(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、α−SF塩を含有する固形物を水に溶解させ、α−SF塩水溶液を製造する方法である。本発明では、水に溶解させる固形物として、示差走査熱分析計で熱分析した際に観測される50〜130℃における熱吸収ピーク面積S1が、0〜130℃における熱吸収ピーク面積S2に対して50%以上となる、特定の安定な結晶状態(以下、「安定状態」ともいう。)にある固形物を用いる。そして、該固形物を溶解させる水の温度を特定の温度に制御する。
以下、脂肪酸アルキルエステルを出発原料として、上述の安定状態にあるフレーク状等のα−SF塩含有固形物を得る工程(I)(以下、工程(I)ともいう。)と、該α−SF塩含有固形物を特定の温度の水に溶解させる工程(II)(以下、工程(II)ともいう。)とを有する製造方法を例示して、本発明について詳細に説明する。
【0011】
<工程(I)>
工程(I)では、まず、準安定な結晶状態(以下、「準安定状態」ともいう。)にあるα−SF塩含有固形物(m)を調製し(工程(I−1))、ついで、該α−SF塩含有固形物(m)を結晶化して、安定状態にあるα−SF塩含有固形物(s)を得る(工程(I−2))。
以下、準安定状態にあるα−SF塩含有固形物(m)のことを準安定固体(m)と言う場合がある。また、安定状態にあるα−SF塩含有固形物(s)のことを安定固体(s)と言う場合がある。
【0012】
準安定固体(m)と安定固体(s)は、示差走査熱分析計による熱分析で判別できる。詳しくは後述するが、準安定固体(m)は、示差走査熱分析計で熱分析した際に観測される50〜130℃における熱吸収ピーク面積が、0〜130℃における熱吸収ピーク面積に対して50%未満であり、一方、安定固体(s)は、示差走査熱分析計で熱分析した際に観測される50〜130℃における熱吸収ピーク面積S1が、0〜130℃における熱吸収ピーク面積S2に対して50%以上となる。また、安定固体(s)は、示差走査熱分析計で熱分析した際に観測される熱流量最大値の熱吸収ピークトップ温度Tmax(℃)が、50℃以上である。
【0013】
[工程(I−1)]
工程(I−1)では、脂肪酸アルキルエステルをスルホン化ガスによりスルホン化するスルホン化処理と、スルホン化処理で得られたスルホン化物に低級アルコールを加えてエステル化するエステル化処理と、エステル化処理で得られたエステル化物を中和する中和処理と、必要に応じて実施される、中和処理で得られた中和物を漂白する漂白処理とを行うことにより、α−SF塩含有ペーストを得る。ついで、該ペーストを加熱、濃縮して濃縮品を得る濃縮処理と、濃縮品を冷却して固化し、板状等の冷却固化物を得る冷却固化処理と、冷却固化物を解砕する解砕処理とを行う。これにより、準安定状態にあるフレーク状のα−SF塩含有固形物(m)を得る。
【0014】
(スルホン化処理)
スルホン化処理は、好ましくは、硫酸ナトリウムなどの着色抑制剤の存在下で、脂肪酸アルキルエステルとスルホン化ガスとを接触させて脂肪酸アルキルエステルをスルホン化する(ガス接触操作)ことにより、α−スルホ脂肪酸アルキルエステル(以下、「α−SF酸」ともいう。)を含むスルホン化物を得る処理である。着色抑制剤は、スルホン化処理以外にも、エステル化処理で添加してもよい。
【0015】
具体的には、例えば以下の方法により行う。
まず、反応槽内に脂肪酸アルキルエステルを仕込み、加熱し、原料液相とする。次いで、この原料液相に、スルホン化ガスを好ましくは一定流速で導入し、ガススパージャーから複数の気泡を発生させると共に、撹拌機の回転によって原料液相中に気泡を分散させる。スルホン化処理を着色抑制剤の存在下で行う場合には、この回転によって着色抑制剤の粒子が原料液相中に均一に分散する。
【0016】
脂肪酸アルキルエステルは、下記(1)式で表される。
R
1−CH
2−COOR
2・・・(1)
【0017】
(1)式中、R
1は炭素数8〜20の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基又はアルケニル基であり、R
2は炭素数1〜6の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基である。R
1の炭素数は10〜18が好ましく、10〜16がより好ましい。すなわち、脂肪酸アルキルエステルのアシル基(R
1−CH
2−CO−)の炭素数は、12〜20が好ましく、12〜18がより好ましい。また、R
2の炭素数は1〜3が好ましい。
【0018】
脂肪酸アルキルエステルは、牛脂、魚油、ラノリン等から誘導される動物系油脂;ヤシ油、パーム油、大豆油等から誘導される植物系油脂;α−オレフィンのオキソ法から誘導される合成脂肪酸アルキルエステル等のいずれでもよく、特に限定はされない。
具体的には、脂肪酸アルキルエステルとして、ラウリン酸メチル、ラウリン酸エチル、ラウリン酸プロピルなどのラウリン酸アルキルエステル;ミリスチン酸メチル、ミリスチン酸エチル、ミリスチン酸プロピルなどのミリスチン酸アルキルエステル;パルミチン酸メチル、パルミチン酸エチル、パルミチン酸プロピルなどのパルミチン酸アルキルエステル;ステアリン酸メチル、ステアリン酸エチル、ステアリン酸プロピルなどのステアリン酸アルキルエステル;硬化牛脂脂肪酸メチル、硬化牛脂脂肪酸エチル、硬化牛脂脂肪酸プロピルなどの硬化牛脂脂肪酸アルキルエステル;硬化魚油脂肪酸メチル、硬化魚油脂肪酸エチル、硬化魚油脂肪酸プロピルなどの硬化魚油脂肪酸アルキルエステル;ヤシ油脂肪酸メチル、ヤシ油脂肪酸エチル、ヤシ油脂肪酸プロピルなどのヤシ油脂肪酸アルキルエステル;パーム油脂肪酸メチル、パーム油脂肪酸エチル、パーム油脂肪酸プロピルなどのパーム油脂肪酸アルキルエステル;パーム核油脂肪酸メチル、パーム核油脂肪酸エチル、パーム核油脂肪酸プロピルなどのパーム核油脂肪酸アルキルエステル等を例示できる。
これらは1種以上を使用できる。
【0019】
脂肪酸アルキルエステルは、不飽和度の指標であるヨウ素価が低い方が、色調と臭気の両観点において望ましく、ヨウ素価は0.5以下が好ましく、0.2以下がより好ましい。
【0020】
スルホン化処理において脂肪酸アルキルエステルとスルホン化ガスとが接触すると、はじめに脂肪酸アルキルエステルのアルコキシ基にSO
3が挿入される反応が起こり、一分子のSO
3が付加した一分子付加体が生成する。さらにSO
3と反応してα位にスルホン基が導入され、二分子のSO
3が付加した二分子付加体が生成し、最後にアルコキシ基に挿入されたSO
3が脱離して、下記式(2)で表される化合物(α−スルホ脂肪酸アルキルエステル。以下、「α−SF酸」ともいう。)が生成する。スルホン化処理で得られる生成物(スルホン化物)中には、α−SF酸以外に、SO
3の一分子付加体、SO
3の二分子付加体、未反応の脂肪酸アルキルエステルおよびその他の副生物などが含まれる。
【0021】
R
1−CH(SO
3H)−COOR
2・・・(2)
(2)式中、R
1は(1)式中のR
1と同じであり、R
2は(1)式中のR
2と同じである。
【0022】
スルホン化ガスとしては、例えば、SO
3ガス;発煙硫酸;脱湿した空気でSO
3ガスまたは発煙硫酸を希釈したもの;等が挙げられる。
スルホン化ガスの添加量は、脂肪酸アルキルエステルに対して、等倍モル以上であり、1.0〜2.0倍モルが好ましく、1.1〜1.5倍モルがより好ましい。
【0023】
撹拌機の回転速度は、例えば撹拌機に備えられている撹拌翼の撹拌羽根先端の周速を0.5〜6.0m/secとすることが好ましく、2.0〜5.0m/secとすることがより好ましい。周速が0.5m/sec以上であると、気泡の分散効果が充分に得られ、反応率も優れる。周速が6.0m/sec以下であると、消費動力も抑制できる。また、撹拌羽根先端の周速を上述の好ましい数値範囲に保ちつつ回転させることによって、後述の熟成操作においても充分に反応させることができる。
