(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0017】
(第1実施形態)
図1〜3により、本発明の第1実施形態を説明する。本実施形態では、本発明の逆流防止構造300を有する圧縮機1を、ヒートポンプ式給湯機にて給湯水を加熱するヒートポンプサイクル100に適用している。なお、
図1における上下の各矢印は、圧縮機1をヒートポンプ式給湯機に搭載した状態における上下の各方向を示している。
【0018】
このヒートポンプサイクル100は、圧縮機1の圧縮室15にて昇圧過程の冷媒にサイクルの中間圧気相冷媒を合流させるガスインジェクションサイクル(エコノマイザ式冷凍サイクル)として構成されている。より具体的には、ヒートポンプサイクル100は、
図1に示すように、圧縮機1、水−冷媒熱交換器2、第1膨張弁3、気液分離器4、第2膨張弁5、室外熱交換器6等を有して構成されている。
【0019】
水−冷媒熱交換器2は、圧縮機1の吐出ポート40aから吐出された冷媒と給湯水とを熱交換させて給湯水を加熱する加熱用熱交換器である。第1膨張弁3は、水−冷媒熱交換器2から流出した高圧冷媒を中間圧冷媒となるまで減圧させる高段側減圧手段であって、図示しない制御装置から出力される制御信号によってその作動が制御される電気式膨張弁である。
【0020】
気液分離器4は、第1膨張弁3にて減圧された中間圧冷媒の気液を分離する気液分離手段である。第2膨張弁5は、気液分離器4の液相冷媒流出口から流出した中間圧液相冷媒を低圧冷媒となるまで減圧させる低段側減圧手段であって、その基本的構成は第1膨張弁3と同様である。室外熱交換器6は、第2膨張弁5にて減圧された低圧冷媒を外気と熱交換させて蒸発させる吸熱用熱交換器である。
【0021】
室外熱交換器6の冷媒出口側には、圧縮機1の吸入ポート30aが接続され、気液分離器4の気相冷媒流出口には、圧縮機1の中間圧流入ポート(流入ポート)30bが接続されている。従って、本実施形態では、気液分離器4にて分離された中間圧気相冷媒が圧縮機1の圧縮室15にて昇圧過程の冷媒にインジェクションされる。
【0022】
また、本実施形態のヒートポンプサイクル100では、冷媒として二酸化炭素を採用しており、圧縮機1の吐出ポートから第1膨張弁3入口側へ至るサイクルの高圧側冷媒の圧力が臨界圧力以上となる超臨界冷凍サイクルを構成している。さらに、冷媒には、圧縮機1内部の各摺動部位を潤滑するオイル(冷凍機油)が混入されており、このオイルの一部は冷媒とともにサイクルを循環している。
【0023】
なお、ヒートポンプ式給湯機は、ヒートポンプサイクル100の他に、水−冷媒熱交換器2にて加熱された給湯水を貯湯する貯湯タンク、貯湯タンクと水−冷媒熱交換器2との間で給湯水を循環させる給湯水循環回路、および給湯水循環回路に配置されて給湯水を圧送する水ポンプ(いずれも図示せず)等を有している。
【0024】
次に、圧縮機1の詳細構成を説明する。圧縮機1は、圧縮対象流体である冷媒を吸入し、圧縮して吐出する圧縮機構部10、この圧縮機構部10を駆動する電動機部(電動モータ部)20、圧縮機構部10および電動機部20を収容するハウジング30、並びに、ハウジング30の外部に配置されて圧縮機構部10にて圧縮された高圧冷媒からオイルを分離する油分離器40等を有して構成されている。
【0025】
さらに、この圧縮機1は、
図1に示すように、電動機部20から圧縮機構部10へ回転駆動力を伝達する駆動軸(シャフト)25が鉛直方向(上下方向)に延びて、圧縮機構部10と電動機部20が鉛直方向に配置された、いわゆる縦置きタイプに構成されている。より具体的には、本実施形態では、圧縮機構部10が電動機部20の下方側に配置されている。
【0026】
まず、ハウジング30は、中心軸が鉛直方向に延びる筒状部材31、筒状部材31の上端部を塞ぐ椀状の上蓋部材32および筒状部材31の下端部を塞ぐ椀状の下蓋部材33を有し、これらを一体に接合して密閉容器構造としたものである。筒状部材31、上蓋部材32および下蓋部材33は、いずれも鉄で形成されており、これらは溶接にて接合されている。
【0027】
