特許第6059664号(P6059664)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6059664
(24)【登録日】2016年12月16日
(45)【発行日】2017年1月11日
(54)【発明の名称】ガスケット用素材
(51)【国際特許分類】
   F16J 15/08 20060101AFI20161226BHJP
   F02F 11/00 20060101ALI20161226BHJP
   B32B 15/06 20060101ALI20161226BHJP
【FI】
   F16J15/08 Q
   F02F11/00 B
   F02F11/00 N
   B32B15/06 Z
【請求項の数】5
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-554306(P2013-554306)
(86)(22)【出願日】2013年1月16日
(86)【国際出願番号】JP2013050659
(87)【国際公開番号】WO2013108779
(87)【国際公開日】20130725
【審査請求日】2015年12月2日
(31)【優先権主張番号】特願2012-20292(P2012-20292)
(32)【優先日】2012年1月17日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000110804
【氏名又は名称】ニチアス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086759
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 喜平
(74)【代理人】
【識別番号】100112977
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 有子
(72)【発明者】
【氏名】有澤 卓己
(72)【発明者】
【氏名】青柳 秀治
(72)【発明者】
【氏名】石川 建一郎
【審査官】 杉山 悟史
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−218629(JP,A)
【文献】 特開2005−226064(JP,A)
【文献】 特開2006−070132(JP,A)
【文献】 特開2010−275560(JP,A)
【文献】 特開平03−227622(JP,A)
【文献】 特開2002−264253(JP,A)
【文献】 特許第4566535(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/00 − 15/56
B32B 15/06
F02F 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板の片面又は両面に、クロメート皮膜又はノンクロメート皮膜と、フェノール樹脂プライマー層と、ポリオール架橋フッ素ゴム層と、が、該鋼板側から順に形成されており、
該ポリオール架橋フッ素ゴム層は、フッ素ゴムと、ポリオール系架橋剤と、アミン系架橋促進剤と、シリカと、を含有するフッ素ゴム組成物を、該フェノール樹脂プライマー層に塗布し、次いで、加熱して得られるゴム層であり、該アミン系架橋促進剤が、三級アミン、又は三級アミンと酸の反応により得られる三級アミンの塩であること、
を特徴とするガスケット用素材。
【請求項2】
前記ノンクロメート皮膜は、少なくとも、Si、P、Al及びZrのうちの1種又は2種以上の原子を有する化合物を含有することを特徴とする請求項1記載のガスケット用素材。
【請求項3】
前記三級アミンの酸解離定数pKaが、8.5〜14であることを特徴とする請求項1又は2いずれか1項記載のガスケット用素材。
【請求項4】
前記ポリオール架橋フッ素ゴム層中のシリカ含有量が、フッ素ゴム100質量部に対して1〜200質量部であることを特徴とする請求項1〜3いずれか1項記載のガスケット用素材。
【請求項5】
