(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6060210
(24)【登録日】2016年12月16日
(45)【発行日】2017年1月11日
(54)【発明の名称】通信装置、通信方法およびプログラム
(51)【国際特許分類】
H04J 99/00 20090101AFI20161226BHJP
H04B 7/08 20060101ALI20161226BHJP
H04B 7/10 20060101ALI20161226BHJP
H04J 11/00 20060101ALI20161226BHJP
【FI】
H04J15/00
H04B7/08 D
H04B7/10 A
H04J11/00 Z
【請求項の数】18
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-95524(P2015-95524)
(22)【出願日】2015年5月8日
(62)【分割の表示】特願2013-101092(P2013-101092)の分割
【原出願日】2001年4月18日
(65)【公開番号】特開2015-167385(P2015-167385A)
(43)【公開日】2015年9月24日
【審査請求日】2015年6月8日
(31)【優先権主張番号】00108459.9
(32)【優先日】2000年4月18日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】513093841
【氏名又は名称】ディーアールエヌシー ホールディングス インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】特許業務法人 谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】泉 誠一
【審査官】
岡 裕之
(56)【参考文献】
【文献】
特開平03−239019(JP,A)
【文献】
特開平11−068443(JP,A)
【文献】
特開平06−317654(JP,A)
【文献】
TAKAHASHI Hideyuki , NAKAGAWA Masao,Antenna and Multi-Carrier Combined Diversity System,IEICE transactions on communications,日本,1996年 9月,Vol.E79-B, No.9,pp.1221-1226
【文献】
須藤 浩章 他,MMACシステムにおけるOFDM用送信ダイバーシチに関する一検討,電子情報通信学会技術研究報告,2000年 2月18日,Vol.99, No.632,pp.87-92,RCS99-229
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04J 99/00
H04B 7/08
H04B 7/10
H04J 11/00
IEEE Xplore
CiNii
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マルチキャリア伝送ダイバーシチ装置であって、
直交周波数分割多重(OFDM)信号を送信する複数のアンテナ素子と、
前記複数のアンテナ素子のうちの1つにおいて受信されたマルチキャリア送信のデータサブキャリアのデータ信号と前記複数のアンテナ素子のうちのもう一つにおいて受信されたマルチキャリア送信のデータサブキャリアのデータ信号との間の位相差を決定し、前記決定に基づいて前記データサブキャリアの位相を調節し、前記位相差の平均値を求めてその他のアンテナ素子のうちの一つに対する各アンテナ素子の公称位相差を決定し、および後続のマルチキャリア送信の位相を調節するように構成され、前記複数のアンテナ素子を使用して、送信されることになる前記OFDM信号を生成する処理装置と
を備えたことを特徴とするマルチキャリア伝送ダイバーシチ装置。
【請求項2】
OFDM信号を送信する直交周波数分割多重送信機をさらに備えたことを特徴とする請求項1に記載のマルチキャリア伝送ダイバーシチ装置。
【請求項3】
前記処理装置は、前記アンテナ素子において受信されたデータ信号の振幅を比較するようにさらに構成されていることを特徴とする請求項1または2に記載のマルチキャリア伝送ダイバーシチ装置。
【請求項4】
前記処理装置は、前記複数のアンテナ素子において受信された前記サブキャリアの位相差に基づいて、前記マルチキャリア送信の周波数を調節するようにさらに構成されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載のマルチキャリア伝送ダイバーシチ装置。