また、ハウジング30には、室外熱交換器6から流出した低圧冷媒を圧縮機構部10へ吸入させる吸入ポート30a、気液分離器4の気相冷媒流出口から流出した中間圧気相冷媒を流入させて、圧縮機構部10の圧縮室15にて圧縮過程の冷媒に合流させる中間圧流入ポート(流入ポート)30b、さらに、圧縮機構部10から吐出された高圧冷媒をハウジング30の外部に配置された油分離器40側へ流出させる図示しない冷媒流出口等が形成されている。
【0028】
次に、電動機部20は、固定子をなすコイルステータ21と回転子をなすロータ22とを有して構成されている。このロータ22の軸中心穴にはシャフト25が圧入により固定されている。従って、制御装置からコイルステータ21のコイルへ電力が供給されて回転磁界が発生すると、ロータ22およびシャフト25が一体となって回転する。
【0029】
シャフト25は略円筒状に形成されており、その両端部は、それぞれすべり軸受けにて構成された第1軸受部26、第2軸受部27に回転可能に支持されている。また、シャフト25の内部には、シャフト25の外表面と第1、第2軸受部26、27との摺動部位にオイルを供給するための油供給通路25aが形成されている。
【0030】
なお、第1軸受部26は、ハウジング30内の空間を電動機部20の配置空間と圧縮機構部10の配置空間とに仕切るミドルハウジング28に形成されて、シャフト25の下端側(圧縮機構部10側)を支持している。また、第2軸受部27は、介在部材を介してハウジング30の筒状部材31に固定されて、シャフト25の上端側(圧縮機構部10の反対側)を支持している。
【0031】
次に、圧縮機構部10は、それぞれ渦巻き状に形成された歯部を有する可動スクロール11および固定スクロール12からなるスクロール型の圧縮機構で構成されている。可動スクロール11は、前述のミドルハウジング28の下方側に配置され、さらに、固定スクロール12は、可動スクロール11の下方側に配置されている。
【0032】
可動スクロール11および固定スクロール12は、それぞれ円板状の基板部111、121を有しており、双方の基板部111、121は、互いに鉛直方向に対向するように配置されている。さらに、固定スクロール12の基板部121の外周側は、ハウジング30の筒状部材31に固定されている。
【0033】
可動スクロール11の基板部111の上面側の中心部には、シャフト25の下端部が挿入される円筒状のボス部113が形成されている。シャフト25の下端部は、シャフト25の回転中心に対して偏心した偏心部25bになっている。従って、可動スクロール11の基板部111の上面側には、シャフト25の偏心部25bが挿入されている。
【0034】
さらに、可動スクロール11およびミドルハウジング28の間には、可動スクロール11が偏心部25b周りに自転することを防止する図示しない自転防止機構が設けられている。このため、シャフト25が回転すると、可動スクロール11は偏心部25b周りに自転することなく、シャフト25の回転中心を公転中心として公転運動(旋回)する。
【0035】
また、可動スクロール11には、基板部111から固定スクロール12側に向かって突出する渦巻き状の歯部112が形成されている。一方、固定スクロール12には、基板部121から可動スクロール11側に向かって突出するとともに、可動スクロール11の歯部112に噛み合う渦巻き状の歯部122が形成されている。
【0036】
そして、両スクロール11、12の歯部112、122同士が噛み合って複数箇所で接触することによって、回転軸方向から見たときに三日月形状に形成される圧縮室15が複数個形成される。なお、
図1では図示の明確化のため、複数個の圧縮室15のうち1つの圧縮室のみに符号を付しており、他の圧縮室については符号を省略している。
【0037】
これらの圧縮室15は、可動スクロール11が公転運動することによって外周側から中心側へ容積を減少させながら移動する。従って、吸入ポート30aは、最外周側に位置付けられる圧縮室15に連通している。さらに、中間圧流入ポート30bは、最外周側から中心側へ移動する過程の中間位置に位置付けられる圧縮室15に連通している。
【0038】
なお、
