特許第6059905号(P6059905)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社TIの特許一覧

<>
  • 特許6059905-水素発生装置の反応剤の活性化方法 図000002
  • 特許6059905-水素発生装置の反応剤の活性化方法 図000003
  • 特許6059905-水素発生装置の反応剤の活性化方法 図000004
  • 特許6059905-水素発生装置の反応剤の活性化方法 図000005
  • 特許6059905-水素発生装置の反応剤の活性化方法 図000006
  • 特許6059905-水素発生装置の反応剤の活性化方法 図000007
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6059905
(24)【登録日】2016年12月16日
(45)【発行日】2017年1月11日
(54)【発明の名称】水素発生装置の反応剤の活性化方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 3/10 20060101AFI20161226BHJP
【FI】
   C01B3/10
【請求項の数】4
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2012-176781(P2012-176781)
(22)【出願日】2012年8月9日
(65)【公開番号】特開2014-34492(P2014-34492A)
(43)【公開日】2014年2月24日
【審査請求日】2015年8月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】512129217
【氏名又は名称】株式会社TI
(74)【代理人】
【識別番号】100120189
【弁理士】
【氏名又は名称】奥 和幸
(72)【発明者】
【氏名】石川 泰男
【審査官】 村岡 一磨
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/084790(WO,A1)
【文献】 国際公開第02/081368(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 3/00−3/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応剤としてのアルカリ金属水酸化物を鉄又はステンレス鋼からなる反応セル内に収納し、この反応セルを反応剤の融点以上に加熱して反応剤を溶融塩とし、その表面から微細粒子を飛散せしめ、この微細粒子と反応セル内に供給される水蒸気とを鉄又はステンレス鋼の雰囲気内で反応させて水を分解するようにした水素発生装置の反応剤を活性化するための活性化方法において、反応剤の劣化を検知したときに、反応セル内に水を供給する水供給系を通して高濃度のアルカリ金属酸化物水溶液を大量に反応セル内に供給して反応セル内に形成される酸化膜を清浄化しつつ加熱を継続し水蒸気の発生がなくなったときに、正常の運転に戻すようにした水素発生装置の反応剤の活性化方法。
【請求項2】
前記反応剤の活性のピークを僅かに過ぎたときに、前記活性化方法を実施するようにした請求項1記載の水素発生装置の反応剤の活性化方法。
【請求項3】
前記アルカリ金属水酸化物は、水酸化ナトリウム(NaOH)又は水酸化カリウム(KOH)からなる請求項1記載の水素発生装置の反応剤の
活性化方法。
【請求項4】
前記アルカリ金属水酸化物水溶液は濃度が50%以上である請求項1記載の水素発生装置の反応剤の活性化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルカリ金属水酸化物を応剤とする水素発生装置の反応剤を活性化するための水素発生装置の反応剤の活性化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
反応剤としてのアルカリ金属水酸化物(NaOH、KOH)をステンレス製の反応セル内に収納し、これを500℃以上に加熱してその溶融塩から微細粒子を発散させ、この微細粒子と水蒸気とを反応せしめ、水を分解して水素を発生せしめる水素発生装置について、本件発明者は既に出願を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開WO2010/084790
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記特許文献1、2における反応剤は、長期間使用していると、反応剤が劣化してその能力が低下してくるので、その活性化が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
