(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来知られている金属多孔体の製造方法としては、大きく分けて、鋳型を用いず原料あるいは生成物の自己集積によって得る方法と鋳型を利用して多孔体を得る方法がある。
【0003】
鋳型を用いない方法としては、
(1)金属溶融体に発泡剤を添加し、バブルによって多孔体を作製する方法(例えば、特許文献1,2参照。)や、
(2)金属塩/高分子系にて、金属塩のゾル−ゲル反応過程でおこる相分離を利用して金属多孔体を得る方法(例えば、非特許文献1,2参照。)
などが知られている。
【0004】
しかし、(1)の方法の場合は、機械的強度は高いが空孔が連結しておらず流体輸送効率が低く、同時に孔を形成するバブルの径がミリメートルオーダーと比較的大きい。
また、(2)の方法の場合は、細孔径がナノメートルオーダーと小さく高表面積(>95m
2/g)であるが、酸化物が多く混入し、組成の制御が難しい。
【0005】
一方、鋳型を用いて金属多孔体を作製する方法としては、
(3)ウレタンフォームなどの有機多孔体に金属粉と有機バインダーからなるスラリーを塗着させ焼成する方法(例えば、特許文献3〜6参照)、
(4)ウレタンフォームをカーボン粒子で導電化処理したのちに、電解めっきで金属を析出させる方法(例えば、特許文献7参照)、
(5)ブロックコポリマーが形成する相分離構造体を鋳型として利用する方法(例えば、非特許文献3参照)、
(6)ポリマービーズを集積したオパール構造の空隙に金属を析出させたのち、ポリマービーズのみを溶出させる方法(例えば、非特許文献4参照)
などが知られている。
【0006】
しかし、(3)の方法の場合は、空孔は互いに連結した構造であるが金属粉同士の結合が弱く脆いという問題がある。また、(3)及び(4)の方法は、共通して、用いる有機多孔体(発泡ポリウレタンやスチロール)の制限から細孔径が比較的大きくなる(数十ミクロンからミリメートルオーダー)傾向にある。金属多孔体のさらなる高機能化には細孔径の微細化による高表面積化が求められる。
(5)の方法では、AB型のブロックコポリマーが形成するジャイロイド構造体からABのうちどちらかの成分を化学的にエッチングしてナノ細孔を形成させる。このナノ細孔内に金属を無電解めっきによって析出させたのち、有機多孔体を溶剤で溶出し多孔体を得ている。この方法では、鋳型となる有機構造体の成形・大型化が困難なため、得られる多孔体の成形性も乏しく加工や大型化には不向きである。
また、(6)の方法では、オパール構造の作製には基板のような支持体が必要であり、得られる多孔体もフィルム状のものに限られるという制限がある。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明にかかる金属多孔体の製造方法の実施形態について詳しく説明するが、本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更実施し得る。
【0014】
〔エポキシ樹脂モノリス〕
まず、本発明の金属多孔体の製造方法に用いられるエポキシ樹脂モノリスについて説明する。
エポキシ樹脂モノリスは、柱状の有機高分子の三次元分岐網目構造を骨格として有し、且つ骨格間に空隙を有して形成されている多孔体であって、基礎となる構造は、骨格と空隙(マクロ孔)がお互いに絡み合った三次元的な網目構造を有している。クロマトグラフィーを中心とした分析分野では、これらの形状を有する材料のことを慣用的に「モノリス」という。本発明におけるエポキシ樹脂モノリスは、エポキシ樹脂のモノリス型多孔体である。
【0015】
エポキシ樹脂モノリスは、安価でかつ調製工程が著しく容易であり、特に、エポキシ化合物と硬化剤の反応によって調製される熱硬化性樹脂型のエポキシ樹脂モノリスは、原料が安価であり、かつ、調製工程が容易である点で好ましい。
