【課題を解決するための手段】
【0014】
驚くべきことに、融解させたアルカリまたはアルカリ土類金属(例えばLiもしくはNaもしくはMg)、特にリチウムを用いて、フッ素をドープした酸化物、好ましくは金属酸化物、さらにより好ましくは二酸化チタンまたは酸化鉄の粒子を機能化させることが可能であることが、今や発見された。得られる材料は、表面的には、上述の金属のイオンで機能化され、イオン電池向けの固体電解質の製造に使用することができる。酸素元素と同様に、酸化物は、好ましくはチタン、鉄、ジルコニウム、ハフニウム、タングステン、タンタル、モリブデン、クロム、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、アルミニウム、スズ、スカンジウム、イットリウム、バナジウム、ニオブ、マンガン、ゲルマニウム、インジウム、カドミウムおよびランタニド元素の中から選択される少なくとも1つの金属元素、または室温および室内圧力において結晶性酸化物を形成する少なくとも1つの非金属元素、例えばケイ素およびリン、または酸素以外の同一元素の混合物によって形成される。
【0015】
特に、熱重量分析によって、これらの新しい電解質は250℃までの安定性を有することが示され、それらは、伝導度が向上したことに関連する全ての利点を伴って、例えば高温リチウム電池中に使用されるべきであることが示唆され、後者は動力学的に緩やかなリチウムの拡散によって左右される。
【0016】
典型的にはLi
+イオンが結晶の格子間位置を占める従来の固体電解質(LISICONまたはペロブスカイト型材料参照)とは異なり、本発明による固体電解質では、Li
+イオンは、例えば、ヒドロキシル基のプロトンをリチウムイオンで置き換えるプロセス(リチオ化と呼ばれるプロセス)によって機能化された、フッ素化された酸化チタンのマイクロメートル未満の粒子の表面上に位置する。それゆえに、これによって、その伝導度がそれ自体で使用されるために十分高い(かつ、ポリマー電解質の製造向けではない)固体電解質がもたらされる。この電解質は、場合により、その伝導度を向上させるために、イオン液体と反応させて、ハイブリッド有機/無機成分をもたらすこともできる。
【0017】
それゆえに、本発明の1つの主題は、固体電解質を調製するための、平均粒子径が500nm未満、好ましくは10〜500nmの間であり、かつフッ素含量が0.5〜30重量%の間、好ましくは0.5〜5%の間、さらにより好ましくは1.0〜4%の間である、少なくとも1つの結晶性酸化物、好ましくは金属酸化物の粒子の使用に存する。
【0018】
本発明の別の主題は、前述の粒子を含む、または前述の粒子からなる固体電解質に存する。
【0019】
本発明の別の主題は、前述の固体電解質をイオン液体と反応させることによって得ることができる無機−有機ハイブリッド電解質に存する。
【0020】
本発明の別の主題は、前述の固体電解質または前述の無機−有機ハイブリッド電解質を含む電池に存する。
【0021】
本発明の目的では、フッ素をドープした酸化物の粒子という表現は、平均粒子径が500nm未満、好ましくは10〜500nmの間であり、かつフッ素、ヒドロキシル基、アンモニウム陽イオンおよび窒素酸化物を含む、前記結晶性酸化物、好ましくは金属酸化物の粒子を意味すると理解されよう。具体的な酸化チタンの場合では、フッ素をドープしたTiO
2の粒子、フッ素をドープした二酸化チタンの粒子、またはFTという表現は、平均粒子径が500nm未満、好ましくは10〜500nmの間、さらにより好ましくは50〜300nmの間であり、その表面上にフッ素、ヒドロキシル基、アンモニウム陽イオンおよび窒素酸化物を有する、アナターゼの粒子を意味すると理解されよう。
【0022】
