(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6060398
(24)【登録日】2016年12月22日
(45)【発行日】2017年1月18日
(54)【発明の名称】排水中のリン除去方法および排水中のリン除去装置
(51)【国際特許分類】
C02F 1/56 20060101AFI20170106BHJP
B01D 21/01 20060101ALI20170106BHJP
【FI】
C02F1/56 K
B01D21/01 107B
B01D21/01 107Z
B01D21/01 107A
【請求項の数】12
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-73180(P2014-73180)
(22)【出願日】2014年3月31日
(65)【公開番号】特開2015-192976(P2015-192976A)
(43)【公開日】2015年11月5日
【審査請求日】2015年11月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085523
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 文夫
(74)【代理人】
【識別番号】100078101
【弁理士】
【氏名又は名称】綿貫 達雄
(74)【代理人】
【識別番号】100154461
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 由布
(72)【発明者】
【氏名】大内 龍一
(72)【発明者】
【氏名】早川 一精
(72)【発明者】
【氏名】中口 一成
【審査官】
金 公彦
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−220067(JP,A)
【文献】
特開2013−208599(JP,A)
【文献】
特開2012−005941(JP,A)
【文献】
特開2006−263572(JP,A)
【文献】
特開昭55−104908(JP,A)
【文献】
米国特許第4872993(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 21/01
C02F 1/52− 1/64
C02F 1/28
DWPI(Thomson Innovation)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リンを含む排水のpHを中性領域に調整後、該排水を濁度制御槽に導き、該濁度制御槽において、ガイシ仮焼物を粉砕して得た60〜200メッシュのアルミナ・シリカ質粒子を添加して、排水の濁度を1000〜40000mg/Lに調整した上で、カチオン系有機凝集剤である第1の高分子凝集剤を添加して撹拌後、アニオン系有機凝集剤またはアニオン系有機凝集剤とノニオン系有機凝集剤とからなる第2の高分子凝集剤を添加し、電荷が中性となる状態を形成してフロックを生成させ、前記の生成したフロックを、シックナーにより汚泥と上澄水とに分離し、前記リンを該汚泥に吸着させて除去することを特徴とする排水中のリン除去方法。
【請求項2】
前記濁度制御槽において、排水の濁度を1000〜10000mg/Lに調整することを特徴とする請求項1記載の排水中のリン除去方法。
【請求項3】
前記シックナーで分離された汚泥を濁度制御槽に導くとともに、該濁度制御槽において、排水の濁度を2000〜20000mg/Lに調整することを特徴とする請求項1記載の排水中のリン除去方法。
【請求項4】
前記シックナーで分離された汚泥を100〜400メッシュに調整して濁度制御槽に導くとともに、該濁度制御槽において、排水の濁度を1000〜40000mg/Lに調整することを特徴とする請求項1記載の排水中のリン除去方法。
【請求項5】
前記ガイシ仮焼物を粉砕して得た粒子を60〜200メッシュに調整し、前記濁度制御槽中の排水に、1−5%添加することを特徴とする請求項2〜4の何れかに記載の排水中のリン除去方法。
【請求項6】
前記ガイシ焼成物を粉砕して得た粒子を150〜200メッシュに調整し、前記濁度制御槽中の排水に、0.1−3%添加することを特徴とする請求項4の排水中のリン除去方法。
【請求項7】
濁度の調整は、前記濁度制御槽に加水しながら行うことを特徴とする請求項1〜6の何れかに記載の排水中のリン除去方法。
