特許第6058617号(P6058617)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6058617
(24)【登録日】2016年12月16日
(45)【発行日】2017年1月11日
(54)【発明の名称】蛍光体および蛍光体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09K 11/61 20060101AFI20161226BHJP
   C09K 11/08 20060101ALI20161226BHJP
【FI】
   C09K11/61CPS
   C09K11/08 B
【請求項の数】5
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2014-238742(P2014-238742)
(22)【出願日】2014年11月26日
(62)【分割の表示】特願2013-47985(P2013-47985)の分割
【原出願日】2008年3月26日
(65)【公開番号】特開2015-38228(P2015-38228A)
(43)【公開日】2015年2月26日
【審査請求日】2014年11月26日
(31)【優先権主張番号】特願2007-99019(P2007-99019)
(32)【優先日】2007年4月5日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001133
【氏名又は名称】株式会社小糸製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100109047
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 雄祐
(74)【代理人】
【識別番号】100109081
【弁理士】
【氏名又は名称】三木 友由
(72)【発明者】
【氏名】大長 久芳
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 剛
(72)【発明者】
【氏名】榎本 公典
(72)【発明者】
【氏名】四ノ宮 裕
(72)【発明者】
【氏名】青▲柳▼ 忍
【審査官】 仁科 努
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−026777(JP,A)
【文献】 特開2005−272831(JP,A)
【文献】 特開2007−145958(JP,A)
【文献】 特開2008−031422(JP,A)
【文献】 特表2009−517525(JP,A)
【文献】 米国特許第03790490(US,A)
【文献】 特開2006−274263(JP,A)
【文献】 特開2004−002554(JP,A)
【文献】 特開昭64−090289(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 11/61
C09K 11/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式がSiO・aMO・bSrCl:Eu2+
(但し、MはMg、Ca、Sr及びBaからなる群より選ばれる少なくともCa及びSrを必須とする元素を示し、Mの全元素(Mg、Ca、Sr及びBa)のうちCa及びSrの割合が60mol%より大きい。aは0.1≦a≦1.3、bは0.1≦b≦0.25の範囲である)で表されることを特徴とする蛍光体。
【請求項2】
前記一般式のEu2+の含有量をc(モル比)とすると、0.03<c/(a+c)<0.8であることを特徴とする請求項1に記載の蛍光体。
【請求項3】
前記一般式において、aが0.30≦a≦1.2、bが0.1≦b≦0.2の範囲であり、且つEu2+の含有量cが0.05≦c/(a+c)≦0.5であることを特徴とする請求項1または2に記載の蛍光体。
【請求項4】
出発原料の中に、少なくとも下記(1)〜(4)の組成式で表される化合物を、これらの各化合物のモル比が(1):(2)=1:0.1〜1.0、(2):(3)=1:0.2〜12.0、(2):(4)=1:0.05〜4.0の範囲となるように含み、当該出発原料を混合及び焼成することを特徴とする蛍光体の製造方法
(1)SiO
(2)MO
(3)SrCl
(4)Eu2+
(但し、MはMg、Ca、Sr及びBaからなる群より選ばれる少なくともCa及びSrを必須とする元素を示し、Mの全元素(Mg、Ca、Sr及びBa)のうちCa及びSrの割合が60mol%より大きい。)
【請求項5】
350〜430nmの波長域に強い励起帯があることを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載の蛍光体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外線又は短波長可視光で効率良く励起され発光する蛍光体に関する。
【背景技術】
【0002】
発光素子と、当該発光素子が発生する光により励起され当該発光素子とは異なる波長域の光を発生する蛍光体とを組み合わせることにより、所望の色の光を得るように構成された種々の発光装置が知られている。
特に近年、長寿命且つ消費電力が少ない白色発光装置として、紫外線又は短波長可視光を発光する発光ダイオード(LED)やレーザダイオード(LD)等の半導体発光素子と、これらを励起光源とする蛍光体とを組み合わせることで白色光を得るように構成された発光装置が注目されている。
このような白色発光装置の具体例として、(1)青色光を発光するLEDと、青色光によって励起され黄色光を発光する蛍光体とを組み合わせる方式や、(2)紫色光又は紫外線を発光するLEDと、紫色光又は紫外線によって励起され赤、緑、青、黄等の色の光をそれぞれ発光する蛍光体を複数組み合わせる方式等が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3503139号公報
【特許文献2】特開2005−126577号公報
【特許文献3】特開2003−110150号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記(1)の方式の白色発光装置においては、青色と黄色の中間の波長領域の光がほとんど存在しないこと、及び蛍光体から得られる赤色領域の光が少ないことから、演色性が低いという問題があった。また、LEDと蛍光体の光を混色して白色光を得ていることから、例えば、白色発光装置の製造工程において蛍光体の塗布量等がばらつくと、LEDと蛍光体の発光する光量のバランスが崩れるため、得られる白色光のスペクトルにもばらつきが生じるという問題があった。
