【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成25年度独立行政法人科学技術振興機構 研究成果展開事業 研究成果最適展開支援プログラム 産業技術力強化法第19条の適応を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ポリマー(a)が、オレフィン系、アクリル系、スチレン系、アルカン酸ビニル系、ウレタン系、エステル系のポリマー、あるいはそれらの、共重合物、グラフト重合物、ブロック共重合物の群から選択される少なくとも1種の材料からなり、且つ、スルホン酸イオンで安定化されている請求項1又は2に記載のポリマーエマルジョン。
前記A−BブロックコポリマーのAのポリマーブロックのカルボキシ基を中和するアルカリが、アンモニア又は有機アミンである請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリマーエマルジョン。
前記A−Cブロックコポリマーは、前記第4級アンモニウム塩を有するメタクリレート系モノマー単位の含有量が、A−Cブロックコポリマー中に少なくとも5〜50質量%の範囲で含有され、且つ、そのCのポリマーブロック中に15〜100質量%の範囲で含有されている請求項5に記載のポリマーエマルジョンの製造方法。
前記A−CブロックコポリマーのAのポリマーブロックのカルボキシ基を中和するアルカリが、アンモニア又は有機アミンである請求項5又は6に記載のポリマーエマルジョンの製造方法。
少なくとも、染料及び/又は顔料、水、水溶性有機溶剤、さらに、請求項1〜4のいずれか1項に記載のポリマーエマルジョンを含有してなることを特徴とする着色剤組成物。
前記リビングラジカル重合において、前記重合開始化合物の使用量が、重合開始化合物1molに対し、Cのポリマーブロックを形成するモノマーの全モル数が10〜150molである請求項11に記載のA−Cブロックコポリマーの製造方法。
さらに、ハロゲン化リン、フォスファイト系化合物及びフォスフィネート化合物であるリン系化合物;イミド系化合物である窒素系化合物;フェノール系化合物である酸素系化合物;ジフェニルメタン系化合物、シクロペンタジエン系化合物である炭化水素、の群から選択される少なくとも1種を触媒として使用する請求項11又は12に記載のA−Cブロックコポリマーの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に好ましい形態を挙げて本発明を詳細に説明する。本発明者らは、上記した従来技術の課題を解決するために鋭意研究を行った結果、スルホン酸イオンを有するポリマーエマルジョンであって、該スルホン酸イオンの対イオンの一部又は全部が、下記の特有の性状のA−Bブロックコポリマーで構成されたものとすることで、上記した従来技術の課題を解決でき、例えば、インクジェット用のインク中にバインダーとして含有させた場合に、今までにない効果を発揮できるものになることを見出して本発明に至った。すなわち、本発明を特徴づけるA−Bブロックコポリマーは、90質量%以上のメタクリレート系モノマーからなるが、まず、該A−BブロックコポリマーのAのポリマーブロックは、そのGPCにおけるポリスチレン換算の数平均分子量が1000〜20000で、そのPDIが1.5以下であり、且つ、少なくともカルボキシ基を有し、そのポリマーブロックの酸価が30〜250mgKOH/gであり、その構造中のカルボキシ基は、アルカリで中和されているか、使用の際にアルカリで中和されるものである。そして、このA−BブロックコポリマーのBのポリマーブロックは、その重合成分に用いた第4級アンモニウム塩の基を有するメタクリレート系モノマーに由来する第4級アンモニウムイオン基を有するものであり、この第4級アンモニウムイオン基は、スルホン酸中和塩で安定化されたポリマーエマルジョンを構成するポリマー(a)の、スルホン酸イオンの一部又は全部の対イオンとなり、ポリマー(a)とA−Bブロックコポリマーとが対となるイオンの結合を形成する。
【0024】
発明者らは、これまでに既に、顔料が水系媒体中に微分散してなる分散液において、その顔料分散剤として、カルボキシ基を有するポリマーブロックと実質的に水に溶けないポリマーブロックとを有するブロックコポリマーを使用することで、高微分散性、高保存安定性、そして、乾燥しても再度液媒体にて分散する高再溶解性であり、高吐出安定性、ロングラン印刷適性などインクジェット印刷に適する顔料分散液を開発した(例えば、PCT/JP2009/063265)。これは、このブロックコポリマー中のカルボキシ基がアルカリで中和されているため、分散液の分散媒体である水系媒体に溶解することで、立体反発、立体障害によって顔料の微分散性と高安定性を付与し、また、この高親水性のため、乾燥しても水でこのポリマーブロックが溶解して再度分散性を付与することができることによる。また、このブロックコポリマーは、水に不溶のポリマーブロックを有しているので分散液に溶解しているポリマーがないことから粘度的に均一であるため、これを含有するインクの粘性は一定であり、吐出安定性やロングラン印刷に適するものになる。すなわち、先に提案した技術の概略は、上記した特有の構成のブロックコポリマーを顔料分散剤として使用することで、顔料を水不溶のポリマーブロックが被覆カプセル化し、水可溶のポリマーブロックが水に溶解して、この優れた作用を得ることを達成したものである。
【0025】
一方、インク中にバインダー成分として使用されている従来のエマルジョンは、前記した通り、これをインクに含有させた場合に、吐出安定性に欠けたり、乾燥したインクの再溶解性が悪かったりする場合があった。これらの原因について、本発明者らは、従来のエマルジョンは、エマルジョン粒子表面の親水性がそのエマルジョン粒子の安定性に寄与するだけであり、水中での機械的安定性や十分な親水性が足りないためと考えた。そして、本発明者らは、前記した顔料分散剤においての顔料分散性の考え方を利用することで、ポリマーエマルジョン粒子の表面を、ポリマーエマルジョン粒子に結合、被覆するポリマーブロックと、水に溶解するポリマーブロックによって、表面改質することで、従来のエマルジョンでは達成できていなかった、乾燥したインクの再溶解性、インクの吐出安定性、ロングラン印刷適性が付与できるのではないかと考えるに至った。
【0026】
そこで、本発明者らは、従来から、インクジェットのインクに用いられているスルホン酸中和塩で安定化されたポリマーエマルジョンに、このスルホン酸塩の基を構成するスルホン酸イオンの対イオンとなってイオン結合した状態で存在するように構成するため、一方が、ポリマーエマルジョン中で、上記スルホン酸イオンの対イオンである第4級アンモニウムイオンとなる性状の第4級アンモニウム塩を有するポリマーブロックと、一方が、カルボキシ基を有し、中和してイオン化して水に溶解する性状のポリマーブロックを有するブロックコポリマーを使用することが有効であると結論するに至った。すなわち、本発明者らは、このような性状のブロックコポリマーを利用して、従来、バインダー成分としてインクに用いられているスルホン酸塩で安定化されたポリマーエマルジョンを改質すれば、ブロックコポリマーの第4級アンモニウム塩が、ポリマーエマルジョンのポリマーのスルホン酸イオンの対イオンとなってポリマーエマルジョンのポリマー粒子と結合し、さらに、ブロックコポリマーを構成しているもう一方の水可溶性のポリマーブロックが水に溶解することで、再溶解性を付与して且つ水和する層が大きくなって、吐出安定性が良好になると考えた。このような認識の下、鋭意検討した結果、顕著な効果が得られる下記の構成からなる本発明のポリマーエマルジョンを見出して本発明に至った。
【0027】
すなわち、本発明の顕著な効果は、下記の構成を有するポリマーエマルジョンとすることで初めて得られる。本発明のポリマーエマルジョンは、基本的には、従来、インクのバインダー成分に使用されているスルホン酸中和塩で安定化されたエマルジョンを原料に用いてなるものであるが、その特徴は、上記したように、そのスルホン酸塩で安定化されている部分を改質し、スルホン酸イオンの対イオンの一部又は全部が、特有の構成のA−Bブロックコポリマーであるように構成した点にある。具体的には、本発明のエマルジョンは、スルホン酸イオンを有するポリマーエマルジョンであるが、該エマルジョンを構成しているポリマーのスルホン酸イオンの対イオンの一部又は全部が、90質量%以上のメタクリレート系モノマーからなる、下記の特定のA−Bブロックコポリマーとしたことで初めて得られる。そのA−Bブロックコポリマーとは、そのAのポリマーブロックは、GPCにおけるポリスチレン換算の数平均分子量(以下、数平均分子量はこれを指し、Mnと称す場合がある)が1000〜20000で、そのPDIが1.5以下であり、且つ、少なくともカルボキシ基を有し、そのAのポリマーブロックの酸価が30〜250mgKOH/gであり、その構造中のカルボキシ基が、最終的に使用の際にはアルカリで中和されているものであり、さらに、そのBのポリマーブロックは、少なくとも、第4級アンモニウム基を有するメタクリレート系モノマーからなる構成単位を有し、この結果、ポリマーエマルジョン中において、上記スルホン酸イオンの対イオンが、該A−BブロックコポリマーのBのポリマーブロックの第4級アンモニウムイオンである構成のものになる。
【0028】
このような特有の構成からなる本発明のポリマーエマルジョンは、下記の本発明の方法によって容易に得られる。すなわち、従来知られている、スルホン酸がアルカリ金属、アンモニア、有機アミンで中和されて塩となり安定化されているポリマーエマルジョン(a)に、下記に述べるように、90質量%以上のメタクリレート系モノマーからなる、下記の特定のA−Cブロックコポリマーを添加することによって容易に得られる。すなわち、この添加に用いるA−Cブロックコポリマーは、前記したスルホン酸イオンの対イオンとなるA−BブロックコポリマーのAのポリマーブロックとなるAのポリマーブロックを有し、Cのポリマーブロックは、例えば、ハロゲン化物塩、炭酸塩、水酸化物塩、有機カーボネート塩などの塩構造をした第4級アンモニウムイオン基を有するメタクリレート系モノマーを少なくとも有する重合成分からなるため、このような構成のA−Cブロックコポリマーを添加することで、ポリマーエマルジョン(a)のポリマーのスルホン酸の対イオンの一部又は全部が、A−CブロックコポリマーのCのポリマーブロックの第4級アンモニウムイオン基に交換されて、前記したポリマーエマルジョンのスルホン酸イオンの対イオンがA−Bブロックコポリマーとなって、本発明のポリマーエマルジョンを得ることができる。
【0029】
本発明のポリマーエマルジョンを特徴づけるポリマー粒子は、上記の構成であり、そのスルホン酸イオンの対イオンが、第4級アンモニウムイオン基を有する上記特有のA−Bブロックコポリマーであるので、水に溶解している成分がないので、これをインクジェットインクの構成成分とした場合に、前記したインクの粘性の変化や、吐出安定性に欠けるなどの問題が生じない。一方、上記特有のA−BブロックコポリマーのAのポリマーブロックは、アルカリで中和されたカルボキシ基を有しているので、水への溶解性が高く、ヘッドでインクの乾燥が生じても他の液媒体、例えば、アルカリ水溶液などで溶解しやすく(すなわち再溶解性がよく)、インクを再溶解性に優れたものにできる。さらに、本発明のポリマーエマルジョンのポリマーは、その対イオンが特有のA−Bブロックコポリマーであるので従来のものに比べて分子量が非常に大きいので、結果として、インクジッェトインクなどの被膜形成成分として有用な、強靭で密着性が高い良好な被膜を得ることができるものとなる。本発明のエマルジョンは、上記した従来にない特有の性状を有するものであるので、インクジェットインクのバインダー成分に適用することによって、上記した従来技術の課題を一挙に解決することが可能になる。
【0030】
また、本発明のエマルジョンの構成を実現するために必要となる特有の構造のA−Cブロックコポリマーを得る方法としては、リビングラジカル重合が適している。以下、この点について説明する。まず、リビングラジカル重合には様々な方法がある。例えば、ニトロキサイドを使用するNMP法、銅やルテニウムなどの金属錯体とハロゲン化物を利用する原子移動ラジカル重合法、ジチオカーバメートなどの硫黄化合物などを使用する可逆的付加解裂連鎖移動重合などがある。しかし、下記のように、いずれの方法もそれぞれ問題があり、本発明で必要とする性状のA−Cブロックコポリマーを得る方法としては、最適なものとは言い難い。すなわち、NMP法は高温が必要であり、メタクリレート系モノマーの重合はうまくリビング重合できない。また、原子移動ラジカル重合は、その金属錯体を使用することと、その金属錯体はアミン化合物をリガンドとしているので、カルボキシル基を有するモノマーをそのまま重合できない。また、可逆的付加解裂型連鎖移動重合は、硫黄化合物を使用しているので臭気があるなどの問題がある。
【0031】
本発明者らの検討によれば、本発明を特徴づけるA−Bブロックコポリマーを得るために必要となる特有の性状のA−Cブロックコポリマーは、下記のリビングラジカル重合で製造することで容易に得られる。具体的には、従来のラジカル重合において、重合開始化合物としてヨウ素化合物を使用し、必要に応じて触媒として、活性なリン、窒素、酸素、炭素原子を持つ有機化合物を使用するリビングラジカル重合で製造することが好ましい。このようにして製造することで、容易にPDIが狭い、すなわち、分子量が均一なポリマーを得ることができる。ポリマーが、この狭い分子量分布のものであることから、水に溶解しやすいポリマー分子、水に溶解しづらいポリマー分子がなく、性質が均一である。また、一方は必ず水に溶解するポリマーブロックを有していることで、非常に安定性を保つ性状のポリマーエマルジョンが得られ、且つ、これを利用してなる本発明のポリマーエマルジョンをバインダー成分に用いた場合にはインクジェット印字方法の吐出性などに最適な性能を得ることができるようになる。
【0032】
次に、本発明のエマルジョンの好ましい実施態様を挙げて本発明を詳細に説明する。
本発明はポリマーエマルジョンに関するが、その中に含まれるポリマーは、下記の2種類で構成されている。具体的には、そのポリマーの水乳化安定性付与基がスルホン酸イオンであるポリマーと、そのスルホン酸イオンの対イオンの一部又は全部となっているA−Bブロックコポリマーとで構成されている。該A−Bブロックコポリマーは、上記対イオンとしての第4級アンモニウムイオン基を一方のポリマーブロックに有し、且つ、もう一方のポリマーブロックが中和されたカルボキシ基を有するものであり、本発明のエマルジョンは、この特有の性状のA−Bブロックコポリマーにて水に安定に乳化、分散されている。そして、このA−Bブロックコポリマーにて安定化された状態のポリマーは、対イオンを形成させるために用意したA−Cブロックコポリマーと、従来、使用されているスルホン酸イオンで安定化されたポリマーエマルジョン(a)(以下、エマルジョン(a)と称す場合がある)のポリマーとの、塩交換(イオン交換)で得られるものである。本発明でいう「塩交換」とは、スルホン酸中和塩で安定化されているポリマーエマルジョンのスルホン酸イオンの対イオンを、A−CブロックコポリマーのCのポリマーブロックが有する第4級アンモニウム塩に由来する第4級アンモニウムイオンに置き換えたことを意味する。なお、このイオンの置き換えは、上記スルホン酸イオンの一部又は全部でなされている。
【0033】
