特許第6058789号(P6058789)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6058789
(24)【登録日】2016年12月16日
(45)【発行日】2017年1月18日
(54)【発明の名称】液液抽出装置および液液抽出方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 11/04 20060101AFI20170106BHJP
   C22B 3/02 20060101ALI20170106BHJP
【FI】
   B01D11/04 102
   C22B3/02
【請求項の数】6
【全頁数】30
(21)【出願番号】特願2015-511301(P2015-511301)
(86)(22)【出願日】2014年4月10日
(86)【国際出願番号】JP2014060425
(87)【国際公開番号】WO2014168213
(87)【国際公開日】20141016
【審査請求日】2015年11月9日
(31)【優先権主張番号】特願2013-82573(P2013-82573)
(32)【優先日】2013年4月11日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】506075665
【氏名又は名称】株式会社ファースト
(74)【代理人】
【識別番号】100134979
【弁理士】
【氏名又は名称】中井 博
(74)【代理人】
【識別番号】100167427
【弁理士】
【氏名又は名称】岡本 茂樹
(73)【特許権者】
【識別番号】516052009
【氏名又は名称】山下 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100134979
【弁理士】
【氏名又は名称】中井 博
(72)【発明者】
【氏名】山下 浩
(72)【発明者】
【氏名】宗野 洋一
【審査官】 関根 崇
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−288306(JP,A)
【文献】 特開平10−258201(JP,A)
【文献】 特公昭36−001769(JP,B1)
【文献】 米国特許第4258010(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 11/04
C22B 3/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
界面を形成して分離する2液体を接触させて、一の液体から他の液体に物質を抽出する液液抽出装置であって、
前記2液体を送通するための複数の抽出流路を有する抽出部と、該抽出部に液体を供給するための液体供給部と、該抽出部から液体を排出するための液体排出部と、を備えており、
前記抽出部は、
前記抽出流路の断面積が、流路方向に沿って変化するように形成されており、
前記液体供給部は、
該液体供給部に別々に供給された前記2液体を前記抽出部に対して連続的に供給し得る機能を有しており、
前記抽出部は、
筒状の本体部と、該本体部に収容した流路形成部材と、を備えており、
該流路形成部材は、
表面に疎水性の機能を有する複数の粒状体から構成されており、
前記2液体は、
疎水性液体からなる主流体と、該主流体の流量よりも流量が少ない親水性液体からなる従流体である
ことを特徴とする液液抽出装置。
【請求項5】
界面を形成して分離する2液体を接触させて、一の液体から他の液体に物質を抽出する液液抽出装置であって、
前記2液体を送通するための複数の抽出流路を有する抽出部と、該抽出部に液体を供給するための液体供給部と、該抽出部から液体を排出するための液体排出部と、を備えており、
前記抽出部は、
前記抽出流路の断面積が、流路方向に沿って変化するように形成されており、
前記液体供給部は、
該液体供給部に別々に供給された前記2液体を前記抽出部に対して連続的に供給し得る機能を有しており、
前記抽出部は、
筒状の本体部と、該本体部に収容した流路形成部材と、を備えており、
該流路形成部材は、
複数の粒状体から構成されており、
該複数の粒状体が、
表面に親水性の機能を有する粒状の親水部材であり、
前記2液体は、
親水性液体からなる主流体と、該主流体の流量よりも流量が少ない疎水性液体からなる従流体である
ことを特徴とする液液抽出装置。
【請求項6】
前記抽出部は、
空隙率が、30%〜70%となるように形成されている
ことを特徴とする請求項1または5記載の液液抽出装置。
【請求項7】
前記複数の粒状体は、
前記疎水部材を体積比において25%以上含有している
ことを特徴とする請求項1または5記載の液液抽出装置。
【請求項8】
界面を形成して分離する2液体を抽出流路内において接触させて、物質を一の液体から他の液体へ向流抽出または並流抽出させる液液抽出方法であって、
別々に供給される前記2液体を流路方向に沿って断面積が変化する前記抽出流路内に連続的に通液させる方法であり、
前記抽出流路が、
表面が疎水性である複数の粒状体から構成されており、
前記2液体は、
疎水性液体からなる主流体と、該主流体の流量よりも流量が少ない親水性液体からなる従流体である
ことを特徴とする液液抽出方法。
【請求項9】
界面を形成して分離する2液体を抽出流路内において接触させて、物質を一の液体から他の液体へ向流抽出または並流抽出させる液液抽出方法であって、
別々に供給される前記2液体を流路方向に沿って断面積が変化する前記抽出流路内に連続的に通液させる方法であり、
前記抽出流路が、
表面が親水性である複数の粒状体から構成されており、
前記2液体は、
親水性液体からなる主流体と、該主流体の流量よりも流量が少ない疎水性液体からなる従流体である
ことを特徴とする液液抽出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液液抽出装置および液液抽出方法に関する。さらに詳しくは、被抽出溶液と抽出溶液を装置本体内に通液するだけで被抽出溶液中に含まれる有価金属イオン等を抽出することができる液液抽出装置および液液抽出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、小型の高機能型の携帯電話機や家電製品、発光ダイオード、燃料電池等の電子材料、光触媒等の機能性材料などの普及に伴い、かかる製品に使用される金やプラチナ、銅、リチウム、タンタル、ジルコニウム、ニッケル、コバルト、(いわゆるレアメタルやレアアース)などの金属(以下、希少金属という)の需要が増加している。このような希少金属は、鉱物等に微量に含まれているので、一般的には鉱物等を処理することによって取り出されている。例えば、鉱物等を粉砕処理等した後、酸処理することによって希少金属を含有した水溶液を調製する。そして、この水溶液(以下、被抽出溶液という)から目的の希少金属を取り出す(抽出する)。
【0003】
従来、この被抽出溶液から希少金属を選択的に抽出する技術は、種々開発されているが、一般的には、被抽出溶液と交じり合わない溶液(抽出溶媒または抽出溶剤を溶解した溶液を含む、以下、抽出溶液という)を用いた液液抽出方法が使用されている。
【0004】
液液抽出方法は、界面を形成して分離する2液体(被抽出溶液と抽出溶液)を混ぜることによって、被抽出溶液から希少金属を抽出溶液に移動させる(つまり、被抽出溶液から希少金属を抽出する)という原理に基づいた技術である。そして、液液抽出方法では、2液体の界面の面積を大きくすれば、希少金属を効率良く被抽出溶液から抽出できることから、2溶液の界面の面積を大きくするために2溶液を機械等で撹拌し混合するという技術が開発されている。
【0005】
実験室レベルでは、抽出容器内に2溶液を入れ、かかる抽出容器を手動または機械的に振とうするという技術が存在する。例えば、分液ロートを用いた液液抽出方法が存在する。この分液ロートを用いた液液抽出方法では、実験室レベルのような少量の被抽出溶液等を扱う場合には利便性がよい。しかし、かかる技術では、一回で処理可能な被抽出溶液の量は数リットル程度が限界であり、しかも、連続処理も困難であるので、かかる技術では、大量の被抽出溶液を処理することは不可能である。
【0006】
そこで、大量の被抽出溶液を効率よく処理する技術として、2液体を撹拌するための撹拌部を設けた技術が開発されている(例えば、特許文献1、2)。
【0007】
特許文献1には、2つの箱型の大型槽を有し、一の槽にインペラを備えた撹拌部が設けられたミキサセトラ型抽出器を使用して液液抽出を実施する槽型液液抽出方法が開示されている。
また、特許文献2には、内部に中空な収容空間を有する本体内に上下方向に可動する多孔プレートを備えた撹拌部を設けた往復動プレート式交流抽出装置を使用して液液抽出を実施する塔型液液抽出方法が開示されている。これらの文献に開示された技術によれば抽出溶液と被抽出溶液とが混合した液を撹拌部で撹拌するので両液を効率良く混合できるから、大量の被抽出溶液であっても連続的に処理できるという利点がある。
【0008】
一方、極微細な貫通孔を有するキャピラリー内において2液体を接触させて液液抽出を実施する技術が開発されている(例えば、特許文献3)。
特許文献3には、内径の直径が数十〜数百μmのキャピラリーを内部に有するマイクロチップデバイスが開示されている。このマイクロチップデバイスのキャピラリーに2液体を供給すれば、2液体間に界面を形成させることができるので、2液体をキャピラリーに通液するだけで、被抽出溶液から抽出溶液に希少金属を抽出することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2009−90164号公報
【特許文献2】特開2002−58903号公報
【特許文献3】特開2009−90164号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかるに、特許文献1または特許文献2に開示された技術では、被抽出溶液と抽出溶液とが混合した混合溶液を撹拌する際に撹拌部のインペラや多孔プレートに大きな抵抗がかかる。このため、かかる大きな抵抗に抗しつつ2液体を十分に撹拌するために、撹拌部を作動させるためのモータ等の駆動部を大型にしなければならないという問題が生じる。しかも、駆動部を大型にすれば、その動力として大量の電力等を消費するといった問題も生じる。
また、特許文献1または特許文献2の技術では、安定した抽出効率を得るために、駆動部の作動を調整する必要があるので、駆動部の操作が複雑になるし、定期的なメンテナンス等が必要不可欠になるといった問題も生じる。
したがって、より効率よく液液抽出を行うために、駆動部を有しない液液抽出装置が望まれている。
【0011】
一方、特許文献3では、駆動部を有しないものの、キャピラリーの内径が約100μm程度と極微細でなければならない技術である。このため、特許文献3のキャピラリーに通液可能な被抽出溶液は、その量が約5〜10μL/min程度と極微量である。したがって、特許文献3のキャピラリーでは、実質的に処理することができる被抽出溶液の量は数十μL〜数百μL程度でしかないといった問題が生じる。しかも、かかるキャピラリー内に所望の流量(例えば、数十〜数百ml/min)となるように液体を流せば、圧力損失が非常に大きくなるので、特殊な送液ポンプ等が必要となる。また、1分間に100mlの被抽出溶液を処理しようとすれば、少なくとも10000個のマイクロチップデバイスが必要となる。
