特許第6059531号(P6059531)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6059531
(24)【登録日】2016年12月16日
(45)【発行日】2017年1月11日
(54)【発明の名称】潤滑油組成物
(51)【国際特許分類】
   C10M 169/04 20060101AFI20161226BHJP
   C10M 101/02 20060101ALN20161226BHJP
   C10M 139/00 20060101ALN20161226BHJP
   C10N 10/12 20060101ALN20161226BHJP
   C10N 20/02 20060101ALN20161226BHJP
   C10N 30/06 20060101ALN20161226BHJP
   C10N 40/04 20060101ALN20161226BHJP
【FI】
   C10M169/04
   !C10M101/02
   !C10M139/00 Z
   !C10M139/00 A
   C10N10:12
   C10N20:02
   C10N30:06
   C10N40:04
【請求項の数】4
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2012-288289(P2012-288289)
(22)【出願日】2012年12月28日
(65)【公開番号】特開2014-129483(P2014-129483A)
(43)【公開日】2014年7月10日
【審査請求日】2015年6月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004444
【氏名又は名称】JXエネルギー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103285
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 順之
(72)【発明者】
【氏名】小松原 仁
【審査官】 ▲来▼田 優来
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−046683(JP,A)
【文献】 特開平09−208976(JP,A)
【文献】 特開2011−006635(JP,A)
【文献】 特開2011−046903(JP,A)
【文献】 特開2009−227928(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M,C10N
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
潤滑油基油が(A)40℃における動粘度が10mm/s以上100mm/s以下の鉱油系基油と、(B)40℃における動粘度が200mm/s以上550mm/s以下で、かつ硫黄含有量が0.3〜0.9質量%である鉱油系基油との混合基油からなり、(B)成分に属する基油の配合割合が15質量%以上、50質量%以下である潤滑油基油、(C)有機モリブデン化合物をモリブデン原子換算で100〜1000質量ppm、および(D)ホウ素含有化合物をホウ素原子量換算で100〜300質量ppm含有し、潤滑油組成物の40℃における動粘度が90mm/s以下であることを特徴とする潤滑油組成物。
【請求項2】
(D)ホウ素含有化合物が、ホウ酸塩で過塩基化された金属系清浄剤またはホウ素化無灰分散剤であることを特徴とする請求項に記載の潤滑油組成物。
【請求項3】
ハイポイドギヤを装着した終減速機に用いられる潤滑油組成物であることを特徴とする請求項1または2に記載の潤滑油組成物。
【請求項4】
潤滑油基油が(A)40℃における動粘度が10mm/s以上100mm/s以下の鉱油系基油と、(B)40℃における動粘度が200mm/s以上550mm/s以下で、かつ硫黄含有量が0.3〜0.9質量%である鉱油系基油との混合基油からなり、(B)成分に属する基油の配合割合が15質量%以上である潤滑油基油、(C)有機モリブデン化合物をモリブデン原子換算で100〜1000質量ppm、および(D)ホウ素含有化合物をホウ素原子量換算で100〜300質量ppm含有し、潤滑油組成物の40℃における動粘度が90mm/s以下である潤滑油組成物を用いることを特徴とする自動車用ギヤ装置の潤滑方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑油組成物に関し、特に自動車用ギヤ装置用潤滑油組成物に関し、特に自動車に装着されるハイポイドギヤを装着した終減速機用潤滑油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、炭酸ガス排出量の削減など、環境問題への対応から自動車、建設機械、農業機械等の省エネルギー化、すなわち、省燃費化が急務となっており、エンジンや変速機、終減速機、圧縮機、油圧装置等の装置には省エネルギーへの寄与が強く求められている。そのため、これらに使用される潤滑油には、従来に比べより攪拌抵抗や摩擦抵抗を減少することが求められている。
【0003】
変速機および終減速機の省燃費化手段のひとつとして、潤滑油の低粘度化が挙げられる。例えば自動車用自動変速機や無段変速機はトルクコンバータ、湿式クラッチ、歯車軸受機構、オイルポンプ、油圧制御機構などを有し、また、手動変速機や終減速機は歯車軸受機構を有しており、これらに使用される潤滑油をより低粘度化することにより、歯車軸受機構およびオイルポンプ等の攪拌抵抗および摩擦抵抗が低減され、動力の伝達効率が向上することで自動車の燃費の向上が可能となる。