上記のスルホン酸イオンの対イオンとするために用意したA−Cのポリマーブロックは、Aのポリマーブロックは、そのGPCにおけるポリスチレン換算の数平均分子量が1000〜20000で、そのPDIが1.5以下であり、且つ、少なくともカルボキシ基を有し、そのポリマーブロックの酸価が30〜250mgKOH/gであり、その構造中のカルボキシ基は、アルカリで中和されているか、使用時に中和されるものであり、Cのポリマーブロックは、その構成単位として、少なくとも、ハロゲン化物塩、炭酸塩、水酸化物塩、有機カーボネート塩のいずれかの第4級アンモニウム塩を構成している第4級アンモニウムイオン基を有するメタクリレート系モノマーからなるポリマーである。そして、本発明を構成する、このA−Cブロックコポリマーによって改質する原料となるポリマーエマルジョン(a)は、スルホン酸中和塩で乳化状態が安定化されたポリマーのエマルジョンである。以下、これらの材料についてそれぞれ説明する。
【0034】
[A−Cブロックコポリマー]
まず、A−Cブロックコポリマーについて説明する。このA−Cブロックコポリマーは、上記したように、スルホン酸塩で安定化されたポリマーのスルホン酸イオンの対イオンとなるポリマー成分であり、これによって、本発明のポリマーエマルジョン粒子の、安定性、再溶解性、吐出安定性などの機能が付与される。すなわち、本発明のポリマーエマルジョンは、エマルジョンを構成しているポリマー粒子のスルホン酸イオンの対イオンを、その構造中に中和されたカルボキシ基を有する特有のブロックコポリマーとすることで、本発明の顕著な効果を発揮するものに改質する。そのスルホン酸イオンの対イオンは、A−CブロックコポリマーのCのポリマーブロックに含まれる第4級アンモニウム塩を構成する第4級アンモニウムイオンであり、これによってブロックコポリマーがエマルジョンを構成しているポリマー粒子と結合している。すなわち、本発明では、スルホン酸塩で安定化されたポリマーエマルジョンのポリマー粒子に、水可溶のカルボキシ基を有するAのポリマーブロックと、第4級アンモニウム塩の基を有するCのポリマーブロックとで構成されたA−Cブロックコポリマーを使用して、これをイオン結合によって結合させることで改質することを特徴とする。
【0035】
本発明者らの検討によれば、これとは対照的に、上記したスルホン酸塩で安定化されたポリマーエマルジョンのポリマー粒子を改質する材料として、カルボキシ基や第4級アンモニウム塩がランダムに配列されている従来のラジカル重合で得られるランダムコポリマーを使用すると、その第4級アンモニウム塩がランダムにポリマー鎖にあるので、ポリマー全体がエマルジョン(a)のポリマー粒子のスルホン酸とイオン交換して結合してしまい、且つ、この場合は、本発明を特徴づけるブロックコポリマーとは異なり水に溶解するポリマー鎖がないので、逆に凝集してしまう。これに対し、前記したように、本発明では、一方のポリマーブロックに第4級アンモニウム塩を集中させ、ある特定のモル範囲(分子量範囲)にすることで、粒子間同士を凝集させず、エマルジョン(a)に含まれるポリマー粒子のスルホン酸塩の部分をこのA−Cブロックコポリマーで処理して、イオンの置き換えをしてA−Bブロックコポリマーとすることでイオン対による結合を形成し、これによって有用な本発明のポリマーエマルジョンとなる。本発明を特徴づけるA−Bブロックコポリマーを構成するAのポリマーブロックは、使用される状態では中和されたカルボキシ基を有しているので、吐出安定性、再溶解性に非常に有効に働く。
【0036】
上記した本発明のポリマーエマルジョンを特徴づけるA−Bブロックコポリマーを形成するために使用されるA−Cブロックコポリマーは、90質量%以上のメタクリレート系モノマーからなるA−Cブロックコポリマーであって、下記の2種類のポリマーブロックからなることを特徴とする。まず、Aのポリマーブロックは、GPCにおけるポリスチレン換算の数平均分子量が1000〜20000で、そのPDIが1.5以下であり、且つ、少なくともカルボキシ基を有し、そのポリマーブロックの酸価が30〜250mgKOH/gであり、その構造中のカルボキシ基は、アルカリで中和されているか、その後に中和されるものである。そして、Cのポリマーブロックは、その形成成分として、例えば、ハロゲン化物塩、炭酸塩、水酸化物塩、有機カーボネート塩などの第4級アンモニウム塩の基を有するメタクリレート系モノマーを少なくとも用いてなるポリマーである。
【0037】
本発明で使用するA−Cブロックコポリマーは、メタクリレート系モノマーに由来する構成単位を90質量%以上含むことを要し、好ましくは95質量%以上、さらに好ましくは100質量%からなるものである。後述するが、本発明のA−Cブロックコポリマーの好適な製造方法(重合方法)では、モノマーとしてメタクリレート系モノマーを用いることが特に好ましい。これに対し、後述する製造方法において、スチレン等のビニル系モノマー、アクリレート系モノマー、及びビニルエーテル系モノマーなどを用いた場合は、重合末端に結合したヨウ素が安定化し過ぎてしまい、解離させるのに加温する必要がある、或いは解離しないなどの不都合が生ずる可能性があるので好ましくない。このため、メタクリレート系モノマー以外のモノマーを多量に用いた場合は、本発明において目的とする特有の構造にならない、或いはPDIが広がってしまうなどの不具合が生ずる可能性がある。ただし、メタクリレート系モノマー以外のモノマーであっても、必要に応じて、本発明の目的を損なわない範囲で用いてもよい。
【0038】
(Aのポリマーブロック)
A−Cブロックコポリマーの主たる構成成分はメタクリレート系モノマーであるが、Aのポリマーブロックは、少なくともカルボキシ基を有するものであることを要するが、例えば、下記に挙げるような、カルボキシ基含有メタクリル酸系モノマーを用いてAのポリマーブロックを形成すれば、該モノマーに由来するカルボキシ基を構造中に有する構成単位を含むAのポリマーブロックが容易に得られる。さらに、本発明で使用する、その構造中にカルボキシ基が導入されたAのポリマーブロックは、該カルボキシ基がアルカリで中和されることで、イオン化して水に溶解するようになる。このため、本発明で使用するA−Cブロックコポリマーは、水系媒体中に溶解し、立体反発、立体障害によって、ポリマー粒子を安定化させ、さらに、中和されたカルボキシ基を有することから、乾燥しても水媒体によって再度溶解して再溶解性を付与する。
【0039】
上記Aのポリマーブロックの形成に好適に用いることができるカルボキシ基含有メタクリル酸系モノマーの具体例としては、下記のものが挙げられる。例えば、メタクリル酸;メタクリル酸2−ヒドロキシエチルやメタクリル酸2−ヒドロキシプロピルなどの水酸基含有メタクリレートにフタル酸、シクロヘキサンジカルボン酸、マレイン酸、コハク酸、それらの酸無水物、酸クロライドなどの二塩基酸を反応して得られる二塩基酸やトリメリッ酸などの多カルボキシ化合物のハーフエステル型メタクリレート;グリシジルメタクリレートに前記した二塩基酸を反応させたエポキシエステル型メタクリレート;または、グリシジルメタクリレートのグリシジル基に1個のカルボキシル基を有する化合物、例えば酢酸、ラウリン酸などを反応させて得られる水酸基に、前記した二塩基酸を反応して得られるエポキシエステル型メタクリレートを使用することができる。
【0040】
さらには、A−Cブロックコポリマーとする過程において、Aのポリマーブロックにカルボキシ基を有するモノマーを構成成分とせず、グリシジルメタクリレートを少なくとも構成成分として重合してブロックコポリマーを得た後、このグリシジル基にカルボキシ基を有する化合物、例えば、酢酸、アクリル酸やメタクリル酸を反応して得られる水酸基に前記した二塩基酸を反応させて、或いは、グリシジル基に2個以上のカルボキシ基を有する前記した二塩基酸などを反応させてカルボキシ基を生成して、上記に列挙したカルボキシ基含有メタクリル酸系モノマーで形成したと同様のAのポリマーブロックで構成されたA−Cブロックコポリマーとすることもでき、かかる形態のものも本発明に含まれる。その他、工程が増えるので好ましくはないが、メタクリル酸のカルボン酸を保護したモノマー、例えば、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸トリメチルシリル、ビニルエーテルと反応してヘミアセタール化として保護されたメタクリル酸などを共重合した後、ブロックコポリマーを合成し、脱保護してカルボキシ基として、Aのポリマーブロックとしてもよい。先に述べたように、本発明では、カルボキシ基含有メタクリル酸系モノマーを用いることが好ましく、より好ましくはメタクリル酸を用いてAのポリマーブロックを形成すればよい。すなわち、メタクリル酸は、分子量が一番小さいため、導入量が少なくても十分な水溶解性を付与できるし、加水分解性もない。なお、以下、Aのポリマーブロックの形成方法の説明を、代表的なカルボキシ基含有メタクリル酸系モノマーを例にして行う場合があるが、上記したように、Aのポリマーブロック中にカルボキシ基を導入する方法はこれに限定されるものではない。
【0041】
上記した場合に、Aのポリマーブロックの形成を、カルボキシ基含有メタクリル酸系モノマーだけで行ってもよいが、他の共重合できるメタクリレートを共重合させることが好ましい形態である。これらのモノマーと共重合することで、本発明の必要とする酸価に容易に調整できるようになる。他のモノマー成分としては、従来公知のメタクリレートを用いることができ、特に限定されない。具体例としては、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、ブチルメタクリレート、2−メチルプロパンメタクリレート、t−ブチルメタクリレート、ペンチルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、オクチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、ノニルメタクリレート、デシルメタクリレート、イソデシルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、テトラデシルメタクリレート、オクタデシルメタクリレート、ベへニルメタクリレート、イソステアリルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、t−ブチルシクロヘキシルメタクリレート、イソボルニルメタクリレート、トリメチルシクロヘキシルメタクリレート、シクロデシルメタクリレート、シクロデシルメチルメタクリレート、トリシクロデシルメタクリレート、ベンジルメタクリレートなどの(シクロ)アルキルメタクリレート;フェニルメタクリレート、ナフチルメタクリレートなどのアリールメタクリレート;アリルメタクリレートなどのアルケニルメタクリレート;(ポリ)エチレングリコールモノメチルエーテルメタクリレート、(ポリ)エチレングリコールモノエチルエーテルメタクリレート、(ポリ)エチレングリコールモノラウリルエーテルメタクリレート、(ポリ)プロピレングリコ−ルモノメチルエーテルメタクリレートなどのグリコールモノアルキルエーテル系メタクリレート;
【0042】
(メタ)アクリロイロキシエチルイソシアネート、2−(2−イソシアナトエトキシ)エチルメタクリレートのイソシアネート基をε−カプロラクトン、MEKオキシム、及びピラゾールなどでブロックしたイソシアネート基含有メタクリレート;テトラヒドロフルフリルメタクリレート、などの環状メタクリレート;オクタフルオロオクチルメタクリレート、テトラフルオロエチルメタクリレートなどのハロゲン元素含有メタクリレート;2−(4−ベンゾキシ−3−ヒドロキシフェノキシ)エチルメタクリレート、2−(2’−ヒドロキシ−5−メタクリロイロキシエチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾールなどの紫外線を吸収するメタクリレート;トリメトキシシリル基やジメチルシリコーン鎖を持ったケイ素原子含有メタクリレートなどを挙げることができる。また、これらのモノマーを重合して得られるオリゴマーの片末端に(メタ)アクリル基を導入して得られるマクロモノマーなどを用いることもできる。
【0043】
但し、本発明で使用するA−Cブロックコポリマーを構成するAのポリマーブロックを形成するメタクリレート系モノマーに、アミノ基や第4級アンモニウム塩基を有するメタクリレートを用いてはならない。すなわち、本発明では、アミノ基や第4級アンモニウム塩基を有するメタクリレートは、Cのポリマーブロックの構成成分にのみに導入する。その理由は、Aのポリマーブロックの形成成分としてアミノ基や第4級アンモニウム塩基を有するメタクリレートを用いると、本発明のポリマーエマルジョンとするためには、本発明で使用するA−Cブロックコポリマーを構成するCのポリマーブロックを選択的にエマルジョン(a)のポリマー粒子のスルホン酸イオンとイオン交換させる必要があるが、Aのポリマーブロックにアミノ基や第4級アンモニウム塩が入っていると、Aのポリマーブロックもエマルジョン(a)のポリマー粒子のスルホン酸イオンと反応してしまい、本発明のポリマーエマルジョンとすることができないからである。
【0044】
本発明で使用するA−CブロックコポリマーのAのポリマーブロックは、その酸価が30〜250mgKOH/gとなるようにすることを要す。さらに、50〜200mgKOH/gであることが好ましい。Aのポリマーブロックの酸価が30mgKOH/g未満であると、十分な水可溶性を得ることができず、安定性が劣る場合があるので好ましくない。一方、Aのポリマーブロックの酸価が250mgKOH/gを超えると、Aのポリマーブロックの水溶解性が大きすぎて、このことに起因して、本発明のポリマーエマルジョンをインクのバインダー成分として利用したような場合に、インクの粘度が上がったり、形成した印刷被膜の耐水性が劣ったりする場合があるので好ましくない。なお、酸価とは、樹脂1gを中和するのに必要な水酸化カリウムのmg数であり、測定としては、有機溶媒(例えば、トルエン/エタノール=70/30質量比)に溶解させた樹脂を、0.1N水酸化カリウムを滴定液、フェノールフタレイン液を指示薬として滴定して行うことができる。本発明では、酸価はこの値を使用する。
【0045】
本発明で使用するA−CブロックコポリマーのAのポリマーブロックは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)におけるポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)が1000〜20000であることを要す。4000〜15000であることがさらに好ましい。Aのポリマーブロックの数平均分子量が1000未満であると、Aのポリマーブロックの立体的反発が作用せず、安定性に欠ける恐れがあり、また、溶媒可溶性のポリマーブロックであるので、分子量が小さ過ぎると溶解性や相溶性に乏しくなる恐れがある。一方、Aのポリマーブロックの数平均分子量が20000を超えると、分散媒体に溶解又は相溶する部分が多くなるので、粘度が過度に上昇したりする場合があるので好ましくない。
【0046】
本発明で使用するA−CブロックコポリマーのAのポリマーブロックは、その分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量、PDI)が1.5以下であることを要するが、1.4以下であることがさらに好ましい。後述するA−Cブロックコポリマーの製造方法によれば、上記したような狭い分子量分布のA−Cブロックコポリマーを、設計にしたがって適宜に製造することができるので好適である。このAのポリマーブロックのPDIが1.5を超えると、数平均分子量が1000未満の成分や、20000を超える成分を多く含むことにつながるので、その安定性が低下したり、粘度が過度に上昇したりする恐れがあるので好ましくない。本発明においては、上記数平均分子量(Mn)及び分子量分布(PDI)を、ポリスチレンを標準物質とするGPC(Gel Permeation Chromatography)にて測定した。以上が本発明で使用するA−CブロックコポリマーのAのポリマーブロックの構成である。
【0047】
(Cのポリマーブロック)
