特許第6060167号(P6060167)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6060167
(24)【登録日】2016年12月16日
(45)【発行日】2017年1月11日
(54)【発明の名称】線維芽細胞増殖因子21変異体
(51)【国際特許分類】
   C07K 14/50 20060101AFI20161226BHJP
   C12N 15/09 20060101ALI20161226BHJP
   A61K 38/22 20060101ALI20161226BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20161226BHJP
   A61P 3/06 20060101ALI20161226BHJP
   A61P 3/00 20060101ALI20161226BHJP
   A61P 3/04 20060101ALI20161226BHJP
【FI】
   C07K14/50ZNA
   C12N15/00 A
   A61K37/24
   A61P3/10
   A61P3/06
   A61P3/00
   A61P3/04
【請求項の数】3
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2014-534596(P2014-534596)
(86)(22)【出願日】2012年9月25日
(65)【公表番号】特表2014-530220(P2014-530220A)
(43)【公表日】2014年11月17日
(86)【国際出願番号】US2012057053
(87)【国際公開番号】WO2013052311
(87)【国際公開日】20130411
【審査請求日】2015年9月25日
(31)【優先権主張番号】61/542,906
(32)【優先日】2011年10月4日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】594197872
【氏名又は名称】イーライ リリー アンド カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100100158
【弁理士】
【氏名又は名称】鮫島 睦
(74)【代理人】
【識別番号】100138900
【弁理士】
【氏名又は名称】新田 昌宏
(74)【代理人】
【識別番号】100162684
【弁理士】
【氏名又は名称】呉 英燦
(74)【代理人】
【識別番号】100176474
【弁理士】
【氏名又は名称】秋山 信彦
(72)【発明者】
【氏名】クレイグ・デュアン・ディッキンソン
(72)【発明者】
【氏名】デイビッド・アルバート・ドライバー
(72)【発明者】
【氏名】ライアン・ジェイムズ・ダーリング
(72)【発明者】
【氏名】マルゴルザータ・ドナータ・ゴンシアルス
(72)【発明者】
【氏名】ラドミラ・ミカノビッチ
【審査官】 原 大樹
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/065439(WO,A1)
【文献】 特表2008−511323(JP,A)
【文献】 特表2007−535306(JP,A)
【文献】 特表2011−523561(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00−15/90
C07K 1/00−19/00
A61K 38/00−38/58
MEDLINE/BIOSIS/EMBASE/WPIDS/WPIX/CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミノ酸配列が、
HPIPDSSPLLQFGGQVRQRYLYTDDAQQTECHLEIREDGTVGCAADQSPESLLQLKALKPGVIQILGVKTSRFLCQRPDGALYGSLHFDPEACSFREDLLEDGYNVYQSEAHGLPLHLPGDKSPHRKPAPRGPARFLPLPGLPPALPEPPGILAPQPPDVGSSDPLRLVEPSQLLSPSFLG(配列番号1)
である、ヒト線維芽細胞増殖因子21(FGF21)の変異体。
【請求項2】
2型糖尿病、肥満、脂質異常症、もしくはメタボリックシンドローム、またはそれらの任意の組み合わせを治療するための、請求項1に記載の変異体と、少なくとも1種の薬学的に許容可能な担体、希釈剤、または賦形剤とを含む医薬組成物。
【請求項3】
2型糖尿病、肥満、脂質異常症、もしくはメタボリックシンドローム、あるいはそれらの任意の組み合わせの治療に使用する医薬を製造するための請求項1に記載の変異体の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒト線維芽細胞増殖因子21(FGF21)の変異体、FGF21変異体を含む医薬組成物、および2型糖尿病、肥満、脂質異常症、もしくはメタボリックシンドロームまたはそれらの任意の組み合わせを治療するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
FGF21はグルコースおよび脂質恒常性の重要な代謝調節因子として機能するホルモンである。FGF21は、インスリンのものと異なる機構である、GLUT1発現を上方制御することにより脂質細胞においてグルコース取り込みを促進する。糖尿病の齧歯動物およびサルにおいて、ヒトFGF21は、グルコースの空腹時血清濃度を低下させ、トリグリセリド、インスリンおよびグルカゴンの空腹時血清濃度を減少させる。さらに、食餌性肥満の齧歯動物モデルにおいて、FGF21の投与は用量依存的に累積的な体重損失を導いた。したがって、FGF21は、糖尿病、肥満、脂質異常症、およびメタボリックシンドロームの治療についての潜在的有用性を有する。
【0003】
ヒトFGF21の変異体は、特許文献1、特許文献2、および特許文献3に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2010/065439号
【特許文献2】国際公開第2006/028595号
