(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
隣接する複数の凹部を形成する複数山と複数谷のうち、2つの山と当該山の間にある一つの谷で形成される仮想凹部を一つの凹部として取り扱う請求項1に記載のタイヤ振動のシミュレーション方法。
前記角度データを用いて或る節点に対応する前記食い込み角度を特定する際に、前記或る節点を通り且つタイヤ転動方向に沿ったライン上の部位のうち単位接地長当たりの接地圧力変化量が最大となる部位の接地圧力を用いる請求項1又は2に記載のタイヤ振動のシミュレーション方法。
前記角度データを用いて或る節点に対応する前記食い込み角度を特定する際に、前記或る節点を通り且つタイヤ転動方向に沿ったライン上の部位のうち単位接地長あたりの接地圧力変化量が最大となる第1部位と、当該ライン上の部位のうち接地圧力が最大となる第2部位との中間部位の接地圧力を用いる請求項1又は2に記載のタイヤ振動のシミュレーション方法。
前記補正対象抽出部及び前記補正部は、隣接する複数の凹部を形成する複数山と複数谷のうち、2つの山と当該山の間にある一つの谷で形成される仮想凹部を一つの凹部として取り扱う請求項5に記載のタイヤ振動のシミュレーション装置。
前記角度決定部は、前記角度データを用いて或る節点に対応する前記食い込み角度を特定する際に、前記或る節点を通り且つタイヤ転動方向に沿ったライン上の部位のうち単位接地長当たりの接地圧力変化量が最大となる部位の接地圧力を用いる請求項5又は6に記載のタイヤ振動のシミュレーション装置。
前記角度決定部は、前記角度データを用いて或る節点に対応する前記食い込み角度を特定する際に、前記或る節点を通り且つタイヤ転動方向に沿ったライン上の部位のうち単位接地長あたりの接地圧力変化量が最大となる第1部位と、当該ライン上の部位のうち接地圧力が最大となる第2部位との中間部位の接地圧力を用いる請求項5又は6に記載のタイヤ振動のシミュレーション装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1では、ヘルツの接触理論を用いて路面凹凸を近似したデータを路面入力としているため、路面凹凸の大小や周波数特性等、路面の違いを考慮していない。
【0006】
これに対し、特許文献2では、路面凹凸を微小突起の集合とし、微小突起毎にタイヤへの入力を算出し、それらを積算することでタイヤへの振動入力している。そのため、路面凹凸に応じた振動を算出することができるが、タイヤ表面は、路面の凹部に完全に食い込むとは限らず路面凹凸に完全に追従しないため、路面凹部の影響を正しく考慮できず、シミュレーション精度の面で好ましいとは言えない。
【0007】
本発明は、このような課題に着目してなされたものであって、その目的は、路面凹凸に応じたタイヤ振動を予測するにあたり、路面凹部へのゴムの食い込み限度を考慮したタイヤ振動のシミュレーション方法、シミュレーション装置及びシミュレーションプログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記目的を達成するために、次のような手段を講じている。
【0009】
すなわち、本発明のタイヤ振動のシミュレーション方法は、タイヤ有限要素モデルと予め与えられた路面データとを用いて路面凹凸に起因するタイヤ振動をコンピュータがシミュレーションする方法であって、
前記タイヤ有限要素モデルを予め与えられた解析条件で接地させる接地解析を実行し、接地面を構成する節点毎に接地圧力を算出するステップと、
凹部を有する剛体に対してゴムを押し当てた場合にゴムが当該凹部に食い込む角度と前記ゴムを押し当てる圧力値とをゴムの弾性率毎に予め関連付けた角度データを用い、前記タイヤ有限要素モデルの弾性率及び接地圧力に対応する食い込み角度を前記節点毎に特定するステップと、
各節点に入力されるタイヤ転動方向に沿った凹凸形状データを予め与えられた路面データから前記節点毎に取得するステップと、
各々の凹凸形状データが表す複数の凹部のうち、タイヤ転動方向断面における山と谷とを結ぶ谷底角度が前記食い込み角度よりも小さい凹部を補正対象として抽出するステップと、
補正対象として抽出した凹部の前記谷底角度を前記食い込み角度に近づく方向へ補正するステップと、
