(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1記載の先行技術1によれば、押出し成形により排出された成形体は特定方向に配向するため、焼成後の変形および割れが発生する可能性が高い。また、特許文献2記載の先行技術2によれば、複数のユニットと、当該複数のユニットの間に介在させたスラリーとの生密度が異なるため、焼成後の収縮ズレによる空隙または割れが生じる可能性が高い。さらに、見かけ上一体化されているものの、セラミックスの均一な剛性および強度が担保されておらず、空隙箇所を基点に破壊が生じ易い。
【0005】
特許文献3記載の先行技術3によれば、粒度が調整されているものの、成形方法が加圧鋳込み成形であるため、成形中に成形体の表層部の固化乾燥に伴い、成形体の中央部の水分が排出されにくくなり残留する。この残留水分の影響のため、成形後の成形体の表層部および中央部において生密度差が生じ、クラックおよび変形が生じてしまう。長期間を要する大型セラミックスは、成形体の生密度差がより顕著となるため製造が困難である。
【0006】
そこで、本発明は、大型化を図りながらも、割れおよび変形の発生頻度の低減を図りうるセラミックス焼結体およびその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のセラミックス焼結体の製造方法は、セラミックス粉末粒子を含むスラリーを調整する調整工程と、底部が吸水材により画定される一方、側部が非吸水材により画定されている成形型に前記スラリーを入れた上で、前記底部を通じて前記スラリーにおける水分を前記成形型から吸引することにより前記セラミックス粉末粒子を前記底部から堆積させ、当該堆積物を乾燥させることによりセラミックス成形体を作成する成形工程と、前記セラミックス成形体を必要に応じて加工した上で焼成することによりセラミックス焼結体を作成する焼成工程と、を含み、前記成形工程において、
前記堆積物の厚さが所定厚さに達する前は前記スラリーを加圧せずに前記底部の全体を通じて前記スラリーにおける水分を前記成形型から吸引し、前記堆積物の厚さが前記所定厚さに達した後で前記スラリーを上方から加圧
し、かつ、前記堆積物が厚いほど前記スラリーに対する加圧力を連続的又は段階的に増大させながら前記底部の全体を通じて前記スラリーの含有水分を前記成形型から吸引することを特徴とする。
【0008】
本発明の方法によれば、成形型底部の全体を通じてスラリーに対して下方に作用する吸引力により、スラリーの含有水分が底部の全体を通じて成形型から排出される。この際、スラリーが上方から加圧されることにより、セラミックス粉末粒子が底部から徐々に堆積または着肉していく。吸引力が成形型底部の全体を通じて下方または重力作用方向に水平方向に均等に作用し、かつ、加圧力がスラリーに対して全体的に均等に作用するので、セラミックス成形体の水平方向における生密度差の均等化が図られる。
【0009】
また、スラリーの加圧により、先の堆積部分より上方にある後の堆積部分及びさらに上方にあるスラリーの含有水分の下方への流れが促進される。これにより、堆積物の下部および上部のそれぞれにおける残留水分量の差が著しく低減されるので、セラミックス成形体の上下方向または厚み方向における生密度差の均等化が図られる。さらに、水分排出に要する時間の短縮が図られるので、セラミックス粉末粒子の粒径に依存した選択的な沈降の影響が軽減される。
【0010】
よって、セラミックス成形体が焼成される際に当該成形体の生密度の不均一に由来する割れおよび変形の発生頻度を著しく低減させながら、厚さが1000[mm]を超える等、比較的大型のセラミックス焼結体が製造されうる。
【0013】
当該方法によれば、堆積物が厚くなるほど本来的に大きくなる、当該堆積物の上部における残留水分の下方への流れ抵抗が成形型からの水分排出に及ぼす影響が、当該流れを促進する加圧力の制御により軽減または解消される。このため、堆積物におけるセラミックス粉末粒子または粉末粒子の充填状態のさらなる均等化が図られる。その結果、セラミックス成形体が焼成される際に当該成形体の生密度の不均一に由来する割れおよび変形の発生頻度を著しく低減させながら、大型のセラミックス焼結体が製造されうる。
【0017】
本発明のセラミックス焼結体
の製造方法において、前記セラミックス焼結体の相対密度が90%以上になるように前記セラミックス成形体を作成かつ焼成することが好ましい。
【0018】
本発明のセラミックス焼結体は、前記のようにセラミックス成形体の生密度の均等化が図られているので、大型でありながらも割れ等が皆無またはほとんど皆無で、緻密質である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(製造方法)