【請求項5】
前記処理装置は、前記アンテナ素子のうちの少なくとも一つが、信号を受信しなかったこと、または予め定められた閾値未満の振幅を有する信号を受信したことを検出し、および後続の送信に対して前記アンテナ素子のうちの前記少なくとも一つを使用しないと決定するようにさらに構成されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載のマルチキャリア伝送ダイバーシチ装置。
【請求項6】
前記処理装置は、各サブキャリアに対してビームを成形することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載のマルチキャリア伝送ダイバーシチ装置。
【請求項7】
マルチキャリア伝送ダイバーシチ装置のための通信方法であって、
複数のアンテナ素子のうちの1つにおいて受信されたマルチキャリア直交周波数分割多重(OFDM)信号のデータサブキャリアのデータ信号と前記複数のアンテナ素子のうちのもう一つにおいて受信されたマルチキャリアOFDM信号のデータサブキャリアのデータ信号との間の位相差を決定するステップと、
前記決定に基づいて前記データサブキャリアの位相を調節するステップと、
前記位相差の平均値を求めてその他のアンテナ素子のうちの一つに対する各アンテナ素子の公称位相差を決定するステップと、
後続のマルチキャリア送信の位相を調節するステップと
を備えたことを特徴とする方法。
【請求項8】
OFDM信号を備える前記マルチキャリア送信の前記調節された位相を備える前記マルチキャリア送信を送信するステップをさらに備えたことを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記アンテナ素子において受信されたデータ信号の振幅を比較するステップをさらに備えたことを特徴とする請求項7または8に記載の方法。
【請求項10】
前記複数のアンテナ素子において受信された前記サブキャリアの位相差に基づいて、前記マルチキャリア送信の周波数を調節するステップをさらに備えたことを特徴とする請求項7乃至9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記アンテナ素子のうちの少なくとも一つが、信号を受信しなかったこと、または予め定められた閾値未満の振幅を有する信号を受信したことを検出し、および後続の送信に対して前記アンテナ素子のうちの前記少なくとも一つを使用しないと決定するステップをさらに備えたことを特徴とする請求項7乃至10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
各サブキャリアに対してビームを成形するステップをさらに備えたことを特徴とする請求項7乃至11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
コンピュータにより実行されると、前記コンピュータに、
複数のアンテナ素子のうちに1つにおいて受信されたマルチキャリア直交周波数分割多重(OFDM)信号のデータサブキャリアのデータ信号と前記複数のアンテナ素子のうちのもう一つにおいて受信されたマルチキャリアOFDM信号のデータサブキャリアのデータ信号との間の位相差を決定させ、
前記決定に基づいて前記データサブキャリアの位相を調節させ、
前記位相差の平均値を求めてその他のアンテナ素子のうちの一つに対する各アンテナ素子の公称位相差を決定させ、および、
後続のマルチキャリア送信の位相を調節させる
命令を備えたことを特徴とするプログラム。
【請求項14】
前記命令はさらに、前記コンピュータに、前記調節された位相を備える前記マルチキャリア送信を送信させることを特徴とする請求項13に記載のプログラム。
【請求項15】
前記命令はさらに、前記コンピュータに、前記アンテナ素子において受信されたデータ信号の振幅を比較させることを特徴とする請求項13または14に記載のプログラム。
【請求項16】
前記命令はさらに、前記コンピュータに、前記複数のアンテナ素子において受信された前記サブキャリアの位相差に基づいて、前記マルチキャリア送信の周波数を調節させることを特徴とする請求項13乃至15のいずれか一項に記載のプログラム。
【請求項17】
前記命令はさらに、前記コンピュータに、前記アンテナ素子のうちの少なくとも一つが、信号を受信しなかったこと、または予め定められた閾値未満の振幅を有する信号を受信したことを検出させ、および後続の送信に対して前記アンテナ素子のうちの前記少なくとも一つを使用しないと決定させることを特徴とする請求項13乃至16のいずれか一項に記載のプログラム。
【請求項18】
