特許第6058906号(P6058906)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6058906
(24)【登録日】2016年12月16日
(45)【発行日】2017年1月11日
(54)【発明の名称】光学位相差フィルムおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/30 20060101AFI20161226BHJP
   G02F 1/13363 20060101ALI20161226BHJP
   C08J 7/04 20060101ALI20161226BHJP
【FI】
   G02B5/30
   G02F1/13363
   C08J7/04 FCEP
   C08J7/04CEX
【請求項の数】8
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2012-73526(P2012-73526)
(22)【出願日】2012年3月28日
(65)【公開番号】特開2013-205568(P2013-205568A)
(43)【公開日】2013年10月7日
【審査請求日】2014年12月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000251060
【氏名又は名称】林テレンプ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 修司
(74)【代理人】
【識別番号】100086793
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 雅士
(74)【代理人】
【識別番号】100112829
【弁理士】
【氏名又は名称】堤 健郎
(74)【代理人】
【識別番号】100142608
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 由佳
(74)【代理人】
【識別番号】100155963
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】100167977
【弁理士】
【氏名又は名称】大友 昭男
(72)【発明者】
【氏名】福井 理晃
【審査官】 藤岡 善行
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−220716(JP,A)
【文献】 特開2010−217278(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/032304(WO,A1)
【文献】 特開2008−076669(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/30
G02F 1/13363
C08J 7/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性水素基を有する光学フィルム用透明基材と、
この基材の上に形成された多官能イソシアネート基含有化合物層と、
前記多官能イソシアネート基含有化合物層の上に形成された複屈折誘起材料層と、
で構成された光学位相差フィルムであって、
前記活性水素基を有する光学フィルム用透明基材が、トリアセチルセルロースフィルムまたはポリビニルアルコールフィルムであって、
前記複屈折誘起材料が、メソゲン基と感光性基とが結合した側鎖を有し、炭化水素、アクリレート、メタクリレート、およびシロキサンから選択された少なくとも一種を主鎖に有する液晶性高分子であって、
前記多官能イソシアネート基含有化合物層が、必要に応じて、前記多官能イソシアネート基含有化合物の固形分濃度以下の量の透明樹脂成分を含む光学位相差フィルム。
【請求項2】
請求項1において、多官能イソシアネート基含有化合物が、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート、及び、これらを多価アルコールに付加させたポリイソシアネート、からなる群から選ばれた少なくとも1種である光学位相差フィルム。
【請求項3】
請求項1または2において、多官能イソシアネート基含有化合物層の厚みが3μm以下である光学位相差フィルム。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項において、65℃・RH95%において、少なくとも1000時間放置した後に、100マス碁盤目試験法(JIS K5400、1990年)による塗膜剥離テストを行った場合の剥離性が、80/100〜100/100である光学位相差フィルム。
【請求項5】
活性水素基を有する光学フィルム用透明基材を用意する工程と、
この光学フィルム用透明基材の塗工面に、多官能イソシアネート基含有化合物を塗布して多官能イソシアネート基含有化合物層を形成する工程と、
前記多官能イソシアネート基含有化合物層に、複屈折誘起材料を塗布して複屈折誘起材料層を形成する工程と、を備える光学位相差フィルムの製造方法であって、
前記活性水素基を有する光学フィルム用透明基材が、トリアセチルセルロースフィルムまたはポリビニルアルコールフィルムであって、
前記複屈折誘起材料が、メソゲン基と感光性基とが結合した側鎖を有し、炭化水素、アクリレート、メタクリレート、およびシロキサンから選択された少なくとも一種を主鎖に有する液晶性高分子であって、
前記多官能イソシアネート基含有化合物層が、必要に応じて、前記多官能イソシアネート基含有化合物の固形分濃度以下の量の透明樹脂成分を含む光学位相差フィルムの製造方法。