【0024】
スルホン化処理のガス接触操作における反応温度は、脂肪酸アルキルエステルが流動性を有する温度とされ、脂肪酸アルキルエステルの融点以上であり、好ましくは融点以上であって、融点より70℃高い温度以下の範囲とすることが好ましい。
スルホン化処理におけるスルホン化ガスの導入時間は、10〜300分間程度とされ、60〜240分間程度が好ましい。
【0025】
スルホン化の方法としては、流下薄膜式スルホン化法、回分式スルホン化法等のいずれのスルホン化法であってもよい。また、スルホン化反応方式としては槽型反応、フィルム反応、管型気液混相反応等の方式が用いられる。着色抑制剤を用いる場合には、着色抑制剤を原料中に均一に分散させた状態でスルホン化ガスと接触させることが好ましいため、回分式スルホン化法においては、槽型反応方式が好適である。
【0026】
なお、スルホン化処理には、上述のガス接触操作の後、必要に応じて熟成操作を設けることができる。最終的に得られるα−SF塩の収率向上の観点からは、熟成操作を設けることが好ましい。
熟成操作は、ガス接触操作の後、所定の温度に維持して、ガス接触操作で生成した二分子付加体からのSO
3の脱離を促進する工程である。
熟成操作は、例えば、ガス接触操作を行った反応槽内で、引き続き撹拌すること等により行える。ガス接触操作に、フィルム式反応、管型気液混相反応等を用いた場合には、スルホン化物を他の槽型反応器に移して熟成操作を行えばよい。
【0027】
熟成操作における反応温度(熟成温度)は、例えば、70〜100℃の範囲が好ましい。熟成温度が70℃以上であると、反応が速やかに進行し、100℃以下であると、着色も抑制される。
熟成操作における反応時間(熟成時間)は、例えば、1〜120分間の範囲で決定することが好ましい。
【0028】
(エステル化処理)
エステル化処理は、スルホン化処理(ガス接触操作および必要に応じて実施される熟成操作)の後、スルホン化処理で得られたスルホン化物(スルホン化処理の生成物)に低級アルコールを添加して、スルホン化物をエステル化し、α−SF酸を生成する反応(エステル反応)を進行させる処理である。
【0029】
上述したように、スルホン化処理で得られたスルホン化物には、α−SF酸以外にも、SO
3の一分子付加体、SO
3の二分子付加体、未反応の脂肪酸アルキルエステル及びその他の副生物が含まれている。このうち、特に二分子付加体を中和すると、低温環境下ではα−SF塩よりも洗浄効果が低下する場合があるα−スルホ脂肪酸ジアルカリ塩となる。そのため、洗浄剤用途においては、二分子付加体の含有量をできるだけ低くする必要がある。エステル化処理を行って、二分子付加体からα−SF酸を生成させることにより、二分子付加体の含有量を低くでき、さらにはα−SF塩の収率向上が図られる。
エステル化処理は、例えば、スルホン化物に低級アルコールを添加し、所定の温度に維持しながら撹拌する方法で行われる。
【0030】
エステル化処理で用いる低級アルコールとは、好ましくは炭素数1〜6のアルコールであり、なかでも、その炭素数が原料の脂肪酸アルキルエステルのアルコール残基の炭素数と等しいものが好ましい。
低級アルコールの添加量は、スルホン化物に含まれるSO
3の二分子付加体に対して、0.5〜50倍モルであることが好ましく、より好ましくは0.8〜2倍モルである。当該添加量の下限値以上であれば、充分な添加効果が得られる。低級アルコールは、上限値を超えて添加しても、それ以上エステル反応は進行しない。
なお、スルホン化物に含まれるSO
3の二分子付加体の量は、高速液体クロマトグラフ等により定量できる。
【0031】
例えば、SO
3の二分子付加体がスルホン化処理で得られるスルホン化物中に5〜50質量%含まれ、低級アルコールとしてメタノールを添加する場合、その添加量は、スルホン化物の100質量部に対して0.25〜250質量部が好ましく、より好ましくは0.4〜10質量部である。
【0032】
エステル化処理における反応温度は、50〜100℃であり、50〜90℃が好ましい。エステル化処理における反応時間は、5〜120分間の範囲で決定することが好ましい。
【0033】
(中和処理)
中和処理は、エステル化処理で得られたエステル化物に対して、アルカリ水溶液などのアルカリ物質により中和処理を行い、中和物を得る処理である。中和処理を行うことにより、エステル化物中のα−SF酸からα−SF塩が生成する。
【0034】
α−SF塩において、塩を形成する対イオンとしては、下記イオンともに水溶性の塩を形成するものであればよい。
R
1−CH(CO−O−R
2)−SO
3−
該水溶性の塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;カルシウム塩等のアルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、エタノールアミン塩等が挙げられる。
【0035】
中和処理は、例えば、エステル化物とアルカリ水溶液とを接触させることにより行える。
アルカリ水溶液としては、例えば上述の水溶性の塩を形成することができるもの、例えば、水酸化ナトリウム等のアルカリ金属の水酸化物;アルカリ金属の炭酸塩;アルカリ土類金属の水酸化物;アンモニア;エタノールアミン等が挙げられる。
【0036】
中和物100質量%中のアニオン界面活性剤濃度は、中和物を得る際の製造効率、中和物のハンドリング性がともに優れるように、決定する。
このようなアニオン界面活性剤濃度としては、中和物100質量%中、好ましくは60〜80質量%、より好ましくは62〜75質量%である。ここで中和処理に用いるアルカリ水溶液の濃度が薄すぎると、中和のために必要となるアルカリ水溶液の量が増加し、その結果、得られる中和物中の水分量が増加し、アニオン界面活性剤濃度が低くなる。
【0037】
「アニオン界面活性剤濃度」とは、界面活性剤としての機能を有するアニオン性化合物の濃度であり、本実施形態におけるアニオン性化合物には、洗浄有効成分であるα−SF塩と、α−SF塩と同様に界面活性剤としての機能を有している副生物のα−スルホ脂肪酸ジアルカリ塩とが該当する。したがって、本実施形態における「アニオン界面活性剤濃度」は、洗浄有効成分であるα−SF塩と、副生物の1つであるα−スルホ脂肪酸ジアルカリ塩(ジ塩)との合計の濃度である。
アニオン界面活性剤濃度は、滴定法などにより求められる。
【0038】
また、中和物におけるα−SF塩とα−スルホ脂肪酸ジアルカリ塩との質量比は、中和物を得る際の製造性、ハンドリング性、また、液体製品への配合時の品質などの点から、α−SF塩とα−スルホ脂肪酸ジアルカリ塩との合計100質量%のうち、α−スルホ脂肪酸ジアルカリ塩が10質量%以下となることが好ましい。
【0039】
中和温度は、30〜140℃が好ましく、50〜140℃がより好ましく、50〜80℃がさらに好ましい。
中和時間は、5〜60分間が好ましく、20〜60分間がより好ましい。
中和時のpHは、生成したS−SF塩の加水分解を防止するために、酸性あるいは弱いアルカリ性の範囲(pH4〜9)が好ましい。この範囲外では、α-スルホ脂肪酸アルキルエステル塩のエステル結合が切断されやすくなる可能性がある。
【0040】
また、中和処理においては、生成したα−SF塩の加水分解とそれに伴う副生物の生成とを防止するために、過激な中和操作を避け、極力マイルドな中和処理を行うことが好ましい。このような中和処理としては、ループ中和方式が挙げられる。該方式は、ループ状の配管(リサイクルループ)内で、中和処理した中和物の一部(リサイクル中和物)を循環させ、該リサイクル中和物を、エステル化処理後の未中和の生成物に添加して中和を行う方式である。
ループ中和方式において、中和は、例えば、リサイクル中和物と未中和の生成物との混合物に対してアルカリ水溶液を接触させて行っても、リサイクル中和物と未中和の生成物とアルカリ水溶液とを、強力なせん断力の元で瞬時に混合して行ってもよい。