前記命令はさらに、前記コンピュータに、各サブキャリアに対してビームを成形させることを特徴とする請求項13乃至17のいずれか一項に記載のプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通信装置、処理装置および通信方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、
図8に示すような単一キャリヤ最大比合成ダイバーシチ伝送装置(single carrier maximum−ration synthetic transmission diversity device)が開示されている。このダイバーシチ伝送装置では、N個のアンテナ素子311〜31Nは、λ/2以上の間隔で配列されている。アンテナ素子311〜31Nで受信された信号は、アンテナマルチプレクサ(antenna multiplexer)32を介して受信機33に供給される。受信機33は、受信信号を復調し、得られる復調信号を位相/電力検出器34に供給する。位相/電力検出器34は、復調信号の位相及び電力を検出する。制御回路35は、この検出結果に基づいて、送信信号の位相及び電力を算出する。送信信号生成回路37は、算出された位相及び電力に基づいて、送信信号を生成し、この送信信号を送信機37に供給する。送信機37は、送信信号を変調し、得られる変調信号をアンテナマルチプレクサ32を介してアンテナ素子311〜31Nに供給する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】欧州特許公開公報EP0881782A2号
【特許文献2】米国特許第5,937,642号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、欧州特許公開公報EP0881782A2号に開示されているダイバーシチ伝送装置では、2つ以上のキャリヤが存在すると、受信信号の位相を測定できないため、各アンテナ素子に対する送信信号の位相は、マルチキャリヤ(multicarrier)システムでは算出することができず、単一キャリヤ(single carrier)システムのみでしか算出することができない。
【0005】
単一キャリヤシステムでは、信号の位相は、連続して伝送されるシンボルに応じて頻繁に変化する。したがって、位相が規則正しく変化しないため、異なるアンテナ素子間で位相を比較することは困難である。したがって、単一キャリヤシステムでは、位相比較は、例えば位相が規則的に変化する又は位相が予め判っているパイロットシンボルを用いて行われる。
【0006】
特許文献2には、同一チャンネル干渉(co−channel interference)がある直交周波数分割多重(orthogonal frequency division multiplexing:以下、OFDMという。)方式用の適応型アンテナアレイ(adaptiveantenna array)が開示されている。ここでは、同一チャンネル干渉があるOFDM方式における適応型アンテナアレイのチャンネルパラメータを推定する方法が説明されている。チャンネルパラメータの推定は、パラメータ推定処理において、時間的範囲(temporal scope)を拡張し、過去、現在及び将来の時間的チャンネル推定を行う2つパス処理(a two pass process)を行うことにより実行される。チャンネルパラメータは、信号を高速フーリエ変換し、時間的フィルタ(temporal filter)によりフィルタリングし、逆高速フーリエ変換することにより推定される。時間的フィルタは、受信信号の瞬間的相関に基づき、パラメータの推定値を最適化する。これらの処理は、全てOFDMシステムにおける受信機側で行われる。
【0007】
本発明は、上述の実情に鑑みてなされたものであり、マルチキャリヤシステム、特にOFDMシステムの送信機に適応でき、ダイバーシチ伝送技術により好ましくないマルチパス効果を低減できる通信装置及び通信方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のある観点によれば、複数サブキャリアからなる直交周波数分割多重信号を他の通信装置に送信するための複数のアンテナ素子と、前記複数のアンテナ素子を用いて送信される前記直交周波数分割多重信号を生成する処理装置と、を備え、前記処理装置は、前記直交周波数分割多重信号のサブキャリアを調節することによりビーム生成する、通信装置が提供される。
【0009】
前記処理装置は、生成する前記直交周波数分割多重信号のサブキャリアを、ベースバンドでの処理により調節してもよい。
【0010】
