(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6059518
(24)【登録日】2016年12月16日
(45)【発行日】2017年1月11日
(54)【発明の名称】蓄熱方法、蓄熱装置および蓄熱システム
(51)【国際特許分類】
F28D 20/00 20060101AFI20161226BHJP
F28D 1/06 20060101ALI20161226BHJP
C09K 5/16 20060101ALI20161226BHJP
【FI】
F28D20/00 G
F28D1/06 A
C09K5/16
【請求項の数】9
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-259170(P2012-259170)
(22)【出願日】2012年11月27日
(65)【公開番号】特開2014-105925(P2014-105925A)
(43)【公開日】2014年6月9日
【審査請求日】2015年6月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000220262
【氏名又は名称】東京瓦斯株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】加藤 之貴
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 寛子
(72)【発明者】
【氏名】山岸 哲
【審査官】
横溝 顕範
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−216772(JP,A)
【文献】
特開平06−337139(JP,A)
【文献】
特開2001−296060(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F28D 1/06
F28D 20/00
C09K 5/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体化学蓄熱材を格納する蓄熱槽内に挿通されている熱交換用管内に、該固体化学蓄熱材の作動温度以上の気体を流すことにより、該固体化学蓄熱材に蓄熱する気体流通工程と、
該気体流通工程における、該熱交換用管の該蓄熱槽内での該気体の入口と出口とを逆転させる切替工程と、を包含していることを特徴とする蓄熱方法。
【請求項2】
上記熱交換用管が、U字形状を有していることを特徴とする請求項1に記載の蓄熱方法。
【請求項3】
上記蓄熱槽が、並列に配置された複数の分槽からなり、各分槽にそれぞれ上記熱交換用管が挿通されていることを特徴とする請求項1または2に記載の蓄熱方法。
【請求項4】
上記気体流通工程では、複数の上記熱交換用管内に並行して上記気体を流すことを特徴とする請求項3に記載の蓄熱方法。
【請求項5】
固体化学蓄熱材を格納する蓄熱槽内に挿通されている熱交換用管内に、該固体化学蓄熱材の作動温度以上の気体を流す気体流通工程と、
該気体流通工程における、該熱交換用管の該蓄熱槽内での該気体の入口と出口とを逆転させる切替工程と、
上記入口と上記出口との中間地点に隣接する部位における上記固体化学蓄熱材の温度を測定する測温工程と、を包含しており、
上記気体流通工程を開始した後、上記測温工程において測定した上記温度が予め定められた温度以上となったときに、上記切替工程を実行することを特徴とする蓄熱方法。
【請求項6】
上記切替工程を実行した後、上記測温工程において測定した上記温度が再度予め定められた温度以上となったときに、上記気体流通工程を終了することを特徴とする請求項5に記載の蓄熱方法。
【請求項7】
上記気体は、熱源装置からの排ガスであることを特徴とする請求項1〜6の何れか一項に記載の蓄熱方法。
【請求項8】
固体化学蓄熱材を格納する蓄熱槽と、
該蓄熱槽内に挿通されている熱交換用管と、
該熱交換用管内に、該固体化学蓄熱材の作動温度以上の気体を流すことにより、該固体化学蓄熱材に蓄熱する気体流通手段と、
該気体流通手段が該気体を流すときの、該熱交換用管の該蓄熱槽内での該気体の入口と出口とを逆転させる切替手段と、を備えていることを特徴とする蓄熱装置。
【請求項9】
請求項8に記載の蓄熱装置と、
熱源装置と、を備えており、