補正後の凹凸形状データを入力としてタイヤ振動をシミュレーションするステップと、を含むことを特徴とする。
【0010】
本発明のタイヤ振動のシミュレーション装置は、タイヤ有限要素モデルを予め与えられた解析条件で接地させる接地解析を実行し、接地面を構成する節点毎に接地圧力を算出する接地圧力算出部と、
凹部を有する剛体に対してゴムを押し当てた場合にゴムが当該凹部に食い込む角度と前記ゴムを押し当てる圧力値とをゴムの弾性率毎に予め関連付けた角度データを記憶する角度情報記憶部と、
前記角度情報記憶部が記憶する前記角度データを用い、前記タイヤ有限要素モデルの弾性率及び前記接地圧算出部が算出した接地圧力に対応する食い込み角度を前記節点毎に特定する角度決定部と、
各節点に入力されるタイヤ転動方向に沿った凹凸形状データを予め与えられた路面データから前記節点毎に取得する凹凸形状取得部と、
各々の凹凸形状データが表す複数の凹部のうち、タイヤ転動方向断面における山と谷とを結ぶ谷底角度が前記食い込み角度よりも小さい凹部を補正対象として抽出する補正対象抽出部と、
補正対象として抽出した凹部の前記谷底角度を前記食い込み角度に近づく方向へ補正する補正部と、
補正後の凹凸形状データを入力としてタイヤ振動をシミュレーションするタイヤ振動予測部と、を備えることを特徴とする。
【0011】
食い込む角度は、凹部断面において凹部に入り込んだゴムの先端と凹部の縁とを結ぶ直線同士の角度を意味する。弾性率として、例えばJISK6254で規定される圧縮弾性率や、JISK6200で規定される引張モジュラスが挙げられる。
【0012】
凹凸形状データが表す凹部のうち谷底角度が食い込み角度よりも小さい凹部は、ゴムが谷底まで入り込まない。そこで、本発明では、このような凹部の谷底角度を、ゴムが谷底まで入り込む角度である食い込み角度に近づく方向へ補正するので、より現実に近いタイヤ振動を予測でき、シミュレーション精度を向上させることが可能となる。
【0013】
単一の凹部のみに着目して補正対象を抽出する場合には、深い凹部に複数の浅い凹部が存在し、浅い凹部にまでゴムが到達しない場合でも、浅い凹部にゴムが到達すると誤判定する可能性がある。
上記方法において、このような誤判定を回避してシミュレーション精度を向上させるためには、隣接する複数の凹部を形成する複数山と複数谷のうち、2つの山と当該山の間にある一つの谷で形成される仮想凹部を一つの凹部として取り扱うことが好ましい。
上記装置において、このような誤判定を回避してシミュレーション精度を向上させるためには、前記補正対象抽出部及び前記補正部は、隣接する複数の凹部を形成する複数山と複数谷のうち、2つの山と当該山の間にある一つの谷で形成される仮想凹部を一つの凹部として取り扱うことが好ましい。
【0014】
上記方法において、振動励起メカニズムとして、ゴムの食い込み速度に着目した解析を可能にするためには、前記角度データを用いて或る節点に対応する前記食い込み角度を特定する際に、前記或る節点を通り且つタイヤ転動方向に沿ったライン上の部位のうち単位接地長当たりの接地圧力変化量が最大となる部位の接地圧力を用いることが好ましい。
上記装置において、振動励起メカニズムとして、ゴムの食い込み速度に着目した解析を可能にするためには、前記角度決定部は、前記角度データを用いて或る節点に対応する前記食い込み角度を特定する際に、前記或る節点を通り且つタイヤ転動方向に沿ったライン上の部位のうち単位接地長当たりの接地圧力変化量が最大となる部位の接地圧力を用いることが好ましい。
【0015】
上記方法において、振動励起メカニズムとして、ゴムの食い込み量に着目した解析を可能にするためには、前記角度データを用いて或る節点に対応する前記食い込み角度を特定する際に、前記或る節点を通り且つタイヤ転動方向に沿ったライン上の部位のうち単位接地長あたりの接地圧力変化量が最大となる第1部位と、当該ライン上の部位のうち接地圧力が最大となる第2部位との中間部位の接地圧力を用いることが好ましい。
