特許第6060077号(P6060077)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6060077樹状細胞を産生するための組成物及び方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6060077
(24)【登録日】2016年12月16日
(45)【発行日】2017年1月11日
(54)【発明の名称】樹状細胞を産生するための組成物及び方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/0784 20100101AFI20161226BHJP
   C12N 5/0786 20100101ALI20161226BHJP
   C12N 5/0783 20100101ALI20161226BHJP
   A61K 35/12 20150101ALN20161226BHJP
   A61K 35/15 20150101ALN20161226BHJP
   A61P 35/00 20060101ALN20161226BHJP
【FI】
   C12N5/0784
   C12N5/0786
   C12N5/0783
   !A61K35/12
   !A61K35/15 A
   !A61P35/00
【請求項の数】6
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2013-523627(P2013-523627)
(86)(22)【出願日】2011年8月11日
(65)【公表番号】特表2013-535218(P2013-535218A)
(43)【公表日】2013年9月12日
(86)【国際出願番号】EP2011063867
(87)【国際公開番号】WO2012020100
(87)【国際公開日】20120216
【審査請求日】2014年8月8日
(31)【優先権主張番号】1013443.5
(32)【優先日】2010年8月11日
(33)【優先権主張国】GB
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】509188872
【氏名又は名称】サイトヴァック エイ/エス
【氏名又は名称原語表記】CYTOVAC A/S
(74)【代理人】
【識別番号】110000774
【氏名又は名称】特許業務法人 もえぎ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】キルキン,アレクセイ
(72)【発明者】
【氏名】ズハンズガジャン,カリン
(72)【発明者】
【氏名】ジェンセン,マーティン ローランド
【審査官】 原 大樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−013166(JP,A)
【文献】 特表2005−515192(JP,A)
【文献】 特開2009−065835(JP,A)
【文献】 Immunology Letters,2005年,Vol.99,p.209-216
【文献】 British Journal of Haematology,2001年,Vol.115,p.831-844
【文献】 The Journal of Immunology,2002年,Vol.168, No.3,p.1131-1138
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00−5/28
C12M 1/00−3/10
A61K 35/00−35/768
36/06−36/068
MEDLINE/BIOSIS/EMBASE/WPIDS/WPIX/CAplus(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程を含む、単球の培養によって未成熟樹状細胞を産生する方法:
ヘパリン及びヒト血清を含む前処理培地による組織培養表面の前処理;
血清を含まない吸着培地を使用する当該組織培養表面への単球の吸着;
非付着性細胞の除去;及び
血清を含まない培養培地を使用する当該単球の培養。
【請求項2】
当該ヒト血清が2から10%の濃度を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
当該前処理培地が10から200U/mLのヘパリン濃度を有する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記前処理培地が25から100U/mLのヘパリン濃度を有する、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
以下の工程を含む、単球の培養によって抗原提示未成熟樹状細胞を産生する方法:
ヘパリン及びヒト血清を含む前処理培地による組織培養表面の前処理;
血清を含まない吸着培地を使用する当該組織培養表面への単球の吸着;
非付着性細胞の除去;
