(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6058535
(24)【登録日】2016年12月16日
(45)【発行日】2017年1月11日
(54)【発明の名称】α/β処理を施した高強度チタンの熱延による歪み矯正
(51)【国際特許分類】
C22F 1/18 20060101AFI20161226BHJP
C22C 14/00 20060101ALI20161226BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20161226BHJP
【FI】
C22F1/18 H
C22C14/00 Z
!C22F1/00 612
!C22F1/00 623
!C22F1/00 624
!C22F1/00 626
!C22F1/00 630A
!C22F1/00 630B
!C22F1/00 630K
!C22F1/00 631Z
!C22F1/00 640A
!C22F1/00 650A
!C22F1/00 651B
!C22F1/00 683
!C22F1/00 685A
!C22F1/00 691A
!C22F1/00 691B
!C22F1/00 691C
!C22F1/00 694B
!C22F1/00 694Z
!C22F1/00 602
【請求項の数】29
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2013-521810(P2013-521810)
(86)(22)【出願日】2011年7月14日
(65)【公表番号】特表2013-543538(P2013-543538A)
(43)【公表日】2013年12月5日
(86)【国際出願番号】US2011043951
(87)【国際公開番号】WO2012015602
(87)【国際公開日】20120202
【審査請求日】2014年2月25日
(31)【優先権主張番号】12/845,122
(32)【優先日】2010年7月28日
(33)【優先権主張国】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】501187033
【氏名又は名称】エイティーアイ・プロパティーズ・エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100075270
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 泰
(74)【代理人】
【識別番号】100101373
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 茂雄
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100104374
【弁理士】
【氏名又は名称】野矢 宏彰
(72)【発明者】
【氏名】ブライアン,デヴィッド・ジェイ
【審査官】
佐藤 陽一
(56)【参考文献】
【文献】
特開2001−081537(JP,A)
【文献】
特開平08−090074(JP,A)
【文献】
特開平07−150274(JP,A)
【文献】
特開平07−258810(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22F 1/18
C22C 14/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
時効硬化した、形態を有する金属または金属合金を矯正するための方法であって、
時効硬化した、形態を有する金属または金属合金を矯正温度まで加熱すること、ここで前記矯正温度は、前記時効硬化した金属または金属合金の溶融温度(ケルビン)の0.3倍(0.3Tm)から前記金属または金属合金を硬化するために用いられる時効温度よりも25°F(13.9℃)低い温度までの矯正温度範囲内である;
矯正された時効硬化した金属または金属合金を提供するために、前記時効硬化した金属または金属合金を伸長および矯正するのに十分な時間の間、前記時効硬化した金属または金属合金に伸長による引張応力を印加すること、ここで前記矯正された時効硬化した金属または金属合金は、全ての5フィート(152.4cm)以下の長さにわたって0.125インチ(3.175mm)以下だけ直線から変位する;及び
前記矯正された時効硬化した金属または金属合金に引張応力を印加する一方で、前記矯正された時効硬化した金属または金属合金を同時に冷却すること、ここで前記冷却中に印加する引張応力は、前記冷却によって生じた前記金属または金属合金の応力を平衡化し、前記矯正された時効硬化した金属または金属合金のうちの全ての5フィート(152.4cm)以下の長さにわたって0.125インチ(3.175mm)以下の直線からの変位を維持するのに十分である;
を含み、
前記金属または金属合金が、チタン及びチタン合金より成る群から選択される、
方法。
【請求項2】
前記伸長応力は、前記時効硬化した金属または金属合金の前記矯正温度での降伏応力の少なくとも20%であり、かつ前記時効硬化した金属または金属合金の前記矯正温度での降伏応力未満である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記矯正された時効硬化した金属または金属合金は、前記矯正された時効硬化した金属または金属合金のうちの全ての5フィート(152.4cm)以下の長さにわたって0.094インチ(2.388mm)以下だけ直線から変位する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記矯正された時効硬化した金属または金属合金は、前記矯正された時効硬化した金属または金属合金の全ての10フィート(304.8cm)の長さにわたって0.25インチ(6.35mm)以下だけ直線から変位する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記時効硬化した金属または金属合金は、ビレット、ブルーム、丸棒、角棒、チューブ、パイプ、スラブ、シート、およびプレートからなる群から選択される形態である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記矯正温度は、前記金属または金属合金を硬化するために用いられる前記時効温度よりも200°F(111.1℃)低い温度から前記金属または金属合金を硬化するために用いられる前記時効硬化温度よりも25°F(13.9℃)低い温度までの範囲内である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
溶体化処理および時効処理を施した、形態を有するチタン合金を矯正するための方法であって、
溶体化処理および時効処理を施した、形態を有するチタン合金を矯正温度まで加熱すること、ここで前記矯正温度は、前記溶体化処理および時効処理を施したチタン合金のβトランザス温度よりも1100°F(611.1℃)低い温度から前記溶体化処理および時効処理を施したチタン合金の時効硬化温度よりも25°F(13.9℃)低い温度までの矯正温度範囲内のα+β相域の矯正温度を含む;
