(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
(B)成分が、炭素繊維100質量部に対してポリウレタンを含む集束剤0.1〜10質量部を含むものである、請求項1記載の熱可塑性樹脂組成物からなる電磁波シールド性が必要な製品に使用される成形体。
(A)成分が、ポリカーボネート樹脂とスチレン系樹脂、オレフィン系樹脂、ポリメタクリレート系樹脂、ポリエステル系樹脂、から選ばれる熱可塑性樹脂との混合物であり、前記混合物中のポリカーボネート樹脂の含有量が50〜95質量%である、請求項1又は2記載の熱可塑性樹脂組成物からなる電磁波シールド性が必要な製品に使用される成形体。
【背景技術】
【0002】
電磁波シールド性を得るため、熱可塑性樹脂に炭素繊維又は金属被覆炭素繊維を配合した樹脂組成物が知られている。
炭素繊維は、取り扱い性の点から集束剤で束ねられた形態のものが使用されている。
【0003】
特許文献1には、(A)特定の芳香族ポリカーボネート100重量部と、(B)ウレタン系樹脂及びエポキシ系樹脂の少なくともいずれか一方を含有してなる有機物(集束剤)の付着量が1〜8重量%である炭素繊維3〜100重量部からなる芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の発明が記載されている。
集束剤については段落番号0027に例示があり、実施例(段落番号0061)では、炭素繊維をエポキシ化合物及びウレタン化合物の混合物又はエポキシ化合物のいずれかで集束処理したことが記載されている。
【0004】
特許文献2には、電磁波遮蔽性熱可塑性樹脂組成物の発明が記載されている。段落番号0017には、各種集束剤により集束した金属被覆炭素繊維を使用することが記載されており、段落番号0020では、集束剤としてエポキシ樹脂、ウレタン樹脂が好適であることが記載されている。
実施例(段落番号0036)では、集束剤としてウレタン樹脂の水性エマルジョンを使用している。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<熱可塑性樹脂組成物>
本発明で使用する(A)成分はポリカーボネート樹脂単独でもよいし、ポリカーボネート樹脂と他の熱可塑性樹脂との混合物であってもよい。
ポリカーボネート樹脂は公知のものであり、例えば二価フェノールとカーボネートエステルとを溶融法で反応させて得られるものを使用することができ、特許文献1、2(特許第4505081号公報、特開2006−45385号公報)に記載されているものも使用することができる。
【0011】
前記他の熱可塑性樹脂としては、スチレン系樹脂(ポリスチレン、AS樹脂、ASB樹脂等)、ポリエチレン、ポリプロピレン等のオレフィン系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、ポリメタクリレート、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリサルホン系樹脂(PSF)、ポリアセタール、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリイミド(PI)等を挙げることができる。
(A)成分がポリカーボネート樹脂と他の熱可塑性樹脂との混合物である場合には、ポリカーボネート樹脂の含有量は50〜95質量%が好ましく、70〜90質量%がより好ましい。
【0012】
(B)成分は、ポリウレタンを含む集束剤で集束された炭素繊維束又は前記炭素繊維束が解けた状態の炭素繊維である。
製造原料としてはポリウレタンを含む集束剤で集束された炭素繊維束を使用するが、(A)成分と溶融混練したときには、前記炭素繊維束が解けた状態の炭素繊維となる。
炭素繊維は公知のものであり、ピッチ系やPAN系のものを使用することができ、例えば、特許文献1、2(特許第4505081号公報、特開2006−45385号公報)等に記載されているものを使用することができる。
【0013】
前記ポリウレタンを含む集束剤は、引張伸度(JIS K7113)が500%以上のものであり、好ましくは700%以上のものである。
このようなポリウレタンを含む集束剤としては、DIC(株)から販売されている商品名ボンディク、商品名ボンディク2200シリーズ、商品名ハイドラン HWシリーズ、ハイドラン APシリーズ、ハイドラン ADS、商品名ハイドラン CPシリーズ等から選ばれるものの内、上記引張伸度を満たすものを使用することができる。
【0014】
(B)成分は、炭素繊維束にポリウレタンを含む集束剤を含むエマルションを塗布し乾燥して製造することができる。
(B)成分は、炭素繊維100質量部に対してポリウレタンを含む集束剤0.1〜10質量部含むものが好ましく、1〜5質量部含むものがより好ましい。
【0015】
(A)成分と(B)成分の含有割合は、
(A)成分は50〜95質量%、好ましくは60〜90質量%、より好ましくは65〜80質量%であり、
(B)成分は5〜50質量%、好ましくは10〜40質量%、より好ましくは20〜35質量%である。
【0016】
本発明の組成物には、本発明の課題を解決できる範囲内にて、各種有機又は無機充填材、熱安定剤、光安定剤、帯電防止剤、酸化防止剤、難燃剤、離型剤、発泡剤、抗菌剤、結晶核剤、着色剤、可塑剤等を含有することができる。
【0017】
<熱可塑性樹脂組成物の製造方法>
本発明の組成物は、
(I)ポリカーボネート樹脂を含む熱可塑性樹脂と、ポリウレタンを含む集束剤で集束された炭素繊維束を混合する工程を有する製造方法、
(II)ポリカーボネート樹脂を含む熱可塑性樹脂と、ポリウレタンを含む集束剤で集束された炭素繊維束を溶融混練する工程を有する製造方法、
を適用して製造することができる。
【0018】