【特許文献3】国際公開第2005/061712号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ヒト野生型FGF21および公知のヒトFGF21の変異体に関する問題は、分子の低い薬理学的効果および/または薬学的安定性である。したがって、有効および/または安定である代替のFGF21変異体についての必要性が依然として存在する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、ヒト野生型FGF21および当該技術分野において開示される公知のヒトFGF21の変異体より利点を有するヒトFGF21の代替の変異体を提供する。これらの利点は、改善された薬理学的効果および/または改善された薬学的安定性を含む。本発明の特定のFGF21変異体は、インビボでの低いタンパク質分解、酸化に対する低い感受性、高濃度で凝集する低い傾向、哺乳動物細胞系における産生後の低いレベルの翻訳後修飾、特定の保存剤との高い適合性、および/または改善された化学的安定性を含む、治療用タンパク質として効果的に製造および/または処方するのに有用である1つ以上の有益な生理学的特徴を有する。さらに、本発明のFGF21変異体は、2型糖尿病、肥満、脂質異常症、もしくはメタボリックシンドロームまたはそれらの任意の組み合わせの治療に潜在的に有用である。
【0007】
本発明は、ヒト線維芽細胞増殖因子21(FGF21)の変異体であって、そのアミノ酸配列は、
HPIPDSSPLLQFGGQVRQRYLYTDDAQQTECHLEIREDGTVGCAADQSPESLLQLKALKPGVIQILGVKTSRFLCQRPDGALYGSLHFDPEACSFREXLLEDGYNVYQSEAHGLXLHLPGDKSPHRKPAPRGPARFLPLPGLPPALPEPPGILAPQPPDVGSSDPXLVXPSQLLSPSFLG(配列番号13)
であり、ここで、XはLまたはDであり、XはPまたはWであり、XはLまたはYであり、XはSまたはRであり、XはGまたはEである、変異体を提供する。
【0008】
本発明は、ヒト線維芽細胞増殖因子21(FGF21)の変異体であって、そのアミノ酸配列は、
HPIPDSSPLLQFGGQVRQRYLYTDDAQQTECHLEIREDGTVGCAADQSPESLLQLKALKPGVIQILGVKTSRFLCQRPDGALYGSLHFDPEACSFREDLLEDGYNVYQSEAHGLPLHLPGDKSPHRKPAPRGPARFLPLPGLPPALPEPPGILAPQPPDVGSSDPLRLVEPSQLLSPSFLG(配列番号1)
である、変異体を提供する。
【0009】
本発明はまた、本明細書に記載される本発明のヒトFGF21の変異体と、少なくとも1つの薬学的に許容可能な担体、希釈剤、または賦形剤と、任意の他の治療成分とを含む医薬組成物を提供する。
【0010】
本発明はまた、本明細書に記載される本発明のヒトFGF21の変異体を、患者に投与することを含む、患者における2型糖尿病、肥満、脂質異常症、もしくはメタボリックシンドローム、またはそれらの任意の組み合わせを治療する方法を提供する。
【0011】
本発明はまた、本明細書に記載される本発明の医薬組成物を患者に投与することを含む、患者における2型糖尿病、肥満、脂質異常症、もしくはメタボリックシンドローム、またはそれらの任意の組み合わせを治療する方法を提供する。
【0012】
さらに、本発明は、治療に使用するための、本明細書に記載される本発明のヒトFGF21の変異体を提供する。好ましくは、本発明は、2型糖尿病、肥満、脂質異常症、もしくはメタボリックシンドローム、またはそれらの任意の組み合わせの治療に使用するための、本明細書に記載される本発明のヒトFGF21の変異体を提供する。
【0013】
さらに、本発明は、2型糖尿病、肥満、脂質異常症、もしくはメタボリックシンドローム、またはそれらの任意の組み合わせを治療するための医薬の製造における、本明細書に記載される本発明のヒトFGF21の変異体の使用を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0014】
完全長ヒト野生型FGF21は27個のアミノ酸シグナルペプチドを含有する208個のアミノ酸ポリペプチドである。成熟ヒト野生型FGF21は27個のアミノ酸シグナルペプチドを有さない完全長ポリペプチドを含み、181個のアミノ酸ポリペプチド(配列番号2)が得られる。本発明のFGF21変異体のアミノ酸位置の変化は成熟ヒト野生型FGF21(配列番号2)のポリペプチドにおけるアミノ酸位置から決定される。このように、「A31C」として本明細書に記載される置換は、成熟ヒト野生型FGF21タンパク質の31位における野生型アミノ酸Alaについてのアミノ酸Cysの置換を指す。
【0015】
特定の変異体における1つのアミノ酸残基の置換は全体として変異体の特性に影響を与え得ること、ならびに全体的効果は、薬理学的効果および/または薬学的安定性に有益または有害になり得ることを留意することが重要である。例えば、1つのアミノ酸置換、P115Wは、FGF21変異体の有効性を増加するが、P115Wはまた、凝集を引き起こす自己相互作用の原因となると考えられる(実施例5を参照のこと)。したがって、全体的効果は変異体に有害となるので、置換P115Wは本発明の好ましいFGF21変異体に含まれない。
【0016】
本発明のヒトFGF21の特定の変異体は、実施例2および3において配列番号1について実証しているように有効な生物学的に活性なタンパク質である。本発明の好ましいFGF21変異体は、一緒に薬理学的効果を改善するだけでなく、他のアミノ酸変化と適合性もあり、それにより、改善された薬理学的特性を提供し、インビボ安定性を増加させる、アミノ酸置換を含有する。効果を改善する本発明の好ましいFGF21変異体におけるアミノ酸置換の群には、D127K、S167R、G174L、R175L、およびA180Lが含まれる(実施例2および3を参照のこと)。
【0017】