次に、本発明で使用するA−Cブロックコポリマーを構成するCのポリマーブロックについて説明する。Cのポリマーブロックは、少なくとも、例えば、ハロゲン化物塩、炭酸塩、水酸化物塩又は有機カーボネート塩などの第4級アンモニウム塩の基を有するメタクリレート系モノマーからなる構成単位を有するポリマーブロックである。
【0048】
この第4級アンモニウム塩の基を有するメタクリレート系モノマーは、ハロゲン化物、水酸化物、炭酸、有機カーボネートの陰イオンを対イオンとする、第4級アンモニウムイオン基を有するメタクリレートである。先にも述べたように、上記した対イオンが、スルホン酸塩で安定化されたポリマーエマルジョン(a)のポリマーのスルホン酸中和塩の対イオンと、塩交換(イオン交換)して、その結果、エマルジョン(a)のポリマーのスルホン酸塩の部分に、本発明で使用するA−Cブロックコポリマーがイオン結合で反応して結合することで、エマルジョン(a)のポリマーのもつスルホン酸イオンの対イオンの一部又は全部が、A−Bブロックコポリマーになる。以下に、上記に挙げた第4級アンモニウム塩のメタクリレートの対イオンについて説明する。ハロゲン化物イオンとしては、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオンが挙げられるが、その中でも塩化物イオンが好ましい。すなわち、臭化物イオン、ヨウ化物イオンの場合は、その塩基性度が強く、スルホン酸塩との交換反応が行われない可能性がある。また、有機カーボネートイオンとしては、メチルカーボネートイオン、エチルカーボネートイオンなどが挙げられ、結果として脱炭酸と脱アルコールしてスルホン酸中和塩と反応する。特にメチルカーボネートイオンが脱炭酸と低級アルコールであるメタノールが生成するので好ましい。
【0049】
第4級アンモニウム塩の基を含有するメタクリレートとしては、具体的には、例えば、ジメチルアミノメタクリレート、ジエチルアミノエチルメタクリレート、t-ブチルアミノエチルメタクリレートなどのモノ又はジアルキルアミノアルキルアルコールのメタクリレートエステルやグリシジルメタクリレートなどのグリシジル基含有メタクリレートに、1級又は2級のアミノ基を有するアミン化合物を反応して得られる水酸基を有するアミノ基含有メタクリレートを使用して、塩化メチル、塩化エチル、塩化ベンジル、ヨウ化メチルなどのハロゲン化アルキル、炭酸、ジメチルカーボネートを反応して得られる第4級アンモニウム塩の基を有するメタクリレート、それらの陰イオンを水酸化物に置き換えた第4級アンモニウム塩が挙げられる。または、ハロゲン化アルキル基を有するメタクリレート、例えば、2−クロロエチルメタクリレート、1−クロロ−2−ヒドロキシプロピルメタクリレートなどに、1級、2級、3級のアミノ基を有するアミン化合物、例えば、トリメチルアミンなどを反応して第4級アンモニウム塩としてもよい。これらの第4級アンモニウム塩をCのポリマーブロックの形成成分とすることが必須である。先にも述べたように、上記したモノマーは、決してAのポリマーブロックの形成に用いてはならず、すなわち、Aのポリマーブロックに第4級アンモニウム塩の基を導入してはいけない。
【0050】
Cのポリマーブロックは、前記した第4級アンモニウム塩の基を有するメタクリレートのみで構成されていてもよいが、先に列挙したような他のメタクリレート系モノマーを共重合させてもよい。この第4級アンモニウム塩の基の含有量は、本発明で使用するA−Cブロックコポリマー中に、少なくとも、5〜50質量%の範囲で含有され、且つ、Cのポリマーブロック中に15〜100質量%の範囲で含有されたものであることが好ましい。この範囲になるように他のメタクリレートモノマーを共重合させことができる。この際に使用するメタクリレートとしては、前記したものか挙げられ、特に限定されない。また、このCのポリマーブロックについては、前記したカルボキシ基を有するモノマーを構成成分として用いてもよい。その理由は、このカルボキシ基が中和されても、その構造中に導入されている第4級アンモニウム塩の部分が、先に述べたように、スルホン酸イオンの対イオンと塩交換(イオン交換)反応してエマルジョン(a)のポリマー粒子と反応するので問題はない。すなわち、本発明においては、本発明で使用するA−Cブロックコポリマーを構成するCのポリマーブロックのみ(すなわち、一方のポリマーブロックのみ)に第4級アンモニウム塩の基を含有するように構成することが必要である。
【0051】
A−Cブロックコポリマー中におけるこの第4級アンモニウム塩の含有量が、A−Cブロックコポリマー中に5質量%未満であると、ポリマーのスルホン酸基との反応部位が少なく、安定性が欠ける場合があり、また、50質量%より多いと、相対的にAのポリマーブロックが少なくなりすぎて、分散性、分散安定性に劣る可能性があるので、いずれの場合も好ましくない。より好ましくは、10〜50質量%である。さらに、A−Cブロックコポリマー中に含まれる第4級アンモニウム塩の量を上記した範囲に維持しつつ、Cのポリマーブロックに含まれる第4級アンモニウム塩のモノマーの質量を15〜100質量%とすることが好ましい。この量が15%未満であるとCのポリマーブロックの反応部位が少なかったり、スルホン酸イオンと反応しても他の成分が多いので、分散媒体に溶解してしまったりして、分散、保存安定性が悪くなる可能性があるので好ましくない。より好ましくは、20〜80質量%である。
【0052】
(A−Cブロックコポリマーの調製)
以上のような構成(形成)成分からなる特有の構造を有する本発明で使用するA−Cブロックコポリマーは、通常のラジカル重合で得ることは難しい。すなわち、ラジカル重合すると、前記したランダムコポリマーとなったり、カルボキシ基を有するコポリマーと第4級アンモニウム塩を有するコポリマーの混合物となってしまう。これに対し、本発明のポリマーエマルジョンは、本発明で規定する上記構造を有するA−Cブロックコポリマーを得ることを前提としたものである。本発明者らの検討によれば、本発明で規定するA−Cブロックコポリマーは、リビングラジカル重合によって容易に得られる。特に好ましくは、少なくともカルボキシ基含有メタクリル酸系モノマーを含むモノマーの混合物を、少なくとも、ヨウ素化合物を重合開始化合物として、リビングラジカル重合することにより、A−CブロックコポリマーのAのポリマーブロックを合成し、次いで、第4級アンモニウム塩の基を有するメタクリレート系モノマーを含むモノマーの混合物を重合して、A−CブロックコポリマーのCのポリマーブロックを合成する特有のリビングラジカル重合を利用した製造方法でA−Cブロックコポリマーを得るとよい。より具体的には、上記の重合開始化合物と触媒との存在下、リビングラジカル重合する工程で使用する重合開始化合物が、ヨウ素又はヨウ素化合物の少なくともいずれかであり、該工程で使用する触媒が、ハロゲン化リン、フォスファイト系化合物、フォスフィネート化合物、イミド系化合物、フェノール系化合物、ジフェニルメタン系化合物及びシクロペンタジエン系化合物からなる群より選択される少なくとも1種の化合物であり、且つ、その重合温度が30〜50℃であることが好ましい。
【0053】
リビングラジカル重合としては、様々な方法が発明されており、アミンオキシドラジカルの解離と結合を利用するニトロキサイド法(Nitroxide mediated polymerization:NMP法)、銅、ルテニウム、ニッケル、鉄等の重金属と、これらの重金属と錯体を形成するリガンドとを使用し、ハロゲン化合物を開始化合物として用いて重合する原子移動ラジカル重合(Atom transfer radical polymerization:ATRP法)、ジチオカルボン酸エステルやザンテート化合物等を開始化合物として使用するとともに、付加重合性モノマーとラジカル開始剤を使用して重合する可逆的付加開裂型連鎖移動重合(Reversible addition- fragmentation chain transfer:RAFT法)及びMADIX法(Macromolecular Design via Interchange of Xanthate)、有機テルル、有機ビスマス、有機アンチモン、ハロゲン化アンチモン、有機ゲルマニウム、ハロゲン化ゲルマニウム等の重金属を用いる方法(Degenerative transfer:DT法)などが挙げられる。これらの方法も重合開始化合物を用いており、本発明に適応することができる。
【0054】
しかしながら、上記に挙げた方法はいずれも、下記に述べるように、本発明で使用するA−Cブロックコポリマーを得るには最適とは言い難いと言う問題がある。例えば、NMP法では、テトラメチルピペリジンオキシドラジカルなどのアミンオキシドを使用するが、100℃以上の高温条件下で重合することが必要とされるし、メタクリレート系モノマーを用いた場合には、重合が進行しないといった問題もある。
【0055】
また、ATRP法では、重金属を使用する必要があるし、酸化還元を伴う重合方法なので、酸素の除去が必要であるし、アミン化合物をリガンドとして錯体を形成させて重合する方法では、重合系に酸性物質が存在すると錯体の形成が阻害されてしまうので、酸基を有する付加重合性モノマーをそのまま重合させることは困難である。保護基で酸基を保護したモノマーを重合し、重合後に保護基を脱離させる必要があるが、煩雑であり、酸基をポリマーブロックに導入することは容易なことではない。
【0056】
RAFT法及びMADIX法では、先ず、ジチオカルボン酸エステルやザンテート化合物などの特殊な化合物が必要であり、これらは硫黄系の化合物であるので、得られるポリマーには硫黄系の不快な臭気が残りやすく、着色されている場合もある。このため、得られたポリマーから臭気や着色を除去する必要がある。メタクリレート系モノマーの重合もうまくいかない場合がある。また、そのジチオカルボン酸エステルやザンテート化合物などの硫黄エステルはアミノ基で分解する可能性があり、ポリマーが低分子量化したり、硫黄臭が発生したりする。
【0057】
さらに、DT法では、ATRP法と同様に重金属を使用する必要がある。このため、得られたポリマーから重金属を除去する必要があるとともに、発生した重金属を含む排水を浄化しなければならないといった問題がある。
【0058】
そのような状況下で、本発明に好適に使用される重合方法は、重金属化合物の使用が必須でなく、ポリマーの精製が必須でなく、特殊な化合物を合成する必要がなく、市場にある比較的安価な材料を用いるだけで容易に製造することができる。また、重合条件が穏和であり、従来のラジカル重合方法と同様の条件で重合することができる方法であり、特筆すべきは、カルボキシ基やリン酸基などを有するモノマーをそのままリビングラジカル重合できるところにある。
【0059】
具体的には、本発明で使用するA−Cブロックコポリマーの製造方法は、重合開始化合物及び触媒の存在下、メタクリレート系モノマーを含有するモノマー成分をリビングラジカル重合する工程(重合工程)を含むものであることが好ましい。そして、重合開始化合物が、ヨウ素とヨウ素化合物の少なくともいずれかであることが好ましい。本発明で採用するこのリビングラジカル重合では、様々な官能基が使用できる。
【0060】
上記重合工程では、ヨウ素とヨウ素化合物の少なくともいずれかを重合開始化合物として使用して、メタクリレート系モノマーを含有するモノマー成分をリビングラジカル重合によって重合することが好ましい。重合開始化合物として用いられるヨウ素やヨウ素化合物に熱や光を与えると、ヨウ素ラジカルが解離する。そして、ヨウ素ラジカルが解離した状態でモノマーが挿入された後、直ちにヨウ素ラジカルがポリマー末端ラジカルと再度結合して安定化し、停止反応を防止しながら重合反応が進行する。
【0061】
ヨウ素化合物の具体例としては、2−アイオド−1−フェニルエタン、1−アイオド−1−フェニルエタンなどのアルキルヨウ化物;2−シアノ−2−アイオドプロパン、2−シアノ−2−アイオドブタン、1−シアノ−1−アイオドシクロヘキサン、2−シアノ−2アイオド−2,4−ジメチルペンタン、2−シアノ−2−アイオド−4−メトキシ−2,4−ジメチルペンタンなどのシアノ基含有ヨウ化物などを挙げることができる。
【0062】
これらのヨウ素化合物は、市販品をそのまま使用してもよいが、従来公知の方法で調製したものを使用することもできる。例えば、アゾビスイソブチロニトリルなどのアゾ化合物とヨウ素とを反応させることで、ヨウ素化合物を得ることができる。また、上記のヨウ素化合物のヨウ素が臭素または塩素などのハロゲン原子に置換した有機ハロゲン化物に、第4級アンモニウムアイオダイドやヨウ化ナトリウムなどのヨウ化物塩を反応させ、ハロゲン交換させることでもヨウ素化合物を得ることができる。
【0063】
重合工程では、重合開始化合物とともに、重合開始化合物のヨウ素を引き抜くことができる触媒を使用する。触媒としては、ハロゲン化リン、フォスファイト系化合物、フォスフィネート化合物などのリン系化合物;イミド系化合物などの窒素系化合物;フェノール系化合物などの酸素系化合物;ジフェニルメタン系化合物、シクロペンタジエン系化合物などの炭化水素系化合物を用いることが好ましい。なお、これらの触媒は、一種単独でまたは二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0064】
リン系化合物の具体例としては、三ヨウ化リン、ジエチルフォスファイト、ジブチルフォスファイト、エトキシフェニルフォスフィネート、フェニルフェノキシフォスフィネートなどを挙げることができる。窒素系化合物の具体例としては、スクシンイミド、2,2−ジメチルスクシンイミド、マレイミド、フタルイミド、N−アイオドスクシンイミド、ヒダントインなどを挙げることができる。酸素系化合物の具体例としては、フェノール、ヒドロキノン、メトキシヒドロキノン、t−ブチルフェノール、カテコール、ジ−t−ブチルヒドロキシトルエンなどを挙げることができる。炭化水素系化合物の具体例としては、シクロヘキサジエン、ジフェニルメタンなどを挙げることができる。
【0065】
この触媒の使用量(モル数)は、重合開始化合物の使用量(モル数)未満とすることが好ましい。触媒の使用量(モル数)が多過ぎると、重合が制御され過ぎてしまい、重合が進行しにくくなる場合がある。また、リビングラジカル重合の際の温度(重合温度)は30〜100℃とすることが好ましい。重合温度が高過ぎると、重合末端のヨウ素が分解してしまい、末端が安定せずにリビング重合とならない場合がある。またこの重合方法では、末端はヨウ素が結合しており、このヨウ素をラジカルとして解離させてラジカルが発生して、その末端が安定であることが好ましい。ここで、アクリレートやビニル系などの場合、末端は2級のヨウ化物であり、比較的安定でヨウ素ラジカルとして外れず、重合が進行しない、または分布が広くなってしまうという可能性がある。温度を上げて解離することができるが、好ましは、上記温度範囲で温和に重合することが環境、エネルギーの点で好ましい。従ってラジカルが発生しやすく、比較的安定な3級のヨウ化物のほうが好ましく、本発明で使用するリビングラジカル重合においては、メタクリレート系のモノマーが適している。
【0066】
また、重合工程においては、通常、ラジカルを発生しうる重合開始剤を添加する。重合開始剤としては、従来公知のアゾ系開始剤や過酸化物系開始剤が使用される。なお、上記の重合温度の範囲で十分にラジカルが発生する重合開始剤を用いることが好ましい。具体的には、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、などのアゾ系開始剤を用いることが好ましい。当該重合開始剤の使用量は、モノマーに対して0.001〜0.1モル倍とすることが好ましく、0.002〜0.05モル倍とすることがさらに好ましい。重合開始剤の使用量が少な過ぎると重合反応が十分に進行しない場合がある。一方、重合開始剤の使用量が多過ぎると、リビングラジカル重合反応ではない通常のラジカル重合反応が副反応として進行してしまう場合がある。