【請求項8】
前記第1の高分子凝集剤が、ジメチルアミノエチルメタクリエート(DMA)またはDMAの4級塩とアクリルアミドとの共重合物であることを特徴とする請求項1〜7の何れか記載の排水中のリン除去方法。
【請求項9】
前記第2の高分子凝集剤が、アニオン系単独、アニオン系とノニオン系との混合、アニオン系及びノニオン系、ノニオン系の何れかであることを特徴とする請求項1〜8の何れか記載の排水中のリン除去方法。
【請求項10】
リンを含む排水のpHを中性領域に調整後、ガイシ仮焼物を粉砕して得た60〜200メッシュのアルミナ・シリカ質粒子が添加される濁度制御槽と、該濁度制御槽内へ加水を行う加水手段と、濁度が制御された排水にカチオン系の第1の高分子凝集剤を添加・攪拌する第一攪拌槽と、さらにアニオン系またはノニオン系の第2の高分子凝集剤を添加・攪拌する第2攪拌槽と、フロックを沈降分離するシックナーと、その上澄水の砂ろ過装置とからなる排水中のリン除去装置であって、
該濁度制御槽は、排水の濁度を計測する濁度計測手段と、該濁度計測手段の計測結果に基づき、加水手段から水を加えて、あるいはシックナーからの汚泥を混合し、濁度を1000〜40000mg/Lに制御する濁度制御手段を備えることを特徴とする排水中のリン除去装置。
【請求項11】
シックナーから排出された汚泥を粒径により分別する手段と、分別された汚泥を濁度制御槽に返送する手段とを備えたことを特徴とする請求項10記載の排水中のリン除去装置。
【請求項12】
濁度制御槽に、アルミナ・シリカ質粒子を供給する手段を設けたことを特徴とする請求項11記載の排水中のリン除去装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排水中の溶解性リンの除去方法および排水中のリン除去装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
化学工業、食品工業、医薬工業、肥料工業等、リン化合物を扱う各種工場から排出される排水中に含まれる溶解性リンを除去する技術として、凝集剤として硫酸アルミニウム(硫酸バンド)、ポリ塩化アルミニウム(PAC)等のアルミニウム塩や、硫酸第1鉄、塩化第2鉄等の鉄塩を用い、リンを凝集沈殿させる手法が広く採用されている。
【0003】
上記手法では、多量の凝集剤を連続して使用するため、処理コストが高く付き、また凝集剤から大量の沈殿物が汚泥として発生する問題がある。この問題を解消する技術として、排水を膜分離処理した後、ジルコニウムフェライト水和物を構成材料とするリン吸着剤で吸着処理を行う技術が開示されている(特許文献1)。
【0004】
しかし、特許文献1の技術では、膜分離装置が必要であって、リンの除去設備構成が複雑になる問題や、高価なジルコニウムフェライト水和物の使用を前提とするため、処理コストが嵩む問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−147088号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は前記問題を解決し、排水中の溶解性リンを、特許文献1の技術に比べて、簡易な設備構成で効率よく、かつ、低コストに除去することができる技術を提供することである。
ここで溶解性リンとは、オルトリン酸態リン、重合リン酸態リンなどの無機態リンおよび溶解性有機リンを言う。
【0007】
上記課題を解決するためになされた請求項1記載の排水中の溶解性リンの除去方法は、リンを含む排水のpHを中性領域に調整後、該排水を濁度制御槽に導き、該濁度制御槽において、
ガイシ仮焼物を粉砕して得た60〜200メッシュのアルミナ・シリカ質粒子を添加して、排水の濁度を
1000〜40000mg/Lに調整した上で、カチオン系有機凝集剤である第1の高分子凝集剤を添加して撹拌後、アニオン系有機凝集剤またはアニオン系有機凝集剤とノニオン系有機凝集剤とからなる第2の高分子凝集剤を添加し、電荷が中性となる状態を形成してフロックを生成させ、前記の生成したフロックを、シックナーにより汚泥と上澄水とに分離し、前記リンを該汚泥に吸着させて除去することを特徴とするものである。
【0008】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の排水中のリン除去方法において、
前記濁度制御槽において、排水の濁度を1000〜10000mg/Lに調整することを特徴とするものである。
