特許第6060460号(P6060460)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6060460シリカ質膜の形成方法及び同方法で形成されたシリカ質膜
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6060460
(24)【登録日】2016年12月22日
(45)【発行日】2017年1月18日
(54)【発明の名称】シリカ質膜の形成方法及び同方法で形成されたシリカ質膜
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/316 20060101AFI20170106BHJP
   C08G 77/62 20060101ALI20170106BHJP
   H01L 21/768 20060101ALI20170106BHJP
【FI】
   H01L21/316 G
   C08G77/62
   H01L21/90 Q
【請求項の数】5
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2012-256062(P2012-256062)
(22)【出願日】2012年11月22日
(65)【公開番号】特開2014-103351(P2014-103351A)
(43)【公開日】2014年6月5日
【審査請求日】2015年11月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】516354523
【氏名又は名称】アーゼット・エレクトロニック・マテリアルズ(ルクセンブルグ)ソシエテ・ア・レスポンサビリテ・リミテ
(74)【代理人】
【識別番号】100108350
【弁理士】
【氏名又は名称】鐘尾 宏紀
(72)【発明者】
【氏名】林 昌伸
(72)【発明者】
【氏名】長原 達郎
【審査官】 長谷川 直也
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−183663(JP,A)
【文献】 特開2009−206440(JP,A)
【文献】 特開平01−132128(JP,A)
【文献】 特開2004−327793(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/048041(WO,A2)
【文献】 特開2002−118106(JP,A)
【文献】 特開平10−194719(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/312−21/3213、21/47−21/475、
21/768、23/52−23/522、
C08G 77/00−77/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)ポリシラザン溶液を基板に塗布した後酸化雰囲気で硬化(キュア)することにより、またはゾルゲル法によって形成されたシリカ溶液を基板に塗布することにより、基板上にシリカ質膜を形成する工程、および(b)該シリカ質膜を、塩基解離定数(pKb)が4.5以下の窒素含有化合物を含む乾燥不活性ガス雰囲気で、400〜1,200℃で加熱、アニールするまたはハロゲン原子の結合エネルギーが60kcal/mol以下のハロゲン含有化合物を含む乾燥不活性ガス雰囲気で、200〜500℃で加熱、アニールする工程、からなるシリカ質膜の形成方法。
【請求項2】
請求項1に記載のシリカ質膜の形成方法において、前記塩基解離定数(pKb)が4.5以下の窒素含有化合物が、一般式(II):
456N (II)
(式中、R4は、分岐していてもよいアルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、またはアリール基を表し、R5およびR6は、各々独立して水素原子、分岐していてもよいアルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、またはアリール基を表す。)
で表されるアミン、DBU(1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]ウンデセン)、またはDBN(1,5−ジアザビシクロ〔4,3,0〕5−ノネン)であることを特徴とするシリカ質膜の形成方法。
【請求項3】
請求項1に記載のシリカ質膜の形成方法において、前記ハロゲン原子の結合エネルギーが60kcal/mol以下のハロゲン含有化合物が、Br2、F2、またはNF3であることを特徴とするシリカ質膜の形成方法。
【請求項4】
請求項1〜のいずれか1項に記載のシリカ質膜の形成方法において、前記ポリシラザンがペルヒドロポリシラザンであり、硬化が水蒸気雰囲気、200〜500℃で行われることを特徴とするシリカ質膜の形成方法。
【請求項5】
基板がトレンチ・アイソレーション構造形成用の溝付き基板であり、請求項1〜のいずれか1項記載のシリカ質膜の形成方法により前記溝を埋封する、トレンチ・アイソレーション構造の形成法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリカ質膜の形成方法及び同方法で形成された不純物を含まずエッチングレートの改善されたシリカ質膜に関する。より詳細には、本発明は、半導体装置、例えば大規模集積回路などの素子分離膜(STI:シャロー・トレンチ・アイソレーション)、絶縁膜(例えば、PMD)などの形成において好ましく用いることのできるシリカ質膜の形成方法及びこれにより形成されたシリカ質膜に関する。
【背景技術】
【0002】
シリカ質膜は、耐熱性、耐摩耗性、耐蝕性等が優れていることから、従来から半導体装置における半導体基板と金属配線層との間、金属配線層間、あるいは半導体基板上の各種素子上に設けられる絶縁膜や半導体基板上に設けられた各素子間の素子分離膜、パッシベーション膜、保護膜、平坦化膜、応力調整膜、犠牲膜等として、また液晶表示装置におけるガラス基板とITO膜との間、透明電極と配向膜との間等に設けられる絶縁膜として、あるいは画素電極ないしカラーフィルター上に設けられる保護膜として広く利用されている。このような分野で用いられるシリカ質被膜は、一般にCVD法、スパッタリング法等の気相成長法あるいはシリカ質被膜形成用塗布液を用いる塗布法によって基板上に形成されている。これらの方法の内、気相成長法は、手間がかかると共に大きな設備を必要とし、しかも凹凸面上に被膜を形成する場合に凹凸面の平坦化ができない等の問題があるため、近年は塗布法が広く採用されている。
