【実施例】
【0060】
方法
共有結合的架橋ポリマーネットワークの調製:
特に明記しない限り、以下のプロトコールを、全ての素材に用いた。架橋剤として、ジクミルペルオキシド(DCP)を用いた。DCPは、加熱すると分解され、次々と水素がポリマー主鎖から抽出され、アルコキシドラジカルを形成し、ポリマーラジカルを形成する。2つのポリマーラジカルの組合せによって架橋される。最初に、100gのポリマーを、ツインスクリュー押出機Prism Lab、16mm(Thermo Scientific, USA)にて2質量%のDCPと混合した。最初は、DCPをエタノールに溶解して、ポリマー顆粒と適切に混合しつつ、スクリューの回転速度を50rpmとして150℃で押出を行った。これらのパラメーターは、使用するポリマーのタイプに応じて変更してもよい。これらの押し出された組成物は、カッターにて小さなペレットに切断し、再度同じ条件で押し出してポリマーとDCPの配合物の均一混合を得た。配合物の場合には、同じ手順を用いた。PEMAGMA、PEAEMA、PEVA、PCL等の純粋な単一ポリマーを用いて種々の製剤を調製した。また、これらのポリマーの配合物は、PCLを用いて、両ポリマーが74/24、49/49及び24/74の割合となるように調製した。単一ポリマーネットワークにおいて、架橋密度と、その結果としての形状記憶特性に対する架橋剤の濃度効果を試験するために、DCP濃度を2%、1.5%及び1%として変化させた。配合物の場合にはDCP濃度を2%に保ちつつ、ポリマーの配合比率だけを変更した。
【0061】
共有結合的架橋ネットワークフィルムの調製:
共有結合的架橋ポリマーネットワークは、押出によって調製された組成物と共に、温度開始剤としてDCPを用いた温度誘導フリーラジカル架橋反応によって合成した。この目的のために、ポリマー/DCP配合物の顆粒を、圧縮造型機(type 200 E, Dr. Collin, Ebersberg, Germany)にて約1mm厚のフィルムに圧縮成形した。(溶融のために)110℃で5分間の待ち時間の後に、25分間90barの圧力を維持しつつ、温度を200℃に上昇させることによって架橋反応を発生させた。PCL/DCP及び他のポリマーを含むその配合物の場合には、加えられる圧力は、約120barよりも更に高くした。
【0062】
プログラミング及び作動サイクル:
温度-記憶作動能力の定量化は、温度チャンバー及び200Nロードセルを備えているZwickZ1.0装置上で、標準サンプル形状(ISO 527-2/1BB)を用いた周期的熱機械的引張試験によって実施した。実験は、初期の骨格形成モジュール(プログラミングと称する)と、その後の可逆的作動サイクルからなっている。プログラムモジュールにおいて、サンプルは、T
progにおいてε
sspまで5mm・min
-1の速度で引っ張り、5分間平衡させた。一定の歪下おいてT
lowへの冷却と10分間の平衡化時間の後に、応力を加えない条件下でサンプルをT
sepに再加熱し、形状Aとした。可逆的作動サイクルは、T
lowに冷却するステップと、10分間の待機ステップと、T
sepに加熱ステップと、別の10分間の待機ステップからなる。加熱及び冷却速度は、1K・min
-1、長期実験では5K・min
-1であった。T
sepを変化させた実験において、最も低いT
sepから始めるプログラムモジュール及び作動サイクルを実施した。その後、T
sepを上昇させて、5分間の待機後、次の作動サイクルを実施した。
【0063】
rTME曲げ実験:
cPCL試験片のプログラミングは、ウォーターバス(T
prog = 90℃)を用いて完全なアモルファス状態において、初めは直線であったサンプルを180度に曲げることによって実現した。その後、変形したサンプルをヘアピン様の形状に固定するために5℃のウォーターバスに入れた。周期的可逆的形状変化は、T
high = 50℃のウォーターバス及びT
low = 5℃のウォーターバスにプログラムされたサンプルを反復して曝露させることによって実現した。可逆的形状変化を、サイクル毎にカメラで一枚の写真に記録した。曲げ実験でのrbSMEの定量化は、以下の方程式により計算した曲げ角度Δθにおける可逆的変化を基礎とした:
Δθ=θ(T
high)-θ(T
low)
θ(T
high)は、50℃で得られる角度であり、θ(T
low)は、5℃で観察される角度である。
【0064】
微小構造面を有するcPEVAフィルムの調製:
Elvax 460をデュポン社から購入した。これは、18%酢酸ビニルコモノマーを含有している。初めに、98質量%のElvax 460及び2質量%のジクミルパーオキサイド(DCP)を含有するフィルムを溶液流延法によって作成した。6gのElvax 460と1.2gのジクミルパーオキサイドを80℃で50mlのトルエンに溶解させた。得られた溶液をペトリ皿に注いで溶液流延法を実行した。溶媒が完全に蒸発した後にElvaxフィルムが得られた。マイクロ構造のcPEVA表面の調製の模式図を
図24aに示している。Elvax/DCPフィルムを、140℃10分間、2kg力で、PDMSモールドの微小構造面(高さ(H)10μm及びの直径(D)10μmの円筒形孔のアレイ)に設置した。そして、温度を220℃に上昇させて30分間維持し、フィルムの完全な架橋を確実した。最後に、温度を低下させて室温にした。得られたcPEVAフィルムをPDMSモールドから剥がした。微小構造cPEVAサンプルは、70℃での垂直圧縮によってプログラムして、0℃で固定した。分離温度T
sepを50℃、60℃、70℃及び80℃にセットした一方で、低温T
lowは10℃にセットした(
図24 bを参照)。各分離温度T
sepのために、3回の可逆性サイクルを、次のより高い分離温度へ上昇する前に実行した。種々の温度における一つの円筒状ピラーの高さの変化を、ACモードのAFM実験によって調査した。
【0065】