図1から明らかなように、吸入ポート30aから最外周側に位置づけられる圧縮室15へ至る吸入用の冷媒通路、および中間圧流入ポート30bから中間位置に位置づけられる圧縮室15へ至るインジェクション用の冷媒通路は、いずれも固定スクロール12の基板部121の内部に形成されている。
【0039】
さらに、中間圧流入ポート30bから中間位置の圧縮室15へ至る冷媒通路には、圧縮室15側から中間圧流入ポート30b側へ冷媒が逆流することを防止するための逆流防止構造300が設けられている。この逆流防止構造300の詳細構成については後述する。
【0040】
固定スクロール12側の基板部121の中心部には、圧縮室15で圧縮された冷媒が吐出される吐出孔123が形成されている。さらに、吐出孔123の下方側には、吐出孔123と連通する吐出室124が形成されている。この吐出室124には、吐出室124側から圧縮室15側への冷媒の逆流を防止する逆止弁をなすリード弁と、リード弁の最大開度を規制するストッパ16が配置されている。
【0041】
また、ハウジング30の内部には、吐出室124からハウジング30に形成された冷媒流出口へ導く図示しない冷媒通路が形成されている。さらに、この冷媒流出口には油分離器40の冷媒流入口40bが接続されている。油分離器40は、鉛直方向に延びる筒状部材41を有し、その内部に形成された空間で圧縮機構部10にて昇圧された冷媒を旋回させ、遠心力の作用によって気相冷媒とオイルとを分離する。
【0042】
油分離器40にて分離された高圧気相冷媒は、油分離器40の上方側に形成された吐出ポート40aから水−冷媒熱交換器2側へ流出する。一方、油分離器40にて分離されたオイルは、油分離器40の下方側の部位に蓄えられ、さらに、図示しない油通路を介してハウジング30内の圧縮機構部10やシャフト25と第1、第2軸受部26、27との摺動部等へ供給される。
【0043】
次に、
図2を用いて本実施形態の逆流防止構造300の詳細構成を説明する。前述の如く、中間圧流入ポート30bは、最外周側から中心側へ移動する過程の中間位置に位置付けられる圧縮室15に連通している。
【0044】
このため、中間圧流入ポート30b側の中間圧気相冷媒の圧力P2が、圧縮室15側の冷媒圧力P1よりも高い時には、中間圧気相冷媒を圧縮室15内へインジェクションすることができる。ところが、圧縮室15側の冷媒圧力P1が中間圧流入ポート30b側の中間圧気相冷媒の圧力P2よりも高くなってしまうと圧縮室15側から中間圧流入ポート30b側へ冷媒が逆流してしまう。
【0045】
このような逆流は、ヒートポンプサイクル100の成績係数(COP)を悪化させてしまう原因となる。そこで、本実施形態では、中間圧流入ポート30bから圧縮室15へ至るインジェクション用の冷媒通路に逆流防止構造300を設けることによって、圧縮室15側から中間圧流入ポート30b側へ冷媒が逆流してしまうことを防止している。
【0046】
具体的には、逆流防止構造300は、インジェクション用の冷媒通路内に形成された逆止弁室301、逆止弁室301内で変位してインジェクション用の冷媒通路を開閉するフリーバルブ302、逆止弁室301内に配置されてフリーバルブ302を収容するケース303等によって構成されている。
【0047】
逆止弁室301は、略円柱状の空間として形成され、その中心軸が水平方向に延びるように配置されている。さらに、逆止弁室301を形成する円柱状空間の軸方向一端側(圧縮機1の中心軸側)の底面には、逆止弁室301と圧縮室15とを連通させる圧縮室側通路400が接続されている。
【0048】
ケース303は、鉄(具体的には、S45C)にて略円筒状に形成されたケーシング部303aおよびストッパ部303bによって構成されている。ケーシング部303aは、その中心軸が逆止弁室301と同軸上に配置された状態で、逆止弁室301内に圧入固定されている。さらに、ストッパ部303bは、その中心軸がケーシング部303aと同軸上に配置された状態で、ケーシング部303a内に圧入固定されている。
【0049】
ケーシング部303aの軸方向一端側には、フリーバルブ302がインジェクション用の冷媒通路を開く側に変位した際に当接する底面303cが設けられている。この底面303cにはケース303の内部空間と圧縮室側通路400とを連通させる連通穴303dが形成されている。
【0050】