血清を含まない培養培地を使用する当該単球の培養による未成熟樹状細胞の取得;及び
腫瘍抗原を用いた当該未成熟樹状細胞の負荷。
【請求項6】
以下の工程を含む、腫瘍特異的CD8+細胞傷害性Tリンパ球の調製方法:
ヘパリン及びヒト血清を含む前処理培地による組織培養表面の前処理;
血清を含まない吸着培地を使用する当該組織培養表面への単球の吸着;
非付着性細胞の除去;
血清を含まない培養培地を使用する当該単球の培養による未成熟樹状細胞の取得;
腫瘍抗原を用いた当該未成熟樹状細胞の負荷による抗原提示未成熟樹状細胞の取得;及び
生体外において、T細胞リンパ球を活性化するために当該抗原提示未成熟樹状細胞を使用し、それによって、腫瘍特異的CD8+細胞傷害性Tリンパ球を取得すること。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件出願は、樹状細胞を産生するための組成物及び方法に関し、特に、免疫能を有する未成熟樹状細胞を産生するための組成物及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多くの感染病原体と同様に、腫瘍細胞は、正常細胞には存在しない特異的なタンパク質抗原を発現する。潜在的には、免疫系は、これらの腫瘍細胞を認識して除去することができる。腫瘍細胞認識及び破壊を媒介することができる主要なエフェクター細胞集団は、細胞傷害性Tリンパ球(CTL)である。CTL応答を誘導するためには、抗原は、抗原提示細胞(APC)によって、CTL前駆体に対して提示されなければならない。この15から20年の間、免疫療法研究は、最も効率的な抗原提示細胞としての樹状細胞の利用に焦点を合わせてきた。
【0003】
樹状細胞を調製する際に最も簡便な供給源となるのは、血中単球である。Peters は、単球が培養液中で、自発的に(3)、また、2種のサイトカイン(顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(Granulocyte Macrophage Colony-Stimulating Factor, GM-CSF)及びインターロイキン4(Interleukin-4, IL-4)) の存在下で(4)、樹状細胞様細胞に変換できるということを記載した。Romani ら(1994) (5) 及びSallusto 及びLanzavecchia (1994) (6)の研究以後、GM-CSF及びIL-4の存在下で培養された単球が、樹状細胞標品の最も広く使用される供給源となった。単球からの樹状細胞の調製は、伝統的には、ウシ胎仔血清(FCS)の存在下で行われる。患者がウシ血清アルブミン(BSA)に対する1型過敏症を発症する危険性があるので、現在、FCSは免疫療法のための組成物の調製に使用することは推奨されていない(10)。
【0004】
成熟及び未成熟の、2つのタイプの樹状細胞が存在する。成熟樹状細胞は、成熟樹状細胞のよく知られたマーカーであるCD83の存在によって性質決定することができる(18)。未成熟樹状細胞は、未成熟樹状細胞の特徴的マーカーであるCD1a及びCD4の発現によって同定することができる。樹状細胞の未成熟状態は、生物体における自然な状態である。感染又は病気の細胞が出現したのちに、樹状細胞は、影響を受けた臓器又は組織に局在化し、感染病原体又は病気の細胞を貪食する。樹状細胞は、その後、局所リンパ節に遊走し、加工された抗原を抗原特異的Tリンパ球に提示する。遊走の過程において、また、恐らくは、抗原特異的T細胞と相互作用する間に、樹状細胞の成熟化は開始され、T細胞刺激活性の増加に至る。成熟樹状細胞(DC)はCD80やCD86などの同時刺激性分子を高レベルに発現し、かつ未成熟DCよりも高い遊走能を有するので、効果的な抗原提示細胞になるためには、樹状細胞は成熟する必要があると一般に考えられている。
【0005】
しかしながら、未成熟樹状細胞を用いた免疫化が臨床効果を有するということを示す研究がいくつか存在する。メラノーマ患者の処置のための樹状細胞の利用に関する再調査(11)は、未成熟樹状細胞が効果的に免疫応答を誘発することを例証しており、未成熟樹状細胞が潜在的な免疫能を有することを示している。実際、樹状細胞に基づくメラノーマ患者の免疫療法に関する最初期の研究においては、未成熟樹状細胞を使用して臨床効果が示されている例も存在する(9)。
【0006】