【0003】
ところで、半導体装置などの電子デバイス分野においては、近年、高密度化および高集積化が進んでおり、このような高密度および高集積度化に対応するため、半導体基板の表面に微細な溝を形成させ、その溝の内部に絶縁物を充填して、溝の両側に形成される素子の間を電気的に分離するトレンチ・アイソレーション構造が採用されている。
【0004】
このようなトレンチ・アイソレーション構造の素子分離膜をCVD法や高密度プラズマCVD法などで形成する場合、微細な溝内にボイドが形成されることがある。また、トレンチ溝の埋設性を改良するために、ゾルゲル法を用いてアルコキシシロキサン溶液として塗布した後、形成された塗膜を熱処理して二酸化シリコンに転化させる方法も検討されている(例えば、特許文献1参照)が、この方法では、アルコキシシロキサンが二酸化シリコンに転化する際に体積収縮が起きてクラックが発生することがあった。
【0005】
そのようなクラックを抑制するための方法として、ゾルゲル法の代わりにポリシラザンをシリカ(二酸化ケイ素;SiO2)の前駆体として用いることが提案され(例えば、特許文献1および2)、現在広く利用されている。ポリシラザンを含む組成物はトレンチ・アイソレーション構造への埋設性が優れているため、ボイドが発生しにくいという利点がある。例えば、ペルヒドロポリシラザンなどのポリシラザンをトレンチ内に埋設し、酸化雰囲気において処理すると、高純度で緻密なシリカ質膜が形成されることが知られている。しかし、シリカ質膜の形成の際、一般に、アニールと呼ばれる高温の焼締め工程が加えられる。このとき窒素もしくは酸素雰囲気でアニールが行われるが、膜の密度が十分に高くならず、形成された膜のエッチングレートが速くなるという問題がある。埋設されたシリカ膜はエッチングによって膜厚が加工される必要があるが、その際にエッチングレートが速いと、目標とする膜厚に対する誤差が大きくなりやすいので、アニール後のシリカ膜は遅いエッチングレートを有することが望ましい。水蒸気雰囲気で高温アニールを行うことによりエッチングレートを遅くすることはできるが、この場合シリカ質膜以外の酸化してほしくない材料も酸化されてしまうという問題があるし、これ以外にもシリコンウエハの表面は400℃以上の水蒸気雰囲気もしくは酸素雰囲気下によって酸化され、酸化増膜を起すことも知られており、フラッシュメモリーなどでは増膜によるシリコン基板上部表面における高さの不揃いを回避するために、水蒸気酸化雰囲気または酸素雰囲気温度を400℃以下に保つことが必要とされるなど、半導体製造技術分野では高温での水蒸気処理や酸素処理が受け入れられなくなっている。また、ペルヒドロポリシラザンを基に形成したSTIやPMDは高純度SiO2膜である必要がある。これは、金属や炭素などの不純物が膜中に残ると、デバイス特性に悪影響を与えるためである。
【0006】
塗布法によるトレンチ内へのシリカ質膜の形成は、上記ポリシラザンを用いる方法に限られるものではなく、例えばゾルゲル法により形成されたシリカ溶液を用いるなど適宜の方法で行われているが、このような場合にも、ポリシラザンを用いるときと同様、不活性ガス雰囲気でのアニール後、エッチングレートが速くなることから、エッチングレートを遅くする要求もある。また、上記では素子分離膜(STI)を取り上げて具体的に説明をしたが、シリカ質膜のエッチングレートの改善の必要性は、層間絶縁膜(PMD)などの絶縁膜、パッシベーション膜、保護膜、平坦化膜等の形成においても同様である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3178412号公報
【特許文献2】特開平2001−308090号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上述のような事情に基づいてなされたものであり、ポリシラザンをシリカ質膜に転化した後、あるいはゾルゲル法によるシリカ溶液から形成された塗膜をアニールすることにより、従来と同様の、良好な絶縁性、膜平坦性、酸・アルカリ、溶剤等に対する耐性、高いバリア性などの諸特性を有する高純度シリカ質膜を形成することができるとともに、アニール後のシリカ質膜が従来より遅いエッチングレートを有する膜となる方法を提供することを目的とするものである。
【0009】
また、本発明の他の目的は、上記方法により形成されたトレンチ・アイソレーション構造の素子分離膜の形成法を提供することである。更に、本発明の他の目的は、上記方法により形成された高純度でエッチングレートの遅いシリカ質膜を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、鋭意検討の結果、ポリシラザン溶液を基板に塗布し、これを酸化雰囲気で焼成してポリシラザンをシリカに転化した後、またはゾルゲル法により形成されたシリカ溶液を基板に塗布した後、特定の窒素含有化合物または特定のハロゲン含有化合物の存在下に窒素ガス雰囲気などの不活性ガス雰囲気中でアニール(焼き締め)することにより前記課題が解決できること、すなわち前記窒素含有化合物やハロゲン含有化合物の不存在下に不活性ガス中でアニールした場合に比べよりエッチングレートの遅いシリカ質膜を形成できることを見出し、この知見に基づいて本発明を成したものである。
【0011】
すなわち、本発明は、以下に示す、無機ポリシラザン樹脂、該樹脂を用いてシリカ質膜を形成する方法、この方法により形成されたシリカ質膜に関する。
【0012】
(1)(a)ポリシラザン溶液を基板に塗布した後酸化雰囲気で硬化(キュア)することにより、またはゾルゲル法によって形成されたシリカ溶液を基板に塗布することにより、基板上にシリカ質膜を形成する工程、および(b)該シリカ質膜を、塩基解離定数(pKb)が4.5以下の窒素含有化合物またはハロゲン原子の結合エネルギーが60kcal/mol以下のハロゲン含有化合物を含む不活性ガス雰囲気で加熱、アニールする工程、からなるシリカ質膜の形成方法。