【0009】
請求項3記載の発明は、請求項1記載の排水中のリン除去方法において、前記シックナーで分離された汚泥を濁度制御槽に導くととも
に、該濁度制御槽において、排水の濁度を2000〜20000mg/Lに調整することを特徴とするものである。
【0010】
請求項4記載の発明は、請求項1記載の排水中のリン除去方法において、前記シックナーで分離された汚泥を100〜400メッシュに調整して濁度制御槽に導くと
ともに、該濁度制御槽において、排水の濁度を1000〜40000mg/Lに調整することを特徴とするものである。
【0011】
請求項5記載の発明は、請求項2〜4の何れかに記載の排水中のリン除去方法において、前記ガイシ仮焼物を粉砕して得た粒子を60〜200メッシュに調整し、前記濁度制御槽中の排水に、1−5%添加することを特徴とするものである。
【0012】
請求項6記載の発明は、請求項4の排水中のリン除去方法において、前記ガイシ焼成物を粉砕して得た粒子を150〜200メッシュに調整し、前記濁度制御槽中の排水に、0.1−3%添加することを特徴とするものである。
【0013】
請求項7記載の発明は、請求項1〜6の何れかに記載の排水中のリン除去方法において、濁度の調整は、前記濁度制御槽に加水しながら行うことを特徴とするものである。
【0014】
請求項8記載の発明は、請求項1〜7の何れか記載の排水中のリン除去方法において、前記第1の高分子凝集剤が、ジメチルアミノエチルメタクリエート(DMA)またはDMAの4級塩とアクリルアミドとの共重合物であることを特徴とするものであある。
【0015】
請求項9記載の発明は、請求項1〜8の何れか記載の排水中のリン除去方法において、前記第2の高分子凝集剤が、アニオン系単独、アニオン系とノニオン系との混合、アニオン系及びノニオン系、ノニオン系の何れかであることを特徴とするものである。
【0016】
請求項10記載の発明は、
リンを含む排水のpHを中性領域に調整後、ガイシ仮焼物を粉砕して得た60〜200メッシュのアルミナ・シリカ質粒子が添加される濁度制御槽と、該濁度制御槽内へ加水を行う加水手段と、濁度が制御された排水にカチオン系の第1の高分子凝集剤を添加・攪拌する第一攪拌槽と、さらにアニオン系またはノニオン系の第2の高分子凝集剤を添加・攪拌する第2攪拌槽と、フロックを沈降分離するシックナーと、その上澄水の砂ろ過装置とからなる排水中のリン除去装置であって、該濁度制御槽は、排水の濁度を計測する濁度計測手段と、該濁度計測手段の計測結果に基づき、加水手段から水を加えて、あるいはシックナーからの汚泥を混合し、濁度を
1000〜40000mg/Lに制御する濁度制御手段を備えることを特徴とするものである。
【0017】
請求項11記載の発明は、請求項10記載の排水中のリン除去装置において、シックナーから排出された汚泥を粒径により分別する手段と、分別された汚泥を濁度制御槽に返送する手段とを備えたことを特徴とするものである。
【0018】
請求項12記載の発明は、請求項11記載の排水中のリン除去装置において、濁度制御槽に、アルミナ・シリカ質粒子を供給する手段を設けたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る排水中のリン除去方法では、リンを含む排水のpHを中性領域に調整後、該排水を濁度制御槽に導き、該濁度制御槽において、アルミナ・シリカ質粒子としてガイシ仮焼物を添加して、排水の濁度を調整した上で、カチオン系有機凝集剤である第1の高分子凝集剤を添加して撹拌後、アニオン系有機凝集剤またはアニオン系有機凝集剤とノニオン系有機凝集剤とからなる第2の高分子凝集剤を添加し、電荷が中性となる状態を形成してフロックを生成させ、前記の生成したフロックを、シックナーにより汚泥と上澄水とに分離し、前記リンは凝集剤によって電荷が中性になった該汚泥に吸着させて除去する。本発明の方法によれば、高価なジルコニウムフェライト水和物は不要であり、低コストにリンの凝集処理を行うことができる。また、本発明の方法によれば、短時間で安定したフロック生成ができ、大掛かりな膜分離装置を用いることなく、また、夏冬の水温変化によらずリンの高い除去効果が得られる。
【0020】
更に、本発明の方法によれば、汚泥の発生量も低減することができる。また、水膨張性アニオン性高分子凝集剤のような特殊な凝集剤を用いる必要もないので、処理コストを安価に抑制することができる。