【0041】
リサイクル中和物の添加量は、未中和の生成物とアルカリ水溶液との合計質量の5〜25質量倍が好ましく、10〜20質量倍がより好ましい。未中和の生成物とアルカリ水溶液との合計量に対するリサイクル中和物の添加量の比、すなわちリサイクル比が5以上であると副生物の生成抑制効果に優れ、25以下であると製造効率が向上する。
【0042】
中和処理は、アルカリ水溶液を用いる以外に、固体の金属炭酸塩又は炭酸水素塩を用いることによっても行える。
特に固体の金属炭酸塩(濃厚ソーダ灰)による中和は、濃厚ソーダ灰が他のアルカリよりも安価であるため好ましい。また、固体の金属炭酸塩で中和を行うと、生成物と混合した際に、その混合物に含まれる水分量が少なく強アルカリ性になりにくく、また、中和時の中和熱が金属水酸化物の場合よりも低いため、α−SF塩の加水分解を抑制でき、有利である。
【0043】
金属炭酸塩又は炭酸水素塩としては、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素アンモニウムなどの無水塩、水和塩、又はこれらの混合物などが挙げられる。
【0044】
(漂白処理)
中和処理後には、必要に応じて漂白処理を行ってもよい。漂白処理を行うことにより、中和処理までに生じた着色物が漂白され、良好な色調のα−SF塩が得られる。
漂白剤としては、例えば過酸化水素の水溶液が好適に用いられる。
漂白剤中の過酸化水素の濃度は、漂白処理における水分量、反応時間(漂白時間)又は漂白処理における反応温度(漂白温度)を勘案して決定することができる。
【0045】
漂白剤の添加量は、中和物中のアニオン界面活性剤(α−SF塩およびα−スルホ脂肪酸ジアルカリ塩(ジ塩)の合計)100質量部に対して、漂白剤の純分で0.1〜10質量部の範囲が好ましく、0.1〜5質量部であることがより好ましく、0.1〜3質量部であることがさらに好ましい。
【0046】
漂白温度は、漂白剤中の過酸化水素の濃度、漂白剤の添加量、漂白時間を勘案して決定することができ、例えば、50〜120℃の範囲で決定することが好ましく、60〜90℃の範囲で決定することがより好ましい。上記範囲の下限値以上であると、漂白物の粘度上昇が抑えられ、移送や撹拌等の製造適正に優れる。上記範囲の上限値以下であると、α−SF塩は加水分解されにくく、α−SF塩の色調劣化が抑制されるとともに、低温環境下ではα−SF塩よりも洗浄効果が低下する場合があるジ塩の生成も低減される。
漂白時間は、漂白剤中の過酸化水素の濃度、漂白剤の添加量、漂白温度を勘案して決定することができ、例えば、30〜600分間の範囲で決定することが好ましく、60〜480分間の範囲で決定することがより好ましい。
【0047】
漂白処理における漂白方法としては、例えば、反応槽内に中和物を投入し、所定の温度に維持したまま、漂白剤を添加・混合する方法が挙げられる。また、例えば、反応槽で得られた漂白物の一部を再び反応槽に戻す循環系を設け、該循環系に中和物を添加し、次いで漂白剤を添加する方法が挙げられる。
また、ループ方式の漂白も挙げられ、具体的には、循環ラインに、漂白剤と混合された中和物の一部を循環させながら、そこへ中和物と漂白剤をそれぞれ添加する方法が挙げられる。
さらに、漂白剤を添加・混合した後、流通管方式によって漂白反応を進行させてもよい。
なお、漂白処理は、スルホン化物に対して行ってもよい。
【0048】
このようにスルホン化処理と、エステル化処理と、中和処理と、必要に応じて漂白処理を行うことにより、α−SF塩を含有するペースト(α−SF塩を含む粘稠組成物)が得られる。
該ペーストにおけるアニオン界面活性剤濃度およびα−SF塩の単独の濃度は、漂白剤の使用量にもよるが、それぞれ、中和物について記載した濃度範囲内であることが好ましい。
【0049】
以上説明した各処理のうち、スルホン化処理、エステル化処理、中和処理は、例えば、
図1の製造システムを用いて行える。
図1に示す製造システムは、反応槽1および撹拌機4を備えた槽型反応器と、反応槽1の出口1aにライン21を介して接続されたエステル化反応槽31と、エステル化反応槽31にライン23を介して接続されたリサイクルループ32とから概略構成されている。
【0050】
反応槽1の上部には、SO
3ガス導入ライン8および排ガスライン10が接続されており、SO
3ガスを反応槽1内に供給したり、反応槽1内から排出したりできるようになっている。
エステル化反応槽31としては、3つの混合スペースを有する連続式多段撹拌槽31aおよびバッファ31bが用いられている。連続式多段撹拌槽31aには、アルコール供給ライン26が接続されており、連続式多段撹拌槽31aに低級アルコールを供給できるようになっている。
【0051】
リサイクルループ32は、ライン23およびライン24にその端部が連結された中和ライン32aと、中和ライン32aの両端から分岐する循環ライン32bとから構成されている。中和ライン32a上には、2つのミキサー32c、32dが設けられており、ミキサー32cとミキサー32dとの間の部分には、アルカリ水溶液供給ライン27が接続されており、中和ライン32a内にアルカリ水溶液を供給できるようになっている。また、循環ライン32b上にはポンプ32eおよび熱交換器32fが設けられており、中和物を冷却できるようになっている。
【0052】
このような製造システムを用いて、スルホン化処理、エステル化処理および中和処理を行う場合には、まず、反応槽1に、原料である脂肪酸アルキルエステルを仕込む。撹拌機4で撹拌しながら反応槽1の内温を所定の反応温度まで上昇させる。ついで、この原料液相に、SO
3ガス導入ライン8からスルホン化ガスを導入する。スルホン化ガスは、SO
3ガス導入ライン8から、SO
3ガス導入ライン8先端に接続されたガススパージャー(図示なし)を経て反応槽1内に導入され、撹拌機4によって原料液相中に分散する。
原料液相にスルホン化ガスを導入して撹拌した後、反応槽1内を所定温度に保持して、スルホン化ガス導入後の熟成を行うことが好ましい。
このようにしてスルホン化処理を行う。
【0053】
次に、スルホン化物を連続式多段撹拌槽31aに導入するとともに、アルコール供給ライン26から低級アルコールを供給し、それらを混合する。そして、得られた混合物を、所定の温度で、所定の時間、連続式多段撹拌槽31aおよびバッファ31bにて保持する。
このようにしてエステル化処理を行う。
【0054】
その後、得られた生成物(エステル化物)を、ライン23を通じてリサイクルループ32の中和ライン32aに供給する。
このエステル化物を、アルカリ供給ライン27からアルカリ水溶液を供給して中和し、得られた中和物の一部を、循環ライン32bを通して循環させ、熱交換器32fで冷却した後、中和ライン32a内の未中和のエステル化物に添加する。これを、ミキサー32cで混合した後、上記と同様にして中和する。
このようにして中和処理を行う。
【0055】
このように、例えば
図1の製造システムを用い、スルホン化処理、エステル化処理および中和処理を行うことにより、α−SF塩含有ペーストが得られる。その後、必要に応じてさらに漂白処理を実施することにより、色調の改善されたα−SF塩含有ペーストを得ることもできる。
【0056】
(濃縮処理)
ついで、得られたα−SF塩含有ペーストを加熱、濃縮して濃縮品を得る濃縮処理を行う。濃縮処理では、例えば薄膜蒸発機(例えば、桜製作所製のエバオレータ、神鋼パンテック(株)製のエクセバ、(株)日立製作所製のコントロ、バレストラ社製のWiped Film Evaporator等。)等を使用して、α−SF塩含有ペーストを加熱する。濃縮品の水分量は、加熱温度および加熱時間を制御することで調節できる。
加熱温度は、ペーストに含まれるα−SF塩のアシル基の炭素数に主に依存するが、通常100〜150℃、好ましくは110〜140℃である。加熱時間は、通常0.15秒〜10分間、好ましくは0.3秒〜10分間である。α−SF塩含有ペーストの溶融、濃縮は、薄膜蒸発機等のジャケット部にスチーム等の熱媒を使用することで行える。