【0013】
(2)上記(1)に記載のシリカ質膜の形成方法において、前記窒素原子の塩基解離定数(pKb)が4.5以下の窒素含有化合物が、一般式(II):
456N (II)
(式中、R4は、分岐していてもよいアルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、またはアリール基を表し、R5およびR6は、各々独立して水素原子、分岐していてもよいアルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、またはアリール基を表す。)
で表されるアミン、DBU(1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]ウンデセン)、またはDBN(1,5−ジアザビシクロ〔4,3,0〕5−ノネン)であることを特徴とするシリカ質膜の形成方法。
【0014】
(3)上記(2)に記載のシリカ質膜の形成方法において、アニールは乾燥雰囲気において400〜1,200℃で行われることを特徴とするシリカ質膜の形成方法。
【0015】
(4)上記(1)に記載のシリカ質膜の形成方法において、前記ハロゲン含有化合物が、Br2、F2、またはNF3であることを特徴とするシリカ質膜の形成方法。
【0016】
(5)上記(4)に記載のシリカ質膜の形成方法において、アニールが乾燥雰囲気において、200〜500℃で行われることを特徴とするシリカ質膜の形成方法。
【0017】
(6)上記(1)〜(5)のいずれかに記載のシリカ質膜の形成方法において、前記ポリシラザンがペルヒドロポリシラザンであり、硬化が水蒸気雰囲気、200〜500℃で行われることを特徴とするシリカ質膜の形成方法。
【0018】
(7)基板がトレンチ・アイソレーション構造形成用の溝付き基板であり、上記(1)〜(6)に記載のいずれかに記載のシリカ質膜の形成方法により前記溝を埋封する、トレンチ・アイソレーション構造の形成法。
【0019】
(8)上記(1)〜(6)のいずれかに記載の方法により形成されたシリカ質膜。
【発明の効果】
【0020】
本発明のシリカ質膜の形成方法により、従来の塗布法による工程、条件を変えることなく、エッチングレートの遅い高純度のシリカ質膜を形成することができる。これにより、トレンチ内の高純度シリカ質膜、あるいは高純度層間絶縁膜などの絶縁膜、パッシベーション膜、保護膜、平坦化膜等のエッチングを精度よく良好に行うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。本発明においては、まず(i)基板上へのポリシラザンの塗布、焼成あるいは(ii)基板上へのゾルゲル法によるシリカ溶液の塗布によりシリカ質膜が形成される。
【0022】
本発明において用いられるポリシラザンは、分子内に少なくともSi−H結合、およびN−H結合を有するポリシラザンであればよく、ポリシラザン変性物であってもよい。ポリシラザンには、鎖状、環状、あるいは架橋構造を有するもの、あるいは分子内にこれら複数の構造を同時に有するものがあり、これら単独でもあるいは混合物でも利用できる。代表的な例としては、下記一般式(I)で示される繰り返し単位を有するものが挙げられる。
【0023】
【化1】
【0024】
(式中、R1、R2及びR3は、それぞれ独立に水素原子、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基、若しくはこれらの基以外でフルオロアルキル基等のケイ素に直結する基が炭素である基、アルキルシリル基、アルキルアミノ基又はアルコキシ基を表す。但し、R1、R2及びR3の少なくとも1つは水素原子である。)で表される構造単位からなる骨格を有する数平均分子量が約100〜50,000のポリシラザン又はその変性物である。
【0025】
上記一般式(I)においてR1、R2及びR3が水素原子であるものは、ペルヒドロポリシラザンであり、その製造方法については例えば特開昭60−145903号公報、D.SeyferthらCommunication
of Am.Cer.Soc.,C−13,January 1983.に報告されている。これらの方法で得られるものは、種々の構造を有するポリマーの混合物であるが、基本的には分子内に鎖状部分と環状部分を含み、下記の化学式で表すことができる。本発明においては、耐熱性の観点から、最終生成物がシリカである必要があるためペルヒドロポリシラザンが好ましく用いられる。
【0026】
【化2】
【0027】
ペルヒドロポリシラザンの構造の一例を示すと下記の如くである。
【化3】
【0028】
一般式(I)でR1及びR2に水素原子、R3にメチル基を有するポリシラザンの製造方法は、D.SeyferthらPolym.Prepr.Am.Chem.Soc.,Div.Polym.Chem.,25,10(1984)に報告されている。この方法により得られるポリシラザンは、繰り返し単位が−(SiH2NCH3)−の鎖状ポリマーと環状ポリマーであり、いずれも架橋構造をもたない。
【0029】
一般式(I)でR1及びR2に水素原子、R3に有機基を有するポリオルガノ(ヒドロ)シラザンの製造法は、D.SeyferthらPolym.Prepr.Am.Chem.Soc.,Div.Polym.Chem.,25,10(1984)、特開昭61−89230号公報に報告されている。これら方法により得られるポリシラザンには、−(R2SiHNH)−を繰り返し単位として、主として重合度が3〜5の環状構造を有するものや(R3SiHNH)x〔(R2SiH)1.5N〕1-X(0.4<X<1)の化学式で示される分子内に鎖状構造と環状構造を同時に有するものがある。
【0030】
一般式(I)でR1に水素原子、R2、R3に有機基を有するポリシラザン、またR1及びR2に有機基、R3に水素原子を有するものは−(R12SiNR3)−を繰り返し単位として、主に重合度が3〜5の環状構造を有している。
【0031】
上記式(I)以外のものとしては、分子内に架橋構造を有する、例えば次のような構造を有するものが挙げられる(D.SeyferthらCommunication
of Am.Cer.Soc.C−132,July 1984.)。