前記処理装置は、生成する前記直交周波数分割多重信号のサブキャリアを、デジタル処理により調節してもよい。
【0011】
前記処理装置は、サブキャリアのシンボルベクトルの処理により、サブキャリアを調節してもよい。
【0012】
前記処理装置は、アンテナ素子ごとに、複数サブキャリアの位相を調節する1つの位相調整回路を有してもよい。
【0013】
前記処理装置は、前記複数のアンテナ素子の各々から送信するための直交周波数分割多重信号のサブキャリアを、前記複数のアンテナ素子の各々について得たサブキャリアに関する情報に基づいて調節してもよい。
【0014】
前記サブキャリアに関する情報は、各アンテナ素子による受信信号間の位相比較に基づいて得られてもよい。
【0015】
また、本発明の他の観点によれば、複数のアンテナ素子から他の通信装置に送信するための複数サブキャリアからなる直交周波数分割多重信号を生成する処理装置であって、前記直交周波数分割多重信号のサブキャリアを調節することによりビーム生成する、処理装置が提供される。
【0016】
また、本発明の他の観点によれば、複数サブキャリアからなる直交周波数分割多重信号を生成することと、生成された前記直交周波数分割多重信号を複数のアンテナ素子を用いて送信することと、を含み、前記直交周波数分割多重信号を生成することは、前記直交周波数分割多重信号のサブキャリアを調節することによりビーム生成することを含む、通信方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】送信ダイバーシチシステムの構成を示す図である。
【
図2】異なるアンテナ素子から送信されたサブキャリヤの位相差を表す図である。
【
図3】異なるアンテナ素子によって受信されたOFDM信号の時間領域を示す図である。
【
図4】受信機及び送信機の複数のアンテナ素子間のパス差を示す図である。
【
図5】本発明に基づいてサブキャリヤを処理する送信機の構成を示すブロック図である。
【
図7】サブキャリヤの位相を調整する具体例を示す図である。
【
図8】従来の送信ダイバーシチ受信機の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係るダイバーシチ伝送装置、ダイバーシチ伝送方法及びコンピュータプログラムについて、図面を参照して詳細に説明する。
【0019】
図1は、ダイバーシチ伝送システムの構成を示す図であり、このダイバーシチ伝送システムは、複数の、例えばN個のアンテナ素子21〜2Nを有し、例えば基地局である送信機1を備えている。なお、
図1では、アンテナ素子2の数を2として表している。送信機1は、各アンテナ素子21,22から、マルチキャリヤ伝送技術(multicarrier transmission technique)により、アンテナ7を有し、例えば移動端末装置である受信機6に信号を送信する。周知のように、受信機6は、送信機1の離れて設けられた2つのアンテナ素子21,22から送信され、
図2に示すように異なる位相を有する信号4,5を受信する。本発明は、この
図2に示すように、対応するサブキャリヤが位相シフトされるマルチキャリヤシステムに関する。
【0020】
図3は、対応する直交周波数分割多重(orthogonal frequency division multiplex:OFDM)信号の時間領域信号を示す図である。本発明を適用しないときには、アンテナ素子21,22から出力され、受信機6で受信される2つのサブキャリヤは、
図3に示すように、位相が異なり、その位相差は、2πd/Tで表される。ここで、dは、アンテナ素子21,22間の遅延時間である。
【0021】
そして、本発明では、送信機1からサブキャリヤを送信するときに、
図4に示すように、異なるサブキャリヤが受信機6のアンテナ7に到着するときに相対的な位相シフトがないように調整される。なお、この
図4では、アンテナ素子2の数を5として表現している。
【0022】
すなわち、本発明では、例えばマルチパス効果により生じるフェージングの問題を回避するために、送信ダイバーシチ技術(TX diversity technique)を用いている。換言すると、本発明では、
図5を用いて説明するように、直交信号(orthogonal signalling)が不要となるように、送信機1側において位相及び/又は振幅の調整値を算出するようにしている。なお、送信機1側のアンテナ素子2の数を増加させることにより、より急峻なビーム(ビーム成形(beam shaping))を得ることができる。
【0023】
図5は、送信ダイバーシチを実現するために、移動端末装置(受信機6)からのアップリンク信号を受信する基地局(送信機1)内に設けられた受信回路の具体的な構成を示すブロック図である。