このようにして得られた濃縮品をそのまま次の冷却固化処理に供してもよいし、濃縮品を一旦冷却固化した後、再度加熱して溶融させ、これを次の冷却固化処理に供してもよい。
【0057】
(冷却固化処理)
冷却固化処理において、例えばベルト型冷却機(例えば、日本ベルティング株式会社製のダブル・ベルト・クーラー、NR型ダブル・ベルト・クーラー、サンドビック株式会社製ダブルベルト冷却システム等。)や、ドラム型冷却機(例えば、カツラギ工業株式会社製のドラムフレーカー、三菱マテリアルテクノ株式会社製のドラムフレーカーFL等。)を使用し、板状に成形しながら冷却することにより、板状の冷却固化物が得られる。なかでも、ハンドリングの観点からベルト型冷却機が好ましく、さらに、冷却効率の観点から、上下に二枚の金属板が備えられており、下側の金属板上に濃縮品を広げて冷却するタイプのベルト型冷却機が好ましい。
【0058】
冷却固化処理において、溶融状態にある濃縮品を融点以下まで冷却するが、この際、大きな冷却速度で急冷することにより、α−SF塩の結晶状態を準安定状態とすることができる。具体的には、例えば、100〜150℃の濃縮品を3分間以内に、好ましくは10秒〜1分間で、0〜40℃まで冷却する。このように急冷すると、生産性にも優れる。なお、融点は、示差走査熱分析計で測定できる。
こうして得られる準安定固体(m)は、液晶状態が過冷却して固体になったものと考えられる。α−SF塩の準安定固体(m)をX線回折に供すると、
図2に示すように、20−30Å、10−15Å、3−5Åの各面間隔にピークトップが認められる、
図2のような3本の回折ピークを有するX線回折チャートが得られる。
なお、
図2は、後述の実施例1で製造した準安定固体(m)のX線回折チャートである。
【0059】
高純度のα−SF塩からは、このような準安定固体(m)は一般に形成されにくいが、脂肪酸アルキルエステルを出発原料として、以上説明した各処理を経て得られたα−SF塩は、通常、硫酸メチル金属塩や脂肪酸スルホナート金属塩などの副生物を含む。このような副生物を含む場合、α−SF塩は準安定状態となりやすい。
【0060】
なお、α−SF塩は、様々な結晶状態を取ることが知られている。例えば、2−スルホパルミチン酸メチルエステルナトリウムの安定結晶としては、無水物、2水塩、5水塩、10水塩の各結晶状態がある。無水物の融点は112℃であり、2水塩の融点は70℃であると報告されている(M. Fujiwara,et.al, Langmuir, 13,p3345(1997)参照。)。
【0061】
冷却固化処理で板状固形物を得る場合、その厚さには特に制限はないが、次の解砕処理で効率的な処理を行う観点から、解砕処理に用いる解砕機の具備する解砕棒の長さを考慮して決定することが好ましい。解砕機は一般に、円柱状の回転軸と、該回転軸の周面上から外方に延びる解砕棒とを備えて構成されている。
具体的には、板状固形物の厚さは、解砕棒の長さの0.30倍以下であることが好ましく、0.28倍以下であることがより好ましい。かつ、板状固形物の厚みが1〜3mmの場合、解砕棒の長さは10mm以上であることが好ましく、15mm〜100mmであることがより好ましい。解砕棒の長さが上記範囲の下限値以上であると、充分な解砕力が得られ、流動性などに優れるフレーク状のα−SF塩含有固形物(m)が得られる。
【0062】
なお、1本の回転軸に対して、複数本の解砕棒が設けられている場合、解砕棒の長さは全て同じでなくてもよい。その場合、最も短い長さの解砕棒の長さを基準として、板状固形物の厚さを決定する。具体的には、最も短い長さの解砕棒の長さが、板状固形物の平均厚さの3倍以上であることが好ましく、3.5倍以上であることがより好ましい。一方、最も長い長さの解砕棒の長さは、板状固形物の平均厚さの12倍以上であることが好ましく、20〜200倍であることがより好ましい。
板状固形物の厚さは、例えばベルト型冷却機の投入プーリー間のクリアランスを設定することで制御できる。
【0063】
(解砕処理)
解砕処理は、冷却固化物を解砕機の解砕棒に接触させることで行える。解砕棒の先端周速度は、0.3〜3.5m/sが好ましく、1.0〜3.0m/sがより好ましい。上記範囲の下限値以上であると、充分な解砕力が得られ、その結果、流動性などに優れるフレーク状のα−SF塩含有固形物(m)が得られる。一方、上記範囲の上限値以下であると、解砕力が過度にならず。得られるα−SF塩含有固形物(m)は発塵しにくくなる。
【0064】
解砕機の具備する回転軸は、通常円柱状であり、外径は40〜60mm、軸方向の長さは550〜650mmが好ましい。回転軸は、腐食防止の観点から、SUS等の材料から形成されていることが好ましい。なお回転軸は、円筒状等であってもよい。
【0065】
解砕棒の長さは、上述のとおり、板状固形物の厚みとの関係で決定することが好ましい。
回転軸の軸に対する解砕棒の軸の向きは、垂直であっても、垂直でなくてもよい。また、複数本の解砕棒が回転軸の軸方向に沿って並んで配置されていることが好ましい。
解砕棒の先端部は、平面状でも尖っていてもよい。解砕棒の断面形状に制限はなく、例えば円形、四角形、三角形が挙げられる。解砕棒も回転軸と同様に、腐食防止の観点から、SUS等の材料から形成されていることが好ましい。
【0066】
解砕機としては、1本の回転軸と該回転軸に設けられた1本以上の解砕棒とを1つの解砕部とした場合、1つの解砕部を有する解砕機を用いても、2つ以上の解砕部を有する解砕機を用いてもよいが、2つ以上の解砕部を有する解砕機を用いると、効率的に解砕を行える。
【0067】
特に、第一の解砕部(「プレローター」と称することもある)で粗く解砕し、続いて第二の解砕部(「ピンローター」と称することもある)で細かく解砕すると、過不足のない解砕強度を与えることができるので好ましい。
更に、第一の解砕部が、直径50mm、長さ580mmの円柱回転軸1本と、その外周面上に備えられた解砕棒20本とからなり、解砕棒は、直径14mm、長さ60mmの円柱形状を有し、径方向外方に向かって延びるようにその一端が取付けられており、解砕棒は、回転軸の外周面上で回転方向に90°間隔で配置されて解砕棒列を構成している(すなわち、各解砕棒列は4本の解砕棒からなる)ことが好ましい。第一及び第五解砕棒列は、回転軸の一端から65mm付近に配置され、第一解砕棒列に隣接する第二解砕棒列、第二解砕棒列に隣接する第三解砕棒列、第三解砕棒列に隣接する第四解砕棒列はそれぞれ、第一解砕棒列と第五解砕棒列との間に、回転軸の長手方向に略等間隔に配置され、更に隣接する解砕棒列において各解砕棒は回転方向に45°ずれるように配置されているものが好ましい。
第二の解砕部は、直径110mm、長さ580mmの円柱状回転軸1本と、その外周面上に備えられた解砕棒81本とからなり、解砕棒は、直径9mm、長さ20mmの円柱形状を有し、径方向外方に向かって延びるようにその一端が回転軸に取付けられており、解砕棒は、回転軸の外周面上で回転方向に120°間隔で配置されて解砕棒列を構成している(すなわち、各解砕棒列は3本の解砕棒からなる)ことが好ましい。回転軸の一端から30mm付近に配置された第一解砕棒列と、それに隣接する第二解砕棒列とから構成される第一の対において、第一解砕棒列と第二解砕棒列とが回転方向に60°ずつ解砕棒がずれて配置されており、第二解砕棒列に隣接する第三解砕棒列と、それに隣接する第四解砕棒列とから構成される第二の対においても、第一の対と同様に、第三解砕棒列と第四解砕棒列とが回転方向に60°ずつ解砕棒列がずれて配置されており、第一解砕棒列の解砕棒と第三解砕棒列の解砕棒とは回転方向に5°ずつずれて配置されており、第五解砕棒列から第27解砕棒列についても同様に、奇数列と偶数列とで対を形成し、各対における奇数列は、隣接する対の奇数列と5°ずつずれるように回転方向に配置されているものが好ましい。