本発明のセラミックス焼結体は、次のような手順にしたがって製造される。
【0021】
(原料調整工程)
原料であるセラミックス粉末粒子と、ポリカルボン酸アンモニウム塩などの分散剤と、イオン交換水とがボールミル等を用いた公知の方法にしたがって混合される。平均粒子径(たとえば0.5[μm])の近傍(積算値40〜60%の範囲を意味する。以下同じ。)における頻度の合計が15%以上である単一峰の粒度分布を有するセラミックス粉末粒子が含まれ、エマルションバインダー等のバインダーが1〜7%の範囲で添加されたスラリーが調整された。
【0022】
(成形工程)
本実施形態では、成形体の作成のために
図1および
図2に示されている構成の成形型が用いられた。成形型は、周縁部に囲繞された部分が下方に窪んでいる略円皿状の下部10と、略円筒状の側部20と、略円盤状の上部30と、略円盤状の隔壁40とを備えている。下部10、側部20および上部30のそれぞれはSUS、アルミニウムまたはアクリル樹脂等の非吸水材により形成されている。隔壁40は石膏、メンブレンフィルターまたは化学繊維系フィルター等の吸水材により形成されている。
【0023】
側部20の横断面形状は円形のほか、多角形(三角形、矩形、台形、平行四辺形など)、楕円形等、作成対象であるセラミックス成形体の形状に合わせて適当に変更されてもよい。これに合わせて下部10および上部30の形状も変更されてもよい。成形体の焼成過程において消失するパラフィン等の消失部材により形成された円柱状等の所定形状の中子が、適当なタイミングで成形型の内部空間に配置されることで、中空形状のセラミックス焼結体が製造されうる。
【0024】
下部10の窪み部分の中央部には吸引用経路12が開設されている。吸引用経路12は真空ポンプ等の吸引装置(図示略)に接続される。下部10の窪み部分から間隙を置いてステンレス等からなるパンチングメタルまたは網等、多数の孔または目が均等に分散配置されている多孔部材11が配置される。多孔部材11の上に隔壁40が配置または載置される。これにより、成形型の内部空間の底部が吸水材により画定される。下部10および側部20が、下部10の周縁上部に形成されている下部フランジ14と、側部20の周縁上部に形成されている側部フランジ24とにおいて、O−リング等の環状シール部材を介して取り外し可能に接合される。
【0025】
上部30の中央部には加圧用経路32が開設され、加圧用経路32とは異なる箇所にリーク用経路33が開設されている。加圧用経路32は圧縮ガス供給装置等の加圧装置(図示略)に接続される。リーク用経路33はリークバルブ(図示略)に接続される。上部30および側部20が、上部30の周縁部と、側部20の上端部とにおいて、O−リング等の環状シール部材を介して取り外し可能に接合される。
【0026】
吸引装置、加圧装置およびリークバルブのそれぞれの動作は、例えば、コンピュータ(CPU、RAM等のメモリ及びI/O回路等を備えている。)により構成されている制御装置によって制御される。制御装置は、その構成要素であるCPUがメモリから必要なデータおよびプログラムを読み取り、当該プログラムにしたがって指定の制御用演算処理を実行するように構成されている。吸引装置、加圧装置およびリークバルブのそれぞれの動作は、マニュアル操作に応じて制御されてもよい。
【0027】
前記構成の成形型において、上部30が側部20から取り外されている状態で、隔壁40および側部20により画定される成形型の内部空間にスラリーが注入される。その後、上部30が側部20に取り付けられ、当該内部空間が密閉封止される(
図3(a)参照)。この際、吸引装置および加圧装置はともに停止状態に制御され、リークバルブは閉状態に制御されている。
【0028】
続いて、吸引装置が動作状態に制御され、かつ、リークバルブが開状態に制御される。これにより、成形型においてスラリーより上の内部空間が大気圧の外部空間に連通した状態で、隔壁40(吸水材)、多孔部材11および吸引用経路12を通じてスラリーに含まれる水分が成形型から排出される。また、スラリーに含まれるセラミックス粉末粒子が隔壁40の上に水平方向について均等に堆積していく(
図3(b)参照)。
【0029】
堆積物が所定厚さに達したか否か(吸引開始からの経過時間が所定時間に達したか否か)が判定され、当該判定結果が肯定的である場合、加圧装置が動作状態に制御され、かつ、リークバルブが閉状態に制御される。これにより、成形型においてスラリーが上方から加圧された状態で、隔壁40(吸水材)、多孔部材11および吸引用経路12を通じてスラリーに含まれる水分が成形型から排出される。そして、スラリーに含まれるセラミックス粉末粒子が隔壁40の上に水平方向について均等にさらに堆積してその厚みを増していく(
