特許第6058757号(P6058757)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6058757マスクブランク、位相シフトマスク、位相シフトマスクの製造方法および半導体デバイスの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6058757
(24)【登録日】2016年12月16日
(45)【発行日】2017年1月11日
(54)【発明の名称】マスクブランク、位相シフトマスク、位相シフトマスクの製造方法および半導体デバイスの製造方法
(51)【国際特許分類】
   G03F 1/32 20120101AFI20161226BHJP
   G03F 1/54 20120101ALI20161226BHJP
   G03F 1/58 20120101ALI20161226BHJP
【FI】
   G03F1/32
   G03F1/54
   G03F1/58
【請求項の数】28
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2015-141317(P2015-141317)
(22)【出願日】2015年7月15日
【審査請求日】2016年10月12日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000113263
【氏名又は名称】HOYA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103676
【弁理士】
【氏名又は名称】藤村 康夫
(72)【発明者】
【氏名】梶原 猛伯
(72)【発明者】
【氏名】宍戸 博明
(72)【発明者】
【氏名】野澤 順
【審査官】 松岡 智也
(56)【参考文献】
【文献】 特開平06−083034(JP,A)
【文献】 特開平08−074031(JP,A)
【文献】 特開2001−201842(JP,A)
【文献】 特開2009−162851(JP,A)
【文献】 特開2013−231952(JP,A)
【文献】 特開2014−145920(JP,A)
【文献】 特許第5940755(JP,B1)
【文献】 国際公開第2009/123166(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03F 1/00−1/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透光性基板上に位相シフト膜を備えたマスクブランクであって、
前記位相シフト膜は、ArFエキシマレーザーの露光光を2%以上30%以下の透過率で透過させる機能と、前記位相シフト膜を透過した前記露光光に対して前記位相シフト膜の厚さと同じ距離だけ空気中を通過した前記露光光との間で150度以上180度以下の位相差を生じさせる機能とを有し、
前記位相シフト膜は、金属およびケイ素を含有する材料で形成され、前記透光性基板側から下層と上層が積層した構造を含み、
前記下層は、前記透光性基板よりも前記露光光の波長における屈折率nが小さく、
前記上層は、前記透光性基板よりも前記露光光の波長における屈折率nが大きく、
前記下層は、前記上層よりも前記露光光の波長における消衰係数kが大きく、
前記上層は、前記下層よりも厚さが厚いことを特徴とするマスクブランク。
【請求項2】
前記下層は、厚さが10nm未満であることを特徴とする請求項1記載のマスクブランク。
【請求項3】
前記上層の厚さは、前記下層の厚さの9倍以上であることを特徴とする請求項1または2に記載のマスクブランク。
【請求項4】
前記下層の屈折率nは、1.5以下であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のマスクブランク。
【請求項5】
前記上層の屈折率nは、2.0以上であることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のマスクブランク。
【請求項6】
前記下層の消衰係数kは、2.0以上であることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載のマスクブランク。
【請求項7】
前記上層の消衰係数kは、0.8以下であることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載のマスクブランク。
【請求項8】
前記下層は、金属およびケイ素を含有し、酸素を実質的に含有しない材料で形成され、
前記上層は、金属、ケイ素、窒素および酸素を含有する材料で形成されていることを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載のマスクブランク。
【請求項9】
透光性基板側から入射する前記露光光に対する裏面反射率が20%以上45%以下であることを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載のマスクブランク。
【請求項10】
前記下層は、透光性基板の表面に接して形成されていることを特徴とする請求項1から9のいずれかに記載のマスクブランク。
【請求項11】
前記位相シフト膜は、厚さが100nm未満であることを特徴とする請求項1から10のいずれかに記載のマスクブランク。
【請求項12】
前記上層は、表層にその表層を除いた部分の上層よりも酸素含有量が多い層を有することを特徴とする請求項1から11のいずれかに記載のマスクブランク。
【請求項13】
前記位相シフト膜上に、遮光膜を備えることを特徴とする請求項1から12のいずれかに記載のマスクブランク。
【請求項14】
透光性基板上に転写パターンが形成された位相シフト膜を備えた位相シフトマスクであって、
前記位相シフト膜は、ArFエキシマレーザーの露光光を2%以上30%以下の透過率で透過させる機能と、前記位相シフト膜を透過した前記露光光に対して前記位相シフト膜の厚さと同じ距離だけ空気中を通過した前記露光光との間で150度以上180度以下の位相差を生じさせる機能とを有し、
前記位相シフト膜は、金属およびケイ素を含有する材料で形成され、前記透光性基板側から下層と上層が積層した構造を含み、
前記下層は、前記透光性基板よりも前記露光光の波長における屈折率nが小さく、
前記上層は、前記透光性基板よりも前記露光光の波長における屈折率nが大きく、
前記下層は、前記上層よりも前記露光光の波長における消衰係数kが大きく、
前記上層は、前記下層よりも厚さが厚いことを特徴とする位相シフトマスク。
【請求項15】
前記下層は、厚さが10nm未満であることを特徴とする請求項14記載の位相シフトマスク
【請求項16】
前記上層の厚さは、前記下層の厚さの9倍以上であることを特徴とする請求項14または15に記載の位相シフトマスク
【請求項17】
前記下層の屈折率nは、1.5以下であることを特徴とする請求項14から16のいずれかに記載の位相シフトマスク
【請求項18】
前記上層の屈折率nは、2.0以上であることを特徴とする請求項14から17のいずれかに記載の位相シフトマスク
【請求項19】
前記下層の消衰係数kは、2.0以上であることを特徴とする請求項14から18のいずれかに記載の位相シフトマスク
【請求項20】
前記上層の消衰係数kは、0.8以下であることを特徴とする請求項14から19のいずれかに記載の位相シフトマスク
【請求項21】
前記下層は、金属およびケイ素を含有し、酸素を実質的に含有しない材料で形成され、
前記上層は、金属、ケイ素、窒素および酸素を含有する材料で形成されていることを特徴とする請求項14から20のいずれかに記載の位相シフトマスク
【請求項22】
透光性基板側から入射する前記露光光に対する裏面反射率が20%以上45%以下であることを特徴とする請求項14から21のいずれかに記載の位相シフトマスク
【請求項23】
前記下層は、透光性基板の表面に接して形成されていることを特徴とする請求項14から22のいずれかに記載の位相シフトマスク
【請求項24】
前記位相シフト膜は、厚さが100nm未満であることを特徴とする請求項14から23のいずれかに記載の位相シフトマスク
【請求項25】
前記上層は、表層にその表層を除いた部分の上層よりも酸素含有量が多い層を有することを特徴とする請求項14から24のいずれかに記載の位相シフトマスク
【請求項26】
請求項13記載のマスクブランクを用いた位相シフトマスクの製造方法であって、
ドライエッチングにより前記遮光膜に転写パターンを形成する工程と、
前記転写パターンを有する遮光膜をマスクとするドライエッチングにより前記位相シフト膜に転写パターンを形成する工程と、
遮光帯パターンを有するレジスト膜をマスクとするドライエッチングにより前記遮光膜に遮光帯パターンを形成する工程と
を備えることを特徴とする位相シフトマスクの製造方法。
【請求項27】
