(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明の実施の形態に係る軒樋支持具について、添付図面にもとづいて説明する。
【0016】
まず、以下に説明する各種の軒樋支持具1の基本構成について説明する。
【0017】
この軒樋支持具1は、軒先に前方に突出するように固定される取付足部20と、取付足部20の前端側で軒樋5を受け支持する樋支持部10とを備えた樋支持具である。この軒樋支持具1は、取付足部20の前端と、樋支持部10の後端とがラチェット機構30で連結されている。樋支持部10は、取付足部20とのなす角度が小さくなるように回動されたときに、多段階の回動位置で、逆回転が規制されるように停止する一方、取付足部20とのなす角度が所定の最小角度となったときに、樋支持部10に支持された軒樋5の内部が前方を向く開放位置まで回動可能となるようになっている。
【0018】
ついで、軒樋支持具1の詳細な構成、効果について説明する。
【0019】
図1(a)に示した軒樋支持具1は、上述したように、取付足部20と樋支持部10とを備えた構成とされる。
【0020】
取付足部20は、金属帯板体よりなり、後部22と前部21との間で捻られた形状とされ、後部22では板面が軒先の垂木3などに側方から固定具7で固定できるように側方を向いており、前部21では板面が上下方向を向いている。なお、軒樋支持具1は屋根の傾斜に応じて、
図1に示すように傾斜した状態に取り付けられる。
【0021】
また、樋支持部10は、取付足部20とは別体とされ、
図1に示すように、湾曲形状の軒樋5を受け支持できるように湾曲した形状となっており、軒樋5の前後のそれぞれを係止して軒樋5を固定する構造となっている。樋支持部10の後端は、取付足部20の前端と連結部で連結されている。
【0022】
この連結部が上述のラチェット機構30を有している。本実施形態のものは、ラチェット機構30が別体のラチェット金具30A(
図1(b)参照)に内蔵されており、このラチェット金具30Aが取付足部20と樋支持部10とを連結する連結部を構成している。
【0023】
図1(a)に示した状態では、連結部はラチェット機構30による、樋支持部10と取付足部20とのなす角度が小さくなるように段階的に回動する動作が、L字片90で形成された回動規制手段Aにより阻止されている。回動規制手段Aを構成するL字片90については、
図6の説明とともに後述する。
【0024】
また、
図1(a)の一部拡大図に示すように、連結部の外面に、取付足部20を取り付ける対象物(本例の場合は垂木3)の傾斜に応じた目盛り35が設けられている。これにより、軒樋支持具1の取り付けの際または軒樋5の掃除作業の後に軒樋5を元の位置に戻す際に、樋支持部10を取付足部20に対し、樋支持部10を水平にするための適切な角度に固定することができる。
【0025】
ついで、ラチェット金具30Aの構成と動作について、
図1〜
図5にもとづいて説明する。
【0026】
図1(b)および
図2〜
図5は、ラチェット金具30Aの構造および動作を説明するための図である。なお、
図1(b)は、
図1(a)の軒樋支持具1の設置状態に対応させたラチェット金具30Aが傾斜を変えずに拡大図で示してあるが、
図2〜
図5においては、
図2(a)の開き状態で図中において両真横方向に延びた状態を基準として、ラチェット金具30Aが示してある。
【0027】
これらの図に示すように、このラチェット金具30Aは、軒樋支持具1における取付足部20と樋支持部10との間の連結部として採用されるものであって、固定金具40と、回動金具50と、逆転防止爪60と、カム板70とを基本的な構成として備えている。
【0028】
固定金具40は、取付足部20に取り付けられる筒状の固定部材取付片41と、その端部に設けられたハウジング42とを有している。ハウジング42は、
図2(a)の紙面に向かって垂直方向に相対向する一対の略円形の側壁42aと、両側壁42aを連結する底壁42bとにより構成されている。なお図面においては、一対の側壁42aのうち片側のみを示す。
【0029】
回動金具50は、樋支持部10に取り付けられる筒状の回動部材取付片51と、その端部に設けられ、
図2(a)の紙面に向かって垂直方向に相対向する一対のラチェット52とを有している。なお図面においては、一対のラチェット52のうち片側のみを示す。
【0030】
