特許第6060410号(P6060410)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6060410電力線通信システムおよびこれに用いる電力量計
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6060410
(24)【登録日】2016年12月22日
(45)【発行日】2017年1月18日
(54)【発明の名称】電力線通信システムおよびこれに用いる電力量計
(51)【国際特許分類】
   H04B 3/54 20060101AFI20170106BHJP
   H04Q 9/00 20060101ALI20170106BHJP
【FI】
   H04B3/54
   H04Q9/00 311H
   H04Q9/00 311S
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-225252(P2012-225252)
(22)【出願日】2012年10月10日
(65)【公開番号】特開2014-78841(P2014-78841A)
(43)【公開日】2014年5月1日
【審査請求日】2015年10月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】390010386
【氏名又は名称】NECマグナスコミュニケーションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115738
【弁理士】
【氏名又は名称】鷲頭 光宏
(74)【代理人】
【識別番号】100121681
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 和文
(74)【代理人】
【識別番号】100130982
【弁理士】
【氏名又は名称】黒瀬 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100127199
【弁理士】
【氏名又は名称】三谷 拓也
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 博之
(72)【発明者】
【氏名】前多 敏幸
【審査官】 川口 貴裕
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−004389(JP,A)
【文献】 特開2009−212836(JP,A)
【文献】 特開2006−295247(JP,A)
【文献】 特開2011−078169(JP,A)
【文献】 特表2004−532562(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 3/54 − 3/58
H04Q 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
変圧器から需要家へと延びる接地線、第1の非接地線および第2の非接地線からなる単相3線式の低圧配電線と、前記需要家よりも前記変圧器寄りにおいて前記低圧配電線に接続され、需要家が使用する電気機器の電力使用量を計測するセンサー部を備えた電力量計と、を有する配電設備に設置する電力線通信システムであって、
前記電力量計よりも前記変圧器寄りにおいて前記低圧配電線に接続された第1の電力線モデムと、
前記電力量計よりも前記需要家寄りにおいて前記低圧配電線に接続された第2の電力線モデムと、
前記第1の電力線モデムの接続点よりも前記需要家寄りであって前記第2の電力線モデムの接続点よりも前記変圧器寄りにおいて前記低圧配電線に接続され、前記第1の電力線モデムと電力線通信を行う第3の電力線モデムと、
前記第3の電力線モデムの接続点よりも前記需要家寄りであって前記第2の電力線モデムの接続点よりも前記変圧器寄りにおいて前記低圧配電線に接続され、前記第2の電力線モデムと電力線通信を行う第4の電力線モデムと、
前記低圧配電線上の前記第3の電力線モデムの接続点と前記第4の電力線モデムの接続点との間に設けられ、前記低圧配電線の前記接地線と前記第1の非接地線と接続する第1のバイパスコンデンサと、
前記第3の電力線モデムと前記第4の電力線モデムとの間に設けられ、前記低圧配電線の前記接地線と前記第2の非接地線とを接続する第2のバイパスコンデンサとを備え、
前記第1の電力線モデム及び前記第3の電力線モデムは、前記低圧配電線の前記接地線に誘導結合方式により接続されており、
前記第2の電力線モデムは、前記低圧配電線の前記第1の非接地線及び前記第2の非接地線の少なくとも一方に容量結合方式により接続されており、