示差走査熱量測定(DSC):
純粋なポリマー及びそれらの配合物の温度の挙動を、示差走査熱量測定によって調査した。DSC測定値は、カロリメーター(DSC 204, Netzsch, Selb, Germany)にて実行した。選択加熱範囲は、20K・min
-1の加熱率で、-100℃から100℃とした。初めに、サンプルを室温から-100℃に冷却して、測定を開始した(加熱-冷却-加熱のサイクル)。第一加熱を実行してサンプルの温度履歴を消去した。溶融後、同じサンプルを窒素流下で冷却して再加熱し、構造の変化を評価した。そして、第二加熱工程を同じ加熱率で実行した。溶融及びガラス転移温度の値をこの第二加熱曲線から取得して、結晶化温度を冷却曲線から決定した。
【0066】
WAXS測定:
WAXS測定は、Bruker AXS社(Karlsruhe, Germany)の二次元Hi-Star検出器(105μmのピクセルサイズ)を有するX線回折システムBruker D8 Discoverを使用して実行した。X線発生装置は、銅アノード上で40kVの電圧及び40mAの電流にて作動させた。Cu-Kα放射線(0.154nm波長)を生じさせるグラファイトモノクロメーターと、0.8mmの開口部を有する3つのピンホールコリメーターを用いた。サンプルと検出器との間の距離を150mmとし、コランダムスタンダードを用いて較正した。TMCPの間、一定のステージでのin situ測定は、注文製造した延伸デバイス、加熱銃及び冷窒素流を用いて、散乱パターン当たり5分の露出時間で実行した。
【0067】
SAXS測定:
小角X線散乱(SAXS)を、二次元VANTEC-2000検出器を使用するBruker AXS Nanostar回折計にて実行した。検出器に対する距離サンプルを1070mm、波長を0.154nm、ビームサイズを400mとした。2D散乱パターンは、s
3軸(変形方向)に沿った10度幅カイ範囲超のバックグラウンドの減算後に積分した。離散的ピークが観察され、一次元曲線I対s
3が導かれた。区間長は、L = 1/s
Lでのローレンツ修正(I(s)→s
2I(s))後、ピークの最大の位置から決定され、そして、T
sep及びT
lowの可逆性サイクルでの測定値からの平均としてもたらされた。2D-パターンを以下の通りに処理した:露出時間及びサンプル吸収に関するバックグラウンド減算及び補正の後に、無効なピクセル(例えばビームストップ)をマスクした。パターンを回転させて、垂直方向にそれらの繊維軸とマッチさせた。繊維対称パターンが一致して(4つの象限対称)、中央点を満たした。このパターンを、擬似カラーとして関心のある領域(〜0.4nm
-1)に表している。更に、コード分布関数(CDF)を、構造情報の抽出のために算出した。ここで、パターンを繊維平面(s
1,
2 s
3)に投影して、干渉関数を算出した。フーリエ変換によって、CDFを取得し、実空間(r1,2 r3)におけるナノ構造とドメインサイズ及び距離を表した。
【0068】
原子間力顕微鏡(AFM)実験:
微小構造cPEVAのrTMEの定量化のために、表面構造を、ACモードのMFP-三次元AFM(Asylum Research)にて解析した。温度は、ペルチェ素子を備えるEnvironmental Controller(Asylum Research)にて制御した。加熱冷却速度は、10℃/minとして、スキャン前にサンプルを各温度で10分間維持した。ACモードで走査した高画像のために、約150KHzの典型的な駆動周波数を有するシリコンカンチレバー(Olympus OMCL AC200TS-R3)を使用した。先端の半径は、7nmとした。先端の後方及びサイドの角度は、それぞれ、35度及び18度である。典型的なスキャン速度を0.3Hzとした。接触モードでのくぼみ実験のために、約300KHzの典型的な駆動周波数を有するシリコンカンチレバー(Olympus OMCL AC160TS-R3)を用いた。先端の半径は、約9nmとした。先端の後方及びサイドの角度は、それぞれ、35度及び15度である。スキャン速度は、0.2Hzである。力の距離は、5μmである。rTMEは、変形固定効率Q
efと可逆的圧縮率又は曲げ率ε'
revを決定することによって定量化した。Q
efは、分離温度T
sepでの形状Aのサンプル圧縮率(ε
A)とプログラムされた圧縮率又は曲げ率(ε
prog)との比率(Q
ef = ε
A/ε
prog)である。ε'
revは、低温T
lowでの形状Bと分離温度での形状Aのサンプル高の差と形状Aの高さとの比率、又はそれらの角度の比率(ε'
rev = (H
A-H
B)/H
A又はε'
rev =(θ
A-θ
B)/θ
A)に由来する。
【0069】
ポリマー
共有結合的架橋ポリ[エチレン-コ-(酢酸ビニル)](cPEVA)
共有結合的架橋ポリ[エチレン-コ-(酢酸ビニル)](cPEVA)を、この実施例において基礎となる素材として使用した。これは、結晶化可能なポリエチレンPEセグメント(T
trans = T
m)を備えている。酢酸ビニルVAの反復単位は、PE結晶子の広範囲の溶融転移に関与する。加えて、関連するアモルファス相は、骨格の弾性変形能に関与する。共有結合的架橋は、プログラムの間、ε
sspへの伸長に関してT
progでの形態安定性をもたらし、このようにしてアクチュエーター及び骨格形成PEドメインの配向を可能にする。
【0070】
モノマー比率を変化させたcPEVAsは、110℃及び50rpmのツインスクリュー押し出し機(EuroPrismLab, Thermo Fisher Scientific)において、(100 - x)gのポリ[エチレン-コ-(酢酸ビニル)](酢酸ビニルの含有量:10質量%(Greenflex ML30, Polimeri Europa, cPEVA10)、20質量%(Elvax460, DuPont, cPEVA20)、31質量%(EVAX3175, DuPont, cPEVA31)又は35質量%(EVAX150, DuPont, cPEVA35))とx(x = 0、0.5、1.0、2.0、5.0)gのジクミルパーオキサイド(Sigma-Aldrich)とを混合することによって作成した。配合物を、圧縮成形して1mm厚のフィルムにして、次に、25分間、200℃及び20barにて架橋した。