上記装置において、振動励起メカニズムとして、ゴムの食い込み量に着目した解析を可能にするためには、前記角度決定部は、前記角度データを用いて或る節点に対応する前記食い込み角度を特定する際に、前記或る節点を通り且つタイヤ転動方向に沿ったライン上の部位のうち単位接地長あたりの接地圧力変化量が最大となる第1部位と、当該ライン上の部位のうち接地圧力が最大となる第2部位との中間部位の接地圧力を用いることが好ましい。
【0016】
本発明は、上記方法を構成するステップを、プログラムの観点から特定することも可能である。
【0017】
すなわち、本発明のタイヤ振動のシミュレーションプログラムは、タイヤ有限要素モデルを予め与えられた解析条件で接地させる接地解析を実行し、接地面を構成する節点毎に接地圧力を算出するステップと、
凹部を有する剛体に対してゴムを押し当てた場合にゴムが当該凹部に食い込む角度と前記ゴムを押し当てる圧力値とをゴムの弾性率毎に予め関連付けた角度データを用い、前記タイヤ有限要素モデルの弾性率及び接地圧力に対応する食い込み角度を前記節点毎に特定するステップと、
各節点に入力されるタイヤ転動方向に沿った凹凸形状データを予め与えられた路面データから前記節点毎に取得するステップと、
各々の凹凸形状データが表す複数の凹部のうち、タイヤ転動方向断面における山と谷とを結ぶ谷底角度が前記食い込み角度よりも小さい凹部を補正対象として抽出するステップと、
補正対象として抽出した凹部の前記谷底角度を前記食い込み角度に近づく方向へ補正するステップと、
補正後の凹凸形状データを入力として路面凹凸に起因するタイヤ振動をシミュレーションするステップと、
をコンピュータに実行させることを特徴とする。このプログラムを実行することによっても、上記方法が奏する作用効果を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。
【0020】
[タイヤ振動のシミュレーション装置]
図1に示す本発明のタイヤ振動のシミュレーション装置2は、例えばISO10844規定の路面など凹凸を有する路面をタイヤが転動する際に、路面凹凸に起因するタイヤ振動を、コンピュータシミュレーションを用いて導出する装置である。
【0021】
具体的に、タイヤ振動のシミュレーション装置2は、
図1に示すように、初期設定部20と、接地圧力算出部21と、角度情報記憶部22と、角度決定部23と、凹凸形状取得部24と、補正対象抽出部25と、補正部26と、タイヤ振動予測部27とを有する。これら各部20〜27は、CPU、メモリ、各種インターフェイス等を備えたパソコン等の情報処理装置においてCPUが予め記憶されている図示しない処理ルーチンを実行することによりソフトウェア及びハードウェアが協働して実現される。
【0022】
図1に示す初期設定部20は、キーボードやマウス等の既知の操作部を介してユーザからの操作を受け付け、解析対象となるタイヤ有限要素モデルに関する設定、タイヤ有限要素モデルに用いられるゴムの弾性率値(本実施形態では圧縮弾性率値)、タイヤモデルにかける荷重値、タイヤ有限要素モデルを転動させる路面データ、転動速度など、有限要素法を用いたシミュレーションに必要な各種解析条件の設定を実行し、これら設定値をメモリ(図示せず)に記憶する。タイヤ有限要素モデルは、節点で区画される有限要素で構成される。
【0023】
図1に示す接地圧力算出部21は、上記タイヤ有限要素モデルを予め与えられた解析条件(所定リム装着、所定荷重、所定内圧)で接地させる静的接地解析を実行し、接地面を構成する節点毎に接地圧力Pを算出する。算出結果を
図4に例示する。この方法は、周知であるため詳細な説明を省略する。
図4Aは、接地面における接地圧力分布を示す図である。
図4Aにおいて、縦軸はタイヤ転動方向CDを表し、横軸はタイヤ幅方向WDを表す。路面に始めに接触する踏込側をマイナスとし、路面との接触が離れる踏出側をプラスとしてタイヤ転動方向CDにおける位置をxで表している。接地面の中央の座標を縦軸及び横軸共に0とした。
図4Bは、
図4AにおけるラインLiにおける圧力を示す図である。x=0[mm]となる部分で接地圧力P(x)が最大となる。
図4Cは、
図4Bのx(接地長方向)による微分の絶対値であり、単位接地長あたりの接地圧力の変化量を表す。x=x
1,x
2において最大となる。接地長はタイヤ転動方向CDの接地面の寸法であり、接地幅はタイヤ幅方向WD方向の接地面の寸法である。