図3(c)参照)。
【0030】
堆積物が厚くなるほど(吸引開始からの経過時間が長くなるほど)、連続的又は断続的に加圧力が増大するように加圧装置の動作が制御される。付加的又は代替的に、堆積物が厚くなるほど、連続的又は断続的に吸引力が増大するように吸引装置の動作が制御されてもよい。
【0031】
他の実施形態として、成形工程前期においても吸引装置に加えて加圧装置が動作状態に制御されてもよい。この際、堆積物が厚くなるほど加圧力が増大するように加圧装置の動作が制御されてもよい。付加的又は代替的に、堆積物が厚くなるほど、連続的又は断続的に吸引力が増大するように吸引装置の動作が制御されてもよい。
【0032】
堆積物の厚さ変化速度が測定され、当該速度が所定の変化態様を示すように、吸引力および加圧力のうち一方又は両方が調節されるように、吸引装置及び加圧装置のうち一方又は両方の動作が制御されてもよい。
【0033】
堆積物が所望の厚さに達したか否かが判定され、当該判定結果が肯定的である場合、吸引装置および加圧装置が動作停止状態に制御され、かつ、リークバルブが開状態に制御される。そして、余分のスラリーが廃棄された後、成形体の乾燥収縮が確認された段階で側部20が下部10から取り外され、隔壁40の上の堆積物がさらに乾燥されることにより略円筒状のセラミックス成形体が得られる。
【0034】
(焼成工程)
成形体が必要に応じて加工された上で、適当な雰囲気および焼成温度範囲において焼成されることにより、略円柱状のセラミックス焼結体が得られる。
【0035】
(実施例)
(実施例1)
平均粒子径が0.8[μm]の99.5%純度のAl
2O
3粉末粒子と、ポリカルボン酸アンモニウム塩などの分散剤と、イオン交換水とがボールミル等を用いた公知の方法にしたがって混合された。平均粒子径が0.5[μm]であり、かつ、その近傍における頻度の合計が15%である単一峰の粒度分布を有するAl
2O
3粉末粒子が含まれ、エマルションバインダーが4%添加されたスラリーが調整された。
【0036】
続いて、スラリーが真空攪拌脱泡された上で、内寸φ500[mm]×h2000[mm]の成形型に注ぎ込んだ。成形工程初期において吸引力が−0.1[MPa]に制御された。堆積物が所定厚さ30[mm]に達した後の成形工程後期においては、加圧力が0.1[MPa]から1.5[MPa]まで段階的に増大するように制御された。具体的には、
図4に一点鎖線で示されているように、堆積物の厚さtに基づき、P
+=0.1(t=30〜200)、P
+=0.00233t−0.367(t=200〜800)、P
+=1.5(t=800〜1000)にしたがって、加圧力P
+が変化するように加圧装置の動作が制御された。
【0037】
堆積物が所望の厚さ1000[mm]に達した後、余剰のスラリーが廃棄された。また、成形体の乾燥収縮がみられた時点で、非吸水材からなる側面を抜き取ることで、底面の吸水材上に成形体が載った状態となり成形体が均等に乾燥固化されうる。成形体がφ450[mm]×t950[mm]に加工された上で酸化雰囲気において1500〜1800[℃]の温度範囲で焼成されることにより実施例1のセラミックス焼結体(アルミナ質焼結体)が得られた。
【0038】
(実施例2)
図4に二点鎖線で示されているように、堆積物の厚さtに基づき、P
+=0.00144t+0.056(t=30〜1000)にしたがって、加圧力P
+が変化するように加圧装置の動作が制御された。
加圧力P
+が変化するように加圧装置の動作が制御されたほかは、実施例1と同一条件下で実施例2のセラミックス焼結体が製造された。
【0039】
(実施例3)
図4に細線で示されているように、堆積物の厚さtに基づき、加圧力P
+が0.1[MPa]ずつ段階的に増加するように加圧装置の動作が制御されたほかは、実施例1と同一条件下で実施例3のセラミックス焼結体が製造された。
【0040】
(実施例4)
図4に破線で示されているように、堆積物の厚さtに基づき、P
+=0.0012t(t=0〜1000)にしたがって、加圧力P
+が変化するように加圧装置の動作が制御されたほかは、実施例1と同一条件下で実施例4のセラミックス焼結体が製造された。
【0041】
(実施例5)
図4に太い一点鎖線で示されているように、堆積物の厚さtに基づき、P
+=0(t=0〜150)、P
+=0.000714t−0.107(t=150〜850)、P
+=0.5(t=850〜1000)にしたがって、加圧力P
+が変化するように加圧装置の動作が制御されたほかは、実施例1と同一条件下で実施例5のセラミックス焼結体が製造された。
【0042】
(実施例6)
図4に太線で示されているように、堆積物の厚さtに応じて、0.3[MPa]ずつ加圧力P