より具体的には、その粒子は「シェル−コア(shell−core)」タイプであり、すなわち、好ましくは金属、さらにより好ましくは二酸化チタン、具体的にはアナターゼである結晶性酸化物を実質的に含む内部コア、および平均厚さが0.3〜20nmの間、好ましくは0.6〜10nmの間である表面被膜から形成されている。表面被膜は、金属原子と架橋するフッ素原子および末端のフッ素原子を含み、ヒドロキシル基、アンモニウム陽イオンおよび窒素酸化物もまた多量に、その被膜の表面上に位置している。
【0023】
具体的なアナターゼの場合では、被膜はチタン原子と架橋するフッ素原子および末端のフッ素原子を含み、ヒドロキシル基、アンモニウム陽イオンおよび窒素酸化物もまた多量に、その被膜の表面上に位置している。
【0024】
前述の、フッ素をドープした金属酸化物の粒子、および具体的には、フッ素をドープした二酸化チタンの粒子は、参照により本明細書に組み込まれている、国際特許出願WO2012/017347に記載されているプロセスを用いて得ることができる。
【0025】
具体的には、フッ素をドープした酸化物、好ましくは金属酸化物、さらにより好ましくはフッ素をドープしたTiO
2および/またはFe
2O
3の粒子を製造するための方法には、以下のステップが含まれ得る。
(a)ミネラル、具体的には金属ミネラルである、好ましくはチタンおよび鉄ミネラルを、NH
4HF
2の水溶液と反応させる。
(b)そうして得られた水分散液を濾過することにより、固体残渣と、チタン塩を含む水溶液とを分離する。
(c)そうして得られた水溶液を、pH6.5〜8.0の第一段およびpH9.0〜11.0の第二段を含む加水分解で加水分解する。
(d)そうして得られた水分散液を濾過し、固体残渣に、最大温度約500℃、好ましくは約450℃、さらにより好ましくは約350℃で熱加水分解を施す。
(e)場合により、ステップ(d)から得られる濾液を温度150〜170℃、好ましくは約160℃に加熱し、0.5から2時間の期間にわたってその温度で維持することにより、水に再溶解させているとステージ(a)にリサイクルすることができるNH
4HF
2の製造を伴う。
(f)場合により、ステップ(b)で形成された固体残渣に、最大温度500℃、好ましくは450℃で熱加水分解を施す。
【0026】
酸化物が金属酸化物であり、具体的にはこの金属がチタンである場合、この方法には、場合によると濃縮されることのあるミネラルのイルメナイト(FeTiO
3)からチタンを抽出することが含まれ、この抽出は適切な反応器内で行われ、そのミネラルを、10重量%〜37重量%の間、好ましくは約30重量%であり、pHが好ましくは5.5〜5.7の間である、NH
4HF
2の濃い水溶液と反応させる。NH
4HF
2との反応を開始する前にICP−AESを使用して実施したイルメナイトの化学分析によって、そのミネラルには微量(<1重量%)のAl、Ca、Co、NiおよびZnが含まれることが示された。1.1重量%のWもまた存在する。
【0027】
好ましくは平均粒子径が0.05〜1.5mm、さらにより好ましくは約0.2mmであるそのミネラルを反応器へ添加し、80〜120℃、好ましくは約100℃に予熱してもよい。ミネラルは、反応器内に存在する気体が、その砂向けの吸入管を通って上昇するのを予防するシステムを用いて、反応器の底部に添加するべきであることが示唆される。NH
4HF
2の水溶液は、50〜100℃に、好ましくは約80℃に予熱されることが好ましく、イルメナイトとNH
4HF
2溶液(好ましくは30重量%)の重量比は、通常は1:6〜1:8の間、好ましくは約1:7.5である。
【0028】
反応器は、具体的には反応器の底部区域において、試薬間(イルメナイトおよび溶液)の密接な接触を促進するような方法でイルメナイト砂を撹拌する装置を有する。その撹拌は、場合によると、反応器の頂部において乱流運動を生み出さないようなものであり、最良の実施形態では、撹拌速度は20rpmを、好ましくは10rpmを超えるべきではない。
【0029】
