(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6060411
(24)【登録日】2016年12月22日
(45)【発行日】2017年1月18日
(54)【発明の名称】電力線通信システム
(51)【国際特許分類】
H04B 3/56 20060101AFI20170106BHJP
【FI】
H04B3/56
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-225253(P2012-225253)
(22)【出願日】2012年10月10日
(65)【公開番号】特開2014-78842(P2014-78842A)
(43)【公開日】2014年5月1日
【審査請求日】2015年10月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】390010386
【氏名又は名称】NECマグナスコミュニケーションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115738
【弁理士】
【氏名又は名称】鷲頭 光宏
(74)【代理人】
【識別番号】100121681
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 和文
(74)【代理人】
【識別番号】100130982
【弁理士】
【氏名又は名称】黒瀬 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100127199
【弁理士】
【氏名又は名称】三谷 拓也
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 博之
(72)【発明者】
【氏名】前多 敏幸
(72)【発明者】
【氏名】張野 健二
【審査官】
川口 貴裕
(56)【参考文献】
【文献】
特開2006−295248(JP,A)
【文献】
特開2007−129687(JP,A)
【文献】
特開2010−011558(JP,A)
【文献】
特開2007−104484(JP,A)
【文献】
特表2004−532562(JP,A)
【文献】
特公昭49−021506(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 3/54 − 3/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
変圧器から需要家へと延びる単相3線式の低圧配電線に第1の電力線モデムを設置する電力線通信システムであって、
前記低圧配電線は、前記変圧器の2次側の両端にそれぞれ接続された非接地線からなる第1及び第2の電力線と、前記2次側の中点に接続された接地線からなる第3の電力線とを備えると共に、前記変圧器から延びる幹線から分岐した第1及び第2の支線を含み、
前記第1の電力線モデムは、前記第1の支線については前記第3の電力線にのみ誘導結合方式により接続されて当該第1の支線に第1の信号を重畳すると共に、前記第2の支線については前記第3の電力線にのみ誘導結合方式により接続されて当該第2の支線に前記第1の信号の逆相の信号である第2の信号を重畳することを特徴とする電力線通信システム。
【請求項2】
前記第1の電力線モデムは、
第1及び第2の信号端子を有する送受信回路と、
一端が前記第1の信号端子に接続され、他端が前記第2の信号端子に接続された第1の信号ケーブルと、
前記第1の支線に属する前記第3の電力線と前記第1の信号ケーブルとを結合する第1の誘導結合器と、
一端が前記第1の信号端子に接続され、他端が前記第2の信号端子に接続された第2の信号ケーブルと、
前記第2の支線に属する前記第3の電力線と前記第2の信号ケーブルとを結合する第2の誘導結合器とを備える、請求項1に記載の電力線通信システム。
【請求項3】
前記第1及び第2の信号の注入点は、前記低圧配電線の分岐点から3m以内の範囲内に設けられている、請求項1又は2に記載の電力線通信システム。
【請求項4】
前記変圧器から見て前記第1の電力線モデムよりも前記低圧配電線の需要家側に位置する第2の電力線モデムをさらに備える、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の電力線通信システム。
【請求項5】
前記低圧配電線の需要家側に設置された電気設備の電力使用量を監視する電力量計をさらに備え、
前記第2の電力線モデムは、前記電力量計の検針データを前記第1の電力線モデムに転送する、請求項4に記載の電力線通信システム。
【請求項6】
前記低圧配電線の需要家側に接続された複数の電気設備の各々の電力使用量を監視する複数の電力量計と、
前記複数の電力量計に対応して設けられた複数の第2の電力線モデムをさらに備え、