矯正された溶体化処理および時効処理を施したチタン合金を提供するために、前記溶体化処理および時効処理を施したチタン合金を伸長および矯正するのに十分な時間の間、前記溶体化処理および時効処理を施したチタン合金に伸長による引張応力を印加すること、ここで前記矯正された溶体化処理および時効処理を施したチタン合金は、全ての5フィートの(152.4cm)以下の長さにわたって0.125インチ(3.175mm)以下だけ直線から変位する;及び
前記矯正された溶体化処理および時効処理を施したチタン合金に引張応力を印加する一方で、前記矯正された溶体化処理および時効処理を施したチタン合金を同時に冷却すること、ここで前記冷却中に印加する引張応力は、前記矯正された溶体化処理および時効処理を施したチタン合金の前記冷却によって生じた応力を平衡化し、前記矯正された溶体化処理および時効処理を施したチタン合金のうちの全ての5フィート(152.4cm)以下の長さにわたって0.125インチ(3.175mm)以下の直線からの変位を維持するのに十分である;
を含む、方法。
【請求項8】
伸長による引張応力の印加および冷却後、前記矯正された溶体化処理および時効処理を施したチタン合金は、前記矯正された溶体化処理および時効処理を施したチタン合金のうちの全ての5フィート(152.4cm)以下の長さにわたって0.094インチ(2.388mm)以下だけ直線から変位する、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記矯正された溶体化処理および時効処理を施したチタン合金は、前記矯正された溶体化処理および時効処理を施したチタン合金のうちの全ての10フィート(304.8cm)の長さにわたって0.25インチ(6.35mm)以下だけ直線から変位する、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記矯正された溶体化処理および時効処理を施したチタン合金は、ビレット、ブルーム、丸棒、角棒、チューブ、パイプ、スラブ、シート、およびプレートからなる群から選択される形態である、請求項7に記載の方法。
【請求項11】
加熱することは、500°F/分(277.8℃/分)〜1000°F/分(555.6℃/分)の加熱速度で加熱することを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項12】
前記溶体化処理および時効処理を施したチタン合金を硬化するために用いられる前記時効硬化温度は、前記チタン合金のβトランザス温度よりも500°F(277.8℃)低い温度から前記チタン合金の前記βトランザス温度よりも900°F(500℃)低い温度までの範囲内である、請求項7に記載の方法。
【請求項13】
前記矯正温度は、前記溶体化処理および時効処理を施したチタン合金の前記時効硬化温度よりも200°F(111.1℃)低い温度から前記溶体化処理および時効処理を施したチタン合金の前記時効硬化温度よりも25°F(13.9℃)低い温度までの矯正温度範囲内である、請求項7に記載の方法。
【請求項14】
冷却することは、前記矯正された溶体化処理および時効処理を施したチタン合金の直線からの前記変位を変化させることなく、前記冷却による引張応力を除去することができる最終温度まで冷却することを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項15】
冷却することは、250°F(121.1℃)以下の最終温度まで冷却することを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項16】
前記チタン合金は、ニア(near)αチタン合金を含む、請求項7に記載の方法。
【請求項17】
前記チタン合金は、Ti−8Al−1Mo−1V合金(UNS R54810)およびTi−6Al−2Sn−4Zr−2Mo合金(UNS R54620)からなる群から選択される合金を含む、請求項7に記載の方法。
【請求項18】
前記チタン合金は、α+βチタン合金を含む、請求項7に記載の方法。
【請求項19】
前記チタン合金は、Ti−6Al−4V合金(UNS R56400)、Ti−6Al−4V ELI合金(UNS R56401)、Ti−6Al−2Sn−4Zr−6Mo合金(UNS R56260)、Ti−5Al−2Sn−2Zr−4Mo−4Cr合金(UNS R58650)、およびTi−6Al−6V−2Sn合金(UNS R56620)からなる群から選択される合金を含む、請求項7に記載の方法。
【請求項20】
前記チタン合金は、βチタン合金を含む、請求項7に記載の方法。
【請求項21】
前記チタン合金は、Ti−10V−2Fe−3Al合金(UNS 56410)、Ti−5Al−5V−5Mo−3Cr合金(UNSの割り当てなし)、Ti−5Al−2Sn−4Mo−2Zr−4Cr合金(UNS R58650)、およびTi−15Mo合金(UNS R58150)からなる群から選択される合金を含む、請求項7に記載の方法。
【請求項22】
前記溶体化処理および時効処理を施したチタン合金の矯正後の降伏強度および最大引張強さは、前記溶体化処理および時効処理を施したチタン合金の矯正前の降伏強度および最大引張強さから5パーセント以内減少する、請求項7に記載の方法。
【請求項23】
前記引張応力は、前記合金の冷却によって生じた応力を平衡化し、前記矯正された時効硬化した金属のうちの全ての5フィート(152.4cm)以下の長さにわたって0.094インチ(2.388mm)以下の直線からの変位を維持するのに十分である、請求項3に記載の方法。
【請求項24】
時効硬化した、形態を有する金属または金属合金を矯正するための方法であって、
時効硬化した、形態を有する金属または金属合金を矯正温度まで加熱すること、ここで前記矯正温度は、前記時効硬化した金属または金属合金の溶融温度(ケルビン)の0.3倍(0.3Tm)から前記金属または金属合金を硬化するために用いられる時効温度よりも25°F(13.9℃)低い温度までの矯正温度範囲内である;
矯正された時効硬化した金属または金属合金を提供するために、前記時効硬化した金属または金属合金を伸長および矯正するのに十分な時間の間、前記時効硬化した金属または金属合金に伸長による引張応力を印加すること、ここで、前記伸長応力は、前記矯正温度で前記時効硬化した金属または金属合金の降伏応力の少なくとも20%であり、かつ前記矯正温度で前記時効硬化した金属または金属合金の降伏応力未満であり、そして前記矯正された時効硬化した金属または金属合金は、全ての5フィート(152.4cm)以下の長さにわたって0.125インチ(3.175mm)以下だけ直線から変位する;及び
前記矯正された時効硬化した金属または金属合金に引張応力を印加する一方で、前記矯正された時効硬化した金属または金属合金を同時に冷却すること、ここで前記冷却中に印加する引張応力は、前記冷却によって生じた前記合金の応力を平衡化し、前記矯正された時効硬化した金属または金属合金のうちの全ての5フィート(152.4cm)以下の長さにわたって0.125インチ(3.175mm)以下の直線からの変位を維持するのに十分である;
