【実施例】
【0045】
以下の実施例は、当業者に、本明細書において特許請求される化合物、組成物、物品、デバイス、および/または方法をいかにして作製および評価するかの完全な開示および説明を提供するために説明され、純粋に本発明の例示を意図するものであり、本発明者らが自身の発明と見なすものの範囲を限定するようには意図されない。数字(例えば、量、温度等)に関して正確さを保証する努力がなされているが、いくらかの誤差および偏差が考慮されるべきである。別途示されない限り、部は重量部であり、温度は摂氏温度であるか、または周囲温度であり、圧力は大気圧であるか、またはそれに近い。
【0046】
[実施例1:成体ラットの海馬に由来するニューロンを培養するための条件]
成体培養系のすべてのパラメータを、生体外におけるニューロン付着、再生、および長期生存の支援のために最適化した(
図1、表1)。細胞培養プロセス中の細胞外傷を、最初に解離培地の温度を4℃に低下させることによって最小限に抑えた。次に、脳断片中の細胞外マトリックスタンパク質および結合組織を、パパイン(Ca2+を除いた2mg/mLのHA、37℃の振盪水浴、1分間当たり80回転)を用いて消化し、その後、組織のすすぎ洗いを繰り返して、酵素を不活性化した。組織解離中に放出されたフリーラジカルからの酸化的損傷を、解離および平板培地中に強力な抗酸化物質Trolox(D.Mulkey et al.,2003)およびデキストロースでコーティングされた酸化セリウムナノ粒子(M.Das et al.,2007)を含ませることによって制限した。アポトーシス性物質からの直接的な神経保護を、カスパーゼ阻害剤(1、3、および6)を解離培地に添加することによって達成した。細胞外傷を最小限に抑えながら細胞崩壊を最大化するために、組織を火加工(fire−polished)ガラスパスツールピペットで解離した。最後に、解離ニューロンを、平板培地中で45分間、細胞接着面DETAでコーティングされたガラスカバースリップ上に適用して、細胞残屑の付着を最小限に抑えながら、付着ニューロンが付着することを可能にした。このプレーティング期間後、カバースリップを温HA(37℃)で穏やかに洗浄して、ミエリン鞘(Y.Z.Alabed et al.,2006)の崩壊後に存在するミエリン阻害因子を含む細胞残屑の大半を除去させた。これらの基本的な培養パラメータの改善は、ニューロンの生存および再生を最適化し(
図2〜3)、生体外制御環境下において成体ニューロンによって呈された電気的特性および発現パターンに関する研究を可能にした(
図4)。
【0047】
[実施例2:生体外での成熟したニューロンにおける細胞周期進行の阻害]
成長因子および転写因子メディエータ(
図1)の時間および用量依存的適用とともに、培地組成物(表1)を適用して、ニューロンの回復および長期の機能的生存を促進した。これらの改善された培養系パラメータは、成体ニューロンをサポートしたが、これらの最終分化した一次ニューロンが細胞周期および分裂に入ることも強要した。重要な成長因子、具体的には、塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)および解離細胞培養条件は、成体ラット海馬組織に由来する成熟したニューロンの生存および再生をサポートしたが、サイクリンおよびサイクリン依存性キナーゼ(cdk)発現の上方制御を介して、細胞周期および分裂に再び入ることも誘発した(S.B.Rodan et al.,1989、H.Katsuki et al.,2000、L.Munaron,2002、S.M.Goodyear and M.C.Sharma,2005、S.Goodyear and M.C.Sharma,2007)。ニューロンが密集に到達した後に、これらのニューロンの有糸分裂をインビトロで停止させ(
図2B、対照)、以前に分裂していたこれらのニューロンは、25μΜのグルタメートを培養培地に少なくとも24時間添加した後に、形態学的回復および電気的回復の両方を呈することが示された(D.Edwards et al.,2010)。このシステムの有用性にもかかわらず、一次解離ニューロンのより意義ある研究のためには、ニューロンの急速な増殖を排除しなければならない。
【0048】
一次最終分化した成体海馬ニューロンが細胞周期に戻って分裂することを阻止するために、複数の戦略を調査した。細胞培養条件下で増殖を阻止するための最終的に功を奏した戦略は、競合性cdk阻害剤であるロスコビチンの添加であった。1、5、および10μΜのロスコビチンを、ニューロン分裂の開始前(2DIV)およびニューロン分裂の開始後(7DIV)に、培養培地に導入した(
図2A、B)。1μΜのロスコビチンを2日目に適用したとき、細胞集団は、ロスコビチンなしの細胞集団よりも緩徐に増加した(
図2A)。10μΜのロスコビチンは、2日目に適用したとき、ニューロン集団の減少を引き起こし、7日目に導入したときに、ニューロンを大幅に喪失させた(
図2B)。5μΜのロスコビチンを2〜7日目に、かつ長期の「ブースター」濃度として2μΜのロスコビチンを7日目以降に生体外で適用することにより、安定したニューロン集団を得た(
図2B)。加えて、この安定したニューロン集団の健康状態および成熟度は、未処理の対照ニューロンと比べて平均して4〜5倍も長いこれらのニューロンによる一次軸索の急速かつ長期にわたる伸長において明らかであった(
図2C)。この細胞培養系およびロスコビチン処理を用いて、安定した成体ラットの海馬に由来するニューロン集団を得た。対照ニューロン集団が増殖して密集したが、ロスコビチンで処理されたニューロン集団は増殖して密集しなかった。これらのロスコビチンで処理された培養された非増殖性ニューロンは、培養された胚ニューロンにおいてのみ先に見られた形態学的特性を呈した。さらに、これらの非増殖性ニューロンは、成熟したニューロンマーカーMAP2およびNeuNを発現したが、増殖性細胞の核マーカーKi−67は発現しなかった。培養の数週間後、ニューロン集団は、生体外で、安定した状態を保ち(
