特許第6058497号(P6058497)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6058497
(24)【登録日】2016年12月16日
(45)【発行日】2017年1月11日
(54)【発明の名称】工作機械及びその制御方法
(51)【国際特許分類】
   G05B 19/18 20060101AFI20161226BHJP
   B23Q 15/08 20060101ALI20161226BHJP
【FI】
   G05B19/18 S
   B23Q15/08
【請求項の数】4
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-150812(P2013-150812)
(22)【出願日】2013年7月19日
(65)【公開番号】特開2015-22566(P2015-22566A)
(43)【公開日】2015年2月2日
【審査請求日】2016年1月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000149066
【氏名又は名称】オークマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078721
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 喜樹
(74)【代理人】
【識別番号】100121142
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 恭一
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 浩
【審査官】 中田 善邦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−195613(JP,A)
【文献】 特開2004−322246(JP,A)
【文献】 特開2003−218062(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B19/18−19/416,19/42−19/46,
B23Q15/00−15/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
工作物に加工を行う工具が取り付けられた主軸を回転駆動する回転駆動手段と、前記工具を前記工作物に対して相対的に移動させる移動手段と、を有し、前記回転駆動手段を制御して、前記主軸の回転速度を調整可能な回転速度調整手段を設けた工作機械であって、
前記回転駆動手段によって前記主軸が回転駆動して、前記工具で前記工作物に対する加工を開始したことを判断する加工開始判断手段を備え、
前記回転速度調整手段は、前記加工開始判断手段によって前記加工の開始を判断したことを条件として、前記主軸の回転速度を、予め設定した所定の回転速度に低下させてから下に凸であって上昇率が漸次大きくなる曲線状に上昇させて前記低下させる前の回転速度に到達させることを特徴とする工作機械。
【請求項2】
前記回転速度調整手段は、前記所定の回転速度に低下させた前記主軸の回転速度を、指数関数的に上昇させて該低下させる前の回転速度に到達させることを特徴とする請求項1に記載の工作機械。
【請求項3】
工作物に加工を行う工具が取り付けられた主軸を回転駆動し、前記工具を前記工作物に対して相対的に移動させて、前記主軸の回転速度を調整可能な工作機械の制御方法であって、
前記主軸が回転駆動して、前記工具で前記工作物に対する加工を開始したことを判断する加工開始判断ステップと、
前記加工開始判断ステップによって前記加工の開始を判断したことを条件として、前記主軸の回転速度を、予め設定した所定の回転速度に低下させてから下に凸であって上昇率が漸次大きくなる曲線状に上昇させて前記低下させる前の回転速度に到達させる回転速度調整ステップと、
を実行することを特徴とする工作機械の制御方法。
【請求項4】