前記アミン系架橋促進剤が、1,8−ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン−7塩又は1,5−ジアザビシクロ(4,3,0)ノネン−5塩であることを特徴とする請求項1〜4いずれか1項記載のガスケット用素材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はガスケット用素材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、車両のエンジンに装着されるガスケット、特にヘッドガスケット用として、鋼板の片面又は両面にクロム化合物、リン酸、シリカからなるクロメート皮膜を形成し、クロメート皮膜の上にゴム層を積層したガスケット材が広く使用されていた(特許文献1)。
【0003】
ところが、近年、環境上の問題から、クロメート皮膜の代わりにノンクロメート皮膜を設けたガスケット材も広く使用されるようになってきた(特許文献2)。
【0004】
そして、ノンクロメート皮膜には、クロメート皮膜を設けたガスケット用素材と比較しても遜色ない程度に、水や不凍液に対して耐液密着性を有していることが必要である。
【0005】
そこで、耐液密着性が高いノンクロメート皮膜として、例えば、特許文献3には、ノンクロメート皮膜を設けたガスケット用素材として、鋼板の片面または両面にシリカと酸成分と金属または金属酸化物との反応生成物からなる表面処理層を形成することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平3−227622号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開2002−264253号公報(特許請求の範囲)
【特許文献3】特許第4566535号公報(特許請求の範囲)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、引用文献3のガスケット用素材では、実使用環境において、特にアルミニウム製エンジンのヘッドガスケットとして使用すると、水や不凍液の電解液中で異種金属が接触するため、アルミニウム製エンジン(アノード側)とガスケット鋼板(カソード側)との間で電池反応が生じ、接着力が低下する。
【0008】
また、ヘッドガスケットは高温、高面圧、加振といった過酷な環境で使用されるため、燃焼室周りのシール部位においてゴム層の摩耗やゴム層とプライマー層の層間剥離によって、燃焼ガス、不凍液、オイル等の漏れが生じるという問題が起こりやすい。特にフッ素ゴムのポリオール架橋において、ホスホニウム塩系架橋促進剤を用いた場合、ゴム層とプライマー層の層間接着性が不十分となり、燃焼室周りのシール環境において、ゴム剥離を生じやすい。
【0009】
そこで、本発明の目的は、車両のエンジンに装着されるガスケットの実使用環境下において、異種金属と接触した状態で使用しても水や不凍液と接触する部位のゴム剥離が生じず、燃焼室周りのシール部位においてゴム層の摩耗、層間剥離が生じ難いガスケット用素材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
このような本発明の課題は、以下に示す本発明により解決される。
すなわち、本発明は、鋼板の片面又は両面に、クロメート皮膜又はノンクロメート皮膜と、フェノール樹脂プライマー層と、ポリオール架橋フッ素ゴム層と、が、該鋼板側から順に形成されており、
該ポリオール架橋フッ素ゴム層は、フッ素ゴムと、ポリオール系架橋剤と、アミン系架橋促進剤と、シリカと、を含有するフッ素ゴム組成物を、該フェノール樹脂プライマー層に塗布し、次いで、加熱して得られるゴム層であり、該アミン系架橋促進剤が、三級アミン、又は三級アミンと酸の反応により得られる三級アミンの塩であること、
を特徴とするガスケット用素材を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、車両のエンジンに装着されるガスケットの実使用環境下において、異種金属と接触した状態で使用しても水や不凍液と接触する部位のゴム剥離が生じず、燃焼室周りのシール部位においてゴム層の摩耗、層間剥離が生じ難いガスケット用素材を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のガスケット用素材は、鋼板の片面又は両面に、クロメート皮膜又はノンクロメート皮膜と、フェノール樹脂プライマー層と、ポリオール架橋フッ素ゴム層と、が、該鋼板側から順に形成されており、
