特許第6058488号(P6058488)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6058488
(24)【登録日】2016年12月16日
(45)【発行日】2017年1月11日
(54)【発明の名称】漁網用糸及び漁網
(51)【国際特許分類】
   A01K 75/00 20060101AFI20161226BHJP
【FI】
   A01K75/00 C
【請求項の数】6
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2013-141912(P2013-141912)
(22)【出願日】2013年7月5日
(65)【公開番号】特開2014-36648(P2014-36648A)
(43)【公開日】2014年2月27日
【審査請求日】2016年1月22日
(31)【優先権主張番号】特願2012-159062(P2012-159062)
(32)【優先日】2012年7月17日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390009830
【氏名又は名称】クレハ合繊株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100115794
【弁理士】
【氏名又は名称】今下 勝博
(74)【代理人】
【識別番号】100119677
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100117961
【弁理士】
【氏名又は名称】白倉 昌
(72)【発明者】
【氏名】穀野 裕司
(72)【発明者】
【氏名】加藤 高裕
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 克彰
【審査官】 竹中 靖典
(56)【参考文献】
【文献】 実開平03−053579(JP,U)
【文献】 米国特許第04466331(US,A)
【文献】 実開昭56−142570(JP,U)
【文献】 実開昭63−162890(JP,U)
【文献】 特開2002−339209(JP,A)
【文献】 特開2013−055910(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 75/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数本のフィラメントを撚り合わせた漁網用糸において、
前記フィラメントは、主フィラメントだけ又は主フィラメント及び該主フィラメントよりも平均繊維径が小さい副フィラメントからなり、
前記主フィラメントの前記漁網用糸の単位長さあたりに占める質量割合が50質量%以上100質量%以下であり、
前記副フィラメントの前記漁網用糸の単位長さあたりに占める質量割合が0質量%以上50質量%以下であり、
前記主フィラメントは、ポリフッ化ビニリデン繊維からなり、
前記主フィラメントの表面の算術平均粗さが、0.003μm以上0.090μm以下であることを特徴とする漁網用糸。
【請求項2】
前記副フィラメントは、ポリフッ化ビニリデン繊維若しくはポリエステル繊維のいずれか一方又は両方を含み、
前記副フィラメントの表面の算術平均粗さが、0.003μm以上0.090μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の漁網用糸。
【請求項3】
前記副フィラメントは、ポリアセタール繊維、又は、ポリアセタール繊維及びポリフッ化ビニリデン繊維を含み、
前記副フィラメントの表面の算術平均粗さが、0.003μm以上0.090μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の漁網用糸。
【請求項4】
前記漁網用糸の比重が1.5以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載の漁網用糸。
【請求項5】
前記漁網用糸の単位長さあたりの平均で、前記主フィラメントが、前記副フィラメントよりも前記漁網用糸の外周面に多く露出することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一つに記載の漁網用糸。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一つに記載の漁網用糸を用いてなることを特徴とする漁網。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、付着防止性に優れた漁網用糸及びそれを用いた漁網に関する。
【背景技術】
【0002】
海、湖、川などの水中に設置した漁網の表面には、藻類、貝類などの水中生物又はゴミなどの各種付着物が付着する。これらの付着物が漁網に付着すると、網目の減少又は閉鎖によって、漁網内の水流が妨げられ、漁網内の水質が悪化するおそれがある。また、水流に対する抵抗力が大きくなり、漁網が潮流の影響を受け易くなる。結果として、水中で設計どおりの網型を維持することができなくなったり、魚を傷つけたりするおそれがある。
【0003】
藻類、貝類などの水中生物は、太陽光が届く水面から十数mの水深で多く発生するため、生簀を太陽光の届かない深さに設置する技術が開示されている(例えば、特許文献1又は2を参照。)。また、水面直下から可視光が届く水深までの、水中生物の付着を防止する技術として、紫外線光応答型光触媒及び可視光応答型光触媒が、繊維構造体の内部及び/又は表面に、含有及び/又は固着された繊維構造体が開示されている(例えば、特許文献3を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−254596号公報
【特許文献2】特開平1−187038号公報
【特許文献3】特開2002−339238号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1又は2のように、生簀を太陽光の届かない深さに設置する技術では、設備が大掛かりとなって、簡易性に欠けるという問題がある。また、特許文献3の紫外線光応答型光触媒及び可視光応答型光触媒を用いる技術では、水面から水深5mまでの深さだけしか効果が得られず、例えば、特許文献1の段落0025に記載されたような十数mの深さで付着する貝類に対しては、付着を防止できない。
