特許第6059575号(P6059575)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6059575透明電極付き基板の製造方法、および積層体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6059575
(24)【登録日】2016年12月16日
(45)【発行日】2017年1月11日
(54)【発明の名称】透明電極付き基板の製造方法、および積層体
(51)【国際特許分類】
   H01B 13/00 20060101AFI20161226BHJP
   H05B 33/28 20060101ALI20161226BHJP
   H05B 33/22 20060101ALI20161226BHJP
   H01L 51/50 20060101ALI20161226BHJP
   H05B 33/26 20060101ALI20161226BHJP
   H01B 5/14 20060101ALI20161226BHJP
   G06F 3/041 20060101ALI20161226BHJP
   B32B 9/00 20060101ALI20161226BHJP
   G02F 1/1343 20060101ALI20161226BHJP
【FI】
   H01B13/00 503D
   H05B33/28
   H05B33/22 Z
   H05B33/14 A
   H05B33/26 Z
   H01B5/14 B
   H01B5/14 A
   H01B13/00 503B
   G06F3/041 430
   B32B9/00 A
   G02F1/1343
【請求項の数】10
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-65042(P2013-65042)
(22)【出願日】2013年3月26日
(65)【公開番号】特開2014-191934(P2014-191934A)
(43)【公開日】2014年10月6日
【審査請求日】2016年1月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】100152571
【弁理士】
【氏名又は名称】新宅 将人
(74)【代理人】
【識別番号】100141852
【弁理士】
【氏名又は名称】吉本 力
(72)【発明者】
【氏名】口山 崇
(72)【発明者】
【氏名】山本 憲治
【審査官】 北嶋 賢二
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−133132(JP,A)
【文献】 特開平10−125931(JP,A)
【文献】 特開2012−027177(JP,A)
【文献】 特開昭51−016817(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 13/00
B32B 9/00
G02F 1/1343
G06F 3/041
H01B 5/14
H01L 51/50
H05B 33/22
H05B 33/26
H05B 33/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基板上に、パターニングされた透明電極層および光学調整層をこの順に備える透明電極付き基板を製造する方法であって、
支持体上に、誘電体からなる光学調整層、および導電性金属酸化物からなりパターニングされた透明電極層がこの順に形成された積層体を準備する積層体準備工程;
前記積層体の前記透明電極層と、透明基板とが、互いに密着するように貼り合わせられる貼合工程;
前記積層体の、支持体と光学調整層との密着力が低下させられる密着力低下工程;および
前記支持体と前記光学調整層とが剥離される剥離工程、
をこの順に有し、
前記支持体は、透明電極層形成面側の表面に離型層を備え、
前記密着力低下工程において、前記離型層と前記光学調整層との密着力が低下させられる、透明電極付き基板の製造方法
【請求項2】
前記透明基板は、透明電極層と貼り合わせられる側の表面に接着層を備え
前記接着層が、紫外線硬化型の接着剤であり、
前記密着力低下工程において、前記積層体に紫外線が照射されることによって、前記離型層と前記光学調整層との密着力が低下させられるとともに、前記紫外線硬化型の接着層が硬化される、請求項に記載の透明電極付き基板の製造方法。
【請求項3】
前記離型層がポリオレフィン系樹脂からなる、請求項1または2に記載の透明電極付き基板の製造方法。
