(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
正極板および負極板をセパレータを介して積層してなる発電要素が、偏平な矩形状をなす外装体の内部に電解液とともに収容され、その一辺より端子を導出した状態で、上記外装体の四方の縁部に沿って密封されてなるフィルム外装電池の電解液注入方法であって、
上記端子が側方に突出する姿勢で上記外装体の上辺を除く三辺を封止した袋状体に対し、その開口する上辺側より電解液を注入する電解液注入工程を有し、
かつ、この電解液注入工程よりも前に、上記袋状体の開口する上辺のうち、上記端子が導出された一辺の近傍の一部分のみを部分的に封止する部分封止工程を有するフィルム外装電池の製造方法。
上記端子が導出された一辺の近傍は、上記袋状体の開口する上辺のうち、電解液注入位置よりも端子寄りの位置である請求項1〜5のいずれかに記載のフィルム外装電池の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、この発明の好ましい実施の形態について、図面に基づいて詳細に説明する。初めに
図1および
図2に基づいて、この発明による製造の対象となるフィルム外装電池1の一例を説明する。フィルム外装電池1は、例えばリチウムイオン二次電池であり、
図1に示すように、偏平な長方形の外観形状を有し、長手方向の一方の端縁に、導電性金属箔からなる一対の正負極の端子2,3を備えている。
【0012】
図2は
図1のA−A線で示す断面線に沿ったフィルム外装電池1の断面を表している。
図2に示すように、フィルム外装電池1は、長方形をなす発電要素4を電解液とともにラミネートフィルムからなる外装体5の内部に収容したものである。上記発電要素4は、セパレータ43を介して交互に積層された複数の正極板41および負極板42からなり、例えば、3枚の負極板42と、2枚の正極板41と、これらの間の4枚のセパレータ43と、を含んでいる。つまり、この例では、発電要素4の両面に負極板42が位置している。但し、発電要素4の最外層に正極板41が位置する構成も可能である。なお、
図2における各部の寸法は必ずしも正確なものではなく、説明のために誇張したものとなっている。
【0013】
正極板41は、長方形をなす正極集電体41aの両面に正極活物質層41b,41cを形成したものである。正極集電体41aは、例えば、アルミニウム箔、アルミニウム合金箔、銅箔、又は、ニッケル箔等の電気化学的に安定した金属箔から構成されている。また、正極活物質層41b,41cは、例えば、ニッケル酸リチウム(LiNiO
2)、マンガン酸リチウム(LiMnO
2)、または、コバルト酸リチウム(LiCoO
2)等のリチウム複合酸化物からなる正極活物質と、カーボンブラック等の導電助剤と、バインダと、を混合したものを、正極集電体41aの主面に塗布し、乾燥及び圧延することにより形成されている。
【0014】
負極板42は、長方形をなす負極集電体42aの両面に負極活物質層42b,42cを形成したものである。負極集電体42aは、例えば、ニッケル箔、銅箔、ステンレス箔、又は、鉄箔等の電気化学的に安定した金属箔から構成されている。負極活物質層42b,42cは、例えば、非晶質炭素、難黒鉛化炭素、易黒鉛化炭素、又は、黒鉛等のような上記の正極活物質のリチウムイオンを吸蔵及び放出する負極活物質に、バインダを混合したものを、負極集電体42aの主面に塗布し、乾燥及び圧延させることにより形成されている。
【0015】
上記負極集電体42aの長手方向の端縁の一部は、負極活物質層42b,42cを具備しない延長部として延びており、その先端が負極端子3に接合されている。また
図2には示されていないが、同様に、上記正極集電体41aの長手方向の端縁の一部が、正極活物質層41b,41cを具備しない延長部として延びており、その先端が正極端子2に接合されている。
【0016】
上記セパレータ43は、正極板41と負極板42との間の短絡を防止すると同時に電解質を保持する機能を有するものであって、例えば、ポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)等のポリオレフィン等から構成される微多孔性膜からなり、過電流が流れると、その発熱によって層の空孔が閉塞され電流を遮断する機能を有している。なお、セパレータ43としては、ポリオレフィン等の単層膜に限られず、ポリプロピレン膜をポリエチレン膜でサンドイッチした三層構造のものや、ポリオレフィン微多孔性膜と有機不織布等を積層したものも用いることができる。
【0017】
また、電解液としては、特に限定されるものではないが、リチウムイオン二次電池に一般的に使用される電解質として、例えば、有機溶媒にリチウム塩が溶解した非水電解液を用いることができる。
【0018】
上記のような構成の発電要素4を電解液とともに収容する外装体5は、
