特許第6060320号(P6060320)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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特許6060320被処理水中のリンの回収システム、被処理水中のリンの回収方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6060320
(24)【登録日】2016年12月16日
(45)【発行日】2017年1月11日
(54)【発明の名称】被処理水中のリンの回収システム、被処理水中のリンの回収方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/58 20060101AFI20161226BHJP
   C02F 1/52 20060101ALI20161226BHJP
   C05B 17/00 20060101ALI20161226BHJP
   C01B 25/027 20060101ALN20161226BHJP
【FI】
   C02F1/58 R
   C02F1/52 E
   C02F1/52 Z
   C05B17/00
   !C01B25/027
【請求項の数】14
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2016-541446(P2016-541446)
(86)(22)【出願日】2016年6月10日
(86)【国際出願番号】JP2016067383
【審査請求日】2016年6月17日
(31)【優先権主張番号】特願2015-118263(P2015-118263)
(32)【優先日】2015年6月11日
(33)【優先権主張国】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 2015年3月5日にドイツのベルリンで開催されたEuropean Sustainable Phosphorus Conference 2015にて発表
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】515160091
【氏名又は名称】大竹 久夫
(73)【特許権者】
【識別番号】306022513
【氏名又は名称】新日鉄住金エンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】大竹 久夫
(72)【発明者】
【氏名】内藤 朗
(72)【発明者】
【氏名】金田 文香
【審査官】 神田 和輝
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−091566(JP,A)
【文献】 特開2003−290783(JP,A)
【文献】 特開2003−053379(JP,A)
【文献】 特開2010−104869(JP,A)
【文献】 特開2012−245474(JP,A)
【文献】 特開2009−285636(JP,A)
【文献】 特開昭58−109191(JP,A)
【文献】 特開平08−091971(JP,A)
【文献】 特開2002−086139(JP,A)
【文献】 特開2013−006733(JP,A)
【文献】 特開2013−027865(JP,A)
【文献】 特公平04−017088(JP,B2)
【文献】 特開2010−270378(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/58−1/64
C02F 1/28
B01J 20/00−20/34
C05B 1/00−21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒径が0.3mm以下である製鋼スラグに酸を撹拌混合して、前記製鋼スラグ中のカルシウムを溶出させつつスラグスラリーを得る段階と、
前記スラグスラリーにリンを含む被処理水を撹拌混合し、その際に前記製鋼スラグ中のカルシウム量と前記被処理水中のリン量のモル比(Ca/P)が2以上4以下になるように調整し、その後静置することにより、リンとカルシウムを含む化合物を形成させ、前記化合物を前記製鋼スラグの残渣とともに固形物として凝集沈降させる段階と、
沈降させた前記固形物を回収する段階と、を備えた被処理水中のリンの回収方法。
【請求項2】
沈降させた前記固形物を乾燥させる請求項1に記載の被処理水中のリンの回収方法。
【請求項3】
前記製鋼スラグの塩基度が1〜7の範囲である請求項または請求項2に記載の被処理水中のリンの回収方法。
【請求項4】
添加前の前記製鋼スラグのカルシウム含有率が15〜55質量%の範囲である請求項乃至請求項の何れか一項に記載の被処理水中のリンの回収方法。
【請求項5】
前記被処理水と前記スラグスラリーとを混合する際に、混合液のpHを7.7〜9.0に調整する請求項乃至請求項の何れか一項に記載の被処理水中のリンの回収方法。
【請求項6】
前記製鋼スラグに前記を添加して前記スラグスラリーを得る際に、濃度が0.5N以上2.0N以下に調整された塩酸水溶液を用いる請求項乃至請求項の何れか一項に記載の被処理水中のリンの回収方法。
【請求項7】
前記製鋼スラグに前記を添加して前記スラグスラリーを得る際に、混合時間を30分以下とする請求項乃至請求項の何れか一項に記載の被処理水中のリンの回収方法。
【請求項8】
前記被処理水と前記スラグスラリーとの撹拌混合時間を5分以上とする請求項乃至請求項の何れか一項に記載の被処理水中のリンの回収方法。
【請求項9】
前記リンを含む被処理水が生活排水または産業排水のうちの何れか一方または両方を含む請求項乃至請求項の何れか一項に記載の被処理水中のリンの回収方法。
【請求項10】
前記固形物を肥料とすることを特徴とする請求項1乃至請求項9の何れか一項に記載の被処理水中のリンの回収方法
【請求項11】
前記固形物を肥料原料とすることを特徴とする請求項1乃至請求項9の何れか一項に記載の被処理水中のリンの回収方法
【請求項12】
前記固形物を黄リン原料とすることを特徴とする請求項1乃至請求項9の何れか一項に記載の被処理水中のリンの回収方法
【請求項13】
酸と平均粒径が0.3mm以下である製鋼スラグとを混合し、前記製鋼スラグ中のカルシウムが溶出したスラグスラリーを調製するカルシウム溶出反応装置と、
前記カルシウム溶出反応装置に前記製鋼スラグを供給する鉄鋼スラグ供給装置と、
前記カルシウム溶出反応装置に前記酸を供給する酸供給装置と、
前記スラグスラリーとリンを含む被処理水とを混合し、前記製鋼スラグ中のカルシウム量と前記被処理水中のリン量のモル比(Ca/P)が2以上4以下になるように調整し、前記スラグスラリー中のカルシウムと前記被処理水中のリンとを反応させて、リン及びカルシウムを含む化合物を形成させ、前記化合物を製鋼スラグの残渣と共に固形物として凝集沈降させ、前記化合物からなる固形物を得るリン回収反応装置と、
前記リン回収反応装置に前記被処理水を供給する被処理水供給装置と、
前記被処理水供給後に前記リン回収反応装置内において生成した前記固形物を脱水する脱水装置と、
前記被処理水供給後の前記リン回収反応装置内の上澄み水を系外に送り出す処理水払出し装置と、
が備えられた被処理水中のリンの回収システム。
【請求項14】
前記脱水装置において脱水された前記固形物を乾燥させる乾燥装置が備えられた請求項13に記載の被処理水中のリンの回収システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被処理水中のリンの回収システム、被処理水中のリンの回収方法関する。
本願は、2015年6月11日に、日本に出願された特願2015−118263号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
リンは、全ての生物にとって欠くことができない元素である。また、植物の三大栄養素の一つであって、農作物の肥料の重要な原料である。最近では、リン資源の枯渇が危惧されており、リン資源の回収が求められている。また、リンは海や湖などでの富栄養化をもたらす原因物質の一つであり、例えば、一般家庭等から排出される生活排水に多く含まれる。また、事業所から排出される産業排水にもリンが含まれる場合がある。このため、これらの排水からリンを効率的に回収することが求められている。
