【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用 平成22年6月10日 社団法人 日本空気清浄協会主催の「プレISCC2010空気清浄とコンタミネーションコントロール研究発表会」において文書をもって発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用 平成22年6月26日 社団法人 日本機械学会発行の「第20回環境工学総合シンポジウム2010講演論文集」に発表
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
周知のように、高精度の湿度制御が求められる産業分野においては、水蒸気の量を二方弁で比例制御できることによる流量制御性や応答性の良さから、蒸気式加湿器が多く用いられてきた。
しかし最近は、低炭素化の流れのなかで、油やガスなど排出CO
2 換算係数が大きくかつ発生熱の温度場の高い一次エネルギ燃焼熱の、空調におけるたかだか百℃未満対象への直接加熱利用は敬遠され、水力や原子力発電由来を含むため排出CO
2 換算係数の小さい電気への空調における加熱の移行が進んでおり、これに伴い、空調における加湿も、加熱温度が低くても加湿可能な水加湿方式に移行しつつある。
【0003】
水加湿方式では、気化によって空気が冷えてしまうため、室内の暖房負荷は増えるが、ヒートポンプ熱源を利用して電化を図っている。
しかし、水加湿方式では、一般に必要加湿量に対して非常に多くの給水量が必要であり、加湿に供し得なかった給水は排水として捨てられている。水資源の豊富な我が国においても、水の有効利用は非常に重要である。
【0004】
従来、水加湿装置として、遠心式・超音波式・二流体スプレー式・高圧スプレー式・エアワッシャ式などの水噴霧加湿装置や、滴下式・回転式・毛細管式などの気化加湿装置が知られている。この内、水噴霧加湿装置として、高圧スプレー装置やワッシャ装置が産業空調用途の空調機で多く使われている。いずれも噴霧圧0.3MPa〜1.0MPaの噴霧ノズルとエリミネータ(気水分離器)とで構成される。
【0005】
高圧スプレー式では、空調器内などの囲われたケーシングの内部に、通風方向の上流側にノズルを設け、加湿に必要な距離(加湿吸収距離)を一定量設けた後、未蒸発のミストを空気から除外するために、ノズル下流側に遮り効果を有するステンレス製折板からなるいわゆる三つ折エリミネータを設ける。ここで三つ折エリミネータによって除外されたミストは、直ちに大粒径化して水滴となり、ドレンとして排水され、加湿には寄与しない。加湿吸収距離を大きくするほどミストと空気との接触時間が長くなるため、加湿量を大きく排水量を少なくでき効率的であるが、設置スペースの制約があるため加湿吸収距離は一般的に1m程度が限界である。このため、高圧スプレー装置における加湿効率は30%(排水が70%)程度と、非常に悪い。
【0006】
ワッシャ装置は、本来、加湿を主目的とするものではなく、空気中の塵埃や有害ガス成分の除去を目的としており、それらに対して非常に高い除去率(80%〜90%以上)を求められるため、加湿量と比較して数十倍から数百倍の水を循環して噴霧させ気水の接触効率を高めている。
ワッシャ装置でも、エリミネータは気水分離機能が重要であり、低圧損で効率的に気水分離する発明が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
また、ワッシャ装置では、塵埃、あるいは有害ガス成分の除去効率を高めるために、エリミネータを樹脂や金属製からなる繊維状のメディアとし、ここで水分を一定時間とどめることによって気水の接触面積を大きくする発明も提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0007】
また、近年省エネ型加湿器として「滴下式」が多く用いられるようになってきた。これは、空調器内等の温調対象搬送空気中に設置する、通風可能な材質からなる加湿材(吸水性エレメント)に上部から給水滴下する形式のもので、吸水性エレメントとしては、不織布、セラミックペーパなどを用いている。また、給水量は、必要加湿量及び残留スケール洗浄分とを合計した量を供給する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、特許文献1,2の発明は、加湿量に比べて非常に多くの水を噴霧するワッシャ装置に対して、飽和効率を高める効果を有するものの、その噴霧量は、小さくしても空気/ガス重量比:L/Gで言うとせいぜい0.3で、必要加湿噴霧量の50倍以上であり、有効加湿効率を高める効果は少ないという問題点があった。