【0071】
共有結合的架橋ポリエチレン(cPE)(比較の実験)
架橋ポリエチレンcPEd20は、98gの低密度ポリエチレン(Lupolen 1800H、Lyondel)と、2gのジクミルパーオキサイドを混合することによって作成した。他の条件、cPEVAと同じにした。
【0072】
共有結合的架橋ブロック-コポリマー(cPCLBA)
cPCLBAは、ポリ(ε-カプロラクトン)とポリ(アクリル酸ブチル)の共有結合的ブロックコポリマーネットワークである。それを、72時間80℃で、60.4質量%のアクリル酸n-ブチル(Sigma-Aldrich)及び0.8質量%の2,2'-アゾイソブチロニトリルと共にポリ(ε-カプロラクトン)ジイソシアナトエチルジメタクリレート(38.8質量%)の熱誘導共重合によって合成した。ポリ(ε-カプロラクトン)ジイソシアナトエチルジメタクリレートは、Kumar UN, Kratz K, Wagermaier W, Behl M, Lendlein A (2010). J. Mater. Chem. 20(17):3404-3415に記載の手順に従って、2-イソシアナトエチルメタクリル酸エステルとポリ(ε-カプロラクトン)(Mn 8,300 g・mol
-1)との反応から取得した。cPCLBAは、-63℃でT
g,
mixをもたらし、5から60℃の範囲においてピークが50℃のΔT
mをもたらした。
【0073】
共有結合的架橋ブロック-コポリマー(cPCLPCHMA)
cPCLCHMAは、85質量%セグメントのポリ(ε-カプロラクトン)と15質量%セグメントのポリメタクリル酸シクロヘキシルとの共有結合的ブロックコポリマーネットワークである(PCL(85)PCHMA(15))。それを、cPCLBAでの記載の通り、ポリ(ε-カプロラクトン)ジイソシアナトエチルジメタクリレートとシクロヘキシルメタクリレートとの共重合によって合成した。
【0074】
共有結合的架橋ポリ[エチレン-コ-(アクリル酸エステル)-コ-(無水マレイン酸)](cPEAEMA)
ポリ[エチレン-コ-(アクリル酸エステル)-コ-(無水マレイン酸)](PEAEMA)(Lotader(登録商標)5500)は、77.2質量%のエチレン、20質量%のアクリル酸エステル及び2.8質量%の無水マレイン酸を含むランダムターポリマーである。エチレンのコポリマーとして、他のエチレンコポリマーと適合性がある一方で、アクリル酸エステルは柔らかさ、極性及び処理中の高い熱安定性をもたらし、溶融温度は約80℃であり、密度は0.941g・cm
-3となる。PEAEMAの反応基は、多能な接着特性を極性及び無極性基質並びに溶融ポリマーに導く無水マレイン酸である。PEAEMAは、2質量%のジクミルパーオキサイド(DCP)を使用して架橋させた。
【0075】
共有結合的架橋ポリ[エチレン-コ-(アクリル酸メチル)-コ-(メタクリル酸グリシジル)](cPEMAGMA)
ポリ[エチレン-コ-(アクリル酸メチル)-コ-(メタクリル酸グリシジル)](PEMAGMA)(Lotader(登録商標)AX8900)は、約68質量%のPEを有するランダムターポリマーであるが、アクリル酸メチルの含有量は24質量%である。ここで、反応基は、8質量%のメタクリル酸グリシジル(GMA)である。Lotader(登録商標)AX8900の溶融温度は約65℃であるが、密度はLotader(登録商標)5500と類似する。PEMAGMAは、2質量%のジクミルパーオキサイド(DCP)を使用して架橋させた。
【0076】
ポリ[エチレン-コ-オクテン]とHDPEの共有結合的架橋配合物(cPEbEOC)
ポリ[エチレン-コ-オクテン](cPEOC)は、エチレンとオクテンのランダムコポリマーである。85質量%の高密度ポリエチレン(HDPE)と15質量%のcPEOCの配合物は、1質量%又は2質量%のジクミルパーオキサイド(cHPEbEOC15d10、cHPEbEOC15d20)を用いて架橋させた。
【0077】
共有結合的架橋ポリ(ε-カプロラクトン)(cPCL)
(溶出液としてクロロホルムを使用したゲルパーミエーションクロマトグラフィーによって決定した)多分散度が1.73であり、数平均分子量が41000g・mol
-1のポリ(ε-カプロラクトン)(PCL)を、Perstorp Holding ABから購入した(商標CAPA 6800(登録商標), Perstorp, Sweden)。純度98%のジクミルパーオキサイド(DCP)をシグマアルドリッチ(Saint Louis, MO, USA)から取得し、エタノール(96%)をBerkel AHK(Berlin, Germany)から入手した。cPCLは、二段階の手順にて作成した。初めに、98gのPCLポリマー顆粒を、エタノールに溶解した2gのDCPで適切にコートした。乾燥後、DCPコートPCLを、110℃及び50rpmの回転速度でツインスクリュー押し出し機モデルEuro Prism Lab 16 mm(Thermo Fisher Scientific Inc., Waltham, MA, USA)にて混合した。第二ステップにおいて、作成されたPCL-DCP配合物を、110℃での圧縮造型機(type 200E、Dr. Collin, Ebersberg, Germany)を介して1mm厚の2Dフィルムに圧縮成形して、次に、25分間200℃及び120barで架橋させた。
【0078】
結果
1. 共有結合的架橋ポリ[エチレン-コ-(酢酸ビニル)](cPEVA)
図3bの上側プロットは、約25℃(T
m,
onset)から約90℃(T
m.