したがって、特許文献3の技術を用いて、工業的に大量に発生する被抽出溶液を短時間に処理することは、現実的に不可能である。
【0012】
現在のところ、液液抽出方法において、溶液の撹拌等に駆動部を使用せずに、大量の被抽出溶液を効率よく処理することができる構造を有する液液抽出装置は存在しておらず、駆動部を用いることなく工業的に大量に発生する被抽出溶液を処理することができる簡単な構造を有する液液抽出装置の開発が望まれている。
【0013】
本発明は上記事情に鑑み、駆動部を必要としない簡単な構造でありながら、大量の被抽出溶液を処理することができる液液抽出装置および液液抽出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
第1発明の液液抽出装置は、界面を形成して分離する2液体を接触させて、一の液体から他の液体に物質を抽出する液液抽出装置であって、前記2液体を送通するための複数の抽出流路を有する抽出部と、該抽出部に液体を供給するための液体供給部と、該抽出部から液体を排出するための液体排出部と、を備えており、前記抽出部は、前記抽出流路の断面積が、流路方向に沿って変化するように形成されており、前記液体供給部は、該液体供給部に別々に供給された前記2液体を前記抽出部に対して連続的に供給し得る機能を有しており、前記抽出部は、筒状の本体部と、該本体部に収容した流路形成部材と、を備えており、該流路形成部材は、表面に疎水性の機能を有する複数の粒状体から構成されており、前記2液体は、疎水性液体からなる主流体と、該主流体の流量よりも流量が少ない親水性液体からなる従流体であることを特徴とする。
第5発明の液液抽出装置は、界面を形成して分離する2液体を接触させて、一の液体から他の液体に物質を抽出する液液抽出装置であって、前記2液体を送通するための複数の抽出流路を有する抽出部と、該抽出部に液体を供給するための液体供給部と、該抽出部から液体を排出するための液体排出部と、を備えており、前記抽出部は、前記抽出流路の断面積が、流路方向に沿って変化するように形成されており、前記液体供給部は、該液体供給部に別々に供給された前記2液体を前記抽出部に対して連続的に供給し得る機能を有しており、前記抽出部は、筒状の本体部と、該本体部に収容した流路形成部材と、を備えており、該流路形成部材は、複数の粒状体から構成されており、該複数の粒状体が、表面に親水性の機能を有する粒状の親水部材であり、前記2液体は、親水性液体からなる主流体と、該主流体の流量よりも流量が少ない疎水性液体からなる従流体であることを特徴とする。
第6発明の液液抽出装置は、第1または第5発明において、前記抽出部は、空隙率が、30%〜70%となるように形成されていることを特徴とする。
第7発明の液液抽出装置は、第1または第5発明において、前記複数の粒状体は、前記疎水部材を体積比において25%以上含有していることを特徴とする。
第8発明の液液抽出方法は、界面を形成して分離する2液体を抽出流路内において接触させて、物質を一の液体から他の液体へ向流抽出または並流抽出させる液液抽出方法であって、別々に供給される前記2液体を流路方向に沿って断面積が変化する前記抽出流路内に連続的に通液させる方法であり、前記抽出流路が、表面が疎水性である複数の粒状体から構成されており、前記2液体は、疎水性液体からなる主流体と、該主流体の流量よりも流量が少ない親水性液体からなる従流体であることを特徴とする。
第9発明の液液抽出方法は、界面を形成して分離する2液体を抽出流路内において接触させて、物質を一の液体から他の液体へ向流抽出または並流抽出させる液液抽出方法であって、別々に供給される前記2液体を流路方向に沿って断面積が変化する前記抽出流路内に連続的に通液させる方法であり、前記抽出流路が、表面が親水性である複数の粒状体から構成されており、前記2液体は、親水性液体からなる主流体と、該主流体の流量よりも流量が少ない疎水性液体からなる従流体であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
第1発明によれば、抽出流路の断面積を変化させるので、抽出流路内を流れる2液体の界面の面積を変化させることができ、各液体内に対流を発生させることができる。このため、一の液体から他の液体へ物質を移動させ易くなるから、両者間における抽出効率を向上させることができる。しかも、抽出部に対して2液体を供給するだけなので、装置を簡単な構造とすることができる。また、液体供給部に別々に供給された2液体を連続的に抽出部に対して供給するので、抽出処理を連続して行うことができる。そして、抽出流路内において、複数の粒状体の表面に疎水性の液層を形成させることができる。このため、2液体を抽出流路内に通液すれば、疎水性の主流体は複数の粒状体の表面に沿って流すことができるので、抽出流路内において、2液体間に界面が形成された状態を維持させながら流すことができる。しかも、疎水性の主流体中に親水性の従流体を分散させた状態で流すことができる。したがって、2液体間における物質の抽出効率をより向上させることができる。
第5発明によれば、抽出流路の断面積を変化させるので、抽出流路内を流れる2液体の界面の面積を変化させることができ、各液体内に対流を発生させることができる。このため、一の液体から他の液体へ物質を移動させ易くなるから、両者間における抽出効率を向上させることができる。しかも、抽出部に対して2液体を供給するだけなので、装置を簡単な構造とすることができる。また、液体供給部に別々に供給された2液体を連続的に抽出部に対して供給するので、抽出処理を連続して行うことができる。そして、抽出流路内において、複数の粒状体の表面に親水性の液層を形成させることができる。このため、2液体を抽出流路内に通液すれば、親水性の主流体は複数の粒状体の表面に沿って流すことができるので、抽出流路内において、2液体間に界面が形成された状態を維持させながら流すことができる。しかも、親水性の主流体中に疎水性の従流体を分散させた状態で流すことができる。したがって、2液体間における物質の抽出効率をより向上させることができる。
第6発明によれば、抽出部の空隙率が所定の範囲となるように調整されているので、2液体を抽出流路内に通液した際の圧力損失を抑制することができる。
第7発明によれば、疎水部材を所定の値以上を含有するので、2液体間において、界面が形成された状態を維持させ易くなる。
第8発明によれば、抽出流路の断面積を変化させるので、抽出流路内を流れる2液体の界面の面積を変化させることができ、一の液体内に対流も発生させることができる。このため、一の液体から他の液体へ物質を移動させ易くなるから、両者間における抽出効率を向上させることができる。しかも、抽出部に対して2液体を供給するだけなので、簡単な構造を有する装置を用いて抽出処理を行うことができる。また、液体供給部に別々に供給された2液体を連続的に抽出物に対して供給するので、抽出処理を連続して行うことができる。そして、2液体を供給すれば、抽出流路内において、複数の粒状体の表面に疎水性の液層を形成させることができる。このため、疎水性の主流体は複数の粒状体の表面に沿って流すことができるので、抽出流路内において、2液体間に界面が形成された状態を維持させながら流すことができる。しかも、疎水性の主流体中に親水性の従流体を分散させた状態で流すことができる。したがって、2液体間における物質の抽出効率をより向上させることができる。
第9発明によれば、抽出流路の断面積を変化させるので、抽出流路内を流れる2液体の界面の面積を変化させることができ、一の液体内に対流も発生させることができる。このため、一の液体から他の液体へ物質を移動させ易くなるから、両者間における抽出効率を向上させることができる。しかも、抽出部に対して2液体を供給するだけなので、簡単な構造を有する装置を用いて抽出処理を行うことができる。また、液体供給部に別々に供給された2液体を連続的に抽出物に対して供給するので、抽出処理を連続して行うことができる。そして、抽出流路内において、複数の粒状体の表面に親水性の液層を形成させることができる。このため、親水性の主流体は複数の粒状体の表面に沿って流すことができるので、抽出流路内において、2液体間に界面が形成された状態を維持させながら流すことができる。しかも、親水性の主流体中に疎水性の従流体を分散させた状態で流すことができる。したがって、2液体間における物質の抽出効率をより向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本実施形態の液液抽出装置1の概略説明図である。
図2】抽出部10内における流路10h内を流れる被抽出溶液Sと抽出溶液Eの概略説明図である。
図3】液体排出部14の概略説明図であって、(A)は液体排出部14の液体分離空間14h内に形成された被抽出溶液Sと抽出溶液Eの2相の概略説明図であり、(B)は液体排出部14の液体分離空間14h内に分離プレート10fを設けた場合の概略説明図である。
図4】流路10h内を流れる被抽出溶液Sと抽出溶液Eの両者間に形成される界面IFと各液体内における対流CVの概略説明図である。
図5】(A)は流路形成部材として疎水性部材22を用いた場合における抽出部10内の流路10h内を流れる疎水性の被抽出溶液Spとかかる被抽出溶液Spよりも流量が少ない親水性の抽出溶液Ewの概略説明図であり、(B)は流路形成部材として親水性部材21を用いた場合における抽出部10内の流路10h内を流れる親水性の被抽出溶液Swとかかる被抽出溶液Swよりも流量が少ない疎水性の抽出溶液Epの概略説明図である。
図6】実験結果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
つぎに、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
本実施形態の液液抽出装置は、界面を形成して分離する2液体を接触させ、界面を介して、一の液体から他の液体に物質を移動(つまり抽出)させることができる液液抽出装置であって、いわゆるレアメタルやレアアース(イットリウムやランタン、セリウムなどの希土類を含むもの)などの希少な金属(以下、希少金属という)を含む大量の水溶液(以下、被抽出溶液という)を連続して処理する必要がある設備に適した装置である。
とくに、本実施形態の液液抽出装置は、希少金属を含む被抽出溶液を装置内に通液するだけで、大量の被抽出溶液を効率良く、しかも連続して液液抽出することができるようにしたことに特徴を有している。
【0018】
(被抽出溶液と抽出溶液の説明)
なお、本実施形態の液液抽出装置において、界面を形成して分離する2液体とは、液液抽出に使用可能な2液体であれば、その種類はとくに限定されない。つまり、上記2液体とは、両液体を撹拌等した後、所定時間静置すれば、2液体間に界面を形成して2相に分離する液体を意味している。具体的には、親水性の性質を有する被抽出溶液と、油や灯油等の疎水性の性質を有する炭化水素系有機溶媒(以下、抽出溶液という)が該当する。
【0019】
例えば、希少金属を含む水溶液から希少金属を取り出すための希少金属回収プラント等の場合、希少金属を含む水溶液が被抽出溶液であり、この被抽出溶液から希少金属を抽出するための液体、例えば、ケロシンを主成分とする灯油やヘキサン、ドデカン、クロロホルム、トルエン等の疎水性の有機溶媒が抽出溶液となる。
【0020】