図5に示すように、例えばN個のアンテナ素子21,22,・・・2Nによって受信された信号は、それぞれダウンコンバータ23によってダウンコンバートされ、アナログ/デジタル変換器(以下、A/D変換器という。)24によってデジタル信号に変換され、高速フーリエ変換器8によって高速フーリエ変換される。各アンテナ素子21,〜2Nで受信されたOFDM信号のN個のシンボルからなるベクトルは、マトリックス回路9によって行列に変換される。
【0024】
各アンテナ素子21,〜2Nからのシンボルから構成されるこの行列は、位相比較器10に供給され、位相比較器10は、アンテナ素子21,〜2Nからの各サブキャリヤの位相を比較する。これにより、例えば選択された基準となるアンテナ素子のサブキャリヤと比較された各サブキャリヤの相対位相の行列が生成され、この行列は、位相差調整回路11に供給される。なお、基準アンテナ素子は、この基準アンテナ素子に対する他のアンテナ素子の位相差を表すためのものであり、任意に選択することができる。
【0025】
位相差調整回路11は、サブキャリヤの位相を調整して、各サブキャリヤの周波数差を補償する。平均値算出回路12は、サブキャリヤの位相差の平均値を算出し、この平均値に対する各アンテナ素子の位相差、あるいは選択された基準アンテナ素子に対する各アンテナ素子の公称位相差(norminal phase defference)、すなわち相対遅延(relative delay)を生成する。そして、基準アンテナ素子に対する各アンテナ素子の公称位相差(又は相対遅延)は、
図6及び
図7を用いて説明するように、後のサブキャリヤの送信の際に用いられる。
【0026】
また、マトリックス回路9により生成された行列は、サブキャリヤの周波数差を補償するために、位相調整回路13にも供給される。位相調整回路13は、アンテナ素子21,〜2N間の遅延差を補償するために位相を調整する。すなわち、位相調整回路13は、1つのアンテナ素子からのOFDM信号内のサブキャリヤ間の相対位相を維持しながら、各アンテナ素子21,〜2Nの位相を基準アンテナ素子の位相に揃える。この処理は、基地局内の受信機ダイバーシチに対応している。なお、アンテナ素子21,〜2N間の遅延差が大きいときは、位相補償の際にサブキャリヤ間の周波数差も補償する。また、遅延差が重要ではない場合には、各アンテナ素子21,〜2Nのサブキャリヤの位相は、規則的に補償することができる。
【0027】
演算回路14は、アンテナ素子21,〜2Nの各位相の平均値又は総和を求め、そして、各サブキャリヤの、例えば総和の平均値は、復調器15によって復調される。そして、復調されたシーケンスは、チャンネルデコーダ(図示せず)に供給される。
【0028】
図5に示す処理におけるベクトル及び行列を数学的に表現すると以下のようになる。
【0030】
ここで、SNは、各サブキャリヤのコンステレーションベクトル(constellation vector)を表す。Ssub−carrier,antennaは、各サブキャリヤとアンテナ素子のコンステレーションを表す。Psub−carrier,antennaは、基準アンテナ素子に対する各サブキャリヤの相対位相差を表す。P’sub−carrier,antennaは、公称周波数(中心周波数)に調整された位相差を表す。P’antennaは、公称周波数における基準アンテナ素子からの平均位相差を表す。dantennaは、基準アンテナ素子に対する各アンテナ素子の遅延を表す。
【0031】
図6は、
図5に示す位相比較処理の後に行われる送信処理を説明するための送信機1の送信回路の具体的な構成を示すブロック図である。
【0032】
逆高速フーリエ変換処理が施されたデジタルベースバンド信号は、デジタル/アナログ変換器(以下、D/A変換器という。)16に供給されてアナログ信号に変換され、アップコンバータ17においてアップコンバートされ、遅延器18において遅延された後に、異なる複数のアンテナ素子21,〜2Nに供給される。遅延器18は、
図5に示す平均値算出回路12から出力される公称位相差に対応する遅延処理を行う。このように、
図6に示す具体例では、アップコンバートした信号を遅延させる。
【0033】
図7は、送信機1の送信回路の他の具体的な構成を示すブロック図である。
図7に示す具体例では、各サブキャリヤシンボルのシンボルベクトルは、それぞれ
図5に示す平均値算出回路12の出力に対応する位相調整回路19に供給され、個別に位相を調整される。位相を調整された各サブキャリヤシンボルのシンボルベクトルは、逆高速フーリエ変換処理回路20において逆高速フーリエ変換され、D/A変換器21においてアナログ信号に変換され、アップコンバータ22においてアップコンバートされた後、複数のアンテナ素子のうちの対応する1つのアンテナ素子21,〜2Nにそれぞれ供給される。