offset)にわたる広範囲な溶融転移を有するcPEVA20d20のDSCダイヤグラムを示している。T
sepは、ジオメトリー決定する結晶化可能なPEドメインと作動ドメインとを分ける。温度記憶は、分離温度T
sepが40から80℃の範囲内で選択されたときにこのポリマーに対して観察された。T
sepでの結晶化度の指標としてcPEVA20d20の第一DSC加熱曲線の各正規化積分値を
図8に示している。
【0079】
プログラムサイクルにおいて、アモルファスcPEVAサンプルを、ε
ssp =150%の伸長率、T
prog = 90℃で変形させ、応力を維持した状態でT
low = 25℃に冷却し、T
sep =75℃に加熱した。
図3aは、このプログラムサイクルの間の種々の温度でのcPEVAの分子的構造を概略的に示している。T
progにおいて、ポリマーは、ゴム様弾性状態にある。ポリマー鎖は、ドット●の記号(
図3a、右側)で表す共有結合的架橋によって相互接続する。応力下でT
lowに冷却した後に、全てのPEドメインが結晶化する(
図3a、左側)。T
sepにおいて、外観は、内部骨格形成ドメインSDの直接の結晶化によって決定されるが、作動ドメインADは溶融している(
図3a、中央)。可逆的形状変化は、T
lowとT
sepとの間の作動ドメインADにおける配向ポリエチレンセグメントの結晶化/溶融によってポリマー中で実現する。
【0080】
cPEVAアクチュエーターをT
sepまで加熱して、応力を加えない条件下でそれをT
lowまで冷却することによって、アクチュエーターが形状Bと形状Aとの間で可逆的にその形状をシフトさせる。cPEVA(2質量%のジクミル(dimucyl)ペルオキシドによって架橋させた20質量%のVAを有するcPEVA20d20)の代表的な作動サイクルのDSC温度記録を
図3b(中央)に示している。T
sepに加熱すると、サンプルが完全に溶解すると得られるピーク最大値と比較して著しく低い、ピーク最大値を有する溶融ピークを観察することができる(参照:
図3b、上側プロット)。cPEVA20d20サンプルにおいて、DSCから決定される通り、PE結晶化度の約1/3は、骨格形成ドメインSDに位置しており、2/3は、ドメインADとして作用する。これは、この素材における最適なバランスであるように思われる。
【0081】
図3bの下側の図は、第一可逆的作動サイクル間の温度Tに応じた伸長を示している。プログラムサイクルによって得られる形状Aは、T
sepにおいて61.3%の伸長率ε
Aを有する。T
lowへの冷却によって約73.5%のε
Bに対応する形状Bとなる。T
sepへの加熱は、再びε
Aを回復する。
【0082】
形状A(ε
A = 61.3%)と形状B(ε
B = 73.5%)との間の作動は、作動温度T
act(A→B) = 59±1℃とT
act(B→A) = 69±1℃によって特徴づけられる。2つのT
actは、T
sep = 75℃とT
low = 25℃との間での冷却及び加熱の間に得られる結晶化温度(T
c = 55±3℃)及び溶融温度(T
m = 68±3℃)に対応する。
【0083】
cPEVA(80mm x 20mm x 0.9mm; cPEVA20d20)のリボンを、T
prog = 90℃において蛇腹形状に折り畳み、T
low = 25℃に冷却して、T
sepへ加熱した(T
sepは変化させた)。このポリマーは、際立たせるためにそのエッジ部分を青色で染色した。T
low = 25℃に冷却して種々のT
sepに加熱すると、蛇腹形状は、
図4に示すように、収縮した蛇腹形状(形状B)と拡張した蛇腹形状(形状A)との間で可逆的にシフトした。ここで、プログラムされたリボンのT
actと同様に作動の程度は、単にT
sepを変化させるだけで、系統的に調整することができる。
【0084】
cPEVAの温度記憶作動能力を、10及び20質量%の酢酸ビニル(cPEVA10d20及びcPEVA20d20)を含む組成物を用いて、ΔT
m内のT
sepのバリエーションによって試験した。プログラムパラメーターは、T
prog = 90℃及びT
low = 25℃であった。時間に応じた相対的可逆的伸長率ε'
revに対するVA含有量の影響は、
図5a(上部: cPEVA10d20、下部: cPEVA20d20)に示している。VA含有量がより高いと、T
sepを変えることができる範囲が広がる。明白な双方向性TMEが、60から90℃の間(cPEVA10d20)と40から80℃の間(cPEVA20d20)のT
sepに関して観察することができた。相対的可逆的伸長率ε'
revは、可逆性サイクルの間に発生する形状変化の程度を定量化して、形状Aの伸長率に対する形状Bの伸長率と形状Aの伸長率との差の比率として規定される。これらの実験において、最高8%のε'
revがT
sepに応じて達成することができた。対照的に、両素材は、T
sepより高い温度(適切な骨格ドメインが存在しない温度)に加熱すると古典的な熱膨張し、T
sepより低い温度(作動が骨格形成ドメインの比較的高い結晶化度によって阻害される温度)に冷却すると収縮することを示した。コポリマーネットワークの温度膨張に起因するε'
revに対して更に関与するもの(しかしながら、さほど重要でない反対方向に関与するもの)は、T
sep ≧ 80℃でT
sepの増加と共に観察された。
【0085】
適用したT
sepと得られたT
act間の相関は、
図5bに示すように両素材組成物に関して、ほぼ直線であった。これは、両ポリマーネットワークの優れた温度記憶能力を明確に証明している。T
actは、T
sepのバリエーションによって系統的に調節することができ、cPEVA20d20に関しては36±1℃から76±1℃であり、cPEVA10d20に関しては55±1℃から87±1℃である。
【0086】
図5cでは、T
sep = 75℃を適用して、応力を加えない条件下で、作動サイクルが260回を超える長期間試験におけるcPEVA20d20の伸長率対サイクル数を示している。最初の120サイクルにおいて、ε
ssp = 100%の伸長率によって素材を変形させた後に作動を測定して、更なる130サイクルにおいてはε