を含み、
前記金属または金属合金が、チタン及びチタン合金より成る群から選択される、
方法。
【請求項25】
前記矯正された時効硬化した金属または金属合金は、全ての5フィート(152.4cm)以下の長さにわたって0.094インチ(2.388mm)以下だけ直線から変位する、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記引張応力は、前記金属または合金の冷却によって生じた応力を平衡化し、前記矯正された時効硬化した金属または金属合金のうちの全ての5フィート(152.4cm)以下の長さにわたって0.094インチ(2.388mm)以下の直線からの変位を維持するのに十分である、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記矯正された時効硬化した金属または金属合金は、前記矯正された時効硬化した金属または金属合金のうちの全ての10フィート(304.8cm)以下の長さにわたって0.25インチ(6.35mm)以下だけ直線から変位する、請求項24に記載の方法。
【請求項28】
前記時効硬化した金属または金属合金は、ビレット、ブルーム、丸棒、角棒、チューブ、パイプ、スラブ、シート、およびプレートからなる群から選択されるである、請求項24に記載の方法。
【請求項29】
前記矯正温度は、前記金属または金属合金を硬化するために用いられる前記時効温度よりも200°F(111.1℃)低い温度から前記金属または金属合金を硬化するために用いられる前記時効硬化温度よりも25°F(13.9℃)低い温度までの範囲内である、請求項24に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、α+β相域で時効処理を施した高強度チタン合金を歪み矯正するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
チタン合金は、典型的には高い強度対重量比を示し、耐食性であり、中程度に高い温度ではクリープに対して耐性である。これらの理由から、チタン合金は、例えば、着陸装置部材、エンジンフレーム、および他の重要な構造部品を含む航空宇宙および航空用途に使用される。また、チタン合金は、ローター、圧縮機翼、油圧システム部品、およびナセル等のジェットエンジン部品にも使用される。
【0003】
近年、航空宇宙産業におけるβチタン合金への関心およびその用途がさらに増大している。βチタン合金は、妥当な靭性および延性特性を維持する一方で、非常に高い強度に加工することが可能である。また、高温でのβチタン合金の流動応力が低いことから、加工の向上をもたらすことができる。
【0004】
しかしながら、例えば、合金のβトランザス温度は、典型的には1400°F〜1600°F(760℃〜871.1℃)の範囲であるため、βチタン合金をα+β相域で加工することは困難であり得る。また、生成物の所望の機械特性を達成するために、α+β溶体化処理および時効処理後に水焼入れまたは空気焼入れ等の急冷が必要である。α+β溶体化処理および時効処理を施した真直なβチタン合金棒は、例えば、急冷中に反るおよび/またはねじれる可能性がある(「溶体化処理および時効処理を施した」は、本明細書において「STA」と称されることがある)。さらに、βチタン合金に用いられなければならない低い時効温度、例えば、890°F〜950°F(477℃〜510℃)によって、その後の歪み矯正に用いることができる温度が大幅に制限される。矯正操作中の機械特性の著しい変化を防止するために、最終的な矯正は、時効温度未満で行われなければならない。
【0005】
例えば、長尺製品または棒形態のTi−6Al−4V合金等のα+βチタン合金の場合、ひずみを最小限に抑えるために高価な垂直溶体化熱処理および時効処理のプロセスが従来用いられている。従来技術のSTA処理の典型的な例は、棒等の長尺部品を垂直炉内に懸架し、α+β相域の温度で棒の溶体化処理を行い、α+β相域の低温で棒を時効処理することを含む。急冷、例えば水焼入れの後、時効温度よりも低い温度で棒を矯正することが可能であり得る。垂直配向に懸架されると、ロッド内の応力が事実上より放射状となり、より少ないひずみが生じる。STA処理したTi−6Al−4V合金(UNS R56400)棒は、次いで、例えば、ガス炉内で時効温度より低い温度まで加熱することによって矯正することができ、次いで、当業者に既知である2面、7面の、または他の矯正機を使用して矯正することができる。しかしながら、垂直熱処理および水焼入れ操作は高価であり、全てのチタン合金製造者にその能力があるわけではない。
【0006】
溶体化処理および時効処理を施したβチタン合金の室温強度が高いため、垂直熱処理等の従来の矯正方法は、棒等の長尺製品を矯正するのに有効ではない。例えば、800°F〜900°F(427℃〜482℃)で時効処理を行った後、STA準安定βチタンTi−15Mo合金(UNS R58150)は、室温で200ksi(1379MPa)の最大引張強さを有することができる。したがって、機械特性に影響を与えない使用可能な矯正温度が十分に低く、矯正力が印加されると合金から成る棒が粉砕する可能性があるため、STA Ti−15Mo合金は従来の矯正方法には適さない。
【0007】
したがって、時効処理を施した金属または金属合金の強度に重大な影響を与えない、溶体化処理および時効処理を施した金属および金属合金のための矯正プロセスが望ましい。
【発明の概要】
【0008】
本開示の一態様によれば、金属および金属合金のうちの1つから選択される時効硬化した金属形態を矯正するための方法の非限定的な実施形態は、時効硬化した金属形態を矯正温度まで加熱することを含む。ある実施形態において、矯正温度は、時効硬化した金属形態の溶融温度(ケルビン)の0.3倍(0.3Tm)から時効硬化した金属形態を硬化するために用いられる時効温度よりも少なくとも25°F(13.9℃)低い温度までの矯正温度範囲内である。矯正された時効硬化した金属形態を提供するために、時効硬化した金属形態を伸長および矯正するのに十分な時間の間、時効硬化した金属形態に伸長による引張応力を印加する。矯正された時効硬化した金属形態は、
全ての5フィート(152.4cm)
以下の長さにわたって0.125インチ(3.175mm)以下だけ直線から変位する。矯正された時効硬化した金属形態を冷却する一方で、合金の熱冷却による応力を平衡化し、矯正された時効硬化した金属形態の
うちの全ての5フィート(152.4cm)
以下の長さにわたる0.125インチ(3.175mm)以下の直線からの変位を維持するのに十分な冷却による引張応力を、矯正された時効硬化した金属形態に同時に印加する。
【0009】
溶体化処理および時効処理を施したチタン合金形態を矯正するための方法は、溶体化処理および時効処理を施したチタン合金形態を矯正温度まで加熱することを含む。矯正温度は、溶体化処理および時効処理を施したチタン合金形態のα+β相域の矯正温度を含む。ある実施形態において、矯正温度範囲は、溶体化処理および時効処理を施したチタン合金形態のβトランザス温度よりも1100°F(611.1℃)低い温度から溶体化処理および時効処理を施したチタン合金形態の時効硬化温度よりも25°F(13.9℃)低い温度までである。矯正された溶体化処理および時効処理を施したチタン合金形態を形成するために、溶体化処理および時効処理を施したチタン合金形態を伸長および矯正するのに十分な時間の間、溶体化処理および時効処理を施したチタン合金形態に伸長による引張応力を印加する。矯正された溶体化処理および時効処理を施したチタン合金形態は、
