(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ゲル化剤を収納するゲル化剤収納部と、該ゲル化剤収納部と前記遮光剤収納部または前記放射管との間に設けられて前記ゲル化剤を供給するためのゲル化剤供給路と、ゲル化剤供給路に設けられて該ゲル化剤供給路を開閉すると第3開閉弁とを有し、
前記制御部は前記第1開閉弁の制御に加えて前記第3開閉弁の開閉を制御する機能を有することを特徴とする請求項4記載の太陽光パネル表面の遮光装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
太陽光発電システムが普及する一方で、太陽光発電システムに起因して火災が発生することが問題視されつつある。
太陽光パネルから火災が発生した場合であっても、日照時であれば、太陽光パネルに太陽光が照射されていれば発電が継続される。また、夜間であっても、火災時の炎が太陽光パネルに照射されることで発電が継続されることもある。
太陽光パネルによる発電が継続しているときに消火のための放水を行うと、太陽光パネルよって発電された電気によって消火活動を行っている人間等が感電する恐れがある。
そのため、火災時において、外部から簡易に太陽光パネルを遮光して発電を停止させることのできる遮光剤や遮光装置の開発が望まれていた。
【0005】
本発明は、かかる課題を解決するためになされたものであり、太陽光パネルのような目標物の表面に塗布することで目標物表面に入射する光を迅速に遮断できる遮光剤、目標物表面の遮光装置、および目標物表面の遮光方法を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
太陽光パネルの表面を、例えば火災時において緊急的に遮光するには太陽光パネルの表面に遮光剤を吹き付けて塗布することが考えられる。
しかしながら、太陽光パネルの表面はガラスであり、かつ住宅の屋根の傾斜面に沿うように傾斜して設置されているため、遮光剤に粘性が無い場合には遮光剤を吹き付けても流れ落ちてしまう。
その一方、遮光剤の粘度が強い場合には、噴射して吹き吹き付けることが容易でない。
このように、太陽光パネルの表面のようにガラス質でかつ傾斜しているような表面に吹き付けて塗布する遮光剤としては、噴射時においては粘性が小さく、塗布した後は粘性が高くなるような性状が求められる。
そこで、発明者は、せん断応力を受けると粘度が低下して液状になる性質(チクソトロピー性)を有する物質に着目し、かかる物質を用いて遮光剤を構成することを考えた。
本発明はかかる知見に基づくものであり、具体的には以下の構成を備えてなるものである。
【0007】
(1)本発明に係る遮光剤は、
太陽光パネル表面に噴射して塗布することで前記
太陽光パネル表面に入射する光を遮光するために用いられる遮光剤であって、
膨潤性層状粘土鉱物と遮光性顔料とを水に分散させて構成され、チクソトロピー性を有
し、さらに繊維を添加してなり、
前記膨潤性層状粘土鉱物が、ベントナイトまたはスメクタイトであり、
前記遮光性顔料が酸化チタン及びカーボンブラックからなることを特徴とするものである。
【0012】
(
2)本発明に係る
太陽光パネル表面の遮光方法は、上記(1)に記載の遮光剤を用いた遮光方法であって、
収納部に収納された前記遮光剤に対して正圧又は負圧を加えることで前記遮光剤にせん断力を与えて粘度を低下させるステップと、粘度が低下して液状になった遮光剤を
前記太陽光パネル表面に対して放射して前記
太陽光パネル表面を覆うことにより遮光するステップとを有することを特徴とするものである。
(3)また、上記(1)に記載の遮光剤を用いた太陽光パネル表面の遮光方法であって、
太陽光パネル表面に向けて水性接着剤を噴射して該水性接着剤を前記太陽光パネル表面に予め付着させ、その後、上記(1)の遮光剤を前記太陽光パネル表面に対して放射して前記太陽光パネル表面を覆うことにより遮光することを特徴とするものである。
【0013】
(
4)本発明に係る