【0006】
本発明の目的は、高強度、かつ、高比重で、耐摩耗性及び付着防止性に優れた漁網用糸及びそれを用いた漁網を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る漁網用糸は、複数本のフィラメントを撚り合わせた漁網用糸において、前記フィラメントは、主フィラメントだけ又は主フィラメント及び該主フィラメントよりも平均繊維径が小さい副フィラメントからなり、前記主フィラメントの前記漁網用糸の単位長さあたりに占める質量割合が50質量%以上100質量%以下であり、前記副フィラメントの前記漁網用糸の単位長さあたりに占める質量割合が0質量%以上50質量%以下であり、前記主フィラメントは、ポリフッ化ビニリデン繊維からなり、前記主フィラメントの表面の算術平均粗さが、0.003μm以上0.090μm以下であることを特徴とする。
【0008】
本発明に係る漁網用糸では、前記副フィラメントは、ポリフッ化ビニリデン繊維若しくはポリエステル繊維のいずれか一方又は両方を含み、前記副フィラメントの表面の算術平均粗さが、0.003μm以上0.090μm以下であることが好ましい。高強度、かつ、耐摩耗性に優れた糸とすることができる。
【0009】
本発明に係る漁網用糸では、前記副フィラメントは、ポリアセタール繊維、又は、ポリアセタール繊維及びポリフッ化ビニリデン繊維を含み、前記副フィラメントの表面の算術平均粗さが、0.003μm以上0.090μm以下であることが好ましい。付着性防止性により優れた糸とすることができる。
【0010】
本発明に係る漁網用糸では、前記漁網用糸の比重が1.5以上であることが好ましい。高比重であるため、沈降性が良好になり、かつ、漁網が潮流の影響を受けにくく、水中で設計どおりの網型を維持することができる。
【0011】
本発明に係る漁網用糸では、前記漁網用糸の単位長さあたりの平均で、前記主フィラメントが、前記副フィラメントよりも前記漁網用糸の外周面に多く露出することが好ましい。表面の摩擦係数をより小さくして、魚が傷つくのを防止することができる。
【0012】
本発明に係る漁網は、本発明に係る漁網用糸を用いてなる。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、高強度、かつ、高比重で、耐摩耗性及び付着防止性に優れた漁網用糸及びそれを用いた漁網を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】第一実施形態に係る漁網用糸の一例を示す分解斜視図である。
図2】第七実施形態に係る漁網用糸の一例を示す分解斜視図である。
図3】付着防止性の評価方法を説明するための略図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、本発明について実施形態を示して詳細に説明するが本発明はこれらの記載に限定して解釈されない。本発明の効果を奏する限り、実施形態は種々の変形をしてもよい。
【0016】
(第一実施形態)
図1は、第一実施形態に係る漁網用糸の一例を示す分解斜視図である。第一実施形態に係る漁網用糸10は、複数本のフィラメント1a,1bを撚り合わせた漁網用糸において、フィラメント1a,1bは、主フィラメント1a及び主フィラメント1aよりも平均繊維径が小さい副フィラメント1bからなり、主フィラメント1aの漁網用糸10の単位長さあたりに占める質量割合が50質量%以上100質量%未満であり、副フィラメント1bの漁網用糸10の単位長さあたりに占める質量割合が0質量%を超え50質量%以下であり、主フィラメント1aは、ポリフッ化ビニリデン繊維からなり、主フィラメント1aの表面の算術平均粗さが、0.003μm以上0.090μm以下である。
【0017】
主フィラメント1aは、ポリフッ化ビニリデン繊維からなる単繊維(単糸)(以降、ポリフッ化ビニリデン単糸ということもある。)である。ポリフッ化ビニリデン繊維は、主成分としてポリフッ化ビニリデン系樹脂を含む。ポリフッ化ビニリデン系樹脂は、フッ化ビニリデン単位を含む重合体であり、例えば、フッ化ビニリデン単独重合体若しくはフッ化ビニリデンを主成分とする共重合体又はこれらの混合物である。フッ化ビニリデンと共重合するその他の成分としては、例えば、四フッ化エチレン、六フッ化プロピレン、三フッ化エチレン、三フッ化塩化エチレン、フッ化ビニルである。これらは、単独で使用するか、又は2種以上を併用してもよい。ポリフッ化ビニリデン系樹脂が共重合体である場合には、ポリフッ化ビニリデン系樹脂は、フッ化ビニリデン単位を70質量%以上含有することが好ましい。より好ましくは、80質量%以上含有する。さらに好ましくは、90質量%以上含有する。
【0018】
ポリフッ化ビニリデン系樹脂のインヘレント粘度(ηinh)は、0.5〜1.7であることが好ましい。より好ましくは、0.6〜1.5であり、更に好ましくは0.7〜1.3である。
【0019】
ポリフッ化ビニリデン系樹脂は、本発明の効果を損なわない範囲で、可塑剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、着色剤などの添加剤を更に含有してもよい。添加剤の含有量は、ポリフッ化ビニリデン系樹脂100質量部に対して、10質量部以下とすることが好ましい。より好ましくは、5質量%以下である。
【0020】
ポリフッ化ビニリデン繊維の主な特性は、高比重(例えば、1.78)、高強度、非常に低い吸水率、優れた耐薬品性、耐候性及び耐光性である。漁網用糸10において、ポリフッ化ビニリデン繊維を主フィラメント1aとして用いることで、ポリフッ化ビニリデン繊維の各特性に由来した性能を備える漁網用糸10とすることができる。
【0021】