上記気体が、該熱源装置からの排ガスであることを特徴とする蓄熱システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄熱技術に関するものであり、特に、化学蓄熱材を利用する蓄熱技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
発電と同時に熱も供給するコージェネレーションシステムは、総合効率が高いシステムである。しかし、夜間などは熱需要が少なく、負荷バランスが良好でないことがある。そこで、熱需要が少ないときの排熱を有効活用するため、蓄熱材を用いた技術が開発されている。
【0003】
特許文献1〜8および非特許文献1には、蓄熱材を用いたコージェネレーションシステムおよび関連技術が記載されている。特に、非特許文献1には、蓄熱材として酸化マグネシウムを用い、ガスエンジンの排熱を用いて蓄熱材に蓄熱し、ガスエンジンのジャケット冷却水の熱を用いて蓄熱材に熱出力させる、効率の良いコージェネレーションシステムが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−214449号公報(2005年8月11日公開)
【特許文献2】特開平11−117713号公報(1999年4月27日公開)
【特許文献3】特開2011−218919号公報(2011年11月4日公開)
【特許文献4】特開2010−133427号公報(2010年6月17日公開)
【特許文献5】特開2011−190947号公報(2011年9月29日公開)
【特許文献6】特開2010−84604号公報(2010年4月15日公開)
【特許文献7】特開2009−36484号公報(2009年2月19日公開)
【特許文献8】特開平3−99142号公報(1991年4月24日公開)
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Yukitaka Kato, Akihiko Watanabe, Yoshio Yoshizawa; “A Chemical Heat Pump for Performance Enhancement of a Cogeneration System” TERRASTOCK2000, vol. 1, pp. 397-402, Stuttgart, Germany (1 September, 2000)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
但し、非特許文献1には、蓄熱材への蓄熱方法の詳細については記載されていない。非特許文献1に記載の技術のような固体化学蓄熱材を利用する蓄熱技術において、効率良く蓄熱するための技術を提供することは非常に有用である。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、固体化学蓄熱材を利用する蓄熱技術において、効率良く蓄熱を行うための技術を提供することを主たる課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らの独自の知見によれば、ガスエンジン等の排ガスを用いて、酸化マグネシウムのような固体化学蓄熱材に蓄熱するとき、単に、固体化学蓄熱材を格納する蓄熱槽内に排ガスを流すだけでは、排ガスの出口近くの温度が排ガスの入口近くの温度よりも低くなるため、固体化学蓄熱材が均一に加熱されず、有効に蓄熱されない固体化学蓄熱材の量が増加し、蓄熱の効率が低下する。そこで、本発明者らは鋭意検討を行い、蓄熱を行う際に、蓄熱槽内での排ガスの入口と出口とを所定のタイミングで逆転させることにより、固体化学蓄熱材に対する加熱を均一化して、蓄熱効率を高めることができることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明に係る蓄熱方法は、固体化学蓄熱材を格納する蓄熱槽内に挿通されている熱交換用管内に、該固体化学蓄熱材の作動温度以上の気体を流す気体流通工程と、該気体流通工程における、該熱交換用管の該蓄熱槽内での該気体の入口と出口とを逆転させる切替工程と、を包含していることを特徴としている。
【0010】