抗原提示細胞として未成熟DCを使用することには、成熟DCの使用と比較して、潜在的な利点が存在する。成熟樹状細胞は、抗原非特異的な方法でリンパ球を刺激する(例えば、WO 2008/081035参照。これはおそらく、完全に成熟したDCによって同時刺激性分子が高いレベルで発現されていることによる。)。成熟樹状細胞が強いCTL応答を誘導するのに対し、未成熟樹状細胞は強いセントラルメモリーT細胞応答を誘発すること(12)、即ち、未成熟DCはメモリー型免疫応答を優先的に刺激することも示されている。メモリー細胞は(CD62Lなどの接着分子が存在するために(13))再循環する能力を有し、腫瘍細胞と最初に接触した後に活性化される能力を有し、かつ、腫瘍細胞を破壊したのちに増殖する能力を有しているので(14, 15)、効率的な抗腫瘍免疫を誘導するためにはメモリー型免疫応答の誘導が重要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本件発明の目的は、生体内で見いだされる未成熟DCと同様の性質を示す、免疫能を有する未成熟DCを産生する方法を提供することである。本件発明が解決しようとする具体的な課題は、未成熟DCを調製する際の異物反応を減少または除去することである。本件発明は、臨床的に有用かつ薬学的に意義のある未成熟DCを産生する方法を提供することも目的とする。この点に関しては、本件発明は、FCSを用いて産生されたDCと同じ特性を有する樹状細胞を、その調製手順でFCSを使用することなく産生することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本件発明は、その最も広い側面において、未成熟樹状細胞を産生する方法を提供し、特に、メモリー型抗腫瘍T細胞応答を刺激することができる、免疫能を有する未成熟樹状細胞を産生する方法を提供する。別の側面において、本件発明は、IL-15を発現する樹状細胞を産生する方法を提供する。
【0009】
本発明に従えば、以下の少なくとも一つによって特徴づけられる、単球の培養によって樹状細胞を産生する方法が提供される: 実質的に血漿を含まない前処理培地、ヘパリンを含む前処理培地、及びタンパク質溶液を含む前処理培地のうちの少なくとも一つによる組織培養表面の前処理; 実質的に血漿を含まない吸着培地、及び実質的に血清を含まない吸着培地のうちの少なくとも一つを使用する単球の吸着; 及び実質的に血漿を含まない培養培地を使用する単球の培養。
【0010】
好ましくは、前記タンパク質溶液はヒト血清を含む。適切には、当該ヒト血清は2から10%の濃度を有する。
【0011】
一実施態様においては、前処理培地は、10から200U/mlのヘパリン濃度を有する。理想的には、前処理培地は、25から100U/mlのヘパリン濃度を有する。
【0012】
一実施態様においては、上記方法に従って産生された樹状細胞を含む組成物を提供する。一実施態様においては、当該組成物は腫瘍に直接注射可能である。
【0013】
他の側面において、本件発明は、上記方法に従って産生された未成熟樹状細胞を、免疫療法による癌の処置のための医薬品組成物を調製するために使用することを提供する。
【0014】
上記方法に従って産生された未成熟樹状細胞を含むワクチンを投与することによって、癌を処置または予防する方法は、本件発明の別の側面である。一実施態様において、当該方法は、腫瘍に直接ワクチンを注射することを含む。
【0015】
本件発明の一側面では、免疫療法によって癌を処置するための、上記方法に従って産生された未成熟樹状細胞を含む組成物が提供される。
【0016】
さらなる側面においては、上記方法に従って産生された未成熟樹状細胞から産生される、抗原提示組成物が提供される。
【0017】
本件発明のさらなる側面には以下が含まれる:
T細胞リンパ球を活性化するために上記抗原提示組成物を使用し、それによって、腫瘍特異的CD8+細胞傷害性Tリンパ球を含有する細胞傷害性組成物を取得することを含む、細胞傷害性組成物の調製方法;
腫瘍抗原に対する免疫応答を刺激するために、癌患者に対して、上記の抗原提示組成物を投与することを含む、腫瘍に対する免疫応答を刺激することによって癌を処置する方法;
上記方法に従って細胞傷害性組成物を調製すること、及び当該細胞傷害性組成物を癌患者に投与することを含む、養子T細胞療法による癌の処置方法;
上記の樹状細胞組成物を、細胞傷害性Tリンパ球の活性化のための抗原提示細胞として使用すること; 及び
上記方法によって取得された腫瘍特異的CD8+細胞傷害性Tリンパ球を、養子T細胞免疫療法のための医薬品組成物の調製に使用すること。
【0018】
本件発明の上記及び他の側面を、以下、図及び実施例を参照してさらに詳細に記載するが、これはあくまで例示である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、プラスチック前処理培地に血漿を含めることの、産生された成熟樹状細胞の表現型に対する効果を示す。
図2図2は、前処理培地にヘパリンを含めることの、最終産物中のリンパ球の割合に対する効果を示す。
図3図3は、前処理培地にヘパリンを含めることの、産生された成熟樹状細胞の表現型に対する効果を示す。
図4図4は、前処理培地にヘパリンを含めることの、産生された成熟樹状細胞によるIL-12p70産生に対する効果を示す。
図5図5は、接着培地にヒト血清を含めることの、産生された成熟樹状細胞の表現型に対する効果を示す。
図6図6は、接着培地にヒト血清を含めることの、産生された成熟樹状細胞によるIL-12p70産生に対する効果を示す。