前記複数の第2の電力線モデムの各々は、対応する電力量計の検針データを前記第1の電力線モデムに転送する、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の電力線通信システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力線通信システムに関し、特に、電力線への電力線モデムの接続構成に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電力需要家の電力使用量を効率的に検針するため、電力線通信を利用した電力の遠隔検針システムの導入が急ピッチで検討されている。
【0003】
図9は、集合住宅に上記遠隔検針システムを導入した場合における従来の電力線通信システムの構成図である。
【0004】
図9に示すように、集合住宅向けに上記遠隔検針システムを導入する場合、柱上トランス4から集合住宅7の各戸に引き込まれる低圧配電線2の長さが長くなる傾向にある。しかも、建物内に引き込まれるところまでの全戸に共通の部分は、すべての電力需要家へまとめて送電している関係上、流れる電流値が非常に大きくなる。このような大電流による電圧降下を防ぐため、
図9に示すように、低圧配電線2は柱上トランス4からすぐに2系統化されることが多い。
【0005】
低圧配電線の支線2A,2Bは共に集合住宅7内に引き込まれ、一方の支線2Aには複数の電力設備7a〜7cが設置され、他方の支線2Bには複数の電力設備7d〜7fが設置される。
【0006】
親機側の電力線モデム10は、柱上トランス4が設置された電柱と同じ電柱に設置されることが多く、この場合、電力線モデム10は柱上トランス4の近くで低圧配電線2に接続される。特に、電力線モデム10による通信信号(PLC信号)の注入点は、2系統化される前の共通の電力線上に設置される。柱上トランス4のできるだけ近くに設置すれば信号ケーブル6が短くて済み、設備コストを低減できるからであり、また保守を容易にするためである。
【0007】
電力線モデム10のPLC信号を電力線に重畳させる方式としては、誘導結合方式が知られている(例えば特許文献1参照)。電力線モデム10は信号ケーブル6および誘導結合器5を介して電力線5bに磁気結合される。誘導結合方式によれば、柱上トランス4が低インピーダンスの場合に注入効率が高く、また非接触方式なので停電を伴わずに設置工事を行うことができるという利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特表平10−510115号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、従来の電力線通信システムにおいては、柱上トランス4が実際には多少のインピーダンスを持つことにより、信号の注入効率(伝送特性)が低下するという問題がある。また、柱上トランス4のインピーダンスのばらつきによりPLC信号の伝送品質が変動するという問題がある。
【0010】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、本発明の目的は、柱上トランスのインピーダンスの影響を受けることなくPLC信号を安定的に伝送することが可能な電力線通信システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明による電力線通信システムは、変圧器から需要家へと延びる単相3線式の低圧配電線に設置する電力線通信システムであって、前記低圧配電線は、前記変圧器から延びる幹線から分岐した第1及び第2の支線を含み、第1の電力線モデムは、前記第1の支線に誘導結合方式により接続されて当該第1の支線に第1の信号を重畳すると共に、前記第2の支線に誘導結合方式により接続されて当該第2の支線に前記第1の信号の逆相の信号である第2の信号を重畳することを特徴とする。
【0012】
本発明によれば、低圧配電線の分岐点、つまり第1の支線と第2の支線との接続点で互いの信号が打ち消し合うため、柱上トランス等の変圧器のインピーダンスによらず信号レベルを一定にすることができる。したがって、変圧器のインピーダンスによらず安定した通信回線を構築することができる。
【0013】
本発明において、前記低圧配電線は、前記変圧器の2次側の両端にそれぞれ接続された非接地線からなる第1及び第2の電力線と、前記2次側の中点に接続された接地線からなる第3の電力線とを備え、前記第1の電力線モデムは、前記第1の支線に属する前記第3の電力線に前記第1の信号を重畳する共に、前記第2の支線に属する前記第3の電力線に前記第2の信号を重畳することが好ましい。
【0014】