ssp = 150%とした。中間のプロットは、一連の双方向性作動を完全に示している一方で、挿入図は種々のサイクル数後の拡大図を示している。温度のバリエーションは、可読性を高めるために、一番下の挿入図にだけ示している。このマルチサイクル実験によって、250サイクルを超える実施において如何なる変化も示さなかったため、プログラム可能な熱的制御アクチュエーターとしてのcPEVAの適性を証明している。
【0087】
ある程度の質量を有するアモルファスドメインが、双方向性作動を得るために重要であるように思われる。これを、酢酸ビニルのようなコモノマーの組込みによってPEを主成分とするポリマーにて作成した。架橋ホモポリマー低密度ポリエチレンは、温度記憶アクチュエーター能力を示さなかった(表1)。10から35質量%の酢酸ビニルの含有量を含む調査した全てのcPEVAに関して、40から90℃の間のT
sepに関して明白な温度-記憶作動能力が観察されたことから、T
sepのバリエーションに関する温度間隔は、コモノマー含量の増加と共に減少することがわかった。PEVAにおける架橋も、温度-記憶アクチュエーター(TMPA)のために必要であるように思われる。線状コポリマーPEVAは、双方向性作動を示さなかった。プログラミングの間に加えた巨視的変形は、作動及び骨格形成ドメインを連結するネットポイントが消失するため、作動ドメインに必要な配向とはならなかった。
【0088】
【表1】
【0089】
In situ広角X線散乱(WAXS)及び小角X線散乱(SAXS)測定を実行して、熱的制御作動の間のcPEVA20d20におけるナノスケールの構造的変化を調査した(
図6a,b)。T
sepにおいて、達成された異方性散乱パターンは、異方性WAXS回折パターンにおいて明らかになる結晶性の骨格PEドメインの配向だけに起因するものと考えることができる(
図6a)。達成されたSAXSデータから、巨視的変形の方向に対して互いに直交するようにラメラが配向されることが明らかになった(
図6b)。ここで、T
sepにおいて、区間長L(T
sep) = 15.4nmが、ε
ssp = 150%にてプログラムされcPEVAに対して決定された。一方、T
lowにおいて、区間長L(T
low) = 11.4nmが得られた。ε
ssp = 100%にて再プログラムした後に、サンプルは、L(T
sep) = 16.1nm及びL(T
low) = 13.1nmを示した。本モデルによれば、作動中の巨視的変化は、ナノスケールでの区間長の変化によって反映されてもよい。T
sepでの実験的に決定されたデータ(ε
ssp = 150%)、巨視的な長さの変化及びT
lowへの冷却中の結晶化度に基づいて、T
lowでの推定区間長は、L(T
low) = 10.7nmと算出することができ、これは、実験結果と良く一致している。
【0090】
図7は、cPEVAでできているプログラム可能なアクチュエーターの2つのデモンストレーション例を示しており、アクチュエーターの模式図を左側に、本物のアクチュエーターの写真を右側に表している。
図7aは、3つのラメラを有するcPEVAに関するプログラム可能な日よけを示している。これは、プログラム後、加熱すると閉じて冷却すると開く。
図7bは、蛇腹形状のcPEVA駆動要素によって駆動する熱機関を示している。これは、T
sepに加熱すると付属の歯付ラックを前に動かし、T
lowに冷却すると後ろに動かす。これによって、歯車輪に対するその接地圧が第二cPEVA蛇腹によって制御される。T
lowへ冷却すると、この蛇腹が収縮して、結果としてラックに対する圧力が低くなり駆動要素が同様に収縮することができる。駆動要素の折り畳み数は、前進運動の距離を決定する。このようにして、歯車輪の回転速度は、駆動要素のプログラミングによって調整することができる。数字は、作動サイクルのサイクル数を示す。
図7に示す全ての実験パラメーターは、以下の通りとした:T
prog = 90℃、T
sep = 75℃、T
low = 25℃。他の潜在的用途は、調節可能な適用温度範囲を有する自己制御日焼け防止をもたらす熱的制御ファサードである。
【0091】
2. 共有結合的架橋ブロック-コポリマーcPCLBA
温度記憶ポリマーアクチュエーターを設計するための本概念の概略を、共有結合的架橋ブロックコポリマーcPCLBAにおいても証明した。ε-カプロラクトン(PCL)セグメントを、ポリ(n-ブチルアクリレート)セグメントによって相互に接続した(
図9)。PCLドメインは、5から60℃のΔT
mをもたらし、骨格形成機能(SD)及び作動機能(AD)のために利用することができる一方で、アモルファスポリ(n-ブチルアクリレート)含有ドメインは、素材の弾力性を確実にする。周期的熱機械的試験において、明白な温度-記憶作動能力をcPCLBAに対して達成することができた。T
sep = 45℃でε
ssp = 150%にプログラムし、T
low = 10℃に冷却して、そしてT
prog = 60℃に加熱した後に、素材は、ε
A = 22%の形状A及びε
B =42%の形状Bに可逆的スイッチすることができた(
図9a)。40から50℃のT
sepのバリエーションによって、作動温度は、22±1から43±1℃の範囲において調節することができ(
図9d)、ε'
revは最大19%と決定された(
図9c)。
【0092】
cPCLBAを用いた追加の実験において、この素材のリボンは、T
prog = 60℃において蛇腹形状に変形させて、氷水中でT
low= 0℃に冷却し、そして、応力を加えない条件下でT
sep = 43℃に加熱した。その後の可逆性サイクルにおいて、可逆的形状は、
図9bに示す通り、T
sep = 43℃での平らな形状とT
low = 0℃での蛇腹状の形状との間で変化した(T
lowの画像は、室温で記録した)。
【0093】
3. 共有結合的架橋ブロック-コポリマー(cPCLPCHMA)
rTMEは、ポリ(カプロラクトン)及びポリメタクリル酸シクロヘキシルのセグメントを含んでいるブロックコポリマーネットワークcPCLPCHMAについても示された(
図10を参照)。この系において、結晶化可能なPCLセグメントは、骨格及び作動ドメインとしての役割を果たした。
【0094】