太陽光パネル表面の遮光装置は、上記(1)に記載の遮光剤を収納する遮光剤収納部と、先端に放射ノズルを有し前記遮光剤収納部から前記放射ノズルまでの送出路を形成する放射管と、該放射管における送出路の開閉を行う第1開閉弁と、前記遮光剤収納部の前記遮光剤に対して前記放射ノズルから放射する力を付与するための正圧又は負力を加える圧力付加手段と、前記第1開閉弁の開閉を制御する制御部とを備えたことを特徴とするものである。
【0014】
(
5)また、上記(
4)に記載のものにおいて、ゲル化剤を収納するゲル化剤収納部と、該ゲル化剤収納部と前記遮光剤収納部または前記放射管との間に設けられて前記ゲル化剤を供給するためのゲル化剤供給路と、ゲル化剤供給路に設けられて該ゲル化剤供給路を開閉すると第3開閉弁とを有し、前記制御部は前記第1開閉弁の制御に加えて前記第3開閉弁の開閉を制御する機能を有することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る遮光剤は、目標物表面に噴射して塗布することで前記目標物表面に入射する光を遮光するために用いられる遮光剤であって、膨潤性層状粘土鉱物と遮光性顔料とを水に分散させて構成され、チクソトロピー性を有することにより、貯留状態では粘性が高い状態にあるが、これに圧力等を加えてせん断力を作用させることで、粘性が低下した液状になり、放射が可能となって目標物の表面に噴射することできる。そして、目標物の表面に塗布された後は、粘性が高くなって流れ落ちることなく目標物表面に留まるため、遮光効果を持続できる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
[実施の形態1]
本発明の一実施の形態に係る遮光剤は、目標物表面に噴射して塗布することで前記目標物表面に入射する光を遮光するために用いられる遮光剤であって、膨潤性層状粘土鉱物と遮光性顔料とを水に分散させて構成され、チクソトロピー性を有することを特徴とするものである。
以下、詳細に説明する。
【0021】
<目標物表面>
目標物表面の例としては、太陽光パネルの表面が挙げられる。
【0022】
<膨潤性層状粘土鉱物>
膨潤性層状粘土鉱物の例としては、スメクタイトやベントナイトが挙げられる。
スメクタイトやベントナイトは、水に分散することでチクソトロピー性を有する物質となる。
「チクソトロピー」とは、ゲルのような塑性固体とゾルのような非ニュートン液体の中間的な物質が示す性質であり、粘度が時間経過とともに変化するものである。具体的には、かき混ぜたり、振り混ぜたりすることにより、所定のせん断力を加えることで、粘度が低下して液状になる一方で、粘度が低下した状態で、ある一定時間放置されることで、粘度が次第に上昇し、最終的に固体状になる特性をいう。
【0023】
遮光剤にチクソトロピー性を持たせる理由は、例えば太陽光パネルように傾斜したガラス面に噴射によって塗布が可能であり、かつ塗布した後、流れ落ちないようにするためである。
流れ落ちないための粘性を持たせるには、スメクタイトの場合には、1.5重量%〜40重量%の割合で水に分散させるとよい。1.5重量%未満では、粘性が低く塗布したときに流れ落ちてしまうからである。
一方、40重量%超では、液状にするためには大きなせん断力が必要となるため、遮光性顔料を、スメクタイトを分散した水に混合することが難しくなるという問題がある。
なお、スメクタイトの適切な濃度に関しては、後述の実施例1で実証している。
【0024】
<遮光性顔料>
酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化第二鉄、カーボンブラック等が挙げられる。
遮光性顔料として酸化チタンを用いた場合の遮光効果については、後述の実施例2で実証している。
【0025】
<遮光剤>
本実施の形態の遮光剤は、上述したように、膨潤性層状粘土鉱物と遮光性顔料とを水に分散させて構成されている。
分散の方法としては、例えば膨潤性層状粘土鉱物の水溶液を生成し、この水溶液に遮光性顔料を加えて撹拌するようにすればよい。撹拌方法としては、例えばミキサーなどで行う。
なお、遮光剤に有機化合物であるゲル化剤を添加することで、時間の経過と共に遮光剤をゲル化させることができるため、より強力に目標物へ遮光剤を固着させることができる。