m−クレゾールなどの医薬品保存剤に対するヒト野生型FGF21の濃縮タンパク質溶液の曝露は、凝集体を形成させるタンパク質の特性を増加させる。さらなるジスルフィド結合の導入による構造的安定化は、保存剤の適合性およびヒト野生型FGF21の熱安定性を改善する。本発明のFGF21変異体は、生物学的活性を損なわずに熱安定性および保存剤の適合性を非常に改善するアミノ酸置換A31CおよびG43Cを組み込む。A31C/G43C置換も含むFGF21の非常に有効な変異体は以前に記載されている。これらの報告された変異体は、野生型FGF21に対する顕著に高い保存剤の適合性を示すが、それらは依然として凝集する傾向がある。凝集は免疫原性の危険性を増加させることが知られているので、治療タンパク質としての変異体の許容性を減少させる。
【0018】
この有害な凝集を最小化するために、本発明の好ましい変異体はアミノ酸置換L98Dを含み、それは高濃度で顕著に低い高分子量の凝集体形成を生じる(実施例5を参照のこと)。有益には、アミノ酸置換L98Dは変異体の有効性を低下させない。
【0019】
本発明のFGF21変異体を製造するための好ましい商業的な発現系は哺乳動物CHO−K1細胞株である。しかしながら、哺乳動物細胞株CHO−K1およびHEK293は、179位におけるチロシン側鎖の硫酸化によりヒト野生型FGF21を成熟させるために翻訳後修飾を引き起こし得る。(存在する場合)179および180位におけるチロシン残基の硫酸化は有効性を減少させ、生成物不均一性の望ましくない起源である。したがって、179および/または180位におけるTyrを有するFGF21タンパク質がCHO−K1またはHEK293細胞株から発現される場合、発現タンパク質の一部の割合は179位において硫酸化され得、他は180位において硫酸化され得るが、他は両方の位置で硫酸化されてもよく、一部はいずれの位置で硫酸化されなくてもよい。これにより、低下した有効性を有する不均一および予測不可能なタンパク質集団が生じる。
【0020】
本発明のFGF21は、変異体内にアミノ酸置換Y179Fを含むことにより、この有害な硫酸化を解決した。Y179FはCHO−K1およびHEK293細胞における生成物から生じる硫酸化を排除する(実施例4を参照のこと)。さらに、アミノ酸置換Y179Fは、本発明の他の支持されるアミノ酸置換と適合し、有効性に関して中立の変化であると決定される。
【0021】
ヒト野生型FGF21はインビボでのタンパク質分解に影響を受けやすい。マウスまたはカニクイザルの静脈注射または皮下注射後に血清から回収された多くのタンパク質分解断片は171位において終了する断片である。以前に、残基1〜171に及ぶFGF21断片は、インビトロ有効性アッセイにおいて約100倍未満であることが決定されている。このタンパク質分解による切断部位を排除することで、活性薬物に対する曝露が増加することにより薬効が向上する。アミノ酸置換G170Eはマウスにおいて非常にゆっくり切断することが示されており(データは示さず)、カニクイザルにおいて、24時間後に171位におけるタンパク質分解が実質的に排除される(実施例6を参照のこと)。G170E置換は有効性に影響を与えず、所望の生理化学的安定性プロファイルと適合する。したがって、アミノ酸置換G170Eは本発明の好ましいFGF21変異体内に組み込まれる。
【0022】
ヒト野生型FGF21はCHO−K1製造において産生されるカルボキシペプチダーゼに影響を受けやすく、アミノ酸置換S181Gはこのプロセシングを示すので、発現されるタンパク質の長さの不均一性(すなわち、細胞株により発現される成熟タンパク質におけるアミノ酸残基の数の不均一性)を減少させる。アミノ酸置換S181Gは哺乳動物細胞発現においてC末端タンパク質分解を排除しないが、それは、本発明のFGF21変異体に見出される他の所望のアミノ酸置換に関して所望の有効性を維持しながらタンパク質分解を遅延するのにかなり効果的である。この有益な特徴を考慮して、アミノ酸置換S181Gは本発明のFGF21変異体に組み込まれる。
【0023】
本発明はまた、RNAの形態またはDNAの形態であり得る上記の変異体をコードするポリヌクレオチドを含み、そのDNAはcDNAおよび合成DNAを含む。DNAは二本鎖であっても、一本鎖であってもよい。本発明の変異体をコードするコード配列は遺伝コードの冗長性または縮退の結果として変化してもよい。
【0024】
本発明の変異体をコードするポリヌクレオチドは以下を含んでもよい:変異体についてのコード配列のみ、変異体についてのコード配列および機能的ポリペプチドなどのさらなるコード配列、またはリーダーもしくは分泌配列またはプロタンパク質配列;変異体についてのコード配列およびイントロンなどの非コード配列または変異体についてのコード配列の非コード配列5’および/もしくは3’。したがって、「変異体をコードするポリヌクレオチド」という用語は、変異体についてのコード配列のみではなく、さらなるコードおよび/または非コード配列を含むポリヌクレオチドも含み得るポリヌクレオチドを含む。
【0025】
本発明のポリヌクレオチドは、配列が発現制御配列に作動可能に連結した後、宿主細胞内で発現される。発現ベクターは典型的に、エピソームとして、または宿主染色体DNAの全体部分として宿主生物内で複製可能である。一般に、発現ベクターは、所望のDNA配列で形質転換されたこれらの細胞の選択を可能にするように、選択マーカー、例えばテトラサイクリン、ネオマイシン、およびジヒドロ葉酸還元酵素を含有する。
【0026】
本発明のFGF21変異体は、CHO、NS0、HEK293またはCOS細胞などの哺乳動物細胞内;大腸菌(E.coli)、枯草菌(Bacillus subtilis)、またはシュードモナスフルオレッセンス(Pseudomonas fluorescence)などの細菌細胞内;あるいは真菌または酵母細胞内で容易に作製され得る。当該技術分野において周知の技術を使用して宿主細胞は培養される。好ましい哺乳動物宿主細胞は、グルタミンシンテターゼ(GS)発現系を含有するCHOK1SV細胞株である(米国特許第5,122,464号を参照のこと)。
【0027】