一方、上記(2)の方式の白色発光装置は、演色性は優れているものの、紫外線領域又は短波長可視光領域に強い励起帯を有する蛍光体が見出されておらず、高出力の白色発光装置の実現は困難な状況にあった。そのため、紫外線領域又は短波長可視光領域に強い励起帯を有し効率よく可視光を発光可能な蛍光体の開発が強く望まれていた。特に、従来より知られているインジウム含有の窒化ガリウム系(InGaN系)紫外LEDは、400nm付近の波長域での発光特性が良好であることから、400nm付近の波長域で効率良く励起され高い発光強度の可視光を発光可能な蛍光体の開発が強く望まれていた。
また、演色性の高い発光装置を実現するために、発光スペクトルがブロードである蛍光体の開発も強く望まれていた。
【0005】
本発明は、上記のような事情を鑑みてなされたものであり、その目的は、紫外線又は短波長可視光、特に400nm付近の波長域で効率良く励起され高い発光強度の可視光を発光可能な蛍光体を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく研究を重ねた結果、一般式がM・aMO・bM:M(但し、MはSi、Ge、Ti、Zr及びSnからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素、MはCa、Sr、Mg、Ba及びZnからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素、MはMg、Ca、Sr、Ba及びZnからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素、Xは少なくとも1種のハロゲン元素、Mは希土類元素及びMnからなる群より選ばれるEu2+を必須とする少なくとも1種の元素を示す。aは0.1≦a≦1.3、bは0.1≦b≦0.25の範囲である)で表される蛍光体は、紫外線又は短波長可視光、特に400nm付近の波長域で効率良く励起され高い発光強度の可視光を発光することを新たに見出し本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち本発明に係る蛍光体は、一般式がM・aMO・bM:M(但し、MはSi、Ge、Ti、Zr及びSnからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素、MはMg、Ca、Sr、Ba及びZnからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素、MはMg、Ca、Sr、Ba及びZnからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素、Xは少なくとも1種のハロゲン元素、Mは希土類元素及びMnからなる群より選ばれるEu2+を必須とする少なくとも1種の元素を示す。aは0.1≦a≦1.3、bは0.1≦b≦0.25の範囲である)で表されることを特徴とする。
【0008】
上記蛍光体においては、前記一般式のMの含有量をc(モル比)とすると、cの範囲は0.03<c/(a+c)<0.8であることがより好ましい。
【0009】
また、上記蛍光体においては、前記一般式のMは少なくともSiを必須とし、Siの割合が80mol%以上であり、前記一般式のMは少なくともCa及び/又はSrを必須とし、Ca及び/又はSrの割合が60mol%以上であり、前記一般式のMは少なくともSrを必須とし、Srが30mol%以上であり、前記一般式のXは少なくともClを必須とし、Clの割合が50mol%以上であることがより好ましい。
【0010】
また、上記蛍光体においては、前記一般式のaが0.3≦a≦1.2、bが0.1≦b≦0.20の範囲であり、且つMの含有量cが0.05≦c/(a+c)≦0.5であることがより好ましい。
【0011】
本発明の蛍光体は、その製造方法が特に限定されるものではないが、出発原料の中に、少なくとも下記(1)〜(4)の組成式で表される化合物を、これらの各化合物のモル比が(1):(2)=1:0.1〜1.0、(2):(3)=1:0.2〜12.0、(2):(4)=1:0.05〜4.0の範囲となるように含み、当該出発原料を混合及び焼成することにより得ることができる。
(1)M
(2)M
(3)M
(4)M
(但し、MはSi、Ge、Ti、Zr及びSnからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素、MはMg、Ca、Sr、Ba及びZnからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素、MはMg、Ca、Sr、Ba及びZnからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素、Xは少なくとも1種のハロゲン元素、Mは希土類元素及びMnからなる群より選ばれるEu2+を必須とする少なくとも1種の元素を示す。)
【0012】
上記出発原料においては、前記組成式(1)のMは少なくともSiを必須とし、Siの割合が80mol%以上であり、前記組成式(2)のMは少なくともCa及び/又はSrを必須とし、Ca及び/又はSrの割合が60mol%以上であり、前記組成式(3)前記一般式のMは少なくともSrを必須とし、Srが30mol%以上であり、前記一般式のXは少なくともClを必須とし、Clの割合が50mol%以上であることが好ましい。
【0013】
上記出発原料においては、前記組成式(1)〜(4)の各化合物のモル比が(1):(2)=1:0.25〜1.0、(2):(3)=1:0.3〜6.0、(2):(4)=1:0.05〜3.0の範囲で秤量されることが好ましい。
更には、前記各化合物のモル比が(1):(2)=1:0.25〜1.0、(2):(3)=1:0.3〜4.0、(2):(4)=1:0.05〜3.0の範囲であることがより好ましい。
【0014】
尚、上記出発原料においては、前記組成式(3)の原料は化学量論比以上の過剰量を秤量することが好ましい。この過剰添加は原料混合物の焼成中にハロゲン元素の一部が気化蒸発してしまうことを考慮したものであり、ハロゲン元素の不足に起因する蛍光体の結晶欠陥の発生を防止することができる。
また、この過剰添加は融剤としても働き、反応促進、及び結晶性向上にも寄与する。
【0015】
本発明の蛍光体は、その結晶構造が特に限定されるものではないが、蛍光体に含まれる結晶の少なくとも一部が、輝石型の結晶構造を有する結晶であることが好ましい。
また、蛍光体に含まれる結晶の少なくとも一部が、結晶系:単斜晶、ブラベ格子:底心単斜格子、空間群:C2/mに属する結晶であることが好ましい。
【0016】