【0003】
リンを含む被処理水からのリンの回収技術として、結晶性ケイ酸カルシウム水和物を種晶としてリンを晶析させるHAP(ヒドロキシアパタイト)晶析法、リンとアンモニアを含む排水からリン酸マグネシウムアンモニウム晶析させるMAP法、水酸化カルシウムや塩化カルシウムを用いた凝集沈殿法がある。しかし、これらの方法は、反応速度や晶析速度や凝集沈降速度が低いこと、各種の薬品を使用した複雑な反応制御が必要なこと、MAP法のような晶析法では配管等でのMAPの析出閉塞等のトラブルが多発する等、様々な課題を抱えている。このため、低コストで簡潔なリン回収方法の技術確立が課題となっている。
【0004】
最近では、特許文献1、2、非特許文献1に示すように、非晶質ケイ酸カルシウムをリン吸着剤として用いたリン回収技術が提案されている。しかし、特許文献1、2に記載されたリン吸着剤は、例えば、ケイ酸原料と石灰原料とを水性スラリーとし、水酸化アルカリを添加して水熱反応させて得た物や、ケイ酸ナトリウム水溶液にCa(OH)を加えて生成した非晶質ケイ酸カルシウム水和物と未反応のCa(OH)との凝集体からなる物や、易溶解性シリカ原料中のアルカリ可溶性シリカをNaOHで溶解したシリカ溶解液に、消石灰を加えて水熱合成した非晶質ケイ酸カルシウム水和物とCa(OH)との凝集体を回収してなる物であり、リン吸着剤の調製が煩雑であり、処理コストの低減が進まない状況になっている。また、非特許文献1に記載された非晶質ケイ酸カルシウムについても、その調製が煩雑であり、処理コストの低減が進まない状況になっている。また、これらの技術は、鉄鋼スラグを用いたリン回収技術ではなく、鉄鋼スラグを肥料に再利用する技術でもない。
【0005】
一方、特許文献3、4に示すように、水中の金属イオンやリンを回収するための資材として、鉄鋼系のスラグが利用されている。しかし、特許文献3に記載されたリンの回収方法は、スラグ表面をアルカリ剤によって活性化させて吸着剤としてから、これら吸着剤を被処理水に混入して金属イオンやリンを吸着させ、その後、吸着したリンを溶出させて回収するという方法であり、工程が極めて煩雑であり、また、金属イオンやリンの回収効率が低い問題がある。
【0006】
また、特許文献4には、製鉄所から排出されるスラグに石炭灰等を混合し、更に別のスラグを配合し、更に無機酸を加えてゲル化させ、その後、アルカリを添加して凝集沈殿させ、更に石炭灰等を混合してなる吸着剤が記載されている。しかし、特許文献4に記載された吸着剤は、ゼオライトの代替品として用いることが記載されているに過ぎない。
更に特許文献5に記載された発明は、鉄鋼スラグ中からのリンの回収方法に関する発明であり、排水中のリンを回収する方法ではない。
【0007】
また、鉄鋼スラグからのリンの回収に関しては非特許文献2、3、4、5に記載された技術があるが、エネルギーや薬剤を大量に使用する技術であり実用化に至っていない。また、これらの技術は、排水中のリンを回収する方法ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2013−6733号公報
【特許文献2】特開2013−27865号公報
【特許文献3】特開2002−86139号公報
【特許文献4】特公平4−17088号公報
【特許文献5】特開2010−270378号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】岡野憲司ほか、非晶質ケイ酸カルシウム水和物(リントル)を用いた革新的リン回収技術、ファインケミカル、Vol.42、No.12、2013年12月号
【非特許文献2】長坂徹也ほか、鉄と鋼、Vol.95、No.3、P114−134(2009)
【非特許文献3】竹内秀次ほか、鉄と鋼、Vol.66、No.14、P2050−2057(1980)
【非特許文献4】森田一樹、金属、Vol.76(2006)、No.8
【非特許文献5】河西宏樹ほか、日本セラミックス協会基礎科学討論会、1P38、2012年1月、東京
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、リンを含む被処理水からリンを効率よく回収することが可能な、被処理水中のリンの回収システム及び被処理水中のリンの回収方法を提供することを課題とする
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らが鋭意検討した結果、製鉄所から副生するスラグ(以下「鉄鋼スラグ」という)に着目し、図1に示すリン回収システムを考案した。鉄鋼スラグ中のカルシウムを溶出させ、カルシウムと被処理水中のリンとを反応させてリンとカルシウムを含む化合物を形成させ、この化合物を、カルシウムを溶出後の鉄鋼スラグの残渣とともに凝集沈降させることで、リンが高濃度で含まれる固形物を効率よく回収できることを見出した。スラグとしてリンを含有する鉄鋼スラグを使用することにより、鉄鋼スラグ中のリンも固形物として回収される。凝集沈降させて得られた固形物は凝集性、沈降性が非常によく静置分離により固液分離が可能である。なお、本発明において固形物を沈降させる際には、凝集剤を添加する必要がない。そのほか、遠心分離や膜ろ過等の既存技術でも容易に固液分離可能である。また、回収した固形物はリンを多量に含むことから、そのままで肥料となる、若しくは肥料原料としての利用が可能である。
本発明は、以下の通りである。
【0012】
平均粒径が0.3mm以下である製鋼スラグに酸を撹拌混合して、前記製鋼スラグ中のカルシウムを溶出させつつスラグスラリーを得る段階と、
前記スラグスラリーにリンを含む被処理水を撹拌混合し、その際に前記製鋼スラグ中のカルシウム量と前記被処理水中のリン量のモル比(Ca/P)が2以上4以下になるように調整し、その後静置することにより、リンとカルシウムを含む化合物を形成させ、前記化合物を前記製鋼スラグの残渣とともに固形物として凝集沈降させる段階と、
沈降させた前記固形物を回収する段階と、を備えた被処理水中のリンの回収方法。
] 沈降させた前記固形物を乾燥させる[記載の被処理水中のリンの回収方法。
] 前記製鋼スラグの塩基度が1〜7の範囲である[]または[記載の被処理水中のリンの回収方法。
添加前の前記製鋼スラグのカルシウム含有率が15〜55質量%の範囲である[]乃至[]の何れか一項に記載の被処理水中のリンの回収方法。
] 前記被処理水と前記スラグスラリーとを混合する際に、混合液のpHを7.7〜9.0に調整する[]乃至[]の何れか一項に記載の被処理水中のリンの回収方法。
] 前記製鋼スラグに前記を添加して前記スラグスラリーを得る際に、濃度が0.5N以上2.0N以下に調整された塩酸水溶液を用いる[]乃至[]の何れか一項に記載の被処理水中のリンの回収方法。
] 前記製鋼スラグに前記を添加して前記スラグスラリーを得る際に、混合時間を30分以下とする[]乃至[]の何れか一項に記載の被処理水中のリンの回収方法。
] 前記被処理水と前記スラグスラリーとの撹拌混合時間を5分以上とする[]乃至[]の何れか一項に記載の被処理水中のリンの回収方法。
] 前記リンを含む被処理水が生活排水または産業排水のうちの何れか一方または両方を含む[]乃至[]の何れか一項に記載の被処理水中のリンの回収方法。
10] 前記固形物を肥料とすることを特徴とする[1]乃至[9]の何れか一項に記載の被処理水中のリンの回収方法
11] 前記固形物を肥料原料とすることを特徴とする[1]乃至[9]の何れか一項に記載の被処理水中のリンの回収方法
12
前記固形物を黄リン原料とすることを特徴とする[1]乃至[9]の何れか一項に記載の被処理水中のリンの回収方法
13] 酸と平均粒径が0.3mm以下である製鋼スラグとを混合し、前記製鋼スラグ中のカルシウムが溶出したスラグスラリーを調製するカルシウム溶出反応装置と、
前記カルシウム溶出反応装置に前記製鋼スラグを供給する鉄鋼スラグ供給装置と、
前記カルシウム溶出反応装置に前記酸を供給する酸供給装置と、