前記回転速度調整ステップは、前記所定の回転速度に低下させた前記主軸の回転速度を、指数関数的に上昇させて該低下させる前の回転速度に到達させることを特徴とする請求項3に記載の工作機械の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、工作物に加工を行う工具が取り付けられた主軸の回転速度を所定の回転速度に調整可能な工作機械、前記工作機械の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1には、工作物に加工を行う工具が取り付けられた主軸を回転駆動する回転駆動手段と、前記工具を前記工作物に対して相対的に移動させる移動手段とを備えた工作機械であって、工具によって工作物を加工する1工程内において、工具で工作物に対する加工を開始してから所定の期間である加工開始期間に、主軸の回転速度を最終的な回転速度まで1次関数的に徐々に上昇させたり、工具の移動速度を最終的な移動速度まで1次関数的に徐々に上昇させるように制御することが開示されている。特許文献1の工作機械のように、主軸の回転速度を最終的な回転速度まで1次関数的に徐々に上昇させると、主軸の回転速度を急激に最終的な回転速度へ上昇させる場合と比較して、工作物への加工中に工具に加わる衝撃を緩和できるため、工具のチッピングの発生を抑制することが期待できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−322246号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のように主軸の回転速度を最終的な回転速度まで1次関数的に徐々に上昇させた場合でも、例えば工作物が難削材であるために、工具によって難削材に重切削を行う必要がある場合には、工具に加わる衝撃力をより小さくできないことから、工具のチッピングの発生を十分に抑制できず、工具の寿命が短くなることが懸念されていた。
【0005】
この発明は、このような状況に鑑み提案されたものであって、工具のチッピングの発生をより抑えて工具の寿命を延長させることができる工作機械、前記工作機械の制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1の発明に係る工作機械は、工作物に加工を行う工具が取り付けられた主軸を回転駆動する回転駆動手段と、前記工具を前記工作物に対して相対的に移動させる移動手段と、を有し、前記回転駆動手段を制御して、前記主軸の回転速度を調整可能な回転速度調整手段を設けた工作機械であって、前記回転駆動手段によって前記主軸が回転駆動して、前記工具で前記工作物に対する加工を開始したことを判断する加工開始判断手段を備え、前記回転速度調整手段は、前記加工開始判断手段によって前記加工の開始を判断したことを条件として、前記主軸の回転速度を、予め設定した所定の回転速度に低下させてから下に凸であって上昇率が漸次大きくなる曲線状に上昇させて前記低下させる前の回転速度に到達させることを特徴とする。
【0007】
請求項2の発明は、請求項1において、前記回転速度調整手段は、前記所定の回転速度に低下させた前記主軸の回転速度を、指数関数的に上昇させて該低下させる前の回転速度に到達させることを特徴とする。
【0008】
請求項3の発明に係る工作機械の制御方法は、工作物に加工を行う工具が取り付けられた主軸を回転駆動し、前記工具を前記工作物に対して相対的に移動させて、前記主軸の回転速度を調整可能な工作機械の制御方法であって、前記主軸が回転駆動して、前記工具で前記工作物に対する加工を開始したことを判断する加工開始判断ステップと、前記加工開始判断ステップによって前記加工の開始を判断したことを条件として、前記主軸の回転速度を、予め設定した所定の回転速度に低下させてから下に凸であって上昇率が漸次大きくなる曲線状に上昇させて前記低下させる前の回転速度に到達させる回転速度調整ステップと、を実行することを特徴とする。
【0009】
請求項4の発明は、請求項3において、前記回転速度調整ステップは、前記所定の回転速度に低下させた前記主軸の回転速度を、指数関数的に上昇させて該低下させる前の回転速度に到達させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