図7図7は、未成熟樹状細胞の表現型を示す。
図8図8は、未成熟樹状細胞におけるIL-15の発現を示す。
図9図9は、未成熟及び成熟樹状細胞の可溶化液におけるIL-15タンパク質の検出を示す。
図10図10は、標識化可溶化液の取り込みを示す。
図11図11は、乳癌株化細胞MDA-MB-231の可溶化液を添加された樹状細胞で、2回刺激されたリンパ球の表現型を示す。
図12図12は、産生されたHLA-A2陽性ドナーの免疫性リンパ球の、HLA-A2陽性腫瘍細胞株MCF-7及びMDA-MB-231に対する細胞傷害活性を示す。
図13図13は、産生されたHLA-A2陽性ドナーの免疫性リンパ球の、HLA-A2陽性腫瘍細胞株LNCaP及びHLA-A2陰性細胞株T47Dに対する細胞傷害活性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
樹状細胞を産生するための本件発明の手順は、単球からDCを産生するよく知られた方法に対する著しい改善を提供する。このよく知られた方法は、末梢血から単球を単離し、当該単離された単球をGM-CSF及びIL-4の存在下で5〜7日間培養することを含む。本件発明の改善により、樹状細胞には、低レベルの同時刺激性分子や高いエンドサイトーシス活性などの有利な特性が発生する。本件発明の調製手順に従って作成された、免疫能を有する未成熟樹状細胞の特性は、生体内の未成熟樹状細胞の特性に類似している。生体内の未成熟DCの重要な特性は、高いエンドサイトーシス活性、インターロイキン15(IL-15)産生能、適切な成熟化薬剤を添加した場合に完全に成熟した非消耗樹状細胞へ分化する能力、及び試験管中でメモリー型抗原特異的CTL応答を誘導する能力である。
【0021】
末梢血の遠心分離によって得られた単核細胞の集団から単球を単離する場合、通常、単球を吸着するためにプラスチック表面が使用される。単核細胞は、単球、リンパ球及び不定の割合の血小板を含むが、これらを末梢血から遠心分離で除去することは特に難しい。吸着による単離は、単球の高い吸着特性に基づく。単球のみが表面に接着し、他の細胞要素は接着しないことが期待される。従って、非付着性細胞を除去し、接着単球の単層を洗浄することによって、単球は容易に単離されるはずである。しかしながら、実際には、他の細胞要素の有意な割合が、同様に表面に接着するであろう(参考文献(22)の図1参照)。
【0022】
単球を樹状細胞に転換する際に他の細胞要素が存在することは、樹状細胞の特性を損なう可能性がある。以前の幾つかの研究は、試験管内で産生された未成熟樹状細胞は免疫能を欠くことを報告している(7, 8)。試験管内で産生された未成熟DCと生体内で見いだされるDCの差異は、試験管内では単球からDCへの分化が損なわれていることに起因する可能性がある。単核細胞の集団中に存在する単球及び他の細胞が、プラスチックの組織培養表面に接触する際に、異物反応の結果として、分化が損なわれる可能性がある(16, 17)。異物反応は単核細胞の活性化を引き起こし、完全に能力を有する未成熟樹状細胞へと、単球が分化する能力を、阻害する因子の産生につながる可能性がある。
【0023】
樹状細胞の産生は、典型的には、プラスチック前処理、吸着、及び培養の工程を含む。本件発明の方法においては、単球の吸着工程は、単球の高度の接着を保持しながら非単球単核細胞要素の接着を減少させることにより、改善されている。
【0024】
樹状細胞の調製の吸着工程におけるリンパ球の非特異的吸着は、一般的な問題である(22)。本件発明においては、ヒト血清(2〜10%)を含有する培地を用いた、組織培養プラスチックの前処理が、プラスチック表面を被覆し、かつ、リンパ球の非特異的吸着を減少させるために採用される。単球はフィブロネクチンに対する受容体を有し、表面に結合したフィブロネクチンに接着することができるので(28, 29)、このヒト血清の効果はフィブロネクチンの存在と関連付けられる。他の供給源由来のフィブロネクチンでなくヒト血清を使用することは、免疫療法患者に投与するための組成物を調製する際に利点となる。
【0025】
非特異的な吸着及びリンパ球増殖をさらに減少させることは、本件発明において、プラスチック前処理培地にヘパリンを含ませることにより達成される。ヘパリンは、様々なタイプの体外血液処理に際して、ヒト血液細胞の吸着及び活性化を減少させるために、頻繁に使用される(26)。これらの系においては、体外装置に使用されかつ血液と直接接触するすべての表面にヘパリンが共有結合される。樹状細胞の産生において、ヘパリンは、CD1aを高レベルで発現する細胞を調製するための培養培地の添加物として使用されている(27)。しかしながら、本件発明の方法の一側面においては、ヘパリンは、特に、組織培養プラスチック前処理培地にヘパリンを含めることによる、プラスチック前処理工程で使用される。
【0026】