前記スラグスラリーとリンを含む被処理水とを混合し、前記製鋼スラグ中のカルシウム量と前記被処理水中のリン量のモル比(Ca/P)が2以上4以下になるように調整し、前記スラグスラリー中のカルシウムと前記被処理水中のリンとを反応させて、リン及びカルシウムを含む化合物を形成させ、前記化合物を製鋼スラグの残渣と共に固形物として凝集沈降させ、前記化合物からなる固形物を得るリン回収反応装置と、
前記リン回収反応装置に前記被処理水を供給する被処理水供給装置と、
前記被処理水供給後に前記リン回収反応装置内において生成した前記固形物を脱水する脱水装置と、
前記被処理水供給後の前記リン回収反応装置内の上澄み水を系外に送り出す処理水払出し装置と、
が備えられた被処理水中のリンの回収システム。
14] 前記脱水装置において脱水された前記固形物を乾燥させる乾燥装置が備えられた[13]に記載の被処理水中のリンの回収システム。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、リンを含む被処理水からリンを効率よく回収できる。
すなわち、被処理水中に含まれていたリンは、酸によるカルシウム溶出後の鉄鋼スラグの残渣とともに凝集沈降して固形物として回収されるので、リンの効率的な回収が可能になる。ここで、例えばリンを含む鉄鋼スラグを使用する場合には、沈降した固形物中に、被処理水から回収したリンと、鉄鋼スラグに元々含まれていたリンとが含有されるので、固形物中にリンが高い濃度で含まれることになり、このような固形物を肥料、肥料原料または黄リン原料として好適に用いることができる。また、製鉄所から排出される鉄鋼スラグを肥料に再利用することができる。更に、被処理水として生活排水等を使用する場合は、リンの二大排出源である製鉄所及び下水からリンを効率よく回収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施形態であるリン回収システムを示すブロックフロー図。
図2】本発明の実施形態であるリン回収システムの一例を示す模式図。
図3】鉄鋼スラグ残渣回収率とリン沈降率との関係を示すグラフ。
図4】塩酸量と、鉄鋼スラグ当りのリン回収量、ク溶性リン含有率及び回収リン中のク溶性リン含有率との関係を示すグラフ。
図5】塩酸水溶液濃度と、鉄鋼スラグ当りのリン回収量及びク溶性リン含有率との関係を示すグラフ。
図6】鉄鋼スラグ中のカルシウム溶出反応時間とカルシウム溶出率との関係を示すグラフ。
図7】鉄鋼スラグの粒径と、リン除去率、リン沈降率、リン回収率、ク溶性リン含有率及び上澄み液中スラグスラリーのリン濃度との関係を示すグラフ。
図8】鉄鋼スラグから溶出したカルシウムと被処理水中のリンとのモル比(Ca/P)と、リン除去率及びク溶性リン含有率との関係を示すグラフ。
図9】リン回収反応時間とリン除去率との関係を示すグラフ。
図10】リン回収反応時のpHとリン回収率との関係を示すグラフ。
図11】実施例Aと比較例Bについて、被処理水中のリン濃度と撹拌反応時間との関係を示すグラフ。
図12】実施例Aと比較例Bについて、リン除去率と撹拌反応時間との関係を示すグラフ。
図13】実施例Aと比較例Bのリン沈降率の比較図。
図14】固形物の沈降時間と凝集物界面高さとの関係を示すグラフ。
図15】リン酸水濃度と、リン除去率及びク溶性リン含有率との関係を示すグラフ。
図16】鉄鋼スラグの種類と、リン除去率、リン沈降率及びク溶性リン含有率との関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明による被処理水中のリンの回収システム及び被処理水中のリンの回収方法の一例として、反応生成物を反応装置内で沈降分離する方法について、図1及び図2にて説明する。
【0016】
図1に示す本実施形態のリン回収システムは、カルシウム溶出反応装置101と、リン回収反応装置102と、固液分離装置103と、脱水装置104と、乾燥装置105とが備えられている。
【0017】
カルシウム溶出反応装置101は鉄鋼スラグと酸と混合することでスラグスラリーを形成する。形成されたスラグスラリーは、リン回収反応装置102に送られる。リン回収反応装置102は、カルシウム溶出反応装置101から供給されたスラグスラリーと、外部から供給された被処理水とを混合することで、リンとカルシウムを含む化合物を形成する。この化合物は、鉄鋼スラグの残渣と凝集して固形物となる。この固形物を含む混合物は、固液分離装置103に送られる。
【0018】
固液分離装置103では、リン回収反応装置102において得られた混合物を受け入れ、この混合物中の固形物を凝集沈降させる。リンとカルシウムを含む化合物と、カルシウム溶出後のスラリー残渣とが凝集沈降されて固形物となり、これにより、固液分離が行われる。凝集沈降させた固形物は脱水装置104に送られ、固形物を分離後の水はリン除去水として排出される。
【0019】
脱水装置104では、固液分離された固形物がさらに脱水される。リンは最終的に、高濃度のリンを含む固形物として回収される。脱水された固形物の一部はそのまま肥料に使われ、更に別の一部は乾燥装置105に送られる。また、脱水されて分離された水は、リン除去水として排出される。
【0020】
乾燥装置105では、脱水装置104において脱水された固形物を更に乾燥する。乾燥された固形物は、高濃度のリンを含む肥料または肥料原料となる。
【0021】
次に、図1に示すリン回収システムの具体例として、本実施形態のリン回収システムについて、図2を参照しつつ説明する。
【0022】
図2に示すように、本実施形態の被処理水中のリンの回収システム(以下、単に本システムという)は、鉄鋼スラグ供給装置3と、酸供給装置4と、鉄鋼スラグ中のカルシウム分を溶出させるカルシウム溶出反応装置1(図1におけるカルシウム溶出反応装置101)と、被処理水中のリンを回収するリン回収反応装置2(図1におけるリン回収反応装置102及び固液分離装置103)と、リン回収反応装置2内のpHを調整するpH調整装置9と、リン回収反応装置2内で凝集沈降した固形物の水分含有率を低下させる脱水装置6(図1における脱水装置104)と、乾燥装置8(図1における乾燥装置105)と、リンを除去した後の処理水払出し装置7とからなる。
【0023】
カルシウム溶出反応装置1には、図示略の撹拌混合装置が備えられている。カルシウム溶出反応装置1には、スラグ供給ラインL1を介して鉄鋼スラグ貯槽2aと接続され、酸供給ラインL2を介して酸貯槽4aと接続されている。また、カルシウム溶出反応装置1は、スラグスラリーラインL3を介してリン回収反応装置2に接続されている。カルシウム溶出反応装置1においては、鉄鋼スラグ貯槽2aから鉄鋼スラグS1が投入され、酸貯槽4aから酸A1が投入され、これら鉄鋼スラグS1と酸A1とを所定時間撹拌混合させる。これにより、鉄鋼スラグS1中のカルシウムを溶出させたスラグスラリーSSが得られる。このスラグスラリーSSは、鉄鋼スラグS1から溶出したカルシウムを含む酸溶液と鉄鋼スラグ残渣とを含むものであり、スラグスラリーラインL3によって、リン回収反応装置2に供給される。
【0024】
リン回収反応装置2には、苛性ソーダ供給ラインL5を介してpH調整装置9が接続され、被処理水供給ラインL4を介して被処理水供給装置5が接続されている。また、リン回収反応装置2は、凝集沈降物ラインL6を介して脱水装置6に接続され、処理水ラインL7を介して処理水払い出し装置7に接続されている。また、リン回収反応装置2には、図示略の撹拌混合装置が備えられている。リン回収反応装置2に、被処理水タンク5aから被処理水W1が投入され、カルシウム溶出反応装置1からスラグスラリーSSが投入され、更に苛性ソーダ貯槽9aから苛性ソーダA2が供給される。苛性ソーダA2により所定のpHになるように調整しつつこれらを撹拌混合させることで、被処理水W1中のリンとスラグスラリーSS中のカルシウムとを反応させる。反応によって生成した化合物はスラグスラリーSS中の鉄鋼スラグ残渣とともに速やかに固形物S2をつくる。
【0025】
また、鉄鋼スラグ供給装置3は、鉄鋼スラグ貯槽2aと、鉄鋼スラグ貯槽2aとカルシウム溶出反応装置1とを接続する鉄鋼スラグ供給ラインL1からなる。鉄鋼スラグ供給装置3は、鉄鋼スラグ貯槽2aに貯留された鉄鋼スラグS1をカルシウム溶出反応装置1に供給できるようになっている。