主フィラメント1aとは、漁網用糸10に対する質量割合が、単位長さあたりの平均で、50質量%以上の単繊維(単糸)をいう。漁網用糸10に対する主フィラメント1aの質量割合は、より好ましくは60質量%以上である。更に好ましくは80質量%以上である。主フィラメント1aの質量割合が50質量%未満では、漁網用糸を構成するフィラメントの本数が相対的に多くなるため、漁網用糸の表面において凹凸が多くなる。結果として、各フィラメントの表面の算術平均粗さを所定の範囲に制御しても、付着防止性が不足する。また、漁網の剛性が不足する。漁網用糸10に対する主フィラメント1aの質量割合の上限は特に制限はないが、製網加工性の面から95質量%以下であることが好ましい。より好ましくは90質量%以下である。ポリフッ化ビニリデン繊維の割合を抑えることで低価格化を図ることができる。本発明では、単位長さを2cmとする。
【0022】
主フィラメント1aの平均繊維径は、50〜500μmであることが好ましい。より好ましくは100〜300μmである。本発明では、平均繊維径とは、単糸について任意の5〜100本の繊維径をマイクロメーターなどで測定して平均したものをいう。また、単糸が異型断面形状を有する場合には、長径と短径とを測定し、平均を繊維径とする。
【0023】
主フィラメント1aの表面の算術平均粗さは、0.003μm以上0.090μm以下である。より好ましくは0.004μm以上0.070μm以下である。更に好ましくは0.005μm以上0.050μm以下である。主フィラメント1aの表面の算術平均粗さを制御することで、漁網用糸10としての強度、加工性などの性能を備えつつ、水中生物又はゴミなどの各種付着物の付着を防止できる。また、仮に付着しても、容易に落とすことができる。表面の算術平均粗さが0.003μm未満では、フィラメント同士の密着が強くなりすぎて、切れやすくなる。また、表面が平滑になりすぎて、撚り合わせが弱くなり、漁網に加工しにくい。表面の算術平均粗さが0.090μmを超えると、付着防止性に劣る。本明細書において、算術平均粗さは、JIS B 0601:1994「表面粗さ‐定義及び表示」に規定された算術平均粗さRaであり、例えば、原子間力顕微鏡を用いて測定する。その測定条件は、測定範囲を平均繊維径が150μm未満の場合は3μm×3μm又は平均繊維径が150μm以上の場合は40μm×40μmとし、走査速度を0.35Hzとし、測定雰囲気を室温大気中とする。また、算術平均粗さは、単糸の平均繊維径が150μm未満の場合は平均線補正なしの値であり、単糸の平均繊維径が150μm以上の場合は平均線補正ありの値である。ここで、平均線補正なしとは、柱状である繊維の表面を、そのまま測定した算術表面粗さを指す。平均線補正ありとは、柱状である繊維の表面を平面にした場合に換算し直した算術表面粗さを指す。
【0024】
主フィラメントの表面の算術平均粗さは、例えば、延伸倍率、表面処理で制御することができる。表面の算術平均粗さを延伸倍率で制御する場合は、延伸倍率は3.0〜6.5倍であることが好ましい。より好ましくは4.5〜5.5倍である。延伸倍率が3.0倍未満では未延伸部分が残りやすくなる。また、引張強度が不足する場合がある。延伸倍率が6.5倍を超えると破断しやすくなる場合がある。また、表面の算術平均粗さが大きくなりすぎる場合がある。また、表面の算術平均粗さを表面処理で制御する場合は、単糸の製造の最終工程において、加熱して単糸の表面を溶融する工程を設ける。加熱温度は、湿熱加熱では150〜250℃であることが好ましく、170〜200℃であることがより好ましい。乾熱加熱では200〜500℃であることが好ましく、300〜400℃であることがより好ましい。加熱温度が低すぎると、溶融の度合いが不足して表面処理の効果に劣る場合がある。加熱温度が高すぎると、単糸が溶融して形状を維持できない場合がある。また、処理時間は、5秒以内であることが好ましい。
【0025】
主フィラメント1aは、図1に示すように、複数本を撚り合わせたヤーン(以降、主フィラメントヤーンという。)2aを形成することが好ましい。主フィラメントヤーン2aの直径は、300μm以上3000μm以下であることが好ましい。より好ましくは500μm以上2000μm以下である。主フィラメントヤーン2aの直径は、一の主フィラメントヤーン2aについて1cm毎に5箇所の直径をマイクロメーターなどで測定して平均したものをいう。また、主フィラメントヤーン2aが異型断面形状を有する場合には、長径と短径とを測定し、平均を直径とする。
【0026】
第一実施形態に係る漁網用糸10では、副フィラメント1bは、ポリエステル繊維からなる単繊維(単糸)(以降、ポリエステル単糸ということもある。)を含む。ポリエステル繊維は、主成分としてポリエステル系樹脂を含む。ポリエステル系樹脂は、多価カルボン酸とポリアルコールとの重縮合体であり、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレートである。この中で、耐摩耗性及び高強度である点で、ポリエチレンテレフタレートがより好ましい。
【0027】
ポリエステル系樹脂の極限粘度(IV)は、0.5〜1.5であることが好ましい。より好ましくは、0.6〜1.4であり、更に好ましくは、0.7〜1.3である。
【0028】
ポリエステル系樹脂は、本発明の効果を損なわない範囲で、可塑剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、着色剤などの添加剤を更に含有してもよい。添加剤の含有量は、ポリエステル系樹脂100質量部に対して、10質量部以下とすることが好ましい。より好ましくは、5質量%以下である。
【0029】
副フィラメント1bは、本発明の効果を損なわない限りにおいて、ポリエステル繊維以外のその他の繊維を含んでもよい。その他の繊維は、例えば、ポリエチレン繊維、ポリアミド繊維である。
【0030】
副フィラメント1bとは、漁網用糸10に対する質量割合が、単位長さあたりの平均で、50質量%以下の単繊維(単糸)をいう。漁網用糸10に対する副フィラメント1bの質量割合は、より好ましくは40質量%以下である。更に好ましくは20質量%以下である。副フィラメント1bの質量割合が50質量%を超えると、漁網用糸を構成するフィラメントの本数が相対的に多くなるため、漁網用糸の表面において凹凸が多くなる。結果として、各フィラメントの表面の算術平均粗さを所定の範囲に制御しても、付着防止性が不足する。また、漁網の剛性が不足する。漁網用糸10に対する副フィラメント1bの質量割合の下限は特に制限はないが、製網加工性の面から5質量%以上であることが好ましい。より好ましくは10質量%以上である。