【0067】
リビングラジカル重合は、有機溶剤を使用しないバルク重合であってもよいが、有機溶剤を使用する溶液重合とすることが好ましい。有機溶剤としては、重合開始化合物、触媒、モノマー成分、及び重合開始剤などの成分を溶解しうるものであることが好ましい。
【0068】
有機溶剤の具体例としては、ヘキサン、オクタン、デカン、イソデカン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどの炭化水素系溶剤;メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、ヘキサノール、ベンジルアルコール、シクロヘキサノールなどのアルコール系溶剤;エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールプロピルエーテル、ジグライム、トリグライム、テトラグライム、ジプロピリングリコールジメチルエーテル、ブチルカルビトール、ブチルトリエチレングリコール、メチルジプロピレングリコール、メチルセロソルブアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテートなどのグリコール系溶剤;ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、メチルシクロプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、アニソールなどのエーテル系溶剤;メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン、アセトフェノンなどのケトン系溶剤;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸プロピル、酪酸メチル、酪酸エチル、カプロラクトン、乳酸メチル、乳酸エチル、琥珀酸ジメチル、アジピン酸ジメチル、グルタル酸ジメチルなどのエステル系溶剤;クロロホルム、ジクロロエタンなどのハロゲン化溶剤;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ピロリドン、N−メチルピロリドン、カプロラクタムなどのアミド系溶剤の他、ジメチルスルホキシド、スルホラン、テトラメチル尿素、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、炭酸ジメチルなどを挙げることができる。なお、これらの有機溶剤は、一種単独でまたは二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0069】
また、これらの重合に使用した有機溶剤は、そのまま溶液としてそのまま使用できるし、必要に応じて、溶液からポリマーを取りだして固形とすることができる。この方法としては特に限定はなく、例えば、貧溶剤に析出させてろ過、乾燥したり、溶液を乾燥してポリマーだけを取り出したりして、ポリマーの固形物として得ることもできる。得られた固体のポリマーは、そのまま使用してもよいし、溶剤を加えてポリマー溶液として使用してもよい。
【0070】
溶液重合する場合において、重合液の固形分濃度(モノマー濃度)は5〜80質量%とすることが好ましく、20〜60質量%とすることがさらに好ましい。重合液の固形分濃度が5質量%未満であると、モノマー濃度が低過ぎて重合が完結しない場合がある。一方、重合液の固形分濃度が80質量%超またはバルク重合であると、重合液の粘度が高過ぎてしまい、撹拌が困難になって重合収率が低下する傾向にある。リビングラジカル重合は、モノマーがなくなるまで行うことが好ましい。具体的には、重合時間は0.5〜48時間とすることが好ましく、実質的には1〜24時間とすることがさらに好ましい。また、重合雰囲気は特に限定されず、通常の範囲内で酸素が存在する雰囲気であっても、窒素気流雰囲気であってもよい。また、重合に使用する材料(モノマーなど)は、蒸留、活性炭処理、またはアルミナ処理などにより不純物を除去したものを用いてもよいし、市販品をそのまま用いてもよい。さらに、遮光下で重合を行ってもよいし、ガラスなどの透明容器中で重合を行ってもよい。
【0071】
本発明で使用するA−Cブロックコポリマーは、リビングラジカル重合する際のメタクリレート系モノマー類と、重合開始化合物の使用バランスをモル比で調整することによって、主鎖の分子量が制御されてなるものになる。具体的には、重合開始化合物のモル数に対して、モノマーのモル数を適切に設定することで、その主鎖が、任意の分子量であるポリマーを得ることができる。例えば、重合開始化合物を1モル使用し、分子量100のモノマーを500モル使用して重合した場合、「1×100×500=50000」の理論分子量を有するポリマーを得ることができる。すなわち、主鎖のポリマーの理論分子量を下記式(3)で算出することができる。なお、上記の「分子量」は、数平均分子量(Mn)と重量平均分子量(Mw)のいずれをも含む概念である。
「主鎖のポリマーの理論分子量」=「重合開始化合物1モル」×「モノマー分子量」×「モノマーのモル数/重合開始化合物のモル数」 ・・・(3)
重合開始化合物の量は前記した通りである。
【0072】
なお、重合工程においては、2分子停止や不均化の副反応を伴う場合があるので、上記の理論分子量を有する主鎖のポリマーが得られない場合がある。これらの副反応が起こらずに得られたものであることが好ましい。また、重合率は100%でなくてもよい。さらに、重合を一旦終了した後、重合開始化合物や触媒を添加して残存するモノマーを消費させて重合を完結させてもよい。すなわち、本発明では、先に述べたような製造方法で、特定の構造の本発明で使用するA−Cブロックコポリマーが生成して、これを主成分として含んでいればよい。好ましくは、製造されたコポリマーの80%以上が、本発明の特定のブロックコポリマーであれば、その効果が十分に得られる。
【0073】
また、本発明で使用するA−Cブロックコポリマーのブロック化のポリマー重合の順序としては、カルボキシ基含有メタクリル酸系モノマーを使用してAのポリマーブロックを形成した後、第4級アンモニウム塩を有するメタクリレートを添加して、Cのポリマーブロックを形成してもよいし、第4級アンモニウム塩を形成するためのアミノ基を有するメタクリレート又はハロゲン化アルキルを有するメタクリレートを添加して重合してブロックコポリマーとした後、第4級アンモニウム塩化してA−Cブロックコポリマーとしてもよい。
【0074】
または、第4級アンモニウム塩基を含有するメタクリレートを含むメタクリレートを重合した後、Aのポリマーブロックを形成するためのモノマーを添加して重合してもよいし、アミノ基を有するメタクリレートやハロゲン化アルキルを含むメタクリレートを含むモノマーを重合してポリマーブロックとし、ついでAのポリマーブロックを形成するための成分を重合した後、第4級アンモニウム塩化してもよい。しかし、これらの方法では、第4級アンモニウム塩やアミノ基、ハロゲン化アルキルを含有するモノマーを重合して完全になくなるまで重合するか、精製してこれらのモノマーを除去して、次のポリマーブロックを形成することが必要である。これは、ついで行われるAのポリマーブロック形成に、第4級アンモニウム塩やアミノ基、ハロゲン化アルキルを有するモノマーが導入されると、ブロックコポリマー全体がスルホン酸イオンと反応するポリマーとなってしまい、本発明の一方のみに第4級アンモニウム塩基を含有するブロックコポリマーとすることができないからである。
【0075】
より好ましくは、確実に一方のポリマーブロックに第4級アンモニウム塩基を有するようにするために、カルボキシ基含有メタクリル酸系モノマーを使用してAのポリマーブロックを形成した後、第4級アンモニウム塩、アミノ基、ハロゲン化アルキルを有するモノマーをブロック化することが確実である。なお、Cのポリマーブロックには前記したようにカルボキシ基含有メタクリル酸系モノマーを構成成分としても問題ない。
【0076】
上記のようにして得られたA−Cブロックコポリマーは、重合開始化合物に由来するヨウ素原子が結合した状態のままであってもよいし、ヨウ素原子を脱離させることが好ましい。ヨウ素原子をA−Cブロックコポリマーから脱離させる方法としては、従来公知の方法であれば特に限定されない。具体的には、A−Cブロックコポリマーを加熱したり、酸やアルカリで処理したりすればよい。また、A−Cブロックコポリマーをチオ硫酸ナトリウムなどで処理してもよい。脱離したヨウ素は、活性炭やアルミナなどのヨウ素吸着剤で処理して除去するとよい。
【0077】
次に、A−Cブロックコポリマーの分子量について説明する。本発明で使用するA−Cブロックコポリマーを構成するAのポリマーブロックの分子量は、前記した通りである。このAのポリマーブロックの好適な分子量については、前記した通りである。これらのブロックコポリマー全体の数平均分子量は、特に限定はないが、上記のCのポリマーブロックの含有量の範囲で得られる分子量である。しかし、本発明で使用するA−Cブロックコポリマーの数平均分子量は、従来公知のGPCでは正確に測定ができない。その理由は、本発明で使用するA−Cブロックコポリマーは両性であり、カルボキシ基と第4級アンモニウム塩を有しているので、カルボキシ基が吸着しないカラムが装着されたGPCを使用した場合は、第4級アンモニウム塩が吸着されてしまって測定ができず、第4級アンモニウム塩が測定できるカラムで測定した場合は、カルボキシ基を有するポリマーが吸着してしまって測定ができず、いずれの場合も正確な分子量を得ることができない。すなわち、A−Cブロックコポリマーとする前のAのポリマーブロックのみ測定が可能である。
【0078】
そこで、上記のように分子量による規定ができないため、Cの分子量を規定できるように以下の限定をする。本発明においては、A−Cブロックコポリマーの製造に、特有のリビングラジカル重合方法を利用することが好適である。前記したように、このリビングラジカル重合では、一般に、ラジカルとして解離しやすい基を有する重合開始化合物を使用する。例えば、この重合開始化合物をR−Xとすると、リビングラジカル重合は、一般式として以下の反応式(1)で表される。
【0080】
上記のR−Xは、熱や光、触媒によって、Xが脱離し、Rのラジカルができ、そのRのラジカルにモノマーが1分子挿入される。仮に、例えば、この状態で通常のラジカル重合だったとすると、そのまま連鎖移動してモノマーが挿入され、最終的にはラジカルが停止反応で死んでしまい、また、ラジカルの寿命が短いためにその連鎖移動を制御できず、その場合に得られるポリマーは、分子量が小さいものから大きいものまででき、分子量の分布が広いものとなってしまう。これに対し、リビングラジカル重合では、前記の式において反応は左に偏っており、モノマーが挿入されるとXが直ぐに付加して安定化させるのでモノマーの挿入が停止し、停止反応が起こらない。次いで、再び、熱や光、触媒によってXが外れ、且つ、Xが脱離して末端にラジカルが生成し、モノマーが挿入され、再びXが結合して安定化する。そして、そのラジカルが生成するのは確立論的に均一であることから、分子量が揃う結果となる。加えて、その重合開始化合物が重合の開始点となり、そこから分子が伸びていくので、この重合開始化合物の量で分子量をコントロールすることができる。
【0081】
本発明では、好適には、本発明で使用するA−Cブロックコポリマーの製造に、このリビングラジカル重合を利用し、且つ、重合開始化合物と、重合に用いるモノマー類を構成しているラジカル重合性基であるメタクリレートを使用するが、Aのポリマーブロックは前記した分子量となるように、Aのポリマーブロックを構成するメタクリレート量を調整する。しかし、Cのポリマーブロックは、前記したように分子量か測定できないので、その開始化合物1molに対して、Bのポリマーブロックを形成するメタクリレートのモル量を規定する。すなわち、本発明では、重合開始化合物1molに対し、Cのポリマーブロックを形成するモノマーの全モル数が10〜150molであることが好ましい。この範囲でCのポリマーブロックの量が調整され、前記したCのポリマーブロックに含まれる第4級アンモニウム塩の質量%と合わせて調整される。10molよりも少ないと、Bのポリマーブロックの分子量が小さくなり過ぎてしまい、本発明の効果が十分に発揮できず、150molより多いと分子量が大きくなり過ぎてしまい、ポリマーの多粒子間での吸着などが生じ、凝集してしまう可能性があるので好ましくない。好ましくは、Bの開始化合物1molに対し、20molから100molである。
【0082】
また、本発明のポリマーエマルジョンは、本発明で使用するA−Cブロックコポリマーを構成するCのポリマーブロックが、スルホン酸中和塩で乳化状態が安定化されているポリマーエマルジョン粒子のスルホン酸イオンの対イオンとなり、一方のAのポリマーブロックのカルボキシ基がアルカリで中和され、水に溶解してなるものである。このアルカリとしては、従来公知のものが使用されるが、とくに好ましくは、アンモニア、有機アミンである。具体的には、アンモニア、トリメチルアミン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トリプロパノールアミン、モルホリン、N−メチルモルホリン、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノールアミンなどが挙げられる。アルカリ金属である水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなども使用できるが、あまり好ましくない。その理由は、本発明においては、ポリマーエマルジョン粒子のスルホン酸塩と、A−Cブロックコポリマーの有する第4級アンモニウム塩のイオン化で達成されるが、ここに水酸化ナトリウムなどの強アルカリが入ると、その第4級アンモニウム塩とスルホン酸の塩がナトリウムイオンで置換されてしまい、スルホン酸ナトリウム塩となって、本発明の対イオン形成とならない場合があるからである。また、本発明で使用するA−Cブロックコポリマーは、Aのポリマーブロックのもつカルボキシ基の60モル%以上、好ましくは100%以上を中和して使用して、水溶液化させて使用することを要する。
【0083】
本発明で使用するA−Cブロックコポリマーは、溶液重合で得られるが、Aのポリマーブロックのもつカルボキシ基をそのままアルカリを添加して中和して用いてもよいし、いったん貧溶剤に析出させたり、重合溶剤を除去したりして固形として取り出し、アルカリにて中和して水溶液として用いてもよい。さらに、下記のようにすれば、そのまま使用することができる。本発明で使用するA−Cブロックコポリマーは、第4級アンモニウム塩の基を有するブロックコポリマーなので、Cのポリマーブロックは水に溶解するポリマーブロックとなり、溶液重合で得られたポリマー溶液をそのまま水で希釈するとAのポリマーブロックは中和されていないので、水に溶解せず、粒子となって分散液、エマルジョンとなって水溶液化することができる。この場合は、後記するが、A−Cブロックコポリマーで改質する対象であるスルホン酸塩で安定化されたポリマーエマルジョン溶液(a)に、予めAのポリマーブロックを中和できるアルカリを加えておくことで、A−Cブロックコポリマー溶液又はその水で希釈した溶液を添加した際にAのポリマーブロックを中和するように構成することができる。
【0084】
重合溶液を中和して使用する場合や溶液としてそのまま使用する場合は、その重合溶剤は、一部でも水に溶解する有機溶剤が好ましい。水に不溶だとポリマーエマルジョン(a)と混合できない可能性があるためである。より好ましくは、完全に溶解する有機溶剤であり、前記した溶剤の中から適宜使用され、特に限定されない。好ましくは、アルコール類、グリコール類、エーテル類、アミド類での溶剤である。
【0085】