【請求項4】
前記密着力低下工程において、前記積層体が加熱されることによって、前記離型層前記光学調整層との密着力が低下させられる、請求項に記載の透明電極付き基板の製造方法。
【請求項5】
前記支持体が可撓性である、請求項1〜のいずれか1項に記載の透明電極付き基板の製造方法。
【請求項6】
前記貼合工程が行われる前に、前記透明電極層上に金属配線が形成される、請求項1〜のいずれか1項に記載の透明電極付き基板の製造方法。
【請求項7】
前記貼合工程が行われる前に、前記透明基板の透明電極層と貼り合わせられる側の表面に金属配線が形成される、請求項1〜のいずれか1項に記載の透明電極付き基板の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜のいずれか1項に記載の透明電極付き基板の製造方法に用いられる積層体であって、支持体上に、誘電体からなる光学調整層、および導電性金属酸化物からなる透明電極層をこの順に有し、
前記支持体は、光学調整層形成面側表面に、紫外線照射または加熱により前記光学調整層との密着力が低下する離型層を備える、積層体。
【請求項9】
前記透明電極層がパターニングされている、請求項に記載の積層体。
【請求項10】
前記透明電極層上に、さらに金属配線を備える、請求項またはに記載の積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明基板上にパターニングされた透明電極層を備える透明電極付基板の製造方法に関する。さらに、本発明は当該透明電極付き基板の製造に用いられる積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
フィルムやガラス等の透明基板上に透明電極層が形成された透明電極付き基板は、太陽電池、液晶表示素子、有機EL素子等の光デバイスや、タッチパネル等の透明電極として使用される。透明電極層は、面内の抵抗値の低減を目的としてパターニングされる場合がある。また、透明電極がアドレス電極として用いられる場合や、タッチパネルの位置検出に用いられる場合も透明電極層が所定形状にパターニングされる。例えば、透明電極付き基板が静電容量方式タッチパネルの位置検出に使用される場合、透明基板の一方の面には第一方向(x方向)に沿ってパターニングされた透明電極層が形成され、透明基板の他方の面には、第一方向と直交する第二方向(y方向)に沿ってパターニングされた透明電極層が形成される。
【0003】
透明電極付き基板の製造方法としては、透明基板上に透明電極層を形成した後、透明電極層をパターニングしたものをそのまま用いる方法(例えば特許文献1)と、支持体上に剥離可能に形成された透明電極層を透明基板上に転写する方法(例えば特許文献2)がある。前者の方法では、透明電極層形成時の熱や溶剤等への耐久性を有する透明基材を用いる必要がある。一方、後者の転写法は、透明電極層の製膜に用いられる基材の自由度が高く、例えば、可撓性の支持体上に、ロール・トゥ・ロール法で透明電極層を形成した後、強化ガラスや薄膜等の透明基板上に透明電極層を転写できる。そのため、転写法は、透明電極層の生産性が高く、かつ、透明電極付き基板の光学特性を任意に制御可能である等の観点で優れている。
【0004】
透明電極層の材料としては、酸化インジウム錫(ITO)や酸化亜鉛等の導電性金属酸化物、あるいは銀等の金属材料が用いられる。近年、透明電極の材料として、銀ナノワイヤー等の金属材料の応用が進んでいる。例えば、特許文献2では、離型フィルム支持体上に銀ナノワイヤー透明電極層を形成し、透明電極層を別のフィルム上に転写した後、エッチングによりパターニングする方法が開示されている。しかしながら、銀等の金属材料は、光反射(金属光沢)が大きいため、タッチパネル等のディスプレイ材料に用いられた場合は、画面のギラツキ等を生じたり、透明電極のパターンが視認される等の問題を生じ、視認性に劣る傾向がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】WO2011/070801号国際公開パンフレット
【特許文献2】特開2011−086386号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
