特許第6060462号(P6060462)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6060462IRを透過させてRFを反射するオプトロニクス窓
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6060462
(24)【登録日】2016年12月22日
(45)【発行日】2017年1月18日
(54)【発明の名称】IRを透過させてRFを反射するオプトロニクス窓
(51)【国際特許分類】
   H05K 9/00 20060101AFI20170106BHJP
   G02B 1/10 20150101ALI20170106BHJP
【FI】
   H05K9/00 V
   G02B1/10
【請求項の数】10
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2013-539229(P2013-539229)
(86)(22)【出願日】2011年11月15日
(65)【公表番号】特表2014-502044(P2014-502044A)
(43)【公表日】2014年1月23日
(86)【国際出願番号】EP2011070139
(87)【国際公開番号】WO2012065987
(87)【国際公開日】20120524
【審査請求日】2014年10月31日
(31)【優先権主張番号】1004448
(32)【優先日】2010年11月16日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】505157485
【氏名又は名称】テールズ
(74)【代理人】
【識別番号】100071054
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 高久
(72)【発明者】
【氏名】クザルニイ、ロメイン
(72)【発明者】
【氏名】レベルション、ジャン−リュック
(72)【発明者】
【氏名】パート、ミシェル
(72)【発明者】
【氏名】ロワゾー、ブリジット
(72)【発明者】
【氏名】ベルジニック、ジェラール
【審査官】 石井 茂
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭63−100782(JP,A)
【文献】 特開平06−103817(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 31/00−31/02
H01L 31/0216−31/0236
H01L 31/0248−31/0264
H01L 31/0352−31/036
H01L 31/0392−31/08
H01L 31/10
H01L 31/107−31/108
H01L 31/111
H01L 31/12−31/14
H01L 31/16
H01L 31/18
H01L 51/42−51/48
H02S 10/00−10/40
H02S 30/00−99/00
H05K 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つの面(11,12)を有する基板(10)を含むオプトロニクス・ポートホール(100)であって、前記基板の一方または両方の面に複数のヘテロ構造(30)の積層を含み、各ヘテロ構造が少なくとも半導電層SC1(31)と半導電層SC2(32)とからなり、前記半導電層SC1(31)がドープされ、前記半導電層SC2(32)自身が前記半導電層SC1との界面に形成された2次元電子ガス層(33)を含む、オプトロニクス・ポートホール(100)において、全ての前記電子ガス層(33)と接触する電極(40)と、前記積層に埋め込まれ前記電極(40)と接触する二重周期金属格子とを含むこと、および前記基板と前記半導電層SC1と前記半導電層SC2と前記電子ガス層とが0.4μm〜5μm帯域において透過的であることを特徴とするオプトロニクス・ポートホール(100)。
【請求項2】
前記格子が規則的なメッシュセルを有することを特徴とする、請求項1に記載のオプトロニクス・ポートホール(100)。
【請求項3】
前記格子が、厚さが5μm未満およびピッチが500μm未満のワイヤ(50)を有することを特徴とする、請求項1または2に記載のオプトロニクス・ポートホール(100)。
【請求項4】
前記半導電層SC2(32)がドープされないことを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載のオプトロニクス・ポートホール(100)。
【請求項5】
前記ヘテロ構造(30)が異なる厚さを有する、および/または同一材料で構成されない、および/または同じ数の層を含まないことを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載のオプトロニクス・ポートホール(100)。