以上のようにしてA−Cブロックコポリマーを得ることができる。本発明のポリマーエマルジョンは、改質する対象のポリマーエマルジョン(a)のスルホン酸塩で安定化されているポリマーのスルホン酸塩が、本発明で使用するA−Cブロックコポリマーの第4級アンモニウム塩と塩交換(イオン交換)して、ポリマーエマルジョン(a)のポリマー粒子のスルホン酸塩の対イオンが、A−Cブロックコポリマー由来の第4級アンモニウムイオンであることを特徴とする。ここで、次にポリマーエマルジョン(a)について説明する。
【0086】
[ポリマーエマルジョン(a)について]
本発明で原料として使用するポリマーエマルジョン(a)は前記しているように、スルホン酸中和塩で乳化状態が安定化されたポリマー粒子を有する分散、乳化されたポリマーエマルジョンである。このスルホン酸塩基で安定化されたエマルジョンについては、従来公知のポリマーエマルジョンであり、スルホン酸は、アンモニウム塩、有機アミン塩、アルカリ金属塩で中和されたポリマーエマルジョン(a)である。この中和のための対イオンは特に限定されない。なお、リン酸塩等で乳化状態が安定化されたポリマーエマルジョンもあるが、本発明者らの検討によれば、スルホン酸塩で安定化されたポリマーエマルジョンを原料とし、これを改質する構成とした場合に本発明の効果がより顕著に得られる。
【0087】
このスルホン酸基で安定化されたポリマーエマルジョン(a)(以下、単にポリマーエマルジョン(a)とも呼ぶ)は、スルホン酸塩を有する界面活性剤を使用したり、スルホン酸基を有するモノマーを共重合させたり、または、それらの併用にて得られる。その界面活性剤、スルホン酸基を有するモノマーは特に限定されず、その含有量も限定されない。界面活性剤を使用した場合は、乳化重合であるし、または、溶媒蒸発法である、有機溶剤を使用して重合し、活性剤と水を加えて、エマルジョン化し脱溶剤して得られる。スルホン酸基を有するモノマーの共重合体の場合は、自己乳化性のポリマーとなって、エマルジョン化する。これらの方法は特に限定はない。
【0088】
ポリマーエマルジョン(a)としては、従来公知のものが使用されるが、本発明では、特に、オレフィン系、アクリル系、スチレン系、アルカン酸ビニル系、ウレタン系、エステル系のポリマー、それらの共重合物、グラフト重合物、ブロック共重合物の一種以上が使用される。これらは、バインダー成分として、塗布や印画した時に被膜成分となり、基材との密着性、基材保護などの働きをする。
【0089】
まず、オレフィン系、アクリル系、スチレン系、アルカン酸ビニル系について説明する。これらの製造方法は特に限定はされないが、例えば、前記した界面活性剤を使用した乳化重合、溶媒蒸発法、スルホン酸基含有モノマーの共重合による自己乳化、及びこれらの併用によって得られる。界面活性剤としては、スルホン酸塩を有する界面活性剤であれば特に限定はなく、例示すると、ドデシルフェニルスルホン酸、ナフタレンホルムアルデヒド縮合物スルホン化物、ドデシルスルホン酸、ドデシルフェニルポリエチレングリコールモノスルホン酸、オクチルスルホコハク酸、スルホコハク酸アルキルエステル、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル硫酸アンモニウムなどのスルホン化物のアルカリ金属塩、アンモニウム塩、有機アミン塩などが使用できる。
【0090】
また、高分子活性剤として、スルホン酸塩を含有するモノマー、及び他のモノマーを重合して得られるポリマー型の活性剤も使用することができる。上記のオレフィン系などのポリマーのモノマーは不飽和結合を有することから、ラジカル重合で得られるが、上記の低分子活性剤では、水系内に低分子の界面活性剤が存在することから泡が発生したり、耐水性が悪くなったりするため、ラジカル重合性基を持った反応性界面活性剤を使用して、スルホン酸基を共重合成分とし使用してエマルジョンを得ることができる。この反応性界面活性剤としては、従来公知のものが使用され、その使用量なども特に限定はないが、例えば、メタクリル酸エチルスルホン酸、メタクリル酸ポリエチレングコリールスルホン酸、スチレンスルホン酸、アクリルアミドメチルプロパンスルホン酸などのスルホン酸基含有モノマーの塩、市販品のものとして、エミノールJS−20(三洋化成製)、アクアロンKH、HSシリーズ(第一工業製薬社製)、ラムテルシリーズ(花王社製)、アントックスシリーズ(日本乳化剤社製)、アドカリアソープ(ADEKA社製)、スピノマーシリーズ(ソルベイ社製)などが挙げられる。これらの界面活性剤や反応性活性剤の使用、またはそれらを併用にて、上記のポリマーエマルジョンとすることができる。これらの製造方法、界面活性剤の使用量等は特に限定されない。
【0091】
また、上記の界面活性剤やモノマー以外として、ラジカル重合で使用される重合開始剤である過硫酸塩でのスルホン酸の導入もある。この場合は、末端にスルホン酸イオンが導入され、そのスルホン酸に本発明で使用するA−Cブロックコポリマーが塩を形成する。過硫酸塩の開始剤としては、従来公知のものが使用され、特に限定はないが、例えば、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウムなどが挙げられ、その量は限定されない。通常、これらの開始剤の量はモノマーに対して少量でしかないので、好ましくは、前記した界面活性剤やモノマーを使用して、本発明で使用するA−Cブロックコポリマーをイオン化させた方がよい。
【0092】
また、本発明で使用するポリマーエマルジョン(a)のポリマーは、オレフィン系、アクリル系、スチレン系、アルカン酸ビニル系であり、それらの単独重合、共重合、グラフト化物、ブロック化物が使用できる。具体的にポリマーを例示すると、オレフィン系としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリブタジエン、ポリイソプレンなどが挙げられる;アクリル系としては、(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロニトリル、イタコン酸系モノマー、マレイン酸系モノマーなどのモノマーのホモポリマー、ランダム共重合体が挙げられる;スチレン系としては、ポリスチレン、ポリビニルトルエン系が挙げられる;アルカン酸ビニル系としては、酢酸ビニルや酪酸ビニルなどのポリマーが挙げられる。これらの不飽和結合を有するモノマーは共重合できるので、それらの共重合体も十分使用できる。また、二官能以上のモノマーを共重合して内部架橋して被膜の耐久性、密着性を向上させてもよい。これらのポリマーの組成、分子量、製造方法、ガラス転移点は特に限定はなく、従来公知のものが使用される。
【0093】
次に、本発明で使用するポリマーエマルジョン(a)を構成するポリマー粒子である、ウレタン系、エステル系のポリマーについて説明する。これらのポリマーは従来公知のものが使用でき、これらの得られたポリマーを、界面活性剤を使用して強制的に乳化して得られることもできるし、スルホン酸基を有するモノマーを構造的に組み込み、自己乳化型のポリマーエマルジョンとすることもできる。また、中和されたカルボキシル基で安定化され且つスルホン酸系活性剤の使用で安定化されるポリマーエマルジョンとすることができる。スルホン酸基を有するモノマーを構造的に組み込んだ方が、粒子が細かく安定なエマルジョンができるので好ましい。
【0094】
ポリウレタンとしては、従来公知の方法で、スルホン酸基を有するモノマーを共重合して得られる。これは特に限定はない。スルホン酸基を有するモノマーとしては、ジオールが使用され、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−タウリン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)アミノメチルスルホン酸、N,N−ビス(2−ヒドロキシブチル)アミノエチルスルホン酸、(1,2−ジヒドロキシプロピル)メチルアミノエチルスルホン酸、(1,2−ジヒドロキシプロピル)ドデシルアミノエチルスルホン酸などの低分子ジオールが挙げられる。また、後述するが、5−ナトリウムスルホイソフタル酸を共重合成分としたポリエステルジオールなどを共重合成分する。必要に応じて、ポリウレタンの分散性を高めるため、ジメチロールブタン酸等のカルボン酸基を有するジオールを使用してもよい。これらのスルホン酸を構造に組み込むことで安定なポリウレタンのポリマーエマルジョンとすることができる。
【0095】
これらのウレタンを得るためのイソシアネート成分、ポリオール成分、鎖延長剤であるジアミン成分は特に限定はなく、従来公知のものが使用できる。具体的にはイソシアネート成分としては、トルエンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、メチレンビスフェニルイソシアネートなどが挙げられ、ポリオール成分としてはエチレングリコール、プロピレングリコールなどのグリコール類、ポリテトラメチレングリコールなどのポリエーテルポリオール類、ポリヘキサメチレンカーボネートなどのポリカーボネートジオール類、ポリブタンアジペートなどのポリエステルジオール類などが挙げられる。ジアミン成分としては、ヒドラジン、イソホロンジイソシアネート、ヘキサメチレンジアミンなどが挙げられる。その他として、グリセリンなどのトリオール等の多官能性アルコールやビュレット型などのポリイソシアネートなども使用することができる。これらのポリウレタンの製造方法、分子量、ガラス転移点、配合比などは従来公知のものが使用され、特に限定されない。
【0096】
ポリエステルについては、5−ナトリウムスルホイソフタル酸を共重合成分としたポリエステルが挙げられる。ジカルボン酸成分、ジオール成分は特に限定はなく、従来公知のものが使用される。ジカルボン酸成分として、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、アジピン酸などのジカルボン酸、それらの低級アルコールエステル、または酸クロライドが挙げられ、ジオール成分としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ビスフェノールAのポリエチレンオキサイド付加物などのジオールが用いられ、前記した5−ナトリウムスルホイソフタル酸、その低級アルキルエステルが使用され、脱水、脱アルコールにて縮合して得られる。その他、トリメリト酸や無水ピロメリット酸、グリセリンなどの多官能モノマーを併用しても問題はない。その製造方法、組成、分子量、ガラス転移点等は特に限定はなく、従来公知のものが使用される。
【0097】
これらのオレフィン系、アクリル系、スチレン系、アルカン酸ビニル系、ウレタン系、エステル系のポリマー類の複合的な構造として、グラフトポリマー、ブロックコポリマーでもよく、それらのマクロモノマーを使用して得られるし、ポリマー同士の反応によっても得られ、それらは特に限定されない。
【0098】
本発明では、以上のようなポリマー粒子で構成されたポリマーエマルジョン(a)を用いるが、その粒子径は、20〜300nmであることが好ましい。これは光散乱測定による平均粒子径である。インクジェットにおいて、そのヘッドから吐出する際に、粒子径が大きいとヘッドが詰まってしまうのでナノサイズの粒子径が好ましい。20nm以下であると細かすぎて溶液の粘度が上がってしまい、インクジェット印刷適性が悪くなる場合があり、300nm以上であるとヘッドの詰まりを生じやすい。より好ましくは50nm〜200nmである。
【0099】
使用するポリマーエマルジョン(a)のポリマー含有量は特に限定はない。また、必要に応じて造膜助剤などとして有機溶剤、例えば高沸点グリコール系溶剤が入っていても問題はない。以上が本発明で使用されるポリマーエマルジョン(a)である。
【0100】
[ポリマーエマルジョンについて]
本発明のポリマーエマルジョンは、上記のA−Cブロックコポリマーとポリマーエマルジョン(a)によって得られ、ポリマーエマルジョン(a)のスルホン酸塩とA−Cブロックコポリマーの第4級アンモニウム塩の塩交換(イオン交換)によって、ポリマーエマルジョン(a)のポリマー粒子(単にポリマー(a)と称す)のスルホン酸がアニオンとなり、その対イオンがA−CブロックコポリマーのCのポリマーの第4級アンモニウムイオンであるカチオンとなる。A−Cブロックコポリマーは、Cのポリマーブロックが、ハロゲン化物塩等である第4級アンモニウム塩であることから、スルホン酸塩の対イオンとなった場合は、ハロゲン化物塩等ではない。このため、本発明では、塩交換(イオン交換)される前のA−Cブロックコポリマーと、塩交換後に、ポリマー(a)のスルホンイオンの少なくとも一部の対イオンとなった状態のブロックコポリマーとを区別するため、ポリマー(a)のスルホン酸アニオンの対イオンをA−Bブロックコポリマーと称することとした。すなわち、本発明では、A−Cブロックコポリマーの、使用の際に最終的に中和されることを要するカルボキシ基を有するポリマーブロックはそのままAのポリマーブロックと呼び、Cのポリマーブロックがイオン交換されて、第4級アンモニウムカチオンを有するポリマーブロックとなったものをBのポリマーブロックと呼ぶ。
【0101】
上記した構成の本発明のポリマーエマルジョンは、単にポリマーエマルジョン(a)と、A−Cブロックコポリマー、またはその重合溶液、またはそれらのカルボキシ基が中和された重合溶液、または、それらを水で希釈した水溶液の形で添加することで脱塩し、容易に得ることができる。混合することで脱塩し、ポリマー(a)のスルホン酸イオンとその対イオンであるカチオンとして第4級アンモニウムカチオンのイオン対が得られる。例えば、ポリマー(a)のスルホン酸塩がナトリウム塩であり、A−Cブロックコポリマーの第4アンモニウム塩が第4級アンモニウムクロライドであれば、塩化ナトリウムを生じ脱塩して、スルホン酸アニオンと第4級アンモニウム塩の対イオンが生じる。脱塩された塩はそのまま存在させていてもよいし、イオン交換して除去してもよい。
【0102】
また、A−Cブロックコポリマーの溶液重合をそのまま、又は得られた重合溶液を水で希釈した水溶液を使用する場合は、ポリマーエマルジョン(a)に予めAのポリマーのカルボキシ基を中和するために所定量のアルカリを添加しておいてもよいし、重合溶液をポリマーエマルジョン(a)に添加して、スルホン酸と第4級アンモニウム塩の対イオンを生じさせた後、アルカリを添加してカルボキシ基を中和してA−Bブロックコポリマーとしてもよい。
【0103】
本発明のポリマーエマルジョンは、この原料に用いたポリマーエマルジョン(a)中のポリマー(a)と、該ポリマー(a)のスルホン酸イオンの対イオンの状態で存在しているA−Bブロックコポリマーの比率は、質量基準で、5〜50:95〜50であることが好ましい。A−Bブロックコポリマーの比率が5%未満だと、本発明の特徴であるAのポリマーブロックが少な過ぎて、エマルジョンの安定性が取れなかったり、インクに使用した場合に吐出安定性が悪くなるおそれがあるので好ましくない。また、A−Bブロックコポリマーの比率が50%より多いと、相対的にポリマー(a)が少なくなってしまい、必要とする膜物性が不足してしまう可能性があるので好ましくない。より好ましい上記比率は、10〜40:60〜90である。
【0104】
また、本発明におけるポリマー(a)のスルホン酸イオンと第4級アンモニウムイオンの比率としては、特に限定はなく、スルホン酸イオンの少なくとも一部の対イオンが、A−BブロックコポリマーのBのポリマーブロックがもつ第4級アンモニウムイオンとなっていればよい。すなわち、スルホン酸イオンが過剰となっても、A−Bブロックコポリマーが上記の範囲であれば、十分効果を発揮できるし、逆に第4級アンモニウムイオンが過剰でもA−Bブロックコポリマーがポリマー(a)のスルホン酸とイオン結合して脱離することがないので、本発明の効果を発揮することができる。好ましくは、スルホン酸イオンが過剰であることがよい。これは、ポリマー(a)を安定化させるためスルホン酸イオンが多く含まれている場合があり、それをすべてA−Bブロックコポリマーでイオン化しようとした場合、上記好ましいとした比率の範囲外のA−Bブロックコポリマーの量になってしまう可能性があるからである。