画面の視認性を高める観点から、透明電極層の材料は、導電性金属酸化物が好ましい。一方、導電性金属酸化物は、塗布法により形成される金属ナノワイヤー等に比して、膜の柔軟性や屈曲性が劣る傾向がある。そのため、導電性金属酸化物からなる透明電極層を他の基材に転写すると、透明電極層に割れを生じたり、膜の一部が支持体から剥離されずに残る(欠ける)等の問題を生じ易い。特に、透明電極層がパターニングされている場合は、各パターン電極が、割れや欠けを生じないように剥離を行う必要があるため、生産性や歩留りが低下するとの問題がある。
【0007】
上記課題に鑑み、本発明は、金属酸化物からなりパターニングされた透明電極層を備える透明電極付き基板の、転写法による製造方法の提供を目的とする。さらに、本発明は、タッチパネル等のデバイスに組み込まれた際も、透明電極層のパターンが視認され難い透明電極付き基板の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、透明基板上に、パターニングされた透明電極層および光学調整層をこの順に備える透明電極付き基板を製造する方法に関する。本発明の製造方法は、積層体準備工程、貼合工程、密着力低下工程、および剥離工程をこの順に有する。
【0009】
積層体準備工程は、支持体上に、誘電体からなる光学調整層、および導電性金属酸化物からなる透明電極層がこの順に形成された積層体を準備する工程である。支持体としては、樹脂フィルム等の可撓性の材料が好適に用いられる。透明電極層は、パターニングされていることが好ましい。透明電極層上には、金属配線が形成されていてもよい。
【0010】
一実施形態において、支持体は、透明電極層形成面の表面に離型層を備える。離型層は、後に行われる密着力低下工程において、光学調整層との密着力が低下させられるものが好ましい。一実施形態において、支持体は、透明電極層形成面側の表面(例えば離型層)がポリオレフィン系樹脂からなる。
【0011】
貼合工程は、積層体の透明電極層と、透明基板とが、互いに密着するように貼り合わせられる工程である。透明基板としては、透明電極層と貼り合わせられる側の表面に接着層を備えるものが好適に用いられる。一実施形態において、接着層は、紫外線硬化型の接着剤である。また、接着層上に金属配線が形成されていてもよい。
【0012】
密着力低下工程は、支持体と光学調整層との密着力が低下させられる工程であり、例えば、積層体への紫外線の照射や、加熱によって、支持体と光学調整層との密着力が低下させられる。
【0013】
剥離工程は、支持体と光学調整層とが剥離される工程である。これらの各工程を経て、支持体から透明基板上に透明電極層および光学調整層が転写され、透明電極付き基板が得られる。
【0014】
さらに、本発明は、上記製造方法に用いられる積層体に関する。本発明の積層体は、支持体上に、誘電体からなる光学調整層、および導電性金属酸化物からなる透明電極層をこの順に有する。支持体は、光学調整層形成面側表面に、紫外線照射または加熱により光学調整層との密着力が低下する離型層を備えることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、割れや欠け等の不具合を生じることなく、透明電極層を透明基板上に転写して、透明電極付き基板を製造できる。そのため、酸化物薄膜に対する密着性が低い材料や、スパッタリング製膜時のダメージに対する耐久性が十分ではない材料からなる透明基板上に、導電性金属酸化物からなりパターニングされた透明電極層を備える透明電極付き基板を、生産性および歩留り高く製造できる。また、導電性金属酸化物からなる透明電極層上に光学調整層を有するため、透明電極層のパターンの視認が抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】透明電極付き基板の製造工程例を表す概念図である。
図2】透明電極付き基板の製造に用いられる積層体の一形態を模式的に示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の透明電極付き基板は、透明基板上に、パターニングされた透明電極層および光学調整層をこの順に備える。本発明では、支持体上に形成された透明電極層等を透明基板上に転写することにより、透明電極付き基板が形成される。
【0018】
図1は、本発明の一実施形態にかかる透明電極付き基板の製造工程を模式的に表す概念図である。本発明では、支持体20上に、光学調整層30および透明電極層40を備える積層体80が用いられる(積層体準備工程:図1(A))。光学調整層30は誘電体からなり、透明電極層40は導電性金属酸化物からなる。透明電極層40は、ストライプ状(図2参照)やスクエア状等の所定形状にパターニングされている。図1では、透明電極層40上に金属配線70を有する例が図示されている。なお、金属配線は、最終的に得られる透明電極付き基板100において、透明電極層40と導通するように設けられていればよく、その配置等は図1図2に図示される形態に限定されない。