さらに回動金具50の回動部材取付片51におけるラチェット52の端部には、後述するカム板70の第1当たり片75および第2当たり片76に衝合し得る第1当たり部55および第2当たり部56が設けられている。
【0031】
また、ラチェット52の外周縁部には、複数のラチェット歯53が所定のピッチで形成されている。このラチェット歯53は、後に詳述するように、樋支持部10を7段で、つまり7箇所の回転位置で停止できるようなピッチで形成されている。
【0032】
この回動金具50の一対のラチェット52間にカム板70を介装した状態で、ラチェット52およびカム板70が、固定金具40のハウジング42内に収容されて、ハウジング42の両側壁42aの略中央に設けられた軸31に回動自在に軸支されている。
【0033】
このハウジング42の上方には柔軟性、伸縮性を有したカバー部材80が、ハウジング42の開放した上下部分を袋状に覆うように固定金具40と回動金具50とに取り付けられており、これにより雨水などが浸入することを防止する。なお、
図1(b)等ではカバー部材80のハッチングは省略した。
【0034】
また、固定金具40のハウジング42内に配置される逆転防止爪60は、その先端側にラチェット歯53に係合し得る第1爪片61および第2爪片62が形成されている。この第1、第2爪片61、62をラチェット歯53に対応させた状態で、逆転防止爪60の基端側が固定金具40のハウジング42に軸32を介し回転自在に軸支される。そして、この逆転防止爪60が、軸32を支点に
図2(a)の紙面に向かって反時計方向(係合方向)に揺動した際には、第1爪片61および第2爪片62が、隣り合ういずれかのラチェット歯53に係合するとともに、時計方向(離脱方向)に揺動した際には、第1爪片61および第2爪片62がラチェット歯53から離脱した状態に配置されるよう構成されている。
【0035】
さらに逆転防止爪60は、軸32に設けられた巻ばね32aによる付勢手段により、反時計方向、つまりラチェット歯53に咬合する方向に回転付勢されている。
【0036】
そして、第1爪片61および第2爪片62がラチェット歯53に係合した状態においては、ラチェット52の時計方向(逆回転方向)の回転が規制されるよう構成されている。さらにこの状態において、ラチェット52が反時計方向(正回転方向)に回転しようとした際には、ラチェット歯53に第1、第2爪片61、62が離脱方向に押されて係合が解除されるよう構成されている。
【0037】
ここで本実施形態においては、第1、第2爪片61、62のうち、第1爪片61は、ラチェット52の正回転方向側に配置されるとともに、第2爪片62は逆回転方向側に配置されている。
【0038】
図2(b)に示すように、カム板70における逆転防止爪60に対向する側の半周域には、回動金具50の第1当たり部55および第2当たり部56に衝合し得る第1当たり片75および第2当たり片76と、第1、第2爪片61、62のラチェット歯53への係合を許容する周縁凹部71と、第1、第2爪片61、62のラチェット歯53への係合を規制するようにラチェット52よりわずかに大きく円弧状に形成された周縁突部72と、周縁凹部71から周縁突部72にかけて傾斜状に設けられたガイド部73とを有している。
【0039】
この構成のラチェット金具30Aにおいて、
図2(a)に示すように、回動金具50が固定金具40に対し開いた状態(樋支持部10を開放した状態)においては、逆転防止爪60の第1、第2爪片61、62が、カム板70の周縁凹部71内に配置されることにより、逆転防止爪60が係合方向に付勢されて、第1爪片61および第2爪片62が、各爪片61、62の初期係合位置に対応するラチェット歯53、53にそれぞれ係合する。なお図面においては、第1爪片61の初期係合位置に対応するラチェット歯53よりも前段側(反時計方向側)に、さらにラチェット歯が形成されているが、この歯は、さらに多段階の回動を許容するための歯である。つまりこのラチェット52は、他の種類の軒樋支持具に使用されるラチェット金具の構成部材としても利用されるものである。
【0040】
図2(a)の初期状態においては、回動金具50を開く方向、つまり時計方向に荷重が加わったとしても、第1、第2爪片61、62がラチェット歯53に係合することにより、開き方向への回転は規制される。
【0041】
また
図2(a)の初期状態から、
図3(a)に示すように、回動金具50を固定金具40に対し閉じるように、つまり反時計方向に回転させた際には、ラチェット歯53により第1、第2爪片61、62が離脱方向に押し込まれ、各爪片61、62が次段のラチェット歯53を乗り越えた後に、