このような、第一の解砕部と第二の解砕部とを備えた解砕機としては、例えば日本ベルティング社製クラッシャーが挙げられる。
【0068】
冷却固化物と解砕棒との接触は、解砕棒を備えた回転軸に向けて板状固形物などの冷却固化物を一定速度で搬送することにより行ってもよいし、反対に、静置された冷却固化物に対して、解砕棒を備えた回転軸を回転させながら移動させることにより行ってもよいが、なかでも、冷却固化物を一定速度で搬送して接触させることが好ましい。その際の搬送速度は、解砕棒の先端周速度に対して0.005〜0.6倍が好ましく、0.01〜0.5倍がより好ましい。また、接触時における回転軸と冷却固化物との距離は、回転軸に備えられた最短長さの解砕棒の先端が、板状固形物の厚さの1/4程度まで、好ましくは1/2程度まで到達するような距離とすることが好ましい。
【0069】
このようにスルホン化工処理〜解砕処理を行う工程(I−1)により、準安定状態にあるフレーク状のα−SF塩含有固形物(m)が得られる。
【0070】
[工程(I−2)]
工程(I−2)では、上述の工程(I−1)で得られた準安定状態にあるα−SF塩含有固形物(m)を結晶化する。これにより、安定状態にあるα−SF塩含有固形物(s)が得られる。
結晶化する方法としては、例えば下記(i)〜(iii)の方法が挙げられる。
(i)準安定固体(m)を、30℃以上、20000Pa以下の圧力において、少なくとも48時間維持する方法(以下、方法(i)という場合がある。)。
(ii)準安定固体(m)を溶融して得られた溶融物を、準安定固体(m)の融点以上で、かつ、安定固体(s)の融点以下の温度で、5分間以上維持する方法(以下、方法(ii)という場合がある。)。
(iii)準安定固体(m)を溶融して得られた溶融物に対して、準安定固体(m)の融点以上、かつ、80℃以下の温度において、100(1/s)以上の剪断速度で剪断力を与える方法(以下、方法(iii)という場合がある。)。
【0071】
なお、準安定固体(m)および安定固体(s)の融点は、示差走査熱分析計を用いた熱分析により予め決定できる。準安定固体(m)および安定固体(s)の融点は、上記式(1)のR
1およびR
2の炭素数などにより異なる。
【0072】
以下、方法(i)〜(iii)について説明する。
(方法(i))
方法(i)では、準安定固体(m)を30℃以上、20000Pa以下の圧力において、少なくとも48時間維持する。
温度を30℃未満とすると、結晶化は進行するが、その速度は極めて遅い。よって、30℃以上、40℃以下の温度で維持することが好ましい。この範囲であると、準安定固体(m)が融解して融着することがないため、48時間以上維持している最中での固化を抑制できる。
維持温度は、30℃以上であれば一定温度である必要はなく、例えば断続的に加熱し、冷却しても良い。温度を維持する方法は特に限定されず、例えば準安定固体(m)を容器に入れ、その外部環境を条件温度に調整したり、容器そのものを条件温度に調整したりする方法が挙げられる。また、容器の内部に条件温度の気流を流す方法でもよい。
容器としては、サイロ、フレキシブルコンテナバッグ、ドラム缶、クラフト袋、ポリエチレンバッグ等を使用できる。
【0073】
圧力は20000Pa以下であり、好ましくは12000Pa以下であり、より好ましくは500〜8000Paである。20000Pa以下であれば、準安定固体(m)は固化しにくい。
なお、ここでいう圧力とは、容器の底面での圧力であり、以下の式により定義される。
圧力[Pa]=容器への充填質量[kg]×g[m/s
2]/容器底面積[m
2]
式において、gは重力加速度である。
準安定固体(m)を容器に充填した場合、自重により容器底部へ圧力がかかることは当然ながら避けられない。よって、容器の形状、充填量などを調整し、圧力を上記範囲とすることが好ましい。
【0074】
維持時間が48時間以上であると、準安定固体(m)から安定固体(s)への転換が充分に進行する。維持時間が過度に長くなると、工場稼働率の低下等につながることから、好ましくは72時間以上、6週間以下である。
準安定固体(m)を上記条件にて維持する間、準安定固体(m)を容器に入れて密閉状態としてもよいし、開放状態としてもよいが、開放状態とすると吸湿の可能性があるため、湿潤した空気との接触は避けた方がよい。
【0075】
最も好ましい方法(i)の条件は、30〜35℃の温度で、3000〜7000Paにおいて200〜700時間維持する条件である。こうして得られる安定固体(s)は、融点が50℃以上と高いため、高温下で保存しても融解しにくい。
【0076】
(方法(ii))
方法(ii)では、準安定固体(m)を溶融して得られた溶融物を、準安定固体(m)の融点以上、かつ、安定固体(s)の融点以下の温度で、5分間以上維持する。
上記式(1)の脂肪酸アルキルエステルから得られるα−SF塩の場合、具体的には40℃以上、90℃未満の温度で維持することが好ましく、50℃以上、80℃未満の温度で維持することがより好ましい。温度が上記範囲内であると、短時間で準安定固体(m)から安定固体(s)に転換されやすい。また、維持時間が上記範囲内であると、準安定固体(m)が確実に安定固体(s)に転換する。
最も好ましい方法(ii)の条件は、55〜75℃の温度で、10〜500分間、維持する条件である。
【0077】
(方法(iii))
方法(iii)では、準安定固体(m)を溶融して得られた溶融物に対して、準安定固体(m)の融点以上、かつ、80℃以下の温度において、100(1/s)以上の剪断速度で剪断力を与える。
上記方法(ii)では、準安定固体(m)の溶融物を所定温度で所定時間維持することにより、安定状態へと転換させたが、方法(iii)では、所定時間維持する代わりに剪断力を与える。剪断力を与えることにより、安定状態への転換が早くなる。
【0078】
剪断力を付与する手段は特に限定されないが、例えば、各種混練装置や押出造粒装置が挙げられる。具体的には、栗本鐵工所株式会社製KRCニーダー、Mazzoni S.p.a製Milling Prodder等の市販品を使用できる。
剪断速度は、剪断速度=羽先端速度/クリアランスで規定され、100(1/s)以上であり、150(1/s)以上が好ましい。100(1/s)以上とすると、撹拌処理が充分となり、準安定固体(m)が確実に安定固体(s)に転換する。
剪断力を与える時間は、5秒以上であって5分間未満の時間であることが好ましい。上記範囲の下限値以上であると、準安定固体(m)が充分に安定固体(s)に転換し、上記範囲の上限値以下であると、大型の装置(混練装置、押出造粒装置等)を用いる必要がない。
最も好ましい方法(iii)の条件は、55〜75℃の温度で、200〜5000(1/s)の剪断速度で剪断力を与える条件である。
【0079】
以上説明した方法(i)〜(iii)などにより、準安定固体(m)が結晶化して安定固体(s)に転換したことは、示差走査熱分析計での熱分析により確認できる。
例えば、上記式(1)におけるR
1の炭素数が14と16との混合物から製造されるα−スルホ脂肪酸メチルエステル塩(MES)の場合、その準安定固体(m)を熱分析すると、例えば
図3に示すように、ピークトップを約40〜50℃に有する、約35〜55℃の温度帯に発現する熱吸収(融解)ピークが観察される。この場合、50℃以上の領域における熱吸収は少ないため、50〜130℃における熱吸収ピーク面積は、0〜130℃における熱吸収ピーク面積に対して50%未満となる。
これに対し、結晶化後の安定固体(s)を熱分析すると、例えば
図4や
図5に示すように、約40〜50℃付近のピークが低減し、約50℃以上(約50〜70℃と、約70〜90℃付近)の領域に複数のピークが観察されるようになる。この場合、50〜130℃における熱吸収ピーク面積S1が、0〜130℃における熱吸収ピーク面積S2に対して50%以上となる。