上記の構成によれば、固体化学蓄熱材の作動温度以上の気体を熱交換用管内に流すことによって、固体化学蓄熱材を加熱して蓄熱することができる。ここで、気体が熱交換用管内を流れるにつれ上記気体の熱が徐々に固体化学蓄熱材に奪われるため、出口に隣接する部位では、上記気体の温度が低くなり、出口に隣接する部位の固体化学蓄熱材に対してあまり熱を与えることができない。しかしながら、入口と出口とを逆転させる切替工程を実行することにより、元々の出口に隣接する部位にあり、あまり熱が与えられなかった固体化学蓄熱材に対しても十分な熱を与えることができるようになる。これにより、固体化学蓄熱材に対する加熱を均一化して、有効に蓄熱し得る固体化学蓄熱材の量を増加させ、蓄熱効率を高めることができる。
【0011】
本発明に係る蓄熱方法では、上記熱交換用管が、U字形状を有していることが好ましい。
【0012】
上記の構成によれば、熱交換用管がU字形状を有しているため、U字の底部は蓄熱槽内において遊動可能である。そのため、熱交換用管が熱膨張により変形したとしても、熱交換用管の破損を避けることができる。また、熱交換用管の入口および出口を蓄熱槽の片側に配置することができるため、上記切替工程を容易に実行することができる。なお、熱交換用管には、フィンが付加されていてもよい。
【0013】
本発明に係る蓄熱方法では、上記蓄熱槽が、並列に配置された複数の分槽からなり、各分槽にそれぞれ上記熱交換用管が挿通されていることが好ましい。
【0014】
上記の構成によれば、蓄熱槽を複数の分槽から構成し、各々に熱交換用管を挿通して加熱することにより、流路抵抗を低減することができると共に、蓄熱槽内の位置によって、最も近い熱交換用管からの距離が大きく違うような状態を避け、蓄熱槽内の固体化学蓄熱材をより均一に加熱することができる。
【0015】
本発明に係る蓄熱方法は、上記気体流通工程では、複数の上記熱交換用管内に並行して上記気体を流すことが好ましい。
【0016】
上記の構成によれば、複数の熱交換用管内に並行して気体を流すことにより、蓄熱槽内の固体化学蓄熱材をより均一に加熱することができる。
【0017】
本発明に係る蓄熱方法は、上記入口と上記出口との中間地点に隣接する部位における上記固体化学蓄熱材の温度を測定する測温工程を包含しており、上記気体流通工程を開始した後、上記測温工程において測定した上記温度が予め定められた温度以上となったときに、上記切替工程を実行するものであってもよい。
【0018】
上記の構成によれば、上記入口と上記出口との中間地点に隣接する部位における上記固体化学蓄熱材の温度は、上記蓄熱槽に十分な熱を与えられたかの指標となるため、当該温度に応じて切替工程を実行することにより、好適なタイミングで切替工程を実行することができる。
【0019】
ここで、上記の構成によれば、気体流通工程を開始した後、入口と出口の中間地点に隣接する部位における固体化学蓄熱材の温度が予め定められた温度以上となったとき切替工程を実行する。これにより、入口に隣接する部位から中間地点に隣接する部位までの固体化学蓄熱材に蓄熱された時点を見極め、熱交換用管の入口と出口を切り替えることで、既に脱水反応により吸熱し終えた入口に隣接する部位から中間地点に隣接する部位までの固体化学蓄熱材に気体の顕熱を奪われることなく、効率的に切替工程前の出口に隣接する部位(切替工程後の入口に隣接する部位)から中間地点に隣接する部位までの蓄熱材を加熱することができる。
【0020】
本発明に係る蓄熱方法では、上記切替工程を実行した後、上記測温工程において測定した上記温度が再度予め定められた温度以上となったときに、上記気体流通工程を終了するものであってもよい。
【0021】
上記の構成によれば、固体化学蓄熱材の全体に亘って十分に蓄熱を行うことができる。
【0022】
本発明に係る蓄熱方法では、上記気体は、熱源装置からの排ガスであることが好ましい。
【0023】
上記の構成によれば、熱源装置からの排熱を固体化学蓄熱材に効率良く蓄熱を行うことができる。
【0024】
本発明に係る蓄熱装置は、固体化学蓄熱材を格納する蓄熱槽と、該蓄熱槽内に挿通されている熱交換用管と、該熱交換用管内に、該固体化学蓄熱材の作動温度以上の気体を流す気体流通手段と、該気体流通手段が該気体を流すときの、該熱交換用管の該蓄熱槽内での該気体の入口と出口とを逆転させる切替手段と、を備えていることを特徴としている。また、本発明に係る蓄熱システムは、本発明に係る蓄熱装置と、熱源装置と、を備えており、上記気体が、該熱源装置からの排ガスであることを特徴としている。
【0025】