前記第4の電力線モデムは、前記低圧配電線の前記第1の非接地線及び前記第2の非接地線の両方に誘導結合方式により接続されている電力線通信システム。
【請求項2】
前記第3の電力線モデムは、前記電力量計の前記センサー部による電力使用量の検針データを前記第1の電力線モデムに送信する、請求項1に記載の電力線通信システム。
【請求項3】
前記第4の電力線モデムは、前記電力量計の前記センサー部による電力使用量の検針データを前記第2の電力線モデムに送信する、請求項1又は2に記載の電力線通信システム。
【請求項4】
前記第1乃至第4の電力線モデムの使用周波数は10k〜450kHzである、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の電力線通信システム。
【請求項5】
変圧器から需要家へと延びる接地線、第1の非接地線および第2の非接地線からなる単相3線式の低圧配電線の需要家寄りに設置され、需要家が使用する電気機器の電力使用量を計測する電力量計であって、
前記電力使用量を計測するセンサー部と、
前記低圧配電線に接続された変圧器側電力線モデムと、
前記変圧器側電力線モデムの接続点よりも前記需要家寄りにおいて前記低圧配電線に接続された需要家側電力線モデムと、
前記低圧配電線上の前記変圧器側電力線モデムの接続点と前記需要家側電力線モデムの接続点との間に設けられ、前記低圧配電線の前記接地線と前記第1の非接地線と接続する第1のバイパスコンデンサと、
前記低圧配電線上の前記変圧器側電力線モデムの接続点と前記需要家側電力線モデムの接続点との間に設けられ、前記低圧配電線の前記接地線と前記第2の非接地線とを接続する第2のバイパスコンデンサとを備え、
前記変圧器側電力線モデムは、前記センサー部に接続されると共に、前記低圧配電線の前記接地線に誘導結合方式により接続されており、
前記需要家側電力線モデムは、前記センサー部に接続されると共に、前記低圧配電線の前記第1の非接地線及び前記第2の非接地線に誘導結合方式により接続されており、
前記変圧器側及び需要家側電力線モデムは、前記センサー部による前記電力使用量の検針データを送信することを特徴とする電力量計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力線通信システムに関し、特に、電力使用量の監視に好適な電力線通信システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、震災の影響で原子力発電所の運転ができないケースが増え、電力供給の余裕度がなくなり、各電力会社は綱渡りの運用状態が続いている。これを受けて、電力の遠隔検針システムと需要家の消費電力を可視化して節電を促すモニタリングシステム(以下、宅内システム)の導入が急ピッチで検討されている(特許文献1〜3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−019669号公報
【特許文献2】特開2010−288287号公報
【特許文献3】特開2011−199909号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電力会社が運用する遠隔検針システムと需要家向け宅内システムは、セキュリティ上の問題から同一システムとすることができないため、別々のシステムとして構築する必要がある。日本で使用できる電力線通信には、10k〜450kHzの低域側の周波数帯を使用するものと、2M〜30MHzの広域側の周波数帯を使用するものの2種類が存在するが、高域側は法規制の関係上、屋内での使用のみが許されている。遠隔検針システムは、屋外から引き込む電力線を使って通信するものであるため、低域側の周波数帯を必然的に使用することになる。宅内システムについても、高域側の周波数帯を使用した屋内LAN製品との干渉を避ける目的で、低域側の周波数帯を使用することが望ましい。
【0005】
しかしながら、遠隔検針システムと宅内システムの両方で低域側の周波数帯を使用した場合、同一電力線上に同一周波数帯を使用する2つのシステムが存在することになり、互いの通信の干渉が避けられないという問題がある。この問題を避けるため、10k〜450kHzの周波数を両者で分割する案も考えられるが、もともと帯域が狭いため、分割すると伝送速度の低下や耐ノイズ性の低下などの問題が発生する。また、両者を時分割する案も考えられるが、家電機器内蔵モデムと電力量計間に内蔵された遠隔検針システムのモデム、宅内システムのモデム間での同期を確保する必要があり、システムが複雑になるという問題がある。