請求項1の発明に係る工作機械及び請求項3の発明に係る工作機械の制御方法によれば、工具による工作物への加工を開始した直後には、前記工具が取り付けられた主軸の回転速度を所定の回転速度に低下させることで、工作物への加工中に工具に加わる衝撃を緩和できる。よって、工具にチッピングが発生することを抑制できる。さらには工作物への加工を開始してから主軸の回転速度を低下させる前の回転速度に到達させるまでにも、主軸の回転速度の急激な上昇を抑えることで工具に加わる衝撃を緩和できるため、工具にチッピングが発生することを抑制できる。その結果、工具の寿命を延ばすことが可能になる。
請求項2及び4の発明によれば、所定の回転速度に低下させた主軸の回転速度を該低下させる前の回転速度に到達させるまでは、主軸の回転速度の急激な上昇を抑えることができる。これにより、主軸の回転速度を低下させる前の回転速度に到達させるまでに、工具に加わる衝撃を緩和することで、工具にチッピングが発生することを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施形態のマシニングセンタの概略構成図である。
図2】同マシニングセンタにおいて主軸の回転速度を指数関数的に上昇させる処理に関するフローチャートである。
図3】切削距離に対して漸増調整時の主軸回転速度が始動時の主軸回転速度へ到達する度合を示すグラフである。
図4】切削回数に対するチッピングの大きさの程度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施形態を図1ないし図4を参照しつつ説明する。図1に示すようにマシニングセンタ1は、基台2と、テーブル3と、コラム4と、主軸頭5と、制御装置6とを備えている。なお、マシニングセンタ1は本発明の工作機械の一例である。
【0013】
基台2の上面には、テーブル3と第1駆動モータ8とが設けられている。第1駆動モータ8の回転軸には、基台2の前後方向(Y方向)に延びるボールねじ9が同心で連結されている。さらに、テーブル3に固定されたナット部材(図示せず。)は、ボールねじ9と螺合している。第1駆動モータ8の駆動によってボールねじ9が回転すると、前記ナット部材がY方向に移動する。これに伴って、テーブル3をY方向へ移動させることができる。このテーブル3の上面には、工作物Wが着脱自在に固定される。
【0014】
また、基台2の上面でテーブル3の後方位置(図1の左側)にコラム4が立設されている。コラム4の前面(図1の右側)には、コラム4の正面視で左右方向(X方向)に延びる駆動軸11が回転可能に保持されている。この駆動軸11は、図示しない第2駆動モータの回転軸と同心で連結されている。そしてサドル12を駆動軸11の前側(図1の右側)に配置して、サドル12に固定されたナット部材(図示せず。)を駆動軸11に螺合させている。さらにテーブル3の上方でサドル12には、工具14を装着する工具主軸13を下向きに支持した主軸頭5が設けられている。主軸頭5には、工具主軸13を回転させる主軸モータMが組み込まれている。加えて、この主軸頭5に固定されたナット部材(図示せず。)を、サドル12の上下方向(Z方向)に延びるボールねじ15と螺合させている。そしてこのボールねじ15は、サドル12に固定された第3駆動モータ16の回転軸と同心で連結されている。本マシニングセンタ1では、前記第2駆動モータの駆動によって駆動軸11が回転すると、サドル12のナット部材がX方向に移動する結果、サドル12と共に工具14を、X方向に移動させることができる。一方、第3駆動モータ16の駆動によってボールねじ15が回転すると、主軸頭5のナット部材がZ方向に移動する結果、主軸頭5に設けた工具14を、Z方向に移動させることができる。工具14で工作物Wに切削加工を行う場合には、主軸モータMで工具主軸13を回転させて、工具14を回転させながらZ方向に移動させて工作物Wに切り込むと共に、該工具14をX方向へ移動させると共にテーブル3をY方向に移動させる。なお、第1及び第3駆動モータ8,16、第2駆動モータ、ボールねじ9,15及び駆動軸11、テーブル3と主軸頭5とサドル12との各ナット部材は、本発明の移動手段の一例である。また、主軸モータMは本発明の回転駆動手段の一例である。
【0015】