上記の構成によれば、本発明に係る蓄熱方法と同等の効果を奏する。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、固体化学蓄熱材に効率良く蓄熱を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明の一実施形態に係る蓄熱システムの概略構成を示すブロック図であり、(a)は、蓄熱モード時の状態を示し、(b)は、熱出力モード時の状態を示す。
【
図2】(a)は、本発明の一実施形態に係る蓄熱システムにおける蓄熱槽の詳細を示す模式図であり、(b)は、そのバリエーションを示す模式図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る蓄熱システムにおける熱交換用管内の気体の温度変化の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
(蓄熱システム)
図1は、本発明の一実施形態に係る蓄熱システム1の概略構成を示すブロック図であり、(a)は、蓄熱モード時の状態を示し、(b)は、熱出力モード時の状態を示す。
図1に示すように、蓄熱システム1は、ガスエンジン(熱源装置)10、蓄熱装置20およびボイラ50を備えている。
【0029】
ガスエンジン10は、電力および熱を発生させる発電装置である。これにより、蓄熱システム1は、電力および熱の両方を提供するコージェネレーションシステムとして機能する。発電装置として、ガスエンジン10の他、例えば、ガスタービン、ディーゼルエンジン、燃料電池セル等の公知の発電装置を用いることができる。発電装置の熱電比も特に限定されない。
【0030】
ただし、本実施形態に係る蓄熱システム1は、発電装置を備えたコージェネレーションシステムに限定されない。すなわち、蓄熱システム1は、排熱を含んだ排ガスを排出し、当該排ガスを介して蓄熱装置20に熱を与える熱源装置を備えていればよい。そのような熱源装置としては、発電装置以外に、これらに限定されないが、例えば、加熱炉等が挙げられる。また、熱源装置は単一の装置に限定されず、排熱を伴う複数の装置から構成されていてもよい。
【0031】
蓄熱装置20は、固体化学蓄熱材を利用して、蓄熱および熱出力を行う装置である。本明細書において、「固体化学蓄熱材」とは、化学的な反応により吸熱および発熱をする固形物を指し、例えば、特定の金属酸化物と、当該特定の金属酸化物に対して可逆的な脱離反応および付加反応をする分子との組合せからなり、一般に、脱離反応により吸熱し、付加反応により発熱する。固体化学蓄熱材の具体例としては、これらに限定するものではないが、金属酸化物と水との組合せであるNiO/H
2O、CaSO
4/H
2O、CoO/H
2O、CuO/H
2O、MgCl
2/H
2O、CaCl
2/H
2O、MgO/H
2O、CaO/H
2O、金属酸化物と水素との組合せであるMg/H
2、金属酸化物とアンモニアとの組合せであるFeCl
2/NH
3、金属酸化物と二酸化炭素との組合せであるMgO/CO
2等が挙げられる。
【0032】
これらの固体化学蓄熱材は、作動温度以上で吸熱反応、すなわち蓄熱を行う。系内1気圧付近時の各固体化学蓄熱材における作動温度は、表1に示すとおりである。また、これらの固体化学蓄熱材は、付加反応開始温度以上で発熱、すなわち熱出力を行う。
【0034】
蓄熱装置20において利用する固体化学蓄熱材31は、ガスエンジン10からの排ガスの温度が、当該固体化学蓄熱材の作動温度を超えるように選択すればよい。また、固体化学蓄熱材31の形状は特に限定されず、例えば、ペレット状、紛状等であり得る。
【0035】
本実施形態では、蓄熱装置20は、固体化学蓄熱材31として金属酸化物と水との組合せを用いる。この場合、
図1に示すように、蓄熱装置20は、固体化学蓄熱材31を格納する蓄熱槽30に加えて、蓄熱槽30に連通し、水を溜める水容器40を備えている。蓄熱槽30および水容器40は、互いに内部が連通しているとともに、外部から密閉されている。これにより、蓄熱装置20では、蓄熱時には、生成した水を水容器40に溜め、熱出力時には、水容器40中の水から水蒸気を生成して蓄熱槽30内の固体化学蓄熱材31に供給することができる。なお、他の種類の固体化学蓄熱材を用いる場合も、同様に、付加および脱離される分子を容れる容器を適宜設ければよい。
【0036】