本発明の蛍光体は、そのX線回折の測定結果が特に限定されるものではないが、蛍光体に含まれる結晶の少なくとも一部が、CuのKα特性X線を用いたX線回折パターンにおいて、回折角2θが29.0°以上30.5°以下の範囲に存在する最も強度の高い回折ピークの回折強度を100とした場合に、回折角2θが28.0°以上29.5°以下の範囲に回折強度50以上を示す回折ピークが存在し、回折角2θが19.0°以上22.0°以下の範囲に回折強度8以上を示すピークが存在し、回折角2θが25.0°以上28.0°以下の範囲に回折強度15以上を示すピークが存在し、回折角2θが34.5°以上37.5°以下の範囲に回折強度15以上を示すピークが存在し、回折角2θが40.0°以上42.5°以下の範囲に回折強度10以上を示し、回折角2θが13.0°以上15.0°以下の範囲に回折強度10以上を示すピークが存在する蛍光体であることが好ましい。
【0017】
また、蛍光体に含まれる結晶の少なくとも一部が、MoのKα特性X線を用いた回折パターンにおいて、回折角2θが12.5°以上15.0°以下の範囲に存在する最も強度の高い回折ピークの回折強度を100とした場合に、回折角2θが12.0°以上14.5°以下の範囲に回折強度50以上を示す回折ピークが存在し、回折角2θが8.0°以上10.5°以下の範囲に回折強度8以上を示すピークが存在し、回折角2θが11.0°以上13.0°以下の範囲に回折強度15以上を示すピークが存在し、回折角2θが15.5°以上17.0°以下の範囲に回折強度15以上を示すピークが存在し、回折角2θが17.5°以上19.5°以下の範囲に回折強度10以上を示し、回折角2θが5.0°以上8.0°以下の範囲に回折強度10以上を示すピークが存在することが好ましい。
【0018】
本発明の蛍光体において、より高い発光強度を得る為には、蛍光体に含まれる上記結晶の量ができるだけ多いこと、できれば単相から構成されていることが望ましく、上記結晶の含有量が20質量%以上であることが望ましい。さらに好ましくは50質量%以上で発光強度が著しく向上する。
【0019】
尚、特性が低下しない範囲で他の結晶相若しくはアモルファス相との混合物から構成することもでき、特に、上記出発原料の混合比において、SiOを過剰に添加し、SiOから構成される結晶であるクオーツ、トリジマイト、クリストバライト等が若干の副産物として合成される蛍光体では、発光強度が向上する場合もある。
【0020】
本発明の蛍光体は、その用途が特に限定されるものではないが、励起光源と組み合わせることにより各種の発光装置とすることができる。
【0021】
上記発光装置において、紫外線又は短波長可視光を励起光源とする場合には、本発明の蛍光体は350〜430nmの波長域に強い励起帯があることが発光効率、発光輝度等の観点から好ましい。
【0022】
また、上記発光装置において、白色発光装置とする場合には、本発明の蛍光体は発光スペクトルのピークが560〜590nmの波長域にあり、半値幅が100nm以上であることが演色性等の観点から好ましい。
【発明の効果】
【0023】
本発明の蛍光体は、紫外線領域又は短波長可視光領域に強い励起帯を有し効率よく可視光を発光可能である。特に、400nm付近の波長域で効率良く励起され発光スペクトルがブロードな光を発光可能である。
【0024】
また、本発明の蛍光体を用いれば、演色性に優れ、高出力の発光装置を得ることができる。更に、他の蛍光体と組み合わせることで、演色性に優れ、高出力の白色発光装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】単結晶母体結晶のX線回折写真の一例を示す図である。
図2】粉末母体結晶のX線回折(測定2)についてのフィッティング図である。
図3】粉末母体結晶と本発明の実施例2の蛍光体のX線回折パターンを示す図である。
図4】本発明の実施例1の蛍光体のX線回折(測定3)のフィッティング図である。
図5】本発明の実施例1の蛍光体の発光スペクトル(実線)及び比較例1の蛍光体の発光スペクトル(点線)を示す図である。
図6】本発明の実施例2の蛍光体の発光スペクトル(実線)及び比較例1の蛍光体の発光スペクトル(点線)を示す図である。
図7】本発明の実施例3の蛍光体の発光スペクトル(実線)及び比較例1の蛍光体の発光スペクトル(点線)を示す図である。
図8】本発明の実施例4の蛍光体の発光スペクトル(実線)及び比較例1の蛍光体の発光スペクトル(点線)を示す図である。
図9】本発明の実施例5の蛍光体の発光スペクトル(実線)及び比較例1の蛍光体の発光スペクトル(点線)を示す図である。
図10】本発明の実施例6の蛍光体の発光スペクトル(実線)及び比較例1の蛍光体の発光スペクトル(点線)を示す図である。
図11】本発明の実施例1の蛍光体の励起スペクトルを示す図である。
図12】本発明の実施例1の蛍光体についてのCuのKα特性X線を用いたX線回折の測定結果を示す図である。
図13】本発明の実施例4の蛍光体についてのCuのKα特性X線を用いたX線回折の測定結果を示す図である。
図14】本発明の蛍光体を利用した発光装置の一実施例を示す概略断面図である。
図15】本発明の実施例7の発光装置の発光スペクトル(実線)及び比較例2の発光装置の発光スペクトル(点線)を示す図面である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明について詳細に説明するが、本発明は以下の例示などによって何ら制限されるものではない。
【0027】
本発明の蛍光体は、例えば、次のようにして得ることができる。
本発明の蛍光体は、原料として下記(1)〜(4)の組成式で表される化合物を用いることができる。
(1)M(MはSi、Ge、Ti、Zr、Sn等の4価の元素を示す。)
(2)MO(MはMg、Ca、Sr、Ba、Zn等の2価の元素を示す。)
(3)M(MはMg、Ca、Sr、Ba、Zn等の2価の元素、Xはハロゲン元素を示す。)
(4)M(MはEu2+等の希土類元素及び/又はMnを示す。)
【0028】
前記(1)の組成式の原料として、例えば、SiO、GeO、TiO、ZrO、SnO等を用いることができる。
前記(2)の組成式の原料として、例えば、2価の金属イオンの炭酸塩、酸化物、水酸化物等を用いることができる。
前記(3)の組成式の原料として、例えば、SrCl、SrCl・6HO、MgCl、MgCl・6HO、CaCl、CaCl・2HO、BaCl、BaCl・2HO、ZnCl、MgF、CaF、SrF、BaF、ZnF、MgBr、CaBr、SrBr、BaBr、ZnBr、MgI、CaI、SrI、BaI、ZnI等を用いることができる。
前記(4)の組成式の原料として、例えば、Eu、Eu(CO、Eu(OH)、EuCl、MnO、Mn(OH)、MnCO、MnCl・4HO、Mn(NO・6HO等を用いることができる。
【0029】