【0031】
副フィラメント1bの平均繊維径は、主フィラメント1aの平均繊維径よりも小さく、10〜70μmであることが好ましい。より好ましくは20〜50μmである。副フィラメント1bの平均繊維径を主フィラメント1aよりも相対的に小さくすることで、漁網用糸10が全体として柔軟になり、漁網に加工しやすくなる。また、漁網の取り扱い性を良好とすることができる。一方、ポリフッ化ビニリデン繊維はほとんど吸水しないため、主フィラメント1aの平均繊維径を副フィラメント1bよりも相対的に大きくすることで、水中においても高い剛性を維持することができる。結果として、潮流の影響を受けにくい漁網となり、水中で設計どおりの網型を維持することができる。また、網の容積を大きく確保することができる。
【0032】
副フィラメント1bの表面の算術平均粗さは、0.003μm以上0.090μm以下であることが好ましい。より好ましくは0.004μm以上0.070μm以下である。更に好ましくは0.005μm以上0.050μm以下である。表面の算術平均粗さが0.003μm未満では、フィラメント同士の密着が強くなりすぎて、切れやすくなる場合がある。表面の算術平均粗さが0.090μmを超えると、付着防止性に劣る場合がある。副フィラメント1bの表面粗さは、主フィラメント1aと同様に制御できる。特に、副フィラメント1bがポリエステル単糸である場合、ポリエステル単糸の表面の算術平均粗さは、0.003μm以上0.090μm以下とすることが好ましい。より好ましくは0.004μm以上0.070μm以下である。更に好ましくは0.005μm以上0.050μm以下である。
【0033】
副フィラメント1bは、図1に示すように、複数本を撚り合わせたヤーン(以降、副フィラメントヤーンという。)2bを形成することが好ましい。副フィラメントヤーン2bの直径は、100μm以上2000μm以下であることが好ましい。より好ましくは200μm以上1000μm以下である。副フィラメントヤーン2bの直径は、主フィラメントヤーン1aの直径よりも小さいことが好ましい。副フィラメントヤーン2bの直径は、主フィラメントヤーン2aの直径と同様に測定することができる。
【0034】
第一実施形態に係る漁網用糸10は、主フィラメントヤーン2aと副フィラメントヤーン2bとを、それぞれ複数本撚り合わせて形成した撚糸(ストランド)であることが好ましい。なお、図1では、主フィラメントヤーン2a及び副フィラメントヤーン2bをそれぞれ4本ずつの合計8本とした形態を示したが、本発明はその本数に制限されない。複数本の主フィラメントヤーン2a又は副フィラメントヤーン2bは、全て同じ本数の主フィラメント1a又は副フィラメント1bの束で形成するか、又はそれぞれ異なる本数の主フィラメント1a又は副フィラメント1bの束で形成してもよい。
【0035】
漁網用糸10の直径は、1〜10mmであることが好ましい。より好ましくは、3〜5mmである。漁網用糸10の直径は、主フィラメントヤーン2aの直径と同様に測定することができる。
【0036】
第一実施形態に係る漁網用糸10では、漁網用糸10の単位長さ(例えば1cm)あたりの平均で、主フィラメント1aが、副フィラメント1bよりも漁網用糸10の外周面に多く露出することが好ましい。表面の算術平均粗さを制御したポリフッ化ビニリデン繊維が外周面を占める割合が多くなるため、表面の摩擦係数をより小さくして、魚が傷つくのを防止することができる。
【0037】
主フィラメントヤーン2a又は副フィラメントヤーン2b又は漁網用糸10の撚りの方向、撚り姿又は撚り数などの撚りの種類は、形成する漁網の種類又は規模に応じて適宜設定することができる。図1には、一例として、複数本(3本又は5本)の主フィラメント1aをS(右)方向に撚り合わせて主フィラメントヤーン2aを、複数本(64本又は72本)の副フィラメント1bをS(右)方向に撚り合わせて副フィラメントヤーン2bを形成し、4本の主フィラメントヤーン2aと4本の副フィラメントヤーン2bとをZ(左)方向に撚り合わせて漁網用糸(ストランド)10を形成した形態を示した。
【0038】
漁網用糸10の比重は1.50以上であることが好ましい。より好ましくは、1.55以上である。比重が1.50未満では、沈降性が不足する場合がある。また、漁網が潮流の影響を受けて変形するおそれがある。第一実施形態に係る漁網用糸10の比重は、副フィラメント1bとして用いるポリエステル繊維の質量割合で調整することができる。
【0039】
漁網用糸10の表面には、防藻剤を塗布してもよい。ポリフッ化ビニリデン繊維及びポリエステル繊維は、耐薬品性に優れるため、防藻剤で腐食するおそれがない。また、防藻剤の効果が長く継続する。
【0040】
第一実施形態に係る漁網用糸10では、副フィラメント1bがポリエステル繊維を含むことで、主フィラメント1aと副フィラメント1bとの撚り合わせを強くすることができる。漁網用糸10の比重を小さくして、網の引き上げ降ろし作業をより容易にすることができる。また、漁網の価格を抑えることができる。
【0041】
(第二実施形態)
第二実施形態に係る漁網用糸は、副フィラメント1bがポリフッ化ビニリデン繊維を含む以外は、第一実施形態に係る漁網用糸10と基本的な構成を同じくするため、ここでは共通する点についての説明を省略し、相違する点について説明する。
【0042】
副フィラメントに使用するポリフッ化ビニリデン繊維は、主フィラメント1aに使用するものと材質を同じくする。副フィラメントに使用するポリフッ化ビニリデン単糸の表面の算術平均粗さは、0.003μm以上0.090μm以下であることが好ましい。より好ましくは0.004μm以上0.070μm以下である。更に好ましくは0.005μm以上0.050μm以下である。
【0043】
第二実施形態に係る漁網用糸は、主フィラメント及び副フィラメントの両方にポリフッ化ビニリデン繊維を用いるため、漁網用糸の比重を、例えば1.77以上と高比重にすることができる。
【0044】