【請求項6】
請求項5において、多官能イソシアネート基含有化合物層を形成する工程で、塗布した多官能イソシアネート基含有化合物を60〜140℃にて乾燥させる光学位相差フィルムの製造方法。
【請求項7】
請求項5または6において、複屈折誘起材料層を形成する工程で、複屈折誘起材料に対して光照射と加熱冷却処理により、多官能イソシアネート基含有化合物と複屈折誘起材料との結合性を強化させる光学位相差フィルムの製造方法。
【請求項8】
請求項5から7のいずれか一項において、光学フィルム用透明基材の塗工面が、大気圧下放電処理またはUV表面改質処理によって、前処理されている光学位相差フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルム基材上に複屈折誘起材料を塗布形成した、光学位相差フィルム及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光学フィルム用透明基材として、トリアセチルセルロースフィルムやポリビニルアルコールフィルムなどが多用されている。しかしながら、このような透明基材は、光学特性に優れているものの、有機材料を直接塗布して有機材料層を基材の上に形成させる場合、光学フィルム製品として十分な密着性を得ることができないという問題があった。
【0003】
そこで、例えば特許文献1には、トリアセチルセルロースフィルム上に紫外線硬化型ハードコート層を設ける際、ハードコート材料中にアミド基などの窒素原子を含む反応性モノマーを含有させる事で密着性を向上させる方法が開示されている。
【0004】
一方で、近年、優れた光学特性を有する複屈折誘起材料が、特許文献2や特許文献3などに開示されている。複屈折誘起材料とは、光照射と加熱冷却処理により分子の配向方向を制御することにより複屈折を誘起させる材料のことであり、このような配向方向の制御を行う場合、特許文献1にあるような他の光反応モノマーを含有させると分子配向が乱されて複屈折が低下し、光学位相差フィルムとしての光学特性を満足する事ができなくなる。
【0005】
また、トリアセチルセルロースフィルムをアルカリ水処理(けん化処理)する事でこの基材への密着性を改善する方法も知られている。しかしながらこの方法では、前記複屈折誘起材料においては十分な密着性を得られなかった。
【0006】
したがって、現在のところ、光学フィルム用透明基材上に前記複屈折誘起材料を設ける場合には、易剥離性の別基材に複屈折誘起材料を塗布形成した後、前記透明基材上に複屈折誘起材料層のみを粘着材を介して転写することにより、透明基材と複屈折誘起材料層との密着性を確保している。
【0007】
しかしながら、このような光学位相差フィルムでは、粘着材層が余分な厚みとなってしまい光学位相差フィルムの薄型化を達成できないだけでなく、製造工程が非常に煩雑となってしまい生産効率上好ましくない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平9−254321号公報
【特許文献2】特開平11−189665号公報
【特許文献3】特開2004−258426号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、特許文献2、3などに記載されている複屈折誘起材料から形成される複屈折誘起材料層と、光学フィルム用透明基材とを組み合わせた場合であっても、光学特性である複屈折性を低下させずに複屈折誘起材料層と光学フィルム用透明基材との密着性を向上できる光学位相差フィルムを提供することである。
【0010】
本発明の別の目的は、薄型化を達成することができる光学位相差フィルムを提供することである。
【0011】
本発明のさらに別の目的は、湿熱下で用いた場合であっても、複屈折誘起材料層と光学フィルム用透明基材との密着性を維持することが可能な光学位相差フィルムを提供することである。
【0012】
本発明の他の目的は、このような光学位相差フィルムを、粘着材を介した転写工程を用いることなく、製造工程を簡略化して、効率的に製造することが可能な光学位相差フィルムの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、上記の問題を解決するために鋭意研究した結果、特定のイソシアネート基含有化合物層を、特定の光学フィルム用透明基材と、複屈折誘起材料層との間に介在させると、粘着材を介した転写工程を用いることなく、基材と複屈折誘起材料層とを一体化して光学位相差フィルムを形成できること、さらに、得られた光学位相差フィルムは、複屈折複屈折性を低下させることなく、複屈折誘起材料層と光学フィルム用透明基材との密着性を向上することが可能であり、さらに、フィルム全体の厚みを低減することが可能であることを見出しし、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明は、活性水素基を有する光学フィルム用透明基材と、
この基材の上に形成された多官能イソシアネート基含有化合物層と、
前記多官能イソシアネート基含有化合物層の上に形成された複屈折誘起材料層と、
で構成された光学位相差フィルムである。
【0015】
例えば、前記複屈折誘起材料は、メソゲン基と感光性基とが結合した側鎖を有し、炭化水素、アクリレート、メタクリレート、およびシロキサンから選択された少なくとも一種を主鎖に有する液晶性高分子であってもよい。また、多官能イソシアネート基含有化合物は、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート、及び、これらを多価アルコールに付加させたポリイソシアネート、からなる群から選ばれた少なくとも1種であってもよい。