【0010】
また、滴下式加湿は、その吸水性エレメントに依存する構造から、滴下水量をある程度増減させても吸水性エレメントが保持する水分と接触する空気の面積はあまり変わらず飽和効率はほぼ一定となってしまうため、加湿量の制御が水量の制御だけではうまくできない。そして、滴下水供給元を電磁弁などでオンオフ制御することはできても、空気と接触する吸水性エレメントの保有水量が大きいため、吸水性エレメントが接触空気によって乾くまではなかなか加湿量が減衰せず、よってオンオフの応答性も悪く、制御精度が良くないという問題点があった。
【0011】
本発明は、斯かる従来の問題点を解決するために為されたもので、その目的は、エリミネータにおける再蒸発を積極的に利用して有効加湿効率を上げ、水の有効利用を図ることによって、高い加湿制御精度(例えば、45±5%)が要求されるクリーンルームなどの工場空調に対する省エネ加湿の要望に応えることを可能とした水噴霧加湿装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1に係る発明は、風洞と、前記風洞内に中を流れる気流に直交するよう配される多孔質金属製エリミネータと、前記多孔質金属製エリミネータ全体に噴霧可能に前記風洞内に配される噴霧圧力が0.6MPaである低圧のノズルと、ポンプを備え、前記風洞外から供給される清浄水を前記ノズルに給水する給水路とを備え、
前記多孔質金属製エリミネータは、厚みが10mm〜30mmであり、前記多孔質金属製エリミネータは、内部に無数の気泡が重なりあうように存在し、前記気泡が重なる部分には気孔が空いて空間が連通し前記多孔質金属製エリミネータ全体の表面と裏面とを貫通している連続気泡体であって、無数にある連通する前記気泡の開口部の一部が滑らかな楕円形状を為す平面であり、前記気泡の直径が0.8mm〜1.3mm、空隙率が80%〜95%であり、ミストを含んだ空気が通過する際に捕捉されたミストが、表面張力によって容易に水膜を形成
し、前記連続気泡体を通過する気流による押圧または振動で前記水膜がすぐ破裂させられて消滅する構造であ
って、前記ノズルと前記多孔質金属製エリミネータとの距離である加湿吸収距離を1,000mm以上1,200mm以下に確保することで、加湿による飽和線への近づき度合いを示す飽和効率を80%以上に、且つ、前記ノズルへの給水量に対する空気に付加された水分量を示す有効加湿効率を40%以上に確保することを特徴とする。
【0014】
請求項
2に係る発明は、請求項1
に記載の水噴霧加湿装置において、前記多孔質金属製エリミ
ネータの下流側に配置され、露点温度を実測する露点温度センサと、前記ノズルに水を供給する配管を全開全閉する弁と、前記弁の開閉を制御する制御部と
を備え、前記制御部は、設定露点温度と前記露点温度センサによる測定露点温度の偏差から求まる要求量に応じて前記弁の開放時間を制御することを特徴とする。
【0015】
請求項
3に係る発明は、請求項1
に記載の水噴霧加湿装置において、前記水噴霧加湿装置を内蔵する空調機により給気して温調し還気を戻す空調対象室に配置され、室内相対湿度を実測する湿度センサと、前記ノズルに水を供給する配管を全開全閉する弁と、前記弁の開閉を制御する制御部と
を備え、前記制御部は、設定相対湿度と前記湿度センサによる測定湿度の偏差から求まる要求量に応じて前記弁の開放時間を制御することを特徴とする。
【0016】
請求項
4に係る発明は、請求項1
に記載の水噴霧
加湿装置において、
複数の前記ノズルが複数の段に分けて群配置され、各段に含まれる前記ノズルに水を供給する各段の配管には、当該配管を全開全閉する弁がそれぞれ配置され、前記多孔質金属製エリミ
ネータの下流側に配置され、露点温度を実測する露点温度センサと、前記
各段
に配置された前記弁
の開閉を
それぞれ制御する制御部と