反応器内の温度は100〜110℃、好ましくは104〜106℃、さらにより好ましくは約105℃に、圧力は約1〜2barの間に維持されるが、これは当技術分野で公知の従来のデバイス、例えば反応器の外側の加熱ジャケットシステムを使用して達成してもよく、最良の実施形態では、最大量の熱が、試薬の濃縮が最も大きい反応器の底部分を通って伝搬する。また、気体状化合物が外部環境中へ逃げるのを予防するために、漏れのない反応器を使用するべきことが推奨される。反応の好ましい時間は40から80分である。
【0030】
この操作状況下における反応器内のpHは約6.5〜7.0である。
【0031】
その反応によって気体状アンモニアが製造され、これは、反応器の外部へ運び、その次にチタン塩を加水分解させる後続ステージにおいて使用されてもよい、水酸化アンモニウムNH
4OHの濃縮溶液(約24重量%)を得るために水に吸収させてもよい。アンモニアの除去によってもまた、反応器内の圧力を調整する(通常は約1bar)ことが可能である。
【0032】
FeTiO
3とNH
4HF
2(水溶液中)の間の反応によって、ヘキサフルオロチタン酸アンモニウム(NH
4)
2TiF
6およびヘキサフルオロ鉄(III)酸アンモニウム(NH
4)
3FeF
6の2つの塩が製造される。そのチタン塩は、温度に正比例的に左右され、NH
4HF
2の濃度に反比例的に左右される溶解度を有し、それゆえに、それは本反応条件下において溶液中に残存する。その代わりに、鉄塩は無視できるほど小さい溶解度を有し、固体分散体の形態のまま残る。
【0033】
分散された(NH
4)
3FeF
6塩を含むNH
4HF
2と(NH
4)
2TiF
6の水溶液を反応器から回収する。反応器を出た分散液は、0.1〜2.0μmの間の大きさの固体粒子を保持できるフィルターを通されるが、この結果は2〜3nm、約2.5nmの孔を有する網を使用して達成され得る。鉄塩の固体分散体は、この区画においてチタン塩溶液から分離される。
【0034】
濾過された沈殿物は、さらにNH
4Fおよび/またはNH
4HF
2の溶液を用いて洗浄し、次に2回目の濾過を行ってもよく、これらの2回の濾過は同一の濾過装置内で行ってもよい。
【0035】
濾過の出口において、以下の
(a)主に鉄塩(NH
4)
3FeF
6を含む固体沈殿物部分、
(b)チタン塩(NH
4)
2TiF
6、二フッ化アンモニウム(NH
4HF
2)、および、最終製品に対しては汚染物質である微量の鉄塩(NH
4)
3FeF
6を含む水溶液
が得られる。
【0036】
固体沈殿物部分(a)は、通常は水分含量が10〜20重量%の間であり、使用する濾過デバイスに左右される。水溶液(b)は、通常は鉄塩(NH
4)
3FeF
6含量が約0.04〜0.06重量%である。
【0037】
濾過ステージからの水溶液(b)は次に、その濃度を0.01重量%未満、好ましくは0.001%未満(鉄塩濃度として理解されたい)に低下させるために、さらに鉄塩(NH
4)
3FeF
6から浄化され、これは溶液中のFeイオンが約2.5mg/L(2.5ppm)であることに相当する。
【0038】
これは、濃縮水酸化アンモニウム(NH
4OH)溶液(約24重量%)を添加することによって溶液のpHを6.5〜8.0に、好ましくは7.0〜8.0に、さらにより好ましくは7.0〜7.5に転換させることによって引き起こされ、この操作の結果として、残渣の鉄塩(NH
4)
3FeF
6を取り込んで析出する不溶性のアンモニウムオキシフルオロチタネート(ammonium oxyfluorotitanate)[(NH
4)
3TiOF
5)]が形成される。
【0039】
この操作は、温度50〜70℃、好ましくは約60℃であり、撹拌を備え、撹拌速度が通常は40〜90rpm、好ましくは約50rpmである反応器内で実施され、添加されるNH
4OHの量は、容器からの流出物中のpHを好ましい値である7.0〜8.0、さらにより好ましくは7.5〜8.0に維持することによって調整される。