図2A、B)、わずかのニューロンしかDETA表面から剥離しなかった。
【0049】
生体外でのニューロン増殖の阻止において無効であると最終的に証明された有糸分裂排除の他の戦略も調査した。最初に、bFGFを平板培地および/または維持培地から除去した。bFGFを含まない培地に暴露されたニューロンは、分裂しなかった。しかしながら、bFGFを欠乏したニューロン集団は、変化しないままではなく、生体外で急速に減少し、ニューロンのほぼ完全な喪失は、2週間後に明らかであった(
図2A:FGF−PおよびFGF−M、4A)。この2週間の間に、ニューロンの形態は劇的に変化し、軸索および分岐樹状突起は、細胞体に向かって退縮し、細胞体を包囲する神経突起の分岐環を最終的に形成した。因子bFGFが、ニューロンの生存、回復、および再生を支援するための無血清培養培地の不可欠な成分であることが判明した。
【0050】
培養されたニューロンの分裂を排除する有糸分裂阻害剤も調査した。FudR(10および50μΜ)ならびにara−Cを2DIVの培養培地に添加した(
図2A:F−10、F−50、およびara−C)。すべての分裂細胞がアポトーシスを余儀なくされ、ニューロン分裂を阻止するのではなく、培養された一次ニューロンを排除したため、この戦略は失敗に終わった。両方ともに潜在的な抗有糸分裂活性を有する、さらなる新たな作用物質であるトロロックスおよびアフィディコリンを、この培養系におけるニューロンの分裂を阻害するために試験した。癌性ヒト乳癌細胞に対して抗有糸分裂特性を有する抗酸化物質、トロロックス(A.e.a.Charpentier,1993)は、40μΜおよび100μΜの両方ともに、一次ニューロンが生体外で周期に戻ることを阻止するのに有効ではなかった(
図2A:T−40、T−100)。しかしながら、その抗酸化物質活性がニューロンの生存を改善することが認められ(
図2A)、それを70nMで解離培地および平板培地の両方に組み込んだ(表1)。骨髄細胞分裂に対して以前に有効であった細胞周期阻害剤、アフィディコリン(D.S.Dimitrova and D.M.Gilbert,2000)も、有効な抗有糸分裂活性を呈さなかった。1.5μΜ(ニューロンが細胞周期に戻るのを妨げるのに十分に高い濃度)で、アフィディコリンは、大半の培養されたニューロンを壊死またはアポトーシスのいずれかにさせ(
図2A:A−1.5)、神経突起の再生およびこれらの生存するニューロンの機能的電気的特性を制限した。
【0051】
[実施例3:有糸分裂活性の排除後の、生体外における成体海馬ニューロンの電気活性および膜チャネル発現]
ニューロンを、全細胞パッチクランプ電気生理学を用いて、6、13、および25DIV後の電気的回復について評価し、電流を細胞内に/から移動させ、かつ活動電位を発射および伝播する能力によって定義されるニューロンの電気的電位を評価した。生体外での電気活性の回復が、抑制されることなく分裂することを許容されたニューロン集団と、有糸分裂がロスコビチンの適用によって阻止されたニューロンとの間で著しく異なることが分かった。生体外で抑制されることなく有糸分裂的に分裂することを許容されたとき、ニューロンは、最大3週間、生体外において電気的に完全に回復せず、その後、ニューロンが密集に到達し、かつ24時間を超えて25μΜのグルタメートで刺激された後にのみ回復した(D.Edwards et al.,2010)。ロスコビチン(生体外で2〜7日目に5μΜ、その後、7日目後は2μΜのロスコビチン)の適用による生体外でのニューロン分裂の阻止は、生体外でのニューロンの電気的回復に必要とされる時間スケールを著しく変化させた。グルタメート(25μΜ)を5DIV後に適用した。ニューロンは、6DIV後に回復し、電流を細胞内に/から移動させる能力を示し、活動電位も発射した(
図4A、1列目)。静止膜電位(Vm)の増加、膜抵抗(Rm)の増加、電流フローの増加(内向きナトリウムおよび外向きカリウムの両方)、ならびに活動電位振幅の増加において見られるように、これらのニューロンのさらなる回復が13および25DIV後に見られた(
図4、A)。
図4Bは、ニューロン内への/からの電流フローおよび活動電位を呈する例のトレースを示す。
【0052】
[実施例4:タンパク質発現は、生体外における成体海馬ニューロンの成熟度を示す]
この系で培養されたニューロンの成熟度を調査した。有糸分裂的に増殖することを許容されたニューロンを、ニューロフィラメント−M、Ki−67、およびNeuNの発現について調査した。ニューロン特異的構造タンパク質ニューロフィラメント−Mについて陽性であったが、いずれのニューロンも成熟したニューロン核マーカーNeuNについて陽性ではなかった。その代わりに、すべてのニューロンは、細胞周期において活性である分裂中ニューロンにおいてのみ発現されるKi−67について陽性であった。ロスコビチンを細胞培養培地に添加した後、ニューロンはもはや分裂せず、発現パターンが変化した。ニューロンは、依然として、成熟した構造タンパク質(MAP2)を発現したが、増殖マーカーKi−67の代わりに、成熟した核マーカーNeuNを発現した(
図2E)。これらのニューロンをNMDAチャネルサブユニット発現についても調査した。この細胞培養系におけるニューロンを、2つのサブユニットのそれぞれについて免疫細胞化学的に調査したところ、NR2AサブユニットがNR2Bサブユニットの数を上回り、両方のサブユニットが存在した。
【0053】
[実施例5:生体外における一次ニューロン集団の拡張]