【0032】
【化4】
【0033】
また、特開昭49−69717号公報に報告されている様なR1SiX3(X:ハロゲン)のアンモニア分解によって得られる架橋構造を有するポリシラザンR1Si(NH)x、あるいはR1SiX3及びR22SiX2の共アンモニア分解によって得られる下記の構造を有するポリシラザンであってもよい。
【0034】
【化5】
【0035】
ポリシラザンを合成する方法として、特公昭63−16325号公報には、ジハロシランと塩基とのアダクツとアンモニアを反応させる方法が記載されているが、この他にも、(a)SiCl4、SiH2Cl2などのシリコンハロゲン化物にアミンを反応させる方法、(b)シラザンを脱水素化が可能なKHなどのアルカリ金属水酸化物触媒を用いてポリシラザンとする方法、(c)遷移金属錯体触媒を用いて、シラン化合物とアミン化合物との脱水素反応によりシラザンを合成する方法、(d)アミノシランをCF4SO3Hといった酸触媒を用いて、アンモニアとアミン交換を行う方法、(e)アミノシランを大量のアンモニア又はアミンでアミン交換する方法、(f)多価アミノシラン化合物と多水素化含窒素化合物とを塩基性触媒の存在下でアミン交換反応させる方法を始めとして種々の方法が提案されている(例えば、WO97/24391参照)。
【0036】
ポリシラザン組成物の調製方法の具体例の一例を挙げると、以下の通りである。すなわち、純度99%以上のジクロロシランを、−20〜20℃の範囲に調温した脱水ピリジンに撹拌しながら注入する。引き続き、−20〜20℃の温度に調温して、純度99%以上のアンモニアを撹拌しながら注入する。ここで反応液中に、粗製ポリシラザンと副生成物である塩化アンモニウムが生成する。反応により生成した塩化アンモニウムを濾過により除去する。濾液を30〜150℃に加熱し、残留しているアンモニアを除去しながら、ポリシラザンの分子量を重量平均分子量1,500〜15,000の範囲になるように調整を行う。有機溶媒を加え30〜50℃に加熱し、50mmHg以下の減圧蒸留により、残存しているピリジンを除去する。減圧蒸留によりピリジンを除去するが、同時に有機溶媒の除去も行って、ポリシラザン濃度を例えば5〜30重量%の範囲に調整する。得られたポリシラザン組成物を、濾過精度0.1μm以下のフィルターを用いて循環濾過し、粒径が0.2μm以上の粗大粒子を50個/cc以下まで低減させる。こうして得たポリシラザン溶液は、そのまま塗布液として用いられてもよいし、さらに希釈あるいは濃縮されて塗布液として使用されてもよい。
【0037】
用いることのできる有機溶媒を例示すると、(イ)芳香族化合物、例えばベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、ジエチルベンゼン、トリメチルベンゼン、トリエチルベンゼン、およびデカヒドロナフタレン、(ロ)鎖状飽和炭化水素、例えばn−ペンタン、i−ペンタン、n−ヘキサン、i−ヘキサン、n−ヘプタン、i−ヘプタン、n−オクタン、i−オクタン、n−ノナン、i−ノナン、n−デカン、およびi−デカン、(ハ)環状飽和炭化水素、例えばシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、およびp−メンタン、(ニ)環状不飽和炭化水素、例えばシクロヘキセン、およびジペンテン(リモネン)、(ホ)エーテル、例えばジプロピルエーテル、ジブチルエーテル、およびアニソール、(ヘ)エステル、例えば酢酸n−ブチル、酢酸i−ブチル、酢酸n−アミル、および酢酸i−アミル、(ト)ケトン、例えばメチルi−ブチルケトン、などが挙げられる。
【0038】
前記したポリシラザン組成物の調製方法は一例を示しただけであって、ポリシラザン組成物の調製方法がこの方法に限定されるものではない。固体状態のポリシラザンを入手し、前記した適切な溶媒に溶解または分散させて用いることもできるし、市販のポリシラザン組成物、例えば、AZエレクトロニックマテリアルズマニュファクチャリング株式会社製のSpinfil 200、400、600、65001など(「Spinfil」は登録商標)を用いることもできる。溶液の濃度は、最終的に形成させるポリシラザン塗膜の厚さなどにより適切に調整すればよい。
【0039】
ポリシラザンの含有率は、ポリシラザンコーティング組成物の総重量を基準として0.1〜40重量%であることが好ましく、0.2〜30重量%とすることがより好ましく、0.3〜25重量%とすることがさらに好ましい。なお、高純度のシリカ質膜を形成するためには、添加剤を用いない方が好ましいが、必要であれば、さらにシリカ転化反応促進化合物などが用いられてもよい。ここで、シリカ転化反応促進化合物とは、ポリシラザン化合物との相互反応によりポリシラザンがシリカ質物質に転化する反応を促進する化合物をいう。
【0040】
ポリシラザン組成物は、任意の方法で基板上に塗布することができる。具体的には、スピンコート法、ディップ法、スプレー法、ロールコート法、転写法、スリットコート法、カーテンコート等が挙げられる。これらのうち、塗膜面の均一性などの観点からスピンコートが特に好ましい。塗膜は、必要に応じて1回または2回以上繰り返して塗布することにより所望の膜厚とすることができる。
【0041】
塗膜の厚さは、膜の使用目的などにより異なるが、一般的には、乾燥膜厚で、10〜2,000nm、好ましくは20〜1,000nmとされる。ポリシラザン組成物が素子分離膜として用いられる場合、塗布後のトレンチ溝埋設性およびポリシラザン塗膜表面の平坦性を両立させるためには、塗布されるポリシラザン塗膜の厚さは、一般には10〜1,000nmであることが好ましく、50〜800nmであることがより好ましい。塗布の条件は、基板の大きさや塗布方法、ポリシラザン組成物の濃度、溶媒の種類など、種々の条件によって変化する。例えば、スピンコート塗布の一例を以下に示すが、これにより塗布法が限定されるものではない。
【0042】