図3(b)(
図1(b))に示すように第1、第2爪片61、62が巻ばね32aの付勢力によって、次段のラチェット歯53、53にそれぞれ係合する。この2段目係合状態においても、上記初期状態と同様に、回動金具50を開く方向に荷重が加わったとしても、第1、第2爪片61、62がラチェット歯53に係合することにより、開き方向への回転は規制される。
【0042】
さらにこの状態から、回動金具50を閉じるように回転させた際には、上記と同様に第1、第2爪片61、62が次段のラチェット歯53に送られて係合する。
【0043】
このように、第1、第2爪片61、62が複数のラチェット歯53へと順送りされることにより、回動金具50の閉じる方向(正回転方向)(樋支持部10と取付足部20とのなす角度が小さくなる方向)への回転が許容される一方、第1、第2爪片61、62がラチェット歯53に係合することにより、回動金具50における開き方向(逆回転方向)(樋支持部10と取付足部20とのなす角度が大きくなる方向)の回転が規制される。
【0044】
また
図4(a)に示すように、回動金具50を閉じる方向に最終係合位置まで回動させていき、第1、第2爪片61、62が最終係合位置の各ラチェット歯53にそれぞれ係合した際には、回動金具50が固定金具40に対し略90度の位置に固定される。
【0045】
さらにこの最終係合位置から、
図4(b)に示すように、回動金具50を固定金具40に対し閉じる方向に少量回転させると、回動金具50の第2当たり部56がカム板70の第2当たり片76に衝合して、カム板70が反時計方向(正回転方向)に少量回転する。これにより、第2爪片62の先端が、巻ばね32aの付勢力に抗してカム板70のガイド部73に沿って離脱方向に押し込まれていき、周縁突部72に乗り上げた状態に配置される。こうして第1爪片61および第2爪片62のラチェット歯53に対する係合が解除された状態に保持される。
【0046】
したがって、この状態においては、回動金具50を開く方向(逆回転方向)に係合が解除された状態のまま回転することが可能となる。そして、回動金具50を開く方向(逆回転方向)に回転していくと、
図2(a)に示した初期位置の状態となる。
【0047】
一方、本実施形態においては、
図4(b)の2点鎖線に示すように、カム板70における第2当たり片76の近傍に、外方突出状にストッパー77を形成しておくのが好ましい。すなわちこの構成を採用する場合には、回動金具50を閉じる方向に終端位置まで回動させた際に、ストッパー77が回動金具50の第2当たり部56と逆転防止爪60との間に介在状態に係合することにより、回動金具50が終端位置を超えて正回転方向に過回転するのを確実に防止することができ、軒樋5の掃除作業をする際に樋支持部10を開放するための準備作業として樋支持部10と取付足部20とのなす角度が所定の最小角度よりも小さくならないことを、つまり樋支持部10および軒樋5が必要以上に後方へ倒れないことを防止することができる。
【0048】
また
図5に示すように、回動金具50を正回転方向の終端位置から開く方向に回転させていき、初期位置に戻した際には、
図2(a)に示すように回動金具50の第1当たり部55がカム板70の第1当たり片75に衝合して、カム板70が時計方向(逆回転方向)に少量回転して、第2爪片62の先端がカム板70の周縁突部72からガイド部73を通って周縁凹部71の位置に配置される。これにより、第1爪片61および第2爪片62が巻ばね32aの付勢力により周縁凹部71内に挿入されると同時に、対応するラチェット歯53にそれぞれ係合する。
【0049】
つぎに
図6(a)(b)にもとづいて、回動規制手段Aを構成するL字片90について、説明する。
図6(a)はL字片90の正面図(
図1の側面図の状態)であり、
図6(b)はL字片90による回動阻止状態を示す軒樋支持具1の部分概略平面図である。
【0050】
L字片90は、取付足部20に取り付けるための取付片部91と、L形ばね部92とよりなる。L形ばね部92は、取付片部91の下端より緩やかな降下傾斜で延びた横板ばね部92aと、横板ばね部92aの端部より、横板ばね部92aと略直角をなすように下方に延びた縦板ばね部92bとを備えている。
【0051】
図6(a)における2点鎖線は、L字片90が樋支持部10の回動を規制するように軒樋支持具1に取り付けられ、固定された使用状態のL形ばね部92を示すものである。
【0052】