【0024】
図1に示す角度情報記憶部22は、角度データ22aを記憶する。
図3Aに示すように、凹部31を有する剛体30に対し、圧縮弾性率mのゴム32を圧力値P
refで押し当てた場合には、ゴム32が変形して凹部31に食い込む。ゴム32の食い込み度合いは、凹部断面において凹部31に入り込んだゴム32の先端と凹部31の縁とを結ぶ直線同士の角度θ
thで規定することができる。本明細書において、この角度を食い込み角度θ
thと呼ぶ。圧力値Pref及びゴム32の圧縮弾性率mが同じであれば、凹部31の幅が変わっても食い込み角度θ
thは同じとなる。圧力が同じであれば、圧縮弾性率が高くなるほど角度が小さくなる。逆に圧縮弾性率mが低くなるほど食い込み角度は大きくなる。角度データ22aは、
図3A及びBに示すように、凹部31を有する剛体30に対してゴム32を押し当てた場合にゴム32が凹部31に食い込み角度θ
thとゴム32を押し当てる圧力値P
refとをゴムの圧縮弾性率m(m1、m2、m3)毎に予め関連づけたデータである。本実施形態では、角度データ22aは、θ
th(m,P
ref)=180×exp^(α×p×m^β)で表される近似式であるが、数値同士を関連づけたテーブル形式であってもよい。また、角度データ22aは、実験値又はシミュレーションのいずれに基づいて作成しても良い。
【0025】
図1に示す角度決定部23は、角度情報記憶部22が記憶する角度データ22aを用い、タイヤ有限要素モデルの圧縮弾性率m及び接地圧力算出部21が算出した接地圧力Pに対応する食い込み角度θ
thを節点毎に特定する。角度決定部23は、まず、接地圧力算出部21の算出結果のうち参照値として用いる接地圧力Pを決定する。次に、角度データ22aを用いて接地圧力Pと圧縮弾性率mに関連づけられている食い込み角度θ
thを決定する。
【0026】
角度決定部23が、或る節点に対応する食い込み角度θ
thを特定する際に参照値として用いる接地圧力Pの決定方法には、種々の方法が考えられる。本実施形態では、単純に、或る節点の接地圧力をそのまま用いるが、次の2つの方法も挙げられる。一つ目の方法は、或る節点を通り且つタイヤ転動方向CDに沿ったラインLi上の部位のうち単位接地長あたりの接地圧力変化量が最大となる部位の接地圧力を用いる。
図4の例であれば、x=x
1、x
2の部位の接地圧力P(x
1),P(x
2)が挙げられる。二つめの方法は、或る節点を通り且つタイヤ転動方向CDに沿ったラインLi上の部位のうち単位接地長あたりの接地圧力変化量が最大となる第1部位と、当該ライン上の部位のうち接地圧力が最大となる第2部位との中間部位の接地圧力を用いる。
図4の例であれば、x=(x
1/2),(x
2/2)の部位の接地圧力P(x
1/2),P(x
2/2)が挙げられる。
【0027】
図1に示す凹凸形状取得部24は、各節点毎にタイヤ転動方向CDに沿って路面データを走査し、各節点に入力されるタイヤ転動方向CDに沿った凹凸形状データを取得する。凹凸形状データは、
図5に示すように、複数の凹部40〜44を有し、単一の凹部は、2つの山ptと一つの谷btで構成される。本実施形態では、各山pt及び谷btは、曲線で接続されているが、直線で接続されたものでもよく、直線及び曲線で接続されたものでもよい。
【0028】
図1に示す補正対象抽出部25は、
図5に示す凹凸形状データが表す複数の凹部40〜44のうち、タイヤ転動方向CDにおける山ptと谷btとを結ぶ谷底角度θ
bが食い込み角度θ
thよりも小さい凹部を補正対象として抽出する。具体的には、例えば凹部40〜42の山ptと谷btとを結ぶ谷底角度θ
b1〜θ
b3をそれぞれ算出し、食い込み角度θ
thと比較する。
【0029】
ここで、例えば
図5における凹部40,41のように、深い谷に浅い複数の凹部が形成されている場合には、凹部40,41単独でみれば、谷底角度θ
bが大きくゴムが追従すると判定されてしまう。しかし、実際には、隣接する複数(2つ)の凹部40,41で形成される一つの凹部の谷底へゴムが到達しない。そこで、このような場合でも補正対象として抽出する必要がある。これを実現するために、補正対象抽出部25は、