請求項14から25のいずれかに記載の位相シフトマスクを用い、半導体基板上のレジスト膜に転写パターンを露光転写する工程を備えることを特徴とする半導体デバイスの製造方法。
【請求項28】
請求項26記載の位相シフトマスクの製造方法により製造された位相シフトマスクを用い、半導体基板上のレジスト膜に転写パターンを露光転写する工程を備えることを特徴とする半導体デバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マスクブランク、そのマスクブランクを用いて製造された位相シフトマスクおよびその製造方法に関するものである。また、本発明は、上記の位相シフトマスクを用いた半導体デバイスの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、半導体デバイスの製造工程では、フォトリソグラフィー法を用いて微細パターンの形成が行われている。また、この微細パターンの形成には通常何枚もの転写用マスクと呼ばれている基板が使用される。半導体デバイスのパターンを微細化するに当たっては、転写用マスクに形成されるマスクパターンの微細化に加え、フォトリソグラフィーで使用される露光光源の波長の短波長化が必要となる。半導体装置製造の際の露光光源としては、近年ではKrFエキシマレーザー(波長248nm)から、ArFエキシマレーザー(波長193nm)へと短波長化が進んでいる。
【0003】
転写用マスクの種類としては、従来の透光性基板上にクロム系材料からなる遮光膜パターンを備えたバイナリマスクの他に、ハーフトーン型位相シフトマスクが知られている。ハーフトーン型位相シフトマスクの位相シフト膜には、モリブデンシリサイド(MoSi)系の材料が広く用いられる。特許文献1には、金属、シリコンおよび窒素を主たる構成要素とする光半透過膜であり、その表層の酸素含有量が35原子%以上であり、かつ金属の含有量が5原子%以下である光半透過膜を備えることを特徴とするハーフトーン型位相シフトマスクブランクが開示されている。
【0004】
特許文献2には、レチクル(転写用マスク)のパターンの微細化に伴い、露光光の照射によって生じる転写用マスクのパターンの熱膨張に起因するパターンの変形の影響が無視できなくなってきていることが述べられている。この特許文献2では、レチクルの構成を、遮光膜とガラスブランクとの間に露光光に対する反射率(裏面反射率)が遮光膜よりも高い反射膜を設けた構成とすることで、パターンの熱膨張を低減することが開示されている。また、このようなレチクル構成は、ハーフトーンレチクルや位相シフトレチクルにも適用可能であるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−184355号公報
【特許文献2】特開2009−162851号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ハーフトーン型位相シフトマスク(以下、単に位相シフトマスクという。)の位相シフト膜(以下、単に位相シフト膜という。)は、露光光を所定の透過率で透過させる機能と、その位相シフト膜内を透過する露光光に対してその位相シフト膜の厚さと同じ距離だけ空気中を通過する露光光との間で所定の位相差を生じさせる機能を併せ持つ必要がある。この位相シフト膜は、従来のバイナリマスクの遮光膜に比べて露光光の透過率が大幅に高く、薄膜パターンが露光光を吸収して熱に変換されることによって生じる薄膜パターンの熱膨張が遮光膜に比べて小さい。昨今、半導体デバイスの微細化がさらに進み、マルチプルパターニング技術等の露光技術の適用も始まっている。1つの半導体デバイスを製造するのに用いられる転写用マスクセットの各転写用マスク同士における重ね合わせ精度に対する要求がより厳しくなってきている。このため、位相シフトマスクの場合においても、位相シフト膜のパターン(位相シフトパターン)の熱膨張を抑制し、これに起因する位相シフトパターンの移動を抑制することに対する要求が高まってきている。
【0007】
特許文献2に開示されている構成である反射膜と遮光膜の積層構造の場合、60%以上の高い裏面反射率を目指すために反射膜を多層膜で形成している。具体的には、基板側からアルミニウム層、酸化ケイ素層、モリブデン層、アルミニウム層、酸化ケイ素層、モリブデン層、アルミニウム層の7層構造の反射膜が開示されている。この反射膜と遮光膜の積層構造が高い裏面反射率を有するのは反射膜の7層構造部分の寄与が大きい。しかし、このような反射膜と遮光膜の積層構造は、バイナリマスクの遮光膜には比較的適用しやすいが、位相シフト膜に適用することは難しい。バイナリマスクの遮光膜は、露光光に対して所定以上の光学濃度を有するという条件を基本的に満たせばよい。これに対し、位相シフト膜は、露光光に対する所定範囲の透過率と所定範囲の位相差の2つの条件を同時に満たす必要がある。位相シフト膜の基板側に上記の7層構造の反射膜を設ける場合、反射膜を透過する露光光の透過率とその反射膜を透過する露光光に与える位相差が位相シフト膜の全体に与える影響は大きく、反射膜を除いた部分の位相シフト膜の光学設計の自由度が大きく制約されることになる。
【0008】
他方、転写用マスクを製造するためのマスクブランクにおいて、電磁界(EMF:Electro Magnetics Field)効果に係るバイアスが小さいことが望まれている。EMFバイアスを低減する有効な手段の1つとして、転写用マスクの薄膜パターンの厚さを薄くする手段を挙げることができる。薄膜パターンの基板側に上記の7層構造の反射膜を設けた場合、この反射膜を設けない場合に比べて薄膜パターンの全体の厚さが大幅に厚くなる(100nmを超える。)ことを避け難い。
【0009】
従来、位相シフト膜は、金属、ケイ素および窒素を主たる構成要素とする材料で形成される場合が多い。この位相シフト膜の材料は、屈折率nが比較的高く、かつ消衰係数kが比較的低い光学特性を有する傾向があり、位相シフト膜が所定の位相差と透過率になるように比較的調整しやすいためである。しかし、このような材料からなる位相シフト膜を基板の表面に接して形成した場合、露光光に対する裏面反射率が高くなり難い(20%未満)。
【0010】
そこで、本発明は、従来の課題を解決するためになされたものであり、透光性基板上に位相シフト膜を備えたマスクブランクにおいて、比較的薄い厚さ(100nm未満)でありながら、露光光に対して所定の透過率で透過する機能、その位相シフト膜を透過する露光光に対して所定の位相差を生じさせる機能、露光光に対する裏面反射率が高くなる機能を兼ね備える位相シフト膜を備えるマスクブランクを提供することを目的としている。また、このマスクブランクを用いて製造される位相シフトマスクを提供することを目的としている。さらに、このような位相シフトマスクを製造する方法を提供することを目的としている。そして、本発明は、このような位相シフトマスクを用いた半導体デバイスの製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記の課題を達成するため、本発明は以下の構成を有する。
(構成1)
透光性基板上に位相シフト膜を備えたマスクブランクであって、
前記位相シフト膜は、ArFエキシマレーザーの露光光を2%以上30%以下の透過率で透過させる機能と、前記位相シフト膜を透過した前記露光光に対して前記位相シフト膜の厚さと同じ距離だけ空気中を通過した前記露光光との間で150度以上180度以下の位相差を生じさせる機能とを有し、
前記位相シフト膜は、金属およびケイ素を含有する材料で形成され、前記透光性基板側から下層と上層が積層した構造を含み、
前記下層は、前記透光性基板よりも前記露光光の波長における屈折率nが小さく、
前記上層は、前記透光性基板よりも前記露光光の波長における屈折率nが大きく、
前記下層は、前記上層よりも前記露光光の波長における消衰係数kが大きく、
前記上層は、前記下層よりも厚さが厚いことを特徴とするマスクブランク。
【0012】
(構成2)
前記下層は、厚さが10nm未満であることを特徴とする構成1記載のマスクブランク。
(構成3)
前記上層の厚さは、前記下層の厚さの9倍以上であることを特徴とする構成1または2に記載のマスクブランク。
【0013】
(構成4)
前記下層の屈折率nは、1.5以下であることを特徴とする構成1から3のいずれかに記載のマスクブランク。
(構成5)
前記上層の屈折率nは、2.0以上であることを特徴とする構成1から4のいずれかに記載のマスクブランク。
【0014】
(構成6)
前記下層の消衰係数kは、2.0以上であることを特徴とする構成1から5のいずれかに記載のマスクブランク。
(構成7)
前記上層の消衰係数kは、0.8以下であることを特徴とする構成1から6のいずれかに記載のマスクブランク。
【0015】
(構成8)
前記下層は、金属およびケイ素を含有し、酸素を実質的に含有しない材料で形成され、
前記上層は、金属、ケイ素、窒素および酸素を含有する材料で形成されていることを特徴とする構成1から7のいずれかに記載のマスクブランク。