【0016】
また、上記エポキシ樹脂モノリスの多孔体を形成する骨格内には、メソポアと呼ばれるマクロ孔より小さなサイズの細孔(メソポア)を有しており、これらの構造は三次元網目構造のような連続孔を形成しているだけでなく、一様な貫通孔や骨格を構成している格子間の空隙と見られる構造を有しているように観察されることもある。尚、これらのメソポアは、多孔体の表面積を大きくする為に有効である。
【0017】
上記エポキシ樹脂モノリスとしては、特に限定するわけではないが、例えば、エポキシ化合物と、硬化剤と、ポア形成剤とを含む混合溶液を調製した後、前記混合溶液のエポキシ化合物と硬化物を重合し、得られた重合物中から前記ポア形成剤を除去して得られるものが好ましく挙げられる。
【0018】
エポキシ化合物と硬化剤の組み合わせは、大きく分類すると、芳香族エポキシ化合物と芳香族硬化剤の組み合わせ、芳香族エポキシ化合物と脂肪族硬化剤の組み合わせ、脂肪族エポキシ化合物と芳香族硬化剤の組み合わせ、脂肪族エポキシ化合物と脂肪族硬化剤の組み合わせに分けることができる。
尚、エポキシ化合物と硬化剤は、それぞれ1種類又は2種以上混在して使用してもよい。エポキシ化合物又は硬化剤のいずれか一方でも芳香族系の原料を用いた場合、得られるエポキシ樹脂モノリスの耐熱性が向上する。
【0019】
上記エポキシ化合物のうち、芳香環由来の炭素原子を含む芳香族エポキシ化合物としては、ビスフェノールA型エポキシ化合物、臭素化ビスフェノールA型エポキシ化合物、ビスフェノールF型エポキシ化合物、ビスフェノールAD型エポキシ化合物、スチルベン型エポキシ化合物、ビフェニル型エポキシ化合物、ビスフェノールAノボラック型エポキシ化合物、クレゾールノボラック型エポキシ化合物、ジアミノジフェニルメタン型エポキシ化合物、テトラキス(ヒドロキシフェニル)エタンべ−スなどのポリフェニルベースエポキシ化合物、フルオレン含有エポキシ化合物、2,2,2,−トリ−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアネートなどのトリグリシジルイソシアヌレート、トリアジン環含有エポキシ化合物等、複素芳香環を含むエポキシ化合物、N,N,N’,N’−テトラグリシジル−m−キシリレンジアミンなどを挙げることができる。また、芳香環由来の炭素原子を含まない脂肪族エポキシ化合物として、脂肪族グリシジルエーテル型エポキシ化合物、脂肪族グリシジルエステル型エポキシ化合物、脂環族グリシジルエーテル型エポキシ化合物、脂環族グリシジルエステル型エポキシ化合物、1,3−ビス(N,N’−ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサンなどが挙げられる。上記の中でも、好ましくは、分子内にグリシジル基が二つ以上有するエポキシ化合物であり、特に好ましくは、ビスフェノールAジグリシジルエーテル等のビスフェノールA型エポキシ化合物、2,2,2,−トリ−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアネート、N,N,N’,N’−テトラグリシジル−m−キシリレンジアミン、1,3−ビス(N,N’−ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサンである。
【0020】