図7に示すように、隣接する複数(2つ)の凹部40,41を形成する複数山(pt1〜3)と複数谷(bt1〜2)のうち、2つの山(pt1,pt3)とこれらの間にある1つの谷(bt1又はbt2)で形成される仮想凹部5を一つの凹部として取り扱う。そして、
図7に示すように、仮想凹部5の谷底角度θ
b5が食い込み角度θ
thよりも小さいので、補正対象として抽出する。仮想凹部5の判定は、山と谷の全ての組み合わせ(三角形)に対して実施する。
【0030】
図1に示す補正部26は、補正対象抽出部25が補正対象として抽出した凹部の谷底角度θ
bを食い込み角度θ
thに近づく方向へ補正する。本実施形態では、谷底角度θ
bが食い込み角度θ
thに一致するように補正する。具体的には、
図6Aに示すように、山pt同士を結ぶ線分の中点と谷btとを仮想線で結ぶ。この仮想線において谷底角度が食い込み角度θ
thとなる位置に補正後の谷btを移動させる。
図6Aに示すように、補正後の谷btが確定すれば、山pt及び補正後の谷btの3点を通る曲線で凹凸形状を補正する。本実施形態では、曲線で凹凸形状を補正しているが、
図6Bに示すように、山pt及び補正後の谷btの3点を直線で凹凸形状を補正してもよい。また、
図6Cに示すように、山pt同士を結ぶ線分に平行で且つ補正後の谷btを通る直線で凹凸形状を補正してもよい。また、
図6Dに示すように、谷底の直線を
図6Cに比べて短くしても良い。
【0031】
図1に示すタイヤ振動予測部27は、補正後の凹凸形状データを入力としてタイヤ振動をシミュレーションする。具体的には、周知の方法と同じであるが、凹凸形状データをタイヤ転動速度を考慮したフーリエ変換し周波数領域に変換する。これにより、長さ次元のデータである凹凸形状データを時間次元のデータに変換する。次に、接地圧力算出部21で算出した接地面を構成する各節点に対して周波領域データを変位境界条件として与え、周波数領域での動的応答解析を実施し、タイヤ振動を再現する。なお、モーダル法、陰解法等を用いることが考えられるが、計算コストの観点からモーダル法が望ましい。
【0032】
タイヤ表面の振動に起因する騒音解析をする場合には、タイヤ振動予測部27で得られるタイヤ表面振動を変位境界条件として音響解析を実施すればよい。なお、有限要素法、境界要素法などを用いることが考えられるが、周波数問題の場合は計算コストの観点から有限要素法が好ましい。
【0033】
[タイヤ振動のシミュレーション方法]
上記シミュレーション装置2を用いて、路面凹凸に起因するタイヤ振動をシミュレーションする方法を、
図2のフローチャートを主に参照しつつ説明する。
【0034】
まず、
図2に示すステップST1において、
図1に示す初期設定部20は、操作部(図示せず)を介してユーザの操作を受け付け、タイヤモデル、路面データなどシミュレーションに必要となる各種設定を行う。
【0035】
次のステップST2において、
図1に示す接地圧力算出部21は、タイヤ有限要素モデルを予め与えられた解析条件で接地させる静的接地解析を実行し、接地面を構成する節点毎に接地圧力Pを算出する。
【0036】
次に、以下のステップST3〜ST7を、接地面を構成する節点のうち入力対象となる全ての節点について実行する。本実施形態において入力対象となる節点は、接地圧力>0の節点のうちタイヤ転動方向CDの最も外側にある節点としているが、解析に応じて任意に設定可能である。
【0037】
すなわち、ステップST3において、
図1に示す角度決定部23は、各々の節点について使用する接地圧力を決定する。上記では3つ方法を挙げたが、本実施形態では、節点の圧力値Pをそのまま用いる。次のステップST4において、角度決定部23は、
図1及び
図3Bに示す角度データ22aを用い、タイヤ有限要素モデルの圧縮弾性率m及び接地圧力Pに対応する食い込み角度θ
thを特定する。
【0038】
次のステップST5において、
図1に示す凹凸形状取得部24は、各節点に入力されるタイヤ転動方向に沿った凹凸形状データを路面データから取得する。次のステップST6において、
図1に示す補正対象抽出部25は、凹凸形状データが表す複数の凹部40〜44のうち、タイヤ転動方向断面における山と谷とを結ぶ谷底角度θ
bが食い込み角度θ
thよりも小さい凹部を補正対象として抽出する。次のステップST7において、