4. HDPEとポリ[エチレン-コ-オクテン]との共有結合的架橋配合物
高密度ポリエチレンHDPEとランダムコポリマーポリ[エチレン-コ-オクテン]との架橋配合物cHPEbEOCもrTMEを示した。
図11a及びbは、それぞれ、1質量%及び2質量%のジクミルペルオキシドを用いて架橋させたネットワークの伸長率対時間のプロットを示している。予想通り、作動の程度は、より架橋密度が高いネットワークにおいてより高かった。
【0095】
【表2】
【0096】
5. cPEMAGMAと、PCLとのその配合物
共有結合的架橋ポリ[エチレン-コ-(アクリル酸メチル)-コ-(メタクリル酸グリシジル)]cPEMAGMAは、単独とポリ(ε-カプロラクトン)PCLとの架橋配合物について研究した。ε
ssp = 200%、T
prog = 85℃及びT
low,fix =-10℃にてプログラミング後、単一のポリマーネットワークcPEMAGMAは、T
sep = 60℃でのε
A = 82%とT
low = 10℃でのε
B = 91%との間を可逆的にスイッチすることができた(
図12a,b)。
【0097】
ε
ssp = 400%、T
prog = 90℃及びT
low,fix =-10℃でのプログラミング後のPCLとのPEMAGMAの架橋配合物も、それぞれ、T
low = 25℃とT
sep = 70℃(
図12c,d)又はT
sep = 60℃(
図12e,f)との間の温度変化に応じて可逆的双方向性形状シフトを示した。
【0098】
これらの測定結果を表3に示す。
【0099】
6. cPEAEMAと、PCLとのその配合物
共有結合的架橋ポリ[エチレン-コ-(アクリル酸エステル)-コ-(無水マレイン酸)]cPEAEMAは、単独とポリ(ε-カプロラクトン)PCLとの架橋配合物について研究した。ε
ssp = 400%、T
prog = 90℃及びT
low,fix =-10℃でのプログラミング後、単一のポリマーネットワークcPEAEMAは、T
sep = 70℃でのε
A = 256%とT
low = 25℃でのε
B =302%との間で可逆的にスイッチすることができた(
図13a,b)。
【0100】
ε
ssp = 400%、T
prog = 90℃及びT
low,fix =-10℃でのプログラミング後のPCLとのPEAEMAの架橋配合物も、それぞれ、T
low = 25℃とT
sep = 70℃(
図13c,d)又はT
sep = 60℃(
図13e,f)との間での温度変化に応じて可逆的双方向性形状シフトを示した。
【0101】
これらの測定結果を表3に示す。
【0102】
7. cPEVAと、PCLとのその配合物
共有結合的架橋ポリ[エチレン-コ-(酢酸ビニル)]cPEVAは、単独と、ポリ(ε-カプロラクトン)PCLとの架橋配合物を研究した。ε
ssp = 150%、T
prog = 90℃及びT
low,fix = 0℃でのプログラミング後、単一のポリマーネットワークcPEVAは、T
sep = 70℃でのε
A = 124%と、T
low = 25℃でのε
B = 136%との間で可逆的にスイッチすることができた(
図14a,b)。
【0103】
ε
ssp = 250%、T
prog = 90℃及びT
low,fix =-10℃でのプログラミングの後のPCLとのPEVAの架橋配合物は、それぞれ、T
low = 25℃と、T
sep = 70℃(
図14c,d)又はT
sep = 60℃(
図14 e,f)との間の温度変化に応じて可逆的双方向性形状シフトを示した。これらの測定結果を表3に示す。
【0104】
【表3】
【0105】
8. 双方向性TMEアクチュエーターの調製のための一体型インライン押出プロセス
新規な製造プロセスを開発して、1つの一体型インライン押出プロセスにおいて、可逆的双方向性温度-記憶効果を備える共有結合的架橋ポリマーアクチュエーターの調製が可能になった。このプロセスによって、種々の温度及び種々の歪率でのプログラミング(低温延伸を含む)が可能である。関心のある素材を、様々な寸法のフィルム又は繊維又はチューブの形に処理することができる。好適な実施形態によるインライン処理の装置のセットアップを
図15に記載している。インラインプロセス内で利用される成分は、最初に、素材を溶かす加熱ゾーン(1)を有するツインスクリュー押出機を備えている。続く1又は2つの硬化ゾーン(2)及び(4)において、素材は、紫外線、温度、電子ビーム及び/又はガンマ線照射によって硬化される。一組の引き取り装置(3)、(5)、(7)は、所望の伸長率(ε
ssp)をもたらすために押出速度と関連して、プログラミング中の所望の素材膨張率(λ)を調整する。第一冷却/加熱ゾーン(6)は、素材をプログラム温度T
progにするが、第二冷却ゾーン(8)は、素材を周囲温度に冷却する。スプーラーを備える更なる引き取り装置(9)を用いて、関心のある素材をフィルム、繊維及びカテーテルチューブの形で回収する。従って、TMEアクチュエーターは、無端構造のフィルム、繊維又はチューブとして製造される。任意に、引き取り装置(9)の代わりに、無端素材を所望のサイズに予めカットしたパーツへと仕立てるために、切断手段を設けてもよい。
【0106】
9. cPEVA-モノフィラメント繊維の調製
ポリ(エチレン-コ-酢酸ビニル)(PEVA)、架橋剤としてのトリアリルイソシアヌレート(TIAC)及び光重合開始剤としてのベンゾフェノン(BP)の混合物は、
図15に示すように押出機に供給して、フィラメントに形成した。上記フィラメントに、第一硬化ゾーン(2)において((最大UV強度出力と比較して)50%UV強度の)UVを照射して、第二硬化ゾーン(4)において85%UV強度のUVを照射して、共有結合的架橋繊維cPEVAを生産した。UV照射を、種々の温度T
progでの膨張率(λ=l/L (l =最終長、L =原長))への伸長によるcPEVAモノフィラメントのrTME機能付与と同様に押出プロセスに組み込んだ。rTME機能付与のために、2つの異なるプログラム温度を与えた:
1) T
prog ≧ T
trans,offset = 110℃
2) T
prog ≦ T
trans,onset = 25℃(低温延伸)