【請求項6】
10〜80個のヘテロ構造(30)の積層を含むことを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載のオプトロニクス・ポートホール(100)。
【請求項7】
前記基板(10)と前記ヘテロ構造(30)の積層との間に緩衝層(20)を含むことを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載のオプトロニクス・ポートホール(100)。
【請求項8】
1つまたは2つの反射防止層(60)を含むことを特徴とする、請求項1〜7のいずれか1項に記載のオプトロニクス・ポートホール(100)。
【請求項9】
前記基板(10)がサファイアまたはSiCまたはSi製であること、および前記半導電層SC2(32)がGaN製、前記半導電層SC1(31)が25〜30%のAl濃度を有するAlGaN製であることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか1項に記載のオプトロニクス・ポートホール(100)。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載のポートホール(100)を含むオプトロニクス窓(200)であって、導電機械構造(210)に埋め込まれ、前記ポートホールの電極(40)が前記導電構造に結合されるオプトロニクス窓(200)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の分野は、航空機に搭載されたオプトロニクス機器(レーザーテレメータ、LIDAR、VIS/IRカメラ、着陸支援用オプトロニクス機材等)の電磁両立性(EMC)の分野である。
【背景技術】
【0002】
実際に、この種の機材に光学窓が存在することで、これらの機器の内部が周辺の電磁波に露出し、その逆もある。光学窓という用語は、機械的構造に埋め込まれた透過的なポートホールの全体を指す。ポートホールは典型的には15〜40cmの直径を有する。電磁波への露出は結果的に、
−オプトロニクス機器の動作障害、
−各種の周辺電子機器(レーダー、無線通信等)の動作障害
が生じる恐れがある。
【0003】
使用した光波長の範囲(300nm〜20μm)にあり、且つRF波(1MHz〜100GHz)を反射する透過的な光学窓を用いることにより、機材筐体の高さでの電気的連続性を保証してファラデー箱を構成することが可能になる。オプトロニクス窓は従ってRF帯域において非透過的である。
【0004】
今日、求められている2種類の効果、すなわち光透過およびマイクロ波反射/吸収の組合せを実現すべく3種類の技術が主に用いられる。
【0005】
第1の技術は、光学的ポートホールを同じ寸法の金属格子に関連付けるものである。
【0006】
マイクロ波周波数の観点から、この格子は、性能が格子ワイヤのサイズ、そのピッチ、および使用する金属(一般に金または銅)の性質に関係する高域通過周波数フィルタとして機能する。実際、格子のピッチ、および格子ワイヤの厚さより小さい電磁場の浸透の厚さ(いわゆるスキン厚)に関して大きい波長の場合、格子は、均一であり従って反射金属層であるとみなされる。
【0007】
光学的な観点から、格子のワイヤは回析素子として機能する。所与の波長において、光損失を決定するのは、格子の周期性により決定される回折の効果、並びに考慮する波長に相対的なワイヤのサイズである。例えば、30μmのワイヤ直径および224μmの規則的なメッシュセル(ピッチ)を有する銅製格子は可視性が78%の光透過率を示す。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このような装置の性能は主に技術的限界により制約される。実際、格子が機械的に自己支持される必要がある場合、そのワイヤ直径およびピッチを、材料の抵抗の限界を超えて減少させることができない。光回折は従って大きくなり過ぎる。
【0009】
また、半導電材料を実装して、吸収性の層に影響を及ぼす入射RF波を結合可能にする二重周期格子の存在も指摘しておく。
【0010】
採用する別の技術は、光学的ポートホールの上に透過的な導電層を堆積させるものである。この目的のために、微細層またはドープされた酸化物(または薄い層、ITO、ZnO)に堆積された金属が一般に用いられる。マイクロ波周波数の場合、半透過層は金属のように挙動して周波数がプラズマ周波数未満の波を均一に反射可能にする。当該技術は典型的に、飛行機またはヘリコプターの円蓋に採用される。
【0011】
当該技術は、可視性(特に視認に関するあらゆる用途)において満足すべきものであり得るが、層が典型的に10Ω未満の表面抵抗(シート抵抗)で十分に導電性を有する1.5μmを超える波長の場合には当てはまらず、IR波は強く反射および/または吸収される。典型的な導電率は、1.5μmで透過率が40%の場合に約10オーム(シート抵抗)程度である。
【0012】