【0004】
しかしながら、これらに使用される潤滑油を低粘度化すると疲労寿命あるいは極圧性が低下し、焼付きなどが生じて変速機や終減速機等に不具合が生じることがある。
従来の自動車用変速機油としては、変速特性等の各種性能を長期間維持できるものとして、合成油及び/又は鉱油系の潤滑油基油、摩耗防止剤、極圧剤、金属系清浄剤、無灰分散剤、摩擦調整剤、粘度指数向上剤等を最適化して配合したものが開示されている(例えば特許文献1〜3を参照。)。
【0005】
しかしながら、これらの組成物はいずれも燃費向上を目的としたものではないためその動粘度は高く、潤滑油を低粘度化した場合の極圧性や金属間摩擦への影響については十分検討されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平3−39399号公報
【特許文献2】特開平7−268375号公報
【特許文献3】特開2000−63869号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明はこのような実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、低粘度であっても充分な極圧性ならびに低い金属間摩擦係数を有する潤滑油組成物、特に自動車用の自動変速機、手動変速機、無段変速機、さらに特にハイポイドギヤを装着した終減速機に好適な、省燃費性能と歯車や軸受け等の十分な極圧性を兼ね備えた潤滑油組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討した結果、特定の低粘度の潤滑油基油と、特定の高粘度潤滑油基油を組み合わせ、有機モリブデン化合物を特定量配合した潤滑油組成物が上記課題を解決できる事を見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、潤滑油基油が(A)40℃における動粘度が10mm/s以上100mm/s以下の鉱油系基油と、(B)40℃における動粘度が200mm/s以上550mm/s以下で、かつ硫黄含有量が0.3〜0.9質量%である鉱油系基油との混合基油からなり、(B)成分に属する基油の配合割合が15質量%以上、50質量%以下である潤滑油基油、(C)有機モリブデン化合物をモリブデン原子換算で100〜1000質量ppm、および(D)ホウ素含有化合物をホウ素原子量換算で100〜300質量ppm含有し、潤滑油組成物の40℃における動粘度が90mm/s以下であることを特徴とする潤滑油組成物に関する。
【0010】
また本発明は、(D)ホウ素含有化合物が、ホウ酸塩で過塩基化された金属系清浄剤またはホウ素化無灰分散剤であることを特徴とする前記記載の潤滑油組成物に関する。
また本発明は、ハイポイドギヤを装着した終減速機に用いられる潤滑油組成物であることを特徴とする前記記載の潤滑油組成物に関する。
【0011】
また、本発明は、潤滑油基油が(A)40℃における動粘度が10mm/s以上100mm/s以下の鉱油系基油と、(B)40℃における動粘度が200mm/s以上550mm/s以下で、かつ硫黄含有量が0.3〜0.9質量%である鉱油系基油との混合基油からなり、(B)成分に属する基油の配合割合が15質量%以上である潤滑油基油、(C)有機モリブデン化合物をモリブデン原子換算で100〜1000質量ppm、および(D)ホウ素含有化合物をホウ素原子量換算で100〜300質量ppm含有し、潤滑油組成物の40℃における動粘度が90mm/s以下である潤滑油組成物を用いることを特徴とする自動車用ギヤ装置の潤滑方法に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、特に自動車用の自動変速機、手動変速機、無段変速機、さらに特にハイポイドギヤを装着した終減速機に好適な、省燃費性能と歯車や軸受け等の十分な極圧性を兼ね備えた潤滑油組成物が提供される。またこの潤滑油組成物を用いることにより、省燃費性と極圧性が改善された自動車用ギヤ装置の潤滑方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について説明する。
本発明における(A)成分の基油は、40℃における動粘度が10mm/s以上100mm/s以下の鉱油系潤滑油基油から選ばれる1種または2種以上の基油である。
【0014】
鉱油系潤滑油基油としては、原油を常圧蒸留及び減圧蒸留して得られた潤滑油留分を、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、接触脱ろう、水素化精製、硫酸洗浄、白土処理等の精製処理等を単独又は二つ以上組み合わせて精製したパラフィン系、ナフテン系等の鉱油系潤滑油基油やノルマルパラフィン、イソパラフィン等が挙げられる。
なお、これらの基油は単独でも、2種以上任意の割合で組み合わせて使用してもよい。
【0015】
好ましい鉱油系潤滑油基油としては以下の基油を挙げることができる。
(1)パラフィン基系原油および/または混合基系原油の常圧蒸留による留出油;
(2)パラフィン基系原油および/または混合基系原油の常圧蒸留残渣油の減圧蒸留留出油(WVGO);
(3)潤滑油脱ろう工程により得られるワックスおよび/またはGTLプロセス等により製造されるフィッシャートロプシュワックス;
(4)(1)〜(3)の中から選ばれる1種または2種以上の混合油のマイルドハイドロクラッキング処理油(MHC);
(5)(1)〜(4)の中から選ばれる2種以上の油の混合油;
(6)(1)、(2)、(3)、(4)または(5)の脱れき油(DAO);