ゲル化剤を添加する場合、遮光剤を放射ノズルから放射する直前に添加することが好ましい。
【0026】
上記のような本実施の形態の遮光剤であれば、貯留状態では粘性が高い状態にあるが、これに圧力等を加えてせん断力を作用させることで、粘性が低下した液状となる。遮光剤が液状となることで、放射が可能となり目標物の表面に塗布することができる。
そして、目標物の表面に塗布された後は、粘性が高くなって流れ落ちることなく目標物表面に留まるため、遮光効果を持続できる。
なお、実際に放射ノズルから遮光剤を放射して太陽光パネルに所定の膜厚で塗布できるかについては、後述の実施例5で実証している。
【0027】
本実施の形態の遮光剤を太陽光パネル等の目標物表面に塗布する方法としては、後述する実施の形態4〜7に示すような遮光装置によって放射ノズルから放射することが考えられるが、その他に、例えば、防犯用カラーボールのように目標物に当たることで破裂するようなボール状の容器に遮光剤を封入して目標物に向けて投射することも考えられる。
【0028】
本実施の形態の遮光剤は、ほとんどが水分であるため、消火作用も有しており、例えば火災現場において遮光剤として用いると共に消火剤として使用することもできる。
【0029】
[実施の形態2]
本実施の形態の遮光剤は、実施の形態1で示した膨潤性層状粘土鉱物と、実施の形態1で示した遮光性顔料のうちの2種類を水に分散させてなるものである。
具体的には、遮光性顔料として、酸化チタンとカーボンブラックを混合したものである。
【0030】
酸化チタンとカーボンブラックを混合する理由は以下の通りである。
本実施の形態の遮光剤の機能として、目標物に向けて放射が可能でかつ放射後に目標物表面に付着して付着状態を維持するという機能と、光を反射又は吸収して遮光するという2つの機能を発揮する必要がある。
前者の機能は、膨潤性層状粘土鉱物であるスメクタイトやベントナイトが発揮し、後者の機能は遮光性顔料が発揮する。
しかしながら、膨潤性層状粘土鉱物はチクソトロピー性を有しており、ある程度の粘性を有しているため、遮光性顔料を均一に分散させるのは難しい。
特に、カーボンブラックは遮光性に優れるが、酸化チタンに比べると分散性に劣るところがある。
このような目標物表面への付着という機能と、遮光という機能の2つの機能を効果的に発揮するには、膨潤性層状粘土鉱物と遮光性顔料をどのように用いるのが効果的であるかについて検討した。
【0031】
酸化チタンはカーボンブラックよりも液体に対する分散性に優れるが遮光性についてはカーボンブラックよりも劣る。そのため、酸化チタンを単体で用いるのでは遮光効果が十分でない。
他方、カーボンブラックは液体中に十分に分散すれば遮光性に優れるが、上述したように膨潤性層状粘土鉱物が粘性を有する液体であることから十分に分散させるのは難しい。そのため、膨潤性層状粘土鉱物にカーボンブラックを単体で分散させる場合、十分な分散がなされないときには酸化チタンと同様に十分な遮光効果が得られない。
そこで、発明者は、酸化チタンとカーボンブラックを混合することで、両者の弱点が互いに補われて遮光性の高い遮光剤となるのではないかと考えた。
本実施の形態の遮光剤はかかる知見に基づくものである。
【0032】
本実施の形態に係る遮光剤の成分組成の一例を以下に示す。
遮光剤のスメクタイトの2.5%水溶液に、酸化チタンとカーボンンブラックの混合物からなる遮光性顔料を5重量%混合したもので、酸化チタンとカーボンブラックの混合比率を40:60にするのが好ましい。
酸化チタンの例としては、酸化チタン(IV)、ルチル型等である。
なお、上記の比率が好ましい理由については、後述の実施例2で実証している。
【0033】
[実施の形態3]
上記のような遮光剤を用いて太陽光パネルの表面を遮光する遮光方法を説明する。
本実施の形態に係る遮光方法は、上記実施の形態1又は2に記載の遮光剤を用いた遮光方法であって、収納部に収納された遮光剤に対して正圧又は負圧を加えることで遮光剤にせん断力を与えて粘度を低下させるステップと、粘度が低下して液状になった遮光剤を目標物表面に対して放射して目標物、例えば太陽光パネルの表面を覆うことにより遮光するステップとを有することを特徴とするものである。