該ポリオール架橋フッ素ゴム層は、フッ素ゴムと、ポリオール系架橋剤と、アミン系架橋促進剤と、シリカと、を含有するフッ素ゴム組成物を、該フェノール樹脂プライマー層に塗布し、加熱して得られるゴム層であり、該アミン系架橋促進剤が、三級アミン、又は三級アミンと酸の反応により得られる三級アミンの塩であること、
を特徴とするガスケット用素材である。
【0013】
本発明のガスケット用素材に係る鋼板は、特に限定されず、ステンレス(フェライト系/マルテンサイト系/オーステナイト系ステンレス)、鉄、アルミニウム等が挙げられる。
【0014】
本発明のガスケット用素材に係るクロメート皮膜は、鋼板上に形成される皮膜であり、クロム化合物を含有する皮膜である。クロメート皮膜としては、クロム化合物を含有する皮膜であれば、特に限定されるものではない。クロム化合物は、クロム原子の酸化物、水酸化、フッ化物等のクロム原子を有する化合物である。また、クロメート皮膜は、クロム化合物以外には、以下に示すクロム以外の化合物を含有していてもよい。
【0015】
本発明のガスケット用素材に係るノンクロメート皮膜は、鋼板上に形成される皮膜であり、クロム化合物以外の化合物からなる皮膜である。ノンクロメート皮膜としては、クロム化合物以外の化合物からなる皮膜であれば、特に限定されるものではない。ノンクロメート皮膜を形成するクロム化合物以外の化合物としては、例えば、Si、P、Al、Zr、Ti、Zn、Mg等を有する化合物であり、これらの原子の酸化物、水酸化物、フッ化物等のノンクロム化合物が挙げられる。好ましいノンクロメート皮膜としては、少なくとも、Si、P、Al及びZrのうちの1種又は2種以上の原子を有する化合物を含有し、クロム化合物以外の化合物からなるノンクロメート皮膜、好ましくはSi、P、Al及びZrのうちの1種又は2種以上の原子を有する化合物のみからなるノンクロメート皮膜が挙げられる。
【0016】
鋼板上にクロメート皮膜又はノンクロメート皮膜を形成させる方法としては、上記のクロム化合物又はクロム化合物以外の化合物を含有する処理液を、ロールコーターなどの公知の塗布手段を用いて、鋼板の片面又は両面に塗布し、次いで、150〜250℃程度の温度にて乾燥する方法が挙げられる。クロメート皮膜又はノンクロメート皮膜の皮膜量は、制限されるものではないが、実用上50〜500mg/m程度が好ましい。
【0017】
本発明のガスケット用素材に係るフェノール樹脂プライマー層は、フェノール樹脂からなる樹脂層である。プライマー層に係るフェノール樹脂としては、特に限定されないが、ノボラック型フェノール樹脂、レゾール型フェノール樹脂等が挙げられ、これらのうち、ノボラック型フェノール樹脂が好ましい。フェノール樹脂は、1種であっても、2種以上の組み合わせであってもよい。
【0018】
クロメート皮膜又はノンクロメート皮膜上にフェノール樹脂プライマー層を形成する方法としては、フェノール樹脂を所定量秤量し、適当な溶剤に溶解させた処理液を、ロールコーターなどの公知の塗布手段を用いて、クロメート皮膜又はノンクロメート皮膜上に塗布し、次いで、120℃〜250℃程度の温度にて加熱する方法が挙げられる。このような方法では、加熱の間に、クロメート皮膜又はノンクロメート皮膜とフェノール樹脂プライマー層が強固に接着する。フェノール樹脂プライマー層の厚さは、制限されるものではないが、実用上1〜10μm程度が好ましい。また、フェノール樹脂プライマー層形成用の処理液は、カップリング剤が配合されていてもよく、その場合、処理液中の固形分に占めるカップリング剤の配合量は、0.5〜20質量%が好ましい。
【0019】
本発明のガスケット用素材に係るポリオール架橋フッ素ゴム層は、フッ素ゴムと、ポリオール系架橋剤と、アミン系架橋促進剤と、シリカと、を含有するフッ素ゴム組成物を、フェノール樹脂プライマー層に塗布し、次いで、加熱して得られるゴム層であり、該アミン系架橋促進剤が、三級アミン、又は三級アミンと酸の反応により得られる三級アミンの塩であるゴム層である。
【0020】
フッ素ゴム組成物に係るフッ素ゴムは、ポリオール架橋剤でポリオール架橋可能なフッ素ゴムである。このようなフッ素ゴムとしては、従来公知のものが広く用いられるが、例えば、フッ化ビニリデン/ヘキサフルオロプロピレン系共重合体、フッ化ビニリデン/ヘキサフルオロプロピレン/テトラフルオロエチレン系共重合体、テトラフロロエチレン/プロピレン/フッ化ビニリデン系共重合体等が挙げられる。
【0021】