(7)(6)のマイルドハイドロクラッキング処理油(MHC);
(8)(1)〜(7)の中から選ばれる2種以上の油の混合油などを原料油とし、この原料油および/またはこの原料油から回収された潤滑油留分を、通常の精製方法によって精製し、潤滑油留分を回収することによって得られる潤滑油
【0016】
ここでいう通常の精製方法とは特に制限されるものではなく、潤滑油基油製造の際に用いられる精製方法を任意に採用することができる。通常の精製方法としては、例えば、(ア)水素化分解、水素化仕上げなどの水素化精製、(イ)フルフラール溶剤抽出などの溶剤精製、(ウ)溶剤脱ろうや接触脱ろうなどの脱ろう、(エ)酸性白土や活性白土などによる白土精製、(オ)硫酸洗浄、苛性ソーダ洗浄などの薬品(酸またはアルカリ)精製などが挙げられる。本発明ではこれらの1つまたは2つ以上を任意の組み合わせおよび任意の順序で採用することができる。
【0017】
本発明における(A)成分の潤滑油基油の40℃における動粘度の下限値は10mm/s以上であり、好ましくは15mm/s以上、より好ましくは20mm/s以上である。また、上限値は100mm/s以下であり、好ましくは75mm/s以下、より好ましくは50mm/s以下、さらに好ましくは40mm/s以下、最も好ましくは35mm/s以下である。
40℃における動粘度を100mm/s以下とすることによって、流体抵抗が小さくなるため潤滑個所での摩擦抵抗がより小さい潤滑油組成物を得ることが可能となる。また、40℃動粘度を10mm/s以上とすることによって、油膜形成が十分となり、潤滑性により優れ、また、高温条件下での基油の蒸発損失がより小さい潤滑油組成物を得ることが可能となる。
【0018】
本発明において基油(A)の粘度指数については格別の限定はないが、粘度指数は80以上であることが好ましく、より好ましくは90以上、さらに好ましくは100以上、特に好ましくは110以上であることが望ましい。粘度指数を80以上とすることによって、疲労寿命、初期及び長期間使用後の極圧性により優れた組成物を得ることができる。ただし180以下であることが好ましい。180を超えると低温時の粘度が急激に上昇する可能性があるためである。
【0019】
本発明において潤滑油基油(A)は、1種類の鉱油系基油単独であっても差し支えないが、極圧性の向上の観点から2種類以上の鉱油系基油の混合物であることが好ましい。
【0020】
(A)潤滑油基油として混合基油を用いる場合、(A1)40℃における動粘度が40mm/s以下の基油と、(A2)40℃における動粘度が60mm/s以上の基油とを組み合わせることが好ましい。
【0021】
本発明で用いる(A1)の基油としては、前述した(1)〜(8)から選ばれる鉱油系潤滑油基油をさらに以下の処理を行って得られる基油が特に好ましい。
すなわち、上記(1)〜(8)から選ばれる基油をそのまま、またはこの基油から回収された潤滑油留分を、水素化分解あるいはワックス異性化し、当該生成物をそのまま、もしくはこれから潤滑油留分を回収し、次に溶剤脱ろうや接触脱ろうなどの脱ろう処理を行い、その後、溶剤精製処理するか、または、溶剤精製処理した後、溶剤脱ろうや接触脱ろうなどの脱ろう処理を行って製造される水素化分解鉱油系基油及び/又はワックス異性化イソパラフィン系基油が好ましく用いられる。
【0022】
前記(A1)の基油としては40℃における動粘度は30mm/s以下の基油が好ましく、さらに25mm/s以下の基油が好ましい。ただし、(A1)の基油の40℃における動粘度は、10mm/s以上である必要がある。
前記基油(A2)としては、40℃における動粘度が70mm/s以上の基油が好ましく、80mm/s以上の基油がより好ましく、90mm/s以上の基油がさらに好ましい。(A1)の基油と(A2)の基油の差を大きくするほど、(A)成分の基油の粘度指数が向上するため好ましい。ただし、混合基油の40℃における動粘度が10mm/s以上100mm/s以下を満たすことが必要である。
【0023】
上記基油(A1)が、基油(A)中に占める割合は、10質量%以上であることが好ましく、より好ましくは20質量%以上、さらに好ましくは30質量%以上である。また好ましくは70質量%以下、より好ましくは60質量%以下、さらに好ましくは55質量%以下である。10質量%以上とすることにより、粘度指数を向上させ、これにより省燃費性が改善される。また70質量%を超えると、極圧性の向上が期待できなくなるため好ましくない。
【0024】
本発明における(B)成分の基油(高粘度潤滑油基油)は、40℃における動粘度が200mm/s以上600mm/s以下であり、かつ基油中の硫黄含有量が0.3〜0.9質量%である鉱油系基油である。
【0025】
本発明の潤滑油組成物における基油(B)の40℃における動粘度は、好ましくは230mm/s以上である。また上限は、好ましくは550mm/s以下、さらに好ましくは510mm/s以下ある。
基油(B)の40℃動粘度を上記範囲とすることにより、優れた疲労寿命、初期及び長期間使用後の極圧性を付与することができる。40℃動粘度が200mm/s未満の場合は、疲労寿命および初期の極圧性向上効果が小さく、550mm/sを超える場合は、低温時の組成物の粘度が高すぎるため、それぞれ好ましくない。
【0026】
また、基油(B)の硫黄分は0.3質量%以上であり、より好ましくは0.4質量%以上である。また、0.9質量%以下であり、好ましくは0.8質量%以下、より好ましくは0.7質量%以下、特に好ましくは0.6質量%以下である。基油(B)中の硫黄含有化合物は疲労寿命の向上に寄与していると考えられ、硫黄分が0.3質量%以上の場合に、極圧性の向上への寄与が大きくなる。一方、基油(B)の硫黄分が0.9質量%を超えると組成物の酸化安定性を低下させる傾向にあるため好ましくない。