を備え、前記制御部は、設定露点温度と前記露点温度センサによる測定露点温度の偏差から求まる要求量に応じて前記各段毎の前記弁を開閉することでノズル段数を制御することを特徴とする。
【0017】
請求項
5に係る発明は、請求項1
に記載の水噴霧
加湿装置において、
複数の前記ノズルが複数の段に分けて群配置され、各段に含まれる前記ノズルに水を供給する各段の配管には、当該配管を全開全閉する弁がそれぞれ配置され、前記水噴霧加湿装置を内蔵する空調機により給気して温調し還気を戻す空調対象室に配置され、室内相対湿度を実測する湿度センサと、前記
各段
に配置された前記弁
の開閉を
それぞれ制御する制御部と
を備え、前記制御部は、設定相対湿度と前記湿度センサによる測定相対湿度の偏差から求まる要求量に応じて前記各段毎の前記弁を開閉することでノズル段数を制御することを特徴とする。
【0018】
請求項
6に係る発明は、請求項1
に記載の水噴霧加湿装置において、
前記ノズルは、前記ポンプの吐出側に接続される加圧系統の配管と、前記ポンプの上流側から分岐して前記加圧系統の配管と並行に配置された背圧系統の配管とにそれぞれ接続される背圧調整弁付ノズルであって、前記背圧系統
の配管に設けた二方弁と、前記多孔質金属製エリミネータの下流側に配置され、露点温度を実測する露点温度センサと、前記二方弁の開度を制御する制御部と
を備え、前記制御部は、設定露点温度と前記露点温度センサによる測定露点温度の偏差から求まる要求量に応じて前記二方弁の開度を調整することを特徴とする。
【0019】
請求項
7に係る発明は、請求項1
に記載の水噴霧加湿装置において、
前記ノズルは、前記ポンプの吐出側に接続される加圧系統の配管と、前記ポンプの上流側から分岐して前記加圧系統の配管と並行に配置された背圧系統の配管とにそれぞれ接続される背圧調整弁付ノズルであって、前記背圧系統
の配管に設けた二方弁と、前記水噴霧加湿装置を内蔵する空調機により給気して温調し還気を戻す空調対象室に配置され、室内相対湿度を実測する湿度センサと、前記二方弁の開度を制御する制御部と
を備え、前記制御部は、設定相対湿度と前記湿度センサによる測定相対湿度の偏差から求まる要求量に応じて前記二方弁の開度を調整することを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明は、多孔質金属製エリミネータを利用するため、下記のような利点を有する。
多孔質金属製エリミネータの上流側の噴霧量に応じた、内部水膜形成と、噴霧水を減じた際の内部水膜消失性や、水切れの良さから、優れた加湿制御精度を有する。
加湿吸収距離を取りさえすれば優れた飽和効率を有し(〜80%)、最大加湿性能は滴下式を超えている。噴霧量を小さくしたり、加湿吸収距離を小さくしても最大加湿性能は滴下式並である。
【0021】
噴霧量を少なくするほど有効加湿効率が大きくなるが、その場合でもある一定の飽和効率を保つ(例えば、噴霧量の多い有効加湿効率50%時、飽和効率は80%程度のところ、噴霧水量を減らして有効加湿効率90%としても、飽和効率は50%以上ある)ため、部分負荷運転時は少ない吸水量で充分に加湿しながら運転でき、年間の使用水量が滴下式と比べ小さくできる。必要加湿量に対する水噴霧量が小さく、無駄なポンプ動力を消費しない。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を図面に示す実施形態に基づいて説明する。
図1、
図2は、本発明に係る水噴霧加湿装置の第一実施形態として空気調和機(以降、空調機と称する)組み込みの加湿器1を示す。
本実施形態に係る加湿器1は、空調機組み込みを想定し、例えば、7,200m
3/H
の処理風量を、面速2.0m/sで処理する場合、1m×1m断面の風洞10内に噴霧量3L/Hのノズル11を断面に対して均一に16個、つまり定格で水/空気重量比L/G=0.0056として気水接触させて設け、ノズル11の下流L(mm)に多孔質金属製エリミネータ12を設置することによって構成されている。
【0024】
今回採用したい低圧ノズル噴霧装置の性能を、比較試験として噴霧粒径の小さな気水接触の良好で飽和効率の既知の高圧ノズル噴霧装置と比べた。