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、本発明の目的は、共通の電力線上で低域側の周波数帯を使用して遠隔検針システムと宅内システムの両方を共存させることが可能な電力線通信システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明による電力線通信システムは、変圧器から需要家へと延びる接地線、第1の非接地線および第2の非接地線からなる単相3線式の低圧配電線と、需要家が使用する電気機器の使用電力量を計測する電力量計と、を有する配電設備に設置する電力線通信システムであって、前記変圧器寄りにおいて前記低圧配電線に接続された第1の電力線モデムと、前記電力量計より需要家側の前記低圧配電線に接続された第2の電力線モデムと、前記第1の電力線モデムの接続点よりも前記電力量計寄りにおいて前記低圧配電線に接続され、前記第1の電力線モデムと電力線通信を行う第3の電力線モデムと、前記第3の電力線モデムの接続点よりも前記電力量計寄りにおいて前記低圧配電線に接続され、前記第2の電力線モデムと電力線通信を行う第4の電力線モデムと、前記低圧配電線上の前記第3の電力線モデムの接続点と前記第4の通信モデムの接続点との間に設けられ、前記低圧配電線の前記接地線と前記第1の非接地線と接続する第1のバイパスコンデンサと、前記第3の電力線モデムと前記第4の通信モデムとの間に設けられ、前記低圧配電線の前記接地線と前記第2の非接地線とを接続する第2のバイパスコンデンサとを備えることを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、第1の電力線モデムと第3の電力線モデムとの間の通信ルート(Aルート)と第2の電力線モデムと第4の電力線モデムとの間の通信ルート(Bルート)とを第1及び第2のバイパスコンデンサによって分離することができる。したがって、Aルートの電力線通信とBルートの電力線通信との相互干渉を防止することができ、共通の電力線上で同じ周波数帯を使用して2つの異なる電力線通信を共存させることができる。
【0009】
本発明において、前記第1の電力線モデム及び前記第3の電力線モデムは、前記低圧配電線の前記接地線に誘導結合方式により接続されており、前記第2の電力線モデムは、前記低圧配電線の前記第1の非接地線及び前記第2の非接地線の少なくとも一方に容量結合方式により接続されており、前記第4の電力線モデムは、前記低圧配電線の前記第1の非接地線及び前記第2の非接地線の両方に誘導結合方式により接続されていることが好ましい。通常、第2の電力線モデムは家電機器の一部として設置され、非接地線に接続されるので、第1及び第3の電力線モデムを接地線に接続することにより、Aルートの電力線通信とBルートの電力線通信とを確実に分離することができる。
【0010】
本発明において、前記第3の電力線モデムは、前記電力量計による電力使用量の検針データを前記第1の電力線モデムに送信することが好ましく、前記第4の電力線モデムは、前記電力量計による電力使用量の検針データを前記第2の電力線モデムに送信することが好ましい。この構成によれば、共通の低圧配電線上に遠隔検針システムと宅内システムの両方を共存させることができる。
【0011】
本発明において、前記第1乃至第4の電力線モデムの使用周波数は10k〜450kHzであることが好ましい。この構成によれば、低域側の周波数帯を使用して2つの異なる電力線通信を共存させることができる。
【0012】
さらにまた、本発明による電力量計は、変圧器から需要家へと延びる接地線、第1の非接地線および第2の非接地線からなる単相3線式の低圧配電線の需要家寄りに設置され、需要家が使用する電気機器の電力使用量を計測する電力量計であって、前記電力使用量を計測するセンサー部と、前記低圧配電線に接続された変圧器側電力線モデムと、前記変圧器側電力線モデムの接続点よりも前記需要家寄りにおいて前記低圧配電線に接続された需要家側電力線モデムと、前記低圧配電線上の前記変圧器側電力線モデムの接続点と前記需要家側電力線モデムの接続点との間に設けられ、前記低圧配電線の前記接地線と前記第1の非接地線と接続する第1のバイパスコンデンサと、前記低圧配電線上の前記変圧器側電力線モデムの接続点と前記需要家側電力線モデムの接続点との間に設けられ、前記低圧配電線の前記接地線と前記第2の非接地線とを接続する第2のバイパスコンデンサとを備え、前記変圧器側電力線モデムは、前記センサー部に接続されると共に、前記低圧配電線の前記接地線に誘導結合方式により接続されており、前記需要家側電力線モデムは、前記センサー部に接続されると共に、前記低圧配電線の前記第1の非接地線及び前記第2の非接地線に誘導結合方式により接続されており、前記変圧器側及び需要家側電力線モデムは、前記センサー部による前記電力使用量の検針データを送信することを特徴とする。
【0013】