【0027】
本発明における基油(B)の粘度指数については特に制限はないが、好ましくは80以上、より好ましくは90以上であり、好ましくは200以下、より好ましくは180以下である。粘度指数が高いほど省燃費性に優れるが、200を超えると、低温時の粘度が逆に上昇するため好ましくない。
【0028】
また、基油(B)の流動点については特に制限はないが、低温性能を悪化させない点で−10℃以下であることが好ましく、−20℃以下であることがより好ましく、−30℃以下であることが特に好ましい。(B)成分の粘度指数、流動点が上記範囲のものを使用することで、低温から高温までの良好な粘度特性を有する組成物とすることができる。
【0029】
また、基油(B)の%Cについては特に制限はないが、疲労寿命に優れる点で、好ましくは3〜10、より好ましくは5〜9である。
また、基油(B)の%Cについては特に制限はないが、疲労寿命に優れる点で、好ましくは15〜40、より好ましくは20〜30である。
また、基油(B)の%Cについては特に制限はないが、疲労寿命に優れる点で、好ましくは55〜100、より好ましくは60〜80、さらに好ましくは65〜75である。
【0030】
上記(B)成分としての鉱油系潤滑油基油は、前記(A)成分の項で説明した鉱油系潤滑油基油と、その種類及びその製造法は同様であるが、前記した(1)〜(8)の原料油を、フルフラール溶剤抽出などの溶剤精製、溶剤脱ろうや接触脱ろうなどの脱ろう、及び水素化仕上げなどの水素化精製のいずれか1種又は2種以上の工程を経て製造されるものが好ましい。
また、(B)成分は、上記鉱油系潤滑油基油から選ばれる1種からなる基油であっても良く、また2種以上の混合基油であっても良い。
【0031】
基油(A)と基油(B)からなる潤滑油基油において、(B)成分に属する基油の配合割合は基油組成物全量基準で15質量%以上であることが必要であり、好ましくは17質量%以上、より好ましくは20質量%以上である。一方、基油(B)の配合割合は、好ましくは50質量%以下である。基油(B)の配合割合が15質量%未満の場合は、耐焼付き性、耐摩耗性などの点で好ましくない。
【0032】
基油(A)及び基油(B)からなる潤滑油基油の性状については特に制限はないが、省燃費性能向上と極圧性の向上の点で、その性状を以下のように調整することが好ましい。
特に自動車用ギヤ用として使用した場合においては、基油(A)及び基油(B)からなる潤滑油基油の40℃における動粘度は、好ましくは45mm/s以上、より好ましくは55mm/s以上、特に好ましくは65mm/sである。一方、上限は好ましくは90mm/s以下、より好ましくは80mm/s、さらに好ましくは75mm/s、特に好ましくは70mm/s以下である。
【0033】
また、基油(A)及び基油(B)からなる潤滑油基油の硫黄含有量は、極圧性の向上の点で、好ましくは0.05質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上、さらに好ましくは0.15質量%以上であり、特に好ましくは0.2質量%以上である。また酸化安定性の面から、好ましくは0.8質量%以下、より好ましくは0.6質量%以下、さらに好ましくは0.4質量%、特に好ましくは0.3質量%以下である。
【0034】
本発明の潤滑油組成物は(C)成分として、有機モリブデン化合物を含有する。
本発明で用いる有機モリブデン化合物としては、(C1)硫黄を含有する有機モリブデン化合物、または(C2)構成元素として硫黄を含まない有機モリブデン化合物等の各種有機モリブデン化合物が挙げられる。
【0035】
まず、(C1)硫黄を含有する有機モリブデン化合物としては、モリブデンジチオホスフェート、モリブデンジチオカーバメート等が挙げられる。
【0036】
モリブデンジチオホスフェートとしては、例えば、下記一般式(1)で表される化合物が挙げられる。
【0037】
【化1】
【0038】
上記一般式(1)中、R、R、R及びRは、それぞれ同一でも異なっていてもよく、炭素数2〜30、好ましくは炭素数5〜18、より好ましくは炭素数5〜12のアルキル基、又は炭素数6〜18、好ましくは炭素数10〜15の(アルキル)アリール基等の炭化水素基を示す。またY、Y、Y及びYは、それぞれ個別に、硫黄原子または酸素原子を示す。
【0039】
モリブデンジチオカーバメートとしては、例えば、下記一般式(2)で表される化合物を挙げることができる。
【0040】
【化2】
【0041】
上記一般式(2)中、R、R、R及びRは、それぞれ同一でも異なっていてもよく、炭素数2〜24、好ましくは炭素数4〜13のアルキル基、又は炭素数6〜24、好ましくは炭素数10〜15の(アルキル)アリール基等の炭化水素基を示す。またY、Y、Y及びYは、それぞれ個別に、硫黄原子または酸素原子を示す。
【0042】