ノズル11は、高圧(噴霧圧力6MPa、平均粒径26μm)ノズル、低圧(噴霧圧力0.6MPa、平均粒径56μm)ノズルの2種類を用いた。ノズル11は、ポンプ13を備えた給水路14に接続される配管14aにそれぞれ設けられている。ノズル11は、多孔質金属製エリミネータ12が効率よく均等に濡れるよう、断面に均等に配置することが望ましい。
図1では、空気の流れとノズル噴霧ミストのマクロ的噴霧方向とが同じ向きの並行流噴霧を示しているが、後述の
図12に示すように、空気の流れとノズル噴霧ミストのマクロ的噴霧方向とが反対向きの対向流噴霧であっても可能である。
【0025】
多孔質金属製エリミネータ12は、例えば、
図3〜
図6に示すように、内部に無数の気泡12aが重なりあうように存在し、気泡12aが重なる部分には気孔が空いて空間が連通している連続気泡体ICで構成されている。この連続気泡体ICは、気泡直径が0.8mm〜1.3mm、空隙率が80%〜95%である。また、多孔質金属製エリミネータ12の厚みは、10mm〜30mmとする。
【0026】
また、この連続気泡体ICは、
図3〜
図6に示すように、連通する気泡12a同士接する開口部のうちかなりな割合で、開口部は滑らかな楕円形状を為す平面である確率が高く、ミストを含んだ空気MAが通過する際に開口部の縁に捕捉されたミストが、その流下やミスト同士の結合、及び表面張力によって容易に開口部に水膜WFを形成することができる。そして、水膜WFが空気による押圧や振動により破裂すると矢印で示すように開口部には空気の流入が可能となる。さらに、水膜が破裂した後微細なミストとなって流入した空気と良好な気水接触することとなる。即ち、連続気泡体ICは、噴霧を行うことで、内部に無数の水膜WFを形成することができ、連続気泡体IC内では多数の気泡が連続してできる孔を空気が通過し、それに伴い多数の水膜WFを通過したり、水膜の表面に触れて通過することで加湿され、空気が通過した孔の水膜WFは当然空気の押圧力で破裂することが多く一旦消滅するが、噴霧を続けている間は即座に再形成される。
【0027】
ここで、気泡直径の制限の理由について説明する。
気泡直径が1.3mmを超えると、
図7に示すように、開口部を形成する縁のミスト捕捉性能が低下し多孔質金属製エリミネータ12の後方へミストMの飛散が発生する。一方、0.8mm未満になると、
図8に示すように、開口部同士の間隔が密になり、一度水膜WFを形成しても、隣接する水膜WFと即座に結合し水滴状DWになるため気水接触面積を効率よく得ることができない。また、気泡の内部に水滴が充満して滞留し、内部での気水接触が不能になる気泡も出てくる。
【0028】
次に、多孔質金属製エリミネータ12の厚みの制限の理由について説明する。
多孔質金属製エリミネータ12の厚みが10mm未満であると、多孔質金属製エリミネータ12に捕集された水分の一部は多孔質金属製エリミネータ12の背面まで染み出し、空気の動圧によって押し出され後方へ飛散する。また、厚みが30mmを超えると、多孔質金属製エリミネータ12の内部後方側までミストが浸透しないため、浸透しない厚み部分は気水接触効果の向上に寄与せず、圧力損失増加の原因となるだけである。
【0029】
なお、多孔質金属製エリミネータ12の製法は、例えば以下の4例のような製法がある。
例1として、先ず連通気孔を有するポリウレタンフォーム、不織布などの多孔質プラスチック樹脂基材を造り、これに無電解メッキ、真空蒸着、スパッタリング、あるいはカーボンコーティングなどの方法でその骨格表面に導電性を付与し、骨格表面に必要な厚さまで金属を電気メッキする。得られた基材を高温の焙焼工程に導き、樹脂分を焼却し、次いで焙焼の時に生じる金属酸化物を還元雰囲気の中で加熱して金属酸化物を還元して多孔質金属製エリミネータとするものである。
【0030】
例2として、先ず連通気孔を有するポリウレタンフォーム、不織布などの多孔質プラスチック樹脂基材を造り、これに金属粉末を含むスラリ液を導入して樹脂基材の表面に塗着した後、還元性雰囲気で金属粉末を焼結する。この際に、多孔質プラスチック樹脂基材の隙間の骨格太さがある程度あれば焼結収縮せず多孔質金属の網目状の骨格が保たれるので、ある程度の量の金属粉末を導入できるようスラリ液のへ浸漬やスラリ液の樹脂基材への圧入をコントロールする方法である。
【0031】