本発明において、前記第1の電力線モデムは、第1及び第2の信号端子を有する送受信回路と、一端が前記第1の信号端子に接続され、他端が前記第2の信号端子に接続された第1の信号ケーブルと、前記第1の支線に属する前記第3の電力線と前記第1の信号ケーブルとを結合する第1の誘導結合器と、一端が前記第1の信号端子に接続され、他端が前記第2の信号端子に接続された第2の信号ケーブルと、前記第2の支線に属する前記第3の電力線と前記第2の信号ケーブルとを結合する第2の誘導結合器とを備えることが好ましい。
【0015】
本発明による電力線通信システムは、電力線モデムの信号ケーブルと電力線とを誘導結合方式により結合するための誘導結合器を、第1及び第2の支線のそれぞれに対して、第3の電力線の分岐点よりも支線側(需要家側)に設置している。この設置方法によれば、分岐点で第1の信号と第2の信号と互いにが打ち消し合うため、柱上トランスのインピーダンスによらず信号レベルを一定にすることができる。したがって、電力線モデムの設置環境によらず安定した通信回線を構築することができる。
【0016】
本発明において、前記第1及び第2の信号の注入点は、前記低圧配電線の分岐点から3m以内の範囲内に設けられていることが好ましい。信号の注入点がこの範囲内であれば、分岐点において第1の信号と第2の信号とを確実に打ち消し合わせることができる。
【0017】
本発明による電力線通信システムは、前記変圧器から見て前記第1の電力線モデムよりも前記低圧配電線の需要家側に位置する第2の電力線モデムをさらに備えることが好ましい。この場合において、本発明による電力線通信システムは、前記低圧配電線の需要家側に設置された電気設備の電力使用量を監視する電力量計をさらに備え、前記第2の電力線モデムは、前記電力量計の検針データを前記第1の電力線モデムに転送することが好ましい。この構成によれば、安定した通信回線が構築された信頼性の高い遠隔検針システムを提供することができる。
【0018】
本発明による電力線通信システムは、前記低圧配電線の需要家側に接続された複数の電気設備の各々の電力使用量を監視する複数の電力量計と、前記複数の電力量計に対応して設けられた複数の第2の電力線モデムをさらに備え、前記複数の第2の電力線モデムの各々は、対応する電力量計の検針データを前記第1の電力線モデムに転送することが好ましい。この構成によれば、安定した通信回線が構築された信頼性の高い集合住宅向け遠隔検針システムを提供することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、柱上トランスの近くから低圧配電線の各電力線を2分岐させる場合において、柱上トランスのインピーダンスの影響を受けることなく信号を安定的に伝送することが可能な電力線通信システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の第1の実施の形態による電力線通信システムの構成図である。
【
図2】集合住宅内の各戸の電気設備の構成図である。
【
図3】実施例による電力線通信システムの等価回路であって、PLC信号の伝送特性の測定系を示す図である。
【
図4】実施例によるPLC信号の伝送特性の測定結果を示すグラフである。
【
図5】比較例1による電力線通信システムの等価回路であって、PLC信号の伝送特性の測定系を示す図である。
【
図6】比較例1によるPLC信号の伝送特性の測定結果を示すグラフである。
【
図7】比較例2による電力線通信システムの等価回路であって、PLC信号の伝送特性の測定系を示す図である。
【
図8】比較例2によるPLC信号の伝送特性の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の好ましい実施の形態について詳細に説明する。
【0022】
図1は、本発明の第1の実施の形態による電力線通信システムの構成図である。
【0023】
図1に示すように、電力線通信システム1は、単相3線式の低圧配電線2に接続された親機側の電力線モデム10A(第1の電力線モデム)と、低圧配電線2に接続された集合住宅7内の各戸の電気設備7a〜7fとを備えている。
【0024】
低圧配電線2は、高圧配電線の電圧(6600V)を商用電圧(100Vまたは200V)に降圧する柱上トランス(変圧器)4の2次側(低圧側)に接続された3本の電力線3a,3b,3cからなる。これらの電力線のうち、柱上トランス4の2次側の一端及び他端に接続された電力線3a,3c(赤相、黒相)は非接地線であり、2次側の中点に接続された電力線3b(白相)は接地線(中性線)である。電力線3a,3c間(赤黒相)の電圧は200Vであり、電力線3a,3b間(赤白相)及び電力線3c,3b間(黒白相)の電圧はともに100Vである。
【0025】