【0034】
したがって、本発明に基づく処理は、以下のように説明することもできる。基地局(送信機1)側では、アップリンク信号を用いて、各アンテナ素子の相対位相を比較する。この位相比較は、様々な方法で行うことができる。
【0035】
例えば、各サブキャリヤの位相差の平均値を算出して、平均値に対する各アンテナ素子のサブキャリヤの位相を比較する。また、例えば、選択された(又は信頼できる)サブキャリヤの位相と各アンテナ素子のサブキャリヤの位相を比較してもよい。さらに、例えば、時間領域で受信データの相関を求め、キャリヤ周波数をfcとして、相関結果に2πfcを乗算することにより位相差を算出することもできる。原理的には、fcは、各サブキャリヤ毎に異なるものであるが、多くの場合、fcは、代表的周波数又は中心周波数とすることができる。この場合に生じる誤差は、位相差調整回路11により補償することができる。
【0036】
平均値算出処理の前に、各サブキャリヤの位相は、周波数調整され、これによりサブキャリヤの周波数差が補償される。また、例えば、基準となるサブキャリヤを定めることもできる。基準サブキャリヤは、中心サブキャリヤであってもよく、OFDMシンボルを表すいかなるサブキャリヤであってもよい。全ての位相差及び振幅差は、この基準サブキャリヤを基準に測定される。
【0037】
次に、基地局側、すなわち送信機1側の送信処理において、端末装置である受信機6が全ての信号を同じ位相で受信するように、各アンテナ素子における信号の位相を調整する。この処理は、各アンテナ素子からの送信タイミングの調整に相当する。
【0038】
また、例えば、送信機1が次の受信処理を行った後に、送信機1が、送信信号の位相を再び調整するようにしてもよい。送信機1にメモリが設けられている場合、受信機6側は、同じOFDMシンボルを用いて位相を調整することができる。そして、次の送信処理のために新たな位相差が算出される。
【0039】
また、例えば、複数回の調整値の平均値を算出して、より信頼度の高い調整値を得るようにしてもよい。さらに、例えばフェージング等に起因して、送信機1の1つ以上のアンテナ素子がアップリンク信号を受信できない場合、又は、所定の閾値を超える信号を受信できない場合、そのアンテナ素子の値は、ダウンリンクの送信には使用しないようにする。
【0040】
さらに、例えば、位相比較に加えて、位相の比較結果に基づき、各アンテナ素子において振幅を調整してもよい。なお、上述した処理は、無線伝送リンクにおける両側、すなわち、送信機1と受信機6のいずれにおいても実行することができる。
【0041】
本発明によれば、受信端末装置又は移動端末装置は、異なるアンテナ素子からの各パスを測定する必要がない。したがって、各チャンネルは、直交信号を必要としない。直交符号化が不要であるため、送信機1側のアンテナ素子数は、使用可能な直交信号の数によっては制限されず、原理的には、送信機1のアンテナ素子数を制限なく多くすることができる。したがって、より急峻なビームを実現する適応アレイアンテナ(adaptive array antennas)を構成することができる。すなわち、本発明によれば、送信側及び受信側の両側において、送信電力を低くすることができるとともに、フェージング及び干渉を低減させることができる。
【0042】
(発明の効果)
以上のように、本発明に係るダイバーシチ伝送装置は、マルチキャリヤ伝送用に設計され、マルチキャリヤのうちの少なくとも1つのサブキャリヤの位相を、少なくとも1つの他のアンテナ素子における少なくとも1つのサブキャリヤの位相と比較し、位相を調整して送信する。これにより、マルチキャリヤシステムの送信機に適用できるダイバーシチ伝送装置を実現し、望ましくないマルチパス効果を低減することができる。
【0043】
また、本発明に係るダイバーシチ伝送方法は、アンテナ素子で受信された信号の位相を比較し、比較結果に基づいて、アンテナ素子から送信する信号の位相を調整する。この際に、各アンテナ素子のマルチキャリヤ伝送における少なくとも1つのサブキャリヤの位相を、少なくとも1つの他のアンテナ素子における少なくとも1つのサブキャリヤの位相とを比較し、位相を順次調整して送信する。これにより、望ましくないマルチパス効果を低減することができる。
【符号の説明】
【0044】
8 高速フーリエ変換器
9 マトリックス回路
10 位相比較器
11位相差調整回路
12 平均値算出回路
13 位相調整回路
14 演算回路
15 復調器