最後に、他の二つとは異なる第3の技術は、光学的に互換な材料で、Salisburyスクリーン型の周波数選択表面を実装するものである。
【0013】
この種の表面は、部分的に反射するマイクロ波周波数ジオプター、有効厚がλ/4である基板、続いて高反射率のRF表面からなる。従って、第1のジオプタでのRF反射は高反射率のジオプタでの反射とは逆位相に結合されるためポートホールのRF反射率の低下を引き起こす。
【0014】
これらの反射表面は上述のように格子または半透過層を用いて生成できる。
【0015】
この種のフィルタは、狭周波数帯域でしか有効でない。この種の素子(例えばJaumannスクリーン)の動作帯域を広げる技術が存在するが、比較的厚い構造が作られてしまう。
【0016】
従って、良好なIR透過率、低いRF透過率、および良好な機械抵抗の観点から、上述の全ての要件を同時に満たすポートホールへのニーズが依然としてある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、ヘテロ構造の積層に関連付けられた0.4〜5μmの間の透過的な基板の使用に基づくものであり、各ヘテロ構造は高い禁制帯エネルギー(典型的には1eV超)の半導電層および典型的に100cm/V/sを超える可動性を有する可動電荷担体を含む。
【0018】
高い禁制帯エネルギーの半導電層を用いることで、90%を超える良好なIR透過率が得られる。すなわち、厚さが10μm程度であること、および担体の100cm/V/sを超える高い可動性により、その導電率従ってRF反射率が保証される。
【0019】
より正確には、本発明の主題は、2つの面を有する基板を含むオプトロニクス・ポートホールである。これは主に、基板の一方または両方の面に、
−各ヘテロ構造が少なくとも2つの半導電層SC1、SC2からなり、層SC1はドープされ、層SC2自身は層SC1との界面に形成された2次元電子ガス層を含む複数のヘテロ構造の積層、および
−全ての電子ガス層と接触する電極
を含むことを特徴とする。
【0020】
2DEG型(「2次元電子ガス」)の2次元電子チャネルが存在することにより、構造内における担体の可動性を高め、従ってRF反射性およびIR透過性を増大させることが可能になる。
【0021】
任意選択で、これは、積層に埋め込み可能であって、電極と接触する二重周期金属格子を更に含む。これは一般に規則的なメッシュセルを有する。これは典型的には厚さが5μm未満およびピッチが500μm未満のワイヤを有する。
【0022】
本発明の特徴によれば、半導電層SC2はドープされない。
【0023】
本発明の別の特徴によれば、ヘテロ構造は、厚さが異なり、および/または同一材料で構成されておらず、および/または同数の層を含まない。
【0024】
当該ポートホールは典型的に、10〜80個のヘテロ構造の積層を含む。
【0025】
基板とヘテロ構造の積層の間に緩衝層、並びに1つまたは2つの反射防止層を含むことができる。
【0026】
基板は一般にサファイアまたはSiCまたはSiで作られ、SC2層はGaNで作られ、層SC1はAl濃度が25〜30%のAlGaNで作られる。
【0027】
サファイア上におけるGaNのエピタキシにより、機械的強度および熱抵抗(3.2〜3.4eVの高い禁制帯エネルギーを生じるGaとNの間の強い共有結合)が極めて高い窓の生成が可能になる。1000℃を超える成長温度が高い熱安定性を与え得る。
【0028】
本発明の主題はまた、上述のように導電性の機械構造に埋め込まれたポートホールを含むオプトロニクス窓であり、ポートホールの電極はこの導電構造に結合される。
【0029】
本発明の他の特徴および利点は、非限定的な例に関する以下の詳細な記述を添付の図面を参照しながら精査すれば明らかになろう。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】閃亜鉛鉱型の立方晶系無極性(図1a)、およびWuertzite型の六方晶系有極性(図1b)結晶GaN構造を模式的に示す。
図2】高い可動性の2DEGチャネルの平行な配置を可能にするヘテロ構造ネットワークのエネルギー帯構造を、100nm超(図2a)および100nm未満(図2b)の典型的なネットワーク幅について、基板の法線方向の関数として模式的に示す。
図3a】1500cm/V/sの可動性に対して−10〜−50dBの間で変化するRF透過率を得るためにネットワーク内の担体の平均密度の関数として必要とされるネットワーク全体の厚さを示す。
図3b】同一可動性に対する各チャネルにおける担体の密度の関数としてλ=4.5μmの自由担体に関連付けられた吸収率を示す。
図4】円形の基板に生成された、本発明によるポートホールを透視図(図4a)、上面図(図4b)、3つのヘテロ構造の積層の断面AA(図4c)として模式的に示す。