低圧配電線2は2分岐しており、支線2A、2Bは共に集合住宅7に引き込まれている。本実施形態において、集合住宅7内の複数の電気設備7a、7b、7cは一方の支線2Aに接続されており、他の複数の電気設備7d、7e、7fは他方の支線2Bに接続されている。このように低圧配電線2を2分岐することで、柱上トランス4から建物内に引き込まれるまでの全戸に共通の電力線部分に流れる電流を分散することでき、電力線に大電流が流れることによる大きな電圧降下を防止することができる。
【0026】
電力線モデム10Aは低圧配電線2に誘導結合方式により接続されている。本実施形態において、電力線モデム10Aの一対の信号入出力端子11a,11bは、低圧配電線2の支線2Aと支線2Bの両方に接続されている。
【0027】
電力線モデム10Aの一対の信号入出力端子11a,11bには、第1の信号ケーブル6Aと第2の信号ケーブル6Bとが並列接続されている。支線2Aに属する電力線3bには誘導結合器5Aが磁気結合されており、第1の信号ケーブル6Aはこの誘導結合器5Aを介して電力線3bに磁気結合している。同様に、支線2Bに属する電力線3bには誘導結合器5Bが磁気結合されており、第2の信号ケーブル6Bはこの誘導結合器5Bを介して電力線3bに磁気結合している。誘導結合器5A、5Bはともにトロイダルコアであり、支線2A,2Bの電力線3bはトロイダルコアの中空部を貫通している。また、信号ケーブル6A,6Bはトロイダルコアに所定のターン数で巻回されている。
【0028】
電力線モデム10AによるPLC信号の注入点、つまり誘導結合器5A,5Bの設置点は、電力線2bの分岐点Pbから3m以内が好ましい。注入点がこの範囲内であれば、柱上トランス4のインピーダンスの影響によらず安定した回線を構築することができる。
【0029】
電力線モデム10Aは、柱上トランス4の近くに設置された光ファイバ回線8を介してサーバ9に接続されている。光ファイバ回線8との接続を容易にするため、電力線モデム10Aは柱上トランス4と一緒に電柱上に装柱されることが好ましい。
【0030】
図2は、集合住宅7の各戸の電気設備の構成図である。以下、一つの電気設備7aを代表例に挙げて説明するが、他の電気設備7b〜7fもこれと同様である。
【0031】
本実施形態による電気設備7aは、電力量計13、分電盤12、複数の家電機器15a〜15c、および子機側の電力線モデム10B(第2の電力線モデム)を含む。低圧配電線2の支線2Aは、電力量計13および分電盤12を介して電力需要家の家電機器15a〜15cに接続されている。家電機器15aは接地線と一方の非接地線との間(赤白相)に接続されてAC100Vの電力が供給される機器であり、家電機器15cは接地線と他方の非接地線との間(黒白相)に接続されてAC100Vの電力が供給される機器である。さらに、家電機器15bは2本の非接地線間(赤黒相)に接続されてAC200Vの電力が供給される機器である。なお家電機器の種類や数は特に限定されない。これらの家電機器15a〜15cの電力使用量は電力量計13で計測される。
【0032】
電力線モデム10Bは、電力量計13が測定した電力使用量を取得(検針)し、検針データを電力線モデム10Aに転送する。電力線モデム10Bの信号ケーブルは、接地線と一方の非接地線(
図2では赤白相)とに容量接続されており、検針データが電力線へと重畳される。これにより、検針データは電力線3b経由で電力線モデム10Aに送られ、誘導結合器5A及び信号ケーブル6Aを介して電力線モデム10Aに取り込まれる。電力線モデム10Aに送られた検針データは、光ファイバ回線8を介してサーバ9に転送される。このようにして、各戸の電力使用量の自動検針が実施される。
【0033】
図1に示すように、電力線3bに対する誘導結合器5Aの結合の向きは、誘導結合器5Bの結合の向きと逆向きである。破線の矢印で示すように、一方の信号入出力端子11aから他方の信号入出力端子11bに向かって第1の信号ケーブル6Aを流れる信号電流I1の向きは、誘導結合器5Aを貫通する電力線3bの上流(柱上トランス4)から下流(集合住宅7)に向かう向きと同じ向きである。これに対し、一方の信号入出力端子11aから他方の信号入出力端子11bに向かって第2の信号ケーブル6Bを流れる信号電流I2の向きは、誘導結合器5Bを貫通する電力線3bの上流(柱上トランス4)から下流(集合住宅7)に向かう向きと逆向きである。
【0034】
誘導結合器5Aから支線2Aの電力線3bに重畳されたPLC信号の一部は、分岐点Pb側に向かって流れる。分岐点Pbにおいては、柱上トランス4側のインピーダンスが相対的に高いため、PLC信号の大半は分岐点Pbで反射して支線2Bの電力線3bに設置された誘導結合器5Bに到達する。ここでは両者の位相は同位相なので強め合って集合住宅7へとPLC信号は向かうことになる。一方、誘導結合器5Bから支線2Bの電力線3bに重畳されたPLC信号の一部もまた分岐点Pbに向かって流れ、その大半は分岐点Pbで反射して支線2Aの電力線3bに設置された誘導結合器5Aに到達する。ここでも両者の位相は同位相なので強め合って集合住宅7へとPLC信号は向かうことになる。つまり、集合住宅7とは逆の方向へ流れたPLC信号を他方の支線で注入信号と加算できるため効率の良い結合方式と言える。