前記(1)の組成式の原料としては、Mが少なくともSiを必須とし、Si、Ge、Ti、Zr及びSnからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素であり、Siの割合が80mol%以上である化合物が好ましい。
前記(2)の組成式の原料としては、Mが少なくともCa及び/又はSrを必須とし、Mg、Ca、Sr、Ba及びZnからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素であり、Ca及び/又はSrの割合が60mol%以上である化合物が好ましい。
前記(3)の組成式の原料としては、Mが少なくともSrを必須とし、Mg、Ca、Sr、Mg、Ba及びZnからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素であり、Srが30mol%以上である化合物が好ましく、Xが少なくともClを必須とする少なくとも1種のハロゲン元素であり、Clの割合が50mol%以上である化合物が好ましい。
前記(4)の組成式の原料としては、Mが2価のEuを必須とする希土類元素であることが好ましく、Mn又はEu以外の希土類元素等を含んでもよい。
【0030】
前記(1)〜(4)の組成式の原料のモル比を、(1):(2)=1:0.1〜1.0、(2):(3)=1:0.2〜12.0、(2):(4)=1:0.05〜4.0、好ましくは、(1):(2)=1:0.25〜1.0、(2):(3)=1:0.3〜6.0、(2):(4)=1:0.05〜3.0、より好ましくは(1):(2)=1:0.25〜1.0、(2):(3)=1:0.3〜4.0、(2):(4)=1:0.05〜3.0割合で秤量し、秤量した各原料をアルミナ乳鉢に入れ約30分粉砕混合し、原料混合物を得る。この原料混合物をアルミナ坩堝に入れ、還元雰囲気の電気炉で、雰囲気(5/95)の(H/N)、温度900以上1100℃未満で3〜40時間焼成し、焼成物を得る。この焼成物を温純水で丹念に洗浄し、余剰の塩化物を洗い流すことにより本発明の蛍光体を得ることができる。
【0031】
特に、(3)の組成式の原料(2価の金属ハロゲン化物)は化学量論比以上の過剰量を秤量することが好ましい。それは、焼成中にハロゲン元素の一部が気化蒸発してしまうことを考慮したものであり、ハロゲン元素の不足に起因する蛍光体の結晶欠陥の発生を防止するためである。また、過剰に加えられた(3)原料は、焼成温度では液化し、固相反応の融剤として働き、固相反応の促進及び、結晶性を向上させる働きも示す。
【0032】
尚、前記原料混合物の焼成後においては、上記の過剰添加された(3)の組成式の原料は、製造された蛍光体の中で不純物として存在する。そこで、純度及び発光強度が高い蛍光体を得るためには、これらの不純物を温純水で洗い流す必要がある。
本発明の蛍光体の一般式に示された組成比は不純物を洗い流した後の組成比であり、上記のように過剰添加され不純物となった(3)の組成式の原料はこの組成比において加味されていない。
【0033】
本発明の蛍光体において発光効率の高い蛍光体を得るには、不純物となる金属元素を極力少なくすることが好ましい。特にFe、Co、Ni等の遷移金属元素は発光の阻害剤として作用するため、これらの元素の合計が500ppm以下になるように、純度の高い原料の使用、及び合成工程での不純物の混入を防ぐことが好ましい。
【0034】
また、本発明の蛍光体は、励起光源と組み合わせることにより各種の発光装置とすることができる。
【0035】
励起光源としては、例えば、LEDやLD等の半導体発光素子、真空放電や熱発光からの発光を得るための光源、電子線励起発光素子等を用いることができる。
特に、本発明の蛍光体は400nm付近の波長域で効率良く励起され高い発光強度の可視光を発光するため、400nm付近の波長域を発光する励起光源と組み合わせることが好ましい。
【0036】
これらの励起光源と本発明の蛍光体とを組み合わせるにあたっては、本発明の蛍光体粉末を耐光性の良好な透明樹脂(シリコーン、フッ素、ゾルゲルシリカ等)に分散させ、これをLED等の励起光源上に塗布し、透明樹脂を硬化させることで固定化することができる。
このとき、透明樹脂への分散性や塗布性の観点から、本発明の蛍光体粉末の平均粒径が0.1〜20μmの範囲にあることが好ましい。
【0037】
発光装置としての用途は、例えば、LED、LD、蛍光灯、蛍光表示管(VFD)、フィールドエミッションディスプレイ(FED)、プラズマディスプレイパネル(PDP)、陰極線管(CCFL)などが考えられる。特に、本発明の蛍光体は黄色系の発光に優れており、他の蛍光体及び/又は他の光源と組み合わせ加色混合することで白色発光装置を構成することができる。例えば、励起光源として紫外線又は短波長可視光を発光するLED又はLDを用い、これに本発明の蛍光体と他の青色領域の蛍光体を組み合わせることで白色発光装置を構成することができる。
【0038】
<本発明の蛍光体の結晶構造の特定>
本発明の蛍光体の結晶構造等の決定は、以下に述べる母体結晶の単結晶を成長させ、その分析結果に基づいて行なった。
この母体結晶は、前記一般式M・aMO・bM:Mにおいて、M=Si、M=Ca及びSr、M=Sr、X=Clとし、Mは含有しない物質である。
【0039】
<母体結晶の生成と分析>
母体結晶の単結晶の結晶成長は、以下の手順で実施した。
まず、SiO、CaO、SrClの各原料をこれらのモル比がSiO:CaO:SrCl=1:0.71:1.07となるように秤量し、秤量した各原料をアルミナ乳鉢に入れ約30分粉砕混合し、原料混合物を得た。この原料混合物をタブレット型に詰め100MPaで一軸圧縮成形をし、成形体を得た。この成形体をアルミナ坩堝に入れ蓋をした後に、大気中で1030℃で36時間焼成し、焼成物を得た。得られた焼成物を温純水と超音波で洗浄し、母体結晶を得た。
このようにして生成した母体結晶の中にΦ0.2mmの単結晶を得た。
【0040】
得られた母体結晶について、以下の方法で元素定量分析を行ない、組成比(前記一般式におけるa、bの値)を決定した。
1.Siの定量分析
母体結晶を炭酸ナトリウムで白金坩堝中で融解した後に、希硝酸で溶解処理して定容とした。この溶液についてICP発光分光分析装置(SIIナノテクノロジー株式会社製:SPS−4000)を用いSi量を測定した。
2.金属元素の定量分析
母体結晶を不活性ガス下で過塩素酸、硝酸及びフッ化水素酸で加熱分解し、希硝酸で溶解処理して定容とした。この溶液についてICP発光分光分析装置(SIIナノテクノロジー株式会社製:SPS−4000)を用い金属元素量を測定した。
3.Clの定量分析
母体結晶を管状電気炉で燃焼し、発生ガスを吸着液に吸着させた。この溶液についてDionex社製DX−500を用いイオンクロマトグラフ法でCl量を決定した。