目的のポリヌクレオチド配列(例えば、FGF21の変異体および発現制御配列)を含有するベクターは、細胞宿主の種類に応じて変化する、周知の方法により宿主細胞内に移され得る。例えば、塩化カルシウムトランスフェクションが原核細胞のために一般に利用されるのに対して、リン酸カルシウム処理またはエレクトロポレーションが他の細胞宿主のために使用されてもよい。
【0028】
タンパク質精製の種々の方法が利用されてもよく、そのような方法は当該技術分野において公知であり、例えば、Deutscher、Methods in Enzymology 182:83−89(1990)およびScopes、Protein Purification:Principles and Practice、第3版、Springer、NY(1994)に記載されている。
【0029】
本発明のFGF21変異体の医薬組成物は、一般に2型糖尿病、肥満、脂質異常症、もしくはメタボリックシンドローム、またはそれらの任意の組み合わせを治療することを意図する目的を達成する、当該技術分野において公知の任意の手段により投与されてもよい。好ましい投与経路は非経口である。投与される用量は、受容者の年齢、健康、および体重、併用療法の種類、もしあれば、治療頻度、ならびに所望される効果の性質に依存する。典型的な用量レベルは、標準的な臨床技術を使用して最適化されてもよく、投与様式および患者の病態に依存し、当業者により決定され得る。
【0030】
本発明のFGF21変異体は薬学的に有用な組成物を調製するために公知の方法に従って製剤化される。所望の製剤は、任意の薬学的に許容可能な担体、保存剤、賦形剤または安定剤と共に、高純度の適切な希釈剤または適切な溶液を用いて再構成される安定な凍結乾燥製剤である[Remington、The Science and Practice of Pharmacy、第19版、Gennaro編、Mack Publishing Co.、Easton、PA1995]。
【0031】
本発明のFGF21変異体は薬学的に許容可能な緩衝液と組み合わされてもよく、pHは薬学的安定性を提供し、投与に許容可能なpHに調整される。さらに、本発明のFGF21変異体は、バイアル、カートリッジ、ペン送達装置、シリンジ、静脈内投与チューブまたは静脈内投与バッグなどの容器内に配置されてもよく、ここで、容器は単位用量容器である。
【0032】
「脂質異常症」という用語は、リポタンパク質過剰産生または欠損を含む、リポタンパク質代謝の障害を意味する。脂質異常症は、総コレステロール、低密度リポタンパク質(LDL)コレステロールおよびトリグリセリド濃度の上昇、ならびに/または血液中の高密度リポタンパク質(HDL)コレステロール濃度の低下により現れ得る。
【0033】
「メタボリックシンドローム」という用語は、ヒトにおける代謝リスク因子の群により特徴付けられる。それらには以下が挙げられる:腹部脂肪、ほとんどの男性において40インチのウエストまたはそれ以上;高血糖、空腹後に少なくとも110ミリグラム/デシリットル(mg/dl);高トリグリセリド、血流中に少なくとも150mg/gL;低いHDL、40mg/dl未満;および/または130/85以上の血圧。
【0034】
「肥満」という用語は、除脂肪体重に対して過剰な皮下脂肪が存在する状態と定義される(Stedman’s Medical Dictionary 28版、2006、Lippincott Williams & Wilkins)。
【0035】
「患者」は、哺乳動物、好ましくはヒトである。
【0036】
「治療している」(または「治療する」または「治療」)という用語は、症状、障害、病態、または疾患の進行または重症度を遅延、減少、または反転させることを意味する。
【0037】
「治療有効量」という用語は、患者への単回または複数回投与により、所望の治療を与える、本発明のFGF21の変異体の量または用量を指す。
【0038】
「2型糖尿病」という用語は、インスリンの利用可能性にも関わらず、過剰なグルコース産生、および不十分なグルコースクリアランスの結果として循環グルコースレベルが過度に高いままであることにより特徴付けられる。
【0039】
以下の実施例は本質的に以下に示すように実施され得る。
【実施例】
【0040】
実施例1
CHOK1SV細胞におけるFGF21変異体の発現
チャイニーズハムスター卵巣(CHOK1SV)細胞を使用して哺乳動物細胞発現系において本発明のFGF21変異体を産生する。FGF21変異体をコードする遺伝子を、グルタミンシンテターゼ(GS)を含有する発現プラスミド骨格(pEE12.4ベースのプラスミド)内でサブクローニングする。FGF21変異体をコードするcDNA配列を、組織培養培地内への所望の産物の分泌を増強するために好ましいシグナルペプチド配列のコード配列とフレーム内で融合する。好ましいシグナルペプチド配列は、配列番号3、配列番号4、配列番号5、または配列番号6のアミノ酸配列に示されるようなポリペプチドである。
【0041】
発現はウイルスであるサイトメガロウイルス(CMV)プロモーターにより駆動する。CHOK1SV細胞をエレクトロポレーションおよび適切な量の組換え発現プラスミドを使用して安定にトランスフェクトし、トランスフェクトした細胞を、適切な細胞密度で懸濁培養物中に維持する。トランスフェクトした細胞の選択は、メチオニンスルホキシイミン(MSX)を含有する無血清培地中の増殖により達成し、35〜37℃および5〜7%COにてインキュベートする。
【0042】
フローサイトメトリーの使用によりクローンに由来する細胞株を生成する。哺乳動物細胞におけるFGF21変異体の発現は、通常、天然のN末端配列、HPIP、すなわちN末端においてメチオニン残基を有さない、例えば配列番号1のアミノ酸配列により示されるFGF21変異体を産生する。
【0043】