全ての5フィート(152.4cm)
以下の長さにわたって0.125インチ(3.175mm)以下だけ直線から変位する。矯正された溶体化処理および時効処理を施したチタン合金形態を冷却する一方で、矯正された溶体化処理および時効処理を施したチタン合金形態に冷却による引張応力を同時に印加する。冷却による引張応力は、矯正された溶体化処理および時効処理を施したチタン合金形態の熱冷却による応力を平衡化し、矯正された溶体化処理および時効処理を施したチタン合金形態の
うちの全ての5フィート(152.4cm)
以下の長さにわた
って0.125インチ(3.175mm)以下の直線からの変位を維持するのに十分である。
【0010】
本明細書に記載される方法の特徴および利点は、添付の図面を参照することによってより良く理解され得る。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本開示に従うチタン合金形態の熱延による矯正方法の非限定的な実施形態のフロー図。
【
図2】金属製棒材の直線からの変位を測定するための略図。
【
図3】本開示に従う金属製品形態の熱延による矯正方法の非限定的な実施形態のフロー図。
【
図4】溶体化処理および時効処理を施したTi−10V−2Fe−3Al合金の棒の写真。
【
図5】実施例7の非限定的な例のシリアル番号1の棒の矯正に関する温度対時間のチャート。
【
図6】実施例7の非限定的な例のシリアル番号2の棒の矯正に関する温度対時間のチャート。
【
図7】本開示の非限定的な実施形態に従う熱延による矯正後の溶体化処理および時効処理を施したTi−10V−2Fe−3Al合金の棒の写真。
【
図8】非限定的な実施例7の熱延により矯正した棒の微細構造の顕微鏡写真を含む。
【
図9】矯正していない溶体化処理および時効処理を施した実施例9の対照棒の顕微鏡写真を含む。
【0012】
読者は、以下の本開示に従う方法のある非限定的な実施形態の詳細な説明を考慮することにより、前述の詳細および他の詳細を理解するであろう。
ある非限定的な実施形態の詳細な説明
【0013】
本発明の非限定的な実施形態の説明において、操作の例以外で、または別途指示されない限り、量または特徴を表す全ての数字は、全ての場合において「約」という用語によって修飾されるものと理解されたい。したがって、それと反対の指示がない限り、以下の説明に記載されるいずれの数値パラメータも、本開示に従う方法において得ようとする所望の特性に応じて異なり得る近似値である。最低でも、かつ均等の原則を特許請求の範囲に適用することを限定しようとするものとしてではなく、各数値パラメータは、少なくとも、報告される有効数字の数に照らして、かつ通常の丸め技法を適用することによって解釈すべきである。
【0014】
参照によって全体または一部が本明細書に組み込まれると述べられるいずれの特許、刊行物、または他の開示材料も、組み込まれた材料が本開示に記載される既存の定義、陳述、または他の開示材料と矛盾しない程度に本明細書に組み込まれる。そのため、また必要な程度に、本明細書に記載される開示は、参照により本明細書に組み込まれるあらゆる矛盾する材料に優先する。参照により本明細書に組み込まれると言われているが、本明細書に記載されている既存の定義、記述、または他の開示資料と矛盾するいかなる資料またはその一部分も、その組み込まれる資料と既存の開示資料との間でいかなる矛盾も起こらない範囲で組み込まれる。
【0015】
次に、
図1のフロー図を参照すると、本開示に従う溶体化処理および時効処理を施したチタン合金形態を矯正するための熱延による矯正方法10の非限定的な実施形態は、溶体化処理および時効処理を施したチタン合金形態を矯正温度まで加熱すること12を含む。非限定的な実施形態において、矯正温度は、α+β相域内の温度である。別の非限定的な実施形態において、矯正温度は、チタン合金のβトランザス温度よりも約1100°F(611.1℃)低い温度から溶体化処理および時効処理を施した合金形態の時効硬化温度よりも約25°低い温度までの矯正温度範囲内である。
【0016】
本明細書で使用される場合、「溶体化処理および時効処理を施した」(STA)とは、チタン合金の2相領域、すなわちα+β相域において、溶体化処理温度でチタン合金を溶体化処理することを含む、チタン合金の熱処理プロセスを指す。非限定的な実施形態において、溶体化処理温度は、チタン合金のβトランザス温度よりも約50°F(27.8℃)低い温度からチタン合金のβトランザス温度よりも約200°F(111.1℃)低い温度までの範囲内である。別の非限定的な実施形態において、溶体化処理時間は、30分〜2時間の範囲である。ある非限定的な実施形態において、溶体化処理時間は、30分よりも短いか、または2時間よりも長くてもよく、通常、チタン合金形態のサイズおよび断面積に依存することを認識されたい。この2相領域の溶体化処理は、チタン合金中に存在するα相の大部分を溶解するが、粒成長をある程度妨げるα相がいくらか残る。合金化元素のかなりの部分がβ相に保有されるように、溶体化処理が完了すると、チタン合金の水焼入れを行う。
【0017】
次いで、微粒子のα相を沈殿させるのに十分な時効時間の間、溶体化処理温度よりも400°F(222.2℃)低い温度から溶体化処理温度よりも900°F(500℃)低い温度までの範囲の2相領域の時効温度(本明細書において時効硬化温度とも称される)で、溶体化処理を行ったチタン合金を時効処理する。非限定的な実施形態において、時効温度は、30分〜8時間の範囲であり得る。ある非限定的な実施形態において、時効時間は、30分よりも短いか、または8時間よりも長くてもよく、通常、チタン合金形態のサイズおよび断面積に依存することを認識されたい。STA処理は、高い降伏強度および高い最大引張強さを示すチタン合金を生成する。合金のSTA処理において用いられる一般的な技術は、当業者に既知であり、したがって本明細書には詳述しない。
【0018】
再び
図1を参照すると、加熱12の後に、STAチタン合金形態を伸長および矯正し、矯正されたSTAチタン合金形態を提供するのに十分な時間の間、STAチタン合金形態に伸長による引張応力が印加される14。非限定的な実施形態において、伸長による引張応力は、矯正温度ではSTAチタン合金形態の降伏応力の少なくとも約20%であり、矯正温度でのSTAチタン合金形態の降伏応力と同等又はそれ以上ではない。非限定的な実施形態において、伸長を維持するために、矯正ステップの間に印加される伸長による引張応力を増加させることができる。非限定的な実施形態において、伸長による引張応力は、伸長中に2倍に増加する。非限定的な実施形態において、STAチタン合金製品形態は、900°F(482.2℃)で約60ksiの降伏強度を有し、印加される伸長応力は、矯正開始時には900°Fで約12.7ksi、伸長ステップ終了時には約25.5ksiであるTi−10V−2Fe−3Al合金(UNS56410)を含む。