第二実施形態に係る漁網用糸は、高比重であるため、沈降性に更に優れ、より深海(例えば、水深20〜50m)での養殖が可能となる。剛性及び強度が高いため、容積の大きな漁網に適している。また、防汚性、耐薬品性、耐候性及び耐光性に優れるため、より高寿命な漁網とすることができる。また、主フィラメント及び副フィラメントの両方にポリフッ化ビニリデン繊維を用いるため、貝の付着防止に特に優れた漁網とすることができる。
【0045】
(第三実施形態)
第三実施形態に係る漁網用糸は、副フィラメント1bがポリフッ化ビニリデン繊維及びポリエステル繊維の両方を含む以外は、第一実施形態に係る漁網用糸と基本的な構成を同じくするため、ここでは共通する点についての説明を省略し、相違する点について説明する。
【0046】
第三実施形態に係る漁網用糸では、副フィラメントヤーンは、例えば、複数本のポリフッ化ビニリデン単糸を撚り合わせた撚糸と複数本のポリエステル単糸を撚り合わせた撚糸とを、更に撚り合わせた混撚糸である。副フィラメントヤーンにおけるポリフッ化ビニリデン単糸とポリエステル単糸との配合割合は、ポリフッ化ビニリデン単糸の質量割合が、副フィラメントヤーンの全質量に対して単位長さあたりの平均で、50質量%以上であることが好ましい。より好ましくは80質量%以上である。ポリフッ化ビニリデン単糸の質量割合が50質量%未満では、比重が不足して沈降性に劣る場合がある。副フィラメントヤーンの全質量に対するポリフッ化ビニリデン単糸の質量割合の上限は特に制限はないが、例えば95質量%以下であることが好ましい。より好ましくは90質量%以下である。
【0047】
第三実施形態に係る漁網用糸は、副フィラメントに用いるポリフッ化ビニリデン単糸とポリエステル単糸との混合比率を調整することで、設置する水深、漁網の規模など各種使用条件に対応して、比重、表面の摩擦係数又は撚り合わせの強度を適度に調整することができる。
【0048】
(第四実施形態)
第一〜第三実施形態では、フィラメント1a,1bが主フィラメント1a及び副フィラメント1bからなる形態について説明してきたが、第四実施形態に係る漁網用糸は、フィラメントが主フィラメントだけからなる形態である。すなわち、漁網用糸に対する主フィラメントの質量割合が、単位長さあたりの平均で、100質量%であり、副フィラメントの質量割合が、単位長さあたりの平均で、0質量%である。
【0049】
第四実施形態に係る漁網用糸は、表面の摩擦係数をより小さくして、魚が傷つくのを防止することができる。また、高比重、かつ、高剛度、かつ、高寿命の漁網用糸とすることができる。また、ポリフッ化ビニリデン繊維からなるため、貝の付着防止に特に優れた漁網とすることができる。
【0050】
(第五実施形態)
第五実施形態に係る漁網用糸は、副フィラメント1bがポリアセタール繊維からなる単繊維(以降、ポリアセタール単糸、ポリオキシメチレン単糸又はPOM単糸ということもある。)を含む以外は、第一実施形態に係る漁網用糸10と基本的な構成を同じくするため、ここでは共通する点についての説明を省略し、相違する点について説明する。
【0051】
ポリアセタール繊維は、ポリアセタール系樹脂を含む。ポリアセタール系樹脂は、ポリオキシメチレン(POM)とも呼ばれ、ホルムアルデヒドを主原料とした、オキシメチレン構造を有する重合体である。本実施形態では、ポリアセタール系樹脂は、ホルムアルデヒドだけが重合した単独重合体であるか、又はホルムアルデヒドとエチレンオキシド若しくはジオキソランなどのコモノマーとの共重合体であってもよい。このうち、共重合体であることがより好ましく、ホルムアルデヒドを三量化したトリオキサンを主モノマーとしてエチレンオキシドなどのコモノマーと重合させた共重合体であることがより好ましい。
【0052】
ポリアセタール系樹脂は、本発明の効果を損なわない範囲で、可塑剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、着色剤などの添加剤を更に含有してもよい。添加剤の含有量は、ポリアセタール系樹脂100質量部に対して、10質量部以下とすることが好ましい。より好ましくは、5質量%以下である。
【0053】
第五実施形態に係る漁網用糸は、価格を抑えながら高比重とすることができ、沈降性に更に優れ、より深海(例えば、水深20〜50m)での養殖が可能となる。また、防汚性、耐薬品性、耐候性及び耐光性に優れるため、より高寿命な漁網とすることができる。
【0054】
(第六実施形態)
第六実施形態に係る漁網用糸は、副フィラメント1bがポリフッ化ビニリデン繊維及びポリアセタール繊維の両方を含む以外は、第一実施形態に係る漁網用糸と基本的な構成を同じくするため、ここでは共通する点についての説明を省略し、相違する点について説明する。
【0055】
第六実施形態に係る漁網用糸では、副フィラメントヤーンは、例えば、複数本のポリフッ化ビニリデン単糸を撚り合わせた撚糸と複数本のポリアセタール単糸を撚り合わせた撚糸とを、更に撚り合わせた混撚糸である。副フィラメントヤーンにおけるポリフッ化ビニリデン単糸とポリアセタール単糸との配合割合は、ポリフッ化ビニリデン単糸の質量割合が、副フィラメントヤーンの全質量に対して単位長さあたりの平均で、20質量%以上であることが好ましい。より好ましくは50質量%以上である。副フィラメントヤーンの全質量に対するポリフッ化ビニリデン単糸の質量割合の上限は特に制限はないが、例えば95質量%以下であることが好ましい。より好ましくは90質量%以下である。
【0056】
第六実施形態に係る漁網用糸は、副フィラメントに用いるポリフッ化ビニリデン単糸とポリアセタール単糸との混合比率を調整することで、設置する水深、漁網の規模など各種使用条件に対応して、比重、表面の摩擦係数又は撚り合わせの強度を適度に調整することができる。
【0057】
(第七実施形態)
図2は、第七実施形態に係る漁網用糸の一例を示す分解斜視図である。第七実施形態に係る漁網用糸20は、図2に示すように、複数本の漁網用糸10を、更に撚り合わせた紐状の漁網用糸20である。紐状の漁網用糸20では、同一構成の漁網用糸を撚り合わせるか、又は異なる構成の漁網用糸を組み合わせて撚り合わせてもよい。なお、図2では、一例として2本の漁網用糸を撚り合わせたが、これに限定されず、所望の直径に応じて本数を選択できる。また、図2では、一例として第一実施形態に係る漁網用糸10を用いた形態を示したがこれに限定されず、例えば、第二〜第六実施形態に係る漁網用糸に置き換えてもよい。