その逆に、希少金属を含む水溶液から希少金属を抽出した液体から他の液体に希少金属を抽出しなおす(つまり逆抽出する)ような場合には、希少金属を含む水溶液から希少金属を抽出した液体、例えば、ケロシンを主成分とする灯油等の疎水性の有機溶媒が被抽出溶液であり、この被抽出溶液から希少金属を抽出するための液体、例えば、水などの親水性の水溶液が抽出溶液となる。
【0021】
なお、本明細書中の抽出溶液とは、被抽出溶液に対して上記の性質を有するものであれば、どのような液体でもよい。例えば、灯油やヘキサン等の疎水性の性質を有する液体の混合液体や、ホスホン酸系抽出剤のような酸性キレート抽出剤、ローダミンBのようなイオン会合抽出剤、リン酸トリブチルのような中性抽出剤など被抽出溶液に含まれる希少金属やそれの希少金属イオン等と特異的に結合する抽出剤を含んだ溶液など上記性質を有する溶液全てを含む概念である。
【0022】
また、本明細書中の界面とは、上述したように混じり合いにくい2液体が接した際に形成される面を意味し、流路方向に向かって略平行に流れる2液体間に形成される界面(図図2参照)の他、両液体を撹拌等した際に形成される一の液体が他の液体中に粒状の状態で分散するような状態(図5参照)における2液体間に形成される面も含む概念である。
【0023】
被抽出溶液と抽出溶液は、2液体を混合したのち静置した状態において、いずれが上方または下方の相になるかはとくに限定されない。以下では、2液体を混合し静置した状態において、下方の相に被抽出溶液が、上方の相に抽出溶液が存在する場合(つまり、抽出溶液の比重が被抽出溶液の比重に比べて軽い場合であって、両者が互いに界面を形成して分離する場合)を代表として説明する。
【0024】
なお、本実施形態の液液抽出装置において、上記2液体を通液する際に各液体を流す方向は、とくに限定されない。例えば、両液体を接触した状態で同一方向に向かって流す、いわゆる並流で流す場合や、互いに対向するように流れる、いわゆる向流で流す場合、のいずれも採用することができる。
以下の説明では、上記2液体をいわゆる並流で流す場合について説明する。
【0025】
(本実施形態の液液抽出装置1の説明)
つぎに、本実施形態の液液抽出装置を説明する。
【0026】
図1に示すように、本実施形態の液液抽出装置1(以下、単に装置1という)は、抽出部10と、この抽出部10内に液体を供給する液体供給部13と、抽出部10内から外部へ液体を排出する液体排出部14と、を備えている。
【0027】
(抽出部10の説明)
抽出部10は、内部に網目状の空隙を有する部材である。言い換えれば、抽出部10は、内部に多数の連続した孔10hを有する部材である。この孔10h(空隙)は、抽出部10の液体供給13側の面と液体排出部14側の面との間を連通するように形成されている。このため、この孔10hを通して、液体供給13側から抽出部10内に供給された液体を液体排出部14側へ流すことができるようになっている。つまり、この孔10h(空隙)は、抽出部10内に供給された液体の流路となるのである。以下、この孔10h(空隙)を流路10hという。
【0028】
この流路10hは、その孔径Wが狭くなった部分(W1)や、広くなった部分(W2)を有するように形成されている(図2参照)。言い換えれば、流路10hは、その断面積が流路方向に沿って変化するように形成されている。例えば、流路10hを液体が流れる場合、断面積が拡大縮小を繰り返すように形成されている。
【0029】
また、この流路10hは、抽出部10内において複数形成されている。言い換えれば、抽出部10の内部には、網目状の空隙が形成されている。この網目状の空隙の合計体積の抽出部10の合計体積に対する割合はとくに限定されないが、抽出部10の合計体積に対して約30%〜70%となるように形成されていることが望ましい。言い換えれば、抽出部10は、約30%〜70%の空隙率を有するように形成された部材であることが望ましい。
【0030】
以上のごとき構造を有する抽出部10の構造はとくに限定されない。例えば、側面には開口を有しない多孔質部材で抽出部10を形成することができる。
また、図1に示すように、複数の流路10hを有する流路形成部材20と、この流路形成部材20を保持するための本体部11と、を備えた構造を有するものを採用することができる。
【0031】
以下、上記構成を備えた抽出部10を有する本実施形態の装置1について説明する。
【0032】
まず、本体部11は、内部に流路形成部材20を保持することができる部材である。具体的には、本体部11は、内部に流路形成部材20を保持するための収容空間11hを有した筒状の部材である。
例えば、図1に示すように、本体部11を両端間に設けられた上板10aと底板10bと、その両端間に連接された側壁を有する構造とすれば、上板10a、底板10bおよび側壁によって囲まれた部分が収容空間11hを有するものとすることができる。
そして、上板10aおよび底板10bは、液体を通液できるような構造となっている。例えば、上板10aおよび底板10bが表裏を連通する複数の連通孔を有するメッシュ構造を有する構造とすることができる。
【0033】
なお、本体部11の大きさは、とくに限定されず、処理する被抽出溶液の量や含まれる物質の性状等によって適宜決定することができる。
例えば、本実施形態の装置1を金属の製錬工場や化学プラント、海洋からの希少金属を回収するプラント、都市鉱山中の有価金属の回収プラント等で使用する場合には、その内径が約5m、軸方向の長さが約10mに形成したものを使用することができる。
一方、実験室レベルで使用する場合には、例えば、その内径が約50mm、軸方向の長さが約100mmに形成したものを使用することができる。
【0034】
(流路形成部材20)
図1に示すように、流路形成部材20は、複数の粒状の粒状体21、22から構成されている。具体的には、流路形成部材20は、粒径および/または表面性状が異なる粒状体21、22を単独または混合したものから構成されたものである。
このため、流路形成部材20を本体部11の収容空間11h内に収容すると、流路形成部材20の内部において、隣接する粒状体21、22間には、空隙(つまり、流路10hに相当する)が形成される(図2参照)。
なお、本明細書でいう粒状体は、その形状が球形のものや円筒状のものなど、種々の形状のものを含む概念である。
【0035】
流路形成部材20の粒状体21、22は、上述したように粒径および/または表面性状が異なる部材である。
例えば、粒状体21、22は、表面に親水性の機能を有する粒状の親水部材21と、表面に疎水性の機能を有する粒状の疎水部材22を使用することができるが、詳細については後述する。
【0036】
なお、本明細書において、流路形成部材20を本体部11の収容空間11h内に収容するとは、本体部11内の収容空間11h内に流路形成部材20の粒状体21、22が自由に移動できない状態で収容されている状態を意味しており、本体部11の収容空間11h内に粒状体21、22が敷き詰められたような状態(つまり、本体部11の収容空間11h内に充填された状態)や、敷き詰められていないが、液体が抽出部10の本体部11の収容空間11h内に供給されても粒状体21、22の移動がほぼ制限された状態で収容されている状態を含む概念である。
【0037】
また、流路形成部材20を抽出部10の本体部11の収容空間11h内に収容する方法は、とくに限定されない。例えば、本体部11の収容空間11h内に流路形成部材20の粒状体21、22を収容した状態において、震盪器等で本体部10を振動する。すると、収容空間11h内において、粒状体21、22を最密状態となるように収容することができる。
【0038】
(液体供給部13について)
液体供給部13は、抽出部10内に外部から2液体(被抽出溶液S、抽出溶液E)を供給し得る機能を有する部材である。具体的には、液体供給部13は、外部から供給された2液体S、Eを収容することができる収容空間13hを有しており、この収容空間13h内に収容された2液体S、Eを収容空間13h内から抽出部10に供給することができる構造を有している。
【0039】
図1に示すように、液体供給部13は、両端間に設けられた上板と底板(図1では本体部11の上板10aに相当)と、その両端間に連接された側壁によって形成されている。つまり、この上板と底板と側壁によって囲まれた部分が収容空間13hとなる。また、液体供給部13の側壁には、外部から内部の収容空間13hに向かって液体を供給する管状の液体流入通路13a、13bが連結されている。そして、上板10aが通液性を有しているので、この液体供給部13から抽出部10に液体を供給することができる。
【0040】
なお、収容空間13hの容積を大きくすれば、液体供給部13から抽出部10に液体を供給するまでの時間を長くしたり、抽出部10に供給する液量を液体供給部13で調整したりすることができる。
【0041】
(液体排出部14について)
液体排出部14は、抽出部10内を通液した2液体(被抽出溶液S、抽出溶液E)を抽出部10の外部へ排出する機能を有する部材である。
具体的には、液体排出部14は、供給された液体を内部で保持することができる収容空間14hを有する部材であり、抽出部10内を通液した液を収容空間14h内で保持することができ、収容空間14h内で保持した液体が所定の状態となった後、外部へ排出することができる構造を有している。
【0042】
図1に示すように、液体排出部14は、両端間に設けられた上板と底板(図1では本体部11の底板10bに相当)と、その両端間に連接された側壁によって形成されている。つまり、この上板と底板と側壁によって囲まれた部分が収容空間14hとなる。また、液体排出部14の側壁には、内部の収容空間14hから外部へ向かって液体を排出する管状の液体排出通路14a、14bが連結されている。そして、底板10bが通液性を有しているので、抽出部10から液体排出部14に液体を供給することができる。
【0043】
以上のごとき構成であるので、以下のように液液抽出を行うことができる。
【0044】
なお、2液体(被抽出溶液S、抽出溶液E)は、上述したように、被抽出溶液Sが親水性の場合(以下、単に被抽出溶液Swという)には抽出溶液Eは疎水性の液体(以下、単に抽出溶液Epという)が好ましく、被抽出溶液Sが疎水性の場合(以下、単に被抽出溶液Spという)には抽出溶液Eは親水性の液体(以下、単に抽出溶液Ewという)が好ましい。以下では、2液体のうち、被抽出溶液Sが、希少金属などの被抽出物質を含有する水溶性の液体(被抽出溶液Sw)であり、抽出溶液Eが、被抽出溶液Sと接触した状態で両者間に界面を形成するケロシンを主成分とする灯油(抽出溶液Ep)である場合を説明している。
【0045】
また、流路形成部材20は、上述したように親水部材21および/または疎水部材22を単独または混合したものを使用することができるが、以下では粒状体21と粒状体22を混合したものを代表として説明する。
さらに、2液体の流量は、とくに限定されず、例えば、2液体を略同量となるように通液してもよく、2液体のうち流量が多い液体(以下、主流体という)と、この主流体よりも液量が少ない液体(以下、従流体という)を通液してもよい。
【0046】
まず、液体供給部13の液体流入通路13a、13bから2液体(被抽出溶液Swと抽出溶液Ep)を液体供給部13の収容空間13h内に供給すると、液体供給部13内に供給された2液体Sw、Epは、収容空間13h内において、ある程度混合された状態となる(図1参照)。そして、ある程度混合した状態の2液体Sw、Epを抽出部10に供給する。つまり、外部から供給された2液体は、液体供給部13内である程度混合された状態で、抽出部10の本体部11の上方から下方に向かって流される。
