【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献2のような輸送容器は、発泡体により形成された落とし蓋を用いることにより、液界面とその上方の空気との間の熱交換(主に自然対流熱伝達)を抑制して保冷時間を長くすることが期待できるものであるが、実際には使用されていない。
その理由は、発泡体により形成された落とし蓋は、液界面とその上方の空気との間の熱交換を抑制するためになるべく大きくする必要があるとともに、液面上に浮かせた状態にするために容器本体の開口部に合わせて内壁面よりも小さく形成する必要があり、さらに容器本体には成形金型からの抜き勾配が設けられているために水位が変化することで寸法が少しずつ変化するので、各々の輸送容器の寸法や水位に合わせた落とし蓋を準備することは困難であるとともに、寸法を変えた多数の落とし蓋を準備しておくようにすると、そのための製造コストや保管コストが嵩むためである。また、現場で輸送容器の寸法に合った落とし蓋を選択するようにすると、そのための手間が掛かることから作業性が悪くなるためである。
【0005】
例えば、落とし蓋を所期の寸法どおりに形成するためには、発泡シートをトムソン刃等で寸法通りに打ち抜くか、あるいは成形金型で一個ずつ成形して作成するしかなく、発泡シートから打ち抜く方法では多くの手間が掛かり、成形金型で成形する方法では蓋体と同様の製造コストが掛かる。
また、打ち抜き又は成形により寸法を変えた多数の前記落とし蓋を準備しておくようにすると、上述のとおり製造コスト及び保管コストが嵩んでしまうとともに現場における作業性が悪くなる。
【0006】
そこで本発明が前述の状況に鑑み、解決しようとするところは、落とし蓋としての断熱機能を備えながら、それぞれの輸送容器の寸法に現場で容易に適合させることができ、製造コストを低く抑えることができる、輸送容器内収容体の上面を覆う断熱用積層薄膜体を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願の発明者は、上述のような落とし蓋としての断熱機能を備えるものとして、特許文献2のような発泡体シート(例えば、10mm程度の厚さの発泡ポリスチレン板)ではなく、合成樹脂薄膜体及び金属薄膜層により例えば50μm以下の厚さの断熱用積層薄膜体を形成することにより、所要の断熱性を備えながら輸送容器の寸法に現場で容易に適合させるという着想を得、検討及び試作等による具体化を進めることにより本発明を完成するに至った。
【0008】
先ず、本願の発明者は、上述の着想の下、最も簡単な積層構造として、合成樹脂薄膜体として様々な厚さのポリエステル系樹脂フィルムの片面に金属薄膜層として所定厚さのアルミニウムを蒸着したものを製作し、これらを輸送容器内の収容体(収容物及び水氷)に接触して上面を覆うようにして落とし蓋とする実験を行った。
この実験により、合成樹脂薄膜体の片面に金属薄膜層を備えた断熱用積層薄膜体を落とし蓋として用いると、この断熱用積層薄膜体がカールして丸く巻いてしまい、前記収容体の上面を覆わなくなるため、容器本体の開口部を広く覆った状態で輸送容器内を遮熱し、かつ自然対流熱伝達を防止する、前記収容体に接触して上面を覆う断熱用積層薄膜体として機能しないことがわかった。
また、数ある市販のフィルム(金属薄膜層を備えた積層薄膜体)も試してみたが、上記実験結果と同様であり、カールしないで、しかもコスト的に実用に耐えるフィルムを見出すことができなかった。このような市販の金属薄膜層を備えた積層薄膜体の構造を調べたところ、耐熱性の良好なポリエステルフィルムの片面に金属薄膜層を蒸着し、この金属薄膜層を保護するために安価なポリエチレンフィルム等を積層したものが一般的であることがわかった。
【0009】
上記のような実験結果となった理由について検討した結果、合成樹脂薄膜体と金属薄膜層により構成される積層薄膜体の厚さが薄いとともに、蒸着により片面に形成された金属層の存在により積層薄膜体の表裏の熱膨張係数が異なる(合成樹脂薄膜体の片面に蒸着した金属薄膜層の熱膨張係数と合成樹脂薄膜体の熱膨張係数とが異なる)ため、保冷材である水氷により冷却されて温度が下がった際にカールして丸く巻いてしまうことが判明した。
そこで、合成樹脂薄膜体と金属薄膜層により構成される積層薄膜体の表裏の熱膨張係数を同じにすることを企図して、本発明の輸送容器内収容体の上面を覆う断熱用積層薄膜体の構成を見出したものである。
すなわち、本発明に係る輸送容器内収容体の上面を覆う断熱用積層薄膜体は、前記課題解決のために、輸送容器内に収容物及び保冷材又は保温材からなる収容体を収容した状態で、この収容体に接触して上面を覆う
、50μm以下の厚みの断熱用積層薄膜体であって、同一素材からなる上下複数の、5μm以上25μm以下の厚みの合成樹脂薄膜体間に金属又は金属化合物の薄膜層を備えてなることを特徴とする。
【0010】
このような構成によれば、輸送容器内収容体の上面を覆う、例えば矩形状の断熱用積層薄膜体を、同一素材からなる上下複数の
、5μm以上25μm以下の厚みの合成樹脂薄膜体間に金属又は金属化合物の薄膜層を備えたものとしているので、断熱用積層薄膜体の表裏の熱膨張係数が同じであることから、薄膜体でありながら保冷材又は保温材に接触してもカールすることがない。