【0034】
[実施の形態4]
次に、上記実施の形態3で述べた遮光方法を実現できる遮光装置について説明する。
本実施の形態の遮光装置1は、
図1に示すように、遮光剤を収納する遮光剤収納部3と、先端に放射ノズル5を有し遮光剤収納部3から放射ノズル5までの送出路を形成する放射管7と、放射管7の途中に設けられて送出路の開閉を行う第1開閉弁9と、遮光剤収納部3の遮光剤に対して放射する力(以下、放射力と言う。)を付与する圧力を与える加圧手段11と、第1開閉弁9の開閉を制御する制御部13とを備えたことを特徴とするものである。
以下、各構成を詳細に説明する。
【0035】
<遮光剤収納部>
遮光剤収納部3は、膨潤性層状粘土鉱物と遮光性顔料とを水に分散させてなり、チクソトロピー性を有する遮光剤(実施の形態1又は2に記載の遮光剤)を収納する。遮光装置1を作業者が持ち運ぶことのできる可搬性のあるものとして構成する場合には、この遮光剤収納部3は、例えば、実施の形態5で説明する背負いタンク17のようなものであってもよい。
また、遮光装置1を設置形のものとして構成する場合には、遮光剤収納部3は、例えば据置型の貯留タンクであってもよい。
【0036】
<放射管>
放射管7は、遮光剤収納部3に連通して先端に放射ノズル5を有し、遮光剤収納部3から放射ノズル5までの送出路を形成する部材である。放射管7は、例えばフレキシブル性のある例えば樹脂製のホースで構成することもできるし、フレキシブル性のない金属製の配管で構成することもできる。
【0037】
<第1開閉弁>
第1開閉弁9は、放射管7の途中に設けられて、遮光剤の送出路の開閉を行う弁である。
【0038】
<加圧手段>
加圧手段11は、遮光剤収納部3の遮光剤に対して放射力を付与する圧力を与えるものであり、例えば、窒素ガスボンベ、給水ポンプあるいは空気圧縮機のようなものである。
【0039】
<制御部>
制御部13は、第1開閉弁9の開閉を制御する。制御部13に対する操作は、作業者が例えば押ボタンスイッチなどを介して行うようにすればよい。
【0040】
以上のように構成された遮光装置1の動作を説明する。
作業者が制御部13の押ボタンスイッチを操作するとで、制御部13の指示によって第1開閉弁9が開放されると共に、加圧手段11によって遮光剤収納部3に放射力となる圧力が付加される。第1開閉弁9が開放された状態で圧力が付加されることで、遮光剤が放射管7に向かって移動を開始し、この移動によって遮光剤にせん断力が作用して粘度が低下する。粘度が低下したことで放射が可能となり、放射ノズル5から遮光剤が放射される。放射された遮光剤は目標物、例えば太陽光パネルに付着して、太陽光パネルに入射する光を遮光する。太陽光パネルの表面に付着した遮光剤は、所定時間放置されることで、粘度が次第に上昇し、最終的に固体状となり、太陽光パネルの表面を覆い安定して遮光することができる。
【0041】
[実施の形態5]
図2は本発明の遮光装置の他の実施形態に係る遮光装置15の説明図であり、
図1と同一部分には同一の符号が付してある。
本実施の形態に係る遮光装置15は、遮光剤収納部として背負いタンク17を用い、加圧手段として窒素を封入した窒素ガスボンベ19を用いた例である。窒素ガスボンベ19から窒素ガスを供給する供給管21には第2開閉弁23が設けられている。制御部13は、第1開閉弁9に加えて第2開閉弁23の開閉制御を行う。
【0042】
上記のように構成された本実施の形態においては、制御部13によって第1開閉弁9と第2開閉弁23の開度を制御して窒素ガスを背負いタンク17に供給することで、背負いタンク17内の遮光剤を液状にすると共に、液状の遮光剤を例えば太陽光パネルに向けて放射することができる。
【0043】
[実施の形態6]
図3は本発明の遮光装置の他の実施形態に係る遮光装置25の説明図であり、
図1又は
図2と同一部分には同一の符号が付してある。
実施の形態5においては、遮光剤収納部としての背負いタンク17に収納された遮光剤に対して放射力を与えるものとして窒素ガスボンベ19から窒素ガスを供給する態様を示したが、本実施の形態の遮光装置25においては、