さらに図1に示すように制御装置6は、演算装置20と、記憶装置21と、主軸トルク測定装置22と、主軸回転速度調整装置23と、駆動モータ制御装置24とを備えている。演算装置20には、記憶装置21が接続されている。この記憶装置21には、工具主軸13に装着可能な各種の工具14の半径データ、工具主軸13の閾値トルクデータ、工具14にチッピングが発生することを抑制することを目的として主軸モータMの回転速度を制御する指令回転速度を算出する計算式、主軸モータMの始動時に該主軸モータMの回転速度を制御する指令回転速度データ、第1及び第3駆動モータ8,16、第2駆動モータの回転速度をそれぞれ制御する指令回転速度データ、NCプログラムがそれぞれ記憶されている。前記閾値トルクデータは、後述するように、工具14で工作物Wに対する切削加工を開始したか否かを検出するために用いられる。
【0016】
さらに、演算装置20には主軸トルク測定装置22が接続されており、この主軸トルク測定装置22は、主軸頭5内で工具主軸13の外側に配置されている。一例としてこの主軸トルク測定装置22は、工具14による工作物Wへの切削加工中に、該主軸トルク測定装置22のコイルに発生する起電力に基づいて、工具主軸13に加わるトルクを測定する。そして演算装置20は、主軸トルク測定装置22から工具主軸13の測定トルクデータを受信可能としている。
【0017】
加えて、演算装置20には主軸回転速度調整装置23が接続されており、この主軸回転速度調整装置23は、主軸モータMに接続されている。演算装置20は、後述するように測定トルクデータが閾値トルクデータを上回ると判断した場合に、記憶装置21に記憶された計算式を用いて主軸モータMの回転速度を制御する指令回転速度を算出する。主軸回転速度調整装置23は、演算装置20からこの指令回転速度に応じた回転速度指令を受信すると、主軸モータMに該回転速度指令を送信する。
【0018】
さらに加えて、演算装置20には駆動モータ制御装置24が接続されており、この駆動モータ制御装置24は、第1及び第3駆動モータ8,16、上記の第2駆動モータに接続されている。NCプログラムに基づいて工具14で工作物Wに切削加工を行う際に、駆動モータ制御装置24は、演算装置20から記憶装置21に記憶された指令回転速度データを受信する。この駆動モータ制御装置24は、指令回転速度データを受信すると、該指令回転速度データに応じた回転速度指令を第1及び第3駆動モータ8,16、第2駆動モータに送信する。これにより、第1駆動モータ8等の回転軸が所定の速度で回転する結果、工具14をX方向やZ方向に移動させたり、テーブル3をY方向に移動させる。
【0019】
次に、工具14による工作物Wへの切削距離が工具14の半径を下回る範囲で、制御装置6により工具主軸13の回転速度を調整する方法を図2のフローチャートに基づいて説明する。制御装置6の電源が投入されると演算装置20は、工具半径取得処理(S1)を実行する。この工具半径取得処理(S1)では、工具主軸13に装着した工具14の半径データを記憶装置21から取得する処理を実行する。
【0020】
工具半径取得処理(S1)の後には、演算装置20は主軸トルク取得処理(S2)を実行する。この主軸トルク取得処理(S2)では、記憶装置21に記憶された主軸モータMの始動時の指令回転速度データに応じた回転速度指令に基づき、主軸モータMによって所定の回転速度で回転させた工具14で工作物Wに切削加工を行う際に、主軸トルク測定装置22によって測定した工具主軸13の測定トルクデータを取得する処理を実行する。
【0021】
主軸トルク取得処理(S2)の後に演算装置20は、記憶装置21から閾値トルクデータを読み出して、主軸トルク取得処理(S2)によって取得した測定トルクデータと閾値トルクデータとを対比して、測定トルクデータが閾値トルクデータを上回るか否かを判断する(S3)。工具14で工作物Wに切削加工を行っておらず、S3で、測定トルクデータが閾値トルクデータを下回ると判断した場合には、主軸トルク取得処理(S2)に戻る。一方、主軸モータMによって所定の回転速度で回転させた工具14で工作物Wに対する切削加工を開始して、S3で、測定トルクデータが閾値トルクデータを上回ると判断した場合には、演算装置20は主軸回転速度変更処理(S4)を実行する。演算装置20は、S5において切削距離が工具14の半径を上回ると判断するまで主軸回転速度変更処理(S4)を繰り返し実行する。本実施形態では、S3において、測定トルクデータが閾値トルクデータを上回ると判断した場合に、工具14で工作物Wに対する切削加工を開始したと判断することで、正確な加工開始点から主軸回転速度変更処理(S4)を実行できる。