【0019】
上記積層体80の透明電極層40側の面と、透明基板10とが、互いに密着するように貼り合わせられる(貼合工程:図1(B))。その後、積層体80が、光学調整層30と支持体20との界面で剥離され(剥離工程:図1(D))、透明電極付き基板100が得られる。本発明においては、支持体20が光学調整層30から剥離される前に、両者の密着力が低下させられることが好ましい(密着力低下工程:図1(C))。以下、各工程の詳細について、順次説明する。
【0020】
[積層体準備工程]
積層体80は、支持体20上に、光学調整層30、およびパターニングされた透明電極層40をこの順に備える。積層体の形成方法は特に限定されないが、支持体上に、光学調整層および透明電極層をこの順に形成後、透明電極層を所定形状にパターニングする方法が好適に採用される。
【0021】
(支持体)
支持体20は、ガラス等の剛性基材でも可撓性基材でもよい。可撓性の支持体は、その上に光学調整層や透明電極層を、ロールコータや巻取式スパッタリング装置を用いて、ロール・トゥ・ロール方式により生産性高く製膜できるとの点で有利である。また、支持体が可撓性であれば、透明基板に透明電極層および光学調整層を転写する際の作業性にも優れる。そのため、支持体としては、長尺の可撓性樹脂フィルム等が好適に用いられる。支持体が可撓性の場合、自己支持性を有していることが好ましい。可撓性の支持体の厚みは、特に限定されないが、10μm〜400μmが好ましく、50μm〜300μmがより好ましい。
【0022】
図1(D)に示すように、支持体20は、透明電極付き基板100から剥離され、除去される材料、すなわち工程部材である。そのため、支持体20は透明であってもよく着色したものでもよい。支持体を構成する材料は特に限定されず、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフテレート(PBT)やポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル樹脂;ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂;ポリノルボルネン等のシクロオレフィン系樹脂;ポリカーボネート樹脂;ポリイミド樹脂;セルロース系樹脂;およびポリアミド系樹脂等の樹脂材料を適宜に採用できる。支持体20は、可撓性を有していれば、アルミニウム箔やニッケル箔等の金属材料でもよい。
【0023】
支持体20は、その上に形成される光学調整層30等に対する密着性を有するとともに、剥離工程では、光学調整層から容易に剥離できることが好ましい。光学調整層等の製膜時における支持体との密着性と、剥離工程における両者の界面での剥離の容易性とは、一般に相反する。そのため、後に詳述するように、剥離工程の前に密着力低下工程(図1(C))が設けられ、支持体20と光学調整層30との密着力が低下させられることが好ましい。密着力低下工程は、例えば、加熱や紫外線照射等によって支持体20の表面を変性させる工程である。そのため、支持体20は、加熱や紫外線照射等によって、光学調整層30形成面側表面の光学調整層との密着性が低下するものが好ましい。一実施形態では、支持体20を構成する基材(可撓性樹脂フィルム)の材料が、加熱や紫外線照射によって密着力が低下する性質を有している。別の実施形態では、図1に示すように、基材21の表面に、加熱や紫外線照射によって密着力が低下する特性を有する離型層22を備える支持体20が用いられる。
【0024】
加熱や紫外線照射により密着性が低下する材料としては、硬化により粘着性(タック性)が低下する接着剤が知られている。しかしながら、支持体20の表面がタック性を有していると、光学調整層や透明電極層をロール・トゥ・ロール方式により製膜する際の支持体のハンドリング性が低下したり、接着層が製膜装置内のローラ等に付着して製膜装置の汚染を生じる場合がある。そのため、支持体20の表面(離型層22)の材料は、タック性を有していないことが好ましい。このような材料としては、例えば、ポリオレフィン系樹脂が挙げられる。ポリオレフィン系樹脂は、加熱や紫外線照射によって脆化する性質を有するため、密着力低下工程において、光学調整層30との密着性が低下し得る。前記ポリオレフィン系樹脂としては、低密度ポリエチレンや、ポリプロピレン等が挙げられる。
【0025】