本発明によれば、共通の電力線上で低域側の周波数帯を使用して遠隔検針システムと宅内システムの共存を可能にする電力量計を提供することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、共通の電力線上で低域側の周波数帯(10k〜450kHz)を使用して遠隔検針システムと宅内システムの両方を共存させることが可能な電力線通信システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の第1の実施の形態による電力線通信システムの構成図である。
図2】実施例1による電力線通信システムの等価回路である。
図3】実施例1における伝送特性の測定結果を示すグラフである。
図4】実施例2による電力線通信システムの等価回路である。
図5】実施例3による電力線通信システムの等価回路である。
図6】実施例2、3における伝送特性の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の好ましい実施の形態について詳細に説明する。
【0017】
図1は、本発明の第1の実施の形態による電力線通信システムの構成図である。
【0018】
図1に示すように、電力線通信システム1は、単相3線式の低圧配電線2の終端に接続された分電盤4と、分電盤4を介して低圧配電線2に接続された複数の家電機器7A〜7Eと、低圧配電線2に接続された遠隔検針用の電力線モデム10Aと、家電機器7A〜7Eの電力使用量を計測する電力量計11とを備えている。
【0019】
低圧配電線2は、高圧配電線の電圧(6600V)を商用電圧(100Vまたは200V)に降圧する柱上トランス(変圧器)3の2次側(低圧側)に接続された3本の電力線2a,2b,2cからなる。これらの電力線のうち、柱上トランス3の2次側の一端及び他端に接続された電力線2a,2c(赤相、黒相)は非接地線であり、2次側の中点に接続された電力線2b(白相)は接地線(中性線)である。電力線2a,2c間(赤黒相)の電圧は200Vであり、電力線2a,2b間(赤白相)及び電力線2c,2b間(黒白相)の電圧はともに100Vである。
【0020】
電力線モデム10A(第1の電力線モデム)は低圧配電線2の柱上トランス3寄りに接続されている。本実施形態において、電力線モデム10Aは、低圧配電線2の白相の電力線2bに誘導結合方式により接続されている。電力線2bには誘導結合器5Aが結合されており、電力線モデム10Aの信号入出力端子に接続された信号ケーブル6Aはこの誘導結合器5Aを介して電力線2bに結合している。誘導結合器5Aはトロイダルコアであり、電力線2b及び信号ケーブル6Aはトロイダルコアの中空部を貫通している。
【0021】
電力線モデム10Aは、柱上トランス3の近くに設置された光ファイバ回線8を介してサーバ9に接続されている。光ファイバ回線8との接続を容易にするため、電力線モデム10Aは柱上トランス3と一緒に電柱上に装柱されることが好ましい。
【0022】
柱上トランス3から延びる低圧配電線2には、分電盤4を介して複数の家電機器7A〜7Eが接続されている。家電機器7A、7Bは、接地線と一方の非接地線との間(赤白相)に接続され、AC100Vの電力が供給される機器であり、家電機器7D、7Eは、接地線と他方の非接地線との間(黒白相)に接続され、AC100Vの電力が供給される機器である。さらに、家電機器7Cは、2本の非接地線間(赤黒相)に接続され、AC200Vの電力が供給される機器である。なお家電機器の種類や数は特に限定されない。これらの家電機器の電力使用量は電力量計11で計測される。
【0023】
本実施形態において、家電機器7A,7Eには電力線モデム10B,10B(第2の電力線モデム)がそれぞれ組み込まれている。電力線モデム10B,10Bはカップリングコンデンサ14a,14bを介して電力線に接続される。すなわち、電力線モデム10Bは、低圧配電線2の電力線2aと電力線2bとの間に容量結合方式により接続されており、電力線モデム10Bは、低圧配電線2の電力線2cと電力線2bとの間に容量結合方式により接続されている。
【0024】
家電機器7A,7Eは、例えば電力表示装置であり、電力量計11からの検針データを受信し、ディスプレイに電力使用状況を表示(可視化)して節電を促す機器である。また、家電機器はエアコンその他の冷暖房機器であってもよく、この場合、全体の電力使用量を監視しながら自身の電力使用量を調整する機能を有することが好ましい。さらに家電機器7A,7Eは、ホームエネルギーマネージメントシステムと呼ばれる、エアコン、冷蔵庫等の家電機器の電力総使用量を統合的に管理する機器であってもよい。
【0025】