+が段階的に増加するように加圧装置の動作が制御されたほかは、実施例1と同一条件下で実施例6のセラミックス焼結体が製造された。
【0043】
(実施例7)
図4に太い二点鎖線で示されているように、堆積物の厚さtによらずに加圧力P
+が0.7[MPa]に維持されるように加圧装置の動作が制御されたほかは、実施例1と同一条件下で実施例7のセラミックス焼結体が製造された。
【0044】
(実施例8)
平均粒子径が0.4[μm]であり、かつ、その近傍における頻度の合計が15%以上である15%である単一峰の粒度分布を有するSi
3N
4粉末粒子が含まれるようにスラリーが調整されたほかは、実施例1と同一条件下で実施例8のセラミックス焼結体が製造された。
【0045】
(実施例9)
平均粒子径が0.6[μm]であり、かつ、その近傍における頻度の合計が15%以上である20%である単一峰の粒度分布を有するSiC粉末粒子が含まれるようにスラリーが調整されたほかは、実施例1と同一条件下で実施例9のセラミックス焼結体が製造された。
【0046】
(実施例10)
平均粒子径が0.5[μm]であり、かつ、その近傍における頻度の合計が15%以上である25%である単一峰の粒度分布を有するZrO
2粉末粒子が含まれるようにスラリーが調整されたほかは、実施例1と同一条件下で実施例10のセラミックス焼結体が製造された。
【0047】
(実施例11)
バインダー添加量が1〜7%の範囲に含まれる1%になるようにスラリーが調整されたほかは、実施例1と同一条件下で実施例11のセラミックス焼結体が製造された。
【0048】
(実施例12)
バインダー添加量が1〜7%の範囲に含まれる3%になるようにスラリーが調整されたほかは、実施例1と同一条件下で実施例12のセラミックス焼結体が製造された。
【0049】
(実施例13)
バインダー添加量が1〜7%の範囲に含まれる7%になるようにスラリーが調整されたほかは、実施例1と同一条件下で実施例13のセラミックス焼結体が製造された。
【0050】
(評価方法)
各実施例の焼結体の割れの有無が染色浸透探傷剤を用いて観察された。成形体の相対密度がノギス、精密天秤を用いて測定された。焼結体の相対密度がアルキメデス法にしたがって測定された。成形体および焼結体の上下方向の複数個所から小片が試験片として切り出され、各試験片の相対密度が測定されることにより、当該焼結体の厚さ方向についての相対密度分布の分散が測定された。成形体の相対密度については、実際に焼成する大型品と同形状の成形体を作成し切り出した。
【0051】
表1には、各実施例の原料スラリーの特性と焼結体の特性の評価結果とが示されている。
【0053】
表1から、各実施例の焼結体は割れが皆無であること、成形体の相対密度分布の分散が±5.0%以下であること、相対密度が90%以上であること、および焼結体の相対密度分布の分散が±4.0%以下であることがわかる。
【0054】
(比較例)
(比較例1)
加圧装置が動作停止状態に維持され、かつ、リークバルブが開状態に維持されたまま、成形工程が実施された。これ以外は、実施例1と同様の条件下で比較例1のセラミックス焼結体が製造された。
【0055】
(比較例2)
平均粒子径が2.5[μm]であり、かつ、その近傍における頻度の合計が20%であるような単一峰の粒度分布を有するAl
2O
3粉末粒子が含まれるようにスラリーが調整されたほかは、実施例1と同一条件下で比較例2のセラミックス焼結体が製造された。
【0056】
(比較例3)
平均粒子径0.5[μm]であり、かつ、その近傍における頻度の合計が15%未満の13%であるような単一峰の粒度分布を有するAl
2O
3粉末粒子が含まれるようにスラリーが調整されたほかは、実施例1と同一条件下で比較例3のセラミックス焼結体が製造された。
【0057】
(比較例4)
バインダー添加量が7%を超える12%となるようにスラリーが調整されたほかは、実施例1と同一条件下で比較例4のセラミックス焼結体が製造された。
【0058】
(比較例5)
平均粒子径0.5[μm]の近傍における頻度の合計が25%であるような単一峰の粒度分布を有するAl
2O
3粉末粒子が含まれ、かつ、バインダー添加量が1%未満の0.3%となるようにスラリーが調整されたほかは、実施例1と同一条件下で比較例5のセラミックス焼結体が製造された。
【0059】
各比較例のセラミックス焼結体も実施例と同様に評価された。表2には、各比較例の原料スラリーの特性と焼結体の特性の評価結果とが示されている。
【0061】
表2から、比較例1および3の焼結体の相対密度が90%未満であり、成形体の相対密度分布の分散が±5.0%より大きく、焼結体の相対密度分布の分散が±4.0%より大きいことがわかる。また、比較例2、4および5の焼結体は割れが発生した。