【0105】
本発明のポリマーエマルジョンは、上記のようにポリマーエマルジョン(a)とA−Cブロックコポリマーを混合するだけで脱塩(イオン交換)して容易に得られる。この方法は特に限定はなく、ディスパー等で撹拌して混合して得られる。必要に応じて加温してもよい。また、混合する際の両者の固形分も特に限定はなく、固形分が高い状態で混ぜてもよいし、水で大希釈して低濃度として添加してもよい。しかし、あまりにも固形分が低いと、得られた本発明のポリマーエマルジョンを、本発明の着色色組成物に添加して使用する場合に、所定の顔料濃度になることができない可能性があるため、好ましくは、10質量%以上とすることが好ましい。
【0106】
また、上記のようにして得られる本発明のポリマーエマルジョンのポリマーの粒子径については、前記した原料に用いたポリマーエマルジョン(a)のポリマーの粒子径と同様であり、その粒子径は、20〜300nmである。より好ましくは50〜200nmである。
【0107】
本発明のポリマーエマルジョンを調製する場合に使用される液媒体としては、水が主体であり、一部に必要に応じて水溶性の有機溶剤が併用してもよい。この水溶性有機溶剤としては、前記したアルコール、グリコールなどが用いられるが、その使用量は、液媒体中に0〜20質量%程度である。20質量%よりも多く用いられると、粒子に有機溶剤が取り込まれてしまい、膨潤したり、凝集したりして、本発明のポリマーエマルジョンの分散、乳化状態を破壊する可能性がある。好ましくは10質量%以下である。
【0108】
上記でいう水溶性の有機溶剤とは、特に限定されないが、水に対し20質量%以上混和できるものが挙げられ、好ましくは完全混合できる溶剤がよい。
【0109】
加えて、本発明のポリマーエマルジョンを調製する場合には、必要に応じて、他の添加剤を添加してもよい。具体的には、防腐剤、pH調整剤、レベリング剤、前記した有機溶剤、さらには、さらに界面活性剤などの添加が挙げられる。
【0110】
[ポリマーエマルジョンの使用]
次に、本発明のエマルジョンをバインダー成分(皮膜形成成分)として使用する着色剤組成物、およびそれを使用してなるインクジェットインクについて説明する。まず、本発明の着色剤組成物としては、少なくとも、染料及び/又は顔料、水、水溶性有機溶剤、および前記した本発明のポリマーエマルジョンを構成成分としてなるものが挙げられる。この際に用いる染料や顔料は、特に限定されるものでなく、従来より印刷に使用されている様々な染料、顔料が使用できる。
【0111】
染料については、具体的には、水性の染料も使用できるし、油性の染料も使用できる場合もある。すなわち、油性の染料の場合は、水に溶解しないが、本発明の着色剤組成物には有機溶媒が存在するため溶解する場合があり、或いは、本発明の着色剤組成物を構成する本発明のポリマーエマルジョンのポリマーの粒子内に油性の染料を含有させることができるので、油溶性であっても使用できる場合がある。染料としては、特に限定されず、従来公知の染料が使用される。例えば、アシッドレッド、アシッドブルー、アシッドエロー、ベーシックレッド、ベーシックブルー、ベーシックバイオレット、ダイレクトレッド、ダイレクトブルー、ダイレクトエロー、ダイレクトブラックオイルレッド、オイルブルー、オイルブラック、蛍光色素などの様々なC.I.ナンバーのものや、それらの耐光性が改良された各メーカーからの色素が使用できる。さらには、色素が結合したポリマーなども十分使用できる。
【0112】
また、顔料としては、従来公知の無機顔料や有機顔料が挙げられ、特に限定されない。様々なC.I.ナンバーの顔料が使用され、例えば、カーボンブラック顔料、キナクリドン系顔料、フタロシアニン系顔料、ベンズイミダゾロン系顔料、イソインドリノン系顔料、アゾ系顔料、酸化チタン顔料などが挙げられる。特にインクジェットインクで使用される顔料であるカラーインデックスナンバー(C.I.)ピグメントブルー−15:3、15:4、C.I.ピグメントレッド−122、269、C.I.ピグメントバイオレット−19、C.I.ピグメントイエロ−74、155、180、183、C.I.ピグメントグリーン−7、36、58、C.I.ピグメントオレンジ−43、C.I.ピグメントブラック−7、C.I.ピグメントホワイト−6などが挙げられる。
【0113】
加えて、本発明の着色剤組成物においては、顔料として、顔料表面に水可溶性基が導入されたり、樹脂でカプセル化されたりした自己分散性顔料も使用できる。例えば、自己分散性顔料として、各カーボンブラックメーカーから販売されている酸性基が導入されたカーボンブラックや、キャボット社などの自己分散性顔料などが挙げられる。これらの染料、顔料は1種以上使用され、染料と顔料を併用してもよい。
【0114】
それらの染料、顔料の着色組成物における含有量は、特に限定されない。例示すると、染料の場合は0.5〜10質量%程度、顔料の場合は、有機顔料の場合は1〜30質量%程度、無機顔料の場合は5〜60質量%程度の範囲で好適に使用される。
【0115】
本発明の着色剤組成物では、液媒体として、水、水溶性有機溶剤が使用される。水溶性有機溶剤としては、前記したアルコール、グリコール、多価アルコールなどを適宜に使用できるが、その配合量も任意であり、特に限定されない。再度例示すると、その水溶性有機溶剤としては、エタノール、イソプロパノールなどの水可溶性低級脂肪族アルコール、アセトンなどのケトン系水溶性溶媒、乳酸エチルなどの水可溶性エステル溶媒、テトラヒドロフラン、エチレングリコールジメチルエーテルやジエチレングリコールジメチルエーテルなどの水可溶性エーテル系溶媒、プロピレングリコールやエチレングリコール、そのモノアルキルエーテルなどの水可溶性グリコール系溶媒、N−メチルピロリドンなどの水溶性アミド系溶媒、グリセリンや1,2−ヘキサンジオールなどの水可溶性ポリオール溶剤などが挙げられ、特に限定されず、一種以上が使用される。インクジェットインクに使用する場合を考慮すると、より好ましくは、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、グリセリン、プロピレングリコール、1,2−ヘキサンジオール、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドンなどのヘッドの乾燥を防止する水溶性有機溶剤を1種以上併用することがよい。
【0116】
上記したような染料及び/又は顔料、液媒体に、本発明のポリマーエマルジョンを添加して本発明の着色剤組成物とする。その際のエマルジョンの添加量としては、その必要とする被膜の性能、着色力を得るために、そのエマルジョンに含まれるポリマー成分の量で適宜に決定すればよい。好ましくは、全体の着色剤組成物の内の0.5〜20質量%を含有するように構成することがよく、用途にあわせて被膜形成成分として調整される。
【0117】
染料の場合、水溶性の染料では、液媒体に添加して混合溶解させることで着色組成物を得ることができる。油溶性の染料の場合は、その染料が溶解するように、有機溶剤を添加して撹拌し均一化したり、エマルジョン粒子に取り込まれるように撹拌して均一化させたりする。顔料の場合は、自己分散性顔料の場合は、上記液媒体に添加して、撹拌、好ましくは分散工程を取って顔料を分散させる。この自己分散性顔料の場合は、特に分散剤は必要がない。この分散の方法としては、例えば、ニーダー、二本ロール、三本ロール、ミラクルKCK(浅田鉄鋼株式会社、商品名)といった混練機や、超音波分散機や、高圧ホモジナイザーである、マイクロフルイダイザー(みずほ工業株式会社、商品名)、ナノマイザー(吉田機械興業株式会社、商品名)、スターバースト(スギノマシン株式会社、商品名)、G−スマッシャー(リックス株式会社、商品名)等が挙げられる。また、ガラスやジルコンなどのビーズメディアを使用したものでは、ボールミル、サンドミルや横型メディアミル分散機、コロイドミルなどが使用でき、特に限定はなく、任意の方法がとられる。
【0118】
顔料の場合は、そのままでは顔料は分散しないので、顔料分散剤を使用して、上記の分散方法にて顔料を分散する。この顔料分散剤としては、従来公知のものが使用され、例えば、アクリルやスチレン系ポリマーなどのランダム重合物、ブロックコポリマー型分散剤、グラフトポリマー型分散剤、星型ポリマー分散剤、ハイパーブランチ型分散剤などが挙げられる。この顔料分散剤は、顔料に対して、任意の量で使用され、例えば、顔料100部に対して、分散剤が1〜100部、より好ましくは5〜50部となる量である。
【0119】
本発明の着色組成物において、望ましい顔料の分散粒子径は、光学濃度及び彩度というインクの発色性と印字品質あるいはインク中の顔料の沈降を考慮すると、有機顔料で平均粒子径150nm以下、無機顔料で300nm以下である。所望の粒度分布を有する顔料の分散体を得るために、分散機の粉砕メディアのサイズを小さくする、粉砕メディアの充填率を大きくする、また、処理時間を長くする、吐出速度を遅くする、粉砕後フィルターや遠心分離機などで分級するなどの手法が用いられる。または、それらの手法の組み合わせが挙げられる。さらには使用する顔料の一次粒子径を従来公知の方法、例えば、ソルトミリング法により事前に細かく調整した顔料を使用する手法を用いることができる。分散後は、遠心分離機やフィルターで粗大粒子を除去することが好ましい。
【0120】
これらの着色剤組成物は、必要に応じて添加剤を添加してもよい。他の添加剤として、界面活性剤、顔料誘導体、レベリング剤、消泡剤、紫外線吸収剤などの添加剤を使用することができ、特に限定されない。
【0121】
以上のようにして得られた着色剤組成物は、水、水溶性有機溶媒、添加剤を加えてインク化することで、本発明の水性インクジェットインクとすることができる。例えば、染料インクの場合は、染料濃度が0.5〜7質量%、顔料のインクの場合は、顔料濃度が1〜10質量%になるように調整される。これらのインクとした場合、本発明のエマルジョンの添加量は、そのエマルジョンに含まれるポリマー成分が、使用される染料及び/又は顔料100部に対して、50〜300部であることが好ましい。50部よりも少ないと色素成分が多くなりすぎ、被膜の強度が発揮されない場合があり、300部より多いと含有される色素の濃度が相対的に少なくなって着色力が低下する場合がある。より好ましくは50〜200部である。
【0122】
また、本発明のインクでは前記したが、界面活性剤、水溶性有機溶剤、消泡剤などの添加剤を用いることができる。表面張力を20mN/m以上40mN/m以下の範囲がインクジェットで印字するドット径を最適な幅に広げるという観点から少なくとも界面活性剤を添加してなることが好ましい。その界面活性剤は従来公知のものを使用することができる。その添加量は、多いと顔料の分散安定性を損なうことがあるため、0.01〜5質量%であり、好ましくは0.1〜2質量%である。
【0123】
得られるインクの粘度は特に限定されないが、染料或いは有機顔料を含むインクジェットインクでは、2〜10mPa・s、無機顔料のインクジェットインクでは、5〜30mPa・sである。
【0124】
以上のようにして、本発明のポリマーエマルジョンをバインダー成分として含有してなるインクジェットインクを得ることができる。このインクジェットインクは、民生用、産業用、捺染用などの水性インクジェットプリンターに適用できる。印刷する基材であるメディアに対しても、普通紙、光沢紙、マット紙、PETなどのポリエステルや塩化ビニルなどのフィルム、綿やポリエステルなどの繊維、アルミ板などの金属などの多様な材料に適用できる。また、本発明のポリマーエマルジョンは、インクジェットインクに添加することが好ましいが、予め基材に塗布したり、印画物にオーバーコートとして塗布したり、印画することもできる。また、インクジェットインクに限らず、水系の塗料、インク、文具などの被膜形成が必要な分野にも十分使用可能である。
【実施例】
【0125】
次に、合成例、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。なお、文中「部」または「%」とあるのは質量基準である。
【0126】
[合成例1:A−Cブロックコポリマー1の合成]
まず、撹拌機、逆流コンデンサー、温度計及び窒素導入管を取り付けた1リッターのセパラブルフラスコの反応装置に下記のものを仕込み、下記のようにして本発明で規定するA−Cブロックコポリマーを構成するAのポリマーブロックとなるポリマーを合成した。具体的には、上記反応装置に、有機溶剤としてジエチレングリコールモノブチルエーテル(以下、BDGと略記)を435.9部、重合開始化合物としてのヨウ素化合物を得るため、ヨウ素を2.0部と、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)(以下、V−70と略記)を7.4部、触媒としてN−アイオドスクシンイミドを0.22部、さらに、メタクリル酸ベンジル(以下、BzMAと略記)を123.2部、メタクリル酸(以下、MAAと略記)を30.1部、仕込んで撹拌し、40℃に加温した。3時間でヨウ素の褐色が消えたため、この間に、開始剤であるV−70がヨウ素と反応してヨウ素化合物である重合開始化合物となったことが確認できた。さらに、上記の温度を維持して5時間重合を行い、この時点で反応溶液の一部をサンプリングした。その結果、下記に述べるように、上記で得られたポリマーは、本発明で規定するAのポリマーブロックの性状を有することが確認できた。
【0127】
まず、このサンプリング物の固形分を測定したところ27.0%であり、これに基づいて算出した原料に使用したモノマーの重合率はほぼ100%であった。なお、重合率は、その他の例でもこの方法で算出した。また、サンプリング物の固形分についてテトラヒドロフラン(以下、THFと表記)を展開溶媒とするGPCにて分子量を測定したところ、数平均分子量が4500、PDIが1.19であった。以下、断りがない限り分子量はTHF溶媒を展開溶媒とするGPCの測定値である。そのポリマー組成は、BzMA/MAA=約80.4/19.6である。また、このサンプリング物を水に添加したところ樹脂が析出したため、このポリマーは水に不溶のポリマーであることが確認された。さらに、また、エタノール/トルエンを溶媒とした0.1NのKOHエタノール溶液を用いて、フェノールフタレインを指示薬として滴定にて測定したところ、その樹脂酸価は129.4mgKOH/gであり、ほぼ理論値どおりであった。以下、酸価については上記と同様の方法で測定し、その値を示した。
【0128】
次いで、下記のようにして、上記で得た本発明で規定するAのポリマーブロックの性状を有するポリマーに、第4級アンモニウム塩基を有するCのポリマーブロックを導入し、A−C型のブロックコポリマーを合成した。まず、上記で得たポリマー溶液に、第4級アンモニウム塩基を有するメタクリレートとしてメタクリル酸ベンジルジメチルアンモニウムエチルクロライド(以下、DMQと表記)を14.2部、BzMAを61.6部、BDGを33.1部、予め混合均一化させた溶液を添加した。そして、同じ温度で4時間重合して、Cのポリマーブロックを形成させた。得られたポリマー溶液の固形分は40.8%であり、換算した重合率はほぼ100%であった。GPC測定を行ったところ、ピークが小さく不明瞭であった。これは導入したCのポリマーブロックの有する第4級アンモニウム塩基のTHFに対する溶解性が悪いことと、カラムに吸着したことによるためと考えられる。また、リチウムブロマイド10mmol/LのDMF溶媒を展開溶媒としたGPCにて分子量を測定したところ、ピークは見られなかった。同様に吸着したためと考えられる。
【0129】