図5】ピッチが400μmの格子および5×5μmの金製ワイヤを含む、全体の厚さが8μmである80個のヘテロ構造を有するポートホールについて得られた光学的反射、透過および吸収率(図5a)およびRF透過率(図5b)を示す。
図6】本発明によるオプトロニクス窓を模式的に示す。
【0031】
各図面を通じて、同一要素には同一参照符号がラベル付けされる。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明の第1の実施形態によれば、0.4〜5μmの範囲で必要とされる透過率を有し、且つ極めて良好な物理的および機械的特性を示すサファイヤ等の基板には、高い禁制帯エネルギーおよび移動担体の半導電層を含むヘテロ構造の積層が関連付けられる。使用する半導電層のうち、例えば半導電GaN層に言及する。GaNはサファイヤの上に良好な結晶学的性質を以て成長可能であるという固有の特徴を有するため、本方法により極めて高い機械および熱弾性を有する構造を得ることが可能になる。
【0033】
GaN層の性質は、自由担体の密度並びにそれらの可動性に依存する。これら2つの量および材料に固有の特性に基づいて、プラズマ周波数f(材料の誘電率の実部がゼロである電磁周波数に対応)と呼ばれる特性量を定義することが可能である。
【数1】
ここでnは担体密度、meffはそれらの有効質量、μはこれらの担体の可動性、qは電子の電荷、εは真空内における誘電率、εは考慮する材料の相対誘電率である。当該周波数にはプラズマ波長λと称する波長を関連付けることができる。
【数2】
ここでcは真空内における光速である。
【0034】
このように、半導電GaN層の挙動は考慮する波長に依存する。すなわち、
−波長がλ未満の電磁気の場合(当該ケースではIR波および可視光)、当該層は誘電体として挙動し、従って通過には損失が伴う。当該波長範囲内の材料の透過率は特に自由担体の密度、およびGaN構造におけるそれらの可動性に依存する。
−波長がλを超える場合(当該ケースではRF波)、当該層は、金属として挙動して無線周波数の観点から短絡を生起させる。入射波は従って反射され、その性能は生じた短絡の品質、従ってGaN層の表面抵抗に依存する。
【0035】
入射波は、層がより導電性であるほど、すなわち高密度(1018cm−3超)および高可動性(100cm/V/s超)の自由担体を含む場合、より多く反射される。従ってRF波に対して非透過的なオプトロニクス窓が得られる。
【0036】
半導電層の光学特徴が想起される。自由担体との相互作用に関するものは、Drudeモデルにより記述できる。材料並びに担体の固有パラメータ(密度、有向質量、および可動性)に基づいて、材料の複素誘電率ε=ε+iεおよび複素指数N=n−ikを波長の関数として計算することが可能である。λ波長に対して、自由担体による吸収に関係する線形光損失αが次式により指数の複素部分に関連付けられる。
【数3】
【0037】
厚さdの半導電層の光透過率Toptおよび光吸収率Aopt(界面での反射を考慮しない1回の通過に関する)は従って、次式で与えられる。
【数4】
【0038】
半導電層のマイクロ波周波数特性が想起される:すなわち、
−スキン厚に関係する薄い厚さdの場合、半導電層の無線周波数特性は特にその表面抵抗Rにより決定される。
【数5】
−自己支持層の場合、RF透過率は次式により与えられる。
【数6】
【0039】
サファイア基板上におけるGaNの成長問題をここで考察する。
【0040】
成長は最も一般的には、面方位[0001]のサファイア基板上のWurtzite結晶構造のc軸に沿って実行される。それにも拘わらず、基板に対して垂直でないc軸を有する素子(無極性構造の平面内、または半極性方向(x,y,z)に沿った)が徐々に出現している。
【0041】
成長に伴う問題の一つは、ヘテロエピタキシを構成する各種材料間のメッシュセルのミスマッチに関する。サファイア基板(Al)上のGaN成長は次いで、基板に対して30°回転した水平結晶軸(a)に沿って実行される。
【0042】
膨張率の差もまた、1000℃付近で実行される成長の間、機械的問題に寄与する。各種材料のデータを、Wuertzite構造のIII−N族の半導体の下表に示す。
【0043】
【表1】
【0044】
当該メッシュセルミスマッチを克服すべく実施される主な成長技術の一つは、厚さが数十ナノメートル、且つ低温(450〜600℃)でエピタキシされた緩衝層を使用するものである。これにより、メッシュセルパラメータをIII−N半導体(好適にはGaNまたはAlN)のものに適合させることが可能になる。
【0045】
この技術により、適切なメッシュセルパラメータおよび結晶方位により高温(1000℃超)でエピタキシを実行することが可能になる。これにより極めて良好な光透過率の層が得られる。典型的な表面粗さは、5nmRMS(標準偏差の「Root Mean Square(二乗平均平方根)」を表す略語)未満である。
【0046】