図2に一部を拡大して示すように、熱融着層51と金属層52と保護層53との三層構造を有するラミネートフィルムからなる。中間の金属層52は、例えばアルミニウム箔からなり、その内側面を覆う熱融着層51は、熱融着が可能な合成樹脂例えばポリプロピレン(PP)からなり、金属層52の外側面を覆う保護層53は耐久性に優れた合成樹脂例えばポリエチレンテレフタレート(PET)からなる。なお、さらに多数の層を有するラミネートフィルムを用いることもできる。また、上記の例では金属層52の両面に合成樹脂層をラミネートしているが、金属層52の外側の合成樹脂層は必ずしも必須のものではなく、内側表面にのみ合成樹脂層を備えた構成であってもよい。
【0019】
上記外装体5は、一つの例では、
図2の発電要素4の下面側に配置される1枚のラミネートフィルムと上面側に配置される他の1枚のラミネートフィルムとの2枚構造をなし、これら2枚のラミネートフィルムの周囲の4辺を重ね合わせ、かつ互いに熱融着した構成となっている。図示例は、このような2枚構造の外装体5を示している。また、他の一つの例では、外装体5は1枚の比較的大きなラミネートフィルムからなり、2つ折りとした状態で内側に発電要素4を配置した上で、周囲の3辺を重ね合わせ、かつ互いに熱融着した構成となっている。
【0020】
長方形をなすフィルム外装電池1の短辺側に位置する一対の端子2,3は、ラミネートフィルムを熱融着する際に、ラミネートフィルムの接合面を通して外部へ導出されている。
【0021】
次に、上記のフィルム外装電池1の製造手順について簡単に説明する。
図3は製造工程の一部を簡略的に示すものである。まず、正極板41、負極板42およびセパレータ43を順次積層し、かつ正極集電体41a及び負極集電体42aを正負極の端子2,3にスポット溶接や超音波溶接等により取り付けて発電要素4を構成する。次に、三辺封止工程S11において、
図4に示すように、この発電要素4を外装体5となるラミネートフィルムで覆い、周縁の四辺11A〜11D、詳しくは、端子2,3が設けられた一辺11Aを含む一対の短辺11A,11Bと、端子2,3が設けられていない一対の長辺11C,11Dのうち、長辺の一辺11Dを残して、周囲の三辺11A〜11Cを、この三辺11A〜11Cに沿う直線状の封止ライン12A〜12Cの位置で熱融着する。これによって、外装体5の一辺11Dが開口する袋状体13が形成される。
【0022】
その後、後述する部分封止工程S12を経て電解液注入工程S13へと進む。この電解液注入工程S13では、
図5及び
図6に示すように、真空状態にあるケーシング14内で、開口する一辺11D(上辺)側より電解液が注入される。具体的には、複数の袋状体13が、その端子2,3が側方に突出し、開口する一辺11Dが上側、つまり上辺11Dとなる姿勢で保持されており、その開口する上辺11D側より注入ノズル15を用いて電解液が注入される。
【0023】
電解液の注入後、開口する上辺11D側を封止ライン12D(
図4参照)に沿って熱融着することで、外装体5を密閉状態とする。これによりフィルム外装電池1が完成するので、次に、適宜なレベルまで充電を行い、この状態で、一定時間、エージング等が行われる。
【0024】
図4に示すように、上記の製造工程における袋状体13の四隅には、熱融着時に2枚のラミネートフィルムを所定位置に保持するために、パレット28(
図9参照)に固定された4本のロケートピン(図示省略)に挿入される合計4つのロケート孔16が貫通形成されている。但し、袋状体13における長辺11C,11Dの縁部は、ロケート孔16よりも内側かつ封止ライン12C,12Dよりも外側の切断ライン17で切断されて、ロケート孔16を含むスクラップ部分18が切除されるために、ロケート孔16は最終的なフィルム外装電池1には残されない。
【0025】
なお、この種のフィルム外装電池1は、複数個を互いに電気的に接続した組電池を偏平な箱状のケーシング内に収容したバッテリモジュールとして使用される。
【0026】
次に、
図7を参照して、電解液注入工程S13で電解液が漏れ出る不具合について説明する。開口する上辺11D側より袋状体13の内部に電解液を注入する際、注入ノズル15より注入される電解液は発電要素4等との隙間を浸透しつつ下方へ流れ込んでいくが、
図2にも示すように、端子2,3が設けられた一辺11A側(
図2の左側)では、端子2,3及びこれに接続する正極板41や負極板42の延長部等が存在しているために、端子2,3が設けられていない他辺側(
図2の右側)に比して、隙間が狭く、流路断面積が小さいものとなっている。このため、
図7に示すように、電解液の注入時に、端子2,3が設けられた一辺11A側の近傍では、電解液の浸透が遅れ、つまり電解液が速やかに下方へ流れ込まず、上辺11D側より電解液が漏れ出るおそれがある。
【0027】
特に、上述したように袋状体13の四隅に位置決め用のロケート孔16が貫通形成されている場合には、
図7及び