CHO細胞から培地内に分泌されるFGF21変異体は、清浄した細胞培養培地を、最大2時間、50〜60℃で加熱し、冷却し、ウイルス不活性化のために洗浄剤(TritonX−100)で処理し、Capto MMC(GE Healthcare)混合モードクロマトグラフィーカラムに適用する、プロセスにより精製する。FGF21変異体はpH8の緩衝液を使用してカラムから溶出し、その後、生成物のプールを、ウイルス不活性化のために50mMのクエン酸、150mMのNaCl溶液を用いて1時間、3.2〜3.5のpH範囲に調整する。Tris緩衝液を添加することにより溶液をpH6.7〜7.3に調整し、Phenyl Sepharose High Performance樹脂(GE Healthcare)を使用して疎水性交換クロマトグラフィーによりFGF21変異体をさらに精製する。疎水性相互作用カラムを、pH7にて硫酸ナトリウムの減少させた勾配で溶出する。HIC精製したFGF21変異体を、pH8にてNaClを含有するTris緩衝液に緩衝液を交換し、Source30Q樹脂(GE Healthcare)上でアニオン交換クロマトグラフィーによりさらに精製する。アニオン交換カラムはpH8にて増加させた濃度の塩化ナトリウムで溶出する。Planova20N(Asahi Kasei Medical)ウイルス保持フィルタを通して精製したFGF21変異体を通過させ、続いて、再生セルロース膜(Millipore)上での接線流限外濾過を使用して10Mクエン酸塩、150mMのNaCl pH7内で濃縮/血液透析濾過する。
【0044】
実施例2
3T3−L1−βKlotho線維芽細胞グルコース摂取アッセイ
3T3−L1−βKlotho線維芽細胞は、野生型マウスβKlothoのコード配列およびブラストサイジン耐性マーカーを含有するCMVにより駆動される哺乳動物発現ベクターのレトロウイルス形質導入により3T3−L1線維芽細胞から生成する。15μMのブラストサイジンの存在下で14日間の増殖後にブラストサイジン耐性細胞を選択し、βKlothoタンパク質発現を、抗βKlotho抗体を用いた免疫ブロットにより検証する。実験での使用のために播種するまで、10%のウシ血清、および15μMのブラストサイジンを有するダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)中に3T3−L1−βKlotho線維芽細胞を維持する。
【0045】
グルコース摂取に関して、3T3−L1−βKlotho線維細胞を、96ウェルプレート中に20,000個の細胞/ウェルにて播種し、10%のウシ血清を有するDMEM中で48時間インキュベートする。細胞を、目的のFGF21変異体を有するまたは有さない0.1%のウシ血清アルブミン(BSA)を有するDMEM中で3時間インキュベートし、続いて、FGF21変異体を有するまたは有さない100μMの2−デオキシ−D−(14C)グルコースを含有するクレブス・リンガーリン酸(KRP)緩衝液(15mMのHepes、pH7.4、118mMのNaCl、4.8mMのKCl、1.2mMのMgSO、1.3mMのCaCl、1.2mMのKHPO、0.1%のBSA)中で1時間インキュベートする。非特異的結合を、1mMの2−デオキシ−D−(14C)グルコースを含有するクレブス・リンガー重炭酸塩/Hepes(KRBH)緩衝液中での選択ウェルのインキュベーションにより決定する。20μMのサイトカラシンBを細胞に添加することにより反応を停止させ、液体シンチレーションカウンタを使用してグルコース摂取を測定する。
【0046】
3T3−L1−βKlotho線維芽細胞グルコース摂取アッセイにおいて配列番号1のFGF21変異体のインビトロ効力は0.026nMであった。配列番号1のFGF21変異体は、公知の配列番号11のFGF21変異体(国際公開第2006/028595号に開示されている)と比較して有効なFGF21変異体である。3T3−L1−βKlotho線維芽細胞グルコース摂取アッセイにおいて配列番号11のFGF21変異体のインビトロ効力は0.49nMであった。
【0047】
実施例3
ヒト293細胞−βKlotho−SREルシフェラーゼアッセイ
293−βKlotho−SRElucレポーター細胞の構築:
37℃、5%COにて、ダルベッコ改変イーグル培地中に10%ウシ胎児血清(FBS)を含有する増殖培地中でHEK−293(ヒト胎児腎臓細胞)を培養する。CMVプロモーターにより駆動されるβKlotho発現カセットを含有するプラスミドおよび血清反応要素(SRE)により駆動されるリスフェラーゼ発現カセットを含有するプラスミドを用いて細胞を共トランスフェクトする。βKlotho発現プラスミドもまた、アミノグリコシド系抗生物質G418に対する耐性を与えるためにSV40プロモーターにより駆動されるネオマイシンホスホトランスフェラーゼ発現カセットを含有する。トランスフェクトプラスミドがゲノム内に組み込まれている細胞を選択するために600μg/mLのG418を用いてトランスフェクトしたHEK−293細胞を選択する。希釈により選択した細胞をクローニングし、FGF21の添加の24時間後にルシフェラーゼ産物の増加について試験する。最大のFGF21に依存したルシフェラーゼの増加を示しているクローンを、関連するFGF21変異体活性を測定するために使用する細胞株として選択する。
【0048】
293−βKlotho−SRElucFGF21活性アッセイ:
293−βKlotho−SREluc細胞をリンスし、CD293懸濁培養培地(Invitrogen)内に入れる。37℃、6%CO、125rpmにて細胞を懸濁液中で一晩増殖させる。細胞を計数し、遠心分離によりペレット化し、0.1%BSAを含有するCD293培地中で再懸濁する。25,000個の細胞/ウェルにて細胞を白色96ウェルプレート内に入れる。CD293/0.1%BSA中での4倍連続希釈を、100nM〜0.006nMの最終濃度で8個の希釈物を生成するために各FGF21変異体について調製する。希釈物を3連で細胞に加え、37℃、5%COにて16〜20時間インキュベートする。等体積のOneGlo(商標)ルシフェラーゼ基質(Promega)を添加し、相対蛍光を測定することによりルシフェラーゼレベルを決定する。曲線を適合するために4パラメータロジスティックモデル(XLfitバージョン5.1)を使用してデータを分析し、EC50を決定する。
【0049】