ボイラ50は、熱源装置の排熱を利用して水蒸気を生成する装置であり、公知の排熱回収ボイラ等を用いることができる。
【0037】
蓄熱システム1は、その他、排ガス、熱媒体等の流路や、当該流路に設けられたブロア、ポンプおよび各種弁、各部を冷却するための冷却手段、各部を保温するための断熱材、各部を支持するための支持体および筐体などを適宜備えていてもよい。
【0038】
蓄熱システム1は、熱需要が少ないときは、蓄熱装置20に蓄熱する蓄熱モードで、熱需要が増大したときには、蓄熱装置20およびボイラ50において水蒸気を生成する熱出力モードで動作する。これにより、熱需要に変化がある場合であっても、熱を有効利用することができる。
【0039】
なお、熱出力モードにおいて生成する水蒸気は、特に限定されないが、例えば、吸収式冷温水機の熱源として利用してもよいし、工場等において、加熱、乾燥、消毒等に使用するプロセス蒸気として利用してもよい。
【0040】
以下蓄熱モードおよび熱出力モード時の動作について詳細に説明する。なお、以下では、説明の便宜上、一試算例に基づく各部の温度を示しているが、本発明はこれに何ら限定されるものではない。
【0041】
(蓄熱モード)
図1(a)は、蓄熱システム1の蓄熱モードにおける状態を示す図である。
図1(a)に示すように、蓄熱モード時において、ガスエンジン10には燃料fが供給されるとともに、ジャケット冷却水c0が循環されている。そして、ガスエンジン10からは排ガス(気体)g0が排出される。排ガスg0は、例えば、400℃であり、その温度は発電負荷に対してほぼ一定である。
【0042】
排ガスg0は、蓄熱槽30に供給され、蓄熱槽30内の固体化学蓄熱材31との間で熱交換を行い(気体流通工程)、排ガスg1として排出される。排ガスg0の熱を受け取った蓄熱槽30内の固体化学蓄熱材31は、蓄熱を行うと共に、水蒸気v0を生成する。なお、固体化学蓄熱材31は、当該固体化学蓄熱材31の作動温度よりも、排ガスg0の温度の方が高くなるように選択されており、本実施形態では、例えば、MgO/H
2Oである。水蒸気v0は、水容器40(または蓄熱槽30と水容器40との間の流路)に設けられた熱交換器における冷却水c1との熱交換によって、凝縮して水となり、水容器40に溜められる。
【0043】
(蓄熱槽)
図2(a)は、一実施形態における蓄熱槽30の構成を示す模式図である。
図2(a)に示すように、本実施形態において、蓄熱槽30は、並列に配置され、それぞれが固体化学蓄熱材31を格納する複数の分槽30aと、各分槽30aに挿入され、排ガスg0を流すための熱交換用管32と、熱交換用管32内に流す排ガスg0の制御を行う切替部(気体流通手段、切替手段)33とを備えている。ここで、熱交換用管32における蓄熱槽30内での排ガスg0の入口と出口とに相当する部位を部位32aおよび32cと称し、それらの中間地点を部位32bと称する。また、部位32a、32bおよび32cに隣接する固体化学蓄熱材31の部位をそれぞれ部位31a、31bおよび31cと称する。なお、部位31bは、少なくとも部位32aおよび32cよりも部位32bに近い。
【0044】
切替部33が、熱交換用管32内に、排ガスg0(固体化学蓄熱材31の作動温度以上の気体)を流すことにより、排ガスg0と、固体化学蓄熱材31との間で熱交換を行い、固体化学蓄熱材31を加熱して蓄熱することができる。
【0045】
ここで、排ガスg0が熱交換用管32内を流れるにつれ排ガスg0の熱が徐々に固体化学蓄熱材31に奪われるため、出口に隣接する部位では、排ガスg0の温度が低くなり、出口に隣接する部位の固体化学蓄熱材31に対してあまり熱を与えることができない。
【0046】
しかし、切替部33は、所定のタイミングで、熱交換用管32の蓄熱槽30内での排ガスg0の入口と出口とを逆転させる切替工程を実行する。すなわち、切替部33は、排ガスg0の流れを制御することにより、例えば、部位32aが入口となり、部位32cが出口となり、排ガスg0が部位32aから32bを介して32cまで流れている状態から、部位32cが入口となり、部位32aが出口となり、排ガスg0が部位32cから32bを介して32aまで流れている状態に切り替えること、およびその逆の操作を行うことができる。
【0047】