上記で得られたポリマー溶液の一部を水に添加したところ、若干透明感のある白色の乳濁液となった。これは、Cのポリマーブロックの構成成分であるDMQの有する第4級アンモニウム塩基は、水に溶解する性質を有しているため、この第4級アンモニウム塩基が導入されたことにより、Cのポリマーブロックの部分が水に溶解する一方で、水に不溶のAのポリマーブロックの性状を有するポリマー部分が微細な粒子となって分散したためと考えられる。このことから、得られたポリマーは、Aのポリマーブロックの性状を有するポリマーにCのポリマーブロックが導入されたブロックコポリマーであることが確認された。これをA−Cブロックコポリマー−1と称す。なお、このブロックコポリマーは、Aのポリマーブロックの構造中のカルボキシ基はアルカリで中和されてはいない状態のものである。
【0130】
[合成例2:A−Cブロックコポリマー2の合成]
合成例1と同様の装置を使用し、有機溶剤としてBDGを275.7部、ヨウ素を3.0部、メタクリル酸メチル(以下、MMAと表記)を42.3部、メタクリル酸ブチル(以下、BMAと表記)42.3部、メタクリル酸2−エチルヘキシル(以下、2−EHMAと表記)を19.8部、ポリ(n=2〜4)エチレングリコールモノメチルエーテルメタクリレート(Mw=200、日油社製、以下、PME200と表記)を32.4部、MAAを14.4部、触媒としてジフェニルメタン(以下、DPMと表記)を0.3部、重合開始剤としてV−70を11.1部仕込み、窒素を流しながら40℃で5.5時間重合し、Aのポリマーブロックを得た。得られたポリマー溶液の固形分を測定したところ、37.5%であり、換算した重合転化率はほぼ100%であった。また、Mnは6000、PDIは1.18であった。酸価を測定したところ、61.4mgKOH/gであった。また、このポリマー溶液の一部を水に添加したところ、樹脂が析出した。このことは、得られたポリマーは水に不溶であることを示している。上記のことから得られたポリマーは、本発明で規定するAのポリマーブロックの性状を有することが確認された。
【0131】
次いで、合成例1と同様にして、上記で得たAのポリマーブロックに、第4級アンモニウム塩基を有するCのポリマーブロックを導入し、A−Cブロックコポリマーを合成した。まず、上記で得たAのポリマーブロックの溶液に、DMQを71.1部、BzMAを58.2部、BDGを166.6部、あらかじめ混合均一化させた溶液を添加した。そして、同じ温度で4時間重合して、Cのポリマーブロックを形成し、A−Cブロックコポリマーの溶液を得た。得られたポリマー溶液の固形分は41.0%であり、換算した重合率はほぼ100%であった。GPC測定を行ったところ、合成例1と同様にピークが小さく不明瞭であった。
【0132】
上記で得られたポリマー溶液の一部を水に添加したところ、青白色半透明に分散した。これは、合成例1と同様に、Cのポリマーブロックの構成成分であるDMQ由来の第4級アンモニウム塩基は、水に溶解する性質を有しているため、導入したCのポリマーブロックの部分が水に溶解し、水に不溶のAのポリマーブロック部分が微細な粒子となって分散したためと考えられる。また、これ加えて、導入した第4級アンモニウム塩基の量が合成例1よりも大きく、且つ、Aのポリマーブロックに親水性モノマーが多く含まれているため、合成例1に比べて青く透明感が大きいものとなったと考えられる。このことから、得られたポリマーは、本発明で規定する性状のAのポリマーブロックに本発明で規定するCのポリマーブロックが導入されたA−Cブロックコポリマーであることがわかる。これをA−Cブロックコポリマー−2と称す。
【0133】
[合成例3:A−Cブロックコポリマー3の合成]
合成例1で用いたと同様の装置を使用し、有機溶剤としてBDGを366.5部、ヨウ素を3.0部、MMAを21.1部、BMAを21.1部、2−EHMAを21.1部、PME200を83.6部、MAAを14.4部、触媒としてDPMを0.3部、V−70を11.1部使用した以外は、合成例1と同様に重合し、Aのポリマーブロックの溶液を得た。得られたポリマー溶液の固形分は31.0%であり、換算した重合率はほぼ100%であった。GPC測定したところMnは6000、PDIは1.16であった。また、Aのポリマーブロックの樹脂酸価は58.2mgKOH/gであった。
【0134】
次いで、合成例1と同様にして、上記で得たAのポリマーブロックにCのポリマーブロックを導入し、A−Cブロックコポリマーを合成した。上記で得たAのポリマーブロックの溶液に、DMQを28.8部、BzMAを84.6部、BDGを67.2部、予め混合均一化させた溶液を添加し、合成例1と同様に重合し、Cのポリマーブロックを形成し、A−Cブロックコポリマーの溶液を得た。得られたポリマー溶液の固形分は40.1%であり、換算した重合率はほぼ100%であった。
【0135】
合成例1の場合と同様にGPC測定を行ったが、ピークが小さく不明瞭でうまく測定できなかった。また、得られた樹脂溶液の一部を水に添加したところ、ほぼ透明に溶解した。これは、Aのポリマーブロックにポリエーテルが多いためと考えられる。このことから、得られたポリマーは、本発明で規定する性状のAのポリマーブロックに本発明で規定するCのポリマーブロックが導入されたA−Cブロックコポリマーが得られたものと考えられる。これをA−Cブロックコポリマー−3と称す。
【0136】
以上の通り、ヨウ素化合物を重合開始化合物とし、触媒に有機化合物を使用する本発明のリビングラジカル重合方法にて、容易にブロックコポリマーを得ることができた。また、表1に、上記の合成例1〜3で得られたA−Cブロックコポリマーについて、重合開始化合物1molに対するAのポリマーブロックを構成するモノマーのmol数、重合開始化合物1molに対するCのポリマーブロックを構成するモノマーのmol数、A−Cブロックコポリマー中に含まれる第4級アンモニウム塩基を有するモノマーの含有量、Cのポリマーブロックに含まれる第4級アンモニウム塩基を有するモノマーの含有量をまとめて示した。
【0137】
【0138】
[合成例4:ポリマーエマルジョン(a)−1の合成]
従来公知の方法で、本発明に使用されるスルホン酸塩で安定化されたアクリルスチレン系のポリマーエマルジョンを下記のようにして調製した。合成例1の装置を使用して、窒素気流下、水500部を添加し75℃に加温した。別容器にスチレン100部、アクリル酸ブチル150部、アクアロンKH−10(第一工業製薬社製、ポリオキシエチレンアリルオキシメチルアルキルエーテル硫酸アンモニウム)8.8部を混合して均一なモノマー混合液とした。合成装置に過硫酸カリウムを2.5部添加した後、上記のモノマー混合液を2時間かけて滴下した。その後3時間熟成し、冷却して取り出した。白色の水系エマルジョンであるポリマーエマルジョン(a)−1を得た。その固形分は30.3%、平均粒子径は150nmであった。なお、使用した粒度測定機は「NICOMP 380ZLS−S」(インターナショナル・ビジネス社製)であり、以下の例でも同様に、この装置を用いてポリマーの平均粒子径の測定を試みた。
【0139】
[合成例5:ポリマーエマルジョン(a)−2の合成]
合成例4と同様にして、従来公知の方法で、本発明に使用されるスルホン酸塩で安定化されたアクリル系のポリマーエマルジョンを下記のようにして調製した。合成例4で添加するモノマー混合液を、アクリル酸エチル150部、アクリル酸ブチル96.3部、エチレングコリコールジメタクリレート3.7部、アクアロンKH−10を5.9部とした以外は、合成例4と同様にして、ポリマーエマルジョン(a)−2を合成した。得られたエマルジョンは、若干黄味であり、固形分は30.5%、平均粒子径は210nmであった。
【0140】
[比較合成例1:比較ポリマーエマルジョン(a)の合成]
合成例4と同様にして、スルホン酸イオンを有さないアクリル系のポリマーエマルジョンを下記のようにして調製した。合成例4のKH−10の代わりに、RN−20(第一工業製薬社製、ポリオキシエチレンノニルプロペニルフェニルエーテル)を使用した以外は、合成例4と同様にして合成し、白色のエマルジョンである比較ポリマーエマルジョン(a)を得た。得られた比較ポリマーエマルジョン(a)は、固形分が30.2%、平均粒子径が170nmであった。
【0141】
[合成例6:ポリマーエマルジョン(a)−3の合成]
従来公知の方法で、本発明に使用されるスルホン酸塩で安定化されたウレタン系のポリマーエマルジョンを下記のようにして調製した。合成例1と同様の装置を使用し、テトラメチレングリコール(水酸基価37.4mgKOH/g)100.0部、ジメチロールプロピオン酸4.0部、イソホロンジイソシアネート26.7部、アセトン14.5部を仕込んで均一化させ、アセトンを環流させながら約6時間反応させ、ウレタンプレポリマー溶液を得た。このウレタンプレポリマー溶液の温度を40〜45℃に調整しながら、イソホロンジアミン(鎖伸長剤)9.2部、ジブチルアミン(重合停止剤)0.7部、イオン交換水63.8部、水酸化ナトリウム1.2部及びドデシル硫酸ナトウリム4.2部の混合溶液を添加し、強力に攪拌しながら鎖伸長反応を行なった。さらに、攪拌乳化させながらイオン交換水212.8部を加えた。その後、反応系を減圧にして溶剤を系外に除去し、ウレタン系のポリマーエマルジョン(a)−3を得た。得られたポリマーエマルジョン(a)−3の固形分は40.2%で、この樹脂のカルボキシ基の量は約0.21ミリモル/gであった。また、平均粒子径は53nmであった。これは、カルボキシ基の中和塩と活性剤であるドデシル硫酸ナトリウム由来のスルホン酸塩で安定化されてエマルジョンを形成している。
【0142】
[合成例7:ポリマーエマルジョン(a)−4の合成]
従来公知の方法で、本発明に使用されるスルホン酸塩で安定化されたエステル系のポリマーエマルジョンを下記のようにして調製した。テレフタル酸ジメチル95部、イソフタル酸ジメチル95部、ヘキサメチレンジオール62.4部、ネオペンチルグリコール55.0部、テトラブチルチタネート0.1部を反応容器に仕込み、徐々に加温して220℃にし、約3時間かけてエステル交換反応を行った。次いで、5−ナトリウムスルホイソフタル酸ジメチル8.4部を添加し、さらに2時間かけてエステル脱アルコール反応を行った。ついで、このポリエステルをエクアミドM−100(出光興産社製、アミド系溶剤)100部添加し溶解させ、著しく撹拌しながら水を200部添加し、さらに水600部を添加した。これにより、若干白い半透明のポリマーエマルジョン(a)−4を得た。得られたエステル系のポリマーエマルジョン(a)−4の固形分は25.3%、平均粒子径は100nmであった。
【0143】
[確認例:ポリマー(a)とA−Cブロックコポリマーの対イオン化の確認]
100mlフラスコのそれぞれに、合成例4で得たアクリル系のポリマーエマルジョン(a)−1、比較合成例で得たアクリル系の比較ポリマーエマルジョン(a)を、それぞれ10部ずつはかりとり、水20部でそれぞれ希釈した。
上記とは別容器に、合成例1で得たA−Cブロックコポリマー−1を1.5部はかりとって、水13.5部で希釈した。希釈すると前記したように白色の乳濁液となった。これは、A−Cブロックコポリマー−1を構成するAのポリマーブロックが水に不溶であるため粒子となって、A−Cブロックコポリマー−1を構成するCのポリマーブロックが水に溶解して乳濁液となったと考えられる。すなわち、この状態のA−Cブロックコポリマー−1は、粒子の表面が第4級アンモニウム塩で水和していることとなる。
次いで、先に100mlフラスコに用意した、ポリマーエマルジョン(a)−1の希釈溶液と、比較合成例で得たポリマーエマルジョンの希釈溶液を、それぞれスターラーで撹拌しながら、上記の別容器に準備したA−Cブロックコポリマーをそれぞれに添加した。
その結果、合成例4で得たポリマーエマルジョン(a)−1は凝集して沈殿し析出が生じた。これに対し、比較合成例1で得た比較ポリマーエマルジョン(a)ではそのまま乳液状態を保ち、沈殿は起こらなかった。
【0144】
上記のことから、本発明を特徴づける「エマルジョンを構成しているポリマー(a)と、添加したA−Cブロックコポリマーの対イオン化」が確認できる。すなわち、ポリマーエマルジョン(a)−1の場合は、ポリマーエマルジョン(a)−1の有するスルホン酸塩と、A−Cブロックコポリマー−1のCのポリマーブロックが有する第4級アンモニウム塩との間で塩交換(イオン交換)が起こり脱塩して、ポリマーエマルジョン(a)−1のスルホン酸イオンの対イオンが、A−Cブロックコポリマー−1の第4級アンモニウムイオンとなり、且つ、Aのポリマーブロックは水に不溶であるため凝集して析出したと考えられる。これに対し、比較合成例1で得た比較ポリマーエマルジョン(a)の場合は、ポリエチレングリコールのノニオンで安定化して乳化しているので、A−Cブロックコポリマーを入れても上記したようなイオン交換が起こらず、それぞれのポリマーが粒子として存在して、乳化した状態であると考えられる。なお、上記のことは、Aのポリマーブロックが未中和のA−Cブロックコポリマーを利用することで、市販品のポリマーエマルジョンがスルホン酸塩で安定化されているものであるかどうかの確認ができることを意味している。このため、本発明では、上記したような方法で、スルホン酸塩で安定化されていることを確認した市販品をポリマーエマルジョン(a)として使用することで、本発明で規定するA−Bブロックコポリマーを対イオンとする本発明のポリマーエマルジョンを容易に得ることができる。
【0145】
[実施例1:ポリマーエマルジョン−1(P−1)の調製]
300mlフラスコに、合成例4で得たポリマーエマルジョン(a)−1を100部はかりとり、スターラーにて撹拌しながら28%アンモニア水を0.4部加えた。また、別容器に、合成例1で得たA−Cブロックコポリマー−1の溶液7.3部、水24.3部を添加して混合し、乳化液を調製した。そして、先にフラスコに準備したポリマーエマルジョン(a)−1の溶液を撹拌しながら、別容器に準備した乳化液を徐々に添加した。若干増粘が見られたが、すぐに低粘度化し、析出はなく、外観上の変化は特に見られなかった。以上のようにして、白色の、本発明のポリマーエマルジョン−1を得た。得られたポリマーエマルジョン−1の固形分は25.0%であり、平均粒子径は149nmであった。
【0146】
確認例でも述べたように、上記のようにして得られた本発明のポリマーエマルジョン−1は、ポリマーエマルジョン(a)−1中のポリマーのスルホン酸塩と、A−Cブロックコポリマー−1の第4級アンモニウム塩が塩交換(イオン交換)することで、ポリマー(a)のスルホン酸塩が、第4級アンモニウムイオンであるA−Bブロックコポリマーにてイオン化し、これらが対イオンとなっているものである。加えて、確認例では、凝集し沈殿し析出したが、本実施例では、予めポリマーエマルジョン(a)−1に、アルカリのアンモニア水を添加しておくことによって、A−Cブロックコポリマーが添加された時点でAのポリマーブロックに含まれるカルボキシ基が中和され、水溶化されることによって、析出もなく安定にエマルジョン化したものと考えられる。このようにして得られた本発明のポリマーエマルジョン−1は、ポリマーエマルジョン(a)−1に含まれるポリマーと、対イオン化しているA−Bブロックコポリマーとが100部:10部の質量比であるポリマーエマルジョンである。以下、これをP−1と称す。
【0147】
[実施例2〜3:ポリマーエマルジョン−2、3(P−2、P−3)の調製]
実施例1と同様にして、その構成比率を、ポリマーエマルジョン(a)−1に含まれるポリマー(a)と、A−Bブロックコポリマーとが、100部:20部(実施例2)、100部:30部(実施例3)のものをそれぞれ作製した。これらを、それぞれP−2、P−3と称す。実施例2で得たP−2の固形分は25.1%、平均粒子径は149nmであり、実施例3で得たP−3の固形分は25.0%、平均粒子径は150nmであった。実施例1〜3の結果から、ポリマー(a)に対するA−Bブロックコポリマーの使用比率を変えてポリマー粒子(a)を改質しても平均粒子径が大きく変わらないことが分かった。