【0058】
本実施形態に係る漁網は、第一〜第七実施形態に係る漁網用糸を用いてなる。漁網は、例えば、定置網、旋網、曳網、養殖網、海苔網、刺網である。このうち、養殖網であることが好ましい。なお、漁網の編地構成、漁網用糸の結節方法などは、漁網の種類に応じて適宜設定することができる。本実施形態に係る漁網は、主に次の効果を奏する。(1)その優れた付着防止性のため、網を清潔に保つことができ、清掃作業の負担を減らすことができる。(2)その高い比重のため、潮流にふかれても設計どおりの網型を維持することができる。(3)ポリフッ化ビニリデン繊維は吸水率が低いため、網の水切れがよく、網の引き上げ作業などが容易になる。(4)ポリフッ化ビニリデン繊維に由来して摩擦係数が小さいため、養殖魚が傷つくのを抑制し、かつ、網の引き上げ降ろしの抵抗を小さくすることができる。
【実施例】
【0059】
次に、本発明の実施例を挙げて説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0060】
(実施例1)
主フィラメントとしてポリフッ化ビニリデン(PVDF)単糸(平均繊維径170μmΦ、糸表面の算術平均粗さ0.020μm、比重1.78)を36本用意した。主フィラメント18本束を撚り合わせた主フィラメントヤーン2本を撚り合わせて漁網用糸を作製した。この漁網用糸は、主フィラメントの漁網用糸の単位長さあたりに占める質量割合が100質量%であった。また、漁網用糸の比重は1.78であった。この漁網用糸を使用して漁網を作製した。この漁網を用いて付着防止性の評価を行った。
【0061】
(算術平均粗さ)
算術平均粗さは、単糸の表面粗さを原子間力顕微鏡(Seiko Instrumennts社製、型式SPI3800/SPA300HV)を用いて測定し、JIS B 0601:1994に規定された算術平均粗さRaを求めた。その測定条件は、測定範囲を単糸の平均繊維径が150μm未満の場合は3μm×3μm又は単糸の平均繊維径が150μm以上の場合は40μm×40μmとし、走査速度を0.35Hzとし、測定雰囲気を室温大気中とした。また、算術平均粗さは、平均繊維径が150μm未満の場合は平均線補正なしの値であり、平均繊維径が150μm以上の場合は平均線補正ありの値である。
【0062】
(付着防止性の評価)
(1)付着状況
図3は、付着防止性の評価方法を説明するための略図である。付着防止性の評価は次のとおり行った。図3に示すように、漁網91をステンレス鋼製の枠92(内寸法50cm角)内に張り付けた試験サンプル90を、深さ10〜15mの海水中に投入した。投入後1ヵ月に引き上げて藻や貝などの付着物の付着状況を目視で確認した。評価基準は次のとおりである。
◎:漁網用糸の一部に付着物が付着しているが、漁網の網目は塞がっていない(実用レベル)。
○:漁網用糸の全体に付着物が付着しているが、漁網の網目は塞がっていない(実用下限レベル)。
×:漁網の網目の一部又は全部が付着物によって塞がっている(実用不可レベル)。
【0063】
(2)洗浄の後の付着状況
海水中から引き上げた試験サンプルを水洗し、その後乾燥させ、更に水洗し、付着物の洗浄後の付着状況を目視で確認した。評価基準は(1)付着状況の評価基準と同様である。
【0064】
付着防止性の評価の結果、実施例1では、漁網用糸の一部に付着物が付着しているが、漁網の網目は塞がっておらず、(1)付着状況の評価は◎であった。さらに、(2)洗浄後の付着状況の評価も◎であった。
【0065】
(実施例2)
主フィラメントとして実施例1で使用したPVDF単糸と同種のものを25本と、副フィラメントとしてPVDF単糸(平均繊維径35μmΦ、糸表面の算術平均粗さ0.015μm、比重1.78)を150本とを用意した。主フィラメント20本束を撚り合わせた主フィラメントヤーンを1本と、主フィラメント5本束を撚り合わせた主フィラメントヤーンを1本と、副フィラメント30本束を撚り合わせた副フィラメントヤーンを5本とを撚り合わせて漁網用糸を作製した。この漁網用糸は、主フィラメントの漁網用糸の単位長さあたりに占める質量割合が80質量%であった。また、漁網用糸の比重は1.78であった。この漁網用糸を使用して漁網を製作した。この漁網用いて、実施例1と同様に付着防止性の評価を行った。(1)付着状況の評価は○、(2)洗浄後の付着状況の評価は◎であった。
【0066】
(実施例3)
主フィラメントとして実施例1で使用したPVDF単糸と同種のものを18本と、副フィラメントとして実施例2で使用したPVDF単糸と同種のものを360本とを用意した。主フィラメント18本束を撚り合わせた主フィラメントヤーンを1本と、副フィラメント72本束を撚り合わせた副フィラメントヤーンを5本とを撚り合わせて漁網用糸を作製した。この漁網用糸は、主フィラメントの漁網用糸の単位長さあたりに占める質量割合が54質量%であった。また、漁網用糸の比重は1.78であった。この漁網用糸を使用して漁網を製作した。この漁網を用いて、実施例1と同様に付着防止性の評価を行った。(1)付着状況の評価は○、(2)洗浄後の付着状況の評価は○であった。
【0067】
(実施例4)
主フィラメントとして実施例1で使用したPVDF単糸と同種のものを25本と、副フィラメントとしてポリエチレンテレフタレート(PET)単糸(平均繊維径42μmΦ、糸表面の算術平均粗さ0.028μm、比重1.35)を360本とを用意した。主フィラメント20本束を撚り合わせた主フィラメントヤーンを1本と、主フィラメント5本束を撚り合わせた主フィラメントヤーンを1本と、副フィラメント72本束を撚り合わせた副フィラメントヤーンを5本とを撚り合わせて漁網用糸を作製した。この漁網用糸は、主フィラメントの漁網用糸の単位長さあたりに占める質量割合が60質量%であった。また、漁網用糸の比重は1.61であった。この漁網用糸を使用して漁網を製作した。この漁網を用いて、実施例1と同様に付着防止性の評価を行った。(1)付着状況の評価は○、(2)洗浄後の付着状況の評価は○であった。
【0068】
(実施例5)