これにより、熱交換用管32における元々の出口に隣接する部位にあり、あまり熱が与えられなかった固体化学蓄熱材31に対しても十分な熱を与えることができるようになる。これにより、固体化学蓄熱材31に対する加熱を均一化して、有効に蓄熱し得る固体化学蓄熱材31の量を増加させ、蓄熱効率を高めることができる。
【0048】
熱交換用管32は、例えば、
図2(a)に示すようにU字形状を有している。このとき、U字の底部は蓄熱槽30内において遊動可能である。そのため、熱交換用管32が熱膨張により変形したとしても、蓄熱槽30内で熱交換用管32の位置がずれるだけであり、熱交換用管32の破損を避けることができる。また、熱交換用管32の入口および出口を蓄熱槽30の片側に配置することができるため、切替部33を熱交換用管32の入口および出口に近い位置に配置することができ、切替用の配管、操作弁等の構成を簡易に構成することができる。
【0049】
なお、熱交換用管32には、適宜フィンが付加されていてもよい。このとき、熱交換用管32は、フィンを除いた部分の形状が、全体としてU字形状であることが好ましい。
【0050】
また、蓄熱槽30を複数の分槽30aから構成し、各々に熱交換用管32を挿通して加熱することにより、流路抵抗を低減することができると共に、蓄熱槽30内の位置によって、最も近い熱交換用管32からの距離が大きく違うような状態を避け、特に、複数の熱交換用管32内に並行して気体を流すことにより、蓄熱槽30内の固体化学蓄熱材31をより均一に加熱することができる。
【0051】
続いて、
図3を参照して、切替部33による切替工程の実行のタイミングの例について説明する。
図3では、切替工程を、熱交換用管32の入口と出口の中間地点に隣接する部位における固体化学蓄熱材31の温度に基づいて行う場合について説明する。本明細書において「熱交換用管32の入口と出口の中間地点」とは、熱交換用管32における入口と出口との間を三等分したときの中央(二番目)の領域内の地点を指す。特に好ましくは、中間地点は、熱交換用管32における入口と出口との間を二等分する位置である。本実施形態では、当該中間地点に隣接する固体化学蓄熱材31の部位31bに図示しない温度計(測温手段)が設けられており、熱交換用管32の蓄熱槽30での入口と出口の中間地点に隣接する部位における固体化学蓄熱材31の温度の測定(測温工程)を行うことができるようになっている。
【0052】
図3は、熱交換用管32に隣接する固体化学蓄熱材31の各部位の温度変化の一例を示すグラフである。図中、aは部位31aにおける固体化学蓄熱材31の温度を、bは部位31bにおける固体化学蓄熱材31の温度を、cは部位31cにおける固体化学蓄熱材31の温度をそれぞれ示す。また、切替工程D2を図中に示している。期間r1では、部位32aが入口であり、部位32cが出口であり、期間r2ではその逆となる。また、D3は、固体化学蓄熱材31の作動温度を示す。
【0053】
図3に示すように、実行される切替工程D2は、熱交換用管32の入口と出口の中間地点に隣接する部位31b(中間地点近傍の部位)における固体化学蓄熱材31の温度が、予め定められた温度D1以上となったときに実行される。これにより、気体流通工程を開始してからの運転(期間r1)では、熱交換用管32の入口に隣接する部位から中間地点に隣接する部位にある固体化学蓄熱材31(部位31a〜31b)が逐次加熱され、脱水反応が完了する。
【0054】
そして、切替工程D2以降の運転(期間r2)は、熱交換用管32の入口と出口の中間地点に隣接する固体化学蓄熱材31の部位31bの温度が、再度、予め定められた温度D1以上となるまで続けられる。これにより、切替工程D2以降の運転(期間r2)では、熱交換用管32の入口に隣接する部位(切替工程D2前の出口に隣接する部位)から中間地点に隣接する部位にある固体化学蓄熱材31(部位31c〜31b)が逐次加熱され、脱水反応が完了する。以上により、固体化学蓄熱材の全体に亘って十分に蓄熱を行うことができる。
【0055】
すなわち、熱交換用管32の入口に隣接する部位から中間地点に隣接する部位までの固体化学蓄熱材31(部位31a〜31b)に蓄熱された時点を見極め、熱交換用管32の入口と出口を切り替えることで、既に脱水反応により吸熱し終えた入口に隣接する部位から中間地点に隣接する部位までの固体化学蓄熱材31(部位31a〜31b)に気体の顕熱を奪われることなく、効率的に切替工程前の出口に隣接する部位(切替工程後の入口に隣接する部位)から中間地点に隣接する部位までの固体化学蓄熱材31(部位31c〜31b)を加熱して、固体化学蓄熱材3の全体を効率よく加熱することができる。