(光学調整層)
支持体20上には光学調整層30が設けられる。パターニングされた透明電極層を有する透明電極付き基板では、電極層形成部と、パターニングによって透明電極層が除去された電極層非形成部との透過率差や反射率差に起因して、電極パターンが視認され易くなる傾向がある。これに対して、金属酸化物からなる透明電極層40に隣接して光学調整層30が設けられることで、電極層形成部と電極層非形成部との透過率差や反射率差が低減され、透明電極のパターン視認を抑制できる。
【0026】
光学調整層30は誘電体からなる。光学調整層は、抵抗率が1×10−2Ω・cm以上であることが好ましい。光学調整層を構成する材料は、少なくとも可視光領域で無色透明であることが好ましく、酸化物を主成分とするものが好ましい。光学調整層の材料としては、例えば、Si,Nb,Ta,Ti,ZrおよびHfからなる群から選択される1以上の元素の酸化物が好適に用いられる。中でも、酸化シリコン(SiO)および酸化ニオブ(Nb)が好ましい。なお、本明細書において、ある物質を「主成分とする」とは、当該物質の含有量が51重量%以上、好ましくは70重量%以上、より好ましくは90重量%であることを指す。本発明の機能を損なわない限りにおいて、各層には、主成分以外の成分が含まれていてもよい。
【0027】
光学調整層30は、1層の誘電体層からなるものでもよく、2層以上の誘電体層からなるものであってもよい。光学調整層30が2層以上からなる場合、各層の厚みや屈折率を調整することにより、各層の界面での反射率や透過率等に適切な波長選択性を付与でき、電極層形成部と電極層非形成部との透過率差や反射率差をさらに低減できる。また、光学調整層30は、その上に透明電極層40が形成される際に、支持体20から水分や有機物質が揮発することを抑制するガスバリア層として作用し得るとともに、膜成長の下地層としても作用し得る。
【0028】
光学調整層30が1層の場合、多層の場合のいずれにおいても、透明電極層40の直下の誘電体層は、酸化シリコンを主成分とするものが好ましい。酸化シリコンは、透明電極層製膜時のガスバリア層および下地層としての作用に優れるとともに、透明電極層40と光学調整層30との界面の屈折率差を適宜に調整できるため、パターン視認の抑制に優れる。
【0029】
光学調整層30の積層数、屈折率、膜厚等は、透明電極層の屈折率(一般に、1.8〜2.2程度)や膜厚に応じて、パターンの視認が抑制されるように、適宜に調整される。光学調整層30の合計膜厚は、4nm〜100nmが好ましく、5nm〜85nmがより好ましく、6nm〜70nmがさらに好ましい。光学調整層30の平均屈折率は、1.45〜1.65が好ましい。光学調整層の合計膜厚および平均屈折率が上記範囲であれば、電極層形成部と電極層非形成部との透過率差や反射率差が低減され、透明電極のパターン視認が抑制される傾向がある。なお、平均屈折率は、光学調整層の光学膜厚を膜厚で割ったものである。光学調整層が複数の誘電体層からなる場合は、各誘電体層の光学膜厚(屈折率n×膜厚t)の合計を、各層の膜厚の合計で割ったものが平均屈折率となる。上記屈折率は、分光エリプソメトリーにより測定される波長550nmの光に対する屈折率である。
【0030】
支持体20上への光学調整層30の形成方法は、均一な薄膜が形成される方法であれば特に限定されない。製膜方法としては、スパッタリング法、蒸着法、CVD法等のドライコーティング法や、スピンコート法、ロールコート法、スプレー法やディッピング法等のウェットコーティング法が挙げられる。上記製膜方法の中でも、ナノメートルレベルの薄膜を形成しやすいという観点からドライコーティング法が好ましい。特に、数ナノメートル単位で膜厚を制御し、光学特性を調整可能であることから、スパッタリング法が好ましい。支持体20と光学調整層30との密着性を高める観点から、光学調整層30の製膜に先立って、支持体20の表面に、コロナ放電処理やプラズマ処理等の表面処理が行われてもよい。
【0031】
光学調整層30がスパッタリング法により製膜される場合、ターゲットとしては金属、金属酸化物、金属炭化物等を用いることができる。電源としては、DC,RF,MF電源等が使用できる。生産性の観点からはMF電源が好ましい。製膜時のパワー密度は、支持体に過剰な熱を与えず、かつ生産性を損なわない範囲で調整され得る。
【0032】