【0022】
主軸回転速度変更処理(S4)では、記憶装置21に記憶された下記の式(1)を用い、切削距離が工具14の半径を上回るまで主軸モータMの回転速度を制御する指令回転速度Sを順次算出する処理を実行する。そして演算装置20は、切削距離が前記半径を上回るまで前記指令回転速度Sに応じた指令回転速度データを主軸回転速度調整装置23に順次送信する処理を実行する。
=S×{0.8+0.2×exp[−7.5×(r−L)/r]}[min−1]・・・(1)
ここで、Sは工具主軸13の指令回転速度[min−1]、rは工具14の半径[mm]、Lは切削距離[mm]
【0023】
主軸回転速度変更処理(S4)では主軸回転速度調整装置23が、演算装置20から順次受信する指令回転速度データに応じた回転速度指令を主軸モータMに順次供給する。この指令回転速度データに応じた指令回転速度Sは、工具14による工作物Wへの切削加工を開始した直後は工具主軸13の指令回転速度Sの80パーセントになって、切削距離(L)の増加に従って指数関数的に漸次大きくなり、切削距離(L)が工具14の半径(r)と等しくなった時点で指令回転速度Sの100パーセントにあたる値に到達する。このため主軸モータMは、指令回転速度Sに応じた回転速度指令によって、図3に示すように、前記切削加工を開始した直後に工具主軸13の回転速度を始動時の80パーセントに低下させてから指数関数的に上昇させた後、切削距離(L)が前記半径(r、この例では25mm)と等しくなった時点で工具主軸13の回転速度を前記始動時の100パーセントにあたる値に到達させる。ここでは、工具主軸13の回転速度を始動時の80パーセントに低下させてから指数関数的に上昇させるようにすることを指数関数制御と呼ぶ。このような指数関数制御を行って、前記切削加工を開始した直後に工具14を装着した工具主軸13の回転速度を始動時の80パーセントに低下させると、切削加工中に工具14に加わる衝撃を緩和できる。よって、工具14にチッピングが発生することを抑制できる。さらには、切削加工を開始してから工具主軸13の回転速度を始動時の回転速度に到達させるまでにも、工具主軸13の回転速度の急激な上昇を抑えることで、工具14に加わる衝撃を緩和できる。これによっても、工具14にチッピングが発生することを抑制できる。なお、演算装置20及び主軸回転速度調整装置23は、本発明の回転速度調整手段の一例であり、工具主軸13の始動時の回転速度の80パーセントは本発明の所定の回転速度の一例である。また、主軸回転速度変更処理(S4)は本発明の回転速度調整ステップの一例である。
【0024】
そしてS5において演算装置20が、切削距離が工具14の半径を上回ると判断すると主軸回転速度変更処理(S4)を終了し、工具主軸13を始動時の回転速度で回転させながらNCプログラムに基づいて工具14で工作物Wに切削加工を行う。本実施形態では、切削距離が工具14の半径を下回る範囲に限って主軸回転速度変更処理(S4)を実行しており、切削距離が前記半径と等しくなるまでの時間は、工作物Wへの総切削加工時間と比較して極めて短い。したがって、主軸回転速度変更処理(S4)の実行中に工具主軸13の回転速度を始動時より低下させても、工作物Wの総加工時間は僅かに延びるだけで大幅に延びることはない。
【0025】
図4には、工具主軸13の回転速度の制御方法を異ならせて、切削回数に対する工具14のチッピングの大きさの程度を測定した例を示した。測定条件としては、工作物Wをチタン合金、工具14は直径50mmのミーリング工具として、切削速度を45m/min、送り速度を0.1mm/刃、工具軸方向の切り込みを15mm、工具径方向の切り込みを50mm、刃数4枚での溝切削加工を選択した。また、前記回転速度の制御方法としては、上述した指数関数制御、直線制御(図3参照。)、制御無を選択した。