【0021】
請求項6記載の発明によれば、ガイシ焼成物を粉砕して得た粒子が核形成剤として作用し、密度の大きなフロックが形成され、固液分離が容易となり、結果的にシックナーの清澄化度が早まり多量処理が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
下記の実施形態では、何れも、リン化合物を扱う各種工場から排出される排水中に含まれるリンの凝集沈澱処理を行っている。凝集沈殿処理の前工程として、たとえばリン青銅製造工程等での酸洗処理で発生した排水は、予め銅の回収を目的にpH9程度に中和して水酸化銅を生成させ、銅を回収後の溶解性リンを含む排水は苛性ソーダでpH7の中性処理を実施している。
【0024】
(実施形態1)
実施形態1では、
図1に示すように、排水のpHを中性領域とするpH調整後、排水を濁度制御槽に導く。
【0025】
濁度制御槽への粒子添加手段が設けられており、例えば碍子製造工場から排出されるガイシ仮焼物(碍子原料を成形後、焼成前に仮焼きした状態のもの)を粉砕して得たアルミナ・シリカ質粒子を排水に0.1〜5.0%添加混合し、更に、必要に応じて加水手段により加水を行って、排水の濁度を1000〜10000mg/Lに調整した上で、カチオン系有機凝集剤である第1の高分子凝集剤を添加する。アルミナ・シリカ質粒子の粒径を60〜200メッシュに調整することで安定的なフロック形成が可能となり、固液分離が短時間で容易となる。60メッシュより小さいか、200メッシュより大きいとフロック形成に難があり、固液分離が困難になる。なお、濁度制御槽に添加されるアルミナ・シリカ質の添加量の増加に伴って、排水の濁度は上昇する。
【0026】
このように、排水の濁度を1000〜10000mg/Lに調整した上で、高分子凝集剤を添加することにより、安定したフロック形成が可能となる。排水の濁度が1000mg/L未満では、リンの除去効果が十分に発揮されないため好ましくない。なお、リンの除去効果の観点からは、排水の濁度は高いほど好ましいが、一方で、排水の濁度が10000mg/Lを超えると、添加されたアルミナ・シリカ質粒子に起因する濁りが新たな問題となるほか、発生する汚泥量も増加してしまう。本実施形態では、上限を10000mg/Lに規定することにより、前記新たな濁りの問題を回避することができる。
【0027】
なお、本発明における「排水の濁度(mg/L)」とは、清製水1Lの中に1mgのカオリンが含まれている時の濁りをカオリン濁度1と表すカオリン濁度標準に基づくものである。また、本発明における濁度とは、散乱光濁度(試料中の粒子によって散乱した光の強度を波長660nm付近で測定し、カオリン標準液を用いて作成した検量線から求められる。測定は、散乱光濁度計を使用する。)を意味する。
【0028】
ここで第1の高分子凝集剤としてはカチオン系高分子凝集剤を選択することが好ましく、特にカチオン系高分子凝集剤の一部または全部が、ジメチルアミノエチルメタクリレート(DMA)、またはDMAの4級塩とアクリルアミドとの共重合物であることが好ましい。その添加量は1〜10mg/Lとするのが好ましく、排水の濁度の上昇とともに、その添加量も増加させるのが好ましい。
【0029】
この第1の高分子凝集剤は負に荷電したリンに電気的に吸着してフロックを形成するとともに、全体を正に荷電させる役割を持つ。このためには任意のカチオン系高分子凝集剤を使用することができるが、実験の結果によれば分子量が250万〜450万のDMA、好ましくは300〜400万の分子量が好適であった。またDMAの4級塩とアクリルアミドとの共重合物は、分子量が700万〜750万のものがフロック形成に最適であった。
【0030】
フロック形成に最適な分子量が存在する理由は、分子量が大きすぎると、高分子自身が絡まって球状となりやすく、懸濁粒子との相互作用が弱くなってフロック形成がしにくくなり、また分子量が小さすぎると懸濁粒子と高分子との接触度合いが減少し、大きなフロックの形成が起こりにくくなるためである。また上述のように高分子凝集剤が別の成分との共重合体の場合、懸濁粒子と高分子の相互作用が影響を受けるため、最適な分子量がシフトするためである。
【0031】
このようにして第1の高分子凝集剤を添加し撹拌したうえで、第2の高分子凝集剤を添加する。その添加量は1〜10mg/Lとするのが好ましく、排水の濁度の上昇とともに、その添加量も増加させるのが好ましい。