このように安定固体(s)は、より高温で熱吸収ピークが発現するものであり、準安定固体(m)よりも高温領域で安定であると理解できる。
なお、
図3は、後述の実施例1で得られた準安定固体(m)の熱分析結果であり、
図5は、実施例1の準安定固体(m)を結晶化して得られた安定固体(s)の熱分析結果である。
【0080】
安定固体(s)の水分率は、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましい。下限値は0.5質量%が好ましい。水分率が上記範囲内であると、安定固体(s)の保存安定性が優れ、低温でも粘着性が増大しにくい。そのため、安定固体(s)の保管、輸送時の取扱性が良好となる。
なお、MESの安定固体(s)の場合、水分率が低いと、約70〜90℃付近の熱吸熱ピークの絶対値が大きくなる傾向にある。
【0081】
示差走査熱分析計としては、市販されている一般の示差走査熱量計であれば、入力補償型、熱流束型のいずれも使用できる。具体的には、例えば、パーキンエルマー社の「Diamond DSC」、セイコーインスツル株式会社の「EXSTAR 6000」等の市販品が挙げられる。試料を入れるサンプルパンとしては、アルミニウム製またはステンレス製のものを用いる。昇温速度は、1〜2℃/minであることが好ましい。昇温速度が上記範囲の下限値以上であるとノイズを抑制でき、上記範囲の上限値以下であると、微細なピークを問題なく検出できる。
【0082】
なお、50〜130℃における熱吸収ピーク面積S1と、0〜130℃における熱吸収ピーク面積S2は、示差走査熱分析計に付属しているソフトウエア等を用いて、「自動分割積分」処理を行うことにより、それぞれ求められる。
また、50〜130℃において発熱ピークが認められた場合には、該発熱ピーク面積の絶対値を50〜130℃における熱吸収ピーク面積から差し引いた値をS1とする。同様に、0〜130℃において発熱ピークが認められた場合には、該発熱ピーク面積の絶対値を0〜130℃における熱吸収ピーク面積から差し引いた値をS2とする。
【0083】
<工程(II)>
工程(II)では、工程(I)で得られた安定固体(s)を水に溶解させ、α−SF塩水溶液を製造する。
ここで、安定固体(s)を溶解する水の温度をTs(℃)とし、該安定固体(s)を示差走査熱分析計で熱分析した際に観測される熱流量最大値の熱吸収ピークトップ温度をTmax(℃)とした場合、温度Ts(℃)と温度Tmax(℃)とが、下記の関係を有するように、水の温度Ts(℃)を決定する。
【0085】
具体的には、まず、溶解させる安定固体(s)を示差走査熱分析計で熱分析して、温度Tmax(℃)を求める。そして、水の温度Ts(℃)を温度Tmax(℃)の±5℃以内に温度調整し、撹拌しながら、温度調整された水に安定固体(s)を加える。
例えば、
図4に示したDSCチャートにおいては、熱流量最大値の熱吸収ピークトップ温度Tmax(℃)は88℃であるため、水の温度Ts(℃)を83〜93℃の範囲に調整してから、水に安定固体(s)を加えて溶解させる。
図5に示したDSCチャートにおいては、熱流量最大値の熱吸収ピークトップ温度Tmax(℃)は60℃であるため、水の温度Ts(℃)を55〜65℃の範囲に調整してから、水に安定固体(s)を加えて溶解させる。
【0086】
より好ましくは、温度Ts(℃)と温度Tmax(℃)とが、下記の関係を有するように、水の温度Ts(℃)を決定する。
【0088】
このように、溶解させる安定固体(s)の熱流量最大値の熱吸収ピークトップ温度Tmax(℃)に応じて、該安定固体(s)を溶解する際の水の温度Ts(℃)を調整することにより、例えば10〜20℃程度の低温条件下でも析出が生じにくく、低温安定性に優れたα−SF塩水溶液が得られる。低温安定性に優れたα-SF塩水溶液は、ハンドリングしやすく、また、液体洗剤を製造する際などに、他の材料とも良好に混和する。
低温安定性の向上効果は、広い範囲のα−SF塩水溶液濃度において得られるが、α−SF塩水溶液のアニオン界面活性剤濃度が、好ましくは3〜25質量%で、より好ましくは5〜20質量%の範囲であると、低温安定性の向上効果が顕著に得られる。
【0089】
このように特定温度で安定固体(s)を水に溶解させることにより、低温安定性に優れたα−SF塩水溶液が得られる理由は、必ずしも明らかではないが、熱流量最大値の熱吸収ピークトップ温度Tmax(℃)から±5℃の温度範囲内の水に安定固体(s)を溶解させると、安定固体(s)の水溶液中での構造が安定化することに起因するものと考えられる。熱流量最大値の熱吸収ピークトップ温度Tmax(℃)から±5℃の範囲外の水中では、安定固体(s)の水溶液中での構造バランスが崩れやすく、それにより結晶化、すなわち析出が生じやすくなるものと考えられる。
特に安定固体(s)が、副生物である硫酸メチル金属塩や脂肪酸スルホナート金属塩を含有する場合や、アシル基の炭素数に分布を持っている場合(アシル基の炭素数が異なるα−SF塩の混合物である場合)には、安定固体(s)の結晶構造が複雑である。その場合、溶解時の結晶状態によって、水溶液中におけるα−SF塩の構造も複雑に変化すると考えられるが、特に熱流量最大値の熱吸収ピークトップ温度Tmax(℃)から±5℃の範囲の水に溶解させることにより、安定固体(s)の水溶液中での構造を安定化させる効果が顕著となると考えられる。
【0090】
なお、50〜130℃における熱吸収ピーク面積S1が、0〜130℃における熱吸収ピーク面積S2に対して50%以上となるという条件を満たさないα−SF塩含有固体を水に溶解させる場合に、水の温度を熱流量最大値の熱吸収ピークトップ温度Tmax(℃)から±5℃の範囲に設定したとしても、得られる水溶液の低温安定性は改善されない。これは、α−SF塩の構造が安定しない準安定状態などで水に溶解させると、水溶液中でのα−SF塩の構造も安定しないことによるものと推察される。
【実施例】
【0091】
以下に実施例を用いて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0092】
<使用した原料等>
(1)脂肪酸メチルエステル
脂肪酸メチルエステル(A−1)〜(A−4)を用いた。これらのアシル基の炭素数分布を表1に示す。
【0093】
【表1】
【0094】
(A−1):エメリー社製の商品名「Edenor ME C16−80 MY」。パーム油を起源とし、エステル化を行い、アシル基の炭素数16のメチルエステルを所定比率になるように添加・混合した後、水添し、全蒸留(ボトムカット)を行ったもの。
(A−2):「パステルM16(ライオン株式会社製の脂肪酸メチルエステル)」と、「パステルM18(ライオン株式会社製の脂肪酸メチルエステル)」とを、表1に示すアシル基の炭素数となるように、混合した混合物。
(A−3):「パステルM16(ライオン株式会社製の脂肪酸メチルエステル)」と、「パステルM18(ライオン株式会社製の脂肪酸メチルエステル)」とを、表1に示すアシル基の炭素数となるように、混合した混合物。
(A−4): エメリー社製の商品名「Edenor ME C16−60 MY」。パーム油を起源とし、エステル化を行い、アシル基の炭素数16のメチルエステルを所定比率になるように添加・混合した後、水添し、全蒸留(ボトムカット)を行ったもの。
【0095】
(2)スルホン化ガス:乾燥空気(露点−55℃)を用いてSO
2を触媒酸化して生成したもの。
(3)メタノール(エステル化処理において使用):工業グレード(水分1000ppm以下)。
(4)苛性ソーダ(中和処理において使用):工業グレードの製品(48質量%濃度)を上水で希釈したもの。
(5)過酸化水素水(漂白処理において使用):工業グレードの過酸化水素水(35質量%濃度:純正化学株式会社)。
【0096】
製造例1〜4において、以下のように工程(I−1)および(I−2)を行い、安定固体(s)であるα−SF塩含有固形物(B−1)〜(B−4)をそれぞれ製造した。製造例5では、準安定固体(m)であるα−SF塩含有固形物(B−5)を製造した。なお、工程(I−1)のうち、スルホン化処理〜中和処理は、