スパッタリングによる製膜は、製膜室内に、アルゴンや窒素等の不活性ガスおよび酸素ガスを含むキャリアガスが導入されながら行われる。導入ガスは、アルゴンと酸素の混合ガスが好ましい。光学調整層30が1層の場合、多層の場合のいずれにおいても、支持体20の直上の誘電体層は、酸素過剰の条件で製膜されることが好ましい。支持体上への製膜が酸素過剰の条件で行われることによって、支持体表面が酸素プラズマに曝される。そのため、支持体表面の材料が、ポリオレフィン系樹脂のように一般には無機酸化物との密着性が小さいものであっても、支持体20と光学調整層30との密着性が高められる。
【0033】
光学調整層製膜時の基板温度は、支持体が耐熱性を有する範囲であればよく、例えば、60℃以下が好ましい。支持体20の材料、あるいは基材21上に形成される離型層22の材料として、ポリオレフィン系樹脂が用いられる場合、より低温で製膜が行われることが好ましい。具体的には、基板温度は、−20℃〜40℃がより好ましく、−10℃〜20℃がさらに好ましい。基板温度を上記範囲とすることで、支持体や離型層の脆化や寸法変化が抑制され、支持体20と光学調整層30との密着性を高めることができる。
【0034】
(透明電極層)
光学調整層30上には、導電性金属酸化物からなる透明電極層40が形成される。導電性金属酸化物は、銀や銅等の金属にみられる光反射(金属光沢)がないため、透明電極付き基板がディスプレイ等に用いられた場合の視認性低下が抑制される。また、銀や銅等の金属は屈折率が1より小さいため、光学調整層による反射率の制御が困難である。これに対して、透明電極層40が導電性金属酸化物層からなる場合、酸化物誘電体からなる光学調整層30と積層することにより、界面の屈折率差を調整して、反射率を制御し、透明電極層のパターンの視認を抑制できる。
【0035】
透明電極層40を構成する導電性金属酸化物としては、In,Sn,Zn等の金属の酸化物、あるいはこれらの金属の複合酸化物が挙げられる。中でも、高透過率と低抵抗とを両立する観点から、酸化インジウムを主成分とする複合金属酸化物が好ましく、酸化インジウム錫(ITO)や酸化インジウム亜鉛(IZO)が特に好ましい。
【0036】
透明電極層40もスパッタリング法により製膜されることが好ましい。巻取式スパッタリング装置により製膜が行われる場合、支持体20上に、光学調整層30と透明電極層40とが、連続して製膜されてもよい。透明電極層のスパッタリング製膜に用いられるターゲットとしては金属、金属酸化物等が用いられる。特に、酸化インジウムと酸化スズまたは酸化亜鉛を含有する酸化物ターゲットが好適に用いられる。
【0037】
(透明電極層のパターニング)
製膜後の透明電極層40は、面内の一部がエッチング等により除去され、パターニングされる。パターンは、用途等に応じて任意の形状に形成され得る。分離しているパターン電極41〜44のそれぞれは、分離され、互いに絶縁されていることが好ましい。
【0038】
エッチングによりパターニングが行われる場合、透明電極層40のみがエッチングされてもよく、透明電極層40と共に光学調整層30もエッチングされてもよい。光学調整層30がエッチングされる場合は、支持体20が露出しないように、光学調整層30の厚み方向の一部のみがエッチングされることが好ましい。
【0039】
透明電極層のエッチング方法は、ウェットプロセスおよびドライプロセスのいずれでもよいが、透明電極層40のみを選択的に除去する観点から、ウェットプロセスが適している。ウェットプロセスとしては、フォトリソグラフィ法が好適である。フォトリソグラフィに使用されるフォトレジスト、現像液およびリンス剤としては、透明電極層40を侵すことなく、所定のパターンを形成し得るものを任意に選択し得る。エッチング液としては、透明電極層40を溶解除去可能であり、光学調整層30を侵さないものが好適に用いられる。
【0040】
(透明電極層の結晶化)
ITO等の導電性金属酸化物からなる透明電極層は、一般に、スパッタリング製膜直後は非晶質である。透明電極付き基板の用途によっては、透明電極層の透過率向上、低抵抗化等の目的で、透明電極層の結晶化が行われる場合がある。結晶化は、支持体上に形成された透明電極層を加熱することにより行われる。透明電極層の加熱処理は、例えば、120℃〜150℃のオーブン中で、30〜60分間行われる。或いはより低温(例えば50℃〜120℃程度)で、1日〜3日間など、比較的低温で長時間加熱されてもよい。透明電極層の結晶化は、パターニングの前後いずれに行われてもよい。また、透明電極層40を透明基板10上に転写後に、透明電極層の結晶化が行われてもよい。
【0041】
(金属配線の形成)