まず、シリコン基板の中心部に、または基板全面に平均的に塗膜が形成されるような、中心部を含む数カ所に、シリコン基板1枚あたり例えば0.5〜20ccのポリシラザン組成物を滴下する。次いで、滴下したポリシラザン溶液をシリコン基板全面に広げるために、比較的低速かつ短時間、例えば回転速度50〜500rpmで0.5〜10秒、回転させる(プレスピン)。次いで、塗膜を所望の厚さにするために、比較的高速、例えば回転速度500〜4,000rpmで0.5〜800秒、回転させる(メインスピン)。さらに、シリコン基板の周辺部でのポリシラザン塗膜の盛り上がりを低減させ、かつポリシラザン塗膜中の溶剤を可能な限り乾燥させるために、前記メインスピン回転速度に対して500rpm以上速い回転速度で、例えば回転速度1,000〜5,000rpmで5〜300秒、回転させる(ファイナルスピン)。
【0043】
ポリシラザン組成物を基板上に塗布した後、例えばホットプレート上で塗膜をプリベーク(加熱処理)することが好ましい。この工程は、塗膜中に含まれる溶媒の完全除去と、最終塗布工程による塗膜の予備硬化を目的とするものである。通常、プリベーク工程では、大気中、実質的に一定温度で加熱する方法がとられるが、硬化の際に塗膜が収縮し、基板凹部がへこみになったり、溝内部にボイドが生じたりすることを防ぐために、温度を制御し、経時で上昇させながらプリベークを行うこともできる。プリベーク温度は、通常50℃〜400℃、好ましくは100〜300℃である。また、プリベーク時間は、通常10秒〜30分、好ましくは30秒〜10分である。トレンチ・アイソレーション構造の絶縁膜を形成する際には、プリベーク温度を経時で上昇させながら行う方法をとることが好ましい。このとき、最高プリベーク温度は、被膜からの溶媒を除去するという観点から、ポリシラザン組成物に用いられている溶媒の沸点よりも高い温度に設定されるのが一般的である。プリベーク後、必要であれば、ポリシラザン塗膜に酸化(硬化)促進剤を含有する処理液を塗布してもよい。
【0044】
こうして形成されたポリシラザン塗膜は、次いでポリシラザンをシリカ質膜に転化するために硬化(キュア)される。硬化は、硬化炉やホットプレートを用いて、水蒸気を含んだ不活性ガスまたは酸素雰囲気下で加熱処理を行う方法、過酸化水素蒸気を含んだ水蒸気雰囲気下で加熱処理を行う方法など、適宜の方法で行われる。水蒸気は、ポリシラザンをシリカ質膜(すなわち二酸化ケイ素)に十分に転化させるのに重要なファクターであり、好ましくは30%以上、より好ましくは50%以上、最も好ましくは70%以上とする。特に水蒸気濃度が80%以上であると、ポリシラザンのシリカ質膜への転化が進行しやすくなり、ボイドなどの欠陥の発生が少なくなり、シリカ質膜の特性が改良されるので好ましい。雰囲気ガスとして不活性ガスを用いる場合には、不活性ガスとしては通常、窒素、アルゴン、またはヘリウムなどが用いられる。硬化温度は、用いられるポリシラザン化合物の種類、水蒸気濃度などによって変わるが、一般的には、高温の方が、シリカ質膜に転化する速度が速く、一方温度が低い方が、シリコン基板の酸化または結晶構造の変化によるデバイス特性への悪影響が小さくなる傾向がある。本発明においては後工程としてアニール工程での高温加熱を行うことから、一般的には200〜500℃程度、例えば350℃の温度で行われればよい。ここで、目標温度までの昇温速度は一般に0.1〜100℃/分とされ、目標温度に到達してからの硬化時間は一般に1分〜10時間、好ましくは15分〜3時間とされる。必要であれば、処理温度または処理雰囲気の組成を段階的に変化させることもできる。
【0045】
なお、塗布膜を過酸化水素蒸気に晒す方法による場合は、塗布膜を50〜200℃に保ち、過酸化水素蒸気雰囲気下に1分〜2時間置けばよい。またこの際、水蒸気など他の蒸気や希釈ガスが含まれても構わない。塗布膜の酸化速度は一般に過酸化水素蒸気濃度が高い方が速い。
【0046】
一方、シリカ質膜は、ゾルゲル法により形成されたシリカ溶液を塗布することにより形成されてもよい。代表的な方法としては、一般式:Si(ORa)4 (ただし、式中、Raは、低級アルキル基を表す。)で表されるテトラアルコキシシランをアルコールなどの有機溶媒中、塩酸などの酸触媒あるいは塩基触媒を用いて加水分解・重縮合反応を行わせることによりアルコールを離脱させ、シリカの合成が行われる。上記一般式において、Raとしては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基などが用いられる。テトラアルコキシシランの具体例としては、例えば、テトラメトキシシラン:Si(OCH3 4 、テトラエトキシシラン:Si(OC2 5 4 、テトラプロポキシシラン:Si(0C 37 4 、テトラブトキシシラン:Si(OC4 9 4などが挙げられる。また、有機溶媒としては、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブタノールなどのアルコール類が好ましく用いられる。ゾルゲル法の具体的な一例としては、TEOS(オルトケイ酸テトラエチル;テトラエトキシシラン)とエチルアルコールと水と塩酸を混合することによりシリカ溶液を形成する方法が挙げられる。
【0047】
ポリシラザン溶液あるいはゾルゲル法によるシリカ溶液が塗布される基板としては、シリコン基板などの半導体基板、ガラス基板などが挙げられ、シリコン基板などには、エッチングによりトレンチ溝が形成されていてもよい。また、層間絶縁膜などの絶縁膜や平坦化膜、パッシベーション膜、応力調整膜、犠牲膜等を形成する場合などであれば、基板としては、半導体素子を形成する過程での半導体膜や回路などが設けられたシリコン基板などが用いられる。
【0048】
上記したようにして基板上にシリカ質膜を形成した後、本発明においては、さらに、ポリシラザン塗膜全体を完全にシリカ質に転化させて硬化させるために、基板全体を加熱するアニール(焼き締め)処理工程に掛けられる。アニール処理では、基板全体を硬化炉などに投入して加熱するのが一般的である。このとき、本発明においては、加熱雰囲気中に、塩基解離定数(pKb)が4.5以下の窒素含有化合物またはハロゲン原子の結合エネルギーが60kcal/mol以下のハロゲン含有化合物を含有せしめる。このとき窒素含有化合物またはハロゲン含有化合物が液体あるいは固体であるような場合には、予備加熱炉で化合物を気化させてガス状にし、これを不活性ガスと共に加熱炉に供給するようにすることが好ましい。
【0049】