【0040】
分散液を濾過してチタン塩(NH
4)
2TiF
6の水溶液を得、さらに、鉄ならびにチタン複合物および鉄塩(NH
4)
3FeF
6を含む沈殿物を含む化合物から浄化する。
【0041】
この沈殿物を、酸性化のために、撹拌を備えた別の容器の中で再び溶解させてもよく、これは、pH約6.5〜7.0まで濃縮NH
4Fおよび/または場合によりNH
4HF
2の溶液(約40〜50重量%)を添加することによって行われ、この方法によって(NH
4)
2TiF
6が形成され、チタン塩が再び可溶性となる。次に、主反応器からの流出物に加えて、そうして得られた溶液/分散液がリサイクルされる。
【0042】
この溶液/分散液は、可溶性のチタン塩(NH
4)
2TiF
6および、アンモニウムオキシフルオロチタネートに、それが析出する時に取り込まれている不溶性の鉄塩(NH
4)
3FeF
6の両方を含む。これによって、廃棄物を全く製造することなく、両方の金属を完全に回収することが可能となる。
【0043】
チタン塩(NH
4)
2TiF
6、NH
4Fおよび水を含む浄化された溶液に、次にさらなる加水分解を施す。
【0044】
さらなる加水分解は、撹拌を備え(約10rpm)、温度50〜70℃、好ましくは約60℃に維持した反応器内で実施される。その反応は、溶液のpHを非常に高い値、好ましくは9〜11、さらにより好ましくは約10〜11(反応器からの流出物を監視する)に上昇させることによって行われ、この結果は水酸化アンモニウムNH
4OHの濃縮溶液(約24重量%)を添加することによって得られ、この水酸化アンモニウム溶液は好ましくは反応に必要とされるそれに比べて大過剰の量が使用される。
【0045】
さらなる加水分解によって、大きさ約0.01μmの粒子の形態の、水和したチタン塩と酸化物の混合物(NH
4)
2TiOF
4+(NH
4)
3TiOF
5+TiO
2・nH
2Oの沈澱が生じる。結果として、濾過して取り除くこともできる塩を含む固体が分散したNH
4Fの水溶液が、加水分解反応器の中で製造される。
【0046】
そうして得られた分散液を、次に、極めて微細な網目(2〜3nm、好ましくは約2.5nm)を有するフィルターを通して濾過する。
【0047】
NH
4F、水、過剰のアンモニアおよび微量のチタン塩を含む、フィルターを出た溶液を、好ましくは処理して、イルメナイトと反応するステージにおいてそれを再使用できるように、固体NH
4HF
2を得る。この操作を実施するために、その溶液を、非常にわずかな負圧(10から60mmHg)の存在下で、好ましくは沸騰するまで加熱し、これに伴ってアンモニアが放出され、次に温度を150〜170℃まで上昇させ、少なくとも60分間、好ましくは60〜120分間それを維持し(依然として負圧下)、結果としてNH
4F塩の、NH
4HF
2およびアンモニアへの分解が生じ、後者は取り除かれる。この操作の後には反応器の底部に固体塩が存在し、これを水に溶解させて、10重量%から37重量%、好ましくは約30重量%で、pHが5.5〜5.7の溶液を得る。
【0048】
フィルターを出た沈殿物部分は、通常は濾過装置に応じて水分含量が10〜20重量%の間であり、熱加水分解プロセスを施される。より詳細には、水が除去される点まで乾燥させた後、チタン塩を含む沈殿物は、最大温度500℃、好ましくは最大温度が330〜470℃の間、さらにより好ましくは350〜450℃の間で、最大温度で1〜3時間、好ましくは約2時間の期間にわたって維持される熱加水分解にかけられ、これは通常は過熱蒸気の雰囲気内の炉内で行われ、最大温度には、好ましくは3〜6℃/分、さらにより好ましくは5℃/分の勾配で徐々に到達させる。
【0049】
方法のこのステップによって、本発明の二酸化チタンの粒子を得ることが可能であり、それは平均粒子径が500nm未満であること、およびフッ素含量が0.5〜5重量%の間、好ましくは1.0〜4%の間であることによって特徴付けられる。