bFGFおよびロスコビチンの組み合わせは、ニューロン集団を安定した状態で保ち得るか、または拡張し得る最終分化した一次成体海馬ニューロンの培養系を可能にした。これらのニューロンが、図および表1に記載の基本的な培養条件下で、すなわち、ロスコビチンなしで拡張されたとき、3つのはっきりと異なる段階が観察された。段階1(0〜3DIV)において、成熟したニューロンは、ニューロフィラメント−M(脳内のニューロンに固有である150kDaの構造タンパク質)およびNeuN(成熟したニューロンにおいてのみ発現する核マーカー(R.J.Mullen et al.,1992))の発現によって示されるように、細胞培養の外傷から回復することができ、形態学的に再生した。平板培地の成分(表1)、具体的には、モル浸透圧濃度の調整を伴った成長因子、抗酸化物質、およびNeurobasal−Aは、この回復および再生に不可欠であった。段階2(3〜21DIV)において、維持培地中のbFGF(表1)は、cdk5発現を上方制御するその活性を介してニューロンが細胞周期に再び入るように誘導した(B.−S.Li et al.,2001、Z.Yan et al.,2002、S.M.Goodyear and M.C.Sharma,2005、B.Menn et al.,2010)。以前に休止状態にあって長い軸索および分岐樹状突起を有していた最終分化した位相光沢ニューロンは、最初にそれらの神経突起を細胞体に退縮させ、分裂し、最終的に、それらの軸索および樹状突起を再伸長し、観察された期間は、神経突起退縮、分裂、および神経突起伸長まで平均して90分間であった。いちど分裂したニューロンは、この細胞分裂プロセスを繰り返し、平均して24〜36時間毎に数が倍になる。これらの期間中、ニューロンは、発現パターンがニューロンおよび分裂細胞の両方と一致した状態を呈し、すべての細胞が、ニューロン形態とKi−67(増殖性細胞の核マーカー(T.Scholzen and J.Gerdes,2000))およびNf−Mの発現との両方を呈した。しかし一方で、これらの分裂ニューロンは、NeuNを発現しなかった。段階1におけるすべてのニューロンのパターン、具体的には、すべての細胞が成熟したニューロンマーカーを発現していること、ならびに段階2にわたる増殖マーカーの普遍的発現のパターンに基づいて、分裂しているのは成熟したニューロンであり、海馬の歯状回に存在することで知られている神経前駆細胞のサブセットではないことが決定された。より小さい前駆ニューロン集団の増幅のみが生じていたのであれば、存在するニューロンの一サブセットのみがKi−67発現の証拠を示していたはずである。
【0054】
段階3(21〜90DIV)において、ニューロンは密集に到達し、増殖を停止し、この時点でKi−67のニューロン発現が終了し、かつNeuNが再び現れた。しかしながら、密集したニューロンを、1つのDETAカバースリップから複数のDETAカバースリップへと、より低い細胞密度にて継代すると、1つのカバースリップ単独において見られる増殖を超える継続的なニューロン増殖が可能となり、段階2が延長された。段階2の間、ニューロン電気活性、具体的には、電流を細胞内に/から移動させ、かつ活動電位(AP)を発射する能力は、限定されたか、または存在しなかった。細胞が段階3に進むときに、ニューロンを刺激して、維持培地に25μΜのグルタメートを導入することにより、それらの電気活性が回復した。ニューロンにおける前条件付けを阻止するために以前に使用されたタンパク質合成の阻害剤であるシクロヘキシミド(CHX)(F.C.Barone et al.,1998)が、グルタメートとともにニューロンをインキュベートすることによって誘導されるタンパク質合成のすべての可能性のある変化を阻止するために使用されたとき、ニューロン電気活性のすべての改善は、完全に阻止された。グルタメートの導入は、以前に分裂していたニューロンを成熟させる細胞転写活性を媒介した(D.Edwards et al.,2010)。
【0055】
[実施例1〜5の材料および方法]
DETA表面改質および解析
ガラスカバースリップ(Thomas Scientific 6661F52、22mm×22mm、1号)を、濃縮塩酸およびメタノールの50/50の混合物を用いた酸洗浄によって洗浄した。カバースリップを3回洗浄し(1回につき30分間)、それぞれの洗浄毎に蒸留脱イオン水中ですすいだ。DETA(N−1[3−(トリメトキシシリル)プロピル]−ジエチレントリアミン、United Chemical Technologies Inc.,Bristol,PA,T2910KG)単層を、洗浄された表面と新たに蒸留されたトルエン(Fisher T2904)中のオルガノシランの0.1%(v/v)混合物との反応によって形成した(M.Ravenscroft et al.,1998)。DETAでコーティングされたカバースリップをトルエンの沸点直下まで加熱し、トルエンですすぎ、沸点直下まで再加熱し、その後、炉乾燥させた。DETAは、カバースリップの表面上に反応部位限定単層を形成した(M.Ravenscroft et al.,1998)。DETAカバースリップを解析して、単層形成を確証した。最初に、光学接触角度ゴニオメーター(KSV Instruments,Monroe,CT,Cam200)を用いて接触角度を測定した。DETAでコーティングされたカバースリップの接触角度は54.2±0.2であり、これは、ニューロン海馬培養に許容されると以前に示されている(M.Ravenscroft et al.,1998)。次に、X線光電子分光法(XPS)(FISONS ESCALab 220i−XL)を用いて、DETAでコーティングされたカバースリップ表面の元素状態および化学状態を解析した。単色Al Kα励起を用いたXPS調査スキャンならびに高解像度のN 1sおよびC 1sスキャンを得たが、以前に報告された結果に類似していた(M.Ravenscroft et al.,1998、M.Das et al.,2005)。
【0056】
成体ラット海馬培養に使用される細胞培養方法論および培地