上記硬化剤のうち、芳香環由来の炭素原子を含む芳香族硬化剤としては、メタフェニレンジアミンやジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−メチレン−ビス(2−クロロアニリン)、ベンジルジメチルアミン、ジメチルアミノメチルベンゼンなどの芳香族アミン、無水フタル酸や無水トリメット酸、無水ピロメット酸などの芳香族酸無水物、フェノール系化合物、フェノール系樹脂、フェノールホルムアルデヒド型ノボラックやフェノールアルキル型ノボラック等のノボラック型フェノール樹脂、イソフタル酸ジヒドラジドなどの芳香族ヒドラジド類、トリアジン環などの複素芳香環を有する芳香族アミン、1,1,1’,1’−テトラメチル−4,4’−(メチレン−ジ−パラ−フェニレン)ジセミカルバジド等の芳香族ポリアミン類及び芳香族ポリアミンヒドラジド類などが挙げられる。また、芳香環由来の炭素原子を含まない脂肪族硬化剤としては、エチレンジアミンやジエチレントリアミン、4,4’−メチレン−ビス−シクロヘキシルアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、イミノビスプロピルアミン、ビス(ヘキサメチレン)トリアミン、1,3,6−トリスアミノメチルヘキサン、ポリメチレンジアミン、トリメチルヘキサメチレンジアミン、ポリエーテルジアミンなどの脂肪族アミン類、アジピン酸ジヒドラジドやセバチン酸ジヒドラジド、ドデカン二酸ジヒドラジドなどの脂肪族ヒドラジド類、イソホロンジアミンやメンタンジアミン、N−アミノエチルピペラジン、3,9−ビス(3−アミノプロピル)2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5,5)ウンデカンアダクト、ビス(4−アミノシクロへキシル)メタンやこれらの変性品などの脂環族ポリアミン類、1,6−ヘキサメチレンビス(N,N−ジメチルセミカルバジド)などの脂肪族ポリアミンヒドラジド類、ポリアミン類とダイマー酸からなる脂肪族ポリアミドアミン類やポリアミノアミド類など、ビューレトリートリ−(ヘキサメチレン−N,N−ジメチルセミカルバジド)を主成分とするオリゴマープロピレングリコールモノメチルエーテル溶液、ビューレトリートリ−(ヘキサメチレン−N,N−ジメチルセミカルバジド)を主成分とするオリゴマーN,N−ジメチルホルムアミド溶液、スピログリコールや2−(5−エチル−5−ヒドロキシメチル−1,3−ジオキサン−2−イル)−2−メチルプロパン−1−オールなどのグリコール類、その他アミンアダクト系硬化剤などが挙げられる。
【0021】
ポア形成剤は、エポキシ樹脂モノリスのマクロ孔やメソポアの空隙となるものである。
ポア形成剤としては、例えば、重合溶媒としてエポキシ化合物及び硬化剤を溶かすことができるとともに、エポキシ化合物と硬化剤の重合の際には反応誘起相分離を生じさせることが可能なものを用いることができる。具体的には、メチルセロソルブ、エチルセロソルブなどのセロソルブ類、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートなどエステル類、又はポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、トリエチレングリコール、ジエチレングリコールなどのグリコール類などを挙げることができる。上記の中でも、平均分子量600以下のポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、トリエチレングリコール、ジエチレングリコールが好ましい。平均分子量600以上のポリエチレングリコール或いはポリプロピレングリコールで室温中において蝋質(半固形)状であっても重合温度においてエポキシ化合物や硬化剤と相溶し且つ液状であればポア形成剤として使用できる。
【0022】
ここで、ポア形成剤としてポリエチレングリコールを用いて得られるエポキシ樹脂モノリスを用いて本発明の金属多孔体の製造方法を実施した場合、ポリエチレングリコールの平均分子量によって、得られる金属多孔体の細孔径に差が生じることが分かった。具体的には、平均分子量が小さいほど、細孔径が小さくなる傾向にある。従って、ポリエチレングリコールの平均分子量を代えることによって、金属多孔体の細孔径の制御が可能である。ポリエチレングリコール以外のグリコール類を用いる場合も同様の傾向になると推測される。