4.Oの定量分析
母体結晶をLECO社製の窒素酸素分析装置TC−436を用い、試料をアルゴン中で熱分解させ、発生酸素を赤外線吸収法で定量した。
【0041】
以上の元素定量分析の結果、得られた母体結晶の大凡の組成比は下記の通りである。
SiO・1.05(Ca0.6,Sr0.4)O・0.15SrCl
また、ピクノメータによって測定した前記母体結晶の比重は3.4であった。
【0042】
母体結晶の単結晶について、イメージングプレート単結晶自動X線構造解析装置(RIGAKU製:R−AXIS RAPID)により、MoのKα線(波長λ=0.71Å)を用いたX線回折パターンを測定した(以下、測定1と呼ぶ)。
この測定1により得られたX線回折写真の一例を図1に示す。
【0043】
測定1により、2θ<60°(d>0.71Å)の範囲で得られた5709本の回折斑点を用いて以下の結晶構造解析を行なった。
【0044】
母体結晶について、測定1によるX線回折パターンから、データ処理ソフト(RIGAKU 製:Rapid Auto)を用い、母体結晶の結晶系、ブラベ格子、空間群、及び格子定数を以下の通り決定した。
結晶系:単斜晶
ブラベ格子:底心単斜格子
空間群:C2/m
格子定数:
a=13.3036(12)Å
b=8.3067(8)Å
c=9.1567(12)Å
α=γ=90°
β=110.226(5)°
V=949.50(18)Å
【0045】
その後、結晶構造解析ソフト(RIGAKU製:Crystal Stracture)を用い、直接法により大まかな構造を決定した後、最小二乗法により構造パラメータ(席占有率、原子座標、温度因子等)を精密化した。
精密化は、|F|>2σの独立な1160点の|F|に対して行ない、その結果、信頼度因子R=2.7%の結晶構造モデルが得られた。
当該結晶構造モデルを、以後「初期構造モデル」と呼ぶ。
【0046】
単結晶から求めた初期構造モデルの原子座標と占有率を表1に示す。
【表1】
【0047】
単結晶より求めた初期構造モデルの組成比は、以下のように算出された。
SiO・1.0(Ca0.6,Sr0.4)O・0.17SrCl
【0048】
上記解析の結果、本発明の結晶は、X線回折に広く用いられるX線回折データベースであるICDD(International Center for Diffraction Date)に登録されていない新規構造の結晶であることが判明した。
【0049】
次に、蛍光体と同等形態である粉末の母体結晶を調整し、初期構造モデルに属した結晶構造となっているか調べた。
【0050】
粉末母体結晶の調整は、以下の手順で行った。まず、SiO、CaO、SrO、SrClの各原料をこれらのモル比がSiO:CaO:SrO:SrCl=1.0:0.7:0.2:1.0となるように秤量し、秤量した各原料をアルミナ乳鉢に入れ約30分粉砕混合し、原料混合物を得た。この原料混合物をタブレット型に詰め100MPaで一軸圧縮成形をし、成形体を得た。この成形体をアルミナ坩堝に入れ蓋をした後に、1030℃で5〜40時間焼成し、焼成物を得た。得られた焼成物を温純水と超音波で洗浄し、粉末母体結晶を得た。
【0051】
次に、粉末母体結晶の詳細な結晶構造を求めるために、名古屋大学の高分解能粉末X線回折装置(RIGAKU製:特注品)により、MoのKα特性X線を用い、粉末X線回折測定を行った(以下、測定2と呼ぶ)。
測定2の結果に対し、リートベルト解析を実施し結晶構造を特定した。リートベルト解析を実施するに当り、モデルとして前記初期構造モデルの格子定数、原子座標及び、空間群を用い、最少ニ乗法により構造モデルの精密化を行った。
【0052】
その結果、測定2で観測された回折パターンとリートベルト解析によりフィッティングした計算回折パターンはよく一致しており、一致尺度を判定するR因子は、RWP=2.84%と非常に小さな値を示した。このことより、前記単結晶の母体結晶と粉末の母体結晶は同じ構造の結晶と断定された。
【0053】
図2に、測定2についてのリートベルト解析のフィッティング図を示す。
図2における上段は、実線がリートベルト解析で求めた計算による粉末X線回折パターンであり、十字プロットが測定2により観測された粉末X回折パターンを示す。
図2における中段は、リートベルト解析で求めた計算による回折のピーク角度を示す。
図2における下段は、上段に示した粉末X線回折パターンの計算値と観測値の差をプロットしたものであり、両者の差はほとんどなく、よく一致していることが分かる。
【0054】
精密化された粉末母体結晶の格子定数を以下に示す。
a=13.2468(4)Å、b=8.3169(2)Å、c=9.1537(3)Å
α=γ=90°、β=110.251(2)°
V=946.1(1)Å
【0055】
精密化された粉末母体結晶の原子座標を表2に示す。
【表2】
【0056】
測定2を基にリートベルト解析によって算出した、前記粉末母体結晶の理論組成比を下記の示す。
<粉末母体結晶の理論組成比>
SiO・1.0(Ca0.6,Sr0.4)O・0.17SrCl
【0057】
前記母体結晶において、固溶体を形成可能な元素を以下列挙する。
ここで固溶体とは、前記母体結晶を構成する元素の組成比の変動、または、前記母体結晶を構成する元素の一部を別の元素に置換して、母体結晶とは格子定数は異なるものの同一の結晶構造をもつものを言う。
<母体結晶に固溶可能な元素群>
SiOのSi置換元素:Ge、Ti、Zr、及びSn
(Ca0.6,Sr0.4)OのCa及び/又はSr置換元素:Mg、Ba、Zn、Mn及び希土類元素
SrClのSr置換元素:Mg、Ca、Ba、及びZn
SrClのCl置換元素:F、Br、及びI
また、4族元素の酸化物で構成するSiOの一部を1/2(B,P)O,1/2(Al,P)Oに置き換えることも出来る。
【0058】
<本発明の蛍光体の結晶構造の同定>
前記固溶体の結晶構造の同定はX線回折や中性子線回折の回折結果の同一性により判定可能であるが、元となる結晶から構成元素の一部が固溶可能な他の元素に置き換わった結晶は、格子定数が変化するため、元の結晶と同じ結晶構造に属する結晶であっても、回折結果が完全な同一とはならない。
同じ結晶構造に属する結晶において、元素の置き換わりにより格子定数が小さくなれば回折角度は高角度側にシフトし、格子定数が大きくなれば回折角度は低角度側にシフトする。
【0059】
そこで、前記粉末母体結晶と、当該母体結晶を構成するCa及び/又はSr(前記一般式におけるM元素)の一部を蛍光体の発光中心となるEu2+(前記一般式におけるM元素)に置き換えた本発明の蛍光体(後述する実施例1及び実施例2)とが、同じ結晶構造に属するかについて、以下2種の判定方法を用いて評価した。