本発明者らは、プラスチック前処理、吸着、又は培養の際に試料培地から血漿を除外した場合に、血小板の吸着及び活性化が防止できるということも見出した。樹状細胞を調製するために培養培地に血漿を添加することは、頻繁に行われる(22, 23)。血漿はフィブリノーゲンを含み、フィブリノーゲンは、単核細胞の標品中にしばしば存在する血小板の吸着及び活性化を媒介することができる(24)。
【0027】
本件発明の一側面において、単球の非特異的活性化は、吸着工程において減少される。単球の非特異的活性化は、通常、マクロファージへの分化を促進し、樹状細胞への分化が損なわれる結果となる。本件発明において、単球の非特異的活性化の減少は、吸着工程から成人ヒト血清を排除することにより達成される。
【0028】
未成熟樹状細胞を産生するための本明細書に記載された方法は、樹状細胞ワクチンとしての使用に適した細胞を産生する。例えば、本件発明に従って産生された未成熟樹状細胞は、免疫療法癌治療の一部として、腫瘍に直接注射できる。本件発明の方法によって、強度の抗原特異的CTL応答を誘導する能力を有する樹状細胞も産生される。これらの未成熟樹状細胞を、試験管内免疫化実験において抗原提示細胞として使用する場合、生成される応答は、CTLによるCD62Lの発現、標的細胞の特異的な認識及び死滅、及び標的細胞と最初に接触した後の強力な増殖などのメモリー型応答に特徴的なものである。
【実施例】
【0029】
[実施例1]
【0030】
樹状細胞の調製
【0031】
樹状細胞はバフィーコートから産生された。60mLのバフィーコートを60mLのCa/Mg非含有のリン酸緩衝液生理食塩水(DPBS)(Cambrex)に希釈し、Lymphoprepにアプライした(4本の50-mLチューブそれぞれに14mLのLymphoprepを入れた)。末梢血単核細胞(PBMC)が血小板で汚染されることを極小化するために、Lymphoprep遠心分離(200g, 20℃)は、Romaniら(1996 (25))が記述する手順に従って、20分後に中断された。ほとんどの血小板を含む上方の15〜20mLを50-mLチューブに移して、遠心分離を再開した(460g, 20分, 20℃)。
【0032】
プラスチック組織培養フラスコの被覆は、5%のヒトAB血清を含むRPMI前処理培地を当該フラスコ(T25)に加えることによって開始した。前処理培地は、その後、T25フラスコから除去し、当該フラスコを5mLのRPMI 1640でリンスした。
【0033】
Lymphoprep遠心分離を終了したのちに、単核細胞を中間層から回収し、冷却EDTA含有DPBS (Cambrex)で2倍に希釈し、3回の遠心分離、即ち、1回目は250g、2回目は200g、最後は150gの遠心分離によって洗浄した。遠心分離は4℃で12分間行った。最後の遠心分離の後に、細胞を30mLの冷却Ca/Mg非含有DPBSに再懸濁し、Coulter Counterを使用して計数した。単球の量は、平均サイズ約9μmのピーク中に含まれる細胞の数として推定された。
【0034】
樹状細胞を産生するために、T25ポリスチレン製フラスコあたり4〜8×106の単球を含む細胞懸濁液を遠心管に移し、4℃、250gで12分間遠心分離した。その後、4mLのAIM-V吸着培地(血漿及び/又は血清の添加あり又はなし)を、個々のフラスコに添加した。さらに遠心分離したのち、取得したペレットを4〜8×106単球/mLの濃度になるよう吸着培地に再懸濁し、1mLの細胞懸濁液をそれぞれのT25フラスコに添加した。37℃で30分間吸着させたのち、非付着性細胞を除去し、接着細胞を温かいRPMI 1640培地で2回リンスし、5mLの培養培地(AIM-V培地)をそれぞれのフラスコに添加した。フラスコは、37℃のCO2インキュベーターに入れた。サイトカイン(最終濃度100ng/mLのGM-CSF及び最終濃度25ng/mLのIL-4)を翌日及び3日目に添加した。
【0035】
4日目に、10ng/ml のTNF-alpha、1000U/ml のIL-6、10ng/ml のIL-1及び0.1μg/ml のプロスタグランジンE2からなる成熟化カクテルを添加することにより、成熟する能力を測定した。6日目に、細胞を回収し、表現型をFACS解析により測定し、上清中のIL-12p70の産生をELISA解析により測定した。細胞は、直接抱合型のCD83(フィコエリトリン(PE))に対する抗体及びCD86(PE)に対する抗体を使用して染色された(全てPharmingen, Becton Dickinson社製, Broendby, Denmark.)。適切なアイソタイプコントロールを使用した。試料は、FC500フローサイトメーター(Beckman Coulter)を用いて解析した。
【0036】
DCのCD83レベルは、完全な成熟化を示すために使用された。消耗していないことを示すために、免疫応答のTh1極性化にとって重要(19)と考えられているIL-12p70サイトカインの産生を測定した。IL-12p70産生の欠如は、消耗成熟樹状細胞のマーカーと考えられている(20, 21)。
【0037】
[実施例2]