【0047】
ついで、液体供給部13から抽出部10の本体部11内へ供給された2液体Sw、Epは、流路形成部材20を構成する粒状体21、22間に形成された流路10h内を上方から下方に向かって流れる。具体的には、図2または図4に示すように、被抽出溶液Swおよび抽出溶液Epがそれぞれ連続した液体相を形成し、かつ両者が接触する面に界面を形成するようにして流れる。
【0048】
このとき、図2または図4に示すように、流路20hは、その孔径が変化するように形成されている。例えば、流路10hは、狭い流路10h(孔径がW1)から広い流路10h(孔径がW2)となり、再び広い流路10h(孔径がW2)から狭い流路10h(孔径がW1)となる。言い換えれば、流路10hは、その断面積が流路方向に沿って変化するように形成されている。
すると、かかる流路10h内に2液体Sw、Epを通液すれば、流路10h内を流れる2液体Sw、Epが接触して形成される界面IFを拡大縮小させながら通液させることができる(図4参照)。つまり、2液体Sw、Epの界面の面積を変化させながら、抽出部10内を上方から下方に向かって通液させることができるのである。
【0049】
しかも、図4に示すように、流路10hの断面積が流路方向に沿って変化するように形成されているので、各液体内において、界面IF付近の液体層と界面IFから離れた液体層を入れ替えるような流れ、つまり液体内における内部循環流を発生させることができる。言い換えれば、各液体Sw、Ep内において対流CVを発生させながら、流路10h内を流路方向に沿って2液体Sw、Epを流すことができる。
【0050】
そして、抽出部10の本体部11内を通液した2液体Sw、Epは、本体部11の底板10bに形成された本体部11の収容空間11hと、本体部11の下方に設けられた液体排出部14の収容空間14h内を連通する連通孔を介して液体排出部14の収容空間14h内に供給される。液体排出部14の収容空間14h内に供給された2液体Sw、Epは、所定の状態となるまで収容空間14h内で保持された後、液体排出通路14a、14bを通して外部へ排出される。
【0051】
以上のごとく、本実施形態の装置1の抽出部10内に界面を形成し分離する2液体(被抽出溶液Swと抽出溶液Ep)を供給し、供給された2液体Sw、Epを抽出部10内に形成された複数の流路10hに通液するだけで、一の液体から他の液体へ物質を移動させ易くなる。つまり、2液体Sw、Epを本実施形態の装置1の抽出部10内に通液するだけで、両者間における液液抽出を向上させることができる。
【0052】
具体的には、図4に示すように、2液体Sw、Epを流路10hに流すと、(1)両者間に形成される界面IFの面積を拡大縮小させながら流すことができる。すると、両者間の接触面積を向上させることができるから、被抽出溶液Sw中に存在する被抽出物資を抽出溶液Epに移動、つまり抽出させ易くなる。
【0053】
しかも、(2)各液体Sw、Ep内において対流CVを発生させながら流すことができるので、被抽出溶液Swから被抽出物質を抽出溶液Epに抽出するための抽出効率を向上させることができる。
【0054】
かかる現象は、以下のような界面付近傍の被抽出物質の濃度変化に基づくものと推測される。
【0055】
界面近傍に位置する被抽出溶液S中に存在する被抽出物質は、界面を介して抽出溶液Eへ移動する。すると、界面近傍に位置する被抽出溶液S中の被抽出物質の濃度は低くなる。一方、界面近傍に位置する抽出溶液E中には、界面を介して被抽出溶液Sから被抽出物質が移動するので、界面近傍に位置する抽出溶液E中の被抽出物質の濃度が高くなる。すると、被抽出溶液Sから抽出溶液Eへの被抽出物質の移動が抑制される。つまり、抽出効率が低下する。
【0056】
しかし、図4に示すように、各液体Sw、Ep内において対流CVが発生するので、界面近傍に位置する被抽出溶液Swは、界面から離れた場所に位置する被抽出溶液Spと入れ替わる。このため、界面近傍に位置する被抽出溶液Swに存在する被抽出物質は、常に濃度が高い状態に維持される。また、界面近傍に位置する抽出溶液Epでも、同様に界面から離れた場所に位置する抽出溶液Epと入れ替わる。このため、界面近傍に位置する抽出溶液Epに存在する被抽出物質は、常に濃度が低い状態に維持される。
すると、各液体Sw、Ep内において対流CVを発生させることによって、被抽出溶液Sw中に存在する被抽出物質を界面IFを介して抽出溶液Epにより移動させ易くなる。したがって、被抽出溶液Swから被抽出物質を抽出溶液Epに抽出するための抽出効率を向上させることができる。
【0057】
以上のように、本実施形態の装置1の抽出部10内に2液体(被抽出溶液Sと抽出溶液E)を供給し、通液させるだけで、被抽出溶液S中に含有する被抽出物質を抽出溶液Eへ移動を効率よく行うことができる。しかも、一分間に数十〜数百mlの被抽出溶液Sを処理することができる。
したがって、本実施形態の装置1では、効率よくしかも迅速な抽出処理を行うことができる。
【0058】
また、2液体S、Eの界面の面積を大きくするための撹拌部を設ける必要がないので、撹拌部を作動させるための動力も不要となる。
しかも、抽出部10の本体部11内に流路形成部材20を収容するだけの簡単な構造であるにもかかわらず、従来の駆動部を設けた場合の液液抽出装置と同等の抽出機能を発揮させることができる。
【0059】
なお、本体部11の収容空間11h内に収容した流路形成部材20の空隙率はとくに限定されないが、流路形成部材20の空隙率を所定の範囲となるように調整することによって、抽出部10内を通液させる2液体Sw、Epの流速を調整することができる。具体的には、具体的には、2液体Sw、Epの物理的性状や被抽出物質の化学的性状、被抽出溶液Sw中に存在する被抽出物質の濃度等に基づいて、体部11の収容空間11h内に収容した流路形成部材20の空隙率を適宜調整する。すると、高い抽出効率を維持しつつ、最適な流速で2液体Sw、Epを流すことができる。
【0060】
とくに、流路10hは、その体積割合が、抽出部10の本体部11の収容空間11h内に収容した流路形成部材20の体積に対して約30%〜70%となるように形成されていることが好ましい。言い換えれば、本体部11の収容空間11h内に収容した流路形成部材20の空隙率が約30%〜70%となるように、流路形成部材20が本体部11の収容空間11h内に収容されていることが好ましい。かかる空隙率とすれば、2液体Sw、Epを流した際の圧力損失を抑制することができる。例えば、2液体Sw、Epを、数十ml/min〜数百ml/minの流速で流すことができる。
【0061】
なお、本明細書の流路10hが、特許請求の範囲の抽出流路に相当する。
【0062】
(各部の詳細な説明)
つぎに、本実施形態の液液抽出装置1の各部について詳細に説明する。
液体供給部13および液体排出部14を説明する前に、まず、抽出部10の各部について詳細に説明する。
【0063】
(抽出部10詳細な説明)
図1に示すように、抽出部10は、流路形成部材20と、この流路形成部材20を保持するための筒状の本体部11と、を備えている。
【0064】
(本体部11について)
図1に示すように、本体部11は、両端間に設けられた上板10aと底板10bと、その両端間に連接された側壁によって形成された筒状の部材である。そして、この上板10aと底板10bと側壁によって囲まれた本体部11の収容空間11hは、分離プレート10cによって、液液抽出部11aと分散部11bに分離されている。
【0065】
(液液抽出部11aについて)
図1に示すように、液液抽出部11aは、両端に設けられた上板10aと分離プレート10cとその両端間に連接した側壁によって形成されている。そして、液液抽出部11aは、その内部に上板10aと分離プレート10cと側壁によって囲まれた中空な収容空間(本体部11の収容空間11hに相当)を有している。この収容空間には、上述した流路形成部材20が収容されている。つまり、液液抽出部11aは、その内部において抽出部10内の本体部11内に供給された2液体S、Eを通液させながら両液体間で液液抽出を行わせるための領域を有する部材である。
【0066】
(流路形成部材20について)
流路形成部材20は、上述したように粒径および/または表面性状が異なる粒状体21、22を単独または混合したものから構成されたものである。
例えば、粒状体21は、表面に親水性の機能を有する粒状の親水部材21であり、粒状体22は、表面に疎水性の機能を有する粒状の疎水部材22である。
【0067】
(親水部材21と疎水部材22について)
流路形成部材20を構成する親水部材21および/または疎水部材22は、本体部11の液液抽出部11a内において、所定の混合割合となるように収容されている。
【0068】
両粒状体21、22の混合割合について説明する前に、まず、両粒状体21、22について詳細に説明する。
【0069】
(親水部材21)
親水部材21は、その表面に親水性の機能を有する粒状の部材であれば、その材質はとくに限定されない。具体的には、表面に水滴をつけた場合、水滴と表面の接触角が0〜約26度となる性質を有する部材を親水部材21として使用することができる。
【0070】
例えば、親水部材21として、ガラス製のビーズを採用してもよい。主成分がシリカ(Si0)のガラスは、その表面に水酸基を有するので、ガラス表面に水滴を付ければ、水滴中の水分子と表面の水酸基の分子間で水素結合が生じさせることができる。すると、この両分子間における水素結合によって、水滴とガラス表面の接触角がほぼゼロになるので、ガラスビーズ表面を水の薄い膜で覆うように水の薄膜をガラスビーズ表面に形成することができる。
【0071】
なお、親水部材21は、コーティングを行う等の方法でその表面に親水性を付与してもよい。例えば、界面活性剤や親水性樹脂等によってコーティングすれば、親水部材21の本体が十分な親水性を有しなくても、本実施形態の装置1に用いる親水部材21として使用することができる。
【0072】
(疎水部材22)
一方、疎水部材22は、その表面に疎水性の機能を有する粒状の部材であれば、その材質はとくに限定されない。具体的には、表面に水滴をつけた場合、水滴と表面の接触角が約45〜約110度となる性質を有する部材を疎水部材22として使用することができる。
【0073】
例えば、疎水部材22として、プラスチック製やアクリル製のビーズを採用してもよい。アクリルは高分子樹脂の一種であり、その表面に疎水性の高分子側鎖(例えば、高分子の炭化水素など)を有するので、アクリル製のビーズ表面に疎水性の灯油やヘキサンなどの炭化水素系有機溶媒を含む油等を付ければ、油中の疎水性の高分子炭化水素等とアクリル製のビーズ表面の高分子の炭化水素の両者間に所定の結合力(例えば分子間力等)を生じさせることができる。すると、両者間に生じる所定の結合力によって、油をアクリル製のビーズ表面をコーティングするように覆うことができる。一方、アクリル製のビーズ表面に水滴をつけた場合、水滴はアクリル製のビーズ表面で反発するので、略球状の形状が維持される。
【0074】