そこで、本発明の方法は、反応剤としてのアルカリ金属水酸化物を金属の反応セル内に収納し、この反応セルを反応剤の融点以上に加熱して反応剤を溶融塩とし、その表面から微細粒子を飛散せしめ、この微細粒子と反応セル内に供給される水蒸気とを金属元素雰囲気内で反応させて水を分解するようにした水素発生装置の反応剤を活性化するための活性化方法において、反応剤の劣化を検知したときに、反応セル内に水を供給する水供給系を通して高濃度のアルカリ金属酸化物水溶液を大量に反応セル内に供給して加熱を継続し水蒸気の発生がなくなったときに、正常の運転に戻すようにした。
【0006】
また、前記反応剤の活性のピークを僅かに過ぎたときに、前記活性化方法を実施するようにすることが好ましい。更に、また前記アルカリ金属水酸化物は、水酸化ナトリウム(NaOH)又は水酸化カリウム(KOH)であり、前記金属はステンレス又は鉄であることが好ましい。
【0007】
また、本発明の第2の方法は、反応剤としてのアルカリ金属水酸化物を金属の反応セル内に収納し、この反応セルを反応剤の融点以上に加熱して反応剤を溶融塩とし、その表面から微細粒子を飛散せしめ、この微細粒子と反応セル内に供給される水蒸気とを金属元素雰囲気内で反応させて水を分解するようにした水素発生装置の反応剤を活性化するための活性化方法において、反応剤の劣化を検知したときに、反応セル内で発生した水素を排出する水素排出系を通して反応セル内から水蒸気を排出し、次いで水素を反応セル内に供給し、反応セル内の圧力を正圧に上昇させて所定時間維持せしめるようにした。
【0008】
更に、また、前記水素は反応セルが4気圧以上になるように反応セル内に供給し、その状態を1日以上維持するようにすることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
第1の発明のおいて、反応剤の活性のピークを僅かに過ぎたとき(劣化初期)に、高濃度(50%以上)の水酸化ナトリウム水溶液又は水酸化カリウム水溶液を水供給系を通して反応セル内の反応剤に添加せしめれば、ナトリウムイオン又はカリウムイオンが反応剤に加わり、反応後に生成される特殊機能を有する酸化物の機能を維持できる。
【0010】
また、第2の発明においては、劣化初期において、反応セル内に高圧の水素を送り込めば、水の分解に寄与しない酸化物又は、過度の酸化をした反応後の酸化物を還元し、反応剤の機能を復活せしめる。また、還元材としての水素は4気圧以上の高気圧で1回以上維持すれば還元作用が十分に行われ得る。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明に係る第1、第2発明を実施するための水素発生装置の概略構成図である。
図2】本発明の第1の発明を実施するための装置の要部説明図である。
図3】反応後の酸化物の状態を示す反応セルの縦断面図である。
図4】反応剤完全劣化後に反応剤を反応セルから排出する処理方法を示す図である。
図5図4に示す処理後の反応セル内の洗浄方法を示す図である。
図6】反応剤の劣化状態を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
【0013】
図1において、本発明に係る水素発生装置Mは、ステンレス製(特にCr18%−Ni8%−残FeのSUS304が好ましいが鉄でもよい)の円筒形の反応セル1を有し、この反応セル1内には、樋形の反応剤受け2(図2)が収納され、この中に反応剤3が収納されている。前記反応剤としては、水酸化ナトリウム(NaOH)又は水酸化カリウム(KOH)が用いられる。前記反応セル1の片方側上面には、水を供給するための水管4が設けられ、他方側上面には、発生した水素を排出するための水素排出管5が設けられている。
【0014】
前記水管4は水供給系Sの一部をなし、この水供給系Sは、水タンク6と、ここからの水の供給量を調整する流量調整弁7とを備え、この水供給系Sには、高濃度のアルカリ金属酸化物水溶液(カセイソーダ水溶液又は水酸化カリウム水溶液)を反応セル1内に供給するための水溶液供給系路Sが接続されている。この系路Sは水溶液タンク8と、開閉弁9とを有している。また、前記水素排出管5は排出系Sの一部をなし、この排出系Sは、切換弁10と反応セル1内を常時減圧状態に保つ真空ポンプ11と、流量計12とを有し、前記切換弁には水素供給系Sが接続され、水素供給系Sは、水素ボンベ13を備えている。
【0015】