【0050】
また、固体沈殿物部分(a)は熱加水分解プロセスにかけてもよい。より詳細には、鉄塩を含む沈殿物は、水が排除されるまで乾燥させた後、最大温度500℃、好ましくは最大温度が330〜470℃の間、さらにより好ましくは350〜450℃の間で、好ましくは、最大温度で0.5〜3時間、さらにより好ましくは約1時間の期間にわたって維持される熱加水分解にかけられ、これは通常は過熱水蒸気の雰囲気を有する炉内で実施される。
【0051】
方法のこのステップによって、本発明の酸化鉄(Fe
2O
3)の粒子を得ることが可能であり、それは平均粒子径が500nm未満であること、およびフッ素含量が5〜20重量%の間、好ましくは7〜15%の間であることによって特徴付けられる。
【0052】
炉から抽出され、NH
3、HF、H
2Oを含む気体状化合物は、通常は冷却され、水に吸収させて、容易にリサイクルされ反応器へ充填して再使用することのできる、NH
4Fおよび/またはNH
4HF
2の濃縮溶液が得られる。結果としてチューブの閉鎖を生じさせるNH
4Fおよび/またはNH
4HF
2の結晶の形成を予防するために、その気体は水に吸収させる前に200℃未満に冷却するべきでないことが推奨される。
【0053】
これらの状況下において、金属が鉄またはチタンである場合、全てのアンモニア性のフッ素結合が破壊され、フッ素をドープしたTiO
2またはFe
2O
3の粒子をそれぞれ明確に含む粉末製品が得られる。
【0054】
以下に示す特徴は、本発明による、フッ素をドープしたTiO
2の粒子に当てはまるものである。
・HR−TEM(高分解能透過電子顕微鏡)による分析によって、FT粉末のマイクロメートル未満の形態が明らかにされる。具体的には、その粒子は多分散の粒子径分布を有し、鋭い端部を有する規則的な形状、または不規則でより小さいサイズの形状のいずれかとして存在することが示される。両方のタイプの粒子に対する面間距離の測定によって、大きさ500nm未満のアナターゼのナノ結晶の存在が明らかにされる(
図1および
図2参照)。
・10kVの加速電圧および標準的な二次電子検出器を使用して実行される走査型電子顕微鏡(SEM)分析によって、幾つかの粒子が集合して球状の塊を形成していた一方で、幾つかが集合して、40〜60μmの間で変動する、好ましくは約50μmの長さの辺を有する、内部が空洞の8面体構造を形成していたことが示された(
図3および
図4参照)。
・エネルギー分散型微量分析を備えたSEM(SEM−EDS)を使用する元素分析によって、フッ素の重量による量(粒子の合計質量に対して)が0.5〜5重量%の間、好ましくは1.0〜4重量%の間であることが明らかにされた。
・XPS(X線光電子分光法)による表面元素分析によって、チタンに対するフッ素の量が9%〜30%モルの間であることが明らかにされ、これはフッ素の重量分率が1.5〜9重量%の間、好ましくは2.1〜6.8重量%の間であることにおおよそ相当する。後者の値は走査型電子顕微鏡(SEM)を使用して得られた値よりわずかに大きく、結晶の構造がフッ素により富んでおり、他の元素(窒素およびヒドロキシル基)が表面上に位置していることを表している。
・元素分析によって、窒素の量が0.2〜8重量%の間、好ましくは0.3〜7.5%の間、さらにより好ましくは2.5〜7%の間であり、かつ水素の量が0.05〜4重量%の間、好ましくは0.08〜3%の間、さらにより好ましくは1.5〜2.5%の間(パーセンテージは粒子の合計質量に対して表される)であることが明らかにされ、窒素がとりわけ表面上のアンモニウム基、NH
4、および窒素酸化物、NO
xと関連していた一方で、水素の存在は表面のヒドロキシル基と関連していた。