電力量計11は、分電盤4を介して低圧配電線2に接続される家電機器7A〜7Eの電力使用量を計測するセンサー部12と、低圧配電線2に接続された2つの電力線モデム10C,10Dと、低圧配電線2上の電力線モデム10Cの接続点と電力線モデム10Dの接続点との間に設けられた第1及び第2のバイパスコンデンサ13a,13bとを備えている。第1のバイパスコンデンサ13aは、白相の電力線2bと赤相の電力線2aとを接続するものであり、第2のバイパスコンデンサ13bは白相の電力線2bと黒相の電力線2cとを接続するものである。第1及び第2のバイパスコンデンサ13a,13bは、第1〜第4の電力線モデム10A〜10Dの使用周波数に対して低インピーダンスとなり、商用周波数(50Hzまたは60Hz)に対して高インピーダンスとなるものである。
【0026】
電力線モデム10C(第3の電力線モデム)は、低圧配電線2の白相の電力線2bに誘導結合方式により接続されている。電力線2bには誘導結合器5Cが結合されており、電力線モデム10Cの信号入出力端子に接続された信号ケーブル6Cはこの誘導結合器5Cを介して電力線2bに結合している。誘導結合器5Cはトロイダルコアであり、電力線2b及び信号ケーブル6Cはトロイダルコアの中空部を貫通している。
【0027】
一方、電力線モデム10D(第4の電力線モデム)は、低圧配電線2の電力線2aと電力線2cの両方に誘導結合方式により接続されている。電力線2aには誘導結合器5Dが結合されており、電力線2cには誘導結合器5Dが結合されており、電力線モデム10Dの信号入出力端子に接続された信号ケーブル6Dはこれらの誘導結合器5D,5Dを介して電力線2a,2cにそれぞれ結合している。特に、誘導結合器5D,5Dは信号ケーブル6Dに直列的に挿入されている。誘導結合器5D,5Dはトロイダルコアであり、電力線2a,2c及び信号ケーブル6Dはトロイダルコアの中空部を貫通している。
【0028】
本実施形態において、電力線モデム10C,10Dはともにセンサー部12に接続されており、センサー部12による電力使用量の検針データは電力線モデム10C,10Dに提供される。電力線モデム10Cは、検針データのPLC信号を電力線2bに注入して電力線モデム10Aに送信する。また、電力線モデム10Dは、検針データのPLC信号を電力線2aおよび2cに注入して電力線モデム10B,10Bに送信する。
【0029】
遠隔検針システムは、電力線モデム10Aと電力線モデム10Cとの間の通信によって実現される。電力量計11に組み込まれた一方の電力線モデム10Cは、電力線2b経由で電力線モデム10Aに検針データを送信する。このように、電力線モデム10Aと電力量計11内の電力線モデム10Cとの間の通信ルート(Aルート)は、電力量計11の検針データを電力会社に提供するルートである。
【0030】
一方、宅内システムは、電力線モデム10B(又は10B)と電力線モデム10Dとの間の通信によって実現される。電力量計11に組み込まれた他方の電力線モデム10Dは、電力線2a経由で電力線モデム10Bに検針データを送信し、電力線2c経由で電力線モデム10Bに検針データを送信する。このように、電力線モデム10B(又は10B)と電力量計11内の電力線モデム10Dとの間の通信ルート(Bルート)は、電力量計11の検針データを電力需要家に提供するルートである。
【0031】
本実施形態においては、電力線モデム10Cと電力線モデム10Dとの間には両者を分離する2つのバイパスコンデンサ13a,13bが設けられており、第1及び第2のバイパスコンデンサ13a,13bは、Aルートで使用する信号をAルート側へ反射させ、Bルートで使用する信号をBルート側へ反射させる効果を有するので、両者間の減衰を確保することができる。これにより、電力線モデム10Aと電力線モデム10Cとの間で構成される通信ルート(Aルート)と電力線モデム10Bと電力線モデム10Dとの間で構成される通信ルート(Bルート)とが分離されるので、Aルートの電力線通信とBルートの電力線通信が相互に干渉することを防止することができ、通信品質を向上させることができる。
【0032】
さらに、AルートとBルートとの間では、通信に使用する相を変えているので、一方のルートから他方のルートへ侵入する信号のさらなる減衰が期待できる。Aルートで使用する電力線とBルートの通信で使用する電力線が異なり、Aルートでは電力線2b(接地線)を使用した通信が行われ、Bルートでは電力線2a,2c(非接地線)を使用した通信が行われるので、AルートとBルートとで通信が相互に干渉することを確実に防止することができ、通信品質を向上させることができる。
【0033】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は、上記の実施形態に限定されることなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものであることはいうまでもない。