【0060】
まず、固有量が小さい結晶の場合には、簡易に結晶構造を同定する判定方法として、X線回折結果から得られるX線回折チャートのピーク位置(2θ)が、主要ピークについて一致した場合に両者の結晶構造が同じであると判定することができる。
尚、この判定に用いる主要ピークは最も回折強度の強い10本程度で判定するのが良い。
【0061】
図3に、本発明の蛍光体と前記粉末母体結晶のX線回折パターンを示す。
上段は、CuのKα特性X線の波長を用いた、本発明の蛍光体(後述する実施例2)の粉末X線回折パターンである。
下段が、リートベルト解析により決定された粉末母体結晶の結晶構造から計算した、CuのKα特性X線に対する粉末X線回折パターンである。
この図3から、両者のX線チャートが主要ピークについて非常によく一致しており、同じ結晶構造から成り立っていることが分かる。
【0062】
更に詳しく結晶構造を同定する判定方法として、判定対象のX線回折(又は中性子線回折)の結果を前記初期結晶モデルの格子定数、原子座標及び、空間群をモデルに用いリートベルト解析を行い、R因子を求めることにより同じ構造であるか判定できる。
具体的には、判定対象のリートベルト解析が、前記粉末母体結晶のリートベルト解析と同レベルの低いR因子に収束すれば、同じ構造の結晶と判断できる。
また、リートベルト解析で得られた格子定数や原子座標を比較することにより、微細な構造の違いを議論することができる。
【0063】
この判定方法を用いるため、まず、本発明の蛍光体(後述する実施例1)について、前記測定2と同様の条件でX線回折パターンを測定した(以下、測定3と呼ぶ)。
得られたX線回折パターン基づいて前記初期構造モデルをモデルとしたリートベルト解析を行った。その結果、判定基準のR因子Rwp値は3.69%と非常に小さく、前記粉末母体結晶のRwp値と同等レベルで収束した。
図4に、測定3についてのリートベルト解析のフィッティング図を示す。
図4における上段は、実線がリートベルト解析で求めた計算による粉末X線回折パターンであり、十字プロットが測定3により観測された粉末X回折パターンを示す。
図4における中段は、リートベルト解析で求めた計算による回折のピーク角度を示す。
図4における下段は、上段に示した粉末X線回折パターンの計算値と観測値の差をプロットしたものであり、両者の差はほとんどなく、よく一致していることが分かる。
以上より、本発明の蛍光体は母体結晶と同じ結晶構造であるものと判定される。
【実施例】
【0064】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。
まず、本発明の蛍光体を実施例により説明するが、下記蛍光体の化学組成、原料、製造方法等の記載は、本発明の蛍光体の実施形態を何ら制限するものではない。
【0065】
<実施例1>
SiO・0.9(Ca0.5,Sr0.5)O・0.17SrCl:Eu2+0.1で表される蛍光体。
本実施例1は、一般式M・aMO・bM:Mにおいて、M=Si、M=Ca/Sr(モル比50/50)、M=Sr、X=Cl、M=Eu2+、a=0.9、b=0.17、Mの含有量c(モル比)がc/(a+c)=0.1となるように合成した蛍光体である。
本実施例1の製造は、まず、SiO、Ca(OH)、SrCl・6HO、及びEuの各原料をこれらのモル比がSiO:Ca(OH):SrCl・6HO:Eu=1.0:0.65:1.0:0.13となるように秤量し、秤量した各原料をアルミナ乳鉢に入れ約30分粉砕混合し、原料混合物を得た。この原料混合物をアルミナ坩堝に入れ、還元雰囲気の電気炉で雰囲気(5/95)の(H/N)、1030℃で5〜40時間焼成し、焼成物を得た。得られた焼成物を温純水で丹念に洗浄し、本実施例1の蛍光体を得た。
【0066】
<実施例2>
SiO・0.95(Ca0.65,Sr0.35)O・0.17SrCl:Eu2+0.05で表される蛍光体。
本実施例2は、一般式M・aMO・bM:Mにおいて、M=Si、M=Ca/Sr(モル比65/35)、M=Sr、X=Cl、M=Eu2+、a=0.95、b=0.17、Mの含有量c(モル比)がc/(a+c)=0.05となるように合成した蛍光体である。
本実施例2の製造は、まず、まず、SiO、Ca(OH)、SrCl・6HO、及びEuの各原料をこれらのモル比がSiO:Ca(OH):SrCl・6HO:Eu=1.0:0.77:1.0:0.07となるように秤量し、その後は実施例1と同様の方法で本実施例2の蛍光体を得た。
【0067】
<実施例3>
SiO・0.84(Ca0.55,Sr0.45)O・0.17SrCl:Eu2+0.16で表される蛍光体。
本実施例3は、一般式M・aMO・bM:Mにおいて、M=Si、M=Ca/Sr(モル比55/45)、M=Sr、X=Cl、M=Eu2+、a=0.84、b=0.17、Mの含有量c(モル比)がc/(a+c)=0.16となるように合成した蛍光体である。
本実施例3の製造は、まず、SiO、Ca(OH)、SrCl・6HO、及びEuの各原料をこれらのモル比がSiO:Ca(OH):SrCl・6HO:Eu=1.0:0.52:1.0:0.19となるように秤量し、その後は実施例1と同様の方法で本実施例3の蛍光体を得た。
【0068】
<実施例4>
SiO・0.9(Ca0.6,Sr0.4)O・0.17SrCl:Eu2+0.1で表される蛍光体。
本実施例4は、一般式M・aMO・bM:Mにおいて、M=Si、M=Ca/Sr(モル比60/40)、M=Sr、X=Cl、M=Eu2+、a=0.9、b=0.17、Mの含有量c(モル比)がc/(a+c)=0.1となるように合成した蛍光体である。
また、本実施例4は、原料の混合比においてSiOを過剰に添加することで、蛍光体内にクリストバライトを生成させた実施例である。
本実施例4の製造は、まず、SiO、Ca(OH)、SrCl・6HO、及びEuの各原料をこれらのモル比がSiO:Ca(OH):SrCl・6HO:Eu=1.1:0.45:1.0:0.13となるように秤量し、その後は実施例1と同様の方法で本実施例4の蛍光体を得た。
【0069】
<実施例5>
SiO・0.86(Ca0.47,Sr0.52,Ba0.01)O・0.17SrCl:Eu2+0.14で表される蛍光体。
本実施例5は、一般式M・aMO・bM:Mにおいて、M=Si、M=Ca/Sr/Ba(モル比47/52/1)、M=Sr、X=Cl、M=Eu2+、a=0.86、b=0.17、Mの含有量cの量を規定する指標c/(a+c)=0.14 となるように合成した蛍光体である。
また、本実施例5は、M元素としてCa及びSrに加えて更にBaを固有させた実施例であり、原料の混合比においてSiOを過剰に添加することで、蛍光体内にクリストバライトを生成させた実施例である。