なお、本発明においては、塩基解離定数(pKb)は水に対する解離定数をいうものである。塩基解離定数(pKb)およびハロゲン原子の結合エネルギーは広範な化合物について既に広く知られている。
【0050】
塩基解離定数(pKb)が4.5以下の窒素含有化合物としては、例えば下記一般式(II)で表されるアミン、DBU(1,8−ジアザビシクロ〔5,4,0〕7−ウンデセン)、DBN(1,5−ジアザビシクロ〔4,3,0〕5−ノネン)などが挙げられる。
【0051】
456N (II)
(式中、R4は、分岐していてもよいアルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、またはアリール基を表し、R5およびR6は、各々独立して水素原子、分岐していてもよいアルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、またはアリール基を表す。)
【0052】
上記一般式(II)で表されるアミンの好ましい例を示すと、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、プロピルアミン、ジプロピルアミン、トリプロピルアミン、ブチルアミン、ジブチルアミン、トリブチルアミン、ペンチルアミン、ジペンチルアミン、トリペンチルアミン、ヘキシルアミン、ジヘキシルアミン、トリヘキシルアミン、ヘプチルアミン、ジヘプチルアミン、オクチルアミン、ジオクチルアミン、トリオクチルアミン、フェニルアミン、ジフェニルアミン、トリフェニルアミン等が挙げられる。
【0053】
一方、ハロゲン原子の結合エネルギーが60kcal/mol以下のハロゲン含有化合物としては、例えばBr2、F2、NF3などが挙げられる。
【0054】
アニールは、前記アミンあるいはハロゲン含有気体を含む不活性ガス雰囲気中で行われる。不活性ガスとしては、窒素、ヘリウム、アルゴンガスなどが通常用いられる。アニール温度は、アミンやDBU、DBNなどの窒素含有化合物が含有される場合には、通常400〜1,200℃、好ましくは450〜1,000℃である。窒素含有化合物を含むアニール雰囲気中に水蒸気が含まれる場合には、本発明の効果を得ることができない。一方、ハロゲン含有化合物含有雰囲気でアニールが行われる場合は、乾燥雰囲気にて200〜1,200℃、好ましくは乾燥雰囲気で200〜500℃、好ましくは300〜500℃で行われる。処理目標温度までの昇温時間は一般に1〜100℃/分とされることが好ましい。また、処理目標温度での処理時間は1分〜10時間、好ましくは、15分〜3時間である。
【0055】
また、塩基解離定数(pKb)が4.5以下の窒素含有化合物あるいはハロゲン原子の結合エネルギーが60kcal/mol以下のハロゲン含有化合物の含有量は、雰囲気中通常0.01容量%以上であればよく、好ましくは0.5〜20容量%、より好ましくは1〜10容量%である。これら化合物の含有量があまりにも少ない場合、本発明の効果が奏されない場合が生じる。一方、化合物の含有量が高くなると、一般的にエッチングレートが早くなる傾向にあり、含有量が高くなりすぎると、本発明の効果が少なくなる。
【0056】
この塩基解離定数(pKb)が4.5以下の窒素含有化合物または結合エネルギーが60kcal/mol以下のハロゲン含有化合物を含む不活性ガス雰囲気で加熱により、高純度で、エッチングレートの改善された(エッチングレートの遅い)緻密なシリカ質膜を形成することができる。その理由は、次のようなことによると考えられるが、これにより本発明が何ら限定されるものではない。
【0057】
例えば、アルキルアミンを例に挙げて説明すると、アルキルアミンは電子供与性であり、ローンペア電子を有する。このアルキルアミンのローンペア電子がアニール中にシリカ質膜中に残存するSi−H結合あるいはSi−O結合と反応し、Siがマイナスイオン化され、アルキルアミンのNがプラスイオン化される。マイナスイオン化されたSiは他のSi−O分子と結合し、Si−O環を大きくする。例えば(Si−O)3からなる環が大きくなり、(Si−O)となると、エッチングレートは遅くなる。
【0058】
これに対し、雰囲気中にH2O分子が存在すると、アルキルアミンが水和し、水和されたアミンは安定なため、Si−H結合と反応できないか、もしくはマイナスイオン化されたSiはすぐにH2O分子と再結合してしまい、Si−O環を大きくすることができない。
【0059】
一方、ハロゲン含有化合物の場合、200〜500℃の加熱により例えばN−F結合やF−F結合が切断され、切れたFアニオンがシリカと一時的に結合する。このようにして生成したSi−F結合が、500〜1,200℃の加熱で切断されたのち、架橋反応によって、Si−O環を大きくすることができる。
【実施例】
【0060】
以下に実施例、比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例、比較例により何ら限定されるものではない。
【0061】
実施例1
ペルヒドロポリシラザンのジブチルエーテル20wt%溶液(AZエレクトロニックマテリアルズマニュファクチャリング(株)製Spinfil 65001、「Spinfil」は登録商標)約1mLを4インチシリコンウェハー上に滴下し、スピンコーターにより1000rpm、20秒の回転塗布を行った後、ホットプレート上にて大気中、150℃、3分のソフトベークを行った。膜厚は600nmであった。次いで、350℃、80%水蒸気(80%H2O/20%O2)にて60分処理を行い(焼成)、ペルヒドロポリシラザンをシリカ質膜に変化させた(硬化)。その後、700℃までN2雰囲気のまま昇温し、この温度において2%トリメチルアミン(N2希釈)雰囲気中で60分処理した後、さらにこの温度、N2雰囲気で60分処理した。得られたシリカ質膜の相対エッチングレートを下記の方法により算出した。相対エッチングレートは4.1であった。
【0062】
<相対エッチングレートの算出>
形成されたシリカ質膜を、0.5%フッ化水素水溶液に浸漬し、単位浸漬時間当たりの膜厚変化を観察した。具体的には浸漬5分おきに膜厚を測り、エッチングが進むにつれて膜厚が薄くなっていく速度をnm/minのかたちで算出する。また、熱酸化膜でも同様の操作を行い、エッチングレートを算出し、求めたエッチングレートから、[シリカ膜のエッチングレート:単位はnm/min]/[熱酸化膜のエッチングレート:単位はnm/min]の比を求め、これを相対エッチングレートとした。この値は比率を表すので無次元数である。膜厚の測定には大塚電子(株)製、反射分光膜厚計:FE−3000を使用した。