【0016】
好ましくは、活性水素基を有する光学フィルム用透明基材は、トリアセチルセルロースフィルムまたはポリビニルアルコールフィルムである。
【0017】
前記光学位相差フィルムにおいて、多官能イソシアネート基含有化合物層の厚みは、例えば、3μm以下であってもよい。また、光学位相差フィルムは、65℃・RH95%において、少なくとも1000時間放置した後に、100マス碁盤目試験法(JIS K5400、1990年)による塗膜剥離テストを行った場合の剥離性が、80/100〜100/100程度であってもよい。
【0018】
さらに、本発明は光学位相差フィルムの製造方法についても包含し、前記製造方法は、
活性水素基を有する光学フィルム用透明基材を用意する工程と、
この光学フィルム用透明基材の塗工面に、多官能イソシアネート基含有化合物を塗布して多官能イソシアネート基含有化合物層を形成する工程と、
前記多官能イソシアネート基含有化合物層に、複屈折誘起材料を塗布して複屈折誘起材料層を形成する工程と、を備える。
【0019】
好ましくは、多官能イソシアネート基含有化合物層を形成する工程で、塗布した多官能イソシアネート基含有化合物を60〜140℃にて乾燥させてもよい。また、複屈折誘起材料層を形成する工程で、複屈折誘起材料に対して光照射と加熱冷却処理により、多官能イソシアネート基含有化合物と複屈折誘起材料との結合性を強化させてもよい。
【0020】
前記製造方法において、一体性を高めるため、光学フィルム用透明基材の塗工面を、大気圧下放電処理またはUV表面改質処理によって、前処理してもよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によると、特定のイソシアネート基含有化合物層を介在させることにより、複屈折誘起材料層の複屈折性を低下させずに、複屈折誘起材料層と、光学フィルム用透明基材との密着性を向上することができる。
【0022】
また、粘着材層を用いなくとも、複屈折誘起材料層と光学フィルム用透明基材とを一体化することが可能であるため、光学位相差フィルムの薄型化を達成することができる。
【0023】
さらに、このような位相差フィルムでは、湿熱下で用いた場合であっても、複屈折誘起材料層と光学フィルム用透明基材との密着性を維持することが可能である。
【0024】
さらにまた、本発明では、光学フィルム用透明基材に対して、イソシアネート基含有化合物層および複屈折誘起材料層を、それぞれ塗布することによって形成することが可能であるため、製造工程を簡略化して、効率的に製造することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の一実施態様である光学位相差フィルムを示す概略断面図である。
図2】実施例1における光学位相差フィルムの概略断面図である。
図3】実施例2における光学位相差フィルムの概略断面図である。
図4】実施例3における光学位相差フィルムの概略断面図である。
図5】比較例1における光学位相差フィルムの概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
(光学位相差フィルムの基本構成)
本発明の光学位相差フィルムは、活性水素基を有する光学フィルム用透明基材と、
この基材の上に形成された多官能イソシアネート基含有化合物層と、
前記多官能イソシアネート基含有化合物層の上に形成された複屈折誘起材料層と、
で構成されている。
【0027】
図1には、本発明の光学位相差フィルムの一実施態様が示されている。光学位相差フィルム4では、活性水素基を有する光学フィルム用透明基材1の上に、多官能イソシアネート基含有化合物層2が形成され、さらに、多官能イソシアネート基含有化合物層2の上には、複屈折誘起材料層3が形成されている。
【0028】
多官能イソシアネート基含有化合物は、光学フィルム用透明基材に存在する活性水素基と結合する。さらに、複屈折誘起材料が、紫外線照射によって分子配向を制御される工程において、ともに紫外線照射に曝されることによって、複屈折誘起材料との接着性を強固なものにすることが可能となる。
【0029】
(光学フィルム用透明基材)
光学フィルム用透明基材は、通常、活性水素基を含有している樹脂から形成されるが、一旦作製したフィルム状の透明基材に対して、後述するような前処理を行うことによって活性水素基を導入し、活性水素基を有する光学フィルム用透明基材としてもよい。
【0030】
なお、本明細書において、活性水素基とは、水酸基(−OH)、カルボキシル基(−COOH)、アミノ基(−NRH(Rは炭化水素基)、−NH2など)およびチオール基(−SH)などに加え、カルボニル基(=CO)に対してα位に存在するα水素も含まれている。
【0031】
活性水素基を含有している樹脂としては、例えば、セルロース誘導体(好ましくはトリアセチルセルロースなど)、ポリビニルアルコール系樹脂(好ましくは、ポリビニルアルコールなど)およびポリエステル(好ましくはポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)など)などが挙げられる。これらの樹脂のうち、トリアセチルセルロースおよびポリビニルアルコールが好ましい。特に、本発明の多官能イソシアネート基含有化合物層と組み合わせると、透明基材が、水酸基を含有する吸湿性の高い素材であっても、耐湿熱性を向上することができる。
【0032】
また、光学フィルム用透明基材に対して、活性水素基を導入する処理としては、大気圧下放電処理やUV表面改質処理を挙げることができる。
【0033】