【0023】
また、上記のポア形成剤としては、重合溶媒に反応誘起相分離性化合物である有機高分子を溶解させ、溶液として調製したものを使用することもできる。重合溶媒としては、低分子化合物および有機高分子が溶解する溶媒であれば特に限定されない。例えば、トルエン等のアルキルベンゼン、クロロベンゼンやジクロロベンゼン等のハロゲン置換ベンゼン、キシレン、トリメチルベンゼン(メシチレン)、ジメチルホルムアミド、ホルムアミド、メタノールやエタノール等のアルコール、アセトンやテトラヒドロフラン等のケトン、ベンゼン、水などが挙げられる。
【0024】
重合系にこのようなポア形成剤を加えることにより、共連続構造を形成する相分離が誘起される原因は明確ではないが、低分子化合物の重合が進行するに従って有機高分子との相溶性が低下し、このとき、低分子化合物の重合体の分子量分布がある範囲に収まる(分子量分布が狭い)などの条件が揃うことにより、スピノーダル分解による相分離が誘起されるなどの理由が考えられる。
【0025】
エポキシ樹脂モノリスの製造において、全炭素原子に占める芳香環由来の炭素原子比率が0.65を超すと、柱状の三次元分岐網目状構造の骨格からなる非粒子凝集型のエポキシ樹脂多孔体を得ることが困難となるおそれがある。
【0026】
上記において、エポキシ化合物と硬化剤の添加割合は上記の全炭素原子に占める芳香環由来の炭素原子比率を満足する範囲のなかで、エポキシ基1当量に対して、硬化剤当量が0.6〜1.5の範囲になるように調整するのが好ましい。硬化剤当量比が0.6より少ない場合はエポキシ樹脂の架橋密度が低くなり、耐熱性、耐溶剤性などが低下する場合がある。また1.5より多くなると、未反応の官能基が多くなり、未反応のまま硬化物中に残留したり、あるいは架橋密度向上を阻害する要因と成りえたりと好ましくない。
【0027】
以上のように、エポキシ樹脂モノリスは、エポキシ化合物と硬化剤の混合物を、それらと非反応性であり、かつそれらを溶解可能なポア形成剤に常温で又は加温して溶解し、さらに適宜、有機高分子の添加や金属アルコキシドからなるゾルの添加により調製し、加熱重合し、重合物とポア形成剤がスピノーダル分解後、相分離が進展して共連続構造が消滅する前に、架橋反応によって構造を固定させ、次いでポア形成剤や添加物を除去することによって製造することができるが、目的とする多孔構造が得られない場合は、硬化促進剤を添加することが効果的である場合もある。硬化促進剤としては、公知の物を使用することができ、例えば、トリエチルアミン、トリブチルアミン等の三級アミン、2−フェノール−4−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−フェノール−4,5−ジヒドロキシメチルイミダゾールなどのイミダゾール類などを挙げることができる。
【0028】
エポキシ樹脂モノリスの空孔率(見かけの全体積に占める空孔体積の割合)は、概ね、エポキシ化合物とその硬化剤に対するポア形成剤の比率によって決まる。ここで、本発明の金属多孔体の製造方法に用いるエポキシ樹脂モノリスとしては、その空孔率を40〜90%にコントロールすることが好ましい。より好ましくは50〜80%である。空孔率が低すぎると孔の閉口が起こって流体輸送が困難となるおそれがあり、空孔率が高すぎると一体自立型として成形することが難しくなって粉末様になるおそれがある。
空孔率のコントロールは、必要に応じて多官能エポキシ化合物や多官能硬化剤を適宜使用し、架橋密度を高めることによっても可能である。これにより、骨格強度が向上し、乾燥段階においても収縮の小さいエポキシ樹脂モノリスや耐熱性の高いエポキシ樹脂モノリスの調製が可能となる。
【0029】