【0038】
吸着培地中の血漿の効果
【0039】
実施例1に記載した樹状細胞の調製を、AIM-V培地に加えて、血清、血漿由来血清、又は血漿のいずれかを含む吸着培地を用いて繰り返した。
【0040】
二人のドナーからの細胞を用いた実験のうち、一つの結果を図1に示す。血漿は、成熟化の程度に負の効果を有していたが、血漿由来血清は阻害効果が比較的少なかった。血漿由来血清の負の効果は、CaCl2の添加によって誘導される凝固の過程で、血漿からのフィブリノーゲンの除去が不完全であることに関連付けることができる。結論として、血漿は、樹状細胞が完全な成熟化に到達する能力に対して、負の効果を有していた。
【0041】
[実施例3]
【0042】
プラスチック前処理培地中のヘパリンの効果
【0043】
樹状細胞は、実施例1に記載したとおりに調製した。実施例3の実験においては、前処理工程においてプラスチック細胞培養表面がヘパリンで被覆されるように、プラスチック前処理培地にヘパリンを添加した。
【0044】
最終産物におけるリンパ球の比率に対するヘパリン被覆の効果を図2に示す。大多数のドナーについて、前処理培地にヘパリンを含めた結果、樹状細胞の最終収量は不変であったか又は有意でない程度に減少したが、リンパ球の比率は2分の1に減少した。産生された樹状細胞のフローサイトメトリーでは、樹状細胞の成熟化のレベルに変化は見られなかった(図3)。
【0045】
これらの樹状細胞について、成熟化の過程におけるIL-12p70のレベルも測定した。IL-12p70の産生は、標準又は試料の捕獲抗体、ビオチン化検出抗体、及びHRPストレプトアビジンを含むサンドイッチELISAによって測定した。基本的に製造業者の推奨に従い、多少の修正を加えて、IL-12p70用の「DuoSet ELISA development System」キット(R&D Systems)を使用した。Nunc maxisorp 96ウェルプレートに一晩捕獲抗体を結合させて洗浄したのちに、ブロッキング工程を室温で少なくとも3時間行った。標準物質の7段階希釈(500pg/mLから始めて)によって、標準曲線を作成した。標準および試料を室温で2時間保温したのち、4℃で一晩保温した。その後の工程は、製造業者のプロトコールに従って行われた。過酸化水素-テトラメチルベンジジン混合物をHRPの基質溶液として使用し、酵素反応を終了させたのちに、波長補正を行ったうえで、490及び620nmの計測値の差として光学濃度を測定した。
【0046】
図4に示すように、成熟樹状細胞によるIL-12p70の産生は、全てではないが幾つかの培養物において増加した。
【0047】
結論として、プラスチック前処理培地にヘパリンを含ませることによって、樹状細胞の特性を損なうことなく、最終的な樹状細胞のリンパ球による汚染が著しく減少する。
【0048】
[実施例4]
【0049】
吸着培地におけるヒト血清の効果
【0050】
吸着培地中にヒト血清を使用して、あるいは使用しないで、実施例1に記載した方法を繰り返し、結果として生じたDCの特性を調べた。図5及び6は、2人のドナーの細胞を用いて得られた結果を示す。吸着工程におけるヒト血清の存在は、標準成熟化カクテルを添加した場合に樹状細胞が成熟する能力を減少させるが、それは、CD83+細胞の比率の減少(図5)及びIL-12p70の産生減少(図6)によって示される。この効果は、血清中に、単球の活性化を誘導する免疫グロブリンが存在する結果かもしれない(16)。
【0051】
[実施例5]
【0052】
樹状細胞の最終的性質決定
【0053】
未成熟樹状細胞の最終的性質決定は、以下の方法を用いて行った。即ち、生体内に存在する未成熟樹状細胞に特徴的なマーカー(CD1a及びCD4)の発現、IL-15の発現、及び標識化可溶化液の取り込みを解析するためのFACS解析である。
【0054】
未成熟樹状細胞のFACS解析の結果を図7に示す。細胞はCD1a及びCD4陽性であった。CD4は、リンパ球によって産生されるIL-16及びMHCクラスIIに対する受容体である。樹状細胞表面のCD4がリガンド(MHCクラスII又はIL-16)と相互作用すると、樹状細胞の活性化を誘導することができ、それはさらに、樹状細胞の同時刺激機能を増強させうる。
【0055】
IL-15は、二つの方法で測定された。即ち、mRNA発現はRT-PCR(通常及びリアルタイム)によって、また、タンパク質発現はサンドイッチELISAによって測定された。
【0056】
IL-15 mRNAの発現
【0057】