【0035】
また、2つの誘導結合器5A,5Bから分岐点Pbへと流れるPLC信号のうち、分岐点Pbを通過して柱上トランス4側へと向かうもの同士は衝突することになる。このとき、2つのPLC信号の位相は互いに逆相であるため打ち消し合うので、誘導結合器5Aから注入したPLC信号と誘導結合器5Bから注入したPLC信号とが柱上トランス4へ流れ出ることは殆どない。
もし電力線3bに対する第1及び第2の誘導結合器5A,5Bの結合方向を互いに同じ向きに設置した場合、誘導結合器5A,5Bからそれぞれ電力線3b上に重畳されて分岐点Pbを通過して柱上トランス4側に向かって流れる信号どうしが互いに打ち消し合うことなく、相互に強め合うので、本来送りたい方向とは逆の方向へPLC信号が流れてしまうため、PLC信号の伝送効率が低下する。
【0036】
以上説明したように、本実施形態による電力線通信システム1は、柱上トランス4の近くで2分岐させた低圧配電線2の支線2Aを構成する電力線2bと他方の支線2Bを構成する電力線2bの両方に親機側の電力線モデム10AのPLC信号の注入点を設け、支線2Aの電力線3bには第1のPLC信号を注入し、支線2Bの電力線3bには支線2Aに注入したPLC信号と逆相のPLC信号を注入するので、注入トランス4のインピーダンスの影響を受けることなく信号を送りたい方向である集合住宅に向けてPLC信号を安定して電力線に重畳させることができる。
【0037】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は、上記の実施形態に限定されることなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものであることはいうまでもない。
【0038】
また、上記実施形態においては、低圧配電線の一端側に接続された変圧器が柱上トランスである場合を例に挙げたが、本発明は柱上トランスに限定されるものではなく、例えば集合住宅の変電室内に設置された変圧器であっても構わない。大規模な団地やマンションなどではその敷地内に高圧配電線路を直接引き込んで変圧する場合があり、敷地内に設けられた建物の一室に変圧器が設けられるが、このような変圧器を対象とすることもできる。
【0039】
また、上記実施形態においては、集合住宅に引き込まれた低圧配電線を例に挙げたが、本発明はこのような実施形態に限定されるものではなく、2分岐した送電系統を有する種々の電力線通信システムに適用することができる。
【実施例】
【0040】
(実施例)
図3に示した電力線通信システムの等価回路を用いてPLC信号の伝送特性を測定した。低圧配電線2の各電力線3a、3b、3cの一端側(上流側)には、柱上トランスの等価抵抗21a,21bを設けた。そして等価抵抗21a,21bをパラメータとし、0Ω(短絡)、12Ω、48Ω、∞Ω(開放)の4通りとしたときの伝送特性を測定した。各電力線3a、3b、3cの他端側(下流側)の赤白相間ならびに黒白相間には50Ωの終端抵抗25を挿入した。
【0041】
支線2Aの電力線2bには、誘導結合器5Aを介して信号ケーブル6Aを結合させ、支線5Bの電力線2bには、誘導結合器5Bを介して信号ケーブル6Bを結合させ、信号ケーブル6A,6Bは共にバラン23を介してネットワークアナライザ22の出力端子に接続した。また、電力線3b上に重畳させたテスト信号を受信するため、支線2Aの赤白相間には50Ωの終端抵抗25に代えてバラン24を挿入し、バラン24を介してネットワークアナライザ22の入力端子を支線2A側の赤白相間に接続した。
【0042】
図1に示したように、支線2Aの電力線3bに対する誘導結合器5Aの結合の向きは、支線2Bの電力線3bに対する誘導結合器5Bの結合の向きと逆向きとし、支線2A,2Bにはそれぞれ互いに逆相のテスト信号が注入されるようにした。
【0043】
以上の構成において、ネットワークアナライザ22からテスト信号を出力し、誘導結合器5A、5Bを介して支線2A,2Bの電力線3bにそれぞれ重畳させた。テスト信号の周波数は、電力線モデムの搬送周波数帯である50〜450kHzとした。そして、電力線の他端側に伝送されたテスト信号をネットワークアナライザ22で受信し、テスト信号の利得を求めた。
【0044】
図4は、PLCテスト信号の伝送特性の測定結果を示すグラフであり、横軸は周波数[kHz]、縦軸は伝送特性[dB]を示している。
【0045】