ここで、本発明の金属多孔体の製造方法における後述のめっき工程において、エポキシ樹脂骨格表面にめっき触媒金属を担持させる場合、担持量を増加させるために、上記エポキシ樹脂モノリスの調製において、製造時に金属捕捉能を有する化合物を反応系に添加して調製することもできる。
ただし、めっき触媒金属は無電解めっき層形成の際の核となるに過ぎないから、担持量を格別多くする必要はなく、上記金属捕捉能を有する化合物は、通常不要である。特にアミン系硬化剤を使用する場合、めっき触媒金属イオンは硬化剤の未反応のアミノ基へ吸着すると考えられるから、上記金属捕捉能を有する化合物は不要である場合が多い。すなわち、めっき触媒金属が不足すると考えられる場合の補助的な手段として検討すれば良い。
【0030】
金属捕捉能を有する化合物としては、エポキシ樹脂と反応し、かつ触媒金属イオンに配位することで、めっき触媒金属イオンを吸着可能な化合物であれば特に限定されないが、アミノ基、チオール基を複数もつ化合物が好ましい。例えば、トリアジンチオール誘導体である6−(フェニルアミノ)−1,3,5−トリアジン−2,4−ジチオールや1,3,5−トリアジン−2,4,6−トリチオール、エチレンジアミン、2−アミノベンゼンチオール、1−(3−アミノプロピル)イミダゾール、チオ尿素を使用することができる。
【0031】
本発明に用いるエポキシ樹脂モノリスの調製温度は特に限定されない。好ましくは、30℃以上、200℃以下である。
温度が高すぎる場合には、硬化反応が早く、相分離の制御が困難となり、また、加熱のための設備等にコストがかかるという欠点がある。
温度が室温以下の場合には、反応に長時間を有し、さらに、冷却のための設備等にコストがかかるという欠点がある。また、室温以下で重合するように反応混合物を調製すると、その反応混合物が室温では不安定で反応してしまうために、反応混合物の保管が困難になるという欠点がある。
したがって、上記の、室温より少し高く、かつ過度に高すぎない温度範囲(例えば、50℃から130℃)は、実用的な意味において非常に好適である。
【0032】
本発明に用いるエポキシ樹脂モノリスを得るには、大きな空隙(マクロ孔)を形成することを考慮しても、重合開始から構造固定まで、遅くとも3時間で終了することが産業上の利用観点からも好ましい。また、相分離による曇点発生から三次元架橋による構造の固定まで、1時間以内であることが好ましく、こうした条件を目安に重合温度が設定される。
【0033】
本発明ではエポキシ樹脂モノリスの架橋を十分に行うために構造固定後、更にアフターキュアーを実施してもよい。ポア形成剤を除去した後にアフターキュアーを実施すると、収縮が発生して多孔構造に変化を生じることがあるので、ポア形成剤を除去せずに行う方が良い。また、使用したポア形成剤が低沸点溶剤の場合は、高沸点溶剤に置換した後アフターキュアーを行うなどの方法を採ることができる。
【0034】
本発明に用いるエポキシ樹脂モノリスの孔径は、調製条件を変化させることにより、任意のサイズにコントロールすることが可能である。
平均孔径は、好ましくは0.1〜20μmであり、より好ましくは0.2〜15μmであり、さらに好ましくは0.5〜10μmである。加えて、この多孔体を重合により調製する調製溶液を0.1μm〜10mm径の閉領域内に直接流し込み、成形することも可能である。
【0035】
また、本発明に用いるエポキシ樹脂モノリスは、骨格内にさらに1nm〜1μmの孔径のメソポアを備えることも可能であり、この1nm〜1μmのメソポアにより表面積を拡大することができる。メソポアの孔径が1nm未満にすることは現実的に難しく、メソポアの孔径が1μmを超えるとエポキシ樹脂モノリスの表面積をそれほど大きくすることができない。細孔(マクロ孔及びメソポア)径の測定は電子顕微鏡画像で確認することが最も簡略な方法であるが、水銀圧入法や窒素吸着法で測定することが可能である。
【0036】
〔めっき工程〕