大気圧下放電処理とは、コロナ放電、プラズマ放電、グロー放電、RF放電などの大気圧下で行われる放電処理のことであり、放電により電離された気体が基材表面に衝突することで化学作用し、水酸基やカルボキシル基などの極性基を導入することができる。これにより、多官能イソシアネート基含有化合物層と前記基材界面における密着性を向上させることができる。
【0034】
また、UV表面改質とは、UV―オゾン処理とも呼ばれ、紫外線照射による汚れの分解及び発生オゾンによる酸化の化学作用による洗浄・表面改質効果(例えば、カルボニル基の導入)を得られるものである。これにより、多官能イソシアネート基含有化合物層と前記基材界面における密着性を向上させることができる。
【0035】
(多官能イソシアネート基含有化合物層)
多官能イソシアネート基含有化合物層は、多官能イソシアネート基含有化合物を、前記基材表面に塗布して形成することができる。
【0036】
多官能イソシアネート基含有化合物は、複数のイソシアネート基を含有する化合物であればよく、例えば、ジイソシアネート化合物、トリイソシアネート化合物などが挙げられる。多官能イソシアネート基含有化合物は、好ましくは、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、キシレンジイソシアネートなどの芳香族系ジイソシアネート化合物;ヘキサメチレンジイソシアネートなどの脂肪族系ジイソシアネート化合物であってもよい。また、多官能イソシアネート基含有化合物としては、前記ジイソシアネート化合物を多価アルコール(例えば、グリセリン、1,3−ブチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ジトリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトールなど)に付加させたポリイソシアネートなどであってもよい。これらの化合物は、単独で、または二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0037】
これらの多官能イソシアネート基含有化合物のうち、芳香族系ジイソシアネート化合物(特に、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネートなど)、これらの芳香族系ジイソシアネート化合物の多価アルコール(例えば、トリメチロールプロパンなど)の付加物が、特に好ましく用いられる。
【0038】
さらに、多官能イソシアネート基含有化合物を塗布する際の基材への濡れ性や塗膜平滑性を向上させるために、バインダーとしてアクリル樹脂などの透明樹脂成分を含んでいてもよく、その含有量は前記多官能イソシアネート基含有化合物の固形分濃度以下の量であることが望ましい。この樹脂成分は、アクリルポリオールやエステルポリオールなどの水酸基を含む樹脂成分とすることで、この水酸基と前記イソシアネート基とがウレタン結合を形成し、より強固な層とすることができる。
【0039】
(複屈折誘起材料層)
複屈折誘起材料層は複屈折誘起材料を塗布して形成され、複屈折誘起材料とは、光照射または光照射と加熱冷却により分子の配向方向を制御できる材料であればよく、様々な複屈折誘起材料を利用することができる。
【0040】
例えば、好ましい複屈折誘起材料としては、メソゲン基と感光性基とが結合した側鎖を有し、炭化水素、アクリレート、メタクリレート、およびシロキサンから選択された少なくとも一種を主鎖に有する液晶性高分子であってもよい。
メソゲン基としては、ビフェニル、ターフェニル、フェニルベンゾエート、トラン、アゾベンゼンなどの剛直な置換基が挙げられ、感光性基としては、シンナモイル基またはその誘導体、またはナフチルアクリロイル基またはその誘導体、またはビフェニルアクリロイル基またはその誘導体などが挙げられる。
【0041】
なお、複屈折誘起材料は、必要に応じて、材料単独に物理的な外部刺激(加熱、冷却、電場、磁場、せん断の印加等)を与えた時に液晶性を示すか、または溶媒や非液晶性成分との混合により液晶性を発現する液晶性化合物を含有していてもよい。
例えば、液晶性化合物としては、メソゲン成分として多用されているビフェニル、ターフェニル、フェニルベンゾエート、アゾベンゼンなどの置換基を有する結晶性または液晶性を有する低分子化合物などが挙げられる。これらの化合物は、単独でまたは組み合わせて用いてもよい。
【0042】
具体的には、複屈折誘起材料は、化学式1または化学式2で示されるナフチルアクリロイル構造またはその誘導体、または、化学式3、化学式4または化学式5で示されるビフェニルアクリロイルまたはその誘導体、化学式6で示されるシンナモイル構造またはその誘導体を有する材料であってもよい。
特に好ましくは、例えば、複屈折誘起材料は、化学式7で表されるような重合体であってもよい。
【0043】
【化1】
【0044】
【化2】
【0045】
【化3】
【0046】
【化4】
【0047】
【化5】
【0048】
【化6】
【0049】
【化7】
【0050】
ここで、−R〜−R11=−H、ハロゲン基、−CN、ニトロ基、アミノ基、アルキル基またはメトキシ基などのアルキルオキシ基、またはそれらを弗化した基、x:y=100〜0:0〜100、n=1〜12、m=1〜12、j=1〜12、X,Y,=none、−COO、−OCO−、−N=N−、−C=C−or−C−、W1=化学式1、化学式2、化学式3、化学式4、化学式5または化学式6で表される構造であり、W2=−COOH、−OH、化学式1、化学式2、化学式3、化学式4、化学式5または化学式6で表される構造である。