【0056】
なお、熱交換用管32の蓄熱槽30での中間地点に隣接する固体化学蓄熱材31の部位31bの温度は、蓄熱槽30全体にどれだけの熱を与えられたかの好適な指標となるため、当該中間地点に隣接する固体化学蓄熱材31の部位31bの温度に応じて切替工程を実行することにより、好適なタイミングで切替工程を実行することができる。
【0057】
但し、切替工程のタイミングは、上述したものに限定されない。例えば、タイマーを用いて予め定められた時間毎に行うようにしてもよい。
【0058】
なお、他の実施形態において、蓄熱槽30は、
図2(b)に示すように構成することもできる。すなわち、蓄熱槽30は、複数の分槽30aから構成されている必要はなく、単層であってもよい。蓄熱槽30を、複数の分槽30aから構成するか否かは、例えば、蓄熱槽30の規模に応じて選択すればよい。また、熱交換用管32は、U字形状を有している必要はなく、他の形状、例えば、
図2(b)に示すような直線上の形状であってもよい。
【0059】
また、蓄熱槽30から排出される排ガスg1の温度は、一例において300℃であり、排ガスg1の熱を用いて、さらに二次蓄熱材(公知の顕熱蓄熱材、潜熱蓄熱材、化学蓄熱材等)に蓄熱するようにしてもよい。
【0060】
(熱出力モード)
図1(b)は、蓄熱システム1の熱出力モードにおける状態を示す図である。
図1(b)に示すように、熱出力モード時においても、蓄熱モード時と同様に、ガスエンジン10には燃料fが供給されるとともに、ジャケット冷却水c0が循環されている。そして、ガスエンジン10からは排ガスg0が排出される。排ガスg0は、例えば、400℃であり、ガスエンジン10に導入されるジャケット冷却水c0は83℃であり、ガスエンジン10から排出されるジャケット冷却水c0は88℃であるとする。
【0061】
排ガスg0は、ボイラ50に供給され、ボイラ50に供給される水w1との間で熱交換を行い、排ガスg2として排出される。排ガスg0の熱を受け取った水w1は、蒸発して水蒸気v1となり、蓄熱システム1から出力される。水蒸気v1の温度は、例えば、170℃であり、排ガスg2の温度は、例えば、150℃となる。
【0062】
また、並行して、ガスエンジン10からの熱を受け取ったジャケット冷却水c0が、水容器40内を通過し、水容器40内の水と熱交換を行う。ジャケット冷却水c0からの熱を受け取った水は、飽和蒸気圧に従って水蒸気v3となり、蓄熱槽30内に供給される。
【0063】
水蒸気v3が供給された蓄熱槽30内の固体化学蓄熱材31は、水和(付加)反応により熱出力し、蓄熱槽30に供給される水w2との間で熱交換を行う。固体化学蓄熱材31からの熱出力を受け取った水w2は、蒸発して水蒸気v2となり、蓄熱システム1から出力される。
【0064】
なお、蓄熱槽30内の固体化学蓄熱材31は、水和(付加)反応開始温度まで予熱されていることが好ましい。当該予熱には、例えば、排ガスg2と熱交換する熱交換器(図示せず)を用いてもよい。排ガスg2の熱を用いて固体化学蓄熱材31を予熱する場合、排ガスg2の温度は、僅か数度低下するだけで、固体化学蓄熱材31を十分に予熱することができる。なお、予熱条件の制御は、固体化学蓄熱材31を測温し、水和(付加)反応開始温度以上になるように制御してもよいし、予め実験的に求めた水和(付加)反応開始温度以上にするための条件で制御してもよい。
【0065】
また、水容器40内の水の加熱に、ジャケット冷却水c0からの熱だけでなく、排ガスg2の熱や、上述した二次蓄熱材(図示せず)の熱出力などをさらに用いてもよい。また、排ガスg2の熱を用いて、水蒸気v3を加熱してもよい。これにより、外部からのエネルギーを加えることなく、効率良く熱出力を行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明は、化学蓄熱材を利用し、熱の有効利用を行う技術分野において好適に利用可能である。
【符号の説明】
【0067】
1 蓄熱システム
10 ガスエンジン(熱源装置)
20 蓄熱装置
30 蓄熱槽
30a 分槽
31 固体化学蓄熱材
32 熱交換用管
33 切替部(切替手段、気体流通手段)
40 水容器
50 ボイラ
g0 排ガス(気体)