・ICP−AESを使用して実施した粒子の化学分析によって、それが微量(<1重量%)のCa、Co、Fe、K、Mg、Nb、Ni、W、SiおよびZnを含むことが示された。
・X線回折(XRD)調査によって、FT粒子が、アモルファスの微量物またはルチルへの移行が始まった微量物がなく、単一の結晶相−アナターゼ−で構成されていることが確かめられた。FT粉末のXRDスペクトルから、フッ素の存在に起因する構造の変更は確認されず、それゆえに、これはFT粒子の表面上にのみ存在していると考えられ得る。
【0055】
全ての調査から、粒子はフッ素を含む二酸化チタンのナノ結晶、好ましくはアナターゼであることが分かり、そのナノ結晶は、フッ素が主にその表面上に存在しているという点、およびその濃度が、表面から離れる、すなわち結晶の中心に近づくにつれ徐々に減少するという点において特徴付けられる。
【0056】
以下に示す特徴は、本発明による、フッ素でドープしたFe
2O
3の粒子に当てはまるものである。
・10KVの加速電圧および標準的な二次電子検出器を使用して実行される走査型電子顕微鏡(SEM)分析によって、幾つかの粒子が集合して球状の塊を形成していたことが示された(
図12参照)。
・エネルギー分散型微量分析を備えたSEM(SEM−EDS)を使用する元素分析によって、フッ素の重量による量(粒子の合計質量に対して)が1〜30重量%の間、好ましくは5〜20重量%の間であることが明らかにされた。
【0057】
元素分析によって、窒素の量が0.1〜2重量%の間、好ましくは0.15〜1.7%の間、さらにより好ましくは0.2〜1.5%の間であり、かつ水素の量が0〜2重量%の間、好ましくは0〜1.5%の間、さらにより好ましくは0〜1.25%の間(パーセンテージは粒子の合計質量に対して表される)であることが明らかにされた。それゆえに、本発明の1つの態様は、フッ素(またはフッ素原子)が実質的に粒子の表面上に存在するという事実によって表され、言い換えれば、フッ素の少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%が粒子の表面層上に存在し、その表面層の平均厚さは0.3〜20nmの間、好ましくは0.6〜10nmの間である。
【0058】
実施された調査により、また、フッ素原子はチタン原子間の架橋を形成するかまたは末端であるかのいずれかであることも示される。
【0059】
アンモニウム陽イオンおよび窒素酸化物と同じく、ヒドロキシル基もまた粒子の表面上に存在する。
【0060】
粒子の「シェル−コア」構造、すなわちフッ素およびヒドロキシル基が表面に位置することは、固体電解質の製造にこれらを使用する目的において果たされる重要な役割を有する。
【0061】
それゆえに、本発明の第1の主題は、固体電解質、具体的にはイオン電池向けの固体電解質の調製のための、フッ素でドープした酸化物、好ましくは金属酸化物の粒子、具体的にはフッ素でドープした二酸化チタンおよび/または鉄の粒子の使用に存する。
【0062】
具体的には、本発明は、固体電解質の調製のための、平均粒子径が500nm未満、好ましくは10〜500nmの間であり、かつフッ素含量が0.5〜30重量%の間、好ましくは0.5〜5%の間、さらにより好ましくは1.0〜4.0%の間(パーセンテージは粒子の合計質量に対して表される)である、フッ素でドープした酸化物、好ましくは金属酸化物の粒子の使用に関する。
【0063】
より具体的には、本発明は、固体電解質の調製のための、平均粒子径が500nm未満、好ましくは10〜500nmの間、さらにより好ましくは50〜300nmの間であり、フッ素含量が0.5〜30重量%の間、好ましくは0.5〜5%の間、さらにより好ましくは1.0〜4.0%の間である酸化チタンの粒子の使用に関する。
【0064】
本発明の別の態様によると、その粒子は窒素含量が0.2〜8重量%の間、好ましくは0.3〜7.5%の間、さらにより好ましくは2.5〜7%の間であり、かつ/または水素含量が0.05〜4重量%の間、好ましくは0.08〜3%の間、さらにより好ましくは1.5〜2.5%の間である。