ヒト293細胞−βKlotho−SRElucアッセイにおける配列番号1のFGF21変異体のインビトロ効力は0.25nMであった。配列番号1のFGF21変異体は、公知の配列番号11のFGF21変異体(国際公開第2006/028595に開示されている)と比較して有効なFGF21変異体である。ヒト293細胞−βKlotho−SRElucアッセイにおける配列番号11のFGF21変異体のインビトロ効力は22.39nMであった。
【0050】
実施例4
哺乳動物細胞における製造の間のチロシン硫酸化
ヒト野生型FGF21は、CHOK1SV細胞における哺乳動物タンパク質発現の間、179位におけるチロシン硫酸化に影響を受けやすい(データは示さず)。この硫酸化は不均質を生じることを導き、タンパク質の異なる形態(すなわち硫酸化を有するおよび有さない)が発生し得ることを意味する。生成物の同質性は生物製剤の所望の特性である。治療タンパク質の産生の間に起こる翻訳後修飾は望ましくない。なぜなら、修飾は活性または他の生物薬剤特性の相違を導き得るからである。
【0051】
FGF21変異体が硫酸化されるかどうかを評価するために、試料の1μLのアリコートを99μLの0.1%トリフルオロ酢酸(TFA)と混合する。以下の条件を使用して、液体クロマトグラフィー−質量分析(LC−MS)により試料を分析する:移動相Aは0.1%TFA/10%アセトニトリルであり、移動相Bはアセトニトリル中の0.1%TFAであり、カラムは2.1×12.5mmC8ガードを有する、C8カラム、3.5μm2.1×150mmであり、注入体積は試料濃度に応じて12〜20μLであり、約1μgのタンパク質が注入される。
【0052】
【表1】
【0053】
Waters Micromass LCT Premier(商標)質量分析計を、400〜1990amuの質量範囲、極性ES+、毛細管2000、試料錐体40Vに設定し、開口1は30Vであり、ソース温度は105℃であり、錐体ガス流は50L/時間であり、脱溶媒和温度は300℃であり、脱溶媒和ガス流は600L/時間である。
【0054】
【表2】
【0055】
表2から見られ得るように、予想される質量(硫酸化を有さない)は配列番号1のFGF21変異体について観測された質量とほぼ同じであり、硫酸化は配列番号1のFGF21変異体において検出されなかったことが示される。したがって、アミノ酸置換Y179Fは、配列番号1のFGF21変異体における179位において硫酸化が発生するのを防いだ。この結果は、治療タンパク質産物として、より許容可能である、より均質な産物を提供する。
【0056】
実施例5
P115Wは凝集を促進するのに対して、L98Dは物理的安定性および製剤中のベンジルアルコールとの適合性を増加させる
タンパク質自己会合および凝集の量を測定するために、分析的サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)法を使用して、高分子量凝集体のパーセント(%HMW)を測定する。タンパク質の初期ストック溶液をSECにより特徴付けて、HMWの開始レベルを決定する(表3)。
【0057】
【表3】
【0058】
4℃で2mg/mLの濃度にて一晩、(表4〜6に記載した)試料緩衝液内に(10,000ダルトンの分画分子量を有する透析カセットを使用して)透析することにより各タンパク質の試料を調製する。透析後、試料を滅菌濾過(0.22μm膜)し、280nmにおける吸光度により定量する。次に、試料を、10,000MWカットオフ遠心分離フィルタを使用して4℃で3000rpmにて、≧60mg/mLの標的濃度に濃縮する。試料を濃縮した後、タンパク質濃度を280nmにおける吸光度により定量し、SECアッセイを使用して%HMWを決定する。
【0059】
SEC法は30cm×0.78cmの寸法を有するTosoHaasモデルTSK−GEL(登録商標)G2000SWXLカラムを利用する。移動相は、0.5mL/分の流速で0.1Mリン酸ナトリウム、pH7.4である。低濃度の試料を10μLの注入として適用し、214nmの吸光度波長にてモニターし、一方で、濃縮した試料を1μLの注入として適用し、280nmにてモニターする。
【0060】
表4はFGF21変異体の配列番号8および配列番号9の濃縮溶液中のタンパク質濃度および%HMWを報告している。単量体(非凝集形態)中に存在したままの各変異体のパーセンテージを表に記載しているが、100%−報告した%HMWに等しい。配列番号8のFGF21変異体および配列番号9のFGF21変異体は、115において効力を増強するトリプトファン残基を含有する配列番号8のFGF21変異体(P115W)および野生型プロリン残基を含有する配列番号9のFGF21変異体(P115P)を有するアミノ酸位置115のみが異なる。種々の製剤緩衝条件下で、配列番号8のFGF21変異体(P115W)についての%HMVは配列番号9のFGF21変異体と比較して著しく高く、凝集および自己会合を促進することに対する115位においてトリプトファンを有する原因となる効果を示している。同様に、115位においてトリプトファン残基を含有する配列番号10のFGF21変異体は、115位においてアミノ酸プロリンを含有する配列番号1のFGF21変異体と比較して実質的に高い%HMWを有する。
【0061】
【表4】
【0062】
【表5】
【0063】
物理的安定性および0.9%の保存剤レベル濃度におけるベンジルアルコールとの適合性を、SECアッセイにおいて%HMWとして測定し、0.02%Tween−80の存在または非存在下で、pH7.0にて150mMのNaClを有する緩衝液10mMヒスチジン中でモニターする。試料を30mg/mLにて調製し、4℃、25℃、および40℃にて4週間インキュベートする。新たに製剤化したFGF21変異体(すなわち時間ゼロ)および4週間インキュベートしたものを、SEC法により%HMWについて分析する。表6は、時間ゼロの試料(「初期」)および40℃にて4週間インキュベートしたものを比較している、分析の結果をまとめている。
【0064】
【表6】
【0065】