【0026】
また、酸供給装置4は、酸貯槽4aと、酸貯槽4aからカルシウム溶出反応装置1に酸A1を供給する酸供給ラインL2からなる。酸供給装置4は、酸供給ラインL2を介して酸A1をカルシウム溶出反応装置1に供給できるようになっている。
【0027】
また、被処理水供給装置5は、被処理水タンク5aと、被処理水タンク5a及びリン回収反応装置2とを接続する被処理水供給ラインL4とからなる。被処理水供給装置5は、被処理水タンク5aに貯留した被処理水W1をリン回収反応装置2に供給できるようになっている。
【0028】
また、pH調整装置9は、苛性ソーダ貯槽9aと、苛性ソーダ貯槽9aとリン回収反応装置2とを接続する苛性ソーダ供給ラインL5からなる。pH調整装置9は、苛性ソーダ貯槽9aに貯槽した苛性ソーダA2をリン回収反応装置2に供給できるようになっている。
【0029】
また、処理水払出し装置7は、リン回収反応装置2において固形物S2を凝集沈降分離させた後の上澄みである脱リン処理上澄み液W2を受け入れる処理水ラインL7と、脱水装置6からの脱水水W3を受け入れる脱水水ラインL8と、処理水ラインL7、および脱水水ラインL8の先に接続した処理水タンク7aからなる。
【0030】
また、脱水装置6は、リン回収反応装置2内で凝集沈降分離された固形物S2を受け入れ、固形物S2を脱水させる装置である。脱水装置6には、固形物S2から脱水された脱水水W3を処理水タンク7aへ送る脱水水ラインL8と脱水物S3を外部に排出する脱水物ラインL9が接続されている。
【0031】
脱水物S3はそのまま肥料として使用する場合と、さらに乾燥して肥料や肥料原料として使用する場合がある。脱水物S3をさらに乾燥する場合、脱水物S3は脱水物ラインL9の途中から乾燥装置8へ送り込まれる。
【0032】
次に、図2に示すリン回収システムを用いた被処理水中のリンの回収方法を説明する。以下に示す本実施形態のリン回収方法は、バッチ処理の例であるが、本発明のリン回収方法は、バッチ処理に限定されるものではなく、被処理水及びスラグスラリーを連続して流しながら処理してもよいことは勿論である。
【0033】
まず、本実施形態のリンの回収方法において用いる鉄鋼スラグS1、被処理水W1及び酸A1について説明する。鉄鋼スラグS1は、図2に示すリン回収システムの鉄鋼スラグ貯槽2aに貯留される。本実施形態では、鉄鋼スラグS1として高炉スラグ、製鋼スラグのいずれも用いることができる。特に、塩基度(CaO/SiO(重量比))が1〜7の範囲の鉄鋼スラグを用いることが好ましい。
【0034】
高炉には鉄鉱石とともに媒溶剤としてカルシウムを投入するため、高炉スラグにはカルシウムが比較的高濃度で含まれる。本実施形態のリン回収方法では、カルシウムとリンを反応させるため、カルシウムを比較的多く含む高炉スラグは本実施形態の鉄鋼スラグとして好適である。
【0035】
また、製鋼スラグには、溶銑脱硫や脱リン処理で発生する溶銑予備処理スラグ、転炉の脱炭精錬で発生する転炉スラグ、二次精錬で発生する鋳造スラグがあるが、いずれのスラグにおいても比較的高濃度のリンを含むものであるため、本実施形態のリン回収方法に好適に用いることができる。また、二次精錬では脱酸剤としてカルシウムが投入されることから、製鋼スラグにも比較的高い濃度のカルシウムが含まれる。製鋼スラグを用いることで、最終的にリンを多量に含む肥料若しくは肥料原料を得ることができる。
【0036】
また、鉄鋼スラグS1の平均粒径は、0.3mm以下が好ましく、0.2mm以下がより好ましく、0.15mm以下が更に好ましい。ただし、鉄鋼スラグS1の平均粒径を粉砕により小さくするにしたがってコストが上昇するので、コストとの兼ね合いで最適な値を決めるとよい。また、粉砕しすぎると微細な残渣が多量に生成して、固液分離時に時間を要することになるので、鉄鋼スラグの粒径は固液分離が円滑に行える程度の平均粒径に留めるとよい。例えば0.01mm以上がよい。
【0037】
また、塩酸添加前の鉄鋼スラグS1のカルシウム含有率は、15〜55質量%の範囲であることが好ましく、25〜55質量%の範囲がより好ましい。鉄鋼スラグS1中のカルシウム含有率が低すぎるとリンの回収率が低下するので好ましくない。反対にカルシウム含有率が高すぎると、カルシウム溶出後の鉄鋼スラグS1の残渣の量が少なくなる。なお、鉄鋼スラグS1の残渣の量が少なくなると、鉄鋼スラグ残渣回収率が低下し、リン沈降率が低下する。また、鉄鋼スラグ残渣回収率が大きい場合もリン沈降率が低下する。したがって、塩酸添加後の鉄鋼スラグ残渣回収率は、35〜65%が好ましく、40〜60%がより好ましく、45〜55%が更に好ましい。このような残渣回収率が得られる鉄鋼スラグを選択するとよい。
更に、本発明のリン回収システム及びリン回収方法においては、鉄鋼スラグの代わりに溶融スラグを用いてもよい。溶融スラグは、可燃ごみなどをガス化溶融炉により処理した後に得られるスラグである。
【0038】
本実施形態のリン回収方法に適用可能な被処理水W1としては、リンを含むものであればよく、リンの濃度に特に制限はない。本実施形態の被処理水W1として、例えば、公共下水道から終末処理場に流入する下水が挙げられる。このような下水としては、主に市街地などから排出される都市排水が例示される。都市下水には、一般家庭から排出される生活排水や、店舗、その他の施設から排出される排水が含まれる。また、このような下水には、製鉄所等の金属精錬工場やその他の工場などから排出される産業排水が含まれる場合もある。特に、生活排水や産業排水には、リンが比較的多く含まれる場合がある。したがって、公共下水道の終末処理場で処理される下水は、本実施形態のリン回収方法における被処理水W1として好適に用いることができる、また、本発明のリン回収方法は、終末処理場においてリンを回収する際に適用してもよい。更に、本発明の被処理水は生活排水や産業排水に限られず、リンを含むものであれば適用可能である。
【0039】
また、本実施形態のリン回収方法に利用可能な酸A1としては、塩酸の水溶液が好ましい。塩酸の水溶液濃度は、取り扱いが容易であるとともにある程度の濃度が必要なことから、0.5〜2.0Nが好ましく、0.7〜1.6Nがより好ましく、0.9〜1.2Nが更に好ましい。塩酸以外の酸として硫酸があるが、硫酸は、鉄鋼スラグから溶出したカルシウムと反応して石膏(CaSO4)を形成してしまうので好ましくない。また、硝酸は窒素を含むため、リン回収後の処理水W4を公共水域に放流した際に富栄養化の原因になるので好ましくない。
【0040】
本実施形態のリン回収方法は、鉄鋼スラグS1に酸A1を添加してスラグスラリーSSを得る段階と、リンを含む被処理水W1とスラグスラリーSSとを撹拌混合して静置することにより、リン及びカルシウムを含む化合物を形成させるとともに、形成した化合物を鉄鋼スラグS1の残渣とともに凝集沈降させる段階と、沈降させた固形物S2を脱水する段階と、を備える。また、本実施形態のリン回収システムでは、脱水物S3を更に乾燥させてもよい。以下、各段階について説明する。
【0041】
まず、鉄鋼スラグS1に酸A1を添加してスラグスラリーSSを得る。図2のリン回収システムにおいては、鉄鋼スラグ供給装置3及び酸供給装置4からカルシウム溶出反応装置1に鉄鋼スラグS1及び酸A1を供給し、カルシウム溶出反応装置1において鉄鋼スラグS1と酸A1を撹拌混合してスラグスラリーSSとする。このとき、鉄鋼スラグS1に含まれるカルシウムが塩酸によって溶出される。カルシウムを十分に溶出させるためには、鉄鋼スラグS1と酸A1とを1分以上撹拌混合することが好ましく、2分以上がより好ましく、5分以上が更に好ましい。上限は、60分以下が好ましく、30分以下がより好ましく、20分以下が更に好ましく、10分以下が最も好ましい。鉄鋼スラグS1と酸A1の配合率は、鉄鋼スラグの種類にもよるが、例えば、鉄鋼スラグ1kgに対して0.5〜2mol/Lの塩酸を10L程度添加するとよい。
【0042】