【0051】
このような重合体は、同一の繰り返し単位からなる単一重合体または構造の異なる側鎖を有する単位の共重合体でもよく、該共重合体の構造の異なる単位として、シンナモイル基、カルコン基、シンナミリデン基、β−(2−フリル)アクリロイル基(または、それらの誘導体)などの感光性基とメソゲン成分として多用されているビフェニル、ターフェニル、フェニルベンゾエート、アゾベンゼンなどの置換基とを結合した構造を含む側鎖を有するものなども挙げられる。また、感光性基を含まない側鎖を有する単位を共重合させることも可能である。なお、炭化水素、アクリレートアルキルエステル、メタクリレートアルキルエステル、シロキサンなどを共重合させることによりヘイズ抑制などフィルムの光学特性の良化に役立つ場合がある。
【0052】
また、感光性を調整するために光増感剤を添加してもよい。かかる光増感剤としては、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、およびα,α−ジメトキシ−α−フェニルアセトフェノンのようなベンゾイン誘導体;ベンゾフェノン、2,4−ジクロロベンゾフェノン、o−ベンゾイル安息香酸メチル、4,4’−ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、および4,4’−ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノンのようなベンゾフェノン誘導体などの光増感剤が好ましく用いられる。
【0053】
(光学位相差フィルムの製造方法)
このような光学位相差フィルムの製造方法は、
活性水素基を有する光学フィルム用透明基材を準備する工程と、
この光学フィルム用透明基材の塗工面に、多官能イソシアネート基含有化合物を塗布して多官能イソシアネート基含有化合物層を形成する工程と、
前記多官能イソシアネート基含有化合物層に、複屈折誘起材料を塗布して複屈折誘起材料層を形成する工程と、を少なくとも備えている。
【0054】
(光学フィルム用透明基材準備工程)
光学フィルム用透明基材準備工程では、前述した光学フィルム用透明基材を準備する。なお、必要に応じて、塗工面に対して、前述した大気圧下放電処理またはUV表面改質処理による前処理を行ってもよい。
【0055】
(多官能イソシアネート基含有化合物層形成工程)
多官能イソシアネート基含有化合物層形成工程では、多官能イソシアネート基含有化合物を含む塗布液を調製し、前記光学フィルム用透明基材の塗工面に対して塗布する。
【0056】
この塗布液は、前記多官能イソシアネート基含有化合物を、一般的な溶剤に希釈したものであってもよい。溶剤としては、ジオキサン、ジクロロエタン、シクロヘキサノン、シクロヘキサノン、トルエン、テトラヒドロフラン、o−ジクロロベンゼン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどが挙げられ、これらの溶媒は、単独でまたは混合して用いられる。
【0057】
基材上に、多官能イソシアネート基含有化合物層を塗布形成し、さらにその層上に複屈折誘起材料層を直接塗布して形成するため、多官能イソシアネート基含有化合物層は、複屈折誘起材料層を塗布可能な状態であることが望ましい。そのため、多官能イソシアネート基含有化合物を塗布した後、この塗布層を、例えば、60℃〜150℃程度、好ましくは80℃〜140℃程度で加熱して、多官能イソシアネート基含有化合物層を、乾燥および硬化させることが好ましい。
【0058】
多官能イソシアネート基含有化合物層の乾燥後の厚みは、例えば、3μm以下であってもよく、好ましく2μm以下、特に好ましくは1μm以下であってもよい。
【0059】
(複屈折誘起材料層形成工程)
複屈折誘起材料層形成工程では、まず、基材の上に形成された多官能イソシアネート基含有化合物層に対して、さらに、複屈折誘起材料を含む塗布液を調製し、前記多官能イソシアネート基含有化合物層の塗工面に対して塗布する。なお、塗布液は、前記複屈折誘起材料を、一般的な溶剤に希釈したものであってもよい。溶剤は、多官能イソシアネート基含有化合物層を形成する際に例示した各種溶剤であってもよい。
【0060】
次いで、塗布された複屈折誘起材料に対して複屈折を誘起させる処理をおこなって、分子配向を制御することにより、複屈折誘起材料層を形成することができる。
分子配向を制御できるかぎり、複屈折を誘起させる処理は特に限定されないが、通常、複屈折誘起材料に対して光照射と加熱冷却処理を行うことにより、複屈折を誘起させることが可能である。特に、光照射および加熱処理を行う場合、多官能イソシアネート基含有化合物と複屈折誘起材料との結合性を強化させることが可能である。
【0061】
例えば、照射される光は、感光性基の部分が反応し得る波長の光であれば特に限定されず、複屈折誘起材料層の側鎖の種類によっても異なるが、光の波長は、一般に200〜500nmであり、中でも250〜400nmの有効性が高い場合が多い。光照射により、複屈折が誘起される。
次いで、必要に応じてさらに複屈折誘起材料層を加熱してもよい。加熱することにより、複屈折誘起材料層内において分子運動がおこり、光反応を起こさなかった重合体の側鎖(および液晶性化合物)は、光反応した側鎖と同じ方向に再配向する。その結果、層全体において、複屈折性が誘起された光配向領域が形成される。加熱温度は、例えば、100〜140℃程度、好ましくは110〜130℃程度であってもよい。また、加熱後、例えば、−10〜−0.5℃/mim、好ましくは−5〜−1℃/mimにて、徐冷するのが好ましい。徐冷後の温度は、例えば、20〜60℃程度、好ましくは30〜50℃程度であってもよい。