海馬成体ラット(Charles River、6〜12月齢)を解剖し、ハイバネート−A、Glutamax、および抗生物質抗真菌薬からなる冷培地(約4℃)中で均質化して小組織断片にした。その後、組織を、6mgのパパイン/12mL(HA)を含有するカルシウムを含まないハイバネート−A(HA)中で、37℃で30分間消化した。消化後、組織を冷ハイバネート−A培地で3回洗浄し、すべての活性酵素を除去した。次に、ラットおよびマウス成体脳組織を個々の細胞へ解離するために調製された解離培地(表1)中に組織を懸濁し、火加工パスツールピペットでの機械的解離を介して個々の細胞に解離した。解離細胞を、組織解離後にニューロン付着および再生を促進させるために使用した平板培地(表1)中に懸濁し、その後、DETAでコーティングされたガラスカバースリップ上に30〜45分間沈着させた。そのトリアミン官能基が表面に暴露されたDETAは、ニューロンに強力に付着し、ECMタンパク質、ミエリンデブリ、および細胞断片等のすべての非ニューロンデブリがカバースリップ表面から洗浄されることを可能にする(D.A.Stenger et al.,1993、J.J.Hickman et al.,1994、M.Das et al.,2005、A.E.Schaffner et al.,1995)。この洗浄ステップ後、新鮮な平板培地を適用し、最初の3DIVのあいだ静置した。3DIVおよびその後4日おきに、培地の半分を除去し、維持培地と取り換え(
図1、表1)、これらのニューロンの長期維持を支援した。細胞培養プロセスのそれぞれの段階で示される課題を特異的に満たすために、それぞれの種類の培地を調製して、著しく改善された生存、再生、および長期成長を可能にした(表1、
図1)。培地のモル浸透圧濃度を調整して、成体ラット脳脊髄液のモル浸透圧濃度(295〜305mOsm)と一致させた(S.C.Baraban et al.,1997、R.A.Fishman and G.D.Silverberg,2002)。解離培地(表1)において、組織解離中のカスパーゼ阻害剤および抗酸化物質の使用(M.Das et al.,2007)は、酸化的損傷および通常この段階中の細胞損傷に由来するアポトーシスへの進行の両方を最小限に抑えた。平板培地(表1)にこれらの抗酸化物質、ならびに特定の成長因子を含ませることで、生体外でのニューロンの付着および再生が促進することが見出された。長期生存のために、抗酸化物質を維持培地(表1)から除去した。
【0057】
生体外でのニューロン分裂の制御
bFGF(Invitrogen、13256−029、5ng/mL)は、密集するまで神経細胞増殖を誘発し、この期間は、急速なニューロン分裂、および機能的電気活性の制限または欠如の両方によって特徴付けられた。ニューロンの密集後、25μΜのグルタメート((N−アセチル−L−グルタミン酸、Aldrich、855642)は、ニューロンの電気的回復の誘導を誘発する(D.Edwards et al.,2010)。この培養系におけるニューロン分裂の制御を以下のように実験的に調査した:(1)平板培地および維持培地の両方からのbFGFの除去、(2)10μΜおよび50μΜのフルオロデオキシウリジン(FudR、Sigma−Aldrich、F−0503)の添加、(3)アラビノシド−D(ara−C、Sigma、C−6645)に加えてデオキシシチジンの添加、(4)40μΜおよび100μΜのトロロックス(Sigma、238813)の添加、(5)1.5μΜのアフィディコリン(Aph、Sigma、A0781)の添加、(6)1μΜ、5μΜ、および10μΜのロスコビチン(Rosc、Sigma、R7772)の添加。すべての因子をニューロン分裂の開始前(2DIV)に、いくつかを分裂の開始後(3DIV後)に添加した。
【0058】
電気生理学
全細胞パッチクランプレコーディングを室温で行った。pHをHEPES酸および塩基で7.3に、イオン濃度をNaClで約130mMに、およびモル浸透圧濃度を290〜300mOsmに調整した。維持培養培地中の細胞を、Zeiss Axioscope、2FS Plus正立顕微鏡を用いてステージ上で可視化した。パッチピペット(4〜8ΜΩ)を約260mOsmのモル浸透圧濃度の細胞内液(140mMのK−グルコネート、1mMのEGTA、2mMのMgCl
2、5mMのNa
2ATP、10mMのHEPES、pH7.2)で充填した。Multiclamp700A(MDS Analytical Device)増幅器を用いて電位固定および電流固定実験を行った。Axon Digidata1322Aインタフェースを用いて、シグナルを3kHzでフィルタリングし、20kHzでデジタル化した。データレコーディングおよび分析をpClampソフトウェアを用いて行った。全細胞キャパシタンスおよび直列抵抗を電子的に補正した。22ΜΩ未満のアクセス抵抗を有する細胞のみを分析した。高速のナトリウム電流の特性を有した内向き電流、およびカリウム電流の特性を有した外向き電流を、−70mVの保持電位から10mVの電圧ステップを用いて、電位固定モードで測定した。1秒間の脱分極電流注入で活動電位を測定し、活動電位を−70mVの保持電位から導き出した。電気生理学的解析のために、細胞を形態学的に選択した。選択された細胞は、大きい分岐先端樹状突起および小さい基底樹状突起を有する位相光沢錐体ニューロンであった。この形態を有する細胞は、抗ニューロフィラメント−M(Nf−M)および/またはMAP2について陽性染色された。ニューロンを6、13、および25DIV後に電気的に解析した。
【0059】
免疫細胞化学