配列番号1のFGF21変異体はアミノ酸置換L98Dを含有する。配列番号9のFGF21変異体は、アミノ酸置換L98Dを含有せず、代わりに98位において野生型アミノ酸ロイシンを含有する。各タンパク質を製剤条件下で30mg/mLにて製剤化した場合にアミノ酸置換L98Dの利点を観測する(表6)。試験した全ての条件下で、40℃で4週間、FGF21変異体にストレスを加えた結果、配列番号1のFGF21変異体と比較して配列番号9のFGF21変異体について実質的に高い%HMWを生じる。さらに、多くの医薬製剤に使用される一般的な保存剤である0.9%ベンジルアルコールの添加は、配列番号9のFGF21変異体について%HMWの増加を悪化させるが、配列番号1のFGF21変異体については悪化させない。このベンジルアルコールとの不適合性はまた、開始試料調製物の分析にも観測され、0.9%ベンジルアルコールの存在下の%HMWは、ベンジルアルコールの非存在下の0.97%のみと比較して11%である。配列番号9のFGF21変異体も配列番号1のFGF21変異体のいずれもP115W残基を含有していないので、これらの条件下での不十分な物理的安定性はP115W残基に起因し得ない。アミノ酸置換L98Dがなされた後、0.9%ベンジルアルコールの存在下で高い物理的安定性が観測される。
【0066】
これらのデータは、特定の置換が、特にベンジルアルコールなどの特定の保存剤の存在下で高分子量種内の凝集に起因して全タンパク質の安定性に影響を与え得ることを示す。これらのHMW凝集体の最小化が治療タンパク質について好ましい。これは、配列番号1に示されるFGF21変異体におけるL98DなどのFGF21変異体タンパク質における特定の置換により達成され得る。P115Wなどの他の置換は、変異体における凝集のレベルを増加させることなどの有害作用を有し得る。
【0067】
実施例6
インビボでのタンパク質分解
オスのカニクイザル、n=2/群に、配列番号1のFGF21変異体の単回の2mg/kg注射を皮下投与する。活性化合物の量を定量化するために質量分析によりインビボタンパク質分解の24時間の評価の間、血清を経時的に得る(0.25〜12時間後に引き抜く)。
【0068】
液体クロマトグラフィー質量分析(LC/MS)解析を実施する。各血清試料の100μLアリコートを、磁性ビーズに共有結合する抗FGF21モノクローナル抗体で免疫沈降させる。免疫沈降した試料を別のアリコートに分け、インタクトなタンパク質および典型的に消化されるタンパク質の検出を可能にする。インタクトなタンパク質を、C5でコーティングした3μm粒子を含有するDiscovery(登録商標)Bioワイドポアカラム、100×0.32mmi.d.上に注入する。典型的に消化した試料を、C18でコーティングした3μm粒子を含有するDiscovery Bioワイドポアカラム、100×0.32mmi.d.上に注入する。全ての注入についてのクロマトグラフ条件は、移動相A(0.1/100、ギ酸:水)および移動相B(0.1/100、ギ酸:アセトニトリル)からなる2勾配を使用する。LCからの流出物は、陽イオンモードにおいて質量スペクトル検出用のMicromass Synapt(登録商標)Q−Tof質量分析計に直接接続される。Masslynx(v4.1)およびMaxEnt1デコンボリューションソフトウェアを使用してQ−Tof質量分析計からのデータを収集する。
【0069】
FGF21タンパク質の171位における切断はタンパク質の生物活性を100倍以上減少させることが見出されている。したがって、この部位においてタンパク質分解を減少させることにより、完全な活性薬物の曝露を増強させることが望ましい。上記のLC/MS法で分析する場合、配列番号1のFGF21変異体は、24時間の評価にわたってタンパク質分解産物が検出されなかったことを示す。これらのデータは、配列番号1のFGF21変異体におけるG170Eの置換が、G170Eのアミノ酸置換を含有しない、配列番号7のFGF21変異体と比較してオスのカニクイザルにおいて24時間にわたってインビボでのタンパク質分解を減少させることを実証する。
【0070】
実施例7
Ob/obマウスモデルにおけるグルコース低下
オスのob/ob(B6.V−Lepob/Lep/OlaHsd)マウスおよび年齢を一致させたob/m痩せた対照(B6.V−Lep/OlaHsd)は、到着時に7〜8週齢で、治療開始時に10〜11週齢である。到着時に全てのマウスをケージ当たり3匹で収容し、治療の開始前に3週間馴れさせる。マウスにPurina Rodent Chow5015を与え、水を自由に与える。マウスを70°Fに設定した周囲温度で12時間明/暗周期に収容する。治療の開始の前日に、マウスを2時間絶食させ、尾出血によりヘパリン化毛細管内に血液試料を採取する。Ascensia Contor血糖測定器を用いて血糖値を測定し、Meso Scaleマウス/ラットインスリンアッセイキット(Meso Scale Discovery、Gaithersburg、MD)を使用して血漿インスリンレベルを定量する。治療の開始日(0日)に、前日の体重、血糖、および血漿インスリンに基づいてマウスを分類する。無菌食塩水(0.9%NaCl)を用いてFGF21変異体を希釈し、ミニ浸透圧Alzetポンプにより皮下投与する。5日目に、明サイクルの開始後約2時間で、供給した血糖および血漿インスリンレベルを測定する。5日目に全てのマウスを一晩絶食させ、6日目に経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)を実施する。グルコース(2g/kg)の経口投与前に尾を切断することによりヘパリン化した毛細管内にマウスを出血させる。経口グルコース投与後、30、60および120分にさらに血液試料を採取する。Cayman Chemicals製のグルコースアッセイキットを用いて血漿グルコースを測定する。4パラメータロジスティック回帰モデルフィットを6日目に、正規化したグルコースAUC値で実施する。
【0071】