文献で公知の他の技術は、例えばAlN/GaN二元素の多層構造を生成して、これらの層間の界面における「貫通」ずれをトラップするものである。これらの多層構造により、以下で見られるように導電性に寄与できる2次元電子ガスを一挙に生成することが可能になる。
【0047】
実際、無定形(massive)半導体内では、可動性は従って欠陥の密度に関係し、従ってドーピングに関係する。すなわちドーピングが高いほど可動性が下がる。電磁場整合性とは全く別の分野において、すなわちHEMTトランジスタ(「High Electron−Mobility−Transistors)の分野において、担体の可動性の向上に用いる技術の一つは、
−輸送領域における不純物の密度を制限すべく輸送領域からドープ領域を物理的に分離し、従って担体の可動性を最適化して、
−フェルミ準位を輸送領域の伝導帯より上に配置して、自由担体(2次元に拘束された)が高密度で存在する領域をそこに生成するものである。
【0048】
これは、担体の可動性および密度が極めて高い2DEG(「2次元電子ガス」)と呼ばれる2次元チャネルの生成を可能にするヘテロ接合を用いて実行される。従って、単純な無定形層に関して、この種のヘテロ接合により、はるかに低い電気抵抗のアセンブリの生成が可能になる。
【0049】
導電性が生じるのは層の平面であるため、TEM偏光された入射RF波は従って、2DEGの自由電子の「ガス」と相互作用しやすい。
【0050】
マイクロエレクトロニクスに必要とされる機能は、ここでの関心対象とは大きく異なる。電子ガスの利用はマイクロエレクトロニクスでも採用されるが、多数の導電チャネルを並列に(平行な面内に)配置することはマイクロエレクトロニクスでは当てはまらない。
【0051】
本発明の基本原理は、2次元のガスのネットワークを構成すべくこの種のヘテロ構造を基板上に互い違いに積層することにより、
−チャネルの組を並列に配置することにより無定形半導体よりも更に低い全抵抗を有し、
−2DEG層内における担体の高い可動性によりIR透過率が向上したヘテロ構造の生成を可能にするものである。
【0052】
Wuertzite型の六方晶系有極性結晶構造または閃亜鉛鉱物型の立方晶系無極性AlGaN/GaNヘテロ接合(各々図1a、1bに示す)の場合において、担体は一般に、残留または意図的なドーピングにより提供されて、圧電効果により自然に接合を偏光させてチャネルを満たすことが可能になる。いくつかのヘテロ接合のネットワークの場合、この圧電効果は、表面から生じる担体に基づいてチャネルの組を満たすには不十分である。従って、nドーピングまたは任意選択でpドーピングにより、および好適には周期的に、AlGaN障壁を局所的に(すなわち障壁の厚さの一部のみにわたり)ドープすることが提案される。
【0053】
使用するアルミニウムの量(典型的に25〜30%)により、2次元エピタキシアル成長を保証することが可能になる。マイクロエレクトロニクスの用途(特にトランジスタ)とは対照的に、層間にひび割れ、更には電気的絶縁が存在しないことは必要でない。これによりこの種の構造の生成が大幅に容易になる。
【0054】
ネットワークの周期の典型的な幅が100nmを超える場合、HEMT型トランジスタに見られるのと同じ側面形状のチャネルを実現することが可能である。この種のネットワークを図2aに示し、ここでEはフェルミ準位、Eは伝導帯エネルギー、Eは原子価帯エネルギーを表す。
【0055】
チャネルが狭く(100nm未満)なると、多重量子井戸型のエネルギー帯構造が実現され、井戸に存在する電子は離散的なエネルギー準位にわたり分布することができる。この種のネットワークを図2bに示す。
【0056】
この種の構造は、QWIP(Quantum Well Infrared Photodetector(量子井戸赤外線検知器)の略)赤外線検知器の構造と同様であるが、動作の仕方および使用法は全く異なる。実際、法線入射角(GaNの光学指数を考慮すれば当該層での最大入射角は25°)でのIR光波は、層の平面に平行な向きの偏光を示す。従って、この波は量子井戸の離散的エネルギー準位と相互作用せず、サブバンド外またはサブバンド間遷移に関係する(QWIPにおけるような)光吸収は存在しない。但しこの偏光は、層の平面に拘束された自由電子の「2次元ガス」との相互作用を含み、これは自由担体に関連付けられた光吸収により出現する場合がある。
【0057】
同様に、通常の入射角でのTEM RF波がこれらの「2次元ガス」を励起させ、RF波長に相対的な構造の厚さ考慮すれば、極めて良好な導電性を有する等価な単一層と相互作用する。
【0058】
入射光波の側からは、当該ネットワークは、有効指数が厚さにより重み付けされた構造の指数の平均に等しい層に見える。実際、層の厚さ(数十ナノメートル程度)は、考慮する最も短い光波長(約400nm)よりもはるかに小さい。更に、(Al,Ga)N族の2種の材料間の光学指数の差は極めて小さく(0.2未満)、ほとんど干渉を生起しない。
【0059】