RNAを試料から単離し、RNAlater (Ambion社)中で保存し、DNase処理し、逆転写し、そして、PCRに使用した。逆転写を行わない標品をネガティブコントロールとして使用したが、PCR産物が存在しないことによりゲノムDNAが全く混入していないことが示された。ヒトIL-15のためのプライマーは参考文献(30)に示されている。即ち、TAAAACAGAAGCCAACTG (センス) 及びCAAGAAGTGTTGATGAACAT (アンチセンス)である。最初に95℃で5分間変性させた後、試料は、DNA熱サイクラー中で35〜38サイクル(各サイクルは、95℃で60秒の変性、63℃で60秒(サイクル1〜3)、59℃で60秒(サイクル4〜6)、及び56℃で60秒(サイクル7〜38)のアニーリング、及び72℃で45秒の伸長)かけることによって増幅し、最後に72℃で10分伸長した。その後、一定分量のPCR産物を2%アガロースゲル上で電気泳動し、エチジウムブロマイド染色で可視化した。
【0058】
リアルタイムRT-PCRをLightcycler Fastart DNA Master Plus SYBR green I 及びLightcycler 2.0 装置(Roche Applied Science社)を使用して行った。プライマー(センス- 5'-GCCCTGGATATCTGTTCCAA-3', アンチセンス- 5'-GCTCGACACATTTCGTCTCA-3')および条件は参考文献(31)に従い、177bpのPCR産物を生じた。アニーリングは61℃で行った。βアクチンおよびGAPDHをコードする遺伝子をハウスキーピング遺伝子コントロールとして使用した。
【0059】
ELISAによるIL-15の測定
【0060】
IL-15の測定のために、それぞれの樹状細胞可溶化液を0.35mLずつ回収し、解析まで冷凍(-20℃)で保存した。IL-15の濃度は、Ready-Set-Go ELISA キット(eBioscience社, San Diego, Ca, USA) とELAST amplification system (PerkinElmer LAS, Inc.)を組み合わせて使用して測定した。当該「Ready-Set-Go」キットには、捕獲抗体、標準、ビオチン化検出抗体、及びHRPストレプトアビジンが含まれた。手順は、基本的には製造業者の推奨に従い、以下の修正を加えたうえで行った。1) Nunc maxisorp 96ウェルプレートに一晩捕獲抗体を結合させて洗浄したのちに、ブロッキング工程を室温で少なくとも3時間行った。2) 標準物質の7段階希釈(500pg/mLのIL-15から始めて)によって、標準曲線を作成し、3つ組にした標準及び試料を室温で2時間保温し、その後、4℃で一晩保温した。
【0061】
ビオチン化検出抗体の結合、及びその後のHRPストレプトアビジンの結合の後に、基本的にPerkinElmerのプロトコールに従ってELASTによる増幅を行った。その後、HRPの酵素反応を、テトラメチルベンジジン(TMB)を基質として使用して測定した。硫酸によって反応を終了させたのち、波長補正を行ったうえで、450及び550nmの計測値の差として光学濃度を測定した。
【0062】
IL-15の測定の結果を、図8(RT-PCR解析)及び図9(ELISA解析)に示す。当該結果は、本件発明に従って産生された未成熟樹状細胞は、IL-15のmRNA及びタンパク質を細胞中で発現していることを示す。実験によっては、成熟化に際して、細胞中のIL-15の量が減少しているということは興味深いというべきである。リアルタイムPCRのデータは、IL-15のmRNAが発現していることを確認している(データを示さず)。IL-15発現DCは、CTL応答の誘導において、IL-15非産生細胞と比較して優れていることが示されている(32, 33, 34)。IL-15は、メモリーCD8+細胞の産生及び維持を駆動することもできる(35, 36)。従って、IL-15の発現は、本件方法によって産生された樹状細胞の、メモリー型CTL応答を誘導する高い能力を反映している可能性がある。
【0063】
産生された樹状細胞が腫瘍細胞の可溶化液を取り込む能力があることを示すために、実施例6に記載の通りに作成された可溶化液を以下の手順で標識した。腫瘍細胞可溶化液(2〜4mgタンパク質/mL)は、Ca/Mgを添加したDPBSで調製し、1M NaOHを添加してpHを9.0に上昇させた。3mg のN-Hydroxysuccinimide-Fluorescein (NHS-Fluorescein, Pierce)を50μl の乾燥DMSOに溶解し、前記可溶化液に加えた。混合液を暗所37℃で1.5時間保温した。当該改変可溶化液を、1.5LのDPBS(Ca/Mgなし)で透析し、DPBSは12時間ごとに交換し、254nmのUVで透析液中に蛍光が検出されなくなるまで行った。1.5μLの最終可溶化液及びNHS-Fluorescein溶液を蛍光指示薬を含むTLCプレート(Kieselgel 60 F254, Merck社)にスポットし、acetonitryl:H2O / 4: 1のクロマトグラフィー系で展開した。プレートは254nmのUVで観察し、可溶化液中の全ての標識がタンパク質に共有結合しておりかつ可溶化液中に遊離標識が含まれないことを確認した。
【0064】
図10は、標識された可溶化液と37℃で60分保温された樹状細胞の顕微鏡観察を示す(a: 光学顕微鏡、b: 蛍光顕微鏡)。全ての樹状細胞が標識化可溶化液を強力に取り込んでいることが明らかに示されている。