【0065】
固体電解質は好ましくは、無水の状態の上述の粒子を、融解した状態のアルカリ土類またはアルカリ金属、好ましくはリチウムと反応させることによって調製する。融解した状態のその金属は、好ましくは粒子に対して過剰に使用され、好ましくは金属は、粒子1重量部に対して1000〜0.5重量部の間の量、さらにより好ましくは粒子1重量部に対して50〜1重量部の間の量が使用される。
【0066】
本発明の1つの態様によると、固体電解質は以下のステップを含むプロセスを使用して調製してもよい。
i)フッ素をドープした金属酸化物の粒子を少なくとも90℃、好ましくは95〜105℃の間の温度で乾燥させる。乾燥は場合によると減圧下で、好ましくは10
−1mbar、さらにより好ましくは2×10
−1〜0.5×10
−1mbarの間の圧力で実施され、それは好ましくは48〜96時間にわたって、さらにより好ましくは約72時間にわたって実施される。
ii)乾燥させた粒子を、好ましくは0.5〜1000重量部の間、さらにより好ましくは1〜50重量部の間の、大過剰の量の融解金属と、不活性気体、好ましくはアルゴン雰囲気の中で反応させる。その反応は金属の融解温度より高いかまたは等しい、好ましくは10〜30%だけ高い温度で実施され、リチウムの場合、その反応は200〜240℃の間、好ましくは約220℃の温度で実施される。粒子と融解金属の混合物は、1〜3時間にわたって、好ましくは約2時間にわたって、この温度に維持される。
iii)混合物は、次に室温、すなわち好ましくは20〜25℃の間の温度で冷却するように置かれ、結果として未反応の過剰の金属の固化が生じる。
iv)上記によって得られた固体は、次に、未反応の過剰の金属を除去するために、アルコール、好ましくはアルコールC
1〜C
4、さらにより好ましくはエタノールを用いて洗浄される。固体の重量部(g)あたり好ましくは10から100体積のアルコール(ml)、さらにより好ましくは固体の重量部あたり10〜50体積のアルコールが使用される。次に、固体相から液体相を分離するために、濾過を実施する。
v)上記によって得られた固体相を、少なくとも90℃、好ましくは95〜105℃の間の温度で、場合によると減圧下で、好ましくは10
−1mbar、さらにより好ましくは2×10
−1〜0.5×10
−1mbarの間の圧力で乾燥させ、それは好ましくは12〜36時間にわたって、さらにより好ましくは約24時間にわたって実施される。
【0067】
具体的には、フッ素をドープした二酸化チタン粒子と融解リチウムの反応の際に、酸化物の粒子は、粉末の外形を維持しながら色が変化することが確認されることもある。反応の進行は赤外(IR)分光法によって監視されることにより、リチウムイオンが、フッ素化された酸化物の表面のヒドロキシル基を塩化させたことが示され、さらにO−Li結合に起因する新しいシグナルが出現した。TiO
2に関しては、
図5に示すMIR(中赤外)スペクトルによって、リチオ化後にFT中に存在するヒドロキシル基の典型的なシグナル(2500〜3500cm
−1の間)が消失すること、および、それらの起こり得る塩化に起因することもあり、かつ任意の場合において粒子の表面構造の変更の徴候である変更を、ニトロ基に属する基(1400cm
−1)が受けていたことが明らかにされた。
【0068】
なおもTiO
2に関して、
図6によって、Li−O結合が伸長したことに起因する388および357cm
−1のシグナルを示すFIR(遠赤外)スペクトルが示され、これによってヒドロキシル基のリチオ化反応が生じていたことが確かめられる。
【0069】
フッ素をドープした二酸化チタン粒子のリチオ化の反応は、以下のように図によって表すこともできる。
【0070】
【化1】
【0071】