【0062】
(光学位相差フィルム)
このようにして得られた光学位相差フィルムは、複屈折特性を維持しつつも、複屈折誘起材料層と基材層との一体性に優れているため、例えば、65℃・RH95%において、少なくとも1000時間放置した後に、100マス碁盤目試験法(JIS K5400、1990年)による塗膜剥離テストを行った場合の剥離性が、80/100〜100/100程度であることが可能であり、好ましくは85/100〜100/100程度、より好ましくは90/100〜100/100程度であることが可能である。
【実施例】
【0063】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明する。但し、本発明のその要旨に変更がない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0064】
(単量体1)
4,4’−ビフェニルジオールと2−クロロエタノールを、アルカリ条件下で加熱することにより、4−ヒドロキシ−4’−ヒドロキシエトキシビフェニルを合成した。この生成物に、アルカリ条件下で1,6−ジブロモヘキサンを反応させ、4−(6−ブロモヘキシルオキシ)−4’−ヒドロキシエトキシビフェニルを合成した。次いで、リチウムメタクリレートを反応させ、4−(6−メタクリロイルオキシヘキシルオキシ)−4’−ヒドロキシエトキシビフェニルを合成した。更に、塩基性の条件下において、塩化シンナモイルを加え、下記式(8)で示される単量体1を合成した。
【0065】
【化8】
【0066】
(単量体2)
4,4’−ビフェニルジオールと2−クロロエタノールを、アルカリ条件下で加熱することにより、4−ヒドロキシ−4’−ヒドロキシエトキシビフェニルを合成した。この生成物に、アルカリ条件下で1,6−ジブロモヘキサンを反応させ、4−(6−ブロモヘキシルオキシ)−4’−ヒドロキシエトキシビフェニルを合成した。次いで、リチウムメタクリレートを反応させ、4−ヒドロキシエトキシ−4’−(6−メタクリロイルヘキシルオキシ)ビフェニルを合成した。最後に、塩基性の条件下において、3−(1−ナフチル)アクリロイルクロライドを加え、化学式9に示される単量体2を合成した。
【0067】
【化9】
(重合体1)
単量体1とその合成中間体である4−(6−メタクリロイルヘキシルオキシ)−4’−ヒドロキシエトキシビフェニルをモル比8:2でテトラヒドロフラン中に溶解し、反応開始剤としてAIBN(アゾビスイソブチロニトリル)を添加して重合することにより感光性の重合体1を得た。この重合体1は液晶性を呈した。
【0068】
(重合体2)
単量体2とその合成中間体である4−(6−メタクリロイルヘキシルオキシ)−4’−ヒドロキシエトキシビフェニルをモル比8:2でテトラヒドロフラン中に溶解し、反応開始剤としてAIBN(アゾビスイソブチロニトリル)を添加して重合することにより感光性の重合体2を得た。この重合体2は液晶性を呈した。
【0069】
(低分子化合物1)
4,4’−ビフェニルジオールと6−ブロモヘキサノールを、アルカリ条件下で反応させ、4,4’− ビス(6−ブロモヘキシルオキシ)ビフェニルを合成した。次いで、塩基性の条件下において、メタクリル酸クロライドを加え反応させ、生成物を再結晶することにより化学式10に示される低分子化合物1を合成した。
【0070】
【化10】
〔実施例1〕
光学フィルム用透明基材として、UV表面改質器(センエンジニアリング株式会社製 PM406N−1)にて1分間処理した厚み50μmのトリアセチルセルロースフィルム(TAC)基材上に、多官能イソシアネート基含有化合物層として日本ポリウレタン製「コロネート L−55E(トリレンジイソシアネートのトリメチロールプロパン付加物)」をトルエンに対して5wt%にて希釈溶解させたものを4000rpm・5secにてスピンコートし、120℃にて3分間乾燥硬化させた。乾燥硬化後の多官能イソシアネート基含有化合物層の膜厚は約0.5μmであった。
【0071】
その後、この多官能イソシアネート基含有化合物層上に、トルエン/シクロヘキサノン=9/1の溶媒に対して17重量%の重合体1と3重量%の低分子化合物1を溶解したものを、1500rpm・5secにてスピンコートし、60℃にて3分間乾燥させた。
【0072】
乾燥後の複屈折誘起材料層の膜厚は約3μmであった。続いて、偏光UV照射を行い、加熱徐冷(120℃に加熱後40℃まで約―2℃/minにて徐冷)による配向処理及び非偏光UV照射による配向固定処理を行い、厚みが約54μmの光学位相差フィルムサンプルを得た。この光学位相差フィルムの複屈折誘起材料層に対して、100マス碁盤目試験法(JIS K5400;1990年)による塗膜剥離テストを行った結果、耐湿熱試験(65℃・RH95%、1000時間)の前後において100/100であった。また、この光学位相差フィルムの複屈折誘起材料層における複屈折特性に問題は見られなかった。
【0073】
〔実施例2〕
光学フィルム用透明基材として、コロナ表面処理器にて3kw・ラインスピード15m/minにて処理した厚み50μmのトリアセチルセルロースフィルム(TAC)基材上に、実施例1と同様の方法にて多官能イソシアネート基含有化合物層と複屈折誘起材料層を形成し、厚みが約54μmの光学位相差フィルムを得た。この光学位相差フィルムの複屈折誘起材料層に対して、100マス碁盤目試験法(JIS K5400;1990年)による塗膜剥離テストを行った結果、耐湿熱試験(65℃・RH95%、1000時間)の前後において100/100であった。また、この光学位相差フィルムの複屈折誘起材料層における複屈折特性に問題は見られなかった。