【0063】
なお、上記基準となる熱酸化膜は、何も塗布していないシリコンウエハを1,050℃の水蒸気下に1時間置くことにより、シリコン表面を酸化し、膜厚約500nmの熱酸化膜を形成されたものが用いられた。この熱酸化膜は以下の全ての実施例、比較例においても基準膜として用いられた。
【0064】
実施例2及び3
2%トリメチルアミン(N2希釈)雰囲気中で処理することに替えて、4%トリメチルアミン(N2希釈)雰囲気(実施例2)又は10%トリメチルアミン(N2希釈)雰囲気(実施例3)中で処理することを除き実施例1と同様の方法により、シリカ質膜を形成した。得られたシリカ質膜の相対エッチングレートは、各々4.6及び4.8であった。
【0065】
実施例4〜7
2%トリメチルアミン(N2希釈)雰囲気中で処理することに替えて、2%メチルアミン(N2希釈)雰囲気(実施例4)、2%モノメチルアミン(N2希釈)雰囲気(実施例5)、2%トリエチルアミン(N2希釈)雰囲気(実施例6)及び2%DBU(1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]ウンデセン)(N2希釈)雰囲気(実施例7)中で処理することを除き実施例1と同様の方法により、シリカ質膜を形成した。得られたシリカ質膜の相対エッチングレートは、各々4.1、4.2、4.5及び4.8であった。なお、トリエチルアミン及びDBUは、予備加熱炉で気化させたガスを、N2キャリアガスを用いて炉に導入することにより行った。
【0066】
比較例1及び2
2%トリメチルアミン(N2希釈)雰囲気中で処理することに替えて、N2ガス雰囲気(比較例1)又は2%アンモニア(N2希釈)雰囲気(比較例2)中で処理することを除き実施例1と同様の方法により、シリカ質膜を形成した。得られたシリカ質膜の相対エッチングレートは、各々5.6及び6.1であった。
【0067】
ペルヒドロポリシラザンを用いた例においては、比較例1〜2から、N2ガスのみ、あるいはアンモニア含有雰囲気でのアニールでは得られたシリカ質膜の相対エッチングレートは5.6あるいは6.1であったのに対し、トリメチルアミン、ジメチルアミン、モノメチルアミン、トリエチルアミン、DBUを含むことを除き同条件でアニールされた実施例1〜7では3.9〜4.8であり、これら化合物の含有する雰囲気でのアニールによりエッチングレートが遅くなっていることが分かる。

【0068】
なお、実施例1〜10で使用された窒素含有化合物の塩基解離定数pKbは、トリメチルアミン=4.13、ジメチルアミン=3.26、モノメチルアミン=3.36、トリエチルアミン=3.28、DBU=1.5であるのに対し、比較例2で使用された窒素含有化合物であるアンモニアの塩基解離定数pKbは4.75であった。このことから、塩基解離定数pKbが4.5以下であると、本発明の効果が奏されることが分かる。
【0069】
また、実施例1で形成されたシリカ質膜と比較例1で得られたシリカ質膜について不純物分析を行ったところ、いずれも極めて高純度のシリカ質膜であり、不純物含有量も両者ほとんど変わらないものであった。
【0070】
さらに、実施例1で形成されたシリカ質膜と比較例1で得られたシリカ質膜について、膜の物性を測定した。結果を表1に示す。
【0071】
【表1】
【0072】
表1から、実施例1の耐電圧(Vbd:Break Down Voltage)が比較例1のそれより高いことから、また、比誘電率が純粋な二酸化ケイ素のそれ(約3.9)に近づいていることから、アミン雰囲気でのアニールを行うことでより緻密なシリカ膜を形成することができたと分かる。
【0073】
比較例3及び4
2%トリメチルアミン(N2希釈)雰囲気中で処理することに替えて、40%水蒸気と60%N2ガスからなる雰囲気(比較例3)又は2%トリメチルアミン、40%水蒸気、58%N2ガスからなる雰囲気(比較例4)中で処理することを除き実施例1と同様の方法により、シリカ質膜を形成した。膜厚減少速度を測定し、得られたシリカ質膜の相対エッチングレートは、各々2.3及び2.4であった。
【0074】
上記比較例3、4の結果から、水蒸気が共存するとアミンの添加効果が無くなることが分かる。
【0075】
実施例8
TEOS(オルトケイ酸テトラエチル)8.36g(0.04モル)、エタノール11.5g(0.25モル)、水4.32g(0.24モル)及び1モル/L HCl水溶液1gをプラスチック容器中、室温で1日攪拌し、その後この混合溶液をエタノールで4倍に希釈して、ゾルゲル法によるシリカ溶液を調製した。
【0076】
こうして得たシリカ溶液約1mLを4インチシリコンウェハー上に滴下し、スピンコーターにより1,500rpm、20秒の回転塗布を行い、ホットプレート上にて大気中、150℃、3分のソフトベークを行った。膜厚は100nmであった。次いで、700℃までN2雰囲気のまま昇温し、この温度において2%トリメチルアミン(N2希釈)雰囲気中で60分処理した。得られたシリカ質膜の相対エッチングレートを実施例1と同様の方法で算出した。相対エッチングレートは7.3であった。
【0077】
比較例5
2%トリメチルアミン(N2希釈)雰囲気中で処理することに替えて、N2ガス雰囲気中で処理することを除き実施例8と同様の方法により、シリカ質膜を形成した。得られたシリカ質膜の相対エッチングレートは、11.5であった。
【0078】
実施例8と比較例5から、ゾルゲル法によるシリカ溶液を用いてのシリカ質膜の形成においても、ポリシラザンを用いた場合と同様エッチングレートが遅くなることが分かる。
【0079】
実施例9
700℃まで昇温することに替えて、500℃まで昇温し、2%トリメチルアミン(N2希釈)雰囲気中での処理をこの温度で行うことを除き実施例1と同様の方法により、シリカ質膜を形成した。得られたシリカ質膜の相対エッチングレートは、6.4であった。
【0080】
比較例6