フッ素ゴム組成物に係るポリオール架橋剤は、フッ素ゴムと反応して架橋するものであれば、特に制限されない。ポリオール架橋剤としては、ビスフェノール類が好ましい。ポリオール架橋剤としては、具体的には、例えば、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン[ビスフェノールA]、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)パーフルオロプロパン[ビスフェノールAF]、1,3−ジヒドロキシベンゼン、4,4’−ジヒドロキシジフェニル、4,4’−ジヒドロキシジフェニルメタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン等のポリヒドロキシ芳香族化合物や、これらのアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩が挙げられ、ビスフェノールA、ビスフェノールAFや、これらのアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩が好ましい。
【0022】
フッ素ゴム組成物中のポリオール架橋剤の含有量は、フッ素ゴムの種類等により、適宜選択されるが、通常、フッ素ゴム100質量部に対して、0.5〜10質量部、好ましくは2〜8質量部である。
【0023】
フッ素ゴム組成物に係るアミン系架橋促進剤は、三級アミン又は三級アミンの塩である。アミン系架橋促進剤に係る三級アミンの塩は、三級アミンと酸の反応により得られる三級アミンの塩であり、三級アミンに酸の水素イオンが付加した三級アンモニウムカチオンと、その酸の水素イオンのカウンターアニオンと、により形成されている塩である。アミン系架橋促進剤として用いられる三級アミンは、その酸解離定数pKaが、8.5〜14、好ましくは11〜14のアミンである。アミン系架橋促進剤として用いられる三級アミンの塩の原料となる三級アミンは、その酸解離定数pKaが、8.5〜14、好ましくは11〜14のアミンである。なお、三級アミンの酸解離定数pKaは、水を溶媒としたときの25℃における値である。
【0024】
アミン系架橋促進剤として用いられる三級アミンとしては、酸解離定数が上記範囲にあるものであれば、特に制限されず、1,8−ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン−7[DBU]、1,5−ジアザビシクロ(4,3,0)ノネン−5[DBN]、1,4−ジアザビシクロ(2,2,2)オクタン[DABCO]、トリメチルアミン、トリエチルアミン等が挙げられる。また、アミン系架橋促進剤として用いられる三級アミンの塩の原料となる三級アミンとしては、酸解離定数が上記範囲にあるものであれば、特に制限されず、1,8−ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン−7[DBU]、1,5−ジアザビシクロ(4,3,0)ノネン−5[DBN]、1,4−ジアザビシクロ(2,2,2)オクタン[DABCO]、トリメチルアミン、トリエチルアミン等が挙げられる。
【0025】
アミン系架橋促進剤として用いられる三級アミンの塩としては、例えば、1,8−ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン−7[DBU]の塩、1,5−ジアザビシクロ(4,3,0)ノネン−5[DBN]の塩が挙げられる。DBUの塩又はDBNの塩の種類としては、特に制限されないが、DBU−フェノール塩(DBUとフェノールを反応させて得られる塩)、DBU−オクチル酸塩(DBUとオクチル酸を反応させて得られる塩)、DBU−トルエンスルホン酸塩(DBUとトルエンスルホン酸を反応させて得られる塩)、DBU−ギ酸塩(DBUとギ酸を反応させて得られる塩)、DBN−オクチル酸塩(DBNとオクチル酸を反応させて得られる塩)等が挙げられる。また、アミン系架橋促進剤として用いられる三級アミンの塩としては、他には、例えば、トリメチルアミン塩又はトリエチルアミン塩が挙げられる。アミン系架橋促進剤は、1種単独であっても、2種以上の組み合わせであってもよい。
【0026】
フッ素ゴム組成物中のアミン系架橋促進剤の含有量は、特に制限させず、製造条件に合わせた架橋速度となるように、適宜選択される。
【0027】