また、これら以外の硫黄を含有する有機モリブデン化合物としては、モリブデン化合物(例えば、二酸化モリブデン、三酸化モリブデン等の酸化モリブデン、オルトモリブデン酸、パラモリブデン酸、(ポリ)硫化モリブデン酸等のモリブデン酸、これらモリブデン酸の金属塩、アンモニウム塩等のモリブデン酸塩、二硫化モリブデン、三硫化モリブデン、五硫化モリブデン、ポリ硫化モリブデン等の硫化モリブデン、硫化モリブデン酸、硫化モリブデン酸の金属塩又はアミン塩、塩化モリブデン等のハロゲン化モリブデン等)と、硫黄含有有機化合物(例えば、アルキル(チオ)キサンテート、チアジアゾール、メルカプトチアジアゾール、チオカーボネート、テトラハイドロカルビルチウラムジスルフィド、ビス(ジ(チオ)ハイドロカルビルジチオホスホネート)ジスルフィド、有機(ポリ)サルファイド、硫化エステル等)あるいはその他の有機化合物との錯体等、あるいは、上記硫化モリブデン、硫化モリブデン酸等の硫黄含有モリブデン化合物と、後述する、構成元素として硫黄を含まない有機モリブデン化合物の項で説明するアミン化合物、コハク酸イミド、有機酸、アルコール等との錯体等、あるいは、元素イオウ、硫化水素、五硫化リン、酸化硫黄、無機硫化物、ヒドロカルビル(ポリ)スルフィド、硫化オレフィン、硫化エステル、硫化ワックス、硫化カルボン酸、硫化アルキルフェノール、チオアセトアミド、チオ尿素等の硫黄源と、後述する構成元素として硫黄を含まない有機モリブデン化合物の項で説明する、構成元素として硫黄を含まないモリブデン化合物と、後述する構成元素として硫黄を含まない有機モリブデン化合物の項で説明する、アミン化合物、コハク酸イミド、有機酸、アルコール等の硫黄を含まない有機化合物とを反応させた硫黄含有有機モリブデン化合物等様々なものを挙げることができる。具体的には、特開昭56−10591号公報や米国特許第4263152号等に記載されているような有機モリブデン化合物を例示することができる。
【0043】
(C2)構成元素として硫黄を含まない有機モリブデン化合物としては、具体的には、モリブデン−アミン錯体、モリブデン−コハク酸イミド錯体、有機酸のモリブデン塩、アルコールのモリブデン塩などが挙げられ、中でも、モリブデン−アミン錯体、有機酸のモリブデン塩及びアルコールのモリブデン塩が好ましい。
【0044】
本発明における有機モリブデン化合物としては、摩擦低減効果に優れる点で、硫黄含有有機モリブデン化合物が好ましく、モリブデンジチオカーバメートを使用することが最も好ましい。
【0045】
本発明に用いられる潤滑油組成物において、(C)成分の有機モリブデン化合物の含有量は、組成物全量を基準として、モリブデン金属量として100〜1000質量ppmであり、好ましくは200質量ppm以上、より好ましくは400質量ppm以上である。また、好ましくは900質量ppm以下、より好ましくは800質量ppm以下、さらに好ましくは600質量ppm以下である。その含有量が100質量ppm未満の場合、省燃費効果が期待できず、一方、含有量が1000質量ppmを超える場合、潤滑油組成物の、特に高温下での安定性が低下する傾向にあるため好ましくない。
【0046】
本発明の潤滑油組成物は、さらに(D)成分としてホウ素含有化合物を、ホウ素原子量換算で100〜300質量ppm含有することが好ましい。
(D)成分はホウ素を含む化合物で、油溶性であればよい。
【0047】
(D)成分のホウ素を含む化合物の一例としては、アルカリ土類金属スルホネート、アルカリ土類金属サリシレート、アルカリ土類金属フェネート、アルカリ土類金属ホスホネートなどの金属系清浄剤を、アルカリ土類金属ホウ酸塩などのホウ酸塩で過塩基化された金属系清浄剤が挙げられる。
【0048】
アルカリ土類金属スルホネートとしては、アルキル芳香族化合物をスルホン化することによって得られるアルキル芳香族スルホン酸のアルカリ土類金属塩、好ましくはマグネシウム塩及びカルシウム塩であり、カルシウム塩が特に好ましく用いられる。
【0049】
アルカリ土類金属サリシレートとしては、アルキル基あるいはアルケニル基を有するアルカリ土類金属のサリシレート、及び/又はその(過)塩基性塩であり、アルカリ土類金属としては、マグネシウム、バリウム、カルシウム等が挙げられ、特にマグネシウム及びカルシウムが好ましく用いられる。また、好ましくはアルキル基あるいはアルケニル基を分子中に1つ有するアルカリ土類金属のサリシレート、及び/又はその(過)塩基性塩が好ましく用いられる。
【0050】
アルカリ土類金属フェネートとしては、アルキル基あるいはアルケニル基を有するアルキルフェノール、アルキルフェノールサルファイド、アルキルフェノールのマンニッヒ反応物のアルカリ土類金属塩、特にマグネシウム塩及び/またはカルシウム塩が挙げられる。中でも硫黄を含有しないアルカリ土類金属フェネートが特に好ましい。また、アルキル基としては直鎖状であることが好ましい。
【0051】
ホウ酸塩としては、ホウ酸のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩又はアンモニウム塩等が挙げられる。なお、ここでいうホウ酸としては、例えば、オルトホウ酸、メタホウ酸及びテトラホウ酸等が挙げられる。
ホウ酸塩で過塩基化された金属系清浄剤の具体例としては、例えばメタホウ酸リチウム、四ホウ酸リチウム、五ホウ酸リチウム、過ホウ酸リチウム等のホウ酸リチウム;メタホウ酸ナトリウム、二ホウ酸ナトリウム、四ホウ酸ナトリウム、五ホウ酸ナトリウム、六ホウ酸ナトリウム、八ホウ酸ナトリウム等のホウ酸ナトリウム;メタホウ酸カリウム、四ホウ酸カリウム、五ホウ酸カリウム、六ホウ酸カリウム、八ホウ酸カリウム等のホウ酸カリウム;メタホウ酸カルシウム、二ホウ酸カルシウム、四ホウ酸三カルシウム、四ホウ酸五カルシウム、六ホウ酸カルシウム等のホウ酸カルシウム;メタホウ酸マグネシウム、二ホウ酸マグネシウム、四ホウ酸三マグネシウム、四ホウ酸五マグネシウム、六ホウ酸マグネシウム等のホウ酸マグネシウム;及びメタホウ酸アンモニウム、四ホウ酸アンモニウム、五ホウ酸アンモニウム、八ホウ酸アンモニウム等のホウ酸アンモニウム等が挙げられる。
【0052】