一方、ストッパ部303bの軸方向一端側には、フリーバルブ302がインジェクション用の冷媒通路を閉じる側に変位した際に当接する当接部303eが設けられている。なお、
図2では、フリーバルブ302が当接部303eに当接し、インジェクション用の冷媒通路を閉じた状態を図示している。さらに、ストッパ304の内部空間は、逆止弁室301と中間圧流入ポート30bとを連通させる流入ポート側通路401の一部を形成している。
【0051】
フリーバルブ302は、銅(具体的には、C3604BD)にて略円柱状に形成され、その中心軸がケース303と同軸上に配置された状態で、ケース303内を中心軸方向に摺動可能に配置されている。換言すると、フリーバルブ302の外径寸法とケース303のケーシング部303aの内径寸法は隙間バメの寸法関係になっている。
【0052】
さらに、フリーバルブ302には、軸方向の延びる軸方向穴302a、径方向に延びる径方向穴302b、および円柱状の周側面に形成された溝302cによって、フリーバルブ302がインジェクション用の冷媒通路を開いた際に冷媒を流通させるバルブ側通路302dが形成されている。
【0053】
また、本実施形態では、フリーバルブ302に形成されたバルブ側通路302dの通路断面積をS1とし、圧縮室側通路400の通路断面積をS2としたときに、S1がS2よりも小さくなるように形成している。より詳細には、以下数式F1を満足するように形成している。
0.1≦S1/S2≦0.9…(F1)
なお、上記のS1、S2としては、それぞれの冷媒通路における最小通路断面積を採用すればよい。また、ケース303のケーシング部303aの底面303cに設けられた連通穴303dの通路断面積は圧縮室側通路400の通路断面積S2よりも大きく形成されている。また、上記数式F1の下限値(0.1)は、以下の理由で決定されている。
【0054】
つまり、バルブ側通路302dの通路断面積S1がインジェクション用の冷媒通路のうち最小通路面積になっており、圧縮室側通路400の通路断面積S2がインジェクション用の冷媒通路のうち最大通路面積になっているとしたときに、インジェクション用の冷媒通路を流れる冷媒の流量は、最小通路面積であるバルブ側通路302dの通路断面積S1によって決定される。
【0055】
従って、S1は、以下数式F2に示すように、インジェクションに必要な流量の冷媒を流すことができる通路断面積以上にしておく必要がある。
(必要流量を確保できる通路断面積)≦S1<S2…(F2)
また、圧縮室側通路400は、可動スクロール11の歯部112によって開閉されるため、S2の通路径は、以下数式F3に示すように、可動スクロール11の歯部112の径方向の厚み(歯厚)寸法よりも小さくしておく必要がある。
S1<S2≦(歯部112の歯厚を直径とする円の面積)…(F3)
すると、上記数式F1のS1/S2の下限値は、(必要流量を確保できる通路断面積/歯部112の歯厚を直径とする円の面積)で決定され、本発明者らの検討によれば、具体的に0.1となる。
【0056】
次に、上記構成における本実施形態の圧縮機1の作動を説明する。圧縮機1の電動機部20に電力が供給されてロータ22およびシャフト25が回転すると、可動スクロール11がシャフト25に対して公転運動(旋回運動)する。これにより、可動スクロール11側の歯部112と固定スクロール12側の歯部122との間に形成された三日月状の圧縮室15が外周側から中心側へ旋回しながら移動していく。
【0057】
最外周側に位置付けられて吸入ポート30aに連通する圧縮室15には、吸入ポート30aを介して室外熱交換器6から流出した低圧冷媒が流入する。低圧冷媒が流入した圧縮室15は、シャフト25の回転に伴って、その容積を縮小させながら中間圧流入ポート30bに連通する位置へ移動する。
【0058】
この際、圧縮室15側の冷媒圧力P1よりも中間圧流入ポート30b側の中間圧気相冷媒の圧力P2が高くなっている状態では、圧縮室15側の冷媒圧力P1と中間圧流入ポート30b側の冷媒圧力P2との圧力差によって、逆流防止構造300のフリーバルブ302が逆止弁室301の一端側(ケーシング部303aの底面303c側)へ変位する。
【0059】