【0032】
この第2の高分子凝集剤は、第1の高分子凝集剤により正に荷電した状態から電荷が中性となる状態とするためのものであり、アニオン系有機凝集剤単独、あるいはアニオン系有機凝集剤とノニオン系有機凝集剤とを混合したものが用いられる。混合の場合には、ノニオン系有機凝集剤が全体の90%を超えないようにする。ノニオン系有機凝集剤がそれ以上となると、電荷を中性に戻す効果が不十分になるためである。
【0033】
ここでアニオン系有機凝集剤及びノニオン系有機凝集剤が、高分子凝集剤であることが好ましく、特にポリアクリル酸ソーダとポリアクリルアミドとの共重合物、あるいはポリアクリルアミドを用いることが好ましい。その理由は完全には解明されていないが、分子量及びコロイド当量が適しているためと考えられる。特に前記した分子量が250万〜450万のDMAまたは分子量が700万〜750万のDMAの4級塩とアクリルアミドとの共重合物からなる第1の高分子凝集剤との組み合わせにより、粒径が5mm以上の巨大なフロックを効率よく生成させることができる。
【0034】
第2の高分子凝集剤を添加し撹拌することにより電荷が中性となると、凝集作用が高まってフロックが巨大化するとともに高密度化し、速やかに沈降する。この操作は安定的に行わせることができ、フロック生成は短時間で進行し、生成したフロックはろ過性が良好でシックナーにより容易に固液分離を行うことができる。排水中に含まれリンの大部分は汚泥として除去され、フロックを分離した上澄水は砂ろ過装置を通し、監視槽で濁度のチェックを行った上で放流される。
【0035】
本実施形態によれば、排水中の溶解性リン量は環境省が制定したリンの一律排水基準(16mg/L)をクリアーすることができる。また、無機系凝集剤を使用しないため、フロックを脱水した脱水ケーキの発生量は僅かであり、処理コストを抑制することができる。
【0036】
(実施形態2)
図2は実施形態2を説明するフロー図であり、そのフローは基本的に実施形態1の発明と同様であるが、本実施形態では、シックナーで分離された汚泥を濁度制御槽に導くとともに、ガイシ仮焼物(碍子原料を成形後、焼成前に仮焼きした状態のもの)を粉砕して得たアルミナ・シリカ質粒子を、排水に対し0.1〜5.0%の割合で添加して混合し、更に、必要に応じて加水手段により加水を行って、排水の濁度を2000〜20000mg/Lに調整した上で、カチオン系有機凝集剤である第1の高分子凝集剤の添加を行っている。本実施形態では、このように、排水の濁度を2000〜20000mg/Lに調整した上で、高分子凝集剤を添加することにより、安定したフロック形成が可能となる。
【0037】
前記のように、リンの除去効果の観点からは、排水の濁度は高いほど好ましいが、上記実施形態1のように、ガイシ仮焼物の添加のみにより濁度濃度の調整を行う場合、コストの観点から、必要最低量として、排水の濁度の下限を1000mg/Lに規定していた。これに対し、本実施形態では、シックナーで分離された汚泥を併用し、容易かつ低コストに濁度濃度を前記範囲に調整することができるため、排水の濁度の下限を2000mg/Lとしている。
【0038】
また、シックナーで分離された汚泥を併用する本実施形態によれば、排水の濁度が20000mg/L未満であれば、濁度調整用に添加されたアルミナ・シリカ質粒子に起因する新たな濁りの問題を回避することができる。
【0039】
更に、本実施形態のように、返送汚泥を混合することにより、より、大きな密度のあるフロックを安定して形成することが可能となる。このような大きなフロックは吸蔵吸着効果が大きく、リンの除去効果が高いうえ、短時間で固液分離が可能で処理水の清澄性が向上する利点がある。
【0040】
(実施形態3)
図3は実施形態4を説明するフロー図であり、そのフローは基本的に実施形態2の発明と同様であるが、本実施形態では、シックナーで分離された汚泥を100〜400メッシュに調整して濁度制御槽に導くとともに、ガイシ仮焼物(碍子原料を成形後、焼成前に仮焼きした状態のもの)を粉砕して得たアルミナ・シリカ質粒子を、排水に対し0.1〜5.0%の割合で添加して混合し、更に、ガイシ焼成物(碍子原料を成形と仮焼き後、更に、焼成して得られた最終製品)を粉砕して得たアルミナ・シリカ質粒子を、排水に対し0.1〜3.0%の割合で添加して混合し、必要に応じて加水手段により加水を行って、排水の濁度を1000〜40000mg/Lに調整した上で、カチオン系有機凝集剤である第1の高分子凝集剤の添加を行っている。本実施形態では、このように、排水の濁度を1000〜40000mg/Lに調整した上で、高分子凝集剤を添加することにより、安定したフロック形成が可能となる。