鉄鋼スラグに対して塩酸の量が多くなると、カルシウムの溶出量が多くなってリンを化合物として形成する際に有利になる一方で、鉄鋼スラグの残渣が減少し、形成した化合物を凝集沈降させる際に不利になる。カルシウムの溶出量は、被処理水W1とスラグスラリーSSとを混合した際に、鉄鋼スラグ中のカルシウム量と被処理水中のリン量とのモル比(Ca/P)が2〜4の範囲になるように調整すればよい。より好ましくは、Ca/P比率が2.5〜3.5の範囲が好ましい。Ca/P比率が2未満だと、リン除去率が低下してしまい、4以上だと、最終的に得られる乾燥物S4中のク溶性リン含有率が低下してしまう。ここで、ク溶性とは2%のクエン酸水溶液に溶解する性質をいう。また、ク溶性リンとは2%のクエン酸水溶液に溶解するリンをいう。
このように、鉄鋼スラグS1に対する塩酸添加量は重要なファクターになる。鉄鋼スラグS1の種類や鉄鋼スラグS1のカルシウム含有量にもよるが、例えば、鉄鋼スラグS1が1kgに対する塩酸モル量を、5〜20molの範囲にすることが好ましく、7〜15molがより好ましく、8〜12molが更に好ましい。
【0043】
次に、リン回収反応装置2において、リンを含む被処理水W1とスラグスラリーSSとを撹拌混合し、その後、静置する。図2のリン回収反応装置2においては、被処理水供給装置5からリン回収反応装置2に被処理水W1を供給し、スラグスラリーSSと撹拌混合した後に静置する。鉄鋼スラグ中のカルシウム量と被処理水W1中のリン量との混合割合は、Ca/P比率が2〜4の範囲になるように調整すればよい。Ca/P比率の調整は、スラグスラリーSSと被処理水W1の混合率、スラグスラリーSS形成時の塩酸の添加量等によって制御すればよい。また、Ca/P比率を調整するために、スラグスラリーSS中のカルシウム濃度と被処理水W1中のリン濃度は事前に計測しておくことが好ましい。
【0044】
被処理水W1中のリンとスラグスラリーSS中のカルシウムとを十分に反応させるためには、被処理水W1とスラグスラリーSSとの撹拌時間を、1分以上にすることが好ましく、5分以上がより好ましい。上限は、60分以下が好ましく、30分以下がより好ましく、20分以下が更に好ましい。撹拌時間が短すぎると、カルシウムとリンとの反応が十分に進まない可能性がある。また、撹拌時間が長すぎると、装置全体が大きくなり、設備コストが高くなる。したがって、撹拌時間は適度な時間に設定するとよい。
【0045】
被処理水W1とスラグスラリーSSとを撹拌混合することで、被処理水W1中に含まれるリンと、鉄鋼スラグから溶出されたスラグスラリーSS中のカルシウムとが反応して、リンとカルシウムを含む化合物が形成する。形成する化合物としては次のようなものが考えられる。被処理水W1中に含まれるリンの一部はリン酸水素イオン(HPO2−)として存在しており、リン酸水素イオンとカルシウムイオンが反応してリン酸水素カルシウム(CaHPO)が形成されると推測する。また、このとき、リン酸水素カルシウムにカルシウムが更に結合してCaHPO2+(トリプレット)も形成すると思われる。
【0046】
撹拌混合時に形成されるリン酸水素イオンを安定して存在させるためには、スラグスラリーSS混合後の被処理水W1のpHを7.7〜9.0の範囲に調整することが好ましく、8.0〜8.7の範囲がより好ましく、8.2〜8.5の範囲が更に好ましい。pHが7.7未満になると、リン酸水素イオンよりもリン酸二水素イオンが多く存在することになる。リン酸二水素イオンとカルシウムイオンとの溶解度積は、リン酸水素イオンとカルシウムイオンとの溶解度積よりも大きいため、pHが7.7未満ではリン酸水素カルシウムの析出量が少なくなってリンの回収率が低下する可能性がある。また、pHが9を超えると、被処理水W1中に炭酸イオンが生成し、カルシウムが炭酸イオンと結合して炭酸カルシウムを析出させ、リンが析出しにくくなり、リンの回収率が低下してしまう。被処理水W1中のpHは、図2に示すpH調整装置9から、苛性ソーダ供給ラインL5を通じて苛性ソーダA2を供給して調整すればよい。
【0047】
また、リン及びカルシウムを含む化合物の形成と同時または形成後に、鉄鋼スラグS1の残渣を利用してこれら化合物を凝集沈降させる。鉄鋼スラグS1の残渣は、カルシウムが陽イオンとして溶出したものであるので、全体として負に帯電している。一方、リン酸水素カルシウム及びCaHPO2+は、見かけ比重が小さい状態であるため、被処理水中に浮遊し、かつCaHPO2+は正に帯電している。このように負に帯電した鉄鋼スラグS1の残渣と浮遊するリン酸水素カルシウム及びCaHPO2+が共存することで、両者の間に静電的な相互作用が発生し、鉄鋼スラグS1の残渣に対してリン酸水素カルシウム並びにCaHPO2+等の化合物が凝集し、ついには固形物S2として沈降する。以上のメカニズムにより凝集沈降が進むと考えられるため、固形物を沈降させる際に、凝集剤を添加する必要はない。
【0048】
沈降時間はリン回収反応装置2の大きさにもよるが、7分以上が好ましく、10分以上がより好ましく、30分以上が更に好ましい。上限は、60分以下が好ましく、50分以下がより好ましく、40分以下が更に好ましい。
【0049】
次に、リン回収反応装置2において固形物S2を沈降後の上澄みである脱リン処理上澄み液W2を、処理水ラインL7により処理水タンク7aに送る。その後、脱リン処理上澄み液W2は脱水装置6からの脱水水W3とともに脱リン水として、処理水タンク7aから処理水W4として公共水域に放流されるか、あるいは、別の水処理設備に送られる。
【0050】
一方、リン回収反応装置2の底に凝集沈降した固形物S2は、凝集沈降物ラインL6を介して脱水装置6に送られる。脱水装置6において固形物S2は脱水され、その際に分離された脱水水W3は脱水水ラインL8を経由して処理水払出し装置7へ送られる。また、脱水後の脱水物S3は、脱水物ラインL9によって肥料、または肥料原料として搬出される。または、乾燥装置8に送られて乾燥後、肥料、または肥料原料として搬出される。
【0051】
脱水装置6から脱水物ラインL9を経由して搬出される脱水物S3は、回収物をそのまま肥料用途に向けるための、ク溶性リン含有率の規格値である15質量%以上のク溶性リンを含んでおり、そのまま肥料として用いられる。
【0052】
また、乾燥装置8から搬出される乾燥物S4は、回収物をそのまま肥料用途に向けるための、ク溶性リン含有率の規格値である15質量%以上のク溶性リンを含んでおり、そのまま肥料として用いられるか、肥料原料として肥料の製造に利用されるか、あるいは黄リン原料として利用される。
【0053】
上述した本実施形態のリン回収方法は、バッチ処理によりリンを回収する例であるが、連続処理により本実施形態のリンの回収を行ってもよい。
具体的には、リンを含む被処理水W1及びスラグスラリーSSを、リン回収反応装置2に連続的に投入する。リン回収反応装置2では、被処理水W1及びスラグスラリーSSとを撹拌混合してリンとカルシウムを含む化合物を形成させる段階と、形成した化合物を鉄鋼スラグS1の残渣とともに凝集沈降させる段階と、凝集沈降した固形物S2を回収する段階と、固形物S2を回収した際の上澄みである脱リン処理上澄み液W2を排出する段階と、固形物S2を脱水し、脱水物S3を得る段階と、固形物S2を脱水した際の脱水水W3を排出する段階とを、連続的に行う。更に、脱水物S3を乾燥させる段階を加えてもよい。
【0054】
以上説明したように、本実施形態の被処理水中のリンの回収方法及びリンの回収システムによれば、鉄鋼スラグからカルシウムを溶出させてこれを被処理水中のリン酸水素イオンと反応させてリン酸水素カルシウムとし、更に鉄鋼スラグからカルシウムを溶出した後の残渣を利用して、リン酸水素カルシウムを凝集沈降させるので、被処理水W1中のリンを高い収率で効率よく回収できる。
【0055】
特に、カルシウム溶出後の鉄鋼スラグの残渣を利用することで、短時間でリン酸水素カルシウムを凝集沈降させることができ、リンの回収効率を高めることができる。また、リン酸水素カルシウムを凝集させるための凝集剤を別途添加する必要がなく、凝集剤を添加するための設備も必要ない。更には、リン酸水素カルシウムの生成と凝集を同時に行うことができ、短時間でリンを回収できるとともに、リンを回収させる際に必要なリンを回収させる際に必要な反応槽が1つで済み、リン回収反応装置2を小型化できる。
【0056】