λは、λ= 1.2からλ= 2.8まで範囲において変化させた。cPEVAモノフィラメント繊維の特定の実施例のための特性の詳細は、以下の通りとした(100部のポリマー対して、1質量部のTIAC、1質量部のBP):
・架橋密度:245 mol・m
-3
・Mc:4.07 kg/mol
・生産された直径:0.662 mm
・縮んだ直径:0.782 mm
・ゲル含有量:89%
・Eモジュラス:19.00 ±0.06 MPa
・引張強さ:25.34 ±1.34 MPa
・100℃での収縮率:38%
・破壊時の伸長率:800±53%
【0107】
実証実験において、それぞれ異なったプログラムを施されたcPEVAのフィラメント(T
prog = 25℃又はT
prog = 110℃)は、温度制御装置を備えたチャンバーにおいて両端を水平に固定した。そして、チャンバーの温度を制御して、反復加熱冷却サイクルにおいてT
low = 25℃と様々なT
sep = 40、50、60、70又は80℃との間で変化させた。それによって、cPEVA繊維は、可逆的に25℃で曲がり、T
sepで収縮する。rTME性能は、加熱T
act(A→B)と冷却T
act(B→A)中に得られる作動温度と同様に、T
sepでの形状BとT
lowでの形状Aとの間の歪の差Δε = ε
low - ε
hign又は可逆的歪ε
rev = (ε
low - ε
high)/ε
highによって特徴づけられた。
【0108】
図16aにおいて、低温延伸cPEVAフィラメントの可逆的形状シフトサイクルの歪-時間ダイアグラム(T
prog = 25℃)を示している。それによって、T
low = 25℃を一定に保ち、続いて、T
sepを40から50〜60〜70〜80℃に上昇させた。Δεは、反復加熱冷却サイクルにおいてT
sepの増加と共に1.5%から6%に増加することが明らかになった。T
sepにおいて、加熱T
act(A→B)= 52℃及び冷却T
act(B→A) = 62℃中に得られる作動温度は、それぞれの歪-温度-ダイアグラム(
図16b)の変曲点から得られた。
【0109】
T
prog = 25℃(
図17a)及びT
prog = 110℃(
図17b)において機能化されたcPEVAモノフィラメントにて達成された膨張率(λ)に対する可逆的歪(rev)の依存性が、T
sepが一定の場合、λの増加と共にわずかなに増加し、T
sepが40から80℃に上昇すると、ε
revの値が約35から15%実質的に増加することを明らかにした。
【0110】
10. T
prog≧T
trans,offsetにてプログラムされたcPEVAと、T
prog≦T
trans,onsetにおける低温延伸によってプログラムされたcPEVAとの比較
フィルムを、架橋剤として2質量%のジクミルペルオキシドを用いて熱的に架橋させることによって共有結合的架橋ポリ(エチレン-コ-酢酸ビニル)から調製した(cPEVA20d20)。このフィルムを、T
prog ≧ T
trans,offset(即ち、110℃)での転移領域より上のプログラム温度を用いて150%の伸長率にプログラムするか、T
prog ≦ T
trans,onset(即ち、25℃)での低温延伸によって400%(又は、1000%)の伸長率にプログラムすることによってrTMEを備えさせた。変形は、いずれの場合も単軸伸長とした。両プログラム方法について、比較可能な可逆的伸長率ε
rev = 15%は、その後の作動サイクルにおいて達成された。伸長率が低温延伸プロセスにおいて1000%である場合、約30%のより高い可逆的歪を達成することができる(
図19を参照)。
【0111】
可逆的なT
sepへの加熱及びT
lowへの冷却中にin situ小角X線散乱(SAXS)を用いて、低温延伸によってプログラムされたcPEVA系が、散乱パターン(
図18、上部)における特徴的な差と、対応する強度プロット(
図18、底部)の通り、110℃の高温でプログラムされたサンプルと比較して種々の結晶構造を有することを明らかにした。2つの強い反射が、繊維軸(s
3)に沿った変形の方向に位置している。110℃で変形したサンプルの反射は、横に広がり、鎌のような外観を有する低温延伸サンプルの反射よりも鋭く明確である。従って、400%の伸長率の低温延伸は、110℃でのプログラミングによって得られたものよりも、bSMEサイクルの中に配向されず、横に膨張しない構造となる。
【0112】
変形方向における反射に対する積分は、T
low= 25℃よりも高いT
sep = 75℃における区間長(即ち、結晶性ドメイン間の距離)を示すs
3プロファイル対強度をもたらす。理由は、最大ピークが逆格子空間においてより値が小さい所に位置しているためである。これは、結晶子間の間隙及び区間長の増加を引き起こす75℃の溶融領域(25℃で結晶)に起因する。特に、この差は、サンプルが収縮するにもかかわらず見た目が変わらないことから、収縮が距離を縮めるにつれてこの効果を妨げている。T
sep = 75℃において、低温延伸サンプルのピーク強度は、110℃にてプログラムされたものよりも小さいため、結晶子がより少ないことを示している。従って、25℃での変形は、平均結晶サイズ及びより低い温度で溶融する結晶数を減らし、その結果、75℃での結晶子が少なくなる。
【0113】
11. T
trans,onset≦T
prog≦T
trans,offsetにてプログラムされたcPEVAと、T
prog≦T
trans,onsetにおける低温延伸によってプログラムされたcPEVAとの比較
フィルムを、架橋剤として2質量%のジクミルペルオキシドを用いて熱的に架橋させることによって共有結合的架橋ポリ(エチレン-コ-酢酸ビニル)から調製した(cPEVA20d20)。このフィルムを、T
trans,onset ≦ T
prog ≦ T
trans,offset(即ち、45、60、65、75及び90℃)の転移領域内のプログラム温度を用いて150%の伸長率にプログラムするか、T
prog ≦ T
trans,onset(即ち、25℃)での低温延伸によって150%の伸長率にプログラムすることによってrTMEを備えさせた。変形は、いずれの場合も単軸伸長とした。rTMEは、T
low = 25℃及びT