これにより、インジェクション用の冷媒通路が開き、中間圧流入ポート30bから流入ポート側通路401を介して逆止弁室301へ流入した中間圧気相冷媒が、ストッパ303bの内部空間→フリーバルブ302に形成されたバルブ側通路302d→ケーシング部303aの連通穴303d→圧縮室側通路400の順に流れて、圧縮室15へインジェクションされる。
【0060】
さらに、シャフト25が回転して圧縮室15の容積が縮小し、圧縮室15側の冷媒圧力P1が中間圧流入ポート30b側の中間圧気相冷媒の圧力P2を上回ると、圧縮室15側の冷媒圧力P1と中間圧流入ポート30b側の冷媒圧力P2との圧力差によって、逆流防止構造300のフリーバルブ302が逆止弁室301の他端側(ストッパ部303bの当接部303e側)へ変位する。
【0061】
これにより、インジェクション用の冷媒通路が閉じられ、圧縮室15側から中間圧流入ポート30b側へ冷媒が逆流してしまうことが防止される。さらに、シャフト25が回転して圧縮室15が中心側へ移動して固定スクロール12の吐出孔123へ連通すると、圧縮室15にて圧縮された高圧冷媒が油分離器40を介して吐出ポート40aから水−冷媒熱交換器2側へ流出する。
【0062】
本実施形態の圧縮機1は、上記の如く作動して、ヒートポンプサイクル100において、冷媒を吸入し、圧縮して吐出する機能を発揮する。また、本実施形態の圧縮機1の逆流防止構造300では、圧縮室15側の冷媒圧力P1と中間圧流入ポート30b側の冷媒圧力P2との差圧によってフリーバルブ302を変位させて、冷媒が圧縮室15側から中間圧流入ポート30b側へ逆流してしまうこと防止できる。
【0063】
さらに、本実施形態の逆流防止構造300によれば、バルブ側通路302dの通路断面積S1が圧縮室側通路400の通路断面積S2よりも小さくなっているので、バルブ側通路302dの通路断面積S1が圧縮室側通路400の通路断面積S2と同等以上に形成されている場合に対して、圧縮室15側の流体がバルブ側通路302dを介して中間圧流入ポート30b側へ流れる際の通路抵抗を大きくすることができる。
【0064】
従って、圧縮室15側の冷媒圧力P1が中間圧流入ポート30b側の冷媒圧力P2より上回った際に、圧縮室15側の冷媒圧力P1と中間圧流入ポート30b側の冷媒圧力P2との差圧が縮小しにくくなり、差圧によって変位するフリーバルブ302の応答性を向上させることができる。
【0065】
このことを
図3を用いて説明すると、バルブ側通路302dの通路断面積S1が圧縮室側通路400の通路断面積S2と同等以上に形成されている場合は、
図3の太破線に示すように、中間圧流入ポート30b側の冷媒圧力P2(具体的には、
図2の圧力測定点における圧力)が上昇して、圧縮室15側の冷媒圧力P1と中間圧流入ポート30b側の冷媒圧力P2との差圧が縮小してしまう。
【0066】
一方、本実施形態では、
図3の太実線に示すように、中間圧流入ポート30b側の冷媒圧力の上昇が抑制されるので、圧縮室15側の冷媒圧力P1と中間圧流入ポート30b側の冷媒圧力P2との差圧が縮小しにくくなる。
【0067】
その結果、フリーバルブ302が、ケーシング部303aの底面303cに当接した位置からストッパ部303bの当接部303eに当接する位置へ変位する際の応答性を向上させることができる。また、差圧によりフリーバルブ302がストッパ部303bの当接部303eへ押しつけられる力が大きくなることから、フリーバルブ302がインジェクション用の冷媒通路を閉じた際のシール性を向上させることもできる。
【0068】
さらに、本実施形態では、逆止弁室301およびフリーバルブ302を、それぞれ円柱状に形成し、中心軸を互いに同軸上に配置する構成を採用しているので、応答性を向上させた逆流防止構造を極めて容易に形成することができる。
【0069】
さらに、本実施形態では、フリーバルブ302をケーシング部303aへ嵌挿した状態で、ストッパ部303bを圧入固定することによって、フリーバルブ302とケース303を一体化(モジュール化)することができる。従って、逆流防止構造300を圧縮機1(より具体的には、固定スクロール12の基板部121)へ容易に組み付けることができる。
【0070】
(第2実施形態)