【0074】
〔実施例3〕
光学フィルム用透明基材として、5wt%ホウ酸水溶液中にて3分間延伸架橋した厚み60μmのポリビニルアルコールフィルム(PVA)基材上に、特許文献2に記載の複屈折誘起材料をトルエン/シクロヘキサノン=9/1の溶媒に対して20wt%にて溶解させたものを、1500rpm・5secにてスピンコートし、60℃にて3分間乾燥させた。乾燥後の複屈折誘起材料層の膜厚は約3μmであった。
【0075】
続いて、偏光UV照射を行い、加熱徐冷(120℃に加熱後40℃まで約―2℃/minにて徐冷)による配向処理及び非偏光UV照射による配向固定処理を行い、厚みが約64μmの光学位相差フィルムを得た。この光学位相差フィルムの複屈折誘起材料層に対して、100マス碁盤目試験法(JIS K5400;1990年)による塗膜剥離テストを行った結果、耐湿熱試験(65℃・RH95%、1000時間)の前後において100/100であった。また、この光学位相差フィルムの複屈折誘起材料層における複屈折特性に問題は見られなかった。
【0076】
〔実施例4〕
光学フィルム用透明基材として、UV表面改質器(センエンジニアリング株式会社製 PM406N−1)にて1分間処理した厚み50μmのトリアセチルセルロースフィルム(TAC)基材上に、多官能イソシアネート基含有化合物層として日本ポリウレタン製「コロネート L−55E(トリレンジイソシアネートのトリメチロールプロパン付加物)」をトルエンに対して5wt%にて希釈溶解させたものを4000rpm・5secにてスピンコートし、120℃にて3分間乾燥硬化させた。乾燥硬化後の多官能イソシアネート基含有化合物層の膜厚は約0.5μmであった。
【0077】
その後、この多官能イソシアネート基含有化合物層上に、トルエン/シクロヘキサノン=9/1の溶媒に対して17重量%の重合体2と3重量%の低分子化合物1を溶解したものを、1500rpm・5secにてスピンコートし、60℃にて3分間乾燥させた。
【0078】
乾燥後の複屈折誘起材料層の膜厚は約3μmであった。続いて、偏光UV照射を行い、加熱徐冷(120℃に加熱後40℃まで約―2℃/minにて徐冷)による配向処理及び非偏光UV照射による配向固定処理を行い、厚みが約54μmの光学位相差フィルムサンプルを得た。この光学位相差フィルムの複屈折誘起材料層に対して、100マス碁盤目試験法(JIS K5400;1990年)による塗膜剥離テストを行った結果、耐湿熱試験(65℃・RH95%、1000時間)の前後において100/100であった。また、この光学位相差フィルムの複屈折誘起材料層における複屈折特性に問題は見られなかった。
【0079】
〔実施例5〕
光学フィルム用透明基材として、コロナ表面処理器にて3kw・ラインスピード15m/minにて処理した厚み50μmのトリアセチルセルロースフィルム(TAC)基材上に、実施例1と同様の方法にて多官能イソシアネート基含有化合物層と複屈折誘起材料層を形成し、厚みが約54μmの光学位相差フィルムを得た。この光学位相差フィルムの複屈折誘起材料層に対して、100マス碁盤目試験法(JIS K5400;1990年)による塗膜剥離テストを行った結果、耐湿熱試験(65℃・RH95%、1000時間)の前後において100/100であった。また、この光学位相差フィルムの複屈折誘起材料層における複屈折特性に問題は見られなかった。
【0080】
〔実施例6〕
光学フィルム用透明基材として、5wt%ホウ酸水溶液中にて3分間延伸架橋した厚み60μmのポリビニルアルコールフィルム(PVA)基材上に、特許文献2に記載の複屈折誘起材料をトルエン/シクロヘキサノン=9/1の溶媒に対して20wt%にて溶解させたものを、1500rpm・5secにてスピンコートし、60℃にて3分間乾燥させた。乾燥後の複屈折誘起材料層の膜厚は約3μmであった。
【0081】
続いて、偏光UV照射を行い、加熱徐冷(120℃に加熱後40℃まで約―2℃/minにて徐冷)による配向処理及び非偏光UV照射による配向固定処理を行い、厚みが約64μmの光学位相差フィルムを得た。この光学位相差フィルムの複屈折誘起材料層に対して、100マス碁盤目試験法(JIS K5400;1990年)による塗膜剥離テストを行った結果、耐湿熱試験(65℃・RH95%、1000時間)の前後において100/100であった。また、この光学位相差フィルムの複屈折誘起材料層における複屈折特性に問題は見られなかった。
【0082】
〔比較例1〕
塗布用基材(剥離用基材)として、厚み125μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(PET)基材上に、特許文献3に記載の複屈折誘起材料をトルエン/シクロヘキサノン=9/1の溶媒に対して20wt%にて溶解させたものを、1500rpm・5secにてスピンコートし、60℃にて3分間乾燥させた。乾燥後の複屈折誘起材料層の膜厚は約3μmであった。続いて、偏光UV照射と加熱徐冷による配向処理及び非偏光UV照射による配向固定処理を行った。
【0083】
その後、複屈折誘起材料層と厚み50μmのトリアセチルセルロースフィルム(TAC)基材とを、厚み25μmの粘着材を介して貼合し、複屈折誘起材料層塗布時の基材であるポリエチレンテレフタレートフィルムを剥離することにより光学フィルム用透明基材への転写を行い、厚みが約78μmの光学位相差フィルムを得た。この光学位相差フィルムの複屈折誘起材料層に対して、100マス碁盤目試験法(JIS K5400;1990年)による塗膜剥離テストを行った結果、耐湿熱試験(65℃・RH95%、1000時間)の前後において100/100であった。また、この光学位相差フィルムの複屈折誘起材料層における複屈折特性に問題は見られなかった。