(構成9)
透光性基板側から入射する前記露光光に対する裏面反射率が20%以上45%以下であることを特徴とする構成1から8のいずれかに記載のマスクブランク。
【0016】
(構成10)
前記下層は、透光性基板の表面に接して形成されていることを特徴とする構成1から9のいずれかに記載のマスクブランク。
(構成11)
前記位相シフト膜は、厚さが100nm未満であることを特徴とする構成1から10のいずれかに記載のマスクブランク。
【0017】
(構成12)
前記上層は、表層にその表層を除いた部分の上層よりも酸素含有量が多い層を有することを特徴とする構成1から11のいずれかに記載のマスクブランク。
(構成13)
前記位相シフト膜上に、遮光膜を備えることを特徴とする構成1から12のいずれかに記載のマスクブランク。
【0018】
(構成14)
構成13記載のマスクブランクの前記位相シフト膜に転写パターンが形成され、前記遮光膜に遮光帯パターンが形成されていることを特徴とする位相シフトマスク。
(構成15)
構成13記載のマスクブランクを用いた位相シフトマスクの製造方法であって、
ドライエッチングにより前記遮光膜に転写パターンを形成する工程と、
前記転写パターンを有する遮光膜をマスクとするドライエッチングにより前記位相シフト膜に転写パターンを形成する工程と、
遮光帯パターンを有するレジスト膜をマスクとするドライエッチングにより前記遮光膜に遮光帯パターンを形成する工程と
を備えることを特徴とする位相シフトマスクの製造方法。
【0019】
(構成16)
構成14記載の位相シフトマスクを用い、半導体基板上のレジスト膜に転写パターンを露光転写する工程を備えることを特徴とする半導体デバイスの製造方法。
(構成17)
構成15記載の位相シフトマスクの製造方法により製造された位相シフトマスクを用い、半導体基板上のレジスト膜に転写パターンを露光転写する工程を備えることを特徴とする半導体デバイスの製造方法。
【発明の効果】
【0020】
本発明のマスクブランクは、その位相シフト膜を比較的薄い厚さ(100nm未満)としながらも、露光光に対して所定の透過率で透過する機能、その位相シフト膜を透過する露光光に対して所定の位相差を生じさせる機能、露光光に対する裏面反射率が高くなる機能を全て備えるものとすることができる。これにより、このマスクブランクから製造した位相シフトマスクの位相シフトパターンに対して露光光を照射したときに発生する位相シフトパターンの熱膨張を小さくすることができ、位相シフトパターンの移動を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の実施形態におけるマスクブランクの構成を示す断面図である。
図2】本発明の実施形態における位相シフトマスクの製造工程を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の各実施の形態について説明する。
本発明者らは、位相シフトマスクを製造するためのマスクブランクにおいて、そのマスクブランクの位相シフト膜が、比較的薄い厚さ(100nm未満)で、露光光を所定の透過率(2%以上30%以下)で透過する機能、その位相シフト膜を透過する露光光に対して所定の位相差(150度以上180度以下)を生じさせる機能、露光光に対する裏面反射率が高くなる機能(20%以上)を全て備えるために必要となる構成について、鋭意研究を行った。
【0023】
透光性基板上に設けられた薄膜の裏面反射率を高めるには、薄膜の少なくとも透光性基板に接する層を露光波長における消衰係数kが高い材料で形成することが必要となる。単層構造の位相シフト膜は、その求められる光学特性と膜厚を満たす必要性から、屈折率nが大きく、かつ消衰係数kが小さい材料で形成されることが一般的である。ここで、位相シフト膜を形成する材料の組成を調整して消衰係数kを大幅に高くすることで位相シフト膜の裏面反射率を高めることを考える。この調整を行うと、その位相シフト膜は所定範囲の透過率の条件を満たせなくなるため、この位相シフト膜の厚さを大幅に薄くする必要が生じる。しかし、今度は位相シフト膜の厚さを薄くしたことによって、その位相シフト膜は所定範囲の位相差の条件を満たせなくなってしまう。位相シフト膜を形成する材料の屈折率nを大きくすることには限界があるため、単層の位相シフト膜で裏面反射率を高くすることは難しい。
【0024】
一方、上記のように、位相シフト膜の透光性基板側に裏面反射率を高めるために多層構造の反射膜を設けることは、位相シフト膜の合計の厚さが大幅に厚くなるという問題や、所定範囲の透過率と位相差の条件を満たすための調整が難しいという問題がある。そこで、7層構造の反射膜の場合のようにその反射膜のみで裏面反射率を高めるという設計思想ではなく、位相シフト膜を下層と上層を含む積層構造とし、この積層構造の全体で裏面反射率を高めることを設計思想としてさらなる検討を行った。
【0025】
位相シフト膜における透光性基板から離れた側にある上層は、従来の単層の位相シフト膜の場合と同様、屈折率nが大きく、消衰係数kが小さい材料を適用することにした。他方、位相シフト膜における透光性基板側にある下層は従来の位相シフト膜の場合よりも、消衰係数kが大きい材料を適用することにした。このような下層は、位相シフト膜の透過率を低下させる方向に機能する。この点を考慮し、下層の厚さは少なくとも上層の厚さよりも薄くすることにした。下層の厚さを薄くすると、下層を透過する露光光の光量が増加するため、裏面反射率が下がる。そこで、裏面反射率をさらに高めるために、下層を形成する材料の屈折率nを透光性基板の屈折率nよりも小さくすることにした。このようにすることで、下層と上層の間における屈折率nの差が大きくなり、下層と上層の界面での露光光の反射光量が増大し、位相シフト膜の裏面反射率を高めることができる。
【0026】
以上のような位相シフト膜の上層と下層を形成するための各材料は、金属とケイ素を含有する材料が好適である。この材料は、組成等を調整することで上層と下層にそれぞれ求められる屈折率nおよび消衰係数kを満たすことができる。以上のような位相シフト膜の構成とすることで、前記の技術的課題を解決できるという結論に至った。
【0027】
すなわち、本発明は、透光性基板上に位相シフト膜を備えたマスクブランクであって、位相シフト膜は、ArFエキシマレーザーの露光光(以下、ArF露光光という。)を2%以上30%以下の透過率で透過させる機能と、前記位相シフト膜を透過した前記露光光に対して位相シフト膜の厚さと同じ距離だけ空気中を通過した露光光との間で150度以上180度以下の位相差を生じさせる機能とを有し、位相シフト膜は、金属およびケイ素を含有する材料で形成され、透光性基板側から下層と上層が積層した構造を含み、下層は、透光性基板よりも露光光の波長における屈折率nが小さく、上層は、透光性基板よりも露光光の波長における屈折率nが大きく、下層は、上層よりも露光光の波長における消衰係数kが大きく、上層は、下層よりも厚さが厚いことを特徴とするマスクブランクである。
【0028】
図1は、本発明の実施形態に係るマスクブランク100の構成を示す断面図である。図1に示す本発明のマスクブランク100は、透光性基板1上に、位相シフト膜2、遮光膜3およびハードマスク膜4がこの順に積層された構造を有する。
【0029】
透光性基板1は、合成石英ガラスのほか、石英ガラス、アルミノシリケートガラス、ソーダライムガラス、低熱膨張ガラス(SiO−TiOガラス等)などで形成することができる。これらの中でも、合成石英ガラスは、ArFエキシマレーザー光に対する透過率が高く、マスクブランクの透光性基板1を形成する材料として特に好ましい。透光性基板1を形成する材料のArF露光光の波長(約193nm)における屈折率nは、1.5より大きく1.6より小さいことが好ましく、1.52以上1.59以下であるとより好ましく、1.54以上1.58以下であるとさらに好ましい。以降、単に屈折率nと記述している場合、ArF露光光の波長に対する屈折率nのことを意味するものとし、単に消衰係数kと記述している場合、ArF露光光の波長に対する消衰係数kのことを意味するものとする。
【0030】
位相シフト膜2には、ArF露光光に対する透過率が2%以上30%以下であることが求められる。位相シフト膜の内部を透過した露光光と空気中を透過した露光光との間で十分な位相シフト効果を生じさせるには、露光光に対する透過率が少なくとも2%は必要である。位相シフト膜の露光光に対する透過率は、3%以上であると好ましく、4%以上であるとより好ましい。他方、位相シフト膜の露光光に対する透過率が高くなるにつれて、裏面反射率を高めることが難しくなる。このため、位相シフト膜の露光光に対する透過率は、30%以下であると好ましく、20%以下であるとより好ましく、10%以下であるとさらに好ましい。
【0031】