【0019】
別の非限定的な実施形態において、伸長による引張応力14の印加後、矯正されたSTAチタン合金形態は、
全ての5フィート(152.4cm)
以下の長さにわたって0.125インチ(3.175mm)以下だけ直線から変位する。
【0020】
形態を冷却しながら伸長による引張応力を印加することができることは、本開示の非限定的な実施形態の範囲内であることを認識されたい。しかしながら、応力は温度の関数であるため、温度が低下するにつれて、形態を伸長および矯正し続けるために必要な伸長応力が増加する必要があることを理解されたい。
【0021】
非限定的な実施形態において、STAチタン合金形態が十分に矯正されると、STAチタン合金形態を冷却する16一方で、矯正された溶体化処理および時効処理を施したチタン合金形態に冷却による引張応力18を同時に印加する。非限定的な実施形態において、冷却による引張応力は、冷却中にSTAチタン合金形態が反らない、湾曲しない、またはひずまないように、矯正されたSTAチタン合金形態の熱冷却による応力を平衡化するのに十分である。非限定的な実施形態において、冷却による応力は伸長による応力と等しい。冷却中に製品形態の温度が低下するため、伸長による引張応力と等しい冷却による引張応力を印加することは、製品形態のさらなる伸長を引き起こすのではなく、製品形態の冷却による応力が製品形態を反らせるのを防止する役割を果たし、伸長ステップにおいて確立された直線からの変位を維持することを認識されたい。
【0022】
非限定的な実施形態において、冷却による引張応力は、矯正されたSTAチタン合金形態の
うちの全ての5フィートの(152.4cm)
以下の長さにわた
って0.125インチ(3.175mm)以下の直線からの変位を維持するのに十分である。
【0023】
非限定的な実施形態において、伸長による引張応力および冷却による引張応力は、STAチタン合金形態のクリープ形成を可能にするのに十分である。クリープ形成は、通常は弾性領域において起こる。いずれか任意の理論に拘束されることを望むものではないが、矯正温度で通常、弾性領域において印加される応力が、製品形態の矯正をもたらす粒界すべりおよび動的転位回復を可能にするものであると考えられる。冷却による引張応力を製品形態上に維持することによって冷却および熱冷却による応力を相殺した後、移動した転位および粒界は、STAチタン合金製品形態の新しい弾性状態をとる。
【0024】
図2を参照すると、例えば棒22等の製品形態の直線からの変位を決定するための方法20において、棒22は、真っ直ぐな端24の隣に並べられる。棒22の曲率は、棒が真っ直ぐな端24から湾曲することにより離れた距離として、巻尺等の長さを測定するために使用されるデバイスを用いて、棒上の湾曲したまたはねじれた位置で測定される。直線(
図2の26)からの最大変位、すなわち、棒22の所定の長さ内で真っ直ぐな端24からの棒22の最大距離を決定するために、真っ直ぐな端からの各ねじれまたは湾曲の距離を棒28の所定の長さに沿って測定する。他の製品形態の直線からの変位を定量化するために同じ技法が用いられてもよい。
【0025】
別の非限定的な実施形態において、本開示に従って伸長による引張応力を印加した後、矯正されたSTAチタン合金形態は、矯正されたSTAチタン合金形態の
うちの全ての5フィート(152.4cm)
以下の長さにわたって0.094インチ(2.388mm)以下だけ直線から変位する。さらに別の非限定的な実施形態において、本開示に従って冷却による引張応力を印加しながら冷却した後、矯正されたSTAチタン合金形態は、矯正されたSTAチタン合金形態の
うちの全ての5フィート(152.4cm)
以下の長さにわたって0.094インチ(2.388mm)以下だけ直線から変位する。さらに別の非限定的な実施形態において、本開示に従って伸長による引張応力を印加した後、矯正されたSTAチタン合金形態は、矯正されたSTAチタン合金形態の
うちの全ての10フィート(304.8cm)
以下の長さにわたって0.25インチ(6.35mm)以下だけ直線から変位する。さらに別の非限定的な実施形態において、本開示に従って冷却による引張応力を印加しながら冷却した後、矯正されたSTAチタン合金形態は、矯正されたSTAチタン合金形態の
うちの全ての10フィート(304.8cm)
以下の長さにわたって0.25インチ(6.35mm)以下だけ直線から変位する。
【0026】
伸長および冷却による引張応力を均一に印加するために、本開示に従う非限定的な実施形態において、STAチタン合金形態は、STAチタン合金形態の断面全体にわたってしっかりと把持され得なければならない。非限定的な実施形態において、STAチタン合金形態の形状は、本開示の方法に従って引張応力を印加するための適切な把持部を製造することができる任意のミル(mill) 生成物の形状であってもよい。本明細書で使用される「ミル生成物」は、その後、製造されたままで使用されるか、または中間生成物もしくは最終生成物へとさらに製造される、任意の金属製の、すなわち金属または金属合金の、ミルの生成物である。非限定的な実施形態において、STAチタン合金形態は、ビレット、ブルーム、丸棒、角棒、押し出し材、チューブ、パイプ、スラブ、シート、およびプレートのうちの1つを含む。本開示に従って伸長および冷却による引張応力を印加するための把持部および機械は、例えば、Cyril Bath Co.,Monroe(North Carolina,USA)から入手可能である。
【0027】
本開示の驚くべき態様は、STAチタン合金形態の引張強さを大幅に減少することなく、STAチタン合金形態を熱延により矯正する能力である。例えば、非限定的な実施形態において、本開示の非限定的な方法に従って熱延により矯正されたSTAチタン合金形態の平均降伏強度および平均最大引張強さは、熱延による矯正の前の値からわずか5パーセント減少するのみである。熱延による矯正によってもたらされた特性における最大の変化は伸長率に観察された。例えば、本開示に従う非限定的な実施形態において、チタン合金形態の伸長率の平均値は、熱延による矯正後に約2.5%の絶対的減少を示した。いずれかの操作の理論に拘束されることを意図するものではないが、伸長率の減少は、本開示に従う熱延による矯正の非限定的な実施形態の間に起こるSTAチタン合金形態の伸長によって起こり得ると考えられる。例えば、非限定的な実施形態において、本開示の熱延による矯正の後、矯正されたSTAチタン合金形態は、熱延による矯正前のSTAチタン合金形態の長さに対して約1.0%〜約1.6%伸長することができる。
【0028】
STAチタン合金形態を本開示に従って矯正温度まで加熱することは、限定されないが、箱型焼鈍炉内での加熱、放射加熱、および形態の誘導加熱等を含む、棒の矯正温度を維持することができる任意の単一加熱形態または加熱形態の組み合わせを用いることができる。形態の温度をSTA処理の間に用いられる時効温度より少なくとも25°F(13.9℃)確実に低く保つために、形態の温度を監視しなければならない。非限定的な実施形態において、形態の温度は、熱電対または赤外線センサを使用して監視される。しかしながら、当業者に既知である他の加熱手段および温度を監視する手段も、本開示の範囲内である。