細胞を調製して免疫細胞化学的に解析するために、カバースリップをリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で2回すすいだ。細胞を4%のパラホルムアルデヒドで、室温で10分間固定し、その後、PBSで3回すすいだ。細胞をPBS中、5mMのリジンおよび0.5%のTriton X−100で5分間透過処理し、その後、5%の正常ロバ血清を添加することにより2時間ブロックした。抗ニューロフィラメント−Mポリクローナル抗体(Nf−M、成熟したニューロンで見出される細胞内フィラメント、Chemicon、AB1981、1:1000に希釈)、抗NeuN(成熟したニューロン中の核マーカー、Chemicon、1:1000に希釈)、抗Ki−67(分裂細胞の核マーカー、Chemicon、1:1000に希釈)、抗NR2A(シナプス後細胞膜において発現されるNMDAチャネルサブユニット、AB1548、1:75に希釈)、抗NR2B(シナプス後細胞膜において発現されるNMDAチャネルサブユニット、MAB5216、1:150に希釈)をブロッキング溶液中に4℃で12時間添加した。PBSで3回洗浄した後、蛍光標識二次抗体(Invitrogen、A11011、A21449、およびA11029)を2時間適用した。Vectashield Mounting培地(H1000、Vector Laboratories、Burlingame,CA)を用いて、カバースリップをスライド上に載置した。カバースリップをUltra VIEWTM LCI共焦点画像化システム(Perkin Elmer)で観察した。
【0060】
統計分析
数値での要約結果を平均の標本標準偏差範囲(±SEM)として報告する。カバースリップ上にプレーティングした直後の神経細胞密度を100に正規化して、成長因子除去または分裂因子介入の影響の比較を可能にした。2群間の比較において、統計分析は、電気生理学的データにおける2試料スチューデントt−検定を含んだ。
【0061】
[実施例6:拡張可能な神経細胞株を作成するための、最終分化した成熟ニューロンにおける細胞周期の操作]
成体ラットの海馬に由来する最終分化した成熟ニューロンの集団を拡張し、その集団を4回継代し、毎回の継代後に集団の半分を増殖停止させ、その後、電気的に解析する。
【0062】
方法:最終分化した成熟ニューロンを成体ラットの海馬から抽出し、DETAカバースリップ上にプレーティングした。培養培地中のbFGFは、これらのニューロンが細胞周期に再び入って増殖し、カバースリップ上に密集することを引き起こした。以下の継代プロトコルを用いた。
細胞継代技法(手短に):
1.初期培養−2匹の成体ラットを1時間プレーティング。時間後洗浄によりミエリンデブリを除去、および平板培地の添加。
2.カバースリップ(複数を含む)上での細胞密集(生体外で約14〜23日間)−初期継代。
a.カバースリップ(複数を含む)をHBSS中0.05%トリプシン/EDTAでトリプシン処理した。
b.最初の細胞解離時にトリプシン阻害剤を添加した。
c.細胞表面を洗浄し、15mLのフラスコ内に除去し、500Xgで5分間回転させた。
d.さらに2回洗浄した後、新鮮なDETAカバースリップ上に再度プレーティングした。
カバースリップ(複数を含む)の半分:cdk阻害剤ロスコビチンで増殖停止し、その後、電気生理学を用いて電気的に解析した。
カバースリップ(複数を含む)の半分:増殖を続け、その後、継代した。
3.その後の継代。細胞は付着し、回復/増殖して密集した。
4.密集後、ニューロンを解離し、新鮮なDETAカバースリップおよび/または微小電極アレイ上に再度プレーティングした。
【0063】
[実施例7:ハイスループットMEAシステムにおける成体ニューロン機能およびシナプス活性:胚または成体脳由来のニューロン間の差次的発現パターン、シナプス結合、ネットワーク通信、ならびに薬物および治療的介入への応答]
微小電極アレイ(MEA)は、解離培養物由来の集団ニューロンにおけるシナプス活性および神経結合性の研究のための電気生理学的実験を行うために使用される革新的ツールである。そのような生体外ハイスループット試験システムの使用は、神経変性疾患、外傷性脳損傷、および発作の研究を含む。胚組織に由来するニューロンへの依存が、ニューロンMEAシステムの共通の制約であり続けてきた。MEAを用いて、胚組織および成体脳組織の両方からの自発的ネットワーク活性を同時に測定した。加えて、ニューロン活性/シナプス伝達の成熟に影響を与えるアゴニストおよびアンタゴニストの導入は、創薬ならびにニューロン発達および再生を含む基礎研究におけるこのシステムの有効性を確立した。
方法:
成体ニューロン:最終分化した成熟ニューロンを成体ラットの海馬から抽出し、DETAカバースリップ上にプレーティングした。4日間後、ニューロンをこれらのカバースリップからPDL/ラミニンでコーティングした(細胞接着のために)MEAに継代した。
胚ニューロン:胎齢18日のラット胎児の海馬由来のニューロンを抽出し、PDL/ラミニンでコーティングしたMEA上に直接プレーティングした。
【0064】
それぞれのニューロン集団において、自発的ニューロン活性の電気的記録を最大3ヵ月間行った。加えて、アンタゴニストおよびアゴニストを導入し、ベースライン電気活性に対するそれらの影響を測定した。64チャネルアクシオンMEAを用いた。
【0065】
結果:ニューロン(胚および成体の両方)をMEA上で再生させ、電気的に回復させた。MEA上で2週間後、両集団は、一貫して安定した電気活性を示した。
【0066】
[実施例8:胚ラット海馬解離細胞培養方法論]
胚海馬ニューロンを培養した。Charles Riverから得た妊娠期間18日間の妊娠ラットを二酸化炭素で安楽死させ、胎児を氷冷ハイバネートE(BrainBits)/B27/Glutamaxtm/抗生物質抗真菌薬(Invitrogen)(解離培地)中に回収した。それぞれの胎児を断頭し、全脳を新鮮な氷冷解離培地に移した。単離後、海馬を解離培地の新鮮な管内に回収した。組織を、37℃で10分間、パパイン(Worthington 3119)、12mg/6mLのハイバネート−E(−カルシウム)(BrainBits)、および0.5mMのGlutamax(Invitrogen)で酵素的に消化した。海馬ニューロンを、火加工パスツールピペットを用いて組織を粉砕することによって得た。遠心分離後、細胞を培養培地(Neurobasal/B27/Glutamaxtm/抗生物質抗真菌薬)中に再懸濁し、MEA上にプレーティングした。すべての研究は、セントラルフロリダ大学の機関内動物実験委員会によって承認され、NIHガイドラインと一致した。