上述の実施形態では、ケース303を鉄銅(具体的には、S45C)で形成し、フリーバルブ302を銅銅(具体的には、C3604BD)で形成した例を説明したが、本実施形態では、ケース303の材質として制振鋼板を採用している。その他の構成および作動は第1実施形態と同様である。
【0071】
ここで、第1実施形態の如く、フリーバルブ302の応答性を向上させると、フリーバルブ302が変位してケーシング部303aの底面303cあるいはストッパ部303bの当接部303eに衝突する際の衝撃音が大きくなってしまい、逆流防止構造の作動音が増加してしまう。
【0072】
これに対して、フリーバルブ302をテフロン(登録商標)等の樹脂で形成して作動音を低減させる手段が考えられるものの、樹脂製のフリーバルブ302では摺動による摩耗が懸念される。そこで本実施形態では、ケース303を制振鋼板で形成することによって、
図4に示すように、樹脂製のフリーバルブを採用した場合と同等の騒音低減効果を得ている。
【0073】
本発明者らの検討によれば、具体的に、フリーバルブ302を樹脂にて形成し、ケース303を鉄にて形成すると第1実施形態に対して16%の騒音低減効果があり、フリーバルブを銅にて形成し、ケース303を制振鋼板にて形成すると第1実施形態に対して14%の騒音低減効果がある。
【0074】
さらに、圧縮機構を構成する固定スクロール12は比較的強度や耐摩耗性の高い材料(例えば、炭素鋼)で形成する必要があるので、制振鋼板で形成することは好ましくない。従って、本実施形態のように逆流防止構造300をモジュール化しておくことは、制振鋼板を用いた逆流防止構造300を圧縮機1に適用しやすいという点でも有効である。
【0075】
(他の実施形態)
本発明は上述の実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で、以下のように種々変形可能である。
【0076】
(1)上述の実施形態の圧縮機1では、圧縮機構部10をスクロール型の圧縮機構にて構成した例を説明したが、圧縮機構部10はこれに限定されない。例えば、可動部材の変位によって圧縮対象流体を圧縮する圧縮室の容積を縮小させる、レシプロ型の圧縮機構やロータリ型の圧縮機構で構成されていてもよい。
【0077】
(2)上述の実施形態では、フリーバルブ302を略円柱状の部材にて形成したが、フリーバルブ302の形状はこれに限定されない。例えば円錐台形状、球形状等に形成されていてもよい。また、フリーバルブ302は、圧縮室15側の冷媒圧力P1と中間圧流入ポート30b側の冷媒圧力P2との差圧によって作動するものであれば、位置決め用のスプリング等から荷重を受けるものであってもよい。
【0078】
(3)上述の実施形態では、フリーバルブ302に形成されるバルブ側通路302dをフリーバルブ302の軸方向あるいは径方向に延びる穴等を用いて形成した例を説明したが、バルブ側通路302dはこれに限定されない。例えば、フリーバルブ302の円柱状の周側面に形成された溝302cに代えて、円柱状の周側面の一部を削り落とすことによって形成される切り欠き面にてバルブ側通路302dを形成してもよい。
【0079】
(4)上述の実施形態では、フリーバルブ302とケース303を一体化(モジュール化)して逆流防止構造300を構成する例を説明したが、逆流防止構造300の構成はこれに限定されない。つまり、ケーシング部303aを廃止して、固定スクロール12に形成された逆止弁室301内に直接フリーバルブ302を嵌挿した状態で、ストッパ部303bを逆止弁室301に圧入固定する構成としてもよい。
【0080】
(5)上述の実施形態では、逆流防止構造300を圧縮室15から中間圧流入ポート30b側への冷媒の逆流を防止するために適用しているが、もちろん、逆流防止構造300は、圧縮室15から吸入ポート30a側への冷媒の逆流を防止するために適用してもよい。
【0081】
(6)上述の実施形態では、逆流防止構造300を縦置きタイプの圧縮機に適用した例を説明したが、もちろん、圧縮機構部10と電動機部20とを水平方向(横方向)に配置した横置きタイプの圧縮機に適用してもよい。また、本発明の逆流防止構造300を備える圧縮機の適用はヒートポンプサイクル(冷凍サイクル)に限定されない。