【0029】
非限定的な一実施形態において、STAチタン合金形態の矯正温度は、一貫して比較的均一であるべきであり、位置ごとに100°F(55.6℃)を超えて異なるべきではない。限定されないが、降伏強度および最大引張強さを含む機械特性が悪影響を受け得るため、STAチタン合金形態の任意の位置の温度は、STA時効温度を超えて増加しないことが好ましい。
【0030】
より急速な加熱速度は、矯正温度の超過をもたらし得、かつ機械特性の損失を引き起こし得るということに予め注意していれば、STAチタン合金形態を矯正温度まで加熱する速度は重要ではない。標的とする矯正温度を超えないように、またはSTA時効温度よりも少なくとも25°F(13.9℃)低い温度を超えないように予防措置を取ることにより、より急速な加熱速度は、部品間の矯正サイクル時間をより短縮し、生産性の向上をもたらすことができる。非限定的な実施形態において、矯正温度までの加熱は、500°F/分(277.8℃/分)〜1000°F/分(555.6℃/分)の加熱速度で過熱することを含む。
【0031】
STAチタン合金形態の任意の局所領域は、好ましくは、STA時効温度以上の温度に達するべきではない。非限定的な実施形態において、形態の温度は、常にSTA時効温度より少なくとも25°F(13.9℃)低くあるべきである。非限定的な実施形態において、STA時効温度(また、本明細書において時効硬化温度、α+β相域における時効硬化温度、および時効温度と様々に称される)は、チタン合金のβトランザス温度よりも500°F(277.8℃)低い温度からチタン合金のβトランザス温度よりも900°F(500℃)低い温度までの範囲内であり得る。他の非限定的な実施形態において、矯正温度は、STAチタン合金形態の時効硬化温度よりも50°F(27.8℃)低い温度からSTAチタン合金形態の時効硬化温度よりも200°F(111.1℃)低い温度までの矯正温度範囲内であるか、または時効硬化温度よりも25°F(13.9℃)低い温度から時効硬化温度よりも300°F(166.7℃)低い温度までの矯正温度範囲内である。
【0032】
本開示に従う方法の非限定的な実施形態は、矯正されたSTAチタン合金形態を最終温度まで冷却することを含み、その時点で、矯正されたSTAチタン合金形態の直線からの変位を変化させることなく、冷却による引張応力を除去することができる。非限定的な実施形態において、冷却は、250°F(121.1℃)以下の最終温度まで冷却することを含む。STAチタン合金形態の真直度を変位させずに冷却による引張応力を除去する一方で、室温よりも高い温度まで冷却する能力は、部品間の矯正サイクル時間を短縮し、生産性の向上を可能にする。別の非限定的な実施形態において、冷却は、本明細書において約64°F(18℃)〜約77°F(25℃)と定義される室温まで冷却することを含む。
【0033】
本開示の態様は、本明細書に開示される熱延による矯正のある非限定的な実施形態を、全部ではないにしろ、限定されないが、従来、矯正するのが困難であると考えられている金属および金属合金を含む、多くの金属および金属合金を含む実質的にあらゆる金属形態に使用することができることであると理解されるであろう。驚くべきことに、本明細書に開示される熱延による矯正方法の非限定的な実施形態は、従来、矯正するのが困難であると考えられているチタン合金に対して効果的であった。本開示の範囲内の非限定的な実施形態において、チタン合金形態は、ニアαチタン合金を含む。非限定的な実施形態において、チタン合金形態は、Ti−8Al−1Mo−1V合金(UNS 54810)およびTi−6Al−2Sn−4Zr−2Mo合金(UNS R54620)のうちの少なくとも1つを含む。
【0034】
本開示の範囲内の非限定的な実施形態において、チタン合金形態は、α+βチタン合金を含む。別の非限定的な実施形態において、チタン合金形態は、Ti−6Al−4V合金(UNS R56400)、Ti−6Al−4V ELI合金(UNSR56401)、Ti−6Al−2Sn−4Zr−6Mo合金(UNS R56260)、Ti−5Al−2Sn−2Zr−4Mo−4Cr合金(UNS R58650)、およびTi−6Al−6V−2Sn合金(UNS R56620)のうちの少なくとも1つを含む。
【0035】
さらに別の非限定的な実施形態において、チタン合金形態は、βチタン合金を含む。本明細書で使用される「βチタン合金」は、限定されないが、βチタン合金および準安定βチタン合金を含む。非限定的な実施形態において、チタン合金形態は、Ti−10V−2Fe−3Al合金(UNS 56410)、Ti−5Al−5V−5Mo−3Cr合金(UNSの割り当てなし)、Ti−5Al−2Sn−4Mo−2Zr−4Cr合金(UNS R58650)、およびTi−15Mo合金(UNS R58150)のうちの1つを含む。ある非限定的な実施形態において、チタン合金形態は、Ti−10V−2Fe−3Al合金(UNS 56410)の形態である。
【0036】
あるβチタン合金、例えば、Ti−10V−2Fe−3Al合金では、従来の矯正プロセスを用いてこれらの合金のSTA形態を本明細書に開示される許容誤差まで矯正する一方で、同時に合金の所望の機械特性を維持することは不可能であることに留意されたい。βチタン合金の場合、βトランザス温度が市販の純粋なチタンよりも本質的に低い。したがって、STA時効温度もより低くなければならない。さらに、限定されないがTi−10V−2Fe−3Al合金等のSTAβチタン合金は、200ksi(1379MPa)よりも高い最大引張強さを示すことができる。STA時効温度よりも25°F(13.9℃)以下だけ低い温度で2面矯正機を使用する等の従来の延伸方法を用いて、そのような高い強度を有するSTAβチタン合金棒を矯正することを試みると、棒は、粉砕する強い傾向を示す。驚くべきことに、本開示に従う非制限的な熱延による矯正方法の実施形態を用いると、破砕することなく、平均的な収率損失および約5%の最大引張強さで、これらの高強度STAβチタン合金を本明細書に開示される許容誤差まで矯正することができることが発見された。
【0037】
以上の考察は、主として、矯正されたチタン合金形態およびSTAチタン合金形態を矯正する方法に関係するものであるが、本明細書に開示される熱延による矯正の非限定的な実施形態は、事実上あらゆる時効硬化した金属生成物、すなわち、あらゆる金属または金属合金を含む金属生成物に対して良好に用いることができる。
【0038】
図3を参照すると、本開示に従う非限定的な実施形態において、金属および金属合金のうちの1つを含む溶体化処理および時効硬化した金属形態を矯正するための方法30は、時効硬化した金属形態の溶融温度(ケルビン)の0.3倍(0.3Tm)から時効硬化した金属形態を硬化するために用いられる時効温度よりも少なくとも25°F(13.9℃)低い温度までの矯正温度範囲内の矯正温度まで、溶体化処理および時効硬化した金属形態を加熱すること32を含む。