本発明の金属多孔体の製造方法は、上記のごときエポキシ樹脂モノリスの細孔内に無電解めっき液を浸透させて、前記モノリスのエポキシ樹脂骨格の表面に無電解めっき層を形成する工程を含むめっき工程を含む。
強度を増す目的や細孔径の調整などの目的で、無電解めっき層を形成したのちに、さらに電解めっきを施して厚めっきをしたり、異種金属との複合化をしたりしてもよい。
【0037】
エポキシ樹脂モノリスのエポキシ樹脂骨格の表面に無電解めっき層を形成する場合、通常、エポキシ樹脂骨格の表面を触媒化しておく必要がある。
すなわち、本発明の金属多孔体の製造方法では、通常、無電解めっき液を浸透させる前にエポキシ樹脂骨格の表面にめっき触媒金属を担持させる工程を含む。
【0038】
エポキシ樹脂骨格の表面にめっき触媒金属を担持させる工程としては、例えば、めっき触媒金属の単原子イオンまたは錯イオンを、エポキシ樹脂モノリスのエポキシ樹脂骨格の表面に吸着させ、その後、還元操作により、金属ナノ粒子として担持させる方法が挙げられる。
【0039】
めっき触媒金属としては、無電解めっき層を形成させるためのめっき触媒金属として従来用いられているものを用いることができ、例えば、パラジウム、白金、金、銀、銅、鉄、ニッケル、コバルトなどが挙げられ、実際には、酢酸パラジウム、塩化パラジウム、塩化パラジウム酸ナトリウム、塩化白金酸およびそのアルカリ金属塩、塩化金酸およびそのアルカリ金属塩、硝酸銀、有機酸銀(酢酸銀、乳酸銀など)、塩化銅、硫酸銅、硝酸銅、第1および第2塩化鉄、アセチルアセトナート鉄錯体、塩化ニッケル、酢酸ニッケル、アセチルアセトナートニッケル錯体、塩化コバルト、酢酸コバルト、アセチルアセトナートコバルト錯体等の溶液を用い、めっき触媒金属となる金属元素を含む溶液中のイオン、すなわち、めっき触媒金属の単原子イオンまたは錯イオンを、エポキシ樹脂モノリスのエポキシ樹脂骨格の表面に吸着させ、その後、還元操作により、金属ナノ粒子として担持させる。
【0040】
通常は、以上の表面処理を行った後に、エポキシ樹脂モノリスの細孔内に無電解めっき液を浸透させて、前記モノリスのエポキシ樹脂骨格の表面に無電解めっき層を形成する。
【0041】
無電解めっき液としては、従来公知のものを用いることができる。最終的には、無電解めっきにより形成される金属皮膜が金属多孔体を構成する金属となるので、用途や目的に応じて適宜決定すればよい。
具体的には、例えば、ニッケルイオンを含む無電解めっき液や銅イオンを含む無電解めっき液が挙げられる。銅無電解めっきの場合、例えば、市販品として、奥野製薬工業社の「ATSアドカッパー」などが好適である。
【0042】
次に、エポキシ樹脂モノリスの細孔内に無電解めっき液を浸透させる方法としては、前記モノリスのエポキシ樹脂骨格の表面に無電解めっき層を形成できれば特に限定されないが、エポキシ樹脂モノリスの細孔内に無電解めっき液を十分に浸透させるため、例えば、エポキシ樹脂モノリスをほぼ同体積の閉領域内に配置するとともに、この閉領域内に無電解めっき液を流通させる方法が好ましく挙げられる。この方法であれば、無電解めっき液の流量や流速(流圧)を調整し、あるいは、無電解めっき液の流通前に閉領域内を減圧状態にしておくなど、無電解めっき液を十分に浸透させるための種々の工夫が可能である。ろ過の原理を利用してエポキシ樹脂モノリス内に無電解めっき液を送液する方法も有効である。
【0043】
〔エポキシ樹脂骨格の除去工程〕
本発明の金属多孔体の製造方法は、上記のごときめっき工程の後に前記エポキシ樹脂骨格を加熱分解除去する工程を含む。エポキシ樹脂骨格の除去工程により、無電解めっき層に由来する金属からなる多孔体が得られる。
【0044】
エポキシ樹脂骨格を加熱分解除去するための加熱温度としては、例えば、500〜800℃とすることが好ましく、550〜650℃とすることがより好ましい。