なお、疎水部材22は、コーティングを行う等の方法でその表面に疎水性を付与してもよい。例えば、アルキルシラン系カップリング剤やグラフト共重合剤等によってコーティングすれば、疎水部材22の本体が十分な疎水性を有しなくても、本実施形態の装置1に用いる疎水部材22として使用することができる。
【0075】
そして、上記のごとき複数の親水部材21と複数の疎水部材22を混合し収容した状態の本体部11の液液抽出部11a内に親水性の被抽出溶液Swと疎水性の抽出溶液Epの混合溶液を通液すれば、被抽出溶液Swは親水部材21の表面に沿って薄膜を形成するが、疎水部材22に対しては非親和性を示す。一方、抽出溶液Epは疎水部材22の表面に沿って薄膜を形成するが、親水部材21に対しては非親和性を示す。
【0076】
すると、図2に示すように、液液抽出部11a内において、親水部材21と疎水部材22との間に形成された流路10h内に上記2液体Sw、Epの混合溶液が流れると、2液体Sw、Epがそれぞれ親水部材21の表面上または疎水部材22の表面上に膜を形成するように流れる。したがって、親水部材21と疎水部材22との間に形成された流路10h内を、2液体Sw、Epが界面IFを形成した状態で流すことができる。
【0077】
具体的には、流路10hには、上述した親水部材21と疎水部材22が接近または隣接することによって形成された部分が存在する。この部分では、流路10hは、親水性の壁と疎水性の壁で囲まれた孔(空隙)となる。
すると、図2に示すように、流路10h内において、かかる部分では、両液体Sw、Ep間に界面を形成させた状態で2液体Sw、Epを流すことができる。なぜなら、2液体Sw、Epを混合した状態で流路10h内に流しても、親水性の被抽出溶液Swは親水部材21の周囲を流れ、疎水性の抽出溶液Epは疎水部材22の周囲を流れるからである。
【0078】
したがって、本体部11の液液抽出部11a内に2液体Sw、Epを流せば、流路10h内において、親水性の被抽出溶液Swを親水部材21の表面に沿って流すことができる。一方、疎水性の抽出溶液Epは、疎水部材22の表面に沿って流すことができる。つまり、図2または図4に示すように、流路10h内を流れる2液体Sw、Epは、上述した挙動を維持しながら流路10h内を流路方向に向かって流れる。言い換えれば、流路10h内において、2液体Sw、Epが両者間で界面IFを形成しつつ、各液体Sw、Epが連続する液体相を形成しながら流すことができる。
【0079】
しかも、本体部11の液液抽出部11a内には、流路形成部材20を構成する複数の粒状体21,22を収容しているので、液液抽出部11a内には、網目状に入り組んだ複雑な状態の流路10hを複数形成することができる。すると、本体部11の液液抽出部11aの上端部から液液抽出部11a内に2液体Sw、Epを供給すれば、網目状に入り組んだ複数の流路10h内を流すことができるので、両液体Sw、Ep間の界面IFをより大きくすることができる。
【0080】
さらに、複数の粒状体21、22によって流路10hを形成するので、上述したように流路10hの断面積の変化(図2または図4ではW1、W2)をより大きくできるし、各液体Sw、Ep内に発生する対流CVをより大きくできる。
しかも、流路形成部材20が複数の粒状体である親水部材21および/または疎水部材22とから構成されているので、親水性の液体Sw、Ewと疎水性の液体Ep、Spを流路10h内に通液すれば、親水性の液体Sw、Ewは親水部材21の表面に沿って流れ、疎水性の液体Ep、Spは疎水部材22の表面に沿って流れるので、流路10h内において、2液体S、E間に界面IFが形成された状態を維持させながら流すことができる。
したがって、2液体S、E間における被抽出物質の抽出効率をより向上させることができる。
【0081】
また、親水部材21と疎水部材22は、その形状や大きさはとくに限定されない。例えば、液液抽出部11a内に粒状体21、22を収容した状態において、隣接または近接する粒状体21、22間に形成される流路10hが占める体積、つまり、液液抽出部11a内に収容した流路形成部材20の体積に対する割合が所定の範囲となるように形成する。言い換えれば、抽出部10の流路形成部材20の空隙率が、所定の範囲となる大きさに親水部材21および/または疎水部材22を形成する。例えば、かかる空隙率が、約30%〜70%となるようにすれば、空隙率が上記範囲となるので、上述したように迅速な抽出処理を行い易くなる。
【0082】
空隙率は、親水部材21や疎水部材22の形状や大きさを適宜調整することによって調整することが可能である。例えば、各粒状体21、22を以下のように調製すれば、液液抽出部11a内に収容した流路形成部材20の空隙率を約30%〜70%となるようにすることができる。
【0083】
図2に示すように、親水部材21と疎水部材22の形状を略球状とした場合、流路10hは、その孔径Wが親水部材21の粒径D1や疎水部材22の粒径D2よりも小さくできる。
より具体的には、親水部材21と疎水部材22の形状を略球状とした場合、その粒径が約3mm程度以上となるように形成するのが好ましく、約3mm〜5mm程度がより好ましい。かかる大きさの粒径とすれば、流路10hの孔径Wを約0.5〜0.8mmとなるように形成することができる(図2参照)。この場合、2液体(被抽出溶液Sと抽出溶液E)を所望の抽出効率を維持しつつ、かつ最適な流速で本体部11の液液抽出部11a内を通液させることができる。
【0084】
例えば、内径が約50mm、軸方向の長さが約100mmの液液抽出部11a内の収容空間内に、粒径が約3mmの略球状の親水部材21と疎水部材22を収容した場合、高い抽出効率(つまり被抽出物資を高いレベルで回収)することができ、しかも2液体S、Eの流速をそれぞれ約120ml/minにできる。
【0085】
なお、親水部材21および/または疎水部材22を略球状に形成した場合、その粒径が約5mmよりも小さくなるように形成すれば、理論上、2液体S、E間における液液抽出効率をさらに向上させることができる。これは、粒径を約5mmよりも小さくすれば、かかる粒状体21、22間に形成される流路10hは、その孔径Wをより狭く(例えば、マイクロチップデバイスに用いられるキャピラリーと同程度)なる。このため、2液体S、Eの界面IFの面積と反応体積との割合(つまり比界面積)をより大きくできる。すると、液液抽出効率をさらに向上させることができる。
【0086】
しかし、流路10hの孔径Wを上記のような極細とすれば、本体部11の液液抽出部11a内に2液体S、Eを供給したときの圧力損失が非常に大きくなり、結果として所望の流速で液体を流すことができない。つまり、上記のような大きさの粒径の場合には、大量の被抽出溶液Sを処理することは現実的に不可能である。
【0087】
一方、粒径を約5mm程度よりも大きくすれば、本体部11の液液抽出部11a内に2液体S、Eを供給したときの圧力損失は小さくできるので、液液抽出部11a内を通液する2液体S、Eの流速をより大きくすることができるが、小さな孔径Wを有する流路10hに比べて両液体S、E間の界面IFが非常に小さくなるので、結果として2液体S、E間における液液抽出効率が低くなる。
【0088】
なお、親水部材21および/または疎水部材22の粒径Dは、2液体S、Eが有するそれぞれの性状によって上記範囲内において適宜選択して使用することができる、のは言うまでもない。
【0089】
また、親水部材21および/または疎水部材22は、その形状が略円筒状のものを採用してもよい。この場合、本体部11の液液抽出部11a内に大きさの異なる微細な孔(空隙)を不規則かつ連続した状態で形成することができる(以下、不規則流路という)(流路10hに相当)。
【0090】
例えば、この不規則流路は、不規則な幅の孔径Wを有する連通孔であって、孔径W1の狭い部分(上述した粒状体21,22が略球状の場合と同等の幅)と、この孔径Wの狭い部分よりもやや広い孔径W2を有する部分が不規則に連続するようにして形成されている(図4参照)。このため、不規則流路内において、2液体S、Eが孔径W1の狭い部分から孔径W2の広い部分に向かって流れた場合、各液体S、E内において大きな対流CVが生じて両液体S、E間の界面IFが波打つ。つまり、この不規則流路の粒径W(つまり不規則流路の断面積)が流路方向に沿って大きく変化した場合、かかる状況下の界面IFは、その面積が拡大縮小するのである。
しかも、不規則流路の粒径Wが変化する際、各液体S、Eにおいて、上述したように大きな対流CVを生じさせることができる。
したがって、不規則流路を本体部11の液液抽出部11a内に形成した場合、両液体S、E間において上述した場合と同等またはそれ以上の効果を奏することができる。
【0091】
例えば、親水部材21および/または疎水部材22の形状を略円筒状とした場合、その軸方向の長さが約10mm以上、半径方向の長さが約3mm程度以上となるように形成するのが好ましく、半径方向の長さが約約3〜5mm程度がより好ましい。
【0092】
なお、親水部材21および/または疎水部材22は、上記のごとき大きさの略球状の部材または略円筒状の部材をそれぞれ別々に採用し、混合したものを採用してもよい、のは言うまでもない。
この場合、異なった形状の親水部材21および/または疎水部材22を本体部11の液液抽出部11a内に収容すれば、親水部材21および/または疎水部材22の形状が略円筒状の部材を採用した場合と同様に不規則流路を本体部11の液液抽出部11a内に形成することができるから、上述した場合と同様の効果を奏する。
【0093】
例えば、親水部材21として粒径が約3mmの略球状の部材を使用し、疎水部材22として軸方向の長さが約3mm、半径方向の長さが約3mmの略円筒状の部材を、内径約約3mm、軸方向の長さが約100mmの本体部11の液液抽出部11a内に収容する。そして、かかる親水部材21と疎水部材22を収容した液液抽出部11aに対して、粘性の低い水溶液を被抽出溶液Swとして使用し、灯油を抽出溶液Epとして使用した場合、所望の抽出効率を維持しつつ、両液体の流速が約120ml/min以下となるように通液させることができる。
【0094】
(混合割合について)
親水部材21と疎水部材22は、その混合体積比が0:100〜75:25となるように混合するのが好ましく、より好ましくは混合体積比が0:100〜60:40となるように混合する。言い換えれば、流路形成部材20を構成する複数の粒状体として親水部材21と疎水部材22の混合する場合、体積比において疎水部材22を少なくとも25%以上含有するように、両粒状体21、22を混合するのが好ましい。疎水部材22を上記値以上となるように含有すれば、液液抽出部11a内のどの位置の流路10hでも2液体S、E間の界面IFが形成される状態をほぼ均一に形成することができる。言い換えれば、液液抽出部11a内に形成された流路10hを効率よく2液体S、Eの液液抽出に活用することができるので、液液抽出の効率をより向上させることができる。
【0095】
なお、両部材を混合する方法は、とくに限定されず、例えばコンテナブレンダー、重力式ブレンダーを使用すれば、両部材をほぼ均一に混ぜ合わすことができる。
【0096】
(流路形成部材20を単独部材で構成した場合について)
上記例では、流路形成部材20を親水部材21と疎水部材22の混合粒状体で構成した場合について説明したが、上述したように流路形成部材20は、親水部材21または疎水部材22を単独で使用した場合について説明する。
【0097】