直線制御は、溝切削加工を開始した直後に回転速度を始動時の80パーセントに低下させてから1次関数的に上昇させた後に、切削距離がミーリング工具の半径と等しくなった時点で該回転速度を前記始動時の100パーセントにあたる値に到達させるものであり、制御無は、溝切削加工を開始した直後から切削距離がミーリング工具の半径と等しくなる時点まで回転速度を始動時の100パーセントの値に維持するものである。図4に示すようにいずれの制御方法においても、ミーリング工具での切削回数の増加に従って工具のチッピングは大きくなるが、切削回数が15回になると、指数関数制御でのチッピングの大きさの度合いは、制御無でのチッピングの大きさの1/8、直線制御でのチッピングの大きさの1/3.5であるという測定結果を得た。したがって、3つの制御方法の内で指数関数制御を行うと最もチッピングの発生を抑制できることを確認できた。これは、指数関数制御を行うと、ミーリング工具による工作物Wへの切削加工を開始してから暫くは工具主軸13の回転速度を始動時の80パーセントから僅かに上昇させるだけであるため、工具主軸13の回転速度を始動時の回転速度よりも低下させた状態を長くすることでチッピングが発生し難くなるからである。また、ミーリング工具によって難削材に重切削を行う必要がある場合でも、図4の測定結果から指数関数制御を行うと制御無や直線制御の場合と比較して、ミーリング工具のチッピングの発生を抑えることができる。その結果、重切削においてもミーリング工具の寿命を延長できるという利点がある。
【0026】
<本実施形態の効果>
本実施形態のマシニングセンタ1及びその制御方法では、工具14による工作物Wへの切削加工を開始した直後には、工具14を装着した工具主軸13の回転速度を始動時の80パーセントに低下させることで、切削加工中に工具14に加わる衝撃を緩和できる。よって、工具14にチッピングが発生することを抑制できる。さらには、切削加工を開始してから工具主軸13の回転速度を始動時の回転速度に到達させるまでにも、工具主軸13の回転速度の急激な上昇を抑えることで工具14に加わる衝撃を緩和できるため、工具14にチッピングが発生することを抑制できる。その結果、工具の寿命を延ばすことが可能になる。
【0027】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく発明の趣旨を逸脱しない範囲内において構成の一部を適宜変更して実施できる。上述した実施形態では、指数関数制御を行って工具14にチッピングが発生することを抑制する例を示したが、これに限らない。例えば、チッピングの発生を抑制するために、工具主軸13の回転速度を、始動時の80パーセントに低下させてから下に凸であって上昇率が漸次大きくなる2次関数的、3次関数的あるいは双曲線関数的に上昇させて始動時の回転速度の100パーセントにあたる値に到達させてもよい。このようにすることで、上述した実施形態と同様に、切削加工を開始してから工具主軸13の回転速度を始動時の回転速度に到達させるまでに、工具主軸13の回転速度の急激な上昇を抑えることで工具14に加わる衝撃を緩和できる。よって、工具14にチッピングが発生することを抑制できる。
【0028】
また、上述した実施形態とは異なり、工具主軸13の回転速度を、始動時の80パーセントを下回る適宜の回転速度に低下させてから指数関数的に上昇させるようにしてもよい。さらに、工作物Wの総加工時間が著しく延びないようにしつつ、切削距離が工具の半径を上回る範囲でも指数関数制御を行って、チッピングの発生を抑制してもよい。加えて、上述した実施形態とは異なり、例えば、X方向、Y方向、Z方向への送り指令を、工具14がワーク(工作物W)に寄り付いたり退避したりする場合に用いる早送り指令から加工時に用いる切削送り指令に切り替えた時点で、工具14で工作物Wに対する切削加工を開始したと判断してもよい。その他にも、工具14で工作物Wに対する切削加工を開始する切削加工開始点を指令する指令コードを有する加工制御プログラムを実行させて、演算装置20が前記指令コードを解析することで、前記切削加工を開始したと判断してもよい。
【符号の説明】
【0029】
1・・マシニングセンタ、8・・第1駆動モータ、9,15・・ボールねじ、11・・駆動軸、13・・工具主軸、14・・工具、16・・第3駆動モータ、20・・演算装置、23・・主軸回転速度調整装置、M・・主軸モータ、W・・工作物。
図1
図2
図3
図4