また、エポキシ樹脂骨格を加熱分解除去するための加熱時間としては、加熱温度にもよるが、例えば、5〜60分とすることが好ましく、20〜60分とすることがより好ましい。
加熱温度が高すぎたり加熱時間が長すぎたりすると、エネルギーコストが増大するおそれがあるとともに、金属多孔体を構成する金属の種類によっては融解が始まるおそれもある。他方、加熱温度が低すぎたり加熱時間が短すぎたりすると、エポキシ樹脂骨格の除去が不十分となるおそれがある。
【実施例】
【0045】
以下、実施例を用いて、本発明の金属多孔体の製造方法について説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
なお、以下において、「ポリエチレングリコール」は「PEG」と略記した。
【0046】
〔実施例1〕
<エポキシ樹脂モノリスの作製>
エポキシ化合物である「TETRAD−C」(1,3−ビス(N,N−ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサン、三菱ガス化学社製)2.0gと、硬化剤である「BACM」(4,4’−メチレン−ビス−シクロヘキシルアミン、東京化成工業社製)1.1g、ポア形成剤である平均分子量300のPEG(ナカライテスク社製)9.6gの混合物を10分間撹拌・混合したのち、8分間遠心脱泡した。
この混合物を内径8mmのテフロン(登録商標)チューブ内に封入し、130℃に設定した電気炉内に入れ60分間熱硬化させた。このとき、硬化に伴いエポキシ化合物の硬化物とPEGがスピノーダル分解を起こしエポキシ樹脂モノリスが形成された。
【0047】
<めっき工程>
テフロン(登録商標)チューブ内で生成したエポキシ樹脂モノリスをチューブごと長さ10mmだけ切り出した。切り出したチューブの一端から他端にシリンジポンプによってアセトンを12ml送液する(以降の他の液の送液も同様である)ことにより、エポキシ樹脂モノリス内のPEGをアセトンに置換した。その後、0.005g/mlの酢酸パラジウムアセトン溶液を6ml送液し、エポキシ樹脂モノリス内に酢酸パラジウムを吸着させた。この後、再びアセトンを12ml送液して、過剰な酢酸パラジウムを除去した。
パラジウムを吸着させたエポキシ樹脂モノリスを、平均分子量200のPEG20g内に浸漬し、130℃に設定した電気炉内で30分間保持し、熱還元を行うことにより、エポキシ樹脂モノリスのエポキシ樹脂表面にパラジウムを担持した。この後、電気炉から取り出し室温まで放冷した。アセトンを12ml送液し、エポキシ樹脂モノリス内のPEGを除去した。
塩化ニッケル・6水和物の水溶液(320g/l)、コハク酸ナトリウム水溶液(320g/l)、D,L−リンゴ酸水溶液(360g/l)、ホスフィン酸ナトリウム水溶液(480g/l)を40mlずつ加え、アンモニア水(28%)をpH8〜10になるように加え、ニッケルめっき液200mlを調製した。
このめっき液を20mlずつ10回に分けて流量80ml/hでエポキシ樹脂モノリス内にシリンジポンプを用いて送液した。20ml送液ごとに、先ほどとは反対側から再度めっき液を送液した。なお、送液によりエポキシ樹脂モノリス内にめっきが進むに伴い、エポキシ樹脂モノリス内部でガスが発生し、液の排出側から泡が排出された。
【0048】
<エポキシ樹脂骨格の除去工程>
ニッケル無電解めっきを施したエポキシ樹脂モノリスを窒素雰囲気下で600℃、20分間保持し、有機成分であるエポキシ樹脂を加熱分解除去した。
【0049】
<金属多孔体形成の確認>
ニッケル無電解めっきを施したエポキシ樹脂モノリスのX線光電子分光分析を行ったところ、
図1に示す結果のとおり、エポキシ樹脂骨格表面の皮膜がニッケル成分を主とした無機物から構成されることが確認できた。
すなわち、
図1では、ニッケル無電解めっきを施したエポキシ樹脂モノリスの表面に、ニッケル由来のピークが明確に認められる。なお、