位相シフト膜2は、適切な位相シフト効果を得るために、透過するArF露光光に対し、この位相シフト膜2の厚さと同じ距離だけ空気中を通過した光との間で生じる位相差が150度以上180度以下の範囲になるように調整されていることが求められる。位相シフト膜2における前記位相差は、155度以上であることが好ましく、160度以上であるとより好ましい。他方、位相シフト膜2における前記位相差は、179度以下であることが好ましく、177度以下であるとより好ましい。位相シフト膜2にパターンを形成するときのドライエッチング時に、透光性基板1が微小にエッチングされることによる位相差の増加の影響を小さくするためである。また、近年の露光装置による位相シフトマスクへのArF露光光の照射方式が、位相シフト膜2の膜面の垂直方向に対して所定角度で傾斜した方向からArF露光光を入射させるものが増えてきているためでもある。
【0032】
位相シフト膜2は、位相シフト膜2に形成されたパターンの熱膨張およびパターンの移動を抑制する観点から、ArF露光光に対する透光性基板1側(裏面側)の反射率(裏面反射率)が少なくとも20%以上であることが求められる。位相シフト膜2は、ArF露光光に対する裏面反射率が25%以上であると好ましく、30%以上であるとより好ましい。他方、位相シフト膜2の裏面反射率が高すぎると、このマスクブランク100から製造された位相シフトマスクを用いて転写対象物(半導体ウェハ上のレジスト膜等)へ露光転写を行ったときに、位相シフト膜2の裏面側の反射光によって露光転写像に与える影響が大きくなるため、好ましくない。この観点から、位相シフト膜2のArF露光光に対する裏面反射率は、45%以下であることが好ましく、40%以下であるとより好ましい。
【0033】
位相シフト膜2は、透光性基板側から、下層21と上層22が積層した構造を有する。位相シフト膜2の全体で、上記の透過率、位相差、裏面反射率の各条件を少なくとも満たす必要がある。位相シフト膜2がこれらの条件を満たすには、下層21の屈折率nは、透光性基板1の屈折率nよりも小さいことが少なくとも必要とされる。同時に、上層22の屈折率nは、透光性基板1の屈折率nよりも大きいことが少なくとも必要とされる。さらに、下層21の消衰係数kは、上層22の消衰係数kよりも大きいことが少なくとも必要とされる。加えて、上層22の厚さは、下層21の厚さよりも厚いことが少なくとも必要である。
【0034】
位相シフト膜2の下層21と上層22との関係を満たすには、下層21の屈折率nは、1.50以下であることが求められる。下層21の屈折率nは、1.45以下であると好ましく、1.40以下であるとより好ましい。また、下層21の屈折率nは、1.00以上であると好ましく、1.10以上であるとより好ましい。下層21の消衰係数kは、2.00以上であることが求められる。下層21の消衰係数kは、2.20以上であると好ましく、2.40以上であるとより好ましい。また、下層21の消衰係数kは、3.30以下であると好ましく、3.10以下であるとより好ましい。
【0035】
他方、位相シフト膜2の下層21と上層22との関係を満たすには、上層22の屈折率nは、2.00以上であることが求められる。上層22の屈折率nは、2.10以上であると好ましい。また、上層22の屈折率nは、3.00以下であると好ましく、2.80以下であるとより好ましい。上層22の消衰係数kは、0.80以下であることが求められる。上層22の消衰係数kは、0.60以下であると好ましく、0.50以下であるとより好ましい。また、上層22の消衰係数kは、0.10以上であると好ましく、0.20以上であるとより好ましい。
【0036】
位相シフト膜2を含む薄膜の屈折率nと消衰係数kは、その薄膜の組成だけで決まるものではない。その薄膜の膜密度や結晶状態なども屈折率nや消衰係数kを左右する要素である。このため、反応性スパッタリングで薄膜を成膜するときの諸条件を調整して、その薄膜が所望の屈折率nおよび消衰係数kとなるように成膜する。下層21と上層22を、上記の屈折率nと消衰係数kの範囲にするには、反応性スパッタリングで成膜する際に、希ガスと反応性ガス(酸素ガス、窒素ガス等)の混合ガスの比率を調整することだけに限られない。反応性スパッタリングで成膜する際における成膜室内の圧力、スパッタターゲットに印加する電力、ターゲットと透光性基板1との間の距離等の位置関係など多岐にわたる。また、これらの成膜条件は成膜装置に固有のものであり、形成される下層21および上層22が所望の屈折率nおよび消衰係数kになるように適宜調整されるものである。
【0037】
一方、上記のとおり、このマスクブランク110から製造された位相シフトマスクのEMFバイアスを低減する観点から、位相シフト膜2の厚さは100nm未満であることが望まれる。他方、上記の位相シフト膜2の下層21と上層22の厚さの関係を満たす必要もある。特に位相シフト膜2の全体でのArF露光光に対する透過率の点を考慮すると、下層の厚さは、10nm未満であることが好ましく、9nm以下であるとより好ましく、8nm以下であるとさらに好ましい。また、特に位相シフト膜2の裏面反射率の点を考慮すると、下層の厚さは、3nm以上であることが好ましく、4nm以上であるとより好ましく、5nm以上であるとさらに好ましい。
【0038】
特に位相シフト膜2の全体でのArF露光光に対する位相差と裏面反射率の点を考慮すると、上層22の厚さは、下層21の厚さの9倍以上であることが好ましく、10倍以上であるとより好ましい。また、特に位相シフト膜2の厚さは100nm未満とすることを考慮すると、上層22の厚さは、下層21の厚さの15倍以下であることが好ましく、13倍以下であるとより好ましい。上層22の厚さは、90nm以下であることが好ましく、80nm以下であるとより好ましい。
【0039】
位相シフト膜2は、下層21と上層22がともに金属およびケイ素を含有する材料で形成される。位相シフト膜2を形成する材料中に含有させる金属元素としては、遷移金属元素であることが好ましい。この場合の遷移金属元素としては、モリブデン(Mo)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、チタン(Ti)、クロム(Cr)、ハフニウム(Hf)、ニッケル(Ni)、バナジウム(V)、ジルコニウム(Zr)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、亜鉛(Zn)、ニオブ(Nb)およびパラジウム(Pd)のうちいずれか1つ以上の金属元素が挙げられる。また、位相シフト膜2を形成する材料中に含有させる遷移金属元素以外の金属元素としては、アルミニウム(Al)、インジウム(In)、スズ(Sn)およびガリウム(Ga)などが挙げられる。位相シフト膜2を形成する材料には、前記の元素に加え、炭素(C)、水素(H)、ホウ素(B)、ゲルマニウム(Ge)およびアンチモン(Sb)等の元素が含まれてもよい。また、下層21を形成する材料には、ヘリウム(He)、アルゴン(Ar)、クリプトン(Kr)およびキセノン(Xe)等の不活性ガスが含まれてもよい。
【0040】
位相シフト膜2の下層21は、金属およびケイ素を含有し、酸素を実質的に含有しない材料で形成される。下層21は、消衰係数kが大きい材料を適用する必要があるのに対し、材料中の酸素含有量を増加させることによる消衰係数kの低下度合いが非常に大きく、好ましくないためである。このため、下層21は、酸素を実質的に含有しない材料であることが必要とされる。ここで、酸素を実質的に含有しない材料とは、材料中の酸素含有量が少なくとも5原子%以下である材料である。下層21の形成する材料の酸素含有量は、3原子%以下であると好ましく、X線光電子分光法等による組成分析を行ったときに検出下限値以下であるとより好ましい。
【0041】
また、下層21を形成する材料に窒素を含有してもよい。ただし、材料中の窒素含有量を増加させるに従い、その材料の屈折率nが増大していく傾向がある。また、酸素の場合ほどではないが、材料中の窒素含有量を増加させるに従い、その消衰係数kが低下していく傾向がある。下層21を形成する材料は、屈折率nが小さく、消衰係数kが大きい材料であるほうが好ましい。これらのことから、下層21が金属、ケイ素および窒素からなる材料で形成されている場合における窒素含有量は、20原子%以下であると好ましく、19原子%以上であるとより好ましく、15原子%以下であるとさらに好ましい。一方、この場合における下層21を形成する材料の窒素含有量は、5原子%以上であると好ましく、10原子%以上であるとより好ましい。下層21は、金属およびケイ素からなる材料、または金属、ケイ素および窒素からなる材料で形成されていることがより好ましく、金属およびケイ素からなる材料で形成されているとより好ましい。
【0042】