以上のように、その反応によって、アルカリまたはアルカリ土類金属の陽イオン、当該場合においてはLi
+をその表面上に持つ粒子の形成が導かれる。新しい化合物は以下LiFTと表示されよう。
【0072】
これらの粒子は、前述の陽イオンの存在のゆえに、電池、好ましくは二次リチウム高温電池の中に使用される固体電解質として使用されてもよい。典型的にはリチウムイオンが結晶の格子間位置を占める従来の固体電解質(LISICONまたはペロブスカイト型材料参照)とは異なり、当該場合においてはリチウムイオンが表面上に位置し、それゆえに、イオン伝導度のメカニズムは粒子の表面上のLi
+のホッピングプロセスに起因する。
【0073】
アルカリまたはアルカリ土類金属を用いる前述の塩化プロセスによって得られ、それゆえに本発明の別の主題を形成する、結晶性酸化物、好ましくは金属酸化物、さらにより好ましくは二酸化チタンおよび/または酸化鉄の粒子もまた、平均粒子径が500nm未満、好ましくは10〜500nmの間、さらにより好ましくは50〜300nmの間である。それらのフッ素含量は0.5〜30重量%の間、好ましくは0.5〜5%の間、さらにより好ましくは1〜4%の間であり、アルカリまたはアルカリ土類金属、好ましくはリチウムの含量は0.5〜5重量%の間、好ましくは1〜4%の間であり、窒素含量は0.2〜8重量%の間、好ましくは0.3〜7%の間であり、かつ/または水素含量は0.1〜0.5重量%の間、好ましくは0.15〜0.4%の間である(パーセンテージの量は粒子の合計質量に対して表される)。
【0074】
具体的には、電解質はそれ自体として使用してもよく、またはその伝導度を向上させるためにイオン液体と反応させることにより、ハイブリッド無機−有機電解質を得て使用してもよい。
【0075】
イオン液体は、例えば参照により本明細書に組み込まれているGali’nskiら、Electrochimica Acta、51(2006)5567〜5580に記載されているように、室温、すなわち20〜25℃の間の温度で液体であるように、融解温度が非常に低い塩である。
【0076】
本発明の目的のために使用され得るイオン液体には、例えば1−エチル−3−メチルイミダゾリウム[EtMeIm]
+、トリメチルプロピルアンモニウム[TMePrA]
+、N−メチル−N−プロピルピリジニウム[MePrPi]
+、N−メチル−N−プロピルピペリジニウム[MePrPp]
+、1−ブチル−1メチルピロリジニウム[BuMePi]、トリエチル−スルホニウム、
ピコリニウムアセテート等の陽イオンのイミダゾリウム、アンモニウム、ピリジニウム、ピペリジニウム、ピロリジニウム、スルホニウムおよび
ピコリニウムから、ならびに陰イオンのbis−トリフルオロメチル−スルホニルイミド[TFSI]
-、テトラフルオロボレート[BF
4]
-、ヘキサフルオロホスフェート[PF
6]
-から得ることができるものが含まれる。
【0077】
本発明の目的のために好ましいイオン液体は、
−EMImTFSIと表示される、陰イオンN,N−bis(トリフルオロメタン)スルホニルイミド(TFSI
−)を伴う1−エチル−3−メチルイミダゾリウム(EMIm
+)、
−およびEMImBF
4と表示される、陰イオンテトラフルオロボレート[BF
4]
−を伴うEMIm
+
である。
【0078】
イオン液体との反応は混合によって、好ましくはボールミル内で実施され、アルカリまたはアルカリ土類金属を用いて機能化させたフッ素化された酸化物の粒子は、イオン液体1重量部に対して20〜1重量部、好ましくは8〜2重量部である。反応は、室温、すなわち20〜25℃の間の温度で、不活性気体、好ましくはアルゴン雰囲気の中で実施されるのが好ましい。好ましくは、それは0.5〜2時間にわたって、さらにより好ましくは1時間にわたって実施される。
【0079】
LiFtをEMImTFSIと反応させることによって、化合物LiFT−EMImTFSIが製造される。