【0041】
なお、シックナー底部に溜まった汚泥は概して凝集していることが多いが、本実施形態のように、粒子サイズを分別して返送することにより、濁度濃度を容易にあげることができ且つ排水の濁度を多くすることが出来る。
【0042】
また、本実施形態では、ガイシ焼成物を粉砕して得たアルミナ・シリカ質粒子が核形成剤として作用するため、密度の大きなフロックが短時間で形成されて固液分離が容易となり、このような大きなフロックは吸蔵吸着効果が大きく、リンの除去効果が高いため、シックナーの清澄化度が早まり多量処理が可能となる。このため本実施形態によれば、排水の濁度が40000mg/L未満であれば、濁度調整用に添加されたアルミナ・シリカ質粒子に起因する新たな濁りの問題を回避することができる。
【0043】
本実施形態において、ガイシ焼成物を粉砕して得たアルミナ・シリカ質粒子とは、具体的には、ムライト、コランダム、シリカの複合体からなる比重2.95のセルベンや、あるいは、単一組成のムライトやコランダムを意味する。
【実施例】
【0044】
図1のフローに示す方法(実施例1)および
図2のフローに示す方法(実施例2)および、溶解性リンを含む排水に硫酸バンドを添加し、その後、アルカリによる水酸化物形成での溶解性リン量を調べる方法(比較例)により、リンを含む排水の処理を行った結果を表1に示している。何れも、排水の濁度は、10000mg/Lに調整し、第1の高分子凝集剤の添加量を1ppm、第2の高分子凝集剤の添加量を1ppmとした。濁度は表面散乱形濁度計(横河電機(株)製TB400G)を用いて測定し、P濃度はモリブデン青法で測定した。
【0045】
【表1】
【0046】
表1に示すように、本発明によれば、大掛かりな装置を用いることなくリンの凝集処理を行うことができる。なお、比較例では、溶解性リン量は環境省が制定したリンの一律排水基準(16mg/L)をクリアーすることができなかった。
【0047】
シックナーで分離された汚泥を濁度制御槽に導く効果を検討するため、
図2のフローに示す方法において、第1の高分子凝集剤および第2の高分子凝集剤の種類を変えて、リンを含む排水の処理を行った結果(実施例4〜8)および、
図1のフローに示す方法において、リンを含む排水の処理を行った結果(実施例9)を表2に示している。何れも、排水の濁度は、20000mg/Lに調整し、第1の高分子凝集剤の添加量を3ppm、第2の高分子凝集剤の添加量を3ppmとした。濁度は表面散乱形濁度計(横河電機(株)製TB400G)を用いて測定し、P濃度はモリブデン青法で測定した。
【0048】
【表2】
【0049】
表2に示すように、シックナーで分離された汚泥を濁度制御槽に導く上記実施形態2の方法によれば、上記実施形態1の方法に比べて、より優れたリンの除去効果を奏することができる。
【0050】
アルミナ・シリカ質粒子としてガイシ仮焼物を粉砕して得た粒子およびガイシ焼成物を粉砕して得た粒子を併用する効果を検討するため、
図3のフローに示す方法において、第1の高分子凝集剤および第2の高分子凝集剤の種類を変えて、リンを含む排水の処理を行った結果(実施例10〜14)および、
図2のフローに示す方法において、リンを含む排水の処理を行った結果(実施例15,16)を表3に示している。何れも、排水の濁度は、40000mg/Lに調整し、第1の高分子凝集剤の添加量を5ppm、第2の高分子凝集剤の添加量を5ppmとした。濁度は表面散乱形濁度計(横河電機(株)製TB400G)を用いて測定し、P濃度はモリブデン青法で測定した。
【0051】
【表3】
表3に示すように、アルミナ・シリカ質粒子としてガイシ仮焼物を粉砕して得た粒子およびガイシ焼成物を粉砕して得た粒子を併用する上記実施形態3の方法によれば、上記実施形態2の方法に比べて、より優れたリンの除去効果を奏することができる。
【0052】
なお、上記表1〜3において、「DMA」はジメチルアミノエチルメタクリレート、「DAA」はジメチルアミノエチルアクリレート、「PAN+共」はポリアクリル酸ソーダとポリアクリルアミドとの共重合物、「PAN」はポリアクリル酸ソーダ、「PAA」はポリアクリルアミド、「PA」はポリアミジン系、「PAC」は塩化アルミを意味する。