例3として、先ず構造体となる隙間を形成するため、発泡樹脂(例えば発泡ウレタン)を粒状にして上から押圧して槽内にスタックし、その槽内に金属粉末を含むスラリ液を導入して発泡樹脂の表面に塗着した後、還元性雰囲気で金属粉末を焼結する。この際に、発泡樹脂の隙間の骨格太さがある程度あれば焼結収縮せず多孔質金属の網目状の骨格が保たれるので、ある程度の発泡樹脂間の距離を保つよう樹脂密度をコントロールする方法である。
【0032】
例4として、多孔質金属製エリミネータといっても、連通気孔を有するポリウレタンフォームなどで樹脂基材を造り、別なエポキシ樹脂などの2液混合させた後短時間で硬化性を発揮する樹脂液の中に樹脂基材を浸積させて、連通気孔の内面に硬化性樹脂をコーティングさせ、硬化性樹脂槽から樹脂基材を引き上げて内面コーティング層を硬化させた後、コーティング層は溶かさず、ポリウレタンフォームを溶かす薬液槽に浸漬して、コーティング層のみ残して、非金属(樹脂)骨格からなる多孔質金属製エリミネータとする方法もある。
【0033】
次に、本実施形態の作用を説明する。
本実施形態の用途に応じた最適化を行うため、ノズル11の噴霧面と、多孔質金属製エリミネータ12のノズル側表面との距離をLとし、Lを200mm、400mm、600mm、800mm、1,200mmの5種類で実証試験を行った。それぞれの条件において、ノズル11と多孔質金属製エリミネータ12とで構成された加湿器1の出入口温度、出入口相対湿度、排出水量を計測し、ここから飽和効率および有効加湿効率を求めた。
【0034】
本実施形態において、加湿器1の性能に関係する用語である飽和効率(ηs)および有効加湿効率(ηh)を下記の通り定義する。
・飽和効率:ηs
加湿器の性能を表す指標で、この値が大きいほど出口は飽和状態に近くなり、加湿器として高性能である。
ηs=(tl−t2)/(t1−t’)・・・(1)
tl:入口空気温度[℃]
t2:出口空気温度[℃]
t’:入口空気湿球温度[℃]
【0035】
・有効加湿効率:ηh
加湿器への給水量に対し、空気に付加された(加湿に寄与した)水分量を表す。
ηh=qh/qs=(qs−qd)/qs・・・(2)
qs:給水量[L/H]
qh:加湿に寄与した水分量=加湿量[L/H]
qd:加湿に寄与しない水分量=排水量[L/H]
【0036】
本実証試験に供された本実施形態に係る加湿器1の加湿吸収距離を変化させた、飽和効率および有効加湿効率を
図9に示す。
ノズル11の高圧ノズル又は低圧ノズルの種類違いにかかわらず、ノズル11と多孔質金属製エリミネータ12との距離Lが大きくなるほど飽和効率及び有効加湿効率が上昇する。
例えば、飽和効率はL=1,200mmのとき、高圧ノズルで90%以上、低圧ノズルでも80%以上となり、滴下式の高性能品の飽和効率80%と同等以上の性能を有する。
【0037】
よって、低圧ノズルでも加湿吸収距離1,000mm程度以上を確保できる空調装置の場合、多孔質金属製エリミネータの下流側に配置する露点温度センサにより時間比例制御や段数制御などを行えば、産業用途の例えば常温付近のある乾球温度における相対湿度45%±5%の制御も可能となる。
また、このときの有効加湿効率は、高圧ノズルで50%、低圧ノズルでも42%となり、よって、加湿吸収距離L=1,200mmあれば、ポンプ動力の小さい低圧ノズルで充分であり、滴下式の有効加湿効率より良好な、水資源を節約し省エネルギになるシステムが構築できる。
【0038】
一方、噴霧空間では空気中にミストが混在していることから空気の温湿度測定による蒸発量の算定が困難である。よって、空気中における水滴の質量流束を示す下式を用いて、理論的に算定する。
空気中の質量流束は、下記(3)式で表され、
N
a=κ
aρ(χ
s−χ)[kg/m
2s]・・・・(3)
シャーウッド数Sh及びランツ・マーシャルの式(下記(4)式で表す)を用いると、
【数1】
(4)式は下記(5)式と書き換えられる。
【数2】
【0039】
さらに、風速と粒子速度(ミスト粒子速度)が等しいもの(空気−粒子相対速度0)と仮定するとレイノルズ数Repは0となり、(5)式は下記(6)式と表される。
並行流で低圧ノズルにすると、相対速度0に近くなるし、対向流にして空気上流側に向けて噴霧すると、多孔質金属製エリミネータ位置では、ミストは空気流に押し戻されて相対速度は限りなく0に近づいている。