図1の構成の製造システムを用いて行った。
【0097】
(製造例1):α−SF塩含有固形物(B−1)の製造
〔工程(I−1)〕
(スルホン化処理)
槽型スルホン化反応器に、脂肪酸メチルエステル(A−1)の100質量部を投入し、スルホン化ガスを反応モル比(SO
3/脂肪酸メチルエステル)=1.2で添加し、スルホン化(ガス接触操作)(80℃、240分間)を行った。その後、エステル化槽に移送し、熟成操作(80℃、20分間)を行った後、脂肪酸メチルエステル(A−1)の100質量部に対して硫酸ナトリウムの5質量部を15分間かけて添加し、硫酸ナトリウムの添加開始から20分間撹拌した。このようにしてスルホン化物を得た。
なお、エステル化槽は、内径600mm、容器深さ816mmのジャケット付撹拌槽(10%皿型鏡板、邪魔板4枚)であり、傾斜タービン翼6枚からなる撹拌翼を用い、下向き流れとなるよう据付けた。撹拌回転数は277rpmとした。
【0098】
(エステル化処理)
スルホン化処理で得られたスルホン化物の100質量部に対してメタノール3質量部(SO
3の二分子付加体に対して1.5倍モル)を添加し、エステル化(80℃、75分)を行い、エステル化物を得た。
【0099】
(中和処理)
ついで、エステル化処理で得られた生成物を、30質量%水酸化ナトリウム水溶液と共に、ミキサーの撹拌羽根近傍に同時かつ連続的に投入し、撹拌混合することにより、中和反応を行い、α−スルホ脂肪酸メチルエステル塩(中和物)を製造した。得られた中和物の温度が80℃、pH6.0付近になるように中和物を調製した。pH測定は、中和ラインに設置したpH計(SHDM−135:東亜ディーケーケー(株)製)により、中和ラインを流れる中和物(原液、80℃)に対して直接行った。
【0100】
(漂白処理)
ついで、熱交換器を有する循環ラインを備えた循環ループ方式の漂白剤混合ラインに、この中和物を180〜200kg/hrの供給速度で供給するとともに、35%過酸化水素水をスルホン化物の色調に応じて3.5〜11.5kg/hr(AI(有効成分:α−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩)に対して純分で1〜3質量%)で供給し、循環ラインからの漂白混合済み中和物(予備漂白物)と過酸化水素水とが充分に混合するようにした。(500(5%KLETT)以下であれば1質量%、500から1000(5%KLETT)であれば2質量%、1000から1500(5%KLETT)であれば3質量%)
ループ循環量は、予備漂白物に新たに加えられる中和物の15倍量であり、循環ループ管内圧力は4kg/cm
2であった。また、循環ループの温度は、熱交換器によって80℃に調節し、循環ループの滞留時間は10分間とした。
ついで、これを図示略の流通管方式の漂白ラインに導入して漂白を進行させた。なお、漂白ラインとしては、ジャケット付き二重管で、温度、圧力調節が可能なものを採用した。漂白剤混合物の流れはピストンフローで、圧力4kg/cm
2、最高温度が80℃以上になるよう調節し、滞留時間は180分間とした。
こうしてα−SF塩含有固体ペーストを得た。
【0101】
(濃縮処理)
ついで、得られたα−SF塩含有固体ペーストを真空薄膜蒸発機(伝熱面:4m
2、Ballestra社製)に200kg/hrで導入し、内壁加熱温度100〜160℃、真空度0.01〜0.03MPaにて濃縮し、温度100〜130℃の濃縮物(溶融物)として取り出した。
なお、ここで得られた濃縮品の一部を冷却し、濃縮品に含まれるα−SF塩濃度については、後述するように、JIS K3362に記載されているメチレンブルー(MB)逆滴定法で測定した。また、
α−スルホ脂肪酸ジナトリウム塩(Di−Na)、メチル硫酸ナトリウム(MeSO
4Na)、硫酸ナトリウム(Na
2SO
4)の各濃度については、後述するように、液体クロマトグラフ法により測定した。
【0102】
(冷却固化処理および解砕処理)
得られた濃縮品をベルトクーラー((株)日本ベルティング製)を用いて、100〜130℃から20〜30℃まで0.5分間で冷却し、準安定固体(m)の板状固形物を得た。
その後、解砕機((株)日本ベルティング製)を用いて板状固形物を解砕し、フレーク状のMESの準安定固体(m)を得た。
【0103】
〔工程(I−2)〕
上述の方法(i)を採用し、準安定固体(m)を安定固体(s)に変換した。具体的には、フレキシブルコンテナバックを用いる試験に基づき、430Lのポリプロピレン製フレキシブルコンテナバッグ((有)古田商店製)にポリエチレン製の内袋を入れ、そこに、工程(I−1)で得られたフレーク状のMESの準安定固体(m)の200kgを入れ、表2に示した温度、圧力において、表2に示した期間に亘って放置した。このようにして安定固体(s)であるα−SF塩含有固形物(B−1)を得た。得られたα−SF塩含有固形物(B−1)の分析結果を表2に示す。
また、該α−SF塩含有固形物(B−1)について、後述するようにして示差走査熱分析計で熱分析を行い、0〜130℃における熱吸収ピーク面積S2に対する、50〜130℃における熱吸収ピーク面積S1の割合;観測された熱流量最大値の熱吸収ピークトップ温度Tmax(℃)を求めた。結果を表3に示す。
【0104】
(製造例2):α−SF塩含有固形物(B−2)の製造
脂肪酸メチルエステル(A−1)の代わりに、脂肪酸メチルエステル(A−2)を使用した以外は、製造例1と同様にして各工程を行い、α−SF塩含有固形物(B−2)を得た。得られたα−SF塩含有固形物(B−2)の分析結果を表2に示す。また、該α−SF塩含有固形物(B−2)について、製造例1と同様にして、示差走査熱分析計で熱分析を行い、0〜130℃における熱吸収ピーク面積S2に対する、50〜130℃における熱吸収ピーク面積S1の割合;観測された熱流量最大値の熱吸収ピークトップ温度Tmax(℃)を求めた。結果を表3に示す。
【0105】
(製造例3):α−SF塩含有固形物(B−3)の製造
脂肪酸メチルエステル(A−1)の代わりに、脂肪酸メチルエステル(A−3)を使用した以外は、製造例1と同様にして各工程を行い、α−SF塩含有固形物(B−3)を得た。得られたα−SF塩含有固形物(B−3)の分析結果を表2に示す。また、該α−SF塩含有固形物(B−3)について、製造例1と同様にして、示差走査熱分析計で熱分析を行い、0〜130℃における熱吸収ピーク面積S2に対する、50〜130℃における熱吸収ピーク面積S1の割合;観測された熱流量最大値の熱吸収ピークトップ温度Tmax(℃)を求めた。結果を表3に示す。
【0106】
(製造例4):α−SF塩含有固形物(B−4)の製造
脂肪酸メチルエステル(A−1)の代わりに、脂肪酸メチルエステル(A−4)を使用した以外は、製造例1と同様にして各工程を行い、α−SF塩含有固形物(B−4)を得た。得られたα−SF塩含有固形物(B−4)の分析結果を表2に示す。また、該α−SF塩含有固形物(B−4)について、製造例1と同様にして、示差走査熱分析計で熱分析を行い、0〜130℃における熱吸収ピーク面積S2に対する、50〜130℃における熱吸収ピーク面積S1の割合;観測された熱流量最大値の熱吸収ピークトップ温度Tmax(℃)を求めた。結果を表3に示す。
【0107】
(製造例5):準安定固体(m)であるα−SF塩含有固形物(B−5)の製造
製造例1と同様にして各工程を行い、α−SF塩含有固形物(B−5)を得た。ただし、濃縮処理まで行い、工程(I−2)を実施しなかった。得られたα−SF塩含有固形物(B−5)の分析結果を表2に示す。また、該α−SF塩含有固形物(B−5)について、製造例1と同様にして、示差走査熱分析計で熱分析を行い、0〜130℃における熱吸収ピーク面積S2に対する、50〜130℃における熱吸収ピーク面積S1の割合;観測された熱流量最大値の熱吸収ピークトップ温度Tmax(℃)を求めた。結果を表3に示す。