【0067】
成体ラット海馬解離細胞培養方法論
成体ニューロンを抽出、解離、培養、および維持した。簡潔に述べると、成体ラット(Charles River、6〜12月齢)の海馬を解離および均質化して、ハイバネート−A、Glutamax、および抗生物質抗真菌薬からなる冷培地(約4℃)中の小組織断片にした。組織を、6mgのパパイン/12mLを含有するカルシウムを含まないハイバネート−A(HA)(カルシウムなしHA)中で、37℃で30分間消化した。消化後、組織を冷HA培地で3回洗浄して、すべての活性酵素を除去した。次に、組織を解離培地中に懸濁し、火加工パスツールピペットを用いた機械的解離によって粉々にして個々の細胞にした。解離細胞を平板培地中に懸濁し、その後、DETA(N−1[3−(トリメトキシシリル)プロピル]−ジエチレントリアミン、United Chemical Technologies Inc.,Bristol,PA,T2910KG)でコーティングされたガラスカバースリップ上に沈着させた。30〜45分後、培地を穏やかに旋回させて組織デブリを除去することによって、カバースリップを温HAで洗浄した。この洗浄ステップ後、新鮮な平板培地を適用し、最初の3DIV静置した。3DIVに培地を除去し、5μΜのロスコビチン(Rosc、Sigma、R7772)を有する維持培地と取り換えた。すべての研究は、セントラルフロリダ大学の機関内動物実験委員会によって承認され、NIHガイドラインと一致した。4DIV後、DETAカバースリップ上の成体海馬ニューロンをMEAに継代した。簡潔に述べると、ニューロンを、トリプシン(HBSS中0.05%トリプシン/EDTA、Gibco、25200)を用いてDETAから取り除いた。1mL当たり0.5mgの解離培地中のトリプシン阻害剤(トリプシン阻害剤、大豆、Gibco、17075−029)がトリプシンを不活性化した。取り除かれたニューロンを回収し、500xgで5分間回転させた。HBSS中の不活性化したトリプシンの上清を廃棄し、神経細胞ペレットを1mLの平板培地中に懸濁した。
【0068】
免疫細胞化学および共焦点レーザー走査型顕微鏡
細胞を調製して免疫細胞化学的に解析するために、カバースリップをリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で2回すすいだ。細胞を、室温で10分間、4%のパラホルムアルデヒドで固定し、その後、PBSで3回すすいだ。細胞をPBS中の0.5%のTriton X−100で5分間透過処理し、その後、PBS中の5%の正常ヤギ血清中で2時間ブロックした。抗ニューロフィラメント−M(Chemicon、AB5735、1:500)、抗シナプトフィジン(Chemicon、MAB368、1:300)、および抗NMDAR2A(Chemicon、AB1555P、1:200)、抗NMDAR2B(Chemicon、AB15557P、1:200)、または抗グルタメート受容体2/3(Chemicon、AB1506、1:50)のいずれかをブロッキング溶液中に4℃で12時間添加した。PBSで3回洗浄した後、ブロッキング緩衝液中の蛍光標識二次抗体(Invitrogen、A11011(594nm)、A21449(647nm)、およびA11029(488nm)、1:200)を2時間適用した。DAPIを含むVectashield Mounting培地(H1200、Vector Laboratories、Burlingame,CA)を用いて、カバースリップをスライド上に載置した。蛍光画像を、AxioObserver.Z1(Carl Zeiss)スタンドを有するUltra View回転ディスク共焦点システム(PerkinElmer)、および26μmの解像度を有するPlan−Apochromat 40x/1.4 Oil DICプランアポクロマート対物レンズを用いて入手した。スキャンした画像のZ−stack投影をVolocity画像処理プログラム(PerkinElmer)内で生成および修正した。
【0069】
細胞外記録法
MEAチップ(Axion Biosystems)は、200μmピッチで8×8のアレイ内に組織化された直径30μmの64個の白金黒でコーティングされた金電極を提供した。きれいなMEAを70%のアルコールで殺菌し、その後、1mLのポリ−L−リジン(100μg/mL)とともに30分間インキュベートした。すべての電極を被覆する程度に大きい面積をさらに3μLのラミニン(2μg/mL)で一晩コーティングした。胚ラット海馬ニューロンを、500細胞/mm2の密度でMEA上に直接プレーティングした。成体ラット海馬ニューロンを、最初にDETAでコーティングされたカバースリップ上で培養して、回復させた。塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)は、培養中の成体ニューロンの生存に必要であり、bFGFは、ラットニューロンの生体外分裂を引き起こし、3DIVでのロスコビチンの投与は、ニューロン有糸分裂活性を阻止した。DETAカバースリップ上に4日静置した後、成体ニューロンを500細胞/mm2の密度でMEA上に継代した。2〜3日毎に、培地の半分を2μΜのRoscを補充した新鮮な維持培地と取り換えた。2DIVに成体ニューロンを25μΜのグルタメート(N−アセチル−L−グルタミン酸、Aldrich、855642)で補充することにより、成体ニューロンの電気活性を増加させた。