したがって、このような断熱用積層薄膜体は、落とし蓋として機能して容器本体の開口部を広く覆った状態で収容体を遮熱し、かつ自然対流熱伝達を防止し続けるため、保冷時間又は保温時間を長くすることができる。
【0011】
その上、特許文献2のような比較的厚い発泡体シートではなく、
50μm以下の厚みの薄膜体であることから、例えば矩形状の断熱用積層薄膜体が、それぞれの輸送容器の寸法より喩え大きかったとしても、収容体に良好に密着すると共に、容器本体の側壁にも自然に密着するので、現場で容易に適合させることができ、大まかなサイズの薄膜体を用意しておけば多種のサイズの輸送容器に採用することができるため、製造コストを低く抑えることができるとともに、時間との戦いである収容物を輸送容器内へ収容する現場における作業性が高いため実用性が向上する。
その上さらに、上下複数の合成樹脂薄膜体間に金属又は金属化合物の薄膜層を備えた構成であることから、輸送容器内にセットする際に表裏の区別を意識することなく作業をすることができるため作業効率が向上する。
【0012】
その上、特許文献2のような比較的厚い発泡体シートではなく、
50μm以下の厚みの薄膜体であることから、容器本体内で専有するスペースが非常に小さくなる。
その上さらに、落とし蓋として機能する断熱用積層薄膜体により断熱性能が向上することから、使用状況によっては、容器本体の側壁及び底壁並びに蓋体の厚みを減少させた輸送容器の使用、保冷材又は保温材の使用量の削減並びにそれに伴う小形の輸送容器の使用ができるため、トータルコストを削減することができる。
その上、断熱用積層薄膜体が薄膜体であることから、芯体に巻回してロール状にした状態で使用に供することができるので、省スペース化を図ることができるため運搬効率が高くなる。
【0013】
ここで、前記合成樹脂薄膜体がポリエステル系樹脂又はポリオレフィン系樹脂からなると好ましい。
このような構成によれば、合成樹脂薄膜体が、アルミニウム等の金属蒸着に耐えられる良好な耐熱性を有しながら断熱性が高く、強度や耐摩耗性にも優れるとともに比較的低価格なポリエステル系樹脂又はポリオレフィン系樹脂か
らなるため、本発明の輸送容器内収容体の上面を覆う断熱用積層薄膜体のコストパフォーマンスが高くなる。
【0014】
また、前記輸送容器内収容体の上面を覆う断熱用積層薄膜体を製作する際に形成される帯状積層薄膜体に、その長尺方向の所定間隔ごとに幅方向切断用ミシン目を設けてなると好ましい。
このような構成によれば、断熱用積層薄膜体を製作する際に形成される帯状積層薄膜体が薄膜体であることから切断用のミシン目を設けることができ、このようなミシン目を長尺方向の所定間隔ごとに設けておくことにより、ミシン目の箇所で容易かつ確実に幅方向に切断することができるという利便性があるので、このミシン目で千切った断熱用積層薄膜体を容器本体の開口部を覆うように容易にセットして使用することができるため、その作業性が非常に高くなる。
【0015】
本発明に係る輸送容器内収容体の上面を覆う断熱用積層薄膜体の製造方法は、前記課題解決のために、輸送容器内に収容物及び保冷材又は保温材からなる収容体を収容した状態で、この収容体に接触して上面を覆う
、50μm以下の厚みの断熱用積層薄膜体の製造方法であって、同一素材からなる蒸着が可能な2枚の、5μm以上25μm以下の厚みの合成樹脂薄膜体の一方に金属又は金属化合物の薄膜を蒸着する工程と、前記2枚の合成樹脂薄膜体を、前記薄膜の層が内側になるように貼り合わせる工程と、を含むことを特徴とする。
このような製造方法によれば、輸送容器内収容体を遮熱し、かつ自然対流熱伝達を防止する、落とし蓋としての断熱機能を備える構成をより簡素な製造方法で実現できるため、製造コストを低減することができる。
【0016】
本発明に係る断熱用積層薄膜体を備えた輸送方法は、前記課題解決のために、容器本体と蓋体とからなる輸送容器の前記容器本体内に収容物及び保冷材又は保温材からなる収容体を収容した状態で、この収容体に接触するように、同一素材からなる上下複数の、5μm以上25μm以下の厚みの合成樹脂薄膜体間に金属又は金属化合物の薄膜層を備えた
、50μm以下の厚みの断熱用積層薄膜体で上面を覆い、前記蓋体を被せた状態で前記収容物を輸送することを特徴とする。
このような構成によれば、上述の輸送容器内収容体の上面を覆う断熱用積層薄膜体と同様の作用効果を奏する。
【0017】
ここで、前記容器本体の底面上に前記断熱用積層薄膜体を敷設した状態で前記収容体を収容すると好ましい。
このような構成によれば、容器本体の底面上に敷設した断熱用積層薄膜体によりさらに断熱性が高くなることから、保冷時間又は保温時間が長くなるため、より長時間の輸送が可能になる。
【0018】
また、前記輸送容器が発泡合成樹脂製保冷容器であり、前記保冷材が水氷であると好ましい。
このような構成によれば、輸送容器が断熱性能及び緩衝性能に優れるとともに製造コストが安い発泡合成樹脂製保冷容器であり、保冷材が乾燥や氷焼けを抑制しながら鮮度を落とさずに比較的長時間の輸送を行うことができる水氷であり、この水氷内に収容物を浸漬した状態とし、輸送容器の容器本体の開口部を覆う落とし蓋としての断熱用積層薄膜体により液界面とその上方の空気との間の熱交換を抑制して氷の溶解を遅延させて保冷時間を長くすることができるため、特に鮮魚や仮死状態にした魚の輸送に好適である。