また、フッ素ゴム組成物は、架橋促進剤として、アミン系架橋促進剤に加えて、第4級ホスホニウム塩系の架橋促進剤を含有していてもよい。
【0028】
フッ素ゴム組成物に係るシリカは、従来公知の合成シリカを用いることができる。合成シリカとしては、湿式法で合成された湿式シリカであっても、乾式法で合成された乾式シリカであってもよく、これらの組み合わせであってもよい。湿式シリカとしては、特に制限されないが、例えば、Nipsil AQ、Nipsil VN3、Nipsil LP、Nipsil ER、Nipsil NA、Nipsil K−500、Nipsil E−200、Nipsil E−743、Nipsil E−74P、Nipsil SS−10、Nipsil SS−30P、Nipsil SS−100(何れも東ソー・シリカ社製)などが挙げられる。乾式シリカとしては、特に制限されないが、例えば、アエロジル50、アエロジル130、アエロジル200、アエロジル300、アエロジル380、アエロジルR972、アエロジルTT600、アエロジルMOX80、アエロジルMOX170(何れも日本アエロジル社製)などが挙げられる。シリカ表面には酸性度の高いシラノール基があるため、シリカは、カソード反応によって生じた水酸化物イオンを中和することができるので、ゴム剥離を抑制することができる。
【0029】
フッ素ゴム組成物中のシリカの含有量は、フッ素ゴム100質量部に対して、好ましくは1〜200質量部、特に好ましくは10〜100質量部である。フッ素ゴム組成物中のシリカの含有量が上記範囲にあることにより、ゴム剥離を抑制するという効果が高まる。フッ素ゴム組成物中のシリカの含有量が上記範囲を超えると、ゴムの架橋反応が阻害されて、初期密着性が低くなり易い。
【0030】
フッ素ゴム組成物は、上記配合成分の他に、架橋促進助剤として、酸化マグネシウム又は水酸化カルシウムを含有することができる。また、フッ素ゴム組成物は、カーボンブラック、炭酸カルシウム、クレー、ワラストナイト、マイカ、タルク等の充填材を含有することができる。
【0031】
フッ素ゴム組成物は、フッ素ゴムと、ポリオール系架橋剤と、アミン系架橋促進剤と、シリカと、他の必要に応じて用いられる成分と、を含有する未架橋のゴム組成物である。フッ素ゴム組成物は、例えば、フッ素ゴム、ポリオール系架橋剤、アミン系架橋促進剤、シリカ、及び必要に応じて用いられる他の成分を、混練することにより得られる。
【0032】
そして、ポリオール架橋フッ素ゴム層は、フッ素ゴム組成物を、フェノール樹脂プライマー層上に塗布し、次いで、加熱することにより得られるゴム層である。ポリオール架橋フッ素ゴム層を、フェノール樹脂プライマー層上に形成させる方法としては、例えば、フッ素ゴム組成物を調製し、有機溶剤に溶解又は分散させ、あるいは、フッ素ゴム組成物の各成分をそれぞれ、有機溶剤に溶解又は分散させて、フッ素ゴム組成物液を調製し、次いで、ナイフコータ、ロールコータ、スクリーン印刷等で、フェノール樹脂プライマー層の上に、フッ素ゴム組成物液を塗工することにより、フッ素ゴム組成物を塗布し、次いで、加熱することにより、ポリオール架橋剤による架橋反応を行い、ポリオール架橋フッ素ゴム層を形成させる方法が挙げられる。
【0033】
有機溶剤としては、フッ素ゴム組成物を溶解又は分散できるものであれば、特に制限されず、例えば、メチルエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルブチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン等のケトン系有機溶剤が好ましい。フッ素ゴム組成物液中のフッ素ゴム組成物の含有量は、塗工性を考慮すると、フッ素ゴム組成物液全量に対して10〜50質量%が好ましい。
【0034】