図3に示すように、遮光剤を可撓性のある薬剤袋27に入れ、薬剤袋27をタンク29内に収納し、加圧手段としての給水ポンプ31で加圧水をタンク29内に供給するようにしている。
【0044】
本実施の形態の遮光装置25においては、制御部13は、給水ポンプ31を制御して圧力水をタンク29に供給すると共に第1開閉弁9を開放することで、タンク29に供給された圧力水が薬剤袋27を圧縮して薬剤袋27内の遮光剤を液状にすると共に放射力を付加し、放射ノズル5を介して目標物である太陽光パネルに対して遮光剤を放射することができる。
【0045】
[実施の形態7]
図4は本発明の遮光装置の他の実施形態に係る遮光装置33の説明図であり、
図1〜
図3と同一部分には同一の符号が付してある。
実施の形態4〜6に示した例では、遮光剤収納部に収納された遮光剤に正圧力を付加することで、放射する例を示したが、本発明はこれに限られない。
例えば、
図4に示す本実施の形態の遮光装置33のように、放射管7の途中にライン・プロポーショナー35を設け、遮光剤収納部3には、遮光剤の原液(即ち、膨潤性層状粘土鉱物と遮光性顔料)を収納しておき、給水ポンプ31から水を供給することで、遮光剤原液に負圧を与えて遮光剤原液を放射管7側に吸い出して水と所定の濃度に混合して、遮光剤として放射するようにしてもよい。
【0046】
なお、実施の形態1で説明したように遮光剤にゲル化剤を添加する場合には、ゲル化剤を遮光剤収納部3とは別の収納部に収納しておき、遮光剤を放射する直前に遮光剤にゲル化剤を添加するようにすればよい。この場合、ゲル化剤の収納部と遮光剤収納部3を配管で連結し、該配管に第3開閉弁を設けて、該第3開閉弁を制御部13で開閉制御するようにすればよい。
【実施例1】
【0047】
遮光剤に用いる膨潤性層状粘土鉱物としてスメクタイトを用いた場合の適切な濃度を確認するための実験を行ったのでこれについて説明する。
実験は太陽光パネルを模擬した強化ガラスに、1〜3重量%のスメクタイトの水溶液を0.1mL滴下し、強化ガラスを80度に傾斜させ、10分間の液滴の移動量を測定した。
実験結果を表1に示す。
【0048】
【表1】
【0049】
表1に示すように、濃度が1.0重量%では液滴が流下して流れ落ちた。濃度が1.5重量%では液滴は6cm下方に移動した。他方、濃度が2.0重量%以上では液滴は移動することなく滴下した位置にとどまった。
このことから、スメクタイトの濃度を1.5重量%以上にすることで、大部分の遮光剤を太陽光パネル上に滞留させることが可能となり、特に、2.0重量%以上にすることで、太陽光パネルに塗布された場合にも流れ落ちることがないことが確認された。
【実施例2】
【0050】
遮光剤の膜厚と透過率との関係、及び膜厚と太陽光パネルに対する遮光効果との関係を確認する実験を行った。
実験に用いた遮光剤は、スメクタイトの水溶液に、反射率の高い酸化チタンの粉末を38重量%で混合したものである。
この遮光剤をガラス面に膜厚0.1mmと0.5mmで塗布した時の透過率を
図5に示す。
図5に示すように、遮光剤の膜厚が0.1mmで、波長が1000nm以下の光の透過率が約1%以下となった。また、遮光剤の膜厚が0.5mmの場合には、波長が1000nm以下の光の透過率が0.2%以下となった。即ち、遮光剤も膜厚は0.1mmより0.5mmの方が、遮光率が高いことが分かった。
【0051】
次に、太陽光AM1.5、Si系太陽パネルの相対分光感度を全波長で積分することにより、Si系太陽電池の出力を求めた。
図6には、太陽光AM1.5の放射照度のグラフ(AM1.5と表記)と、Si系太陽光パネルの相対分光感度のグラフ(Si-PVと表記)と、Si系太陽光パネルの出力のグラフ(AM1.5×Si-PVと表記)を示している。
さらに、Si系太陽光パネルの出力に対して遮光剤の分光透過率を掛けて積分することで、遮光後の太陽光パネルの出力を求めた。
図7には、遮光剤を塗布しない場合の太陽光パネルの出力のグラフ(AM1.5×Si-PV:100%と表記)と、遮光剤の厚みが0.1mmのときの太陽光パネルの出力のグラフ(t=0.1:0.84%と表記)と、遮光剤の厚みが0.5mmのときの太陽光パネルの出力のグラフ(t=0.5:0.08%と表記)を記載している。