透明電極層40上には、図1(A)に示すように、金属配線70が形成されてもよい。図2は、透明電極層40上に金属配線70が形成された積層体80の一例を模式的に表す平面図であり、1A−1A線での断面が、図1(A)の積層体80の断面図に対応している。金属配線71〜74は、パターニング後の各透明電極41〜44に接するように設けられる。タッチパネル等の最終製品では、金属配線71〜74は、IC等のコントローラに接続され、各透明電極の電位が検知される。例えば、静電容量方式のタッチパネルでは、人の指等が透明電極に接近した際の透明電極の静電容量の変化が、電位変化として金属配線を介してコントローラで検出され、位置検出が行われる。
【0042】
タッチパネル等のデバイス作成時の透明電極とコントローラとの電気的接続を容易に行う観点から、本発明では、積層体と透明基板との貼り合わせ(貼合工程、図1(B))が行われる前に、金属配線が形成されることが好ましい。なお、透明電極層40上には、金属配線を形成せず、透明基板10の透明電極層40と貼り合わせられる側の表面に金属配線を形成してもよい。金属配線と透明電極との位置合わせを容易とする観点からは、図1(A)に示すように、透明電極層40上に金属配線70が形成されることが好ましい。
【0043】
金属配線の形成方法は特に限定されず、導電性インクや導電性ペーストを用いた印刷法や、フォトリソグラフィ法等を適宜に採用できる。導電性インクや導電性ペーストを用いる場合、乾燥等のために行われる加熱処理が、透明電極層の結晶化を兼ねていてもよい。フォトリソグラフィによって金属配線が形成される場合は、配線の細線化が可能である。
【0044】
[貼合工程]
貼合工程において、積層体80の透明電極層40形成面が、透明基板10と互いに密着するように積層され、貼り合わせられる。透明基板10は、少なくとも可視光領域で無色透明であれば、材料や厚み等は特に限定されない。透明電極層40および光学調整層30と透明基板10との密着性を高める目的で、透明基板10は、透明基材11の表面に接着層12を有するものが好適に用いられる
【0045】
(透明基材)
透明基材11としては、ガラス板等の剛性材料や透明樹脂フィルム等の可撓性材料が挙げられる。本発明によれば、支持体20上に形成された光学調整層30および透明電極層40が透明基板10上に転写される。そのため、光学調整層や透明電極層の製膜が困難な材料を、透明基材11として用いることができる。例えば、自己支持性を有していない(例えば膜厚5μm以下の)薄膜や、強化ガラス等を透明基材11として用いることができる。また、酸化シリコン等の酸化物薄膜に対する密着性が低い材料(例えば、環状ポリオレフィン系樹脂やアクリル系樹脂等)や、スパッタリング製膜時の熱やプラズマダメージに対する耐久性が十分ではない材料等も、透明基材11の材料として使用可能である。
【0046】
(接着層)
接着層12は、透明基板10と積層体80との密着性を高める目的で、透明基材11の表面に設けられる。透明基板の両面に透明電極層や光学調整層が設けられる場合は、透明基材の両面に接着層が設けられることが好ましい。
【0047】
接着層12は、透明であり、かつ透明基材11と透明電極層40および光学調整層30との接着性に優れるものであれば、その材料等は特に限定されない。取扱いの容易性等の観点から、接着層12として感圧型接着剤(粘着剤)が好適に用いられる。貼合工程において、透明基板10と積層体80とを密着積層する際、あるいは、剥離工程において積層体80から支持体20を剥離する際の透明電極層40の割れや剥がれを抑制する観点から、接着層12は、柔軟性と接着性を兼ね備えることが好ましい。このような特性を満たす接着層としては、紫外線硬化型接着層(例えば紫外線硬化型粘着剤)が挙げられる。
【0048】
接着層12として紫外線硬化型の接着層が用いられる場合、透明基板10と積層体80とを密着積層した後、剥離工程の前に紫外線照射による硬化が行われることが好ましい。支持体20が紫外線照射によって光学調整層30との密着性が低下するものである場合、密着力低下工程において紫外線照射を行うことにより、支持体と光学調整層との密着力低下と、接着層の硬化とを同時に行い、透明電極付き基板の製造工程を簡素化できる。
【0049】
[密着力低下工程]
本発明では、貼合工程後、積層体80から支持体20が剥離される前に、支持体20と光学調整層30との密着力が低下されることが好ましい。密着力低下工程では、例えば、支持体20と光学調整層30との密着力が、透明電極層40と透明基板10との密着力および光学調整層30と透明基板10との密着力よりも小さくなるように、処理が行われることが好ましい。密着力低下処理後の、光学調整層30と透明基板10との密着力は、0.3〜0.7N/cm程度が好ましい。密着力は、90°剥離強度の測定により評価できる。密着力低下処理方法は特に限定されないが、加熱や紫外線照射等が好適に採用される。