【0040】
【数3】
これに水滴表面積Aおよび粒子数を乗じることで蒸発量が求まる。ただし、蒸発に伴い粒径dは刻々と変化し、またこれに伴い蒸発流束Naも刻々と変化する。よって、実際の算出方法には、先ず微少時間帯Δtを考え、そのΔt間は粒径dが一定であると見なし、(6)式を適用し蒸発量を算出、蒸発による粒径dの変化を次の微少時間帯に反映させていく差分法を用いる。
【0041】
なお、(3)式〜(6)式中の記号は下記の通りである。
N
a :蒸発流束[kg/m
2s]
κ
a :物質移動係数[m/s]
ρ :空気密度[kg/m
3]
χ
s :水滴界面の絶対温度[kg/kg(DA)]
χ :空気の絶対温度[kg/kg(DA)]
D ;拡散係数[m
2/s]
ν :空気動粘度[m
2/s]
Rep:粒子レイノルズ数[−]
【0042】
以上のように、噴霧空間におけるミストの蒸発量は、計測することができないため、先の(6)式を利用して理論的に計算を行った。条件は下記に示すとおりである。なお蒸発によりミストの平均粒径は減少し、これに伴い蒸発速度も変化することから、短い時間間隔で差分法により精度を上げ算定を行った。
条件
D=2.34×10
-5 m
2/s
d=56×10
-6 m(低圧ノズル初期)
26×10
-6 m(高圧ノズル初期)
ρ=1.23 kg/m
3
ωs=0.0122/(1−0.0122)=0.0123
ω=0.0093/(1−0.0093)=0.0094
L=0〜1,200 mm
【0043】
その演算結果を
図10に示す。L=1,200mmのとき高圧ノズルの飽和効率は約80%であるが、低圧ノズルは30%に満たないことからノズルの種類により明確な差が生じてしかるべきである。
しかし実際は、
図9の状態となるので空間での気液接触の他に多孔質金属製エリミネータ12における気液接触が補われて、低圧ノズルで加湿吸収距離が小さいとき(例えばL=400mmのとき)でも飽和効率70%、有効加湿効率40%弱と、充分実用となる。
【0044】
例えば、一般空調としてのビル空調では、保健空調として居室の湿度を40〜60%の何れかの設定値に向かって制御するのだが±15%程度の許容範囲には充分収まることとなり、事務所ビルのターミナル型空調機のようなあまり加湿吸収距離の取れない空調機にも組み込み可能な加湿装置として実用となる。
加湿器1全体の飽和効率の結果(
図9)と噴霧空間での飽和効率の結果(
図10)との比から、多孔質金属製エリミネータ12の飽和効率を算出した結果を
図11に示す。
多孔質金属製エリミネータ12単体の飽和効率は例えば、L=1,200mmのとき60〜70%あり、低圧ノズルの噴霧空間の飽和効率を上回るほど、加湿性能に寄与していることが分かる。
【0045】
図12、
図13は、
図1、
図2に示す第一実施形態に係る加湿器1のノズルの向きを入口側に向けた、つまり対向流噴霧加湿器1Aを示す。
この加湿器1Aは、前述の通り空気流相対速度0で多孔質金属製エリミネータ12にミストをぶつけ、エリミネータ内部状態は加湿器1と同様で、噴霧空間での滞留時間は気流による押し戻され効果により長くなるので、加湿器1と同様以上の作用効果を奏する。
次に、第一実施形態に係る加湿器1の制御性能について説明する。
噴霧式では、一般的に制御方法としてオンオフ制御しか行えないと言われている。しかし、時間比例制御の考え方を導入する、段数制御を行う、リターンノズルを使用して容量比例制御を行う、などの方法で制御精度を上げることが可能である。
【0046】
図14は、
図1、
図2に示す第一実施形態に係る加湿器1のノズルにおいて、一定時間噴霧を行い、その後停止したときの、飽和効率の時間変化を示す。噴霧を始めてすぐに飽和効率は75%に達し、噴霧を停止するとすぐに加湿効率が低下することから応答性が非常に速い。これは、多孔質金属製エリミネータ12内に生じている水膜は、上流の噴霧停止によりすぐ気流で破裂させられて消滅し、気液接触度合いが急激に下がることを意味している。
この応答性の速さを利用して時間比例制御を行った際にも優れた性能を実現することができる。
【0047】
図15、
図16は、時間比例制御を行う加湿器1Bを示す。
図12、