図7のグラフより、遮光剤の膜厚が0.1mmの時には太陽光パネルの出力を0.84%、遮光剤の膜厚が0.5mmの時には太陽光パネルの出力を0.08%まで抑制できることが確認された。即ち、膜厚は0.1mmよりは0.5mmの方が好ましいことが分かった。
なお、ここでAM1.5のAM(Air Massの略)とは、太陽光が地表に到達するまでに通過する大気の量を指す。そして、AM1.5とは、太陽光が地表面に垂直に届く場合をAM1としたときに、太陽光が大気を通過する距離が1.5倍であることを示しており、具体的には、地表に対して41.8度の角度で入射する太陽光を指す。
【実施例3】
【0052】
次に、実施の形態2で説明した遮光性顔料として、酸化チタンとカーボンブラックを混合した遮光剤の効果を確認する実験を行ったのでこれについて説明する。
実験は、スメクタイトの2.5%水溶液に、酸化チタンを単体で4.5重量%分散させたもの、カーボンブラックを単体で4.5重量%分散させたもの、酸化チタンとカーボンブラックの混合物を4.5重量%分散させたもの(酸化チタンとカーボンブラックの混合比率は40:60)で透過率を比較するというものである。なお、スメクタイトの水溶液に酸化チタン、カーボンブラックを分散させる方法としては、栓をすることができる容器内にスメクタイトの水溶液と、酸化チタン又は/及びカーボンブラックを封入し、これに撹拌効果を上げるためにガラス玉を入れて容器を多数回振るというものである。
なお、遮光剤の膜厚はいずれも0.1mmとした。
実験の結果を
図8のグラフに示す。
図8のグラフは、縦軸が透過率(%)で横軸が光の波長(nm)である。
【0053】
図8のグラフに示されるように、酸化チタンとカーボンブラックの混合物をスメクタイトの水溶液に分散させたものが最も透過率が低く、次にカーボンブラック単体のもの、その次に酸化チタン単体のものという順であった。
この実験から、酸化チタンとカーボンブラックの混合物をスメクタイトの水溶液に分散させることで、遮光性顔料の濃度が同じ場合には遮光効果が高いことが実証された。
【実施例4】
【0054】
酸化チタンとカーボンブラックの混合物をスメクタイトの水溶液に分散させる場合において、酸化チタンとカーボンブラックの混合比率を如何にするのが最も遮光性に優れるかを確認する実験を行った。
実験は、スメクタイトの2.5%水溶液に、酸化チタンとカーボンブラックの混合物を4.5重量%分散させることを前提として、酸化チタンとカーボンブラックの混合比率を変更して、ピークである670nmの波長の光の透過率を測定するというものである。なお、670nmの波長の光は、太陽光AM1.5環境下におけるSi系太陽光パネルの分光放射照度(
図6におけるAM1.5×Si-PV)が最も高い波長の光であり(
図6参照)、この波長の光を用いて、遮光剤の透過率(遮光性能)を測定する。
実験結果を
図9のグラフに示す。
図9のグラフは、縦軸が透過率(%)で遮光剤混合比として酸化チタンの比率(%)を示している。
【0055】
図9に示すグラフから、酸化チタンとカーボンブラックの混合比率を40:60にした場合が最も透過率が低く、遮光性に優れることが実証された。
なお、透過率は0.1%程度あれば良く、例えば、酸化チタンとカーボンブラックの混合比率は25:75から60:40までであれば良い。
【実施例5】
【0056】
実施の形態1、2で示した遮光剤を太陽光パネルに向けて放射して太陽光パネル表面に塗布できるかどうかの実験を行った。
実験に用いた遮光剤は、スメクタイトの水溶液に、酸化チタンの粉末を38重量%で混合したものである。また、放射方法は、
図10に示すように、地上0.5mの高さに放射ノズル5を設置し、放射ノズル5から5m離れた位置に30°に傾斜させた太陽光パネル37(
図11(a)参照)に遮光剤を放射するというものである。
図11は、実験に用いた太陽光パネル37の写真であり、
図11(a)は遮光剤を塗布する前の状態を、
図11(b)は遮光剤を塗布している途中の状態を、
図11(c)は遮光剤を塗布した後の状態をそれぞれ示している。
実験の結果、
図11(c)に示すように、太陽光パネル37の全面に0.5mmの膜厚でほぼ均一に塗布することができた。