図1(b)は、明確化のため、
図1(a)におけるニッケル由来のピーク部分を拡大したものである。
また、ニッケル無電解めっきを施す前後の各エポキシ樹脂モノリスについて窒素ガス雰囲気下にて熱重量分析(10℃/min)を行った結果を
図2に示す。
図2から、ニッケル無電解めっきを施す前のエポキシ樹脂モノリスでは、600℃の加熱により1.2%まで重量が減じており、エポキシ樹脂が加熱分解していることが分かり、他方、ニッケル無電解めっきを施したエポキシ樹脂モノリスでは600℃の加熱により87.8%に重量が減じており、エポキシ樹脂骨格の加熱分解による重量減少分であると理解できる。なお、いずれも加熱前の重量を100%としている。
以上から、実施例1の製造方法では、エポキシ樹脂骨格の表面にニッケル無電解めっき層が形成したのち、エポキシ樹脂骨格が加熱分解して除去されて、金属多孔体が形成されることが分かった。下記実施例2以下でも同様であることは明白である。
【0050】
〔実施例2〕
ポア形成剤として平均分子量200のPEG(ナカライテスク社製)9.6gを用いたこと以外は実施例1と同様にエポキシ樹脂モノリスを作製し、このエポキシ樹脂モノリスを用いたこと以外は実施例1と同様にして金属多孔体を製造した。
【0051】
〔実施例3〕
ポア形成剤として平均分子量600のPEG(ナカライテスク社製)9.6gを用いたこと以外は実施例1と同様にエポキシ樹脂モノリスを作製し、このエポキシ樹脂モノリスを用いたこと以外は実施例1と同様にして金属多孔体を製造した。
【0052】
〔実施例4〕
ニッケルめっき液に代えて銅めっき液である「ATSアドカッパー」(奥野製薬工業社)を水で3倍に希釈して用いたこと以外は、実施例3と同様にして金属多孔体を製造した。
なお、銅無電解めっきを施したエポキシ樹脂モノリスのX線光電子分光分析を行ったところ、
図3に示す結果のとおり、エポキシ樹脂骨格表面の皮膜が銅成分を主とした無機物から構成されることが確認できた。
【0053】
〔金属多孔体の評価と考察〕
実施例1〜4で製造した各金属多孔体について、走査型電子顕微鏡(SEM)画像を
図4〜8に示す。
これら
図4〜8から、本発明の金属多孔体の製造方法によれば、ミクロン又はサブミクロンオーダーの極めて微細な細孔径を共連続孔として有する金属多孔体が得られることが分かった。
【0054】
図5〜7を見ると、PEGの平均分子量の違いによって、得られる金属多孔体の孔構造が変わることが分かる。具体的には、PEGの平均分子量が小さくなると、孔径が小さくなり緻密な構造になるという傾向が見られる。
図4〜8、特に
図4や
図8に示す高倍率の写真を見ると、金属多孔体表面において所々黒くなっている部分が見られる。この部分は、エポキシ樹脂骨格が加熱分解して発生したガスが外部に抜け出た部分であり、ニッケルめっき層や銅めっき層に由来する金属は中空のチューブ状となっていることが分かる。
【0055】
また、実施例1で製造した金属多孔体について、BET吸着法により比表面積を算出したところ、62.0m
2/gであった。この結果から、本発明の金属多孔体の製造方法によれば、高い比表面積を有する金属多孔体が得られることも分かった。
なお、実施例1で用いたエポキシ樹脂モノリスの比表面積も同様に算出したところ、35.8m
2/gであり、実施例1で製造した金属多孔体のほうが、重量が重いにも関わらず、比表面積が大きくなっていることが分かった。これは、実施例1で製造した金属多孔体では、エポキシ樹脂骨格の除去により、ニッケルめっき皮膜が中空状に残存し、その表裏両面が表面積として算出されるためであると推察された。
【0056】
また、実施例1で製造した金属多孔体の両端間の電気抵抗値は1Ω以下であった。従って、この導電性を利用することにより、さらなる電気めっきによる金属層の厚膜化や異金属との複合化が可能である。