層8’は、ゴムパッド9のタイヤ径方向内側になり、第一及び第二の繊維補強層でゴムパッドを挟み込む構造にした。第一の繊維補強層の有機繊維コードは、ナイロン製で、タイヤ周方向に対し35°傾斜している。第二の繊維補強層の有機繊維コードは、ナイロン製で、タイヤ周方向に対し25°傾斜している。ゴムパッドと繊維補強層とを合わせた最大厚みを4.5mmとした。それ以外は、実施例1と同じとした。
【0041】
【表1】
【0042】
表1より、実施例1〜2は比較例1〜5に対し、セパレーション性能の悪化を抑制しつつ、アイス路面での制動性能及びドライ路面での操縦安定性能が向上していることが分かる。具体的には、アイス路面での制動性能及びドライ路面での操縦安定性能について、比較例2は比較例1よりも向上している。これにより、繊維補強層を配置することによって両性能が向上することが理解できる。特に、実施例1は比較例2よりも両性能が向上していることから、コードを適切な角度に傾斜させることにより、両性能が向上することが理解できる。比較例5は実施例1よりもドライ路面での操縦安定性能が悪化していることから、繊維補強層とゴムパッドの最大厚みが4.5mmを超えると、剛性低下に起因して操縦安定性能等が悪化することが理解できる。
【0043】
セパレーション性能について、比較例3が実施例1よりも悪化していることから、繊維補強層がベルト補強層の端部よりも外側にあれば、セパレーション性能が悪化することが理解できる。さらに、ワイピング変形の抑制が弱くなるために、アイス路面での制動性能及びドライ路面での操縦安定性能が悪化することが理解できる。
【0044】
比較例4は実施例1よりもセパレーション性能が悪化していることから、スチールはセパレーション性能の観点から好ましくないことが理解できる。一方、比較例4は実施例1よりもアイス路面での制動性能及びドライ路面での操縦安定性能が飛躍的に向上している。これは、スチールの剛性により得られることが理解できる。
【0045】
アイス路面での制動性能及びドライ路面での操縦安定性能について、実施例2は実施例1よりも向上しているので、第二の繊維補強層を設けることが好ましいのが理解できる。
【符号の説明】
【0046】
1…ビード部
3…トレッド部
4…カーカス層
5a…第一ベルト層
5at…第一ベルト層の端部
5b…第二ベルト層
5bt…第二ベルト層の端部
6…ベルト補強層
6a…ベルト補強層の端部
8…繊維補強層
9…ゴムパッド
C…有機繊維コード
CD…タイヤ周方向
RD…タイヤ径方向
RD1…タイヤ径方向外側
WD…タイヤ幅方向
WD1…タイヤ幅方向内側
W1…繊維補強層の幅
W2…ゴムパッドの幅
D1…最大厚み