チャネルの可動性は主に採用した帯域アーキテクチャに依存し、これらの2DEG構造における可動性を最適化すべく従来の技術、すなわち、
−チャネルの幅の最適化、
−(エネルギーに関する)チャネルの深さの最適化、
−障壁のドーピングの最適化、
−任意選択でチャネル付近で異なる組成をなす非ドープ領域の使用、
−基板上での緩衝層の使用、
−その他、
を用いることができる。
【0060】
IR透過性能を保護すべく、この最適化は、チャネルの担体n2DEGの密度を制限しながら行なう必要がある。実際、チャネル内における担体の密度が、考慮するIR波長λIRより短いプラズマ波長をもたらすならば、IR透過率の低下が生じる。
【数7】
【0061】
従って、最大IR波長4.5μmを得るには、チャネル内における担体密度は約6.1019cm−3に限定される。
【0062】
図3aに、チャネル内における可動性1500cm/V/sを得るために実現する必要があるネットワークの全厚dtotを示す。市販の構造では1900cm/V/sの可動性が提供される。この厚さは、ネットワーク全体における平均ドーピングnmoyの関数として、RF反射率の各種の求める値について表される。
【0063】
採用したネットワークアーキテクチャの関数として、チャネル内における担体の密度n2DEGは、全く同一の平均担体密度であっても変動する場合がある。この担体密度の関数として、且つ図3aによる全構造厚を考慮して、チャネル内における自由担体に関連付けられたIR吸収率を計算することが可能である。IR波長が4.5μmの場合についてこれらの結果を図3bに示す。
【0064】
更に、全ての電子ガス層と接触するように電極が形成される。当該電極は、ポートホールが埋め込まれた導電機械構造に電気的に結合することを意図される。
【0065】
別の実施形態によれば、金属格子が上述のようにポートホール内に集積される。この集積は、当該格子をエピ構造半導電層に埋め込むことにより、または当該格子を表面に置くことにより行なうことができる。
【0066】
当該格子はRF領域内における高域通過フィルタとして機能する。堆積されたワイヤの直径は、光の掩蔽を制限すべく小さい。格子のメッシュセルのサイズは、必要とされる遮断周波数に依存する。
【0067】
GaN層の屈折率(約2.3)を考慮して、基板内において25°を超える角度で回析される光線の割合は、これらが全内部反射により閉じ込められたままであるため、フィルタリングされる。
【0068】
格子のパターンは、規則的な回折の生成を避けるべく疑似乱数または非周期的に堆積することができる。
【0069】
格子ワイヤ直径は、素子を用いる必要がある低い周波数に依存する金属(スキン厚δ)内の電磁場の浸透の深さより大きくなければならない。
【数8】
ここでμは真空内で透過率、μは材料の相対透過率である。
【0070】
例えば、1GHzで、金製ワイヤ(導電率κ=45.2 10S/m μ=1)の場合、スキン厚δは2.3μmである。
【0071】
本実施形態は、低周波数(高域通過フィルタ)の場合の格子のRF分離性能と、高周波数におけるエピ構造半導電層の性能を組み合せる。
【0072】
ここで、図4と合わせて、ヘテロ構造のネットワーク内に埋め込まれた金属格子を有する第2の実施形態によるポートホール100の例示的な実施形態について述べる。本例では全ての(3つの)ヘテロ構造は同一であるが、以下でわかるようにこれは必須ではない。半導電層SC1はn−AlGaNであり、非ドープ半導電層SC2はGaNであるが、ここでも他の材料の例を挙げることができる。
【0073】
第1に、平面基板10(必ずしも回転対称性を有しない)を基礎として、一方の面11が光学品質で研磨され、他方の面12(いわゆるエピレディ面)がエピタキシによる成長と互換な品質で研磨される。当該基板は、帯域IIで1.06μm、帯域IIIで1.55μmの実施形態の場合は、任意選択でc向きのサファイア、またはシリコン、あるいは可視域から帯域IIIまではSiCであってよい。これはまた、主として別々に生成されて初期基板が除去されたヘテロ構造を、任意選択で大寸法の場合はホスト基板に転写する「スマートカット」技術で得られるようなホスト基板を含んでよい。
【0074】
緩衝層20は、予めエピレディ側に堆積されてよい。任意選択で、厚さが数ナノメートル(20〜50nm)で且つ低温(450〜600℃程度)でエピタキシされたGaNまたはAlNの層に続いて数ミクロン(約2μm)で且つ高温(1000℃超)でエピタキシされたGaNまたはGaAlNの層である。
【0075】
基板10または当該緩衝層20に直接、GaN/AlGaNヘテロ構造30の積層が複数の2DEGチャネル33を互い違いに形成するようにエピタキシされる。好適には、GaN層SC2 32はドープされない。AlGaN障壁層SC1 31は周期的にnドープされる(任意選択でシリコンにより)。同図に、層GaN/n−AlGaNの積層を示す。これを反転させて層n−AlGaN/GaNの積層を生成することは可能であろう。
【0076】