【0034】
例えば、上記実施形態においては、低圧配電線の一端側に接続された変圧器が柱上トランスである場合を例に挙げたが、本発明は柱上トランスに限定されるものではなく、例えば集合住宅の変電室内に設置された変圧器であっても構わない。大規模な団地やマンションなどではその敷地内に高圧配電線路を直接引き込んで変圧する場合があり、敷地内に設けられた建物の一室に変圧器が設けられるが、このような変圧器を対象とすることもできる。
【0035】
(実施例1)
図2に示した電力線通信システムの等価回路を用いてPLC信号の伝送特性を測定した。低圧配電線2の各電力線2a、2b、2cの一端側(上流側)には、柱上トランスの等価回路(インピーダンス0Ω(短絡))を設けた。また、各電力線2a、2b、2cの他端側(下流側)の赤白相間ならびに黒白相間には終端抵抗25を挿入した。そして、終端抵抗25をパラメータとし、0Ω(短絡)、12Ω、50Ω、∞Ω(開放)の4通りとしたときの伝送特性を測定した。
【0036】
電力線2bには、誘導結合器5Cを介して信号ケーブル6Cを結合させ、信号ケーブル6Cはバラン23を介してネットワークアナライザ22の出力端子に接続した。電力線2aおよび2cには、誘導結合器5Dおよび5Dを介して信号ケーブル6Dを直列的に結合させ、信号ケーブル6Dはバラン24を介してネットワークアナライザ22の入力端子に接続した。
【0037】
低圧配電線2上の誘導結合器5Cと誘導結合器5D,5Dとの間には、第1および第2のバイパスコンデンサ13a,13bをそれぞれ設置した。なお、理想的な測定環境とするため、第1および第2のバイパスコンデンサ13a,13bのインピーダンスはゼロ(ショート)とした。
【0038】
以上の構成において、ネットワークアナライザ22からテスト信号を出力し、誘導結合器5Cを介して電力線2bにそれぞれ重畳させた。テスト信号の周波数は、電力線モデムの搬送周波数帯である50k〜450kHzとした。そして、電力線の他端側に伝送されたテスト信号をネットワークアナライザ22で受信し、テスト信号の利得を求めた。
【0039】
図3は、PLCテスト信号の伝送特性の測定結果を示すグラフであり、横軸は周波数[kHz]、縦軸は伝送特性[dB]を示している。図3(a)〜(d)は、終端抵抗が50Ω、12Ω、0Ω(短絡)、開放(無限大)である場合をそれぞれ示している。
【0040】
図3に示すように、終端抵抗25を0Ω、12Ω、50Ω、開放としたいずれの場合も、伝送特性は−80dB以下となった。つまり宅内のインピーダンスにかかわらず、A−Bルート間では約82dB以上の減衰量が見込めることが分かった。この結果から、AルートとBルートとの間にバイパスコンデンサ13a,13bを設け、Aルートの注入点を非接地線である電力線2bとし、Bルートの注入点を接地線である電力線2a,2cとする場合には、終端抵抗によらずPLC信号がAルートからBルートに伝わらないことが明らかとなった。
【0041】
(実施例2)
図4に示した電力線通信システムの等価回路を用いてPLC信号の伝送特性を測定した。その際、ネットワークアナライザ22の入力端子を、赤白相、つまり電力線2aと電力線2bとの間に誘導結合方式ではなく直接接続し、終端抵抗25を12Ωとした点以外は実施例1と同一条件下で測定を行った。その結果、図6に示すように、A−Bルート間では約64dB以上の減衰量が見込めることが分かった。
【0042】
(実施例3)
図5に示した電力線通信システムの等価回路を用いてPLC信号の伝送特性を測定した。その際、ネットワークアナライザ22の入力端子を、電力線2aおよび2cに誘導結合方式ではなく直接接続し、終端抵抗25を12Ωとした点以外は実施例1と同一条件下で測定を行った。その結果、図6に示すように、A−Bルート間では約74dB以上の減衰量が見込めることが分かった。
【符号の説明】
【0043】
1 電力線通信システム
2 低圧配電線
2a 電力線(第1の非接地線)
2b 電力線(接地線、中性線)
2c 電力線(第2の非接地線)
3 柱上トランス
4 分電盤
5A 誘導結合器
5C 誘導結合器
5D 誘導結合器
5D 誘導結合器
6A 信号ケーブル
6C 信号ケーブル
6D 信号ケーブル
7A〜7E 家電機器
8 光ファイバ回線
9 サーバ
10A, 電力線モデム
10B,10B 電力線モデム
10C 電力線モデム
10D 電力線モデム
11 電力量計
12 センサー部
13a,13b バイパスコンデンサ
14a,14b カップリングコンデンサ
22 ネットワークアナライザ
23 バラン
25 終端抵抗
図1
図2
図4
図5
図3
図6