図13に示す加湿器1Aに時間比例制御を行うことができるように、ポンプ13とノズル11との間の給水路14に電磁弁15と、この電磁弁15を時間比例制御によって開閉を行わせる制御部16と、この制御部16に連絡する室内湿度センサHとを備えている。4つのノズル11は配管14aにそれぞれ設けられ、4つの配管14aは給水路14に接続されている。
【0048】
ここで、時間比例制御とは、操作端(この場合は、電磁弁15に相当)自体の操作はオ
ンオフであって、ある時間周期tcにおけるオン時間topを制御することで、
図17に示すように、比例制御する方法である。オン時間topは、制御部16において湿度設定値(SP)と湿度測定値(PV)の偏差からPID演算して決定する。
時間比例制御ではtcを小さくするほど精密な制御を行うことが可能であり、
図15、
図16に示す加湿器1Bを用いて時間比例制御を行った試験における加湿器出口湿度の変動は、
図18に示すように、tc=60秒の時±5%以内制御を実証した。
連続する噴霧量を変えるのは、段数制御、容量比例制御に相当する。
【0049】
図19、
図20は、段数制御を行う加湿器1Cを示す。
段数制御は、グループ分けされた4つの配管14aに電磁弁15を設け、設定湿度と室内湿度との偏差から求まる要求量に応じ電磁弁15を開閉する。
本例では、
図12、
図13に示す加湿器1Aにおけるノズル11と電磁弁15とを4段にし、噴霧量を12L/H(1段)、24L/H(2段)、36L/H(3段)、48L/H(4段)と変化させたた場合について説明する。ここで、制御部16は、段数制御コントローラを用いている。
この時の飽和効率、有効加湿効率の結果を
図21に示す。段数を減らすほど飽和効率が低下することから、段数制御により加湿量を制御できることが分かる。また、段数を減らすほど有効加湿効率は上昇することから、水の使用量を著しく削減できることが分かる。
【0050】
この実証試験では、低圧ノズルを用いても、飽和効率50%のとき有効加湿効率は70%以上あり、比較として、例えば滴下式(濡れ面式)の有効加湿効率33%と比較しても、同じ加湿量を得るのに必要な給水量は半分以下となる。
よって、飽和効率50%で使用できる、例えば事務所ビルのターミナル型空調機のようなあまり加湿吸収距離の取れない空調機にも組み込み可能な加湿装置として充分以上の性能を極小な給水量で達成可能である。
【0051】
そして、加湿器1Cでは、給水量を段階的に減らせる、つまり部分負荷のときに有効加湿効率が上昇するのが
図21から明らかである。室内の湿度による加湿量制御を行う内調機(室内還気を戻して温調する空調機)の場合、最大加湿量で運転する時間はごく僅かであり、部分負荷運転時の効率が省エネルギ上とても重要であるが、加湿器1Cは給水量もそれを搬送するポンプ動力も大きく減らすことができるので有効である。
【0052】
図22、
図23は、容量比例制御を行う加湿器1Dを示す。
容量比例制御は、背圧調節弁付ノズル11Aを用いて行うことができる。一般的にノズルの特性は供給圧力を絞ってもあまり変化しないため加湿量の制御には不向きである。
一方、背圧調節弁付ノズル11Aは、排水口11aを設け、その排水口11aの背圧を制御することにより噴霧量を調整するもので、ミストの粒径を一定に保ったまま、噴霧流量を広い範囲で調整することができる。このノズル11を用いることで容量比例制御が可能である。
【0053】
本例では、給水管14に接続する4つの配管14aにそれぞれ背圧調節弁付ノズル11Aを設けるとともに、各背圧調節弁付ノズル11Aの配水口11aを4つの配管14aと並行する4つの配管14bを設ける。4つの集合配管14bは、二方弁15Aを設ける配管14cに接続し、配管14cはポンプ13の上流側の給水管14に接続する。
制御部16は、設定湿度と湿度センサHによる測定湿度の偏差から求まる要求量により二方弁15Aの開度を調整して噴霧量を調整する。
【0054】
上記各実施形態では、4つのノズル11又は背圧調整弁付ノズル11Aを4つの配管14aに設けてノズル群を形成する場合について説明したが、本発明はこれに限らず、多孔質金属製エリミネータ12に対して確実に水噴霧が可能であればよく、その配置数及びノズル11の数は任意である。
この背圧調整弁付ノズル11を用いた容量比例制御でも、
図21と同じ状況になるのは明らかで、その作用効果は加湿器1Cと同様である。