位相シフト膜2の上層22は、金属、ケイ素、窒素および酸素を含有する材料で形成される。位相シフト膜2の下層21が消衰係数kの高い材料で形成する必要があるため、上層22は窒素だけでなく酸素も積極的に含有させる必要がある。この点を考慮すると、上層22の形成する材料の酸素含有量は、5原子%よりも多いことが好ましく、10原子%以上であるとより好ましく、12原子%以上であるとさらに好ましい。酸素は、材料中の含有量が多くなるにつれて、その材料の屈折率nおよび消衰係数kをともに低下させる傾向を有する。このため、上層22中の酸素含有量が多くなるにつれて、位相シフト膜2の全体におけるArF露光光に対する所定の透過率と位相差を確保するために必要となる位相シフト膜2の全体での厚さが厚くなっていく。これらの点を考慮すると、上層22を形成する材料の酸素含有量は、30原子%以下であると好ましく、25原子%以下であるとより好ましく、20原子%以下であるとさらに好ましい。
【0043】
窒素は、材料中の含有量が多くなるにつれて、その材料の屈折率nが相対的に上がる傾向を有し、消衰係数kが相対的に下がる傾向を有する。上層22を形成する材料の窒素含有量は、20原子%以上であると好ましく、25原子%以上であるとより好ましく、30原子%以上であるとさらに好ましい。一方、上層22の形成する材料の窒素含有量は、50原子%以下であると好ましく、45原子%以下であるとより好ましく、40原子%以下であるとさらに好ましい。
【0044】
下層21は、透光性基板1の表面に接して形成されていることが好ましい。下層21が透光性基板1の表面と接した構成とした方が、上記の位相シフト膜2の下層21と上層22の積層構造によって生じる裏面反射率を高める効果がより得られるためである。位相シフト膜2の裏面反射率を高める効果に与える影響が微小であれば、透光性基板1と位相シフト膜2との間にエッチングストッパ膜を設けてもよい。この場合、エッチングストッパの厚さは、10nm以下であることが必要であり、7nm以下であると好ましく、5nm以下であるとより好ましい。また、エッチングストッパとして有効に機能するという観点から、エッチングストッパ膜の厚さは、3nm以上であることが必要である。エッチングストッパ膜を形成する材料の消衰係数kは、0.1未満であることが必要であり、0.05以下であると好ましく、0.01以下であるとより好ましい。また、この場合のエッチングストッパ膜を形成する材料の屈折率nは、1.9以下であることが少なくとも必要であり、1.7以下であると好ましい。エッチングストッパ膜を形成する材料の屈折率nは、1.55以上であることが好ましい。
【0045】
上層22を形成する材料における金属の含有量[原子%]を金属とケイ素の合計含有量[原子%]で除した比率[%](以下、この比率を「M/[M+Si]比率」という。)は、下層21におけるM/[M+Si]比率よりも小さいことが求められる。材料中のM/[M+Si]比率が0〜約34%の範囲では、M/[M+Si]比率が大きくなるに従い、屈折率nおよび消衰係数kがともに大きくなる傾向がある。上層22は、屈折率nが大きく、消衰係数kが小さい傾向を有する材料を用いる必要があり、材料中のM/[M+Si]比率が小さいものを適用することが好ましい。これに対し、下層21は、屈折率nが小さく、消衰係数kが大きい傾向を有する材料を用いる必要があり、材料中のM/[M+Si]比率がある程度大きいものを適用することが好ましい。
【0046】
下層21におけるM/[M+Si]比率から上層22におけるM/[M+Si]比率を引いた差が少なくとも1%以上であることが好ましい。他方、下層21におけるM/[M+Si]比率から上層22におけるM/[M+Si]比率を引いた差が少なくとも10%以下であることが好ましく、8%以下であるとさらに好ましい。下層21を形成する材料におけるM/[M+Si]比率は、少なくとも8%以上であることが求められ、9%以上であると好ましく、10%以上であるとより好ましい。また、下層21を形成する材料におけるM/[M+Si]比率は、少なくとも20%以下であることが求められ、15%以下であることが好ましく、12%以下であるとより好ましい。
【0047】
位相シフト膜2の透過率および位相シフト量の変動を小さくするという観点から見ると、上層22中に予め酸素を含有させることだけでなく、上層22中の金属含有量を少なくすることが望まれる。しかし、位相シフト膜2の上層22を形成する材料に屈折率nと消衰係数kの両方を高めることに寄与する金属元素を含有させないと、位相シフト膜2の全体の厚さが厚くなるという問題が生じる。また、上層22をDCスパッタリング法で成膜する場合、金属シリサイドターゲットの導電性が低いことに起因する欠陥が増加するという問題もある。これらの点を考慮すると、上層22におけるM/[M+Si]比率は2%以上とすることが好ましく、3%以上とするとより好ましい。他方、位相シフト膜2(上層22)の透過率および位相シフト量の変動を小さくという観点から見ると、上層22におけるM/[M+Si]比率は9%以下とすることが好ましく、8%以下とするとより好ましい。
【0048】
下層21を形成する材料と上層22を形成する材料は、ともに同じ金属元素を含有させることが好ましい。上層22と下層21は、同じエッチングガスを用いたドライエッチングによってパターニングされる。このため、上層22と下層21は、同じエッチングチャンバー内でエッチングすることが望ましい。上層22と下層21を形成する各材料に含有している金属元素が同じであると、上層22から下層21へドライエッチングする対象が変わっていくときのエッチングチャンバー内の環境変化を小さくすることができる。
【0049】
位相シフト膜2における下層21および上層22は、スパッタリングによって形成されるが、DCスパッタリング、RFスパッタリングおよびイオンビームスパッタリングなどのいずれのスパッタリングも適用可能である。成膜レートを考慮すると、DCスパッタリングを適用することが好ましい。導電性が低いターゲットを用いる場合においては、RFスパッタリングやイオンビームスパッタリングを適用することが好ましいが、成膜レートを考慮すると、RFスパッタリングを適用するとより好ましい。
【0050】
位相シフト膜2における下層21と上層22をスパッタリングでそれぞれ形成する工程においては、下層21と上層22を同じ1つのターゲットによって形成することはできない。下層21と上層22のM/[M+Si]比率が異なるためである。下層21と上層22をM/[M+Si]比率が異なる2つのターゲットでそれぞれ形成する場合、同じ成膜室でそれぞれ形成してもよいし、異なる成膜室でそれぞれ形成してもよい。また、下層21と上層22をケイ素ターゲットと金属シリサイドターゲットを用い、各ターゲットに印加する電圧を変えるスパッタリングによって、M/[M+Si]比率が異なる下層21と上層22を形成してもよい。なお、下層21と上層22を異なる成膜室で形成する場合においては、各成膜室同士をたとえば別の真空室を介して連結する構成とすることが好ましい。この場合、大気中の透光性基板を真空室内に導入する際に経由させるロードロック室を真空室に連結することが好ましく。また、ロードロック室、真空室および各成膜室の間で透光性基板を搬送するための搬送装置(ロボットハンド)を設けることが好ましい。
【0051】
上層22は、表層にその表層を除いた部分の上層22よりも酸素含有量が多い層(以下、単に表面酸化層という。)を有することが望ましい。上層22の表面酸化層を形成する方法としては、種々の酸化処理が適用可能である。この酸化処理としては、例えば、大気中などの酸素を含有する気体中における加熱処理、酸素を含有する気体中におけるフラッシュランプ等による光照射処理、オゾンや酸素プラズマを最上層に接触させる処理などがあげられる。特に、位相シフト膜2の膜応力を低減する作用も同時に得られる加熱処理やフラッシュランプ等による光照射処理を用いて、上層22に表面酸化層を形成することが好ましい。上層22の表面酸化層は、厚さが1nm以上であることが好ましく、1.5nm以上であるとより好ましい。また、上層22の表面酸化層は、厚さが5nm以下であることが好ましく、3nm以下であるとより好ましい。なお、上記の上層22の屈折率nおよび消衰係数kは、表面酸化層を含む上層22全体の平均値である。上層22中の表面酸化層の比率はかなり小さいため、表面酸化層の存在が上層22全体の屈折率nおよび消衰係数kに与える影響は小さい。
【0052】
マスクブランク100は、位相シフト膜2上に遮光膜3を備える。一般に、バイナリ型の転写用マスクでは、転写パターンが形成される領域(転写パターン形成領域)の外周領域は、露光装置を用いて半導体ウェハ上のレジスト膜に露光転写した際に外周領域を透過した露光光による影響をレジスト膜が受けないように、所定値以上の光学濃度(OD)を確保することが求められている。この点については、位相シフトマスクの場合も同じである。通常、位相シフトマスクを含む転写用マスクの外周領域では、ODが3.0以上あると望ましいとされており、少なくとも2.8以上は必要とされている。位相シフト膜2は所定の透過率で露光光を透過する機能を有しており、位相シフト膜2だけでは所定値の光学濃度を確保することは困難である。このため、マスクブランク100を製造する段階で位相シフト膜2の上に、不足する光学濃度を確保するために遮光膜3を積層しておくことが必要とされる。このようなマスクブランク100の構成とすることで、位相シフトマスク200(図2参照)を製造する途上で、位相シフト効果を使用する領域(基本的に転写パターン形成領域)の遮光膜3を除去すれば、外周領域に所定値の光学濃度が確保された位相シフトマスク200を製造することができる。