また、本発明において(D)成分として用いることのできる他の添加剤の例としては、アルコールやジオール等の水酸基を持つ化合物のホウ酸エステルが挙げられる。水酸基を持つ化合物としては、油溶性を確保するため、炭素数が6以上、好ましくは12以上の炭化水素基を持つことが好ましい。
【0053】
またさらに、本発明において(D)成分として用いることのできる他の添加剤の例としては、ホウ素化した任意の無灰分散剤が挙げられる。本発明においては、(D)成分としてはこのホウ素化無灰分散剤がホウ素原として最も好ましい。
【0054】
無灰分散剤としては、例えば、下記の窒素化合物を挙げることができる。これらは、単独であるいは二種以上を組み合わせて使用することができる。
(D1)炭素数40〜400の直鎖若しくは分枝状のアルキル基又はアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するコハク酸イミド、あるいはその誘導体
(D2)炭素数40〜400の直鎖若しくは分枝状のアルキル基又はアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するベンジルアミン、あるいはその誘導体
(D3)炭素数40〜400の直鎖若しくは分枝状のアルキル基又はアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するポリアミン、あるいはその誘導体
【0055】
このアルキル基又はアルケニル基の炭素数は40〜400、好ましくは60〜350である。アルキル基又はアルケニル基の炭素数が40未満の場合は化合物の潤滑油基油に対する溶解性が低下し、一方、アルキル基又はアルケニル基の炭素数が400を超える場合は、組成物の低温流動性が悪化するため、それぞれ好ましくない。このアルキル基又はアルケニル基は、直鎖状でも分枝状でもよいが、好ましいものとしては、具体的には、プロピレン、1−ブテン、イソブチレン等のオレフィンのオリゴマーやエチレンとプロピレンのコオリゴマーから誘導される分枝状アルキル基や分枝状アルケニル基等が挙げられる。
【0056】
(D1)コハク酸イミドとしては、より具体的には、下記一般式(3)又は(4)で示される化合物等が例示できる。
【0057】
【化3】
【0058】
一般式(3)において、Rは炭素数40〜400、好ましくは60〜350のアルキル基又はアルケニル基を示し、pは1〜5、好ましくは2〜4の整数を示す。
一般式(4)において、R10及びR11は、それぞれ個別に、炭素数40〜400、好ましくは60〜350のアルキル基又はアルケニル基を示し、qは0〜4、好ましくは1〜3の整数を示す。
上記コハク酸イミドには、イミド化により、ポリアミンの一端に無水コハク酸が付加した形態の一般式(3)で示されるいわゆるモノタイプのコハク酸イミドと、ポリアミンの両端に無水コハク酸が付加した形態の一般式(4)で示されるいわゆるビスタイプのコハク酸イミドが含まれるが、本発明の組成物においては、そのいずれでも、またこれらの混合物でも使用可能である。
【0059】
これらのコハク酸イミドの製法は特に制限はないが、例えば炭素数40〜400のアルキル基又はアルケニル基を有する化合物を無水マレイン酸と100〜200℃で反応させて得たアルキルコハク酸又はアルケニルコハク酸をポリアミンと反応させることにより得ることができる。ポリアミンとしては、具体的には、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、及びペンタエチレンヘキサミン等が例示できる。
【0060】
(D2)ベンジルアミンとしては、より具体的には、下記の一般式(5)で表される化合物等が例示できる。
【化4】
【0061】
一般式(5)において、R12は、炭素数40〜400、好ましくは60〜350のアルキル基又はアルケニル基を示し、rは1〜5、好ましくは2〜4の整数を示す。
このベンジルアミンの製造方法は何ら限定されるものではないが、例えば、プロピレンオリゴマー、ポリブテン、及びエチレン−α−オレフィン共重合体等のポリオレフィンをフェノールと反応させてアルキルフェノールとした後、これにホルムアルデヒドとジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、及びペンタエチレンヘキサミン等のポリアミンをマンニッヒ反応により反応させることにより得ることができる。
【0062】
(D3)ポリアミンとしては、より具体的には、下記の一般式(6)で表される化合物等が例示できる。
13‐NH−(CH2CH2NH)k‐H (6)
【0063】
一般式(6)において、R13は、炭素数40〜400、好ましくは60〜350のアルキル基又はアルケニル基を示し、kは1〜5、好ましくは2〜4の整数を示す。
このポリアミンの製造法は何ら限定されるものではないが、例えば、プロピレンオリゴマー、ポリブテン、及びエチレン−α−オレフィン共重合体等のポリオレフィンを塩素化した後、これにアンモニアやエチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、及びペンタエチレンヘキサミン等のポリアミンを反応させることにより得ることができる。
【0064】
ホウ素化は、一般に、前述の含窒素化合物にホウ酸を作用させて、残存するアミノ基及び/又はイミノ基の一部又は全部を中和することのより行われる。
例えば、ホウ酸変性コハク酸イミドの製造方法としては、特公昭42-8013号公報及び同42-8014号公報、特開昭51-52381号公報、及び特開昭51-130408号公報等に開示されている方法等が挙げられる。具体的には例えば、アルコール類やヘキサン、キシレン等の有機溶媒、軽質潤滑油基油等にポリアミンとポリアルケニルコハク酸(無水物)にホウ酸、ホウ酸エステル、又はホウ酸塩等のホウ素化合物を混合し、適当な条件で加熱処理することにより得ることができる。なお、この様にして得られるホウ酸性コハク酸イミドのホウ酸含有量は通常0.1〜4.0質量%とすることができる。