親水部材21または疎水部材22を単独で使用する場合、通液する液体の性状にかかわらずいずれの性状を有する部材を用いてもよいが、2液体のうち流量が多い液体(主流体)の性状と同じ性状を有する部材(例えば、主流体が親水性の場合には親水部材21、主流体が疎水性の場合には疎水部材22)を用いるのが好ましい。
【0098】
なぜなら、流量の異なる2液体を通液する場合、流路形成部材20の表面に主流体と同じ性状を有する層を形成することができるので、主流体を流路形成部材20に沿って通液させることができる(図5参照)。
一方、主流体よりも液量が少ない液体(従流体)は、その性状が主流体と界面を形成する性状を有するので、流路形成部材20の表層に形成された層(例えば、流路形成部材20が親水部材21の場合には親水性の層)に対して非親和性を示す。つまり、従流体は、流路形成部材20から離れるようにして流路10h内を流れる(図5参照)。しかも、上述したように流路10hは、その流路の断面積が流路方向に沿って変化するように形成されているので、流路10h内に液体を通液した際には上述したように対流CVが形成される(図4参照)。かかる対流CVによって、流路10h内を流れる従流体の流れが切断され不連続な流れとなる。
【0099】
このため、主流体として疎水性の被抽出溶液Sp、従流体として親水性の抽出溶液Ewを使用した場合には、図5(A)に示すように従流体の抽出溶液Ewを主流体の被抽出溶液Sp中に粒状に分散させた状態で流すことができる。一方、主流体として親水性の被抽出溶液Sw、従流体として疎水性の抽出溶液Epを使用した場合には、図5(B)に示すように従流体の抽出溶液Epを主流体の被抽出溶液Sw中に粒状に分散させた状態で流すことができる。
すると、両液体S、Eの接触面積を、両液体S、Eが流路方向に沿って略平行な界面を形成する場合に比べて増加させることができるので、抽出効率をさらに向上させることができる。
【0100】
なお、主流体として疎水性の抽出溶液Ep、従流体として親水性の被抽出溶液Swを使用した場合には、図5(A)に示した場合と同様に疎水部材22を用いれば、従流体の被抽出溶液Swを主流体の抽出溶液Ep中に粒状に分散させた状態で流すことができる。一方、主流体として親水性の抽出溶液Ew、従流体として疎水性の被抽出溶液Spを使用した場合には、図5(B)に示した場合と同様に親水部材21を用いれば、従流体の被抽出溶液Spを主流体の抽出溶液Ew中に粒状に分散させた状態で流すことができる。
【0101】
また、主流体と従流体の流量は、従流体が主流体の流量よりも少なくなるように調整されていれば、とくに限定されず、両液体の混ざり具合等によって適宜選択することができる。具体的には、体積比において、主流体と従流体の流量比が、100:30〜100:90となるように調整するのが好ましく、より好ましくは体積比が100:50〜100:60となるように調整するのが望ましい。体積比において、従流体が30%よりも小さくなると従流体に対する主流体の体積比が大きくなるので、抽出効率が低下する。一方、体積比において、従流体が60%よりも大きくなると流路10h内において粒状に分散させにくくなる。したがって、主流体と従流体は、体積比において、100:30〜100:90となるように調整するのが好ましく、より好ましくは体積比が100:50〜100:60となるように調整して通液させるのが望ましい。
例えば、主流体としてケロシンを主成分とする灯油、従流体として水を使用した場合、体積比において主流体:従流体が2:1となるように流量を調整することができる。
【0102】
(分散部11bについて)
図1に示すように、分散部11bは、両端に設けられた分離プレート10cと底板10bと、その両端間に連接した側壁によって形成されている。そして、分散部11bは、その内部に分離プレート10cと底板10bと側壁によって囲まれた中空な空間12hを有している。この中空な空間12hには、本体部11の液液抽出部11aの収容空間内に収容されている粒状体21、22よりも大きな複数の粒状体30が充填されている。このため、隣接または近接する粒状体30間に形成される連続した孔(空隙)30h(以下、分散連通孔30hという)は、その孔径が液液抽出部11a内に形成された流路10hよりも大きくなるように形成される。具体的には、分散連通孔30hは、その孔径が、その内部に流す2液体S、Eにおいて、両液体S、E間の界面IFを大きくすることよりも、両液体S、Eが界面IFを形成しかつ2相に分離する状態を形成し易い大きさになるように形成されている。
【0103】
この場合、孔径が上記の大きさとなるように形成された分散連通孔30hでは、その内部に液液抽出部11a内を通液させた2液S、Eを流せば、両液体S、Eを孔径の小さな流路10hから孔径の大きな分散連通孔30hに向かって流すこととなる。つまり、狭い流路から広い流路に液体を流す場合と同様に、分散連通孔30h内を流れる2液体S、Eの流速を流路10h内を流れる2液体S、Eの流速に比べて小さくできる。すると、分散連通孔30h内を流れる2液体S、Eの流速が小さくなるので、分散連通孔30h内において、かかる2液体S、Eをある程度分離した状態にすることができる。
【0104】
そして、このある程度分離した状態の2液体S、Eを分散部11bから液体排出部14内の収容空間14h内に供給するので、液体排出部14内の収容空間14h内における2液体S、Eの滞留時間を短くしても、確実に分離した状態で各液体を抽出部10の内部から外部へ排出することができる。つまり、抽出部10の本体部11の液液抽出部11aと液体排出部14の間に分散部11bを設ければ、本実施形態の液液抽出装置1による被抽出溶液Sの処理時間を短縮することができる。
【0105】
とくに、分散連通孔30hを形成する側壁を親和性および疎水性を有する側壁によって形成すれば、分散連通孔30h内を流れる2液S、Eが分離した状態をより維持することができるので好ましい。
【0106】
具体的には、粒状体30として、上述した親水部材21と同様の形状および機能を有する分散親水部材31と上述した疎水部材22と同様の形状および機能を有する分散疎水部材32を所定の混合体積比(例えば、上述した親水部材21と疎水部材22の混合体積比と同様)となるように混合する。
【0107】
例えば、分散親水部材31および分散疎水部材32を略球状にする場合、その粒径が約10mm程度以上となるように形成する。また、分散親水部材31および分散疎水部材32を略円筒状にする場合、軸方向の長さが約10mm以上、半径方向の長さが約10mm以上となるように形成する。
【0108】
(液体供給部13の詳細な説明)
つぎに、液体供給部13について詳細に説明する。
【0109】
液体供給部13は、内部に収容空間13hを有さない構造を採用してもよい。例えば、液体供給部13の液体流入通路13a、13bを抽出部10の本体部11上部に直接連結すれば、被抽出溶液Sと抽出溶液Eを抽出部10内に供給することができる。
【0110】
しかし、液体流入通路13a、13bから抽出部10の本体部11内に被抽出溶液Sと抽出溶液Eをそれぞれ別々に供給する場合、液体供給部13は、内部に収容空間13hを有する構造のものが好ましい。
なぜなら、抽出部10内の流路10h内において2液体S、Eに液液抽出を行わせる場合には、2液体S、Eがほぼ同じ状況で流路10h内に存在する方が好ましいからである。つまり、2液体S、Eを混合した状態で流路10h内に供給すれば、流路10h内において効率よく液液抽出を行わせることができるからである。
【0111】
また、液体供給部13の液体流入通路13a、13bは、その先端部が収容空間13h内に形成されており、その先端部には収容空間13h内に液体を供給する液体供給口が互いに対向するように設けられているのが望ましい。
この場合、図1に示すように、かかる一対の液体供給口からそれぞれ収容空間13hに向かって液体を供給すれば、収容空間13h内の略中央部から下方の領域において、2液体S、Eが混合した状態を形成することができる。そして、2液体S、Eが混合した状態で、2液体S、Eを抽出部10の本体部11内に供給することができるので、上述したように抽出部10内の流路10hにおける液液抽出効率を向上させることができる。
【0112】
しかも、2液体S、Eを抽出部10の本体部11内に供給する前に、液体供給部13の収容空間13h内においてかかる2液体S、Eの混合を行えば、両液体間における界面をある程度大きくできる。つまり、2液体S、Eを抽出部10の本体部11内に供給するよりも前に液体供給部13の収容空間13h内において、予備的に液液抽出(予備抽出)を行うことができるので、より好ましい。
【0113】
なお、2液体S、Eを混合した状態の混合液体を液体供給部13の液体流入通路13a、13bから直接抽出部10の本体部11内に供給してもよいのはいうまでもない。
【0114】
(液体排出部14の詳細な説明)
つぎに、液体排出部14について詳細に説明する。
【0115】
抽出部10内を通液させた2液体S、Eを抽出部10内部から外部へ排出する際には、それぞれ別々に抽出部10の外部へ排出するのが好ましい。
抽出部10の外部へ被抽出溶液Sと抽出溶液Eを、それぞれ別々に排出することができれば、抽出溶液Eの後処理工程の作業効率を向上させることができるからである。つまり、被抽出溶液Sと抽出溶液Eとを別々に抽出部10の内部から外部へ排出することができれば、目的の希少金属等の被抽出物質を含ませた抽出溶液Eから目的の希少金属等の被抽出物質を取り出す抽出溶液後処理工程(例えば、逆抽出工程)において、不純物となる被抽出溶液Sをほとんど含まない状態の抽出溶液Eを調整することができる。
そして、かかる状態の抽出溶液Eを抽出溶液後処理工程に供すれば、抽出溶液Eから目的の希少金属等の被抽出物質を取り出す処理効率をより向上させることができる。
【0116】
とくに、図1に示すように、液体排出部14に、抽出部10内を通液した2液体S、Eを一旦保持することができる収容空間14h(以下、液体分離空間14hという)を設けておくことが好ましい。
この場合、液体排出部14の液体分離空間14h内において、2液体S、Eを両液体S、Eが分離する程度に保持しておくことができる。
【0117】
また、液体排出部14がその内部に液体分離空間14hを有する場合、液体分離空間14h内で2相に分離された被抽出溶液Sと抽出溶液Eをそれぞれ別々に排出し得るように液体排出通路14a、14bが配設されているのが好ましい。
【0118】
例えば、図1または図3に示すように、液体排出部14の側壁下方(図1では上下方向の下側)に液体排出通路14bを設ける。一方、この液体排出通路14bと段違いになるように液体排出部14の側壁上方に液体排出通路14aを設ける。そして、液体排出部14の側壁下方に設けた液体排出通路14bに液体排出部14内と外部とを連通遮断することによって液体排出通路14bから排出される液体の量を調整可能な図示しない排出液調整手段を設ける。
【0119】
この場合、液体排出通路14aおよび液体排出通路14bの排出液調整手段によって排出される2液体S、Eの流量を調整すれば、液体排出部14の液体分離空間14h内に2液体S、Eが滞留する時間を調整することができるので、両液体S、Eを確実に分離することができる。
【0120】
しかも、液体排出通路14aおよび液体排出通路14bから排出される2液体S、Eの流量を調整すれば、液体排出部14の液体分離空間14h内における2相に分離した2液体S、Eの界面の高さ、つまり界面と液体排出部14の内底面の距離を調整することができるので、抽出部10の内部から外部へ排出する2液体S、Eを確実に分離した状態で排出することができる。