【0148】
[実施例4〜10:ポリマーエマルジョン−4〜10(P−4〜P−10)の調製]
実施例1と同様にして、合成例1〜3で得られた各A−Cブロックコポリマーと、合成例4〜7で得られた各ポリマーエマルジョン(a)を表2に示した質量比で使用して、本発明の実施例4〜10のポリマーエマルジョンを調製した。調製に使用したポリマー(a)とA−Cブロックコポリマー、得られたポリマーエマルジョンの性状を実施例1〜3のポリマーエマルジョンの性状と合わせて、表2に示す。
【0149】
【0150】
[比較例1:A−Bブロックコポリマーが対イオンとなっていないポリマーエマルジョン(比較P)の調製]
実施例1に使用したポリマーエマルジョン(a)−1の代わりに、比較合成例で得た比較ポリマーエマルジョン(a)を使用して同様に行った。実施例と同様であり、実施例でみられた増粘も確認された。すなわち、この増粘はAのポリマーブロックの有するカルボキシ基が中和された時に起こる現象ではないかと考えられる。得られたポリマーエマルジョンの固形分は25.0%で、平均粒子径は150nmであった。これを比較Pとする。
【0151】
[確認例2:ポリマーエマルジョンの安定化]
5%酢酸水溶液をフラスコに用意し、本発明の実施例のポリマーエマルジョンP−1〜P−10、合成例4〜7で得た改質する原料に用いたポリマーエマルジョン(a)−1〜(a)−4、比較ポリマーエマルジョン(a)及び比較例1で得られたポリマーエマルジョンの比較Pを、それぞれ滴下したところ、本発明のP−1〜P−10は滴下後すぐに析出し凝集したが、改質する原料に用いたポリマーエマルジョン(a)−1〜(a)−4はまったく変化がなく、そのまま希釈されただけのものであった。また、ポリマーエマルジョンの比較Pでは、若干だが凝集物が見られたが、ほとんど希釈された状態であった。
【0152】
これは、本発明の実施例のポリマーエマルジョンは、ポリマーのスルホン酸イオンの対イオンが、Bのポリマーブロックの第4級アンモニウムイオンであり、イオン結合しており、Aのポリマーブロックのカルボキシ基が中和されて水可溶化することで安定化、水乳化しているが、上記酢酸水溶液の酸によってカルボキシ基の中和が解かれ、Aのポリマーブロックの中和されたカルボキシ基がカルボキシ基となって、Aのポリマーブロックが水不溶となって析出したためと考えられる。原料であるポリマーエマルジョン(a)−1〜(a)−4では、スルホン酸イオンは酢酸では中和が解かれず、そのまま安定に乳化した状態であり、ノニオン系の比較ポリマーエマルジョン(a)は酢酸とはなんら反応しないのでそのまま安定に乳化を保っていると考えられる。ポリマーエマルジョンの比較Pでは、使用されたスルホン酸イオンを有さない比較ポリマーエマルジョン(a)は酢酸水溶液でも安定であるが、A−Cブロックコポリマーの中和されているカルボキシ基がカルボキシ基となって水不溶化する際に、若干不安定となって析出したものと考えられる。
以上の結果から、本発明の実施例のポリマーエマルジョンは、そのポリマー(a)が、本発明で規定するA−Bブロックコポリマーを対イオンとするスルホン酸塩で安定化されたポリマーを有するエマルジョンであると考えられる。
【0153】
[実施例11 染料インクの作製]
実施例1〜10で得られたポリマーエマルジョンP−1〜P−10、合成例4〜7で得られたポリマーエマルジョン(a)−1〜(a)−4、比較合成例1で得られた比較ポリマーエマルジョン(a)、比較合成例2で得られたポリマーエマルジョンの比較Pを、それぞれ、その固形分が2.75部となるようにして用い、以下の配合で染料インクを作製した。なお、合計で100部になるように水で調整して染料インクとした。
ダイレクトブルー199 3部
各エマルジョン固形分 2.75部
1,2−ヘキサンジオール 3部
グリセリン 15部
プロピレングリコール 15部
サーフィノール465(エア・プロダクツ社製) 1部
水 残部
上記を配合し、ディスパーを使用してよく混合均一化し、10μmのメンブレンフィルターでろ過して染料インクを得た。
【0154】
(評価)
それぞれの染料インクをカートリッジに装填し、セイコーエプソン社製インクジェットプリンターEM930C(商品名)にて、米国ゼロックス社製ゼロックス紙4024に、高速印刷ドラフトモードにて各色でベタ印刷を行った。この結果、本発明の実施例1〜10のP−1〜P−10を使用したインクでの印画は、100枚印刷しても、ヘッドの詰まりもなく、印画物のかすれや筋の発生もなく良好な印画状態を示した。しかし、ポリマーエマルジョンの原料エマルジョンであるポリマーエマルジョン(a)−1〜(a)4、比較合成例1で得た比較ポリマーエマルジョン(a)を配合した場合のインクにおいては、形成した画像にスジやかすれが見られ、光学顕微鏡で観察したところ、ドット抜けの現象が見られた。このことから、原料であるポリマーエマルジョン(a)のポリマー粒子(a)のもつスルホン酸塩の基をA−Cブロックコポリマーと反応させて改質し、A−Bブロックコポリマーで処理された本発明で規定するポリマーエマルジョンとすることにより、Aのポリマーブロックの水溶性とBのポリマーブロックのポリマー粒子(a)への結合性で吐出安定性が改良できることが分かり、本発明のポリマーエマルジョンをインクのバインダー成分とすることで、吐出安定性に優れたインクの提供が可能になることが確認できた。
【0155】
また、印画を停止して24時間放置し、再度同様の印刷試験を行って、インクの再溶解性を試験した。その結果、実施例1〜10のポリマーエマルジョンP−1〜P−10を用いた染料インクでは問題なく印刷できた。しかし、他の比較用の、原料のポリマーエマルジョン(a)−1〜(a)−4、比較ポリマーエマルジョン(a)及び比較例1のポリマーエマルジョンの比較Pを配合した各インクでは、いずれも印刷することができなかった。これは、本発明の実施例のインクでは、インク中に配合されることとなったA−Bブロックコポリマーが有する高酸価であるAのポリマーブロックが容易に水に溶解するため、ヘッドで乾燥しにくく、乾燥しても再度の溶解性を示し、長時間放置した後にも印画できるようになったためと考えられる。ここでも本発明の実施例のポリマーエマルジョンの有用性が確認された。また、その効果は、原料としたポリマーエマルジョンを構成するポリマー(a)と、これに導入したA−Bブロックコポリマーの量比や、原料としたポリマーエマルジョンを構成するポリマー(a)のポリマー種や、導入したA−Bブロックコポリマーの種類が変わっても、本発明で規定する要件を満たしていれば問題ないことが分かった。
【0156】
また、実施例のポリマーエマルジョンP−1〜P−10、比較例1のポリマーエマルジョンの比較Pを含むインクによって得たいずれの印画物も、印画した直後の印画物、1時間放置後の印画物を指でこすっても、いずれの場合も脱離することがなく、密着性も良好であった。そのポリマー(a)の性質は変わっておらず、そのポリマー(a)の密着性の効果が表れていることが確認された。
【0157】
[合成例7:ブロックコポリマー型顔料分散剤]
本発明に使用するリビングラジカル重合方法を使用して、ブロックコポリマー型の顔料分散剤を下記の如く調製した。まず、撹拌機、逆流コンデンサー、温度計及び窒素導入管を取り付けた2リッターのセパラブルフラスコの反応装置に下記のものを仕込み、下記のようにしてAのブロックコポリマーを合成した。具体的には、上記反応装置に、有機溶剤としてBDGを828.4部、ヨウ素を3.8部と、V−70を14.0部、触媒としてSI(コハク酸イミドの略)を0.22部、さらに、BzMAを213.9部、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル(以下HEMAと略記)を19.8部、仕込んで撹拌し、40℃に加温した。3時間でヨウ素の褐色が消え、この間に、開始剤であるV−70がヨウ素と反応してヨウ素化合物である重合開始化合物となったことが確認できた。さらに、上記の温度を維持して5時間重合を行い、この時点で反応溶液の一部をサンプリングした。このサンプリング物の固形分を測定したところ23.3%であり、これに基づいて算出した重合率はほぼ100%であった。また、GPCにて分子量を測定したところ、Mnが5500、PDIが1.17であった。このポリマーの組成はBzMA/HEMA=約90/10であった。また、このサンプリング物を水に添加したところ樹脂が析出し、このポリマーは水に不溶のポリマーであることが確認された。以上のようにして、Aのブロックコポリマーを得た。
【0158】
次いで、上記反応溶液の温度を40℃にし、これに、BzMAを234.8部、MAAを57.2部添加して、4.5時間重合させた。その時点で一部をサンプリングしたところ、サンプリング物の重合率はほぼ100%であり、ほとんどのモノマーが重合していることが確認された。また、GPCにて分子量を測定したところ、Mn(数平均分子量)で10800、PDIが1.23であった。Aのポリマーブロックの分子のピークが、高分子量へ移行し、Aのポリマーブロックのピークがほとんどないことから、本発明で規定するA−Cブロックコポリマーになったことが推測された。また、このA−Cブロックコポリマーの数平均分子量から算出されるCのポリマーブロックの分子量は、10800−5500=5300であった。また、このCのポリマーブロックは、BzMA/MAA=80.4/19.6であり、Cのポリマーブロック自体の理論酸価は、127.8mgKOH/gである。また、A−Cブロックコポリマーの組成としては、BzMA/HEMA/MAA=85.3/3.8/10.9であり、理論酸価は71.1mgKOH/gである。この重合後のサンプリング物の酸価を、前記した酸価測定方法によって測定したところ、A−Cブロックコポリマーの酸価は71.3mgKOH/gであり、理論値とほぼ一致した。
【0159】
次いで、上記で得た重合溶液を撹拌しながら、28%アンモニア水40.3部、水235.8部を添加したところ、溶液は透明になり、ポリマーが溶解した。また、この溶液を水に添加したところ、若干青味のあるほぼ透明の水溶液となった。これは、Cのポリマーブロックの持つカルボキシ基が中和されてイオン化し、Cのポリマーブロックが水に溶解することによって、溶液に微分散したためと考えられる。このことからも、本発明で規定するA−Cブロックコポリマーとなっていることが示唆される。また、重合溶液の固形分を測定したところ33.3%であり、配合上の理論値とほぼ合致した。これをブロック型分散剤と称す。
【0160】
[実施例12:インクジェット用の赤色顔料着色剤組成物および水性顔料インクの作製]
実施例2で作製したポリマーエマルジョンP−2を用い、以下のようにして顔料インクを得た。赤色顔料であるC.I.ピグメントレッド122(ジメチルキナクリドン顔料:大日精化工業社製)を200部、先に作製したブロック型分散剤を120部、BDGを80部、水400部をディスパーで混合撹拌しミルベースを調製した。次いで、横型媒体分散機「ダイノミル0.6リットルECM型」(商品名、シンマルエンタープライゼス社製、ジルコニア製ビーズ;径0.5mmを使用)を使用し、周速10m/sで分散処理を行った。2時間分散したところで分散を終了した。次いで、この分散液を遠心分離処理(7500回転、20分間)し、その顔料溶液を、10μmのメンブレンフィルターでろ過し、イオン交換水で調整して顔料濃度が14%である顔料分散液とした。この赤色水性顔料分散液の平均粒子径を測定したところ、平均粒子径が100nmであった。粘度は3.7mPa・sであった。
【0161】
次に、上記で得た赤色水性顔料分散液を使用して、水性顔料インクを作製した。上記の顔料分散液40部に対し、実施例2で得られたポリマーエマルジョンP−2を22.4部、BDG1.8部、1,2−ヘキサンジオール5部、グリセリン10部、サーフィノール465を1部、水20.2部を加え、十分撹拌した後、ポアサイズ10μmのメンブランフィルターで濾過を行い、インクジェット用の赤色水性顔料インクを得た。このインクの粘度は2.8mPa・sであった。
【0162】
[実施例13〜15:インクジェット用の青色、黄色、黒色の各色顔料着色剤組成物および水性顔料インクの作製]
実施例12と同様にして、インクジェット用の青色、黄色、黒色の各色顔料着色剤組成物および各色顔料インクを作製した。すなわち、実施例12で使用した赤色顔料の代わりに、青色顔料として、C.I.ピグメントブルー15:3(大日精化工業社製、シアニンブルーA220JC)を、黄色顔料として、C.I.ピグメントエロー74(大日精化工業社製、セイカファーストエロー2016G)を、黒色顔料として、C.I.ピグメントブラック7(デグサ社製、S170)をそれぞれに使用して、青色、黄色、黒色の各着色顔料分散液を得た。表3に、得られた各着色顔料分散液の顔料の平均粒子と粘度をそれぞれ示した。
【0163】
【0164】
次いで、上記で得た青色、黄色、黒色の各着色顔料分散液をそれぞれに用い、実施例2で使用したポリマーエマルジョンP−2を使用して、各色のインクジェット用の水性顔料インクを調製した。具体的には、インクジェット用青色水性顔料インク(粘度2.6mPa・s)、インクジェット用黄色水性顔料インク(粘度2.3mPa・s)、インクジェット用黒色水性顔料インク(粘度3.23mPa・s)を得た。この結果、調製したすべてのインクにおいて、低粘度化が達成されていることを確認した。
【0165】
(評価)
実施例12〜15で調製した赤色、青色、黄色、黒色の各色インクを用いて、実施例11で行ったと同様に高速印刷試験して、インクを評価した。その結果、すべてのインクにおいて良好な印刷性を示し、ヘッドでインクが乾燥してもすぐに溶解して印字できるようになっていることも確認できた。また、上記で調製した各色インクをそれぞれ、70℃で一週間放置したところ、平均粒子径、粘度の変化はなかった。
【0166】
次に、実施例12〜15で調製した各色の水性顔料インクを用い、実施例11の印刷試験において用いた普通紙の代わりに、塩化ビニル(以下、塩ビと略記)シートを使用してそれぞれ印画した。そして、印画後、70℃の乾燥機に5分入れて乾燥した。その結果、印画部は、すべて良好な膜物性であり、セロテープを貼って一気に引き剥がすセロテープ剥離試験でも印画物は取れず、また、爪で引っかいても印画物は取れなかった。すなわち、上記のインクはいずれも、良好なフィルム密着性を示した。
【0167】
[実施例16〜21:各ポリマーエマルジョンを用いたインクジェット用の青色水性顔料インクの作製]
実施例13で得た青色顔料着色剤組成物及び実施例4〜7、9、10の各ポリマーエマルジョン(P−4〜P−7、P−9、P−10)をそれぞれ使用して、先と同様にして各青色水性顔料インクを調製した。また、得られた顔料インクについて、前記したと同様の評価を行った。その結果、すべて低粘度が達成され、高保存安定性、再分散性を示すことを確認した。
ついで、これらのインクを用い、実施例11の印刷試験において用いた普通紙の代わりに、塩ビシート、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、ポリプロピレン(PP)フィルムにそれぞれ印画した。前記の評価と同様に乾燥し、セロテープ剥離試験、爪での引っ掻き試験を行った。その評価を表4にまとめた。
(評価基準)
◎:変化なし
○:ほとんど剥がれないがわずかに剥がれがみられる
△:剥がれが一部みられる
×:膜ごと剥がれる
【0168】
【0169】
表4の結果に示されているように、原料に使用したポリマーエマルジョン(a)を構成するポリマーの種類、これに導入されるA−Bブロックコポリマーの性質に伴い、印画した基材の種類によって得られる印画物の密着性が変わることが分かった。したがって、それぞれの用途に合わせて、原料に使用するポリマーエマルジョン(a)を構成するポリマーの種類などを適宜に選択して対応することが有効であると考えられる。