前記反応セル1は図示しない加熱装置によって反応剤の溶融温度(300℃以上)に加熱されるが、500℃〜600℃が好適であり、電気式の加熱でも、ガス式の加熱でもよい。なお、前記反応セル1は、水供給側を水素排出側より若干高くするのが好ましいので、そのための高さ調整脚14、14を備えている。また、前記反応セル1は、反応セル1をその軸方向の前後に揺する摺動させるための摺動機構15に支持されている。
【0016】
前記反応セル1に設けられる樋形の反応剤受け2は、図2に示すように、端板2aによってその前後端が閉塞され、その中に反応剤3が収納され、この反応剤3は500〜600℃に加熱されると、溶融塩となり、その液面から微細粒子Pが飛散し、この微細粒子Pと供給される水蒸気とが反応して水が分解され水素が発生する。
【0017】
なお、水管4の直下には、水受け16が位置し、その水受け16によって、アルカリ金属水溶液は反応剤受け2内にガイドされ、通常時には、水が前記水受け16に当たって水蒸気となり、この水蒸気は微細粒子Pが充満している反応空間内に流れる。
【0018】
次に本発明の第1発明の作用について説明する。
【0019】
例えば、反応剤として水酸化ナトリウムを使用した場合に、NaOHの微細粒子Pは、ステンレス雰囲気内で水蒸気と反応するが、ステンレスがSUS304の場合、主として鉄成分と反応し、Crとは活発には反応せず、Niは反応時の触媒の作用を果たす。
【0020】
したがて、主として
2Fe + 2NaOH + 2HO → 2NaFeO+ 3H
の反応により、鉄酸ナトリウム(NaFeO)の膜がステンレス内壁(反応剤受け2および反応セル1の内壁)に生じ、この膜が更に鉄(Fe)と水蒸気とに反応して、
3NaFeO+ 2Fe + 3HO → NaFe+ 3H
高次の鉄酸ナトリウム(NaFe)を生ぜしめる。この主たる反応の他に、この反応過程において、FeO、Fe、Fe等の酸化物が生じ、これらの酸化物が前記NaFeO、NaFe(機能性酸化物と称す)の表面を被ったりすると、反応剤が劣化し、水の分解能力が低下する。また、反応が進むにしたがって、NaOH成分が減少するので、前記機能酸化物の表面を清浄化すると同時にNaOH成分補給のために水供給を停止しつつ、高濃度のアルカリ水溶液を開閉弁9を開けて多量に反応セル1の反応剤受け2内に流し込む。
そして、加熱を継続して水蒸気の発生が殆んどなくなったときに操作を終了する。
【0021】
例えば、NaOH、KOHは温度により50%以上の水溶液を作ることができ、この水溶液を初期の反応剤量が25モルの場合、500g以上の水溶液を流し込む。NaOH水溶液の場合、6モル以上のNaOHの補給となるし、充分な水により機能酸化物表面も洗浄され、機能酸化膜の活性が上昇する。
【0022】
また、水溶液は摺動機構15の作動によって、反応剤受け2の全体に平均的に送られる。この状態を図6で示しており、一定の水供給に対して、流量計12の値が変動し、作動後の最初のピークmを通過し、水素発生量が低下したときに、水溶液洗浄(NaOH補給を兼ね)を行い、更に、2回目のピークm2を経過したときに同じ操作を行い、数回この操作を繰り返す。この操作は、前記反応における理論値を経過前に少なくとも1回行う必要がある。
【0023】
水素発生装置Mの作動開始後、数日経過すると、反応セル1内には、図3に示すように高次の鉄酸化膜lがセル内に数多く発生してセル内の反応空間を狭める。そこで装置の作動末期においては、図4に示すように、反応セル1の前後端を開閉蓋で着脱自在に閉塞し、水受け16を除去してプッシャ21を反応セル1内に押し込んで、前記高次鉄酸化膜lを反応剤受け2とともに除去し、次いで、図5に示すように過熱水蒸気噴射ノズル22でセル内壁を洗浄するようにして、再度反応セル1を組み立てることが可能である。なお、過熱水蒸気は高周波誘導過熱装置23によって作られる。
【0024】
次に本発明の第2発明の作用について説明する。
【0025】
前記第1発明と同一のタイミングで、前記水素供給系Sが作動される。すなわち、水供給を停止し、反応セル内の水蒸気を排出した後に切換弁10を切換えて、水素ボンベ13からの高圧の水素が反応セル1内に送られる。通常動作時において反応セル1は−0.6〜0.3気圧に維持されており、この状態において高圧の水素が反応セル1内に送られて、その圧力が正圧(1気圧以上)になるようにする。好ましくは、4気圧以上で1日(24時間)以上維持される。これにより、反応に寄与しないFeO、Fe、Fe等の酸化物が還元されて除去され、反応剤としての機能が復活する。
【符号の説明】
【0026】
1…反応セル
2…反応剤受け
3…反応剤
12…流量計
16…水受け
図1
図2
図3
図4
図5
図6