【0121】
例えば、界面が高くなりすぎたときには、液体排出通路14aから排出される液体の排出量を少なくして、液体排出通路14bから排出される液体の排出量を多くすれば、界面を下げることができる。逆に、界面が低くなりすぎたときには、液体排出通路14aから排出される液体の排出量を多くして、液体排出通路14bから排出される液体の排出量を少なくすれば、界面を上昇させることができる。
もちろん、液体排出通路14aおよび液体排出通路14bの両方、または、何れか一方の排出液調整手段を閉じてしまって、界面の高さを調整してもよい。
【0122】
(液体排出部14の他の実施形態について)
また、図3(B)に示すように、液体排出部14の上方の側面に配設された液体排出通路15aの排出口近傍には、液体排出部14内を仕切る分離プレート10fを設けてもよい。
具体的には、液体排出部14内を液体分離空間14hと抽出溶液排出空間14hpに分離するように、分離プレート10fが設けられている。
【0123】
なお、この抽出溶液排出空間14hpは、比重の重い被抽出溶液Sとこの被抽出溶液Sよりも比重の軽い抽出溶液Eを使用した場合、液体排出部14内において、被抽出溶液Sと抽出溶液Eを保持した状態において、上方に位置する抽出溶液Eが収容される空間をいう。
【0124】
この分離プレート10fは、その先端と液体排出部14の上面(底板10bの底面に相当する面)との間に、抽出溶液排出空間14hpと液体分離空間14hを連通する連通通路が形成されるように設けられている。このため、かかる連通通路を通して、液体分離空間14hの上方に位置する液体、例えば、被抽出溶液Sが水溶液、抽出溶液Eがケロシンを主成分とする炭化水素系有機溶媒の場合、かかる炭化水素系有機溶媒を抽出溶液排出空間14hpに流入させることができるようになっている。すると、抽出部10内を通液した2液体(水溶液の被抽出溶液Sと炭化水素系有機溶媒の抽出溶液E)を液体排出部14内で保持し両液体を2相に分離した後、両液体を排出するとき、両液体が交じり合うのを確実に防止することができる。
【0125】
(抽出部10内に設けられた各プレート10a、10c、10bについて)
なお、図1に示すように、抽出部10の軸方向に沿って、抽出部10の上方に液体供給部13の混合空間13hを設け、抽出部10の下方に液体排出部14の液体分離空間14hを設けた場合、上板10a、分離プレート10c、底板10bは、いずれも板状の部材であって、その表裏を貫通するように複数の貫通孔が形成される。
【0126】
この貫通孔は、隣接または接した粒状体21、22、30間に形成される空隙よりやや大きく、粒状体21、22、30よりも小さく形成されていることが好ましい。すると、上板10aと分離プレート10cによって粒状体20を保持し、分離プレート10cと底板10bで粒状体30を保持しつつ、確実に抽出部10内に供給された液体のみを通液させることができる。しかし、貫通孔の大きさは、粒状体21、22、30が通り抜けない大きさであれば、とくに限定されない。
【0127】
また、この連通孔の大きさおよび/または数を調整すれば、抽出部10内の液体の流速を調整することも可能である。このため、例えば、粘性の低い液体の場合には、連通孔の大きさを小さく、数も少なくすれば、抽出部10内での滞留時間を増加させることができるので、抽出効率を向上させることが可能となる。
【0128】
なお、上記例では、抽出部10が分散部11bを備えた場合について説明したが、抽出部10の液液抽出部11aだけでも十分に所望の抽出効率を得ることができ、しかも、液体排出部14によって十分に2液体S、Eを2相に分離できれば、必ずしも分散部11bを備えなくてもよい。
【0129】
(液体を供給する方法)
なお、抽出部10内に液体を供給する方法は、液体を液体供給部13の液体流入通路13a、13bを通して抽出部10内に供給することができる方法であればよく、とくに限定されない。
例えば、液体供給部13の液体流入通路13a、13bの基端部に流量調整が可能なポンプなどの流量調整手段を連結すれば、抽出部10内に供給する液体の量を所定の液量となるように調整することができる。
【0130】
また、上記例では、本実施形態の液液抽出装置1の抽出部10内に2液体S、Eをそれぞれ別々に供給する場合について説明したが、両液体を混合した状態で抽出部10内に供給してもよいのはいうまでもない。
【0131】
さらに、上記例では、本実施形態の液液抽出装置1の本体部10の上端部から2液体S、Eを抽出部10内に供給する場合について説明したが、抽出部10の下端部から2液体S、Eを供給してもよい。この場合、抽出部本10内(とくに抽出部10の液液抽出部11a内の流路10h)に空気溜まりが生じても、抽出部10内を下方から上方に向かって2液体S、Eを流すので、ほぼ確実にこのような空気溜まりに溜まった空気を除去することができるから、安定した液液抽出を行うことができる。
なお、抽出部10内を下方から上方に向かって2液体S、Eを供給する場合、抽出部10の軸方向に沿って下方から上方に向かって、液体供給部13、液液抽出部11aそして液体排出部14、の順に各部を配置する。
【0132】
また、上記例では、本実施形態の液液抽出装置1の抽出部10の上端部または下端部から2液体S、Eを抽出部10内に供給する場合、つまり、両液体が平行な流れ(つまり並流)となる場合について説明したが、両液体が互いに対向する流れ(つまり向流)となるように供給してもよい。この場合、2液体S、E間での界面を平行流で流す場合に比べてより大きくすることができるので、液液抽出効率をより向上させることができる。
【0133】
具体的には、本実施形態の液液抽出装置1の抽出部10の上端部から抽出部10内に被抽出溶液Sを供給し、この被抽出溶液Sよりも比重の軽い抽出溶液Eを抽出部10の下端部から供給する。
【0134】
例えば、被抽出溶液Sとして水溶液を抽出部10上端部から供給し、抽出溶液Eとして炭化水素系有機溶媒を抽出部10下端部から供給する。
すると、比重の重い被抽出溶液Sを抽出部10の上方から下方に向かって流すことができ、これとは逆に、この被抽出溶液Sより比重の軽い抽出溶液Eを抽出部10の下方から上方に向かって流すことができるので、両液体S、Eを抽出部10内において向流した向きで流すことができる。
【0135】
なお、この場合には、抽出部10は、その上端部に抽出溶液Eを外部へ排出するための液体排出部14の液体排出通路14aを設け、その下端部に被抽出溶液Sを外部へ排出するための体排出部14の液体排出通路14bを設ける。
【0136】
(抽出部10の配置について)
また、上記例では、図1に示すように、本実施形態の液液抽出装置1の抽出部10を略鉛直方向に立設させた場合について説明したが、抽出部部10内に供給した2液体S、Eが抽出部10内において所望の液液抽出を行うことができる状態であれば、抽出部10をどのように設置してもよい。例えば、抽出部10の軸方向が水平軸と交差するように抽出部10を配置してもよい。
【0137】
(流路形成部材20の他の実施形態)
上記例では、流路形成部材20は、複数の粒状体によって構成された場合について説明したが、その内部に複数の流路10hを網目状に形成することができるものであれば、流路形成部材20を構成する部材はとくに限定されない。例えば、絡み合い構造を有する繊維状部材などを挙げることができる。
流路形成部材20として、かかる繊維状部材を採用した場合、内部に網目状に入り組んだ流路を形成することができる。このため、かかる部材を用いた流路形成部材20を本実施形態の装置1に用いれば、粒状体で構成された流路形成部材20の場合と同様に流路内を流れる2液体S、Eの界面の面積変化をより大きくし、しかもより複雑な対流を発生させることができるので、両者S、E間における抽出効率をより向上させることができる。
【実施例1】
【0138】
以下では、本実施形態の液液抽装置および液液抽出方法の有効性を確認した。
実験では、本実施形態の液液抽装置の抽出部に対して供給する2液体(被抽出溶液および抽出溶液)の流し方および流路形成部材の種類について、以下の評価を実施した。
(1)2液体を並流で流す場合
(2)2液体を向流で流す場合
の実験を行い本発明の装置および方法の有効性を確認した。
【0139】
実験に使用した器具、溶液等は、以下のとおりである。
【0140】
被抽出溶液としては、被抽出物質の希土類金属(イットリウム(Y)、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジウム(Pr),ネオジウム(Nd)、ジスプロシウム(Dy)など)を含有させた水溶液を使用した。
抽出溶液としては、ケロシンを主成分とする灯油を使用した。
【0141】
抽出前後における被抽出溶液中の希土類金属イオンは、ICP―MS(Agilent社製、型番;7700)を用いて測定し定量した。
また、希土類金属の抽出率は、(1-(抽出後の被抽出溶液中の希土類金属イオン濃度)/(抽出前の被抽出溶液中の希土類金属イオン濃度))×100(%)として算出した。
【0142】
実験(1)
抽出部は、内径が50mm、塔長が100〜400mmの範囲の円柱状の充填塔に流路形成部材を充填したものを用いた。なお、この充填塔が、特許請求の範囲の抽出部の本体部に相当する。
流路形成部材として、プラスチック製の円柱状の部材であって、直径が3mm、軸方向の長さが5mmのものを用いた。
【0143】
また、実験(1)では、抽出部の軸方向が鉛直方向となるように配置し、両液体が並行流となるように抽出部の上端から下端に向けて両液体を供給した。両液体を抽出部に供給する際の流速は、被抽出溶液が30ml/min、抽出溶液が60ml/minとなるように調整し、供給した。
【0144】
実験(2)
抽出部は、内径が50mm、塔長が200mmの範囲のものを用いた。
流路形成部材として、プラスチック製の円柱状の部材であって、直径が3mm、軸方向の長さが5mmのものと、粒径が5mmのガラス球を用いた。このプラスチック製の円柱状の部材とガラス球は、体積比で3:1の割合で均一に混合したものを使用した。
【0145】
また実験(2)では、抽出部の軸方向が鉛直方向となるように配置し、被抽出溶液を抽出部の上端から下端に向けて流した。一方、抽出溶液は、抽出部の下端から上端に向けて流した。つまり、両液体が抽出部内において対向する(いわゆる向流となる)ように流した。
両液体を抽出部に供給する際の流速は、被抽出溶液が60ml/min、抽出溶液が120ml/minとなるように調整し、供給した。
【0146】
(結果)
実験(1)および実験(2)のいずれの結果でも、被抽出溶液中に存在していたいずれの希土類金属イオンも99.9%以上の抽出率で抽出溶液に抽出できた。
【0147】
以上の結果から、本発明の装置および方法を使用することによって、被抽出溶液中に存在する希土類金属を高い抽出率(言い換えれば、高い回収率)で、しかも迅速に液液抽出することができることが確認できた。
【実施例2】
【0148】
以下では、本発明の装置および方法の抽出効率に与える影響について確認した。
【0149】
実験に使用した器具、溶液等は、以下のとおりである。
【0150】