【0070】
MEAは、ガス交換を可能にするためにカバーを外してインキュベートしたが、記録をする間は汚染、培地蒸発、およびガス交換を低減するために、インキュベータからの除去時にカバーした。レコーディングシステム(Axion Biosystems)のヘッドステージを37℃に予熱した後、成体または胚海馬培養物を有するMEAを解析した。ニューロンネットワークの活性を、ソフトウェアAxion’s Integrated Studio(AxIS)を用いて25kHzで記録した。ベースラインの標準偏差よりも6倍大きいシグナル振幅を活動電位スパイクとして検出した。その後、スパイクデータをMatlab 2010b(The MathWorks)にインポートして、さらに処理した。
【0071】
実験手順
成体および胚ニューロンにおけるベースライン自発的活性を、7DIVから開始して1週間あたり連続5日間にわたり、3分間ずつ記録した。シナプスアンタゴニストD−(−)−2−アミノ−5−ホスホノペンタン酸(D−AP5、25μΜ、Tocris Bioscience、0106)、6−シアノ−7−ニトロキノキサリン−2,3−ジオン二ナトリウム(CNQX、25μΜ、Tocris Bioscience、1045)、および(−)−ビククリンメトブロミド(Bicuculline、50μΜ、Tocris Bioscience、0109)を、14DIVおよび30〜60DIVの様々な時点で、成体ニューロンおよび胚ニューロンの両方に別々に投与した。3分間記録して、これらのアンタゴニストからの自発的活性への影響を定量化した。必要に応じて、アンタゴニストの投与前にさらなるベースラインを記録した。それぞれの実験後、アンタゴニストを完全に除去し新鮮な培地を入れ替えた。
【0072】
評価および統計
データ分析を、未刊行のMatlab機能を用いてオフラインで行い、それぞれのMEA記録中に作成されたスパイクファイルを評価した。手短に述べると、それぞれの3分間データセットを処理して、以下のパラメータを抽出した:「活性チャネル」(0〜64の数)、「AP周波数」(相互のスパイク間間隔)、「バースト」(活性チャネルの少なくとも10%が、1ミリ秒で1を超えるAPを示したもの)、「バースト期間」(バーストにおける最初のAPからバーストにおける最後のAPまでの期間)、「平均バースト周波数」(2つのその後のバースト間の相互の時差)、「インバースト周波数」(そのバーストの期間で割った、検出されたバースト内のAPの量)、「ノンバースト周波数」(バーストに関連付けられなかったAP間の相互のスパイク間間隔)。成体培養物の約25%および胚培養物の14%において、ニューロンネットワークの一部分は、時間とともに、特に約6週間後に基質から剥離した。MEA間で活性チャネルの数が異なることを考慮に入れるために、すべての値をMEA上の活性チャネルの量に対して補正した。3分間の記録のそれぞれについて、
図6A〜6Dに示されるように、代表的な結果チャートが生成された。シナプスアンタゴニストからの影響を、アンタゴニストの投与前に記録された胚または成体培養物のベースライン活性に対する、処理後の同一の培養物の活性チャネルまたはAP周波数の割合として測定した。
【0073】
結果
成体および胚源由来の解離ニューロン培養物は、MEA上で回復し、ネットワークを形成した。自発的活性を、それぞれのMEAにおいて、70DIVに至るまで、週に5回、3分間記録した。細胞の状態、ならびに細胞と電極との間の物理的接触の検証のために、MEAの位相差写真をそれぞれの記録後に撮影した。
【0074】
成体および胚ニューロンの自発的活性
自発的発射活性は、成体および胚ニューロンの両方において、7〜10DIVに始まった。インキュベータから加熱された記録ステージまでのMEAの移動、およびその後の3分間の記録期間は、一貫したベースライン活性によって表される培地のpHまたは温度に著しく影響を与えなかった。しかしながら、培地変化の結果として、ベースラインニューロン活性において一時的な上昇が観察された。2ヵ月を超える培養期間にわたって、胚MEA(n=6)は、1MEA当たり平均37±8チャネルが活性であり、成体MEA培養物(n=9)における15±5チャネルに対して、一貫してより多くの活性チャネルを呈した。胚培養物における活動電位(AP)発射周波数は約2〜4Hzであり、成体培養物における1〜2Hzよりも高かった。自発的バーストは、胚培養物とは対照的に、成体培養物において1週間早く生じた。最初の6週間にわたるバースト進行は、2種類のニューロンネットワーク間で一貫した(
図6A)。しかしながら、6週間目以降、成体培養物におけるバーストの頻度は減少するように見られ、一方で、胚培養物におけるバースト周波数はさらに増加した。胚培養物および成体培養物の両方について、バーストの期間は、10週間の期間にわたって減少した(
図6B)。胚培養物のバーストは、成体培養物におけるバーストよりも平均3〜5倍長かった。胚培養物におけるバースト期間は10週間の実験にわたって高度に変動し続けたが(約±1秒)、成体培養物におけるバースト長は減少した。この成体培養物におけるバーストの収束は、経時的にバースト内発射周波数の着実な増加と並行して起こった(
図6C)。成体培養物のバースト内周波数が最初の2週間以内に回復した一方で、胚培養物は、より緩徐に回復し、約6週間後に成熟したバースト内レベルに到達した。非バースト発射周波数(バーストと関連しないAP)は、成体培養物において全期間にわたって一貫したが、胚培養物においては着実に減少した(
図6D)。全体として、バースト活性が、MEA上の成体培養物においてより早く集中および成熟し、より一貫性があった一方で、胚培養物は、緩徐でより無秩序な成熟を示した。
【0075】
成体および胚ニューロンの活性へのシナプスアンタゴニストの影響