【0039】
本開示に従う非限定的な実施形態は、矯正された時効硬化した金属形態を提供するために、時効硬化した金属形態を伸長および矯正するのに十分な時間の間、伸長による引張応力を溶体化処理および時効硬化した金属形態に印加すること34を含む。非限定的な実施形態において、伸長による引張応力は、矯正温度で時効硬化した金属形態の降伏応力の少なくとも約20%であり、矯正温度でのSTAチタン合金形態の降伏応力と同等又はそれ以上ではない。非限定的な実施形態において、伸長を維持するために、矯正ステップの間に、印加される伸長による引張応力を増加させることができる。非限定的な実施形態において、伸長による引張応力は、伸長の間に2倍に増加する。非限定的な実施形態において、矯正された時効硬化した金属形態は、
全ての5フィート(152.4cm)
以下の長さにわたって0.125インチ(3.175mm)以下だけ直線から変位する。非限定的な実施形態において、矯正された時効硬化した金属形態は、矯正された時効硬化した金属形態の
うちの全ての5フィート(152.4cm)
以下の長さにわたって0.094インチ(2.388mm)以下だけ直線から変位する。さらに別の非限定的な実施形態において、矯正された時効硬化した金属形態は、矯正された時効硬化した金属形態の
うちの全ての10フィート(304.8cm)の長さにわたって0.25インチ(6.35mm)以下だけ直線から変位する。
【0040】
本開示に従う非限定的な実施形態は、矯正された時効硬化した金属形態に冷却による引張応力を印加38しながら、矯正された時効硬化した金属形態を同時に冷却すること36を含む。別の非限定的な実施形態において、冷却による引張応力は、冷却中に強化された時効硬化した金属形態が反らない、湾曲しない、またはひずまないように、矯正された時効硬化した金属形態の熱冷却による応力を平衡化するのに十分である。非限定的な実施形態において、冷却による応力は、伸長による応力と等しい。冷却中に製品形態の温度が低下するため、伸長による引張応力と等しい冷却による引張応力を印加することは、製品形態のさらなる伸長を引き起こすのではなく、製品形態における冷却による応力が製品形態を反らせるのを防止する役割を果たし、伸長ステップにおいて確立された直線からの変位を維持することを認識されたい。別の非限定的な実施形態において、冷却による引張応力は、時効硬化した金属形態が冷却中に反らない、湾曲しない、またはひずまないように合金の熱冷却による応力を平衡化するのに十分である。さらに別の非限定的な実施形態において、時効硬化した金属形態が、矯正された時効硬化した金属形態の
うちの全ての5フィート(152.4cm)
以下の長さにわた
って0.125インチ(3.175mm)以下の直線からの変位を維持するように、冷却による引張応力は、合金の熱冷却による応力を平衡化するのに十分である。さらに別の非限定的な実施形態において、時効硬化した金属形態が、
全ての5フィート(152.4cm)
以下の長さにわたって0.094インチ(2.388mm)以下の直線からの変位を維持するように、冷却による応力は、合金の熱冷却による応力を平衡化するのに十分である。さらに別の非限定的な実施形態において、時効硬化した金属形態が、矯正した時効硬化した金属形態の
うちの全ての10フィート(304.8cm)の長さにわたって0.25インチ(6.35mm)以下の直線からの変位を維持するように、冷却による応力は、合金の熱冷却による応力を平衡化するのに十分である。
【0041】
本開示に従う種々の非限定的な実施形態において、溶体化処理および時効硬化した金属形態は、チタン合金、ニッケル合金、アルミニウム合金、および鉄合金のうちの1つを含む。また、本開示に従うある非限定的な実施形態において、溶体化処理および時効硬化した金属形態は、ビレット、ブルーム、丸棒、角棒、押し出し材、チューブ、パイプ、スラブ、シート、およびプレートから選択される。
【0042】
本開示に従う非限定的な実施形態において、矯正温度は、時効硬化した金属形態を硬化するために用いられる時効硬化温度よりも200°F(111.1℃)低い温度から時効硬化した金属形態を硬化するために用いられる時効硬化温度よりも25°F(13.9℃)低い温度までの範囲内である。
【0043】
以下の実施例は、本発明の範囲を限定することなく、ある非限定的な実施形態を詳述することを意図するものである。当業者は、特許請求の範囲によってのみ定義される以下の実施例の変形例が本発明の範囲内であり得ることを理解するであろう。
実施例1
【0044】
この比較例において、棒を矯正するためのロバストなプロセスを特定する試みにおいて、溶体化処理、時効処理、および従来の矯正を数回順序を変えて用いて、10フィートの長さのTi−10V−2Fe−3Al合金の棒を数本製造および加工した。棒の直径は、0.5インチ〜3インチ(1.27cmインチ7.62cm)の範囲であった。1375°F(746.1°)〜1475°F(801.7℃)の温度で棒の溶体化処理を行った。次いで、900°F(482.2℃)〜1000°F(537.8℃)の範囲の時効温度で棒の時効処理を行った。矯正について評価されたプロセスは以下を含む:(a)垂直溶体化処理および時効温度未満での2面矯正、(b)垂直溶体化熱処理に続く1400°F(760℃)での2面矯正、時効処理、および時効温度よりも25°F(13.9°F)低い温度での2面矯正、(c)1400°F(760℃)での矯正に続く垂直溶体化処理および時効処理、ならびに時効温度よりも25°F(13.9°F)低い温度での2面矯正、(d)高温溶体化熱処理に続く1400°F(760℃)での2面矯正、垂直溶体化処理および時効処理、ならびに時効温度よりも25°F(13.9℃)低い温度での2面矯正、(e)ミル焼きなましに続く1100°F(593.3℃)での2面矯正、および時効温度よりも25°F(13.9℃)低い温度での2面矯正。
【0045】
加工したバーの真直度について目視検査を行い、合格または不合格のいずれかに等級分けした。(e)と名付けられたプロセスが最も有効であることが観察された。しかしながら、垂直STA熱処理を用いた全ての試みは、わずか50%の合格率であった。
実施例2
【0046】
この実施例には、Ti−10V−2Fe−3Al合金の直径1.875インチ(47.625mm)の10フィート(3.048m)棒を2本使用した。据え込みを行った単一の再結晶化ビレットから生成された回転鍛造したリロール(reroll)から、α+β相域の温度で棒を圧延した。900°F(482.2℃)で高温引張試験を行い、利用可能な機器で矯正することができる棒の最大直径を決定した。高温引張試験により、直径1.0インチ(2.54cm)の棒が機器の限度内であることが示された。直径1.0インチ(2.54cm)の棒になるまで棒を剥離した。次いで、1460°F(793.3℃)で2時間棒の溶体化処理を行い、水焼入れを行った。940°F(504.4℃)で8時間、棒の時効処理を行った。ある程度のねじれおよび波形を伴って直線から約2インチ(5.08cm)変位するように、棒の真直度を測定した。STA棒は、2つの異なる種類の弓形を呈した。第1の棒(シリアル番号1)は、端部が比較的直線的であり、中心部にかけて直線から約2.1インチ(5.334cm)の緩やかな弓形を有することが観察された。第2の棒(シリアル番号2)は、中心部付近は極めて直線的であるが、端部付近によじれを有していた。直線からの最大変位は、約2.1インチ(5.334cm)であった。焼入れを行ったままの状態の棒の表面仕上げは、極めて均一な酸化表面を呈していた。