(I)の製造方法を適用して得られた熱可塑性樹脂組成物は、(B)成分がポリウレタンを含む集束剤で集束された炭素繊維束として含有されているものである。
(II)の製造方法を適用して得られた熱可塑性樹脂組成物は、(B)成分がポリウレタンを含む集束剤で集束された炭素繊維束が解けた状態で含有されているものである。
【0019】
(I)の製造方法は、混合機(タンブラー、V型ブレンダー、ヘンシェルミキサー、ナウタミキサー、リボンミキサー、メカノケミカル装置、押出混合機など)で各成分を混合する方法を適用することができる。
(II)の製造方法は、前記混合方法で予備混合した後、溶融混練機(一軸又はベント式二軸押出機など)で溶融混練し、ペレット化手段(ペレタイザーなど)でペレット化する方法等を適用することができる。
【0020】
<成形体>
本発明の成形体は、上記した熱可塑性樹脂組成物を使用して、成形加工機により所望形状に成形して得られるものである。
本発明の樹脂組成物から得られた成形体は、従来技術と比べて高い電磁波シールド性を有しているものであるが、その理由は以下のとおりであると考えられる。
図1、
図2により説明する。
【0021】
図1に示すとおり、本発明の組成物を溶融混練したとき、引張伸度が500%以上の集束剤を使用していることから、炭素繊維1同士が集束剤2の作用によって絡み合った状態(引き付け合った状態)で存在しているものと推定される。このため、高い密度で炭素繊維1が存在しているため、成形体にしたときの電磁波シールド性が高くなるものと考えられる。なお、
図1中の矢印は、炭素繊維同士の接触による導電性を示す通路を示している。
一方、
図2に示すとおり、従来技術の組成物では、引張伸度のレベルが特に考慮されていない集束剤(本発明の(B)成分で使用されている集束剤よりも引張伸度が大幅に低い集束剤)を使用していることから、集束剤2には炭素繊維1同士を絡み合わせるほど(引き付け合うほど)の伸びはないため、炭素繊維1同士は分散した状態(分散密度が低い状態)で存在していることから、成形体にしたときの電磁波シールド性が低くなるものと考えられる。
【0022】
本発明の成形体は、電磁波シールド性が必要な製品として使用することができ、例えば、電磁波を発生する各種の電気・電子機器のハウジング(筐体)用等として好適である。
【実施例】
【0023】
実施例及び比較例
炭素繊維(CF)((株)東レ製のT700SC−24K−50E)をアセトンで洗浄して、乾燥させた。
次に、前記炭素繊維100質量部に対して表1に示す集束剤(エマルションタイプ)を塗布した後、オーブンで、100℃で3時間乾燥させた。その後、長さ4mmにカットして、(B)成分とした。
【0024】
(A)成分としてのポリカーボネート樹脂(PC)(三菱エンジニアリングプラスチック製のユーピロンH3000F)と(B)成分の炭素繊維束を使用して、二軸押出機(TEX30、日本製鋼製)を用いて混練したものをペレタイザーに供給して、組成物のペレットを得た。
得られたペレットを用いて、下記の条件で射出成形して、120mm×120mm×2mmの正方形板を得た。
【0025】
射出成形機:住友重機工業社製、型式:SH100−NIV
射出速度:8.5cm/sec
スクリュー断面積:10.2cm
2
ゲートサイズ:2mm×7mm(最小断面積=0.14cm
2)
射出率:86.7cm
3/sec
ゲート通過線速度:619cm/sec
【0026】
<使用した集束剤>
(実施例の集束剤)
2260NE:DIC社製 自己乳化型ポリウレタンエマルジョン
1940NE:DIC社製 自己乳化型ポリウレタンエマルジョン
HW−920:DIC社製 自己乳化型ポリウレタンエマルジョン
HW−930:DIC社製 自己乳化型ポリウレタンエマルジョン
(比較例の集束剤)
AP−30:DIC社製 自己乳化型ポリウレタンエマルジョン
AP−40F:DIC社製 自己乳化型ポリウレタンエマルジョン
UWS−145:三洋化成社製 自己乳化型ポリウレタンエマルジョン
CP−7060:DIC社製 自己乳化型ポリウレタンエマルジョン
なお、実施例の集束剤と比較例の集束剤は、引張伸度の違いで区別されるものである。表1に示した流動開始温度と破断点応力は、各エマルジョンで使用されているポリウレタンを具体的にするためのものであり、本願発明の効果を発現するために必要なものではない。
【0027】
<集束剤の測定>
(1)流動開始温度(℃)JIS K−7210に従って測定を行った。
(2)破断点応力(MPa)ガラス板上に集束剤を塗布し、100℃3hrで乾燥して厚み50ミクロンに調節した皮膜を作製し、JIS K−7113に従って測定を行った。
(3)引張伸度(%)ガラス板上に集束剤を塗布し、100℃3hrで乾燥して厚み50ミクロンに調節した皮膜を作製し、JIS K−7113に従って測定を行った。
【0028】
<組成物(成形体)の測定>
(1)電磁波シールド効果(KEC法/電界波、磁界波)
ANRITSU製のMA8602B測定器を用いて、KEC法により近傍界の電界/磁界シールド特性を周波数0.1MHz〜100MHzの範囲で測定した。数値が大きいほど、電磁波シールド性が良いことを示している。
(2)引張強度
4mm厚みのISOダンベル試験片を用いて、ISO527に準拠して曲げ試験を行い、曲げ強度を測定した。
(3)曲げ強度(MPa)
4mm厚みのISOダンベル試験片を用いて、ISO178に準拠して曲げ試験を行い、曲げ強度を測定した。
【0029】
【表1】
【0030】
実施例と比較例との対比から明らかなとおり、(B)成分に含まれている集束剤の引張伸度の違いによって、成形体の電磁波シールド性に明確な違いが認められた。この結果から、本発明の組成物を使用した場合には、
図1に示したような作用機構によって高い電磁波シールド性が発揮されるものと考えられる。