また、本実施形態のリン回収方法によれば、スラグスラリーの形成や固形物の凝集沈降分離を短時間で行うことができ、被処理水及び鉄鋼スラグの処理効率を大幅に高めることができる。
【0057】
また、鉄鋼スラグには、製鉄所から排出されるリンが多く含まれているものがある。本実施形態によれば、この鉄鋼スラグ中のリンと被処理水中のリンとが一装置で同時に回収されるとともに、凝集沈降物中のリンの含有率を高めることができ、凝集沈降物を有用なリン資源として再活用できる。さらに、被処理水として終末処理場(下水処理場)で処理される下水を用いる場合、海や湖などの富栄養化の原因である下水中のリンを回収できる。したがって、本実施形態を下水中のリンの回収に適用することにより、リンの2大排出源である鉄鋼産業からのリン(日本で約8万t−P/Yの排出)と下水処理場からのリン(日本で約5万t−P/Yの排出)の両方のリンを同時に回収リサイクルすることが可能になる。
【0058】
また、凝集沈降した固形物を脱水後に乾燥させることで、固形物の容積を減少できるとともに、凝集沈降した固形物の取り扱いが容易になる。
【0059】
更に、回収された固形物は、リンを高濃度で含むため、リン資源として、肥料、肥料原料または黄リン原料等に用いることができる。
また、本実施形態によれば、リンの回収に用いた鉄鋼スラグの全量を肥料または肥料原料として利用できるので、鉄鋼スラグを有効活用することができる。
【実施例】
【0060】
本発明の実施形態における、様々な因子の関係を調べるため行った実験例1〜11、実施例A及び比較例Bについて以下に説明する。なお、被処理水として、660mg/LのKHPO、1.89g/LのNHClと、3.36g/LのNaHCO3とを含むモデル液を用意した。また、鉄鋼スラグは、粉砕機により粉砕し、ふるい分けにより粒径を調整した。電子顕微鏡付き蛍光X線分析によりカルシウム含有率を測定した。
【0061】
(実験例1)
鉄鋼スラグ残渣回収率とリン沈降率との関係を調べるため、以下に示す実験例1を行った。
を4%含有し、カルシウム含有率が40%及び粒径0.125mmの鉄鋼スラグと、濃度が0.5N、1.0N及び2.0Nの塩酸とを、固液比(kg:L)が1:10となるように混合し、60分間撹拌した。スラグ中のカルシウム量と、リン濃度が150mg/Lのモデル液中のリン量とを、Ca/P比率が3.0となるように混合し、pHを8.5に調整し、60分間撹拌混合した後、5分間静置し、固形物を凝集沈降させた。凝集沈降した固形物を遠心分離して、100℃で乾燥させた後に回収し、スラグ残渣重量、上澄み液量及び上澄み液中全リン濃度を測定した。上澄み液中全リン濃度は、モリブデンブルー法により測定した。塩酸濃度と、スラグスラリーとモデル液の固液比を調整することで、鉄鋼スラグ残渣回収率を14〜92%の範囲で9つのサンプルを用意した。
【0062】
下記式(1)によって求めた鉄鋼スラグ残渣回収率と、下記式(2)によって求めたリン沈降率との関係を図3に示す。図3によると、鉄鋼スラグ残渣回収率が50%付近でリン沈降率が最大となり、鉄鋼スラグ残渣回収率が35〜65%の範囲では、リン沈降率が70%以上の値をとっている。また、鉄鋼スラグ残渣回収率が小さいと、リン沈降率が低下する。一方、鉄鋼スラグ残渣回収率が大きい場合もリン沈降率が低下することが分かる。
【0063】
鉄鋼スラグ残渣回収率=スラグ残渣重量/投入スラグ重量×100 …(1)
【0064】
リン沈降率=(モデル液中のリン濃度×モデル液量−上澄み中全リン濃度×上澄み液量)/(モデル液中のリン濃度×モデル液量)×100 …(2)
【0065】
ただし、式(2)における上澄み中全リン濃度は以下の通りである。
上澄み中全リン濃度=(水溶性リン量+スラグスラリー中のリン量)/上澄み液量
【0066】
(実験例2)
鉄鋼スラグ単位重量当りの塩酸量と、回収リン中のク溶性リン含有率、ク溶性リン含有率及び鉄鋼スラグ当たりのリン回収量との関係を調べるため、以下に示す実験例2を行った。
を4%含有し、カルシウム含有率が40%及び粒径が0.125mmの鉄鋼スラグと、濃度が0.5N、1.0N及び2.0Nの塩酸とを、固液比(kg:L)が1:5、1:10及び1:20となるように混合し、60分間撹拌した。スラグ中のカルシウム量と、リン濃度が150mg/Lのモデル液中のリン量とを、Ca/P比率が3.0となるように混合し、pHを8.5に調整し、60分間撹拌混合した後、5分間静置し、固形物を凝集沈降させた。凝集沈降した固形物を回収し、回収した固形物の量、沈降後の含水固形物中のリン量及びク溶性リン量を測定した。サンプルは、鉄鋼スラグ単位重量当りの塩酸量を2.5〜40mol/kgの範囲で5つのサンプルを用意した。
沈降後の含水固形物中のリン量はモリブデンブルー法により測定した。ク溶性リン量は、2%クエン酸溶液によって固形物から抽出した抽出物の質量を測定し、この抽出物中に含まれるク溶性リン量を算出した。なお、ク溶性リン量の測定にあたっては「肥料等試験法(2013)独立行政法人農林水産消費安全技術センター(http://www.famic.go.jp/ffis/fert/bunseki/sub9_shiken2013.html)」に準じて行った。算出したク溶性リン量は、下記式(4)及び(5)において、ク溶性リン含有率及び回収リン中のク溶性リン含有率を求める際に用いた。
また、以後の実験例においても上記と同様にして測定し、算出した。
【0067】
鉄鋼スラグ単位重量当たりの塩酸量、下記式(3)によって求めた鉄鋼スラグ当りのリン回収量、下記式(5)によって求めたク溶性リン含有率及び下記式(6)によって求めた回収リン中のク溶性リン含有率の関係を図4に示す。図4によると、鉄鋼スラグ当たりのリン回収量及びク溶性リン含有率は、鉄鋼スラグ単位重量当たりの塩酸量の値が10mol/kg付近で最大となる。鉄鋼スラグ単位重量当たりの塩酸量が10mol/kgより小さくなると、リンの回収量、回収リン中のク溶性リン含有率及びク溶性リン含有率が低下する。また、鉄鋼スラグ単位重量当たりの塩酸量が10mol/kgより大きくなると、リンの回収量、回収リン中のク溶性リン含有率及びク溶性リン含有率が低下することが分かる。また、回収リン中のク溶性リン含有率は、鉄鋼スラグ単位重量当たりの塩酸量が10〜25mol/kgの範囲でほぼ100%の値をとり、ク溶性リン含有率は、5〜40mol/kgの範囲で15%以上の値をとっている。
【0068】
鉄鋼スラグ当りのリン回収量=リン回収量/投入スラグ量 …(3)
【0069】
ただし、式(3)におけるリン回収量は、回収した沈降後の含水固形物中のリン量である。
【0070】
ク溶性リン含有率=ク溶性リン量/回収した固形物の量×100 …(4)
【0071】
回収リン中のク溶性リン含有率=ク溶性リン量/回収した全リン量×100 …(5)
【0072】
(実験例3)
次に、塩酸水溶液濃度と、鉄鋼スラグ当りのリン回収量及びク溶性リン含有率との関係を調べるため、以下の実験例3を行った。
を4%含有し、カルシウム含有率が40%及び粒径が0.125mmの鉄鋼スラグと、濃度が0.5N、1.0N及び2.0Nの塩酸とを、固液比(kg:L)が1:5、1:10及び1:20となるように混合し、60分間撹拌混合した。スラグ中のカルシウム量と、リン濃度が150mg/Lのモデル液中のリン量とを、Ca/P比率が3.0となるように混合し、pHを8.5に調整し、60分間撹拌混合した後、5分間静置し、固形物を凝集沈降させた。凝集沈降した固形物を回収し、実験例2と同様にして、沈降後の含水固形物中のリン量及びク溶性リン量を測定した。
【0073】
塩酸水溶液濃度と、前記式(3)によって求めた鉄鋼スラグ当りのリン回収量及び前記式(4)によって求めたク溶性リン含有率との関係を図5に示す。図5によると塩酸水溶液濃度が1N付近でリン回収量及びク溶性リン含有率が最大となる。塩酸水溶液濃度が1Nより大きいと、リン回収量及びク溶性リン含有率が徐々に低下していくのに対し、塩酸水溶液濃度が1Nより小さいと、リン回収量及びク溶性リン含有率が急速に低下している。実用化する場合は、回収したリンの価値、スラグや塩酸の調達費等を総合的に勘案して最適な値を決めることになる。
【0074】
(実験例4)