図4は、溶体化処理および時効処理後の棒の代表的な写真である。
実施例3
【0047】
実施例2の溶体化処理および時効処理を施した棒を、本開示の非限定的な実施形態に従って熱延により矯正した。棒温度の制御のための温度フィードバックは、部品の中心に位置する熱電対を介して行った。しかしながら、熱電対接着による固有差に対応するために、それらの端部付近の部品にさらなる2つの熱電対を溶接した。
【0048】
第1の棒は、主制御熱電対の不良を経験し、加熱ランプの間に振動を引き起こした。これが、別の制御異常とともに、部品の所望温度である900°F(482.2℃)の超過をもたらした。2分未満の間に約1025°F(551.7℃)の高温達した。第1の棒に別の熱電対を再度搭載したところ、前回に実行したソフトウェア制御プログラムの誤差のために同様のオーバーシュートが起こった。この実施例に使用したサイズの棒を2分の間に室温から1000°F(537.8℃)まで加熱することができる許容最大出力で第1の棒を加熱した。
【0049】
プログラムをリセットし、第1の棒の矯正プログラムを進めた。記録された最高温度は、棒の一方の端部付近に配置された熱電対番号2(TC番号2)による944°F(506.7℃)であった。TC番号2は、出力下で軽度の温接点不良を経験したものと考えられる。このサイクルの間、棒の中心に配置された熱電対番号0(TC#0)が、最大温度908°F(486.7℃)を記録した。矯正中に、TC番号2とは反対の棒の端部に配置された熱電対番号1(TC番号1)が棒から落下し、棒の温度の読み取りを中止した。シリアル番号1の棒に関するこの最終加熱サイクルの温度グラフを
図5に示す。第1の棒(シリアル番号1)のサイクル時間は50分であった。伸長ステップの最後に棒上に印加されたトン数を維持しながら、棒を250°F(121.1℃)まで冷却した。
【0050】
3分間かけて第1の棒を0.5インチ(1.27cm)伸長した。その相の間のトン数は、最初の5トン(44.5kN)から終了後の10トン(89.0kN)まで増加した。棒が1インチ(2.54cm)の直径を有するため、これらのトン数は、12.7ksi(87.6MPa)および25.5ksi(175.8MPa)の引張応力に変換される。部品は、温度制御不良のために中断された前回の加熱サイクル中に伸長も経験した。矯正後に測定された合計伸長は、1.31インチ(3.327cm)であった。
【0051】
熱電対の接着点付近で第2の棒(シリアル番号2)を注意深く清浄し、熱電対を接着して明らかな不具合について検査した。第2の棒を標的設定点である900°F(482.2℃)まで加熱した。TC番号1が973°F(522.8℃)の温度を記録したのに対し、TC番号0およびTC番号2は、それぞれ、909°F(487.2℃)および911°F(488.3℃)の温度を記録したのみであった。TC番号1は、約700°F(371.1℃)までは順調に他の2つの熱電対の後を追っていたが、その時点で、
図6に見られるようなある程度の変位が観察された。ここでも同様に、熱電対の接着が変位の源であることが疑われた。この部品の合計サイクル時間は45分であった。第2の棒(シリアル番号2)を第1の棒(シリアル番号1)について記載したように熱延した。
【0052】
熱延により矯正した棒(シリアル番号1およびシリアル番号2)を
図7の写真に示す。棒は、
全ての5フィート(1.524m)の長さにわたって0.094インチ(2.387mm)の直線からの最大変位を有していた。熱延による矯正中、シリアル番号1の棒を1.313インチ(3.335cm)延長し、シリアル番号2の棒を2.063インチ(5.240cm)延長した。
【0053】
実施例3に従う熱延による矯正後のシリアル番号1およびシリアル番号2の棒の化学的性質を、実施例2の1.875インチ(47.625mm)の棒の化学的性質と比較した。実施例3の棒は、矯正したシリアル番号1およびシリアル番号2の棒と同じ熱で生成した。化学分析の結果を表1に示す。
【表1】
実施例3の非限定的な実施形態に従う熱延による矯正からは、化学的性質に変化が起こらなかったことが観察された。
実施例5
【0054】
熱延により矯正したシリアル番号1およびシリアル番号2の棒の機械特性を、溶体化処理および時効処理を施し、1400°Fで2面矯正し、バンプ形成した対照棒と比較した。バンプ形成は、金型を用いて棒に少量の力を加え、棒の長尺にわたって少量の屈曲を作成するプロセスである。Ti−10V−2Fe−3Al合金から成る対照棒は、1.772インチ(4.501cm)の直径であった。1460°F(793.3℃)で2時間、対照棒のα+β溶体化処理を行い、水焼入れを行った。950°F(510℃)で8時間、対照棒の時効処理を行い、空気焼入れを行った。対照棒および熱延により矯正した棒の引張特性および破壊靱性を測定し、その結果を表2に示す。
【表2】
【0055】
熱延により矯正した棒の全ての特性は、標的必要条件および最低必要条件を満たす。熱延により矯正したシリアル番号1およびシリアル番号2の棒は、若干低い延性および断面収縮率(RA)の値を有しており、それは、矯正中に起こる伸長の結果である可能性が高い。しかしながら、熱延による矯正後の引張強さは、矯正していない対照棒と同等であると考えられる。
実施例6
【0056】
熱延により矯正したシリアル番号1およびシリアル番号2の棒の縦方向の微細構造を、実施例5の矯正していない対照棒の縦方向の微細構造と比較した。実施例3の熱延により矯正した棒の微細構造の顕微鏡写真を
図8に示す。顕微鏡写真は、同じサンプル上の2つの異なる位置から撮った。実施例5の矯正していない対照棒の微細構造の顕微鏡写真を
図9に示す。微細構造が非常に類似していることが観察される。
【0057】
本開示を、種々の例示的、例証的なものであり、かつ限定的でない実施形態に関して記述してきた。しかしながら、特許請求の範囲によってのみ定義される本発明の範囲から逸脱することなく、開示される実施形態(またはその一部分)のうちのいずれかの種々の置換、修正、または組み合わせを行ってもよいことが、当業者によって認識されるであろう。したがって、本開示が、本明細書に明示的に記載されていない付加的な実施形態を包含することが、企図され、理解される。そのような実施形態は、例えば、本明細書に開示される実施形態の開示されるステップ、成分、構成成分、構成要素、要素、機構、態様、特性、制限のうちのいずれかを組み合わせる、および/または修正することによって得られてもよい。したがって、本開示は、種々の例示的で、例証的であり、かつ限定的でない実施形態の説明によって限定されず、特許請求の範囲によってのみ限定される。このように、本明細書において様々に記載されるように請求される発明に特徴を追加するために、特許請求の範囲は、本特許出願の手続き中に補正され得ることを理解されたい。