被抽出溶液としては、被抽出物質の希土類金属(イッテルビウム(Yb)、テルビウム(Tb)、セリウム(Ce)およびプラセオロジウム(Pr)などのランタノイド系の希土類金属)をケロシンを主成分とする灯油に含有させた溶液(ケロシン溶液)を使用した。
抽出溶液としては、水を使用した。
【0151】
抽出前後における被抽出溶液中の希土類金属イオンおよび抽出後における抽出溶液中の希土類金属イオンは、ICP―MS(Agilent社製、型番;7700)を用いて測定し定量した。
【0152】
希土類金属の抽出率は、分配比で評価した。
分配比は、(抽出後の被抽出溶液中に含まれる希土類金属イオン濃度(mg/g))/(抽出後の抽出溶液中の希土類金属イオン濃度(mg/g))として算出した。
本実験では、抽出溶液として水を、被抽出溶液としてケロシン溶液を使用したので、分配比が小さいほど、抽出効率がよいということを意味している。
【0153】
実験に使用した本実施形態の装置の抽出部は、以下の通りである。
抽出部は、ポリ塩化ビニル製の塔長が約600mmの円柱状の充填塔に流路形成部材を充填したものを用いた。また、抽出部の充填塔として、内径が2.53cmの細いもの(以下、単に細−充填塔という)と、内径が5.16cm太いもの(以下、単に太−充填塔という)を用いた。なお、この充填塔が、特許請求の範囲の抽出部の本体部に相当する。
流路形成部材としては、アクリル樹脂製の円柱状の部材であって、直径が2.6mm、軸方向の長さが3.2mmのもの(以下、小ビーズという)と、ポリプロピレン製の球形の部材であって、直径が5.9mmのもの(以下、大ビーズという)を用いた。
【0154】
上記流路形成部材を用いて以下の抽出部を有する装置(装置A〜C)を作成した。
装置A:細−充填塔に小ビーズを充填した抽出部を有する装置
装置B:細−充填塔に大ビーズを充填した抽出部を有する装置
装置C:太−充填塔に大ビーズを充填した抽出部を有する装置
【0155】
なお、各装置の抽出部における流路形成部材間の空隙の容積(cm)は、各装置の抽出部に上記流路形成部材を充填した状態において、(充填塔の上記流路形成部材の上端に位置する部分から上記流路形成部材の下端が位置する部分までの内容積)−(充填したビーズの合計体積)として算出した。
【0156】
実験では、抽出部の軸方向が鉛直方向となるように配置し、両液体が並行流となるように抽出部の上端から下端に向けて両液体を供給した。両液体を抽出部に供給する際の流速は、被抽出溶液(ケロシン溶液)が60ml/min、抽出溶液(水)が30ml/minとなるように調整し、供給した。
【0157】
各装置の抽出溶液の滞留時間(つまり、抽出部の上端から下端に向けて両液体を供給した際の水が抽出部の上端から下端に到達するまでに要した時間)は、
装置Aの水の滞留時間が1.5min、
装置Bの水の滞留時間が1.8min、
装置Cの水の滞留時間が5.6min、
であった。
【0158】
なお、滞留時間(min)は、(流路形成部材間の空隙の容積(cm))/(流量(ml/min))として算出した。
【0159】
両液体を上記のごとき並行流となるように装置の抽出部の上端から下端に向けて通液した際、抽出溶液が液滴状となりながら通液することが確認できた。かかる液滴状の抽出溶液(水)(以下、単に滴状抽出溶液という)の粒子径を、デジタルカメラ(Panasonic社製、型番;DMC−TZ10)を用いて測定した。なお、適状抽出溶液の粒子径の測定は、充填塔の軸方向に平行にスケールを配設して、かかるスケールのメモリと上記2液体が通液する状態を、充填塔の軸方向に対して略直交する方向からデジタルカメラを用いて撮影した。撮影された写真から各滴状抽出溶液の粒子径を見積もった。
そして、得られた各50コの滴状抽出溶液(水)の粒子径の値を平均して、各装置の抽出部を通液した滴状抽出溶液(水)の粒子径とした。
【0160】
各装置の抽出部を通液した滴状抽出溶液(水)の粒子径は、
装置Aの抽出部を通液した滴状抽出溶液(水)の粒子径が1.4mm、
装置Bの抽出部を通液した滴状抽出溶液(水)の粒子径が4.9mm、
装置Cの抽出部を通液した滴状抽出溶液(水)の粒子径が5.0mm、
であった。
【0161】
各装置の抽出溶液(水)と被抽出溶液(ケロシン溶液)の接触面積は、各装置の抽出部を通液する際の水の粒子径と各装置の抽出溶液の滞留時間から以下のように算出した。
【0162】
(装置Aの抽出溶液(水)と被抽出溶液(ケロシン溶液)の接触面積)
装置Aの抽出部を通液した滴状抽出溶液(水)の粒子径は、1.4mmであった。そこで、装置Aの滴状抽出溶液(水)の体積を0.0014cm、表面積を0.059cmと算出した。
装置Aの抽出部に滞留する抽出溶液(水)の液量は、(滞留時間1.5min)×(抽出溶液(水)の流量30ml/min)から45mlと算出した。
【0163】
したがって、装置Aの抽出部の抽出溶液(水)と被抽出溶液(ケロシン溶液)の接触面積は、
まず、装置Aの抽出部に滞留する抽出溶液(水)の液量中に存在するに滴状抽出溶液(水)の個数を、((装置Aの抽出部に滞留する抽出溶液(水)の液量45ml)/(装置Aの抽出部を通液した滴状抽出溶液(水)の体積0.0014cm))から算出した。ついで、かかる値に、(装置Aの抽出部を通液した滴状抽出溶液(水)の表面積0.059cmを乗じることによって、上記接触面積を算出した(約1900cm(1896cm))。
【0164】
(装置Bの抽出溶液(水)と被抽出溶液(ケロシン溶液)の接触面積)
装置Bの抽出部を通液した滴状抽出溶液(水)の粒子径は、4.9mmであった。そこで、装置Bの滴状抽出溶液(水)の体積を0.060cm、表面積を0.74cmと算出した。
装置Bの抽出部に滞留する抽出溶液(水)の液量は、(滞留時間1.8min)×(抽出溶液(水)の流量30ml/min)から54mlと算出した。
【0165】
したがって、装置Bの抽出部の抽出溶液(水)と被抽出溶液(ケロシン溶液)の接触面積は、
まず、装置Bの抽出部に滞留する抽出溶液(水)の液量中に存在するに滴状抽出溶液(水)の個数は、((装置Bの抽出部に滞留する抽出溶液(水)の液量45ml)/(装置Bの抽出部を通液した滴状抽出溶液(水)の体積0.060cm))として算出した。ついで、かかる値に、(装置Bの抽出部を通液した滴状抽出溶液(水)の表面積0.74cmを乗じることによって、上記接触面積を算出した(約700cm(666cm))。
【0166】
(装置Cの抽出溶液(水)と被抽出溶液(ケロシン溶液)の接触面積)
装置Cの抽出部を通液した滴状抽出溶液(水)の粒子径は、5.0mmであった。そこで、装置Cの滴状抽出溶液(水)の体積を0.067cm、表面積を0.80cmと算出した。
装置Cの抽出部に滞留する抽出溶液(水)の液量は、(滞留時間5.6min)×(抽出溶液(水)の流量30ml/min)から168mlと算出した。
【0167】
したがって、装置Cの抽出部の抽出溶液(水)と被抽出溶液(ケロシン溶液)の接触面積は、
まず、装置Cの抽出部に滞留する抽出溶液(水)の液量中に存在するに滴状抽出溶液(水)の個数を、(装置Cの抽出部に滞留する抽出溶液(水)の液量168ml)/(装置Cの抽出部を通液した滴状抽出溶液(水)の体積0.067cm)から算出した。ついで、かかる値に、(装置Cの抽出部を通液した滴状抽出溶液(水)の表面積0.80cmを乗じることによって、上記接触面積を算出した(約2000cm(2005cm))。
【0168】
(結果)
結果を図6に示した。
図6は、希土類金属の分配比と、抽出溶液(水)と被抽出溶液(ケロシン溶液)の接触面積の関係を示した図である。
図6の縦軸は、希土類金属の分配比(Distribution Ratio)を、横軸は、装置を通液する際の抽出溶液(水)と被抽出溶液(ケロシン溶液)の接触面積(cm)をそれぞれ示している。
なお、イッテルビウム(Yb)、テルビウム(Tb)、セリウム(Ce)およびプラセオロジウム(Pr)の希土類金属を評価対象とした。
図6に示すように、装置を通液する際の抽出溶液(水)と被抽出溶液(ケロシン溶液)の接触面積(cm)の増加に伴って各希土類金属の分配比が低下(つまり各希土類金属の回収率が増加)することが確認できた。とくに、セリウム(Ce)およびプラセオロジウム(Pr)の回収率は、上記接触面積を約1900cmから約2000cmにすることによって急激に増加することが確認できた。
【0169】
なお、上記接触面積を約700cm、約1000cm、約2000cmとした際のイッテルビウム(Yb)、テルビウム(Tb)、セリウム(Ce)、およびプラセオロジウム(Pr)の各希土類金属の分配比と回収率は、それぞれYb(分配比10、3.17、2.26;回収率9.1%、23.9%、30.6%)、Tb(分配比2.56,0.116,0.0842;回収率28.1%、89.6%、92.2%)、Pr(分配比0.627、0.03、0.0137;回収率61.4%、97.1%、98.6%)、Ce(分配比0.908、0.0455、0.0141;回収率52.4%、95.6%、98.6%)であった。
【0170】
以上の結果から、本発明の装置および方法を用いて抽出溶液と被抽出溶液の接触面積(cm)を調整することによって、被抽出溶液中に存在する希少金属である希土類金属の抽出状況を制御することが可能であることが確認できた。
例えば、本装置を用いて抽出溶液として水を、被抽出溶液としてケロシン溶液を使用して、両液体の接触面積(cm)を約700cm以上とすれば、被抽出溶液(ケロシン溶液)中から選択的にセリウム(Ce)とプラセオロジウム(Pr)を抽出溶液(水)中に抽出できることが確認できた。つまり、希土類金属のセリウム(Ce)やプラセオロジウム(Pr)を同じような性質を有するイッテルビウム(Yb)やテルビウム(Tb)が存在する被抽出溶液から選択的に抽出することができることが確認できた。
一方、上記条件下、両液体の接触面積(cm)を約1900cm以上とすれば、テルビウム(Tb)を選択的に高い回収率(約89%以上)で抽出することができることが確認できた。
したがって、本装置を用いれば、同じような性質を有するランタノイド系の希土類金属が複数存在する被抽出溶液から目的のランタノイド系の希土類金属を選択的に抽出可能であることが確認できた。
【0171】
また、上記被抽出溶液中に存在するセリウム(Ce)およびプラセオロジウム(Pr)を高い回収率(98.6%以上)で抽出できた際の抽出時間は、5.6min(上記接触面積で約2000mに相当)であった。一方、上記被抽出溶液中に存在するイッテルビウム(Yb)を高い回収率(約89%以上)で抽出できた際の抽出時間は、1.5min(上記接触面積で約1900mに相当)であった。つまり、本装置を用いれば、上記接触面積を制御することによって、目的のランタノイド系の希土類金属の抽出作業の効率性を向上させることも可能であることが確認できた。なお、抽出時間は、上記接触面積を所定の値となるように調製した装置における抽出溶液(水)の滞留時間とした。
【産業上の利用可能性】
【0172】
本発明の液液抽出装置および液液抽出方法は、希土類金属や、レアメタルやレアアースなどの希少な金属などを含有する被抽出溶液から抽出溶液を用いて液液抽出する装置および方法として適している。
【符号の説明】
【0173】
1 液液抽出装置
10 抽出部
10h 流路
11 本体部
11a 液液抽出部
12 分散部
13 液体供給部
14 液体排出部
20 流路形成部材
21 親水部材
22 疎水部材
S 被抽出溶液
E 抽出溶液
図1
図2
図3
図4
図5
図6