鉄鋼スラグと塩酸とを撹拌混合する際の、カルシウム溶出反応時間とカルシウム溶出率との関係を調べるため、以下に示す実験例4を行った。
を4%含有し、カルシウム含有率が40%及び粒径が0.125mmの鉄鋼スラグと、濃度が1.0Nの塩酸とを、固液比が1:10となるように混合し、60分間撹拌し、各時間におけるカルシウム溶出量を測定した。
【0075】
カルシウム溶出反応時間とカルシウム溶出率との関係を図6に示す。前記実験例2で示したスラグ単位重量当たりの塩酸量の最適値(10mol/kg)と、前記実験例3で示した塩酸水溶液濃度の最適値(1N)によるカルシウムの溶出は速やかに進行し、2分程度でほぼカルシウム溶出率は飽和し、5分後には完全に飽和している。従って、鉄鋼スラグと塩酸との混合時間は、混合比や塩酸濃度にもよるが、1分以上が好ましく、2分以上がより好ましく、5分以上であれば充分であることがわかる。
【0076】
(実験例5)
次に、鉄鋼スラグの粒径と、リン除去率、リン沈降率、リン回収率、ク溶性リン含有率及び上澄み液スラグスラリー中のリン濃度との関係を調べるため、以下に示す実験例5を行った。
を4%含有し、カルシウム含有率が40%及び粒径が0.125mm、0.3mm、0.5mmの鉄鋼スラグと、濃度が0.5N、1.0N及び2.0Nの塩酸とを、固液比が1:10となるように混合し、60分間撹拌した。スラグ中のカルシウム量と、リン濃度が150mg/Lのモデル液中のリン量とを、Ca/P比率が3.0となるように混合し、pHを8.5に調整し、60分間撹拌混合した後、5分間静置し、固形物を凝集沈降させた。上澄み液中水溶性リン濃度を測定した。また、実験例2と同様にして、回収した固形物中のリン量及び固形物中のク溶性リン量を測定した。
【0077】
鉄鋼スラグの粒径と、下記式(6)によって求めたリン除去率、前記式(2)によって求めたリン沈降率、下記式(7)によって求めたリン回収率、前記式(4)によって求めたク溶性リン含有率及び上澄みスラグスラリー中のリン濃度との関係を図7に示す。図7によると、リン除去率はスラグ粒径に依らないが、スラグ粒径が0.3mmより小さくなると、リン沈降率及びリン回収率が急激に高くなり、上澄み液スラグスラリー中のリン濃度は急激に低くなる(すなわち沈降しやすくなる)。また、0.3mmより大きくなると、比較的緩やかにリン沈降率及びリン回収率が低くなり、上澄み液スラグスラリー中のリン濃度は緩やかに高くなる。固形物中のク溶性リン含有率は、スラグ粒径が小さくなるに従って減少しているが、いずれの粒径においても、そのまま肥料として使用する場合の規格値であるク溶性リン含有率15質量%以上の数値を示している。したがって、除去したリンを沈降させて効率よく回収するには、スラグ粒径を0.3mm以下に細かく粉砕することが好ましいことがわかる。
【0078】
リン除去率=(モデル液中のリン濃度−上澄み液中水溶性リン濃度)/モデル液中のリン濃度×100 …(6)
【0079】
リン回収率=沈降後の含水固形物中の全リン量/(モデル液中のリン濃度×モデル液量+投入スラグ中のリン量)×100 …(7)
【0080】
(実験例6)
次に、Ca/P比率と、リン除去率及びク溶性リン含有率との関係を調べるため、以下の実験例6を行った。
を4%含有し、カルシウム含有率が40%及び粒径が0.125mmの鉄鋼スラグと、濃度が1Nの塩酸とを固液比が1:10となるように混合し、60分間撹拌した。スラグ中のカルシウム量と、リン濃度が150mg/Lのモデル液中のリン量とを、Ca/P比率が2.0、2.5、3.0、3.5及び4.0となるように混合し、pHを8.5に調整し、60分間撹拌混合した後、5分間静置し、固形物を凝集沈降させた。他の実験例と同様にして、凝集沈降した固形物の量、ク溶性リン量及び上澄み液中水溶性リン濃度を測定した。モデル液中のリン濃度を固定し、使用スラグ量と使用塩酸量を調整し、Ca/P比率を変化させた。
【0081】
Ca/P比率と、前記式(6)によって求めたリン除去率及び前記式(4)によって求めたク溶性リン含有率との関係を図8に示す。Ca/P比率の増加に伴いリンの除去率は上昇する一方、ク溶性リン含有率は減少する。Ca/P比率は2〜4の範囲が好ましいことがわかる。また、回収物をそのまま肥料用途に向けるには、ク溶性リン含有率が15質量%以上必要であること及びリン除去率確保のため、Ca/P比率は3程度が好ましいことがわかる。
【0082】
(実験例7)
次に、リン回収反応時間とリン除去率との関係を調べるため、以下に示す実験例7を行った。
を4%含有し、カルシウム含有率が40%及び粒径が0.125mmの鉄鋼スラグと、濃度が1Nの塩酸とを、固液比が1:10となるように混合し、60分間撹拌した。スラグ中のカルシウム量と、リン濃度が150mg/Lのモデル液中のリン量とを、Ca/P比率が3.0となるように混合し、pHを8.5に調整し、60分間撹拌混合した後、5分間静置し、各時間における上澄み液を回収し、上澄み液中水溶性リン濃度を測定した。
【0083】
リン回収反応時間と、前記式(6)によって求めたリン除去率との関係を図9に示す。モデル液中のリンはスラグスラリーと速やかに反応し、5分の反応でリン除去率が85%以上に到達し、20分の反応でリンの除去率は最大値に達することが分かる。したがって撹拌時間は、5分以上が好ましいことがわかる。
【0084】
(実験例8)
次に、スラグスラリーとモデル液とを撹拌混合する際のpHと、リン回収率との関係を調べるため、以下に示す実験例8を行った。
を4%含有し、カルシウム含有率が40%及び粒径が0.125mmの鉄鋼スラグと、塩酸濃度が1Nの塩酸とを固液比が1:10となるように混合し、60分間撹拌した。スラグ中のカルシウム量と、リン濃度が150mg/Lのモデル液中のリン量とを、Ca/P比率が3.0となるように混合し、pHを未調整の7.4から8.0、8.5及び9.0に調整し、60分間撹拌混合した後、5分間静置し、固形物を凝集沈降させた。撹拌混合時のpHは、5mol/LのNaOH水溶液を添加し、変化させた。凝集沈降した固形物を回収し、固形物中のリン量を測定した。
【0085】
pH及び前記式(7)によって求めたリン回収率の関係を図10に示す。pHが8.4付近にリン回収率の最大値がある。pHが7.7〜9.0の範囲では、リン回収率が70%より大きくなり、8.0〜8.7の範囲では、リン回収率が80%より大きくなることが分かる。
【0086】
次に、鉄鋼スラグの残渣が凝集沈降に寄与していることを調べるため、以下の実施例A及び比較例Bを行った。
(実施例A)
質量%でPを4%含み、カルシウム含有率が40%であり、粒径が0.125mmの鉄鋼スラグ0.5gに1.3mol/Lの塩酸水溶液を5ml添加し、常温で60分間激しく撹拌することで、鉄鋼スラグ中のカルシウムが溶出されたスラグスラリーを得た。スラグスラリーには、鉄鋼スラグの残渣が含まれていた。
次いで、モデル液として、KHPOを392mg/Lの濃度で含み、NHClを1.86g/Lの濃度で含み、NaHCOを3.36g/Lの濃度で含むモデル液を用意した。
このモデル液500mlに、先に調製したスラグスラリーの全量を添加し、添加直後に1mol/LのNaOH水溶液を用いてpHを8.5に調整し、0分、5分、20分及び60分の水準で撹拌し、各撹拌時間において液を2mlサンプリングし、孔径0.22μmのシリンジフィルターでろ過した。ろ過後のろ液中の水溶性リン濃度を、モリブデンブルー法により測定した。そして、ろ液中の水溶性リン濃度から、下記式(8)によってリン除去率を求めた。結果を表1、図11及び図12に示す。
【0087】
リン除去率(%)={(PO−P)−(PO−P)}/(PO−P)×100 …(8)
【0088】
ただし、式(8)における(PO−P)及び(PO−P)は以下の通りである。
(PO−P):撹拌0分のろ液中の水溶性リン濃度
(PO−P):撹拌時間x分のろ液中の水溶性リン濃度(ただし、xは5分、20分、60分)
【0089】
また、60分間撹拌した撹拌液の全量(約500ml)をメスシリンダーに素早く移し、5分間凝集沈降させた後、上澄み液400mlをサイフォンで取り出した。取り出した上澄み液中の全リン量を測定した。そして、モデル液中のリン量から上澄み液中のリン量を差し引くことで、メスシリンダー中に残された沈降物を含む残液100ml中のリン量を算出した。更に、下記式(9)に基づきリンの沈降率を求めた。結果を表2及び図13に示す。