【0053】
遮光膜3は、単層構造および2層以上の積層構造のいずれも適用可能である。また、単層構造の遮光膜および2層以上の積層構造の遮光膜の各層は、膜または層の厚さ方向でほぼ同じ組成である構成であっても、層の厚さ方向で組成傾斜した構成であってもよい。
【0054】
図1に記載の形態におけるマスクブランク100は、位相シフト膜2の上に、他の膜を介さずに遮光膜3を積層した構成としている。この構成の場合の遮光膜3は、位相シフト膜2にパターンを形成する際に用いられるエッチングガスに対して十分なエッチング選択性を有する材料を適用する必要がある。この場合の遮光膜3は、クロムを含有する材料で形成することが好ましい。遮光膜3を形成するクロムを含有する材料としては、クロム金属のほか、クロムに酸素、窒素、炭素、ホウ素およびフッ素から選ばれる一以上の元素を含有する材料が挙げられる。一般に、クロム系材料は、塩素系ガスと酸素ガスの混合ガスでエッチングされるが、クロム金属はこのエッチングガスに対するエッチングレートがあまり高くない。塩素系ガスと酸素ガスの混合ガスのエッチングガスに対するエッチングレートを高める点を考慮すると、遮光膜3を形成する材料としては、クロムに酸素、窒素、炭素、ホウ素およびフッ素から選ばれる一以上の元素を含有する材料が好ましい。また、遮光膜を形成するクロムを含有する材料にモリブデン、インジウムおよびスズのうち一以上の元素を含有させてもよい。モリブデン、インジウムおよびスズのうち一以上の元素を含有させることで、塩素系ガスと酸素ガスの混合ガスに対するエッチングレートをより速くすることができる。
【0055】
一方、本発明では、別の実施形態のマスクブランク100として、位相シフト膜2と遮光膜3の間に別の膜(エッチングストッパ膜)を介する構成も含まれる。この場合においては、前記のクロムを含有する材料でエッチングストッパ膜を形成し、ケイ素を含有する材料またはタンタルを含有する材料で遮光膜3を形成する構成とすることが好ましい。
【0056】
遮光膜3を形成するケイ素を含有する材料には、遷移金属を含有させてもよく、遷移金属以外の金属元素を含有させてもよい。遮光膜3に遷移金属を含有させると、含有させない場合に比べて遮光性能が大きく向上し、遮光膜3の厚さを薄くすることが可能となるためである。遮光膜3に含有させる遷移金属としては、モリブデン(Mo)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、チタン(Ti)、クロム(Cr)、ハフニウム(Hf)、ニッケル(Ni)、バナジウム(V)、ジルコニウム(Zr)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、亜鉛(Zn)、ニオブ(Nb)、パラジウム(Pd)等のいずれか1つの金属またはこれらの金属の合金が挙げられる。遮光膜3に含有させる遷移金属元素以外の金属元素としては、アルミニウム(Al)、インジウム(In)、スズ(Sn)およびガリウム(Ga)などが挙げられる。
【0057】
マスクブランク100において、遮光膜3の上に遮光膜3をエッチングするときに用いられるエッチングガスに対してエッチング選択性を有する材料で形成されたハードマスク膜4をさらに積層させた構成とすると好ましい。遮光膜3は、所定の光学濃度を確保する機能が必須であるため、その厚さを低減するには限界がある。ハードマスク膜4は、その直下の遮光膜3にパターンを形成するドライエッチングが終わるまでの間、エッチングマスクとして機能することができるだけの膜の厚さがあれば十分であり、基本的に光学濃度の制限を受けない。このため、ハードマスク膜4の厚さは遮光膜3の厚さに比べて大幅に薄くすることができる。そして、有機系材料のレジスト膜は、このハードマスク膜4にパターンを形成するドライエッチングが終わるまでの間、エッチングマスクとして機能するだけの膜の厚さがあれば十分であるので、従来よりも大幅に厚さを薄くすることができる。レジスト膜の薄膜化は、レジスト解像度の向上とパターン倒れ防止に効果があり、微細化要求に対応していく上で極めて重要である。
【0058】
このハードマスク膜4は、遮光膜3がクロムを含有する材料で形成されている場合は、前記のケイ素を含有する材料で形成されることが好ましい。なお、この場合のハードマスク膜4は、有機系材料のレジスト膜との密着性が低い傾向があるため、ハードマスク膜4の表面をHMDS(Hexamethyldisilazane)処理を施し、表面の密着性を向上させることが好ましい。なお、この場合のハードマスク膜4は、SiO、SiN、SiON等で形成されるとより好ましい。
【0059】
また、遮光膜3がクロムを含有する材料で形成されている場合におけるハードマスク膜4の材料として、前記のほか、タンタルを含有する材料も適用可能である。この場合におけるタンタルを含有する材料としては、タンタル金属のほか、タンタルに窒素、酸素、ホウ素および炭素から選らばれる一以上の元素を含有させた材料などが挙げられる。たとえば、Ta、TaN、TaO、TaON、TaBN、TaBO、TaBON、TaCN、TaCO、TaCON、TaBCN、TaBOCNなどが挙げられる。また、ハードマスク膜4は、遮光膜3がケイ素を含有する材料で形成されている場合、前記のクロムを含有する材料で形成されることが好ましい。
【0060】
マスクブランク100において、ハードマスク膜4の表面に接して、有機系材料のレジスト膜が100nm以下の膜厚で形成されていることが好ましい。DRAM hp32nm世代に対応する微細パターンの場合、ハードマスク膜4に形成すべき転写パターン(位相シフトパターン)に、線幅が40nmのSRAF(Sub-Resolution Assist Feature)が設けられることがある。しかし、この場合でも、レジストパターンの断面アスペクト比が1:2.5と低くすることができるので、レジスト膜の現像時、リンス時等にレジストパターンが倒壊や脱離することを抑制される。なお、レジスト膜は、膜厚が80nm以下であるとより好ましい。
【0061】
この実施形態の位相シフトマスク200は、マスクブランク100の位相シフト膜2に転写パターン(位相シフトパターン)が形成され、遮光膜3に遮光帯パターンが形成されていることを特徴としている。マスクブランク100にハードマスク膜4が設けられている構成の場合、この位相シフトマスク200の作成途上でハードマスク膜4は除去される。
【0062】
本発明に係る位相シフトマスクの製造方法は、前記のマスクブランク100を用いるものであり、ドライエッチングにより遮光膜3に転写パターンを形成する工程と、転写パターンを有する遮光膜3をマスクとするドライエッチングにより位相シフト膜2に転写パターンを形成する工程と、遮光帯パターンを有するレジスト膜6bをマスクとするドライエッチングにより遮光膜3に遮光帯パターンを形成する工程とを備えることを特徴としている。以下、図2に示す製造工程にしたがって、本発明の位相シフトマスク200の製造方法を説明する。なお、ここでは、遮光膜3の上にハードマスク膜4が積層したマスクブランク100を用いた位相シフトマスク200の製造方法について説明する。また、遮光膜3にはクロムを含有する材料を適用し、ハードマスク膜4にはケイ素を含有する材料を適用している。
【0063】
まず、マスクブランク100におけるハードマスク膜4に接して、レジスト膜をスピン塗布法によって形成する。次に、レジスト膜に対して、位相シフト膜に形成すべき転写パターン(位相シフトパターン)である第1のパターンを電子線で露光描画し、さらに現像処理等の所定の処理を行い、位相シフトパターンを有する第1のレジストパターン5aを形成した(図2(a)参照)。続いて、第1のレジストパターン5aをマスクとして、フッ素系ガスを用いたドライエッチングを行い、ハードマスク膜4に第1のパターンを形成(ハードマスクパターン4a)した(図2(b)参照)。
【0064】
次に、レジストパターン5aを除去してから、ハードマスクパターン4aをマスクとして、塩素系ガスと酸素ガスの混合ガスを用いたドライエッチングを行い、遮光膜3に第1のパターンを形成(遮光パターン3a)する(図2(c)参照)。続いて、遮光パターン3aをマスクとして、フッ素系ガスを用いたドライエッチングを行い、位相シフト膜2に第1のパターンを形成(位相シフトパターン2a)し、かつ同時にハードマスクパターン4aも除去した(図2(d)参照)。
【0065】