図8に示すように、真空雰囲気下で沸騰した泡状の電解液19が、端子2,3寄りかつ上側のロケート孔16Aより漏れ出し易い。このように電解液が漏れ出すと、電解液の注入が不十分となったり、端子2,3や外装体5に電解液が付着して、複数のフィルム外装電池1の端子2,3同士を溶接して、組電池にする際に溶接不良を生じるなど、品質の低下を招くおそれがある。
【0028】
そこで本実施例では、
図3に示すように、三辺封止工程S11の後であって、かつ、電解液注入工程S13よりも前に、開口する上辺11Dのうち、端子2,3が導出された一辺11Aの近傍(電解液の注入位置よりも一辺11A寄りの位置)の一部分である封止部21のみを部分的に封止する部分封止工程S12を設けている。
【0029】
この部分封止工程S12では、
図4及び
図6に示すように、端子2,3が導出された側辺11Aの上側のロケート孔16Aの周囲を封止するように、少なくともロケート孔16Aの下側部分21Aを含む形で封止部21が形成されている。
【0030】
特に、この第1実施例では、封止部21が、ロケート孔16Aの下側部分21Aと両側部分21B,21Cの三方を囲うチャンネル状・U字状をなしている。また、このロケート孔16Aは端子2,3寄りの側辺11Aに沿う封止ライン12Aよりも内側に配置されているために、封止部21もまた封止ライン12Aよりも内側に形成されている。なお、熱融着により生じるバリ等がロケート孔16Aを塞ぐことのないように、封止部21とロケート孔16Aとの間には所定の間隔22が確保されている。
【0031】
このように封止部21を端子2,3近傍の上側のロケート孔16Aの周囲に設けることで、このロケート孔16Aを通した電解液の漏洩を確実に防止することができる。しかも、封止部21は開口する上辺11Dのうちで、端子2,3寄りの一部分にのみ部分的に設けられているために、その他の上辺11Dは大きく開口する形となり、電解液の注入を阻害することもない。
【0032】
特にこの第1実施例においては、封止部21をロケート孔16Aの下側部分21A及び両側部分21B,21Cの三方を囲う形状としたので、電解液が下方及び側方からロケート孔16Aへ侵入することを確実に防止することができる。
【0033】
図9及び
図10は、上記の部分封止工程S12で用いられる装置の一例を示している。この装置は、先端部24が封止部21の形状に応じたチャンネル状・U字状をなすヒーターブロック23と、このヒーターブロック23を所定方向(
図9の上下方向)に駆動するシリンダ25と、を有している。ヒーターブロック23には、
図10に示すように、熱源としてのカードリッチヒーター26が内臓されている。そして、パレット28上に載置された袋状体13(外装体5)に対し、シリンダ25によりヒーターブロック23を駆動して先端部24を外装体5の適宜位置(つまり端子2,3近傍のロケート孔16Aの周囲)に押し付けつつ加熱ることによって、上記の封止部21が熱融着される。
【0034】
図11は、本発明の第2実施例を示している。この第2実施例では、封止部31の形状が第1実施例と異なっている。つまり、この第2実施例では、部分封止工程S12により封止される封止部31が、ロケート孔16Aの下側部分31Aと、端子2,3が導出される側辺11Aより遠い側の部分31Bと、を有するL字状をなしている。そして、封止部31の下側部分31Aを、端子2,3が導出される側辺11Aに沿う封止ライン12Aと交差させている。従って、L字状をなす封止部21と、封止ライン12Aの一部と、によって、ロケート孔16Aの下側と両側の三方が囲われる形となり、上記の第1実施例と同様、電解液の下方及び側方からのロケート孔16Aへの侵入を確実に防止することができる。
【0035】
以上のように本発明を具体的な実施例に基づいて説明してきたが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、種々の変形・変更を含むものである。例えば、封止部の形状は上記第1,第2実施例のものに限らず、例えばロケート孔を囲う円形状もしくは半円形状としても良く、あるいは、ロケート孔の下側部分のみを封止するものであっても良い。
【0036】
また、上記実施例では部分封止工程S12を三辺封止工程S11と電解液注入工程S13との間に行っているが、部分封止工程を電解液注入工程の前に行うものであれば良く、例えば部分封止工程を三辺封止工程と同時もしくはその前に行うようにしても良い。
【0037】
また、上記実施例においては、いずれも端子2,3が設けられた一辺11A側の近傍のロケート孔16Aからの電解液の漏洩を防止するものとしたが、この限りではない。例えば、ロケート孔16Aが設けられていない場合であっても、電解液を注入する工程における外装体5の短辺11A,11Bが短く、外装体5の開口縁から内部の発電要素4までの距離が十分に確保できない場合には、外装体5の開口縁の端子2,3が設けられた一辺11Aの近傍から電解液が漏洩する可能性がある。このような場合であっても、上記実施例に記載のように、袋状の外装体5の開口縁の端子2,3が設けられた一辺11Aの近傍を封止することによって、開口縁からの電解液の漏洩を防止することができる。