【0050】
(紫外線照射による密着力低下)
支持体20の光学調整層30形成面側の表面(例えば、離型層22)が、紫外線照射によって変性する材料からなる場合、貼合工程後の積層体に紫外線を照射することにより、支持体20と光学調整層30との密着力を低下させることができる。ここで、紫外線照射による「変性」とは、例えば劣化や脆化である。例えば、低密度ポリエチレン等のポリオレフィンは、紫外線照射によって脆化する傾向がある。そのため、基材21や離型層22がポリオレフィン系材料からなる場合は、密着力低下工程において紫外線照射が照射されることにより、離型層22が変性されるため、光学調整層30と変性後の離型層22dとの界面での剥離が容易になる。
【0051】
紫外線照射は、積層体80側、透明基板10側のいずれから行われてもよく、両方から行われてもよい。基材21が紫外線吸収の大きい材料である場合に、離型層22に紫外線を照射するためには、透明基板10側から紫外線照射が行われることが好ましい。紫外線の強度や積算照射量は、支持体20(あるいは離型層22)の材料等に応じて適宜に設定される。
【0052】
(加熱による密着力低下)
支持体20の光学調整層30形成面側の表面(例えば、離型層22)が、熱によって変性する材料からなる場合、貼合工程後の積層体を加熱することにより、支持体20と光学調整層30との密着力を低下させることができる。ここで、「変性」とは、劣化や脆化の他に、寸法変化が挙げられる。例えば、支持体20が延伸フィルムのように熱収縮する材料である場合、積層体の加熱に伴う支持体の熱収縮によって、支持体と光学調整層との界面に歪を発生させ、両者の密着力を低下させることができる。加熱時間や加熱温度は、支持体20(あるいは離型層22)の材料等に応じて適宜に設定される。加熱による密着力の低下工程は、前述の透明電極層の結晶化を兼ねるものであってもよい。
【0053】
[剥離工程]
剥離工程においては、積層体から支持体20が剥離される。これによって、透明基板10上に、パターニングされた透明電極層40および光学調整層30をこの順に備える透明電極付き基板100が得られる。事前に行われる密着力低下工程において、支持体20と光学調整層30との密着力が低下させられているため、低剥離力で容易に剥離することができ、光学調整層30や透明電極層40の割れ等の不具合を抑止できる。なお、密着力低下工程において、支持体20と光学調整層との界面で自然剥離が生じる場合も、本発明の剥離工程に含まれる。この場合、密着力低下工程後に、積層体から支持体20を除去することにより、透明電極付き基板100が得られる。
【0054】
本発明では、支持体20と透明電極層40との間に、光学調整層30が形成されており、連続層である光学調整層30と支持体20との界面で剥離が行われる。そのため、パターニングされた透明電極層の界面で剥離が行われる場合に比して、透明電極層の割れや欠けを生じ難く、透明電極付き基板の生産性が高められ、歩留りが向上し得る。
【0055】
[透明基板の両面に透明電極層を有する実施形態]
以上、透明基板10の一方の面にパターニングされた透明電極層40を有する透明電極付き基板の例を中心に説明したが、本発明は、透明基板10の両面にパターニングされた透明電極層を備える透明電極付き基板にも適用可能である。透明基板の両面にパターニングされた透明電極層を備える透明電極付き基板は、透明基板10の一方の面に対して、積層体の貼合、密着力低下および剥離を行った後、他方の面に対して、貼合、密着力低下および剥離を行う方法;透明基板10の両方の面に対して、積層体の貼合を行った後、密着力低下および剥離を行う方法のいずれでも形成できる。後者の方法は、密着力低下のための紫外線照射や加熱等の処理を1度行うのみで、両面の密着力を低下させられるため、生産性に優れる。
【0056】
また、本発明では、事前にパターニングされた透明電極層が透明基板に貼り合わせられる。そのため、透明基板の表裏で透明電極層のパターンの形状やパターン方向が異なる透明電極付き基板も容易に作製可能である。
【符号の説明】
【0057】
10 :透明基板
11 :透明基材
12 :接着層
20 :支持体
21 :基材
22 :離型層
30 :光学調整層
40 :透明電極層
41〜44 :透明電極
70〜74 :金属配線
80 :積層体
100 :透明電極付き基板
図1
図2