【0108】
【表2】
【0109】
なお、分析は下記の方法で行った。
(1)水分測定
カールフィッシャー水分計(京都電子工業(株)製、「MKC−210」)を用いて測定した。具体的には、15〜25℃でサンプル10〜100mgをカールフィッシャー試薬に完全溶解させて、測定を開始した。電極反応の終了に伴い、測定を自動的に停止した。投入サンプル量をカールフィッシャー水分計のタッチパネルに入力して水分量を算出した。
【0110】
(2)アニオン界面活性剤濃度(質量%)
試料0.3gを200mLメスフラスコに正確に量り取り、イオン交換水(蒸留水)を標線まで加えて超音波で溶解させた。溶解後、約25℃まで冷却し、この中から5mLをホールピペットで滴定瓶にとり、MB(メチレンブルー)指示薬25mLとクロロホルム15mLを加え、さらに0.004mol/L塩化ベンゼトニウム溶液5mLを加えた後、0.002mol/Lアルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム溶液で滴定した。滴定は、その都度、滴定瓶に栓をして激しく振とうした後、静置し、白色板を背景として両層が同一色調になった点を終点とした。同様に空試験(試料を使用しない以外は上記と同じ試験)を行い、滴定量の差からアニオン界面活性剤濃度を算出した。なお、ここでアニオン界面活性剤濃度とは、上述のとおり、洗浄有効成分であるα−SF塩と、副生物の1つであるα−スルホ脂肪酸ジアルカリ塩(ジ塩)との合計の濃度である。
【0111】
(3)アニオン界面活性剤中のα−スルホ脂肪酸ジナトリウム塩の割合
α−スルホ脂肪酸ジナトリウム塩(以下、「Di−Na」ともいう。)の標準品0.02,0.05,0.1gを200mLメスフラスコに正確に量りとり、水約50mLとエタノール約50mLを加えて超音波を用いて溶解させた。溶解後、約25℃まで冷却し、メタノールを標線まで正確に加え、これを標準液とした。
この標準液約2mLを、0.45μmのクロマトディスクを用いて濾過後、下記測定条件の高速液体クロマトグラフ分析を行い、ピーク面積から検量線を作成した。
【0112】
次に、α−SF塩含有固形物の1.5gを200mLメスフラスコに正確に量りとり、水約50mLとエタノール約50mLを加えて超音波を用いて溶解させた。溶解後、約25℃まで冷却し、メタノールを標線まで正確に加え、これを試験溶液とした。
試験溶液約2mLを、0.45μmのクロマトディスクを用いて濾過後、上記と同じ測定条件の高速液体クロマトグラフィーで分析し、上記で作成した検量線を用いて、試料溶液中のDi−Na濃度を求めた。
表2中には、アニオン界面活性剤濃度を100質量%とした時のDi−Naの濃度を「アニオン界面活性剤100質量%中のDi−Na量」として記載した。
【0113】
(高速液体クロマトグラフ分析測定条件)
・装置:LC−6A(島津製作所製)
・カラム:Nucleosil 5SB(ジーエルサイエンス社製)
・カラム温度:40℃
・検出器:示差屈折率検出器RID−6A(島津製作所製)
・移動相:0.7%過塩素酸ナトリウムのH
2O/CH
3OH=1/4(体積比)溶液
・流量:1.0mL/min.
・注入量:100μL
【0114】
(4)硫酸ナトリウム濃度および
メチル硫酸ナトリウム濃度(質量%)
硫酸ナトリウム及び
メチル硫酸ナトリウムの標準品をそれぞれ0.02,0.04,0.1,0.2gずつ、200mLメスフラスコに正確に量りとり、イオン交換水(蒸留水)を標線まで加え、超音波を用いて溶解させた。溶解後、約25℃まで冷却し、これを標準液とした。この標準液約2mLを、0.45μmのクロマトディスクを用いて濾過後、下記測定条件のイオンクロマトグラフ分析を行い、硫酸ナトリウム及び
メチル硫酸ナトリウム標準液のピーク面積から検量線を作成した。
次に、測定試料0.3gを200mLメスフラスコに正確に量り、イオン交換水(蒸留水)を標線まで加え、超音波を用いて溶解させる。溶解後、約25℃まで冷却し、これを試験溶液とした。試験溶液約2mLを、0.45μmのクロマトディスクを用いて濾過後、上記と同じ測定条件のイオンクロマトグラフで分析し、作成した検量線を用いて、試料溶液中の
メチル硫酸ナトリウム濃度及び硫酸ナトリウム濃度を求め、試料中の硫酸ナトリウム及び
メチル硫酸ナトリウム濃度(質量%)を算出した。
【0115】
(イオンクロマトグラフ分析測定条件)
・装置:DX−500(日本ダイオネックス社製)
・検出器:電気伝導度検出器CD−20(日本ダイオネックス社製)
・ポンプ:IP−25(日本ダイオネックス社製)
・オーブン:LC−25(日本ダイオネックス社製)
・インテグレータ:C−R6A(島津製作所製)
・分離カラム:AS−12A(日本ダイオネックス社製)
・ガードカラム:AG−12A(日本ダイオネックス社製)
・溶離液:2.5mM Na
2CO
3/2.5mM NaOH/5%(体積)アセトニトリル水溶液
・溶離液流量:1.3mL/min.
・再生液:純水
・カラム温度:30℃
・ループ容量:25μL
【0116】
(5)示差走査熱分析計での熱分析
示差走差熱分析計として、パーキンエルマー社Diamond DSCを用いた。トリオブレンダー(トリオサイエンス社製)で試料の20gを粉砕し、そのうちの5〜30mgをアルミニウム製のサンプルパンに入れ、0℃から130℃まで2℃/minの速度で昇温し、熱分析した。
この時の50〜130℃における熱吸収ピーク面積S1と、0〜130℃における熱吸収ピーク面積S2から、S1×100/S2を求めた。なお、面積S1と面積S2は、示差走査熱分析計に付属しているソフトウエアを用いて、「自動分割積分」処理を行うことにより、それぞれ求めた。また、50〜130℃において発熱ピークが認められた場合には、該発熱ピーク面積の絶対値を50〜130℃における熱吸収ピーク面積から差し引いた値をS1とし、0〜130℃において発熱ピークが認められた場合には、該発熱ピーク面積の絶対値を0〜130℃における熱吸収ピーク面積から差し引いた値をS2とした。
【0117】
(実施例1〜10、比較例1〜7)
各実施例および各比較例において、表3に示すように、各製造例で得られたα−SF塩含有固形物(B−1)〜(B−5)を水に溶解させ、2.5kgのα−SF塩含有水溶液を調製した。ここでα−SF塩含有固形物(B−1)〜(B−5)を水に溶解させる量は、得られるα−SF塩含有水溶液中におけるアニオン界面活性剤濃度が表3に示す値となるように決定した。
なお、溶解には、5Lビーカー、撹拌モーター、45度傾斜パドル(9cm)、邪魔板(4枚)等を使用した。具体的には、ビーカーに水を入れて加温し、所定の温度(Ts(℃))に到達したのを確認してから、撹拌モーターの回転数を262rpmに設定し、α−SF塩含有固形物(B−1)〜(B−5)を水に添加した。完全に溶解したことを目視で確認できるまで撹拌し、各水溶液を得た。
溶解時の水の温度Ts(℃)、α−SF塩含有固形物(B−1)〜(B−5)の熱分析により観測された熱流量最大値の熱吸収ピークトップ温度Tmax(℃)、Tmax(℃)とTs(℃)との差(Tmax−Ts(℃))を表3に示す。
そして、得られたα−SF塩含有水溶液を容量200mlのガラス瓶にサンプリングし、18℃の恒温槽内に静置した。静置して24時間後の外観を確認し、以下の4段階で評価した。結果を表3に示す。
◎:透明
○:微白濁
△:析出が認められたが、水溶液の流動性はある。
×:析出が認められ、水溶液の流動性も無い。
【0118】
【表3】
【0119】
表3に示すように、各実施例では、α−SF塩含有固形物の安定固体(s)を採用し、これを適切な温度の水に溶解させて水溶液を得ているため、水溶液の低温安定性が優れた。一方、水の温度が適切でないか、溶解させるα−SF塩が安定固体(s)ではないか、あるいはこれらの両方に該当する各比較例では、低温安定性に優れた水溶液は得られなかった。