sep 75℃にて調査した。T
prog = 25℃及びε
ssp =ε
prog = 150%の低温延伸サンプルに関して、(加熱すると歪が増加し、冷却すると歪が減少する)通常の温度膨張挙動がrTMEの代わりに観察された一方で、45、60、65、75及び90℃のより高いプログラム温度でプログラムされたサンプルは、明白なrTMEを示した。これによって可逆的歪は、T
progの上昇と共に増加することがわかった(
図20)。この結果は、rTMEを可能にするために、低温延伸プログラミング(T
prog = 25℃)中に加えらた伸長率(ε
prog)によって表されるPE結晶子の配向度が最低限存在していなければならないことを明確に証明している。この特定のケースにおいて、ε
prog = 150%は充分でなかったが、明白なrTMEは、ε
prog = 400%又は1000%にて低温延伸したcPEVA20d20に対して観察することができる(前のセクションも参照)。表4に、種々のプログラム温度で達成される可逆的歪をリストしている。
【0114】
【表4】
【0115】
12. cPCLの可逆的作動能力
cPCLを、2質量%のDCPと共に線形(熱可塑性)PCLを架橋させることによって調製した。PCLポリマーネットワークは、70±2%のゲル含有率Gを示し、膨潤率Qは5650±15%であった。DSC実験から、T
m,onset = 35℃からT
m,offset = 65℃のΔT
m = 30℃の溶融温度間隔が明らかになった。cPCLは、57±1℃において溶融温度(T
m)ピークを、18±1℃において結晶化温度ピーク(T
c)を示した(
図21a)。cPCLは、周囲温度での引張試験において決定した通り、E = 1.15±0.1 MPaのヤング係数と790±30%の破壊時の伸長率ε
bを示した(
図21c)。加えて、95℃で得られた応力-歪曲線は、Mooney-Rivlin手法によって分析した。低下した応力と膨張率の逆数との間で対応するプロットを示している(
図21d)。算出したC2値は、C1値よりも著しく高いことが明らかになった。これは、架橋ネットワークの機械的特性が物理的架橋によって支配されていることを示している。2質量%のDCPを含むcPCLは、約V
c ≒ 3.5・10
-4 mol・cm
-3の架橋密度を示し、分子量は約M
c ≒ 1.09・10
4 g・mol
-1であった。
【0116】
rTMEの定量化を、ε
prog =400%(又は、600%)、T
prog = 90℃でのプログラミングを含む二段階手順において実行した。その一方で、cPCLのΔT
m(T
sep = 60℃、55℃及び50℃)内の種々のT
sepを可逆的サイクルにおいて加えた。T
lowは、10℃であった(
図22a)。
図22bにおいて、歪は、ε-Tプロットの変曲点から回復(加熱)中の特性スイッチング温度T
sw,rec(B→A)及び作動(冷却)中の特性スイッチング温度T
sw,act(A→B)の測定のために、第二可逆的サイクルの温度に対してプロットされている。cPCLは、T
sw,act(A→B) = 49±1℃及びT
sw,rec(B→A) = 58±1℃の特性スイッチング温度を示した。ε'
revの最も高い値は、ε'
rev = 16±2%のT
sep = 60℃に対して得られた。その一方で、ε'
rev = 4%(T
sep = 55℃)及びε'
rev = 1%(T
sep = 50℃)の著しく低い値は、より低いT
sepで明らかになった(
図22c)。更に、ε
prog = 400%が600%に増えると、ε'
revの増加が得られた(
図22d)。
【0117】
独立型rTMEの定量化のために、曲げ実験を実施した。ここで、初期は直線状のcPCL試験試料片を、T
prog =90℃のウォーターバスを用いて、完全なアモルファス状態において180度曲げた(ヘアピン様の形状)。変形したサンプルの固定に関して、試験片を5℃のウォーターバスに移した。その一方で、変形した歪を維持させた。周期的な可逆的形状変化は、T
high = 50℃のウォーターバス(形状A)とT
low = 5℃のウォーターバス(形状B)に、プログラムしたサンプルを反復して曝露させることによって実現させた。可逆的形状変化は、サイクル毎にカメラで一枚の写真に記録した。θ(T
low) = 65度(形状B)とθ(T
high) = 100度(形状A)との間の曲げ角度の変化を観察することができた。これは、角度(θ')が35度の可逆的変化と等しい(
図23を参照)。この角度変化の反復は、水中における6-8回の連続的な加熱冷却サイクルによって実現され、そして、試験片は、両方の形状の記憶を失うことなく可逆的にその形状を変えた。更に、角度の可逆的変化率は、それを初期の曲げ角度で割ることによって正規化して19%の相対的変化率を得た。
【0118】
13. 微小構造cPEVA表面の可逆的作動能力
微小構造cPEVAフィルムは、10μmの高さ(H)及び10μmの直径(D)を有する円筒形孔のアレイを備えるPDMSモールドを介して調製した。これによって、2質量%のジクミルパーオキサイド(DCP)を用いたPEVAの熱架橋を、PDMSテンプレートを用いて実施した(方法セクションも参照)。微小構造cPEVAサンプルは、70℃での垂直圧縮によってプログラムして、0℃において固定した。微小構造cPEVA表面の調製及びプログラミングの模式図を
図24a及びbにそれぞれ示している。
【0119】
rTME調査のために、様々な分離温度T
sep = 50℃、 60℃、70℃及び80℃を加えつつ、T
lowを20℃に維持した。各分離温度T
sepのために、3つの可逆的サイクルを、次のより高い分離温度へ上げる前に実行した(
図25a,bを参照)。種々の温度での単一の円筒状ピラーの高さの変化は、ACモードのAFM実験によって調査した。
【0120】
これらの実験において、単一の円筒状ピラーの可逆的高さの変化(
図25c)と同様に、回復する高さ(
図25b)は、50℃から80℃にT
sepが上昇すると共に0.2mから0.8mまで増加することが明らかとなった。微小構造cPEVAフィルムは、それらの細長い巨視的転写物と類似した可逆的歪(50℃で最高15%のε
rev)を示した。