このL字片90の取付片部91は、取付足部20の上面にリベット等の固定具で横方向の回転ができるように取り付けられている。L字片90が不使用状態にあるときには、たとえば
図6(b)の2点鎖線で示す位置に待機させておけばよい。
【0053】
そして、軒樋5を樋支持部10で支持するように設置したのち、
図6(b)に示すように、L字片90を回転させ、L形ばね部92を持ち上げて、軒樋5の後端11を前方より押圧するようにセットする。この状態ではL形ばね部92の付勢力により、取付足部20の前端23、連結部(ラチェット金具30A)および樋支持部10の後端11を含む部位が
図6(a)の白抜き矢印方向に押圧される。
【0054】
このように、L字片90により、樋支持部10と取付足部20とのなす角度が小さくなる方向(ラチェット金具30Aの正回転方向)への段階的回動が阻止され、軒樋5が風にあおられてラチェット金具30Aがずれ動くことを防止することができる。
【0055】
ついで、軒樋5の掃除作業の際の軒樋支持具1の動作について、
図7(a)(b)および
図8(a)(b)を参照しながら説明する。なお、
図7および
図8は模式的な図面であり、見やすくするために、軒樋支持具1の取付足部20を実線で図示し、樋支持部10を破線で図示した。手順を説明する。
【0056】
まず、L字片90を待機位置に移動する(
図7(a)(b))。つぎに、樋支持部10を正回転させて所定の位置(樋支持部10と取付足部20とのなす角度が所定の最小角度となる位置)まで移動させる(
図8(a))。このときラチェット金具30Aの固定金具40は終端位置にある(
図4(b)参照)。この位置に達したときラチェット金具30Aの逆回転が可能となるため、樋支持部10を取付足部20とのなす角度が大きくなる方向に回動することで、ラチェット金具30Aを初期位置に戻して樋支持部10を
図8(b)の状態にすることができる。
【0057】
図8(b)の状態では、樋支持部10は垂れ下がった状態となり、軒樋5の内部(内底面)が前方を向く。
【0058】
図8(b)のように軒樋5の内部が前方を向いているため、溜まったごみGを簡単に除去することができる。ようするに、軒樋5を完全に取り外さずとも軒樋5の内部のごみGを掃き出ししやすくなる。なお、いったんこの状態にすれば、軒樋5を完全に取り外すことも簡単にできる。
【0059】
また、軒樋5の元の状態への復帰は、ラチェット金具30Aが正回転するように樋支持部10を回動させればよい。
【0060】
以上のように、本軒樋支持具1は連結部にラチェット機構30を有しているため、樋支持部10を所定の角度まで回動させれば、その後逆方向の回動ができ、軒樋5の内部を前方に向けることができる。そのため、軒樋5内のごみを簡単かつ迅速に除去することができる。
【0061】
また、軒樋5の元の状態への復帰も、ラチェット機構30による段階回動操作で迅速に行うことができる。特に、連結部には目盛り35(
図1(a)参照)が設けられているので、元の状態に戻すのにも時間がかからない。したがって、軒樋5が長時間にわたって機能が損なわれることを防止することができる。
【0062】
また以上の実施形態では、樋支持部10の取付足部20とのなす角度が小さくなる方向への段階的回動を阻止する回動規制手段AとしてL字片90を例示したが、このものに限られず、ラチェット金具30Aの正回転を直接的に阻止するものであってもよい。たとえば、逆転防止爪60とハウジング42の底壁42bとの隙間S(
図2(b)参照)に爪固定片(不図示)を差し込むことで逆転防止爪60が動作しないようにして、ラチェット金具30Aの正回転を阻止するようにしたものであってもよい。
【0063】
なお、強風でない限り樋支持部10が軒樋5を支持した状態では回動金具50は容易には正回転しないような構造にすれば、上記のような回動規制手段Aを軒樋5を支持する全ての軒樋支持具1に設けなくてもよい。たとえば、巻きばね32aのばね力やラチェット歯53の深さなどを調整して、回動金具50が風により正回転しにくい構造としてもよい。
【解決手段】軒樋支持具1は、取付足部20の前端と、樋支持部10の後端とがラチェット機構30で連結されている。樋支持部10は、取付足部20とのなす角度が小さくなるように回動されたときに、多段階の回動位置で、逆回転が規制されるように停止する一方、取付足部20とのなす角度が所定の最小角度となったときに、樋支持部10に支持された軒樋5の内部が前方を向く開放位置まで回動可能となる。