5日目、ビヒクル処置したマウスは、240.4±15.0mg/dlにて測定した平均血糖値(平均±SEM)を有して高血糖であったのに対して、ob/m痩せた対照マウスは、150.6±6.0mg/dl(平均±SEM)の血糖値を有した。配列番号1のFGF21変異体および配列番号11のFGF21変異体の両方は、ob/m痩せた対照に匹敵するレベルまで用量依存的に血糖を低下させた。配列番号1のFGF21変異体のED50は0.7μg/kg/hrであったのに対して、配列番号11のFGF21変異体のED50は3.1μg/kg/hrであった。配列番号1のFGF21変異体は、配列番号11のFGF21変異体よりob/obマウスにおいて低い血糖で約4.4倍効果があった。したがって、配列番号1のFGF21変異体は、公知の配列番号11のFGF21変異体と比較して有効なFGF21変異体である(国際公開第2006/028595号に開示されている)。
【0072】
配列
配列番号1−FGF21変異体
HPIPDSSPLLQFGGQVRQRYLYTDDAQQTECHLEIREDGTVGCAADQSPESLLQLKALKPGVIQILGVKTSRFLCQRPDGALYGSLHFDPEACSFREDLLEDGYNVYQSEAHGLPLHLPGDKSPHRKPAPRGPARFLPLPGLPPALPEPPGILAPQPPDVGSSDPLRLVEPSQLLSPSFLG
配列番号2−野生型FGF21(ホモサピエンス)
HPIPDSSPLLQFGGQVRQRYLYTDDAQQTEAHLEIREDGTVGGAADQSPESLLQLKALKPGVIQILGVKTSRFLCQRPDGALYGSLHFDPEACSFRELLLEDGYNVYQSEAHGLPLHLPGNKSPHRDPAPRGPARFLPLPGLPPALPEPPGILAPQPPDVGSSDPLSMVGPSQGRSPSYAS
配列番号3−ヒトトランスフェリン(hTrf)シグナルペプチド
MRLAVGALLVCAVLGLCLA
配列番号4−ヒト線維芽細胞増殖因子結合タンパク質−1(hFGFP−1)シグナルペプチド
MKICSLTLLSFLLLAAQVLLVEG
配列番号5−ウシリゾチームシグナルペプチド
MKALVILGFLFLSVAVQG
配列番号6−マウス軽鎖(mカッパ)シグナルペプチド
METDTLLLWVLLLWVPGSTG
配列番号7−FGF21変異体
HPIPDSSPLLQFGGQVRQRYLYTDDAQQTECHLEIREDGTVGCAADQSPESLLQLKALKPGVIQILGVKTSRFLCQRPDGALYGSLHFDPEACSFREDLLEDGYNVYQSEAHGLPLHLPGDKSPHRKPAPRGPARFLPLPGLPPALPEPPGILAPQPPDVGSSDPLRLVGPSQLLSPSFLG
配列番号8−FGF21変異体
HPIPDSSPLLQFGGQVRQRYLYTDDAQQTECHLEIREDGTVGCAADQSPESLLQLKALKPGVIQILGVKTSRFLCQRPDGALYGSLHFDPEACSFRELLLEDGYNVYQSEAHGLWLHLPGDKSPHRKPAPRGPARFLPLPGLPPALPEPPGILAPQPPDVGSSDPYSLVEPSQLLSPSFLG
配列番号9−FGF21変異体
HPIPDSSPLLQFGGQVRQRYLYTDDAQQTECHLEIREDGTVGCAADQSPESLLQLKALKPGVIQILGVKTSRFLCQRPDGALYGSLHFDPEACSFRELLLEDGYNVYQSEAHGLPLHLPGDKSPHRKPAPRGPARFLPLPGLPPALPEPPGILAPQPPDVGSSDPYSLVEPSQLLSPSFLG
配列番号10−FGF21変異体
HPIPDSSPLLQFGGQVRQRYLYTDDAQQTECHLEIREDGTVGCAADQSPESLLQLKALKPGVIQILGVKTSRFLCQRPDGALYGSLHFDPEACSFRELLLEDGYNVYQSEAHGLWLHLPGDKSPHRKPAPRGPARFLPLPGLPPALPEPPGILAPQPPDVGSSDPLRLVEPSQLLSPSFLG
配列番号11−FGF21変異体
DSSPLLQFGGQVRQRYLYTDDAQQTEAHLEIREDGTVGGAADQSPESLLQLKALKPGVIQILGVKTSRFLCQRPDGALYGSLHFDPEACSFRELLLEDGYNVYQSEAHGLPLHCPGNKSPHRDPAPRGPCRFLPLPGLPPALPEPPGILAPQPPDVGSSDPLAMVGPSQGRSPSYAS
配列番号12−(DNA)FGF21変異体
CACCCTATCCCTGACTCCAGCCCTCTGCTGCAGTTTGGCGGACAGGTCCGGCAGCGGTACCTGTACACCGACGACGCCCAGCAGACCGAGTGCCACCTGGAAATCCGGGAGGACGGCACCGTGGGCTGTGCCGCCGACCAGTCCCCTGAGTCCCTGCTGCAGCTGAAGGCCCTGAAGCCTGGCGTGATCCAGATCCTGGGCGTGAAAACCTCCCGGTTCCTGTGCCAGAGGCCTGATGGCGCCCTGTACGGCTCCCTGCACTTCGACCCTGAGGCCTGCTCCTTCCGGGAGGACCTGCTGGAAGATGGCTACAACGTGTACCAGTCCGAGGCTCACGGCCTGCCTCTGCATCTGCCTGGCGACAAGTCCCCCCACCGGAAGCCTGCTCCTAGGGGCCCTGCCAGATTCCTGCCACTGCCTGGCCTGCCTCCAGCTCTGCCTGAGCCTCCTGGCATCCTGGCCCCTCAGCCTCCAGACGTGGGCTCCTCCGACCCTCTGCGGCTGGTCGAGCCTTCCCAGCTGCTGAGCCCTAGCTTCCTGGGC
配列番号13−FGF21変異体−コンセンサス
HPIPDSSPLLQFGGQVRQRYLYTDDAQQTECHLEIREDGTVGCAADQSPESLLQLKALKPGVIQILGVKTSRFLCQRPDGALYGSLHFDPEACSFREXLLEDGYNVYQSEAHGLXLHLPGDKSPHRKPAPRGPARFLPLPGLPPALPEPPGILAPQPPDVGSSDPXLVXPSQLLSPSFLG
はLまたはDであり、
はPまたはWであり、
はLまたはYであり、
はSまたはRであり、
はGまたはEである。
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]