2%トリメチルアミン(N2希釈)雰囲気中で処理することに替えて、N2ガス雰囲気中で処理することを除き実施例9と同様の方法により、シリカ質膜を形成した。得られたシリカ質膜の相対エッチングレートは、6.9であった。
【0081】
実施例9と比較例6から、アニール温度が500℃においても、本発明の効果が奏されることが分かる。
【0082】
実施例10
トリエトキシシラン3.30g(0.02モル)、TEOS4.318g(0.02モル)、エタノール9.2g(0.2モル)、水3.6g(0.2モル)及び1モル/L HCl水溶液0.1gをプラスチック容器中、室温で1日攪拌し、その後この混合溶液をエタノールで4倍に希釈して、ゾルゲル法によるシリカ溶液を調製した。
【0083】
こうして得たシリカ溶液約1mLを4インチシリコンウェハー上に滴下し、スピンコーターにより1500rpm、20秒の回転塗布を行い、ホットプレート上にて150℃、3分ソフトベークを行った。膜厚は100nmであった。次いで、700℃までN2雰囲気のまま昇温し、この温度において2%トリメチルアミン(N2希釈)雰囲気中で60分処理した。得られたシリカ質膜の相対エッチングレートを実施例1と同様の方法で算出した。相対エッチングレートは9.3であった。
【0084】
比較例7
2%トリメチルアミン(N2希釈)雰囲気中で処理することに替えて、N2ガス雰囲気中で処理することを除き実施例10と同様の方法により、シリカ質膜を形成した。得られたシリカ質膜の相対エッチングレートは、10.8であった。
【0085】
実施例10と比較例7から、ゾルゲル法による場合も、700℃のアニール温度で本発明の効果が奏されることが分かる。
【0086】
比較例8
ペルヒドロポリシラザンのジブチルエーテル20%溶液(AZエレクトロニックマテリアルズマニュファクチャリング(株)製Spinfil 65001、「Spinfil」は登録商標)約1mLを4インチシリコンウェハー上に滴下し、スピンコーターにより1000rpm、20秒の回転塗布を行い、ホットプレート上にて大気中、150℃、3分のソフトベークを行った。膜厚は600nmであった。次いで、350℃、80%水蒸気(80%H2O/20%O2)にて60分処理を行い(焼成)、ペルヒドロポリシラザンをシリカ質膜に変化させた。その後、150℃までN2雰囲気のまま降温し、この温度にてN2雰囲気中で60分処理(アニール)した。得られたシリカ質膜の相対エッチングレートは8.5であった。
【0087】
比較例9
2雰囲気、150℃でのアニール処理に替え、2%トリメチルアミン(N2希釈)雰囲気、150℃のアニール処理とすることを除き、比較例8と同様の方法により、シリカ質膜を形成した。得られたシリカ質膜の相対エッチングレートは、8.6であった。
【0088】
比較例8、9から、150℃の低温でのアニール処理によっては、アミン添加効果は認められなかった。
【0089】
実施例11
ペルヒドロポリシラザンのジブチルエーテル20wt%溶液(AZエレクトロニックマテリアルズマニュファクチャリング(株)製Spinfil 65001、「Spinfil」は登録商標)約1mLを4インチシリコンウェハー上に滴下し、スピンコーターにより1,000rpm、20秒の回転塗布を行い、ホットプレート上にて大気中、150℃、3分のソフトベークを行った。膜厚は600nmであった。次いで、350℃、80%水蒸気(80%H2O/20%O2)にて60分処理を行い(焼成)、ペルヒドロポリシラザンをシリカ質膜に変化させた。その後、350℃、2%NF3(N2希釈)雰囲気中で60分処理した。この膜に対して引き続き、850℃、N2雰囲気でアニールを行ったところ、得られたシリカ質膜の相対エッチングレートは1.5であった。
【0090】
実施例12〜13
2%トリメチルアミン(N2希釈)雰囲気中で処理することに替えて、2%Br2(N2希釈)雰囲気(実施例12)、又は2%F2(N2希釈)雰囲気(実施例13)中で処理することを除き実施例11と同様の方法により、シリカ質膜を形成した。得られたシリカ質膜の相対エッチングレートは、各々1.7及び1.4であった。
【0091】
比較例10
350℃、2%NF3(N2希釈)雰囲気中で処理することに替えて、N2雰囲気中で処理することを除き実施例11と同様の方法により、シリカ質膜を形成した。得られたシリカ質膜の相対エッチングレートは、2.6であった。
【0092】
比較例11および12
2%NF3(N2希釈)雰囲気中で処理することに替えて、2%CF4(N2希釈)雰囲気(比較例11)、又は2%HF(N2希釈)雰囲気(比較例12)中で処理することを除き実施例11と同様の方法により、シリカ質膜を形成した。得られたシリカ質膜の相対エッチングレートは、どちらも2.7であった。
【0093】
実施例11〜13と比較例10から、アニールの際NF3、Br2、2%F2を用いる場合にも、エッチングレートが遅くなることが分かる。
【0094】
なお、実施例11〜13で使用されたハロゲン化合物のハロゲン結合エネルギーは、N−Fが57kcal/mol、Br−Brが46kcal/mol、F−Fが38kcal/molであるのに対し、比較例11〜12で使用されたハロゲン化合物のハロゲン結合エネルギーは、H−Fが135kcal/mol、C−Fが117kcal/molであった。このことから、ハロゲン結合エネルギーが60kcal/mol以下であると、本発明の効果が奏されることが分かる。
【0095】
実施例14
700℃でのN2雰囲気中、60分の処理に替えて、850℃でのN2雰囲気中、60分の処理とすることを除き実施例1と同様の方法により、シリカ質膜を形成した。得られたシリカ質膜の相対エッチングレートは、1.6であった。
【0096】
比較例13
700℃でのN2雰囲気中、60分の処理に替えて、850℃でのN2雰囲気中、60分の処理とすることを除き比較例1と同様の方法により、シリカ質膜を形成した。得られたシリカ質膜の相対エッチングレートは、2.6であった。
【0097】
さらに、実施例14で形成されたシリカ質膜と比較例13で形成されたシリカ質膜について、膜の物性を測定した。結果を表2に示す。
【0098】
【表2】
【0099】
表2から、耐電圧の値が比較例13より実施例14が高いことから、トリメチルアミン含有雰囲気でのアニールを行うことで、より緻密なシリカ膜を形成することができたと分かる。