【0090】
リン沈降率(%)=残液100ml中のリン量/モデル液中のリン量×100 …(9)
【0091】
(比較例B)
実施例Aと同様にして、鉄鋼スラグ中のカルシウムが溶出されたスラグスラリーとし、このスラグスラリーから鉄鋼スラグの残渣を除去して上澄み液を得た。
また、実施例Aと同様にして、モデル液を用意した。
このモデル液500mlに、先に調製したスラリーの上澄み液を添加し、添加直後に1mol/LのNaOH水溶液を用いてpHを8.5に調整し、0分、5分、20分及び60分の水準で撹拌した。以後、実施例Aと同様にして、リン濃度、リン除去率及びリン沈降率を求めた。結果を表1、表2及び図11〜13に示す。
【0092】
【表1】
【0093】
【表2】
【0094】
表1、図11図13に示すように、実施例Aは比較例Bに比べて、リンの除去率が高くなっていることがわかる。これは、実施例Aでは、鉄鋼スラグの残渣が含まれていたため、リン酸カルシウムの凝集沈降が効率よく行われたためである。また、表2及び図13に示すように、比較例Bでは、リンの沈降率が39%程度であったのに対し、実施例Aではリン沈降率が69%に達した。このように、実施例Aでは、リンを比較的短時間で凝集沈降できていることがわかる。
【0095】
(実験例9)
次に、固形物の沈降時間と固形物界面高さとの関係を調べるため、実験例9を行った。
を4%含有し、カルシウム含有率が40%及び粒径が0.125mmの鉄鋼スラグと、濃度が1Nの塩酸とを固液比が1:10となるように混合し、60分間撹拌した。スラグ中のカルシウム量と、リン濃度が150mg/Lのモデル液中のリン量とを、Ca/P比率が3.0となるように混合し、pHを8.5に調整し、内径が64mmの1000mLメスシリンダー内で60分間撹拌混合し、静置した。凝集した固形物の界面高さを3水準とり、各水準の界面高さを一分ごとに測定した。結果を図14に示す。
【0096】
図14によると、いずれの水準においても凝集物は速やかに沈降し、7分前後で沈降が完了している。実機での沈降時間は、リン回収反応装置2の大きさにもよるが、30分以上であれば十分と考える。
【0097】
(実験例10)
次に、リン濃度と、リン除去率及びク溶性リン含有率との関係を調べるため、以下に示す実験例10を行った。
を4%含有し、カルシウム含有率が40%及び粒径が0.125mm以下の鉄鋼スラグと、濃度が1Nの塩酸とを、固液比が1:10となるように混合し、60分間撹拌した。スラグ中のカルシウム量と、リン濃度が50mg/L、150mg/L、300mg/L及び600mg/Lの合成リン酸水中のリン量とを、Ca/P比率が3.0となるように混合し、pHを8.5に調整し、60分間撹拌混合した後、5分間静置し、固形物を凝集沈降させた。上澄み液中水溶性リン濃度及び回収した固形物中のク溶性リン量を測定した。また、被処理水として実際の下水を用いて同様の実験も行った。リン濃度が、109mg/L及び291mg/Lの下水を用いた。
【0098】
リン濃度と、前記式(6)によって求めたリン除去率及び前記式(4)によって求めたク溶性リン含有率との関係を図15に示す。リン濃度が50〜600mg/Lにおいて、ク溶性リン含有率が15質量%以上を示している。凝集沈降した固形物をそのまま肥料として使用する場合の、ク溶性リン含有率の規格値は15質量%以上であることから、本実施例で使用したいずれのリン濃度でも有効であることが分かる。さらに、実際の下水を用いた実験の結果をみると、リン除去率及びク溶性リン含有率ともに、モデル液の結果と近い値であることから、被処理水は下水処理場内の幅広い下水に有効であると考える。
【0099】
(実験例11)
前記実験例1〜10、実施例A及び比較例Bでは、鉄鋼スラグとして、質量%でPを4%含み、カルシウム含有率が40%である鉄鋼スラグを用いた例である。そこで、化学成分の異なる鉄鋼スラグを用いて、リン除去率、リン沈降率及びク溶性リン含有率との関係を調べるため、以下に示す実験例11を行った。又、ごみ溶融炉スラグでも実験を行った。
実験例11において使用した鉄鋼スラグは以下の通りである。これらは、製鉄所において副生する鉄鋼スラグとして代表的なものである。また、溶融スラグは可燃ごみなどをガス化溶融炉により処理した後に得られるスラグである。
【0100】
質量%でPを0%含み、カルシウム含有率が42%であり、塩基度が1.8であり、粒径0.125mmである鉄鋼スラグA。
質量%でPを0%含み、カルシウム含有率が28%であり、塩基度が5.6であり、粒径0.125mmである鉄鋼スラグB。
質量%でPを4%含み、カルシウム含有率が40%であり、塩基度が2.0であり、粒径0.125mmである鉄鋼スラグC。
質量%でPを2%含み、カルシウム含有率が50%であり、塩基度が3.8であり、粒径0.125mmである鉄鋼スラグD。
質量%でPを0%含み、カルシウム含有率が33%であり、塩基度が6.6であり、粒径0.125mmである鉄鋼スラグE。
質量%でPを0%含み、カルシウム含有率が37%であり、塩基度が1.2であり、粒径0.125mmである溶融スラグ。
【0101】
これら鉄鋼スラグと、濃度が1Nの塩酸とを固液比が1:10となるように混合し、60分間撹拌した。スラグ中のカルシウム量と、リン濃度が150mg/Lのモデル液中のリン量とを、Ca/P比率が3.0となるように混合し、pHを8.5に調整し、60分間撹拌混合した後、5分間静置し、固形物を凝集沈降させた。上澄み液中リン濃度及び凝集沈降した固形物中のリン量を測定した。各鉄鋼スラグのリン除去率、リン沈降率及びク溶性リン含有率を図16に示す。
【0102】
実験例11で使用したいずれの鉄鋼スラグにおいても、リン除去率は85%以上を示していることから、製鉄所において副生する鉄鋼スラグはいずれも本システムに適用可能であることがわかる。また、リン除去率について本システムは有効であると考える。また、ク溶性リン含有率が15質量%以上を満足すれば、回収物をそのまま肥料用途に向けることができ、ク溶性リン含有率が15質量%未満のものも、配合肥料等で利用ができる。すなわち、回収物をそのまま肥料として使用する場合は、適用箇所、回収したリンの価値、鉄鋼スラグや塩酸の調達費等を総合的に勘案して決定すればよい。
【産業上の利用可能性】
【0103】
本発明によれば、リンを含む被処理水からリンを効率よく回収できる。
すなわち、被処理水中に含まれていたリンは、酸によるカルシウム溶出後の鉄鋼スラグの残渣とともに凝集沈降して固形物として回収されるので、リンの効率的な回収が可能になる。ここで、例えばリンを含む鉄鋼スラグを使用する場合は、被処理水中のリンと鉄鋼スラグ中のリンを同時に回収できることから、リンが高い濃度で含まれているので、肥料、肥料原料または黄リン原料として好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0104】
1 カルシウム溶出反応装置
2 リン回収反応装置
3 鉄鋼スラグ供給装置
4 酸供給装置
5 被処理水供給装置
6 脱水装置
7 処理水払出し装置
8 乾燥装置
9 pH調整装置
【要約】
カルシウム溶出反応装置(1)と、前記カルシウム溶出反応装置(1)に鉄鋼スラグを供給する鉄鋼スラグ供給装置(3)と、前記カルシウム溶出反応装置(1)に酸を供給する酸供給装置(4)と、前記カルシウム溶出反応装置(1)からの鉄鋼スラグスラリーによりリンを含む被処理水からリンを回収するリン回収反応装置(2)と、前記リン回収反応装置(1)にリンを含む被処理水を供給する被処理水供給装置(5)と、被処理水供給後の撹拌混合後の静置により前記リン回収反応装置(1)内に凝集沈降した固形物を脱水するための脱水装置(6)と、前記リン回収反応装置(1)内で反応の上澄み液を外部に送り出す処理水払出し装置(7)と、脱水後の脱水物を乾燥する乾燥装置(8)が備えられた被処理水中のリンの回収システムを採用する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16