次に、マスクブランク100上にレジスト膜をスピン塗布法によって形成した。次に、レジスト膜に対して、遮光膜3に形成すべきパターン(遮光帯パターン)である第2のパターンを電子線で露光描画し、さらに現像処理等の所定の処理を行い、遮光パターンを有する第2のレジストパターン6bを形成した(図2(e)参照)。続いて、第2のレジストパターン6bをマスクとして、塩素系ガスと酸素ガスの混合ガスを用いたドライエッチングを行い、遮光膜3に第2のパターン(遮光パターン3b)を形成した(図2(f)参照)。さらに、第2のレジストパターン6bを除去し、洗浄等の所定の処理を経て、位相シフトマスク200を得た(図2(g)参照)。
【0066】
前記のドライエッチングで使用される塩素系ガスとしては、Clが含まれていれば特に制限はない。たとえば、Cl、SiCl、CHCl、CHCl、CCl、BCl等があげられる。また、前記のドライエッチングで使用されるフッ素系ガスとしては、Fが含まれていれば特に制限はない。たとえば、CHF、CF、C、C、SF等があげられる。特に、Cを含まないフッ素系ガスは、ガラス基板に対するエッチングレートが比較的低いため、ガラス基板へのダメージをより小さくすることができる。
【0067】
本発明の位相シフトマスク200は、前記のマスクブランク100を用いて作製されたものである。このため、転写パターンが形成された位相シフト膜2(位相シフトパターン2a)はArF露光光に対する透過率が2%以上30%以下であり、かつ位相シフトパターン2aを透過した露光光と位相シフトパターン2aの厚さと同じ距離だけ空気中を通過した露光光との間における位相差が150度以上180度以下の範囲内となっている。
【0068】
本発明の位相シフトマスク200は、位相シフトパターン2aのArF露光光に対する裏面反射率が少なくとも20%以上あり、ArF露光光の照射によって生じる位相シフトパターン2aの熱膨張およびその熱膨張に係る位相シフトパターン2aの移動を抑制することができる。
【0069】
本発明の半導体デバイスの製造方法は、前記の位相シフトマスク200または前記のマスクブランク100を用いて製造された位相シフトマスク200を用い、半導体基板上のレジスト膜にパターンを露光転写することを特徴としている。このため、この位相シフトマスク200を露光装置にセットし、その位相シフトマスク200の透光性基板1側からArF露光光を照射して転写対象物(半導体ウェハ上のレジスト膜等)へ露光転写を行っても、高い精度で転写対象物に所望のパターンを転写することができる。
【実施例】
【0070】
以下、実施例により、本発明の実施の形態をさらに具体的に説明する。
(実施例1)
[マスクブランクの製造]
主表面の寸法が約152mm×約152mmで、厚さが約6.35mmの合成石英ガラスからなる透光性基板1を準備した。この透光性基板1は、端面及び主表面を所定の表面粗さに研磨され、その後、所定の洗浄処理および乾燥処理を施されたものであった。
【0071】
次に、枚葉式DCスパッタ装置内に透光性基板1を設置し、モリブデン(Mo)とケイ素(Si)との混合ターゲット(Mo:Si=11原子%:89原子%)を用い、アルゴン(Ar)およびヘリウム(He)の混合ガスをスパッタリングガスとする反応性スパッタリング(DCスパッタリング)により、透光性基板1上に、モリブデンおよびケイ素からなる位相シフト膜2の下層21(MoSi膜)を7nmの厚さで形成した。
【0072】
次に、枚葉式DCスパッタ装置内に下層21が成膜された透光性基板1を設置し、モリブデン(Mo)とケイ素(Si)との混合ターゲット(Mo:Si=4原子%:96原子%)を用い、アルゴン(Ar)、窒素(N)、酸素(O)およびヘリウム(He)の混合ガスをスパッタリングガスとする反応性スパッタリング(DCスパッタリング)により、下層21上に、モリブデン、ケイ素、窒素および酸素からなる位相シフト膜2の上層21(MoSiON膜)を72nmの厚さで形成した。以上の手順により、透光性基板1の表面に接して下層21と上層22が積層した位相シフト膜2を79nmの厚さで形成した。
【0073】
次に、この位相シフト膜2が形成された透光性基板1に対して、位相シフト膜2の膜応力を低減するため、および表層に酸化層を形成するための加熱処理を行った。具体的には、加熱炉(電気炉)を用いて、大気中で加熱温度を450℃、加熱時間を1時間として、加熱処理を行った。別の透光性基板1の主表面に対して、同条件で下層21と上層22が積層した位相シフト膜2を成膜し、加熱処理を行ったものを準備した。位相シフト量測定装置(レーザーテック社製 MPM193)を用いて、その位相シフト膜2の波長193nmの光に対する透過率と位相差を測定したところ、透過率が6.0%、位相差が170.0度(deg)であった。また、この位相シフト膜2に対して、STEMとEDXで分析したところ、位相シフト膜2の上層22の表面から約1.7nm程度の厚さで酸化層が形成されていることが確認された。さらに、この位相シフト膜2の下層21および上層22の各光学特性を測定したところ、下層21は屈折率nが1.15、消衰係数kが2.90であり、上層22は、屈折率nが2.38、消衰係数kが0.31であった。また、位相シフト膜2の表面反射率(位相シフト膜2の表面側の反射率)は20.3%、裏面反射率(透光性基板1側の反射率)は44.0%であった。
【0074】
次に、枚葉式DCスパッタ装置内に位相シフト膜2が形成された透光性基板1を設置し、クロム(Cr)ターゲットを用い、アルゴン(Ar)、二酸化炭素(CO)、窒素(N)およびヘリウム(He)の混合ガス(流量比 Ar:CO:N:He=22:39:6:33,圧力=0.2Pa)をスパッタリングガスとし、DC電源の電力を1.9kWとし、反応性スパッタリング(DCスパッタリング)により、位相シフト膜2上にCrOCNからなる遮光膜3の最下層を30nmの厚さで形成した。
【0075】
次に、同じクロム(Cr)ターゲットを用い、アルゴン(Ar)および窒素(N)の混合ガス(流量比 Ar:N=83:17,圧力=0.1Pa)をスパッタリングガスとし、DC電源の電力を1.4kWとし、反応性スパッタリング(DCスパッタリング)により、遮光膜3の最下層上にCrNからなる遮光膜3の下層を4nmの厚さで形成した。
【0076】
次に、同じクロム(Cr)ターゲットを用い、アルゴン(Ar)、二酸化炭素(CO)、窒素(N)およびヘリウム(He)の混合ガス(流量比 Ar:CO:N:He=21:37:11:31,圧力=0.2Pa)をスパッタリングガスとし、DC電源の電力を1.9kWとし、反応性スパッタリング(DCスパッタリング)により、遮光膜3の下層上にCrOCNからなる遮光膜3の上層を14nmの厚さで形成した。以上の手順により、位相シフト膜2側からCrOCNからなる最下層、CrNからなる下層、CrOCNからなる上層の3層構造からなるクロム系材料の遮光膜3を合計膜厚48nmで形成した。なお、この位相シフト膜2と遮光膜3の積層構造における波長193nmの光に対する光学濃度(OD)を測定したところ、3.0以上であった。
【0077】
さらに、枚葉式RFスパッタ装置内に、位相シフト膜2および遮光膜3が積層された透光性基板1を設置し、二酸化ケイ素(SiO)ターゲットを用い、アルゴン(Ar)ガスをスパッタリングガスとし、RFスパッタリングにより遮光膜3の上に、ケイ素および酸素からなるハードマスク膜4を5nmの厚さで形成した。以上の手順により、透光性基板1上に、2層構造の位相シフト膜2、遮光膜3およびハードマスク膜4が積層した構造を備えるマスクブランク100を製造した。
【0078】
[位相シフトマスクの製造]
次に、この実施例1のマスクブランク100を用い、以下の手順で実施例1の位相シフトマスク200を作製した。最初に、ハードマスク膜4の表面にHMDS処理を施した。続いて、スピン塗布法によって、ハードマスク膜4の表面に接して、電子線描画用化学増幅型レジストからなるレジスト膜を膜厚80nmで形成した。次に、このレジスト膜に対して、位相シフト膜2に形成すべき位相シフトパターンである第1のパターンを電子線描画し、所定の現像処理および洗浄処理を行い、第1のパターンを有する第1のレジストパターン5aを形成した(図2(a)参照)。
【0079】
次に、第1のレジストパターン5aをマスクとし、CFガスを用いたドライエッチングを行い、ハードマスク膜4に第1のパターン(ハードマスクパターン4a)を形成した(図2(b)参照)。
【0080】
次に、第1のレジストパターン5aを除去した。続いて、ハードマスクパターン4aをマスクとし、塩素と酸素の混合ガス(ガス流量比 Cl:O=4:1)を用いたドライエッチングを行い、遮光膜3に第1のパターンを形成(遮光パターン3a)した(図2(c)参照)。次に、遮光パターン3aをマスクとし、フッ素系ガス(SF+He)を用いたドライエッチングを行い、位相シフト膜2に第1のパターンを形成(位相シフトパターン2a)し、かつ同時にハードマスクパターン4aを除去した(図2(d)参照)。