任意選択で、各々の障壁の厚さは、ブラッグ鏡型の構造が生成されるのを避けるため互いに僅かに異なってよい。
【0077】
半導電層および材料の数は、ヘテロ構造毎に異なってよい。
【0078】
AlGaN障壁31内のドーピング密度、それらの厚さ、GaN層32の厚さ並びにエピタキシされた構造の全サイズは、層の全体的な電気抵抗および関心対象帯域で必要とされる光透過率に関して必要とされる性能に依存する。
【0079】
電極40および格子50を生成するステップについて以下に述べる。
【0080】
エピ構造面の上に、開口部が、任意選択で基板10に届くまで、サンプルの周辺全体にわたり、且つGaN/AlGaNネットワークの深さ全体にわたり生成される。エッチングによりその側面との堅牢な接触が保証される。
【0081】
堆積される格子のパターンを再利用する第2のエッチングが実行される。エッチングの深さと幅は、堆積される格子のワイヤ50のサイズ、従って求めるRF性能に依存する。図4a、4bに示すように、使用する格子のパターンが、金属化の後で格子と電極の間に電気的連続性を保証すべく周辺に開口部を復元することが保証される。
【0082】
抵抗接点41、42が2つの開口部の底部に堆積され、次いでアニーリングされる。任意選択で、これらの接点はTi/Al/Ir/Au、Ti/Al/Mo/Au、Ti/Al/Ni/Au等に基づいてよい。高温アニーリング(800℃程度)により良好な品質の電気接点を得ることが可能になる。図4a、4bにおいて、格子は規則的なメッシュセル(両軸に沿って同一周期)を有して二重周期的であるが、2つの周期は異なってよい。
【0083】
接点41を厚くし、任意選択で拡張すべく、別の金属堆積42を実行することができる。当該接点は、Ti/Auの基礎の上に続いてAuを電解再充填することにより生成できる。電極40は従って、抵抗接点41および当該別の金属堆積42で構成される。
【0084】
接点51を厚くし、任意選択で拡張すべく、別の金属堆積52を実行することができる。当該接点は、Ti/Auの基礎の上に続いてAuを電解再充填することにより生成できる。有利には、このように堆積された金属の厚さは、格子を効果的に保護すべくヘテロ構造の高さを上回らない。格子ワイヤ50は従って、抵抗接点51および当該別の金属堆積52で構成される。
【0085】
得られた電極40により、GaNの2DEGチャネル33との電気接触を保証可能にし、従って電気的基準として機能するポートホール100とその機械的支持部の間における電磁連続性を保証することが可能になる。ポートホールとの電気接触を感知可能にするこの厚い金属化はまた、それが埋め込まれた機械的支持部を覆うこともできる。従って、ポートホールに側面から接触することによりポートホールの電気連続性を保証することが可能になる。
【0086】
界面における関心対象の波長での光反射を減らし、ファブリ・ペロー共振器(特にGaN/サファイヤ界面に関係する)の形成を避けるべく、反射防止層60をポートホールの両面の各々(任意選択で基板のグリッド側面上のみ、または面11上のみ)に堆積することができる。これら2層60の各々は独立に最適化可能であり、サファイヤの指数(約1.8)およびAlGaNの指数(約2.3)は異なる。任意選択で、これらの層60は、(ダイヤモンド、TiO、MgF、ZnSその他のような)巨大な間隙を有する誘電体または半導体のいずれかを基礎とすることも、あるいはナノ構造のサブラムダ材料を基礎としてもよい。任意選択で、直接ヘテロ構造を含んでもよい。
【0087】
厚くされた周辺接点40へのアクセスを可能にすべく反射防止層(エピ構造側)に開口部が生成される。
【0088】
より簡単な変型された実施形態によれば、格子は表面、積層、または反射防止層に埋め込まれるのではなく堆積される。無論、金属格子無しのポートホールを生成するために、上述のステップを第2のエッチングステップ無に実施する。
【0089】
別の変型例の実施形態によれば、ヘテロ構造の積層はエピタキシされるのではなく、基板のエピレディ面に転写される。
【0090】
しかし、他の変型例も実行可能である。
【0091】
GaNは、以下のIII−N半導体で代替できる。
−半導電層の透過率を近UVまで拡張することを可能にするAlN(GaNよりも高い禁制帯エネルギー:Eg=6.2eV、すなわちλg=200nm)。拡張により、禁制帯エネルギーを6.2eV〜3.4eVの間にすることが可能なAlGa1−xNの全ての組成。
−InN(GaNより低い禁制帯エネルギー:Eg=0.65eV(すなわちλg=1.9μm))。これにより、可視および近赤外線を最大2μmまで遮断し、担体の可動性および密度を向上させることが可能になる。拡張により、禁制帯エネルギーを3.2eV〜0.65eVの間にすることが可能なInGa1−xNの全ての組成。
−AlInGa1−x−yN族の材料。
−AlInGa1−x−yAs1−z族の材料。
−特にナノ結晶またはナノ構造のダイヤモンド。