【0065】
ホウ酸変性コハク酸イミドの炭化水素基の分子量は、1000以上が好ましく、より好ましくは1500以上、さらに好ましくは2000以上である。また5000以下が好ましく、4000以下がより好ましい。1000未満の場合は摩擦係数が高くなり、また省燃費効果が小さく、一方、5000を超えると実質的に合成が困難である。
【0066】
本発明におけるホウ素量含有量は組成物全量基準で、100質量ppm以上が好ましく、さらに好ましくは150質量ppm以上である。また300質量ppm以下が好ましく、さらには280質量ppm以下が好ましく、250質量ppm以下がより好ましく、220質量ppm以下が最も好ましい。100質量ppm未満では極圧性が乏しく、300質量ppmより多いと、添加剤の悪影響のため、逆に極圧性が低下する。
【0067】
本発明においては、自動車用ギヤ装置に使用するため、(E)硫黄化合物とリン化合物を配合した極圧剤を使用することが好ましい。具体的には市販されている添加剤パッケージが使用できる。たとえばルーブリゾール社製LZAnglamol6043、やアフトン社製Hitec3434などが挙げられる。添加量については、ギヤの種類や運転状況に応じて、推奨添加量に準じて配合すればよい。
【0068】
本発明においては、基油(A)及び基油(B)からなる潤滑油基油に、上述した(C)成分、あるいはさらに(D)成分および/または(E)成分を特定量配合することにより、極圧性、低温粘度特性および酸化安定性に優れたギヤシステム用潤滑油組成物を得ることができるが、その各種性能をさらに高める目的で、公知の潤滑油添加剤、例えば、(D)成分以外の無灰分散剤や金属系清浄剤、摩擦調整剤、(E)成分以外の極圧添加剤及び摩耗防止剤、さび止め剤、腐食防止剤、粘度指数向上剤、流動点降下剤、ゴム膨潤剤、消泡剤、着色剤等を単独で、又は数種類組み合わせた形で使用することができる。
【0069】
本発明の潤滑油組成物に併用可能な(D)成分以外の無灰分散剤としては、ホウ酸化無灰分散剤のホウ酸化前の無灰分散剤が挙げられる。
【0070】
また、無灰分散剤として挙げた含窒素化合物の誘導体としては、具体的には例えば、前述したような含窒素化合物に炭素数2〜30のモノカルボン酸(脂肪酸等)やシュウ酸、フタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸等の炭素数2〜30のポリカルボン酸を作用させて、残存するアミノ基及び/又はイミノ基の一部又は全部を中和したり、アミド化した、いわゆる酸変性化合物;前述したような含窒素化合物に硫黄化合物を作用させた硫黄変性化合物;及び前述したような含窒素化合物に酸変性、硫黄変性から選ばれた2種以上の変性を組み合わせた変性化合物等が挙げられる。
【0071】
本発明の潤滑油組成物に併用可能な(D)成分以外の金属系清浄剤としては、潤滑油に通常用いられる任意の金属系清浄剤が使用可能である。例えば、アルカリ金属又はアルカリ土類金属のスルホネート、フェネート、サリシレート、ナフテネート等を単独で、あるいは二種類以上組み合わせて使用できる。アルカリ金属としてはナトリウムまたはカリウムが、アルカリ土類金属としてはカルシウム等が好ましく用いられる。なお、これら金属系清浄剤の全塩基価及び添加量は要求される潤滑油の性能に応じて任意に選択することができる。
【0072】
摩擦調整剤としては、(C)成分のモリブデンジチオホスフェート、モリブデンジチオカーバメート等の有機モリブデン化合物を除く、例えば、炭素数6〜30のアルキル基又はアルケニル基を少なくとも1個有する脂肪族1価アルコール、脂肪酸又はその誘導体、脂肪族アミン又はその誘導体等の無灰系摩擦調整剤等が挙げられる。
また(E)成分以外の極圧添加剤及び耐摩耗剤としては、例えば、一部(E)成分としても使用されるが、ジスルフィド類、硫化オレフィン類、硫化油脂類、亜リン酸エステル、酸性リン酸エステル、さらには酸性ン酸エステルリン化合物のアミン塩や、各種リン化合物の誘導体が挙げられる。
さび止め剤としては、例えば、アルケニルコハク酸、アルケニルコハク酸エステル、多価アルコールエステル、石油スルホネート、ジノニルナフタレンスルホネート等が挙げられる。
腐食防止剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール系、チアジアゾール系、イミダゾール系の化合物等が挙げられる。
粘度指数向上剤としては、具体的には、エチレン−プロピレン共重合体等のオレフィンコポリマー又はその水素化物、スチレン−ジエンコポリマー、ポリメタクリレート及びオレフィンコポリマーのグラフトコポリマー又はその水素化物等が挙げられる。
消泡剤としては、例えば、ジメチルシリコーンやフルオロシリコーンなどのシリコーン類等が挙げられる。
【0073】
これらの添加剤の添加量は任意であるが、通常、潤滑油組成物全量基準で、消泡剤の含有量は0.0005〜1重量%、腐食防止剤の含有量は0.005〜1重量%、その他の添加剤の含有量は、それぞれ0.05〜15重量%程度である。
【0074】
本発明の潤滑油組成物の40℃における動粘度90mm/s以下である。好ましくは80mm/s以下であり、さらに好ましくは75mm/s以下ある。一方、20mm/s以上であることが好ましくは、より好ましくは40mm/s以上であり、さらに好ましくは50mm/s以上であり、最も好ましくは60mm/s以上である。