アゴニストおよびアンタゴニストを、別個の実験において、MEA上の胚および成体培養物に投与した:25μΜのD−AP5(NMDAチャネルアンタゴニスト)、25μΜのCNQX(AMPAチャネルアンタゴニスト)、および50μΜのビククリン(GABAAアンタゴニスト)。結果を
図7に要約した。
【0076】
D−AP5(25μΜ)は、成体MEA培養物および胚MEA培養物の両方において、活性チャネルの数を著しく減少させた。成体培養物は、胚培養物(14DIVで65±4%、30〜60DIVで36±7%)に対して、より大きい割合のチャネル活性(14DIVで90±6%、30〜60DIVで82±6%)を喪失した。活動電位周波数の変化も差があり、成体培養物においてより低い周波数となり(14DIVで76±8%、30〜60DIVで82±17%)、胚培養物に対する測定された影響とは著しく異なった。14DIVにおいて胚ニューロンの発射速度は90±6%増加した一方で、30〜60日齢の培養物においては発射速度は70±7%減少した。生体外での成体および胚ニューロンにおけるNMDAチャネル発現(NR2AおよびNR2Bサブユニット)の差が、2つのニューロン集団におけるD−AP5に対する対照的な反応を引き起こした可能性が高い。NMDAチャネルは、14DIVにおける胚ニューロンにおいて低いレベルで発現されていたものの、その発現のレベルは、14DIVにおける成体ニューロンの発現のレベルには到底及ばなかった。成体ニューロンはより多くのNMDAチャネルを発現したため、競合的NMDAアンタゴニストD−AP5に対するその反応がはるかに顕著であった。
【0077】
CNQXの添加は、D−AP5と比較して、成体MEA培養物および胚MEA培養物の両方において、はるかに少ないチャネルの活性の損失を引き起こした(
図7)。成体培養物(14DIVで52±3%、30〜60DIVで24±5%)は、胚培養物(14DIVで23±5%、30〜60DIVで0±7%)と比較して、より大きな割合のチャネル活性を損失した。成体培養物および胚培養物の両方における活動電位周波数の変化は、14DIV以降、CNQXによって影響を及ぼされなかった。ニューロンの活性は、30〜60DIVに胚培養物および成体培養物の両方においてごくわずかに減少したのみであった(成体MEAにおいて31±6%低下、胚MEAにおいて47±5%低下)。AMPAチャネルサブユニットGluPv2/3の発現は2DIVにおける胚ニューロンにおいて観察されなかったが、発現は14DIVまでに増加して成体レベルを反映した。
【0078】
MEA測定結果を記録した後、アンタゴニストをニューロンから洗浄し、全培地を交換した。24時間後、ニューロンの活性は、ベースラインレベルに戻った。
【0079】
結果
ラットの海馬から培養された成体ニューロンは機能的に回復し、70DIVにわたってMEA上で自発的に発射する能力を有した。これらのニューロン成熟の研究は、ニューロン研究対象集団における遺伝子およびタンパク質発現が、生体内における成熟した成体ニューロンのものを反映していることの必要性を強調している。胚ニューロンは、成体ニューロンにおいて電気活性またはシグナル伝播に関与するものと同一の機構を発現しないため、神経毒性作用物質または薬物療法に対するそれらの応答は、成熟した成体脳における応答と相関しない場合がある。
【0080】
成体ニューロンを培養する開示の方法は、NMDAおよびAMPAチャネルサブユニットが培養物の生存期間を通して発現されるシステムをもたらした。NMDAチャネルサブユニットNR2AおよびNR2B、ならびにAMPAチャネルサブユニットGluR2/3は、2DIVにおいて、および2DIV以降において発現された。これは、14DIV以降までNMDAおよびAMPAチャネル発現が遅れた胚組織に由来するニューロンとは非常に対照的であった。NMDAおよびAMPAチャネルのアンタゴニストへのニューロンの応答は、成体ニューロンと比較して、胚ニューロンでは著しく異なることが判明し、それぞれのアンタゴニストは、成体ニューロンにおいて、胚ニューロンにおける場合よりも大きく活性を減少させた。これらの結果は、培養中の胚ニューロンは3〜4週間経過後にイオンチャネルサブユニットの成熟したプロファイルを達成することを示している。したがって、特に、シナプスタンパク質プロファイルがシナプス不全のプロセスにおいて重要な役割を果たし得るアルツハイマー病等の神経変性疾患を研究する際には、胚ニューロンは培養中で完全に成熟するまでさらなる実験に用いるべきではない。
【0081】
胚MEAシステムと比較して、本明細書に開示したように、成体海馬ニューロンを用いたMEA上でのニューロン活性の測定結果は、より成体脳に適用可能である。これらのMEAの調製は胚ニューロンMEAよりもわずかに複雑であったが、その最終結果は、成体脳における学習および記憶形成の動力学とよりよく相関する長期スクリーニング方法論を生み出した。さらに、バーストおよび全般的成熟のより早期の発生のため、このシステムは、より迅速で、より信頼性があり、より相関性のある、創薬、神経毒性作用物質、および神経変性の研究を促進し得る。
【0082】
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【0083】
本出願を通して、様々な刊行物が参照されている。これらの出版物の開示は、本発明が属する当技術分野の状況をより完全に説明するために、全体として、本明細書において参照により本出願に組み込まれる。
【0084】
本発明の範囲または趣旨から逸脱することなく、本発明に様々な修正および変更を行うことができることは当業者には明らかであろう。本発明の他の実施形態は、本明細書の考察およびそこに開示される発明の実践により当業者には明らかになるであろう。本明細書および実施例は例示として考慮されるだけであることが意図されており、本発明の真の範囲および趣旨は、以下の特許請求の範囲により示される。