図1に示す補正部26は、補正対象として抽出した凹部の谷底角度θ
bを食い込み角度θ
thに近づく方向へ補正する。
【0039】
上記ステップST3〜7を入力対象となる全ての節点について実行した後には、次のステップST8において、
図1に示すタイヤ振動予測部27は、補正後の凹凸形状データを入力としてタイヤ振動をシミュレーションする。
【0040】
以上のように、本実施形態のタイヤ振動のシミュレーション方法は、タイヤ有限要素モデルと予め与えられた路面データとを用いて路面凹凸に起因するタイヤ振動をコンピュータがシミュレーションする方法であって、タイヤ有限要素モデルを予め与えられた解析条件で接地させる接地解析を実行し、接地面を構成する節点毎に接地圧力を算出するステップ(ST2)と、凹部31を有する剛体30に対してゴム32を押し当てた場合にゴム32が凹部31に食い込み角度θ
thとゴム32を押し当てる圧力値P
refとをゴムの圧縮弾性率m毎に予め関連付けた角度データ22aを用い、タイヤ有限要素モデルの圧縮弾性率m及び接地圧力Pに対応する食い込み角度θ
thを節点毎に特定するステップ(ST3,ST4)と、各節点に入力されるタイヤ転動方向CDに沿った凹凸形状データを予め与えられた路面データから節点毎に取得するステップ(ST5)と、各々の凹凸形状データが表す複数の凹部40〜44のうち、タイヤ転動方向CD断面における山ptと谷btとを結ぶ谷底角度θ
bが食い込み角度θ
thよりも小さい凹部を補正対象として抽出するステップ(ST6)と、補正対象として抽出した凹部の谷底角度θ
bを食い込み角度θ
thに近づく方向へ補正するステップ(ST7)と、補正後の凹凸形状データを入力としてタイヤ振動をシミュレーションするステップ(ST8)と、を含む。
【0041】
本実施形態のタイヤ振動のシミュレーション装置2は、タイヤ有限要素モデルを予め与えられた解析条件で接地させる接地解析を実行し、接地面を構成する節点毎に接地圧力を算出する接地圧力算出部21と、凹部31を有する剛体30に対してゴム32を押し当てた場合にゴム32が凹部31に食い込み角度θ
thとゴム32を押し当てる圧力値P
refとをゴムの圧縮弾性率m毎に予め関連付けた角度データ22aを記憶する角度情報記憶部22と、角度情報記憶部22が記憶する角度データ22aを用い、タイヤ有限要素モデルの圧縮弾性率m及び接地圧力算出部21が算出した接地圧力Pに対応する食い込み角度θ
thを節点毎に特定する角度決定部23と、各節点に入力されるタイヤ転動方向CDに沿った凹凸形状データを予め与えられた路面データから節点毎に取得する凹凸形状取得部24と、各々の凹凸形状データが表す複数の凹部40〜44のうち、タイヤ転動方向CD断面における山ptと谷btとを結ぶ谷底角度θ
bが食い込み角度θ
thよりも小さい凹部を補正対象として抽出する補正対象抽出部25と、補正対象として抽出した凹部の谷底角度θ
bを食い込み角度θ
thに近づく方向へ補正する補正部26と、補正後の凹凸形状データを入力としてタイヤ振動をシミュレーションするタイヤ振動予測部27とを備える。
【0042】
凹凸形状データが表す凹部のうち谷底角度が食い込み角度よりも小さい凹部は、ゴムが谷底まで入り込まない。そこで、本実施形態では、このような凹部の谷底角度θ
bを、ゴムが谷底まで入り込む角度である食い込み角度θ
thに近づく方向へ補正するので、より現実に近いタイヤ振動を予測でき、シミュレーション精度を向上させることが可能となる。
【0043】
単一の凹部のみに着目して補正対象を抽出する場合には、
図7に示すように、深い凹部に複数の浅い凹部が存在し、浅い凹部にまでゴムが到達しない場合でも浅い凹部にゴムが到達すると誤判定する可能性がある。そこで、本実施形態では、補正対象抽出部25及び補正部26は、隣接する複数の凹部(40,41)を形成する複数山(pt1〜3)と複数谷(bt1〜2)のうち、2つの山(pt1,pt3)と当該山の間にある一つの谷(bt1又はbt2)で形成される仮想凹部5を一つの凹部として取り扱う。これにより、
図7に示すような場合であっても、複数の凹部を一つの凹部として取り扱うことで、正しく補正対象と認識し、補正処理を実施でき、シミュレーション精度を向上させることが可能となる。