図4に示すように、柱上トランスの等価抵抗21a,21bを0Ω(短絡)、12Ω、48Ω、無限大(開放)としたいずれの場合も、伝送特性は−11dB以上となった。なお
図4において、等価抵抗の値が異なる4つのグラフはほとんど同じ形となり、互いに重なり合っている。この結果から、2分岐させた後の各支線2A,2Bの電力線3bに誘導結合器5A,5Bをそれぞれ設け、一方の誘導結合器と他方の誘導結合器との信号注入の向きを互いに逆向きとした場合には、柱上トランスの抵抗によらずPLC信号の伝送特性が良好であることが分かった。
【0046】
(比較例1)
図5に示した電力線通信システムの等価回路を用いてPLC信号の伝送特性を測定した。低圧配電線2を構成する3本の電力線3a,3b,3cを柱上トランスの近くでそれぞれ2分岐させ、分岐前の白相の電力線3bに誘導結合器5を設置した。電力線3bには、誘導結合器5を介して信号ケーブル6を結合させ、信号ケーブル6はバラン23を介してネットワークアナライザ22の出力端子に接続した。その他の構成は
図3に示した実施例による等価回路と同一とした。
【0047】
以上の構成において、上記実施例と同様に、ネットワークアナライザ22からテスト信号を出力し、誘導結合器5を介して幹線の電力線3bに重畳させた。そして、電力線の他端側に伝送されたテスト信号をネットワークアナライザ22で受信し、テスト信号の利得を求めた。
【0048】
図6は、PLC信号の伝送特性の測定結果を示すグラフであり、横軸は周波数[kHz]、縦軸は伝送特性[dB]を示している。同図において、4つのグラフは上から順に、等価抵抗21a,21bが0Ω(短絡)、12Ω、48Ω、無限大(開放)のときの結果である。
【0049】
図6に示すように、柱上トランスの等価抵抗21a,21bを無限大(開放)としたときの伝送特性は−70dB以下となり、伝送特性は非常に悪かった。等価抵抗21a,21bが0Ω(短絡)のとき、つまり柱上トランスのインピーダンスの影響を受けていないときには、−8dB以上となり、非常に良い伝送特性となった。しかし、等価抵抗が12Ω、48Ωと増加するにつれて伝送特性が徐々に悪化した。この結果から、2分岐させる前の電力線上に誘導結合器を設置した場合には、柱上トランスのインピーダンスに応じてPLC信号の伝送特性が悪化することが分かった。
【0050】
(比較例2)
図7に示した電力線通信システムの等価回路を用いてPLC信号の伝送特性を測定した。低圧配電線2を構成する3本の電力線3a,3b,3cを柱上トランスの近くでそれぞれ2分岐させ、分岐後の支線2Aの電力線3bに誘導結合器5Aを設置し、分岐後の支線2Bの電力線3bに誘導結合器5Bを設置した。支線2Aの電力線3bに対する誘導結合器5Aの結合の向きは、支線2Bの電力線3bに対する誘導結合器5Bの結合の向きと同じ向きとし、支線2A,2Bには互いに同相のテスト信号がそれぞれ注入されるようにした。その他の構成は
図3に示した実施例による等価回路と同一とした。
【0051】
以上の構成において、上記実施例と同様に、ネットワークアナライザ22からテスト信号を出力し、誘導結合器5を介して幹線の電力線3bに重畳させた。そして、電力線の他端側に伝送されたテスト信号をネットワークアナライザ22で受信し、テスト信号の利得を求めた。
【0052】
図8は、PLC信号の伝送特性の測定結果を示すグラフであり、横軸は周波数[kHz]、縦軸は伝送特性[dB]を示している。同図において、4つのグラフは上から順に、等価抵抗21a,21bが0Ω(短絡)、12Ω、48Ω、無限大(開放)のときの結果である。
【0053】
図8に示すように、比較例2の結果は比較例1と同じような傾向となった。柱上トランスの等価抵抗21a,21bを無限大(開放)としたときの伝送特性は−58dB以下となり、伝送特性は非常に悪かった。等価抵抗21a,21bが0Ω(短絡)のとき、つまり柱上トランスのインピーダンスの影響を受けていないときには、−11dB以上となり、非常に良い伝送特性となった。しかし、等価抵抗が12Ω、48Ωと増加するにつれて伝送特性が徐々に悪化した。この結果から、2分岐させた後の電力線上に誘導結合器を設置した場合でも、各支線2A,2Bに対して同相の信号を注入した場合には、柱上トランスのインピーダンスに応じてPLC信号の伝送特性が悪化することが分かった。
【符号の説明】
【0054】
1 電力線通信システム
2 低圧配電線
2A 支線
2B 支線
3a,3b,3c 電力線
4 柱上トランス
5,5A,5B,5C 誘導結合器
6,6A,6B,6C 信号ケーブル
7 集合住宅
7a〜7f 電気設備
8 光ファイバ回線
9 サーバ
10A 電力線モデム(親機)
10B 電力線モデム(子機)
11a,11b 電力線モデムの信号入出力端子
12 分電盤
13 電力量計
15a,15b,15c 家電機器