【0065】
結論として、上記の方法で産生された樹状細胞は、高度に均質であり、生体中に存在する樹状細胞に特徴的な表面分子の必要なセットを発現し、IL-15を発現し、また、外因的に添加された腫瘍細胞の可溶化液を取り込む高い能力を有する。
【0066】
[実施例6]
【0067】
腫瘍細胞株の可溶化液を負荷した未成熟樹状細胞は、試験管内で、メモリー型応答の特徴を有する腫瘍特異的CTL応答の生成を刺激する
【0068】
本件発明の方法で調製されかつ腫瘍抗原を負荷された樹状細胞が、抗腫瘍CTL応答の生成を刺激する能力を有するかについて、乳癌細胞株MDA-MB-231の可溶化液を腫瘍抗原の供給源として使用して、試験管内で試験した。この細胞株は、広域スペクトルの癌/精巣抗原を発現する(WO 2008/081035参照)。
【0069】
腫瘍細胞は、L-グルタミン及び10%ウシ胎仔血清を補充したRPMI 1640培地中で培養した。可溶化液を調製するために、細胞をトリプシン処理で回収し、洗浄、計数し、RPMI 1640培地中に107/mLの濃度で懸濁し、5サイクルの凍結(液体窒素)及び解凍(37℃の水槽)にかけた。結果として得られた可溶化液を遠心分離(3000g、60分、4℃)で清浄し、一定分量に分けて-80℃で保存した。
【0070】
樹状細胞は実施例1の記載の通りに調製した。4日目又は5日目に、樹状細胞に腫瘍可溶化液を負荷するために、樹状細胞の培養物に対して10%の腫瘍可溶化液を添加した。
【0071】
一晩保温したのちに、細胞を回収、洗浄し、リンパ球培養培地(5%の自家血清を添加したAIM-V)に再懸濁した。腫瘍特異的CTL応答を試験管内で生成するために、負荷された樹状細胞を、自家非付着性リンパ球と1:40の比で混合し、ウェルあたり2×106のリンパ球の割合で24ウェルプレートに入れた。2、5及び8日目に、培地の半分を除去し、それぞれのウェルに、50U/mLのIL-2を含有する1mLの新鮮な培地を添加した。10日目又は11日目に、細胞を回収し、大型活性化リンパ球の濃度をCoulter Counterを使用して測定した。その後、細胞を洗浄し、解凍した可溶化液負荷樹状細胞を10:1の比率で混合し、24ウェルプレートのウェルに入れた(ウェルあたり0.5×106リンパ球、2mLのリンパ球培養培地中)。
【0072】
2及び5日目に、培地の半分を除去し、それぞれのウェルに、50U/mLのIL-2を含有する1mLの新鮮な培地を添加した。7日目に細胞を回収、計数し、FACS解析及び複数の腫瘍細胞株のパネルに対する細胞傷害性を試験するために使用した。
【0073】
リンパ球の表現型解析に関するいくつかの実験のうち、一つの結果を図11に示す。有意な割合の細胞はCD8+ Tリンパ球であり、その大部分は高いレベルのCD62Lを発現していることが分かる。
【0074】
HLA-A2陽性ドナーについて、活性化リンパ球の細胞傷害活性を、複数の腫瘍細胞株のパネルを使用して、形態学的に測定した。即ち、乳癌細胞株のMCF-7 (HLA-A2+)、MDA-MB-231 (HLA-A2+) 及びT47D (HLA-A2-)、前立腺癌細胞株のLNCaP (HLA-A2+)を使用した。5×104の腫瘍細胞を、24ウェルプレート中、10%のFCSを添加したRPMI-1640培地1mL中に播種し、試験前に2日間保温した。1×106の細胞を含む単離されたリンパ球の懸濁液1mLを、腫瘍細胞に添加した。
【0075】
24〜48時間保温したのちに、リンパ球の溶解性活性を形態学的に検出した。その実験の結果を図12及び13に示す。全てのHLA-A2陽性腫瘍細胞株について著しい溶解が観察されたが、HLA-A2陰性T47D腫瘍細胞は溶解に対して抵抗性であった。HLA-A2陽性腫瘍細胞を用いた培養物ではリンパ球の強力な増殖が観察されたのに対し、抵抗性のHLA-A2陰性T47D細胞株を用いた培養物では増殖は観察されなかった。
【0076】
高いレベルのCD62L発現、HLA-A2+腫瘍細胞株のみの溶解、並びに、適切な腫瘍抗原との接触及び認識後の強力なリンパ球の増殖というこれらの知見は、本件発明の系において特異的メモリー型CTL応答が発生することを示している。
【0077】
結論として、DCを産生するための本件発明の改善された方法によって、特異的メモリー型抗腫瘍T細胞応答を刺激することができる、完全に免疫能を有する未成熟樹状細胞が生じる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0078】
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図1
図2
図3
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図6
図7
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