本実施例5の製造は、まず、SiO、CaCO、BaCO、SrCl・6HO及びEuの各原料をこれらのモル比がSiO:CaCO:BaCO:SrCl・6HO:Eu=1.68:0.45:0.02:1.0:0.13となるように秤量し、その後は実施例1と同様の方法で本実施例5の蛍光体を得た。
【0070】
<実施例6>
SiO・0.86(Ca0.49,Sr0.50,Mg0.01)O・0.17SrCl:Eu2+0.14で表される蛍光体。
本実施例6は、一般式M・aMO・bM:Mにおいて、M=Si、M=Ca/Sr/Mg(モル比49/50/1)、M=Sr、X=Cl、M=Eu2+、a=0.86、b=0.17、Mの含有量cの量を規定する指標c/(a+c)=0.14 となるように合成した蛍光体である。
また、本実施例5は、M元素としてCa及びSrに加えて更にMgを固有させた実施例であり、原料の混合比においてSiOを過剰に添加することで、蛍光体内にクリストバライトを生成させた実施例である。
本実施例6の製造は、まず、SiO、CaCO、MgCO、SrCl・6HO及びEuの各原料をこれらのモル比がSiO:CaCO:MgCO:SrCl・6HO:Eu=1.68:0.45:0.02:1.0:0.13となるように秤量し、その後は実施例1と同様の方法で本実施例6の蛍光体を得た。
【0071】
尚、実施例1〜6の組成比(前記一般式におけるa、bの値)は、前述した母体結晶の結晶構造に関する各データに基づき、電子プローブマイクロアナライザー(日本電子製:JOEL JXA−8800R)を用いて測定、及び決定をした。
【0072】
<比較例>
比較例として、BaMgAl1017:Eu,Mnで表される蛍光体(化成オプトニクス株式会社製)を用いた。
この蛍光体は、国家プロジェクト「高効率電光変換化合物半導体開発(21世紀のあかり計画)」においてリストアップされた近紫外励起の緑色発光の蛍光体のうち、耐光性に優れたものとして知られている。
【0073】
実施例1〜6及び比較例の蛍光体について、400nm励起下における発光強度を測定した。その測定結果を比較例の蛍光体を100とする相対値として表3に示す。
【表3】
【0074】
表3から、実施例1〜6の蛍光体は比較例1に対し少なくとも1.3倍以上の積分発光強度を示している。このことから、実施例1〜6の蛍光体は、400nm付近の波長域で効率良く励起され高い発光強度の可視光を発光可能であることが分かる。
また、原料の混合比においてSiOを過剰に添加することで、蛍光体内にクリストバライトを生成させた実施例4〜6は、実施例1〜3に比べて更に良好な発光特性を示していることが分かる。
【0075】
図5に、400nm励起下における実施例1の蛍光体の発光スペクトル(実線)及び比較例1の発光スペクトル(点線)を示す。
図6に、400nm励起下における実施例2の蛍光体の発光スペクトル(実線)及び比較例1の発光スペクトル(点線)を示す。
図7に、400nm励起下における実施例3の蛍光体の発光スペクトル(実線)及び比較例1の発光スペクトル(点線)を示す。
図8に、400nm励起下における実施例4の蛍光体の発光スペクトル(実線)及び比較例1の蛍光体の発光スペクトル(点線)を示す。
図9に、400nm励起下における実施例5の蛍光体の発光スペクトル(実線)及び比較例1の蛍光体の発光スペクトル(点線)を示す。
図10に、400nm励起下における実施例6の蛍光体の発光スペクトル(実線)及び比較例1の蛍光体の発光スペクトル(点線)を示す。
尚、図5〜10におけるグラフの縦軸は比較例との相対的な発光強度を示すものである。
【0076】
図5〜10から、実施例1〜6の蛍光体は、いずれも発光スペクトルのピークが560〜590nmの波長域にあり、半値幅が100nm以上であることが分かる。このことから、実施例1〜6の蛍光体は演色性の高いブロードな可視光を発光可能であることが分かる。
【0077】
図11に、実施例1の蛍光体の励起スペクトルを示す。
図11から、実施例1の蛍光体は、350〜430nmの波長域に強い励起帯があることが分かる。このことから、実施例1の蛍光体は400nm付近の波長域で効率よく励起されることが分かる。
また、図11から、実施例1の蛍光体は、450〜480nmの波長域の光をほとんど吸収しないことが分かる。このことから、実施例1の蛍光体は青色と混色し白色光を合成した場合、青色を吸収することがないので色ずれが少ないことが分かる。
【0078】
図12に、実施例1の蛍光体について測定したCuのKα特性X線を用いたX線回折パターンを示す。
図13に、実施例4の蛍光体について測定したCuのKα特性X線を用いたX線回折パターンを示す。
【0079】
図12〜13から、いずれのCuのKα特性X線を用いたX線回折パターンにおいても、回折角2θが29.0°以上30.5°以下の範囲に存在する最も強度の高い回折ピークの回折強度を100とした場合に、回折角2θが28.0°以上29.5°以下の範囲に回折強度50以上を示す回折ピークが存在し、回折角2θが19.0°以上22.0°以下の範囲に回折強度8以上を示すピークが存在し、回折角2θが25.0°以上28.0°以下の範囲に回折強度15以上を示すピークが存在し、回折角2θが34.5°以上37.5°以下の範囲に回折強度15以上を示すピークが存在し、回折角2θが40.0°以上42.5°以下の範囲に回折強度10以上を示し、回折角2θが13.0°以上15.0°以下の範囲に回折強度10以上を示すピークが存在することが分かる。
このことから、前記粉末母体結晶、実施例1、及び実施例4は、いずれも同じ結晶構造に属することが示唆される。
【0080】
また、図13においては、2θ=21.7°付近に、図12では確認できないクリストバライトに由来する回折ピーク(図中の矢印)が確認できる。
このことから、実施例4は不純物を含んでいるが、その結晶構造は前記母体結晶や実施例1と同じ結晶構造に属しており、その発光特性は実施例1〜3よりも良好であることが分かる。
【0081】
次に、本発明の蛍光体の利用形態を発光装置の実施例により説明するが、下記発光装置の形態は本発明の蛍光体の利用形態を何ら制限するものではない。
【0082】
<発光装置の実施例7>
図14は、本発明の蛍光体を利用した発光装置の概略断面図である。図14に示す発光装置1は、基板2上に電極3a及び3bが形成されている。電極3a上には励起光源としての半導体発光素子4がマウント部材5により固定されている。半導体発光素子4と電極3aは前記マウント部材5により通電されており、半導体発光素子4と電極3bはワイヤー6により通電されている。半導体発光素子の上には蛍光層7が形成されている。
【0083】