【0084】
〔比較例2〕
光学フィルム用透明基材として、未処理の厚み50μmのトリアセチルセルロースフィルム(TAC)基材上に、実施例1と同様の方法にて多官能イソシアネート基含有化合物層と複屈折誘起材料層を形成し、厚みが約54μmの光学位相差フィルムを得た。この光学位相差フィルムの複屈折誘起材料層に対して、100マス碁盤目試験法(JIS K5400;1990年)による塗膜剥離テストを行った結果、耐湿熱試験(65℃・RH95%、1000時間)の前後において0/100であった。また、この光学位相差フィルムの複屈折誘起材料層における複屈折特性は実施例1に比べて約85%の性能であった。
【0085】
〔比較例3〕
光学フィルム用透明基材として、UV表面改質器(センエンジニアリング株式会社製 PM406N−1)にて1分間処理した厚み50μmのトリアセチルセルロースフィルム(TAC)基材上に、特許文献3に記載の複屈折誘起材料をトルエン/シクロヘキサノン=9/1の溶媒に対して20wt%にて溶解させたものを、1500rpm・5secにてスピンコートし、60℃にて3分間乾燥させた。乾燥後の複屈折誘起材料層の膜厚は約3μmであった。
【0086】
続いて、偏光UV照射と加熱徐冷による配向処理及び非偏光UV照射による配向固定処理を行い、厚みが約53μmの光学位相差フィルムを得た。この光学位相差フィルムの複屈折誘起材料層に対して、100マス碁盤目試験法(JIS K5400;1990年)による塗膜剥離テストを行った結果、耐湿熱試験(65℃・RH95%、1000時間)の前後において0/100であった。また、この光学位相差フィルムの複屈折誘起材料層における複屈折特性に問題は見られなかった。
【0087】
〔比較例4〕
光学フィルム用透明基材として、コロナ表面処理器にて3kw・ラインスピード15m/minにて処理した厚み50μmのトリアセチルセルロースフィルム(TAC)基材上に、比較例3と同様の方法にて複屈折誘起材料層を形成し、光学位相差フィルムを作製した。この光学位相差フィルムの複屈折誘起材料層に対して、100マス碁盤目試験法(JIS K5400;1990年)による塗膜剥離テストを行った結果、耐湿熱試験(65℃・RH95%、1000時間)の前後において0/100であった。また、この光学位相差フィルムの複屈折誘起材料層における複屈折特性に問題は見られなかった。
【0088】
〔比較例5〕
光学フィルム用透明基材として、予め、けん化処理された厚み50μmのトリアセチルセルロースフィルム(TAC)基材上に、実施例1と同様の方法にて多官能イソシアネート基含有化合物層と複屈折誘起材料層を形成し、光学位相差フィルムを作製した。この光学位相差フィルムの複屈折誘起材料層に対して、100マス碁盤目試験法(JIS K5400;1990年)による塗膜剥離テストを行った結果、耐湿熱試験(65℃・RH95%、1000時間)の前後において0/100であった。また、この光学位相差フィルムの複屈折誘起材料層における複屈折特性に問題は見られなかった。
【0089】
〔比較例6〕
光学フィルム用透明基材として、5wt%ホウ酸水溶液中にて3分間延伸架橋した厚み60μmのポリビニルアルコール(PVA)基材上に、比較例3と同様の方法にて複屈折誘起材料層を形成し、光学位相差フィルムを作製した。この光学位相差フィルムの複屈折誘起材料層に対して、100マス碁盤目試験法(JIS K5400;1990年)による塗膜剥離テストを行った結果、耐湿熱試験(65℃・RH95%、1000時間)の前後において0/100であった。また、この光学位相差フィルムの複屈折誘起材料層における複屈折特性に問題は見られなかった。
【0090】
実施例および比較例で得られた結果を表1に示す。
【0091】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0092】
以上のように、本発明では、フィルム基材に対して強固に結合した複屈折誘起材料層を有する光学位相差フィルムを、簡便な方法により得ることが可能であり、このような光学位相差フィルムは、各種液晶表示装置への視野角拡大フィルムや画質向上フィルムなどとして好適に用いることができる。
【0093】
以上の通り、図面を参照しながら本発明の好適な実施形態を説明したが、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、種々の追加、変更または削除が可能であり、そのようなものも本発明の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0094】
1: トリアセチルセルロースフィルム基材
2: 多官能イソシアネート基含有化合物層
3: 複屈折誘起材料層
4: 光学位相差フィルム
11: トリアセチルセルロースフィルム基材
12: UV表面改質面
13: 多官能イソシアネート基含有化合物層
14: 複屈折誘起材料層
15: 光学位相差フィルム
21: トリアセチルセルロースフィルム基材
22: コロナ放電処理面
23: 多官能イソシアネート基含有化合物層
24: 複屈折誘起材料層
25: 光学位相差フィルム
31: ポリビニルアルコールフィルム基材
32: 多官能イソシアネート基含有化合物層
33: 複屈折誘起材料層
34: 光学位相差フィルム
41: トリアセチルセルロースフィルム基材
42: 粘着材層
43: 複屈折誘起材料層
44: 塗布用ポリエチレンナフタレートフィルム基材(剥離基材)
45: 光学位相差フィルム
図1
図2
図3
図4
図5