【0057】
さらに、住宅の屋根に設置された太陽光パネルに放射した場合も同様の塗布が可能かどうかを確認するために
図12に示すような配置によって放射の実験を行った。
その結果、
図10の場合と同様に太陽光パネル37の全面に0.5mmの膜厚でほぼ均一に塗布することができた。
なお、上記実施の形態及び実施例では、遮光剤は膨潤性層状粘土鉱物と遮光性顔料とを水に分散させて構成されるものとして説明したが、この遮光剤に、例えば、ロックウール、楮のような繊維を添加しても良い。この場合、遮光剤が太陽光パネル37に放射された後、乾いたとしても、遮光剤にひび割れが発生しづらく、より長時間の遮光が可能となる。
また、遮光剤を構成する遮光性顔料の代わりに、例えば、カオリン等の粘土(粘土鉱物)を添加しても良い。この場合、遮光性顔料と比べて粘土の遮光性能は落ちるが、粒子径は遮光性顔料より大きいので、太陽光パネル37に放射した後の清掃が容易となる。遮光性顔料の代わりに粘土を用いることで遮光性能が落ちた分は、太陽光パネル37に付着する際の膜厚をより厚くなるように設計すれば問題ない。
【0058】
また、上記実施の形態及び実施例では、遮光剤の構成物質として、チクソトロピー性を有するスメクタイト等の膨潤性層状粘土鉱物を用いていたが、チクソトロピー性を有しない物質であっても、水の粘性を増す増粘剤を、その濃度を調整することで、膨潤性層状粘土鉱物に代えて用いることも可能である。
例えば、アクリル酸系重合物を主成分とし、水と混合することで、水の粘性を高める液状の増粘剤(センカ社:センカアクトゲルAP200)であれば、水に対して2〜3重量%で混合するようにすればよい。
【0059】
もっとも、遮光剤を、水、遮光性顔料、アクリル酸系重合物を主成分とする増粘剤で構成する場合、増粘剤の濃度によっては、チクソトロピー性を有する膨潤性層状粘土鉱物を用いる場合に比べて、太陽光パネル37上に確実に留まるように付着させるのが難しいことが考えられる。
そこで、上記の構成からなる遮光剤に、さらに合成樹脂エマルジョンを主成分とする水性接着剤(栗田工業社:クリコートC−710)を添加するようにすればよい。この水性接着剤を添加することにより、アクリル酸系重合物を主成分とする増粘剤を混合した遮光剤を太陽光パネル37上に塗布した際に、前記遮光剤が太陽光パネル37の表面から流れ落ちることなく太陽光パネル37に付着して留まるようにできる。
【0060】
また、水性接着剤は保水性、通気性を兼ね備えるため、太陽光パネル37上に塗布された遮光剤が、乾燥してひび割れるのを防ぐことができ、これにより、遮光剤が塗布された太陽光パネル37の発電を停止させたまま、その状態を維持することができる。
【0061】
なお、水性接着剤は、遮光剤に予め混合してから太陽光パネル37に向けて噴射してもよいが、遮光剤よりも先に太陽光パネル37に向けて噴射して予め太陽光パネル37の表面に付着させておくようにしてもよい。
また、水性接着剤は、膨潤性層状粘土鉱物と遮光性顔料とを水に分散させて構成される遮光剤に添加してもよい。これにより、遮光剤はチクソトロピー性に加えて、接着性も加わるので、太陽光パネル37に、遮光剤がより留まることができる。
このような水性接着剤は、ロックウール、楮のような繊維を追加した遮光剤や、遮光性顔料の代わりにカオリン等の粘土鉱物を混合した遮光剤に使用する場合も上記のような効果が期待できる。
【0062】
遮光剤を、水、遮光性顔料及びアクリル酸系重合物を主成分とする増粘剤で構成する場合、増粘剤を予め水に混合すると粘性が増すため、チクソトロピー性を有する膨潤性層状粘土鉱物を用いる場合に比べて、噴射が難しくなることが考えられる。
そこで、例えば、2つの放射ノズルを有する遮光装置を用い、2つの放射ノズルを太陽光パネル37に向けて設け、一方の放射ノズルからは水及び遮光性顔料の混合液を噴射し、この混合液の噴射と同時に、他方の放射ノズルからアクリル酸系重合物を主成分とする液状の増粘剤を噴射するようにする。
これにより、太陽光パネル37上で、前記混合液と増粘剤とが衝突して混合され、水が増粘し、太陽光パネル37上から遮光剤が流れ落ちず、太陽光パネル37上に遮光剤を容易に塗布することができる。