【0092】
ヘテロ構造GaN/AlGaNは、II〜VI族(ZnO、MgZnO)からの半導体で代替できる。
【0093】
III−N半導体(先に引用した材料のリスト参照)を用いて2DEGチャネルと、GaNおよびAlGaNの異なる障壁SC1を生成することができる。
【0094】
GaN/AlGaNネットワークの代わりにII〜VI族(ZnO、MgZnO)からの半導体を用いることができる。
【0095】
上述のようなヘテロ構造の積層を用いてSalisburyスクリーンをサファイア窓のいずれかの側に生成することができる。10GHzでの干渉計測効果を得るために、サファイヤの厚さ(ε=11.58)は2.2mm(すなわちλ/4)または6.61mm(すなわち3λ/4)とすることができる。前面のGaN層は、50%の反射率(すなわち450Ω(シート抵抗)程度の表面抵抗)を示す必要がある。装置の後面は、可能な最も高い反射率を示す必要がある。
【0096】
上述の先端技術に関する本発明のポートホールの利点は以下の通りである。
−サファイア基板上への直接のエピタキシによる、RF特性を与える導電層と可視およびIR光用途の関心対象である基板との間の技術的互換性。
−可視およびIR帯域(0.4μmから最大5μmまで)における透過率。
−2DEGチャネル内における担体の高い可動性による極めて低いIR吸収および大きいRF反射。
−低い光回折。
−サファイヤ/GaN界面での光反射を約1.5%に制限する、半導体の低い光学指数(500nmで約2.3)。
−波長が0.4μm未満の光束に対する極めて良好な復元性(光子エネルギーが禁制帯エネルギーを下回るためGaN層内の吸収が極めて弱く、且つGaNの熱導電性は極めて良好)。特に、格子のように光束に露出された(または露出可能な)金属部分を一切含まない構成の場合。
−格子を有する構成の場合、無線周波数分離に関して性能が抜群。実際、この種の構成において、低周波格子の性能は、ドープ層の高周波数での出力の分離に関連付けられる。
−GaNはサファイヤに比肩し得る極めて硬い材料であるため、格子無しの、または埋め込まれるために保護された格子を有する構成の場合、反射面の浸食に対する耐性が極めて高い。これにより、前面に(分離される光学系の外側へ向かって)エピタキシ面を有する窓の使用が可能になる。
−格子を有する構成の場合、GaNヘテロ構造が適当なマイクロエレクトロニクス方法(RIE、すなわち「Reactive Ion Etching(反応性イオンエッチング)」の略語、ICPすなわち「Inductively Coupled Plasma(誘導結合プラズマ)の略語」によりエッチングが容易であるため、格子の集積が容易。
【0097】
ポートホールは以下のように生成された。
−使用するサファイア基板は、c軸[0001]方向に向けられた直径150mm、厚さ8mmの円形基板である。一方の面は光学品質で研磨される。他方の面はエピレディ品質で研磨される。
−エピレディ面上に、20nmの低温GaNからなる緩衝層に続いて2μmの非ドープ高温Al.27Ga.73Nが堆積される。
−当該緩衝層に、GaN/Al.27Ga.73N(100/900Å)の80個のヘテロ構造のネットワークがエピタキシされる。GaN層はドープされておらず、AlGaN層は2.2.1018cmまでドープされる。2Dガスの電子の可動性に対する界面の粗さの影響を抑制すべく厚さ1nmの非ドープAlN層がAlGaN/GaN界面で用いられる。これらのAIN層はヘテロ構造の第3の層SC3の一例である。チャネル内(および層の平面内)における担体の可動性は1500cm/V/sである。
−ヘテロ構造のネットワークは、400μmピッチの格子型パターンで深さ5μm、幅5μmにわたり開いている。基板の周辺全体を覆って、幅1000μmの開口部が、エピタキシされた深さ全体にわたり生成される。これらの2つの開口部において、Ti/Al/Mo/Au(150/600/350/500Å)の抵抗接点が内部に堆積され、次いでアニーリングされる。周縁接点のレベルにおいて厚さμm5のAuおよび幅5mmの接点を実現すべくTi/Auの第2の堆積(150/500Å)に続いてAuの電解再充填が行なわれる。
−透過を1.5μmに最適化すべく当該構造の上に275nmのMgFの反射防止層が堆積される。周辺接点へのアクセスを自由にすべく当該MgF層のレベルに開口部が生成される。
−基板の他方の面に、多層誘電処理材が堆積される。
【0098】
以下の結果が得られた。
【0099】
4.5μmで、超ネットワーク内の自由担体に関連付けられた吸収率は1.4%である。構造の透過率、吸収率および全反射特性を図5aに示す。
【0100】
得られた構造の表面抵抗が2.6オーム(シート抵抗)であることにより、自己支持等価層のRF透過率−37dBを得ることが可能になる。サファイア基板上でのRF透過率の結果を図5bに示す。
図1a-1b】
図2
図3
図4a
図4b
図4c
図5a
図5b
図6