また、上記製造方法において、フェノール樹脂プライマー層とポリオール架橋フッ素ゴム層との密着性を向上させるために、フッ素ゴム組成物液を調製する際に、フッ素ゴム組成物液にカップリング剤を添加することができる。カップリング剤としては、特に制限されないが、アミン系シランカップリング剤が好ましい。アミン系シランカップリング剤としては、3−トリエトキシシリル−N−(1,3−ジメチル−ジブチデン)プロピルアミン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリエメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。フッ素ゴム組成物液へのシランカップリング剤の添加量は、フッ素ゴム100質量部に対して1〜5質量部が好ましい。また、フッ素ゴム組成物液の塗工厚さは、特に制限されないが、加熱架橋後のポリオール架橋フッ素ゴム層の厚みが15〜30μmであることが好ましいので、加熱架橋後のフッ素ゴム組成物層の厚みが、上記範囲となるように、フッ素ゴム組成物液を塗工する。また、フッ素ゴム組成物層を加熱して、架橋反応を行うときの加熱条件は、良好な架橋のために、好ましくは加熱温度が150〜200℃であり、加熱時間が5〜30分間である。
【0035】
本発明のガスケット用素材は、車両のエンジンに装着されるガスケット、特にヘッドガスケットとして、好適に用いられる。
【実施例】
【0036】
以下に本発明を、実施例および比較例を挙げて更に詳しく説明する。但し、これらの実施例は本発明の説明のために記載するものであり、本発明を限定するものではない。
【0037】
<試料の作製>
アルカリ脱脂したステンレス鋼板の両面に、ロールコーターで、Si、P、Al及びZrを含有し且つCrを含有しないノンクロメート皮膜形成用処理液を塗布し、塗膜を180℃で乾燥させて、ノンクロメート皮膜を形成した。次いで、ノンクロメート皮膜の上に、ノボラック型フェノール樹脂(住友ベークライト製、PR−12987)をメチルエチルケトンで溶かした液(固形分濃度5%)を塗布し、熱処理を行い、フェノール樹脂プライマー層を形成した。次いで、フェノール樹脂プライマー層の上に、表1に示すフッ素ゴム組成物をメチルエチルケトンに混合し調製したフッ素ゴム組成物液(固形分濃度30%)を、ロールコーターにて塗布し、200℃で10分間架橋加熱して、ポリオール架橋フッ素ゴム層を形成し、ガスケット用素材を得た。
【0038】
<評価方法>
作製したガスケット用素材について、以下に説明する(1)電池反応試験と(2)加熱圧縮振動試験の2つの試験により評価した。
【0039】
(電池反応試験)
ガスケット用素材端部のゴム層を剥離してステンレス鋼板を露出させた試料とアルミニウム板の端部を導線で結び、5%硫酸ナトリウム水溶液中に互いに接触しないように半浸漬状態で、90℃で500時間保持した。試料を取り出し、試料表面に2mm間隔の碁盤目状の切り傷を付け、100個の碁盤目を形成し、碁盤目テープ剥離試験を行い、マス目の残存数を評価した。
【0040】
(加熱圧縮振動試験)
ガスケット用素材とシム板を積層した状態でフランジに装着し、230℃で加熱圧縮した状態で所定周波数の振動を加え、面圧を8MPaから140MPaの範囲で周期的に変動させた。試験後にフランジを開放し、シムが押し付けられていた部位について、ガスケット素材のゴム層剥離の度合いを下記の基準にて評価した。
<<評価基準>>
5点:ゴム層が流動変形・剥離していない。
4点:ゴム層が僅かに流動変形している。
3点:ゴム層が明らかに流動変形しているが、鋼板は露出してない。
2点:ゴム層の流動変形は僅かであるが、鋼板が露出している。
1点:ゴム層が明らかに流動変形しており、鋼板が露出している。
【0041】
<結果>
表1に試験結果を示す。実施例1〜5は、電池反応試験及び加熱圧縮振動試験において、ゴム剥離がみられなかった。一方、シリカを配合していない比較例1では、電池反応試験においてゴム剥離がみられ、また、ホスホニウム塩系架橋促進剤を使用した比較例2では、加熱圧縮振動試験においてゴム剥離がみられた。
【0042】
【表1】
【0043】
<<表1中の成分>>
フッ素ゴム:デュポン製 バイトンE45
MTカーボン: Cancarb製 Thermax N990
湿式シリカ:東ソー・シリカ製 Nipsil ER
乾式シリカ:日本アエロジル製 アエロジル200
水酸化カルシウム:近江化学製 カルエム
酸化マグネシウム:協和化学製 キョーワマグ#150
ポリオール架橋剤:デュポン製 キュラティブ#30
DBU塩系架橋促進剤:サンアプロ製 U-CAT SA506
DBN塩系架橋促進剤:サンアプロ製 U-CAT 1102
ホスホニウム塩系架橋促進剤:デュポン製 キュラティブ#20
【産業上の利用可能性】
【0044】
異種金属と接触した状態で使用しても水や不凍液と接触する部位のゴム剥離が生じないガスケット用素材を得ることができるのでガスケットの用途に適用できる。