主フィラメントとしてPVDF単糸(平均繊維径170μmΦ、糸表面の算術平均粗さ0.080μm)を用いた以外は、実施例3と同様にして漁網用糸を作製した。この漁網用糸を用いて漁網を作製し、実施例1と同様に付着性防止性の評価を行った。(1)付着状況の評価は○、(2)洗浄後の付着状況の評価は○であった。
【0069】
(実施例6)
主フィラメントとしてPVDF単糸(平均繊維径170μmΦ、糸表面の算術平均粗さ0.005μm)を用いた以外は、実施例3と同様にして漁網用糸を作製した。この漁網用糸を用いて漁網を作製し、実施例1と同様に付着性防止性の評価を行った。(1)付着状況の評価は◎、(2)洗浄後の付着状況の評価は◎であった。
【0070】
(実施例7)
主フィラメントとしてPVDF単糸(平均繊維径120μmΦ、算術平均粗さ0.007μm)を36本と、副フィラメントとしてPVDF単糸(平均繊維径40μmΦ、算術平均粗さ0.017μm)を216本とを用意した。主フィラメント18本束を撚り合わせた主フィラメントヤーンを2本と、副フィラメント36本束を撚り合わせた副フィラメントヤーンを6本とを撚り合わせて漁網用糸を作製した。この漁網用糸は、主フィラメントの漁網用糸の単位長さあたりに占める質量割合が60質量%であった。また、漁網用糸の比重は1.78であった。この漁網用糸を用いて漁網を作製し、実施例1と同様に付着防止性の評価を行った。(1)付着状況の評価は○、(2)洗浄後の付着状況の評価は◎であった。
【0071】
(実施例8)
主フィラメントとしてPVDF単糸(平均繊維径255μmΦ、算術平均粗さ0.031μm)を8本と、副フィラメントとしてPVDF単糸(平均繊維径30μmΦ、算術平均粗さ0.011μm)を384本とを用意した。主フィラメント8本束を撚り合わせた主フィラメントヤーンを1本と、副フィラメント48本束を撚り合わせた副フィラメントヤーンを8本とを撚り合わせて漁網用糸を作製した。この漁網用糸は、主フィラメントの漁網用糸の単位長さあたりに占める質量割合が60質量%であった。また、漁網用糸の比重は1.78であった。この漁網用糸を用いて漁網を作製し、実施例1と同様に付着防止性の評価を行った。(1)付着状況の評価は○、(2)洗浄後の付着状況の評価は○であった。
【0072】
(実施例9)
主フィラメントとしてPVDF単糸(平均繊維径170μmΦ、算術表面粗さ0.020μm)を20本と、副フィラメントAとしてPVDF単糸(平均繊維径35μmΦ、算術平均粗さ0.015μm)を162本と、副フィラメントBとしてPET単糸(平均繊維径38μmΦ、算術平均粗さ0.028μm)を162本とを用意した。主フィラメント20本束を撚り合わせた主フィラメントヤーンを1本と、副フィラメントA54本束を撚り合わせた副フィラメントAヤーン3本と、副フィラメントB54本束を撚り合わせた副フィラメントBヤーンを3本とを撚り合わせて漁網用糸を作製した。この漁網用糸は、主フィラメントの漁網用糸の単位長さあたりに占める質量割合が60質量%であった。また、漁網用糸の比重は1.69であった。この漁網用糸を用いて漁網を作製し、実施例1と同様に付着防止性の評価を行った。(1)付着状況の評価は○、(2)洗浄後の付着状況の評価は○であった。
【0073】
(比較例1)
主フィラメントとしてPVDF単糸(平均繊維径170μmΦ、糸表面の算術平均粗さ0.140μm)を25本と、副フィラメントとして実施例2で使用したPVDF単糸と同種のものを150本とを用いた以外は、実施例2と同様に漁網用糸を作製した。この漁網用糸は、主フィラメントの漁網用糸の単位長さあたりに占める質量割合が80質量%であった。また、漁網用糸の比重は1.78であった。この漁網用糸を使用して漁網を製作した。この漁網を用いて、実施例1と同様に付着防止性の評価を行った。(1)付着状況の評価は×、(2)洗浄後の付着状況の評価は×であった。
【0074】
(比較例2)
主フィラメントとしてPVDF単糸(平均繊維径170μmΦ、糸表面の算術平均粗さ0.001μm、比重1.78)を25本と、副フィラメントとしてPVDF単糸(平均繊維径35μmΦ、糸表面の算術平均粗さ0.001μm、比重1.78)を150本とを用いた以外は、実施例2と同様に漁網用糸を作製した。この漁網用糸は、主フィラメントの漁網用糸の単位長さあたりに占める質量割合が80質量%であった。また、漁網用糸の比重は1.78であった。この漁網用糸を使用して漁網を製作した。この漁網は、糸の表面が平滑すぎて網に力がかかると、単糸同士が密着し摩擦が大きくなり単糸切れが発生した。漁網用糸に必要な強度を備えていないため、実用不適と判断し、付着防止性の評価は行わなかった。
【0075】
(比較例3)
主フィラメントとして実施例1で使用したPVDF単糸と同種のものを10本と、副フィラメントとして実施例2で使用したPVDF単糸と同種のものを576本とを用意した。主フィラメント10本束を撚り合わせた主フィラメントヤーンを1本と、副フィラメント72本束を撚り合わせた副フィラメントヤーンを8本とを撚り合わせて漁網用糸を作製した。この漁網用糸は、主フィラメントの漁網用糸の単位長さあたりに占める質量割合が30質量%であった。また、漁網用糸の比重は1.78であった。この漁網用糸を用いて漁網を作製し、実施例1と同様に付着防止性の評価を行った。(1)付着状況の評価は×、(2)洗浄後の付着状況の評価は×であった。
【0076】
(比較例4)
主フィラメントとしてPET単糸(平均繊維径170μmΦ、表面の算術平均粗さ0.020μm、比重1.35)を25本と、副フィラメントとしてPET単糸(平均繊維径42μmΦ、表面の算術平均粗さ0.028μm、比重1.35)を276本とを用意した。主フィラメント20本束を撚り合わせた主フィラメントヤーン1本と、主フィラメント5本束を撚り合わせた主フィラメントヤーンを1本と、副フィラメント72本束を撚り合わせた副フィラメントヤーンを3本と、副フィラメント30本束を撚り合わせた副フィラメントヤーンを2本とを撚り合わせて漁網用糸を作製した。この漁網用糸は、主フィラメントの漁網用糸の単位長さあたりに占める質量割合が60質量%であった。また、漁網用糸の比重は1.35であった。この漁網用糸を用いて漁網を作製し、実施例1と同様に付着防止性の評価を行った。(1)付着状況の評価は×、(2)洗浄後の付着状況の評価は×であった。