基板2は、導電性を有しないが熱伝導性は高い材料によって形成されることが好ましく、例えば、セラミック基板(窒化アルミニウム基板、アルミナ基板、ムライト基板、ガラスセラミック基板)やガラスエポキシ基板等を用いることができる。
本実施例においては窒素化アルミニウム基板を用いた。
【0084】
電極3a及び3bは、金や銅等の金属材料によって形成された導電層である。
本実施例においては、電極3aを陽極、電極3bを陰極とし、金を用いて基板上2に設けた。
【0085】
半導体発光素子4は、本発明の蛍光体を発光装置に利用する際の励起光源の一例であり、例えば、紫外線又は短波長可視光を発光するLEDやLD等を用いることができる。具体例として、InGaN系の化合物半導体を挙げることができる。InGaN系の化合物半導体は、Inの含有量によって発光波長域が変化する。Inの含有量が多いと発光波長が長波長となり、少ない場合は短波長となる傾向を示すが、ピーク波長が400nm付近となる程度にInが含有されたInGaN系の化合物半導体が電光変換における量子効率が最も高くなるという結果が示されている。
本実施例においては、405nmに発光ピークを持つ1mm四方のLED(SemiLEDs社製:MvpLEDTMSL−V−U40AC)を用いた。
【0086】
マウント部材5は、例えば銀ペースト等の導電性接着材であり、半導体発光素子4の下面を電極3aに固定し、半導体発光素子4の下面側電極と基板2上の電極3aを電気的に接続する。
本実施例においては、銀ペースト(エイブルスティック社製:84−1LMISR4)を電極3a上にディスペンサーを用いて滴下し、当該銀ペースト上に半導体発光素子4の下面を接着させ、175℃環境下で1時間硬化させた。
【0087】
ワイヤー6は、金ワイヤー等の導電部材であり、例えば超音波熱圧着等により半導体発光素子4の上面側電極及び電極3bに接合され、両者を電気的に接続する。
本実施例においては、Φ45μmの金ワイヤーを半導体発光素子4の上面側電極及び基板2上の電極3bに超音波熱圧着にて接合した。
【0088】
蛍光層7には、少なくとも本発明の蛍光体を含む1種又は複数種類の蛍光体がバインダー部材によって半導体発光素子4の上面を覆う膜状に封止されている。このような蛍光層7は、例えば、液状又はゲル状のバインダー部材に蛍光体を混入した蛍光体ペーストを作製した後、当該蛍光体ペーストを半導体発光素子4の上面に塗布し、その後に塗布した蛍光体ペーストのバインダー部材を硬化することにより形成することができる。
バインダー部材としては、例えば、シリコーン樹脂やフッ素樹脂等を用いることができる。特に、本発明の蛍光体は、励起光として400nm付近の波長域の光を用いることが好ましいことから、耐紫外線性能に優れたバインダー部材を使用することが好ましい。
【0089】
蛍光層7には、本発明の蛍光体とは異なる発光特性を有する1種又は複数種類の蛍光体を混入することができる。これにより、異なる複数種類の波長域の光を合成して種々の色の光を得ることができる。
【0090】
また、蛍光層7には、種々の物性を有する蛍光体以外の物質を混入することもできる。例えば、金属酸化物、硫化物等のバインダー部材よりも屈折率の高い物質を蛍光層7に混入することにより、蛍光層7の屈折率を高めることができる。これにより、半導体発光素子4から発生する光が蛍光層7入射する際に生ずる全反射を低減させ、蛍光層7への励起光の取り込み効率を向上させるという効果が得られる。更に、混入する物質の粒子径をナノサイズにすることで、蛍光層7の透明度を低下させることなく屈折率を高めることができる。
【0091】
本実施例においては、バインダー部材としてシリコーン樹脂(東レダウコーニングシリコーン社製:JCR6140)を用い、これに下記蛍光体の混合物が30vol%なるように混入した蛍光体ペーストを作製し、この蛍光体ペーストを半導体発光素子4の上面に100μm厚で塗布した後、80℃環境下で40分、その後に150℃環境下で60分のステップ硬化にて固定化することで蛍光層7を形成した。
<実施例7に用いた蛍光体>
本発明の実施例4の蛍光体(黄)と蛍光体Sr10(POCl:Eu(青)(化成オプトロニクス製:KY−663)とを配合比(重量比)1(黄):1.5(青)で混合した蛍光体の混合物を用いた。
<比較例2に用いた蛍光体>
比較例として、蛍光体BaMgAl1017:Eu(青)と蛍光体BaMgAl1017:Eu,Mn(緑)と蛍光体LaS:Euとを配合比(重量比)3(青):12(緑):85(赤)で混同した蛍光体の混合物を用いた。
【0092】
以上のように構成された発光装置1において、電極3aと3bに対し駆動電流を印加すると、半導体発光素子4が通電され、半導体発光素子4は蛍光層7へ向けて紫外線や短波長可視光等の半導体発光素子4固有の波長域の光を照射する。この光により蛍光層7内の蛍光体が励起され、蛍光体は固有の波長域の光を照射する。このような仕組みを利用し、半導体発光素子4及び/又は蛍光体を種々選択することで所望する光を照射する発光装置とすることができる。
【0093】
実施例7及び比較例2の発光装置に積分球内で1〜50mAの電流を投入し発光させ、分光器(Instrument System社製:CAS140B−152)で発光出力を測定した。その結果を以下詳述する。
尚、比較例2の発光装置は、蛍光体の材料以外は実施例5と同じ構成の発光装置であり、同一の条件において測定を行った。
【0094】
表4に、実施例7及び比較例2の発光装置に5、10、50mAの駆動電流を印加したときの各発光装置の発光出力(光束)を、比較例2の発光装置に5mAの駆動電流を印加したときの発光出力(光束)を1.0とする相対値として示す。
この表4より、実施例7の発光装置は比較例2に対し高出力の発光装置であることが分かる。
【表4】
【0095】
図15に、実施例7及び比較例2の発光装置に50mAの駆動電流を印加したときの各発光装置の発光スペクトルを示す。
尚、図15におけるグラフの縦軸は比較例との相対的な発光強度を示すものである。
この図15より、実施例7の発光装置は比較例2に対しブロードな発光スペクトルを示しており、高演色性(Ra=76)であることが分かる。
【0096】
以上、本発明の蛍光体を実施例に沿って説明したが、本発明はこれらの実施例に限られるものではなく、種々の変更、改良、組み合わせ、利用形態等が考えられることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0097】
本発明の蛍光体は、種々の発光装置に利用することができる。
【符号の説明】
【0098】
1:発光装置
2:基板
3a:電極(陽極)
3b:電極(陰極)
4:半導体発光素子
5:マウント部材
6:ワイヤー
7:蛍光層
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