【0044】
さらに、本実施形態では、角度決定部23は、角度データ22aを用いて或る節点に対応する食い込み角度θ
thを特定する際に、
図4に示すように、或る節点を通り且つタイヤ転動方向CDに沿ったラインLi上の部位のうち単位接地長当たりの接地圧力変化量|P’(x)|が最大となる部位の接地圧力[P(x
1),P(x
2)]を用いる。
振動が励起されるのは圧力が急激に変化する部位の寄与が大きく、圧力が変動しにくい完全接地領域では振動が励起されにくいと考えられる。そこで、単位時間当たりの接地圧力変化量が最大となる部位の圧力値は、振動励起の寄与が大きいと考えられる部位の圧力値であるので、この圧力値を参照値として用いれば、振動励起メカニズムとして、食い込み速度に着目した解析が可能となる。
この場合、上記参照値として用いた部位の最も踏込側に近い節点を凹凸形状データの入力対象となる節点とするのが好ましい。これにより、より精度のよい振動予測が可能となる。
【0045】
さらに、本実施形態では、角度決定部23は、角度データ22aを用いて或る節点に対応する食い込み角度θ
thを特定する際に、或る節点を通り且つタイヤ転動方向CDに沿ったラインLi上の部位のうち単位接地長あたりの接地圧力変化量|P’(x)|が最大となる第1部位(x
1,x
2)と、当該ラインLi上の部位のうち接地圧力p(x)が最大となる第2部位(x=0)との中間部位の接地圧力[P(x
1/2),P(x
2/2)]を用いる。
振動が励起されるのは圧力が急激に変化する部位の寄与が大きく、圧力が変動しにくい完全接地領域では振動が励起されにくいと考えられる。そこで、単位時間当たりの接地圧力変化量が最大となる部位と、圧力が最大となる部位の中間部位は、接地面内の圧力変化が安定した部位であると考えられるため、当該部位の圧力値を用いることで、振動励起メカニズムとして、食い込み量に着目した解析が可能となる。
この場合、上記参照値として用いた部位の最も踏込側に近い節点を凹凸形状データの入力対象となる節点とするのが好ましい。これにより、より精度のよい振動予測が可能となる。
【0046】
本実施形態に係るタイヤ振動のシミュレーションプログラムは、上記タイヤ振動のシミュレーション方法を構成する各ステップをコンピュータに実行させるプログラムである。
これらプログラムを実行することによっても、上記方法の奏する作用効果を得ることが可能となる。言い換えると、上記方法を使用しているとも言える。
【0047】
以上、本発明の実施形態について図面に基づいて説明したが、具体的な構成は、これらの実施形態に限定されるものでないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明だけではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0048】
例えば、本実施形態において、補正部26による凹凸形状の補正は、補正対象の凹部の谷底角度θ
bが食い込み角度θ
thに一致するように補正しているが、谷底角度θ
bが食い込み角度θ
thに近づく方向であれば、必ずしも一致させなくてもよい。これにより、凹部の形状が浅い形状に補正されるので、補正されない場合に比べて真値に近づけることができ、シミュレーション精度を向上させることが可能となる。
【0049】
また、本実施形態では、ゴムの弾性率としてJISK6254で規定される圧縮弾性率を用いているが、「JISK6200 01」で規定される引張モジュラスを用いてもよく。その他の弾性率を用いることも可能である。
圧縮弾性率は、Ec=F/(A×ε)で表現される。
ただし、Ec:圧縮弾性率(MPa)
F:規定の圧縮ひずみ(10%又は20%)を与えたときの力(N)
ε:圧縮前の試験片の厚さに対する圧縮ひずみ
10%の圧縮ひずみの場合 ε=0.1
20%の圧縮ひずみの場合 ε=0.2
A:試験片の元の断面積(mm
2)
【0050】
上記の各実施形態で採用している構造を他の任意の実施形態に採用することは可能である。各部の具体的な構成は、上述した実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。