【0077】
(比較例5)
主フィラメントとしてPE(ポリエチレン)単糸(平均繊維径270μmΦ、表面の算術平均粗さ0.025μm、比重0.95)を100本用意した。主フィラメント50本束を撚り合わせた主フィラメントヤーン2本を撚り合わせて漁網用糸を作製した。この漁網用糸は主フィラメントの漁網用糸の単位長さあたりに占める質量割合が100質量%であった。また、漁網用糸の比重は0.95であった。この漁網用糸を用いて漁網を作製し、実施例1と同様に付着防止性の評価を行った。(1)付着状況の評価は×、(2)洗浄後の付着状況の評価は×であった。
【0078】
表1に、各漁網用糸の構成、付着防止性の評価結果をまとめた。
【0079】
【表1】
【0080】
(実施例10)
主フィラメントとして実施例1で使用したPVDF単糸と同種のものを25本と、副フィラメントとしてポリオキシメチレン(POM)単糸(ポリプラスチックス社製 ジュラコンU10−01、平均繊維径42μmφ、糸表面の算術平均粗さ0.032μm、比重1.41)を360本とを用意し、実施例4と同様にして漁網用糸を作製した。この漁網用糸は、主フィラメントの漁網用糸の単位長さあたりに占める質量割合が59%であった。また、漁網用糸の比重は1.63であった。この漁網用糸を使用して漁網を制作した。この漁網を用いて、実施例1と同様に付着防止性の評価を行った。(1)付着状況の評価は◎、(2)洗浄後の付着状況の評価は◎であった。
【0081】
(実施例11)
副フィラメントBとして実施例10で使用したPOM単糸と同種のものを使用した以外は実施例9と同様にして漁網用糸を作製した。この漁網用糸は、主フィラメントの漁網用糸の単位長さあたりに占める質量割合が58%であった。また、漁網用糸の比重は1.70であった。この漁網用糸を使用して漁網を制作した。この漁網を用いて、実施例1と同様に付着防止性の評価を行った。(1)付着状況の評価は◎、(2)洗浄後の付着状況の評価は○であった。
【0082】
表2に、実施例10,11の漁網用糸の構成、付着防止性の評価結果をまとめた。
【0083】
【表2】
【0084】
各実施例は、いずれも付着防止性に優れていた。一方、比較例1は、主フィラメントの表面の算術平均粗さが大きすぎたため、付着防止性が不足した。比較例2は、主フィラメントの表面の算術平均粗さが小さすぎたため、フィラメント同士が強く密着して単糸が切れ、漁網用糸として不適であった。比較例3は、主フィラメントの漁網用糸の単位長さあたりに占める質量割合が少なすぎたため、漁網用糸を構成するフィラメントの本数が相対的に多くなり、漁網用糸の表面において凹凸が多くなったため、付着防止性が不足した。比較例4又は比較例5は、主フィラメントをPET単糸又はPE単糸にして表面の算術平均粗さを制御したが、いずれも付着防止性が不足した。主フィラメントの材質及び算術平均粗さの両方を適正にすることで、付着防止性が得られることが確認できた。
【0085】
次の実施例12〜15、比較例6〜9について付着防止性の評価及び藻・貝の付着量評価を行った。
【0086】
(付着防止性の評価及び藻・貝の付着量評価)
図3に示すように、漁網91をステンレス鋼製の枠92(内寸法50cm角)内に張り付けた試験サンプル90を、深さ10〜15mの海水中に投入した。試験場所及び試験期間は、条件1又は条件2で行った。試験期間終了後、試験サンプル90を引き上げて、実施例1と同様にして、付着防止性の評価を行った。その後、藻の付着量及び貝の付着量をそれぞれ測定し、数1より藻の付着度及び貝の付着度(単位:g/m)をそれぞれ計算した。
<条件1>
試験場所:静岡県網代地区(黒潮海域)
試験期間:4ヶ月(8〜11月期)
<条件2>
試験場所:宮城県金華山沖(親潮海域)
試験期間:3ヶ月(6〜8月期)
【0087】
(数1)藻(貝)の付着度=藻(貝)の付着量[g]/試験サンプルに用いた漁網用糸の長さの合計[m]
【0088】
(実施例12)
実施例1の漁網用糸を使用して漁網を作製し、条件1で試験を行った。
【0089】
(実施例13)
主フィラメントとして実施例4で使用したPVDF単糸と同種のものを50本と、副フィラメントとして実施例4で使用したPET単糸と同種のものを720本とを用意した。主フィラメント20本束を撚り合わせた主フィラメントヤーンを2本と、主フィラメント5本束を撚り合わせた主フィラメントヤーンを2本と、副フィラメント72本束を撚り合わせた副フィラメントヤーンを10本とを撚り合わせて漁網用糸を作製した。この漁網用糸は、主フィラメントの漁網用糸の単位長さあたりに占める質量割合が60質量%であった。また、漁網用糸の比重は1.61であった。この漁網用糸を使用して漁網を製作し、条件1で試験を行った。
【0090】
(比較例6)
実施例4の副フィラメントとして使用したPET単糸を3800本を用意し、PET単糸190本束を撚り合わせたヤーンを20本を撚り合わせて漁網用糸を作製した。この漁網用糸を使用して漁網を製作し、条件1で試験を行った。
【0091】
(比較例7)
比較例5の漁網用糸を使用して漁網を作製し、条件1で試験を行った。
【0092】
(実施例14)
実施例1の漁網用糸を使用して漁網を作製し、条件2で試験を行った。
【0093】
(実施例15)
実施例13の漁網用糸を使用して漁網を作製し、条件2で試験を行った。
【0094】
(比較例8)
比較例6の漁網用糸を使用して漁網を作製し、条件2で試験を行った。
【0095】
(比較例9)
比較例7の漁網用糸を使用して漁網を作製し、条件2で試験を行った。
【0096】
表3に、実施例12〜15及び比較例6〜9の漁網用糸の構成、藻・貝の付着量評価の結果及び付着防止性の評価結果をまとめた。
【0097】
【表3】
【0098】
表3に示すように、各実施例は、同条件で行った各比較例よりも藻の付着度及び貝の付着度が少なかった。実施例12、実施例14は、漁網用糸がPVDFだけからなるため、特に貝の付着量が少なかった。
【符号の説明】
【0099】
1a 主フィラメント
1b 副フィラメント
2a 主フィラメントヤーン
2b 副フィラメントヤーン
10,20 漁網用糸
90 試験サンプル
91 漁網
92 枠
図1
図2
図3