【0081】
次に、遮光膜パターン3a上に、スピン塗布法によって、電子線描画用化学増幅型レジストからなるレジスト膜を膜厚150nmで形成した。次に、レジスト膜に対して、遮光膜に形成すべきパターン(遮光帯パターン)である第2のパターンを露光描画し、さらに現像処理等の所定の処理を行い、遮光パターンを有する第2のレジストパターン6bを形成した(図2(e)参照)。続いて、第2のレジストパターン6bをマスクとして、塩素と酸素の混合ガス(ガス流量比 Cl:O=4:1)を用いたドライエッチングを行い、遮光膜3に第2のパターンを形成(遮光パターン3b)した(図2(f)参照)。さらに、第2のレジストパターン6bを除去し、洗浄等の所定の処理を経て、位相シフトマスク200を得た(図2(g)参照)。
【0082】
作製した実施例1のハーフトーン型位相シフトマスク200を、ArFエキシマレーザーを露光光とする露光装置のマスクステージにセットし、位相シフトマスク200の透光性基板1側からArF露光光を照射し、半導体デバイス上のレジスト膜にパターンを露光転写した。露光転写後のレジスト膜に対して所定の処理を行ってレジストパターンを形成し、そのレジストパターンをSEM(Scanning Electron Microscope)で観察した。その結果、設計パターンからの位置ずれ量は、面内でいずれも許容範囲内であった。この結果から、このレジストパターンをマスクとして半導体デバイス上に回路パターンを高精度に形成することができるといえる。
【0083】
(実施例2)
[マスクブランクの製造]
実施例2のマスクブランクは、位相シフト膜2以外については、実施例1と同様の手順で製造した。この実施例2の位相シフト膜2は、下層22と上層21を形成する材料と膜厚をそれぞれ変更している。具体的には、枚葉式DCスパッタ装置内に透光性基板1を設置し、モリブデン(Mo)とケイ素(Si)との混合ターゲット(Mo:Si=11原子%:89原子%)を用い、アルゴン(Ar)、窒素(N)およびヘリウム(He)の混合ガスをスパッタリングガスとする反応性スパッタリング(DCスパッタリング)により、透光性基板1上に、モリブデン、ケイ素および窒素からなる位相シフト膜2の下層21(MoSiN膜)を7nmの厚さで形成した。
【0084】
次に、枚葉式DCスパッタ装置内に下層21が成膜された透光性基板1を設置し、モリブデン(Mo)とケイ素(Si)との混合ターゲット(Mo:Si=8原子%:92原子%)を用い、アルゴン(Ar)、窒素(N)、酸素(O)およびヘリウム(He)の混合ガスをスパッタリングガスとする反応性スパッタリング(DCスパッタリング)により、下層21上に、モリブデン、ケイ素、窒素および酸素からなる位相シフト膜2の上層21(MoSiON膜)を88nmの厚さで形成した。以上の手順により、透光性基板1の表面に接して下層21と上層22が積層した位相シフト膜2を95nmの厚さで形成した。
【0085】
また、実施例1と同様の処理条件で、この実施例2の位相シフト膜2に対しても加熱処理を行った。別の透光性基板1の主表面に対して、同条件でこの実施例2の位相シフト膜2を成膜し、加熱処理を行ったものを準備した。位相シフト量測定装置(レーザーテック社製 MPM193)を用いて、その位相シフト膜2の波長193nmの光に対する透過率と位相差を測定したところ、透過率が6.0%、位相差が170.4度(deg)であった。また、この位相シフト膜2に対して、STEMとEDXで分析したところ、位相シフト膜2の上層22の表面から約1.6nm程度の厚さで酸化層が形成されていることが確認された。さらに、この位相シフト膜2の下層21および上層22の各光学特性を測定したところ、下層21は屈折率nが1.34、消衰係数kが2.79であり、上層22は、屈折率nが2.13、消衰係数kが0.28であった。
【0086】
以上の手順により、透光性基板上に、MoSiNの下層21とMoSiONの上層22とからなる位相シフト膜2、遮光膜3およびハードマスク膜4が積層した構造を備える実施例2のマスクブランクを製造した。
【0087】
[位相シフトマスクの製造]
次に、この実施例2のマスクブランク100を用い、実施例1と同様の手順で、実施例2の位相シフトマスク200を作製した。
【0088】
作製した実施例2のハーフトーン型位相シフトマスク200を、ArFエキシマレーザーを露光光とする露光装置のマスクステージにセットし、位相シフトマスク200の透光性基板1側からArF露光光を照射し、半導体デバイス上のレジスト膜にパターンを露光転写した。露光転写後のレジスト膜に対して所定の処理を行ってレジストパターンを形成し、そのレジストパターンをSEM(Scanning Electron Microscope)で観察した。その結果、設計パターンからの位置ずれ量は、面内でいずれも許容範囲内であった。この結果から、このレジストパターンをマスクとして半導体デバイス上に回路パターンを高精度に形成することができるといえる。
【0089】
(比較例1)
[マスクブランクの製造]
この比較例1のマスクブランクは、位相シフト膜2以外については、実施例1と同様の手順で製造した。この比較例1の位相シフト膜2は、モリブデン、ケイ素、窒素および酸素からなる単層構造の膜を適用した。具体的には、枚葉式DCスパッタ装置内に透光性基板1を設置し、モリブデン(Mo)とケイ素(Si)との混合焼結ターゲット(Mo:Si=4原子%:96原子%)を用い、アルゴン(Ar)、窒素(N)、酸素(O)およびヘリウム(He)の混合ガスをスパッタリングガスとする反応性スパッタリング(DCスパッタリング)により、モリブデン、ケイ素、窒素および酸素からなる位相シフト膜2を66nmの厚さで形成した。
【0090】
また、実施例1と同様の処理条件で、この位相シフト膜2に対しても加熱処理を行った。別の透光性基板1の主表面に対して、同条件でこの比較例1の位相シフト膜2を成膜し、加熱処理を行ったものを準備した。位相シフト量測定装置(レーザーテック社製 MPM193)を用いて、その位相シフト膜2の波長193nmの光に対する透過率と位相差を測定したところ、透過率が12.1%、位相差が177.1度(deg)であった。また、位相シフト膜2に対して、STEMとEDXで分析したところ、位相シフト膜2の表面から約1.7nm程度の厚さで酸化層が形成されていることが確認された。さらに、この位相シフト膜2の各光学特性を測定したところ、屈折率nが2.48、消衰係数kが0.45であった。
【0091】
以上の手順により、透光性基板上に、MoSiONからなる位相シフト膜2、遮光膜3およびハードマスク膜4が積層した構造を備える比較例1のマスクブランクを製造した。
【0092】
[位相シフトマスクの製造]
次に、この比較例1のマスクブランク100を用い、実施例1と同様の手順で、比較例1の位相シフトマスク200を作製した。
【0093】
作製した比較例1のハーフトーン型位相シフトマスク200を、ArFエキシマレーザーを露光光とする露光装置のマスクステージにセットし、位相シフトマスク200の透光性基板1側からArF露光光を照射し、半導体デバイス上のレジスト膜にパターンを露光転写した。露光転写後のレジスト膜に対して所定の処理を行ってレジストパターンを形成し、そのレジストパターンをSEM(Scanning Electron Microscope)で観察した。その結果、設計パターンからの位置ずれ量は大きく、許容範囲外である箇所が多数発見された。この結果から、このレジストパターンをマスクとして半導体デバイス上に形成される回路パターンには、断線や短絡が発生することが予想される。
【符号の説明】
【0094】
1 透光性基板
2 位相シフト膜
21 下層
22 上層
2a 位相シフトパターン
3 遮光膜
3a,3b 遮光パターン
4 ハードマスク膜
4a ハードマスクパターン
5a 第1のレジストパターン
6b 第2のレジストパターン
100 マスクブランク
200 位相シフトマスク
【要約】
【課題】 位相シフトパターンに対して露光光を照射したときに発生する位相シフトパターンの熱膨張が小さく、位相シフトパターンの移動が小さくなるように抑制された位相シフトマスクを製造するためのマスクブランクを提供することを目的とする。
【解決手段】 位相シフト膜は、ArFエキシマレーザーの露光光を2%以上30%以下の透過率で透過させる機能と、位相シフト膜を透過した露光光に対して位相シフト膜の厚さと同じ距離だけ空気中を通過した露光光との間で150度以上180度以下の位相差を生じさせる機能とを有し、位相シフト膜は、金属およびケイ素を含有する材料で形成され、透光性基板側から下層と上層が積層した構造を含み、下層は、透光性基板よりも露光光の波長における屈折率nが小さく、上層は、透光性基板よりも露光光の波長における屈折率nが大きく、下層は、前記上層よりも露光光の波長における消衰係数kが大きく、上層は、下層よりも厚さが厚いことを特徴とする。
【選択図】図1
図1
図2