本発明の潤滑油組成物において、40℃動粘度を20mm/s以上とすることによって、油膜形成能力により優れ、極圧性により優れる。一方、40℃動粘度を90mm/s以下とすることによって、流体抵抗が小さくなるため潤滑箇所での摩擦抵抗(摩擦損失)がより小さく、また攪拌抵抗がより小さい省燃費性に優れた潤滑油組成物を得ることができる。
【実施例】
【0075】
以下、本発明を実施例および比較例を用いてさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの例に何ら限定されるものではない。
【0076】
(実施例1〜6および比較例1〜8)
表1に示す各種の潤滑油基油及び添加剤を配合して、本発明に係る潤滑油組成物(表1の実施例1〜6)及び比較用の潤滑油組成物(比較例1〜8)を調製した。なお、各添加剤の添加量は組成物全量基準である。
【0077】
得られた各組成物について、以下に示す試験により評価した。
(1)高速四球試験
極圧性試験は、ASTM D 2783「潤滑油の耐荷重能試験方法」に準拠してシェル四球式試験機で実施した。本試験は、全部で四個の試験鋼球を試料容器及び回転軸に固定し、試料を試料容器に満たす。回転軸を静止させた状態で荷重を加え、毎分1760±40回転の速度で10秒間回転させる。荷重を増して最大非焼付き荷重を求めた。最大非焼付き荷重は、測定した摩耗痕径が、その時の試験荷重における補償摩耗痕径の105%値を超えない最大試験荷重にて求められる。最大非焼付き荷重が大きければ大きいほど、極圧性が良好とした。
【0078】
(2)摩耗痕径
摩耗痕径試験は、ASTM D 4172「潤滑油の耐摩耗試験方法」に準拠してシェル四球式試験機で実施した。本試験は、全部で四個の試験鋼球を試料容器及び回転軸に固定し、試料を試料容器に満たす。回転軸を静止させた状態で荷重(392N)を加え、潤滑油の温度80℃において、毎分1200回転の速度で30分間回転させる。試験後、接触点に生じた摩耗痕径を測定し摩耗防止性を求めた。摩耗痕径が小さければ小さいほど、摩耗防止性が良好とした。
【0079】
(3)ファレックス焼付き試験
焼付き試験は、ASTM D 3233「潤滑油の耐荷重試験方法」に準拠してファレックス型摩擦試験機で実施した。本試験は、鋼製のピンを鋼製のVブロック2個で挟み、試料を試料容器に満たす。回転軸を静止させた状態で荷重を加え、潤滑油の温度110℃において、毎分290回転の速度で荷重を増して焼付き荷重を求めた。焼付き荷重が大きければ大きいほど、極圧性が良好とした。
【0080】
(4)SRV試験(摩擦係数)
摩擦係数試験は、DIN 51834−2「潤滑油の潤滑特性評価方法」に準拠してSRV試験機で実施した。本試験は、鋼製のボールを鋼製のプレートに垂直に固定し、試料をプレートに数滴たらす。振動軸を静止させた状態で荷重(30N)を加え、潤滑油の温度60℃において、振幅1000μm、周波数50Hzにて10分間往復運動(振動)させる。油温を10分毎に10℃上昇させ、100℃の平均摩擦係数値を求めた。摩擦係数が小さければ小さいほど、良好とした。
【0081】
【表1】
【0082】
なお、表1中の事項は以下のとおりである。
基油A−1:溶剤精製鉱油(GpI),Mz 20H(40℃:49.06mm/s,100℃:6.923mm/s,VI:96,硫黄含有量:0.14質量%,%C:7.75,%C:27.5,%C:64.7)
基油A−2:溶剤精製鉱油(GpI),TK3095(40℃:95.1mm/s,100℃:10.9mm/s,VI:98,硫黄含有量:0.58質量%,%C0.6:,%C:36.1,%C:63.3)
基油A−3:水素化精製鉱油(GpIII),YUBASE4(40℃:19.57mm/s、100℃:4.23mm/s、VI:122、硫黄分:<10質量ppm、%C:80.7、%C:19.3、%C:0)
基油B−1:溶剤精製基油(GpI),Mz 150BS(40℃:506.8mm/s,100℃:32.30mm/s,VI:95,硫黄含有量:0.42質量%,%C:8.23,%C:24.6,%C:67.2)
基油B−2:溶剤精製基油(GpI),TK5095(40℃:242.7mm/s,100℃:20.5mm/s,VI:99,硫黄含有量:0.57質量%,%C:5.9、%C:23.9、%C:70.2)
有機モリブデン化合物F−1:MoDTC(Mo:10.0質量%)
ホウ素含有分散剤G−1:ホウ素化コハク酸イミド(B:2.0質量%,N:2.3質量%,Mw:1000)
非ホウ素分散剤H−1:非ホウ素化コハク酸イミド(B:0.0質量%,N:2.1質量%,Mw:1000)
性能添加剤C−1:GL−5PKG,(P:1.40質量%、S:22.9質量%)
流動点降下剤D−1:アルキルメタクリレートコポリマー

摩耗痕径:392N,1200rpm,80℃,30min
ファレックス焼付き試験:290rpm,110℃
SRV試験:Ball−Disk、荷重(30N)、試験距離(1000μm)、振幅数(50Hz)、油温(100℃)
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明の潤滑油組成物は、省燃費性能と歯車や軸受け等の十分な耐久性を兼ね備えた潤滑油組成物として、特に自動車用ギヤ装置に好適に用いられる潤滑油組成物である。従って、例えば自動車用自動変速機や無段変速機や、手動変速機や特に終減速機に適用することにより、歯車軸受機構およびオイルポンプ等の攪拌抵抗および摩擦抵抗が低減され、動力の伝達効率が向上することで自動車の燃費の向上が可能となる。